† All Dead †
―――― 鳥はいいなぁ・・・・・・。 誰にも邪魔されずに、自由に空を飛べて。 あぁ、魚になるのもいいかもしれない・・・・・・。 海流に乗って、大きな海をどこまでもどこまでもどこまでも・・・・・・ 「ウォーカー。 現実逃避している暇があったら、義務を果たしなさい」 「どこまでもどこまでも・・・・・・」 「海に沈みたければ、重石をつけてマリアナ海溝に沈めてあげますから、今は義務を果たせコノヤロー」 「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!リンクなんて大っキライだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」 絶叫して泣き崩れたアレンを冷たく見下ろし、リンクは鼻を鳴らした。 「嫌いで結構。 私は、監視対象と馴れ合うつもりはありません」 「嫌いじゃありませんっ!大っキライって言ったんですぅ!」 「だからなんですかウォーカー。 私だって、君みたいなやかましいクソガキ、大嫌いですとも」 きっぱりと言われたアレンは、リンクを涙目で睨む。 「全く、なんて反抗的なんでしょう、君は。 いいですか、ウォーカー。 私は君を地下牢に閉じ込めて、有益なおしゃべりをしたくなるまで痛めつけてやっても構わないんですよ? ですが、たった15歳の君にそれはあまりに惨いだろうと、温情をかけてやっていると言うのに、なんですかその態度は!」 傲慢な上に恩着せがましい言い方をされ、アレンのこめかみが引きつった。 「上等ですよ!! 拷問できるもんならしてみろってんだコノヤロー!!」 「よく言った!! 地下牢にぶち込んでやるわクソガキ!!」 きぃきぃと甲高い喚声をあげて掴み合う二人の姿に、書庫室に出入りする団員達が苦笑する。 「またやってる・・・」 「飽きないよなぁいつも・・・」 「ホントはあの二人、仲いいんじゃないのか?」 二人に聞かれたなら、激しく否定されるだろう囁きを交わしつつ、さわらぬ神に祟りなしと、そそくさと書庫室を出て行った。 その直後、破壊音と共に書棚が雪崩を起こす音がして、思わず身をすくめる。 「・・・・・・逃げて良かった」 真っ青な顔を見合わせた彼らは、更にドアからあふれてきた怒声に、尻尾を巻いて逃げ出した。 「もぉ怒ったっ!! リンクなんかと一緒にいたら、鬱になるよっ!」 アレンがものすごい勢いで投げつけてきた本を、大判の本で防いだリンクは、固い革表紙の本を掴んで応戦する。 「なにが鬱だこのクソガキが!! こっちこそ君のせいで、脳溢血起こしそうだっ!!」 「自分のせいでしょ、糖尿監査官!! もっとましな監査官に替えてよっ!!」 リンクの攻撃を素早い動きで交わし、アレンは手当たり次第に本を投げつけた。 「誰が糖尿だこの高燃費が!! キサマなんざ、地下牢でネズミにでも監視されてろっ!!」 リンクも応じて、書庫室が本を使った雪合戦の戦場のようになった時、 「おいっ!!」 怒りに満ちた声が響いて、二人は思わず手を止める。 「てめぇら・・・よりによって本を投げるたぁ、何事さ!!」 「ラ・・・ラビ・・・」 「な・・・なんですか・・・?」 「いいからそこ座れ!!」 いつも飄々と笑っているラビの、本気の怒りを前にして、傍若無人な二人が並んで正座した。 「本は知恵の結晶であり、権威の象徴さ! それを粗末にしやがってっ・・・てめぇらみてぇな奴らがいっから、焚書なんてするバカが出てくんさ!! 一時の狂信や一方的な価値観のせいで、どれだけ多くの書がこの世から消えたと思う?! 本を大事にしねぇやつぁ、火あぶりにして穴に埋めっぞコラ!!」 「は・・・はいっ・・・!」 「すみません・・・っ!!」 逆らえば本気で火葬される、と怯えた二人が、おとなしくこうべを垂れる。 「わかったらすぐにここ片付けるさ!! ・・・今ので本が破損してたら、てめぇらの首刈ってやる」 ぎろり、と、ただならぬ迫力で睨まれ、二人はびくりと震え上がった。 「ラ・・・ラビが神田化してるぅぅぅ〜〜〜〜!!」 「こ・・・ここは逆らわない方がいいでしょう、ウォーカー!一時休戦です!」 リンクの提案にアレンも頷き、跳ねるように立ち上がって、書庫室の片づけを始める。 と、ラビも床に散らばった本を拾いながら、破損はないか、注意深く検分し始めた。 「ラビ・・・! 神田化してんなら、ほっといて出てけばいいのに・・・・・・!」 「か・・・彼より早く片付けるのです! 破損が見つかったら、火葬にされますよ!!」 リンクも鼓動を早くしつつ、倒れた書棚を起こし、散らばった本を詰めて行く。 が、 「おい、ホクロ。 テキトーに詰めてんじゃないさ。ちゃんと分類しろ」 「んなっ?! わ・・・私は司書ではない! そんな分類、できるわけが・・・・・・」 「じゃあ、詰めずに置いておくさ。 俺が分類して入れっから」 未だ、怒りの収まらない声で言われ、リンクの全身から血の気が引いた。 「・・・リンクのバカ! なんで知らないなんて言っちゃうんですか・・・・・・!」 「んなっ?! だって知らないものは・・・」 「そこを知ったかぶりするんですよ、死にたいんですか?!」 そうは言われても、リンクに『騙し』のスキルはない。 「無理なものは無理・・・っ」 「人間、死ぬ気でやればなんだってできます!」 アレンが咄嗟に吐いた台詞に、リンクは目を見開いた。 「・・・やはり師弟だな。クロス元帥と同じことを言う」 「はぁっ?! なに言いやがったんですか、師匠・・・」 「そこ。 片付ける気ねェなら出てけ」 未だかつて聞いたことがない、冷たいラビの声に震え上がり、二人はわたわたと作業を進める。 彼らが一時の激情に任せて荒らした部屋を全て元通りにできたのは、それから4時間も後のことで、さすがにぐったりとした二人が休憩に行った時にはもう、とっくにお茶の時間は終わっていた。 惨い現実に愕然としたアレンが、傍らに呆然と立ちすくむリンクに詰め寄る。 「リンク、ケーキ作って!!」 「甘えるなクソガキ!!私だって疲れてるんだぞ?!」 「オナカすいた・・・!!お茶しないと死んじゃう!!」 リンクの胸倉を掴んだまま、アレンが泣き出すと、食堂内の視線が一斉に彼らに集まった。 「・・・監査官がまたアレン泣かしてる」 そんな囁きが聞こえ、リンクは顔を真っ赤にして発言者の姿を探す。 「ふっ・・・ふざけろっ!! 毎日毎日、泣きたいのはこっちだ!!」 アレンの泣き声とあいまって、リンクの怒声が響き渡るが、いつも仲裁に入ってくれる料理長はあいにくこの日、非番だった。 既に夕食の準備に追われて、ケーキを焼くどころではないシェフ達は、困惑げな顔を見合わせると、チョコレートでコーティングされたケーキをワンホール、二人へと差し出す。 「・・・そんなにおなかすいてんなら、これ食ってみる?」 「俺はあんまりお勧めしないけど・・・・・・」 複雑な顔をしたシェフ達の前で、リンクも眉根をきつく寄せた。 「・・・なんだこのいびつな物体は!」 スポンジがうまく膨らまなかったのか、波打った台にこれでもかとチョコレートクリームを塗りたくったケーキは、場所によって厚みが違う上、香ばしい・・・いや、香ばしすぎる匂いをも放っている。 「明らかに焦げているだろう?!」 お菓子作りに関しては、相当な腕を発揮するリンクに指摘され、シェフ達は首をすくめた。 「だから・・・」 「お勧めはしないって・・・・・・」 その言い訳がましい言い様に、生真面目なリンクが語調を強める。 「はっ! 教団本部のシェフは腕利き揃いだと聞いていたが、こんなものを作るようでは・・・」 「作ったのは俺らじゃないよ!」 「リナリーだよ!!」 こんなものが自身らの作だと思われては困ると、シェフ達がリンクの言葉を慌てて遮った。 「料理長がいない時は厨房に入るなって言ったのに、リナリー・・・」 「チョコレートケーキはもう何度も焼いたから大丈夫だなんて言って・・・・・・」 結局、自力で作り上げたもののいびつさに、泣きながら出て行ったらしい。 「料理長が隣にいて、ようやく成功してたんだって、早目に気づいて欲しかったよなぁ・・・・・・」 吐息しつつ、シェフ達が横目で見遣ったケーキを、アレンはくんくんと鼻を鳴らして嗅いでみた。 「お酒の匂いはしないから、僕、食べられると思います!」 溌剌と断言したアレンの頭を、シェフ達は次々と撫でてやる。 「うん、お前ならそう言うと思ってた」 「がんばれよ、アレン。 お前なら、きっと試練を乗り越えられる!」 笑いながら、シェフ達は大きなティーポットにお茶を入れ、大量のサンドウィッチもつけてやった。 「リンクは無理するなよー」 「・・・っするか!」 教団に出張して以来、何度も厨房を利用しているためか、いつの間にか優しく気遣ってくれるようになったシェフ達に、リンクは殊更憎まれ口を叩く。 「まったく、どいつもこいつも馴れ馴れしい! 私を取り込んで、監査に手心を加えさせようとでも思ってるんじゃないだろうな?!」 「そーんな意地悪なこと考えるの、リンクだけですよ」 チョコレートケーキの皿を持って、にこにことテーブルに着いたアレンは、ティーカップに勢いよくお茶を注いだ。 