† 誕生日のコムリン騒動 †






 いつものごとく、彼の足は科学班実験室へとむかっていた。
 「いけね、今日オフだった」
 毎日(?)の日課になっているいつもの行動。起きたら着替え、白衣を着て仕事が山のように積み上げられている自分のデスクに座り、ペンをとって化学式をときにかかる。
 そんな日常も、今日だけは離れられる。
 足を180度回転させ、自室に白衣を置きにいく。
 「さーて、何すっかな〜・・・」
 オフの日は、ついだらだらしてしまう。それで、貴重なオフの日を食いつぶすというのは毎回のことだった。
 彼の名は、リーバー・ウェンハム。役職は黒の教団科学班長。
 今日は、リーバーの誕生日。徹夜続きの黒の教団も、個人の誕生日はちゃんと尊重してくれる。その日だけは、あの巻き毛シスコンの悪夢から離れられる・・・はずだった。


 そのころの、科学班実験室。
 「フフフ・・・ついに出来たぞ♪」
 怪しげな笑みを浮かべるのは、黒の教団科学班室長、コムイ・リー。エクソシストのリナリー・リーを妹に持つ、有能な科学者である。
 ・・・・・・シスコンという点を除けば。
 「室長、出来たって、何が出来たんすか?」
 「新しいコムリンだー!!」
 「「「何ィ―――!?」」」
 コムリン。コムイの人格と頭脳を完全にコピーしたという無駄にごついロボット。過去のT、Uは両機とも何かしらの原因で暴走し、エクソシストによってやっと暴走が停まった。
 「コムリンを今すぐ破壊しなくては!」
 「ぶっ壊すだけじゃこの化けもんは復活する!」
 「待ってよ、みんな!」
 壊す気満々だった科学班の目から、殺気が消え、コムイに注がれる。
 「今度のコムリンは暴走する確率は間違いなく0に近い! だって動力はコーヒーなんだ!!」
 「・・・・・・はい? コーヒー?」
 「なら大丈夫なんじゃね?」
 各々がどこからか取り出した武器をごそごそと片付けていると、ナイスタイミングでリナリーがコーヒーとリーバー用の炭酸飲料が入った『泡』と書かれたコップを盆にのせて入ってきた。
 「あれ? リーバー班長は? あとこのロボットは何?」
 「班長は今日、誕生日だからってゆー理由でオフっすよ? あとこれは、室長の作った『コムリンV』っす」
 「そう・・・」
 リナリーはリーバー用に入れてきた炭酸飲料の入ったコップに視線を向ける。
 そのとき、横で「ウィィィィ」という機械音が響く。
 見ると、コムリンがコムイ用のマグカップからコーヒーを飲んでいる。
 「それ・・・兄さんのコーヒー・・・兄さん、このコムリン、コーヒー飲めるの?」
 「リナリー、よくぞ聞いてくれました! このコムリンは、コーヒー完全対応!
 なんたって、コーヒーが動力源だからね!!」
 自慢げなコムイの目の前で、コーヒーを飲み干したコムリンは、次のコップに手を伸ばす。それが普通の科学班員用のコップだとしたら、誰も咎めたりはしなかっただろう。
 だが、コムリンが次に手を伸ばしたのは、何とリーバー用の炭酸飲料が入ったコップだったのだ。
 「兄さん・・・コムリンて炭酸飲めるの?」
 「あはは、何を言ってるんだいリナリー。コムリンはコーヒーに対応してるとはいっても、炭酸には・・・」
 その場の空気が、一気に氷点下に陥る。
 「「「飲んだの・・・?」」」
 ――ドカン!!
 豪快な音を立て、コムリンの胴体の辺りから煙がぶすぶすと上がる。
 『私ハ・・・コムリン・・・エクソシスト・・・強ク・・・スル』
 コムリンは体から大量の試験管のうち、1本を選ぶ。
 『コノ女ヲコノ薬ノ実験体ニスベシ!』
 「「「何ぃ―――!?」」」
 本日二回目の台詞。今回の声にはコムイもはいっている。そんなことお構い無しに、コムリンは試験管の中に入っている薬に吹き矢の矢を浸している。パニックに陥っている彼らの目に、そんな光景が留まるわけがない。
 「リナリー、逃げろ!」
 『フッ』
 ――プス。
 「あ・・・」
 コムイの言葉も空しく、コムリンが放った吹き矢に当たり、リナリーはその場に崩れ落ちる。持ってきていたマグカップも、音を立ててわれ、容器をなくしたコーヒーも散らばる。
 「キャ――!! リナリー、リナリー! ボクのリナリー! コムリンのバカー!!」
 「知らせに行ってきます!」
 科学班員の勇敢な輩が外の者に知らせるため実験室を出て行った。残った科学班員には、その輩が神に見えた。
 「さーて、本気で何すっかな・・・」
 白衣も自室においてきて、本気で何をしようか考えていたところに、声がかかる。自分に向けて、だ。
 「リーバー班長ー!!」
 「おう、どうした?」
 のんきに答えたリーバーとは逆に、その科学班員は切羽詰まった顔をしている。
 「コ・・・コムリンが暴走しました!!」
 「コムリンならTもUも残ってないはずだろ」
 「Vが出たんです! 今回暴走してるのはVです!!」
 そして班員は、さっきの事を細かく説明した。
 「(アホくさ・・・・・・っ!)」
 顔に出さないように注意した。
 「どっちに向かった!?」
 「だ、談話室・・・」
 「俺が行くから、コムリン撃破の準備!」
 「ラジャー!」
 2人は同時に逆方向に走り出した。科学班員はもと来た道を、リーバーは談話室に向かって。


