† After The Adventure’s Dream †
「リナリー 新本部となった城に戻るや、アレンが大きな被り物を手に駆け寄ってきて、リナリーは思わず吹き出した。 「なに?」 不思議そうに首を傾げたアレンに、リナリーは必死に首を振る。 「ごめ・・・なんでもないよ・・・!」 「なんでもないってカンジじゃないさね。どしたん?」 アレンを追いかけてきたラビが、リナリーの傍らに立つコムイに尋ねると、彼は妙に強張った顔であらぬ方を見遣った。 「ボク達が用事を済ませてる間、リナリーってば面白い夢見てたんだってさぁー・・・」 「へぇ・・・どんな夢ですか?」 魂を吐き出さんばかりに生気のないコムイの様子は気になったものの、興味を惹かれてアレンが問うと、リナリーはまだクスクスと笑いながら頷く。 「アレン君と神田が私の飼い猫なの。 でも、不思議の国に行ったらアレン君はチェシャ猫になって、神田はハートの女王になってた夢だよ。 ラビは、私を不思議の国に連れてったウサギだった! 「・・・チェシャ猫」 「どーっせ・・・ウサギさ!」 複雑な表情をするアレンと、頬を膨らませたラビに、リナリーはまた笑い出した。 「それでね、ミランダは私の姉さんで、不思議の国では・・・っ!」 突然、背後から口を塞がれて、リナリーは笑顔のまま動きを封じられる。 「それ以上言っちゃ・・・ダメ!!」 真っ赤な顔で必死に訴えるミランダに、リナリーは素直に頷いた。 ほーっと、深く吐息したミランダが手を放した途端、 「公爵夫人だった」 「リナリーちゃん!!!!」 あっさりと言ったリナリーに、ミランダが悲鳴をあげる。 「もう!!言わないでって言ったのに!!」 「えへへー 「そうですよ。なんでいけないんですか?」 きょとん、としたアレンに、リナリーがにんまりと笑った。 「夫人の旦那様ってのがー・・・」 「きゃあああああ!!!!」 真っ赤になって悲鳴をあげたミランダの様子で、全てを察したアレンとラビが苦笑を見合わせる。 「リーバーさん、そろそろコムイさんを連行したらどうですか?」 「午前中いっぱい、コムイと役所巡りしてたから、仕事たまってんだろ? ジョニーたちが泣いてたさ」 「あ・・・ああ・・・」 真っ赤な顔を両手で覆ったミランダを気遣っていたリーバーは、魂の抜けたコムイを押し付けられて、仕方なしに頷いた。 「なんなんだ、一体・・・・・・」 一人だけリナリーの夢の内容を知らされずにいる彼が、首を捻りながらもコムイを引きずって、科学班へ帰ってしまうと、二人は改めてリナリーに向き直る。 「ユウがハートの女王ってのは、ティエのおっさんがハロウィン用に一所懸命縫ってた衣装が惜しかったんだろうケド・・・公爵夫人ってのはあれだろ? 豚をあやしたり、教訓好きで説教する・・・ダンナなんて出てきたっけか?」 ラビの問いに、リナリーが大きく頷いた。 「公爵はお話にも夢にも出てこなかったけど、豚は三月ウサギ・・・ううん、ジェリーが料理して、アレン君が食べちゃった」 「・・・なんだか、えらくリアルな夢を見たんですね」 「うん、大冒険だったよ・・・・・・。 毛虫には襲われちゃうし・・・・・・」 思わずため息をついたリナリーは、訝しげな顔をするアレンに慌てて手を振る。 「それよりも、準備できた?」 「はい!見て見て 途端に目を輝かせ、アレンは手にした被り物をラビに被せた。 「怪盗Gのウサギバージョン 「・・・ホントさ?ホントにこんな、間抜けなカッコだったんさ?」 被り物の中から、くぐもった声で疑問を呈すラビに、アレンは大きく頷く。 「疑うんなら、神田やマリにも聞いてみなよ! あははっ! やっぱりラビが一番似合う 「・・・・・・・・・うれしくねーって」 大きな一つ目の被り物をしたままのラビが、腕を組み、憮然と言う様がおかしくて、リナリーがまた笑い出した。 「それで・・・やるのね?!」 「もちろんですよ!」 きらりと目を光らせたリナリーに、アレンがぐっとこぶしを握る。 「神田をだまくらかして、怪盗戦隊Gごっこ!!」 「なーんか、Gレッドを拝命した時点で俺、悪ィ予感してんだけど」 大きな頭に乗った、長い耳を揺らしながら呟くラビに、アレンが晴れやかな笑みを向けた。 「気のせいです!」 「・・・・・・俺の予感は当たるっつったろ」 「ふふ 神田を引き込むんだもん、多少の危険はつきものだよ なんでもないことのように言って、リナリーは目を輝かせる。 「そんなことより、メンバーだよ! ラビがGレッドでアレン君がGホワイトでしょ?神田がGブラックでー・・・あとは?」 「チャオジーがグリーンをやるって言ったんで、イエローはリンクにやらせます!!」 自信満々に言い放つアレンの頭を、ラビがくしゃくしゃと撫でた。 「まぁ結局、ハロウィン・ゲームの参加選手なんケド・・・あの監査官が騙されるかねぇ?」 「ふっふっふ 万が一騙されなくったって、無理矢理やらせますよ! もう準備は万端整えてるし、それが使えなくても僕には、脅しの材料があるんですから!!」 高笑いするアレンの隣で、リナリーまでもが大声で笑い出し、真っ赤な顔を覆っていたミランダは掌にため息を零す。 「リナリーちゃんたら、すっかり染まってしまって・・・・・・」 以前はあんな子じゃなかった、と、ミランダは娘の素行不良を嘆く母親のように肩を落とした。 「それでマユ・・・じゃない、ハワードさんはどうしたんですか?」 まだ赤みの引かない顔をあげてミランダが問うと、アレンが腹を抱えて笑い出す。 「リンッ・・・リンッ・・・リンクぅはっ!!!!」 たまらず爆笑するアレンに脱いだ被り物をかぶせて、甲高い笑声をくぐもらせると、ラビはミランダに苦笑を向けた。 「リンクは今、ティムを追っかけて、城中走り回ってんさ」 「ティムちゃんを?」 ミランダが首を傾げると、Gの被り物を脱いだアレンが、ひきつけを起こさんばかりに笑いながら頷く。 「ティッ・・・ティッ・・・ティムのメモリーをふっ・・・・・・!!」 笑いすぎて言葉にならないアレンの後を、ラビが引き取った。 「ティムが、リンクにとってマズイ映像を記録してんさ。 それを消そうって、アイツ躍起になってんさね」 「まずいって・・・なにかしら?」 「見ますっ?! 僕っ・・・ジョニーにっ・・・お願ひっ・・・してぇっ・・・!!」 笑いすぎて呼吸困難になっているアレンはもう、何を言っているのかすらわからない。 ここでもラビが通訳して、ティムキャンピーのメモリーが既に、ジョニーによってコピーされていることを教えてくれた。 「もー・・・アレン、お前笑いすぎ!ちょっとオチツケ」 「なんですか! ラビだってティムのメモリー見せてあげた時は、床に転がって引きつけ起こしてたじゃん!」 「そりゃお前、あんな珍しいもん、そうそう見れるもんじゃねェしさ」 でも、と、ラビは笑みを貼り付けたまま、言葉を切る。 「なぁに?」 きょとん、としたリナリーに首を振り、ラビはアレンの頭をくしゃくしゃと撫でた。 「最強のカードは、ちらつかせても出し惜しみすんのが勝利への道じゃねぇんさ、カードマスター?」 暗に、言いふらすなと釘を刺され、アレンがぺろりと舌を出す。 「見せびらかしたらおもしろいのにぃ・・・」 「んなことしたら、騙されなかった時の切り札に使えなくなるさ」 「それもそうですね・・・・・・」 残念、と、吐息したアレンは、しかし、すぐにいたずらっぽい笑みを浮かべた。 「じゃあ、ミランダさんで最後にする! 見るでしょ?リンクがGに取り憑かれちゃったところ 「え?えぇ・・・そうね・・・・・・」 見ていいのかしら、と、しばらく悩んだものの、アレンに強引に勧められては、気弱なミランダは頷くしかない。 「私も! 私ももう一回見る!!」 リナリーも挙手し、ミランダの手を取ると、急かして近くの部屋―――― アレンとラビが、被り物を作っていた作業部屋に連れ込んだ。 