† 略奪された一人のヴァンパイア †






 はっきり言って、幸せいっぱいの、順風満帆人生ではなかった。
 どころか、知り合って間もない人間にすら、『アンラッキーボーイ』の称号を奉られるほど、不運街道を突き進んできたと言っても過言ではない。
 しかし、そんな中にも、確かにラッキーはあった。
 猛禽のように、目ざとく見つけた微かな光を、決して逃しはしない―――― そんな決意と共に、アレンは、彼に向き直った。


 「彼は、僕たちの仲間かもしれない・・・」
 吸血鬼の餌食になったと言われていた村人達は、実は、アクマだった・・・。
 発(あば)いた墓の前に立ち、アレンは、独白のように呟いた。
 「しかも、あの歯を見るに、お前と同じ寄生型だな」
 同じく、墓地に佇むラビが同意する。
 「・・・ラビ!あの人、なんとしてもゲットしましょう!!」
 ぎらりと、妖しく光る目に、気を呑まれたラビは、頬を引きつらせた。
 「アレン、なんだかえらく必死さ・・・?」
 訝しく眉をひそめると、アレンは両の拳を握る。
 「だって僕、初めてなんですよ!僕以外の、寄生型の人に会ったのって・・・!」
 「アレン・・・」
 希少なイノセンス適合者の中でも、寄生型の適合者は、更に少ない。
 アレンの苦労をなんとなく察していたラビは、その声音に、微かな憐憫を交えずにはいられなかった。
 「そっか・・・お前には、初めての『仲間』だもんなぁ」
 こだわるのも無理はない、と、頷いたラビに、アレンも、強く頷きを返す。
 「そうです。彼が黒の教団に入ってくれたら、コムイさんの手間も二倍・・・!」
 「へ?コムイ?」
 なんの話だ、と、訝しげに首を傾げたラビに、アレンは強く言い募った。
 「彼が来てくれたら、コムイさんの悪意も二分の一になるかもしれないじゃないですか!!」
 「・・・いい子だな、アレン・・・。
 二分の一は悪意を引き受けるんかい・・・・・・!」
 アレンの言葉に、思いっきり脱力してしまったラビは、その背後に突如現れた気配に気づけなかった。
 「ラビ!!」
 アレンが注意を喚起するも間に合わず、彼は問答無用で吹き飛ばされる。
 「ク・・・クロウリー・・・さん・・・・・・!」
 闇の中に立つ、禍々しい姿に、さすがのアレンも気を呑まれた。
 その隙を逃さず、襲い掛かってきた彼の攻撃を、辛うじてかわす。
 「ま・・・待ってください、クロウリーさん!!」
 身に迫る鋭い牙に、声が上擦った。
 「あ・・・あなたは・・・あなたは人殺しの吸血鬼じゃない!!
 あなたが襲っていたのは、みんなアクマ・・・!!」
 聞く耳を持たず、攻撃してくる相手に、しかし、アレンは必死に言い募る。
 「あなたの牙は、イノセンスなんでしょう?!だったら、あなたは僕と同じ、寄生型の適合者です!
 お願いです、僕たちの仲間になってください!!」
 「下らんことを・・・仲間が殺されて、怖気づいたか?」
 嘲弄の声に、しかし、アレンは首を振った。
 「ラビはあの程度じゃ死にませんよ!
 さっき、僕の渾身の突っ込みを受けたって死ななかったんですから!」
 「・・・さっき?」
 「ちょっと待て、アレン!!あの時、俺を殺そうとしてたんかい――――っ!?」
 呆気にとられた風のクロウリーの背後で、瓦礫を盛大に弾き飛ばしてラビが立ち上がった。
 「ほらね?」
 「ほらね、じゃねぇ!!
 てめぇ、やったらキツイ突っ込みだと思ったら、渾身だったんかよ!!」
 「自分が花に食われかけてるってのに、おねーちゃんに見蕩れているような人には、まだ優しいくらいでしょうが!!」
 いきなり始まってしまった少年達の大喧嘩に、クロウリーは口を挟むきっかけすら失って、呆然と状況を見守る。
 「誰のおかげで、あの食人花に喰われなかったと思ってるんですか?!
 暢気に寝こけてたのが、やっと起きたと思ったら・・・」
 「だって!あのねーちゃん、マジ俺のストライクゾーンだったんだもんよ!!」
 「あんなケバイおねーちゃんじゃなくても、もっと・・・」
 更に言い募ろうとするアレンに、ラビの顔色が変わった。
 「アレン!!」
 「え・・・?!」
 振り返る間もない。
 殺気に反応して避けたものの、クロウリーは、瞬く間にアレンの死角に回り込み、結んでいた髪を食いちぎる。
 「つっ・・・!!」
 紅い血に染まった髪が、パラパラと彼の肩を滑っていった。
 「・・・・・・!!」
 「誰がケバイおねーちゃんだ!エリアーデを侮辱するものは殺す・・・!」
 クロウリーの怒声を背に受けながらも、アレンは、呆然と黒衣の肩を滑る、自身の白い髪を見つめている。
