† After The Adventure’s DreamU †






 「ティッキーv Trick or Treat!」
 キャメロット邸を訪ねるや、飛び掛ってきたロードを受け止め、ティキは口をへの字に曲げた。
 「菓子なんて持ってきてねっつの」
 「えぇー!!なんでぇぇぇ!!!!」
 不満げに絶叫したロードを小脇に抱え、ティキは困惑げな使用人達を制して、勝手知ったる邸内を堂々と歩む。
 「今日は千年公じゃなく、シェリル主催のパーティに呼ばれてきたんだ。
 ご馳走すんのは俺じゃなくて、お前のパパ・・・」
 「なんだよ、ティッキーのケチ!!貧乏性!!」
 腕の中でじたじたと暴れるロードを持て余し、ティキは彼女を下ろしてやった。
 「・・・?
 なに、そのカッコ?」
 ハロウィンパーティにふさわしく、仮装した少女の姿を改めて見つめたが、フリルのたくさんついたドレスに王冠をかぶり、王錫まで持った彼女の姿は、ティキのいかなる記憶にも合致しない。
 と、ロードは王錫を振り振り、得意げに笑った。
 「えっへーv アリス女王だよv
 「・・・って、ナニ?」
 ティキが首を傾げると、ロードは不満げに眉根を寄せる。
 「アリスだよ!鏡の国のアリス!知らないのぉ?!」
 「不思議の国のアリスなら・・・なんとなく聞いたことはあるケド、鏡の国ってのは知らねェなあ」
 そっけない口調で言いながら、すたすたと邸の奥へと歩いていくティキをロードは追いかけ、その腕に縋って足を止めさせた。
 「英国の子供なら、誰だって知ってるよぉ?!」
 「あいにく俺は、ポルトガル生まれなもんで」
 けんもほろろに言うと、ロードが思いっきり頬を膨らませる。
 「なんだよ、ティッキー!
 せっかくのハロウィンなのに、すっごい不機嫌っ!!」
 げしっと、向こう脛を蹴られたティキは、思いっきり顔を歪めて、小さな暴君の襟首を掴んで吊るしあげた。
 「誰のせいだ?
 ハロウィンって聞いただけでキモチ悪くなっちまうほどのトラウマを植えつけたのは、誰だったかなぁ?!」
 「なんだよぉ・・・まだ去年のこと、根に持ってたのぉ?」
 ティキの眼前に吊るされたまま、ロードが意外そうに言うと、ティキの顔が引き攣る。
 「去年?!
 去年もそうだが、一昨年のことも忘れちゃいねぇぞ、コノヤロー!!!!」
 「ティッキーって根に持つんだねェ。
 だから、顔はイイのに女の子にモテないんだよ」
 「うっせぇよ!マジうっせぇよ!!
 ってか、根に持つって言い方やめてくんない?!
 トラウマなんだよ!
 これはトラウマっつーんだよ!!」
 ティキのヒステリックな声に、邸の奥から何事かと、主が顔を出した。
 「おいおい、なんの騒ぎだい?」
 「お父様ぁー!!」
 ティキに吊るされたロードが、憐れっぽい声をあげると、シェリルが顔色を変えて駆け寄る。
 「ティキ?!
 僕の可愛いロードに、なにしてるんだいっ?!」
 ティキに吊るされたロードを奪い取り、大事そうに抱えたシェリルを、ティキは呆然と見つめた。
 「・・・こんな悪ガキを『可愛い』だなんて、相変わらず豪気だな、シェリル」
 「フンだ!
 ティッキーの目が悪いんだよ!」
 ティキの手の内から、シェリルの腕の中に移動したロードは、思いっきり舌を出してやる。
 逆に、シェリルには頬をすり寄せて、殊更に甘えて見せた。
 「お父様ぁ〜!
 ティッキーが意地悪するんだぁ!
 僕にお菓子持ってきてくれなかったんだよぉ!」
 「よしよし、酷い叔父さまだねェ。
 こーんなわからずやには、思いっきりイタズラしてあげなさいv
 「おいっ・・・!!」
 一気に蒼褪め、後ずさったティキの目の前に、いたずらな顔をしたロードが飛び降りる。
 「ティーッキィーv
 その足元に、黒々とした影が広がる様を見て、ティキの表情が凍った。
 「ロー・・・ド・・・!
 冗談は・・・やめ・・・っ!!」
 引き攣った喉から、苦しげな声を絞り出すが、小さな暴君は笑みを深めて更に歩み寄る。
 「フフ・・・v
 ロード、殺さない程度にねv
 「わかってるよぉ、お父様ぁv
 もう一歩、ロードが歩を進め、その影がティキの影を飲み込んだ。
 「・・・・・・っ!!」
 思わず息を呑んだティキは、次の瞬間、脳を激しく揺さぶられたかのようなめまいを覚えて、片膝をつく。
 「ふふふv
 女王の騎士みたいだね、ティッキィーv
 自分の前に跪いたティキの肩に、ロードは笑って王錫を載せた。
 「汝ティキ・ミック。
 我が騎士に任ずる。なーんて!」
 冗談めかして言いながら、ロードは小首を傾げる。
 「でも・・・ティッキーだったら騎士の位なんて、いつでも叙せるよねェ・・・―――― せっかくだから!」
 ロードは俯いたままのティキに、にんまりと笑った。
 「サーは取りやめ!レディに叙す!」
 「おや・・・ま!」
 やや離れた所から、ロードの『女王ごっこ』を見ていたシェリルが、思わず苦笑する。
 「ドレスを用意してあげなければね。
 ・・・ルルのを貸せって言ったら、あの子は怒るかな?」
 クスクスと笑いながら、シェリルは呆然と床に座り込んだ女に手を差し伸べた。


 「嫌です。
 私のドレスは貸しません」
 思った通りのことを言って、そっぽを向いたルル=ベルに、シェリルは穏やかな笑みを浮かべた。
 「そう言わずに。
 我が細君のドレスを着せるには、彼の・・・いや、彼女の身長が高すぎるんだよ」
 「私だって、ティキに比べれば身長は低い方です」
 けんもほろろに言って、ルル=ベルは背を向ける。
 「私のドレスは全て、主が私のためだけに選んでくださったもの。
 私にしか似合いませんし、私以外の者が着ることは絶対に許しません」
 普段の、無感動な彼女からは想像もつかないかたくなさで拒否すると、ルル=ベルは肩越しに『兄』を睨みつけた。
 「今日は・・・私もロードにいじめられました。
 これ以上、一緒にいたくありません」
 「おやおや・・・仲直りしたって、聞いたけどねェ?」
 クスクスと軽やかな笑声をあげるシェリルを、ルル=ベルが更にきつく睨む。
 「せっかくのハロウィンパーティで、姉妹の仲が悪いのでは、千年公もがっかりなさるだろうに」
 その名が出た途端、ルル=ベルの眼光が揺らいだ。
 「いい子だね、ルル?
 君はとってもいい子だ。
 ならば、ハロウィンに身体ごと女装してしまった『兄』に、ドレスを貸して、化粧を施してやるくらい、なんでもないのではないかなぁ?」
 「・・・・・・でも・・・」
 そっと、目を逸らした『妹』に歩み寄り、シェリルはその肩にやさしく手を置く。
 「きっと、千年公はお喜びになるよ。
 彼に誉めていただけるよう、精一杯ティキを飾り立ててあげておくれv
 主が喜ぶだろう、という言葉を聞いた途端、ルル=ベルの目の色が変わった。
 「・・・・・・はい!」
 頬に朱をのぼらせて、強く頷く。
 「やります・・・!」
 ぎゅっと握ったこぶしに、シェリルは満足げに頷いた。


 「なにコレ?!
 なんの嫌がらせ?!」
 いつもより、随分高くなってしまった声を引き攣らせ、ティキは自身の姿を写す、大きな鏡にこぶしをぶつけた。
 「きゃははははv
 美人だよぉ、ティッキーv
 もうすぐルルがドレス持ってくるから、お化粧終わったら髪の毛巻いてあげるねェv
 「おぃぃぃぃぃ!!!!
 ナニ着飾ること前提で話進めてんだぁぁぁ!!!!」
 勢いよく振り返ったティキは、突然凍りつき、胸元をおさえてしゃがみこむ。
 「なに?
 どぉしたの?」
 きょとん、と、目を丸くしたロードを、ティキは涙目で睨んだ。
 「いってぇ〜〜〜〜・・・!!!!」
 「??
 なにが??」
 「胸です。
 下着もつけずに激しく動けば、痛いに決まっています」
 ロードの問いに、愛想のない・・・というよりは不機嫌な声が答える。
 「えぇー?!僕、そんなことないけど」
 「大きさが違います」
 途端に顔を歪めたロードに、ふん、と、鼻を鳴らして、ルル=ベルはしゃがみこんだままのティキに歩み寄った。
 「ティキ、これ以上痛い目に遭いたくなければ、着替えてください」
 「イヤだ!!
 なんで俺がそんなカッコ・・・!!」
 痛い方がマシ!と、嘆く彼・・・いや、今は彼女に、ルル=ベルはため息をつく。
 「泣いたって仕方がないでしょう。
 ロードが『夢』を見終わるまでは、あなたは女の身体のままです。
 今以上におぞましい目に遭いたいのでしたら、止めませんが」
 「今以上・・・?」
 ルル=ベルの言葉の意味を図りかねて、首を傾げたティキは、その目の端に映った、なまめかしい女の姿に蒼褪めた。
 「ぅわっ!!今の俺、すげー色っぽかった!!」
 改めて鏡を見つめ、豊満な胸を両手で覆う。
 「ヤバイ!!
 これは確かに、おぞましい目に遭っちまう!」
 「・・・わかったら、早く着替えてください」
 白けた口調で言うと、ルル=ベルは手にした衣装をティキに差し出した。
 「これは・・・主からいただいたドレスですから、決して汚したり破ったりしないように。
 下着の着け方がわからなければ、お手伝いします」
 『嫌々ながら貸すのだ』と言う態度を隠しもしないルル=ベルを、ティキが床に座り込んだまま見あげる。
 「でもあの・・・俺・・・・・・」
 不安げな顔で口ごもるティキに、ルル=ベルが眉をひそめた。
 「なんですか?」
 「・・・初めてだから・・・・・・優しくしてね・・・v
 顔を背け、ポッと頬を赤らめた瞬間、ティキのみぞおちにルル=ベルの爪先が食い込む。
 「・・・・・・気色悪い」
 容赦ない蹴りで、ティキを壁に叩きつけたルル=ベルは、心底不快げな声で吐き捨てた。