「あ・・・あらあらあら・・・」 ミランダが呆然とする間に、ラビが部屋のカーテンを引き、アレンがジョニーから借りた、映像投影用ゴーレムを取り出して、白い壁に映像を映し出す。 途端、 「・・・ぷっ!」 ミランダが吹き出し、懸命に声を殺して肩を震わせる横で、子供達は遠慮なく爆笑した。 「傑作でしょ! 特に、剣を刺しちゃった時のリンク!!」 「監査官ってば、泣いちゃってかわいそうー 「リナ、そんなたのしそーな顔で言っても全然説得力ないさ!」 「そ・・・そうですよ・・・っ! 酷い・・・災難・・・・・・!!」 一所懸命にたしなめようとしたミランダは、しかし、とうとう堪えかねて、顔を覆って笑いだす。 「・・・・・・っ可愛い!!」 ミランダが本音を漏らすと、子供たちの笑声が更に高くなった。 「それ、リンクに言ってやったら喜びますよ ううん、僕から言ってあげようかな!マムが可愛いって言ってたよーって!」 「ショック倍増っ!! ぜってぇ白目剥くから、アイツ!! 決定的瞬間にはゼヒ立ち合わせテ、アレンさん 「私も私も!! あの三白眼が全部白くなるところ、見たい!!」 子供たちの酷い言い様に、何か言ってやろうとは思ったものの、笑いの発作に喉を塞がれたミランダは、苦しげに息を継ぎながら涙を拭うことしかできない。 と、不意に映像が途切れ、ゴーレムが呼び出し音を上げた。 「あれ? これって、通信機能もついてたんだ」 投影専用だと思ってた、と呟いたアレンの声で、通信が開かれる。 『もーしもしアレンー?リナリー、帰ってきてんだろ?一緒にいる?』 ゴーレムが伝えるジョニーの声に、リナリーが笑いながら答えた。 「なに?」 『あ、やっぱ一緒にいた。 室長と班長が帰ってきたのに、お前がいつまでも来ないから、この映像見て笑ってんだろうと思ったんだ』 笑みを含んだ声に、リナリーはまた、笑い交じりの声で答える。 「さすがだね、ジョニー! それで、私に何か用?」 『何か用、ってお前・・・』 大仰なため息を、ゴーレムが伝えた。 『仮装パーティ用に衣装を作れって言ったの、忘れた? いらないなら、他の子に着せるよ?』 「わっ!ごっ・・・ごめんなさい!!」 ゴーレムに向かって慌てて謝り、リナリーは焦った声をあげる。 「それって、僕達の分も?!」 アレンが問うと、回線の向こうで笑声があがった。 『うん、お前の希望通り!寝ないで作ったんだからな、ありがたく思えよ!』 冗談めかした言い様に、アレンが弾けるように笑って礼を言う。 「じゃあすぐに取りに行くね!」 はしゃいだ声をあげるアレンの隣で、リナリーもミランダの手を引いた。 「ミランダ、一緒に来て!」 「え・・・えぇ・・・」 「じゃあ俺は、ユウちゃんが来る前にこの被りもん完成させて、隠しとくさ 「うん、よろしくね!」 すかさず言ったアレンに、ラビは笑って親指を立てる。 「ふふふ 楽しみだねぇ、G戦隊・・・ううん、海賊の衣装!」 くすくすと笑いながら、リナリーが慌てて言い換えると、アレンとラビが、意地悪い笑みを浮かべた口元に、揃って人差し指を立てた。 「わざわざ、偽の衣装用意したんですから・・・」 「絶対、気づかれちゃダメさね!」 声を潜めた彼らに、リナリーも必死に笑声を抑える。 「じゃあ、私達は着替えてから戻ってくるから、ちゃんと海賊の衣装も見せてね!」 「はい 「タテマエ・・・ねぇ」 大きく頷いたアレンの隣で、ラビが苦笑した。 「ユウちゃんをだまくらかすのって、ホント大変さ」 「楽しんでるくせに」 そう言って、にこりと笑ったアレンに、ラビはにんまりと笑みを返す。 「そりゃお前、相手が手強いほど燃えるってもんさね 「へへ・・・ じゃあ僕、行って来ます! すぐ戻るからね!」 「あいよ。 それまでには、ぜってぇ完成させるさね!」 床に座り込んで、作業を再開したラビとこぶしを突き合わせるや、アレンは先に行ったリナリーたちを追いかけた。 「ねぇねぇ、リナリーの仮装は聞いたけど、ミランダさんはなにするの?」 はしゃいだ声でアレンが問うと、ミランダは困惑げに首を傾げる。 「今年はリナリーちゃんが決めるって・・・ねぇ私、なにをさせられるの・・・?」 不安げなミランダの手を引いたまま、リナリーはこぶしを振り上げた。 「女海賊! 私がアンで、ミランダがメアリね 「じゃあ僕は海賊船長だから、ラカムになるのかな?」 「あははっ 三人揃って捕虜になるんだね 「やだっ・・・!」 怯えて身をすくめるミランダに、リナリーがにんまりと笑う。 「海賊がイヤなら、豪華なドレス着せちゃうよ? 腕を鎖で繋いで、私の捕虜にするの 「リ・・・リナリーちゃん・・・!悪い顔になってるわ・・・・・・!」 更に震え上がったミランダに、リナリーが抱きついた。 「あははっ ミランダを人質に取って、班長からたくさん身代金もらっちゃおうか!」 「お菓子? それ、お菓子?」 途端にアレンが、キラキラと目を輝かせる。 「ミランダさん、女海賊なんてやめましょう! 僕らの捕虜になってください 「えぇっ?!」 「よーし!予定変更! ドレスなら、今までの仮装用とかパーティ用でいくらでもあるから、ミランダはお姫様決定ね! あ、公爵夫人でもいいな!」 「ちょっ・・・もうそれはいいからっ!!」 ミランダが慌てて振った手を、アレンが恭しく取った。 「ラカムは紳士的な海賊ですよ 乱暴にはしませんから、安心してくださいね、マダム 「そうそう、たっぷり身代金をもらったら、解放してあげるからね ミランダのもう一方の手を取ったまま、リナリーも笑う。 「さぁて 公爵は、どれだけ身代金をくれるかなぁ 「きっと、ありったけくれますよ 「・・・・・・もうっ!」 リナリーとアレンに両腕を取られて逃げ出すこともできず、ミランダは深々とため息をついた。 その後、 「海賊衣装一式、もらってきたよー アレンが作業部屋に戻って来ると、そこには既に、神田とチャオジー、リンクも来ていた。 「あ、みんな揃ってる! 神田、お菓子ください いつもは近づきもしないアレンににこにこと擦り寄られ、神田は気味悪げに顔を歪める。 「んなもん持ってねェよっ!」 「ふんだ、ケチ!」 べーっと、思いっきり舌を出したアレンは、傍らで苦々しい顔をしているリンクを見遣った。 「リンク。ティムは見っかった?」 「〜〜〜〜捕獲寸前、科学班により確保されましたっ!!」 忌々しげに吐き捨てた彼に、アレンが甲高い笑声をあげる。 「仕方ないですよ、貴重なデータだもん〜!」 「きっ・・・!!」 何か怒鳴ろうとしたリンクの口を、アレンは海軍将校の服を押し付けて封じた。 「ティムは後でなんとかしてあげますから、今はそれ着て。 ハイ、一番おっきいのがラビでー・・・これがチャオジー、そんで神田」 「サンキュー 「あ・・・ありがとうっす」 「なんで俺まで・・・」 ジョニーが作ってくれた衣装をそれぞれに配ると、アレンはチャオジーを示す。 「水夫服の着方わかんなかったら、チャオジーに聞いてってさ。 よろしくね、チャオジー 「あ・・・はい! なんなら俺、マスト登りも教えるっすけど!」 「マストなんて、どこに立てるんさ」 張り切ってこぶしを握るチャオジーに、早速着替えながらラビが苦笑した。 「それより急ごうぜ。 コムイ達も帰って来たし、もうすぐパーティが始まるさ!」 「先にゲームですよね! 今年は各班ごとに分かれて、アップル・ボビンで点数競うんだって! エクソシストのプライドにかけて、勝ちに行きますよ!!」 こぶしを振り回して気炎を上げるや、アレンは紐で首に引っ掛けていた羽根つき帽子をかぶりなおす。 「海賊船長は僕ですからね! えへへー 途端、 「うっせぇよ、クソガキ!」 「私は海賊ではなく、君を逮捕する側でしょうに!」 神田とリンクが、揃って忌々しげに顔を歪めた。 「ふーんだ! 神田、海賊がイヤなら、ティエドール元帥がうれしそーに縫ってたハートの女王の衣装を着ちゃっていいんですよ?」 