† EXISTENCE V †





 †このお話は日本・江戸時代を舞台にしたD.Gray−manパラレルです†


  D.Gray−manの原作とは、ほとんど関係ありません。
  時代考証はしていませんので、頭空っぽにして読んで下さいねv


 梅雨時にしては珍しく、晴れ間の覗く日だった。
 登城した神田が評定所の控えの間に入ると、待ち構えていたコムイが袖を引く。
 「ウフフv
 オハヨー神田くぅんv
 ご機嫌はドゥーv
 「・・・・・・今、最低に悪くなった」
 無情に吐き捨てると、コムイは更に不気味に笑った。
 「じゃあ、取って置きの情報教えてあげるよーv
 「いらねぇ」
 「イヤイヤ、重要な情報だからさーぁv
 ぜひ聞きなよ、ぜひ!」
 軟体動物の動きで迫られて、神田は重く吐息する。
 「・・・なんだよ」
 「あのねーv
 リンク君がさーぁv
 倒れちゃったんだってぇーv
 「あ?!
 もうぶっ倒れたのかよ、情けねェな!!」
 奉行職が幾人もの過労死を出した激務であることは周知の事実だが、リンクはまだ、奉行職を拝命してからたったの二月だった。
 「そんでもう倒れたって、どんだけ根性ねぇんだ!」
 神田もまだ若輩の身であったが、既に1年以上は奉行職を務めているとあって、ここぞと先輩風を吹かす。
 だが、コムイはそれを振り払うように手を振った。
 「イヤイヤ、それがさーぁv
 倒れちゃったのは激務のせいじゃなくて、姉上に赤ちゃんができたかららしーよん♪」
 くすくすと楽しそうに笑うコムイを、神田は唖然として見る。
 その顔がまた面白いとばかり、コムイは笑声を大きくした。
 「おねーさんたら驚かせようとして、ずっと秘密にしてたんだって!
 そんでお墓参りの時、墓前で一緒にご報告したら、リンク君がそのままお墓の下に入りそうなほどショック受けちゃって、寝込んじゃったってさ!!」
 「・・・アホか」
 あまりの馬鹿馬鹿しさに、神田が乾いた声で呟く。
 それにはコムイも、大きく頷いた。
 「ぜひとも別れさせようって、ご老中と一緒にがんばってたのにねぇ。
 気の毒なことだよまったく!」
 言葉とは裏腹に、コムイはどこまでも楽しそうだ。
 うんざりと吐息した神田は、ふと気づいて首を傾げた。
 「そうだ、ご老中はどうしてるんだ?」
 「一緒に寝込んでるよ」
 「・・・・・・・・・は?」
 神田が呆気に取られると、ここぞ本題と、コムイがこぶしを握る。
 「そう言うわけだから、がんばってね、神田君!
 月番のルベリエ老中が寝込んだから、千歳様が月を繰り上げられたんだよん♪」
 「はぁっ?!」
 神田が驚いてくれたことに、コムイは気を良くして続けた。
 「ルベリエ様は元々、リンク君とは上司と部下だったし、今でも仲がいいから、もうこのまま月が確定するんじゃないかなー」
 くすくすと笑うコムイに、神田が詰め寄る。
 「ちょっと待てよ!!
 よりによって俺が千歳老中と?!」
 「うんv
 だから最初に、重要な情報だってゆったじゃなーぃv
 更にくすくすと笑うコムイを殴ろうと、固めたこぶしを神田は必死に押さえつけた。
 が、
 「がんばってねぇ、神田くぅんv
 千歳様って、色々黒い噂あるしィv その上今、次男のティッキーを長崎奉行にしようって運動してるみたいだしぃv
 いい機会だから、その動き阻んでぇv
 「なんで俺がっ・・・!!」
 こぶしが暴れて、大きな花器を粉々に砕く。
 「あ・・・!」
 まずい、と、気を逸らした神田の肩に、コムイの手が載った。
 「火・盗・改めv
 その言葉に、神田の動きが止まる。
 「いいじゃない、どうせもうすぐ、奉行じゃなくなるんだしさぁv
 今やれることをやってくれたってv
 くすくすと笑うコムイに向けていたこぶしを、神田はゆっくりと開いた。
 「よろしくねv
 ぽん、と肩を叩いて、コムイが先に控えの間を出る。
 残された神田は、散らばった花器の欠片を見下ろして、しばらく考えを巡らせた。


 「アラv
 神田殿、お久しぶリv
 お元気でしタか?」
 「・・・・・・おかげさまで」
 神田が腹を据えて乗り込んだ評定所に、老中の千歳がのんびりと現れた。
 「プゥv
 我輩、月番を終えテ長崎にデモ遊山しようト思ってタんですケドねェ。
 ルベリエが倒れるなんテ、迷惑デスv
 「・・・お察しします」
 ため息が混じらないよう、自制して返した応えは、老中のお気に召したようだ。
 彼はそれ以上ごねもせずにすんなりと上座へ着き、積み上げられた報告書を読みながら、他のメンバーが揃うのを待っていた。
 やがて全員が集まり、評定が開始される。
 「フム・・・我輩、皆が来る前にざっと目を通したのですケド」
 まず口を開いた老中が、取り出した扇子で書類の山を指した。
 「この月の報告書はナってマセンv
 なんデスカ、この穴だらけの数字ハ!」
 「え?!どれですか?!」
 慌てたコムイが膝を進め、老中の指す中から自分の提出した書類を取り上げる。
 「私がチェックしたものはそんなこと・・・」
 「大目付じゃありまセンよ。
 勘定奉行!もう夏バテですカ!」
 厳しく叱責されて、勘定奉行が正座したまま飛び上がった。
 「まったク、勘定方がこんナ間違いシテどうしますカ!
 ヨクご覧なさイ!
