† Brilliant Years †
―――― 宗教団体にも様々ある。 異教ではもちろん、同じカトリックの流れを汲むものでも、長い歴史の中で様々に分派し、更には同じ一派の中でも役割によって性質が変わる―――― 学究を主目的とする教団もあれば、戦闘に特化した教団があるように。 その中でも『黒の教団』は、特殊な戦闘に従事する者達の集まりだった。 戦闘員はもとより、非戦闘員でさえ血の気の多い者が多い・・・と言うより、少々気が強い者でなければ、ここではやっていけない。 ために、長年この教団で過ごしてきたリーバーも、あくの強い人間には慣れていたはずだった。 ・・・・・・が。 「いい加減にしろこのクソガキ!!!!」 突然の絶叫とげんこつの音に、室内の科学者達がビクッと飛びあがった。 「昼間っから堂々セクハラしてんじゃねぇ!!!!」 「ぴえええええええええええええええええ!!!!」 部屋中に響き渡る怒号と泣き声。 一瞬にして騒然となった部屋の中心で、仁王立ちする上司を部下達が恐々と見つめた。 と、 「エミリア!!」 大声で呼ばれて、先日入団したばかりの専属家庭教師が駆けつける。 「このガキ縛りつけてろ!」 「はい!」 リーバーに負けず劣らぬ恐ろしげな形相で、エミリアは泣き喚く子供をつまみあげた。 「ティモシー!! 勉強サボってどこ行ったのかと思ったら、アンタまたミランダにセクハラしたの?!」 「まだおっぱいにはさわってねぇよ!! その前にこの凶暴なのにはたき落とされたんだ!!」 「当ったり前だテメェ!! 人のもんに勝手にさわんな!!」 堂々所有物発言されたミランダが、真っ赤な顔をリーバーの背にうずめる。 すると細い身体は大きな背に簡単に隠れてしまい、ティモシーはエミリアに吊るされたまま、不満の声をあげた。 「なんだよ!ちょっとくらい、いいじゃんか! リナリー姉ちゃんと違って、ミランダ姉ちゃんは本物の巨乳だろ! 俺にはわかる!! だから触らせっ・・・!!」 その瞬間、一陣の風が吹き抜け、エミリアの手中からティモシーが消える。 「あっ・・・あら?!どこに・・・」 きょろきょろと辺りを見回したエミリアは、ややして部屋の片隅で胸倉を掴まれ、壁に押し付けられたティモシーを見つけた。 「リッ・・・リナリー!待って待って!!」 暗い顔をしたリナリーに首を締め上げられ、既に泡を吹いているティモシーに、エミリアが慌てて駆け寄る。 が、リナリーは彼女の声も聞こえない様子で、地獄から沸いてきたような暗い声をティモシーに吐きかけていた。 「リナ・・・!」 「・・・誰が偽物ですって人の苦労も知らないで好き勝手言ってくれるじゃないバレなきゃ本物なのよ命が惜しけりゃ余計なこと言わないでくれる・・・?」 「リナリ・・・死ぬから!! それ以上やるとこの子死んじゃうから!!」 必死に言いながら、エミリアがぱたぱたとリナリーの腕を叩くが、その力が緩む気配はない。 「オンナノコの怖さを思い知らせてあげるよ・・・」 「ぶぎゅ・・・」 今にも喉を潰そうとした時、 「待て。 私の弟子を殺すことは許さん」 クラウドに腕を掴まれ、無理矢理引き剥がされた。 「元帥!でも・・・」 「黙れ。 おい、ティモシー。起きろ」 不満げなリナリーにピシリと言うと、クラウドは容赦なくティモシーの頬を打つ。 「いってぇぇぇぇっ!! なにすんだ巨乳師匠!揉んでや・・・ぷぎぃっ!!」 伸ばした手が届く寸前、床に叩きつけられ、踏み潰されたティモシーが悲痛な鳴き声をあげた。 「・・・お前には徹底的な教育的指導が必要だな」 暗い声音と共に、ピンヒールの踵でギリギリと踏みしめられ、まだ幼い骨が今にも折れそうに軋みをあげる。 「ししょ・・・!放し・・・!!」 エミリアがハラハラと見つめる中、クラウドが艶やかな唇に愉しげな笑みを浮かべた。 「その前に、言うことがあるだろう?」 「言う・・・ことっ・・・?!」 「謝れ」 徐々に体重をかけつつ言ったクラウドに、しかし、幼いながらも気骨のある少年は首を振る。 「俺っ・・・なんも悪いことっ・・・げぅっ!!」 微妙にずらしたクラウドの踵が、ティモシーのみぞおちを抉った。 「あぁ、痛かったか? 可哀想になぁ・・・」 白々しく言いながら、踵をあげてやったクラウドを、ほんの少し呼吸が楽になったティモシーが睨みつける。 「このドS師匠!! 強いアクマに取り憑いて、絶対おっぱい揉んでやる!!」 甲高い声で宣言した瞬間、クラウドが凄絶なまでに美しい笑みを浮かべた。 「ひっ・・・!」 その意味を知るリナリーが、すくみあがって歩を引く。 「ど・・・どうしたの?!」 意味はわからなくても、女の勘で非常事態を察したエミリアが声を引き攣らせた。 「げ・・・逆鱗に・・・・・・!」 「逆鱗っ?!」 怯え、震えて膝を崩したリナリーの上に屈みこみ、エミリアはクラウドを見あげる。 その目の前で、 「ぎゃうっ!!」 と、ティモシーが悲鳴と共に血反吐を吐いた。 「ふふ・・・じゃじゃ馬は大好きだ。躾のし甲斐があるからな」 嬉しげな・・・心の底から嬉しげな声に、エミリアの背が凍る。 「さぁティモシー? 次はどの骨を折ってほしい?」 血反吐を吐いても意識はあるのか、ヒールで肋骨をなぞられたティモシーが、裏返った亀のように手足をばたつかせた。 「大丈夫。 肋骨は上手に折れば、すぐ治るんだ。 私の得意技だよ」 ぐっ、と、クラウドの踵に力がこもる。 「元帥!!お願いです、もうやめ・・・!!」 驚いて止めに入るエミリアを押しのけ、クラウドは目にかかる金髪を白い指でかきあげた。 「ど・れ・に・し・よ・う・か・・・な?」 「ごめんなさいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」 肋骨をなぞるヒールが止まった瞬間、ティモシーが泣き声をあげる。 「ゴヴェンダザィィイ!!もうじまぜんんんんんんん!!!!」 「お黙り。 そんなに簡単に詫びるのなら、最初から抵抗などするな」 ぐぐっと、徐々に力が増して行く足を、ティモシーの小さな手が掴んだ。 「ごめんなさい師匠!!お師匠ざば――――!!!!」 「本当に反省しているか?」 「反省じでばずっ!!じでばずがだ――――!!!!」 涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにした弟子を、クラウドは愉しげに見下ろす。 「もう二度としないか?」 「じばぜんっ!!」 踏みつけられたままの不自由な身体で必死に頷くと、クラウドはいかにも残念そうに肩をすくめた。 「そうか、つまらんな・・・。 またやる度に、お前をこうして踏みつけて、泣かせることが出来るのに」 「ひゅっ・・・!!」 恐怖のあまり泣き声も止まり、凍りついたティモシーの肋骨を、クラウドのヒールがなぞる。 「ついでだ、もう一本折っておくか?」 「ぷひっ・・・」 くるん、と、白目を剥いて動かなくなったティモシーから、クラウドはようやく足をどけた。 「ティッ・・・ティモシー!!!!」 悲鳴をあげて駆け寄ったエミリアを、しかし、クラウドは押しのけて、気絶したティモシーを抱える。 「ふふ・・・ こんなに躾のし甲斐があるのは、ユウ以来だな」 ティモシーを抱えたまま手近の椅子に腰をおろし、ぐしゃぐしゃになった顔を拭いてやった。 「あぁ、こんなに泣いてしまって可愛いこと。 ユウは全く泣かなかったからなぁ・・・」 クスクスと愉しげに笑うクラウドを、エミリアがきっと睨みつける。 「いくらお師匠様だからって、この仕打ちはないでしょう?! 子供の骨を折るなんて!!」 「折ってないぞ、まだ」 にこりと笑い、クラウドはティモシーの上着をめくった。 「ほら、踏んだ痣はできてしまったが、折れてはいないだろう?」 言われて注意深く肋骨に触れたエミリアは、はっと顔をあげる。 「肋骨骨折は、触ったってわかんないでしょう?!」 「なんだ、知っていたのか」 素人なら騙せると思ったのに、と、いけしゃあしゃあと言ってのけたクラウドを、エミリアがまた睨みつけた。 「そう睨むな。 折っていないのは本当だから。 いくら私でも、そのくらいの手加減はする。 そうだろう、リナリー?」 クラウドに笑みを向けられ、真っ青になって状況を見つめていたリナリーが、コクコクと頷いた。 「・・・信じられないんですけど」 「だったら信じなくていい。 いずれわかることだ」 あっさりと言って、クラウドは目を剥いたままのティモシーを抱え直し、立ち上がる。 「・・・っ元帥!どこに・・・!」 「訓練の時間だ。 ティモシーを心身ともに鍛え直してやる。 お前はリナリーとお茶でもしてるんだな」 淡々と言って、部屋を出て行くクラウドの背を、エミリアが悔しげに見送った。 「・・・っねぇ、リナリー! クラウド元帥って、ちょっと厳しすぎやしない?! 本当にサドなんじゃないの?!」 クラウドへの苛立ちをぶつけるように問えば、未だ青味の抜けない顔で、リナリーはこくりと頷く。 「クラウド元帥は・・・本物の猛獣使いだよ・・・!」 「そう言うこと聞いてんじゃないの! ティモシーがまだ子供だから、室長は女性の元帥をつけてくれたのかもしれないけど、これなら他の元帥の方が良かったんじゃない?!」 と、リナリーは眉根を寄せ、首を傾げた。 「他の・・・・・・」 「そうよ。いるでしょ?」 畳み掛けると、リナリーは曖昧に頷く。 「いることはいる・・・ケド・・・・・・」 「なによ?」 はっきりしないリナリーに、エミリアが苛立った目を向けた。 「他の元帥もなんか問題ありなの?!」 「問題ありって言うか・・・存在自体が既に問題なクロス元帥は、女の人にはものすごく優しいんだけど、生物学上の『オス』全般に対して残酷だし・・・・・・」 「・・・それ、ただの女好きなんじゃないの?」 「・・・・・・否定しない」 ふぅ、と吐息し、リナリーはあらぬ方を見遣る。 「ソカロ元帥は、クロス元帥みたいにねちねちいじめたりはないんだけど、明らかに凶暴だから、子供の教育には向いてないし・・・・・・」 「そんなの見りゃわかるわよ。 もう一人いたでしょ、暢気そうで穏やかそうな人が!」 同じフランス人の!と主張するエミリアに、リナリーが頷いた。 「ティエドール元帥は・・・そうだね、ティモシーを引き取りたがってたし、マリや神田、チャオジーもいるから、他の元帥よりはよかったかもしれないけど・・・・・・」 「そうよ! 今からでも遅くないわ! あんたから兄さんに頼んで、師匠を変えてあげてよ!」 腰に手を当て、詰め寄るが、リナリーは遠慮がちながらも首を振る。 「なんで!」 「だって・・・」 と、リナリーは困惑げな上目遣いでエミリアを見あげた。 「そんなことしたらきっと、セクハラ被害が広がるよ? ティエドール元帥は基本的に放任主義だから、ティモシーのセクハラを止めやしないだろうって、兄さんが断固反対したんだもん」 「そ・・・そうね。 セクハラが原因で、ティモシーが教団にいられなくなったら困るわね」 そしたら孤児院への援助も止まる、と、いきなり利欲的なことを言い出したエミリアに、リナリーががっくりと肩を落とす。 「なによ。 あたしたち、出稼ぎに来てんだから当然でしょ!」 「・・・・・・・・・そうだね」 ティモシーが最初の交渉で大金をもぎ取ったことを思い出し、リナリーは深々と吐息した。 「そう言うわけだから元帥の交代は諦めて・・・」 「だったら、あたしが教育すればいいんじゃん!」 リナリーの言葉を遮り、エミリアが固めたこぶしを振り上げる。 「あたしとあんたであの子教育しよっ! セクハラはそっちで矯正して、戦い方はあのフランス人元帥に教わればいいじゃない! ね!そうしよう!」 積極的な誘いを、しかし、リナリーは困り顔で断った。 「なんで!」 「だって・・・私、本部にはいない事が多いもん・・・」 エクソシストとして、世界中を飛び回ることが仕事の彼女には無理がある。 そう言うと、エミリアは意外なほどあっさりと納得した。 「わかった。 それなら仕方ないわよね。 じゃああたし、あの班長と組むわ!」 「班長って、リーバー班長?」 きょとん、と、目を丸くするリナリーに、エミリアは自信ありげに頷く。 「さっき彼、ティモシーにミランダを触られそうになって激怒してたじゃない。 そこンとこうまく交渉すれば、協力してくれると思うんだ♪」 「でも・・・班長はクラウド元帥にティモシーを預けること、賛成してるよ? クラウド元帥は教団でも一番のサド・・・あ、ううん! 猛獣使いだから、小さい動物の扱いには慣れてるって!」 「・・・やっぱり、任せらんない」 うっかり口を滑らせたリナリーを、エミリアが不信感に満ちた目で睨んだ。 「ティモシーの師匠、変更の要請をするわ!」 そのために、と、エミリアが目を光らせる。 「まずはリーバー班長を説得する!」 強い意志と共にこぶしを握ったエミリアを、リナリーは不安げに見つめた。 ・・・その直後、リーバーはエミリアに呼ばれて振り返った。 「なんだ?」 「ティモシーの師匠を、ティエドール元帥に変えていただきたいんです!」 きっぱりと言った彼女に、リーバーは軽く肩をすくめる。 「俺に言われたって困る。決定したのは室長だ」 「でも班長も賛成したのは、放任主義の師匠の下じゃ、ティモシーのセクハラが直んないって思ったからでしょ?! そりゃ、ミランダの側にあんな子がいたら、さぞかし心配でしょうね、班長!」 「私っ?!」 いきなり水を向けられ、驚いたミランダをちらりと見遣ったリーバーが、ややムッとして眉根をひそめた。 「・・・どういう意味だ?」 「さっきの反応を見るに、班長はまだ触ったことないんでしょ、ミランダの巨乳!」 びしぃっと指差されたリーバーは慌てふためき、ミランダはあまりのことに声を失う。 「わっ・・・若い娘がきょっ・・・きょっ・・・きょっ・・・・・・にゅうとか言うな!!!!」 真っ赤になったリーバーが、絞め殺される鶏のような声で言えば、エミリアはふん、と鼻を鳴らしてミランダを眺めた。 「少なくとも、貧乳じゃないわ」 ちらりと肩越しに見られたリナリーが、盛大に頬を膨らませる。 「心配だよね、こんな彼女がいたんじゃ! だから私が協力します! 一緒にあのガキ矯正しましょう!」 「・・・は?なんで俺が」 こぶしを握って気合を入れるエミリアから、リーバーが思わず歩を引いた。 と、 「じゃあ、ティモシーより先に触っとく?ミランダの巨乳」 平然と言って、素早くミランダの背後に回りこんだエミリアが、彼女を羽交い絞めにする。 「なんでそうなるッ!!!!」 呆然とするミランダを前に、真っ赤になったリーバーが怒鳴ると、エミリアは昂然と眉を吊り上げた。 「やられる前にやんなきゃ!」 「お前は自分がナニ言ってんのかわかってんのかっ!!」 恥ずかしさのあまり口も利けないミランダの代わりに言えば、エミリアはあっさりと頷く。 「わかってるわよ。先手必勝ってコトでしょ? ホラホラ、我慢は身体によくないんだから、触りなさいよ。 ミランダの、すっごいわよ?」 ミランダを羽交い絞めにしたまま、じりじりと寄って来るエミリアからじりじりと逃げるリーバーを、皆が呼吸すら止めて見守った。 「ホラホラ、遠慮しないでさー 「っ来るなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 迫り来るエミリアにリーバーが絶叫した瞬間、 「・・・なにやってんだ、お前ら」 心底呆れ返った声がエミリアの暴挙を止め、リーバーの窮地を救う。 「ア・・・アラ、神田 照れ笑いしたエミリアが、羽交い絞めにしていたミランダを慌てて放した。 途端、ミランダは空気の抜けた風船のように長い吐息を漏らしながらへたり込む。 「おい、大丈夫か?」 なぜか近づこうともしないリーバーの代わりに歩み寄った神田が、ミランダの腕を掴んで立たせた。 「・・・・・・・・・・・・ありがとう」 吐息と共に魂まで抜けたのかと思うほど、虚ろな声で言うミランダを訝しく思いながらも手近の椅子に座らせ、神田はリーバーへと向き直る。 「リーバー、報告書・・・リナリー!! てめぇ、どこに行ったかと思えばこんなとこで油売ってたのかよ! 報告書はどうした!」 「ぅえっ?!あ・・・まだ・・・・・・!」 ビクッと飛び上がり、エミリアの陰に隠れたリナリーを、神田は厳しく睨みつけた。 「ほかの事にかまけてねぇで、自分の仕事しろ!」 「・・・わかったよ、お局様」 唇を尖らせ、不満げに言ったリナリーに、神田は一足に歩み寄る。 「誰が局だてめェ、やんのか?!」 「ごめんっ・・・ごめんなさい・・・!」 恐ろしい形相で襟首を掴まれたリナリーが、じたじたともがいた。 「すぐやれよ?!」 「やりますっ!!」 ようやく解放されて、リナリーがエミリアに泣きつく。 「姉様がいぢめるよー!」 「えっ?!姉さんなのっ?!姉さんだったのっ?!」 悲鳴じみた声をあげて、二人を見比べるエミリアに、神田が舌打ちした。 「んなわけねぇだろっ!」 「よかった! 美形男子見っけて追いかけてきたのに、女の子だったらショックだもん〜!」 思わずほっと吐息を漏らすと、リナリーが驚いて顔をあげる。 「え?そうだったの?ティモシーは?」 「あぁ、もちろんあの子のことが一番の理由なんだけど、決断の一因はイケメンだったわね 「そ・・・そうだったんだ・・・!」 目を丸くしたリナリーに、エミリアはにっこりと笑った。 「パパにはナイショよ? さもないと、神田に真空飛び膝蹴り食らわせようとして、返り討ちにあうわ 「そ・・・そうだね・・・」 リナリーが複雑な表情で声を詰まらせる様に、エミリアは小首を傾げる。 「なぁに?お兄ちゃん取られるの、イヤ?」 