† 班長とホットケーキと幼馴染 †
「緊急事態なの!」 「それは俺の座禅を邪魔する程のもんなんだろうな…!」 座禅中に背中から押し潰された神田が押し殺した声で言うと、リナリーがこくこくと首を縦に振る。 「当たり前だよ! じゃなきゃ座禅中の神田を潰したりなんかしないもん」 「真顔で嘘吐くんじゃねぇよ…! てめぇ、ことある事に音速で飛びついて来やがって…!」 「だって緊急事態なんだよ!!」 「だから――いい加減どけッ!!」 「どいたら話、聞いてくれる?」 「ああ、聞くだけならなッ!」 怒鳴りながら、神田は背中のひっつき虫ごと一気に起き上がった。 コロン、と転げ落ちたリナリーを上から般若の表情で見下ろし、おもいっきり舌打ちをする。 「で、今度はなんだ? どんなワガママ思いつきやがった」 「う、うぅぅ…鼻、痛いぃぃっ……」 「そうか、じゃあ俺の所じゃなくて医務室に行くんだな」 運悪く顔面から転がったのだろう。 真っ赤になった鼻を押さえながら情けない声を出すリナリーに神田は素っ気なく告げると背を向けて歩き出す。 その背中がもう二度と邪魔すんじゃねぇ殺すぞ! と語っていようともリナリーはへこたれない。 「待って! 待ってってば! ねえ神田!!」 「ついてくんな」 「話、聞いてくれるっていったもん! それに神田だって関係あるんだからね!」 「……なんだよ」 腕に抱きつき、涙目で見上げてくる妹分に、神田は溜め息を吐きつつ足を止める。 「うん…あのね?」 「話は聞いてやるから擦り寄るな、離れろ、暑っ苦しい」 うんざりとしながら、神田は子猫のように甘えてほっぺたスリスリご機嫌を伺うリナリーの頭を押さえつけ、腕から剥がす。 とりあえず聞く体制になってくれた神田に、リナリーは満面の笑みを浮かべた…が、すぐに落ち込んだ表情になる。 「さっきね。神田の部屋に新しいトマトの鉢植えを運んでいた時に思い出したんだけど」 「てめっ! また勝手に置きやがったのかよ!?」 「だって、神田の部屋に置いとくと良く育つんだもん 「そういう問題じゃねぇだろ。毎度、毎度、見覚えのねぇ鉢を増やしやがって―てめぇで育てやがれっ!」 「イヤだよ! だって神田の育てたお野菜おいしいんだもん♪ じゃなくてね……」 キョロキョロと周りを見渡し人がいない事を確認してから、リナリーは小声で神田に耳打ちをする。 そうしてリナリーが話し終えると、神田は眉間に皺を寄せた。 「なんでそんなめんどくせぇこと思い出すんだよ」 「だってぇ……どうしよう」 「知るか。だいたい俺は関係ねぇだろ」 「関係あるよ! だってあれもう協力攻撃だったもん!」 「勝手に協力させんじゃねぇ! あれはお前が悪いだろうが!」 「違うもん! 神田が逃げるから悪いんだよ!」 「追いかけてくるからだろうが!」 「だからっ―ううん。もう今はそんな事で喧嘩してる場合じゃないよ」 深刻そうに頭を振りながら、リナリーはゆっくりと口を開く。 「忘れていたならまだしも思い出しちゃったんだもん。謝らないと……班長が鬼になるよ」 ブルリと震えた華奢な身体を見つつ、神田はもう一度深く溜め息を吐いた。 「あ、あの! ジョニーさん!」 研究室へ向かう途中、今日も忙しく走り回るジョニーを見つけ、ミランダは慌てて声をかけた。 「うわっ、びっくりした。何、ミランダ?」 両手いっぱいに資料を抱えたまま足を止め、ジョニーは首を傾げたが、それも一瞬ですぐに顔をにんまりとさせながら、 「班長なら、ちゃんと研究室にいるよ」 と、からかい口調で話す。それに顔を真っ赤にしつつもミランダは「そうではなくて」と首を横に振った。 「え、違うの?」 「はい! ……いえ! リーバーさんに用事があるのは本当なんですが」 「うん…?」 