 ホラ、ココ!!」
 老中は黒い噂のある人物ではあるが、優秀であるのは間違いない。
 大量の書類の中にあったほんの少しのミスを、わずかな時間で看破するなど、中々できることではなかった。
 老中は勘定奉行への説教を一通り終えると、次は目付に対して監査報告書の誤りを指摘する。
 早朝と言うことでどこか寝惚けていた座は、老中の叱責で一瞬にして引き締まり、皆が固唾を飲んで彼を見守った。


 「・・・あー、疲れたな、早速」
 評定所での吟味が終わり、ようやく解放された神田は深々と吐息する。
 彼の提出した書類は、リナリーとエミリアが作成したために、一切のお咎めなしだった。
 「優秀な補佐役がいてよかったねェ、神田くぅんv
 帰ったらリナリーを誉めてあげてねェv
 さりげなく妹自慢をする大目付に、神田はまた吐息をこぼす。
 「上機嫌だな」
 「だってボク、叱られなかったしぃv
 くすくすと笑う大目付は、奇態な見た目と奇矯な振る舞いに反し、仕事の内容はいたってまともで優秀だった。
 「じゃあ、今日もお仕事がんばってねーv
 リナリーにも、お兄ちゃんががんばってv ってゆってたって、必ず伝えてね!」
 「出掛けに言ってんじゃねぇのかよ!」
 「こういう事は、何度言ってもいいんだよv
 楽しげに言って、コムイは手を振る。
 「また明日ー★」
 「あぁ・・・」
 また大きなため息をついた神田は、退出しようとした足を、御典医の控えの間へと向けた。
 「おい、リーバー」
 声をかけると、同僚達となにやら楽しそうに談笑していたリーバーが振り返る。
 「おう、お疲れさん♪」
 その弾んだ声に、神田は頷いた。
 「奥方、おめでたらしいな。
 ・・・・・・よかったな」
 ぼそぼそと呟いた神田に、リーバーが目を丸くする。
 「わざわざ祝いを言いに来てくれたのか?」
 「あ?!
 いやその・・・と・・・通りがかりだ!!」
 真っ赤になって言ったものの、この場所が評定所とも出口とも離れた場所にあることは、誰もが知っていた。
 「ありがとな!」
 照れくさそうな顔をして言ったリーバーに、神田は無言で頷く。
 「あいつに、墓参りの時に両親と弟に報告するから、それまで誰にも言うなって言われててさ、実家に戻されたって聞いて心配してた奴らに今、叱られてたとこだ」
 とは言うが、和やかな雰囲気はそれが、やや意地の悪い祝福であることを示していた。
 「そうか・・・。
 じゃあ、生まれたら祝いの品でも贈る」
 無愛想に言った彼に、リーバーは笑って手を振る。
 「楽しみにしてるぜv
 「あぁ・・・」
 なんだか力が抜けてしまい、神田はどことなく精彩に欠ける様子で退出していった。


 神田が奉行所に戻ると、筆頭与力のリナリーと、今は臨時雇いのエミリア、そして、なぜかアメリカ艦隊司令官のクラウドが、暢気に茶を飲んでいた。
 「・・・・・・・・・・・・何してんだ、てめェら」
 「見てわかんない?」
 「お茶をいただいている」
 「これ、パパが作ったウイロウ。食べる?」
 「そうじゃなく!!」
 平然と言った女達に、神田がイライラと声を荒げる。
 「なんであんたがここにいるんだ!」
 「あ、私か」
 まっすぐに指差されたクラウドが、暢気に頷いた。
 「昨日は馳走になったな、奉行。
 私も帰ろうとは思ったんだが、昨夜は酷い雨で濡れるのが嫌だったし、13日にはまた大目付の邸に行かねばならないのに、下田まで戻るのは面倒だから、しばらく滞在することにした」
 茶をすすりつつ、のんびりと言った彼女に、神田がこめかみを引き攣らせる。
 「下田でやるこたねぇのか!」
 「今朝、ソカロが帰ったから大丈夫だ。
 ああ見えてあいつ、結構優秀なんだぞ」
 自慢げに言うクラウドに、神田が舌打ちした。
 「だったら大目付の邸にでもいればいいだろ!
 なんで北町奉行所に居座ってんだ!」
 怒鳴ると、クラウドは子供のように頬を膨らませる。
 「だって、ジェリーのことはてっきり大目付のコックかと思っていたら、北町奉行所の専属だというではないか。
 国を出て以来、まともな食事が出来ずに5キロも痩せたんだぞ、5キロも!
 一時期、本当に干からびて死ぬかと思ったんだから、ちょっとはいい思いさせてくれ」
 「は?!じゃあメシ食いに来たのか?!」
 「悪いか!」
 開き直って、クラウドはウイロウを突き刺した。
 「下田で雇ったコックは元猟師で、魚料理ばっかり出すんだ魚料理ばっかり!!
 いくら異人嫌いったって、イジメにも程があるだろうが!」
 泣きながらウイロウを頬張るクラウドに、神田が目を吊り上げる。
 「うるせぇよ!
 そんなにここが嫌なら国に帰れ!」
 「手ぶらで帰ったらもっと悪いことになるだろうが!
 お前も幕臣ならそのくらい理解しろ!!」
 ぎゃあぎゃあと喚き合う二人の間で、茶を飲んでいたエミリアが小首を傾げた。
 「たった一日で随分仲よくなったのね」
 「うん。
 どっちも生真面目なのに遠慮がないから、あっという間に打ち解けちゃったよ」
 そのきっかけが、神田がクラウドの容姿を誉めたこと、と言うのは黙っていることにする。
 「まぁ確かに、男女と言うよりは男同士の会話だわね」
 嫉妬する気にもなれない、と心中に呟き、神田の分の茶を入れに立ったエミリアを、彼が呼び止めた。
 「なに?」
 「お前、千歳家と親しかったよな」
 「うん。
 ご近所さんだし」
 頷いた神田は、歩み寄って声を潜める。
 「ティキが長崎奉行狙ってる、ってのは本当か?」
 「・・・・・・そうみたいね」
 やはり声を潜め、頷いたエミリアのただならぬ様子に、クラウドが首を傾げた。
 「その、長崎奉行が重要な職種だというのは私も知っているが、今となってはそんなにメリットがあるものなのか?」
 「えっ?!