そんな顔してる、と笑えば、リナリーは更に困惑げな表情を浮かべた。 「それ以前に・・・この神田に好意を持ってくれる人がいたなんてびっくりした・・・・・・」 絶世の美貌だけでなく、空前絶後の傍若無人を併せ持つ彼を恋愛対象と見てくれる人間が、この世にいるとは思わなかった、と、リナリーは神田を前に、甚だ失礼な感想を漏らす。 が、エミリアはあっけらかんと笑って手を振った。 「なんだー! お兄ちゃん独り占めにしたいリナリーが怒ったのかと思った!」 途端、リナリーが気まずげに目を泳がせ、エミリアはクスクスと笑声をあげる。 「それもあるみたいね 「う・・・あ・・・その・・・・・・!」 「ふふ あたし、俺様は嫌いじゃないわ それになりより、キレイな人大好き きゃ が、ややして、 「・・・そうか、お前もあの親父と同じ人種だったな」 と、唐突に納得する。 「モデルにゃなんねぇぞ」 手を振り解き、踵を返した神田をエミリアが追いかけた。 「モデルなんかにしないわよ。そのままでキレイなものを見てたいだけ 「じゃあ鏡でも見てりゃいいだろ」 追い縋るエミリアに肩越し、あっさりと発した言葉が世界の時を止める。 呼吸すら止めて見つめる団員達の中、神田だけが足早に部屋を出て行った。 ・・・その後かなりの時を置いて、 「・・・ミランダ、イノセンス使った?」 ようやく息を吹き返したリナリーの問いに、ミランダは命を得たばかりの人形のような動きで、ぎこちなく首を振る。 「び・・・びっくりした・・・! なにあの人、誉め言葉とか言うんだ・・・!」 同じく息を吹き返したエミリアが、紅潮した頬を両手で挟んだ。 「いや・・・違うな。 あいつは誉め言葉とか言う奴じゃないから・・・・・・」 眼窩から零れ落ちんばかりに目を見開いていたリーバーが、しきりに瞬きながら言うと、椅子に座ったまま腰をぬかしていたミランダが、がくがくと頷く。 「率直な感想だと・・・思います・・・・・・」 その言葉に、エミリアがまた人形と化した。 科学班を出た足で修練場に赴いた神田は、中にクラウドの姿を見た途端、踵を返した。 「つれないことするなよ」 一瞬で首に巻きついた鞭に引き寄せられ、彼女の笑顔を間近にした神田は、憮然とクラウドを睨む。 「放してください」 「訓練に来たのだろう? 弟子の相手をしてやってくれ」 また妙なことを言い出すのかと警戒していた神田は、意外なほどまともな要請に目を見開いた。 「どうした?」 「いや・・・少し驚いただけです」 少し、と言いつつ、一瞬自失するほど驚いた神田は、首に巻きついた鞭を取り去る。 「相手は・・・」 「これだ」 と、クラウドは足元に転がった小動物を爪先でつついた。 ピクリともせず床に這ったそれを見下ろし、神田が首を傾げる。 「・・・・・・新種のサルですか?」 「誰がサルだこの美形――――っ!!!!」 がばぁっと起き上がり、飛び掛ってきたそれを神田は反射的に蹴飛ばした。 「美形で悪ィか」 「悪くないとも まるで我がことのように喜び、拍手するクラウドを、床に這ったティモシーが恨みがましい目で睨む。 「なんだよ師匠! 俺よりそっちの美形の方がいいのか?!」 「もちろん。女はみんな美形好きだ」 あっさりと断言したクラウドの傍らで、神田が呆れたように吐息した。 「みたいだな。 さっきもエミリアに絡まれたぜ」 何気ない一言に、ティモシーがまた飛び掛ってくる。 「エミリアになにしたんだコノヤロ――――!!!!」 必殺のキックは、しかしあっさりとよけられ、ティモシーは受身を取り損ねて自沈した。 「言ったろ。俺じゃねぇ、あいつが絡んできたんだ」 傲岸不遜に言ってのけた神田を、ティモシーが涙目で睨みつける。 「エミリアは渡さないんだからな!!」 「い・・・」 いらねぇよ、と言いかけた口は、クラウドに塞がれた。 「ティモシー、男なら口ではなく、実力で勝負しろ。 エミリアを神田に渡したくなければ、こいつより強くなれ!」 「おう!!」 また立ち上がり、飛び掛ってきたティモシーの顔前に、神田が足を突き出す。 自らぶつけ、沈んだ子供を冷たく見下ろし、神田はクラウドを見遣った。 「なんのつもりですか」 「目的があった方が、成長も早いかと思ってな」 愉しげに言ったクラウドの手を振り解き、神田は床に這うティモシーを踏みつける。 「起きろ。 そんなことじゃ、俺には勝てねぇぜ?」 邪悪な笑みを浮かべた神田にギリギリと踏みつけられ、ティモシーが苦しげな呻き声をあげた。 「ぢっ・・・ぐしょっ・・・まげる・・・がぁぁぁっ!!」 子供ながらも懸命に力を振り絞り、ティモシーは神田の足下から逃れようとする。 その気骨に神田はわずか感心し、その根性に免じて・・・一息に踏み潰した。 「あ」 血反吐を吐いて動かなくなった弟子を見下ろしたクラウドは、なぜか感心した風に神田を見遣る。 「感動的なまでに容赦がないな」 「加減してたら訓練になんねぇだろ」 つんっとそっぽを向いた神田に笑って頷き、クラウドは完全に白目を剥いた弟子を抱き上げた。 ―――― マスター・・・マスター・・・。 闇の中で呼ばれ、ティモシーは目を開けた。 ―――― 大丈夫か?随分やられてもうたなぁ。 どこか面白がっているような声音に、ティモシーはムッと眉根を寄せる。 「ここ、どこ?」 ―――― マスターの部屋やで。病棟で治療してもろた後、おっしょさんが連れて来やはったわ。 明かりの消えた部屋で、自分の耳にだけ聞こえるツキカミの声を聞き、ティモシーはベッドにこぶしを叩きつけた。 「ちくしょ・・・! あのやろー!思いっきり踏みやがったっ!!」 ―――― そうがっかりしぃなや。マスターの本領は、アクマに憑依することやんかぁ。格闘技ではまだ、あんちゃんらぁに勝てんでも無理ないわ。 慰める声と共に、そっと頭を撫でられる気配がして、ティモシーは半身を起こす。 「っけどあのヤロ、エミリアに・・・!」 ―――― 姐さんは美形好きやもんなぁ くすくすと笑う声に、ティモシーはますます眉根をきつく寄せ、ツキカミを睨んだ。 ―――― あぁ怖や怖や。男の嫉妬は醜いで、マスター? 「うるさいっ!!」 ごんっと、額の珠を叩いてやると、自分にまで激痛が走る。 ―――― ちょっ・・・イケズせんといてやっ!割れたらどないすん?!マスターもただでは済まんのえ?! 「そ・・・そゆコトは先に言えよ・・・・・・!」 頭を抱えて呻いたティモシーは、ややして涙目をあげた。 「・・・おい、ツキカミ」 ―――― ダメや。 「まだなんも言ってないじゃん!」 ―――― 言わんかてわかるわ!同じ脳みそ使とんのやで?! 「・・・ちっ。 だったら協力しろよ」 忌々しげなティモシーに、ツキカミはおどけた仕草で首を振る。 ―――― ホンマやめとき。後で痛い目見るんはマスターや。 「絶対!うまく行くって!」 ―――― でもなぁ・・・。 乗り気しない様子の彼に鼻を鳴らし、ティモシーはベッドを降りた。 「俺知ってんだ! 神田にだって、勝てない奴が何人もいるってコト!!」 鼻息も荒くこぶしを振り上げたティモシーを、ツキカミが不安げに見守る。 「まずはあいつを倒して・・・世界の巨乳は俺のもんだ!!」 ―――― 志、低っ!!!! 崇高な使命とは程遠いティモシーの野望に呆れ果てながらも、ツキカミは駆け出した彼の後に従った。 「ミランダ姉ちゃーん 「ひっ・・・また!!」 科学班でファイル整理の手伝いをしていたミランダに、ティモシーが歓声をあげて飛び掛かった。 「おっっっ・・・ばいんだっ!!」 ミランダに辿り着く直前、書類の詰まったバインダーで叩き落されたティモシーが床に這う。 「また来やがったか、このクソガキ!!」 ミランダを背に庇い、仁王立ちになったリーバーを、ティモシーが憎々しげに見あげた。 「いてーだろ!なにすんだ、凶暴班長!!」 「宗教団体で堂々セクハラこいてんじゃねぇよエロガキ!!!!」 抗議の何倍もの大音声で怒鳴られ、鼓膜が裂けそうになる。 「てめっ!! 班長の分際でエクソシスト様になんて口利きやがるっ!」 耳を塞ぎつつも反駁したティモシーは、リーバーの長い脚で無残に踏みつけられた。 「エクソシストだろうが神の使徒だろうが、クソ生意気なガキを躾けるためなら踏みつけていいってのが、ここのルールだ!」 「そっ・・・んなことっ・・・誰がっ・・・決めたんだよっ・・・!!」 「俺」 冷酷な声が宣言する。 「俺様か――――!!!!」 「てめぇの仕事をしねぇ奴を制裁する、俺の決めたルールだ!文句あるか!!」 腹を踏みつけられたまま、じたじたと暴れるティモシーを、リーバーが更に踏みつけた。 「ぅごおおおおおおおおおおお!! 出るっ!! 内臓出るうううううううううう!!」 今にも死にそうな叫びをあげるティモシーを、リーバーが冷淡に見下ろす。 「消化器系の仕組から言って、内臓を吐くことはないから安心しろ」 「安心できるかあああああああああああああ!!!!」 苦しげに叫んだティモシーが、小さな手でリーバーの足にしがみついた。 途端、くるん、と白目を剥いたティモシーが、ことん、と頭を落として伸びる。 「あーぁ・・・班長怒らせるから・・・」 「でもこれで、婦長と料理長と班長に逆らっちゃダメ、ってのがわかったろ」 「少しはイイ子になればいいけどな!」 笑いながら、わらわらと寄って来た部下達の中で一人、リーバーが踵を返した。 「ミランダ・・・」 「はい?」 気遣わしげにティモシーを見つめていたミランダが、顔をあげた瞬間。 「きゃあああああああああああああああああああああああああ!!!!」 リーバーに胸を掴まれて、絶叫した。 「なななななななななななな!!!!」 何するんですか、の一言が言えず、真っ赤になって硬直するミランダに、リーバーがにっこり笑う。 「やっぱり思った通りだ! ねーちゃんは本物の巨にゅ・・・」 凍りついた部屋の中、凄まじい音をあげて頬を張られたリーバーが、笑顔のまま吹っ飛んだ。 「破廉恥な!!」 崩れた資料に埋もれたリーバーへ絶叫し、踵を返したミランダが部屋を駆け出て行く様を、皆が呆然と見送る。 しばらくして、 「は・・・んちょ・・・・・・・・・?」 いつまでも動かない上司に、不安を覚えた部下達が寄って来た。 「あの・・・・・・?」 「よーっしゃ!!!!」 突如背後であがった快哉に、皆が驚いて振り向く。 と、すっかり忘れられていたティモシーが飛び起き、小さなこぶしを振り回した。 「一石二鳥とはこのことだぜー♪」 謎の言葉を残し、大声で笑いながら彼が出て行くと、リーバーも目を覚まして身を起こす。 「班長!」 「アンタなにやらかすんですか!!」 「へ・・・?なにって・・・?」 資料に押し潰され、痛む身体を起こしたリーバーは、特に痛む頬に手を当てて驚いた。 「痛いと思ったらすげぇ腫れてんじゃねぇか・・・! なんなんだ・・・」 訝しげに呟くや、今まで気遣わしげに見ていた部下達の顔色が変わる。 「なんなんだじゃないっすよ!!」 「アンタいきなり何してんすか!!」 「ミランダが怒るのも当然だよ!!」 「まったく破廉恥極まりない!!!!」 口々に非難され、リーバーは目を丸くした。 「ちょっ・・・と、待てよ! なんだ?!なんのことだ?!」 きょろきょろと見回した室内にミランダの姿がないことが更に不安をあおる。 「ミ・・・ミランダ・・・は・・・・・・?」 凄まじく嫌な予感を覚え、声を引き攣らせたリーバーを、部下達が一斉に睨んだ。 「アンタに胸触られて!」 「しかも巨乳発言されて!」 「可哀想に、泣きながら出てったよ!」 「なんだと――――――――っ?!」 リーバーの絶叫に、部下達から更に非難が沸く。 「当たり前だろ、このセクハラ大王!!」 「班長がそんな人だなんて思わなかったっす!!」 「俺だってショックだよ、このむっつり!!!!」 「触りたきゃ二人きりン時にやれ、公然わいせつ男が!!」 「お前らちょっと黙れ!!!!!!!!」 リーバーの大絶叫に一瞬、黙った隙を突いて怒りの声をあげた。 「なにがあったかは後で事実確認するが、俺には一切記憶がない!」 また沸きあがりそうになった非難を再びの絶叫で抑え、続ける。 「お前ら科学者だろうが! 論理的かつ理性的に考えろ!! 俺に非難される原因たる記憶がないこと、俺らしからぬ行動があったこと、この二つのことから導き出される仮説はなんだ?!」 指を二本立てたリーバーに、迫られた科学者達の目が知性の光を宿した。 「その二つが嘘でないと仮定して・・・」 「仮定じゃねぇ!事実だ!!」 「一時的心神喪失による本性の発露」 「俺は変態かッ!!」 酷い検証に抗議の声をあげれば、更に別の声が補強する。 「普段押さえつけている欲求が、なんらかのきっかけで暴走したとも・・・」 「もしくは反動形成。 紳士的な顔をして、実は人一倍触りたかったとか・・・」 「・・・お前ら、俺をそんな風に見てたのか」 絶対零度にまで落ちた冷ややかな声に、部下たちはぎくりと顔を引き攣らせた。 「じゃ・・・じゃあ、班長が異常行動に出るまでに、何か誘因となるものがあったとか?」 「誘因?」 その言葉に、皆がふと、目を瞬かせる。 「異常行動・・・確かに、班長の行動としてはかなり異常・・・」 「抑圧された欲求が暴走したにせよ、心身喪失するほどのことでもないな・・・」 「二人きりの時にやればいいことだし」 「・・・お前らさり気に俺を貶めるのやめろー」 擁護すると見せて、実は先程までと言ってることが変わらない部下達を睨むが、彼らは構わず検証を続けた。 「誘因・・・誘因か・・・。 いつもと違う要素、それは・・・」 はっと、皆が顔をあげる。 「ティモシー!!」 「あいつのイノセンスだ!!」 「そういやあいつ、一石二鳥って!!」 「あのガキか!!!!」 怒鳴った途端、張られた頬に激痛が走った。 「ミランダ・・・すっげ誤解したんじゃねぇか?!」 「イヤ、誤解も何も・・・」 「アンタが衆人環視の中、ミランダの巨乳触って喜んでたのは事実」 「黙れえええええええええええええええええええええええ!!!!」 真っ赤になって絶叫し、リーバーはこぶしを握る。 「あのガキ捕まえろ! 捕まえて、泥を吐くまで締め上げろ!! 抵抗するなら拷問も許可する!!」 「あんたマジか!!」 中央庁の人間のようなことを言い出したリーバーに、部下達が震え上がった。 が、 「マジだ」 ぎろりと睨まれ、抵抗の意志はあっさりとくじける。 「なんとしてもあいつをミランダの前に引っ立て、あいつの口から真実を語らせるんだ! それしか、俺の名誉を回復するすべはない!」 「まぁ・・・確かに・・・・・・」 こぶしを握って力説するリーバーに、部下達も頷いた。 「俺はミランダを追いかける! 後は頼んだぞ!!」 言うや、止める間もなく駆け出したリーバーを、皆が呆気にとられて見送る。 「追いかけるって・・・」 「ミランダは班長が破廉恥行為の加害者だと思ってんのに・・・」 「普通逃げる・・・よな・・・?」 皆が皆、微妙な形に唇を歪め、若き上司の健闘を祈った。 一方、科学班から駆け出したミランダは、涙で前が見えないまま走り続けた挙句、回廊の角から現れた神田にぶつかって弾き飛ばされた。 「大丈夫か?」 転んでしまう前に腕を掴まれ、引き寄せられたミランダは、物も言わずに頷く。 「なんだ、そんなに痛かったのか?」 顔を真っ赤にして泣くミランダに驚いた神田が問うた時、 「ミランダ!!」 と、回廊にリーバーの声が響いた。 「ちょっと話を・・・」 「嫌ですっ!!」 踵を返して逃げようとしたミランダは再び神田にぶつかり、彼に縋って泣き出す。 「もうリーバーさんなんて嫌いです!!!!」 ショックのあまり石化したリーバーと、驚きのあまり硬直した神田の間で、一人ミランダが泣き叫んだ。 「なっ・・・なに?!どうしたの?!」 回廊を伝って響く泣き声に、部屋から消えたティモシーを探していたエミリアが駆けつける。 「えっ?!」 神田に縋って泣きじゃくるミランダの姿に、エミリアが3体目の石像と化した。 が、比較的ショックの浅かった彼女は、止まっていた呼吸をなんとか再開し、ミランダに歩み寄る。 「どっ・・・どうしたの、ミランダ?何かあったんなら話聞くよ?」 言いながら、エミリアはミランダの肩を優しく抱き寄せ、さり気なく神田から引き離した。 しかしミランダのただ事ではない様子に表情が引き締まる。 「・・・なに?一体、なにやらかしたの?」 思わず非難がましい声をリーバーに投げると、彼は懸命に首を振った。 「だから! 俺がやったんじゃな・・・!」 「そんな言い訳する人だなんて、思ってませんでした!」 常にないミランダの激しい口調に、リーバーだけでなく神田までもが絶句する。 一人エミリアがそうとは知らず、彼女を抱きしめた。 「よしよし、そんなに泣かないで。 ちょっと、落ち着ける場所に行こう? 事情はあたしが聞くからさ」 「待て!!誤解されたまま行かれちゃ・・・!」 困る、と、リーバーがミランダの肩に手をかけた瞬間、凄まじい悲鳴がほとばしる。 「触らないで!!」 絶叫と共に手が叩き払われ、エミリアをも押しのけてミランダが駆け出した。 「待っ・・・!!」 追いかけようとしたリーバーの腕を、神田が掴んで引き止める。 「男なら、くだらねぇ言い訳してんじゃねぇ。 エミリア」 「なに?」 リーバーを非難がましい目で睨みながら答えた彼女に、神田は顎をしゃくった。 「俺のゴーレム連れて、ミランダを追ってくれ。 俺がこいつを問い質すから、お前はミランダを落ち着かせろ」 「わかった。おいで!」 ミランダの後を追って駆け出したエミリアに、神田のゴーレムがついて行く。 「で、リーバー?」 ふぅ、と、ため息をこぼした神田の手が、ギリギリとリーバーの腕を締め上げた。 