「ドレスなんざ誰が着るかッ!!」 「リンクだって、『たとえ仮装だとしても、犯罪者になどならない!』なんてぬかすから、海軍将校にしてあげたんですからね!」 「なにを恩着せがましく・・・!!」 「なんだよ! イヤなら中央庁出向組に入っちゃっていいんですよ?! こてんぱんにのしてやる!」 アレンが腕まくりして喚きたてると、リンクのこめかみに青筋が浮かぶ。 「君の監視は私の仕事ですっ!!」 「ふんっ!足を引っ張らないでくださいよねっ! なんたって今年の優勝賞品は・・・・・・!」 途端、アレンがうっとりと頬を染めた。 「沈・没・船 「はいっ?!なんすか、それ?!」 思わず大声をあげてしまったチャオジーに、ラビが頷く。 「まぁ、びっくりするさね。 でもこれ、マジなんさ」 「このお城の海底に沈んでんですよ、船が!!」 ラビの言葉を継いで、アレンがキラキラと目を輝かせた。 「ホラ、このお城に引っ越して来る時、僕達船で先行したでしょ? あの時、船酔いでバテてたコムイさんが見つけたんだ♪」 「・・・・・・? 船から落ちでもしたのか?」 「いいえ。 コムイ室長は、何かしていた方が気が紛れるからと、操舵室でずっと機器のチェックを。 その時、レーダーに反応があったそうです」 神田の問いに律儀に答えたリンクは、深々と吐息した。 「とはいえ、船らしきものが沈んでいるのを確認しただけでしょうに。 中に財宝が眠っていると決め付けるなんて、本当に君は欲深い・・・」 「うるさいな、リンク! 馬鹿師匠のせいで借金まみれな僕の気持ちなんて、君にはわかんないよっ!」 「わかりたくもありません」 つんっと、そっぽを向いたリンクのおさげ髪を、背後からラビが引く。 「ホラもー! どうでもいいから早く着るさ! ぐずぐずしてっと、パーティに間にあわねぇさ!」 途端、アレンが『ホントに時計ウサギだ!』と笑い出した。 「あ?なんだ、そりゃ?」 「リナリーが見た夢ですよ! ラビ、遅刻の時計ウサギだったんですって!」 神田の問いに、アレンがまた、大きな笑声を上げる。 「でねでね、この夢の中で神田は・・・っ!!」 神田を見つめたまま、アレンは顔を真っ赤にして笑い続けた。 「ハートの女王だったってぇー!!!!」 顔を引き攣らせた神田の横で、ラビも吹き出す。 「やっぱリナ、ユウちゃんにあの衣装着て欲しかったんさね!!」 「せっかく師匠が縫ってくれたんすからねぇ・・・」 チャオジーまでもがしみじみと呟くと、神田はラビとチャオジーの頭を掴み、互いの頭蓋骨が割れんばかりに叩きつけた。 「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!」 「ひ・・・・・・ひどい・・・っす・・・・・・!」 頭を抱えてしゃがみこんだ二人を冷淡に見下ろした目が、アレンをも貫いて笑声を塞ぐ。 「着ねぇっつってんだろ! なにが女王シリーズだ!!」 忌々しげに吐き捨てた神田に、リンクがうんうんと頷いた。 「女装など、エクソシストの沽券に関わります。 あなた達はもっと、神の使徒と言う自覚を持つべきです」 「うっせぇよ、カラス野郎!」 冷厳な声が発せられた瞬間、すかさず立ち上がったラビが、神田の口を塞ぐ。 「ユーゥちゃん? そのコトはリナの精神衛生上、甚だ害を及ぼすから黙ってよって、決めたじゃん? リンクのあのデータ、なんのためにジョニーに編集してもらったと思ってんさ?」 「編集?!」 訝しげに眉をひそめたリンクに、アレンが白々しく肩をすくめた。 「君が鴉だってわかるトコ・・・あの、神田を拘束しようとしたシーンは、削ってコピーしてもらったんですよ。 あれなら、リナリーやミランダさんに見せても平気・・・」 「・・・・・・誰に見せただと、この腹黒小僧っ」 胸倉を掴まれ、がくがくと揺さぶられながら、アレンは楽しげに笑う。 「リナリーとミランダさんに見せちゃったぁ 「なんってことをするかぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」 「えへ よかったね、と言い添えたアレンの頭に、白目を剥くと思われていた監査官は容赦ないげんこつを落とした。 「リンクが殴ったぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」 「やっかましいわクソガキがぁぁぁぁぁ!!!!」 暴力だ横暴だと泣き喚くアレンを、リンクが激しく怒鳴りつけると、間にラビが入ってくる。 「まぁまぁ、リンク。 あんなおもしれーもん、見せびらかすなって方が無理・・・」 「黙れ、Jr.!! よくもあんなものを見せびらかして・・・君だって一般人の暴力に巻き込まれた挙句、ぴぃぴぃと泣いていたではないか、ウォーカー!!!!」 「あ、あれはさっくり消去しました!」 ティムキャンピーの管理者権限で、と、いけしゃあしゃあと言ってのけたアレンの首を、リンクが締め上げた。 「逝ってこい、クソガキ!!」 「きゅうっ!!」 「待てって!!」 リンクの代わりに白目を剥いたアレンを、ラビが慌てて奪い取る。 「も・・・お前らすぐケンカして!暴力反対さっ!」 「てめェも原因の一端だろうがよっ!」 げしっと、背後から蹴飛ばされ、ラビはアレンと共に吹っ飛んだ。 「痛いッ!! ユウちゃん酷いッ!!」 「ラビさん、余計な口出しするから・・・」 「誰のせいだとと思ってんさ、チャオジー! 俺にツッコむんだったらてめぇが止めるさっ! お前がなーんもしねーから、俺ばっかツッコミと仲裁してっ・・・!! マリがいねーと俺、マジ大変なんさっ!!」 身も世もなく泣き出したラビに、チャオジーはもう、苦笑するしかない。 「マリ先輩・・・呼んでくるっす」 「そゆ問題じゃねェェェェェェ!!!!」 むしろ逃げるな、と、ラビがチャオジーの襟首を掴んだ。 そのラビの首に、背後から刃が突きつけられる。 「ひっ?!」 「今すぐ・・・あの映像の在り処を吐きなさい」 「ア・・・アレンのポケットの中、投影用ゴーレムさ」 あっさりと吐いたラビの首から、切っ先が離れた。 「ったく、このクソガキ・・・! いっそ重石をつけて、海に沈めてやろうか!」 恐ろしい声でぶつぶつと呟きながら、リンクがアレンのポケットを探り、取り出したゴーレムを片手で握りつぶす。 「ひっ?!」 「リ・・・リンクさん、すごいっす・・・!!」 声を引き攣らせたラビに未だ掴まれたまま、チャオジーが思わず拍手した。 が、彼は冷淡に鼻を鳴らしただけで答えず、白目を剥いたままのアレンの首根っこを掴み、猫のようにぶら下げて、部屋を出て行こうとする。 「・・・はれ? どこ行くんさ?」 ようやく自失から立ち直ったラビが問うと、彼は肩越しに冷たい視線を投げてよこした。 「・・・この城の地下には、潮の満ち引きを利用した水牢があるのはご存知ですか?」 「うん・・・まぁな・・・・・・」 ラビは、この城に入った時点で既に、城内の全地図を頭に入れている。 甚だ嫌な予感を覚えつつ頷くと、案の定、リンクは暗い声音で呟いた。 「2〜3日ぶち込んでやれば、このクソガキの捻じ曲がった根性も、少しは歪みが取れるかもしれません」 「マッテ!!」 これはさすがにチャオジーも蒼褪め、ラビと声を揃えてリンクを止める。 「みみみみみ・・・水牢って、あれっすよね?! 満潮になったら顔まで浸かっちまうから、一晩中泳いでないといけないって言う、拷問用の・・・!」 「拷問っ?!」 はっと目を覚ましたアレンが、リンクにぶら下げられたまま、じたじたと暴れ出した。 その彼を押さえつけ、リンクはチャオジーを振り返る。 「さすが中国人。知っていましたか」 「知っていましたか、じゃねーさ!! お前、さらっと拷問するとか言うなよ!!」 リンクを止めようと、ラビが伸ばした手はしかし、横合いから掴まれた。 「いいじゃねぇか。 