† Vivid Collars †







 冷たい冬の空気に星影は研ぎ澄まされ、光の矢がまっすぐに地上を射抜く。
 幾条もの光を受け、ほの明るい夜にもしかし、闇は黒々とわだかまっていた。
 時にそれは容を現し、ぞわりと蠢いて、闇の中から這い出てくる―――― 獲物を狙う獣のように静かに、しかし、いつでも飛びかかれるよう、四肢に力を込めて。
 獲物が、来た。
 長い耳をピクリと震わせ、まだ遠い足音を捉える。
 一歩一歩、リズミカルに近づいて来る獲物に、飛び掛るタイミングを計った。
 前脚に力を込め、爪を地に突き立てる―――― いざ!
 「こんばんは」
 不意に頭上から声が降り注いだと気づいた瞬間、獣の頭部は地に縫い付けられた。
 冷気に鋭さを増した光矢かと見えたそれは、銀に輝く大剣――――。
 獣は唸り声を上げ、苦しみを刻みつけるよう、鋭い爪で地を深く抉った。
 が、大剣の柄を持ち、獣の背に降り立った者は、笑みを含んだ声で囁く。
 「今すぐ楽にしてあげる・・・アクマ」
 剣を引くと見せて、一気に背までを切り裂くや、獣は赤黒い霧と化して消えた。
 「任務完了」
 穏やかな声に応えるように、星影が闇に白い姿を照らし出す。
 だがそれも一瞬、長いマントで身を覆った姿は、闇の中へと消えて行った。


 「やほーアレン♪
 調子はどうさ?」
 「ほべっ?!」
 陽気な声と共に頭をはたかれ、アレンは慌てて顔をあげた。
 「家庭教師参上〜♪」
 「ら・・・らび・・・?」
 アレンの寝ぼけ声に、ラビはクスクスと笑声をもらす。
 「寝てんじゃねーよ、受験生!」
 「寝っ・・・寝てないやいっ!」
 痛む頭をさすりつつ、反駁したアレンの頬にはしかし、くっきりと問題集の文字が移っていた。
 「お前、もうすぐ入試だろ?
 そんなのんきな事でいいんさ?」
 そう言って、去年のうちに有名大学への推薦入学を決めたラビは問題集を取り上げる。
 「ホレ。テストしてやっから目ぇ覚ますさ」
 「うん・・・」
 しぱしぱする目をこすりながら、アレンはすっかり冷めてしまったお茶を飲み干した。
 「おかわり」
 「ここは誰んちさ!」
 マグカップを差し出したアレンを、ラビが再びはたく。
 「なんだよスパルタ教師〜!!」
 「いいから始めるさ。
 試験までに弱いとこ全部クリアすんぜ」
 「はぁい・・・」
 うとうとと半眼になりつつ返事をすると、指で鼻を弾かれ、アレンはまた泣き声をあげた。


 翌朝、目覚ましを止めたままの姿勢で再び深い眠りに落ちていたアレンは、後頭部に鋭い痛みを受けて飛び起きた。
 「イダイ!!
 なにすんだよもう、リンクの乱暴者!!」
 「何度も呼んでいるのに起きない方が悪いのです!遅刻しますよ!」
 抗議は更に大きな声で返され、アレンは渋々起き上がる。
 「朝食はできてますから、10秒以内に着替えて下りてきなさい。
 さもないと、今日の夕飯は抜きです」
 「はいっ!!」
 アレンは慌てて制服に着替えると、厳しい管理人の後に続いた。
 父亡き後、後見人となった叔父はアレンを自宅に引き取ってくれたが、本人は世界中を旅して滅多に帰って来ず、ために彼の世話は、ある大企業で社長秘書として働くリンクが引き受けてくれている。
 ただしそれは彼の好意ではなく、社長の命令と彼自身の出世のためだった。
 「私は今日も遅くなりますので、夕食は冷蔵庫にあるものを温めてください。
 なお、昨夜の任務については、社長より『ホワイト』へ特別手当が出るとのことです」
 「ホント?!やったぁ!」
 フォークを振り回して歓声をあげるアレンに、リンクが眉をひそめる。
 「どうせすぐに、叔父上のツケが回されてきますよ」
 「・・・・・・・・・うん」
 がっかりとうな垂れ、アレンはもそもそとオムレツを口に運んだ。
 「ねぇ・・・ルベリエ社長、もっとお仕事回してくれないかなぁ?
 そしたら下手なバイトするより随分儲かるんだよね、僕」
 「現在の君は、任務よりも受験勉強が優先です。
 昨夜は他の者達が出払っていたため、仕方なく君に回しましたが」
 途端、アレンはピクリと顔をあげる。
 「ねぇねぇ、僕の他にもこのお仕事してる人達がいるんだよね?
 僕が『ホワイト』なら、『レッド』は確実にいるでしょ?
 他に何色があるの?どんな人達なの?『ピンク』っている?いつか会える?!」
 テーブルに身を乗り出したアレンの額を、リンクが突いて再び座らせた。
 「余計な詮索はしない契約です」
 「はーぃ・・・・・・」
 むくれて残りの朝食を掻きこむアレンに、リンクが淡い笑みを浮かべる。
 「君が高校に受かれば、その時は教えてあげますよ」
 その言葉に、アレンの顔がぱあっと輝いた。


 「行ってきます!」
 家を飛び出て、通学路を走っていく途中、アレンは朝日を浴びて光り輝く姿を見つけ、喜び勇んで駆け寄った。
 「リナリー先輩!!」
 大声で呼びかけると、振り返った少女はにこりと笑う。
 「おはよう、アレン君」
 「おはようございます!
 今日は部活、休みなんですか?」
 弾んだ声で問うと、並んで歩く彼女は笑みを深めて頷いた。
 「兄さん・・・じゃない、顧問のコムイ先生が入試の試験担当官だから、部活は今週いっぱいお休みなの。
 いよいよだね、アレン君。
 調子はどう?」
 「ばっちりです!!」
 リナリーの笑顔に見惚れつつ、アレンはこぶしを握る。
 「絶対!!
 先輩と同じ学校に入るんだい!」
 気合十分の宣言に、リナリーははじけるように笑った。
 「ラビ先輩が家庭教師してくれてるんなら大丈夫だよね。
 それに、アレン君にはあのリンクさんもいるし?」
 リナリーが小首を傾げると、アレンはふるりと首を振る。
 「ラビはともかく、リンクは勉強みてくれませんよ。
 お仕事忙しいらしくて、いつも帰りが遅いんです」
 「そうなんだ・・・残念だったね。
 あの人、飛び級で外国の大学を卒業して、大企業の社長秘書になったんでしょ?
 ものすごく優秀だって聞いたよ?」
 「優秀なんですけど・・・杓子定規な性格で、気に入らないとすぐ暴力に訴えるんですよ、あの乱暴者!」
 頬を膨らませながらも、ご飯はおいしいから文句は言えないとぼやくアレンに、リナリーがまた笑い出した。
 「じゃあ、試験までがんばってね!」
 「はいっ!!」
 分かれ道で手を振ったリナリーに、アレンがはしゃいだ声で応える。
 「絶対受かりますから!待っててくださいねv
 「うん!待ってるよ!」
 その言葉、その笑顔に励まされ、アレンは高校合格への思いを新たにした。


 「・・・そんで、今日はそんなに気合入ってんさ?」
 その夜、アレンの部屋を訪れたラビは、苦笑して彼を指差した。
 「はいっ!
 なんとしても受かりますよっ!!」
 大声で気合を入れたアレンは今、『必勝』と書いた鉢巻に十字架を挟み、首からは学業成就のお守りをいくつも提げ、『合格祈願』と刻まれた鉛筆を持つ手にはフクロウのメタルチャームがいくつもついたブレスレットをしている。
 「・・・俺はてっきり、吸血鬼退治にでも行くのかと思ったさ」
 乾いた声で言うと、ラビはニンニクエキス配合のスタミナドリンクを取り上げ、代わりに湯気をあげるマグカップを置いた。
 「ちょっと、返してくださいよ!
 今日は寝ないで勉強するんだから!」
 取り返そうと手を伸ばすアレンの額を、ラビがつついて押し戻す。
 「バーカ。
 あと1週間なのに寝ない習慣つけると、受かるもんも受からんさね」
 「へ?」
 きょとん、と、目を見開くアレンに、ラビはカレンダーを示した。
 「暗記する勉強に効果的なんは、寝る前に頭に入れること。
 起きてりゃそれだけ新しい情報に塗り替えられる可能性があるから、今まではできるだけ夜にやらせてたんさ。
 でも、試験まであと1週間になった今日からは、夜型から朝型に変えろよ。
 じゃなきゃ午前中のテスト中、眠くってアタマ働かないぜ?」
 「そっか・・・!」
 感心して、アレンはラビが置いたマグカップを覗き込む。
 「これ、なに?」
 「抹茶ミルク」
 「ほえ??」
 なんで?と、首を傾げると、ラビはアレンが用意していたコーヒーを飲みつつ笑った。
 「抹茶の成分には記憶力を高める効果があって、ミルクはそれを増進させる。
 脳は糖分しか栄養にできないから、砂糖は脳の栄養分に入れてんさ。
 まぁどうせ飲むんなら、コーヒーなんか飲んでないで、騙されたと思ってこっち飲むさね」
 言われて、アレンは大きく手を打つ。
 「あぁ!リンクが毎朝作る『特製ドリンク』って、そう言う意味だったんだ!
 あれは抹茶以外にもなんだか色々入ってるんだけど・・・効用くらい、教えてくれればいいのに」
 「あいつらしーじゃん」
 ぶつぶつと口を尖らせるアレンに、ラビが笑みを深めた。
 「ホレ、ぐだぐだ言ってねぇで、始めるさね。
 んで今日はとっとと寝ろ。
 明日は早く起きて、何でもいいから動いて目を覚ませよ」
 と、アレンが目を輝かせてこぶしを振り上げる。
 「じゃあ、突撃!隣のドッキリ目覚まし!」
 「俺は昼まで寝てる予定だから来んな!」
 すぱんっと、丸めた問題集でアレンの頭をはたいた時、ラビの携帯が鳴った。
 「あいあい?
 あー・・・了解さ」
 おしゃべりなラビにしては珍しく、簡単に通話を終えて立ち上がる。
 「どうしたの?」
 「ん。
 ジジィが、電球切れたから換えろって。
 ちょっと俺、コンビニに電球買いに行って、家の換えてくっから、お前はこの問題集やってな」
 「はぁい」
 ラビは問題集を渡すと、壁の時計を見遣った。
 「本番のつもりでやれよ。
 30分やるから、わかるやつから解いて行きな。
 わかんなかったやつと、間違えたやつは答え合わせの時に教えるさ」
 「了解です!」
 真剣な顔で問題を解き始めたアレンにちらりと笑い、ラビは家を出る。
 「・・・ったく、他のやつらはいねーのかよ!」
 人気のない夜の街を走りつつ、ラビはイヤホンマイクを装着した。
 「場所は?」
 リダイヤルした『本部』から、詳しい場所の指示が入る。
 「30分以内に戻るかんね、俺!
 後始末ヨロシク!!」
 掌に滑らせた槌の柄が伸び、ラビは軽々と街を越えた。


 ラビが現場に到着した時、既に闇は振り払われようとしていた。
 星影を受けた銀の煌めきが弧を描き、弦月の残像を残す。
 「やほーユウちゃんv
 お待たせさv
 「ちっ・・・遅ェんだよ!」
 忌々しげな彼に、ラビは懐こい笑みを向けた。
 「ごめんさーv
 遅刻ついでに俺、30分以内に戻んなきゃだから、あと8分で片付けオーケー?」
 「そんなにかかんねぇよ」
 言い捨てるや、鋭く歩を踏み出し、闇を切り裂いた。
 「さっすがユウちゃんv
 頼もしいさね♪」
 笑いながらラビも、巨大化した槌で這い出てきた闇を討つ。
 「あ、壊ったアクマの数、数えたさ?
 しゃちょーが今度から、歩合制にしてくれるっつってんさv
 「数えてねぇよ!」
 「んじゃ、ゴーレムの動画、消さずに提出な?
 数が多いとお財布潤って嬉しーさねv
 はしゃいだ声をあげて、ラビは次々にアクマを打ち倒した。
 ―――― 数分後、雲間から月が姿を現した頃。
 街の片隅にわだかまった闇は、すっかり打ち払われていた。
 「任務完了♪
 んじゃ俺、戻るからあとヨロシクv
 「あぁ・・・」
 無愛想に頷いた彼に、ラビは手を振る。
 「また明日、ガッコでな♪」
 ひらりと身を翻し、ラビは元来た道を辿った。


 「ただいまさー♪」
 ぴったり30分後、コンビニの袋を持って戻って来たラビに、アレンはノートを差し出した。
 「採点お願いします」
 「あいよ」
 交換に受け取った袋から、アレンは肉まんを取り出して頬張る。
 「リンク、今日も遅くなるって言ってたけど、お仕事忙しいのかなぁ」
 言いつつアレンが見あげた時計は、既に10時を回っていた。
 「今は年度末と新年度の交代時期だかんね。
 社長秘書は色々忙しいんじゃね?」
 「ふぅん・・・。
 ラビ、僕ね、高校生になったら寮にでも入ろうかと思ってるんだけど・・・」
 「なんで?ここイヤなんか?」
 赤ペンを走らせながらラビが問い返すと、アレンは首を振る。
 「そうじゃないけど・・・いくら出世のためったって、忙しいリンクに管理人までお願いするのはどうなのかなぁって」
 「いんじゃね?
 むしろ社長としては、自社株大量に持ったまんま海外逃亡しちまったクロスのおっさんの動向を知るためにも、お前はリンクの監視下に置いときたいはずさ」
 「・・・それを言われると一言もないですよ」
 人質なのか、と、虚しく呟くアレンの額を、ラビはペンの後ろでつついた。
 「詳しいことはリンクと相談するにしても、お前はまず、高校に受かること考えな。
 ・・・この程度でもう高校生活のことを考えるなんざ、おこがましいにも程があるさ」
 「えぇっ?!」
 思わず身を乗り出したアレンの額を、ラビがまたつつく。
 「ケアレスミス多すぎ。
 ちゃんと問題読みな」
 「はい・・・」
 悄然と座り直したアレンに笑い、ラビは問題点を丁寧に解説してやった。