「なにやらかしてんだ、てめェ」 「ちょっ・・・放せっ・・・折れるぅぅぅぅぅっ!!!!」 「めんどくせぇんだよ。 とっとと話せゴラ」 神田の乱暴で冷酷なやり方をよく知るリーバーは、自身の名誉のためにも、無駄な抵抗をやめて知る限りの事情を話す。 「――――・・・ってワケで、ティモシーの仕業だと思うんだ俺は!!」 「あのガキか・・・」 こぶしを握って主張したリーバーに、神田も納得して頷いた。 「じゃあ、お前がやんのはガキを捕まえる方じゃないのか?」 「それは部下に・・・」 「冷静になれよ。 あいつは今、お前を避けてんだ。 追いかければ追いかけるほど、ミランダは逃げるぜ?」 指摘するや、ぽかんと口を開けたリーバーを、神田は呆れて見つめる。 「我を失うなんざお前らしくねぇな。 いつもなら、お前が俺らに言うことだろう?」 淡々と指摘され、リーバーは赤らんだ顔を俯けた。 「エミリアがそのうち追いつくだろ。 俺のゴーレムから通信が入るまで、科学班で待ってんだな」 「わかって・・・いるんだが・・・・・・」 「あ?」 訝しげな顔をした神田の横を、リーバーがすり抜ける。 「やっぱり俺、直接言ってくる!!」 「待っ・・・!」 手を伸ばしたがすんでで届かず、神田は呆れた風に吐息を漏らした。 その頃、談話室ではアレンとリナリー、ラビが、テーブルを挟んで額を突き合わせていた。 「・・・・・・見事に被ったさ」 「なんで先に言ってくれないんだよー・・・!」 「だって、まさか被るなんて思ってませんでしたもん・・・」 テーブルの上には、色も柄も全く同じネクタイが三本、箱に収まって並んでいる。 「どーしよ・・・班長のお誕生日、明日だよ? だけどもう、交換に行く時間なんてないし・・・同じもの三つもいらないよねぇ・・・?」 リナリーが困り顔を俯けると、代わりにラビがそっくり返った。 「大体、リナが今年はカフスあげるんだって言うから、俺がネクタイにしたんさ!」 「私のせい?! アレン君もっ?!」 驚いて顔をあげると、アレンはあっさりと首を振る。 「ううん。 僕は、ホントはネクタイピンにしようと思ってたんですよ。 そしたらリンクが、リナリーがカフスならラビがタイピンにする可能性が高いなんて言うから・・・・・・」 「人のせいにするのはおやめなさい」 冷淡な声が部屋の隅からかけられ、アレンは舌打ちした。 「リーバーさんにあげるものだからって、テキトーなこと言ったんだ、きっと!」 「君だって納得したではありませんか」 「だって、これならリンクが半分出すよって言うから・・・!」 アレンが指差す先を、リナリーとラビも目で追って、ため息をこぼす。 「けどまさか・・・お前らまでこの色を選ぶとは思わんかったさ・・・」 「だって・・・班長いっつも黒いネクタイだから、たまにはピンクもいいかなって・・・」 「僕は、コウモリ柄が気に入ったんでこれにしたんですけどね・・・」 再びため息をこぼした三人の目の端に、一瞬、廊下を駆けて行く姿が映った。 「今の・・・」 「ミランダさん?」 「マンマ!」 動体視力に優れたリナリーとアレンの声に、リンクが勢い良く振り返った時にはもう、彼女の姿はなく、代わりにリーバーが走って行く。 「何事さ?」 興味を引かれたラビが立ち上がると、他の三人も続いた。 が、彼らがのんびりと廊下に出た頃にはもう、二人の姿はない。 「ミランダさん、お腹空いたのかな?」 「君じゃあるまいし!マンマはそんなはしたないことなさいません!」 アレンの予測にリンクが声を荒げると、リナリーがうるさげに耳を塞いだ。 「でも・・・そろそろお腹空いたね」 「リナ・・・お前、夕食普通に食ってたろ」 呆れ口調のラビに、リナリーは舌を出す。 「夜食はまだだもーん」 「太るぜー?」 「太んないもん♪」 自信を持って言い切ったリナリーに、アレンが笑い出した。 「じゃあ、夜食行きましょうか 「うんっ!」 「待ちなさい、ウォーカー! マンマが・・・!」 リナリーと共に、早速歩き出したアレンの肩を、リンクが掴む。 しかし、 「やめときなよ。馬に蹴られるよ?」 「どうせまた、ドジやらかしたミランダを、リーバーが慰めようとしてんだろ」 「ラブラブなところに遭遇して、気まずい思いしたくないもんねぇ」 三人が三人とも、クスクスと笑声をあげた。 「ふっ・・・不埒な・・・っ!!」 真っ赤になって震えるリンクに、アレンが肩をすくめる。 「言っとくけど、あの二人はリンクがここに来る前からラブラブだったんだよ?」 「横から入っといて、図々しいさ」 「おとなしくしなさい、わんこ!」 ラビとリナリーも続き、リンクがますます眉を吊り上げた。 「口を慎みなさい!無礼な子供たちですね!!」 「俺、今、同い年だし!」 「精神的にも同い年だと言えますか、Jr.?!」 「言うさ!言ってやるさ!!」 ぎゃあぎゃあと甲高い声でわめき合う二人に、アレンとリナリーが大仰に耳を塞ぐ。 「あーもー大人気ない!」 「19歳って子供だね!」 「うるさいさ、弟妹!!」 「ワガママな子供のくせに!」 「なに――――――――っ!!」 年長者対年少者の戦いが勃発しようとした時、 「ねぇ!ミランダ知らない?!」 アレンたちの甲高い悲鳴を聞きつけて、エミリアが談話室に駆け込んできた。 そのただならぬ様子に一瞬、呆気に取られた4人は、再度問われてミランダが駆け去った方を示す。 「ありがと! まだお城に慣れてないから、まかれちゃった!」 そう言って駆け出した彼女を、4人も追った。 「なになに?!どうしたの?!」 「なんでエミリアさんが、ミランダさん追っかけてるんです?」 「おもろいことでもあったんさ?!」 「マンマに一体なにが?!」 口々に問われて、エミリアが眉根を寄せる。 「それを聞くために追っかけてんの! デリケートな話っぽいから、男子はついてこないで!」 肩越しに睨まれ、男子達は思わず足を止めた。 「じゃあ私がついてくよ!」 ひらりと手を振って、リナリーがエミリアに従う。 「ねぇねぇ、どうしたの?痴話げんか?」 わくわくと問うたリナリーに、走りながらエミリアは、不自由そうに首を振った。 「わかんないわよ!神田に言われて追ってんの!」 「神田に・・・?」 なんで、と、目を見開くリナリーに、エミリアは小さく頷く。 「事情はわかんないけど、ミランダが班長なんか嫌いだって神田に泣きついてたのよ。 その事情を聞くために追いかけてんだけど・・・」 「え・・・? ミランダの後、班長が追っかけてたよ?」 困惑げに言えば、エミリアの目が吊り上がった。 「ハァッ?! なにそれ、あの人情緒ナシ?!」 明らかに逆効果だと断言したアモールの国出身者に、リナリーは苦笑する。 「あんまり意地悪言わないで・・・」 「意地悪じゃないでしょ!今の彼女、班長が追いかけたら余計に逃げるわよ!」 だからまかれたんだ、と、忌々しげに言った彼女に、軽い足取りで従うリナリーは首を傾げた。 「それは違うと思うな。 ミランダ、泣いてたように見えたし、きっと自分でもどこに行こうとか、ワケわかんないまま走ってるんだと思う」 だから予測のつかない動きをするんだと言うと、とうとう息を切らしたエミリアが立ち止まる。 「なにそれ・・・じゃあ、先回りも出来ないの?!」 「うーん・・・先回りといえば、ミランダが目指してるのは、自分の部屋かジェリーのところなんだろうけど・・・」 「どっちが確率高いの?」 「だから・・・泣いてたんなら、本人にもわかんないよ」 「・・・厄介な人ね」 ふぅ、と、吐息を漏らし、エミリアは上がった息を整えた。 「じゃあリナリー、あんたは予測のつくリーバー班長を捕まえて、足止めしてよ。 アレじゃあ、ミランダはどこまでも逃げちゃうわ」 「うん、わかった・・・エミリアはどうするの?」 「ミランダを捕まえるよ。 パパに聞いたことがあるんだけど、人間って、逃げる時は左回りに逃げてくんだって。だから・・・」 あちこちに曲がり角のある回廊の先を、エミリアは示す。 「混乱してる彼女はきっと、全部の角を左に曲がってる。 でもそんな精神状態じゃ、どのドアも同じようなつくりの部屋は探し出せないだろうから、あたしは一旦食堂に行って、そこから全部右回りに回廊をさかのぼって、ミランダを探すよ」 「・・・さすが、あのティモシーを追いかけて、捕まえるだけのことはあるね!」 リナリーが感嘆の声をあげると、エミリアは得意げに笑った。 「警部の娘、ナメないでよね そうと決まれば、と、エミリアはまた走り出す。 「早速実行するよ! 捕まえたら連絡するね!」 「へ?!エミリア、ゴーレムは?!」 既に遠くまで行ったエミリアに呼びかけると、彼女のポケットから黒いゴーレムが飛び出した。 「神田に借りたからー!!」 「うん・・・」 駆け去って行ったエミリアの背中を、リナリーは複雑な顔で見送る。 「なんだよ・・・興味なしって顔してたくせに、神田のむっつり!」 ぶぅ、と頬を膨らませたリナリーは、エミリアとは別の方向へと走って行った。 城内を逃げるミランダは、自分がどこを走っているかもわからずに、目の前の角を曲がった。 背後に迫っていた足音は、とうに聞こえなくなっていたが、そのことにすら気づかず、薄暗い回廊をひたすら駆ける。 だが何度目かの角を曲がった時、足元の段差に気づかず、つまずいてしまった。 「きゃっ!!」 「ミランダ!」 悲鳴をあげた瞬間、ぽよん、としたものにぶつかって、ミランダは転倒を免れる。 「よかった・・・ケガはないわね?」 「エ・・・エミリアさん・・・」 段の上に立っていたらしいエミリアの胸に顔をうずめたミランダが、泣き顔をあげた。 「話、聞くって言ったでしょ? 班長はもう、追っかけて来ないから、ジェリー姐さんとこにでもいこ?」 肩を抱いて、優しく話しかけると、ミランダもやや落ち着いた様子で頷く。 「ご・・・ごめんなさい・・・・・・」 「なんで謝るのよ」 そう言って、エミリアはなんでもないことのように笑った。 「変なの。 あたしだったらぶつかったくらいで謝ったりしないわ。 ・・・あ、でも、神田にぶつかった時はつい、謝っちゃったわね。 いわゆる、『ただし、イケメンに限る』ってやつ?」 ケラケラと笑いながら背を押すエミリアを、ミランダは上目遣いで見あげる。 「あ、いえ・・・ぶつかったのも・・・その・・・ごめんなさい・・・」 おどおどと気弱な声で謝るミランダを見遣って、エミリアは足を止めた。 「Je ne suis pas mauvais!(あたしは悪くない)」 「ひっ?!」 いきなり大声で言われて、ミランダが飛び上がる。 「言ってご覧なさいよ、スッキリするわ!」 「え・・・でも・・・・・・」 「なぁに?フランス語、難しい?」 ずいっと身を乗り出してきたエミリアに気圧され、ミランダがのけぞった。 「いいいいいいいいえ!!そっ・・・そうじゃなくて・・・わっ・・・私・・・・・・!」 「なによ、ハッキリしないわね!」 「ご・・・ごめんなさい・・・」 「だから、謝らないでってば!」 「ごめんなさい・・・・・・」 しおしおとうな垂れたミランダに肩をすくめ、エミリアはその、丸まった背中を叩く。 「ホラ、いこ! 怒ってなんかないんだからさ!」 「えぇ・・・ごめ・・・」 「謝らない!」 「ごめっ・・・・・・は・・・はい・・・」 ようやく頷いたミランダに笑い、エミリアは彼女の腕を引いた。 「お姐さーん! ティーセットちょうだい!」 食堂に入ったエミリアが、カウンターから呼びかけると、厨房の中のジェリーが微笑んだ。 「アラん お夜食は太るから、摂らない主義じゃなかったのん?」 からかうように言ったジェリーに、エミリアが頬を膨らませる。 「あたしがお夜食制限するようになったのは、お姐さんの料理がおいしくて、食べ過ぎちゃうからじゃない! ずっと我慢してたんだから、ダイエットメニュー出してよ!」 『謝ったりしない』と言うだけあって、城内実力者であるジェリーに対しても堂々とものを言うエミリアに、ミランダが目を見開いた。 しかし、言われたジェリーの方は怒るどころか、そのきっぱりした態度が好ましいとばかりに笑みを深める。 「ハイハイ じゃあ、寝る前にコラーゲンゼリーでも出してあげましょ 明日、お肌艶々になるわよん 「ホントッ?! さっすがお姐さん、やることが粋だわ!」 エミリアがこぶしを握って大声をあげると、ジェリーは機嫌よく笑声をあげた。 「ホホホ 美容に関しちゃ、アタシに一日の長があってよん 「ホントにね! じゃあ、よろしく!・・・っと、姐さんも時間あったら、一緒にお茶できないかなぁ?」 ミランダを肩越しに見遣りながら言ったエミリアに、ジェリーは微笑んで頷く。 「じゃあ、アタシの分のお茶も持ってくわん 「うん! いこ、ミランダ!」 再び手を引かれ、食堂のテーブルに連行されたミランダは、対面に腰をおろしたエミリアを、おどおどとした上目遣いで見あげた。 「いや、あたしにまで怯えなくていいからさ。なにがあったのよ?」 エミリアが単刀直入に問うが、ミランダは声を詰まらせてうな垂れる。 首を傾げ、眉をひそめたエミリアが、ミランダの声が出るのをひたすらに待っていると、二人の間に暖かい湯気をあげるティーカップが置かれた。 「まずは、これでも飲んで落ち着きなさいよ」 湯気と共にブランデーと蜂蜜の香りが漂い、エミリアは眉を開く。 「ワインがよかった」 「ワガママ言うなら、美容ゼリーあげないわよん?」 「えぇー!!そんなのダメよ!!」 目の前に置かれたきれいなデザートを取り上げられそうになって、エミリアが慌てた。 「・・・アンタ、ホント『ごめんなさい』を言わないわねぇ」 その強情さにむしろ感心しながら、ジェリーは改めて置いてやる。 「だって謝る必要を感じないもの。 おいしー 早速スプーンをくぐらせたエミリアが舌鼓を打つと、ジェリーが嬉しそうに笑い、ミランダもつられてちらりと笑った。 「で?どうかしたのん?」 ジェリーが問うと、ブランデーの香る湯気を顎に当てていたミランダが、こくりと頷く。 「それが・・・とても・・・その・・・信じがたいこと・・・なんですけど・・・・・・」 消え入りそうな声で呟いたミランダは、落ち着こうとしてまだ熱い紅茶を飲んでしまい、むせ返った。 「ちょっ・・・大丈夫?!」 「ゼリー食べなさいよ。冷たいわよ?」 驚いて背を撫でてやるジェリーとは逆に、落ち着いた様子のエミリアが、スプーンでゼリーを指す。 「う・・・はい・・・・・・」 震える手でゼリーを取り上げたミランダが、急いでスプーンをくぐらせた時、 「もー、なんがあったんさリーバー?」 「なんかエミリアさん、すごく怖かったんですけど!」 「答えによっては容赦しませんよっ?!」 リナリーが見つける前にリーバーを捕獲した男子達が、ついでに夜食を取ってしまおうとやって来た。 途端、ミランダが椅子を蹴って立ち上がり、その音に目をやった時には既に踵を返している。 「ミランダ!!」 とっさに追いかけようとしたリーバーを、アレンとラビ、リンクが三人がかりで止めた。 「放せっ!!!」 「待ってください、リーバーさん!」 「だから、追っかけたら逃げんだって!」 「ママンを月桂樹にでもする気ですか、このホウキ!!」 「そうよん、まずは、事情を聞いてからねん」 歩み寄ってきたジェリーが、そう言って大きな肩をすくめる。 「ミランダはエミリアが追っかけて行ったからん。 アンタは事情を話しなさいな。 もしかしたら、なにかいいアドバイスが出来るかもよん?」 「原因がわかってる以上、俺にアドバイスはいらないんすよ!! むしろ!ミランダの誤解を解くのが先!!」 頼りになる料理長に縋ったリーバーから、三人が拘束していた手を放した。 「なんさ、原因ははっきりしてんさね」 「ミランダさん、なにを勘違いしちゃったんです?」 「まさか、言い逃れようと言う魂胆ではないでしょうね?!」 一人、疑い深いリンクを睨み、リーバーはジェリーに向けて事情を話す。 「っつーわけで、全てはティモシーの仕業・・・」 「でも実際触ってんじゃん!!」 「それ誤解って言いますっ?!」 「ふっ・・・不埒な!!破廉恥なっっ!!!!」 顔を真っ赤にして、きゃんきゃんと喚く仔犬達を、ジェリーはため息と共に撫でてやった。 「まぁまぁ、落ち着きなさい、アンタ達。 事情はわかったわん・・・ミランダもさっき、信じがたいことだって言ってたから、ちゃんと説明すれば納得するわよん。 アタシからも話す・・・ケド・・・・・・」 「なんすかっ?!」 口を濁して考え込んでしまったジェリーに、リーバーが悲鳴じみた声をあげる。 「あ・・・えぇ、アタシも協力はするけどね、いくら中身が違うったって、触ったのはアンタでしょぉ・・・? みんなも見てたそうだし、内気なあの子のことだから、しばらくはアンタに近づけないんじゃないかしら」 「え・・・!」 愕然とするリーバーを、リンクが忌々しげに睨んだ。 「当然ですよ! マンマのような慎み深い女性にそんな破廉恥な真似をして、今まで通りいられると思うのですか!!」 「だからやったのは俺じゃねぇって!!!!」 絶叫したリーバーの手を、横からラビが掴む。 「・・・なんだ?」 「いや・・・さぞかし触り心地よかったろうなって」 つい、本音を言ってしまったラビにげんこつを落として、リーバーが踵を返した。 「ちょっと! どこ行くのん?!」 呼びかけたジェリーを、リーバーは肩越し、睨むように見遣る。 「ミランダを追いかけます。 逃げようが捕まえて、はっきり事実を説明する。 自分では何もせず、ただ状況を見守るなんて、我慢ならないんで!」 言うや駆け出したリーバーを、追いかけようと走り出したリンクの足に、すかさずアレンが足をかけた。 