 クラウド様、日本語わかるの?!」
 驚くリナリーに、クラウドはあっさりと頷く。
 「ヒアリング程度だがな。
 黙っていて盗み聞きされたと後で言われるのも困るので、先に言った」
 わざわざ自分から言うとは、確かに生真面目だと、皆が唖然とした。
 が、
 「そうとわかったらここにいてもらうわけにゃいかねェ。
 大目付の邸に帰れ」
 きっぱりと言った神田に、クラウドは頬を膨らませる。
 「いいじゃないか、ちょっとくらい」
 「あんたの国じゃ、知事や裁判長や警察長官の執務室に外国人を入れて、大事な話を聞かせんのか?」
 「・・・・・・さすがにそれはないな」
 「だったら出てけ」
 またきっぱりと言われて、クラウドは渋々座を立った。
 「じゃあ、奥でフロワとお茶してていいか?」
 「部屋のもん触んなよ!」
 言外に了承してくれた神田へ、クラウドはにこりと笑う。
 「当たり前だ。
 青少年の部屋を探って、春画なんか出てきたら気まずいからな」
 「そう言う意味じゃねェ!!」
 「何か私でも役に立つことがあったら言ってくれv
 機嫌よく手を振ってクラウドが用部屋を出て行くと、神田は改めてエミリアを振り返った。
 「さっきの続きだが・・・なんだ?」
 神田の手の届かない隅で、エミリアはリナリーと手を取り合っている。
 「なによ!興味なさそうな振りして、このむっつり!むっつり!」
 「神田だけは違うと思ってたのに!やらしい!神田やらしい!!」
 いわれのない非難を受けて、神田のこめかみが引き攣った。
 「ンなもん持ってねぇよ!」
 「んまぁ!!嘘まで!!」
 「神田サイテー!!」
 「うっせぇ!
 くだらねェことで時間潰してねぇで、聞かれたことに答えろィっ!!」
 かしましい女達を怒鳴って黙らせ、神田はどっかりと腰を下ろす。
 「で?!」
 これ以上の無駄はやめろと、眼光で語る彼の前に、エミリアは吐息して座った。
 「そんなに詳しくないわよ?」
 「わかってる」
 頷いた神田に頷き返し、エミリアは千歳家が最近、幕府の有力者や長崎に伝手のある商人を招いて、頻繁に宴を開いていること、その際には多額の賂(まいない)が動いているらしいことを話す。
 「まぁ、賂の件は噂・・・よりも、ちょっとは確実だと思うわよ」
 神田にいざり寄ったエミリアは、更に声を潜めた。
 「若年寄の一人・・・噂の段階であんたに言っちゃうと、讒訴(ざんそ)になりかねないから名前は伏せるけど、代々の借金がかさんで、お邸の修繕もままならなかった方が、大工を呼んだだけじゃなく、名石をいくつも運び込んでるの」
 形のいい石は主に庭材で、遠くから取り寄せれば当然高額になる。
 邸の修繕もままならなかった者が、庭に手を入れる余裕ができたと言うことは、かなりの額を受け取っていると思われた。
 「ふん・・・老中のやりそうなこった。
 だがいくら使っても、一旦長崎奉行になっちまえば、十分取り返せるからな」
 納得した神田の傍らで、しかし、難しい顔をしたリナリーが首を傾げる。
 「どうした?」
 「うん・・・さっき、クラウド様が言ってたことが気になって・・・・・・」
 そう言ってリナリーは、額を寄せる神田とエミリアの間に割って入った。
 「さっき、『今となってはそんなにメリットがあるものなのか?』って言ってたでしょ?」
 「今も何も、日本の貿易港はあそこ一つで・・・」
 言いかけた神田が目を見開き、エミリアが唖然と口を開ける。
 「クラウド様がごり押ししてるって言う通商条約、上が決定したんじゃないの?!」
 「んなまさか!
 だったらなんで俺が知らねぇんだよ!」
 「そりゃ、あんたよりもっと上の方で話が進んでるってことでしょ!」
 三人は更に額を近づけ、声を潜めた。
 「上って、上様か?」
 「バカ?!あんたバカ?!
 そんな交渉、上様が直接するわけないじゃん!
 こういうことやるのは老中や大老よ!
 今、大老はいないから、老中の誰かね!」
 「でも・・・千歳様が、ティキ様の長崎奉行就任運動してるんだとしたら、下田での通商条約の件は知らないんだよ・・・」
 「だな。
 さもなきゃ、長崎なんて遠国じゃなく、下田の総督にでもしただろう」
 だとすれば、可能性のある老中は一人しかいない。
 「だが・・・ルベリエ老中は今、寝込んでるぜ?」
 ミランダが妊娠したから、と言う新情報に、女達は一瞬、表情を輝かせたが、すぐに顔を引き締めた。
 「それは不測の事態でしょ。
 それ以前に、動きがあったはずだわ。
 そして・・・」
 エミリアが、リナリーを見遣る。
 「うん・・・。
 多分、実際に交渉に当たってるのは兄さんだよ・・・・・・」
 眉根をひそめて、リナリーは昨日、神田の誕生会でのことを思った。
 兄はクラウドを神田に任せ、自分は彼女の武官とずっと話し込んでいたのだ。
 「あの武官が・・・どこまで交渉に携わっているのかは知らないけど、クラウド様を置いて、自分だけ下田に帰っちゃったのが気になるよ・・・」
 「あぁ、こうなったらあの人に直接・・・」
 立ち上がろうと、神田が前のめりになった瞬間、回廊から凄まじい悲鳴が上がった。
 「白昼堂々なにいかがわしい行動に及んでんですかこのセクハラ奉行!!