 談話室には、爽やかな風が吹いていた。
 扉1枚隔てた外では、コムリンが暴走していることも知らせず。その風を浴びているのは、ただ1人だけだった。
 赤毛に、エメラルドグリーンの瞳が印象的なエクソシスト、ラビ。いつものバンダナは外し、首にかけている。
 ブックマンの継承者である彼は、コーヒー片手に歴史の本を読んでいた。ブックマンとは、裏歴史を記録するために世界を流離(さすら)い、追い続けていくもの。本を読む彼の目は「ラビ」ではなく、「記録者」としての目だった。
 本を読む手を一時休め、窓の外を見つめた。
 ――いつか俺も、ここにいる奴らと同じように、歴史から除外されていくんだろうか。
 何故そんなことを考えたのかはわからないが、ラビはずっと窓の外を見つめていた。渡り鳥が、隊列を組んでどこかに行こうとしている光景しか目にはいらない。
 そんな考えは、扉を勢いよく開ける(半ば蹴破る)音で遮られた。
 「ラビ!」
 「リーバー班長? どうしてここにいるさ? 仕事は?」
 「今日はオフだ! それより、早くここから逃げろ!」
 「何でさ?」
 「コムリンが来る!」
 「へー・・・ってコムリン!? あの!?」
 リーバーが次の言葉をつむぎだす前に、実験室方面の壁が豪快に崩れ落ちた。
 「来たぁ」
 ガラガラと崩れ落ちる瓦礫と粉塵の中から姿を現したコムリン。
 『ピピ・・・ラビエクソシスト発見!』
 「逃げろ、ラビ! 聞いた話じゃこいつはエクソシストを狙ってる!」
 『実験体ー!!』
 コムリンの目と思われるところから、レーザーが発射される。
 「どわさっ! リーバー、わけが分からんさ!!」
 「うむ! あれはコムリンVっつって、見てのとおり暴走してる!」
 「それは見りゃ分かるさ! 何でこんなになってるんさ!」
 コムリンのレーザーを反射神経でかわし、廊下を全力疾走するリーバーとラビ。
 走りながら隠れられる場所を探す。
 「それより今はコムリンを撒くことが先決だ!」
 リーバーが偶然見つけた隠れ場所に突っ込むと、コムリンは気付かずに通り過ぎていく。響くのは、2人のぜいぜいという耳障りな喘鳴だけ。
 「さっきの質問さ。何でこんなことになってるさ?」
 「俺も現場にいたんじゃなくて聞いた話だから詳しくは分からんが・・・」
 そう言ってリーバーはさっきの科学班員から聞いた話をそのままラビに話した。
 「あほくさ・・・・・・っ!」
 「俺もそう思った」
 「リナリーは!?」
 「コムリンの薬くらって眠ってるらしい。それより、神田は?」
 「ユウなら昨日からアレンとの凸凹コンビで任務に出てるさ。明日あたりまで帰ってこないと思うさ」
 「「「「班長―――!!!」」」」
 声がするほうを向くと、ピラミッドを逆にしたようなあの乗り物に科学班が乗っていた。
 どこに収納されているのかでかいバズーカが突き出している。
 そのとき、リーバーとラビがもたれかかる壁が豪快に壊れ、2人は吹っ飛ばされた。
 「「来たぁ」」
 「インテリをなめんなよぉ―――!!」
 「壊(や)れ―――!!」
 操作盤で照準などを合わせ、撃とうとレバーを引いたとき。いつもの邪魔が入った。