「っウォーカー!!何をするのです!!」 床に転げたリンクが、猛抗議と共に起き上がるが、アレンはリーバーの消えた先を見遣ったまま、無視して肩をすくめる。 「男らしいって言えば聞えはいいけど・・・たまには駆け引きくらい、すればいいのに」 堕落した師匠のせいですっかり耳年増になった少年は、呆れ気味に呟いて吐息した。 その頃リナリーは、アレン達が一旦は捕獲したとは知らず、リーバーを探して城内を駆け巡っていた。 「班長・・・どこに行っちゃったんだよぉ・・・・・・」 足を止め、辺りを見回すリナリーの背後に、黒い影が忍び寄る。 いつもであれば容易に避けただろうが、リーバーの探索に気を取られ、更には『ホーム』にいることで油断していたリナリーは、飛び掛られた瞬間まで気づかなかった。 「リナリー姉ちゃんつーかまえたー 「なっ・・・!」 腰に抱きついたティモシーの、はしゃいだ声を聞いたと思った瞬間、『リナリー』の意識は闇に落ちる。 「よっしゃあ!!」 こぶしを握り、威勢よく声をあげた『リナリー』は、足元に倒れた『ティモシー』の身体を抱き上げ、回廊の隅に隠した。 「ふははははは!!見てろよ、美形!! みんなの前で無理矢理姉ちゃんのおっぱい触らせて、痴漢呼ばわりしてやんぜー♪」 ―――― そない、うまくいくかいな。 脳裏に聞こえるツキカミの声に、しかし、リナリー・・・いや、彼女の身体に憑いたティモシーは自信満々で首を振る。 「あいつに飛びついて、『おっぱい触られたっ』って言やぁみんな信じるぜっ! くくく・・・! そのままエミリアに泣きついてやりゃあ、エミリアだってあいつを軽蔑するさ!」 麗しの未来予想図を描く同じ脳で、ツキカミがため息をつく様を、ティモシーは軽やかに無視した。 「復讐の始まりじゃーィ!!」 ケタケタとけたたましい声を回廊中に響かせて、『リナリー』が駆け出す。 「うっわ! さすがダーク・ブーツの姉ちゃんだ! はええええええ!!!!」 未だかつて体験したことのない速さに歓声をあげ、回廊を駆け抜けたリナリーは、修練場に飛び込んだ。 「神田――――!!!!」 既に夜更けにもかかわらず、当然のようにそこにいた彼にリナリーが飛び掛る。 が、 「アホか」 冷淡に言った彼は、抱きつこうとしたリナリーを、悠然とかわした。 「なっ・・・なんでっ・・・ひっ?!」 勢い余って床に倒れこんだ彼女は、神田に襟首を掴まれ、猫のように吊られる。 「やっ・・・やだっ!なにするのっ?!やめて!放して!!痴漢〜〜〜〜!!」 じたじたともがき、悲鳴をあげるリナリーを、神田は冷厳に睨みつけた。 「リナリーの顔で気色悪ィことしてんじゃねぇ」 「ひっ・・・!!」 真っ青になって震えながら、リナリーは挙動不審に目を泳がせる。 「なっ・・・なんのことっ・・・?!」 「どんなにリナリーのスペックが高くても、てめぇが弱けりゃ全部の力は引き出せねぇんだよ。 とっととリナリーの中から出ろ、クソガキ」 「ワッ・・・私、リナリーだヨ・・・!!」 「そうか」 ぎこちない口調でなおも抗弁するリナリーの襟首から手を放すと、神田はすかさず彼女を小脇に抱えた。 「おい、ゴーレム貸してくれ。 クラウド元帥、今どちらですか?」 一瞬で血の気を失ったリナリーをちらりと見遣り、神田はファインダーのゴーレムが、クラウドの声を発するまで待つ。 ややして、クラウドの声が『部屋だ』と答えると、神田は暴れるリナリーを抱え直し、頷いた。 「元帥の弟子が、リナリーに憑いて悪さをしています。 本体を探して、痛めつけてやってください」 「ちっ・・・違っ・・・!! 俺、今はリナリー姉ちゃんだってば!!憑いてなんかねぇよっ!!」 必死に言って、一層暴れ出したリナリーに、神田が冷笑を浴びせる。 「馬脚を現しやがったな、クソガキが。 てめェリナリーに憑いて、ただで済むと思うなよ?」 コムイに報告する、と、室長執務室へ向かう彼に抱えられたまま、リナリーは城中に響くような絶叫を放った。 同じ頃、もはやなんのために逃げているのかもわからず、ミランダは薄暗い回廊を駆けていた。 と、 「ミランダ!」 石の壁にリーバーの声が反響して、彼女の足をますます速めさせる。 「・・・っ今は・・・・・・!」 顔を合わせたくない、という一心で、ミランダは手近のドアを開けた。 なんの部屋でもいい、とにかく彼の目から逃れたい・・・。 そう思い、歩を踏み入れた部屋の光景に、ミランダは唖然とした。 「は・・・方舟・・・? なぜ・・・・・・」 既に見慣れた白い街並みは南欧の風景に似て、暖かい日差しを燦々と注いでいる。 「そう言えば・・・このお城にはいくつも『扉』を繋げたって、アレン君が・・・・・・」 ではいずれ、研究室として使われるために確保してあるのだろうかと考えながら、ミランダはおずおずと歩を進めた。 だが、背後でドアの開く音を耳にするや、ビクッと飛び上がり、振り返りもせず駆け出す。 そうやって彼女が、複雑な街の中に消えてしまった直後、ミランダを追いかけてきたエミリアが、困惑げに白壁の風景を見回した。 「あちゃ・・・方舟に繋がってたのね・・・」 初めて見た時にはびっくりしたが、順応力の高い彼女は既に、この不思議を『そう言うものだ』と受け入れている。 「勝手にドア開けちゃっていいのかしら・・・あら・・・?」 そうは言いながらも、大してためらいもせずドアの一つを開けたエミリアは、教会の一室らしい部屋に降り立ち、きょろきょろと室内を見回した。 「なんだか見慣れたカンジ・・・もしかして!」 はっとして部屋を駆け出たエミリアは、手近の窓に取り付き、大きく開け放つ。 と、その目の前には、夜目にも見慣れた大聖堂がそびえ立っていた。 「ここ、パリ?!」 つい最近まで住んでいた場所・・・。 呆気にとられた彼女の耳に、これまた聞き慣れた教会の鐘が響いた。 「・・・来ちゃったもんはしょうがないわね」 すぐに開き直ったエミリアが誰にともなく頷く。 「パパの様子でも見に行くか」 あっけらかんと言い放って、エミリアはとことこと教会を出て行った。 一方、別のドアから飛び出したミランダは、何か分厚いものにぶつかって弾かれた。 「いっ・・・」 痛い、と、床に転げたミランダを、慌てて駆け寄って来た誰かが丁重に抱き起こす。 「ご無事ですか、マンマッ!!」 悲鳴じみた声に、ミランダがきつくつぶっていた目を開けると、間近にルベリエの気遣わしげな顔があった。 「あら・・・どうしたんですか、ヒゲ?」 思わず愛犬の名前で呼んでしまうと、ルベリエはミランダを立たせながら、困惑げに眉根を寄せる。 「私は仕事で・・・いえ、それよりなんのご用で北米支部にまでいらっしゃったのです?」 「え?北米・・・」 「そうよ。 いきなり方舟から出て来るなんて、何かあったの?」 怪訝そうな声を見あげると、北米支部長のレニーが、たくましい長身を見せつけるように仁王立ちしていた。 「あ・・・じゃあ、私がぶつかったのは・・・・・・」 「あたしよ」 豊満な胸を誇らしげに張ったレニーに、ミランダが慌てて詫びる。 途端、 「気をつけたまえ、レニー支部長!」 と、ルベリエが語気を荒くし、レニーは目を瞠った。 「・・・私ですか?!」 意外な糾弾に驚いて声をあげる彼女に、ルベリエはムッと眉を吊り上げる。 「マン・・・いや、ミランダ嬢は繊細でいらっしゃるのだから、あまり乱暴な真似は・・・!」 「彼女が勝手にぶつかってきたんですけど?」 「そっ・・・それはそうだが、しかし・・・!」 懸命に反駁しようとするルベリエの、彼らしくもない態度にレニーは柳眉をひそめた。 「長官・・・一体、どうなさったんですの? 彼女はただのエクソシストでしょう。 どうしてそんなに遠慮なさっているのです?」 弱味でも握られているのか、と、口にした途端、 「マンマがそんなことなさるはずがないだろう!! この方は真に聖女であられる!!」 断言したルベリエにレニーは呆気に取られ、ミランダは恥ずかしげに身を縮める。 「・・・・・・なんなの?」 ようやく呟いた彼女に、ルベリエは懸命に威儀を保って咳払いした。 「レニー支部長、私は少々席を外させてもらう。 ささ、マンマ 久しぶりにお会いできましたのに、こんな場所で立ち話もなんですから、私のケーキでもお召し上がりください 尻尾があったら振っていただろうはしゃぎぶりに、レニーは開いた口がふさがらない。 そそくさと退室しようとするルベリエの背を、レニーがただ見送っていると、 「見つけた!!」 また方舟から、人影が飛び出てきた。 今度はぶつかられなかったものの、すぐ横をすり抜けられて呆然とするレニーの目の前で、ミランダの細い喉からよくぞと思う悲鳴があがる。 「マッ・・・マンマ?! いかがなされたのですか!!」 錯乱状態のミランダに手を振り解かれたルベリエが、驚いて追おうとするが、伸ばした手は身体ごと突き飛ばされ、きりもみしつつ床に転がった。 「長官っ?!」 レニーの悲鳴に、我に返ったリーバーが足を止める。 「だ・・・大丈夫っすか・・・?」 「・・・っ大丈夫なわけあるか――――――――!!!!」 だくだくと額から血を流しつつ起き上がったルベリエが、興奮のあまり眩暈を起こして倒れた。 「長官!!」 慌てて受け止めたレニーの腕の中で、ルベリエは憤然と足を踏み鳴らす。 「わっ・・・私にこんな真似をしてっ・・・ただで済むと思わないでもらおうか!! 大体君は、我々のマンマにちょっかいをかけるなど実に不届きなっ・・・!!」 絶叫の途中で、大量出血によるショック状態が始まり、ルベリエが白目をむいた。 「長っ・・・!!」 駆け寄ろうとしたリーバーを、レニーが手を突き出して止める。 「私に任せなさい」 不気味な笑みを浮かべ、言ったレニーに、リーバーはぞっとして足を止めた。 「その代わり・・・なぜ長官があの子を『マンマ』と呼ぶのか、あたしに説明なさい」 「え・・・そ・・・それは・・・・・・」 ミランダが駆け去った方を気にしつつ、リーバーが簡単に説明すると、レニーは笑みを深める。 「ふ・・・ふふふ・・・ふふふふふ・・・!!」 真っ赤な唇から漏れる笑声に思わず歩を引いたリーバーを、レニーは細めた目で見遣った。 「ステキな情報をありがとう これで研究の主導権はあたしのものよ・・・ ルベリエを脅す気満々の彼女から、リーバーが更に歩を引く。 「後のことはあたしに任せて、あんたはあの子を追いかけなさいよ。 大丈夫、長官があんたを降格させたりしないよう、口を利いてあげるわ」 「え・・・でも・・・」 「いいから!」 戸惑うリーバーにきっぱりと言い放ち、レニーはルベリエを軽々と抱えた。 「悪いと思うんなら・・・そうね、あんた確か、明日が誕生日だったでしょう? あたしからのプレゼントだと思っていいわ」 あからさまにとってつけた理由を述べた彼女に、ますます戸惑ったリーバーが動けないでいると、レニーは顎でミランダの消えた方を指す。 「行きなさいってば。 こっちはこっちでやることがあるん・だ・か・ら 脅迫の現場を見るなと、言外に言ったレニーに光の速さで頷き、リーバーは踵を返した。 「なんで追いかけてくるんですか・・・っ!!」 初めて訪れた北米支部内を闇雲に走るミランダは、息を切らしつつ呟いた。 と、 「ミランダ!!」 また背後から呼びかけられて、反射的に足を速める。 「どこか・・・!」 逃げ込める場所、と、ミランダは回廊の奥の一際大きなドアを開け、目を丸くする白衣の間を抜けて、更に奥の扉を開けた。 「ま・・・また方舟・・・っ?! 他にどこか・・・!」 ミランダは急いで辺りを見回し、白い街並みの中で一番小さなドアを開ける。 世界中にある支部を繋ぐドアはアレンが開いたものだが、方舟は元々、ノアが使っていたものだ。 世界中のあらゆる所に繋がっていると言う、その一つに期待したのだが・・・。 「・・・・・・どこ?」 くるぶしまで埋まる絨毯に転びそうになりながら、ミランダは部屋を見回した。 壁に当たる部分には、むき出しになった岩肌を覆うように鮮やかなタペストリーが飾られ、置かれた家具はどれも、幾何学の模様で彩られている。 オリエンタルな雰囲気の部屋を恐る恐る進み、ミランダは屈まなければ通れそうにないドアを開けた。 こっそりと向こう側を覗き込むと、岩をうがって造られた細い廊下が、うねりながら続いている。 「あの・・・どなたか・・・いらっしゃいませんか・・・?」 おどおどと声をかけてみるが、答える者はいなかった。 「ど・・・どうしましょう・・・・・・」 先に進みたい気持はあるが、アレンと同じく迷子癖のある彼女は、曲がりくねった道を進んで戻ってこれる自信がない。 同じ場所をうろうろしていると、石の廊下の向こうから、コウモリの羽ばたくような音がした。 ふと見遣ると、本部でも見慣れた監視用ゴーレムが、彼女に向かってやって来る。 「あ・・・あの・・・!」 『中東支部に何か用かね、ミランダ嬢?』 おっとりとした老人の声に、ミランダはほっと頬を緩めた。 「あ・・・あの・・・ルイジ支部長・・・ですか?」 本部で紹介されたことのある、リーバーの元上司の名を呼ぶと、ゴーレムは穏やかな声で『うん』と言う。 『本部からは任務要請なんか来てないけどなぁ・・・私が忘れちゃったのかな?』 ぶつぶつと独り言のように言うゴーレムに向かって、ミランダは首を振った。 「す・・・すみません、私、方舟で・・・その・・・ドアを間違えまして・・・・・・!」 『ありゃ』 うまい言い訳を思いつかず、真っ赤になったミランダが、消え入りそうな声で言うと、あまりにも暢気な声が返る。 『じゃあ、任務先を間違えたのかね? そりゃー大変だ。どこに行くつもりだったのかね?』 言葉とは裏腹に、全く切羽詰った様子のない声を受けて、ミランダはますます身を縮めた。 「いえ・・・あの・・・任務ではなく・・・・・・」 『おや、そうなの』 その言葉に何を思ったのか、ルイジの声が笑みを含む。 『急ぎでないんなら、おじいちゃんの茶飲み話にでもつきあわないかね?』 「え・・・」 『うちのお菓子はおいしいよ。 ゴーレムについておいで』 パタパタとUターンして廊下の奥へと導くゴーレムに、ミランダはおずおずとついて行った。 長く狭い廊下を岩肌をなぞりながら行った先は、随分と広い部屋に繋がっている。 2〜30人は軽く入りそうな、本部で言えば談話室のような部屋は、天井も随分と高く、窓がないことを除けば快適な空間だった。 「ようこそようこそ、我が中東支部へ!」 先に来ていた支部長に迎えられ、ミランダはこくりと頷く。 「す・・・すみません、急にお邪魔しまして・・・・・・」 「いやいや、うちは部下が優秀なもんだから、私は昼寝とお茶くらいしかすることがなくてねぇ。 もう寝飽きちゃったから、お茶でもしようかと思っていたところなんだよ」 どうぞ、と勧められ、ミランダは絹のクッションがいくつも積まれたソファに腰を下ろした。 「コーヒーとお茶と、どっちがいいかな? せっかく来たんだから、どっちも試しなさいよ。 こっちのは欧州のと違っておいしいよ?」 英国はダメ、まずい、とぼやきつつ、支部長自ら、いくつも出してくれたカップの一つを取る。 「い・・・いただきます・・・」 「うん、お菓子もどうぞ。 最近ね、料理長にお菓子作りを教わってるんだよ」 彼がにこにこと勧めてきた砂糖菓子に、ミランダは目を丸くした。 「きれいなお菓子・・・これ、ルイジ支部長が作られたんですか?」 引き寄せられるように手を伸ばしたミランダを満足げに見守りつつ、ルイジはにっこりと頷く。 「だって、部下達が私の仕事、全部片しちゃってヒマなんだよ。 ホラ、十字軍が攻めてくる前から算数得意でしょ、ここの人達。 処理早いんだよ、彼ら。 あれもここで鍛えられて、数学者になったんだからね」 「あれ・・・ですか?」 きょとん、としたミランダに、ルイジはまた、にっこりと頷いた。 「うん、君のダンナ」 「ダンッ・・・いえそんなまだ違っ・・・!!!!」 真っ赤になったミランダの絶叫が岩壁に当たって幾重にも反響したが、慣れた様子で耳を塞いだルイジは、彼女の慌てふためきようを面白そうに眺める。 「まだ、ってことは、いずれそうなるのかな?」 「・・・・・・っ!!」 ぱくぱくと呼吸困難の魚のように喘ぎ、声の出ないミランダを、ルイジはまた愉しそうに眺めた。 「ホントに飽きないねぇ君は。 からかい甲斐があると言う点では、バクに勝るとも劣らないよ」 ミランダにとっては全く嬉しくない評価を下して、ルイジはにこにこと笑う。 「で? ケンカでもしたのかね?」 「ひっ?!ななな・・・なぜっ?!」 予想外の質問に、ミランダがびくっと飛び上がった。 「別に、魔法とか超能力とかじゃないよ? 君みたいな生真面目なエクソシストが、任務でもないのに方舟に駆け込んだ挙句、闇雲にドアを開けるなんてどうしたのかなぁって考えただけだね。 よほど切羽詰らなきゃないことだけど、じゃあ、切羽詰った理由ってなんだろう? 敵襲なら、生真面目なエクソシストはお茶の誘いになんか応じないだろう。 なら、できるだけ本部に帰りたくないってことかな。 こんなおじいさんのお茶の相手をしてくれるくらいだから、よっぽど気まずいことでもあったんだろう。 それとも、私に何か頼みたいことがあるのかな。 彼女と私は一度顔を合わせたきりで、そう親しいわけでもない。 だけど偶然にでもここへ来て、お茶の相手をしてくれるってことは、共通の知人についてなにか悩み事でもあるんだろうか。 彼女と私の共通の知人と言えばリーバーだけど、私は彼の元上司であり、師でもある。 じゃあ、この師匠から何か、彼に苦言を呈して欲しいとでも思っているのかな。 