「聞きましたけど、他の監査官達は師匠に苛め抜かれて、すっかり低姿勢になったらしいですね」 「んなっ・・・?!」 席に着こうとしたリンクは、アレンの言葉にこめかみを引きつらせ、立ち竦む。 「ウォーカー!! 君、その情報をどこから・・・っ!!」 ジュニアか、と、掴みかかるリンクに、アレンはにんまりと笑った。 「あぁ、やっぱりねー そうじゃないかと思いました 「き・・・きさま、かまを・・・!!」 まんまとはめられたリンクが、悔しげに顔を歪める。 対するアレンは、にこにことリンクの手を振り払い、熱いお茶に息を吹きかけた。 「わかりますよ、そのくらい。 師匠はね、あらゆる悪徳が服を着て歩いてるような人なんです。 しかも、束縛されるの大っ嫌いですから、監視なんてされた日には、相手が泣いて詫びるまで踏みにじりますよ。 ・・・ううん。泣いて詫びた時には、もう遅いんですよ。 命は取らない代わり、魂は徹底的にいたぶられます」 実感のこもったアレンの言い様に、リンクは喉を鳴らす。 「命は・・・取らないと言うのなら、非道と言うわけでは・・・・・・」 反駁はしかし、アレンの静かなため息で遮られた。 「わかってませんね、リンク。本当の悪魔はね、命をとらないんですよ・・・。 だって、殺しちゃったらもう、いたぶって遊べないでしょ?」 途端、リンクの全身から血の気が失せ、足から力が抜けて、すとん、と、椅子に座り込む。 「師匠についた監査官達、可哀想・・・。 これから一生、師匠の名前に怯えて、悪夢を見ることになりますよ・・・・・・」 僕みたいに、と、虚しく呟きながら、アレンはチョコレートケーキにフォークを突き立てた。 ガツッ!という、およそケーキにしては意外な手ごたえがあったが、勢い余って皿に突き立てたのだろうと思い、アレンは無警戒に頬張る。 「っウォーカー、今、ガリって・・・・・・」 「・・・・・・・・・」 焦げて岩のように固くなったスポンジの上に、クリームと混ざり損ねたチョコレートが塊となってへばりつき、なおかつ、小麦粉と砂糖と卵がそれぞれに素材の味を主張する・・・悪夢の続きのような味に、しかし、アレンは無言を貫いた。 「・・・黙って青紫になってないで、まずいならまずいと言ったらどうだ?」 みるみる変わっていくアレンの顔色に、リンクはやや落ち着きを取り戻す。 「べ・・・別に、まずくはないですよ? 素材の味が生きてます!」 紅茶で一気に飲み下したアレンが、しかし、さすがに二口目を躊躇していると、リンクはすっかり落ち着きを取り戻して、肩をすくめた。 「見ればわかります。 そのスポンジ、素材が分離しているでしょう?」 「・・・・・・」 「材料がしっかり混ざってない状態で焼くから、全体に火を入れようとすれば焦げもするし、チョコレートとクリームが混ざってないから、ただ苦いだけの黒い塊がへばりつくことになります。 名前をつけるとしたら・・・そうですね、カオス」 「誰がカオスよ!!失礼ね!!」 リンクの嫌味に、ヒステリックな声が上がる。 冷淡な視線の先には、このケーキを作った少女が、肩を怒らせて立っていた。 「シェフ達がケーキをアレン君に渡したって言うから、来てみれば・・・」 「さすがに、仲間に毒を盛るのはためらわれましたか、リナリー・リー」 「毒なんか盛ってない!!」 顔を真っ赤にして詰め寄るリナリーに、しかし、リンクは冷然とアレンの顔を指す。 「ウォーカーはさっきから、アジサイのように顔色が変わってますが?」 「ちょっ・・・僕を引き合いに出さないでくれますか?!」 真っ赤になって焦るアレンをちらりと見遣り、リンクは意地の悪い笑みを浮かべた。 「では、作成者の責任をもって味見してみるんですね、リナリー・リー」 アレンが咄嗟に引き寄せようとした皿を奪い取り、リンクはリナリーにケーキを差し出す。 「い・・・いいわよ・・・!」 決然とフォークを取り上げた彼女に、リンクは笑みを深めた。 「いいも何も、味見くらいはしなさい」 意地悪く鼻を鳴らすと、気の強い少女はムッと眉根を寄せ、フォークをつきたてる。 「・・・・・・カオス」 「ほら」 思い切って頬張った自作のケーキの、悪夢めいた味にリナリーが蒼褪めると、リンクが笑みを深めた。 「お礼を申し上げますよ、リナリー・リー。 君は図らずも、強情で生意気なウォーカーへお仕置きをしてくれましたからね」 「そっ・・・そんなつもりない! そんなつもりじゃなかったからね、アレン君!!」 涙目で訴えるリナリーに、アレンは苦笑して頷く。 「わかってますよ、リナリー。 次はきっと、上手にできます」 「アレン君・・・!」 莞爾として笑うアレンに感動するリナリーの隣で、 「そう言えば、カオスから生まれたのは化け物でしたね」 と、リンクが一人、納得して頷いた。 「・・・なんでリンクってばそう、余計なことばかり言うんですか」 「意地悪!!」 アレンだけでなく、リナリーも睨みつけるが、冷淡な監査官は二人を平然と見返す。 「そうですか。 あまりにも酷いケーキの口直しに、私がパウンドケーキでも焼いてやろうかと思ったのですが。 それほど言うなら二人仲良くカオスでもお食べなさい」 「・・・すみません、リンクさん」 「パウンドケーキ、食べたいです・・・」 揃ってうな垂れた二人に鼻を鳴らし、リンクは席を立った。 その背を見送った二人は、苦い顔を見合わせる。 「・・・・・・リンクのいばりんぼ」 「意地悪だわ!」 憤然と呟いて、リナリーは大失敗したケーキをテーブルの向こう側へと押しやった。 「でも、なんで今頃来たの? お茶の時間に来ないなんて不思議だね、って、ミランダと話してたんだよ?」 リナリーが問うた途端にアレンはしおれ、ラビに叱られて書庫の整理をしていたことを話す。 「あぁ・・・私も本を踏み台代わりにした時、ものすごく怒られたよ・・・。 いつも笑ってるラビが本気で怒るから、びっくりしたなぁ・・・」 その時の彼の剣幕を思い出したのか、ぶるりと震えたリナリーに、アレンも蒼褪めた顔で頷いた。 「知りませんでしたよ・・・ラビって、怒るんですね・・・・・・」 よくケンカはするものの、ラビが本気で怒ったことは一度もなく、アレンが一方的に怒って終わり、というパターンが多い。 ところが今回は本気で怒られてしまった、と、ショックを隠せないまま、もそもそとサンドウィッチをかじるアレンに、リナリーがくすりと笑みを漏らした。 「そう? 私、ラビが本気で怒ったところを見たの、その時だけじゃないけど」 「え?」 「アレン君を殺したと思ってたノアに遭った時、ラビ、ものすごく怒ってたよ?」 「・・・・・・っ」 サンドウィッチをくわえたまま、目を見開いたアレンに、リナリーは笑みを深める。 「今思えば、本を踏み台にした時以上の剣幕だったなぁ。 アレン君、大事に思われてるよ?」 くすくすと、軽やかな笑声をあげるリナリーの前で、アレンがみるみる赤くなっていく。 「そ・・・そんな、本と比べられても・・・・・・」 「おにーちゃんができて、嬉しいくせに 「う・・・・・・」 反駁を封じられて黙り込むアレンの前で、リナリーは両手を組み合わせた。 「やっぱりいいでしょ、兄弟がいるって 特に、おにーちゃんがいるって コムイの前では言わないくせに、彼がいないところでは、これでもかとブラコンを発揮するリナリーを否定することもできず、アレンは困惑げにうつむく。 「それで、仲直りはしたの?」 「・・・・・・・・・ううん」 俯いたまま、悄然と首を振るアレンに、リナリーは苦笑した。 「・・・本気で怒ったラビを見て、びっくりしちゃったんだね」 「神田やリンクみたいに、いつも怒ってる人が怒ったって、今更怖くはないんですけ・・・どわたっ!!」 「ほほぅ・・・よくもなめくさってこのクソガキが!」 ケーキを乗せた大きな皿をアレンの頭に押し付けたリンクが、冷酷な目で二人を見下ろす。 「リ・・・リンク監査官・・・!」 「ず・・・随分と早いんですね・・・!」 「どこかの手際の悪い小娘と一緒にしないで下さい」 つんっと、すましたリンクの態度と言い様に、リナリーの眉が跳ね上がった。 「・・・・・・ごめんなさいね、手際の悪い小娘で!」 せいぜい、嫌味ったらしく言ってやったが、リンクはあっさりと頷く。 「自覚があるなら反省して努力しなさい」 途端、椅子を蹴って立ち上がったリナリーを、アレンはすかさず止めた。 「落ち着いて、リナリー!!」 リナリーが振り上げたこぶしを掴み、必死になだめる。 「リンクなんか殴ったら、後で面倒なことになりますよ! やるなら、先に1発殴らせてからです!!」 「おい・・・」 「そしたら正当防衛ですから! なにをやっても正義は我にありですよ!!」 「この腹黒が!!」 リンクは怒鳴るや、アレンの襟首を掴んで猫の仔のようにぶら下げた。 「なにするんですかぁー!!」 「リナリー・リー。 ケーキが欲しけりゃ、さっさと自分の分を切り分けなさい。 このクソガキ連行して、仕事に戻ります」 「ふんっ!あなたの焼いたケーキなんていらないもんっ!!」 