 オンナノコ二人も侍らせていちゃいちゃしてぇっ!!!!」
 「なっ・・・馬鹿ぬかすんじゃねぇモヤシ!!」
 「なにが馬鹿だこの淫乱!淫乱奉行!!
 エミリアお嬢様だけならともかく、筆頭与力様にまでよくも破廉恥なことを!!」
 「え?なに?
 なんか変なことされたっけ?」
 困惑したリナリーが、きょろきょろと神田とエミリアを見比べる。
 「自覚してください、筆頭与力様!
 用部屋でキッ・・・キッ・・・キィィィィィィィィィ!!!!」
 真っ赤になって顔を覆ってしまったアレンを、青筋を浮き上がらせた神田が蹴飛ばした。
 「昼間っから寝惚けたこと言ってんじゃねぇよ、馬鹿モヤシが!!
 立ち上がろうとしただけじゃねぇか!」
 「じゃあなんであんなに寄ってたんだよ!
 やらしい!やらしい!!
 大目付様に言いつけて・・・ぷぎゃっ!!」
 恐ろしい形相の神田に踏みつけられ、アレンが悲鳴をあげる。
 「てめェみてぇな下っ端にゃ聞かせらんねェ話をしてただけだ。
 これ以上くだらねェこと言うなら、今すぐ舌ァ抜いてやんぜ」
 閻魔もおののく形相で見下ろされ、アレンがすくみ上がる。
 「オラ!とっととどけ!!」
 また坪庭に蹴り出されて、アレンが泣き声をあげた。
 「いつか絶対見返してやるぅ!!」
 「はっ!
 やれるもんならやってみろ馬鹿モヤシ!」
 背後に吐き捨て、神田は奥の役宅へと向かう。
 奉行所と回廊で繋がるそこでは、クラウドが神田の父と並んで縁側に座り、暢気に談笑していた。
 「聞きてぇことがある」
 声をかけると、振り向いたクラウドは『やっと来たか』と言わんばかりの、意地の悪い笑みを浮かべる。
 「ジェリーを手放す気になったか?」
 「とぼけんな。別件だ」
 じろりと睨むと、クスクスと笑い出した。
 「気づいてくれてよかった。
 私があからさまに情報を漏らすわけには行かないが、気づかれたのでは仕方ないからな」
 「それは情報を漏らすことにはなってねぇのかよ?
 「そうだな・・・ちょっとまずいから、黙っててくれ」
 人を食った答えを返して、クラウドは神田を見上げる。
 「で?なにが聞きたい?」
 と、言われても、先に『情報を漏らさない』と言われた以上、聞けることは限られている。
 「じゃあ、俺の独り言を聞け」
 憮然と言って彼女の傍らに座ると、先ほどリナリーやエミリアと話していたことを伝えた。
 「それで、昨日の俺の『誕生会』は根回し、13日のコムイの誕生会で、確約がなるんじゃねぇかって、思ってる」
 「ふーん・・・」
 面白そうに笑って、クラウドは茶をすすった。
 「おい」
 「まぁ、独り言に独り言で返すのもどうかと思うが」
 空になった茶器を置いて、クラウドは庭の紫陽花を見遣る。
 「あの花、色が変わるだなんて、本当に珍しいな。
 多くの花は、色が変わることは枯れてしまうことと同義だが、あの花は違う。
 色が変わっても、生き生きと咲き続けるではないか」
 この国も同じ、と、クラウドは神田へ笑みを向けた。
 「鎖国以来200年の間、この国はなんら色を変えなかった。
 それはかつて欧州が、一つの宗教に支配され、誰もが聖職者の言葉を疑わなかった時代によく似ている。
 だが欧州の民は東方に、より成熟した文化があることを知り、聖職者の言葉を疑うことを知った。
 支配される民ではなく、一個の人間として覚醒したがゆえに、現在の発展がある。
 今のお前達も同じだ。
 この島国に多彩な国があるとは言え、たった一人の将軍に支配され、その支配を疑いもせず、領民たることに甘んじている。
 だが百年一日のごとき眠りから、そろそろ覚醒するときではないか?
 幕臣ではなく、藩士ではなく、領民ではなく、日本の国民として生きる道もあるのだと、私は示したいのだ」
 「・・・随分大仰なことを言ってくれるじゃねぇか」
 「大仰ではない。
 私が常々思っていることだ」
 ちなみに、と、クラウドは小首を傾げる。
 「私達は、鯨を獲るのに薪水補給したいのと、もしもの事故の時に助けてくれ、って言ってるだけなんだ。
 なのにみんなして無碍にして、酷いじゃないか・・・」
 クラウドがうるうると目を潤ませると、それまで黙って聞いていた隠居が口を開いた。
 「泣き落とししてもダメ。
 そんなこと言って、不平等条約結ぶ気満々じゃん、キミ」
 「遠い国から来たんだぞ!
 そのくらいのオマケがあってもいいじゃないか!」
 ぶぅ、と、頬を膨らませた彼女に、隠居は肩をすくめる。
 「キミがもうちょっと、譲歩してくれたらねェ」
 「これ以上譲歩したら英国に負けるんだいっ!」
 「それはキミんちの都合。
 ウチには関係ないの」
 「関係あるって言ってるのに!!」
 隠居にあしらわれ、きゃんきゃんと喚くクラウドに吐息し、神田は座を立った。
 ここは自分がいるよりも、対外交渉に慣れた父に任せた方がいい。
 そう思って奉行所に戻ると、そこにはなぜか、瓦版屋がいた。
 「なんだ?
 ウチで大口の取引でもしたのか?」
 問えば、瓦版屋はぶんぶんと首を振る。
 「違うさ!