それは多分、彼が彼女に対して、非常に無礼を働いたからではないか。 彼に非があり、彼女には非がないことでケンカでもしたのかな、って推理だね」 長い台詞を淡々と、しかし一息に言いきった彼を、ミランダは呆然と見つめる。 「当たりかね?」 「はぁ・・・おおむね・・・・・・」 思わず頷いてしまったミランダは、慌てて首を振った。 「いえ!!でもこれはきっと何かの間違いで・・・!!」 「だったら本人に・・・」 言いかけた時、ルイジの無線機がベルを鳴らす。 「はいよ?」 『支部長、ソロバンできない奴が来ましたけど』 笑みを含んだ部下の報告に、ルイジはちらりと笑った。 「んー・・・そうかい」 「そろばん?」 「東洋の計算機だよ。 便利なんだけど、あれは使いこなせなくってねぇ」 「あ・・・あれって・・・あれって・・・・・・」 まさか、と、また口をぱくぱくさせて喘ぐミランダに、ルイジは肩をすくめる。 「あれは、左利き用じゃないから苦手なだけだって言い訳してたけどねぇ。 そろばん使えないから計算機作ってやる、なんておもしろいことするもんだから、本部に放り込んでやったらもっとおもしろいことになるんじゃないかな、って思ったんだが・・・案の定だったねぇ。 ・・・さて、ミランダ嬢? 私を仲介に、あれと話し合う? それとも、後を私に任せて、今は逃げるかね?」 「逃げますっ!!」 即答したミランダに思わず吹き出したルイジは、ペーパーナプキンを取り上げて、手製の菓子を包んでやった。 「はい、じゃあこれ、持ってお帰り。 またお茶しにおいで」 「はっ・・・はい!!」 ミランダは急いで一礼すると、彼女を導くように目の前を飛ぶゴーレムについていった。 「狭い廊下だから、足元と頭上に気をつけるんだよ」 のんびりとした口調で言って、ミランダを見送ったルイジが再びソファに座った時、彼女が出て行ったのとは別のドアが勢いよく開く。 「なんでこんなに狭いんっすか!!」 「アラビアン・ナイトに出てくる洞窟みたいで、楽しいじゃないか」 のんびりと言って、ルイジは小首を傾げた。 「それにしても騒がしいねぇ。 一体、なにがあったのかね?」 と、リーバーは小柄な元上司を睨みつける勢いで見遣る。 「支部長!ミランダ来たでしょ!!」 「うん、来たよ。 もう帰ったけど」 「あっちのドアっすか!!」 「まぁ、待ちたまえよキミ。ロクムでもどうだい?」 早足で部屋を横切るリーバーの前に、いつの間にか立ち塞がったルイジが、砂糖菓子を乗せた皿を差し出した。 「バクラワもあるよ。好きだったでしょ、キミ」 「そっ・・・そうっすけど今は!!」 「いいからちょっと私の相手をしてくれないかね。 ミランダ嬢が、今はキミに会いたくないって言ってるんだからさ」 「み・・・みらん・・・だ・・・が・・・・・・」 彼らしくもなく、死にそうに蒼褪めたリーバーを見あげ、ルイジは元部下の白衣を引く。 「ホラ、ちょっとここに座って。 なにがあったのか、先生に話したまえよ」 「だから・・・っ!」 イライラと反駁しようとした途端に突き飛ばされ、クッションに埋もれたリーバーが半身を起こすと、目の前にコーヒーが差し出された。 「ほら、飲んで。落ち着いて。最初から順に。論理的に」 穏やかな物腰ながら反抗を許さない迫力と、のんびりとした口調で実はまくし立てているルイジに逆らうことが出来ず、座り直したリーバーはおとなしくカップを受け取る。 「あのね、猟犬が吠え立てて追いかけてきたら、怯えた仔ウサギが逃げるのは当然だろう? 狩をするならハンターは、慎重かつ冷静に行動すべきじゃないかね」 対面に座ったルイジが淡々と諭すと、コーヒーを一気にあおったリーバーが熱い息を吐いた。 「だから! 彼女を捕まえて説明さえすれば、誤解は解けるはずなんすよ! なのに皆してミランダを逃がして! ちょっとは俺に協力してくれたっていいんじゃないすかね、このフェミニスト集団ガ!!」 炎のように苛烈な声をあげるが、元の上司は動じず、熱いお茶にふぅふぅと息を吹きかける。 ややして、一口お茶を飲んだルイジは、自作のロクムをつまんだ。 「・・・私が思うに、フェミニスト以前の問題だね。 あんなか弱そうなレディが必死に逃げて来て、キミみたいな怖い男が追っかけて来たら、そりゃ皆、姫をお逃がしするだろうさ」 口の周りを砂糖だらけにして、もごもごと言う彼に、リーバーは憤然と鼻を鳴らした。 「怖くて悪かったっすね!!」 「ま、ここじゃあキミ、未だに『算数の出来ないリーバー坊や』だけどね」 暢気なルイジの言葉に、リーバーの手からカップが滑り落ちた。 「絨毯、汚さないでくれよ?」 「・・・・・・・・・すんませんってかあのそれ言ってんの先輩達っすか」 しぼんだ風船の空気が抜けていくような弱々しい声に、ルイジはあっさりと頷く。 「今も、ソロバンできない奴が来たって言われてたよ、キミ」 「何年前の話っすか!!!!」 真っ赤になって怒鳴る彼に、ルイジはのんびりと菓子の皿を差し出した。 「まぁ、糖分を取りたまえよ。 糖分が足りないと、脳みそは動かないよ?」 再三の勧めで、ようやくロクムをつまんだリーバーに微笑み、ルイジはまた、のんびりとお茶を飲む。 「・・・で?」 ゆったりとした仕草で小首を傾げた元上司に、ロクムに口を塞がれたリーバーは、自然とゆっくりになった口調で事情を説明した。 「なるほどね。 自分で説得したいって言う、キミの気持はわからないじゃないが、ここはエクソシスト達の言う通り、レディ達に説得を依頼して、誤解を解いた方が丸く収まるのではないかな」 「・・・言えますか、レディ達にこんなこと!」 ようやくロクムを飲み込んだリーバーの、忌々しげな顔に、ルイジはちらりと笑う。 「ま、若いレディ達には刺激の強い話かもしれないね」 だから、と、ルイジはまた、茶をすすった。 「いるでしょ、こういう問題にも動じない、強いレディ達が本部には。 婦長か料理長に相談したまえよ」 裏番仲間なんだろう、と、また小首を傾げたルイジに、リーバーは眉根を寄せる。 「なんすか、裏番仲間って!」 「キミのことは聞いているとも。 今じゃ、キミなしには本部は収まらない、なんて言われてるんだって? ここにいる時は算数もできなかった坊やが、強くなったもんじゃないかね」 クスクスと楽しそうに笑う元上司に、リーバーは湯気をあげそうに紅くなった。 「っあのね、支部長!! さっきから算数できないだのソロバン使えないだの、確かに俺はあんたらに比べりゃ全然レベル低かったっすけど! ここで散々鍛えられて、今はちゃんと数学の博士号だって取ってんすよ!!」 バンバンとテーブルを叩きながら言ってやるが、暢気な元上司はこれにも動じず、肩をすくめる。 「欧州の博士号がなんだい。 こっちじゃそんなもの、鼻紙の役にもたちゃしない」 「くっ・・・・・・!」 散々世話になった元上司にして師匠の言葉に反論できず、リーバーが言葉を失った。 と、とどめとばかり、ルイジの小さな指がリーバーを指す。 「キミね、私と意地悪な兄さん達に、『算数の出来ない坊や』だったことをばらされたくなきゃ、ここは言うこと聞きなさいよ」 「バラすんすか!!」 「班長が威厳失うと、色々ツライよね?」 「脅すのやめてくれませんかっ!!!!」 悲鳴じみた声をあげるリーバーに、ルイジは意地悪く舌を出した。 「私の言うこと、聞くかね?」 「くっ・・・・・・!!」 選択肢のない問いに、リーバーは無言で頷く。 「ん。 じゃあ、私のつくったバクラワ食べて行きなさいよ。 あぁ、土産に持って帰るかい? キミ、明日誕生日だもんねぇ」 おめでと、と、差し出された甘い菓子を、リーバーは悔しげに頬張った。 その頃、ルイジのゴーレムに案内されたミランダは、再び方舟に入っていた。 白い街並みを黒いゴーレムについて歩いていると、しばらく前から妙な雑音をあげていたゴーレムが、煙をあげて落下する。 「なっ・・・どうしたの?!」 慌てて取り上げたが、ゴーレムはコウモリに似た羽根を弱々しくはためかせるだけで、盛んに吐いていた雑音さえも消して沈黙した。 「う・・・ここ・・・どこかしら・・・・・・!」 本部に近い道であれば、警備班の衛兵達が待機して案内してくれるが、生憎、中東支部にそんなシステムはない。 ルイジに問えば、『砂漠の民は、迷子になったりしないんだよ』と舌を出したことだろうが、そんなことは知らないミランダは、煙をあげるゴーレムを両手で持って、おろおろと辺りを見回した。 「だっ・・・だだだっ・・・誰かっ・・・誰かいませんかぁっ!!」 ゴーレムが壊れてしまった今、どの道を進むべきかもわからず、ミランダが悲鳴をあげた途端、ひょい、と、白壁の向こうから顔を出す者がいる。 「・・・なにをしているんだ、ロットー? 道に迷ったのか?」 「バクさん!!!!」 安堵のあまり泣き声をあげて、ミランダはバクに駆け寄った。 「ゴーレムがっ!!ゴーレムがっっ!!!!」 悲鳴をあげつつ、ミランダが両手に持って差し出したそれをちらりと見遣り、バクは軽く頷く。 「旧式のゴーレムだな。 このタイプは方舟に入れると、故障してしまうんだ。 まぁ、優秀な科学者であれば簡単に直すことは出来るが、本部に持って帰るか? 壊したことがバレると気まずいのなら、アジア支部で直してやってもいいが」 「アジア支部に行きます!!」 即決したミランダに、バクは少し驚いたものの、ちらりと笑って頷いた。 「では、はぐれないようについて来い。 帰りはウォンにでも送らせよう」 迷子になったことをあっさりと見抜かれて、ミランダは真っ赤な顔を俯ける。 「す・・・すみません・・・・・・」 「いや。 お前が任務中でないことは知っているからな」 本部からの帰りだ、と言って笑ったバクに、ミランダはますます身を縮めた。 「じゃ・・・じゃあ、あの・・・・・・」 「壮絶な追いかけっこだったと、ウォーカー達が言っていたが、その様子じゃ決着はついていないのだろう?」 「はい・・・・・・」 消え入りそうな声で答えたミランダを肩越しに見遣り、バクはまた笑う。 「実は、ウォーカーからの又聞きではあるが、事情を聞いている。 お前にとっては許しがたいことではあるだろうが、不埒な行いをしたのはリーバーではないそうだ」 「え・・・?」 紅い顔をあげたミランダに背を向けたまま、バクは頷いた。 「教団には新たに、身体を乗っ取る能力を持つエクソシストが加わったそうじゃないか。 僕がゴーレムを直している間、茶でも飲みながらその興味深い能力がどんなものか、教えて欲しいものだな」 「あ・・・・・・!」 説得するでもなく、言い訳がましい事情を説明するでもない。 ただティモシーの特殊な能力を思い出させることで、ミランダに思い至らせたバクは、肩越しに微笑んだ。 「ようこそ、アジア支部へ」 ネームプレートの下がったドアを開け、手を差し伸べたバクに、ミランダが頷く。 「ありがとうございます・・・」 消え入りそうな声で呟き、深々とこうべを垂れた彼女に、バクは笑みを深めて頷いた。 一方、実家に戻ったエミリアは、テーブルを挟んで父親と向かい合っていた。 「ケガはもう、いいのか?」 「大丈夫よ」 「あのガキは元気なのか?」 「もちろん」 親子なのに、緊迫した雰囲気で一問一答を繰り返し、互いに隙を窺う。 「それで・・・」 「パパ、ちゃんと休んでる?」 じろりと睨まれ、ガルマーはビクッとこけた頬に手を当てた。 「もっ・・・もちろん・・・!」 「嘘。 酷い顔色よ?」 「そりゃ不良娘が出てった心労からだ!!」 すかさず言い返すと、エミリアの眉が跳ねる。 「あたしがいたって休まなかったじゃないの! もう若くないんだから、無理すんのいい加減にやめなさいよっ!!」 「なにぃっ?! 私はまだ若いもんに負けはせんっ!!」 「そゆこと言ってんじゃないのよ!! パパが倒れたら皆に迷惑かけるでしょ! 分担しなさいよ分担っ!!」 「お前、英国に行っちまったんだろうが!! 少しはあっちに染まったらどうだ!!」 「お生憎様!! 仕事はゆったりのんびりがあたし流よ!誰にも文句言わせないわ!!」 「だったらそんな仕事辞めて実家に帰って来い! 嫁入り前の娘が狼どもの巣になんぞ入団しやがって!!」 「女の子だって結構いるのよ!ティモシーのお師匠様は女だし!」 「なにぃっ?! あのガキ、まさか教団でもセクハラこいてんじゃないだろうな?!」 「それはお師匠様とあたしが全力で止め・・・て・・・・・・」 途中ではた、と気づき、エミリアは目を見開いた。 「あぁ――――――――――――っ!!!!」 「なんだっ?!」 「そっかそれでミランダ・・・! あのクソガキィィィっ!!!!」 ミランダとリーバーの間になにがあったのか、ほぼ正確に予測したエミリアが、椅子を蹴って立ち上がる。 「帰んなきゃ!!」 「待て! こんな夜更けに、若い娘がふらふら出歩くもんじゃない!」 「だったら教会まで送ってよ!」 「教団なんぞ辞めて戻って来いといっとるんだ!!」 「しつっこいわね! もう決めたっつったでしょぉ?!」 ぎゃあぎゃあと喚きあい、掴みあいながら玄関を出、エミリアはガルマーを引きずって教会へ行った。 「すみませーん! すみません、開けてくださいー!」 大声で呼ばわると、神父が慌てて出てくる。 「なっ・・・何事ですか?!」 「こんばんは! 私、黒の教団の者です!方舟の間に通してくれませんか?」 父を引きずったまま、さっさとドアをくぐろうとしたエミリアはしかし、神父に止められてしまった。 「なに?」 「教団からは、なんの連絡も受けておりません」 「あぁ、そりゃそうよ! 私、うっかりここに出ちゃったんですもの。 皆には黙って来ちゃったから、早く帰らなきゃ」 なんでもないことのように言った彼女を、神父が睨む。 「それではなおさら、通すわけには行きません。 教団と連絡を取り、許可を得てから改めてお越しください」 「なんで!そんな硬いこといわなくったって・・・」 「神の名において、通すわけには行きません!」 きっぱりと言われ、エミリアは歩を引いた。 「わかりました・・・また、改めます」 憮然と頬を膨らませ、踵を返したエミリアの背を、神父が睨むような目で見送る。 「・・・なによ!堅苦しいわね!」 「だから言っただろう、教団なんて入るもんじゃないってな! もう帰ってくんなって言われてんだから、とっとと辞めてうちに帰れ」 「うるっさいのよ、パパはぁ!!」 怒鳴ったものの、決して治安がいいとは言えない街中で一晩過ごすわけにも行かず、エミリアは父に引きずられ、渋々家路を辿った。 「きゃあ ミランダさん、お久しぶりですぅ!!」 故障したゴーレムを修理してもらっている間、アジア支部の一室でお茶をもらっていたミランダのもとに、蝋花が駆けつけて来た。 「ウォーカーさんは元気ですかっ?!」 真っ先に愛しの彼のことを問う蝋花に、ミランダは思わず笑い出す。 「えぇ、元気ですよ。 今日もラビ君やリナリーちゃんと一緒に、何かこそこそしていたけど・・・」 「こそこそ?」 首を傾げた蝋花に、ミランダは頷いた。 「きっと・・・リーバーさん・・・のお誕生会でも企んでいるのね。明日だから・・・」 囁くような細い声で言ったミランダに、蝋花がぱちりと瞬く。 「ミランダさん、班長と何かあったんですかぁ?」 「っええええええええええええ?!なんでっ?!」 突然あがった悲鳴にビクッと飛び上がった蝋花は、思わず隠れてしまった衝立の陰からそっと顔を出した。 「だ・・・だって、班長の名前を言う時、なんだか間があったしぃ・・・」 「っそそそそそんっっなことなっっいです!!!!」 真っ赤になって首を振り、引き攣った声をあげるミランダに、蝋花はぽかんと口を開けて頷く。 「・・・・・・・・・なにかあったんですねぇ」 「うっ・・・あのっ・・・その・・・!!!!」 蝋花の呆れ声に最早、なんと答えていいかもわからず、ミランダは紅い顔を俯けた。 と、蝋花が警戒を解いた小動物のように、そろそろと寄ってくる。 「話・・・聞きますけどぉ?」 もう何度目か、何人もが口にした言葉を蝋花もまた、口にした。 「あ・・・でも・・・バクさんが・・・・・・」 「支部長? またなんか、余計なおしゃべりしちゃいました?」 やや困惑げに眉根を寄せた蝋花に、ミランダは慌てて手を振った。 「ちちっ・・・違います! バクさんはとっても・・・その・・・いいアドバイスをくださって・・・・・・!」 「支部長がですかぁ?! それ、ホントに支部長でしたぁ?!」 目をまん丸にして詰め寄ってきた蝋花に、ミランダは戸惑いつつも頷く。 「は・・・方舟の中でお会いしましたから、間違いないと思いますけど・・・・・・」 「そっかぁ・・・。 方舟の中には、フォーさんも入って行けませんもんねぇ。 でも・・・支部長がぁ・・・・・・」 なおも信じがたい、という風に首を捻る蝋花に、ミランダもまた、首を捻った。 「あの・・・なにか変でしたか・・・?」 「えぇ。 だって支部長、滅多にいいこと言わな・・・きゃあんっ!!」 突然悲鳴をあげた蝋花を驚いて見遣れば、その背後に黒々と怒りのオーラを纏ったバクが立っている。 「キサマ見習いのくせにいっぱしの口を利くじゃないか」 分厚いファイルを頭の上に置かれたまま、蝋花がずきずきと痛む頭を巡らせた。 「しっ・・・支部ちょ・・・!!」 「見習いは掃いて捨てるほどいるのだ。 お前程度のスキルしかないヤツなんぞ、いつでも追い出してやっていいんだぞ?」 「そんなっ!!すみません支部長!!追い出さないでくださいッ!!」 泣いて縋る蝋花に、しかし、バクは意地悪くそっぽを向く。 「ふんっ! 口ばかり達者で役に立たない科学者はもう、十分足りているのだからな!」 「ごごごごごめんなさいぃぃぃぃぃぃぃ!!」 