 翌朝、十分な睡眠をとってスッキリと目覚めたアレンは、起こされる前に階下に下りて、リンクを驚かせた。
 「どうしたのですか、今日は?」
 「えへへーv
 ラビが、朝型に変えろって言うから、昨日は早く寝たんです!」
 得意げに胸を張ると、リンクが頷く。
 「よいことだと思います。
 Jr.は家庭教師としては、意外と優秀ですね」
 「バイト代はずめって言ってました!」
 ラビの伝言を伝えると、リンクはまた頷いた。
 「君が合格できた暁には、特別ボーナスを出すことにしましょう」
 全ては君次第です、とプレッシャーをかけられ、アレンが顔を引き攣らせる。
 「自信がないのですか?」
 「あ・・・あるよっ!」
 口の端を曲げたリンクが差し出した特製ドリンクを受け取り、アレンは一気に飲み干した。
 「がんばるよ!
 リナリー先輩と同じガッコに行くんだいっ!!」
 そう言ってこぶしを振り上げたアレンに、リンクは軽く吐息する。
 「動機は甚だ不純ですが・・・君の努力を期待します」
 空になった食器を持って、背を向けたリンクの口元には、どこか楽しげな笑みが浮かんでいた。
 そうとは知らず、アレンはそそくさと席を立つ。
 「もう行くのですか?」
 「うん!
 隣に押しかけて、ラビ起こしてから行く!」
 「・・・・・・なんの嫌がらせですか」
 呆れ口調のリンクに笑い、アレンは家を出た。
 「突撃!
 隣の・・・っ?!」
 気勢をあげようとしたアレンは、目の前にリナリーの姿を見つけ、慌てて声を飲み込む。
 「リ・・・!」
 「神田ーv
 続けて呼びかけようとした声は、彼女自身が前方に放った声で遮られた。
 「おはよう、神田!
 今から朝練?一緒いこv
 先に行っていた男子学生に駆け寄り、その腕を取ったリナリーを、彼はうるさげに振り払う。
 「うるせぇよ!
 朝っぱらからはしゃいでんじゃねぇ!」
 「なんだよ!いいじゃない、おんなじ学校なんだから!」
 いこ、と、また言って腕を取ったリナリーに、彼は憮然としつつも今度は振り払おうとしなかった。
 彼以上に憮然として、二人を見送ったアレンは、無言で隣家のドアを開け、勝手知ったる屋内を駆け抜けてラビの部屋に飛び込む。
 「あの忌々しいぱっつんは誰ですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
 寝こみを襲われた上、胸倉を掴まれて夢の園から引きずり出されたラビは、驚きのあまり白目をむきかけた。
 「起きろっつってんですよ!
 なに二度寝しようとしてんですかっ!!」
 「ぐぁっ?!」
 馬乗りになったアレンに無理矢理起こされたが、ラビはなにが起こったのかわけがわからず呆然とする。
 「ほぇ・・・?」
 「起・き・ろ!」
 不気味に光る目と間近に迫ったこぶしに、ラビの半眼が開いた。
 「なになになんなん?!どしたんさっ?!」
 火事か、と、慌てるラビの胸倉を改めて掴み、引き寄せる。
 「リナリー先輩を誘惑する、あの忌々しいぱっつんが誰だか教えて下さい」
 「誘惑?リナリーが?
 なんさ、それ?」
 「命が惜しけりゃとっとと吐けぇぇぇぇぇっ!!!!」
 「だからなんのことさっ!!
 ちゃんと言わねーとわっかんないさ!!」
 ヒステリックな絶叫にヒステリックな声で応じると、ようやくアレンはラビの胸倉を掴んでいた手を放した。
 「さっきリナリー先輩が・・・」
 と、アレンが見たことをそのまま話すうちに、ラビの唇が微妙な形に歪んでいく。
 「知ってるんですね?!」
 「知ってるも何も」
 ラビはまだカーテンが引かれたままの、窓の向こうを指した。
 「ティエドールのおっさんの息子で、リナの幼馴染さね、ユウちゃんは」
 アレンは、のほほんとした顔で子供達に絵を教える美術教師の顔を思い浮かべ、目を丸くする。
 「全っ然っ似てないじゃん!!」
 「養子だもんさー」
 あっさりと言ってラビは、またごそごそとふとんの中にもぐりこんだ。
 「わかったらとっととガッコ行け・・・・・・」
 すぅすぅと寝息を立て始めたラビに頬を膨らませ、アレンはラビの部屋を出る。
 と、
 「朝っぱらからなんじゃ!やかましい!」
 突然怒鳴られて、アレンは飛び上がった。
 「お・・・おじいちゃん、おはようございます・・・」
 びくびくと怯えた声をあげるアレンを、小柄な老人はじろりと睨む。
 「朝から人の家で騒ぐでないわ、小童が!」
 「すっ・・・すみません!!」
 前屈かと思うほどに頭を下げたアレンに、老人は不機嫌な舌打ちをした。
 「あれは役に立っておるのか?」
 「あれ?
 あぁ、はい!おかげで、成績あがりました!」
 「そうか」
 アレンの答えに、老人は満足げに頷く。
 「では、本番はしっかりな。
 なに、いつも通り臨めば、失敗することはあるまいよ」
 「はい!!」
 大きく頷き、アレンは再び頭を下げた。
 「じゃ!行って来ます!」
 「あぁ」
 ばたばたと階段を駆け下りるアレンに苦笑した老人は、ドアが開いたままのラビの部屋を見遣って肩をすくめる。
 「受かった途端にダレるのも考えものだがな・・・起きろ!!
 授業がないからと言って、サボるでないわ!!」
 怒声と共に降ってきたげんこつに、ラビは悲鳴と泣き声をあげた。


 その日、一日中模擬テスト漬けだったアレンは、ようやく解放されたものの疲れ果てて、とぼとぼと家路を辿っていた。
 「今日はまたラビが来て勉強かぁ・・・もう、脳みそミンチになりそう〜・・・・・・」
 そして明日もテスト、と、重く息をついたアレンがふと顔をあげると、その視線の先に天使の姿があった。
 「リナリー先輩っv
 駆け寄り、追いつくと、夕暮れ時の薄闇さえ振り払うような明るい笑顔が振り向く。
 「アレン君、今日もテスト?お疲れ様」
 にっこりと笑った彼女の愛らしさに、アレンの疲れはみるみる取れて行った。
 「入試までもうすぐですから、がんばりますよ!
 だって、先輩と同じ学校にいくんだもんっv
 先程までの憔悴はどこへやら、尻尾を振って擦り寄ってくる仔犬のようなアレンに、リナリーの顔が思わずほころぶ。
 「そうだね!
 アレン君、運動神経いいから、受かったらぜひ陸上部に入ってね!」
 「もちろんです!」
 そうなれば学年の違うリナリーとも一緒にいられる、と、アレンは少年らしい下心をもって目を輝かせた。
 「そしたら、朝一緒にガッコ行けますねv
 「うん!
 アレン君が道覚えるまで、迷子にならないように見ててあげるねv
 「あー・・・そうですねー・・・・・・」
 未だ子供扱いのリナリーに、アレンが乾いた声をあげる。
 しかし、
 「・・・じゃあ、帰りもお願いします。
 暗くなると、道わかんなくなっちゃうからv
 計算高いアレンはそれを逆手にとって、リナリーの了承を取り付けた。
 「まぁそれだけじゃなく、最近この辺って、夜になると物騒だからね・・・」
 「通り魔のことですか?」
 囁くような小声で言ったリナリーに、アレンが眉根を寄せる。
 「まだ被害が出てるんですか?」
 「らしいよ」
 リナリーが頷いた途端、アレンの表情が険しくなった。
 ―――― 1匹じゃなかったんだ・・・。
 心中に呟き、アレンは悔しげに唇を噛む。
 一昨日の夜、アレンはリンクを通じ、ルベリエ社長から受けた『特別任務』でアクマを壊した・・・あれで最近、この街を不安に陥れていた『通り魔』事件は解決したと思っていた。
 なのに、リナリーはアレンの思いに応えるように、ふるりと首を振る。
 「昨日・・・ううん、今日の明け方にも被害が出たんだって。
 朝のニュースでやってたよ、新聞配達の人が襲われたって」
 怖いね、と、呟くリナリーの手を、アレンは握った。
 「送っていきます」
 「え?でも・・・」
 アレンとはほとんど同じ通学路とは言え、リナリーの家は、彼の家よりもだいぶ遠い場所にある。
 「アレン君こそ、帰りが遅くなっちゃうよ?」
 苦笑するリナリーに、アレンは強く首を振った。
 「それでも、女の子一人で暗い道を歩かせるわけには行きませんよ!」
 リナリーほど愛らしい少女なら、相手がアクマでなくても危険だ。
 決して手を放そうとしないアレンに、リナリーは笑って頷いた。
 「ありがと。
 お願いするね、ナイト様v
 「はい!!」
 気合十分に頷き、アレンはリナリーの手を引く。
 すんなりと歩調を合わせたリナリーは、クスクスと軽やかな笑声をあげた。
 「なんですか?」
 「ごめん。
 なんだか、嬉しかったり恥ずかしかったり?」
 人気のない道とは言え、言われて見ればこんなに堂々と手を繋ぐのは、初めてのことだ。
 「確かに・・・お兄さんに見つかったら、殺されちゃうかな」
 照れ笑いをしたアレンが、それでも手を放すつもりはないとばかり、リナリーの手を握る手にわずか、力を込めた。
 「言わないでくださいね」
 「言わないよ」
 二人がクスクスと笑声を交わしあった時。
 ぞわりと、背を撫でた殺気に身を強張らせた。
 「アレン君?」
 「リナリー先輩、僕の後ろに・・・」
 間違えようのない、アクマの気配にアレンの声が低まる。
 二人が気づいたと知るや、その気配は濃厚になり、唸り声までもが湧き上がった。
 「2・・・3体・・・?」
 リナリーの前で呪われた目を使うわけにも行かず、アレンは油断なく辺りに目を配りながら、聴覚を頼りに唸り声を聞き分ける。
 「先輩・・・」
 ぎゅっと、アレンはリナリーの手を握り締めた。
 「僕が残りますから、先輩は逃げて」
 「アレンく・・・!」
 「僕なら大丈夫ですから!」
 リナリーの言葉を遮り、アレンは彼女の手を放す。
 「振り返らないで、走って!」
 リナリーの足なら、アクマでも追いつくのは難しい・・・更に、アレンがアクマを阻めば、彼女が逃げ切れる可能性は高かった。
 「早く!!」
 リナリーが踵を返す様を目の端に捕らえた瞬間、獲物を追うアクマ共が闇の中から飛び掛ってくる。
 「くっ・・・!!」
 アレンは何とか左腕で受け止めるが、その勢いに圧された。
 「発・・・」
 「アレン君!!」
 リナリーの悲鳴じみた声に、アレンは動きを止める。
 一般人に正体を知られてはならない・・・それは、リンクを通じてもたらされた最重要『契約』だった。
 いや、それ以前に、彼の『武器』となる左手・・・。
 その腕を見た彼女に『化け物』となじられるのではないかと、思っただけで胸を抉られた。
 「早く逃げて!!」
 アレンが、胸の奥から搾り出すような声を放つ。
 が、背後の足音は軽やかに彼へと駆け戻ってきた。
 「しかたないなぁ・・・・・・」
 笑みを含んだ声でぽつりと呟き、リナリーが地を蹴る。
 「アレン君が合格するまで、黙ってよって思ってたのに」
 「リナ・・・?」
 濃度を増す闇の中、昇り行く月を背景に、しなやかな身体が舞った。
 風に舞う花弁かと見えた次の瞬間、鋭く落ちてアレンにのしかかったアクマを蹴り砕く。
 「先輩・・・っ?!」
 目を丸くしたアレンに、肩越し、リナリーはちらりと笑った。
 「一気に片付けるよ、『ホワイト』?」
 コードカラーで呼ばれ、アレンは素早く立ち上がる。
 「はい!!」
 リナリーが倒したアクマの残骸を跳ね除け、立ち上がると同時に左腕を剣に換え、抜いたアレンに、リナリーが目を瞠った。
 「話には聞いていたけど・・・カッコイイね!」
 「へっ?!」
 今まで聞いたこともない賛辞に驚くアレンに、リナリーがにこりと笑う。
 「神田の刀もかっこいいけど、それも好きだな、私」
 楽しげに遊ぶ蝶のように宙を舞うリナリーは、舞い降りる度にアクマを壊した。
 「ホラ、早くしないと、私一人で壊っちゃうよ?」
 「あっ!はい!!」
 慌てて剣を構え直したアレンは、襲いかかるアクマを2体、一気に切り裂いて、なんとか面目を施す。
 「はい、完了」
 クスクスと笑って地に舞い降りたリナリーの紅いブーツが、一瞬にして元のローファーに戻った。
 「あ・・・あの・・・・・・」
 未だアクマの死臭が漂う中、あでやかに笑うリナリーに、アレンは気を呑まれたまま、かすれた声をあげる。
 と、彼女は笑みを深め、剣を収めたアレンに歩み寄った。
 「仲間としては初めまして、ホワイト。
 私もエクソシスト戦隊の一員・・・コードカラーはレッドよ」
 「はぁ・・・は・・・?レッドォォォォォォ?!」
 目を剥いて絶叫したアレンに、リナリーが首を傾げる。
 「あれ?
 戦隊物のセオリーでしょ?
 自分がホワイトならレッドは必ずいるはず、って思わなかった?」
 「思いましたよ!
 思ってましたけど、まさか先輩が・・・ピンクじゃないんですかぁぁぁぁぁっ?!」
 「そっち?」
 仲間であったことが意外だったのではなく、彼女のコードカラーがレッドだったことに衝撃を受けているらしいアレンに、リナリーが苦笑する。
 「戦隊はビビッドカラーが基本でしょ。ピンクなんてパステル色、やってらんないよ」
 だが、アレンは必死に首を振った。
 「ピンクは必要ですっ!
 必要なのにぃぃぃぃぃぃ!!」
 「なんで?」
 「オトコノコのロマンでオンナノコの夢じゃないですかっ!!」
 「そうなの?」
 「そうですっ!!」
 うずくまって泣き出したアレンに苦笑を深め、リナリーが歩み寄る。
 「でもね、アレン君?
 私の武器・・・・・・」
 ヒュッと、風を切る音と共に、リナリーの靴がブーツに変わった。
 「紅なんだv
 「カミサマひどいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
 いっそう激しい泣き声をあげるアレンに、リナリーがむぅ、と、頬を膨らませる。
 「なんだよなんだよ!
 オンナノコがレッドだっていいじゃない!機会均等法だよ!」
 「そうですけどっ・・・そうですけどぉぉぉぉ!!!!」
 ピンクが不在なんて、と、アレンはえぐえぐとしゃくりあげた。
 「仲間が増えれば、いつかピンクの武器持った仲間もできるんじゃない?」
 「・・・・・・よく考えれば、ピンク色の武器なんて嫌ですね」
 「でしょ?」
 ようやく泣き止んだアレンに、リナリーが微笑む。
 「まぁ、武器の色がコードカラーってわけでもないんだけど」
 「だったらピンクになりましょうよ!!
 リナリー先輩にこそ、ピンクはふさわしいよぅ!!」
 また泣き出したアレンに、リナリーは困惑げに苦笑した。
 「これでもエクソシスト歴は一番長いんだよ?
 勝手にコードカラー変えたら、本部が混乱するよ」
 「そんなピンクがぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 「・・・・・・どれだけ夢見がちなんだよ」
 呆れ声と共にため息をついて、リナリーはアレンへ手を差し伸べる。
 「ほら、帰るよ?」
 囮作戦は無事終了、と、リナリーは笑ってアレンの手を引いた。
 たたらを踏みつつ立ち上がったアレンは、微笑むリナリーを見つめる。
 「囮・・・作戦?」
 「うん。
 いくら兄さんが・・・ううん、顧問が試験官だからって、1週間も部活が休みだなんて、変だと思わなかった?
 お休みなのは私だけ。
 朝や夜に街をうろついて、アクマをおびき寄せてたんだよ」
 クスクスと笑って、リナリーは肩にかかる髪を払った。
 「囮だから、アクマにエクソシストだって気づかれないように、退治は他の人達がやってたんだけど・・・今回は事情が違ったから」
 ばれちゃった、と、いたずらが見つかった子供のように舌を出すリナリーに、アレンは詰めていた息を吐く。
 「リンクが・・・高校に受かったら仲間のことを教えてやるって言ってたのは、そう言うことだったんですね」
 「そう。
 クロノ学園は私達の・・・エクソシスト戦隊の本拠地だよ」
 「え・・・?!」
 さらりと言ったリナリーに、アレンは目を剥いた。
 「学園自体が本拠地なんですか?!」
 アレンの問いに、リナリーはあっさりと頷く。
 「兄さん、いくらエクソシストでも裏口は認めないって言ってたから、がんばって合格してね、アレン君。
 そして、一緒に戦いましょ」
 「は・・・はい!!」
 リナリーのいたずらっぽい口調に、アレンは真剣な声で頷いた。
 「絶対に!合格します!!」