 その後、パーティ会場に集った面々は、真っ青な顔をして、息も絶え絶えに入って来た女を訝しげに見遣り・・・ややして、爆笑が沸いた。
 「ティッキィィィィ?!」
 「ウソッ?!美人!!ヒィィィィッ!!」
 トィードル・ディーとトィードル・ダムの格好をした双子に大声ではやし立てられ、ティキはうるさげに耳を塞ぐ。
 「・・・やめてくんない?
 ただでさえ、呼吸困難で死にそうなんだから・・・・・・!」
 ぜいぜいと喘ぐティキの傍らで、ルル=ベルが鼻を鳴らした。
 「このくらい、女であれば当然の身だしなみです」
 「マジで?!
 マジで女って、いつもこんなに締め付けてんの?!
 コルセットが腹に食い込んで、今にも死にそうなんだけど、俺!!」
 嫌がらせか、と、思わず苦情を漏らすと、ルル=ベルはムッとしてティキの両手を掴み、自分の腰に当てさせる。
 「私の方が、もっと締め付けています!」
 「・・・すっげ!!」
 石の柱を持った時のような堅い感触に、ティキが大声をあげた。
 「女って、こえぇぇぇぇぇ!!
 ルル、お前、こんなん着けて動いてたのかよ!」
 「・・・常識です」
 甘えるな、と言わんばかりに、ルル=ベルの顔が忌々しげに歪む。
 「そっかぁ。
 コルセットで締め付けてスタイル整えてるから、ルルってば、そんなに胸がおっきく見えるんだねぇ。なに詰めてんのぉ?」
 「詰めてなんかいません!」
 ロードが殊更嫌味ったらしく言った言葉に生真面目に答え、ルル=ベルは苦しげに息をつくティキを示した。
 「ティキですらこんなに大きいのですもの。
 元々女である私が、負けるはずがありません」
 「ホントすっげ、ティキ!!」
 「巨乳!!巨乳!!ヒヒヒヒヒ!!」
 「ゴラ双子っ・・・揉むな!!いてぇぇぇぇぇ!!!!」
 ヒステリックな悲鳴をあげて、ティキが双子にげんこつを落とす。
 「ヒィィッ!!痛いっ!!ヒィィィィィッ!!」
 「んだよっ!気持ちイイんじゃねぇの?!」
 涙目で抗議する双子に更に蹴りをくれてやって、ティキは荒く息をついた。
 「気持ちいいわけあるかっ!!
 重いわイテェわ肩凝るわ、こんなんぶら下げてる奴の気が知れ・・・ひぎゃあっ!!」
 「甘ったれたことを言わないでください、ティキ」
 ピンヒールの踵で思いっきり足を踏まれ、泣き声をあげてうずくまったティキを、ルル=ベルが冷淡に見下ろす。
 「立ちなさい。
 少しは、女の心意気を知るといい」
 言うや、ルル=ベルは瞬き、ロードを見遣った。
 「?
 なに?」
 きょとん、とした彼女の前にひざまずいたルル=ベルは、その頬に軽くキスする。
 「お願いがあります」
 「うん?」
 首を傾げたロードの眼前で、ルル=ベルは、ティキに蹴り飛ばされて壁に懐いたままの双子を指し示した。
 「少しは、女の苦労を知るといい」
 大きな目を瞬かせたロードは、ややして、大きな笑みを浮かべる。
 「・・・いいね!!」
 歓声をあげて、ロードは双子に駆け寄った。
 「起きろよ、ジャスデビv
 お前達・・・可愛い女の子になぁれ!」
 ロードが手にした王錫を振り回した途端―――― 目を開けた双子は、互いの姿に悲鳴をあげた。
 「デビ―――ー!!デビがオンナノコッ!!オンナノコォォォ!!ヒィィィィィ!!!!」
 「デロ!!デロがおんっ・・・おんっ・・・・・・!!!!」
 甲高い声で喚きながら、双子は手に手を取る。
 「・・・っ可愛いv
 「気っ色悪ィんだよ、ナル双子――――!!!!」
 全身を粟立たせて悲鳴をあげるティキの傍らで、しかし、提案者のルル=ベルは不満を漏らした。
 「・・・あんなに小さな胸では、私の苦労はわかりません」
 「仕方ないじゃん〜。
 分相応なサイズだよぉ」
 その言葉に、ルル=ベルはやや機嫌を直した風に頷く。
 「ではせめて・・・コルセットで締め上げます」
 ヒールの踵を鳴らして双子に歩み寄ったルル=ベルは、うっとりと互いに見惚れる二人の襟首を掴み、別室に連行した。


 その後、再び現れた双子は、それは嬉しそうに手を繋いで、皆の前でくるくると回って見せる。
 「見ろよv 俺たち、かわいーだろv
 「デロのゴールデン美髪v クルクル〜vv
 「・・・嬉しいわけ?
 お前ら、それでいいわけ・・・?」
 履き慣れないハイヒールに早速足を痛めつけられて、ソファから立ち上がれもしないティキがぼやくと、双子は彼に駆け寄り、きらきらと目を輝かせた。
 「だって!デロがこんなに可愛い!」
 「デビもvv
 デビ可愛い!!ヒッ!!」
 「はぁ・・・仲良しでいいねェ・・・・・・」
 ティキはぜいぜいと喘ぎつつ、ため息とともに呟く。
 「俺はもう・・・このまま絞め殺されそうなんだけど・・・・・・」
 「はんっ!なっさけねぇの!
 俺らだって、コルセットつけてもらったのに♪」
 「ヒヒッv
 ふわふわドレス!!ふわふわ!!」
 どこから調達してきたのか、フリルのたくさんついたおそろいのドレスを着て、二人はまたくるくると回りだした。
 「〜〜〜〜ルル!
 お前、こいつらには手加減したのかよ!!」
 ティキに恨みがましい声を向けられたルル=ベルは、あっさりと頷く。
 「服のサイズに合わせただけです」
 「なんですって?!ワタクシが太っているとでも?!」
 思わず反駁してしまったティキは、自分の発言に撃沈した。
 「・・・太っているなどとは言ってません。
 ティキの分際で私のドレスを着るなんておこがましいと、そう言っただけです」
 「・・・それ、更に悪くね?」
 自身のスタイルを誇るように、胸を張ったルル=ベルを忌々しげに睨み、ティキはまたため息をつく。
 「おい、ロードぉ・・・・・・!
 もういいだろ?
 このままじゃ俺、パーティ始まる前に死んじまう・・・・・・!」
 「ダメーv
 ハロウィンのイタズラは、ハロウィンが終わるまで有効だよんv
 「じゃあせめて、ルルを男にしてやるとか・・・」
 「ロードの能力がなくても、私ならいつでも性別を変えられます」
 つんっとしたルル=ベルの言い様に、ティキがますますうな垂れた。
 「そーでした・・・。
 ちくしょー・・・誰か、俺と同じ屈辱を・・・・・・!」
 言いかけて、ティキは顔をあげる。
 「ロード!!」
 いきなり掴みかかられて、ロードは目を丸くした。
 「なにぃ?」
 「今こそお前の能力を発揮する時だ!!」
 「へ?」
 きょとん、とした彼女に、ティキは凄絶な笑みを浮かべる。
 「あの生意気なクソガキども・・・!
 エクソシスト達にいたずらしてやったら、さぞかし気分がいいだろうぜ!」
 途端、双子が甲高い歓声をあげた。
 「賛っっ成!!
 あの吸血鬼が困るトコ見たい!!」
 「弟子もっ!!
 クロス弟子いぢめるっ!ヒヒヒヒヒッ!!」
 「ついでに女!
 あの暴力女、男に変身っ!」
 「ブックマンJr.も!!ヒヒィッ!!」
 大はしゃぎする双子の傍らで、ルル=ベルがそっと両手の指を組む。
 「ウォーカー・・・・・・!
 彼が屈辱に震える様を、見てやりたい・・・・・・v
 兄弟たちから期待を込めた目で見つめられ、ロードはにんまりと笑った。
 「よーし!
 黒の教団に、殴りこみー♪」
 王錫を振り回し、声をあげたロードに、兄弟たちから拍手が沸く。
 「新しい本部だかなんだか知らないけどぉ、まためちゃくちゃにしてやろうねェ!」
 長子の提案に、兄弟の拍手は更に大きくなった。