「あの・・・バクさん、もうそのくらいで・・・」 蝋花の絶叫に耳を塞ぎながらミランダが仲裁すると、バクはにっと笑って舌を出した。 「追い出されたくなかったら、僕に逆らわないことだな♪」 「ひくっ・・・えぐっ・・・はぃっ・・・・・・!」 しゃくりあげつつ頷いた蝋花に、ますます機嫌を良くし、バクはミランダに修復済みのゴーレムを差し出す。 「あっ・・・ありがとうございます!!」 両手にゴーレムを捧げ持ち、深々とこうべを垂れたミランダに、バクは笑って手を振った。 「いや。 それよりも早く帰った方がいいぞ。 今ならばまだ、皆、お前達が城内で鬼ごっこしてると思っているからな。 勝手に方舟を使ったとバレたら、お前はともかく、リーバーがまずいことになる」 「は・・・はい・・・・・・」 頷いたものの、もじもじとして動こうとしないミランダに、バクと蝋花が首を傾げる。 「どうした?」 「いえ・・・あの・・・・・・」 真っ赤になった顔を俯けたミランダの周りを、修復を終えたゴーレムまでもが気遣わしげに飛び回った。 「その・・・お忙しいのに申し訳ありませんが・・・道案内を・・・・・・」 「あぁ!」 「すまん、すっかり忘れていた」 蝋花が手を打つ横で、バクが気まずげに頭をかく。 「蝋花、ウォンはどこだ?」 「支部長が本部にお出かけしちゃったから、代理で南米支部に行っちゃいましたよぅ」 蝋花に非難がましく言われて、バクはますます気まずげにそっぽを向いた。 「あー・・・では仕方ない、僕が案内を・・・」 「そっ・・・そんな!! バクさん、お忙しいのに・・・!」 遠慮して必死に首を振るミランダの前に、蝋花が喜び勇んで飛び出す。 「じゃあ!私が行きます!! 本部でウォーカーさんとお茶ー 思わず本音を漏らした途端、バクにおさげを引かれて、蝋花が悲鳴をあげた。 「なにするんですかぁ!支部長のいぢわるぅー!!」 「アホか。 方舟に入ったこともないお前なんぞに、案内ができるわけないだろう。 二人で遭難したくなければ、お前はおとなしくここで留守番していろ」 「えぇ――――――――!!!! 私だってそろそろ、方舟に入れてくれたっていいじゃないですかぁ!!!!」 バクの冷たい言葉に、蝋花が涙を浮かべて縋りつくが、 「見習いの分際で10年早いっ!!」 と、一蹴されてしまう。 「10年もっ?!」 「それが嫌ならまず、ドジを治す努力をしろ!」 とどめを刺して踵を返したバクが、肩越しにミランダを見遣った。 「行くぞ、ロットー。 また迷子になりたくなければ、早くついて来い」 「は・・・はい・・・でも・・・・・・」 バクと泣きじゃくる蝋花を、ミランダが気弱げな上目遣いで見比べる。 「あの・・・いいんでしょうか・・・・・・」 支部長に案内してもらうことと、蝋花を泣かせたままでいいのかと、どちらにも気遣って問えば、バクは気安く頷いた。 「そいつはほっとけ。 それに僕は、さっきリッ・・・リリッ・・・リナリーさんっ・・・と会えなかったのでいい口実に・・・・・・」 口の中でもごもごととんでもない理由を述べたバクに、蝋花の目が吊りあがる。 「なんですかそれぇ!! 私だってウォーカーさんとお茶したいぃぃぃぃ!!!!」 バクの背にしがみついた蝋花が甲高い声で絶叫した。 「やかましい!! キサマはおとなしく留守番・・・!」 「置いてったら支部の皆に、支部長がリナリーさんに会いに行ったって言いふらしてやる!」 「なっ・・・?!」 「そしてコムイ室長に、支部長がリナリーさんに不埒な真似をしに行きましたって電話してやるぅぅぅぅぅぅっ!!!!」 「キサマ――――――――!!!!」 踵を返して電話へと走る蝋花のおさげを、バクがすかさず掴む。 「俺様にそのような仕打ちをしてただで済むと思ってるんだろうな?!」 「ふんっ! リナリーさんの危機を救ったってコトで、本部に取り立ててもらいますもんっ! そしたら毎日ウォーカーさんと一緒ですもん!!」 「ここここ・・・このっ・・・・・・!!」 「だから支部長ぉ〜 方舟に乗せてくださいぃ〜 蝋花の意外なしたたかさに目を丸くするミランダの前で、怒りに顔を真っ赤にしたバクが折れた。 「やったぁー!!!!」 快哉をあげる蝋花に歯噛みし、バクは憤然と歩を踏み出す。 「行くぞ、ロットー!! こうなれば一刻も早くリ・・・リナッ・・・・・・リナリーさんっ・・・に・・・癒してもらうのだっ・・・・・・!」 「はぁ・・・・・・」 「そうですよぉ!! 早く行きましょう〜〜〜〜!!!!」 はしゃぎ狂った蝋花に腕を引かれ、ミランダはおどおどとバクの後に従った。 「ルイジ支部長め・・・どんだけヒマだったんだよ・・・・・・!」 誕生日プレゼントだよ、と、あからさまな口実をつけて持たされた重箱には、ぎっしりとルイジ手製の菓子が詰まっている。 「まぁ・・・アレン達は喜ぶかな」 両手に提げたそれをため息と共に見遣り、リーバーはよいしょと、背に負った袋を背負いなおした。 「・・・なんか俺、家出人みたいだな」 呟いて、ふと、気まずげな顔になる。 「やっべ・・・!暗証番号・・・・・・!」 いつもの彼なら絶対にないことだが、今回、本部の許可なく勝手に方舟を使用したため、当然ながら本部に入るための暗証番号が発行されていなかった。 その上、今、改めて気づいたことだが、 「北米支部と中東支部、暗証番号なしで入っちまった・・・・・・」 おそらく、両支部長が手を回してくれたとは思うが、班長たる身がやっていいことではない。 「うわー・・・どうしよ・・・」 困り果てて呟くと、ひょこ、と、白壁の向こうからバクが顔を出した。 「なにがだ?」 「バク支部長?!」 なんでここに、と、続けようとした口が、ミランダの姿を見てぽかんと開く。 今までのように、踵を返して逃げはしなかったものの、じりじりと後退していく彼女に涙が出そうになった。 「あのさ、ミランダ・・・」 「わかってます!わかってますから・・・!」 悲鳴じみた声でリーバーの言葉を塞ぎ、ミランダはますます後退する。 「・・・だったらなんで逃げるんだ?」 「こっ・・・心の準備が・・・まだ・・・・・・」 ほとんど泣き声で言う彼女に思わずため息をつくと、その様を不思議そうに見ていた蝋花がはたと手を打った。 「そうだ! 班長!明日お誕生日なんですってね! おめでとーございますぅー あえて明るい話題を振った蝋花に、バクも便乗する。 「お前がおとめ座なんて、似合わないな」 「・・・ほっといてください」 思わず不機嫌な口調で返すと、バクはにんまりと笑った。 「僕にそんなことを言っていいのか?」 「はい?」 訝しげに見遣ると、彼はますます愉しげに笑う。 「ウォーカー達から聞いた話と、ロットーとお前の現状から察するに、お前達、本部に入る暗証番号を持ってないんだろう?」 「あっ・・・!!」 その事実にようやく気づいたミランダが、みるみる蒼褪めた。 「よかったな、支部長である僕と会えて。 二人分の暗証番号、発行してやるから黙ってついて来い」 「あ・・・ありがとうございます・・・」 バクの意外な親切に、戸惑いつつもリーバーが礼を言うと、彼は愉しげな笑声をあげる。 「なに、誕生日プレゼントだと思ってくれていい。 その代わり・・・」 にやりと、バクの口が邪悪に歪んだ。 「僕が本部室長になった暁には、部下として誠心誠意仕えろよ」 怪鳥のような笑声を発するバクに、リーバーだけでなく、ミランダと蝋花も凍りつく。 「ぜ・・・善処します・・・・・・」 辛うじて呟いたリーバーに、バクは満足げに頷いた。 その頃、再び自宅に連れ戻されたエミリアは、憮然とポケットに手を入れて・・・固い感触に目を見開いた。 「あ!これこれ!!」 ポケットから黒いゴーレムを取り出し、起動させる。 「えっとこれ、神田のゴーレムだから・・・誰に呼びかければいいのかな」 「なにっ?! 神田ってあの美形か?! お前あの美形と一緒なのか?!」 縋りついてまくし立てる父親を、エミリアはぐいぐいと押しのけた。 「うっさいわね、パパはぁ!! 同じ教団にいるんだから、仲良くしたっていいじゃない!!」 エミリアが大声をあげると、ガルマーはそれ以上の大声をあげる。 「仲がいいのかっ?! お前、パパに黙ってそんなふしだらなっ!!」 「誰がふしだらよ!! あたしと彼はそんなんじゃ・・・」 「彼だとぉぉぉぉぉぉぉぉっ?!」 ガルマーが絶叫した時、 『あ・・・あのぅ・・・・・・』 とっくに開いていた回線の向こうで、親子のただならぬ会話を聞いていた通信員が、遠慮がちに声をかけた。 『これ・・・神田さんのゴーレムじゃ・・・』 団員の声紋でしか開かないはずの回線がなぜ開いたのか、不思議そうな通信員の問いを、エミリアは華麗に無視する。 「うっかり方舟に迷い込んじゃって、今パリなの! 暗証番号発行してくれない?」 しかしその要請には、規則を盾に了承をもらえなかった。 「なによ!そんなこと言われたらお城に帰れないじゃない!」 「帰らんでいい!ここにいろ!」 「パパうるさい! じゃあ、神田を迎えに来させてよ! 彼の指示でミランダ追いかけてるうちに、方舟に迷い込んじゃったんだからさ! お願いね!」 返事を待たずに一方的に通信を切り、エミリアはゴーレムをポケットに入れた。 「これで、向こうは迎えに来ざるをえないわ!」 「お前・・・そう言う強引な所、本当に母さんそっくりだな・・・」 「ふんっ! あの教団で生きていくには、これくらい強引じゃないとダメなのよ!」 断言してやったが、彼女ほどに強引な人間は、さすがの教団にも存在しない。 だが、事情を知らないガルマーは、忌々しげながらも頷いた。 「じゃあ、あの美形が迎えに来たらまずは真空飛び膝蹴りを食らわせてから、お前の退団について話し合うことにしよう」 「退団しないっつってんじゃん!パパもうボケたの?!」 「誰がボケじゃ――――!!!!」 ガルマーの大絶叫を鼻であしらい、エミリアが踵を返す。 「コラ!!どこへ行く!!」 「教会よ! 迎えが来るんなら、ここにいちゃマズイでしょ!」 あの神父へこます!と、こぶしを握って歩を踏み出したエミリアを、ガルマーが慌てて追いかけた。 「お前神父様になにする気だ!」 「何もしやしないわよ!」 「嘘つけっ!お前、戦闘開始の顔しとるぞっ!!」 親だけに、的確に表情を読まれて、エミリアは気まずげに舌を出す。 「・・・乱暴はしないわよ。多分」 「その間はなんだ――――!!!!」 娘の気の強さをよく知るガルマーは、不安にかられてエミリアを追いかけた。 「迎え? なんで俺が」 リナリーに憑いたままのティモシーを吊るし上げていた神田は、いいところを邪魔されて、不機嫌そうに意識のないティモシーの本体を放り出した。 「あぁっ!! てめこの美形っ!! 俺の身体を粗末にすんじゃねぇ!!」 縛り上げられ、天井から吊るされたリナリーが彼女の声で喚く様に、神田は苛立たしげにティモシーの本体を踏みつける。 「だったらさっさとリナリーから出ろ、クソガキが。 ざっくり逝きてェか」 冷酷な声と共に抜き放った六幻の切っ先が、ティモシーの額に突きつけられた。 途端、ティモシー以外には見えないツキカミが、凄まじい悲鳴をあげる。 ―――― やめてや、兄さん!!その珠傷つけられたら死んでまうし!! 「へ?!お前、死んじゃうの?!」 驚いて問い返すと、ツキカミはわたわたとティモシーの本体に寄った。 ―――― そら言い過ぎやけど、痛いがな!!死ぬほど痛いがな!!!! 「それほんとっ?!」 「・・・誰と話してやがる。奇態なガキだな」 ―――― 誰がけったいや!マスターはちょぉアホなだけでけったいちゃうぞ! 「お前、フォローしてんのっ?!それともけなしてんのっ?!」 「けなしてんだよ。なんでフォローなんだ」 心底馬鹿にしきった表情で言い、神田が六幻を振り上げる。 ―――― やめてえええええええええええええっ!!!! ツキカミが絶叫した瞬間、ティモシーは身体に還り、目の前に迫った白刃を転がって避けた。 「・・・ちっ」 「いいいいいいい今ッ!!!! 本気で殺そうとしただろっ?!」 「うるせぇ」 「ここここここここの凶悪侍!!子供虐待していいのかよっ!!」 「はっ! 昔ここにいたガキ共は、今のてめぇの何倍も酷い目に遭ってんだ。 甘っちょろいこと言ってっとマジ殺るぜ?」 冗談ではない目で見据えられ、ティモシーが今にも白目を剥きそうなほどに蒼ざめる。 と、その襟首が掴まれて、軽々と吊るしあげられた。 「し・・・ししょ・・・!」 「さぁ、神田のお仕置きは終わりだ。 次はお前がやったことをみんなに白状して、ミランダとリーバーからの罰を受けるんだな」 「まだ罰があんのかよっ!!」 「二人の前に・・・・・・」 頭上から低く恐ろしい声が降り注ぎ、ティモシーは軋みをあげそうな動きで恐る恐る上を見る。 「私を降ろして・・・一発殴らせて・・・・・・!」 「ぴっ・・・!」 リナリーの恐ろしい目で睨まれたティモシーが、小さく鳴いて白目を剥いた。 「ちっ。 根性のない奴だ」 「神田!!早く降ろして!! 今回と言う今回はもう、堪忍袋の緒が切れたよ!!」 じたじたと暴れるリナリーを戒める縄を、六幻の一閃で切り裂くと、彼女は軽やかに地に降りる。 「この・・・!」 こぶしを握ったリナリーを、クラウドがおもしろそうに見つめた。 「クソガキ!!!!」 「ぴえええええええええええええええええええええ!!!!」 頭蓋骨が割れたのではないかと思うほど、ものすごい音がして、げんこつされたティモシーが泣き声をあげる。 「蹴り殺さなかっただけ、ありがたいと思ってよね!!」 わざわざ恩着せがましいことを言う彼女に本気の怒りを感じて、神田は通信ゴーレムに向き直った。 「今、忙しい」 愛想なく言ってやったが、 『拷問終了の泣き声が聞こえていますが』 と、通信ゴーレムは負けじと淡々とした口調で答える。 『エクソシストに行ってもらうなんて、確かにお門違いですが、あの人をできるだけすんなり城に帰すには、あなたに行ってもらうのがいいようなので』 「ちっ・・・めんどくせぇな」 『若い女子に人気で羨ましいことです』 皮肉というには少々毒のこもった声音が気になったが、神田は一つため息をついただけで踵を返した。 「行くのか?」 「あいつにミランダを追いかけるよう言ったのは、俺なんで」 興味深そうなクラウドの問いに殊更憮然と答えて、神田は背を向けたまま手を振る。 「公開処刑の準備をお願いします」 「うむ・・・せっかく得た弟子なのに、もういなくなってしまうとは、寂しいことだ」 「ぞんだじじょうっ!! だずげでっ・・・ぴえええええええええええええええええ!!!!」 意地悪く舌を出したクラウドに、ティモシーが泣いて縋る様を肩越しに見た神田は、意地の悪い笑みを浮かべて方舟に向かった。 「・・・と、その前に暗証番号か。 ・・・・・・発行してもらえるのか?」 あまりにも個人的な理由で方舟を使ったエミリアの分も、暗証番号が発行されることは通常であればありえない。 だが、 「リーバーとミランダが絡んでるし・・・大丈夫だろ」 ダメなら脅し取るつもりで科学班に入った神田を、相変わらず忙しい科学者達が一斉に見た。 「な・・・なんだ、神田か・・・!」 「あの・・・班長かミランダ見なかったか?」 城内を映すモニターの、どこにも二人の姿が映ってない、と、不安げな彼らに、神田はあっさりと首を振る。 「しらねェ。 だが、ミランダを追っていたエミリアが、方舟に迷い込んで実家に帰っちまったそうなんだ。 迎えに行くから、暗証番号発行してくれ」 淡々とした口調で発せられた台詞に、科学者達は一様に凍りついた。 「・・・実家に帰ったエミリアを迎えにって・・・・・・」 「お前は嫁とケンカした亭主か」 「・・・ふざけてたこと言ってっと、ブッた斬るぞ」 「ひっ!!」 凄まじい目で睨まれて、一斉に飛び上がる。 「早くしろ」 「うううううううううんっ!!」 「すすすすすすすすぐにっ!!」 方舟のセキュリティ担当者達が慌てて取り掛かり、二人分の暗証番号を発行した。 「行ってくる」 「うん・・・」 「行ってらっしゃい・・・」 方舟の中に消えた神田の背を見送るや、皆、一斉に安堵の息をつく。 「・・・意外と尻に敷かれるタイプだったんだな」 「普通の女の子ならともかく、エミリアだからなぁ・・・」 その言葉に、皆、妙に納得して、またもや一斉に頷いた。 科学班で同情されているなどとは知らず、神田はパリへの扉を開けた。 その瞬間、 「うちの娘はやらんぞ――――!!!!」 絶叫と共に放たれた真空飛び膝蹴りを、あっさりとかわす。 「エミリア、帰るぞ」 「うん! パパ!またね!」 「まっ・・・待て!!エミリアアアアアア!!!!」 教会の神父が硬直して見守る中、さっさと踵を返した神田の腕に、エミリアが縋った。 「誘拐の現行犯で逮捕する!!」 「あぁっ?」 再びの絶叫に、うるさげに神田が振り返る。 「てめぇの娘が勝手に実家に帰っちまったから、迎えに来たんだろうが!」 「あら!違うわよ、神田! ミランダ追いかけてたら、たまたまここのドア開けちゃって、ついでに家に帰っただけ!」 「それを勝手に帰ったって言わねェのかよ!」 「言わないでしょ! あたしはあんたの指示に従ったんだからさ!」 文句ある?!と詰め寄られ、神田は簡単に言葉を失った。 「・・・ちっ。 いいからとっとと帰るぞ」 「はぁい 勝利の笑みを浮かべて、エミリアが改めて神田の腕を取る。 と、 「待てと言っている!!」 怒号をあげてガルマーが、二人の腕を掴んだ。 「親の前で腕を組むとはなんと言う不届きな・・・!!」 「やぁだパパ、それどこのドイツ人の台詞?」 