すねてそっぽを向いたリナリーに、リンクは鼻を鳴らし、ぶら下げたアレンを揺する。 「ではウォーカー。 君、両手があいてるのですから持ちなさい」 「サンドウィッチとお茶も!!」 「・・・・・・持てるだけ持てばいいでしょう」 呆れた、というよりは馬鹿にしたような口調で言うと、アレンはケーキとサンドウィッチの皿を両手に持ち、じっとティーポットを見つめた。 「お茶持って、リンク」 「・・・片手に君をぶら下げて、もう一方でポットを持てと?」 「できるでしょ?」 忌々しげなリンクに、アレンがいけしゃあしゃあと言い返すと、リンクはアレンの襟首を掴む手を離す。 「ならば自分で歩いてついてきなさい。 私に連れて行ってもらおうなどと、いけ図々しい!」 リンクはアレンの襟首から手を離すと、ケーキの皿を取り上げて、それをアレンの鼻先に寄せた。 「こーぃ来い来い」 「にゃあ」 焼きたての、いい匂いを発するケーキに誘われて、アレンがふらふらとついていく。 「・・・ハーメルンの笛吹き男?」 ケーキで見事にアレンを釣り上げたリンクが食堂を出て行くのを、リナリーは憮然と見送った。 その頃ラビは、騒がしい二人が消えた書庫室に未だ残っていた。 普段の彼からは想像もつかない几帳面さで本の修復を行っていると、 「火あぶりにはしなかったのか?」 と、皮肉めいた声がかかる。 「ん。 幸い、あいつらが破損した本はなかったかんね」 今修復しているのは以前から破損していた分、と、正確な記憶力を誇るラビはにこりと笑った。 「暇になったら修復しようと思ってたんさ。 ユウちゃんもやる?」 「遠慮する。 火あぶり見物に来て、自分が火あぶりにされたんじゃわりにあわねェ」 それより、と、神田は肩に担いでいた大きな袋を差し出す。 「今日は節分だ。 今年も豆まきやるから手伝え」 「・・・また、えらい量の大豆仕入れたもんさね」 袋の中にぎっしりと詰まった大豆に、ラビは苦笑した。 「今年は範囲決めてやろうぜ。 去年みたく、城中の掃除させられたんじゃたまんないさ」 「そうだな・・・」 前回の、清掃班班長の剣幕を思い出してか、神田も眉をひそめる。 「それか、あらかじめ班長に了解取っといて、鳥の餌にでもしてもらうさ? 別にソレ、全部撒く必要はねェんだろ?」 「あぁ。 二枡か三枡ありゃ、足りっだろ」 「じゃー、撒くのは自分の部屋とどこさ?」 「出入り口と庭と修練場、あと、あのうぜぇ親父にもぶつけて・・・」 「ししょーにもぶつけるっ!!」 唐突に悲鳴じみた声が湧いて、二人はドアを見遣った。 「神田! それ、鬼は外のおまじないですよね?! 悪霊退散するんですよね?! 師匠との悪縁切りたいんです、僕!!」 甲高い声をあげながら、普段は絶対に寄り付こうとしないアレンが、自ら神田に寄って行く。 「僕のサンドウィッチあげるからー!!お願い!!」 「いらねぇよっ!!」 アレンが涙目で押し付けてくるサンドウィッチの皿を押しのける神田に、ラビが笑った。 「ユウちゃん、アレンが自分の食い物分けるなんて、よっぽどのことさ。 仲間に入れてやれよー 「ありがとう、ラビ! さっきはごめんね。 これ、お詫びです。リンクに作らせました すかさずリンクからケーキの皿を取り上げ、そつなくラビに差し出すアレンに、リンクがこめかみを引きつらせる。 「なにが『作らせた』ですか!親切で『作ってやった』んでしょう!」 「はっ!親切の押し売りほど、迷惑なもんはねぇよ。違ぇか?」 嫌味と嘲弄を絶妙に配合した神田の口調に、さすがのリンクが鼻白んだ。 そのまま畳み掛けるように、神田は口の端を曲げる。 「きゃんきゃん喚いてんじゃねぇよ犬が。 あんまり無駄吠えしてっと、癇に障った奴にぶった斬られっぜ?」 刃のような目で睨まれ、とうとうリンクが言葉を失った。 「・・・さすがユウちゃん。脅しで右に出るもんはいねーさ」 「・・・今、一瞬だけ、神田に拍手したい気持です」 「すればいいさ。そんでちったぁ仲良くなれ」 「それは無理」 言下に否定するアレンに、ラビが肩をすくめる。 「せっかく、共通の敵がいんのにさ」 「・・・そっか。共通か」 ふと、アレンが目を見開いた。 「ねぇ、ラビ・・・」 アレンはラビの耳元に口を寄せると、ひそひそと囁く。 「鬱憤晴らし、しません? 君たち、イノセンスがなくて任務にも行けないし、城に閉じこもったままだとフラストレーションたまるでしょ?」 「今現在、めっさたまってる。 どっかのクソガキ共は本投げるし、城中に番犬があふれてるし」 「・・・・・・それはさっき、謝ったじゃないですか」 まだ怒ってるの・・・と、遠のきそうになる意識をなんとか引き止め、アレンは神田も手招いた。 「あ?」 目を吊り上げつつも寄って来た神田を交え、ひそひそと囁く。 「鬼退治しません? 師匠とか監査官とか師匠とか長官とか師匠とかコムイさんとか師匠に豆ぶつけて鬼は外」 「・・・師匠ってお前、4回も言ったさ」 「どんだけ恨んでんだ、てめぇは・・・」 そもそも、と、神田が眉根を寄せた。 「鬼退治っつっても、豆ぶつけたくれェで退治される元帥じゃねェだろ」 「いいじゃないですか・・・! せめて一矢・・・いや、一粒でも報いたいんですよ・・・!」 地獄から湧き上がってくるような、低い声音で呟き、アレンは恨みがましい上目遣いで神田を見上げる。 「神田こそ、あの優しい元帥に豆ぶつけようなんて、鬼畜のなす業ですよ!」 「ユウちゃん・・・それはさすがに俺も、豆撒きの意味から外れてっと思うさ・・・」 ラビにまで言われたが、神田は平然と鼻を鳴らした。 「いんだよ、別に。 うぜぇのは間違いねェ」 「酷い・・・・・・」 「親の心子知らずさ・・・」 先刻までの険悪さはどこへやら、すっかり仲を修復したアレンとラビが、揃って神田を非難する。 が、 「・・・やりたくねぇんなら別に、無理に勧めはしねェぜ?」 憮然と大豆の袋を取り上げた神田に、揃って取りすがった。 「マッテ!やるやる!!」 「先月からやる気だったんですから、僕!!」 「・・・ちっ」 二人によってたかられ、神田が舌打ちする。 「じゃあ今からやるか?」 その問いには、しかし、またもや二人揃って首を振った。 「リナ! あいつ入れねーと、100パー拗ねる!」 「今リナリーのご機嫌を損ねると、後々面倒ですって!」 「なんで・・・・・・」 問いかけて、神田は頷く。 「2月はイベントが多いからな・・・」 「おぉ!珍しく察しがいいさ、ユウちゃん!」 「じゃあ、早速リナリーと合流しましょう!」 張り切って声をあげたアレンの頭が、わしっと背後から掴まれた。 「・・・どこに行くと言うんですか、ウォーカー! さっきから三人でひそひそひそひそ、なにを企んでいるのかと思えば!」 「わぁぁんっ!! 放してリンク!痛い!痛い!!」 文官とは思えない彼の握力にアレンが悲鳴をあげるが、リンクは構わず引っ張って、無理やり席につかせる。 「どこにも行かせませんよ! 君はここで義務を果たしなさい!!」 「やだあぁぁぁぁぁぁ!!」 ぐいぐいと顔を書類に押し付けられるアレンの、甲高い悲鳴にうるさげに耳を塞ぎ、神田はすたすたとドアに向かった。 「合流できなきゃ、お前抜きでやるからな」 「えぇっ?!酷・・・!!」 抗議しようとしたアレンの傍らを、ラビまでが通り過ぎていく。 「じゃーな 「助けてくれないのっ?!」 アレンの涙声にはただ笑声を返し、ラビは神田に続いて出て行ってしまった。 「ふん・・・ようやく邪魔者が消えましたね。 さぁ、ウォーカー!観念しなさい!」 「やあぁぁぁっ!!」 リンクが押し付けてくるペンから、アレンは必死に逃げる。 が、 「刺しますよ・・・?」 殺気に満ちた顔でペン先を向けられ、アレンはしぶしぶ差し出されたそれを手に取った。 「えー・・・アレン君、置いてきちゃったの?」 通信ゴーレムで談話室に呼び出されたリナリーが、思わず非難がましい声をあげると、ラビは頷いてパウンドケーキの皿を差し出した。 「食う?リンクが焼いたって」 巡り巡って戻ってきたケーキを見下ろし、リナリーは眉根を寄せる。 「いらない」 「なに拗ねてんだ、てめぇは」 「リンク監査官が作ったものなんか食べたら、意地悪になるよ!」 ぷんっと、リナリーが頬を膨らませると、ラビが笑声をあげた。 「そりゃ大変さ! だったら、ユウちゃん食うさ? もう十分意地悪だから、これ以上悪くなることねぇさ 「・・・っるっせぇよ! てめェ一人で食って、ちったぁモヤシに対抗できるだけの根性見せてみろってんだ!」 「あー・・・あいつはなぁ・・・。 あんな顔して、ものっすごい腹黒いからなぁ・・・・・・」 ケーキ程度じゃ無理、と、苦笑して手を振るラビに、リナリーがきょとん、と、目を丸くする。 「アレン君が腹黒い? あんなにいじめられて、泣かされてるのに?」 純粋な目で問われ、ラビだけでなく神田も、呆気に取られるあまり、長い間言葉を失った。 「? 私、何か変なこと言った?」 あまりにも長い沈黙に耐えかねて、リナリーが困惑げに眉をひそめるが、二人とも口を開きかけてはまた閉じる。 「・・・・・・・・・あれ?」 これはまずいことを聞いたかもしれない、と、引きつった笑みを浮かべて首を傾げたリナリーに、ようやく我に返った二人は、わざとらしく話を変えた。 