 「聞いているのか?!」
 「髪が・・・・・・」
 ぽつりと、絶望に満ちた呟きに、反駁を待ち構えていたクロウリーは、眉をひそめた。
 「え?」
 髪?と、問い返す彼に勢いよく向き直り、アレンは、食いちぎられた白い髪を握り締めて怒鳴った。
 「僕の髪・・・!!
 白いけど、せめてサラサラヘアーを目指して、こまめに切り揃えて、ハーバ●エッセンスで快感シャンプー体験して、海草パックして、一所懸命に伸ばしていたのに!!」
 「アレン・・・お前、そんなんやってたんかよ・・・・・・」
 つい、馬鹿馬鹿しい、と呟いたラビは、このまま瓦礫の中で寝ちゃおうかな、と思うほどに脱力する。
 が、アレンは、『馬鹿馬鹿しくないです!!』と、悲鳴じみた声を上げて抗議した。
 「腰まで伸びたら、神田に嫌がらせができたのに!!」
 「そんな理由か!!」
 見事な呼吸で、クロウリーとラビが同時に突っ込む。
 そんな二人に、ひどく打ちひしがれた様子で両膝を付き、アレンはさめざめと涙した。
 「ひどい・・・・・・!」
 「・・・どっちがひどいかはひとまず置いておいて、吸血鬼!よくもアレンを泣かしたな!!」
 「えぇっ?!私であるか?!」
 馬鹿馬鹿しいって言ったのはお前である!!という抗議を無視して、ラビが言い募る。
 「なーかしたなーかした!先生に言いつけるー!!」
 「先生って誰であるか!!」
 「吸血鬼の馬鹿――――!!もうお前なんか、仲間じゃない――――!!!」
 「あぁ、そっちは本当に悪かったであるから、もう泣かないのである!!」
 若いエクソシスト達のペースにすっかり飲み込まれ、おろおろと右往左往するクロウリーに、ラビの目が光った。
 「隙ありゃ!!」
 「ぐはぁっ!?」
 アレンを泣き止ませようと、かがみこんだクロウリーの後頭部に、ラビの槌が炸裂する。
 「不意打ちとは卑怯である!!」
 あまりの痛みに、目から星を散らして倒れながら、それでもクロウリーは抗議の声を上げた。
 「相手の虚をつくのも戦法のうちさ♪」
 言いつつ、地に這うクロウリーに歩み寄ったラビは、にこりと笑う。
 「さぁ、クロちゃん?俺達の仲間になってくれ」
 「不意打ちするような奴の仲間になんか、誰がなるか――――!!」
 「いいじゃんかー。あのキレイなおねえちゃんと一緒に、黒の教団でハッピー生活しようぜぇ♪」
 「エッ・・・エリアーデとであるか?」
 途端、意志がぐらついた彼を、ラビは見逃さなかった。
 「そうそう、ロンドンはいいぜー。なんたって、世界一の都会だもん。お姉ちゃんもきっと喜ぶよー♪」
 「いや・・でも・・・しかしである・・・・・・」
 「それにさぁ、あんたの牙がイノセンスだとしても、あんなにアクマを食らった上に、俺の槌とかアレンの手とか、対アクマ武器をがっつり噛んじまっただろ?
 欠けてたりしたら大変さ♪」
 ラビの言葉に、涙に濡れたアレンの目も光る。
 「そうですよ!!寄生型は、メンテナンスが重要なんです!!
 虫歯になる前に、一度診てもらった方がいいですよ!!」
 「虫歯って・・・・・・」
 今度こそ本当に呆れ顔のクロウリーと違い、ラビは、アレンの目に灯る、暗い野望の光を見逃さなかった。
 アレンが、『いじめられっこ仲間大募集!むしろ急募!!』という、黒いオーラをまとっている様を・・・!
 「あぁ・・・目に浮かぶようさ・・・・・・!」
 教団の手術台に拘束され、横たわる吸血鬼。
 ライトに照らされ、無理矢理口をこじ開けられた彼が、歯医者スタイルのコムイの餌食となる様が・・・!
 「そんなに仲間が欲しいんかよ、アレン・・・!」
 「もちろんです!!特に、寄生タイプはレアらしいですから!!」
 初めて見つけた寄生仲間を逃してなるものか、と、アレンの目が口ほどにものを言う。
 「さぁ、クロウリーさん!
 僕たちと一緒に来てください!!あなたはもう、一人じゃない!!」
 100年後に、極東の国の青春ドラマで吐かれそうな台詞を先取りして、アレンが一歩、歩み寄った。
 が、その黒いオーラに気圧されたか、アレンが歩み寄るだけ、クロウリーは退いていく。
 「なぜ・・・?!」
 「なぜも何も・・・お前、非常に怖いである!!」
 「えぇっ?!こんなにも品のいい微笑みなのに!!」
 しかし、そう思っているのはアレンだけで、他二人の目には、邪悪なオーラをまとい、いかにも裏がありそうな笑みを浮かべる少年の姿が映るばかりだ。
 「お前、鏡を見るである、鏡を!!」
 「黒くて邪悪なオーラが出てるさ、アレン!ってか、ホントになんか出てるぅっ?!」