こいつの言う通り、モヤシの曲がった根性を叩きなおすにゃ丁度いい」 「捻じ曲がったあんたが言うな――――!!!!」 救出を妨げられたアレンが悲鳴じみた声をあげるが、その抗議には皆が一斉に首を振る。 「イヤ・・・神田先輩はむしろ・・・」 「真っ直ぐすぎて融通きかねぇだけさ」 「君とは正反対ですね!」 仲良くなれるはずがない、と、また声を揃えられ、アレンは憮然と黙り込んだ。 と、 「連れてくなら連れてけよ。 先にこいつに潜らせて、財宝の有無を確認させんだな」 「それはいい考えです」 神田の提案に、リンクがあっさりと頷く。 「いいわけないでしょ!!!!」 残酷な二人の意見に真っ向から反対して、アレンは必死にリンクの腕を振りほどいた。 「酷いッ!! こんな可憐な僕を拷問するなんて、鬼畜の所業ですよ!!」 「・・・・・・自分で言うか?」 うっかり拷問賛成派に回りそうになる気持ちを何とか押さえつけて、ラビは自分の背後に隠れたアレンを肩越しに見遣る。 「お前もいちいち、兄ちゃん達にちょっかいかけてないで・・・」 「あれ?どうしたの?」 ラビが説教しようとした時、部屋のドアが開いて、仮装衣装に着替えたリナリーが入って来た。 「まだ着替えてないの? ハロウィンのゲーム、始まっちゃうよ?」 「そーさ!!」 途端に慌てて、ラビが周りを見回す。 「早く着替えろよ! グループ対抗ゲーム、勝ちに行くんだろ?!」 「そーでした!」 アレンも大きく頷き、帽子をかぶりなおした。 「なんとしても!お宝入手です!! 海賊王に、僕はなる!!」 こぶしを振り上げる彼に、冷たい視線が刺さる。 「勝手になれ、馬鹿」 「なにが海賊王ですか。所詮は犯罪者でしょう」 神田とリンクの白けた言いように、しかし、反駁したのはリナリーだった。 「なによ! エクソシスト組は優勝候補なんだからね! 他の班に・・・ううん、中央庁出向組に負けちゃったりしたら悔しいよっ!!」 きらりと、異様な光を放つ目を向けられたリンクは、忌々しげに眉根を寄せる。 しかし、 「・・・・・・ったく、めんどくせ」 などとぼやきながらも、神田は衣装を取り上げた。 「がんばってね、神田! 代表選手5人の中じゃ、一番教団歴長いんだから!」 笑ってこぶしを振り上げたリナリーを見遣った神田は、ふと眉をひそめる。 「お前・・・そのカッコ・・・・・・」 普段、リナリーの服になど気にも留めてくれない神田の視線に、リナリーは嬉しげに胸を張った。 「えへへ 大胆に胸元の開いたブラウスに厚手のジャケットを重ね、太いベルトに三日月刀を佩いた姿を得意げに見せるリナリーに、アレンが嬉しそうに頷く。 「カッコイイですよ、リナリー!」 「ホント、似合ってるさね!」 ラビも同意するが・・・しかし、神田は珍しくも困惑げな顔を、ぎこちなく逸らした。 「? なぁに?」 首を傾げたリナリーに背をも向けて、神田はぼそぼそと呟く。 「その・・・自前で勝負しろなんつって・・・・・・すまなかったな」 「・・・・・・っ!!」 途端、男子らの視線が一斉にリナリーに注がれた。 ・・・正しくは、その胸元に。 「・・・・・・神田、いざ尋常に勝負!!」 ジャケットのボタンを、素早く一番上まで留めるや、リナリーは抜き放った三日月刀を神田に突きつけた。 「うん、殺っちゃえ!」 「イヤ!待て待て――――!!!!」 アレンにあおられ、今にも飛びかかろうとするリナリーを、ラビが慌てて羽交い絞めにする。 「待って! ホント待って、リナ!! ユウちゃんが珍しく謝ってんさ!! ここは穏便に・・・」 リナリーの痛烈な肘鉄を食らって、ラビが床に沈んだ。 「謝ったからこそ・・・許せないんだよ!」 呪いにまみれた声をあげるリナリーに、神田が眉根を寄せる。 「・・・仕方ねぇだろ。 そんなに不自由してるなんて・・・知らなかったんだ」 「コロス――――!!!!」 拝み打ちに振り下ろされた刀身を、神田は紙一重で避けた。 「慣れねェもん振り回すんじゃねェ。怪我すんぜ?」 「ウルサイッ!!」 ヒステリックに叫びながら、リナリーが横薙ぎに走らせた刃を再び避け、そのまま一回転して襲い掛かってきた剣を、鞘ごと抜いた六幻で弾き飛ばす。 「だから、慣れないもん振り回すなっつったろ」 剣を弾き飛ばされた衝撃で痺れた手を、押さえてうずくまったリナリーは、更に鞘の先を突きつけられ、悔しげに神田を睨んだ。 「・・・す・・・っげ!」 一瞬で決まった勝負を唖然と見つめていたチャオジーが、思わず拍手する。 「さすが神田先輩!カッコイイっす!!」 興奮するチャオジーをアレンが憮然と押しのけて、リナリーに手を差し伸べた。 「ホントに・・・女性相手にも容赦しないんだから!」 リナリーを助け起こしながら、忌々しげに神田を睨みつけると、彼は六幻を腰に戻しながら鼻を鳴らす。 「先に仕掛けたのはリナリーだろ」 「先に暴言を吐いたのは君ですよっ!」 「暴言・・・じゃあないさな・・・」 「謝って斬りつけられたのではたまりませんね、この暴力娘ガ」 床に伸びたままのラビと、淡々と事実を述べたリンクに、リナリーの視線が突き刺さった。 「うるさいよっ!!ほっっっといてよっっ!!!!」 怒った猫のような怒号を上げた途端、また部屋のドアが開く。 「あぁ、ここにいたのね、リナリーちゃん・・・どうしたの?」 リナリーの大声に引かれてドアを開けたものの、中の険悪な様子に、ミランダが目を丸くした。 「なんでもないよっ!!」 リナリーの、あきらかになんでもなくはない様子に、びくっと怯えたミランダは、おどおどとした上目遣いでリナリーを見遣りながら、両手をそろそろと差し出す。 「あの・・・お取り込み中申し訳ないのだけど・・・・・・この手錠、外してくれないかしら・・・・・・?」 「マンマッ?!」 ミランダの細い腕を拘束する、太い手錠を目にするや、リンクが悲鳴をあげた。 「なんとおいたわしい・・・一体なにを考えているのですか、この暴力娘っ!!」 勢いよく振り返ったリンクに怒鳴られたリナリーは、しかし、つんっとそっぽを向く。 「ふーんだ! ミランダは私の捕虜だもん! 班長にたんまりお菓子をもらうまで、放してあげないよっ!」 「なんだとこの小娘っ・・・!! お菓子ならば私が!私が腕によりをかけて作ってあげますから!! 今すぐマンマを放しなさいッ!!」 「やーだ! リンク監査官の作ったお菓子なんて食べたら、意地悪になるもんっ!」 思いっきり舌を出すリナリーに、リンクが激昂した。 「もう十分根性捻じ曲がってるじゃありませんかっ!!」 「なんですって?! そんなこと、監査官に言われる筋合いないもんっ!!」 ぎゃあぎゃあと喚き合う二人の間で、呆気に取られていたチャオジーの背を、誰かが押す。 「なんっすか、ラビさん・・・?」 「ホレ。 俺の代わりに仲裁がんばれ」 「むっ・・・無理っすよぉぉぉぉぉ!!!!」 二大怪獣と化した二人の間に立つだけで、怒気の炎に焼かれそうだと言うのに、それを止めるなんて勇気はまだ、チャオジーにはなかった。 「だいじょぶだいじょぶ。 おまえならやれっから、ホレ、レッツゴー!」 「めっさ明後日の方向向いて言わないでくださいっ!!!!」 と、弟弟子の受難を見かねた・・・というわけでもなく、神田がめんどくさそうに舌打ちする。 「いつまでもがなりあってんじゃねぇよ。 オラ、時間ねぇんだろうが」 「原因は誰ですかっ!」 すかさずアレンが突っ込むと、怯えて震えるチャオジーの背後で、ラビが深々と吐息した。 「ホラもう、ケンカすんなお前ら。 リナも、そんな怒んじゃねぇよ。 リンクのマザコンっぷりと、ユウちゃんの空気読めないっぷりは知ってんだろ」 「誰がマザコンですかっ!!」 「俺は正直に言っただけ・・・」 ハイハイ、と、手を叩いて、ラビは嫌がるチャオジーを盾に、険悪な雰囲気の中に歩を進める。 「リンク、この様子じゃミランダは、今日のメインな賞品になるだろうから、欲しけりゃゲームがんばんな」 「えぇっ?!