 その頃、何も知らない教団本部では、まだ怪盗Gごっこを続行中だった。
 「あははははっ!!
 怪盗Gホワイト、参上♪」
 「Gレッド!」
 「Gグリーン!」
 ノリノリの三人とは逆に、怒り狂ったイエローとブラックが、無理矢理ポーズを決められたまま、動けない身体を震わせる。
 「いい加減にしなさい!!
 一体、いつまでやらせるのですか!!」
 「テメェら覚えてろよ!!
 これ脱いだら、絶対ブッた斬ってやる!!」
 リンクはともかく、神田の怒声にラビとチャオジーが震え上がった。
 「そっ・・・そんなコト言われたらっ・・・!」
 「それ外すわけには行かないっすよぉぉ〜」
 ぶるぶると震える手を、互いに握った二人の横で、アレンが甲高い笑声をあげる。
 「あははははv 神田墓穴〜♪」
 「うるっせェよモヤシ!!
 テメェはいの一番にブッた斬る!!」
 「はんっ!やれるもんなら・・・!!」
 アレンが更に挑発しようとした時、その背に、ざわりと悪寒が走った。
 「なっ・・・?!」
 思わず飛びのいたアレンが一瞬前までいた場所に、見たことのある扉が現れる。
 「こ・・・これは・・・・・・!」
 常に嫌な思い出とともにあったそれは、ロードの扉に間違いなかった。
 「ノア!!」
 ラビが緊張に引き攣った声をあげた瞬間、それは内側から弾かれたように開く。
 「アーレーンーv
 ドアの向こう側から飛び出してきたロードが、歓声をあげてアレンに飛びついた。
 「ハッピーハロウィーンvv
 「ひぃぃぃぃぃ?!」
 キスしようとする彼女から必死に顔を逸らし、アレンが悲鳴をあげる。
 「たっ・・・助けて・・・!!」
 「なんだよぉ〜つれなぁい・・・あれっ?」
 更に顔を近づけようとした途端、ロードは背後から抱き上げられ、引き離された挙句、ポイっと扉の向こうに放られた。
 「さ・よ・な・らv
 こめかみに青筋を浮かべながら、リナリーがにっこりと笑って扉を閉めようとする。
 「えぇー?!ちょっと待ってよぉ!!」
 唐突に、扉を挟んでリナリーとロードの力比べが始まった。
 「せっかく遊びに来たんだよぉ?!入れてよぉぉぉ!!」
 「冗談じゃないわよ!
 あなた、どうせろくなことをしないじゃない!」
 「お菓子くれたらイタズラしないってばーぁ!」
 「嘘!
 絶対、変ないたずらしに来たに決まってるわ!!」
 「なんだよぉ、決め付けてぇぇっ!
 リナリー、横暴!そぉいうの、テイシュカンパクって言うんだってよ!」
 「言わないわよ!!
 あなたそれ、完全に間違えて覚えてるわ!」
 「間違えてないよっ!だって・・・」
 細くなった扉の隙間から、にんまりと歪んだロードの笑みが覗き、白い王錫が差し出された。
 「リナリーはオトコノコになるんだもん♪」
 「きゃっ?!」
 王錫に肩を突かれたリナリーが体勢を崩し、ドアの前に転がる。
 「リナリー?!」
 すぐさま駆け寄ったアレンは、差し伸べた手を凍りつかせた。
 「ア・・・アレン君・・・?」
 跪いた体勢で、愕然と目を見開くアレンに、リナリーは訝しげに首を傾げる。
 「どうしたの・・・」
 「・・・リナリーっ!!」
 目を丸くするリナリーにアレンが絶叫し、彼女の両肩を強く掴んだ。
 ・・・その瞬間、リナリーも自身の身体の異変に気づく。
 「き・・・きゃああああああああああああああああああああああああ!!!!」
 いつもより格段に低いリナリーの悲鳴が、城中に響き渡った。
 「胸がない!!」
 「元からだろ」
 動けない神田が思わず呟いた瞬間、その身体はポーズを決めたまま宙に舞う。
 「神田先輩っ!!」
 「ユウちゃんッ!!」
 チャオジーが叫び、ラビが慌ててリモコンを解除するが間に合わず、神田は受身も取れずに石の床に叩きつけられた。
 「なんっでこの状況でそういうこと言うんすか!」
 「空気読まないにもほどがあるさ!!」
 「う・・・うるさい・・・・・・!」
 喚きたてる二人に、割れた額からだくだくと血を溢れさせながら、神田が呻く。
 「ロード!!よくも神田を・・・!!」
 「僕っ?!」
 リナリーが神田を蹴飛ばした隙に扉から出て来たロードは、叱責されて目を丸くした。
 「そいつ蹴飛ばしたのはリナリーじゃん・・・」
 「げっ・・・原因はあなたよ!」
 「そりゃそうだけどぉ・・・」
 不満げに唇を尖らせたロードは、跪いた体勢のまま硬直するアレンに抱きつく。
 「アーレーンーv リナリーがイヂワルだー!」
 「ひっ?!」
 思わず身を引くが、ロードはぴったりと彼にくっついたまま、離れようとしなかった。
 「ねーぇー!
 意地悪なリナリーは男の子にしちゃったから、もうラブラブできないよねぇ?
 だから僕とラブラブしよぉーvv
 「いっ・・・嫌ですよっ!!
 大体、そう言う問題じゃないでしょっ?!」
 更に頬を摺り寄せるロードを必死に引き剥がそうとするが、彼女は小さな身体に似合わぬ力でぐいぐいと迫り、アレンを押し倒す。
 「ふふふv
 僕んちのパーティに来るなら、リナリーを元の身体に戻してあげていいよぉ?」
 「え・・・」
 思わず逡巡したアレンに、リンクの絶叫が突き刺さった。
 「不可です!!
 ノアの元に行くなど、教団に対する背信行為です!即刻処罰します!!」
 未だポーズを決めたまま、かかしのように突っ立つリンクを、ロードが睨む。
 「ふん。
 だったらアレンは返さないよ。
 遊びに来てお仕置きされるなんて、やだもんねーぇ?」
 「我ら教団は神の軍です!
 決して異端の徒と交わりはしません!」
 途端、ロードの目の色が変わった。
 「異端?
 お前らの凝り固まった通念から外れて、なにが悪いの・・・?
 お前たちなんて、指先で潰せる程度の力しかないくせに・・・・・・」
 低い声音が冷え冷えと響き渡る。
 「生意気言うんじゃないよっ!」
 リンクに向けて勢いよく突き出された王錫を、アレンが咄嗟に掴んだ。
 途端、
 「ウォーカー?!」
 「アレンッ!!」
 リンクだけでなく、ロードの口からも悲鳴がほとばしり、次いで、彼女はがっかりと肩を落とす。
 「・・・・・・もー・・・・・・なんで邪魔するんだよぉ・・・・・・・・・」
 「・・・っきゃああああああああああああああああああああ!!!!」
 ロードに馬乗りされたまま、悲鳴をあげたアレンの声は、いつもより格段に高くなっていた。
 と、
 「お?
 成功か?」
 「クロス弟子、オンナノコにしちゃった?」
 「オンナノコ!オンナノコ!!ヒヒッ!!」
 「・・・・・・・・・ふっv
 ロードの扉の向こうから、次々と顔を出したノアの兄弟・・・いや、姉妹達が、愕然とするアレンを楽しげに見物する。
 「おぉ♪
 やっぱ似合うなぁ、少年・・・いや、お嬢ちゃんv
 変わらず白いアレンの髪を、掻き回してからかうティキを押しのけ、可愛らしくドレスアップした双子も駆け寄った。
 「ロード!そんまま押さえてろよっ!」
 「ヒヒッ!!クロス弟子確保ッ!!」
 意地の悪い笑声をあげながら、アレンにたかった二人は、むにっと彼の・・・いや、彼女の胸を掴む。
 「いったぁぁぁぁぁ!!
 なにすんだ、変態ッ!!」
 じたばたと暴れるアレンをしかし、双子はあっさりと放置し・・・互いの胸を触ってうな垂れた。
 「・・・・・・っ許さないからな、クロス弟子!!」
 「屈辱!!屈辱ッ!!ヒィィィィッ!!!!」
 「なんのことだ――――――――!!!!」
 突然怒り出した双子に絶叫したアレンは、ようやく彼らを観察するだけの意識を取り戻して、唖然とする。
 「あ・・・あれ・・・・・・?
 君たち、男じゃなかったっけ・・・・・・?」
 「ロードの『いたずら』です」
 淡々とした声を受けて、アレンが頭を後ろに倒すと、背後に立ったルル=ベルが、艶やかな唇に微笑を浮かべた。
 「ふ・・・!
 ふふ・・・!
 ふふふふふ・・・・・・!」
 兄弟達でさえ、初めて見る彼女の笑顔と初めて聞く笑声に呆然とする中、ルル=ベルは優越感に満ち満ちた表情でアレンを見くだす。
 「なんて貧弱!」
 「っ?!」
 ・・・今までにも、貧弱だのモヤシだのと言われては怒りを発したアレンだが、今、誇るように胸を張ったルル=ベルに、なぜだかものすごい敗北感を味わわされた。
 「お?泣いちゃった、少年?じゃない、お嬢ちゃんv
 「泣いてなんかないよっ!!
 お嬢ちゃんって言うな、瓶底メガネ!!」
 涙目で絶叫するアレンを、ルル=ベルと並んで楽しげに眺めたティキは、分厚いメガネを外し、屈みこむ。
 「まぁまぁ。
 お嬢ちゃんはまだ幼いんだし?そのうち大きくなるってv
 慰める振りをして、薄手のブラウスに覆われた胸を殊更に強調するようなその仕草に、アレンはムッとロードを振り落とした。
 「今着てる衣装がゴム製だから、押さえられてるだけだもん!
 それでもあいつらよりはおっきいもんっ!!」
 「やっかましぃクロス弟子ぃぃぃぃぃぃ!!!!」
 「小さくったってジャスデビの方が可愛い!!ヒィィィッ!!」
 銃を向けてきた双子を発動した左腕で殴り倒し、仰向けに転がった所を踏みつける。
 「僕の方が可愛い!」
 小さな胸を精一杯張って、アレンが断言した。
 「・・・なにこれ。
 醜い女の争い・・・?」
 あまりの展開に、手も口も出せなかったラビが何とか呟く。
 と、その声に引かれ、ロードがラビを見遣った。
 「あv
 ジュニア、ひさしぶりぃ〜v
 「げっ!!」
 思わず腰が引けたラビに、ロードはにやりと笑う。
 「そぉいえば僕、お前に焼き殺されちゃったんだよねェ・・・あ、刺し殺されたんだっけぇ?」
 笑みを浮かべたまま、軽やかな足取りで近づいてくるロードから、ラビはじりじりと後退した。
 「ひどいよねぇ。
 僕、アレンに化けてたのに、思いっきり心臓刺してくれちゃってさぁ」
 「・・・はあーぁ?」
 双子を踏みつけたアレンに、底光りする目で睨まれ、ラビはものも言えずに脂汗を流す。
 「ラビ・・・ちょっとそこンとこ、詳しく聞きたいんですけど?」
 「あ!
 ジュニアはねぇ、アレンを刺す前に、殴り殺しもしたんだよぉv
 「それは俺じゃねぇだろぉぉぉぉぉ!!!!」
 「でも焼き殺したのはホントじゃん〜v
 「それはおまえ自身・・・アレン!!アレンさんマッテ!!その爪引っ込めて!!」
 不吉に輝く爪の光を受けて、ラビが悲鳴をあげた。
 「ラビさんも待って!!」
 「へっ?!」
 知らず、後退しすぎていたラビは、未だ目を回した神田と、彼を介抱するチャオジーにまともにぶつかり、仰向けに倒れる。
 その瞬間、
 「隙ありぃ〜♪」
 ロードが王錫を振り回し、呪いが・・・もう、呪いとしか言いようのないものが、彼らに降りかかった。
 「・・・っ苦しっ!!」
 突然、胸を圧迫されて呼吸を塞がれたラビが、慌てて首のファスナーを引き下ろす。
 が、喉元まで下ろしてもちっとも呼吸は楽にならず、ラビは胸元までファスナーを下ろした。
 「・・・っはぁ、びっくりした!
 なんなんさ、突然・・・・・・」
 呟いた声が格段に高くなっていて、ラビは恐る恐る胸を見下ろす。
 「わぉv
 目の前に迫った谷間に、思わず嬉しげな声をあげた。
 「うわーv ぷにぷにv ぷにぷにvv ぷにぷにさvvv
 「自分の胸触って嬉しがってんじゃないですよ、変態っ!!」
 こめかみを引きつらせて怒鳴るアレンを、ラビは上目遣いで見あげる。
 「いぢめないでさ、アレンさんっv
 「なにノリノリでぶりっ子してんですか!
 キッショク悪いんですよあんた!!!!」
 「そんな・・・オンナノコにひどいさ!
 ねぇ、チャオ子さん?
 アンタもそう思うさね?」
 「チャオ子さんて誰っすかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
 「あv 意外と可愛いv
 大絶叫したチャオジーに、ロードが嬉しげに笑った。
 「でも、最高なのはそこの、眠れる美女だねぇv
 ねぇねぇリナリーv キスしてあげなよぉv
 「キッ・・・?!」
 真っ赤になって言葉を失くしたリナリーに、ロードが小首を傾げる。
 「だってぇ、リナリーが倒したんでしょぉ、そいつぅ?」
 「うん、まぁ確かに・・・その通りさね」
 「ってかなんで起きないんですか、神田先輩!不死身の人なのに!!」
 「なんでって、そりゃあ・・・」
 涙を浮かべ、必死に神田を揺するチャオジーに、ティキが肩をすくめた。
 「そこのお嬢ちゃん・・・男になったっつーのにいつも通り蹴飛ばしちまったんだろ?
 男の脚力なめんじゃねーよ?」
 「あっ・・・!」
 「あぁー・・・」
 ラビとアレンが、納得して頷きを交わす。
 「体重の乗った、いい蹴りだったもんさ」
 「まさに、鋼鉄の破壊力でした!」
 ラビが感心し、アレンがうっとりと頬を染めた。
 「さすがリナリー王子!」
 「冗談に聞こえないよっ!!」
 声を揃えた二人を叱りつけて、リナリーは意識不明の神田を抱き起こす。
 「起きてー!!
 起きてユウ姉様!!」
 「誰が・・・!!」
 リナリーの呼び声に、神田が微かにうめいた。
 「ユウ姉様!!」
 「姉様って呼ぶんじゃねぇって、いつも・・・・・・」
 ようやくうっすらと目を開けた神田は、リナリーの両隣と背後から彼を覗き込む女達に眉根を寄せる。
 無言のまま、再び目をつぶってしまった彼に、アレンが舌打ちした。
 「ナニ自分だけ現実逃避しようとしてんですが、この美女ガ」
 次の瞬間、がばっと起きあがった神田は、周りを囲む女達に瞠目する。
 「なにやってんだてめェら!!!!」
 怒号にはしかし、微妙な形に歪められた笑みが返された。
 「その言葉・・・・・・」
 「そのまんま返すさね」
 「・・・ご愁傷様ッす」
 「んなっ・・・!!」
 自身の身体の変化に気づき、声を失った神田に、アレンが手を伸ばす。
 「・・・・・・なに触ってんだ、てめェ」
 あまりのことに反応も鈍い神田の胸に触ったまま、しばし固まっていたアレンは忌々しげに舌打ちした。
 「・・・ふんだ!
 僕のほうが可愛いもん!」
 「・・・あ!そっか!!」
 突然ラビが大声をあげ、手を伸ばす。
 「だぁらなに触ってやがんだ、キショク悪ィ!!」
 アレンとは逆に、途端に笑顔になったラビに怒鳴りつけると、彼は・・・いや、彼女は誇るように胸を張った。
 「やっぱ俺、ナイスバデーv
 ぴょんっと飛び跳ねて胸を揺らしたラビに、リナリーだけでなく、ルル=ベルの視線までもが突き刺さる。
 「負けるものか・・・!」
 「イヤ、なにがだよ、ルル・・・。
 唇噛んで悔しがったって、こんなもん簡単にでかくなるわけ・・・コラ、色の能力は反則だろ」
 「そーさ!実力で勝負するさ!!」
 得意げに指を突きつけられて、ルル=ベルは柳眉を逆立てた。
 「コルセットの調整をしようとしただけです!
 少し緩めればあなたなんて・・・あなたなんて・・・・・・!」
 「・・・ちょっとぉ!
 ウチのルル泣かさないでよ、ジュニアァ!」
 「ひっで!
 ホラ、泣くなルル。
 あんなの、ただ胸がでかいだけの山猿だから。
 お前のほうが可愛いし、俺の方が美人だから」
 「・・・なにさらっと酷いことぬかしてくれてんさ?
 言っとくけど!
 美人だったらウチのユウちゃんに敵うもんなんかいねーさ!!」
 ラビが示すや、ノアの姉妹達は一斉に眉をひそめる。
 「確かにな・・・」
 「く・・・黒髪自慢なら、私だって・・・!」
 「ホント、すっごい美人〜v お人形にしたぁいv
 ラビとチャオジーを押しのけて飛び掛ってきたロードを、神田はつまみあげるや、無情に放り投げた。
 「・・・っ?!」
 目を丸くして宙を舞った長子を、ティキが慌てて受け止める。
 「・・・っなにしてんの、この美人!
 顔はよくても性格最悪!!」
 「っるっせぇよ、バカ共が!!
 くだらねェちょっかいかけてないで、とっとと戻せゴラ!!」
 神田の怒号に、姉妹たちは揃って声を失った。
 ロードに対して、こんなにも無礼な口を利ける者はノアの中にもいない。
 「・・・もう俺、知らない・・・・・・」
 ティキは、自身の腕の中にいるロードの顔を見てしまわないよう、必死に目を逸らした。
 案の定、
 「・・・せっかくのハロウィンなのにぃ・・・・・・・・・!」
 ロードの暗い声音が響き、きつく眉根が寄る。
 「遊んでくれないんだったらもう、いいよ!!
 お前達全員壊してやる!!」
 ティキの腕を振りほどいて床に降りたロードの足元から、濃い闇が広がった。
 「ヤバイ!!
 ユウちゃん避けて・・・!!」
 ラビが警告を発するが一瞬遅く、神田だけでなく、彼の側にいたアレンやチャオジーまでもが闇に囚われる。
 「ロード!!
 あなたなにを・・・!!」
 絶叫するリナリーに、ロードは不吉な笑みを向けた。
 「今日、僕ねェ・・・面白い夢を見たんだぁv
 顎に小さな指を当て、夢の羊はくすくすと笑う。
 「鏡の国のアリス、知ってるでしょぉ?」
 「え・・・?!」
 まさに今日、不思議の国へと迷い込んだリナリーが、目を見開いた。
 「名前のない森で、僕、とっても面白い経験をしたんだよぉv
 それをお前たちにも教えてあげるぅv
 今や部屋中を満たしていた闇は、王錫の一振りで拭ったように消え去る。
 しかし、闇の中から解放された三人は、呆然としてそれぞれにあらぬ場所を見つめていた。
 「ア・・・アレン君!」
 「チャオジー!ユウちゃん、無事さ?!」
 リナリーとラビが駆け寄るが、三人は未だ呆然としたまま、宙を見つめている。
 「返事して!!」
 耳元で怒鳴られて、ようやく彼らはうつろな顔をリナリーへと向けた。
 「・・・・・・?」
 「・・・・・・・・・」
 「・・・・・・・・・・・・」
 「どうしたんさっ?!」
 ラビが神田の両肩を掴んで揺さぶる。
 「ユウちゃん!!」
 「・・・・・・?」
 呼びかけても、訝しげな顔で彼を見返してくるだけの神田に、ラビは更に焦った。
 「ロード!!
 お前一体、なにしたんさ!!」
 この中では、最もよくロードの能力を知るラビの必死な声に、彼女は楽しげな笑声をあげる。
 「なぁーに必死になってんのさぁジュニアァ?
 お前、こいつらの仲間でもなーんでもないじゃないぃ」
 「うるっせぇよ!!
 今はそんなことじゃなくて、なにをしたんかって聞いてんさ!!」
 焦って問うラビを、神田がまじまじと見つめた。
 常に強い光を宿す目には今、彼らしくもなく、困惑の色が浮かんでいる。
 「まさか・・・記憶を・・・?!」
 かつて彼がそうされたように、記憶の中で『今』を壊されたのではと勘繰るラビに、ロードは小首を傾げた。
 「んー?
 ちょぉっと違うかなぁ?」
 首を傾げた拍子に斜めを向いてしまった王冠の位置を直しつつ、ロードは自分を睨んでくるラビに、笑みを返す。
 「ジュニアは知ってるぅ?
 鏡の国の、名前のない森ぃ?」
 「あ・・・あぁ。
 アリスが自分だけでなく、物の名前まで思い出せなくなったって言う・・・・・・」
 「そう、それぇv
 ロードは満足げに笑みを深めて頷いた。
 「おもしろかったよぉv
 ホントになーんにも思い出せないんだもん!
 僕は僕だってわかってるのに、僕の名前も周りの名前もぜーんぶ!」
 両手を広げ、くるくると回るロードに思わず、ラビは舌打ちする。
 「きゃはははははv
 わかるでしょ、ブックマンジュニア!
 お前にはわかるよねぇ!
 世界中の歴史を渡り、言葉の重みを誰よりも知るお前なら・・・『名前』を失くすのがどんなに大変なことか!」
 だから、と、ロードは唇を、三日月の形に歪めた。
 「お前は残してやったんだよぉv
 トモダチが壊れて行くのを、側で見ていればいいよ!」
 そして、と、ロードは不吉な笑みを、アレンの側のリナリーへと向ける。
 「リナリーv
 お前はアレンが、僕のものになるところを見ておいでぇv
 「なっ・・・・・・!!」
 不安げに目をさまよわせるアレンを背後に庇い、リナリーはロードを睨みつけた。
 「させないよっ!
 姫は私が守る!!」
 「・・・・・・シャレになってねぇって」
 思わず苦笑を漏らしたティキは、目の端にこそこそと動くものを捉えて振り返る。
 「ゴォラ双子っ!!
 どこ行くんだ!!」
 「吸血鬼探すんだよっ!!」
 「あいつも困らせるっ!ヒヒッ!!」
 だが部屋を出る寸前、双子の首に、鞭のような物が巻きついた。
 「ぶげえええええええっ!!」
 「ヒギィィィィィィィッ!!」
 舌を吐いて呻く双子を、両手を鞭に変えたルル=ベルが冷たく睨む。
 「じっとしていてください。
 この外には元帥共もいます」
 「そーだそーだ、やめとけ?
 俺らだって、元帥どもにはボッコボコにされちまったんだから、お前らなんてあっという間に踏み潰されるぜ?
 なぁ?」
 ほっとしたティキが、笑いながらルル=ベルの肩に手を置いた瞬間、彼女のピンヒールで思いっきり足を踏まれた。
 「あぃ――――――――っ!!!!」
 「・・・辛うじてとはいえ、私は任務を果たしました。
 いつまでも覚醒せず、暢気に構えていたあげくに、鴨撃ちの的にされているところを主に救われたあなたと一緒にしないでください」
 途端に双子まで静かになり、ルル=ベルはずるずると彼らを引き寄せる。
 「うわ・・・キビシ・・・・・・」
 思わず呟いたラビは、更にきつく睨まれて声を失った。
 「・・・・・・いくらスタイルがよくても、私の方が絶対に可愛い!」
 「まだこだわってたのっ?!」
 ラビやロードだけでなく、涙目のティキや窒息寸前の双子にまで突っ込まれ、ルル=ベルは不満げにそっぽを向く。
 「・・・ロード、アレン・ウォーカーを連行するのでしたら今のうちに。
 主のパーティが始まってしまう」
 顔を背けたまま、ぼそぼそと呟いたルル=ベルは、八つ当たりなのか、双子の首に鞭を絡めたまま、犬のように引きずって、扉の向こうへと足を入れた。
 「・・・ティキ」
 ふと振り返り、踏まれた足を懸命に撫でるティキに声をかける。
 「あなたも、ドレスに着替えるなら早く戻りなさい。
 コルセットを締め直さなければ」
 「これ以上?!」
 気絶せんばかりに真っ青になったティキを、ルル=ベルは忌々しげに睨んだ。
 「甘く見るなと、言ったはずです。
 ウォーカー」
 呼びかけられても反応のないアレンに、ルル=ベルは猫のように目を細める。
 「死ぬほど締め上げてやりますから・・・早くいらっしゃいv
 喉を鳴らさんばかりに嬉しそうな彼女に、姉妹たちは・・・ロードまでもが蒼褪めた。
 「・・・・・・どうしたんだ、あいつ?
 今日、3回も笑ったぞ・・・!」
 「さすがハロウィン・・・。
 普段見れないものが見れるよねぇ・・・・・・」
 犬の散歩でもするかのように双子を引き連れ、軽やかな足取りで扉の向こうへ消えてしまったルル=ベルを見送り、ティキとロードが引き攣ったささやきを交わす。
 「あなたたちも帰ったら?!」
 棘のある声に振り向けば、リナリーがアレンを背に庇ったまま、二人をきつく睨みつけていた。
 「んー・・・でもなぁ?」
 「アレンを連れて帰らないと、ルルがまた泣いちゃうしぃ?」
 姉としては見過ごせないと、ティキとロードはわざとらしく笑う。
 「そぉいうわけでぇv
 「連っ行っv
 「・・・っ!!」
 陽気な声をあげて襲い掛かったノアたちの手は、しかし、アレンの残像を捕らえただけだった。
 「へ?!」
 「なにこれぇ・・・?」
 本気で目を丸くした二人から離れた場所に、瞬間移動したのかと思うほどの唐突さで、アレンを横抱きにしたリナリーが現れる。
 「姫は渡さないって言ったでしょ!」
 「ちょっ・・・マジかっこい!!
 リナリー王子ブラボー!!」
 黄色い歓声をあげたラビは、未だ呆然とする神田とチャオジーの腕を取り、立ち上がらせてドアへと走った。
 「・・・・・・っ?!」
 「今の俺たちじゃ、あの二人相手にすんのは無理さ!
 一旦退却して元帥達に報告!」
 「させるか!!」
 アレンとリナリーをロードに任せ、ティキがラビ達を追いかけるが・・・。
 「む・・・胸が重くて走りづらいっv
 「なにそれ!嫌味?!」
 かっと目を剥いたリナリーとロードに、背後から容赦なく蹴りつけられた。
 「お嬢ちゃんっ・・・いや、今は少年っ!!
 それとロード!!
 いってぇだろ!!
 女の子にはもっと優しくするもんだぜ?!」
 「うるさいよ、偽物のくせに!」
 アレンを抱えたままのリナリーに、二人分の体重をかけて踏みつけられ、ティキが潰れた蛙のような悲鳴をあげる。
 「ラビ、今のうちだよ!」
 だがリナリーが見遣った先で、外へ出ようとしていたラビが、いきなり転んだ。
 「なにしてるんだよ!」
 「いや・・・腰がくびれたからかなぁ?
 ズボンが下がってきて、足に絡んじゃって」
 てへv と、なぜか嬉しげに、ラビは胸に手を寄せる。
 「それに、胸が揺れて走りづらいv
 「げふっ!!」
 苛立ち紛れに頭を蹴りつけられたティキが、血反吐を吐いて床に伸びると、リナリーは彼の・・・いや、彼女の血を靴に絡ませながら、ラビに迫った。
 「・・・・・・ケンカ売ってるの?」
 「滅相もない!!」
 真っ青になってぶるぶる震えながら、ラビは必死に首を振る。
 「だったらとっとと走れぇっ!!」
 「はぃぃぃっ!!!」
 弾かれるように立ち上がったラビは、ズボンの裾をたくし上げるや、再び神田とチャオジーの手を取り、まさに脱兎の勢いで逃げていった。
 「アレン君!
 ちょっと我慢してね!」
 「・・・?
 っきゃあああああああああああああああああああああああああ!!!!」
 アレンが放った絶叫はしかし、音速を超えたリナリーの速度にたちまちかき消される。
 「・・・・・・・・・・・・あ!」
 その後かなりの間を置いて、ロードは声をあげた。
 「ティッキー!
 ティッキー!置いてかれちゃったよぉ!
 元帥達に見つかる前に、アレン達探さなきゃ!」
 ロードが意識不明のティキをゆさゆさと揺さぶる間に、城中に警告音が鳴り響き、緊迫した場内放送がノアの侵入を告げる。
 「ほら!かくれんぼと鬼ごっこの始まりだよ!」
 むしろ楽しげな声をあげて、ロードはヨロヨロと立ち上がったティキの手を引いて駆け去った。
 ・・・その後、
 「・・・おい」
 誰もいなくなった部屋で、彫像のように立ち尽くしたまま、リンクが呟く。
 「私を忘れていくなぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
 無駄にポーズを決めていたがために、存在をすっかり忘れられた監査官の絶叫は、最大音量の警告音と城内放送に、無残にかき消された。