 ラビの悲鳴にクロウリーも唱和し、敵同士であったはずの二人が身を寄せ合う。
 アレンの、負傷し、固く閉ざされた左目がひらくや、暗い眼窩の奥から幽鬼のように現れたものに、クロウリーが絹を裂くような悲鳴を上げた。
 「ぎゃー!!骸骨が!!」
 「アレンの左目から骸骨ー!!!」
 あまりの恐怖に、ラビも身近なぬくもりを、と、クロウリーと固く抱き合う。
 そんな二人の姿に、アレンはふと、左目に手をやり、呟いた。
 「あ・・・人前で出てきちゃダメですよ、父さん」
 「鬼○郎であるか、お前は――――!!」
 「目玉の親父にしちゃデケぇだろ、ヲイッ!!」
 『ヲイ、キ○ロウ』
 「うぉっ?!ノリがいい?!」
 「その前に、あれがしゃべったことに驚くであるよ、馬鹿者っ!!」
 突っ込み役に回っても、相変わらずボケてしまうラビに、アレンに代わってクロウリーが突っ込む。
 「やだなぁ。アレンですよ、父さん。鬼○郎じゃないです」
 『タダイマ、アレン』
 「ホ・・・ホホホ・・・!ホラー漫才・・・・・・!!」
 「わっ・・・笑っている場合ではないであるっ!!」
 「これが笑ってるように聞こえるんかい、馬鹿吸血鬼――――!!」
 「大丈夫ですよ。噛み付いたりしませんから。ほら、怖くない」
 「怖いわ――――!!!」
 にこやかに歩み寄るアレンから、絶叫しつつ、音速の勢いで二人は後退する。
 が、
 「全く、この程度で怖がるなんて、二人とも弱虫さんですねぇ」
 アレンは笑いながら、さくさくと軽快に歩を運んで、二人を追い詰めて行った。
 「お前、鏡の前でそれを言えるであるか?!心から言えるであるか?!」
 自身の城の城壁にまで追い詰められたクロウリーが、背後の固い感触にいらだちながらも言い募る。
 と、ラビも、激しく頷いた。
 「アレンだって、さっきまではクロちゃんにめっちゃびびってたクセに!!」
 「だって、これは僕の一部ですから。ねぇ?お手」
 「手ガナイカラ、オ手ハデキナイ」
 「あ、そっかぁ。さすが父さん」
 「さらっとホラー漫才続けるなぁァァっ!!!」
 絶叫するラビに、むぅ、と、アレンが頬を膨らませた。
 「さっきから、ホラーホラーって、失礼ですねぇ。頭蓋骨なんて、誰だって持ってるものでしょ?」
 「持ってはいても、そうやって出てくる奴は皆無である!!」
 「あ、傷つくなぁ、そんな言い方。そんなこと言うと、クロウリーさんのことも、吸血鬼って呼び続けちゃいますよ?」
 そうは言いつつも、さすがにやりすぎを感じたのか、アレンはそっと、骸骨へと手を伸ばした。
 「ごめんなさい、マナ。二人とも怖がってるから、僕の中に戻って・・・」
 言うや、骸骨は、無言でアレンの輪郭と重なり、彼の中へと沈んだ。
 「これでいいですか?」
 にっこりと見遣った先では、しかし、未だにクロウリーとラビが親密に抱き合ったまま、蒼ざめた顔を向けている。
 「何・・・?」
 「アレン、お前、左目が・・・・・・」
 ラビの言葉に、アレンはそっと、左目に手をやった。
 ロードによって潰されたそれは今や再生し、どころか、以前よりも深く、闇を見渡せるようになっていた。
 「マナ・・・」
 黙祷のようにしばし瞑目した目が、再び開いた瞬間、夜闇が、ラビ達にもわかるほど濃くなった。
 「闇が、戻ってきました・・・・・・」
 「いや!戻ったもなにもお前、既に十分黒いっ!!」
 声を合わせて絶叫する二人に、アレンが笑みを深める。
 「クロウリーさん・・・あなたをゲットするためなら、僕は鬼にも悪魔にも!
 さぁ!あのお姉さんを殺されたくなかったら、僕といっしょに来て下さい!」
 「なにぃっ!?そこまでやるか、小童!!」
 「やります・・・!仲間のためですから!」
 激しく使用方法を間違った言葉を、本気で吐くアレンに、クロウリーが蒼ざめる。
 「そんな・・・エリアーデ!!」
 「クロちゃん、今のアレンには、なに言ったって無駄さ!
 あいつ、寄生型仲間をゲットすることしか考えてねぇ!!
 ねーちゃんを殺されたくなかったら、おとなしくアレンの言うことを聞いた方がいいぜ!?」
 「そんなむちゃくちゃな勧誘があるか!!このクロウリー男爵、脅迫に屈しはしない!!」
 ラビの言葉に、誇り高く反駁した彼だったが、
 「じゃあ、邪魔者を消してきまーす♪」
 くるりと踵を返したアレンの背に、絶叫して追いすがる。
 「ふふ・・・。
 僕のお願い、聞いてくれるんですね?」
 邪悪な笑みと共に吐かれた言葉に、クロウリーは最早、頷くしかなかった・・・。