「あー・・・ユウちゃん。 やっぱ、ティエのおっさんに豆ぶつけるのは意味違うと思うからさ、去年みたく、ゲームしねェ?」 「あ・・・? あぁ・・・・・・別にいいぜ」 ラビの提案に、神田は呆然としてしまったことをごまかすかのように、殊更不機嫌そうな声で言う。 「どうするの?」 これ以上追求していけないらしいと、いち早く察したリナリーもあえて乗ると、ラビはほっとしたように笑った。 「今年はもう、鬼は決まってんじゃん?」 「クロス元帥とオヤジ、コムイと監査官共だな」 「えぇー・・・?ティエドール元帥と兄さんは違うんじゃない?」 リナリーにまで言われ、神田が憮然と黙り込む。 「リナ、それはもう置いといてさ」 にこりと笑って、ラビが指を立てた。 「この中で一番の強敵は誰だと思うさ?」 「それはもちろん・・・」 「クロス元帥だな」 困惑げなリナリーの言を引き継いだ神田に、ラビは大きく頷く。 「だからさ、2チームに分かれて、得点を競うのって、どうさ?」 「得点・・・? あっそうか! 元帥達と監査官達にそれぞれ点数つけて、豆を当てて得点するんだね?!」 「そ 番犬共が5点、リンク10点、長官が20点で、コムイも20点でいいよな。 ティエのおっさんは・・・うーん・・・遊んでくれそうだから、30点でいいか。 クロス元帥は50点な。ぜってぇむずかしーから」 「・・・俺らは決死の覚悟で行った方がいいだろうな。 だが、リナリーは・・・」 「はいっ!私、アレン君と組む!!」 神田の言葉を遮って挙手したリナリーが、きっぱりと言い放った。 「コォラ! 勝手に決めんじゃねェさ! クロス元帥対策のためにも、お前と組んだら有利なんだからさ!」 が、リナリーはラビに対して決然と首を振る。 「だって! アレン君と組もうと思ったらまず、リンク監査官を倒さなきゃならないんでしょ?! 私、彼を倒してアレン姫を奪取するわ!!」 「・・・第一目的はリンク打倒とモヤシ姫救出、どっちだ?」 「同時完遂よ!!」 神田の問いにきっぱりと答え、リナリーはこぶしを握った。 「私の作ったケーキに『カオス』なんて名づけた上に、『手際の悪い小娘』なんて言ってくれたお礼は、きっちりしなきゃね!!」 呪いを込めて、リンクのパウンドケーキを睨みつけるリナリーに、神田が吐息を漏らす。 「はっ!個人的な恨みかよ!」 「人のこと言えるの、神田?!」 途端に黙り込んだ神田に、リナリーは鼻を鳴らした。 「負けないよっ!」 誰に対してか、もしくは、誰もに対してか、再びこぶしを握ったリナリーに苦笑して、ラビはパウンドケーキを頬張る。 「あ、やっぱうまいさー 感嘆の声をあげた途端、リナリーに睨まれ、ラビは慌ててケーキを飲み込んだ。 「無制限にやったら終わんねぇから、一人一枡ずつな」 と、分けてもらった大豆を二袋持って、リナリーは書庫室へ走って行った。 手には、昨年のゲームで使った銃がある。 本物の銃を改造して作ったそれは随分と重いが、その分、大豆の弾でも風船を割れるくらいの威力はあった。 書庫室のドアからそっと中の様子を伺ったリナリーは、リンクとアレンがこちらに背を向けている様に、にんまりと笑う。 そっと、射程距離まで忍び寄り、 「覚悟!!」 鋭く叫んで、リンクの背に数発撃ち込んだ。 「いっ?! なんだ?!」 「逃げるよ、アレン君!」 既に踵を返したリナリーの呼びかけに、アレンは椅子を蹴って立ち上がり、無駄のない動きでドアまで走る。 「待て!!」 アレンを追いかけようと、すかさず振り返ったリンクは、 「鬼は外ー!」 の声と共に襲い掛かる豆の波状攻撃に足を止められた。 「・・・っなんのつもりだ、クソガキィィィィィ!!!!」 「あはははははははははっ!!」 アレンは弾けるような笑声をあげ、リナリーから受け取った袋を掲げて見せる。 「節分だよー 「っんだそれは!!」 「悪霊退散のおまじない 鬼は外ー 楽しげに笑いながら、リンクへ豆をぶつけるアレンを、リナリーが制した。 「アレン君、あんまりリンク監査官ばっかりに使うと、手持ちの分がなくなるよ?」 「あ、そうか。 師匠の分も、残しておかなきゃですね!」 晴れやかに笑ったアレンに、リナリーが頷く。 「そうそう、だから・・・ 笑って、リナリーはリンクへ銃口を向けた。 「サヨナラ アレン以上の恨みがこもった弾丸を何発も撃ち込まれたリンクは、腕で身をかばいつつもリナリーを睨みつける。 「このようなことをして、ただで済むと・・・!」 「思ってるよ にこりと目を細め、容赦なく撃ち続けるリナリーの弾を避ける内に、いつの間にかリンクはデスクにまで追い詰められていた。 「埋もれちゃえ 目を狙われ、反射的に避けた先には、リンク自身が積み上げた質問状の塔が・・・。 「どわあぁぁぁぁぁっ!!」 体当たりを受け、一気に雪崩れて来た書類に、リンクは埋もれてしまった。 「あはははははははははは! いい気味ー 日頃のフラストレーションを晴らしたリナリーが、晴れ晴れとした笑声をあげる。 「アレン君、行こ!」 彼女の隣で豆の入った袋を抱え、にこにこと笑いつつ、もがくリンクを眺めていたアレンに声をかけると、彼は大きく頷いてついて来た。 「ところでリナリー、これ、どういうルールなんですか?」 アレンに問われ、リナリーがにこりと微笑む。 「二手に分かれて、点の取り合いだよ 私とアレン君がペアだからね!」 「えへ 嬉しそうに笑ったアレンに、リナリーも照れ笑いを浮かべると、早足で次の標的に向かいつつ、ルールの説明を続けた。 「清掃班班長には話をつけたから、エリアの制限はなし。だけど、制限時間は1時間だよ。 そして、豆をぶつけた人によって、得点できる点数が違うの。リンク監査官は10点だね」 「えー・・・彼に何発ぶつけたかなんて僕、覚えてませんよ?リナリー、覚えてますか?」 途端に眉をひそめたアレンに、リナリーが首を振る。 「そんなの覚えられるの、ラビだけだよ。 1個ずつ数えてたら絶対間違えちゃうから、何個ぶつけても1人1得点なの。 問題は、ちゃんとぶつけたか。 今、リンク監査官には二人ともぶつけたから、20得点だね!」 「しっかりぶつけてやりましたからね!」 くすくすと思い出し笑いをするアレンに釣られ、リナリーも楽しげな笑声をあげた。 「監査官達、今日は可哀想だよ・・・ もう一方のペアであるラビと神田は、まず科学班に寄り、城内に散らばる監査官達の居場所をモニターでチェックしてから動き出した。 「どーせ、クロス元帥はリナがチェックしちまうんさ。 だったら一人当たりの点数は低くても、確実に仕留められる奴らから仕留めてこーぜ!」 気合を込めてこぶしを握るラビの傍らで、しかし、神田は不満げに舌打ちする。 「ちっ・・・! なんでこんな、しみったれたこと・・・」 「いいじゃん! お前だって、アレンにゃ負けたくねーだろ?」 「あんのクソモヤシに俺が負けるだと?!」 「ユウちゃん、落ち着いてさ」 激昂する神田を手を上げて制し、ラビは人差し指を立てた。 「あいつらの性格からして、地道に点を稼ぐよりは、自分達の鬱憤晴らしと大量得点獲得を優先するに決まってるさ! リンクならそれも行けっかもしんねェけど、クロス元帥はそう簡単に行くわけねェって!」 「確かに・・・モヤシは返り討ちだろうな」 ラビの説明に、神田は深く頷く。 「そ。 リナはおまけで得点できたとしても、アレンが元帥をゲットできるとは思えねェから、リンクと元帥に的を絞った場合、得られる点数は70点。 それに長官とコムイが加わったとしても、最高で150点さ。 それ以上はナッシン♪」 「それに対して、俺らはオヤジ狙いで60点。 ついでにリンクと長官、コムイもやれば160点・・・その時点でもう、勝ちは確実だが、番犬共も地道にやって、確定させる手か」 「そうそう よくできましたっ 「撫でるなっ!!」 ラビの手を邪険に払いのけ、神田は豆の詰まった袋を掲げた。 「・・・なんだか妙な祭りになっちまってるが、まぁいいか」 「おう せっかくだから、楽しくやるさ ラビも、笑って袋の中へ手を入れる。 豆を一掴み握りこむと、二人して執務室のドアを蹴り開けた。 「コームイ 「ルベリエ長官・・・」 「ほえっ?!」 「なっ・・・なにかね?!」 驚く大人達に、二人はにやりと笑う。 「鬼は外っ!!」 「わぁぁぁぁぁっ?!」 「なにをするか――――!!」 突然の攻撃に逃げ惑うコムイと長官とに、二人は容赦なく豆をぶつけた。 「80点ゲット♪」 「おう」 楽しげに言って、軽くこぶしを打ち合わせた二人は、何の説明もなしに執務室を出て行く。 「な・・・・・・」 「なんだったのだ・・・・・・!」 後に残されたコムイとルベリエはただ呆然と、闖入者達を見送った。 「あのー・・・班長・・・。 あいつらがまたなんか、妙な遊び始めたみたいっすよ・・・・・・」 部下の呼びかけを、しかし、リーバーは必死に無視した。 「はんちょ・・・」 「うるさい。黙れ。俺は何も聞きたくない・・・・・・」 「でも・・・・・・」 不安げな声と共に、城内の様子を映すモニターを示す部下にもモニターにも背を向け、リーバーは疲労に落ち窪んだ目を手元へ向ける。 