 「うっ・・・わぁ・・・・・・」
 ハロウィンパーティの最中、片時も放さなかったワイングラスをテーブルに置いて、コムイは絶句した。
 「なんとまぁ・・・可愛くなっちゃって・・・・・・」
 「だろ?!
 俺もまさか、オンナノコになった途端、こんなナイスバデーになるなんて思わんくてv
 嬉しーやら楽しーやらv
 「アホか!!!!」
 ブックマンの容赦ない蹴りを受けて、ラビが吹っ飛ぶ。
 「ひっ・・・酷いさ、おじーちゃま!
 顔は女の命なのにっ!ラビ子泣いちゃう!!」
 「やめぃ!!気色悪いわっ!!」
 「ま・・・まぁまぁ、ブックマン・・・・・・」
 激昂する老人を、リーバーが懸命になだめた。
 「ラビだって好きでこんな身体になったわけじゃないんですし、ミランダがいれば・・・」
 そう言って振り返ったリーバーは、神田とチャオジーを前に、がっくりとうな垂れたミランダの姿にぎくりと震える。
 「ミ・・・ミランダ・・・?」
 「リバース・・・できませんでした・・・・・・・・・」
 まるで自分が死にそうな声をあげ、涙ぐむ彼女を、神田とチャオジーが不思議そうに見つめていた。
 「・・・ねぇこの子達、もしかして記憶まで失くしちゃったの?」
 コムイが訝しげに問うと、ラビは血塗れた頭をふるりと振る。
 「そうじゃなくって・・・『言葉』を奪われたんだと」
 「?
 英語がわかんなくなったってこと?
 じゃあ、日本語と中国語でなら通じる?」
 「イヤ、そう言うもんでもなくて、鏡の国のアリスの――――」
 「・・・ふむ、名前のない森か」
 言いかけたラビの言葉を次いで、ブックマンが頷いた。
 「では、彼らは自分がどんな立場の人間で、我らの顔や立場をも理解してはいるが、ただ、言葉が出てこないのだな」
 ブックマンが殊更にゆっくりとした口調で話しかけると、神田は憮然と、チャオジーは激しく頷く。
 「一時的な失語症みたいなもんかなぁ・・・治るの?」
 「方法を知ってんのは・・・ってか、治せんのはロードだけだろうなぁ・・・・・・」
 コムイの問いに呟いて、ラビは眉根を寄せた。
 「奴らの捕獲は元帥達にお願いしたけど、やっぱ俺もいこっと!」
 自らの言葉に大きく頷き、ラビはにこりと笑ってコムイに縋る。
 「コムイコムイvv
 団服貸して、団服vv
 リナみたく、すっごい可愛い超ミニの団服vv
 「あのね、ラビ・・・」
 口を開いた途端、両袖を神田とチャオジーにも引かれ、コムイはため息混じりに頷いた。