 これから使節様に密着取材して、ウチで独占記事出して、大儲けするんさね!」
 「帰れ」
 「そんなユウちゃん!!」
 無碍に言った神田に、ラビが取り縋った。
 「ユウちゃんがグレて家出してた時、つるんでた仲じゃん!
 昔馴染みのよしみで仲介してくれさー!!!!」
 「っるっせぇな!!
 今がどんな時だかわかって言ってんのかよ!」
 「わかってるさね!
 だから瓦版屋は町のみんなに情報を送んなきゃいけないんさ!
 不安なまま、噂ばっかが流れてちゃ、いつか大混乱が起きるさね!!」
 正論を吐かれて、元々弁の立つ方ではない神田が黙り込む。
 と、その隙を突いてラビが畳み掛けた。
 「ユウはもう、俺の知ってる不良息子じゃなくて、お奉行なんさ?
 だったらまず、みんなが安心して暮らせる江戸を作るべきなんじゃね?
 もちろん、火盗改めに行ったっておんなじさ!
 むしろそっちの方が、みんなの不安を鎮める仕事しなきゃいかんさねv
 だから、と、すれ違いざま神田の肩を叩き、役宅へと向かうラビの首根っこを、リナリーが掴む。
 「な・・・なんさ、リナ?」
 「神田は丸め込めても、私はそうはいかないよ!
 第一に、瓦版に面白おかしく書かれたんじゃ、民は今の危機的状況を正しく理解しない!
 第二に、ラビはクラウド様に熱狂的な好意を持ってるから、偏向記事になりかねない!
 そしてこれが一番大事!
 たった一つの瓦版屋にだけ情報は渡せない!
 本当に江戸の民に真実を伝えたいんなら、大手瓦版屋全部でおいで!」
 ふんっと鼻を鳴らしたリナリーに、さすがのラビが声を失った。
 「ホラ!
 忙しいんだから、出てって!」
 言いながらリナリーはラビの背を押し、何事かと状況を見守る与力達の間を抜ける。
 「役宅に忍び込んだりしたら、牢屋敷に放り込むからね!
 みんなも、ラビが入ってこないように気をつけててよ!」
 与力達に言い渡すと、全員が彼女に頷いた。
 「そんな・・・リナぁ〜〜〜〜!」
 「ダメったらダメ!」
 情けない声をあげるラビに手を振ると、与力達が彼を両側から捕らえ、玄関へと連行する。
 「・・・ちぇーっ!!」
 放り出されたラビは、不満げな声をあげて、思いっきり舌を出した。
 「こうなったら大目付様に直接交渉さ!
 記者団連れて、絶対取材してやるんさー!!」
 へこたれないラビは、絶叫を撒き散らしながら奉行所を駆け出る。
 が、目当てのコムイは、未だ城内で執務中だった。
 黒船来航以来、政情不安な昨今、諸大名の動きを把握することは、最重要任務となっている。
 普段は奇矯な行動が目立つコムイも、さすがにこの状況となっては職務に精励していた。
 その用部屋に、
 「大目付殿、よろしいですかな?」
 と、若年寄の一人が声をかける。
 「あれ、どうしました、シェリル殿?」
 珍しい人の訪問を受けて、コムイが目を丸くした。
 同じ監査役とは言え、大目付は大名担当、若年寄は旗本担当と、微妙に役割が違う。
 滅多に交流のない彼の訪問に、コムイが驚くのも無理はなかった。
 と、シェリルは愛想のよい笑みを浮かべて下座に座る。
 「え?
 あ、ごめんなさいね!今、座を用意させますから!」
 旗本のコムイが上座で譜代大名のシェリルが下座と言う、あり得ない位置に慌てて、上座からどこうとするコムイを、シェリルは手をあげて制した。
 「いえいえ、私がいきなりお邪魔したのですから、お構いなく。
 すぐに退散しますから」
 言って、シェリルは笑みを深める。
 その様に警戒しながら、コムイも笑みを返した。
 「では、今日はどのようなご用で?」
 「えぇ、大した用ではないのですが、長崎奉行の件です」
 「あぁ・・・弟君が望んでいるというお話ですね」
 作りものの笑みを深めるコムイに、これまた完璧な笑みを浮かべたシェリルが頷く。
 「ご存知でしたとは、話が早い。
 現在、長崎に赴任しておられる方が、次回の交代で勘定奉行にご出世されるのでね、その後に、私の弟をどうかと考えています」
 「あー・・・それで」
 コムイは思わず呟いた。
 今朝、ルベリエの急病で月番を代わったばかりの老中が、勘定奉行の些細なミスをよく見つけたものだと思っていたが、そうではない。
 彼は特に勘定方に狙いをつけて、早々に退くよう、圧力をかけていたのだ。
 ―――― うんわー・・・。性格悪ーぃ・・・。
 友達にはなりたくないタイプだと、コムイは心中に呟く。
 だが実際に口に出したのは、『根回しは他の大目付へどうぞ』の一言だった。
 「おや、乗ってくれませんか」
 友達になりたくない老中の息子は、くすくすと笑い出す。
 「あなた達の『ティッキーを長崎奉行に!』って号令に、みんながみんな『どうぞ』で一致したら、なにかあるってバレバレじゃないですか。
 だからボクは、反対する役に回ってあげますよ?」
 にこりと笑うと、シェリルは大仰に頷いた。
 「お気遣いありがとう、大目付殿。
 でもね、できるだけ本気の反対はしないで欲しいのですよ」
 「そうは言われましてもねェ・・・」
 断りを言いかけて、コムイは口をつぐむ。
 あまりごねていると思われると、今度は賄賂の申し入れが来るに違いなかった。
 大目付の立場では、申し入れを聞いただけでも立場がまずいことになる、と、考え込んでしまったコムイをシェリルは愉快げに眺める。
 「大目付殿」
 静かな呼びかけに、ぎくりとしたコムイにシェリルは笑いかけた。
 「どうもお邪魔しました」
 「・・・は?」
 何も言われなかったことを、意外に思って声をあげれば、シェリルはその顔が面白いとばかりに笑い出す。
 「私は無理なお願いはしません。
 それが城内の作法でしょう」
 くすくすと笑って、シェリルは席を立った。
 「ではごきげんよう」
 軽く会釈して、出て行ったシェリルを、コムイは訝しげに見遣る。
 シェリルの政治手腕をよく知るだけに、こんなにもあっさりと彼が諦めたと解釈するのは危険だった。
 「なに考えてるんだろうね・・・」
 不安がつい、口をついて出る。
 「用心しなくちゃね」
 その言葉は口から出る前に、喉の奥で消えた。


 翌日は朝から、梅雨の雨が降りしきる日だった。
 使いに出たアレンは、預かった冊子が濡れないよう、懐に抱えて道を急ぐ。
 やがて着いた南町奉行所の小門をくぐり、玄関の入るとほっと吐息した。
 「ごめんくださーい!」
 声をかけると、奉行所の使用人が出てくる。
 「こんにちは。
 僕、北町奉行所のウォーカーです。
 こちらの例繰方にお使いで来ましたと伝えてください」
 一旦奥に退いた使用人は間もなく戻って、アレンを例繰方詰所へと案内した。
 「こんにちは、おじゃましま・・・あれ?」
 紙の匂いが充満する部屋に、見たことのない少女を見て、アレンが首を傾げる。
 「あの、すみません・・・。
 僕、例繰方役の人に用があって・・・」
 と、少女はこくりと頷いた。
 「私ですわ」
 「は?