「鳥はいいなぁ・・・・・・。 誰にも邪魔されずに、自由に空を飛べて。 魚になるのもいいかもしれない・・・・・・。 海流に乗って、大きな海をどこまでもどこまでもどこまでも・・・・・・」 ぶつぶつと、現実逃避の呪文を呟き始めたリーバーに、もはや誰もが声をかける勇気を失くし、それぞれがモニターに背を向けて、それぞれの仕事に没頭した。 科学班にさじを投げられたとは知らず、アレンとリナリーは勢い良く執務室のドアを開けた。 「兄さーん 「長官 はっとしてドアを見遣った二人は、満面に笑みを浮かべた子供達が、またしても豆を投げつけてくる様をうんざりと見つめる。 「鬼は外っ・・・あれ?!」 透明な何かにぶつかって跳ね返ってきた豆を浴び、アレンとリナリーが目を丸くした。 「なにこれっ?!」 「ガラス?!」 ドアの前に立ち塞がるそれをバンバンと叩く子供らに、コムイは深々と吐息する。 「同じ手を二度も食うほどバカじゃないんだよ、ボク達は」 「ラビと神田の両名が来た時点で、君達も来るだろうと踏んでね。 ガラスボードを設置させてもらったよ」 言ってから、すっくと立ち上がった二人に、アレンとリナリーはびくっと震えて後ずさった。 「ナニやってんのか知らないけどぉ・・・」 「いたずらっ子には、礼儀を教えてやるべきだと思わないかね?」 怖い顔をして迫ってくる二人に、子供達は悲鳴をあげて逃げていく。 「待ちたまえ・・・っ!!」 追いかけようとしたルベリエを、しかし、コムイが止めた。 「なんのゲームか知りませんけど、今はここを出ない方がいいですよ」 「なぜだね?」 眉をひそめる彼に、コムイは意地悪く笑う。 「ラビ達が、『80点ゲット』って言ってたでしょ? つまり、ボク達に豆をぶつけたら80点・・・みすみす、点数あげることないじゃないですか」 「ふむ・・・」 「お仕置きは、彼らのゲームが終わった後ですよ」 にんまりと笑みを深めたコムイに、ルベリエも渋い顔で頷いた。 「先取されてたなんて!!」 回廊を逃げながら、悔しそうに呟いたリナリーの隣で、アレンも頷く。 「これ、情報が先回りすると厄介ですね・・・! リンクはもう、僕達がぶつけちゃったから、神田達からはうまく逃げると思いますけど・・・」 「兄さんと長官とで、80点取られちゃったのはまずいよ・・・! あの二人、ティエドール元帥も狙うらしいし・・・」 「ティエドール元帥が『鬼』に入ってるんですか?!酷い!!」 目を丸くするアレンに、リナリーが渋い顔をした。 「そうなんだよねぇ・・・。 点を取るためとはいえ、ティエドール元帥にぶつけるのは酷いよねぇ・・・」 「ちょっと・・・できませんね・・・・・・」 いたずら好きなラビと冷酷な神田ならともかく、一応『いい子』で通っている二人にとって、人畜無害そうなかの元帥を『鬼』と呼ぶのははばかられる。 「じゃあ・・・本気で鬼退治に行きましょうか!!」 「クロス元帥だね・・・!」 決然とこぶしを握り、二人はこの城に巣食うラスボスの元へと走って行った。 「やっぱ、不意打ちが一番さね 突然の意味不明な攻撃に逃げ去った監査官達を見送り、ラビがにやりと笑う。 「・・・ってことは、リンクには逃げられる可能性が高ェな」 神田の呟きに、ラビは笑声をあげた。 「捨てるさ、20点くらい。 コムイと長官をさっさとゲットして80点、犬共追いかけてもう、俺ら40点ゲットしてる。 後はティエのおっさんをゲットしちまえば、プラス60点で合計180点。 俺らの勝ちさ♪」 ラビの楽天的な予測に、神田は吐息する。 「コムイと長官が、うまく避けてくれればいいけどな」 「避けっさ、あの二人なら。 だから、一番に狙ったんじゃん したたか過ぎるほどしたたかなあの二人が、同じ手を食うはずがないと断言するラビに、神田も頷いた。 「確かにな。 それに、イイ子ぶった奴らが、あのオヤジに豆をぶつけるとも思えない」 「お じゃあ、そろそろ行くさ?」 既に残り少なくなった袋の中身を見ながらラビが問うと、神田はにやりと口の端を曲げて頷く。 「あのオヤジがどんな顔するか楽しみだぜ・・・!」 「・・・ユウちゃん、めっさ凶悪な顔してっさ」 びく、と、怯えたラビに、凶悪な笑みは更に深まった。 「驚いて逃げ惑うがいいぜ!!」 「・・・あの暢気そうなおっさんが、逃げ惑うかなぁ」 それは疑わしい、と言うや、神田の投げた豆が、すさまじい勢いでラビの傍らをすり抜ける。 「ひぃっ?!なにするか?!」 いきなり豆をぶつけられて驚いた監査官が抗議の声をあげるが、神田にひと睨みされ、悲鳴をあげて逃げて行った。 「俺は、あんな反応が見てェんだよ」 「・・・お前みてェな弟子、ぜってぇ欲しくねぇ・・・・・・」 真っ青になって震えるラビに鼻を鳴らし、神田は踵を返す。 「オラ、行くぜ! あのオヤジ、今なら部屋で絵を描いてやがる」 「・・・・・・キライだって言ってる割には、居場所は把握してんさね」 ラビがやや感心したように言うと、神田はまた、鼻を鳴らした。 「アホか。 このためにゴーレムの回線開きっぱなしにして、居所を監視しといたんだ。 じゃなきゃあんな鉄砲玉オヤジ、どこにいるか知ったことかよ」 「さいですか・・・」 少しでも情を期待した俺がバカだったと、虚しく呟きつつ、ラビは足早に進む神田に従い、ティエドール元帥の部屋がある階に至る。 ドアを開けて絵を描いているのか、廊下の端にいてもわかる絵の具の匂いに、神田は口の端を曲げて足音を忍ばせた。 「ユウちゃん!殺気でてる、殺気!」 「うるさい!」 ひそひそと囁き交わしつつ、ドアの脇に忍び寄れば、中から機嫌のいい声が聞こえてくる。 「ウン、いい子だね。そのままそのまま。 とっても美人だよー」 他にモデルがいるのか、穏やかな呼びかけを聞いて、そっと中を伺えば、目当ての元帥はドアに背中を向けて座っていた。 「今だ!!」 「おっさん、ごめんさ!!」 二人同時に投げつけた豆は、しかし、素早く向き直ったティエドールのパレットに阻まれる。 「ちっ!」 「さすがの反射神経さ!」 だが、リナリーに次ぐ俊足を誇る神田が素早く回りこみ、再び豆を投擲(とうてき)した。 「もう・・・いきなりなんなんだい、ユーくんは・・・」 吐息混じりに豆を打ち返すと、その隙を狙ってラビの攻撃が来る。 「ラビたんまで・・・なんの遊びだい?」 椅子から立ち上がりもせずに、あっさりと攻撃をかわしたティエドールの問いに、神田が苛立たしげに答えた。 「節分です!」 「避けないでさ、おっさん 「節分?」 意外な答えに、ティエドールが首を傾げる。 「それってこんな、激しいお祭りだったかな?」 「地域によっては!」 「ここじゃ特別さ♪」 「なるほど・・・ところでね、君たち」 二人の攻撃をかわしつつ、頷いたティエドールは、絵の具で汚れた床を示した。 「ちゃんと足元見ないと、危ないよ?」 「え?!」 言われた時にはもう遅い。 蹴散らされたペインティングオイルや洗浄油に足を取られ、二人は折り重なって倒れた。 「なんさこれ・・・っ?!」 油にまみれたラビの傍らを黒い影がよぎって、ティエドールの腕の中に納まる。 「全く・・・君らがこの子を脅かすから、びっくりして蹴散らしちゃったんだよ。 よしよし、悪いお兄ちゃん達だね」 震えながらも、牙を剥いて神田とラビを威嚇する黒猫を、ティエドールは愛情深く撫でてやった。 「さぁて・・・私の部屋を、油まみれにしてくれた責任はあとで取ってもらうとして」 にこりと穏やかに笑い、ティエドールは床に転がった筆を取る。 「失敗した印は、つけておかないとね くるくると筆を回して、ティエドールは神田とラビの顔に、黒い絵の具で落書きしてやった。 「それ、油絵の具だから、しばらく落ちないよ くすくすと機嫌よく笑うティエドールの仕置きに、猫も溜飲が下がったのか、長い満足げな鳴き声をあげる。 「ちっくしょ・・・!!」 「ちったぁ手加減してくれてもいいだろ・・・!」 祭りなんだから、と、抗議するラビに、ティエドールはとうとう笑声をあげた。 「それはユーくんの殺気を消してから言うことだね!」 大きな手で愛情深く撫でられ、神田の目つきがより剣呑さを増す。 が、 「お祭りが終わったら、君たちがめちゃくちゃにした私の部屋を、掃除しておくれね 暢気な口調でありながら、絶対に反抗を許さない迫力で迫られた二人は、気を呑まれて頷いた。 同じ頃、クロス元帥の部屋がある階に至ったアレンとリナリーは、廊下の端にいてさえ漂ってくる酒の匂いで、酔っ払いそうになっていた。 「すごい匂い・・・! 一体、どれだけ開ければこれほど匂うようになるの?」 目に染みるアルコール濃度に、リナリーが盛んに目を瞬かせる。 「だから言ったでしょ・・・すごいんですよ、師匠の酒量・・・!」 むせ返りつつ言うアレンの顔色は、既に土気色だった。 アルコールの影響に加え、クロスによってもたらされた様々なトラウマがフラッシュバックし、彼の心身を苛んでいるのだろう。 リナリーは気の毒そうな顔でアレンを見ると、ぽんぽんと背中を叩いてやった。 「大丈夫! 作戦通りにやれば、きっとうまく行くよ!」 