 旅の準備が済むまで、城の外で待っているように、と言われた二人は、おとなしくクロウリー城の城門の外で彼を待っていた。
 「・・・ちょっと・・・強引だったかなぁ」
 屠殺場に引かれて行く家畜のように、打ちひしがれたクロウリーの様子を思い出しながら、アレンが呟くと、ラビが乾いた笑声を上げる。
 「・・・今更、悪い事した、って顔すんなよ・・・。
 お前のやり方はまるで、妻を殺すと脅して夫を略奪した、怖い愛人みたいだったさ・・・」
 「・・・慰める気がないんだったら、黙っててくれた方が親切ですよ、ラビ」
 「慰めてません」
 にっこりと笑うアレンに、ラビはすかさず否定の言葉を述べた。
 「とにかく、駅に戻ったらコムイに連絡して・・・・・・」
 言いかけたラビの言葉を遮るように、彼らの背後で、凄まじい爆発が起こる。
 「ク・・・クロちゃん!
 まさか、焼身自殺か?!」
 瞠目して、闇を裂く火柱を見つめていたラビの目が、炎の中から、慌てて走り出てきたクロウリーの姿を捉え、安堵と共に和んだ。
 「・・・っびっくりしたさ、クロちゃん!無事でよかった・・・!」
 「わ・・・わわ・・・私も、何がなんだか・・・!!」
 かなり動転した様子で、炎上する城を振り返るクロウリーの背後に、アレンはひっそりと立った。
 「本当に・・・何に引火したんでしょうねぇ・・・・・・」
 「!?」
 炎に映えた、アレンの笑みに、ラビの背筋が凍る。
 「でも、これで心残りはないでしょう?」
 炎を背景に浮かび上がったアレンの姿に、しばしらく二人は、微動だにできなかった。


 ―――― この直後、コムイに報告の電話を入れたラビが、二度とアレンとパートナーを組まなくて済むよう、懇願したことは、いうまでもない。





Fin.

 










質問『エリアーデはどうしたんですか?』
答え『・・・・・・聞こえない質問には答えようがありません』
(とんでもねェ逃げ方だな、をい;)

書いている間は、アレン君の黒っぽさをなんとか救済しようと思っていたのに、ラストまで完璧な堕天使でしたよ、コンチクショウ・・・!
カムバック!私の白い天使!!(><。)
題名は、『略奪された7人の花嫁』のもじりで。
・・・観た事はないんですけどね。コメディ・ミュージカルだそうな。












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