† First World †
――しんしんと雪が降る 今日は神が生れたまいし聖なる日 そして、 僕が新たに生まれた日 『First World』 北欧の冬は他よりも一足早い。 故に寒さは他よりも厳しい。 ――そう、分かってはいるのだけど 「寒っ!!!」 寒さに身を震わせながら、僕は飛び起きた。 「何、この寒さ・・・・・・って雪?」 窓から外を覗けば、一面銀色に覆われていた。 「・・・・・・どうりで」 寒いはずだ、と独り呟く。 そうやってぼんやりしている内に目が完全に覚めてしまった。 ――どうしよう、眠れない・・・ 一度冴えてしまった頭はなかなか次の眠りを欲さない。 「散歩、しようかな」 僕は溜息をつきながら仕方なくコートを羽織り、部屋を後にした。 静かな廊下に響くのは、僕の息遣いとブーツの固い音だけだ。 ――誰も人がいないみたいだ―― ふいにそんな事を思ってしまい、僕は独り苦笑を漏らす。 普段は人がいて賑やかな談話室も、今はただ静かに時が過ぎるのを待つばかりだ。 ふと、目に入ったのは窓から見える一面の雪。 後から後から降り積もる純白。 「――外に出てみようかな・・・」 眠れない時間の暇つぶしを見つけることができ、僕は喜んでそっと走り出した。 「うぁー、寒っ!!」 凍るような冷気にぶるりと身を震わせ、腕を擦る。 さすがに外は中よりも寒い。 それでも一面の銀世界は綺麗で、ずっと見ていても飽きない。 「綺麗だな…」 誰に聞かせるまでもなく、そっと呟く。 ――しかし 「ほんとにね!!」 独り言だったはずの呟きに答えが返った。 驚いて振り返れば、そこには黒髪を二つに結った少女がいた。 「リナリー!?ど、どうしてここに・・・」 「ふふっ!寒さで眠れないからぼーっと外見てたらね、アレン君が見えたから追っかけて来たの!!」 そう言って笑う彼女は確かに薄着で、慌てて出て来た様子だった。 「かっ風邪引きますよ!!コレ着て下さい!!!」 僕は自分のコートを差し出し、リナリーに着せた。 「ありがとう・・・」 はにかんだようにお礼を言う彼女は雪と同じくらい綺麗で・・・・・・僕は思わず赤くなってしまった。 「?どうしたの、アレン君?顔赤いよ?寒いの??」 「だ、大丈夫ですっ!!きっと冷気のせいですけど・・・慣れましたからっ!!」 「そう?・・・・・・それなら良いんだけど」 見るからにあたふたしている僕を不思議そうに見ていたリナリーがふっと瞳を逸らす。 その視線の先には一面の銀世界。 「綺麗だね・・・」 ついさっき僕が言った言葉を再び繰り返す。 綺麗だなんて陳腐な言葉でしかないけれど、この世界にぴったりな言葉はこれしかない。 「そうですね・・・」 二人の間に沈黙が降りる。 僕とリナリーはただ黙って雪を見続けた。 ――こうしてから、どれくらい経った頃だろう。 隣に座っていたリナリーが突然動いた。 ごそごそと何かを探している。 不思議に思い、僕は声をかけようとした。 「あの、リナリー?「あ、あった!!」 僕の声は見事にかき消される。 軽くショックを受け、沈む僕に構わず、リナリーは懐から懐中時計を出してきた。 「あの・・・リナ「ジャスト0時。アレン君、お誕生日おめでとう!!」 「・・・・・・・・・え?」 ――またしても、話を遮られた。 最初に思ったことはそれだった。 そういう問題じゃないのは良く判っている。 どうやら混乱しているらしい。 そんな僕に構わず、リナリーはただにこにこ笑っている。 「お誕生日おめでとう!!」 「あ、ありがとう…ございます///」 満面の笑みで再び繰り返すリナリーに僕はしどろもどろになりながら、お礼を言った。 「やった!!アレン君におめでとうって言うの、私が一番だね!!」 嬉しそうに笑う彼女につられて、僕も微笑んだ。 顔が、熱い。 ――きっと今の僕は顔が赤いだろうな 頭の片隅でそんな事をふと思う。 「嬉しい・・・です///」 「ほんと!?良かった!!あ、ちゃんとパーティーもするから、楽しみにしててね!!ジェリーなんか、すごく張り切ってたんだから・・・」 「ありがとうございます!!・・・今まで大勢の人に祝われた事ないんで、すごく楽しみです!!!」 「今年がアレン君にとって良い年になったら良いね!!・・・あれ?雪やんだみたい」 いつの間にか雪が止んでいた。 「そろそろ帰りましょうか、リナリー」 「そうね!これ以上いると風邪引いちゃうもんね」 「お手をどうぞ、お嬢様?」 おどけた調子で言えば、リナリーもクスクス笑いながら、手を差し出す。 二人手を繋ぎながら、他愛ない話をして、部屋まで帰った。 「じゃ、おやすみなさいアレン君」 「おやすみなさい、リナリー」 部屋のドアが音を発てて閉まったのを確認すると、僕も自室に帰るべく歩き出した。 静かな廊下を歩きながら想うのは、先程の言葉。 ――今年がアレン君にとって良い年になったら・・・ 「・・・・・・もうなってますよ」 独り呟いて、僕は笑った。 誕生日って良いな・・・などと思いながら。 ―fin― |