「確かに、リンクなら言いそうだな」 妙に納得した神田が頷いた時、もう一人のドイツ人が『扉』から飛び出てくる。 「ミ・・・!」 「捕まえたっ!!」 驚く神田を突き飛ばし、ミランダを受け止めたエミリアが、歓声を上げて彼女を抱きしめた。 「もう逃がさないから!」 「エ・・・エミリアさん・・・くるしっ・・・・・・!!」 豊満な胸に呼吸を塞がれたミランダが必死に訴えるが、エミリアは聞かず、ますます力を込める。 「だって、また逃げられちゃったら追いかけるのが大変なんだもの!」 「う・・・」 否定できないミランダは、懸命にもがいてなんとか呼吸を確保した。 「お・・・落とす気ですか・・・!」 「それもありかな、って!」 テヘ 「あの・・・おたくも教団の人?」 頷こうにもエミリアに抱きしめられていては頷けず、ミランダは彼女の肩越し、『はい』と答えた。 「わっ・・・私はこの娘の親だが・・・・・・」 「ま・・・まぁ! それはご挨拶もせずに失礼しました!」 堅苦しいほどに礼儀正しい彼女に、ガルマーはきつく寄せていた眉を開く。 「あの・・・うちの娘、教団には随分と・・・」 「はい、エミリアさんのおかげで、色々助かっています」 迷惑だろう、という言葉を放つ前にあっさりと否定され、ガルマーが言葉を失った。 「特にあの・・・ティ・・・ティモシー君の件に関しては・・・・・・」 顔を真っ赤にしたミランダの手が、小刻みに震える様に、ガルマーは忌々しげに舌打ちする。 「あのガキは相変わらずのようですな。 で? もしやあんたはあのガキから逃げて、こんなところまで?」 刑事の性で、つい事情聴取してしまったガルマーを、エミリアが睨みつけた。 「ちょっとパパ! こんなところでやめてくれる?」 「ただの世間話だろうが!」 「どこがよ! 思いっきり職質じゃない!」 エミリアが怒鳴り返した途端、 「オヤジは間違っちゃいねェだろ」 思わぬところから援護を受けて、ガルマーが目を丸くする。 「美形っ・・・おまえ・・・!」 「美形で悪ィか」 ガルマーをじろりと見遣り、神田はエミリアとミランダに歩み寄った。 「ミランダ、あのクソガキはとっ捕まえて、クラウド元帥に引き渡した。 好きなだけ仕置きさせてやるから、逃げてねェで帰って来い」 「ぅあ・・・でも・・・・・・」 消え入りそうな声で呟いたミランダに皆が耳を寄せた時、 「ここか!!」 「きゃあ!!」 『扉』から出て来たリーバーの怒号とミランダの悲鳴に、全員が驚いて飛び上がる。 「リリリリリリ!!!!」 リーバーさん、の一言も言えないほどに震えたミランダを見遣り、リーバーはエミリアを睨みつけた。 「エミリア、そのまま捕まえてろ!!」 「え?!うん・・・でも・・・・・・」 もがくミランダを抱きしめ、困惑げなエミリアに向かってリーバーが歩を進めると、彼の前にガルマーが立ち塞がる。 「どうもお久しぶりですなぁ、黒の教団のリーバー・ウェンハム班長?!」 挑戦的な口調にリーバーは眉根を寄せ、軽く会釈した。 「これは警部、先日はお世話になりまして」 「いいえぇ! 圧力に屈した上の命令に従っただけですから、協力することにはなんの問題もなかったんですがねェ! まさかうちの娘まで連れてかれるとは、ついぞ思いませんでしたよ!」 せいぜい皮肉を利かせて言ってやると、リーバーは無理矢理微笑んで歯を剥く。 「えぇ俺も、まさかお嬢さんまでついて来てくれるとは、露ほどにも思いませんでしたねェ!」 「だったら帰してくれませんか! あんたそのくらいの権限あるだろう!」 「あるけど今彼女に帰られたら、おたくが放置したせいですっかり不良と化したクソガキが敵ナシになるんすよ!」 リーバーが笑みをかき消して怒鳴ると、逆にガルマーが嫌味な笑みを浮かべた。 「はっ! あんたら屈強な男共が勢ぞろいして、たかがクソガキ一人躾けられんのか!」 「えぇ!どっかの警部がしてやられたみたいにね!」 「いい加減にしろ」 炎と毒を吐くような苛烈なやり取りに、神田が無理矢理割って入る。 「いい大人が二人してみっともねぇ。 ケンカなら外でやれ」 その間に帰る、と、エミリアの腕を掴んで方舟に入ろうとした神田の髪を、ガルマーとリーバーが二人して掴んだ。 「どさくさまぎれに娘誘拐すんな美形っ!」 「こっちの話はまだ終わっちゃいねぇんだよ!」 「だから・・・誘拐してねぇしクソガキはとっ捕まえたから、後は城で解決させりゃいいだろ!」 神田が苛立たしげに言うと、リーバーは意外そうに目を見開く。 「え?お前があのガキ、捕まえたのか?」 「あぁ。 リナリーに憑いて馬鹿な事仕掛けてきやがったから、返り討ちにしてやった」 あっさりと頷き、神田は二人の手を振り解いた。 「だからもういいだろ」 「よくない!!娘返せ!!」 一緒に方舟へ乗り込もうとするガルマーに、沸点の低い神田が目を吊り上げる。 「いちいちうるせぇんだよ!! 娘返して欲しけりゃ、てめぇがあのガキおとなしくさせろぃっ!!」 「そっ・・・それは無理だな・・・!」 仕事がある、と、あっさり諦めた父に、エミリアが頬を膨らませた。 「そうでしょうよ! いっつもそれなんだから、パパは!!」 憤然と言い放ち、エミリアは両腕でミランダを抱えるようにして方舟に向かう。 「もう帰ってこないからね!!」 「コラ!待たんかエミリア!!」 「あ・・・あのっ・・・!」 ガルマーがエミリアの腕を掴んだ弾みで彼女の力が緩み、ミランダはわたわたと逃げ出した。 「わっ・・・私、まだ・・・・・・!」 「だから! 誤解だってのはわかっただろう?!」 「でも触ったのは事実じゃないですかぁぁぁぁ!!!!」 突然の泣き声に、その場が凍りつく。 「いっ・・・いくらリーバーさんに記憶がなくったって・・・あの場面は科学班の皆さんに見られたんですっ・・・! わ・・・私、どんな顔して戻れば・・・・・・!」 「・・・あの場面?」 首を傾げたガルマーに、エミリアが鼻を鳴らした。 「ティモシーがやることって言ったら、想像つくでしょ!」 「あぁ・・・なんだそんなことか。 いいじゃないか、減るもんじゃなし」 「パパ・・・あたしのことじゃなくなると、いきなりフランス人に戻ったわね」 エミリアの非難がましい声に、わざとらしく咳払いしたガルマーは、顔を覆って泣きじゃくるミランダの肩に手を置く。 「あんたの気持ちはわかった。 教団に帰りたくないってのなら、しばらくここにいればいい」 「え・・・」 泣き顔をあげたミランダに、ガルマーが頷いた。 「うちに来るといい。 少なくとも、教会で騒ぐよりはましだろう」 そう言ってガルマーが、ちらりと神父を見遣れば、彼はぶんぶんと頷く。 「よし。 そう言うわけでエミリア。 お前もうちに戻れ」 「そう言う魂胆?!」 父の思惑を察したエミリアが憤然と鼻を鳴らした。 「せっかく旦那が迎えに来たのに!」 「誰が旦那だ!!」 見事にハモったガルマーと神田はそれぞれ、忌々しげに舌打ちし、リーバーは目を丸くする。 「見事なシンクロぶりだな、舅と婿」 「誰が舅だ!うちの娘はまだ誰にもやっとらん!」 「まだ嫁なんかもらってねぇよ!!」 「い・・・いい加減にしてください!!」 またもや騒然としだした場に、気弱げながらも必死の怒声があがった。 「きょっ・・・教会で騒がないでください!」 部屋の隅で震えていた神父の叱責に、皆が気まずげな顔をする。 「す・・・すみませんな、神父様。 こいつらはすぐに連行しますので」 「連行とか言わないでよ!」 「いいから行くぞ!」 エミリアの腕を掴み、ミランダの背を押してガルマーが出て行くと、神父はへなへなと崩れ落ち、リーバーはそんな彼に一礼して、神田は鼻を鳴らして、部屋を出て行った。 「―――― で。 エミリアが退団する方向で話を進めるが・・・」 家に着くや、開口一番言ったガルマーに、エミリアが目を吊り上げた。 「パパは黙って! さ!ミランダ、班長! なんとなくの事情は察してるから言わせてもらうけど、悪いのはティモシーなんだから、二人は仲直りしなさいよ!」 「そうだそしてとっとと帰れ」 エミリアの説得と神田の畳み掛けに、リーバーがむぅ、と、口を尖らせる。 「俺は別にケンカなんか・・・」 言いながらミランダを見遣った途端、ぷいっと顔を背けられ、絶句した。 その様子に、エミリアがぽん、と手を打つ。 「・・・そうか。わかっちゃった」 「お前、余計なこと言ったんだろ」 ビシッと神田に指差され、リーバーは目を泳がせた。 「そうなのか? どれ、おじさんに話してごらん。 恋愛問題得意だからおじさんは」 興味津々と目を輝かせ、身を乗り出してきたガルマーから、ミランダはびくびくと身を引く。 「そう困らずに! 愛のことは愛の国の住人に任せ・・・」 「ママに逃げられたくせによく言うわよ!」 鋭い声で斬りつけたエミリアに、ガルマーの目が尖った。 「ママは別の愛に旅立っただけだ!!」 「キレイに言やぁいいってもんじゃないでしょ!」 「うるせぇよお前ら!ちょっと黙ってろ!」 テーブルを叩いて怒鳴られ、親子は憮然と頬を膨らませる。 「ミランダ、この田舎もんがなに言いやがったか知らねェが・・・」 「極東の田舎もんに田舎もん呼ばわりされる覚えねぇぞ!!」 「お前も黙ってろ!」 再び叩いたテーブルが軋みをあげ、リーバーはガルマーに口を塞がれた。 神田は一つ咳払いすると、怯えるあまり今にも倒れそうなミランダに向き直る。 「・・・こいつは何も考えてねェだけで悪気はねェんだ。 許してやる必要はねぇが、このままだと仕事に差し障るから帰れ」 「・・・出たわね、仕事人間」 ちっ、と、思わず舌打ちしたエミリアの傍らで、なぜかガルマーが目を輝かせた。 「エミリア・・・! こいつに惚れるってことは、やっぱりお前、パパのこと好きだったんだな・・・!」 「なんでよっ!!」 顔を真っ赤にしたエミリアに、しかし、ガルマーはさもありなんと、得意げに頷く。 「娘は父親に似た男に惹かれる、って言うじゃないか!」 「似てんのは仕事人間だってトコだけで、パパはこんな美形じゃないでしょぉ!!」 「なにをー?! 私が若い頃は、ロベスピエールの再来と呼ばれたんだぞ!!」 「美形自慢ならサン=ジュストでしょうが!」 「あ・・・あれ?そうだったかな・・・?」 「今は革命の話じゃなく!!」 みたび叩かれたテーブルにひびが入り、ガルマーが悲鳴をあげた。 「ミランダ! お前が規律違反だってわかってんのに帰りたくねぇって言う、理由はなんだ! 返答次第では首に縄つけてでも連れて帰るっ!!」 神田の怒号を受けて、ミランダ目に涙を浮かべる。 途端、 「う・・・・・・」 今までの迫力はどこへやら、思わず歩を引いてしまった神田の背に、エミリアが取りついた。 「女の子泣かしちゃだめじゃん!!」 「お前、女の扱い方がなってないぞ! ここはおじさんに任せろ。おじさんうまいんだから、女の子の扱いは!」 言うや、早速ミランダの肩に手を置こうとしたガルマーの腕が、リーバーに掴まれる。 「なっ・・・」 「ちょっとあんたら、席外してくれません?」 眉根をひそめ、低い声で言うリーバーに、ガルマーは頑迷に首を振った。 「いやいや!! ここはおじさんが大人として指導を・・・」 「パパは黙って!」 甲高い声で口を塞がれたガルマーは、エミリアに襟首を掴まれて、後ろ向きに引きずられる。 「神田も!ボーっとしてないで行くの!」 すれ違いざま腕を取られ、神田も室外に追い出された。 「じゃ! 話終わったら呼んで! あ、お茶とかお菓子とか、適当につまんでくれていいからね!」 早口に言ってドアを閉めたエミリアを、追おうとしたミランダの前にリーバーが立ち塞がる。 「さっきは悪かった。 その・・・バク支部長達の前で、言い訳じみたこと言っちまって・・・」 彼が事情を知っていると聞いて、うっかり『俺は悪くない』と言ってしまったために、ミランダには逃げられ、蝋花には散々なじられてしまった。 「その・・・すまない」 もう一度言ったリーバーは、瞬いたミランダの頬に涙がこぼれる様に、ぎくりと凍りつく。 そのまま、息さえも止めてミランダの声を待つが、彼女は時折しゃくりあげるだけで、いつまでも言葉を発しなかった。 「ミ・・・」 「私・・・・・・」 顔を俯けたミランダが、ようやく消え入りそうな声を発する。 「すごくショックだったのに・・・みんな、大したことじゃないなんて・・・・・・!」 「そっ・・・それは・・・・・・」 朴念仁揃いの科学班とデリカシーのないエクソシストの間を逃げたミランダが、自己中心的な支部長達に一体なにを言われたのか、リーバーの脳が想像を拒否した。 「どうせ謝るのでしたら・・・皆さんの前で、堂々として欲しかったです・・・!」 きっ、とあげた涙目に非難をこめたミランダに、リーバーは半歩、歩み寄る。 「・・・本当に、ごめん」 ミランダが逃げないと見て、リーバーは更に半歩進めた。 「だけど俺、あいつに・・・ティモシーに憑かれてた時の記憶が全くなくて、気づいたらお前は逃げちまって・・・」 「わっ・・・私のせいですか・・・?!」 ムッとしたミランダの脳裏に、エミリアの言葉が閃く。 「Je ne suis pas mauvais!(私は悪くない)」 「も・・・もちろんだ!!」 これ以上こじらせたくないと、リーバーが慌てて頷いた。 「俺も・・・あちこちで叱られたよ」 「・・・・・・そうでしたね」 やや落ち着いた口調に、リーバーはほっと吐息する。 「特にルイジ支部長は・・・あの人、昔っから暢気な振りして厳しくてさ」 「そう・・・みたいですね・・・・・・」 ほんの少し、笑ったミランダの肩を、リーバーが両手で包んだ。 と、小刻みに震えていたミランダの身体が、徐々に落ち着いていく。 「その・・・」 逆に、緊張して続きの出なくなったリーバーを見上げ、ミランダは苦笑を深めた。 「らしくないですね・・・いつも、上の人にもはっきり言うのに」 「・・・誰のせいだよ」 つい、口走った途端に慌てふためく様子がおかしくて、ミランダは笑みを零す。 「リーバーさん、あの・・・・・・」 歩を引き、彼の手を振り解いたミランダが、きつく組んでいた両手を離して涙を拭った。 「ここはエミリアさんのお宅ですし、パリですから・・・私も、こちらの流儀で行きたいと思います」 「は?」 目を丸くしたリーバーの前で、ミランダが大きく息を吸い込む。 次の瞬間、 「ティモシーに乗っ取られるなんて、たるんでるんじゃありませんの?!しっかりなさい!!」 突然の大声に、ドアの外で聞き耳を立てていた三人までもが飛び上がり、転げた音がした。 だがその音も、呆然としたリーバーには聞こえず、凍りついた彼に向かってミランダは、両手を腰に当てて詰め寄る。 「もう二度と! こんなことがないようにしてくださいねっ!!」 「あ・・・あたし、あんな風に言ってる・・・?」 ドアの外に尻餅をついたまま、顔を引き攣らせたエミリアに、ガルマーと神田が同時に頷いた。 「そっくりだ」 「なによっ!」 憮然と頬を膨らませたエミリアが、再び耳を寄せたドアの向こう側で、リーバーは錆びた鉄人形のような動きで何度も頷く。 と、ミランダは吊り上げていた目を和ませ、下ろした手をいつものように重ねた。 だが、リーバーはいまだ動けないままで、ミランダを見つめている。 ややして、頬を赤らめたミランダが、いたずらっぽく笑った。 「リーバーさんまで、私の愛犬になってしまうんですか?」 小首を傾げたミランダに慌てて首を振り、リーバーは大きく息を吐く。 「・・・すげぇびっくりした」 「ふふ・・・」 先ほどのミランダのように震えてはいないものの、未だ怯えたリーバーの肩にミランダが、いつも彼がそうするように両手を置いた。 「・・・あの時とは逆ですね」 「あの時?」 「私が初めて教団に来た時・・・ヘブラスカにとても怯えて、震えていた私に、あなたがこうして『大丈夫だ』って・・・・・・」 「・・・・・・あぁ」 そう言うこともあったかと、思い出したリーバーに、ミランダは笑みを深める。 「あの時はたまたま、コムイさんがリナリーちゃん達の治療に出ていたから、あなたがついていてくれましたけど・・・本当ならなかったことなんですよね」 「そうだな。 あんなことでもなきゃ、俺はまだ、一人で大元帥に謁見できるだけの資格は・・・」 「よかったです、あなたで」 身を寄せ、そっと耳に囁きかけたミランダの背に、リーバーが両手を回した。 「あの日が・・・始まりだったんですから・・・・・・」 なんの、とは、さすがに野暮なリーバーも聞かない。 「あの時の約束、守ってくれるんですよね?」 笑みを含んだ声に、リーバーは苦笑して彼女を抱き寄せた。 「もちろん。 本部では・・・俺の目の届くところでは、ちゃんと守ってやるから・・・・・・」 言って、リーバーは気まずげに苦笑を深める。 彼女が泣いて怒ったのは、守ってやれなかった自分への抗議でもあったのかと。 「あのクソガキ、帰ったらきつくシメてやるよ」 「きっとですよ? そうしたら・・・・・・」 吐息のような囁きに、振り子時計が時を打つ音が重なった。 「来年も、お祝いして『あげます』わ」 耳に『Happy Birthday』と囁いた唇が、かすめるようなキスをする。 「あげます、って・・・まだエミリアが抜けてないのか」 苦笑して抱きしめた彼の肩に額を当て、ミランダはクスクスと笑い出した。 「もちろん。 だってまだ、『お仕置き』を見てませんものね」 それまではお預けです、と、笑う彼女に、リーバーは大仰なため息をつく。 「・・・やっぱ、俺も愛犬にされてんじゃないかな・・・・・・」 かなりの不安を覚えながら、リーバーはもう一度、大きなため息をついた。 「・・・ん?あれ?!」 「どうした?」 