 一方、ラビ達とは別の方向へ逃げたリナリーは、アレンを横抱きにしたまま、元帥達との合流を目指していた。
 「大丈夫?まだ苦しい?」
 リナリーが高速移動をした直後は、過剰なGに耐えかねて半死人の顔をしていたアレンだが、段々落ち着きを取り戻しつつある。
 無言のまま、こくりと頷いた彼・・・いや、彼女に、リナリーは苦笑した。
 「うそ。
 まだ真っ青な顔してるよ?」
 リナリーはアレンを回廊の端に座らせると、屈みこんで、額に貼りついた前髪を梳いてやる。
 「ちょっと休んで行こうね。
 大丈夫!
 ここならロードやティキが来てもすぐにわかるから、追いつかれる前に逃げて見せるよ!」
 頼もしく請け負ったリナリーに、アレンは少し笑って頷いた。
 しかし、彼女・・・いや、今は彼の顔や、どんな立場の人間なのかと言うことはわかっていても、どうしても名前が出てこないもどかしさに、アレンは何度も口を開いてはつぐみ、とうとう涙目を下へ向ける。
 「大丈夫・・・!
 絶対、元に戻してあげるからね!」
 確信などなかったが、リナリーは力強く請け負うと、不安げに震えるアレンを抱きしめた。
 「ふぇ・・・・・・!」
 リナリーに抱きついて、微かな泣き声をあげるアレンを、更に強く抱きしめる。
 女の子になってしまったアレンの身体は、初めて会った時以上に華奢で、否応なしに保護欲を刺激した。
 「ロード・・・許さないからね!」
 リナリーが、強く呟いた時、
 「リナリー?!」
 回廊の向こう側から、女の声が響く。
 「クラウド元帥!!」
 返事をすると、教団唯一の女元帥は、リナリーたちの元に駆けつけてくれた。
 「よかった、見つかって!
 アレンが狙われていると聞いて、探して・・・」
 唐突に言葉を切った彼女に、リナリーが首を傾げる。
 「どうかしましたか?」
 「リナリー・・・おまえ・・・も・・・・・・?!」
 愕然と目を見開くクラウドに、リナリーは引き攣った笑みを浮かべて頷いた。
 「ラビ・・・言ってませんでした?」
 「わ・・・私は城内放送を聞いて駆けつけただけだから、本人に会って聞いたわけじゃ・・・・・・いや!
 会ったとしても言えるものか!この城にはコムイがいるんだぞ?!」
 「・・・・・・ですよねー」
 絶叫したクラウドの前で、リナリーはうな垂れる。
 「と・・・とりあえず、コムイには見つからないように行動しろ!
 お前がこんな目に遭ったと知ったら、あいつがなにをしでかすか・・・!」
 最悪の予想に声を上ずらせるクラウドに、リナリーは素直に頷いた。
 「じゃあ、アレン君だけでも先に、どこかに隠して・・・」
 リナリーがその腕の中に庇っていたアレンの、蒼褪めた顔を見るや、クラウドはなぜか、今まで以上に表情を厳しくする。
 「元帥?」
 「リナリー・・・!
 まさか、アレンを襲ってなんかいないだろうね?」
 「襲いませんよっ!!」
 真っ赤になって反駁したリナリーに、クラウドは肩をすくめた。
 「なんだ、もったいない。
 こんなチャンス滅多にないのだから、襲うなら早くおし。
 コムイには黙っててや・・・」
 「襲いませんってば!!」
 更に言われて、クラウドは軽く吐息する。
 「後悔するなよ?」
 「しませんよっ
 それより元帥こそ、神田を確保しなくていいんですか?!
 今、ユウ姉様ってば、そりゃあ美人になって・・・アレ?」
 クラウドが踵を返したと気づいた瞬間、彼女の背ははるか遠くにあった。
 「クラウド元帥?!」
 「保護はフロワかソカロに求めろ!!
 私はユウを着飾らせなければ!!」
 「マッテ!!」
 悲鳴をあげて呼び止めるが、暴走ママが聞いてくれるはずもなく・・・。
 リナリーとアレンは、そのまま回廊に置いてけぼりにされてしまった。
 「ご・・・ごめん・・・・・・」
 リナリーが気まずげに言うと、アレンはふるふると首を振る。
 「と・・・とりあえず、ティエドール元帥かソカロ元帥を探そっか・・・」
 こくんと頷いたアレンに、リナリーはそろそろと手を差し伸べた。
 「あの・・・襲ったりしないから、とりあえずはぐれないように手をつなご?」
 下心などない、と、生真面目に言うリナリーに、アレンが思わず吹き出す。
 大きく頷いて、アレンはリナリーの手を取った。