 でも、ここは以前、お年寄りの・・・」
 言いかけたアレンにまた少女が頷き、ふわふわとした柔らかい髪が揺れる。
 「以前の者は、腰痛と老眼でお役返上を願い出ました」
 「あぁ・・・うちと同じですか。
 お互い大変ですね」
 アレンは笑って、大事に運んできた包みを広げた。
 「エミリアお嬢さ・・・いえ、北町の例繰方詰所の与力からです。
 3年前、南町奉行所が担当した事件に判例があるから、確認してもらって、写しをもらってくるように言われました」
 「わかりました」
 事件の経過と訴えを綴った冊子を受け取った少女は、三年前の判例が収められた棚を探し、手持ち無沙汰なアレンも彼女について行く。
 「こちらのお奉行、どうですか?
 元目付のリンク様が抜擢されたんでしょ?
 僕、あの人がまだ目付だった時に、旗本の不良息子を牢にぶち込んだらすごく怒られたんです!
 やっぱりここでもそうですか?
 今、なにしてます?
 やっぱ、目を三角にして、ちっっっっちゃーいことをネチネチ言ってるんですか?
 いじめられたりしませんか?」
 矢継ぎ早に問うアレンを無視して、少女は淡々と自身の仕事を遂行した。
 「どうぞ、ご確認ください」
 ややして差し出された冊子の、広げられたページを見て、アレンが頷く。
 「ありがとうございます!
 じゃあ、早速写しを・・・」
 「私がやりましょう」
 手を出したアレンを拒むように、少女は冊子を閉じた。
 「その方が早く終わりますし・・・・・・」
 一旦言葉を切って、少女は微かに笑う。
 「お奉行でしたら、今寝込んでらっしゃいますので、その間にお見舞いでもどうぞ」
 彼女のやや意地の悪い口調には気づかず、アレンは唖然と口を開けた。
 「寝込んでる?!あの鉄人形が?!」
 「・・・なんですか、それは?」
 聞き慣れない言葉に首を傾げると、アレンは人差し指で自分の頭を突く。
 「石頭・鉄血・鉄面皮の三拍子揃った上に、やたら頑丈じゃないですか」
 だから鉄人形、と言ったアレンに、少女は思わず吹き出した。
 「あはv
 おすましも可愛いですけど、笑うともっと可愛いですねv
 お名前を聞いてもいいですか?」
 さらっと言われて、思わず『テワク』と答える。
 「テワクさんv
 お名前も可愛いですねv
 「そ・・・そんなこと・・・ありませんけど・・・・・・」
 真っ赤になった彼女に微笑み、アレンはぺこりと頭を下げた。
 「じゃあ、よろしくお願いします!
 僕、お奉行をからか・・・ううん、お見舞いに行ってきます!」
 明るい声をあげて、アレンは踵を返す。
 「じゃあまた後で!」
 手を振ったアレンに、テワクは思わず手を振り返していた。


 朝から降りしきる雨が、重い湿り気を部屋にもたらしていた。
 ・・・いや、昨日は晴れていたのだから、この湿気は雨のせいだけではないのか。
 なんにせよ、重くのしかかって呼吸を塞いでいる事には変わりなかった。
 そんなことを考えながら、ハワードは天井へ向けて呻き声を放つ。
 高熱を発して赤らんだ額に氷嚢をのせ、目はつぶっていたが悪夢に襲われて眠れず、跳ね回る心臓にまた胸を叩かれて苦しげな呻き声をあげた。 
 「だ・・・大丈夫ですか、ハワードさん・・・」
 倒れてからたった二日で、みるみる痩せ衰えた弟に、ミランダが慌てる。
 「やっぱり、お医者様を呼びましょうか・・・」
 立ち上がろうとした途端、ハワードがミランダの袖を掴んで首を振った。
 「・・・仕方ないですねぇ・・・・・・」
 子供に戻ってしまったかのような弟に苦笑して、ミランダが座りなおす。
 「ハワードさん、早く元気になってくださいね。
 私、戌の日参りに行きた・・・ハワードさん?!」
 今まで呻いていた弟の呼吸が止まって、ミランダが慌てた。
 「誰かっ!!
 誰かお医者様を呼んでください!!