そうなのっ?!」 初耳だ、と、悲鳴をあげるミランダに笑って頷き、ラビはアレンに手を伸ばした。 「そんでアレンは、せっかく納まりそうだった場を掻きまわさねェこった」 「えぇー! 僕はリナリーの味方をしただけ・・・うにゃっ!」 不満げな声をあげるや、ラビにぐりぐりと頭を掻き回されて、口を塞がれる。 「で、今重要なんは、さっさと着替えて会場にいかねーと、俺ら不戦敗になるってことさね」 「なに――――――――っ?!」 ラビが示した先を見遣った一同が、無情な時計の針に悲鳴をあげた。 「ちょっ?!やばっ!!一番ヤですよ、不戦敗なんてっ!!」 「ミランダ、早く!! 賞品にエントリーするよっ!!」 「はっ?!ちょっとヤダ・・・リナリーちゃん!!」 「待ちなさい、小娘!!」 ミランダを抱えるようにして、部屋を出て行ったリナリーを、追いかけようとしたリンクはしかし、ラビにおさげを引かれて動きを封じられる。 「いいから着替えろっ! リーバーに賞品取られたくなけりゃ、ゲームがんばんな!」 「あ・・・あぁ・・・!」 意を決してジャケットを脱いだリンクが、素早く海軍将校へと仮装した。 「・・・男の醜い嫉妬合戦か」 「ホラ、ユウちゃんも!」 思わず呟いた神田もラビに急かされ、渋々着替える。 「そんじゃ! 出陣ですっ!!」 こぶしを振り上げたアレンに賛同の声があがり、それぞれの目的に熱意を燃やした一同は、威勢よくパーティ会場へと向かった。 エクソシスト組がパーティ会場に駆け込んだ時、そこは既に、様々な仮装をした団員達で溢れていた。 「あぁ、お前達!遅かったであるな!」 マリと談笑していたクロウリーに声をかけられ、5人が駆け寄る。 「クロちゃん!ミランダはもう、エントリーされたさ?!」 わくわくと目を輝かせるラビにクロウリーが苦笑して、異常に高い場所にある壇上を示した。 「気の毒に・・・優勝賞品にされてしまったであるよ」 「マンマッ!!」 蒼褪めたリンクが、悲鳴をあげて傍らのアレンの胸倉を掴む。 「このクソガキ!! よくもマンマを・・・!!」 「やめないか、監査官」 やんわりと言って、マリがリンクの腕に手をかけた。 「あれでリーバーが張り切ったから、科学班ともいい勝負ができそうだ」 「うーん・・・。 ミランダさんが優勝賞品になったんじゃ、ちょっと手加減しないといけませんねぇ。 僕が欲しいのは、沈没船のお宝だし」 優勝賞品だったはずの沈没船が、2位の賞品になっていることを目ざとく見つけて、アレンがため息をつく。 が、彼とは逆に張り切ったリンクが、こぶしを握って叫んだ。 「目指すは完全勝利です!! 打倒!科学班!!」 「なんだとっ?!」 リンクの絶叫を聞きつけた科学班のメンバーが、人混みを掻き分けて寄って来る。 「ざけんなっ!! 優勝賞品はウチのもんだ!!」 リーバーを中心に、決然と声をあげたインテリ集団を、リンクが烈しく睨みつけた。 「あなたにだけは絶対渡しませんよ、ホーキ頭っ!!」 「それは俺の台詞だ、二股マユゲッ!!」 獰猛な狼のように唸り合う二人の間に、また押し出されようとしたチャオジーが、懸命に抵抗する。 「かっ・・・勘弁してくださいぃぃぃぃぃ!!!!」 「何をやっているんだ、ラビ・・・」 「ん? 俺の代わりに、仲裁役をやらせようと思って 呆れ声のマリににこりと笑い、ラビはチャオジーを押し付けた。 「こいつに上手いツッコミと仲裁のやり方、教えてやって ティエドール部隊で生き残るには必要なスキルだと説得され、マリが頷く。 「じゃあまず、人間同士のケンカから仲裁してみろ」 ラビの手から逃げたと思った途端、マリに背中を押され、チャオジーは哀れな声をあげながら、リンクとリーバーの火花の中心へと押しやられた。 「・・・ひどいっすよぉぉぉぉ〜〜〜〜」 殴られてボコボコになった頭を抱え、泣くチャオジーの背を、ラビは励ますように叩いてやった。 「あっはっは まぁ、リンクもリーバーも、一応人間だから、殴られたって死ぬこたないさね 「人間って・・・?」 えぐえぐとしゃくりあげながら、涙目をあげたチャオジーに、ラビはどこか遠くを見ながら呟く。 「激怒したアレンやユウ・・・リナリーの仲裁をする時は、常に死を覚悟するこったな」 「それをさっきやらせようとしたんすかっ!!」 愕然とするチャオジーの背を、ラビはなだめるように叩いた。 「だって 俺だって命は惜しいもん 「はぅ――――――――っ?!」 信じてたのに、と、また泣声をあげるチャオジーに、ラビがにこにこと笑う。 「でもマジな話、ティエのおっさんの弟子になった以上、お前はこれからずーっとユウの弟弟子なんさ。 だったらマリがいない時、激怒状態のユウちゃんを止められるのはお前しかいないんさ いやに嬉しそうに笑うラビを、チャオジーが訝しげに見遣ると、彼は意地悪く口の端を曲げた。 「もう、ずっと待ってたんさ、俺 あの獰猛なユウちゃんと、あの悪魔みたいなアレンのケンカ仲裁してくれる奴 うふふ・・・と、気味悪く笑いながら、ラビが祈るように両手を組み合わせる。 「初めはクロちゃんに期待してたんけど、吸血鬼モードの時はともかく、普段は温厚な奴だしさぁ あんなに気弱げだと、まずあいつらに近づけねーじゃん?」 でも、と、ラビはキラキラと目を輝かせた。 「お前は最初ッからティエドール部隊決定だし ユウちゃんの弟弟子決定だし もう逃げらんないし 「んな――――――――?!」 愕然と絶叫したチャオジーの背を、ラビがまた、ぽんぽんと叩く。 「仲裁のタイミングは、マリが教えてくれるかんね 後はよろしくさ びっ!と、親指を立てて笑ったラビに、チャオジーは首を振ることも出来ず、ただ固まった。 と、 「なにしてんですかー? ゲーム始まるよ?」 帽子の羽をふわふわと揺らしながら、アレンが二人を呼びに来る。 「おう、今行くさ ホラ、チャオジー 固まったままのチャオジーを小脇に抱え、ラビは手招くアレンの元に駆け寄った。 「ゲームはアップル・ボビンで変更なしですって。 でも・・・・・・」 言葉を切ったアレンに、ラビが大きく頷く。 「コムイのこった。 どーっせ、とんでもねー仕掛けをしてるに決まってるさね!」 「まぁ、対策はしてますけどねー」 死人が出なきゃいいな、と言う、アレンの呟きに、凍ったままのチャオジーがびくりと震えた。 「はぁーぃ どぉもお待ちかね!ゲームの時間だよーん♪」 ステージに登場するや、ハイテンションな声をあげた本部室長の姿に、早速嫌な予感を覚えた者も多かった。 実際、彼の機嫌がいい時は、ろくなことがない。 それを経験上、最もよく知る科学班のメンバーは、ゲームへの意欲よりもむしろ、緊張感を高まらせた。 しかし、 「大丈夫だ・・・きっと、ゲームの内容を聞いた時点で、ほとんどの奴らが棄権する」 自信満々のリーバーの言葉に、部下達は大きく頷く。 「と、なると・・・。 残る敵は、エクソシストとファインダーっすね!」 「それに、情報不足の中央庁出向組だな」 呟いて、科学者達が見遣った先では、中央庁からやってきた監査官達が、無邪気に談笑していた。 「可哀想に・・・」 思わずあげた同情の声は、マイク越しのコムイの声にかき消される。 「そーれーでーは! 各班代表選手、前へー 各班・各組毎に5人ずつの代表が、ステージ下に集まった。 しかしそこには、水を張ったタライもリンゴも見当たらない。 ただコムイの立つステージが、彼らのはるか頭上と言う、とんでもない高さにあるため、厚い垂幕が壁のように彼らの眼前を遮っていた。 「なんだ?まだ運ばれて来てないのか?」 と、戸惑い気味の選手達に、コムイの声が降り注ぐ。 「ようこそ、勇気ある諸君! 今回のゲームは、伝統的なハロウィン・ゲーム! アップル・ボビンだよーん!!」 「勇気ある・・・諸君?」 コムイの奇妙な言い様に、中央からの出向者でありながら、エクソシスト組に紛れ込んだリンクが眉をひそめた。 