 「じゃーとりあえず、これ着て!」
 コムイに女性用の団服を渡されたラビは、目をキラキラと輝かせて踵を返した。
 「レッツゴー女子更衣室!
 俺、ずっと入りたかっ・・・へぶっ!!」
 「アホぬかすでないわっ!!」
 またもやブックマンの蹴りを受けて、血反吐を吐いたラビが床に這う。
 「なんでさっ!!
 今は俺、オンナノコなんだから、女子更衣室で着替えんのが妥当さね!!」
 「にっ・・・偽物の女の子になんて、入って来て欲しくありませんっ!!」
 真っ赤な顔をして、ミランダが悲鳴じみた声をあげると、女子団員達が揃って頷いた。
 「えぇっ?!
 じゃあ俺、女湯にも入れてもらえないんさっ?!
 ぜひとも今日は女湯にはいっ・・・すみませんっ!!」
 手に手に武器を持った女子団員達に迫られ、ラビは団服を抱きしめたまま震え上がる。
 「うっうっうっ・・・!!
 好奇心旺盛なんは、ブックマンの性さね・・・・・・!」
 「キミのはスケベ心って言うんだよ・・・」
 「一族の名を汚すでないわっ!!」
 あきれ果てたコムイに続き、怒鳴ったブックマンの爪にも切り裂かれて、ラビは自身で作り上げた血の池に沈んだ。
 その様に深々と吐息して、神田は受け取った団服を広げる。
 女性用ではあるが、以前、ミランダやクラウドが着ていたパンツスーツであることを確認して頷くと、リモート解除されて自分でも脱げるようになったGの衣装を、ためらいなく脱ぎ始めた。
 「ちょっ・・・神田っ!!」
 「はしたない!!」
 リーバーとミランダに両腕をとられ、身動きを封じられた神田が、不満げに彼らを睨む。
 元々整った顔立ちではあったが、女性的な丸みを帯びた顔は驚くほど美しく、思わず見惚れてしまったミランダは、手を振りほどかれて慌てた。
 「あっ・・・あのっ・・・!!
 せめて別の部屋で着替えてください!!」
 必死に腕を引き、連行しようとするミランダの腕が、横合いから掴まれる。
 「ク・・・」
 「ふ・・・ふふふ・・・ふふふふふv
 ミランダを押しのけ、神田の腕を掴んだクラウドが、嬉しそうに笑った。
 「とうとう取り返したぞ、私の娘vv
 リーバーをも押しのけて、クラウドは神田を抱きしめる。
 「あぁ、言いたいことはわかっている。
 わかっているから、後はフロワとソカロに任せて、お前はママと一緒においでv
 こーんな無粋な団服よりも、もっと可愛い服を着せてやる!」
 早速連行しようとするクラウドに抵抗し、喚きたてるが、言葉を失った彼女は意味のない喚声をあげることしかできなかった。
 「ふふふv
 悪口雑言も封じられるなんて、なんてすばらしい能力だろうなv
 一生このままでいていいんだよ?」
 「それは困ります!!」
 思わず口を出したコムイはしかし、クラウドのひと睨みですごすごと引き下がる。
 その彼に、更に神田の喚声が沸くが、なんと言われているのかわからない今、いつものように怯えることもなく、皆が連行される彼女をただ見送った。
 「・・・今、改めて思ったヨ。
 言葉って偉大だね」
 回廊中に響き渡る喚声に耳を澄ましてコムイが呟く。
 「ようやくわかりましたか」
 言語学者のリーバーが、吐息と共に頷いた。


 その頃、かくれんぼの鬼になったティキは、いつの間にかロードの姿を見失い、敵の本拠地内を駆け回っていた。 
 「なんっでこんなトコではぐれるんだ、あいつは!!」
 はぐれたのは、リナリーに痛めつけられて朦朧としていたティキの方なのだが、そのことにはまだ気づいていない。
 「元帥に見つかったら、さすがに俺らでも・・・ヤバッ!!」
 焦って間近の部屋に飛び込み、ティキは気配を殺した。
 そのドアの前を、
 「へっへっへぇ〜・・・v
 ノアはいねがぁ〜〜〜〜?
 ノアはどこだぁ〜〜〜ん?」
 不気味な刃鳴りを響かせながら、ソカロが通り過ぎていく。
 息さえも殺して硬直していたティキは、ソカロの刃鳴りが消えて随分経った後、しんと静まり返った外の気配を窺った。
 「よし、もう大丈・・・」
 「いらっしゃぁーいv
 ドアを開けた途端、振り下ろされた刃を髪一筋の差でなんとかかわす。
 「よけんなよ、お嬢ちゃん?
 女は無理せずキレイに死にな?」
 かつて、自分がリナリーに言ったことをそのまま返され、ティキは唇を噛んで更に飛びすさった。
 「はっはっはーぁv
 美人が相手で嬉しいぜ♪
 こないだの女もよかったしなぁ・・・ノアは美人が多くて楽しいなぁv
 「うっ・・・せぇよスケベオヤジ!!
 お前もクロスと同じか?!」
 変態、と罵られて、ソカロは軽く肩をすくめる。
 「おいおい、あんな色情狂と一緒にするなよ。
 俺は、あいつに比べたら全然紳士だぜぇ?」
 のんびりした口調ながらも、繰り出す刃に一切の手加減はせず、ソカロはティキを壁際に追い詰めていった。
 「ホラホラ、ちったぁ抵抗しな、お嬢ちゃぁん?
 さもないとミンチになっちまうぜーぇ?」
 「どこが紳士だっつーの!!」
 叫ぶと同時に、ティキはティーズの群れを放つ。
 「はっはーぁ!
 さすが美人は武器も違うねーぇ!」
 あっさりと全てのティーズを切り伏せたソカロは、そのままの勢いで壁をぶち抜いた。
 しかし、
 「・・・あん?」
 瓦礫の下に、ティキの死体はない。
 「ちっ・・・逃がしちまったか。
 かくれんぼの上手なお嬢ちゃんだ」
 巨大な刃を肩に乗せ、ソカロはやや不満げに呟いた。


 「〜〜〜っぶねぇぇぇぇぇ!!!!」
 ティーズでソカロの視界をふさいだ一瞬、隣室ではなく、階下へと透過して逃げたティキは、階上の破壊音に冷や汗を流した。
 「今年もトラウマ決定かよ、ハロウィン・・・・・・」
 なんで俺ばっか、と、先に帰ってしまったルル=ベル達に恨み言を漏らす。
 「大体・・・あいつやロードが、少年を連れて来いなんて言わなけりゃ、俺がこんなに苦労することねぇのに」
 ため息をつこうとして、ティキは圧迫されて苦しい胸を押さえた。
 「っつかもう、なにこれ!!
 ルルの奴、ここに来るならドレス脱いでけなんつったくせに、コルセットは外してくれないって、どゆことっ?!
 あぁもう、外してやる!
 多少胸重くたって、苦しいよりマシ!!」
 きぃっと、ヒステリックな声をあげてブラウスを脱いだティキは、背中に回した手をもたもたとさまよわせる。
 「ちょっと誰かっ!!
 あたくしのコルセット外してちょうだいっ!!」
 悲鳴はしかし、誰の耳にも届かなかった。