 ハワードさんが大変です!!」
 大声をあげると、なぜか北町奉行所与力のアレンが駆けつけてくる。
 「ア・・・アレン君・・・?
 なぜここに・・・・・・」
 「お使いのついでに寄りました!
 それより、大変なんでしょ?!」
 「え・・・えぇ・・・!
 ハワードさんが、急に息をしなくなってしまって・・・!」
 オロオロするミランダの前で、アレンは手を打った。
 「そう言う時の対処方法を、リーバー先生に教えてもらいましたよ!
 溺れた人にやれって!」
 得意げに言って、アレンは布団を剥ぐ。
 「リンクー!起きて――――!!!!」
 全身の体重をかけて、アレンがハワードの胸を圧した。
 と、ボギッ!!という破壊音と共に、ハワードの呼吸が戻る。
 「よし!成功!!」
 いい汗かいた!と、笑うアレンにミランダが、ますます蒼褪めた。
 「たたたっ・・・確かにっ・・・い・・・息は戻りましたけどっ・・・・・・いいい今っ・・・ろっろっろっ・・・肋骨が折れた音がっ・・・!!」
 「気のせいですよ!」
 あっけらかんと笑って、アレンはきょろきょろと部屋を見回す。
 「南町奉行所って、北町とおんなじつくりなんですね!
 お奉行の寝所も、やっぱそっくりなのかなぁ」
 さすがに役宅へは入ったことのないアレンが、興味津々と見つめる先に、見舞いの菓子が積んであった。
 じっと見つめる彼に、ミランダが苦笑する。
 「どうぞ」
 「いいんですかっ?!」
 キラキラと目を輝かせるアレンへ、ミランダが頷いた。
 「ハワードさんにいただいたんですが、まだ起きられそうにありませんからね」
 呼吸は取り戻したものの、泡を吹いている弟をため息混じりに見下ろす。
 「ありがとうございますv
 ところでリン・・・お奉行は、なんで倒れちゃったんです?」
 アレンの問いに、ミランダは首を傾げた。
 「それが、よくわからないんです・・・。
 お墓参りに行った時、両親への報告と一緒にハワードさんにも赤ちゃんができたって話したら突然・・・」
 「赤ちゃん?ミランダさんにですか?」
 「はいv
 「それはおめでとうございます!!」
 アレンが歓声をあげた途端、
 「なにが・・・めでたいと・・・言うのですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
 地獄の底から這い上がってきた鬼の形相で、ハワードが半身を起こす。
 「ウオオオオオオオオオオオオオオオカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!
 よくも私の肋骨を砕きましたねえええええええええええええええええええ!!!!」
 「ひぃっ!!」
 逃げようとしたが一瞬遅く、アレンは両手で首を掴まれた。
 「捻り殺してくれるわ!!」
 物凄い力で締め上げられ、アレンは一瞬で白目を剥く。
 「ハッ・・・ハワードさん!いけません!!」
 慌てたミランダが止めに入ると、動きを止めた弟は、じわりと涙ぐんだ。
 「えっ?!
 ど・・・どうしました?」
 なぜ泣くのか、わけがわからず困惑するミランダの前で、弟はぽろぽろと涙をこぼす。
 「えぇっ?!
 ハ・・・ハワードさん、泣かないでください!
 あぁ、よしよし・・・折れちゃった骨が痛いんですね?それともどこか苦しい?」
 声もあげずにひたすら泣く弟に困り果て、寄り添って頭を撫でてやるが、珍しいことに、それでも彼は泣き止まなかった。
 「ど・・・どうしましょう・・・・・・」
 ミランダの方が泣きそうな顔をすると、彼女に縋りつく弟が泣き顔をあげる。
 「姉上様は、お戻りくださると信じてましたのに・・・・・・!」
 「え・・・えぇー・・・・・・」
 なんでそんなことを信じていたのか、更にわけがわからず首を傾げると、ハワードは悲痛な泣き声を上げた。
 「ちょっとお嫁に行って来ますって、とてもお気軽なご様子だったではありませんか!
 だから私は、すぐに戻ってくださるって・・・!!」
 「・・・あぁ!」
 ようやく意味を理解して、ミランダが頷く。
 「予定ではもっと早く帰って来るつもりだったんですけど、中々赤ちゃんが・・・」
 「きぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
 突然ハワードが金切り声をあげ、ミランダは驚きのあまり固まった。
 「あのホーキ頭よくも姉上様にぃぃぃぃぃぃぃ!!!!
 やっぱり殺しておくべきでした!!」
 「な・・・なんてこと言うんですか、ハワードさんたら・・・」
 唖然とするミランダの傍らで、喚声に驚いて目を覚ましたアレンが目を丸くする。
 「・・・・・・どんだけ姉離れできてないんですか」
 「お黙りなさい小雀!!
 清らかな姉上様にあのホーキ頭っ・・・う・・・うぅ・・・!!」
 胸を押さえてうずくまったハワードに、唖然としていたミランダが意識を取り戻した。
 「ま・・・まぁ、ハワードさん、しっかりして。
 今、お医者様を呼んでもらいますからね?」
 「結構です!!
 あんな輩の同輩など、絶対に嫌です!見るのも嫌です!!ホーキ憎けりゃ白衣も憎い!!」
 「をいをい・・・」
 ヒステリーのあまり、わけのわからないことを言い出した彼に、アレンが呆れる。
 「で・・・でも・・・」
 困惑するミランダに、アレンが頷いた。
 「早めに診てもらった方がいいですよ?