「どういうことです? 私の記憶するところでは、アップル・ボビンとは、水に浮かべたリンゴを口だけでいくつ取れるか、もしくは取るまでの早さを競うものだと・・・」 「まぁ・・・すぐにわかりますよ」 アレンの乾いた口調がとても気になったが、リンクは黙って状況を見守る。 と、彼の助手にと、当然のように確保されたリナリーがステージ上に現れ、兄の傍らに立って、天井から伸びる紐に手をかけた。 「開幕ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」 リナリーが軽く紐を引くと、モーター音と共に垂幕が分かれ、左右へ収納されていく。 そして、同時に後退したステージの下に現れたのは・・・ 「水槽?!」 全員の視線が一斉に注がれた先には、数十人が一緒に泳げるほどに広く深いガラスの水槽に水が満々と湛えられ、その水面には大量のリンゴがたゆたっていた。 「これは・・・水中に入らないことにはムリですね」 水槽の縁と、水面までの距離を目測していたリンクが何気なく呟いた途端、各所からうめき声が上がる。 「? どうしました?」 振り返れば、真っ青な顔に脂汗を浮かべた団員達が、じりじりと退きつつあった。 「こんな・・・見た目通りのはずがない!」 思わず苦鳴を漏らしたリーバーに、団員達が一斉に頷く。 と、ステージ上の悪魔は、いかにも楽しそうな笑声をあげた。 「その通り! このアップル・ボビンは、水に入んなきゃリンゴを取れないってのもあるけどぉ・・・!」 にんまりと笑いながら、コムイは水槽に向かって、コイン大の金属を弾く。 それが水面に触れた途端、蒼い稲妻が走った。 「電流?!」 黒焦げになって沈んでいく金属を愕然と目で追いつつ、選手達が、そしてゲームを見守る団員達が、一斉に声を失う。 「あ、大丈夫大丈夫 死なない程度に設定してるからさー 「殺されてたまるか――――――――!!!!」 会場中に大絶叫が響き渡り、リーバーの予想通り、早速棄権する班が続出した。 「なんだよー! せっかく豪華商品用意したのにさぁー!ねーぇ?」 コムイはステージ上の椅子に、『賞品』として座らされたミランダへ話し掛けるが、彼女は真っ青な顔で震えるばかりで、声もない。 「残ったのはー・・・あ!科学はーん 可愛い部下達が残ってくれて、ボカァ嬉しいよ 心にもないことを白々しく言う兄の傍らで、リナリーは顔を引き攣らせ、ミランダは震える足をなんとか動かして、ステージの端にまでにじり寄った。 「み・・・皆さん、危険です!危険すぎます!!早く逃げてください!!」 悲鳴をあげる彼女を見上げた科学班は、しかし、決然と首を振る。 「他の賞品ならとっとと逃げるけど・・・」 「ミランダ姫は必ず俺らがゲットするぜ!!」 雄叫びをあげる彼らに、ミランダが更に何か言おうとした時、 「ちょっと待ってな」 にこりと、リーバーが笑った。 「すぐに、助けてやるからな」 途端、真っ赤になって声を失い、ミランダはぎこちなく頷く。 「うわぁ・・・! あてられちゃって、やってらんないよ・・・・・・」 引き攣った顔に苦笑を浮かべたリナリーが呟くと、コムイも唖然と口をあけたまま頷いた。 が、 「あなたなんかに渡しはしない!!」 突然、激しい声が沸き、棄権する人々の波を掻き分けて、リンクがこぶしを振り上げる。 「マンマは我がエクソシスト組がいただく!!」 「だーかーらー・・・。 僕が欲しいのは沈没船だって」 「それにお前、エクソシストじゃないじゃん・・・」 気炎を上げるリンクにアレンがため息をつき、ラビが呆れて肩をすくめた。 「ってかあいつ、最初はあんま、乗り気じゃなかったんに・・・」 「マザコンが!」 忌々しげに吐き捨てた神田は、電流の流れる水槽に浮かぶリンゴをふと見上げる。 「・・・? なんであのリンゴは、平気で浮いてんだ?」 黒焦げになって底に落ちた金属と見比べ、首を傾げると、寄って来た科学班のメンバー達が、水槽の底付近から水面上のリンゴをまじまじと見つめた。 「ゴム製だ!」 「うん、本物そっくりだけどあれ、ゴムだよ!」 「あぁ、それで電気を通さないんさね」 彼らと並んでリンゴを見上げたラビも、大きく頷く。 と、コムイはようやく気づいてもらえたとばかり、はしゃいだ声をあげた。 「その通り! 苛酷な環境ゆえに、少しでも君たちの苦労を減らしてあげようと思って! 滑りやすいリンゴの代わりに、くわえやすいゴム製にしてあげたよ!」 その苛酷な環境を作ったのは誰だ、と、皆の目が、口ほどにものを言う。 「あ、でもねー、リンゴのヘタの部分は、細くて作るのめんどーだったから、作ってないんだ★ みんな、がんばって噛み付いてネ★」 「難易度増してんじゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」 大絶叫を心地良げに聞いて、コムイはニコニコと笑った。 「じゃあ、始めようか! 参加者はー・・・エクソシスト組と科学班、探索班に・・・わーぉ!中央出向組!!」 一斉に視線が向いた先では、逃げ損ねたのだろう、呆然とした監査官達が、蒼ざめた顔で水槽を見つめている。 「さぁみんな、がんばっておくれよね!」 言うや、コムイは首にかけたホイッスルを手に取った。 「よーぃ!」 未だ凍り付いて動けない参加者達にも容赦なく、その声は耳に響く。 「スタート!!」 空気を引き裂くように響き渡ったホイッスルが、ゲームの開始を強要した。 「まずは絶縁体の確保ですね!」 このままでは感電死する、と、ごく当然のことを言ったリンクに、アレンとラビが、悪い笑みを見交わした。 「ふふん♪ この程度のこと、想定の範囲内ですよ♪」 「俺らの不幸経験値をなめんじゃないさ 「・・・言ってて虚しくないか?」 得意げに胸を張った二人に、神田が冷水を浴びせる。 「・・・・・・経験豊富なのは悪いことじゃないデスヨ」 「ただちょっと・・・ほんのちょっと・・・うん、平均よりも多めに、不幸に傾いてるだけの話さね」 凍りついた表情の中で、何とかぎこちない声をあげた二人に、神田が鼻を鳴らした。 「で? そう言うからにはもう、対策は取ってんだろうな」 「もちろん!」 声を揃え、大きく頷いた二人は、不敵な笑みを浮かべて掲げた腕を組み合わせる。 「天が呼ぶ!地が呼ぶ!人が呼ぶ!!」 「世紀末に舞い降りた、5人の戦士!」 「・・・・・・・・・・・・5人?」 二人の派手な台詞とポージングに、リンクが目を点にした。 「怪盗戦隊〜〜〜〜!!」 「怪盗・・・・・・?」 甚だ嫌な予感を覚えた神田が、きつく眉根を寄せて見つめる先で、脱ぎ捨てられた衣装が舞う。 「Gファイブ!!」 「なんでてめェまでポーズ決めてんだ!」 変身を遂げたアレンとラビに混じってポーズを決めるチャオジーに、神田がげんこつを落とした。 「いっ・・・痛いっす、神田先輩っ!!」 「なんっつーカッコしてやがんだ!こんなアホ共とつきあうんじゃねェ!!」 が、 「ふっふっふ!!」 「そんなこと言って・・・ユウちゃんもすぐに仲間入りさ!」 「誰がそんな馬鹿げた真似するか!!」 「いいや!するさね!」 自信満々に言ったラビは、頭を抱えるチャオジーを突き飛ばし、神田にぶつけてもろともによろけた隙に、素早く神田の背後に回り込む。 「Gブラック!」 ラビが神田の衣装の背縫いを掴むと同時に、同じくリンクの背後に回ったアレンも、彼の背縫いを掴んだ。 「Gイエロー!見参っ!!」 「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ?!」 二人の衣装はあっという間に剥ぎ取られ、それぞれの下から黒と黄色のコミカルな衣装が現れる。 「Gファイブ!登場〜〜〜〜〜!!!!」 その、あまりにも見事な変身に、見守る団員たちからも拍手が沸いた。 「なんっだこれはぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」 怒号を放つ二人の前で、チャオジーは怯えて身をすくめ、アレンとラビは大喜びで快哉をあげる。 「びっくりした?!びっくりした?!」 「衣装作ってもらう時、ジョニーに頼んで舞台用の早着替えの仕掛け作ってもらったんさね 「気づかなかったでしょ?!ねぇ、びっくりした?!」 「こんなこともあろうかと、絶縁体で作ってもらってっから、これなら電流の中でも大丈夫さ 怒り狂った二人にまくし立てつつ、アレンとラビはまた、悪い笑みを見交わした。 「そして、最重要なのが・・・!」 二人はそれぞれ、リモコンのようなものを取り出す。 「天が呼ぶ!地が呼ぶ!人が呼ぶ!!」 「世紀末に舞い降りた、5人の戦士!」 また、大声で決め台詞を叫び出した二人の動きに合わせて、神田とリンクまでもが、自らの意思によらず操られた。 「んなっ・・・?!」 「なにしてんだてめェらぁぁぁ!!!!」 しかし、二人の絶叫などお構いなしに、アレンとラビ、そして強要されたチャオジーが、派手なポーズを繰り出す。 「怪盗戦隊〜〜〜〜!!」 ややためた後、 「Gファイブ!!」 5人揃った決めのポーズに、団員達から拍手が沸いた。 「やったね、Gレッド!」 「うまく行ったさ、Gホワイト!!」 手を取り合って跳ね回るアレンとラビの傍らで、怒りと屈辱に震える神田とリンクを、チャオジーがおろおろと見つめる。 「あ・・・あの、神田先輩・・・」 「なにがレッドだ!!ホワイトだ!! こンの赤毛と腹黒小僧!!ブッた斬ってやる!!!!」 心臓の悪い者なら一瞬で昇天しそうな怒号をしかし、ホワイトとレッドは笑って聞き流した。 「えっへー ホワイトの衣装、かっこいいでしょ! チャームポイントは、ラベンダー色の縁取りですよ 「俺はレッドね! へへー 「チャオジーはグリーンで、リンクはイエローです!」 「ユウちゃんはブラックね 残念そうに言って、Gレッドは首を振る。 「ブルーの布地がなかったんさ・・・!」 「そう言う問題じゃない!!」 リンクに怒鳴られて、Gレッドはムッと顔をあげた。 「ブルー候補だったのにイエローにされちまったんが不満なんはわかるケド、材料がなかったんさ!仕方ねぇだろ!」 「そう言う問題でもない!!!!」 自分の意思ではピクリとも動かない身体を震わせ、リンクが絶叫する。 「なんで私がこんな、馬鹿げた格好をしなければならないのかと言ってるんだ!!」 と、Gホワイトが白々しく手を打った。 「電流の流れる水中に潜るためです!」 それには、と、GホワイトはGグリーンに指示して、真ん丸い被り物を5つ、運んでこさせる。 「これをかぶって完全体に!!」 大きくつぶらな一つ目で、じっとこちらを見つめる被り物に、リンクも神田も頬を引き攣らせた。 「なにが完全体だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」 「大丈夫! 口の部分は開くようになってっから!」 「だからそう言う問題ではないと・・・!!」 と、 「ねーぇ、君たち。 たのしそーなトコ悪いけどーぉ」 頭上から、のんびりとしたコムイの声が降り注ぐ。 「ゲーム、始まっちゃってるよぉ?」 見あげれば、ガラスの水槽の縁には既に、参加選手達が幾本ものはしごをかけてたかっていた。 どこから調達したものか、ゴム手袋やゴムマスクで武装した彼らは既に、いくつかのリンゴを確保している。 「やっべ!! このままじゃ2位も危ないさ!」 「沈没船!! 絶対お宝ゲットするんですからぁー!!!!」 GレッドとGホワイトは、それぞれにブラックとイエローの腕を取り、慌てて水槽へと駆け寄った。 「ホラ!文句はゲームの後で聞くから!」 「なんならその衣装、ブルーに染めてやっから!」 神田とリンクが口を開く前に、レッドとホワイトは頭上はるかを漂うリンゴを示す。 「今はゲームに専念!!」 反駁を塞がれ、更には身動きを封じられたまま水槽の縁まで連れられて、二人は屈辱にこぶしを振るわせた。 が、潜水服を着こんで完全武装した科学班が水中に入るのを見るや、リンクの両目に炎が燃え上がる。 「ここは仕方ない!! 絶縁体の衣装とやらを・・・信じましょう!!」 意を決して真ん丸い被り物をかぶり、水に飛び込んだリンクがすいすいと泳ぎ出すと、水槽の向こう側で、ジョニーが仲間達からげんこつをもらっているのが見えた。 おそらく、『ナニ敵に塩を送ってんだ!』とでも言われているのだろう、可哀想なほどへこへこと謝っている彼に暖かい拍手を送り、続いてGホワイトが飛び込む。 「レッドー!グリーンとブラックも早くー!!」 「おう♪」 「はいっす!」 「誰がブラックだコンチクショー!!!!」 レッドとグリーンに両脇を固められたブラックが、被せられた丸い頭を激しく振りつつ、絶叫と共に水槽に飛び込んだ。 「がんばれー!!!!」 ステージの上からリナリーが叫び、その傍らで、はらはらとミランダが状況を見守る。 その視線の先で、鮮やかな黄色のGが、周り中をリンゴに囲まれながら困惑げに立ち泳ぎをしていた。 「あら・・・? どうしたのかしら?」 いつまでもリンゴを取ろうとしないイエローに、ホワイトがすいすいと寄って行く。 「どうしたんですか、イエロー? ホラ、マスクを外さなきゃ」 かぽ、と、つぶらな一つ目が描かれたマスクを取ると、ホワイトは間近のリンゴに噛みついた。 途端、 「っぷぎゃっ!!」 電流に鼻を弾かれて、涙を浮かべる。 「・・・・・・電流を甘く見るんじゃありませんよ」 愚かな、と、冷酷な目で見られて、ホワイトはむぅ、と眉根を寄せた。 「じゃあみんな、どーやって・・・」 ふと見回したところ、探索班のファインダー達は、電流をも恐れず果敢にリンゴをくわえ、中央出向組も同じく・・・しかし、泣きながらリンゴと戦っている。 だが科学班はさすがと言うべきか・・・蛸のように吸盤のついたゴムマスクをかぶって、ひょいひょいとリンゴを確保していた。 「あれ、許されるんだ・・・・・・」 さすがはコムイさんの部下、と、呆れ気味に呟いたホワイトのまんまるい頭が、背後からこんこんと叩かれる。 「なに、レッド?」 「このふさふさに、粘着テープつけてくわえるってのはどーさ?」 「ならばむしろ!」 イエローがレッドへ手を伸ばし、そのまんまるい頭部の両脇についた房を、ぶちっと引きちぎった。 「これを繋げて結び、マスクにすると言うのはどうです?」 「ナイス、イエロー!!」 「カレー食わせとくだけじゃ、もったいないさね!」 「カレー・・・?」 レッドの謎の言葉に首を傾げたものの、イエローは手早く房を結び、マスクをはずす。 と、その瞬間、イエローの背後にまんまるい潜水服が浮かび上がってきた。 「おぉーっと、すまん!」 丸いヘルメットの向こうから響く、くぐもった声では誰だか判じかねたが、明らかに科学班のメンバーである彼は、わざとらしく詫びつつイエローを水中に沈める。 「んぎゃあああああああああああああ!!!!」 マスクを外した瞬間を狙われたイエローは、むき出しの顔に電流を浴びて、ぷかりと水面に浮かんだ。 「悪いな、視界が利かなくてさ」 いけしゃあしゃあと言った口調は・・・間違いなく、リーバーのものだ。 「こーんな中で素肌さらすと危険だぞ?気をつけろよ」 じゃっ!と、手を振って再び水中に沈んで行った彼を、真っ青な顔で見送った戦士たちは、慌ててマスクを再装着した。 「あ・・・あぶないさっ!! やっぱ正義の味方は、素顔さらしちゃダメなんさっ!!」 「ひぃぃぃんっ! こわっ・・・こわっ・・・怖いよぉぉぉぉ!!」 マスクが外れないよう、両手でしっかりと押さえつけたまま、ホワイトがくぐもった泣き声をあげる。 と、ブラックが辺りを見回し・・・忌々しげに舌打ちした。 