 「・・・なんか聞こえた?」
 回廊の奥から破壊音が聞こえた気がして、リナリーは振り返った。
 首を傾げたアレンに微笑み、リナリーは更に彼の手を引く。
 「その服、動きにくいでしょ?服を貸してあげるから、私の部屋にいこ!」
 うん、とアレンが頷き、素直にリナリーに従った。
 「もし、ロードやティキに見つかっても、アレン君だってわかんないようにしないとね!
 下手に被り物なんかするとすぐばれるから・・・去年のハロウィンで私が使った、金髪のカツラをかぶってみる?
 頬の傷は・・・うん、大丈夫!
 お化粧で消してあげるからね!」
 嫌な予感に眉をひそめたアレンの手を、リナリーはぐいぐいと引っ張る。
 「男の子の格好してたら、ロードのことだもん、すぐにわかっちゃうだろうから、女の子の格好しよう!今は女の子なんだし!」
 アレンが抗議できないのをいいことに、リナリーの目がキラキラと輝き出した。
 「ハロウィンパーティの最中に、普通のカッコじゃ目立っちゃうよね!
 じゃあ、魔女のカッコにしようか!
 私が前に魔女っ子やった時の衣装があるし、きっとアレン君にも似合うよ!!」
 さすがにアレンがやだやだと首を振るが、今のリナリーにはまったく聞く気がない。
 「ホラ、早く!
 ぐずぐずしてると見つかっちゃうよ!」
 アレンの抵抗をものともせず、自分の部屋に引き込むと、クローゼットに潜ってハロウィンの衣装一式を引きずり出した。
 「ハイ、魔女っ子の服v
 ミニだけど、アレン君なら着こなせるよv
 裾がフレアになったラベンダー色のワンピースを差し出されるが、アレンはぷるぷると首を振って受け取ろうとしない。
 「ほら、ヤダじゃないでしょう?
 早く着替えて、ティエドール元帥かソカロ元帥と合流しないと!」
 きょろきょろと辺りに視線をさまよわせるアレンに、リナリーはにんまりと笑った。
 「それとも、アリスの衣装がいい?ロードとおそろいだよ?」
 やや意地の悪い言い様に、アレンがまた、ぷるぷると首を振る。
 「だったら早くこれ着て!
 ロード達にさらわれたらどうするの!
 きっともう、帰してもらえないよ?!」
 困惑しきった様子で衣装に目を落とすアレンに、リナリーが頬を膨らませた。
 「さぁ服を脱いで!
 嫌じゃないでしょ!ホラ!
 抵抗しないの!!」
 「きゃああああああああああああああああ!!!!」
 床に押し倒された上、服を剥ぎ取られそうになったアレンが悲鳴をあげる。
 途端、
 「リナリー?!」
 勢いよくドアが開いて、ずっと妹を探していたコムイが飛び込んで来た。
 「あ、兄さん!
 ・・・・・・顔が変だよ?」
 顎が抜けたのではないかと思うほど大きく口を開き、目を見開いて硬直した兄を、リナリーが不思議そうに見遣る。
 「どうかした?」
 「リッ・・・・・・!」
 兄の激しく震える指が、自分を指差す様に、リナリーは何気なさそうに頷いた。
 「あ、うん。
 ロードの能力で、男の子にされちゃった・・・」
 そりゃ驚くよね、と、苦笑するが、兄の硬直は解けない。
 「兄さん、あの・・・」
 兄がショック死するのではないかと、リナリーが不安そうに首をかしげた途端、
 「リナリーがアレン君に不埒なことをぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
 「へ?!
 あっ!!」
 絶叫した兄の指摘でようやく今の状況に気づいたリナリーは、慌てて起き上がり、真っ赤な顔でしゃくりあげるアレンに手を合わせた。
 「ごめんっ!
 アレン君、襲うつもりなんかなかったんだけど・・・ごめんなさい!泣かないで!!」
 「ぼん゛っどーに゛っ?!ぼん゛っどーに゛ぢがう゛ん゛だね゛っ?!」
 「兄さんも泣かないで!!」
 泣いて縋る兄を真っ赤な顔をして叱り付け、リナリーは一所懸命アレンをなだめる。
 「ほらほらアレン君、飴だよー?飴あげるよー?」
 まだしゃくりあげるアレンの口にロリポップをくわえさせて、リナリーは必死に笑顔を作った。
 「いいこだねーv
 はい、お着替えしようねーv
 ハイ、と、リナリーはラベンダー色のワンピースをアレンの頭から被せる。
 「う・・・・・・」
 ロリポップで泣き声を封じられたアレンは、とうとう観念して、ワンピースの下でもそもそと着替えた。
 「わぁv かわいいvv
 ラベンダー色の衣装を着て、ちょこんと座り込んだアレンにリナリーが歓声を上げるが、アレンは不満そうに俯いてしまう。
 「ホントに可愛いってばv
 ねぇ、兄さん?」
 「リナリーには100万倍劣るけどねっ!」
 ふんっと、鼻を鳴らしてそっぽを向いた兄をねめつけ、リナリーはアレンに向き直った。
 「じゃあ、お化粧で傷を隠そうねv
 じっとしててvv
 まるで人形遊びをするかのように楽しそうなリナリーには逆らえず、アレンは困惑げに眉を寄せたまま、されるがままに飾られていく。
 「はい、帽子をかぶって完成だよv
 最後にリナリーが差し出した帽子を目深にかぶって顔を隠そうとしたアレンは、ふと姿見に映る自分を見て、頬を染めた。
 「っっっっっ!!!!」
 パタパタと姿見を指してはしゃぐアレンに、リナリーが満足そうに頷く。
 「ねー?
 アレン君、あんなシツレイな双子なんかより、ぜーんぜん可愛いんだから!」
 と、アレンが両手の人差し指で目を吊り上げて、首をかしげた。
 「・・・?
 あぁ、神田?
 うん、そうだね。神田より可愛いよ」
 次に、両手を頭の上にあげて、ウサギの真似をすると、それにもリナリーは頷く。
 「うん、ラビよりも可愛い」
 「vvvvv
 にっこりと得意げに笑ったアレンに、さすがのコムイも苦笑した。
 「そんなに嬉しいかなぁ・・・・・・うれしいの?そうかいそうかい」
 こくこくと頷くアレンに苦笑を深め、呆れ顔で頷いてやる。
 「そんじゃ、元帥にはご足労だけど、ここで合流してもらおうか。
 クラウド元帥は今、神田君にかかりきりだから、ティエドール元帥にでも・・・」
 そう言って口元にインカムを下ろしたコムイだったが、
 「え?忙しいって、なんでですか?
 はい?神田くんにハートの女王ですか・・・イヤ、一所懸命作ってたのは知ってますけど・・・だから知ってますけど、今狙われてるのはアレン君で・・・・・・。
 はぁ、まぁ、そうですね・・・。
 はい、ではソカロ元帥にでも・・・・・・」
 複雑な顔をして通信を切った兄に、リナリーが首をかしげた。
 「どうしたの?」
 「ん・・・。
 今、クラウド元帥と一緒になって、神田君をハートの女王にしている最中だから、手が放せないって・・・」
 「えぇー!
 今危険なのはアレン君なのに!」
 「あぁうん・・・まぁうん・・・」
 憤然とするリナリーを制するように手を掲げ、コムイはごにょごにょと口を濁す。
 さすがの彼も、アレンやリナリーに向かって、ティエドールが『クロスの弟子なんかより、ユー君のほうが大事』言っていたとは言えなかった。
 「だ・・・大丈夫だよ!
 まだ、ソカロ元帥が・・・」
 とりなすように言って、回線を開いた途端、コムイはソカロの大音声に慌ててインカムをはずす。
 『わっりぃなぁ!!今、美人を追いかけてる最中なんだよ!ガキは自分でなんとかしろや!!』
 インカムから聞こえてくる声に、アレンはやさぐれた表情で口の端を曲げた。
 「だっ・・・大丈夫だよ!
 私がついてるからね、アレン君!」
 「うん・・・他の子達も、集めといた方がいいかな・・・・・・」
 ノア相手に戦力の分散は危険だ、と、コムイは外したインカムを改めて耳にかける。
 「エクソシスト全員、現在の状況を報告!」
 その声は、ノアの姿を求めて走る、ラビとチャオジーの耳にも届いた。
 「あいあい♪
 こちらラビ子v
 チャオ子と一緒に探索活動中v
 『・・・・・・その言い方やめなよ』
 回線越し、心底気持ち悪そうな声を出すコムイに、ラビは陽気な笑声をあげる。
 「だってんv
 俺、こんなに完璧な変装できたの初めてなんだもんさv
 ヤダ癖になりそうv
 『・・・もうキミ、一生そのままでいるがいいよ』
 「そしたら女湯入れてくれるっ?!」
 期待に満ち満ちた声をゴーレムに向けるラビの傍らで、チャオジーが派手に転んだ。
 「なーによぉ、チャオ子!
 アンタだって女湯入りたいでしょーぉ?」
 しかし、真っ赤な顔を懸命に横に振るチャオジーに、ラビは鼻を鳴らす。
 「なにさ、いい子ぶっちゃって!
 あ!そうだ!
 ジェリ姐に見せてこよっ!」
 『探索任務中じゃないのかい!!』
 ゴーレムが発したコムイの叱声に、ラビはにんまりと笑った。
 「これから食堂の探索に向かうさっ!」
 報告終了!と、ラビは一方的に通信を切る。
 「行くわよ、チャオ子!
 姐さん驚かすんさv
 チャオジーの腕をぐいぐいと引き、ラビは食堂へと走って行った。


 その頃、パーティ料理作りに大忙しの食堂には、お菓子の焼けるいい匂いにつられて、小さな姿がやってきた。
 「アラ?」
 注文カウンターの向こうに、白い冠が覗いているのを目の端に捉えたジェリーが、なんだろうかと寄ってくる。
 「アラ、カワイイv アリス女王様ねv
 注文カウンターよりも低い場所にある顔を見て、ジェリーはにっこりと笑った。
 「でも・・・アンタうちの子じゃないわよねぇ?どこの子?」
 「僕がここの子じゃないって、なんでわかったのぉ?」
 質問には答えず、逆に問うてきた子供に、ジェリーは軽く肩をすくめる。
 「そりゃあわかるわよぉv
 アタシはね、一度でもここでごはんを食べた子の顔は忘れないのv
 「すごーぃ!
 じゃあこのお城の、みんなの顔覚えてるの?」
 子供が歓声を上げると、彼女は誇らしげに、大きく頷いた。
 「当たり前でしょ!
 でも、アンタには前に会ったことがある気がするのよねぇ・・・?」
 なぜかしら、と呟いたジェリーは、ぱんっと手を叩く。
 「アンタ!ノアの子じゃない?!」
 正解を言い当てたジェリーに、ロードは彼女の真似をして、大きく頷いて見せた。
 「あったりぃv
 僕はロード・キャメロットv ノアの子だよぉv
 「そうそう!
 前のお城で、アタシの仕事場をめちゃくちゃにしちゃった子ね!」
 めっ!と、怖い顔をしたジェリーにしかし、ロードは唇を尖らせる。
 「違うよぉ。
 僕はお菓子もらっただけだもん。
 めちゃくちゃになったんなら、それは僕らを追っかけた、エクソシストのせいでしょぉ?」
 「原因はアンタなんだけどねぇ・・・」
 思わずジェリーが肩を落とすと、ロードはにこりと笑みを浮かべた。
 「あのお菓子、すごくおいしかったぁv
 ねーぇv またちょうだぁいv
 甘えるような声に、ジェリーはぽっと赤らんだ顔をあげる。
 「んまっv 仕方のない子ねぇv
 とは言いつつ、嬉しげに笑ったジェリーは、人差し指を立てて小首を傾げた。
 「じゃあアンタ、あの言葉をおっしゃい?
 そうしたらアタシも、『脅されて仕方なく』って言い訳が立つわv
 「うん!
 Trick or Treat!」
 ロードがはしゃいだ声をあげると、ジェリーは大仰に驚いてみせる。
 「まーぁ!大変っ!
 お菓子をあげないと、イタズラされちゃうわーぁv
 大きな籠に、どっさりと手作りのお菓子を入れて渡してやると、ロードはキラキラと目を輝かせた。
 「わぁーい!!!!
 ありがとぉーvv
 「んまっ!
 ちゃんとお礼を言えるなんて、いい子ね、アンタv
 きっと、親御さんのしつけがいいんだわv
 いい子にはサービスよんv
 機嫌よく言って、ジェリーは更にお菓子を乗せてやる。
 「きゃああvv
 じゃあ僕、イタズラしないでかえってあげるぅv
 上機嫌なロードの頭を、ジェリーはカウンター越しに優しく撫でてやった。
 「なんて可愛い子かしらv
 またお菓子食べにいらっしゃいねv
 「うんっ!!」
 両手にお菓子の籠を抱えたロードは、それまで手にしていた王錫を持て余し、背伸びしてカウンターに置く。
 「あら?
 王錫を置いてっちゃうの、女王様?」
 「うん、お菓子のお礼v
 にこりと笑って、ロードは大きな目をくりくりと動かした。
 「ねーぇ、もしもキミが・・・女の人の身体になりたいんならさぁ、ちょっとそれ、触ってみてぇ?」
 「これ?」
 言われて、何気なく王錫を手にしたジェリーは、唐突に違和感を覚えた胸に目をやって唖然とする。
 「ンマーァ!!!!」
 驚きとも喜びともつかない歓声をあげたジェリーに、ロードは笑みを深めた。
 「効き目は今日一日・・・僕の夢が終わるまでなんだけどぉ、それまでは本当のオンナノコだよぉv
 にこにこと笑って、ロードはジェリーへ手を振る。
 「じゃあ、またねぇ!
 お菓子をありがとぉv
 「こちらこそぉーv
 くるりと踵を返し、嬉しそうに駆けていったロードが、ノア最大の実力者だなどとは知らないジェリーは、また、自分が彼女の攻撃を未然に防いだことも知らぬまま、嬉しげに笑って手を振り返した。


