† 黒鶫 †





ポケットにライ麦を 詰めて歌うは街の唄
つぐみを二十四パイに焼き 切って差し出しゃ鳴きいだす
お城料理のすばらしさ
王様お庫で宝をかぞえ 女王は広間でパンに蜂蜜
若い腰元庭へ出て 干しに並べたお召しもの
そこへ小鳥が飛んできて 可愛いお鼻を突っついた
(マザー・グース 6ペンスの唄)


 「ミス・キャメロット!昨日は学校を休んで、どちらへ行かれていたのですか?!」
 黒いヴェールで頭をすっぽりと覆ったシスターが、眉根をきつく寄せ、目の前の少女を厳しく問い詰めた。
 「風邪を引いて寝ていました、院長先生」
 「嘘をおっしゃい!!あなたが学校を抜け出して、街をうろついていたことは、わかっているのですよ!」
 「へえ・・・?誰がそんなこと言ったの?」
 彼女の不遜な態度に、学院長である年配のシスターは、きつく眉根を寄せる。
 「わたくしには・・・いえ、教師には敬語でお話しなさい、ミス・キャメロット!」
 古いが、丈夫な机を拳で叩き、院長は声を荒げた。
 「それでなくとも、最近は学内で、何度も物騒な事件が起こっているのです。
 そのように不遜な態度をとっていては、無用な疑いを招きますよ?!」
 院長の言う、『物騒な事件』とは、最近、学内で頻繁に起こる、小動物の殺傷事件のことだ。
 厳しい校則によって抑圧された学内にいる者の鬱憤晴らしか、執拗に痛めつけられた小動物の骸が、度々学内の目立つ場所に放置され、教師や生徒達の神経を尖らせている。
 「さて、勝手に寮を抜け出したあなたに、罰則を与えねばなりません、ミス・キャメロット!」
 「証拠もないのに?」
 にぃ、と、唇を歪める少女に、院長は更にいきり立つ。
 「えぇ、証拠がなくても、です!
 わたくしには、あなたの態度が改まるよう、指導する義務があります!」
 「・・・・・・」
 不快げに、唇を尖らせた少女に、院長はぞんざいに手を振った。
 「部屋に戻って謹慎していなさい。罰則は、後ほど報せます」


 自室に戻った少女は、憮然として、どさりとソファに腰をおろした。
 学校の寄宿舎の一室にしては、意外なほど豪華な部屋だ。
 広々とした部屋は、居間と寝室の二間続きで、少女がこの学校で特別な扱いを受けていることは、一目で知れた。
 「チックショ・・・ムカつくババァだぜ」
 少女は、レディらしからぬ口調で呟くと、手近のぬいぐるみを取り上げ、力任せにドアに叩きつける。
 「テキトーなこと抜かしやがって、僕が外に出たなんて、お前にわかるわけないだろっ!!」
 手近のものを次々と投げつけながら、少女は声を荒げた。
 「僕がっ・・・昨日っ・・・なにをしていたかなんてっ・・・!!」
 ふと、手に握ったペンに視線を移し、少女は不意に、ニタリ、と、口の端を曲げる。
 「ふふ・・・昨日・・・か・・・・・・」
 昨日、彼女は、ようやく会えたエクソシストと『遊んで』いた。
 彼の、左目を抉った感触・・・。
 自分が敵だと知った時の、あの、絶望と悔しさに満ちた顔を思い浮かべると、それまでの怒りはどこへやら、溜飲が下がったような清々しさを感じた。
 「Allen・・・Walker・・・・・・」
 クスクスと、笑声を上げながら、彼女は、手にしたペンでその名を書いた。
 「Fancy♪」
 そう、彼女が機嫌よく呟いた時、
 「ろーとタマ、ご機嫌治ったレロ?」
 奇妙に甲高い声が、少女の他、誰もいない室内に響く。
 「まぁね。
 あのババァは、近いうちに痛い目遭わせるけどぉ」
 無邪気に笑って、少女は、ソファの傍らに立てかけられた傘に話しかける―――― と、その先端についたカボチャが、深々と吐息した。
 「早く、レロを伯爵タマの所へ帰して欲しいレロ・・・」
 「なんだよぉ。いいじゃん、もう少しくらい。千年公もいいって言うよ」
 「よくないレロ!!今回も、黙ってレロを持ち出したんレロロ?!早くレロを返さないと、伯爵タマに叱られるレロ!!」
 「ちぇーっ。うっさいなぁ、もう・・・」
 呟いて、ロードはソファの上で、行儀悪くあぐらをかいていた足を下ろした。
 と、彼女の足元から、じわじわと光が失われていく。
 「千年公は留守じゃないよね?」
 「当たり前レロ!!レロを置いて、お出かけされないレロ!!」
 「それはどーかなぁ?」
 意地悪く笑いながら、ロードは傘を手に取ると、闇に覆われた部屋に現れた、大きな扉を開いた。
 その先は、更に漆黒の闇。
 星のように灯る、微かな蝋燭の光に照らされた回廊を危なげなく渡り、彼女は、目当ての扉を開ける。
 「伯爵ー!!あそんでー!!」
 彼の部屋に飛び込んでいくと、ロードの大好きな伯爵は、安楽椅子にゆったりと腰掛け、編み物の最中だった。
 「ぴゃ?!ロード!アナタ、また我輩のレロをちょろまかしましたネ?!」
 編み物をする手を止めて、彼女に向き直った伯爵に、ロードは甘えて擦り寄った。
 「いいじゃん、ちょっと遊んだだけだよー」
 「・・・楽しかったデスカ?あの子供ハ」
 「うん、とってもね」
 伯爵の問いに、笑みで頷いて、ロードは傘を差し出す。
 「レロをありがとぉ」
 「まったク・・・悪い子デスネ、ロードは」
 そうは言いつつも、怒ってはいない様子の伯爵に、ロードは、無邪気な笑みを深めた。