 その夜遅く。
 帰宅したリンクに、アレンは詰め寄った。
 「リンクリンク!!
 クロノ学園がエクソシスト戦隊の本拠地ってホント?!
 クロノ学園の生徒がエクソシストなの?!」
 一瞬、呆気に取られたリンクは、すぐに表情を厳しくしてアレンを睨む。
 「誰から聞いたのです?」
 「リナリー先輩だよ!
 今日の帰り道、アクマに襲われちゃって・・・」
 「レッドですか。
 囮作戦は極秘任務でしたのに・・・全く、困った小娘です」
 忌々しげな口調に、アレンはリンクとリナリーの仲が良好でないことを察した。
 「それで・・・あの、他の人達なんだけど・・・・・・」
 「高校は通常、3年間です、ウォーカー」
 いきなり切り出したリンクに、アレンは眉根を寄せて首を傾げる。
 「そしてレッド・・・リナリー・リーが最初のアクマを破壊したのは、クロノ学園初等部在学中の頃だと聞いています」
 「初等部って・・・小学生?!そんなにちっさい頃から?!」
 リナリーが、『一番エクソシスト歴が長い』と言った訳を知って、アレンが甲高い声をあげた。
 「ゆえに本拠地という言い方は正しくありませんね。
 あの学園に所属する学生、職員に関係者が多いことは認めますが、既に学園からは卒業し、他の職業に就いた後もエクソシストとして働く者はいます。
 ・・・そう、今年も二人、高等部からは卒業し、他校へ進学する者達がいますよ」
 「そうなんだ・・・」
 「そうです。
 ところでウォーカー?」
 じろりと睨まれ、アレンは瞬く。
 「朝型に切り替えるのではなかったのですか?
 早く寝なさい」
 「あ・・・はい!!」
 慌てて踵を返したアレンの背中に、リンクが意地悪く笑った。
 「試験官は厳しい方です。
 エクソシストとして役立つ者でも、学力が足りなければ入学は認めないそうですから、実力で入るのですね」
 「わかってますよっ!!」
 振り向いたアレンが、悔しげに口を尖らせる。
 「そうと知ったら、なおさら受かんなきゃなんないもんっ!」
 「期待していますよ」
 リンクの挑発的な口調にムッとしたアレンは、どかどかと床を踏み鳴らして部屋に戻った。
 「なんだよなんだよ!リンクったらナンダヨ!!」
 ぱんぱんに頬を膨らませて、アレンはクッションを蹴飛ばす。
 「なんであんなにイヂワルなんだよっ!!」
 次々に蹴飛ばしたクッションの一つが窓にぶつかり、大きな音を立てた。
 途端、
 「なに騒いでんさ!」
 隣家の窓が開いて、ラビが顔を出す。
 「今週はとっとと寝ろっつってんだろ!」
 「ラビ・・・だってぇぇぇぇぇ!!!!」
 リンクが意地悪だ、と訴えると、ラビは肩をすくめた。
 「あいつが厳しいのはいつものこったろ」
 「そうだけど!」
 怒り狂って寝付きそうにないアレンに、ラビが吹き出す。
 「そんなに眠れないなら、俺が子守唄でも歌ってやろうか、坊や?」
 「やだよ!
 ラビが歌うとなんでも熱唱系になるもん!」
 余計に眠れない、とぼやくアレンに、ラビがまた笑った。
 「そんじゃ、いい加減寝るさね」
 一方的に言って、窓を閉めたラビにアレンがまた、頬を膨らませる。
 「ちぇっ!」
 苛立ち紛れにアレンも窓を閉め、ベッドに倒れこんだ。
 「ふんっ!
 不貞寝してやる、ふんっ!!」
 ぶつぶつとぼやきながら頭まで布団に潜り込んだアレンは、次の瞬間、飛び起きる。
 「・・・神田?!」
 闇の中、不意に閃いたその名に、アレンは目を見開いた。
 ―――― 神田の刀もかっこいいけど・・・。
 ―――― 神田!一緒いこv
 リナリーの声が、その名を呼んだシーンが、夜闇の中に蘇る。
 「神田!!
 まさかあいつも・・・!」
 アレンは再び窓を開け、ラビの部屋に呼びかけようとした。
 が、
 『早く寝ろ!』
 と、窓辺に置かれたウサギのぬいぐるみが、看板を掲げている。
 「これが寝てられるか!
 ラビ!!」
 窓にクッションをぶつけると、その振動で看板に貼られた紙がめくれた。
 『やかましい!とっとと寝ろっつってんさ!』
 アレンの行動を見事に読んだ畳み掛けに、アレンは声を失って窓を閉める。
 ・・・これ以上騒げば、激怒したリンクがげんこつと共に飛び込んでくるのは目に見えていた。
 アレンは憮然とベッドに潜り込み、枕に向かってまたぶつぶつと不満を漏らす。
 が、間もなくそれも静まり、彼の寝息が室内を満たした。


 翌朝もすっきりと目を覚ましたアレンは、リンクが用意した朝食を詰め込むと、ばたばたと家を出た。
 「・・・相変わらず、落ち着きのない子供ですね」
 リンクの呆れ声に送られたアレンは、そのまま隣家に駆け込み、ラビの部屋に飛び込む。
 「人の安眠邪魔すんじゃないさクソガキ――――!!!!」
 アレンのボディアタックで、無理矢理夢の園から追い出されたラビは、イブの嘆きもかくやと思うほどの絶叫をあげた。
 「いつまでもダラダラ寝てるほうが悪いんでしょ!
 聞きたいことがあるんです!」
 「なんさ、もー・・・・・・」
 もぞもぞと布団に潜り込みつつ寝ぼけ声をあげるラビから、アレンが布団を引き剥がす。
 「神田って、どういう人ですか?!」
 「あ?ユウちゃん?なんで?」
 既に半分、夢の中から問うたラビの上に、アレンは馬乗りになった。
 「なんででもいいから!!」
 胸倉を掴まれ、ゆさゆさと揺さぶられたラビは、とうとう堪忍袋の緒も切れて、アレンをベッドから蹴落とす。
 「朝っぱらからうるさいんさ、クソガキ!!
 俺の眠りを邪魔すんじゃねぇ!!」
 「ちゃんと答えたら寝かせてあげるからーぁ!
 なんだったら永眠でも・・・!」
 「コエーことさらっと言うなぁぁぁぁぁっ!!!!」
 すっかり目が覚めたラビは、勝利の笑みを浮かべるアレンを恨みがましく睨みつけた。
 「ユウのことならもう話したろ。
 リナリーの幼馴染で、ティエのおっさんの息子!
 それ以上なにが聞きたいんさ?!」
 趣味かスリーサイズかと畳み掛けるラビに、アレンは口ごもる。
 考えてみれば、『神田はエクソシストなのか』などと、聞ける相手ではなかった。
 「やっぱりいいや・・・リナリー先輩に聞く」
 「ちょっと待てクソガキ!」
 くるりと踵を返したアレンの襟首を、ラビが素早く掴む。
 「散々狼藉しておいて、その態度はなんさ?」
 「ごめん、聞く相手を間違えちゃった」
 「ごめんで済んだら司法制度はいらねぇんさ!!
 きっちり理由話して行け!!」
 「う・・・・・・」
 困った、と、眉をひそめるアレンの脳裏に、『契約』の文字が浮かんだ。
 「話したいけど・・・リンクに怒られる」
 「あぁっ?!
 にーちゃんに話せもしねー事を聞くために、こんな狼藉働いたんか?!」
 「ひゃん!!ぎょめん〜〜〜〜!!!!」
 思いっきり頬を引き伸ばされて、アレンが泣き声を上げる。
 「もうひないはら、ゆるひて・・・!!」
 「絶対さね?!
 次やったら窓から捨てッかんな?!」
 「うん・・・」
 ようやく解放され、赤くなった頬をさすりつつアレンが頷いた。
 「ごめんね、ラビ」
 「んー・・・」
 また布団にもぐりこんだラビに話しかけると、既に寝ぼけた声が返る。
 「お詫びに子守唄歌ってあげるよ。
 ねーむれー♪」
 「やかましいさ!さっさとガッコいけ!!」
 がばっと起き上がったラビに枕を投げつけられ、アレンは憮然と彼の部屋を出た。


 ラビを強襲すると言うタイムロスはあったものの、朝早く家を出たにもかかわらず、アレンは結局その日、リナリーと会うことができなかった。
 悶々と疑問を抱えたまま、問題集に向かう彼の頭を、ラビがはたく。
 「ナニ考え事してんさ。集中しろ」
 「んー・・・」
 厳しい声にも生返事のアレンを、ラビが睨みつけた。
 「おい。
 いくら少子化で受験が楽になったからって、ウチのガッコなめんなよ?
 お前みたいな甘ったれ、リナリーの兄ちゃんが落としちまうさね!」
 「ぅわっ!はいっ!!」
 途端に慌ててペンを走らせるアレンに、ラビは呆れ気味に吐息する。
 「いくら俺が優秀な家庭教師でも、肝心のお前が上の空だったら、まともな指導なんてできねーんだからな?」
 「わ・・・わかってますよ!」
 気まずげに呟くアレンへ、更に言い募ろうとしたラビの携帯が鳴った。
 「・・・なに?」
 説教を途中で邪魔され、やや不満げなラビは、相手の話を聞くうちに更に不機嫌になっていく。
 「今いそがしーんケド・・・他にいねーの?
 え・・・・・・?!」
 思わず息を呑んだラビの声に、アレンも顔をあげた。
 途端、窓の外で凄まじい破壊音があがる。
 「なに・・・」
 大型車が壁に激突でもしたかのような、忌まわしい金属音を含んだ大音響に、二人は外に面した窓に取り付いた。
 見下ろせば、道に隕石でも落ちたかと思う穴が開き、アスファルトは飛び散って、露出した水道管から激しく水が吹き上がっている。
 「なにこれ・・・」
 呆然と呟いた次の瞬間、アレンは気配を察して上空を見上げた。
 その視線の先では、アレンの身長ほどもある機関砲を構えたバケモノが、月を背に浮かんでいる。
 「アクマ!!」
 アレンとラビが、同時に叫んだ。
 驚いたアレンが、ラビを見上げた時、ダンッと、激しい音を立てて塀に黒い影が降り立つ。
 「ユウ!!」
 「げっ!神田・・・さん」
 「1匹仕留め損ねた」
 アレンを睨んだ彼は、淡々と言って、月光を白く弾く刃を掲げた。
 「任せた」
 「え・・・」
 僕?と、戸惑うアレンの傍ら、ラビが窓枠を乗り越える。
 「あーもー・・・!」
 神田と並んで立った彼の手には、いつの間にか巨大な槌が握られていた。
 「アレンがクロノに入るまで、黙ってよって思ってたんにさぁー!」
 どこかで聞いたような台詞を呟いて、ラビが塀から飛び降りる。
 彼の姿が塀の向こうに消えた次の瞬間、鮮やかな炎の蛇が立ち昇り、上空のアクマをひとのみに飲み込んだ。
 一滴の血も残さず焼き尽くされたアクマの欠片が、灰となって夜闇に舞う。
 「なん・・・?!」
 目を丸くして状況を見つめていたアレンを、塀の上の神田が返り見た。
 「お前が噂の呪われ小僧か」
 「はいっ?!」
 どんな噂か、とんでもないあだ名を頂戴して、アレンはこめかみを引き攣らせる。
 と、彼は意地悪く口の端を歪め、背を向けた。
 「せいぜいがんばるんだな」
 「そりゃダイジョーブ」
 何か言ってやろうと口を開いたアレンに代わり、再び塀に飛び乗ったラビが言う。
 「ボーっとしてなきゃ、十分合格圏内さ」
 それより、と、ラビは甚大な被害をこうむった地を示した。
 「これ、今夜中に修理可能なんさ?」
 「あぁ、ミランダが来ている。付近住民の記憶も消すそうだ」
 「じゃ、安心さね」
 にこりと笑ったラビに頷き、神田は塀から飛び降りる。
 「おやすみ、ユウちゃんv
 ひらひらと手を振って、神田を見送ったラビは、苦笑交じりに振り向き、窓から再びアレンの部屋に入った。
 「・・・って、ワケ」
 「ワケわかんないよっ!!」
 アレンの膨らんだ頬を両手で潰して、ラビが笑う。
 「じゃー、軽く説明な。
 俺とユウちゃんはお前と同じ、エクソシスト戦隊のメンバー。
 コードカラーは、俺がイエローであいつがブラック。
 ホントは俺、レッドを狙ってたんケド、もうリナがいたかんね。
 仕方なく、イエロー拝命したんさ」
 武器は普通に黒だけど、と、ラビは残念そうに小さくなった槌を弄んだ。
 「で、今のメンバーはお前含めて5人。
 戦闘要員はリナ、ユウちゃん、俺とお前なんけど、もう一人、ミランダって言う、サポーター的役割のメンバーがいるんさ。
 コードカラーはグリーンで、能力は・・・見た方が早いか」
 と、ラビは窓の外を示す。
 「えっ・・・?!」
 促されて外を見たアレンは、目を見開いて絶句した。
 アクマによる破壊の跡は消えうせ、いつもと変わらない道がそこにある。
 呆然とするアレンの髪を、ラビが笑ってかき回した。
 「ミランダの能力は時間操作。
 アクマ共が破壊した痕跡を消し、その存在を一般人の記憶から消す。
 でも、あいつが操るのは時間だけで、実際の痕跡を消せるわけじゃねぇから、さっきみたいなライフラインの損傷は、ミランダが時間操作を解除した隙に、こっそり修復されるんさ。
 ちなみに、その修復を請け負ってんのがルベリエ社長の会社。
 中々ステキなビジネスモデルさね」
 アレンの脳裏に『癒着』と言う文字が浮かぶ。
 「じゃ・・・じゃあ、クロノ学園にエクソシストの関係者が多いって言うのは・・・?」
 「あぁ、リンクに聞いたんか?
 そう、ルベリエ社長はあのガッコの理事の一人なんさ。
 だから、エクソシストとして働く奴は、授業費の免除や、深夜勤務翌日の遅刻が内申のマイナスになんないよう、配慮してくれるんさね」
 そう教えられて、アレンは呆然と頷いた。
 「だから、お前がこのままエクソシストのバイトするつもりなら、クロノ学園に入るべきなんさ。
 某学園の芸能科みたいに、色々サポートしてもらえるかんね」
 「は・・・はぁ・・・・・・」
 まだ呆然としたまま、頷くアレンの頭をまた、ラビがかき回す。
 「今日はもう、寝ろ。
 その代わり明日は早起きして、この続きやれよ。
 俺も・・・明日くらいは早起きつきあってやるさ」
 「うん・・・・・・」
 心ここにあらずと言った様子のアレンに苦笑し、ラビは彼の頭に置いていた手をひらりと振った。