「はい・・・ここで確実に100点取りましょう!」 決然と頷いたアレンは、恐怖に強張る足を叱咤して歩を進める。 そのままそろそろとドアの開け放たれた部屋に近づいた二人は、そっと中を伺った。 と、案の定、傍若無人な師は監査官達を給仕代わりに、傍若無人な振る舞いを繰り広げている。 が、相当酒が入っているのか、彼の隣にはべっているのはクラウド元帥ではなく、人間ほどに大きくなった彼女の猿だった・・・。 唖然と目を丸くする二人の前で、しかし、泥酔したクロスは猿を抱きしめ、撫で回している。 「クラウドぉ〜 「ゥキッ!」 「そんなに冷たいこと言うなよ〜 「キィッ!!」 「・・・・・・言葉、通じてるの?」 「・・・・・・師匠は人外ですから」 明らかに嫌がっている様子の猿に対し、執拗にセクハラする師の姿に、アレンは目頭を熱くした。 「あは・・・じゃあ私、行くね!」 「触られた所は、後で必ず消毒してくださいね!」 握ったこぶしを打ち合わせると、まずはリナリー一人が部屋に入る。 「クロス元帥 「おぉ 両手を広げて大歓迎するクロスの膝に両手を乗せ、リナリーは彼の足元に座り込んだ。 「元帥 リナリー、お願いがあるの 清純だが、強烈な色気をかもし出す上目遣いで見つめられては、落ちない男がいるはずもない。 「なんでも聞いてやるぜ 軽々と抱き上げられ、抱きしめられたリナリーは、悲鳴をあげそうになるのをこらえ、クロスの耳元に囁いた。 「今ね、アレン君と組んで、ゲームしてるんです リナリー、どうしても神田とラビに勝ちたいの 「へぇ・・・それで、俺にどうして欲しいんだ?」 「ひゃっ?!」 蠱惑的な声で囁かれたかと思うと、いきなり視界が変わる。 「ク・・・クロス元帥・・・!!あのっ・・・!!」 ソファに押し倒された、と気づいた時には、もう眼前にクロスの顔が迫っていた。 「ヤダッ・・・!!待ってください、元帥!!」 首まで真っ赤になって抵抗するが、酔っ払いの暴走は止まらない。 「勝ちてぇんだろ? キスしてくれたら、お前を勝たせてやるぜ?」 「きっ・・・?! やだっ・・・やだぁぁぁぁっ!!助けてぇぇぇぇっ!!」 「この破戒僧――――っ!!!!」 リナリーの悲鳴を受けるや、アレンが絶叫と共に部屋へ飛び込んだ。 「離れてくださいこの鬼畜!!」 「クソガキ」 甲高い声をあげてアレンが投げつけた豆は、正確無比の銃弾に全て落とされる。 更には、流れ弾を装った弾丸が頬をかすめ、アレンは髪色以上に顔を白くした。 「リナリーを囮にして、勝ちを得ようってか? 俺はお前をそんな風に育てた覚えはねぇぞ?」 「育てられた覚えもないですよこの外道っ!!」 真っ青になって震えながらも、裏返った声で反駁するアレンに、クロスの口の端が歪む。 「言うようになったじゃねェか、馬鹿弟子。 一人で一人前になったようなツラしやがって」 断罪者の銃口がアレンに向かい、その額に狙点が定められた。 「逝け」 「ちょっ・・・だめぇぇぇっ!!」 撃鉄を下ろそうとしたクロスの腕にリナリーが縋り、必死に止める。 「ごごごっ・・・ごめんなさい、元帥っ!! 悪気はなかったの!!許してください!!」 慌てて謝るリナリーに、しかし、アレンは土気色になった顔を気丈にあげ、頬に滲む血をぬぐった。 「君が謝ることなんてありませんよ、リナリー!! この色情狂の犯罪者! とっとと監獄にでも入ってください!! ってか!!」 怒りに満ちた目で睨まれ、給仕のように控えていた監査官達がびくりと飛び上がる。 「レディの危機に、なにボーっと突っ立ってんですかあなた達!! さっさとこの性犯罪者を地下牢にぶち込みなさい!!」 「をい・・・」 「お猿さんもっ!!」 「キィッ?!」 クロスの声を無視して、アレンはクラウドの猿を指差した。 「クラウド元帥の代わりに座ってんなら、乙女の危機に対処しなくてどうするんですかっ!! 蹴りの一つでも入れてくださいよっ!!」 「サル?! うぉっ?!いつの間に?!」 「・・・・・・気づいてなかったんだ」 驚いて身を引いたクロスに、部屋中から哀れみの目が注がれる。 「師匠・・・。 もう男として・・・いや、人間としてダメですね・・・」 弟子の痛烈な皮肉に、さすがのクロスもダメージを受けざるを得なかった。 途端、自分の役割を思い出したらしいサルのこぶしを頭に受け、はかなく倒れる。 「きゃあああああっ!!」 覆いかぶさってきたクロスを慌てて払いのけ、彼の下から抜け出したリナリーが、震えながらアレンに縋った。 「こっ・・・怖かったよぉぉぉぉっ!!!!」 「酷い目に遭いましたね・・・! まさか監査官達がいる前で、あんなことされるなんて思いもよりませんでしたよねっ!!」 リナリーを抱きしめ、背中を撫でてやりながら監査官達を睨みまわすと、彼らは気まずげに目を逸らす。 「さっさとその破戒僧、地下牢に監禁してください! あぁ、その前に!!」 激昂覚めやらぬまま、アレンは両脇を監査官達に抱えられた師に、豆をぶつけた。 「今年こそ、師匠との悪縁が絶たれますように!!出てけ、鬼!!」 「元帥なんてキライだっ!!」 リナリーも、まだ顔を真っ赤にしたまま豆をぶつけ、それは監査官達をも襲う。 悲鳴をあげつつ出て行った彼らを憤然と見送り、アレンは指折り数えた。 「・・・師匠と監査官4人だから、二人で140点。リンクのも合わせて、今160点ですね」 「ラビ達、今何点くらいかな・・・」 「聞いてみます?」 ルール違反ではないはずだ、と言うと、リナリーも頷いてゴーレムを取り出す。 「ラビ?リナリーだよ。 今、何点取ってる?」 と、なぜか不機嫌そうな声が、『125点』と答えた。 「そ じゃあ、がんばってね ゴーレムに向かってにっこりと笑うと、リナリーは一方的に通信を切る。 「ティエドール元帥は、失敗したみたいだよ 「ですね 既に彼らが80点先取している以上、ティエドールを仕留めていれば140点は超えているはずだ。 それがこの時点で125点と言うことは、失敗したと考えるのが妥当だろう。 「どうする?守る?」 「攻撃は最大の防御だって、どっかの武将が言ったそうですよ」 アレンの答えに、リナリーが笑みを深めた。 「だね じゃあ、監査官狩りしよう!!」 「はいっ!!」 節分の意味とはとっくに離れて・・・。 無慈悲な子供達は、憐れな鬼を捜し求めて城内を駆け回った。 「・・・っ切りやがった! おい、ヤバイさ、ユウ! あいつらぜってぇ、クロス元帥ゲットしてんさ!!」 忌々しげに通信ゴーレムを睨むラビの傍らで、神田も忌々しげに舌打ちした。 「オヤジをやれなかったのはまずかったか・・・。 で?あいつらは今、何点持ってんだ?」 「リナの奴・・・言わずに切りやがったさ! けど、あの口調からして、俺ら以上の点を取ってんのは確かさね・・・!」 そう言うラビの目が、真剣な光を帯びる。 「ユウ。 遊びは終わりさ。ぜってぇ勝つぜ」 「・・・・・・遊びだろ」 思わず呆れ声を出した途端、ラビの眼光は鋭さを増した。 「ガキどもに・・・いや、アレンに負けてもいいんさ?」 「誰が!!」 思わず声を荒げた神田に、ラビは笑みもせず頷く。 「そうだろ。 俺達はぜってぇ負けねェ。 なんとしても勝つさ!」 「おう!」 神田の眼光も鋭さを増し、二人はこぶしを打ち合わせて頷きあった。 「ねえ・・・監査官達、どこにいっちゃったのかな?」 リナリーが困惑げに問うと、アレンも不思議そうに首を傾げた。 「長官と一緒に何人も来ていたはずなのに、おかしいですねぇ・・・」 クロスを倒して以後、二人は城中を走り回っているが、的となるべき監査官とは全く行き会わない。 「神田たちにぶつけられて、逃げ回ってるのかな」 「それならそれで、逃げてるところに行き会いそうなものですけど・・・あーっ アレンが歓声と共に指差した方向を見遣れば、二人連れの監査官が回廊の先を横切って行くところだった。 「奇襲です!!」 「おっけ 回廊を一気に駆け抜けた二人は、しかし、そこにいるはずの監査官達の姿を見失って、目を丸くする。 「あれ・・・?」 「どこ行っちゃったのかな・・・?」 辺りをきょろきょろと見回すが、暗い回廊のどこにもその姿はなかった。 「僕たちが追いかけてきたの、バレちゃいましたかね」 「逃げられちゃったのか・・・ちぇっ」 ぷぅ、と、頬を膨らませて、リナリーが歩き出す。 「仕方ないよ。他を探そ?」 「はい」 早足に過ぎていく足音をドア越しに聞くや、神田とラビは、身動きを封じると共に口を塞いでいた監査官達を放してやった。 「なっ・・・!!」 「なにをするかっ!!」 激しく息を継ぎながら抗議をする彼らにしかし、二人は答えもせずに豆をぶつける。 「なんのつもりだ!!」 「お前達、我らにこんなことをしてただで済むと・・・!!」 「祭りだ。かてェこと言うなよ」 刃のように冷酷な目で睨まれた監査官達は、『祭りとはもっと楽しげにやるものじゃないのか』という反駁すら封じられ、パクパクと口を開閉させた。 「おっし。これで20点ゲチュしたさ。 でも、あんたらがアレン達に見つかったら困るんでね、ちょーっと隠れといてくれるさ?」 にっこりと笑ったラビの顔が、無性に怖い。 