 ロードが、伯爵の部屋から寄宿舎の自室に戻ると、廊下へ続くドアの下の隙間から、一葉のメモがのぞいていた。
 拾い上げると、院長の筆跡で、『罰則 本日は自室謹慎。食事は抜きです。尚、明日までにフランス語古詩の英訳、および暗誦のこと』と、走り書きしてあった。
 「けっ・・・!クソババァ」
 忌々しげに顔をゆがめて、ロードはメモを握りつぶす。
 「証拠もないくせに!!」
 床に散らばったままのぬいぐるみを蹴り上げて、ふと、ロードは動きを止めた。
 昨日も、彼女は先程のようにして部屋を出たのだ。
 校内や、街をうろつくようなヘマはしていない。
 なのに、どうして院長は、ロードが『街をうろついていた』などというのか・・・・・・。
 訝しげに眉をひそめた彼女の耳が、いくつもの、騒がしい足音をとらえた。
 何事か、と、廊下へ続くドアへ目をやった途端、それは、外から開かれた。


 「ミス・ロード・キャメロット!!」
 数人の若いシスターを従えた院長が、ロードの部屋に怒鳴り込んできた。
 驚いたロードが、目を丸くしていると、シスターの集団は一様に険しい顔で、彼女の部屋に入ってきた。
 「なんと罪深い事を・・・!!
 どうしてあのようなことをしたのか、説明なさい!!」
 訳もわからないまま怒鳴られて、ロードはムッと眉をひそめる。
 「なんのことだよ!いきなり怒鳴ってんじゃねぇよ、ヒステリーババァ!!」
 粗暴な言葉を受けた院長が、怒りのあまり、真っ青になって震え出した。
 「なんと無礼な・・・!許しませんよ、ミス・キャメロット!!」
 「誰が許しなんて請うもんか!!」
 目を尖らせ、多くのシスターを前にしても威圧されることなく、傲然と言い放ったロードに、逆に、シスター達の方が怯みを見せる。
 が、ただ一人、院長だけは、ロード以上に目を尖らせて、怒鳴り返した。
 「では、弁明なさい!
 どうして、動物を殺してさらしたのですか?!」
 「は?動物・・・?」
 眉をひそめたまま、ロードが訝しげに問い返すと、『しらばくれるんじゃありません!』と、また怒鳴られる。
 「最近の事件の、犯人はあなただったのですね!
 さぁ、正直におっしゃい!どうしてこのようなことをしたのです?!」
 その断定的な言い様には、ロードでなくても反抗心を抱かずにはいられなかったろう。
 「・・・くだらねぇ」
 低く呟くと、ロードは、冷たい目で、院長を睨みつけた。
 「なんの証拠があって、僕がそんなくだらないことをしたっていうのさ?」
 「証拠ですって?!」
 心なしか、勝ち誇ったような声を上げ、院長は、シスターの一人を手招く。
 「これは、あなたの服ですね、ミス・キャメロット?!
 犯人があなたでないと言うのなら、この血はどうしたことですか?!」
 院長が広げて見せたのは、確かに、彼女が昨日着ていた服―――― それには彼の・・・アレン・ウォーカーの血が、べっとりと染み付いていた。
 「・・・僕の部屋に、勝手に入ったのか?」
 「当然の権利です!」
 傲然と言い放った院長に、ロードの目が、剣呑さを増す。
 「言い逃れはできませんよ、ミス・ロード・キャメロット!
 先程は、今日一日の謹慎を命じましたが、本日より一週間、部屋から出てはいけません!
 更に、ご家族にお手紙を差し上げ、その後の処分を検討することにします!いいですね?!」
 反駁の声を上げる間も与えず、院長は一方的に宣言すると、くるりと踵を返して部屋を出た。
 「全く、恐ろしい・・・!!
 我が伝統ある学院に、あんな子がいるなんて!!」
 聞こえよがしの声と共に扉は閉ざされ、外から錠を掛けられた。