 翌朝、予告通り早朝にやってきたラビを、アレンは赤い目で迎えた。
 「おーい。
 なんかウサギみたいになってんさね」
 「だって・・・眠れなかったんだもん・・・・・・」
 安らかに眠るには、考えることが多すぎたとぼやくアレンに、ラビが苦笑する。
 「じゃ、今日はがんばって起きてるさ。
 昼寝なんかすんなよ?
 夜に眠れなくなるかんね」
 「ん・・・」
 アレンがぼんやりと頷いた時、ドアが軽やかにノックされた。
 「おはようございます、Jr.
 いつもすみませんね」
 そう言ってリンクが、目覚ましのコーヒーと共に、豪華な朝食を持って現れる。
 「入試まであとちょっとだかんね。
 俺もがんばるさー♪」
 「よろしくお願いします。
 ウォーカー。
 ボーっとするのなら、もう一度顔を洗ってきなさい」
 「はぁい・・・・・・」
 素直に部屋を出て行ったアレンを見送ったリンクが、眉根を寄せてラビを振り返った。
 「昨夜の緊急事態に際し、ウォーカーにあなたと神田の正体がばれてしまったそうですね」
 「ん。
 あいつが入学するまで黙ってよってのが、暗黙の了解だと思ってたんケド?」
 「それはそうでした。
 しかし、昨夜こちらにアクマが逃亡しましたので」
 「間が悪かったんさねぇ・・・」
 困ったものだと、ラビが吐息する。
 「ま、バレたことは仕方ないさ。
 いつか知らせることだったし、俺の任務があいつをクロノに入れるってことにゃ変更ないし?」
 「幸い、ウォーカーもその件に関しては乗り気ですので、問題はないと思われます」
 「ん。
 俺らが欠けた後のことは、リナとアレンにお任せだな」
 もちろんバイトは続けるけど、と、ラビはにんまりと笑った。
 ややして戻って来たアレンと入れ替わりにリンクが出て行き、ラビはコーヒーを飲みつつ、10分区切りの小テストを連続で出していく。
 「ん。
 ケアレスミスはだいぶなくなってきたさ。
 この調子でがんばれ」
 そう言って彼は、壁のカレンダーを見遣った。
 赤く丸のついた日に、×印が近づきつつある様を見て、にこりと笑う。
 「入試まであと3日か・・・。
 今日、明日とあさっては、この調子で短時間のテストして行くさね。
 暗記物の『質』は叩き込んだから、あとはどれだけ早く、的確に問題を読めるかどうかさ」
 「う・・・うん!」
 にわかに緊張してきたアレンの頭を、ラビが盛大にかきまわした。
 「兄ちゃんを信じろ!
 十分合格圏にいるさね、お前!」
 「はい・・・!」
 こぶしを握って頷いたアレンに、ラビは笑みを深める。
 「じゃあもうひとふんばり!
 がんばれよ、俺のボーナスのためにもv
 冗談めかしたその言い様に、アレンは思わず吹き出した。


 「・・・今日も、リナリー先輩には会えなかったなぁ」
 昨夜の騒ぎのせいで、既に落ちかけたまぶたをこすりつつ、アレンは回答済みのプリントの山をまとめた。
 入試問題集をベースにラビが作った小テストは、意地の悪い質問形式が特徴で、おかげで随分と問題を読む力はついたと思う。
 「いよいよ・・・日曜かぁ・・・・・・!」
 ドキドキとしながらも眠気には勝てず、アレンは隣家に接した窓を開け、ラビを呼んだ。
 「ラビー!できたー!」
 すぐに窓が開いて、ラビがにこやかな顔を出す。
 「ん、おつかれさん。
 じゃあ、採点は今夜中にやって、明日の朝、問題点の説明な」
 「うん・・・よろしく・・・・・・」
 頷くだけで、既に寝そうなアレンに苦笑し、ラビは彼が差し出した束を受け取った。
 「今日は寒くなるらしいから、あったかくして寝ろよ?
 試験前に風邪ひいて寝込んだなんて、シャレになんないかんな?」
 「ん・・・」
 頭を落としたまま、持ち上がらないアレンに苦笑を深め、ラビは窓枠を越えてアレンの部屋に飛び移る。
 「ホレ、寝ろ」
 ベッドに向かって突き飛ばすと、アレンは倒れた姿勢のまま寝てしまった。
 「・・・こいつぜってぇ風邪ひく」
 やれやれと肩をすくめ、寝息を立てるアレンをもふもふと布団で包んでやる。
 「たのむぜ、俺のボーナス!
 もう、欲しいもんリストアップしてんだからさv
 自分の幸せのためにも、ラビはアレンの合格を真剣に祈った。


 「おはよーさー!
 おーきろー!」
 翌朝、まだ日も昇らないうちに騒がしい声で起こされて、アレンは不満げに目を開けた。
 「・・・なんだよ、なんでこんなに早いの・・・・・・」
 憮然と言えば、ラビは再び目を閉じようとしたアレンの布団を剥ぎ取り、頭をわしゃわしゃとかき回す。
 「起きろっての!
 昨日、やんなかった勉強の続きやんぜ?」
 いつもと立場が逆転していることが嬉しいのか、ラビは殊更にはしゃいだ様子でアレンをたたき起こした。
 と、アレンが起きるのを待っていたかのようなタイミングで、リンクが朝食を運んでくる。
 「ウォーカー!
 ぼんやりしてないで、早く顔を洗ってきなさい!」
 「あーぃ・・・・・・」
 ぺたぺたと足音を響かせながらアレンが出て行くと、ラビはリンクを小さく手招いた。
 「もう聞いたかもしんねーけど、アレン、クロノに入ったら寮に入ろうか考えてるらしいさ」
 ラビの言葉に、リンクはわずか、眉をひそめる。
 「初耳です」
 「あ、そう?
 んじゃ、あいつが話すまで待つか、お前が切り出すかは任せるけど。
 あいつ、いくら出世のためとは言っても、お前に世話になりっぱなしは悪いなぁって思ってるそうさ」
 「世話・・・ですか」
 呟いて、リンクは口の端を曲げた。
 「確かに手のかかる子供ではありますが、別段、苦にしてはいなかったのですが」
 「だろうともさ。
 あんたは優秀だかんね」
 リンクの入れたコーヒーをすすりつつ、ラビが笑う。
 「だったらはっきり言ってやるんさね。
 迷惑じゃない、もしくは、利害は一致してる、ってさ」
 「そうですね」
 軽く頷いて、リンクは笑みを深めた。
 「ご苦労様です、Jr.
 彼の受験だけでなく、家庭の事情にまで気を使っていただいて、感謝しますよ」
 「べっつに?
 俺も、隣の弟がいなくなると、ちょっとは寂しいかな、ってさ、思ったダケ★」
 「そうですか。
 しかし、まだ合格してもいないのに先のことを考えるとは、前向きなのかのんきなのか」
 「自信があるって言ってやるさ、せめて」
 けらけらと笑って、ラビはカリカリに焼けたトーストに噛み付く。
 「落ち着いて挑めばダイジョーブv
 「私も、そう願っていますよ」
 ボーナスのために、と、急いで言い添えたリンクに、ラビはまた、陽気な笑声をあげた。


 朝早くから連続でテストされ、既に一日が終わった気分になりながらアレンは家を出た。
 と、
 「おはよv
 目の前に突然、天使の笑顔が現れ、アレンは歩を踏み出しかけた形のまま固まる。
 「アレン君?」
 「おっ・・・おはようございましゅリナリーしぇんぱいっ!!」
 驚きのあまり、舌の回らないアレンにリナリーがクスクスと笑った。
 「どうしたの?
 寝不足?」
 ぶんぶんと首を振れば、『じゃあ』と、リナリーは首を傾げる。
 「お勉強のしすぎかな?
 いよいよだね」
 「あっ・・・はい!」
 並んで歩きつつ、アレンは力いっぱい頷いた。
 「応援してるよv
 一緒にガッコ行こうねv
 「はい!!」
 また頷いた彼に、ふと、リナリーは首を傾げる。
 「ねぇ、入試の日って、誰かと一緒に行くの?」
 彼女の問いに、アレンはちょっと考え、首を振った。
 「一人で行きますけど?」
 途端、リナリーが酷く不安げな顔をする。
 「それは・・・やめた方がいいよ。
 日曜だし、リンクさんについてきてもらうとか、ラビに案内してもらうとか・・・」
 迷子になるよ、と、真剣な顔で言われて、アレンも不安になってきた。
 「でも・・・リンクは最近、日曜日も休日出勤ですし、ラビは朝弱いし・・・」
 ここ二日が異常だったのだ、と言えば、リナリーが大きく頷く。
 「だったら私が連れてってあげるよ!」
 「えぇっ?!」
 あまりにも嬉しい申し出に、アレンは再び硬直した。
 「いいいいいいいい・・・いいんですかっ?!」
 せっかくの日曜日なのに、と言えば、彼女はにこりと笑って頷く。
 「日曜だって、私は部活があるもん♪
 同じ学校に行くんだから、一緒にいこ?
 その代わり試験が終わったら、早速陸上部に勧誘するからねv
 「よっっ・・・よろこんでっっ!!」
 真っ赤になった首をがくがくと縦に振るアレンに、リナリーは軽やかに笑った。


 その夜、アレンは未だ、リナリーとの会話を反芻して、幸せな気分だった。
 「うふふv
 日曜日に先輩と一緒にいられるなんてv
 うふふふふvv
 その日が入試当日だなんてとこは思い浮かびもせずに、アレンは幸せな笑声をあげる。
 「受かったら〜♪
 リナリー先輩と登下校〜♪
 おんなじ部活でなーかよしー♪♪」
 自作の歌を歌いつつ、ベッドの上で跳ねるアレンを窓越し、隣家からラビが、不気味そうに見つめた。
 「・・・アレンの部屋に、なんか変な生き物がいるさ」
 「誰が変な生き物ですかっ!!」
 「ふくれっ面になったら、更に変な生き物さね」
 苦笑しつつ、ラビは窓を越えてアレンの部屋に入る。
 「もう受かった気でいるんさ?」
 「あ、いえ、そうじゃなくて・・・」
 リナリーが迷子案内係を申し出てくれたことを話した途端、ラビは吹き出した。
 「よぽど心配なんさね、リナ!
 まぁ、お前が他のガッコ行っちまったら、連絡とかめんどくさいしな」
 「そんな理由?!」
 ぷんっと頬を膨らませると、ラビはまだクスクスと笑いながら頷く。
 「過度の期待はすんなってことさ。
 それよりお前、今日のガッコはどうだったんさ?
 受験直前だし、授業なしでずっとテストだったんだろ?」
 「うん、ばっちり!ケアレスミスもなかったよ!
 これって、リナリー先輩効果かなぁvv
 それであのはしゃぎようか、と、ラビは苦笑した。
 「そんじゃ、当日に向けて俺もがんばるかな♪
 頼みます、俺のボーナス!」
 目の前でかしわ手を打たれ、アレンはまたベッドの上でぴょこぴょこと跳ねる。
 「まーかせてーv
 ぴょこんっと、一際大きくはずんだ時、突然地面が揺れ、その振動に弾かれてアレンが頭から床に落ちた。
 「大丈夫さっ?!」
 「な・・・なにこれ、地震・・・?」
 思いっきり打った鼻を押さえて、涙目をあげたアレンの眼前、ラビが窓を開ける。
 「ちくしょ・・・またかよ!!」
 「えぇっ?!まさか・・・」
 ラビの背後から外を見遣ったアレンは、嫌な予感の的中に肩を落とした。
 「・・・なに?
 アクマ達ってもしかして、僕の受験邪魔してんの?」
 その視線の先では、数体のアクマが、無邪気にはしゃぎながら重火器を振り回していた。
 「これで怪我でもしたら、入試棄権だなぁ・・・」
 虚しく呟きつつ、窓枠に足をかけようとしたアレンをラビが留める。
 「させるか、俺のボーナス!」
 「僕は・・・?」
 やや虚しく呟いたアレンに肩越し、にこりと笑い、ラビは机上を指した。
 「問題集解いてるさ。
 制限時間は30分な!」
 「え・・・でも・・・」
 気遣わしげなアレンに、ラビは笑みを深める。
 「ピンチになったら、お前に加勢頼むさね」
 「う・・・うん・・・・・・」
 しかし、とても落ち着いて勉強などできる状況ではなかった。
 「やっぱり僕も・・・」
 言いかけたアレンの声を、爆音が遮る。
 「・・・ありゃ」
 彼の傍らで、ラビが間の抜けた声を出した。
 「さすがレッド・・・あっとゆー間だったさね」
 呆然とした二人の視線の先で、アクマを破壊した天使が、月を背景にしなやかなシルエットを描く。
 一旦は屋根の上に降りたかに見えた影は次の瞬間消えうせ、瞬く間に二人の眼前に現れた。
 「こんばんは」
 きれいな声が、いたずらっぽい笑みを含む。
 「ラビ、今夜のバイト代、取っちゃってごめんねv
 「いや?
 むしろ、ボーナス確保に一歩前進さ」
 クスクスと笑うラビに笑みを返し、リナリーはまだ呆然とするアレンを見遣った。
 「アレン君を邪魔するアクマは退治したよ」
 勝利の女神のように、誇らしげな笑みを浮かべ、リナリーは胸を張る。
 「私が必ず導いてあげる。
 がんばってねv
 「はい!!」
 即答した彼に微笑み、リナリーは軽く屋根を蹴った。
 途端、かき消すように消えた姿を、幻かと思い描くアレンの頭に、ラビの手が乗る。
 「勝利の女神が味方についた以上、いくら不運なお前だって勝てるさね。
 今夜はなにがあっても気にすんな」
 災いは女神が祓ってくれる、と、請け負ったラビに、アレンは大きく頷いた。