一旦は解放されたと思った監査官達は、問答無用で縛り上げられ、猿ぐつわをかまされて床に転がされた。 「すまんな。これも俺達の勝利のためだ」 「むぐー!!ふぐー!!」 「ごふー!!ごふー!!」 激しく抗議の声をあげる彼らに、冷酷な二人は揃って足を上げる。 「気絶したくなかったら・・・」 「自主的におとなしくしてるさ。なぁ?」 床に伏せた顔の横に、二人の踵が激しく叩きつけられ、監査官達は真っ青な顔で必死に頷いた。 「心配しなくても、祭りが終わったら出してやんよ」 「恵方巻食わせてやっからね 楽しげな・・・だが、異様に温度の低い声を残し、非情なエクソシスト達は素早く部屋を出て行く。 「他の奴らは?」 「ん・・・俺達が最初に豆をぶつけたやつらも含めて、さっきので6人拉致監禁したから、残りはクロス元帥についてる4人とリンクだけさ。 アレン達はもう、リンクとクロス元帥の監査官達にゃぶつけたろうから、これでやつらは得点になる犬共を見つけることもできゃしねーよ 嬉々として語るラビを、神田はうそ寒げに見た。 「・・・っとにテメェは、勝ちにこだわり始めると容赦ねぇな」 「ふふん♪ ガキ共に、おにーちゃん達の実力を見せてやろうぜぇ 楽しげに笑って、ラビはまた、科学班への道を行く。 「残りの監査官を探すのか?」 「ん それと、クロス元帥もさ。 リナリーだけならともかく、アレンも得点できたってことは、なんかあったと思うんさ」 「そうだな・・・いくら遊びとは言え、あの人が弟子に得点させてやるとは思えねェ」 「だろ? だから・・・さ くすくすと、すっかり機嫌の直った様子で、ラビが笑声をあげた。 「この隙を突いて、俺らも得点させてもらおーぜぇ 既に外も日が暮れたとはいえ、元々日の射さない地下道は更に暗く、その奥にある地下牢には湿気がこもって、とても快適な場所とは言えない。 不気味な雰囲気のそこを、ラビと神田はランタンを掲げ、足早に進んだ。 と、最奥の牢へ至る手前から、徐々に明かりが増えはじめ、目的の牢に着いた頃には暗さも湿気も、すっかり取り払われていた。 「おぉい?誰かいるさー?」 呼びかけると、格子の向こう側で、機敏に立ち上がる者達がいる。 「なにか?」 緊張気味な声は、監査官のものだ。 ラビと神田はにやりと笑みを交わし、格子の前に駆け寄った。 「節分さ!」 「覚悟!!」 一斉にばら撒かれた豆に、狭い牢内で監査官達が逃げ惑う。 「よっしゃ!40点ゲーット!」 「テメェら、どけ!!」 突然の攻撃に混乱する監査官達が守るベッドで、暢気に眠りこけているクロスを見出した二人は、入り乱れる彼らの隙間を縫って豆を投げつけた。 が、 「・・・クソガキ共が」 目にも止まらぬ早撃ちで、全ての豆を撃ち落された挙句、跳弾が二人の身体を掠める。 「ひっ?!」 「寝てたんじゃねぇのかよ・・・っ!」 飛び退った場所に、更に銃弾を撃ち込まれ、ラビの紅い髪と神田の黒髪が数本、宙に舞った。 「人の安眠邪魔しやがって悪ガキ共・・・!死ねや!」 「きゃあああ!!!!」 怒りの形相と共に銃口を向けられ、ラビが悲鳴をあげて逃げ出す。 その足元を、また銃弾が掠めた。 「また失敗か・・・」 俊足でラビを追い越した神田が、忌々しげに舌打ちする。 「元帥二人とも取り逃がしたさ・・・でもっ!!」 頬を掠めた弾丸に声を引きつらせ、ラビは更に逃げる足を速めた。 「命あっての物種さね!!」 「ちげぇねェ・・・!」 頬に滲んだ血を拭いつつ、さすがの神田も同意する。 「僅差でも、勝てばいいんさ、勝てば!」 「おう・・・!リンクは確実に仕留めるぜ!」 あまたの銃弾にさらされながら、二人は黄泉路に似た地下道を振り返りもせず、なんとか地上へと逃げ切った。 「もうすぐ1時間経っちゃうよっ!なんで見つかんないのっ!!」 とうとうヒステリックな声をあげたリナリーの傍らで、アレンは眉をひそめた。 「こんなに探しているのに見つからないなんて、変ですよね・・・どこに隠れちゃったのかな?」 「・・・アレン君、今なんて言った?」 足を止め、彼に向き直ったリナリーに、アレンは首を傾げる。 「だから、お城中探してるのに・・・」 「違う!その後!!」 「えっと・・・どこに隠れちゃった・・・かな?」 「それよ!!」 「へ?」 両肩を掴んで迫られたアレンが、不思議そうな顔をした。 「なんで隠れる必要があるの?! そりゃ、神田達が鬼気迫る顔で豆をぶつけちゃったら、その時はびっくりするし、怖いだろうけど、イヤなら兄さん達みたいに防げばいいことじゃない! わざわざ隠れる必要なんてないよね?!」 「あぁ・・・そう言えばコムイさん達、怯えるって言うよりむしろ『またか』って、うんざりした顔してましたもんね」 アレンが頷くと、彼以上の勢いでリナリーが頷く。 「ラビ達の陰謀だよ・・・! きっとあの二人が、監査官達を拉致監禁したんだよ!」 「えぇっ?!まさかそこまで・・・・・・するかも・・・・・・」 唐突に納得したアレンに、リナリーがこぶしを握った。 「捜索方法を変えるよ、アレン君!! 監査官が拉致されてる部屋を探すの!! 「えぅっ?!城中ですかっ?!」 「当たり前でしょ!あの人達に、負けていいのっ?!」 真剣な目で睨まれ、アレンはふるふると首を振る。 「さぁ行くよ!! せっかくクロス元帥をやっつけたんだもん!勝たなくちゃ!」 「はい・・・・・・」 こぶしを振り上げて宣言したリナリーに気を呑まれ、アレンは引きつった笑みを浮かべて頷いた。 「リンク見っけ!!」 「鬼は外っ!!」 「またですかっ!!」 豆の波状攻撃を、手にしたクリップボードで防ぎつつ、リンクは声を荒げた。 「一体、なんのつもりですか!!」 「ちっ・・・!防ぎきるとは・・・!」 「やるな、おぬし!」 「私の問いに答えろぉぉぉぉぉっ!!!!」 ヒステリックな声をあげ、リンクは足元に散らばった大豆を素早く拾い上げると、襲い来る二人に向かって弾く。 「なっ?!」 「指弾っておま・・・文官じゃねぇんさ?!」 ものすごい勢いで飛んできた大豆を間一髪で避けた二人が、リンクの意外な技に目をむいた。 「か・・・監査官たるもの、このくらいできて当たり前です!」 明らかに嘘くさい口調で言いながらも、リンクの攻撃は止まない。 「ちょうどいいですよ! 君達を捕らえて白状させてやります!」 「はっ!」 「できるもんならやってみるさ!」 殊更に挑発的な声音で言うと、二人は回廊へと退いた。 「待ちなさいっ!!」 追いかけたリンクは、一旦は出た部屋に飛び退り、すかさずドアを引き寄せる。 バラバラと、ドアに豆のぶつかる音がして、忌々しげな舌打ちの音が続いた。 「開けるさ、こんにゃろ!!」 「誰が開けるか、クソガキ共!!よくも私をはめようとしたな!」 「もうとっくにモヤシ共にやられてんだろうが!潔く鬼になれ!!」 「キサマらのせいで、こちとらとっくに怒髪天をついとるわっ!!」 二人の手前勝手な言い様に、リンクは怒り心頭に発し、ドアに鍵をかける。 「君達のわけのわからない行動に付き合っている暇はない!! この件は長官に報告し、必ず罰してもらうからな!!」 ドア越しに、キャンキャンと吠える怒声を聞いて、二人はまた、舌打ちした。 「こりゃー、出てこないさね」 「あぁ・・・だが、もうじき終了時間だ。 オヤジをやれなかったせいで、リンクを逃したのはいてぇが、なんとか勝ってんじゃねぇか?」 「犬ども、全員監禁してっかんね くすくすと、ラビが人の悪い笑声を漏らす。 「リナなら気づくかもしんねーけど・・・さて。 残り時間で、何人見つけられっかね?」 「まぁ・・・そう簡単には、見つかんねぇようにはしているな」 ラビ以上に人の悪い笑みを浮かべ、神田は楽しげに呟いた。 「アレン君!!そっちじゃないよ!!」 見当違いな場所へ入り込もうとするアレンに声をかけ、リナリーが回廊の奥を指差す。 「闇雲に探してもダメだよ! 鍵がかかっている部屋の中でも、外からかんぬきが下ろせる程度の鍵しかない部屋を探さないと!」 はっきりとそう限定するリナリーに、アレンは首を傾げた。 「あの・・・それって、なんでですか?」 「ラビ達は、マスターキーを持ってないからだよ!」 アレンの問いに、リナリーはきっぱりとした口調で応じる。 「いい? 私がさっき、清掃班の班長に内線かけたのはね、彼が持ってるマスターキーを、誰にも渡してないって確認したかったからだよ!」 「あ・・・うん。それは横で聞いてましたけど・・・」 そもそもなんでマスターキーの所在を確かめる必要があったんだと問うと、リナリーは足を速めつつ頷いた。 「この広いお城に散らばってた監査官達を、同じ部屋に連れ込んで監禁するのは効率悪いし、そもそも無理じゃない? 途中で私達と鉢合わせる可能性だってあるんだから! だったら近くの部屋に放り込むはずだけど、鍵をかけて閉じ込めようにも、ラビ達は都合よく鍵を持ってないの!」 「あ・・・それで、外からかんぬきのかかる部屋、なんですね!」 ようやく理解したアレンに、リナリーは再び頷く。 「さっき、監査官達を見かけたのに、消えちゃったことがあったでしょう?! あの時きっと、ラビ達は近くの部屋に潜んでたんだよ!」 