「その、リーバーさん。今、少し時間とれそうでしょうか?」 「今? うーん…時間って言っても。その場ですみそうな感じなの?」 不思議そうに問い返してくるジョニーに、ミランダは気まずそうに肩を竦める。 「それが、出来れば食堂の方まで来てもらいたいくて」 「ああ、そっか。もうお茶の時間だもんね。班長と2人っきりでティータイムしたいんだ」 「ち、違いますっ!! 私じゃなくてリナリーちゃんが――あっ!?」 「リナリー?」 顔を真っ赤にしつつ慌てて口を閉じるも、時既に遅く。 訝しげに聞き返された名前に、ミランダはあわあわと視線を彷徨わせた。 「違うんですほんとに違うんです! わ、私が……その、リーバーさんとお茶をしたくてっ! だからっ! リナリーちゃんに頼まれたと かそんなんじゃないんですぅううう!!」 「落ち着いてっ、ミランダ! なんかもうわかった気がするから!」 必死に否定しながら墓穴を掘るミランダを宥め、ジョニーは軽く息を吐く。 「またどんなワガママを言ったのか知らないけどさ。あんまり甘やかすのも良くないよ、ミランダ」 「うっ……それはわかってるんですけど。神田君も一緒にいましたし」 「神田までっ!? え、なに企んでるのあいつら!!」 「ジョニーさんっ、声が大きいです〜!」 シーッと指を1本口元にあてながら、ミランダが注意する。 聞こえてはないと思うが、何となく研究室の方を確認してからジョニーは「ゴメン」と呟いた。 「それで、その……協力するって決めたのは私ですから。何とか力になってあげたいんです」 「えっ、や…うん。それは良いんだけどさ…」 「はい?」 何かを考え込むように黙り込んだジョニーの厚い眼鏡が、不意にキラリと輝いた。 「俺も協力するから、なに企んでるのか教えてくんない♪」 「あらん♪ やっと来たわねん ミランダに手を引かれ、カウンターまでやって来たリーバーをジェリーが楽しげに出迎えた。 「料理長まで…いったい何なんすか?」 「何って、何かしら♪」 ウフ 「なんか、ミランダとジョニーが結託してやたら俺を此処に来させようとするんですけど」 「あら、あの子も参加したのん? ミランダ」 「はい。私、口をすべらせちゃって……」 「まあ結果的に良かったんじゃないかしら? あの子が手伝ってくれたんならお仕事の都合も付きやすいでしょうし♪」 「ええ♪ おかげでリーバーさん、予定より少しお時間いただけたんです♪」 「だから、いったい何を企んでるんすか。俺はそんなに暇じゃないんすよ!」 苛々とリーバーが吐き捨てた瞬間、ミランダの肩がビクッと震えた。 「ご、ごごごごごめんなさい!! リーバーさん!!」 「ちょっともう、あんたねぇ。いきなりそんな大声出さないの」 めっと叱りながら、ジェリーがミランダから視線を隣にやると、そこには不機嫌そうに顔をしかめるリーバーがいた。 まるで、子供が拗ねているような雰囲気にジェリーは思わず吹き出す。 「なんすか……」 「だってぇ、あんたってばジョニーにまでヤキモチ妬いてるんだもの 「なっ―!?」 「え、そうだったんですか!?」 「ち、ちが」 「違わないでしょ。ミランダがあんたの知らない事を他の人と仲良く話していたのが気に入らなかったのよね スッパリと言い切られ、リーバーとミランダの顔が熟れあがったトマトのように赤くなる。 それを微笑ましげに眺めながら、ジェリーは更に追撃をしかけた。 「それにいつまでも仲良く手なんか繋いじゃって カウンターに来てからもずっと離れない手をジェリーに指差され、 2人はどちらともなく視線を合わせると、バッと弾かれたようにお互いの手を離した。 「こ、これはっ!」 「その、私がっ!」 「はいはい。