 翌日は、朝から真冬に戻ったかのような寒さだった。
 曇天からは、時折白いものもちらつく。
 「・・・雪!」
 空を見上げたアレンは、忌々しげに呟いた。
 「寒いと思ったよ、もう・・・ラビー!」
 ぼやきつつ隣家の窓に呼びかけると、珍しくも窓はすんなりと開く。
 「おはよ・・・って、どうしたんですか?!
 ラビが何日も連続で早起きなんて、雪が降るはずだよ!」
 「おま・・・天気を俺のせいにすんなよ!」
 むしろお前が悪天候を呼んでんだ、と返されて、アレンは頬を膨らませた。
 「今日は僕、ガッコお休みで自宅勉強日なんです。
 リンクは休日出勤しちゃったから、ラビ、家庭教師して」
 「ん。そのつもりさ」
 窓を乗り越えてくるラビのために、アレンは窓際からどく。
 「あ、そうだ。
 そこ、凍ってるかもしんないから気をつけ・・・」
 「ぎゃあああ!!!!」
 アレンの部屋の窓枠に足をかけた途端、ラビが悲鳴をあげてひっくり返った。
 「ラビ!!」
 咄嗟に手を伸ばし、ラビの腕を掴んだアレンまでもが体勢を崩してもろともに落ちる。
 「へぶっ!」
 「きゅう・・・」
 家と家の間と言う、最も人目につきにくい場所に落ちた二人は目を回し、助け出されたのはそれから数時間後、帰宅したリンクが、開け放たれたままの窓を訝しく思って覗いた時のことだった。


 「・・・全く、なにをやっているのですか、二人して!」
 ストーブの前で毛布に包まり、震えながらココアをすするアレンとラビを、リンクは呆れ顔で見下ろした。
 「2階から落ちた挙句、この寒空の下、薄着でおねんねとは!
 だから窓から出入りするなと、いつも言っているではありませんか!」
 「あい・・・」
 「すみません・・・」
 二人して俯くと、リンクはアレンの額に掌を当てる。
 「・・・熱はないようですね。
 ですが、風邪を引いたかもしれません。
 明日に備え、温かくして今日は早く寝なさい」
 「まだ日は高いんですけど・・・」
 「今すぐ寝ろなんて、言ってないでしょう!」
 思いっきり顔をしかめられて、アレンはますます縮こまった。
 「それに、外傷は擦り傷程度と言っても、気絶していたのですから検査は必要でしょう。
 温まったら病院に行きますよ!」
 「いや、そんな大げさな・・・」
 「なにか文句でも、Jr.?」
 両手を腰に当てたリンクに凄まれ、ラビはぷるぷると首を振る。
 「緊急事態ですから、救急病院で受け入れていただきましょう。
 電話をいれておきますので、ウォーカー」
 「はいっ?!」
 呼ばれて、アレンはびくりと顔をあげた。
 「余計な動きはせず、決して余計なことはせず、おとなしくしていなさい」
 「はい・・・」
 アレンがまるで、どうしようもない問題児であるかのような言われ方は気に障ったが、かといって反論もできず、憮然と頷く。
 「全く、明日は入試だと言うのに、しょうのない子供達ですね!」
 「・・・俺、1コしか違わねぇんケド」
 「なにか?!」
 更に凄まれて、ラビはまた、ぷるぷると首を振った。
 「あなただってボーナスがかかっているのでしょうに、不用意な行動でウォーカーを巻き込むとは!
 これでウォーカーが受験に失敗したら、私の査定にも響くではありませんか!」
 「そっちか!!」
 あまりにも恣意的なリンクの言い様に二人が突っ込む。
 が、不満はすぐさま、リンクのひと睨みで封じられた。
 「私は最初から目的を明確にしていますが、何か?」
 「なんでもありません・・・」
 揃って首を落とし、ココアをすする二人をリンクが冷たく見下ろす。
 「早く飲んでしまいなさい。
 土曜の病院なんて、混んでるに決まっているんですから!」
 「はぁい・・・・・・」
 また声を揃えた二人の襟首を掴むようにして、リンクが病院に向かった頃、『本拠地』ではちょっとした騒ぎが持ち上がっていた。
 「ラビと神田君の卒業保留って、そんな無茶な」
 眉根を寄せた化学教師コムイに、英語教師のクラウド、美術教師のティエドールが揃って首を振る。
 「ラビなんかどうでもいい」
 「問題はユー君だよ、ユー君!」
 「は?
 だって、エクソシスト戦隊の解体に反対、ってことは、ラビもでしょ?」
 コムイがますます眉をひそめると、二人はまた、揃って首を振った。
 「あんなセクハラ赤毛、どこにでも行くがいい。
 むしろ、街を出てもらってもかまわんのだ!」
 「だけどユー君たら・・・いくら推薦だからって、遠くの学校に行くなんて!
 パパンを置いて!
 パパンを置いて遠くに行っちゃうなんて、嫌なんだよ私は!!」
 ポロポロと涙を零すティエドールに、クラウドがハンカチを差し出す。
 「私も同じ意見だ、フロワ・・・。
 可愛い娘が遠い街で一人暮らしだなんて、何かあったらと思うと心配で胸が潰れてしまう・・・!」
 「・・・ユー君はオトコノコだってば、クラウド」
 さすがに呆れ口調のティエドール以上に、呆れ顔のコムイが肩をすくめた。
 「お気持はわかりますけど、推薦入学蹴るのは学校同士としてマズイんですよね。
 来年から推薦もらえなくなっちゃうかも」
 コムイが困惑げに小首を傾げると、クラウドが怒りに任せてテーブルを叩く。
 「そんな大人の都合で子供の将来を決めていいのか!」
 「立派なこと言ってますけど、今まさに神田君の将来を勝手に決めようとしてんのはクラウド先生デスヨネ」
 彼女の怒りをさらりと流し、コムイは首を戻した。
 「それに、遠くったって電車で3駅程度しか離れてな・・・」
 「距離じゃない!ユー君が家を出ると言ってることが問題なんだよ!!」
 「家出するなんて!不良娘!!」
 「ねぇ・・・落ち着きましょうよぉ・・・・・・」
 ヒステリックな二人の相手をすることにはさすがに疲れ、コムイが乾いた声を漏らす。
 「それにこういうことは、ちゃんと本人を交えて話さないと・・・」
 「話して決裂したから、こうやって裏から手を回しているのではないか」
 「・・・きれいな顔してさらっと酷いこと言いますよね、クラウド先生」
 思わず乾いた声をあげたコムイを、クラウドが睨みつけた。
 「これは、私の勝手な望みではない!
 エクソシスト戦隊維持のための・・・」
 「勝手なことぬかしてんじゃねぇ!!」
 蹴破らんばかりの勢いで開いたドアと怒声が、クラウドの言葉を遮る。
 「ユ・・・!」
 「ユーくん!!」
 「あ、やっと来た」
 呆然とするクラウドとティエドールに対し、安堵の笑みを浮かべたコムイが、こっそり通話状態にしていた携帯電話を切った。
 「おのれコムイ・・・!」
 「裏切ったのかい?!」
 「人聞きの悪い。
 ボクは生徒の味方ですぅー!」
 「裏切ってんのはそっちだろうが!!」
 飄々と言ってのけたコムイの傍らで、激怒状態の神田が怒鳴る。
 「ナニ俺のいねぇとこでくだらねぇ話蒸し返してんだ!!」
 「だってパパンはユー君に出てって欲しくないんだもんっ!!」
 「家出なんてママが許さんぞ、不良娘!!」
 「家出じゃねぇし娘じゃねぇぇぇぇぇぇ!!!!」
 バンッと、テーブルに手を叩きつけた神田を、クラウドがムッと見あげた。
 「フロワ!
 お前が甘やかすから、こんなワガママになったんだぞ!
 泣いてばかりいないでなんとか言え!」
 「ユー君!!
 パパンを一人にしないでおくれぇぇぇぇ!!」
 「うぜぇぇぇぇぇっ!!」
 響き渡る神田の絶叫から耳を塞いだコムイは、自分では収拾する気もない騒ぎから遠ざかろうと隙を窺う。
 と、まるで助け舟のように、彼の携帯が鳴った。
 「ちょっと失礼。
 はいはい、なんだろー?」
 親子の問題は親子に任せて、席を立ったコムイが機嫌よく部屋を出ようとすると、電話の向こうで切羽詰った声が敵の襲撃を告げる。
 「場所は?
 うん、じゃあ・・・神田君に行ってもらおうか」
 「今それどころじゃねぇ!!」
 肩越しに見遣った途端、怒鳴られて、コムイは肩をすくめつつ部屋を出た。
 「じゃあごめん、ラビかリナリー・・・どっちか連絡のつく方にヨロシク」
 通話は切ったものの、せっかく逃れた修羅場に戻るわけもなく、コムイは足取りも軽く廊下を渡る。
 と、まさに彼の目の前を、リナリーが横切って行った。
 「リナリー、キミが行くのかい?」
 声をかけると、リナリーは跳ねるように振り返り、頷く。
 「ラビとは連絡つかないんだって!
 部活一旦抜けるね、兄さん!」
 「うん・・・気をつけてね」
 「はぁい!」
 気遣わしげに見送る兄に手を振り、リナリーは襲撃現場へと駆けて行った。


 コムイにアクマ襲撃の連絡が入る少し前のこと。
 病院に着いた途端、アレンとラビはリンクに『携帯を切るように』と睨まれた。
 「病院には、重篤な病の方達もたくさんいます。
 万が一にも医療機器に障害を与えないよう、切りなさい」
 「わっ・・・わかってるさね!」
 「どうですかね」
 ムッとして携帯電話の電源を落としたラビに、リンクが鼻を鳴らす。
 「わかっていても、うっかり忘れるのがあなたですからね、Jr.」
 「悪かったな・・・!」
 こめかみをひくつかせるラビの肩に、慌てて電源を落としたアレンが縋った。
 「リンクがムカつくのは、今に始まったことじゃありませんよ」
 「君が生意気なのも、今に始まったことじゃありませんがね、ウォーカー」
 ラビ以上にこめかみを引き攣らせつつ、リンクはアレンの襟首を掴む。
 「なにすんだっ!放せー!放せー!!」
 「怪我人はおとなしくしなさい!」
 じたじたと暴れながら、アレンはリンクに襟首を掴まれたまま診療室へ連行された。
 と、
 「・・・普通は、受付を済ませてから来るものだけど?」
 厳格な婦長に睨まれても怯むことなく、リンクは彼女を見返す。
 「2階から転落した挙句、一時意識不明になった者達に待合室で待てと?
 救急車を呼んだ方がよかったでしょうか」
 「受付にその状況を申し出てもらえれば、救急扱いで対処しますとも!」
 苛立ちと諦めを同時に表すという、器用な表情を作った婦長は、アレンとラビを受け取るとリンクを顎で払った。
 「待合室で待ってなさい」
 「よろしくお願いします」
 彼女の冷たい態度を気にした風もなく、リンクは会釈して出て行く。
 「ホントに、愛想のない子ね!
 それで?
 2階から落ちたなんて、何をやっていたの、あなた達!」
 リンクへの苛立ちそのままの勢いで問われ、二人は親に叱られた子供のようにぼそぼそと、言い訳がましく状況を説明した。
 「馬鹿な子達ね!」
 「す・・・」
 「すみません・・・・・・」
 容赦なく叱られた二人が、揃ってうな垂れる。
 「ま・・・まぁまぁ婦長、子供の元気がいいのはいいことだし・・・」
 あまりの剣幕にうかつにもとりなしを入れた医師が、般若の形相で睨まれてすくみあがった。
 「小さな子供ならまだしも、アレンは中学三年生でラビは高校三年生ですよ!
 もう、じゅうぶん分別があっていい年頃です!」
 「う・・・うん、そうだね・・・そうだとも君達、気をつけなさいよ」
 怯えつつ頷き、すかさず言った医師に、二人も慌ててこくこくと頷く。
 「じゃ・・・じゃあ、一通り検査して・・・念のために泊まっていくかい?」
 患者達よりもむしろ、婦長の顔色を窺う医師に、しかし、二人は揃って首を振った。
 「僕、明日入試なんです!」
 「俺も、心配で泊まってらんないさ!」
 それを聞いた途端、婦長も医師も、息を呑む。
 「ま・・・明日なの、入試?」
 「それはまた・・・不吉だね」
 「・・・・・・・・・なんでそんなこと言うんですか」
 肩を落とし、暗い声音で呟いたアレンの背を、婦長が労わるように撫でた。
 「大丈夫。
 学校はクロノだけじゃないわ」
 「それ慰めてませんよねぇぇぇぇぇ?!」
 思わず泣き声をあげたアレンに婦長が吹き出す。
 「そうね、本当に落ちたら、慰めてあげるわよ」
 クスクスと笑声をあげる彼女にラビと医師も唱和し、アレン一人が頬を膨らませた。