 「ボクのコムリンを撃つなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 「コムイ!?」
 「「「「「「「室長!?」」」」」」」
 上からコムイが降ってきた。
 「撃つなぁぁぁぁ! ボクの汗と涙と愛の結晶だぞ!?」
 「室長、やめてください!」
 前の教訓から、操作盤の手を離す。前はこれでスイッチが入り、壊滅の危機に陥ったのだ。
 「イノセンス、発動!」
 ラビが右足のホルダーから自身のイノセンス、『大槌小槌』を取り出して、発動させる。
 見る間にそれは大きくなり、ラビでなければ重すぎて振り回すどころか持つことすらままならなくなる。
 「おりゃ!」
 「!!」
 勢いよくラビが槌を振り下ろす。コムリンも反射がよく、切り落としたのは左側の真ん中1本だけだった。
 「でかいくせして、結構速いさ! じゃあ・・・イノセンス、第二開放!」
 ラビは槌を高々と掲げ、唱える。同時に槌の回りに、『火』や『木』といった文字の入った判が浮かぶ。
 「判、マルヒ!」
 『火』とかかれた判を、打ち抜き、そのまま床に叩きつける。
 「劫火灰燼、火判!」
 すぐに蛇のような形をした炎が出てきて、コムリンを飲み込む。
 『ピピ・・・ガガガッ・・・!』
 火判が消えたとき、そこに残ったのは所々くっついたコムリンだった。
 『実験・・・台・・・!』
 「まだ動いてるさ!?」
 「すげぇな・・・」
 あのラビの火判を受けて、まだ動いている機械・・・。コムイはどれだけ頑丈に作ったのだろう。
 コムリンはまだラビを実験台にしようとして、ラビに向けて立ち上がり、動こうとする。
 だが、足がくっついているため、動けずにつるりとすべり、こける。
 「こけた・・・・・・」
 「「「「「「「…あはははははは!!!」」」」」」」
 爆笑。
 リーバーでさえ、ラビの後ろで笑いをこらえていた。
 「じゃ、このまま底に・・・」
 「まつんだ、ラビ!」
 大槌小槌を構えたラビの前に立ちふさがったのは、いつの間にか移動していたコムイだった。
 「え、室長!?」
 「いつの間にあそこに?」
 感想を述べる科学班は放っておいて、コムイは言葉を続ける。
 「罪を憎んで人を憎まず、炭酸憎んでコムr「コムイ、ちょっと反省してきてさ」
 言葉をさえぎり、ラビは大槌小槌をバットのように振るう。コムイとコムリンはきれいに撃ちあがり、底へと堕ちていく。
 「ア〜〜〜〜〜〜・・・」
 チュドーン・・・。
 「なんだかな、もう・・・」
 その場にいた全員が、深い溜息をつく。


 トンテンカン、トンテンカン。
 規則正しく釘などを打つ音が、教団に響く。リーバーは、実験室でリナリーの看病をしていた。
 「ん・・・」
 「リナリー! 気がついたか?」
 「リーバーさん・・・ここは実験室?」
 「そうだ。コムリンが暴走してな。ほら、あの音」
 トンテンカン、と規則正しく響く音をリナリーに聞かせる。
 「そうだ! リーバーさん、誕生日おめでとうございます」
 リナリーが取り出したのは、蝙蝠の羽をかたどったペン。中国では、蝙蝠は幸福の象徴とされている。
 言語学を専門分野にもつリーバーにもちゃんと意味は伝わった。
 「お、ありがとな。この騒動でちゃんと言われてなくってさ」
 リーバーはこの歳になっても言われるとうれしいもんだな、と改めて実感した。
 「班長ー、手伝ってくださいよー」
 「お前ら、今日俺がオフだって知ってるだろ」
 「「「人手が足りないんすよ」」」
 異口同音。
 「仕方ねーなー・・・」
 しぶしぶ手伝いに出る。そこに、包帯でぐるぐる巻きになったコムイを発見した。
 「室長」
 しゃがみこんで言う。今回、コムイに一番言ってやりたいことだ。

 「明日もオフでいいんでしょうね?」

 「仕方ないなあ。だめって言ったらリーバー班長の容赦ない鉄拳が飛んできそうだし・・・いいよ」
 満足したリーバーはそのまま科学班のほかの輩と一緒に修理に入った。
 リナリーにもらったペンは、ちゃんと自分の解きかけの化学式を書いた紙の上においてきた。
 ――ありがとな、リナリー。

 だが、今年リーバー班長に「誕生日おめでとう」を言ったのはリナリーだけで、他の奴は(エクソシスト含む)2日とか3日後になってから思い出した・・・。



Fin.

 

















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