突然声をあげたエミリアを、神田が訝しげに見遣ると、彼女は階段そばの壁に掛けられた振り子時計を指した。 「あたしたち、0時のベル聞いてないよね?! いつの間に0時過ぎちゃった?!」 「ん? ぜんまいを巻くのを忘れていたかな?」 暢気に言ったガルマーに、エミリアはぶんぶんと首を振る。 「パパは彼女の能力を知らないから・・・もう、ミランダったら!!」 改めてドアに耳を寄せたエミリアの傍らで、神田がもたれかかっていた壁から身を起こした。 「あいつ・・・最近、妙な知恵がつくようになってきたよな」 「そりゃー、あんなワガママばっかりの教団にいるんだから、ちょっとはアタマ使わないと色々大変・・・きゃっ!」 突然開いたドアに押され、床に転げたエミリアを、神田が呆れた風に見下ろす。 「ワガママって・・・お前が言うな」 「あんたにも言われたくないわよっ! ほら!ボーっとしてないで、手を貸して!!」 無理矢理神田の手を握り、立ち上がったエミリアは、寄り添って出てきた二人ににんまりと笑った。 「どうやら解決したみたいね! じゃ!お互い旦那も迎えに来たことだし、帰りましょうか!」 「誰が旦那だ!!」 またもやガルマーと神田の声が揃い、リーバーはそのシンクロ率に呆れる。 だがそれ以上に、ミランダはエミリアのマイペースさに呆れた。 「アデューパパ!まったねー!」 「エミリアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」 泣いて縋るガルマーに軽やかな笑声を残し、神田を引きずって出て行った彼女の背を、思わず見送ってしまったミランダは、深々と吐息する。 「やっぱり・・・彼女の真似をするには、到底及ばないみたいです・・・」 「いや、そのままのお前でいいから・・・! ぜひそのままでいて欲しいから・・・!!」 リーバーが切実に訴えると、置いてけぼりのガルマーも、涙を拭って頷いた。 「あの娘は、こうと決めたら絶対引かないから・・・母親似なんだよ・・・・・・」 魂を吐きそうなほどに乾いた声を漏らし、ガルマーはミランダに向き直る。 「ミランダ嬢・・・ここでよければ、いつでも実家代わりに使っていいからな! ついでに娘も連れて帰ってくるとなおいい!!」 「あ・・・ありがとうございます」 ガルマーに縋られ、引き攣った笑みを浮かべるミランダを、リーバーがすかさず奪い返した。 「では警部、夜分にお邪魔しました。 ・・・お詫びと言ってはなんですが」 ぽつりと言って、リーバーは気まずげに目をそらす。 「ティモシーにパリでの任務がある際には、エミリアを同行させますよ」 「なんっ・・・おっ・・・お前・・・! お前いい奴だなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」 暑苦しく縋ってきたガルマーを引き剥がし、リーバーは引き攣った笑みを浮かべた。 「では警部、ごきげんよう」 「あぁ! 近々任務があることを祈っているぞ!」 ぶんぶんと、千切れんばかりに手を振って見送るガルマーに手を振り返し、二人は教会へと向かう。 だが、先行した神田とエミリアは随分早足で行ってしまったらしく、方舟の中でさえ、二人の背を見ることもなかった。 おかげで、神田達を追いかけようとしていた二人の歩調もつい、緩んでしまう。 「ここはいつも、いいお天気ですねぇ・・・」 白い建物の上に広がる、青空を見上げてミランダが呟いた。 パリでは0時を過ぎたのに、方舟の中は相変わらず燦燦と日が降り注いで心地よい。 「今日は随分、この中を走らされたな」 つい、苦情めいたことを言ったリーバーに、ミランダが苦笑した。 「まさか・・・全てのルートを正確に辿られるなんて、思っても見ませんでした」 「あぁ、それは・・・」 ひょい、と、リーバーがミランダのイヤーカフスに触れる。 「これ、迷子探知もできる特別製だから。 リンクが、アレンの無線機には絶対発信機を組み込めってうるさかったんで、こっちにもつけてみた」 「そ・・・そういう仕掛けですか・・・・・・」 何か特別な絆があるものと、期待していたミランダは落胆したが、朴念仁はむしろ得意げに胸を張った。 「これがあれば、世界中どこにいても見つけられるぜ!」 「そう・・・ですね・・・・・・」 苦笑しつつ吐息し、ミランダが頷く。 「じゃあ・・・私に何かあったら、お願いします」 「任せとけ」 頼もしく頷いたリーバーは、本部への入り口を守る衛兵に軽く会釈してドアを開けた。 「でもまずは、クソガキに教育的指導・・・っ?!」 本部に足を踏み入れた途端、リーバーは破裂音と共に飛んできたリボンと紙吹雪にまみれる。 「はんちょーおめでとー!!!!」 驚いた彼の前に、得意げな顔を並べる部下達を見下ろし、リーバーは詰めていた息を吐いた。 「くっそ・・・さっきまでは予測してたのに・・・!」 ティモシーにどんな罰を下すか、思考を巡らせていた隙をつかれ、リーバーが苦笑する。 「あ!逃亡の姫もお帰り!」 リーバーに続いて降りてきたミランダにリナリーが声をかけると、ちゃっかり彼女の側を確保していたバクが拍手した。 「素晴らしい逃亡劇だったようだな」 各支部長から聞いた、と、からかう彼のみぞおちに、蝋花の肘が入る。 「はんちょー! お菓子はバク支部長と一緒に運んでおきましたぁ!」 「ん・・・さんきゅ」 得意げに胸を逸らし、敬礼する蝋花の頭をリーバーが撫でてやると、苦しげに身を屈めていたバクが、恨みがましい目をあげた。 「・・・・・・キサマあんな重いものを僕に持たせおって!覚えてろよ!!」 「早速! 一箱いただきました 「うまかったさー バクを押しのけ、ほくほくとした顔を並べたアレンとラビが、両脇からリーバーの腕を取る。 「プレゼントは僕ら、ちゃんと用意してんですけどね!」 「元帥とユウちゃんから、特別企画あるんさー 「特別企画?」 二人に挟まれ、連行されるリーバーを、部下達もぞろぞろと追った。 「えへへー とっっっても楽しいことだよ 多分、ミランダも♪」 「私も?」 リナリーの言葉に、ふと、思い至ったミランダは、こくりと頷く。 「私の予想通りなら・・・確かに、ちょっといい気味かも・・・・・・」 「マッ・・・マンマ、それほどまでに・・・!」 いつもの彼女であれば、あり得ない言葉にミランダの怒りの大きさを思い、彼女の傍らに付き従っていたリンクが涙を浮かべた。 「長官からも、今回の件に関しては、厳重に処罰するよう、特別命令が下っておりますので!」 涙を拭いつつ、言い添えたリンクを、ミランダがちらりと見遣る。 「ヒゲにも報告したんですか?」 「はい! 長官より、マンマになにが起こったのか、至急報告しろとご命令がありましたので!」 姿勢を正して言ったリンクに、ミランダが深く頷いた。 「・・・・・・当然ですね」 「ミランダ、怖い・・・・・・」 多くの団員にとって、畏怖の対象である長官や監査官を、たやすく配下に置いてしまうミランダに、リナリーが笑みを引き攣らせる。 「でも、今回ばかりは喝采を送るよ!」 こぶしを握って言い放ったリナリーは、憤然とパーティ会場に踏み込んだ。 そこではもはや一人の味方もなく、処罰の対象とみなされた子供が、天井から吊るされている。 「はなせえええええええええええええええええええ!!!! 子供にこんなことしていいのかよ、鬼畜集団んんんんんんんんんん!!!!」 既にクラウドによって、お尻叩きの刑に処せられた子供は、顔を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにして泣き叫ぶが、ミランダを被害者にしてしまった時点でもう、情状酌量の余地はなかった。 「まったく・・・! クラウド元帥みたいな厳しい人がお師匠様だと可哀想だからって、変えてもらうよう室長に頼んであげようと思ってたけど! とんでもないわね、このクソガキ! あんたはクラウド元帥の下で、しっかり躾けられなさい!!」 エミリアにまで見捨てられ、逃げ場を失くした子供はしかし、反骨精神だけは十分に持っている。 「Je ne suis pas mauvais!(俺は悪くない)」 「あんたが悪くなくて誰が悪いのよっ!!」 エミリアに容赦ないげんこつを落とされ、ティモシーがまた、泣き声をあげた。 「・・・なんか、俺がやんなくてももう、十分仕置きされてないか?」 思わず乾いた声をあげたリーバーに、先にエミリアに連行されていた神田が鼻を鳴らす。 「相変わらず甘っちょろいな。 ガキはつけあがらせるもんじゃねェよ」 お前が言うか、と、団員達の目が口ほどにものを言うが、神田は無視して、ティモシーを吊る縄を揺らした。 「てんめぇぇぇぇぇぇっ!! 目ェ回るだろぉがあああああああああああああああ!!!!」 振り回されながら、甲高い悲鳴をあげるティモシーを神田が、妙に楽しそうな目で眺める。 「はっ! これに懲りたら、俺にケンカ仕掛けようなんざ思わねェこったな!」 「っんだよ! リナリー姉ちゃんのおっぱいがエミリアくらいあったら、余裕でこいつを痴漢に仕立てられたのにさっ!」 次の瞬間、頭をかち割られて動かなくなったティモシーに、団員達が蒼ざめた。 「リ・・・リナリー・・・ちゃん・・・?」 今の今まで、傍らにいたはずの少女の姿がないことに、ミランダは倒れそうなほど蒼ざめる。 「ティモシーが動かなくなっちゃったから、先にパーティ始めよっ!」 「あ・・・あぁ・・・・・・」 はしゃいだ声をあげて腕を取ったリナリーに、笑顔を引き攣らせたリーバーは、ふと室内を見回した。 「あれ?室長は?」 途端、リナリーが頬を膨らませる。 「兄さんは・・・意地悪魔女と一緒だよ!」 「仕事中か?」 珍しい、と、呟いた彼に、ジェリーが乾杯用のグラスを渡した。 「アンタが今日一日いなかったから、アンタの分まで一所懸命お仕事してるわよぉ パーティには出られないけど、それをプレゼント代わりにしてね、って 「あ・・・・・・」 気まずげに視線をさまよわせた彼に、ジェリーが笑う。 「じゃー センエツながら、コムたんの代わりにアタシが乾杯の音頭とっちゃうわよーん!」 「ヤッホー!」 「姐さ――――ん!!」 大歓声を受けて、嬉しげなジェリーがグラスを掲げた。 「では! 教団のみんなから・・・いえ、一部忠実なわんこ達を除いて、信頼し、尊敬され、愛されてるリーバーのお誕生日を祝って!カンパーイ 彼女らしい音頭に団員達が笑って唱和し、照れくさそうなリーバーをリンクが忌々しげに睨む。 「うわー。 ホント、心の狭いわんこですよねぇ・・・」 「こゆ時は、乾杯するふりくらいするもんさ!」 『ねー?』と声を揃え、鏡合わせに首を傾げたアレンとラビを、リンクが更に忌々しげに睨んだ。 「全くうるさい仔ネズミ共ですね! あなた達も、あの子供と並べて吊るしてあげましょうか!」 「ふんっ! やれるもんならやってみなよっ!」 「マンマが超怒るさねー 揃って舌を出し、踵を返した二人をリンクが鬼の形相で追いかける。 「上等だ! 今すぐ吊るしてやる!!」 「――――・・・って、激怒ってるリンクからも一緒にプレゼントです、リーバーさん リーバーの前で急停止したアレンが、にこりと笑って差し出した箱を、リーバーはくすくすと笑いながら受け取った。 「わんこも?そりゃ珍しい」 呪いでもかかってるんじゃないかと笑うリーバーを、まさに呪わんばかりの目でリンクが睨みつける。 「私が織ったものでしたら存分に! しかし今回はその時間がなかったもので、既製品で失礼しますよ!」 せいぜい嫌味を込めて言ってやると、箱からコウモリ柄のネクタイを取り出したリーバーは、目を見開いてジョニーとロブを見遣った。 「・・・なんでお前らとおそろいなんだ?」 「それは・・・」 にんまりと笑った二人とリーバーの間に、ラビが割って入る。 「それは俺とアレンとリナリーが、同じもんを選んじまったからさ♪ 交換しに行く時間もなかったんで、俺はジョニーにやる代わりに、ネクタイピン作ってもらったんさね♪」 ハイ、と、渡された箱を、リーバーが笑って受け取ると、リナリーがラビを押しのけた。 「私はカフスボタンだよ! ロブにあげる代わりに作ってもらったの!」 「もう・・・数時間しかないのに、こうしろああしろって、注文が多いんですよ、二人とも」 「だって自分らでやろうにも、専門的な機械使えねーもん!」 「近づいただけで怒るじゃない!」 『ねー?!』と、不満顔を合わせた二人にジョニーが肩をすくめる。 「・・・ってなワケで、作ったのは俺らなんすけど、デザインはこいつらっすから、喜んでもらえると嬉しいです」 「サンキュ わしゃわしゃと頭を撫でてやると、ジョニーは嬉しそうに笑った。 と、その光景を忌々しげに眺めていたリンクが、ふと、耳にかけた無線機に手を当てる。 「はい・・・はい、かしこまりました」 にやりと、その口元に笑みが浮かび、邪悪なオーラが溢れた。 「あ・・・! リンクが悪い顔になってる!」 気づいたアレンに指摘されても構わず、リンクはミランダに歩み寄る。 「マンマ」 「はい?」 「お楽しみの所、申し訳ないのですが・・・・・・」 ひょい、と横抱きにされて、ミランダが目を丸くした。 「長官のご好意により、本日ご心痛であられたマンマにご休養を、とのことです!」 「は?!」 嬉しげなリンクの声に、団員達も目を丸くする。 「北米リゾートにご案内いたします! 長官がお待ちですので、早速参りましょう!!」 普段冷静なリンクらしくもない哄笑をあげて、駆け去った彼を皆が唖然として見送った。 が、 「あの性悪犬が!!!!」 いち早く立ち直ったリーバーが、グラスを放って駆け出す。 「絶対!!取り戻す!!」 宣言して駆け去ったパーティの主役を、置いてけぼりにされた団員達はただ呆然と見送った。 ―――― その後、日も高くなってから。 ようやくミランダを連れて戻ってきたリーバーを、コムイの死にそうな声が呼び出した。 「ど・・・どこ行ってたのさ、リーバーくぅん・・・! 正味二日だよ、ふ・つ・か!」 書類に埋もれたコムイの、げっそりとやつれた顔に、リーバーは気まずげな笑みを向ける。 「それが・・・昨日は逃げた姫を追って、今日はさらわれた姫を取り戻しに、世界中旅を旅してしまって・・・・・・」 「・・・・・・どこの勇者ですか、あなたは」 ブリジットの呆れ声を受け、リーバーは視線をさまよわせた。 「も・・・昨日からボク、キミの分まで働いてんだからねェ!! 誕生日プレゼントだとしても、もらいすぎでしょ!! こんなことずっとやってたらボク、死んじゃうよっ!!」 きゃんきゃんと喚きたてるコムイに謝ろうとしたリーバーを、しかし、ブリジットの手が遮る。 「謝罪には及びません、リーバー・ウェンハム班長」 「えっ?!」 「なんでっ?!」 驚く二人をそれぞれ、ブリジットは氷のように冷たい目で見比べた。 「室長、昨日からの仕事量は、いつもサボ・・・いえ、時間の無駄遣いをされるあなたの代わりに、彼がやってくださっているものです」 「うっ・・・・・・!」 声を詰まらせたコムイに、ずいっとブリジットが詰め寄る。 「これで思い知らされたでしょう? 今後は心を入れ替え、お仕事に精励してくださいませ!」 「は・・・はい・・・・・・」 彼女の迫力に負け、頷いたコムイを満足げに見下ろしたブリジットは、昂然と顔をあげてリーバーを見上げた。 「お誕生日おめでとうございます。 これが私のプレゼントですわ」 その言葉に、リーバーは今の今まで、彼女の掌の上で踊らされていた可能性に思い至る。 まさかそんなことはないだろうとは思うが、それをやってしまいそうなのが彼女だった。 そんな戸惑いを隠すように、リーバーはブリジットに一礼する。 「何よりの、プレゼントです」 「喜んでいただけて光栄です」 艶やかな唇に、珍しくちらりと笑みを浮かべ、ブリジットは頷いた。 「では今後とも、ご精励くださいますよう」 「お任せください」 にこりと笑ったリーバーが、コムイを見下ろした途端、冷笑を浮かべる。 「必ず」 絶体絶命の運命に、コムイは声にならない悲鳴をあげた。 Fin. |
| 2009年班長お誕生日SSでした! これはリクNo.44『リバミラ』を使わせてもらってますよ。 『この二人が惹かれあうようになった理由的なもの』ってリクエストでしたので、一旦ケンカさせて再認識ってカンジで書いてみました(笑) えぇ、っつーのもかいんさんがね、『班長の誕生日には、リバミラ本気で大喧嘩(教団総巻き込まれ)して、世界中使っておにごっこでもしたらいい。実家に帰って貰いたい←でも実家は『実家に帰ってるエミリア嬢』のところ』とか言い出しまして(笑) 前にも『クロちゃんとの浮気を疑われてケンカ』とか言ったり(I'm so happyで書いてます)、そんなにケンカさせたいのかキミは(笑) そんなわけで、世界中鬼ごっこだったわけですが、中東支部は今のところ私の捏造です★ 中東支部は『中東』ですし、教団はカトリックなので、普通に考えればエルサレムだろうなと思うんですけど、北米支部を(多分)グランドキャニオンに置く星野様の傾向と対策から考えて、トルコのカッパドキアにありそうだな、と思います。>キリスト教徒が隠れていた場所ですから。 なのであえて近東のトルコだって設定で書いてますよ♪ 班長はオーストラリア人なのに、オセアニア支部ではなく中東支部出身、ってのは、書き間違いじゃないかなぁと今でも思っているんですが、元々化学者だったのが、ここで数学と言語学を極めたってのもいいかと思います(笑) ちなみにトルコ菓子のこと、調べてたらあまりにも甘そうな菓子の数々に、食べてもいないのにお腹いっぱいになりましたよ;;; パイのシロップ漬けって;;;;; |