 病院らしくもなく賑やかな診察室の外で、リンクは読んでいた本から顔をあげた。
 「・・・なんの臭いでしょう」
 薬品の臭いに混じり、どうにも不快な臭いを鼻腔に捉えて、眉をひそめる。
 と、彼の周りでも、体調不良ゆえに異臭に敏感な患者達が、顔をしかめて鼻を塞いでいた。
 「なんだこの臭い・・・」
 「ガスでも漏れてるんじゃないの?」
 不快げな囁きを耳にして、リンクが立ち上がる。
 「ガス・・・」
 臭いの元を探しつつ、低く呟いた。
 「死臭(ガス)・・・?」
 思い至った瞬間駆け出し、階段を駆け上がって病室に向かおうとした彼は、ナースステーションの惨状に顔を歪める。
 「なんということを・・・!」
 アクマに襲撃されたらしいそこにはもう、『人』の形はなく、砕けた身体から赤黒いガスが立ち昇っていた。
 「どこに・・・」
 「ここだよーんv
 甲高い調子はずれの声と共に銃撃が来る。
 素早くナースステーションの中に逃げ込み、スチール製のロッカーの影に隠れたリンクに、アクマが舌打ちした。
 「ナンダヨ人間のクセに生意気ー!」
 でも、と、笑みを含んだ声が、ロッカーに銃口を向ける。
 「そんなの、ぜーんぜん盾になんないよーぅ!」
 甲高い笑声と共に銃弾が降り注ぎ、ロッカーを紙箱のように引き裂いた。
 「へへっv こーろし・・・タ?」
 煙を上げて崩れ落ちたロッカーの向こう側に、しかし、リンクの死体はない。
 当てが外れて呆けたのも一瞬、人外の耳はナースステーションの向こう側を走る足音を捉えた。
 「ナマイキ!!」
 反対側の出口から逃げられたと知り、アクマは金切り声を上げて追う。
 「マテェェェェ!!!!」
 「待てと言われて待つ人がいますか!」
 忌々しげに呟きつつ、廊下を走るリンクは、目の端々に病室の惨状を捉え、唇を噛んだ。
 ―――― 全滅・・・か。
 乱れたシーツを染め、白い室内を満たす赤黒いガスは、アクマに殺された人間の成れの果てだ。
 被害が他の階にまで及んでいない事を祈りつつ、リンクはポケットからPHSを取り出した。
 いつもの癖で、アレンの番号を押そうとして舌打ちし、『本部』へ連絡する。
 「リンクです。
 エクソシストの派遣を要請します。
 現在確認したアクマは一体。
 ウォーカーとJr.は現在、病棟内で検査中ですので、連絡は取れません」
 早口に、しかし正確に状況を伝えると、回線の向こうで機敏な返答があり、救援の確約がなされた。
 「よろしくお願いします」
 そう言ったものの、現況を伝えるために通話を切ることはなく、リンクはアクマに姿を見せつつ逃げる。
 「もう!!チョロチョロうっとうしいぃぃぃ!!!!」
 ヒステリックな声をあげたアクマの銃撃を避けつつ、窓や非常口を札で封印した。
 アクマをこの階以外の場所に逃さないための措置だが、彼の力では一時的なものでしかない。
 「この状況で、すぐに駆けつけられるエクソシストと言えば・・・」
 リンクのこめかみが忌々しげに引き攣った。
 まるでその様が見えたかのようなタイミングで、外から窓が割られ、飛び込んだ勢いのまま蹴りつけられたアクマが吹っ飛ぶ。
 「リナリー・リー・・・」
 思わず舌打ちしそうに顔を歪めた彼に気づいたリナリーもまた、ムッと眉根を寄せた。
 「なんだ・・・人が襲われてるのが見えたから飛び込んだのに、リンクさんだったんだ」
 低く呟いたのち、がらりと表情を変えてにこりと笑う。
 「お怪我はありませんか、リンクさん?」
 「あなたにとっては残念でしょうが、レベル2アクマごときにやられる私ではありません」
 「ですよねー・・・!」
 こめかみに青筋を浮かべながら笑った彼女の傍ら、怒り心頭に発したアクマが瓦礫をまとって起き上がった。
 「コノ女!!殺す!!」
 「それは・・・」
 リナリーが、地獄の底からわきあがってきたような低い声で呟く。
 「こっちの台詞!!」
 怒号と共に、リンクに対する恨みつらみがこもった蹴りがアクマを貫いた。
 「・・・今、そのアクマに私を幻視したでしょう?」
 「あら、被害妄想じゃありませんか?」
 妙にすっきりした顔でアクマの残骸を踏みつけたリナリーは、にこりと笑って振り向く。
 「だといいのですが」
 ふん、と鼻を鳴らし、リンクはポケットに滑らせていたPHSの通話を切った。
 「リンクさん?
 病院って、ケータイはご法度ですよね?
 いいんですか、緊急事態とはいえ、杓子定規なあなたがそんなことして?」
 隙を見つけたとばかり、嬉々として畳み掛けるリナリーにまた、リンクが鼻を鳴らす。
 「お喜びのところ水を差して悪いのですが、これは医療現場用に使用を認められているPHSで、携帯電話の方は電源を落としてあります。
 私に、その程度の抜かりなどありませんとも」
 「・・・・・・・・・っ陰険マユゲ」
 リナリーが肩を震わせながら、口の中で低く呟いた時、バタバタと足音がして、アレンとラビが駆け上がってきた。
 「リンク!アクマの気配が・・・リナリー先輩」
 「あ・・・もう片づいたんさね」
 ほっと吐息した二人を、リンクの冷厳な、リナリーの不機嫌な目が睨む。
 「うぁ・・あの・・・どうかしました・・・?」
 「別に」
 異口同音に言って、それぞれにそっぽを向いた二人にアレンが身を縮めた。
 と、リンクが再びアレンに視線を戻す。
 「ウォーカー、まだアクマは残っていますか?」
 問われてアレンが、ふるふると首を振った。
 「一体だけだったみたいです」
 「けど被害は甚大さね・・・」
 「うん、間に合わなかった・・・」
 眉をひそめたラビにリナリーも頷くと、リンクがふるりと首を振る。
 「私が発見した時には既にこの状態でした。
 ウォーカーでさえ気づかなかった所を見ると、方舟を使用したようですね」
 アレンも気づかぬうちに現れ、ほぼ一瞬で制圧したのだろうと予測を述べたリンクは、ちらりとリナリーを見遣った。
 「あなたが来たのは偶然でしょうが、素早い敵を仕留めるためには適任だったようですね。
 ウォーカーやJr.では、こうも早く破壊はできなかったでしょう」
 「あ・・・ありがとうございます」
 リンクにしては珍しく、リナリーを評価する発言に、彼女は喜ぶ以前に驚いて目を丸くする。
 が、
 「礼には及びませんよ、別に誉めてはいませんから。
 確かに破壊は迅速に行われましたが、逃亡中の生存者を発見したにもかかわらず、窓を破って侵入とは、危険にも程がある。
 少しは一般人に気を使いなさい、暴走小娘」
 リンクの嫌味な言い方に、リナリーの怒りが弾けた。
 「誰が暴走小娘よ!!
 私、ちゃんとガラスの破片が生存者に降りかからない位置から飛び込んだもん!
 逃げてるのがリンクさんだってわかってたら、もういっこ手前の窓から飛び込んで、巻き添えにしてたもん!!」
 「・・・本音が出ましたね、小娘」
 陰険な目でじっとりと睨まれ、リナリーが一瞬怯む。
 だがすぐにふんっと鼻を鳴らし、リナリーはリンクを睨みつけた。
 「もうアクマがいないなら、どぉせ暇でしょうから、後の処理をお願いします。
 私、部活に戻んないといけないの!」
 憤然と踵を返すや、床を蹴りつけるようにしてアレン達に歩み寄ったリナリーは、いまだ怒りの収まらない顔にそれでも笑みを浮かべて、アレンの肩を叩く。
 「じゃあ明日ね、アレン君。
 迎えに行くから、寝坊しちゃダメだよ?」
 「は・・・はい!!」
 頬を紅潮させて頷いたアレンに、今度は本当に笑って頷くと、ラビとは手を打ち合わせて、リナリーは階下に降りていった。
 「・・・なんでいっつもケンカするんさ?」
 ラビが苦笑すると、リンクはスーツについた埃を払い落としつつ、彼を睨む。
 「彼女が一方的にヒステリックになっただけです」
 「そうかねぇ・・・」
 「そうですとも」
 それよりも、と、リンクはアレンへ視線を移した。
 「検査を抜け出したのですか?」
 「へっ?!だって・・・」
 「アレンが、アクマがいるって言うから・・・」
 駆けつけたんだ、と言う二人を、リンクが摘み上げる。
 「余計なことはしなくてよろしい。
 さぁ、さっさと検査を済ませなさい」
 「なんでー!!せっかく助けに来たのに!!」
 「お前そういう態度良くないさ!!」
 きゃんきゃんと喚く二人に眉をひそめながら、リンクは彼らを検査室へと連行して行った。


 病院で『異常なし』のお墨付きをもらい、家に帰ったアレンは、リンクとラビによってたかって世話を焼かれ、宵のうちから寝かしつけられた。
 「・・・って、僕は幼児ですかッ!!」
 「こんなに可愛くない幼児がいますか」
 すぱっと切り捨てられて、頬を膨らませたアレンの頭を、ラビが大事そうに撫でる。
 「俺たちのボーナスはお前にかかってんさ!
 万が一にも高熱出して棄権なんてことにならんようにって措置さね!」
 「金の亡者たちがいるぅぅぅぅぅ!!」
 じたじたと暴れ狂うアレンを、しかし、金の亡者たちは呆れ顔で見下ろした。
 「人聞きの悪い」
 「お前のためでもあるんさ。
 兄ちゃんたちの好意は素直に受けとんな」
 「純粋な好意がほしい・・・・・・」
 ぶぅ、と、頬を膨らませて布団をかぶってしまったアレンに、ラビが吹き出す。
 「それは明日、リナにもらいなv
 んじゃ俺、今日は帰るからー♪」
 陽気に言って、がらりと窓を開けたラビにリンクが目を吊り上げた。
 「待ちなさい、Jr.!
 窓から出入りするなと言っているでしょう!」
 ラビの襟首を掴み、叱り付けると、さすがのラビも今日は気まずげに窓を閉める。
 「また同じ目に遭いたいのですか?!」
 「ゴメンってバ。
 そんな怒んなさー・・・」
 「まったく!
 君のせいで、せっかくのボーナスがふいになるところでしたよ!」
 「そっちかい!!」
 憤然と言い放ったリンクに、ラビだけでなくアレンもが起き上がって突っ込んだ。
 「他に何か?」
 冷厳なリンクに額をつつかれ、アレンは憮然と枕に頭を戻す。
 「大人になって強くなったら出てってやる・・・」
 「それは頼もしい。
 一刻も早く大人になるのですね」
 布団をかぶってぼやくアレンに、リンクは意地の悪い笑みを向けた。
 「リナといいアレンといい、ちょっとは仲良くしろっての」
 その様にラビが苦笑すると、リンクはいかにも嘆かわしいとばかり、首を振る。
 「まったく、扱いづらい子供たちです」
 「お前に言ってんさ!」
 「では今の言葉、あなたにも適用しますよ、Jr.
 かすり傷で済んだとは言え、2階から転落したのは事実なのですから、今日はあなたも早く休みなさい」
 「・・・だからいっこしか違わねぇだろって、いつも言ってんさ!」
 憮然と言いつつ、また窓を開けたラビの襟首をリンクが掴んだ。
 「だから窓から出入りするなと、何度言えばわかるのですか!
 性能がいい割には役に立たない頭ですね!」
 「つっ・・・つい、いつもの癖が出ただけさ!」
 「そんな癖、さっさと矯正しなさい!」
 怒鳴りつけながらラビをドアの外に押しやったリンクは、肩越し、布団をかぶったままのアレンを見遣る。
 「あったかくして寝るんですよ。
 そして明日は・・・がんばりなさい」
 無言のアレンにちらりと笑い、リンクはラビと共に部屋を出て行った。


 翌朝早く目が覚めたアレンは、むくりと起き上がった。
 「さむっ!」
 布団を出た途端に震えが走る。
 まさか風邪を引いてしまったかと焦りながらカーテンを開けると・・・窓の向こうは、銀世界だった。
 「なにこれ――――――――?!」
 絶叫する間にも、大風にあおられた雪は白く視界を塞いでいる。
 雪が降るとは聞いていたし、昨日もちらついてはいたが、まさかここまで大変なことになるとは思っても見なかった。
 「ラビラビ!!ラビ――――!!」
 窓の向こうに呼びかけるが、まだ寝ているのか、彼の部屋からは返事もない。
 「もう!!
 リンクリンクリンク!!
 なんかすごいことになってる!!」
 早々に諦め、今度はリンクを呼ばわりながら階下に降りると、朝の早い管理人はとっくに起きて、朝食を整えていた。
 「予測の範囲内です。
 電車が遅れる可能性がありますから、早めに出なさい」
 「う・・・うん・・・・・・」
 さすがはリンクと言うべきか、こういうことに関して、彼に抜かりはない。
 「あ!
 じゃあ、リナリー先輩に連絡しないと!」
 アレンが慌てて携帯を取り出すと、リンクは呆れたように肩をすくめた。
 「お姉さんに迎えに来てもらうなんて、幼稚園児ですか君は」
 「いいじゃんか!
 その方がテンションあがるもん!
 ・・・あ、おはようございます、アレンです!!」
 『んー・・・おは・・・なにこの雪!!』
 まだ寝ていたらしいリナリーが、電話の向こうで大声をあげる。
 『アレン君、早めに出よう!
 これじゃあ電車遅れるかもしれない!』
 言おうとしていたことを先に言われ、アレンはただ頷いた。
 「よろしくお願いします」
 『うん!すぐおうち行くね!』
 通話を終えた携帯を見て嬉しそうに笑ったアレンは、はずんだ足取りで着替えに戻る。
 その途中、
 「あ、リンク、リナリー先輩がすぐ来るそうだから・・・」
 足を止めて声をかけると、彼はやや不満げに鼻を鳴らした。
 「小娘の分も用意しろと言うのでしょう?
 わかっていますよ」
 昨日のことがあったためか、最早はばかることなくリナリーを『小娘』と呼ぶリンクに、アレンが笑みを引き攣らせる。
 「ホント・・・仲が悪いんですね」
 「私はなんとも思ってませんとも」
 それはどうだろ、と、口の中で呟きつつ、部屋に戻ったアレンが身支度を整えている間に、リナリーは脅威の速さで到着した。
 「おはよ!
 ・・・・・・ございます」
 ドアを開けたのがリンクだとわかった途端、リナリーの声が引き攣る。
 「おはようございます、随分と早かったのですね。
 朝食がまだでしたら、用意していますからどうぞ」
 「あ・・・ありがとうございます」
 急いでいたために、櫛を入れただけの髪を気まずげに整えながら、リナリーは目を逸らした。
 「アレン君は?」
 「今、着替えていますよ。
 すぐに降りてくるでしょうから、あがって待っていてください」
 「・・・お邪魔します」
 一触即発の緊張感と共にリナリーが部屋に入ると、タイミングを見計らったようにアレンも2階から降りてくる。
 「あv
 おはよーございます、リナリー先輩v
 本日入試に挑む受験生とは思えない明るさで言い放った彼に、リナリーも緊張を緩めて微笑んだ。
 「昨日は大変だったね。
 でも、無事でよかった。
 今日はがんばってね」
 「はい!
 勝利の女神がついてるんですもん!大丈夫ですよv
 きらきらと目を輝かせ、両手でリナリーの手を握るアレンにリンクが肩をすくめる。
 「早く朝食を済ませてしまいなさい。
 試験に遅刻しては、勝利の女神も手の施しようがないでしょう」
 「あ!そうでした!」
 なぜ慌てていたのかを思い出し、アレンはリナリーの手を握ったままテーブルに着いた。
 「いただきます!」
 「ハイハイ」
 張り切って声をあげるアレンにリンクが呆れ声を漏らす。
 「迷子癖のある子供ですから、ご苦労ですが世話をお願いしますよ、リナリー・リー。
 仕事でなければ、私が連行したのですが」
 「え?今日も休日出勤?」
 オムレツを頬張りながらアレンが問うと、リンクは眉根を寄せた。
 「昨日の処理ですよ。
 他の場所ならともかく、病院ですからね・・・犠牲者も多数出ましたし、どう処理したものか、社長も頭が痛いご様子です」
 「処理・・・ね」
 暗い声音で呟いたリナリーをちらりと見遣り、リンクはアレンの頭を撫でて寝癖を直してやる。
 「これ以上私の仕事を増やさないためにも、ぜひとも合格してください、ウォーカー」
 「はぁい」
 緊張感漂う雰囲気を気にしつつも、アレンはあえて、暢気な声をあげた。