ご馳走様♪ そんなことより、もうそろそろ良い頃合よん♪」 「あ、本当ですね」 顔を真っ赤にしたまま頷くと、ミランダは改めてリーバーの方へと身体を向けた。 「リーバーさん。疲れた時には甘い物がイチバンなんですよ」 「そ・れ・に。美味しい物は心を豊かにして、幸せにしてくれるわよん♪」 「はあ……?」 まるで意味がわからないリーバーが困惑げに生返事を返した。 すると、今や共犯者の2人はそろって目配せするとニッコリと笑う。 「いっつも頑張ってるあんたにちょっとしたご褒美よん♪ 調理場の奥にある休憩室に行ってご覧なさい♪」 「え? だから何があるん」 「い・い・か・ら・行・き・な・さ・い」 「わかりましたよ……行けばいいんでしょ、行けば」 「あの、リーバーさん」 「なんだ」 「あんまり、怒らないであげて下さいね?」 「本当になんなんだよ。いったい」 ひらひらと片手をふりつつ、不安そうに調理場の奥へと消えていくリーバーを2人はニコニコと見送った。 どこか甘い香りが漂う厨房を、調理人達の邪魔にならいよう進み、リーバーは指定された休憩室前へとたどり着いた。 「さてと……何があるんだ」 が、すぐにノブを回そうとはせずにその場で立ち止まる。 「室長…は、前ならともかく今はこんな人を使った手の込んだ事できねぇだろうし。いや……待てよ」 ブツブツと呟きながら、腕を組み考え込む。 たしかに今のコムイには、中央庁から来た有能な秘書官が付きっきりなので、前のような無茶はできないだろう。 だが…… 「相手はあの人だ。油断しちゃならん……慎重にいこう」 何せ、リーバーの頭の中の彼は自分の息抜きの為なら、どんな不可能をも可能にする。 そのうち、デフォで羽が生えて飛んでみたり、壁とか垂直で歩き出してもなんら不思議はないのだ。 そんな宇宙人相手にご褒美だとか言われても、まったく安心は出来ない。 自分に言い聞かせるように言うと、リーバーは覚悟を決めてノブに手をかけた。 カチャ、と軽い音が響き、扉は簡単に開いていく。 「……なんで、ホットケーキ……」 両側の壁に設置された大き目のソファー、そのソファーに挟まれるように設置された簡易テーブルの上にそれは置いてあった。 ふんわりとした生地は魅力的なキツネ色。絶妙なバランスで三段に積み重ねられており、その上からたっぷりのメープルシロップと溶けかけのバターが芳しい香りを放つ。 どこからどうみても完璧なホットケーキであった。 唖然としながらも、扉をきちんと閉め、リーバーは恐る恐るホットケーキへと近づいていく。 「……毒入りか? いや、このホットケーキなんか見覚えが……」 まじまじと眺めつつ、ホットケーキと一緒に並んだ湯気立つコーヒーを確認した瞬間。 「なんだよ、そっちか…」 全てを理解した笑みを口元に浮かべながら、リーバーはボスン、とソファーに座った。 備え付けてあった銀のフォークを手にとり、ホットケーキを口に運ぶ。 瞬間――バニラの風味が口いっぱいに広がり、 「相変わらず、うまいっ」 掛け値なしの賞賛がリーバーの口から飛び出した。 手を止めるとこなく食べ進め、半分くらい胃に収めた所でふと、皿の下にある2つに折りたたまれた紙に気づいた。 フォークをくわえ込んだまま、手にとり、紙を開く。 【ごめんなさい】 見慣れた可愛らしい文字に噴き出しそうになるのを堪えつつ、リーバーは扉へ向けて声をかけた。 「で、そろそろ説明してもらおうか。リナリー、神田。いったい何やらかしやがった?」 「うっ! なんか説教モードだよ」 「……ちっ、だからこんな小細工しても無駄だって言ったじゃねぇか」 「だってジェリーが絶対にうまくいくって言ったんだもん!」 「おらっ! 口喧嘩はそこまでだ。