「と・・・いうことは! あの近くの、かんぬきがかかる部屋に、監査官達が監禁されてるってことですね!」 「そう!少なくとも二人・・・可能性は高いよ!」 「はい! さすがリナリー!」 ついていきます!と、尊敬の眼差しで見つめられ、険しかったリナリーの表情がやや和んだ。 更には、 「ここだよ!」 と、アレンでは到底見つけられなかっただろう、似たような部屋の並んだドアを示し、アレンの信頼度をあげる。 かんぬきをあげ、ドアを勢い良く開けると、思った通り、床には哀れな監査官が二人、縛り上げられて転がされていた。 「ひ・・・酷い・・・」 「ここまでしますか、普通・・・・・・」 言いながらも、二人はちゃっかりと身動きの取れない彼らに豆をぶつけ、20点獲得する。 「ごめんなさい!今は急ぐから!」 「後で、恵方巻き持って来てあげますね!」 ラビと同じことを言い放って、二人は次なる標的を探しに向かった。 ・・・・・・ゲームを始めて1時間後。 意地の悪い年長者達は、意地の悪い笑みを浮かべて、ゲームの終了を告げた。 「さぁて・・・結果発表さ 憮然とした表情で談話室に入ってきた二人を、ラビが機嫌良く迎える。 「犬どもは探し出せたさ?」 「・・・・・・1組だけね」 じっとりと、恨みがましい目をあげたリナリーは、ラビと神田の顔を見た途端、盛大に吹き出した。 「どうしたの、その顔!!」 「あはははははははは!!なにそれ!!変な顔ー!!!!」 アレンも弾けたように笑い出し、機嫌のよかったラビは途端にへそを曲げる。 「笑うな! ティエのおっさんに描かれたんさ!」 「笑うなって・・・無理!!」 「あははははは!!パンダ二匹!!」 目の周りを真っ黒に塗られた上、頬にはクロスから受けた傷を負い、憮然とした表情を浮かべる二人は、まるでやさぐれたパンダだった。 そんな彼らを指差して笑い続けるリナリーとアレンに、忌々しげに舌打ちした二人は、不機嫌な声で問う。 「で?」 「何点取ったんさ、お前ら?」 途端、年少者二人は頬を膨らませ、『180点』と声をそろえた。 「よっしゃ!!俺達185点〜!!」 「僅差だが、良しとするか」 歓声をあげたラビと、鼻を鳴らしつつも、やや満足げに呟いた神田に、二人は唇を尖らせる。 「なによ!監査官達を拉致監禁するなんて、卑怯だよ!」 「反則ですよ、極悪パンダ!!」 「ふふん♪拉致監禁は反則だなんてルール、なかったさ 「勝ち負けにケチつけんじゃねぇ!」 取りつく島もない年長者達に、二人がこれ以上は無理なほど頬を膨らませた時、全員のゴーレムが一斉に鳴った。 『ゲームは終わったかい、君達?ちょっと室長室に来なさい!』 コムイからの呼び出しに、四人は顔を見合わせる。 「お・・・怒られちゃうかな・・・」 リナリーが両手を頬に当て、困惑げな顔を俯けると、ラビが笑って肩をすくめた。 「ま、苦情は言われるだろうけどー 「奴だって、春節には毎年、大騒ぎやらかしてるじゃねぇか。こんな祭りなんて、静かなもんだ」 鼻を鳴らして、冷淡に言い切った神田に、アレンがほっと吐息する。 「そ・・・そうですよね! あの破壊力に比べたら、こんなのなんてことないですよね!」 無理やり楽観的な方へと思考を向け、4人は連れ立って室長室へ向かった。 「来たね、いたずらっ子たち」 苦笑して迎えたコムイの傍らに、ルベリエとリンクが、憮然とした顔で直立する。 「リンク監査官からの報告を受けたよ。 君達、監査官達に謎の攻撃をして、拉致監禁までしたって?」 「え?!なんで拉致監禁まで知ってんさ?!」 部屋に閉じこもってたくせに、と、瞠目するラビを、リンクは忌々しげに見遣った。 「私達がなんの準備もせずにここへ来ると思ったのですか?」 言うや、リンクの胸元から飛び出した黒いゴーレムが、赤い光を点滅させる。 「監査官は全員、居場所を特定できるよう、発信機をつけております。 あなた達が拉致監禁した監査官達は、クロス元帥付の監査官達が見つけ出して解放しました」 「えぇっ?!そんなの持ってるなら、教えてくれればいいのに!!」 「私達、お城中探し回ったんだから!」 状況もわきまえずに不満を漏らすアレンとリナリーを、リンクは鋭く睨みつけて黙らせた。 「まぁ・・・監査官達追いかけて、豆ぶつけるくらいなら可愛いもんだけど、拉致監禁はダメでしょ」 叱ると言うよりは、とりなす口調でコムイが苦笑する。 「今年は清掃班班長に話しつけて、彼に叱られないように手を回したみたいだけど・・・」 くすくすと、コムイはどこか楽しげな笑声をあげた。 「ジェリーが、さっきから非番返上して恵方巻を作ってくれてるよ。 ジェリーにお礼を言ったら、監査官達に配って、ちゃんと『ごめんなさい』を言ってきなさい」 「・・・・・・ほぇ?」 それだけ?と、意外そうな顔をする4人に反し、監査官達は目を吊り上げる。 「生ぬるい!!」 「こんなクソガキ共は地下牢にでもぶち込んで、泣いて詫びるまで一切の飲食を禁止すべきです!!」 「そんなことしたって、泣いて詫びませんよ、アレン君以外は」 リンクの主張に肩をすくめたコムイは、更に反駁しようとする監査官達を、手を上げて制した。 「それにね、他国他宗教の習慣とはいえ、お祭りに目くじら立てるのはどうかと思いますよ? 長官だってこの時期、イヴレアのカルネヴァーレに参加できなくて、本当は悔しいんじゃないですか?」 「う・・・」 図星か、途端に声を失くしたルベリエに、コムイが畳み掛ける。 「あのお祭りなんて、今回以上の激しさでオレンジぶつけ合って、みんな果汁まみれになるじゃないですか。 あれに比べたら、豆なんて汚れないし、ちょっと痛いだけでしょ。 大目に見てあげましょうよ」 「うむ・・・」 思わず頷いたルベリエに、しかし、リンクは憤然と噛み付いた。 「長官!納得しないで下さい!! 大体、『ぶつける』なんてもんじゃなかったですよこの小娘!!よくも私を銃撃しやがりましたね!」 「あは・・・ごめんなさい、やりすぎました・・・」 殊勝に頭を下げながら、『でも』と、リナリーはいたずらっぽい目を上げる。 「リンク監査官が、私の作ったケーキをあまりにも酷評してくれるから、腹立っちゃって 「え?そうなの、リンク監査官?」 「それはいかんな、リンク監査官・・・レディに恥をかかせては」 コムイだけでなく、ルベリエにまで言われ、リンクは悔しげに黙りこんだ。 そんな部下を気の毒そうに見遣り、ルベリエは深々と吐息する。 「そうですな・・・監査官達を拉致監禁したラビ・神田の両名は、別に仕置きを受けているようですし・・・」 ルベリエの指摘にまた、アレンとリナリーが吹き出した。 「あはははははは!!やさぐれパンダ!!」 「うるせェ、モヤシ!!」 「リナも笑うな!!」 甲高い笑声と怒声に、リンクがうるさげに耳を塞ぐ。 「ホラホラ、みんなケンカしてないで、早くいっといで。 もちろん・・・ラビと神田君は、そのままでね・・・っ!!」 とうとう、コムイもたまりかねて笑い出し、4人は憮然と、あるいは楽しげに室長室を出て行った。 その足で向かった食堂でも、大量の恵方巻を用意していたジェリーに笑われ、更に機嫌の悪くなった年長者達は、豆をぶつけていた時以上の形相で監査官達を追いかけ、恵方巻を口にねじ込んで、詫びると言うよりは更に彼らを怯えさせたと言う・・・。 ・・・・・・その、翌朝。 馬車に山と詰まれたオレンジが、教団本城に運び込まれた。 「ふむ・・・。 まだまだ少ない気もするが・・・仕方ないか」 発注者のルベリエは、やや不満げな顔をしながらも、オレンジを馬車ごと受け取る。 「さて・・・諸君」 返り見た先には、監査官達が姿勢良く直立していた。 「本場の祭と言うものを、見せてやろうじゃないか」 にやりと笑った長官に、鋭い敬礼が返る。 ・・・この日、監査役長官・ルベリエの名の元に、清掃班班長が発狂せんばかりの奇祭が唐突に開催され、黒の教団本部はオレンジ色の戦場となった。 Fin. |
| リクエストNo.19『アレリナvs神田&ラビの喧嘩or勝負』でした。 実は私、このリクエストを最初、勘違いしてまして、『アレンとリナリーの喧嘩』だと思い込んで書いたものがあります(笑) 途中で気づいたので、それはいずれ使うとして、『おにーちゃん達の威信を賭けた戦い』を書いてみましたよ(笑) 威信って・・・パンダ顔で言われてもねぇ(笑) なんだか、節分の本来の意味とは随分かけ離れたゲームになっちゃってるんですが、まぁいいか。(をい) それ以前に私、なんでD.グレで毎年節分をするのかがわかんないんですけど。 習慣って、不思議だね、ママン。 あ、ちなみに、オレンジをぶつけ合うイタリアの祭は実在します(笑) 時期が節分と被ってて、すげー笑いました(笑) スペインかどっかでは、トマトぶつけるらしいですよ(笑) 題名はラルクの曲名ですが、ものっすごいフラストレーション抱えてイラついているカンジの曲なんです(笑) おそらく、リンク君や師匠に対するアレン君の思いはこんなカンジかな、と(笑) 豆ぶつける時、『死ねコノヤロー!!』くらい、本気で思ったかもしれません(笑) |