 「じゃあ、行ってきます!」
 「はい、がんばって」
 リンクに見送られ、リナリーと共に家を出たアレンは、雪に覆われた道を用心深く歩いた。
 「あの・・・聞いていいですか?」
 家がすっかり見えなくなった頃、アレンがリナリーの顔色を窺いつつ問うと、彼女は軽く頷く。
 「なんで私とリンクさんの仲が悪いのか、ってこと?」
 「はい」
 やっぱり気づかれてたか、と、苦笑するアレンに、リナリーはあえて表情を消した。
 が、
 「私は『正義の味方』でいたいんだよ」
 その口調はあまりにも憮然として、あっさりと彼女の真情を露呈する。
 「・・・リンクさんからはもう、エクソシスト戦隊とルベリエ社長の関係は聞いた?」
 真情を隠すことに失敗したと気づき、更に憮然と言ったリナリーに、アレンは頷いた。
 「リンクからじゃなくて、ラビからですけど・・・アクマが壊したライフラインなんかの修理を、社長の会社が請け負ってるって」
 「そう。
 それであの会社は潤ってる・・・。
 ラビや神田は、自分の特殊能力を生かしたバイトだって割り切ってるけど、私はイヤなんだ。
 ルベリエ社長が本気で敵を・・・アクマの製造者である『伯爵』を倒そうとしていることは知ってるし、そのために私達エクソシストを集めて戦隊を構成したのは知ってるけど、アクマが本当にいなくなったらきっと、困るのは社長の会社だわ」
 まだ16の少女なのに、そこまで先を読むリナリーに、アレンは目を見開く。
 「そう・・・ですね。
 癒着・・・って言っちゃっていいのか迷いますけど、アクマの破壊行為がなくなれば、あの会社のお仕事はその分減りますもんね」
 考え考え、ゆっくりと言ったアレンを見るリナリーの目が、暗く冷たい光を帯びた。
 「いよいよ伯爵に手が届く段になった時、あの人は私たちを裏切るかもしれない」
 低い呟きに、アレンの足が止まる。
 「リ・・・」
 「だから私は、あの人が嫌い・・・ううん、怖い。
 今までにも何人か、戦闘で命を落としたエクソシストはいるけど、なんとか生き残った時、いらなくなった猟犬はどうなるんだろ」
 ―――― 飛鳥尽きて良弓かくれ 狡兎(こうと)死して走狗(そうく)にらる。
 アレンの脳裏に、古い言葉がよぎった。
 「だから私はリンクさんも嫌い。
 あの人はルベリエ社長を尊敬して、彼の仕事のサポートをしてるんだもん・・・私たちもいずれ、彼に『処分』されるのかもしれない」
 言うや、リナリーは表情の凍ったアレンに毅然と向かい合う。
 す・・・と、リナリーが伸ばした手を、アレンは呆然と見つめた。
 「クロノ学園に入って、アレン君。
 クロノは、兄さんが唯一自由に振舞える場所・・・そして、エクソシストが兄さんの保護下にいられる場所だよ。
 伯爵を倒して・・・その後、私たちが私たちでいられるために、この狂ったシステムを中から変えるの!」
 「リナリー先輩・・・」
 「私たちは・・・私たちだけでも、『正義の味方』でいましょ」
 にこりと、毅い笑みを浮かべた彼女の手を、アレンが取る。
 「はい・・・!」
 大きく頷くと、リナリーが満足げに笑った。
 それはまるで、この曇天に差した陽光のようで・・・。
 アレンは勝利の女神の手を握ったことを確信した。


 駅に着くと、案の定、電車は遅れに遅れていた。
 「早めに来てよかったね!
 この程度の遅れなら、試験開始には十分間に合うよ」
 「はい・・・」
 とは言え、電車が来るまでの長い時間、寒い構内で待ち続けるのは辛い。
 ぶるぶると震えながら、マフラーに顔をうずめるアレンの腕に突然、リナリーの腕が絡んできた。
 「えっ?!」
 「寒いから、くっついてよ?」
 にこりと笑ってアレンを見あげるリナリーの顔に、アレンは茹であがったように赤くなり、身近になった体温以上に身体が火照る。
 「風邪なんか引いたら大変だもんね」
 「そそそそっ・・・そうデスネッ!!」
 裏返って、ほとんど悲鳴になった声に、リナリーが目を丸くした。
 「大丈夫?
 声が変だよ?」
 「だいっ・・・だいっ・・・だいじょうううううぶですっ!!」
 ちっとも大丈夫そうではない声で、緊張のあまり回らない舌をなんとか動かしたアレンは、驚いて身を引こうとしたリナリーの腕を知らず、引き止める。
 「ちょっ・・・ちょっと緊張しただけでっ!!」
 引き攣った声で言うと、リナリーは納得したとばかり頷き、優しい笑みを浮かべた。
 「いよいよだもんね。
 色んな人から・・・私もさっき、プレッシャーかけちゃったし、緊張するよね。
 でも大丈夫!アレン君なら合格できるよ!」
 勝利の女神に請け負われ、アレンは頬を染めて頷く。
 リナリーの腕を絡ませたまま、更なるご利益を求めてその手を握り締めた。
 「絶対に」
 「うん」
 入試直前とは思えないほど、穏やかな笑みにリナリーも笑みを返す。
 そうするうちに、遅れていた電車がホームに入ってきた。
 思っていた通り、早朝にもかかわらず車輌は人で埋まっている。
 わずかなスペースに潜り込んだ途端、今までの寒さを一気に忘れさせるほどの熱気に包まれた。
 「う・・・満員電車って辛いですね・・・」
 「そうだね。
 でも、あの家から通うなら、天気の悪い日はこの電車に乗ることになるよ?」
 早速顔色の悪くなったアレンに、リナリーはクスクスと笑う。
 「電車といえば、いつも思うんだけど。
 子供向けの特撮って、なんで怪人は幼稚園の送迎バスなんか狙うのかな?
 どうせ狙うなら、もっと人がたくさん乗ってて、社会的にも影響を与えやすい、こんな電車を狙った方が・・・」
 その時、彼女の言葉を遮るように前方で爆音が上がり、衝撃が車輌全体を大きく揺らした。
 「・・・襲われたみたいね」
 「リナリー先輩たら!!」
 不吉な予言を当ててしまった女神に、アレンが思わず苦情を申し立てる。
 「うーん・・・これ、どうしようか」
 爆音と揺れに、車輌内はほとんどパニック状態だったが、そんな状況にもよろけることなく立つリナリーはむしろ、暢気に呟いた。
 「ど・・・どうしようって?」
 「勝手に開けちゃっていいものなの、これ?」
 ドアの付近には、非常時にドアを開けるための機能があるが、揺れの激しい今、不用意に開けては怪我人が出てしまう。
 「まぁ、いざとなったらそんなこと言ってられないけど、今のところ私たちは出られないし、ラビか神田が助けてくれないかな」
 「ラビはまだ寝てたみたいですよ」
 「じゃあ神田か・・・」
 何気なく呟いた途端、アレンの顔から表情が消えた。
 「あれ?
 どうかした?」
 「いえ、別に・・・」
 とはいえ、なんでもないとは思えない様子を訝しく思っていると、また爆音が響く。
 「あの音は・・・」
 「アクマの弾丸の音じゃない・・・破壊された音だね」
 頼もしげに微笑んだリナリーに、アレンの表情が憮然となった。
 「神田・・・先輩でしょうか」
 「さぁ?
 それはどうかわかんないけど」
 更に騒然となった車輌内で、耳を塞ぎつつリナリーが首を傾げる。
 その時揺れが唐突に・・・慣性の法則など全て無視して、全く唐突に止まった。
 「あ、ミランダだ」
 乗客が呆然とする中、リナリーの嬉しげな声が妙に異質だ。
 「あの・・・ミランダさん・・・って?」
 他の乗客達と同じく、呆然としつつも唯一、見たことのないエクソシストの名を呼んだアレンに、リナリーがにこりと笑った。
 「最高に不思議な能力を持ったエクソシストだよ」
 「うん。時間を操るんだって、ラビに聞きました」
 今から『記憶』の操作も行うのだとしたら、随分大変な作業だろうと、アレンは大勢の乗客達の、呆けた顔を眺める。
 「あ、そうなんだ。
 じゃあ、アレン君が聞きたいのは、彼女がスタイル抜群の美人だってこと?」
 「いやっ!そういうわけじゃ・・・そうなんですか?」
 思わず興味を惹かれて問い返すと、リナリーが乾いた笑みを浮かべた。
 「・・・正直者」
 「すみません・・・」
 気まずげにアレンが謝ると、リナリーが苦笑する。
 「それともう一つ。
 スタイル抜群の美人だって聞いて、アレン君が思い浮かべたような、驕慢な人じゃないよ、彼女は」
 アレンの思考回路を読んだリナリーが、クスクスと笑っていた頃、停止した車輌前では、噂のミランダが破壊された線路の修復を終えていた。
 「これでしばらくはもつと思いますけど・・・」
 傍らに立つ神田を、気弱げな上目遣いで見上げて、ミランダはぼそぼそと呟く。
 「あ・・・あの・・・」
 彼が無言なのは、自分が何かミスをしたせいだろうかと、ミランダがもの問いたげに見つめる先で、神田はいきなり踵を返した。
 「任務完了だ。帰る」
 「あ!はい・・・」
 ほっと吐息して、ミランダも神田の後に続く。
 が、慌てて踵を返したために、枕木に足を取られて転んでしまった。
 「ちっ・・・!
 なにやってんだ、トロいな!」
 「ごっ・・・ごめんなさい!!」
 神田の怒声に身をすくめ、ビクビクと怯えるミランダの前に手が差し伸べられる。
 「ホラ!
 とっとと立て!」
 「あ・・・ありがとう・・・」
 意外そうに目を見開き、彼の手を取って立ち上がったミランダは、気弱げな笑みを浮かべた。
 「優しいんですね」
 「違ェよ、バカ!」
 繋いだ手をぐいっと引かれて、ミランダはたたらを踏みつつ連行される。
 「死にてぇのか!」
 「死?
 え・・・ひぃぃぃぃぃぃっ!!!!」
 時間操作と共に記憶の操作もやってしまったために、何事もなかったかのように動き出した電車が、ミランダの背を風圧で押した。
 「死っ・・・死ぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!」
 ガタガタと震えてしがみついてきたミランダに、神田はうんざりと吐息する。
 「いい加減、しっかりしろ。
 お前に何かあったら、俺が殺されんだよ」
 無駄死にはごめんだ、と、呟く神田に、ミランダはがくがくと頷いた。


 「あ、動き出したね」
 「あの・・・質問なんですけど」
 暢気に言ったリナリーに、アレンは頬を引きつらせた。
 「こ・・・これが記憶操作ってやつ・・・?」
 アレンが呆然と見遣るのは、今の今までパニック状態だった乗客達だ。
 何事もなかったかのように、満員電車の中にうんざりとした顔を詰め込む彼らにアレンが驚いていると、リナリーがくすくすと笑って頷いた。
 「そうだよ。
 すごいでしょう、ミランダの能力って。
 中には記憶を取り戻す人もいるみたいだけど、破壊されたはずの場所がすっかり元通りになっているのを見ると、『リアルな夢を見た』って思うみたい」
 「そりゃ・・・そうでしょうねぇ・・・・・・」
 じゃあ、と、アレンはふと思ったことを口にする。
 「ミランダさんって人は、ルベリエ社長と社長の会社にとって、大切な人なんですね」
 「うん・・・」
 苦笑と言うよりは寂しげに、リナリーは笑って頷いた。
 「ミランダはクロノの側にいたがってる。
 だけど、ルベリエ社長は彼女の能力をすごく欲しがってて、なんとか会社側に引き込めないかって、いつも画策してるんだ」
 「ダ・・・ダークなところですねぇ・・・・・・」
 第一志望が揺らぎそうになったアレンの腕を、思いとどまらせるようにリナリーが掴む。
 「だけど大丈夫v
 副司令官は数学のリーバー先生なのv
 あの人がいる限り、ミランダはどこにも行かないよ」
 「なんで・・・」
 と、問いかけて、アレンは笑みを深めたリナリーの表情に、全てを悟った。
 「最後に愛は勝つんですね」
 「そうv
 アレンの発言に、正義の味方の愛の戦士は、合格サインを出す。
 「今度はアレン君の番だよ!
 逃がさないからね?」
 「・・・逃げられません」
 魅惑の笑みに誘惑されて、アレンは夢見心地に頷いた。