 食堂でロードが、王錫を手放した瞬間・・・。
 城の一室で、元帥二人に寄ってたかって飾り立てられていた神田に言葉が戻った。
 「いい加減にしろてめェらっ!!
 放しやがれぇぇぇぇぇっ!!」
 突然の大絶叫に、さすがの元帥達も驚いて手を止める。
 「おや、ユー君・・・」
 「言葉が戻ったのか・・・」
 目を丸くして、ティエドールとクラウドの両元帥は、同時に舌打ちした。
 「せっかくの美人が・・・」
 「口を開いた途端、台無しだ・・・」
 「だったら今すぐ!俺を飾るのやめろ!!」
 神田の大絶叫に、わざとらしく耳を塞いだクラウドが肩をすくめる。
 「それとこれとは別の話だな」
 「そうそう。
 芸術の優劣は、作家やモデルの性格とは関係ないからねぇ」
 「それにホラ、これはハートの女王だから!」
 「ユー君がいくら怒鳴ったって、逆にぴったり当てはまるってもんだヨv
 クラウドと一緒になって、ティエドールもはしゃいだ声をあげた。
 「ふふふv
 一所懸命縫った甲斐があったなぁv よく似合っているv
 「悔しいがそれは認めざるをえないな、フロワ!
 リナリーは男の子になってしまったことだし、今日一番の美人はお前だよv
 「誰がっ・・・!!!!」
 またもや絶叫しようとしたものの、クラウド元帥が張り切って締め上げたコルセットが胸を圧迫して、さすがに息が切れる。
 一瞬ぐったりとした隙を逃さず、神田の背後に回ったティエドールが彼を羽交い絞めにし、化粧道具で武装したクラウドが迫った。
 「やっ・・・・・・!!」
 やめろ、という声すらもう、出ない。
 両元帥が、『今世紀最大の傑作』と大満足したハートの女王が教団に現れたのは、それから間もなくのことだった。


 同じ頃、やはり言葉を取り戻したアレンは、感動のあまり歓声をあげた。
 「話せる!!
 リナリー!コムイさん!!
 僕、話せるよぉぉぉぉ!!」
 絶叫するアレンに、兄妹は・・・いや、今は兄弟は、大きな拍手を送る。
 「身体はそのうちだとしても、今は・・・ハイ?
 ジェリぽん、どしたのぉ?なんか声が・・・ええええええええええええええええええ?!」
 インカムに手を当てて、ジェリーからの通信を受けたコムイが、突然絶叫した。
 「それホント?!
 うわぁ!!見に行く!!すぐ見に行くからね!!」
 「兄さん?どうしたの?
 「ジェリーさんが何か・・・?」
 困惑げな二人の手を、コムイが握り締める。
 「すごいよ、ジェリぽん!
 ロードを手懐けて、あの王錫ゲットしたんだってぇ!!!!」
 「ホントに?!」
 異口同音に驚きの声をあげ、二人は目を丸くした。
 「さすがジェリー・・・!ロードまで手懐けちゃうなんて・・・!」
 「ママンの実力は半端じゃないですね!すごいです、ジェリーさん!!」
 「うんうん、さすがだよねー!すごいよねー!!」
 心から感心して頷いたコムイは、『それでね・・・』と、大きな笑みを浮かべる。
 「ジェリぽん、本当のオンナノコになったんだって!!」
 「ええええええええええええええええええええええ?!」
 つい先ほどのコムイと同じく、絶叫した二人は、目をキラキラと輝かせた。
 「見に行く!!」
 「でしょっ?!」
 得たりと頷き、コムイはドアを開ける。
 「イコイコv
 アレン君の魔女っ子も見せてあげないとね!」
 「はいっ!!」
 楽しそうに飛び跳ねて、アレンはコムイとリナリーに続き、食堂へと走って行った。


 「ティッキィー!
 ティッキー、帰るよぉー?」
 お菓子の入った大きな籠を両手で抱え、目の前に現れた兄弟に、ティキは肺が空になるほどに深く吐息した。
 「ロード・・・!よかった、会えて・・・!」
 「うわぁ、ボロボロ」
 よほど痛めつけられたのだろう、傷だらけの身体を両手で抱え、力なくうずくまったティキに、ロードは小首を傾げる。
 「よかったねぇ、ドレス着替えてて。
 ルルのドレスをこんなにしちゃったら、あいつ、確実にティッキーを殺すよ」
 「俺よりドレスが大事か・・・」
 「正しくは『千年公からもらったドレスが』だね。
 他の服には全然無関心だもん」
 肩をすくめて、ロードはかかとを鳴らした。
 途端、床から『家』へと通じる扉が現れる。
 「ホラ、帰ろぉ?
 まだあの怖ーぃおじさんに、いぢめられたいんなら別だけど」
 「帰る!!」
 すぐさま立ち上がり、ティキは扉を開けた。
 「あのおっさん、人間よりもむしろ獣に近いぜ!!
 どこに逃げても嗅覚で追ってくるし、なのに俺はコルセットが邪魔でろくに動けねぇし!!」
 ぶつぶつ言いながら、ティキはロードが抱える籠を受け取り、その小さな背中を押して、先にドアをくぐらせる。
 「でもまぁ、相手がクロスじゃなくてよかったかな。
 じゃなきゃ、別の意味で襲われたかもしんない・・・」
 「そりゃあ、これだけ魅力的なレディが目の前にいて、口説かないなんて男じゃないヨv
 後ろ手にドアを閉めた途端、迎えに現れたシェリルに抱きつかれて、ティキは心底嫌な顔をした。
 「・・・今の俺は妹だから、手を出さないでくれるかな、変態兄さん」
 「なんだい、つれないなぁティッキーは。
 せっかくこんなに美人なんだから、ボクにも愛想良くしておくれv
 「放せって気色悪いっ!!」
 ティキが真っ青になって彼を引き剥がした途端、
 「お父様ぁーただいまぁーv
 「ロードッv おかえりぃv
 飛びついてきたロードを抱き止め、シェリルはぎゅっと抱きしめる。
 「もーぉ!
 お父様を置いて遊びに行っちゃうなんて、ひどいじゃないかぁ!
 追いかけようにも、双子を連れて戻ってきたルルが扉を閉めちゃうし・・・寂しかったんだよーぉ!」
 「ごめんなさぁいv
 おいしいお菓子をたくさんもらってきたから、お詫びにわけてあげるぅv
 「フフv ロードのくれるものならなんでも嬉しいよv
 とろけそうな笑みを浮かべて、シェリルはロードの頬を優しく撫でた。
 「さぁさ、それはともかく、千年公がお待ちかねだ。
 ロードはこのままでいいとしても、ティキ、キミは着替えた方がいいね。
 ルル=ベルにまた、借りるといい」
 「・・・・・・俺、このままじゃ料理なんて、一口も入りそうにないんだけど」
 げっそりと吐息したティキに、シェリルは呆れた風に肩をすくめる。
 「双子は元気だけどねぇ・・・。
 まぁいいよ。
 兄さんがルルに、あんまりイヂワルしないように言ってあげるから、先に部屋で待ってなさい。
 ハロウィンが終わるまで、ロードの夢が醒めることはないようだからね」
 また、頬を撫でるシェリルににこりと笑い、ロードは大きく頷いた。


 『おぉーぃ!
 ノアの奴ら、消えちまったぜぃ?』
 城内の全回線にソカロの声が響いた途端、団員達は張り詰めた緊張の糸を緩めた。
 「最大の功労者はジェリぽんだね!」
 報告を受けるや、厨房にいたコムイは大きく両手を広げ、リナリーと共にジェリーを讃える。
 その隣で、
 「さっすがママンさ!
 俺よりもナイスバデーだし・・・・・・」
 後半は悔しげにラビが言うと、いつも以上に華奢なアレンが目を輝かせた。
 「美人ママンのいる食堂だなんて、僕、嬉しいですv
 「んまっv
 アレンちゃんたら嬉しいわぁv
 心だけでなく、身体も女性になったジェリーは、そんじょそこらの女では太刀打ちできないほどに艶めかしい。
 「ただちょーっと困ったのは、いつもなら軽々振り回せる鍋が、重くなったことねん」
 とは言うが、次々とパーティ料理を作り出す手が滞っているようにはまったく見えなかった。
 「ふふ・・・v
 でも、アタシにはとっても嬉しいプレゼントだわぁんv
 あの子、今日一日の効力だって言ってたから、しっかり楽しませてもらうわよぉんv
 「それを聞いて、ホントに安心したよ・・・」
 ジェリーには悪いけど、と、リナリーが乾いた声をあげる。
 「ずっとこのままじゃないかって、すごく心配したから」
 ねぇ?と、性別を変えられた仲間達に笑いかけると、彼ら・・・いや、彼女らは何度も頷いた。
 「でもそうとわかったら、十分楽しませてもらうさねv
 身体ごと変身できるなんて、滅多にないことだしさv
 「また言ってる・・・」
 呆れ顔・・・というよりは、やや軽蔑の色が濃い表情を、チャオジーが浮かべる。
 「女子更衣室と女湯への侵入は、絶対不可だからね!」
 コムイにまで釘をさされ、憮然としたラビに、アレンが弾けるように笑った。


 その後。
 厨房一同の協力により、ジェリーはパーティに参加し、ハートの女王に扮装した神田と共に、団員達に絶賛された。
 ジェリーに対してはともかく、神田に対して激しくライバル心を燃やしたアレンが、ヒステリックなまでに自身の可愛さをアピールしたが、そんな騒ぎはこの教団では、些細なことだ。
 問題は、ヒステリックになったアレンを誰も止めなかったこと・・・。
 今回ばかりは、神田と共にアレンの嫉妬の対象となったラビはともかく、アレンの側を片時も離れない監査官の姿が見えないことは異常なことだった。
 だが、それは有能な監査官のこと。
 表に姿を出さずとも、どこかで影のように監視しているのだろうと思われていたことが災いした。
 「おのれ・・・・・・」
 いまだ、G戦隊のポーズを決めさせられたまま、誰もいない部屋に放置されたリンクは、怨念にまみれた声をあげる。
 「いい加減に・・・・・・解放しろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
 拷問めいた仕打ちに半死半生のリンクが解放されたのは、翌日も日が高くなってからのことだった。



Fin.

 










2008年ハロウィン作品最終話でした!
これはリクエストの、『D.グレ女の子化&男の子化(D.Pink-Female)』を使ってます。
いやこれ、パラレルで書こうと思ってたんですが、希望が『仮想19世紀で』ってことでしたので、何か理由をつけなきゃ書けなかったんですよ(笑)
そんなわけで、ロードちゃんの能力を使わせてもらいました(笑)
ロードちゃんにこんなことが可能かどうかはわかりませんし、現在のティッキーが透過能力を持っているかどうかも疑問なんですが、今日はハロウィンですから!
なんでもありなんですよ、きっと!(笑)>そんな理由で逃げるのか;
そして今回も、『ママン最強伝説』と、『監査官不憫オチ』になりました(笑)
リンク君が出てきて以来、彼の不憫オチが好きで好きでたまりませんv












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