 「冗談じゃねぇよ!!なんで僕が、ドーブツなんか殺さなきゃならないんだ!!」
 声を荒げて、ロードは、床に散らばったままのぬいぐるみやクッションを、拾い上げては所構わず投げつけた。
 「僕がっ・・・殺しているのはっ・・・人間だけだっ・・・!!」
 憐れを乞うばかりで、いたぶり甲斐のない動物を殺すことは、ロードの趣味ではない。
 「それをっ・・・あいつらっ・・・!!」
 部屋に勝手に入り込み、楽しい思い出の品にと、取っておいた服を盗み出した院長達に、ロードの怒りは増した。
 「絶対に許さない・・・!!」
 自分の名誉を傷つけた・・・。
 ノアの一族である彼女を、野良犬のごとき猟奇趣味の輩と同等に扱った院長達と、自身の犯行を彼女になすりつけた者・・・。
 「必ず見つけ出して、なぶり殺しにしてやるっ・・・!!」
 ぎり、と、爪を噛み締め、低く呟いたロードの足元から、再び、闇が広がっていく。
 と、その中から、湧き上がるように数体の闇が蠢き出てきた。
 「ろーどサマ・・・」
 「ロードさま・・・・・・オ呼びでスか・・・・・・」
 歪な人形達が、つたない口調で、口々にロードへ語りかける。
 「あぁ・・・!犯人探しだ」
 捕らえたのちのことを思い、ロードの唇が、禍々しく歪んだ。


 「院長!ミス・キャメロットが、部屋ニいませン!!」
 「なんですって?!部屋には、鍵をかけていたのではないのですか!」
 院長室に飛び込んできたシスターに怒鳴ると、彼女は、激しく頷いた。
 「モ・・・もちろんデす!
 ですガ、気ガついた時には錠が壊されてイテ、部屋からはミス・キャメロットが消えていまシた!」
 彼女は、ロードがあの、惨たらしい事件の犯人だと信じているらしい。ひどく怯え、震えている。
 ために、院長に
 「すぐに探しなさい!」
 と命じられた時、
 「ワ・・・私がでスか?!」
 と、甲高い悲鳴を上げてしまった。
 「あなただけではありません。手の空いているシスター達に報せて、皆で探しなさい!
 ただし、生徒達にはなるだけ、気取られないように」
 「は・・・はイっ・・・!」
 一礼するや、逃げるように院長室を出て行った彼女の背を見送ると、院長は、軽く吐息した。
 「全く、臆病なこと・・・ねぇ、お前」
 気味の悪い猫なで声で、院長は古く頑丈な机の下、彼女の足元に横たわる毛玉に呼びかけた。
 「おや、お前。もう動かなくなってしまったのかい」
 幾度か、軽く蹴ってみるが、ふわふわとした長い毛の下の感触は既に固く、硬直してしまっている。
 「なんだ、つまらない。
 あのシスターさえ入ってこなければ、もうちょっと可愛がってやれたのにねぇ」
 言いつつ、彼女はかがみこんで、足元から長毛種の猫を拾い上げた。
 「でもまぁ、あの小娘が部屋を出たと言うのならちょうどいい。
 これも、あの娘のせいにしてやるか・・・・・・」
 そう言って彼女は、引き出しの中から、ペーパーナイフを取り出した。
 細い切っ先を、固く閉じられた猫の眼窩に寄せる。
 「お前の目は、きれいな青だったねぇ・・・」
 にんまりと、禍々しい笑みを浮かべ、ナイフの切っ先を猫の眼窩に差し入れようとした瞬間、青い目が、カッ、と見開かれた。
 「なっ・・・?!」
 驚いて、身を引いた彼女を追いかけるように、猫が鋭い爪を剥く。
 「きゃっ・・・!」
 骨ばった胸元にぎしりと爪を食い込ませ、喉笛に喰らいつこうとする猫に、院長は幾度もナイフを突き立てるが、猫は力を失うどころか、ますます凶暴になって、彼女に襲い掛かる。
 「ば・・・化け物!!悪魔めっ・・・!!」
 激しく罵っては、猫を引き剥がそうとする彼女に、嘲弄交じりの声がかけられた。
 「悪魔って、アンタのことじゃねぇの?」
 ぎくりとして見遣ると、部屋の暗がりに、ロードが立っていた。
 「ミ・・・ミス・キャメロット・・・!あなた、いつの間に・・・?!」
 「んー?院長先生が、その猫を蹴って遊んでいた辺りからかなぁ?」
 にやにやと、意地の悪い笑みを向けるロードに、院長は顔を強張らせた。
 「陰湿なババァらしい、いい趣味だよねぇ。死ぬまで蹴って遊ぶってさぁ」
 「だ・・・黙りなさい!わたくしにそのような口を利いて・・・」
 「ただじゃすまないってぇ?
 ふふ・・・どっちがさぁ?」
 軽い笑声を上げて、ロードは、未だ猫を引き剥がそうともがく院長に歩み寄った。
 「伝統ある女学院の、名誉ある院長先生の趣味は、小動物を嬲り殺して学内にさらす事ですって教えてあげたら、父兄はなんていうかなぁ?」
 「なっ・・・・・・!」
 「ただじゃすまないよぉ、院長先生ぇ?」
 にぃ・・・と、禍々しい笑みを浮かべたロードの背後で、ドアが開いた。
 「ミス・キャメロット・・・!」
 入ってきたのは、先程、ロードの不在を院長に知らせたシスターだった。
 「あぁ、シスター!!早く、この子を捕まえなさい!この子がわたくしに、猫をけしかけて・・・?!」
 院長の甲高い声は、途中で喉に絡むようにして消えた。
 彼女が呼びかけたシスターの顔が、目の前で異常に歪み、恐ろしく変貌したのだ。
 「院長オゥ・・・ろー・・・ど・・・サマ」
 「ひぃっ・・・!!」
 真っ青になって震える院長に、ロードが、弾けるように笑いだした。
 「キャハハハハハハハ!!!イイ顔すんじゃん、院長ぉ?
 おい、お前達。腹減ったろぉ?
 こんな萎びたババァじゃ、美味くないかも知んねぇけどさ、遠慮なく喰えよ」
 変貌したシスターの傍らに広がった闇の中から、次々と蠢き、現れた異形の姿に、院長は悲鳴じみた声で必死に神の名を唱える。
 「アンタに呼ばれたんじゃ、神様も迷惑だろうさぁ」
 ロードは、院長の体が幾体ものアクマ達に喰われて行く様を、冷淡に眺めながら、嘲弄を含んだ声で呟いた。