 「あー・・・寝坊しちゃうなんてサイアクさ」
 「昼近くにもなって起きておいて、寝坊で済むかボケ!」
 厳しい祖父に叱られて、ラビはますます肩を落とした。
 「本番の日は、ちゃんと見送ってやろうと思ったんにさー」
 「今朝は大雪で、電車もかなり遅れたようだからの。
 リンクのことじゃから、アレンが間に合うよう、早めに行かせたのではないか?」
 「んじゃ、どっちにしろ俺の目覚ましは役に立たんかったんさね」
 途端に開き直り、ラビはランプを点滅させて存在を主張する携帯を開いた。
 「・・・あれ?
 なんで俺、こんなにたくさんメールとか着信履歴とか入ってんのに、起きんかったんさ?」
 「全く、寝(い)ぎたないやつじゃの!」
 「今日ばっかは反論できねェさ・・・」
 メールや着信の内容が、『バイト』であったことを知り、ラビがまた肩を落とす。
 「ま、終わったことは仕方ないさ。
 アレンが帰ってきたら、お疲れさん会でもするかね」
 どんな顔して帰ってくるだろ、と、暢気な表情の割には胃の痛い思いをしつつ、アレンの家庭教師は生徒の帰りを待った。
 ―――― その後、かなりの時を置いて。
 隣家の窓越しにアレンの気配を感じたラビは、自室の窓を開けた。
 「アーレーンー!」
 大声で呼ばわると、からりと窓が開く。
 その瞬間、ラビは手にしたクラッカーを鳴らした。
 「なっ?!びっ!!」
 驚きのあまり、まともに声も出ないアレンの様子に、ラビが楽しげに笑う。
 「おーつかーれさーんv
 どうだったさ?
 手ごたえとしては、どんなカンジだったさ?」
 さりげなさを装いつつも、その実、緊張に胃の引き締まる思いで問うと、呆然としていたアレンが、にかりと笑った。
 「ラビ先生のヤマ、大当たり!」
 「マジで?!やったさーvv
 窓を乗り越え、アレンの部屋に飛び込んだラビは、彼を抱きしめて盛大に撫でてやる。
 「俺のボーナスも確実さねv
 「お礼なら、リナリー先輩にも言ってくださいね。
 先輩のおかげで間に合ったようなもんですから」
 「へ?なんでさ?」
 ラビが問い返すと、アレンは苦笑した。
 「それが・・・リナリー先輩は、部活に行くついでに僕を学園まで連れてってあげる、って言ってたんですけど・・・」
 「はぁ?!
 今日、入試だぜ?
 そんな日に部活するわきゃないさね!」
 ただでさえ神経質になっている受験生達に余計な心理的負担を与えないためにも、当日は生徒達が騒がないよう、部活動を休むことは常識になっている。
 そう言うラビに、アレンは苦笑を浮かべたまま頷いた。
 「学校についても、学園の生徒らしき人達はいなかったから、『早く着いちゃいましたね』って言ったら・・・」
 にこりと笑って、リナリーは言ったと言う。
 ―――― 本当は部活なんかないけど、アレン君が迷子にならないように付き添ったの。だって、アレン君は心配な子なんだもん。
 「さすが勝利の女神さね!」
 吹き出したラビにもう一度頷き、アレンは苦笑を深めた口元を手で覆った。
 「そうなんですよ・・・しかも、学校に行くまでにもアクマに襲われたり・・・」
 「あ、そりゃ俺も知ってるさ。
 ゴメンなぁ、俺、なんだかすっげ寝コケてて、バイトの連絡にも気づかんかったんさ」
 ということは、自分達を助けてくれたのはやはり、神田だったのかと思い至り、アレンの顔が不機嫌になる。
 「・・・電車はね、その後、何もなかったように動き出したんですよ。
 だけど、ただでさえ遅れていた電車が、襲撃で更に遅れちゃったもんですから・・・」
 「よ・・・よく間に合ったさね、お前!!」
 蒼ざめてアレンの両肩を掴んだラビから、アレンは顔ごと目を逸らした。
 「・・・リナリー先輩が連れてってくれたんで」
 ぼそりと、呟いたアレンの耳が、みるみる紅くなっていく。
 「?
 どしたん?」
 「いえ・・・あの・・・・・・」
 電車が駅に到着した時点で、試験開始まで間もないと気づいたリナリーに、いきなり抱きしめられた時はもう、口から心臓が飛び出すかと思った。
 その次の瞬間、イノセンスを発動した彼女に瞬間移動を強要され、学園に着いた時には胃の中身を吐いていたと思う。
 思う、というのは、その時の記憶が飛んでしまったからだ。
 「・・・・・・死ぬかと思いました」
 「死ななくて良かったじゃんか」
 お疲れさん、と、もう一度言って、ラビがアレンの頭を、労わるように撫でる。
 「結局、他の路線も遅れてたから、試験の開始時刻も遅れたんですけどね。
 おかげで、体調を回復するだけの時間は取れました」
 ようやくすっきりした顔をして、アレンが笑った。
 「ん。
 後は祈るばかりさね」
 とりあえず、と、ラビはアレンの肩を抱く。
 「今日はお疲れさん会だな!
 リンクが帰ってくる前に、1次会やっとこーぜ♪」
 「はい!!」
 ゲーム解禁!と、はしゃいだ声をあげて、アレンはラビと共に階下に降りて行った。


 ―――― それから数日後。
 自宅に届いた郵便に、アレンはぎくりと顔を強張らせた。
 「りっ・・・りりりっ・・・りんくっ・・・・・・!!!!」
 ガタガタと震える手で差し出された封書を見て、リンクは眉をひそめる。
 「合否通知ですか。
 早く開けてはどうです?」
 「それができたら君に持って来ないよっ!!」
 開けてっ!と、縋るような目をするアレンに肩をすくめ、リンクは彼の手から封書を取り上げた。
 「ウォーカー」
 あっさりと封を開けた彼から顔を逸らし、固く目をつぶるアレンに、リンクが呼びかける。
 「合格おめでとう。
 今日はなにが食べたいですか?」
 「・・・・・・・・・っ!!!!」
 涙目を開けたアレンに、リンクが微苦笑を浮かべた。
 「全く、いつもいけ図々しいかと思えば、意外なところで気弱ですね、君は」
 「・・・・・・ほんと?」
 「はい?」
 「ホントに合格・・・?」
 「嘘をついて、何か私の得になるのですか?」
 愛想のない言い様が、これほど嬉しかったことはない。
 「リンク――――――――!!!!」
 歓声をあげて抱きついた上に、数十種のメニューを並べ立てたアレンに、リンクはため息を漏らした。
 「常識的に考えて、そんなに作れるはずがないでしょう。
 少しは遠慮しなさい」
 「じゃあ、作れるのだけでいいよっ!」
 嬉しさのあまり、気前良く言うアレンの背中をリンクが軽く叩く。
 「わかりましたから、もう離れなさい」
 「はいっ!
 あ、ラビとリナリー先輩にも連絡しなきゃ!」
 「Jr.はボーナスがかかってましたから、喜ぶでしょうね」
 リンクが何気なく言った途端、部屋を出ようとしていたアレンの足が止まった。
 「?
 どうかしましたか?」
 訝しげに問うたリンクに、アレンは妙に神妙な顔で向き直る。
 「あのね・・・合格したら、君に言おうと思ってたんです」
 「聞きましょう」
 端然と頷いたリンクに、アレンも頷いた。
 「僕・・・クロノに入ったら、寮にでも移ろうと思ってるんです」
 「寮ですか・・・。
 それは、君がそう、強く望むためですか?
 監視も兼ねた私との共同生活が息苦しいですか?」
 重ねて問い返えされて、アレンは首を振る。
 「そうじゃありません・・・。
 リンクが、僕の監視もかねていることは知ってるし、それで出世しやすいとか、ボーナスもらってるのも知ってるけど・・・」
 目線で先を促すリンクに、アレンは頷いた。
 「リンクがいつも、どんなに忙しいか知ってるよ。
 いくら出世のためったって、あんなに忙しいリンクに僕の世話までさせちゃ、いつか倒れるよ・・・」
 気遣わしげなアレンの台詞に、リンクは口の端を曲げる。
 「そうまで言うからには、期待してもいいのでしょうね、ウォーカー?」
 「え?」
 意地の悪い笑みを浮かべた彼に、アレンが瞬いた。
 「余計な心配は無用です。
 私が君の世話をするのは、社長のご命令ですから」
 「で・・・でも・・・」
 リンクの笑みに戸惑いつつも、アレンが反駁しようとすると、彼は片手を上げてアレンの口を封じる。
 「むしろ、君がいなくなると特別手当が支給されなくなりますし、今まで払わずにすんだ家賃を納めなくてはならなくなります」
 「そう言う理由?!」
 「他に何か?」
 くすりと、リンクの口から珍しい笑みが漏れた。
 「それに、そこまで私の健康を気遣ってくれるからには、今まで任せきりだった家事を手伝う心積もりだと信じます」
 「えっ?!」
 目を丸くしたアレンに、リンクが笑みを深める。
 「まずは、入学までの休み中、徹底的に家事を仕込みますよ。
 そして少なくとも、自分の好きな料理くらいは自分で作れるようになりなさい。
 それ以後、家事は交代制にします。
 私も忙しい身ですから、君が受験から解放されて、家事を分担できることは歓迎すべきことです」
 一気に畳み掛けられて、アレンは口を開けたまま呆けた。
 「心より、おめでとうを言わせてもらいますよ、アレン・ウォーカー。
 これからもせいぜいがんばってください」
 正義のために、と、いけしゃあしゃあと言ったリンクに、アレンの目が吊りあがる。
 「大人って!!」
 「せいぜい吠えなさい」
 つんっと、そっぽを向いたリンクに、アレンは声が嗄れるほどに吠え立てたが敵わず、彼との同居は今後とも続くこととなった。


 「おめでとーさ、アレンーvv
 窓越しに合格を知らせるや、ラビは歓声を上げてアレンに抱きついた。 
 「よくやったさ、俺のボーナスvv
 「・・・っみんな、金の亡者だっ!」
 ぶぅ、と、頬を膨らませたアレンの頭をぐしゃぐしゃに撫でていたラビは、不思議そうに首を傾げる。
 「どしたん?
 合格、嬉しくないんさ?」
 「嬉しいですよっ!
 僕が怒ってるのはそっちじゃなくて・・・」
 ついさっきまでの、リンクとのやり取りを話すと、ラビは盛大に笑い出した。
 「そりゃあ、せっかくのチャンス、あいつが逃がすはずがないさね!」
 出世頭だもん、と、ラビが肩をすくめる。
 「でも良かったさ、お前が引っ越したら寂しーもんな♪」
 「・・・リンクも、そう言って引き止めてくれたらこんなにムカつきはしなかったんですけどね」
 乾いた声をあげるアレンに、またラビが笑った。
 「素直じゃないな、って思ってりゃいーんさ、そういうことは!
 あーでも、安心したさーv
 これで俺らも、心置きなく卒業できるさね」
 「ラビは・・・戦隊も卒業しちゃうの?」
 不安げに問うアレンに、ラビは大きな笑みを向ける。
 「うんにゃ?
 こんな割のいい『バイト』はないかんね。もちろん続けるさ♪」
 「そっか・・・」
 ほっとしたアレンの頭を、ラビがまた、くしゃくしゃと撫でた。
 「ユウちゃんがなんでか、卒業の危機だったらしいんけど、それも乗り越えたらしいしな♪
 今後ともよろしくさ、ホワイトv
 「うん・・・」
 嬉しげな笑みを浮かべ、頷いた時、アレンとラビの携帯が揃って鳴り出す。
 「じゃーんじゃーんじゃーんじゃーかじゃーんじゃーじゃじゃーん♪
 俺、本部からの連絡はダース・ベーダーのテーマにしてんけど、お前は『運命』なんさね」
 「葬送行進曲よりましでしょ?」
 同時に本部からのメールを見て、二人は窓から飛び出した。
 「窓から出るなと、何度言えばわかるのですかっ!!」
 階下から響くリンクの怒声に、気まずげに舌を出しながら、二人は道に降り立つ。
 「そんじゃっ!バイト代稼ぐか!」
 「齢15にして勤労学生ですよ、僕。
 高校生になったら、バイト代あげてくんないかなぁ・・・」
 「そりゃ、リンクと交渉しな」
 「難しそ・・・」
 眉根をひそめて呟いたアレンに、ラビが楽しげに笑った。
 行く先には戦場と・・・仲間達。
 既に戦端の開かれた場所へ、アレンは大剣を振るって飛び込んだ。


 ―――― 世界の平和を守るため、これからも戦え!僕らのエクソシスト!



Fin.

 










リクエストNO.28『エクソシスト戦隊クロノ・キョウダーン』でした!
あぁ、早く書かなきゃと思い続けてようやく書けたー!!(><。)
長らくお待たせして申し訳ありませんでした!
でも、丁度これを書いていた時、先生のお孫ちゃんが高校受験で(笑)
彼女のリアル体験を観察し、書いてました(笑)←大人って!
ちなみにこれは元ネタがありまして、『まるっとアレン君お誕生祭』と言う、とんでもない企画をした時に、『本編とは全く関係ないあらすじと次回予告』で書いていたものを文章化したものです。
文章化にあたり、各個人・団体の名称及びコードカラーを変えています。
うん、リナリーがレッドなんて、私も意外だった(笑)
ちなみに仮題は『BattleField』で、そのまま使おうと思ってたんですが、作中でリナリーが『戦隊はビビッドカラーが基本』なんて言ったもんですから、私の脳内を『VividCollars』が駆け巡り、これ以上ふさわしい題名なんてない気がしてきました(笑)
『戦いはこれからだ!』的終わり方で、『続きは?!』と思われたかもしれませんが、実はこれで完結というのが当初からの予定です。
リクがあれば続きを書きますけど ね(笑)
そして抹茶ミルクの効能は、テレビで見て試してみたんですけど、私これで(かどうかは確定しませんが)、難関の資格試験に受かりましたよ(笑)
夜型から朝型にリズムを変えると合格率が上がるというのは、なんかの本で読んだし、小テストを繰り返して、ケアレスミスを防ぐのは私オリジナルの方法ですが結構効きます。
ので、入試に限らず、受験生の方はお試しになってはどうかと思いますよ、ガンバレ!(^▽^)9












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