とりあえず中入って正座しろ、正座」 そこに、と指で示されリナリーと神田は部屋に入り、無言で冷たい床の上に並んで正座をした。 「さてと、話を聞こうじゃねぇか。わざわざこんな手の込んだ事したんだ。本当に何しやがった?」 「……班長、怒らない?」 「時と場合によるな。と…言うか」 上目遣いで聞いてくるリナリーから憮然と黙り込んだままの神田に視線を移し、リーバーは深く息を吐く。 「リナリーだけならまだしも、お前まで……ガキの頃じゃあるまいし、いい加減に妹の暴走くらい制止しろよ」 「誰が妹だっ!」 「班長ひどい! 私だけ悪いみたいな言い方したっ!」 「てめぇが悪いんだろうがっ!」 「違うもん! 最初に班長に体当たりして転ばせたの神田だよ!」 「その後に突っ込んできて、壁にめり込ませたのはてめぇだろうがっ!」 「神田が倒れこんでくる班長を私の方に飛ばしたんじゃない! 班長を障害物みたいに扱ったくせに!」 「丁度いいとこに盾があったんだ。使うに決まってんだろ。大人しくぶつかって潰れてりゃいいものを、避けた上に足蹴にして追撃してきやがって!」 「ふんだ! 丁度いいとこに踏み台があったんだもん。使うに決まってるじゃない!」 「いい加減にしろッ! お前ら!」 ゴンっ! ゴンっ! と正座したまま争う幼馴染の頭に、リーバーの拳骨が勢いよく落ちる。 「い、痛いぃぃぃ……」 「てっめ……何しやがるっ……」 「おかげで思い出したんだよ。手早くいかせてもらったぜ」 ふーっと勇ましく拳骨を握りしめたリーバーが、殺気を漲らせる。 「もう4年位前か? あの後、しばらく全身打撲で動けないわ、かといって仕事は溜まるわ室長はこれがチャンスとばかりに逃げ出すわ仕事は溜まるわ……しかもお前らは任務続きで謝りにも来ないわ」 「あ、あのね、班長」 「しょうがねぇだろ。今の今まで忘れてたんだ」 「しょうがなくないだろうがッ……!!」 リーバーが拳骨をもう一度振り上げる。それを見たリナリーは子供のように頭へ手をやり縮こまり、神田は六幻の柄を素早く握り防御体制を取った。 ……が、いつまで経っても衝撃が来ない。 恐る恐る、リナリーが顔を上げると厳しい眼差しで見下ろすリーバーと目があった。 「リナリー、神田」 「はい!」 「……なんだよ」 「まず、俺に面と向かって言うことがあるだろう」 威圧感たっぷりに言われ、リナリーは思わず姿勢を正した。そして、 「ごめんなさい、班長」 と素直に謝る。その横で神田もバツの悪い表情を浮かべながら、 「……悪かったな」 と小声で呟いた。何だか、その姿が小さな頃から変わっていないように見えて、リーバーは昔を懐かしむような笑みを浮かべる。 「ま、実際に俺も言われるまですっかり忘れてたのもあるしな。今回はこのホットケーキとコーヒーに免じて許してやる」 「ゲンコツしたくせに……」 「だから、一発で許してやるって言ってんだ。何ならもう一発してやるか? リナリー」 「や、やだやだ! ごめんなさい! 班長!」 ボキベキと指を鳴らすリーバーから、リナリーは慌てて神田の背後へと隠れる。 「俺を盾にすんじゃねぇよ」 「だってぇ…」 「ったく、おいっ、リーバー。気ぃすんだんなら俺はもう行くぜ」 付き纏うリナリーを払いのけ、神田はさっさと立ち上がり部屋から出ようとしたのだが、 「行く前に、これ、おかわりな」 といつの間に空になったのか? ホットケーキの皿を押し付けられる。 「なっ…」 「いやー、久しぶりに食ったが相変わらず腕は落ちていないよな。美味かった」 呆然と皿を受け取って固まる神田にニヤリと質の悪い笑みを浮かべながら、リーバーは更に追い討ちをかける。 「それからミランダと料理長……後、ジョニーの分もだな。皆に協力してもらったんだ。なら、お礼しなきゃいけねぇだろう。作れ」 「あ、そうだね。