 「・・・ミス・ロード・キャメロット。謹慎を解きます。出ていらっしゃい」
 ロードの部屋の鍵を開けた副院長は、沈痛な面持ちで言うと、彼女を廊下へと導いた。
 「副院長先生ぇ、どうかしたんですかぁ?」
 ロードが白々しく尋ねると、副院長は、深いため息をつく。
 「動物を殺していた犯人は、あなたではないとわかりましたので、謹慎を解いたまでです」
 「よかったぁ。じゃぁ、本当の犯人が捕まったんですね?誰?」
 無邪気を装った問いに、副院長の顔が強張った。
 「・・・が・・・外部の・・・・・・・・・」
 祈るように、固く手を握り合わせ、声を引きつらせる副院長を見上げて、ロードはにやりと笑う。
 「なーんだ、外部の人間の仕業だったんだぁ?
 じゃあ、院長先生もお喜びだねぇ。伝統あるこの学院に、『悪い子』がいなくってさぁ」
 嘲弄を含んだ声に、副院長は応える事もできず、ただ、喉を引きつらせた。
 つい先程、彼女と、複数のシスター達が見たもの・・・。
 それは、狂ったように笑いながら、猫の骸を引き裂く院長の姿だった。
 あまりにもおぞましい姿に、凍りつく彼女たちの前で、院長は、それまでの罪を告白したのである。
 彼女は今、僧服を剥ぎ取られ、『気の狂った外部の人間』として、警察に引き渡された。
 伝統ある学院の名誉を守るため、それは、必要な措置だった。
 そのうち彼女は、『急な病で学院を去った』と、説明されるのだろう。
 顔を強張らせたままの副院長の傍らを歩きながら、ロードは、院長に成り代わったアクマの仕業に、満足げに微笑んだ。






Fin.

 











・・・すみません。
アガサ・クリスティのミステリーを見ていて、思いついたお話だってことは確かなのですが、『ポケットにライ麦を』と、『24羽の黒つぐみ』と、どちらを見て思いついたのかは覚えていません;;
ロードちゃんが学校に行っていることが確定してからだから・・・24羽の方かなぁ・・・???
書いていて気づきましたが、私、どうやらロードちゃんの事が大好きだったようで、とても楽しかったですv
それに、なんと言っても伯爵が書けて、ものすごく幸せでした・・・!!(この人、変です;)
伯爵のシーンは、エリアーデの回想シーンと同じでス★











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