「おい、周りを見てみろ」 言われて水槽を見渡せば、イエローの他にもファインダーや監査官達が、リンゴに囲まれて浮かんでいる。 「えっ・・・えげつないっす・・・・・・!」 怯えるあまり、泳ぐことを忘れて沈みかけたグリーンが、慌てて浮かび上がってくるや、水面下を指した。 「しっ・・・下下下!!」 「なに?」 3人が潜ってみると、今にも彼らの足を引っ張ろうとしていた潜水服達が、なんでもない振りをして、白々しく泳ぎ去っていく。 「・・・・・・ッサバイバル!!」 「ってかもう、アップル・ボビンじゃないさ!浮かんでんのはリンゴじゃなくて、人間じゃないさ!!」 悲鳴をあげて棄権しようとするレッドの首にしかし、ホワイトが腕をかけて逃亡を防いだ。 「なにすんさっ!放すさぁぁぁぁぁ!!!!」 「敵前逃亡すんのか?」 ブラックにまで冷酷に言われ、レッドが更に暴れ狂う。 「命あってのものだねさ!」 一旦退却、と、泣きながら足をばたつかせるレッドに、ホワイトは『静かに』というジェスチャーをした。 「僕、勝てなくても負けない方法を思いつきました!」 「へ・・・?」 「なんだ?」 途端におとなしくなったレッドの隣で、ブラックまでもが興味深げに問う。 するとホワイトは、今の今までしっかり押さえつけていたマスクを外し、科学班に向かってにっこりと笑いかけた。 「Gファイブで、優勝賞品にこだわっていたのはイエローだけです!」 潜水服のヘルメットをつけたメンバーにも聞こえるよう、大声で言い放つと、ホワイトは白目を剥いて水面に浮かぶイエローを示す。 「彼が戦線離脱した今、僕らが狙ってんのは2位の沈没船なんですよ! だから・・・」 水面上に浮かび上がってきた潜水服達に、ホワイトは笑って親指を立てた。 「協定、結びましょ!」 彼の提案に、潜水服達はすぐさま『OK』のサインを送る。 「じゃー、ファインダーと監査官達が起きる前に、彼らより多くリンゴ取っちゃいましょ!」 「よっしゃ ホワイトの功績を盛大な拍手で称え、レッドは早速、水槽外の団員から投げてもらった粘着テープをマスクの口元につけた。 「よく考えたら、こっちにつけてもいいんさね 「ラビさん・・・。 だったら最初っからそう言ってれば、監査官は・・・・・・」 引き攣った声をあげるグリーンに、しかし、レッドは『えへ 「だーって さっきは思いつかなかったんだもんさ 言いながらも、レッドは早速粘着テープにくっつけたゴム製のリンゴを、エクソシスト組の籠に放り込んでいった。 間もなく、ゲーム終了の時間になり・・・。 「優勝はー! 科学はーん♪やっほーぃ!!!!」 可愛い部下達の優勝を、コムイが喜び勇んで告げた。 「あー楽しかった楽しかった 首にタオルを引っ掛けて、満足げに笑うラビに、アレンが吹き出した。 「怖がって逃げようとしてたくせに!」 「ばーか!そっちじゃねーよー♪」 楽しげに笑って、ラビは背後を示す。 その先には、未だずぶ濡れのまま床に伸びたリンクと、G戦隊の衣装を脱ごうと苦戦している神田の姿がある。 「ユウちゃんたら、俺らがリモコン持ってる限り、脱げやしねーのに 「ふふふ ティムは科学班に確保されたままだけど、この映像は教団のログに残ってますよね 後で見せてもらおーっと 楽しみで仕方がないとばかり、アレンがぴょこぴょこ飛び跳ねていると、ステージ上からコムイに呼ばれた。 「賞品授与するよー! 参加選手は上がっておいでぇー!」 「わーぃ 更に喜び跳ね回りながらステージに上がるアレンの後を、気絶したリンクを背負ったチャオジーと、嫌がる神田の腕を引くラビが追う。 「ハイ、みんなよくがんばったねー! 特に科学班! いつも頭でっかちだの、墓場に棲息するゾンビ集団だのと言われている我らが科学班が優勝できるなんて!ナイス!!」 「・・・・・・経験に基づく戦略の勝利っすかねー」 乾いた声をあげ、じっとりと恨みがましい目で睨んでくる部下達からぎこちなく目を逸らし、コムイはリボンで派手に飾られた鍵をミランダに渡した。 「ハイ、囚われの姫から騎士達に渡してあげて 優勝賞品本人にプレゼンターをさせると言うコムイの計らいに、団員達から拍手が沸く。 「あ・・・あの・・・・・・」 代表者のリーバーに鍵を渡しながら、ミランダは真っ赤になった顔を懸命にあげた。 「た・・・助けてくださって・・・ありがとうございます・・・!」 なんとか言い切った彼女にも、大きな拍手が沸く。 そして鍵を受け取ったリーバーが手錠を外し、賞品を抱きしめた時には、興奮は最高潮に達した。 「・・・あれ? この場合、身代金はどうなるんだっけ?」 皆と一緒に拍手をしていたアレンがふと呟くと、コムイの傍らでリナリーが、にこりと笑う。 「ミランダをエントリーした時にたくさんもらったから、後でみんなでわけようね 「やったぁ 更に激しく拍手をしていると、次に2位のエクソシスト組、グループ名・Gファイブが呼ばれた。 「わーぃ アレンが快哉をあげつつ送り出したラビが、リナリーの手から分厚い目録を受け取る。 「・・・? 沈没船の権利書か何かか?」 訝しげに呟いた神田を、アレンが意地の悪い笑みを浮かべて見遣った。 「あー、沈没船ね。 あれはもう、どうでもいいんです」 「は・・・?」 神田が更に眉根を寄せると、アレンは大声で笑い出す。 「あれは君とリンクを釣るための口実ですよ! 船が沈んでたのはホントだけど、あれ、実は魚の営巣用に沈められた漁船なんですよね!」 「ホントの賞品はコ・レ ジェリー姐さんのハロウィン・スイーツ一年間食べ放題 戻ってきたラビが、嬉しげに掲げた目録を睨み、神田がこぶしを震わせた。 「テメェら・・・!よくも・・・・・・!!」 「あ・・・いや、だってさ・・・? ユウちゃん、スイーツが賞品なんつったら、絶対参加してくんねーじゃん?」 怯えた声を出すラビの横で、アレンがせせら笑う。 「はんっ! 本当にお宝積んでる船なんてもんが沈んでたら、とっくに僕が引き上げてますよ!」 決まってんでしょ、と、笑って、アレンはまんまるい被り物を掲げた。 「それに、神田とリンクにはぜひとも、Gファイブに参加してもらいたかったし?」 にこりと笑ったアレンに、神田が掴みかかった。 「ブッ殺す!!」 「ふふふふふ アレンが自信満々に言い放った途端、神田は動きを封じられ、奇妙なポーズをとらされる。 「ジョニー発明の、戦隊スーツを甘くみんじゃないですよ 「ジョニィィィィィィィィィ!!!!!」 「ひぃっ!!」 地獄から湧き上がってきたような怒号を受けて、科学班で快哉をあげていたジョニーが怯えた。 「あはははは 今日一日はこのカッコしてもらいます だって・・・・・・」 にやりと、アレンの口の端が歪む。 「お菓子くれなかったもん 「覚えてろよ、テメェェェェェェェェェェェ!!!!」 神田の怒号に、リンクがはっと目を覚ました。 「マンマはっ?!」 慌てて見回した視線の先に、ミランダを確保して舌を出すリーバーを見つけ、リンクが白目を剥く。 「わぁ とうとう白目剥いたね!」 嬉しげに笑って、リナリーはアレンと手を打ち合わせ、激怒する神田の隣でラビも快哉を上げた。 その様を傍らでずっと見ていたチャオジーは、肩を落として深々と吐息する。 「ラビさん・・・マリ先輩・・・・・・。 やっぱ俺、無理っす・・・・・・」 仲裁役を命じられても、次は絶対断ろうと、チャオジーはハロウィンの夜に浮かぶ、魔女の爪のように細く鋭い月に向かって誓いを立てた。 Fin. |
| 2008年ハロウィン作品第3部『リナリーの冒険・夢の後』です(笑) 怪盗Gが現れたのは12月のパリなので、この時期彼らがその存在を知ってるわけがないんですが、今が旬ですもんね!(笑) 来年、使えないかもしれないじゃん、ってコトで、今年使ってみましたよ!(笑) ちなみにこれ・・・第4部へ微妙に続きます(笑) あちらの夢の後は一体、どうなってるんでしょうね(笑) どうぞご期待くださいな |