お礼しなきゃ! 神田のホットケーキって本当に美味しいんだもん。ジェリーのお墨付きだし♪」 「そうそう、才能あると思うぜ。焦がしてばっかりの半生ホットケーキしか焼けないリナリーに比べたら」 「だって! あれすぐ真っ黒になっちゃうんだもん!」 「最初から最後まで強火で焼くからだろうが、馬鹿」 頬を膨らませてリーバーに抗議するリナリーへ呆れたように吐き捨てると、神田はリーバーを真っ直ぐに睨みつけた。 「そいつらの分だけ焼けば良いんだな。こんな甘ったるいもん、俺はもう二度と作りたくねぇんだよ……!」 「そんなっ! リナリーのお誕生日に焼いてくれるって約束したのに!」 「んなもん、いつ約束したッ!」 「私の頭の中で♪」 「妄想かよッ!」 「だって昔は良く焼いてくれたのに最近ぜんぜん作ってくれないんだもん! もったいないよ! 班長だってそう思うよね!?」 神田に怒鳴られ、素早くリーバーの背に隠れたリナリーが同意を求める。 リーバーは苦笑しながらも、 「だな。料理長主催の調理実習で飛びぬけて上手かったもんな。ムラなく焼かれた生地なんかもう芸術的だったし、さすが日本人は器用だって感心したもんだ」 うんうんと腕を組み頷いた。リナリーもこくこくと首を縦に振る。 「その気になれば監査官なんかよりもずっと上手だよ! パティシエになれるよ! ね、だから私のお誕生日にチョコレートケーキ焼いて? ね・え・さ・ま 「さりげに姉さまって言うんじゃねぇえええ!!!!!」 リナリーの首根っこを引っ掴みリーバーの背から引きずり出すと、神田は凶悪な顔で睨みつける。 「てめぇ……調子に乗るのも大概にしろよオラッ!!」 「なんだよなんだよ怒ってばっかり! お誕生日くらいワガママ聞いてくれても良いじゃない!」 「いっつもワガママ言ってる奴が言う台詞かよっ!」 「ワガママじゃないもん! 兄さんは可愛いって言ってくれてるもん!」 「あのシスコンの言う事は全部9割引しろっ! 真に受けるんじゃねぇ!」 「ひどい! 神田、ひどいよ! 私はただ誕生日プレゼントが欲しいって言ってるだけなのに!」 「ハッ……! やれるもんなら節度とか常識とか兄貴からの自立心とかくれてやるっ!!」 一息で言い切られ、さすがのリナリーも涙目で口を噤む。 ようやっと大人しくなったリナリーの首から手を離すと、神田は疲れたように息を吐いた。 「……たく、口で俺に勝とうなんざ100年早ぇんだよ」 「相変わらず見事だよな。お前の悪口雑言…」 思わず拍手しつつリーバーが言うと、神田はケッ、と毒づいた。 「もう何年もこいつのワガママに付き合わされてんだぜ。言い足りないくらいだ。……おいっ、リナリー」 「ふえ……?」 「食いてぇんなら、今、ついでに焼いてやる」 「本当っ!!」 「そのかわり、これっきりだからな」 「う、うん!! ありがとうっ神田!!」 「……めんどくせ」 パアア…と顔を明るくして駆け寄ってきたリナリーを引き連れて、厨房へ向かった神田をリーバーはコーヒーを飲みつつ見送る。 「……妹に甘いのはお前もだと思うけどな」 無意識にリナリーと歩幅を合わせて歩く神田と、ヒヨコのようにトコトコ着いていくリナリーの姿が小さい頃の面影と重なり、リーバーはほんの少しだけ微笑んだ。 その頃、病棟では包帯だらけのコムイと相対してドクターが溜め息を吐いていた。 「室長? どうして窓から紐なしバンジーなんて、あからさまな自殺を謀ろうとしたんだね?」 「なんか、今なら羽が生えて飛べるんじゃないかなって……」 「バカじゃないのかね」 不審物を見る眼差しで返しながら、ドクターは秘書官の要望どおり引き続き仕事ができるよう、痛み止めの注射をコムイの腕に勢い良くつきさした。 Fin. |