 何本かいっちゃいましたもんね、肋骨」
 「誰がやったのですか!!」
 「僕です」
 平然と言って、アレンはにこにこと笑う。
 「なんか元気でたみたいだし、お見舞いの目的も果たしましたんで、僕は戻ります」
 「目的?」
 弟を介抱していたミランダは、顔をあげた途端、アレンが両手いっぱいに持った菓子折りに苦笑した。
 「皆さんでどうぞ」
 「えー・・・」
 一人で食べちゃだめなのか、と、アレンが残念そうな顔をする。
 「ま、いっか。
 じゃあ南のお奉行様、月番までには治してねv
 さもなきゃこっちが迷惑だしー」
 「こっ・・・このクソガキ・・・!!」
 「ばいっばーぃ!」
 肋骨を折られたハワードが動けないのをいいことに、アレンはミランダにだけ丁寧な礼をして奉行所へと戻って行った。
 と、例繰方詰所へ戻る途中、不安げな顔をした与力達に捕まる。
 「なんですか?」
 不思議に思って問えば、身を寄せてきた彼らは声を潜めた。
 「お奉行のご容態、どうだった?」
 「悪そうだったか?医者は呼んだのか?」
 「倒れたのってやっぱり、過労か・・・?」
 矢継ぎ早に聞いてくる彼らに囲まれ、アレンは困惑する。
 「容態・・・って言われましても・・・・・・」
 呼吸が止まってたから救命はしたけど肋骨を折った、という状況のどこまでをどう説明すれば自分は責任逃れできるだろうかと、考え込んだアレンに与力達が蒼褪めた。
 「まさかっ・・・!
 今のお奉行も、さきのお奉行と同じ目に・・・?!」
 「やっぱり南町奉行所は呪われてんだ!
 今のお奉行が過労死したら、三代続けて奉行殉職だぞ!!」
 「今のは若いから、前の二人みたいなことにはならないだろうって思ってたのに!!」
 かしましく喚きたてる与力達に困ったアレンは、囲まれた中で小首を傾げる。
 「あのぅ・・・少なくとも過労じゃないみたいですよ?」
 言ったアレンに、与力達の視線が刺さった。
 「それは事実だろうな?!」
 「お前、過労死寸前の人間を見たことあるのか?!適当なこと言うと許さんぞ!」
 ヒステリックに喚きたてる彼らに、アレンはむぅ、と口を尖らせる。
 「そのくらい知ってますよ!
 北の前奉行だって、過労死しかかってお役返上されたんですから!」
 「あ・・・そうか、そうだったな・・・」
 「じゃあ、本当にお奉行は過労で倒れたんじゃないんだな?!」
 しつこく念を押す与力に、アレンは頬を膨らませて頷いた。
 「よかった・・・」
 「せっかく優秀な奉行が来てくれたのに、死なれたら仕事にならん」
 聞きようによってはとんでもなく冷酷非情な台詞に、しかし、与力達の全員が頷き、アレンまでもが大きく頷く。
 「でもどうせ死ぬんなら、月番じゃない時に死んでほしいですよね!」
 「縁起でもないこと言うな!!」
 言ったのは彼らが先のくせに、怒鳴られた上にげんこつまでもらって、アレンが泣き声をあげた。
 「ひどいー!!
 僕、死に掛けたお奉行の蘇生処置したのに!」
 ここぞと切り札を出したアレンに、与力達が目を見開く。
 「死に掛けたってなんでだ?!」
 「蘇生って、息止まってたのか?!」
 詰め寄る彼らに、アレンはこくりと頷いた。
 「なんだかとってもショックなことがあったそうで、白目剥いて死に掛けてました」
 「ショック?」
 「ショックってなんだ?」
 「さぁ?
 それは自分達で聞いてみてくださいよ」
 内心、ほくそ笑んでアレンは、ようやく与力達の囲みを抜ける。
 「テワクさん、ただいま!できました?」
 例繰方詰所を覗き込むと、テワクが立ち上がり、きれいな字で写された調書を差し出した。
 「どうぞ」
 「ありがとうございます!
 はい、これ。お奉行の姉上からですv
 そう言ってアレンは、せしめてきた菓子折りの一つを差し出す。
 「姉上様・・・。
 あの、お加減はもうよろしいのでしょうか・・・?」
 「奉行なら元気ですよ!」
 いけしゃあしゃあと言ったアレンに、テワクは首を振った。
 「いえ、姉上様の・・・」
 「ミランダさん?
 別になんともなさそうでしたけど、病気だったんですか?」
 きょとん、としたアレンに、テワクは首を振る。
 言いにくそうな様子に気づいて、アレンは手を打った。
 「おめでたなんですってね!
 ミランダさんから聞きました!」
 と、テワクはほっとして頷く。
 「先日、帯に安産祈願のお守りを挟んでおられたのですが・・・とても辛そうでいらっしゃったので・・・」
 気遣わしげに役宅の方を見遣る彼女に、アレンはにこりと笑った。
 「今はミランダさん以上にリン・・・お奉行が大変だから、それどころじゃないみたいです。
 お姉さんに甘えるにも、限度ってもんがあるんですけどね!」
 アレンがくすくすと笑うと、テワクもつられて、そっと笑う。
 しかしその笑みは唐突に凍りつき、テワクは強張った顔で役宅の方を見た。
 「どうしました?」
 小首を傾げたアレンは、遠くに女の悲鳴を聞いて振り返る。
 「今の・・・ミランダさん?!」
 アレンの大声に、詰所の与力達が何事かと出てきた。
 「どうし・・・悲鳴?!」
 更に上がった悲鳴は彼らにもはっきりと聞えて、一斉に役宅へと駆け込む。
 「お奉行?!」
 「姉上殿!いかがなされた!!」
 寝所へと飛び込んだ与力達は、血に染まった若き上司と、彼を抱きしめて震える姉の姿に息を呑んだ。
 「ろっ・・・浪人風の者達がっ・・・いきなりハワードさんを斬りつけて・・・!」
 ミランダの震え声に頷くや、与力達のある者は医者を呼びに走り、ある者は二人の手当てに駆け寄り、他の者達は同心達を呼び集め、狼藉者の探索に走る。
 その機敏な動きに、血まみれのハワードは満足げに頷いた。
 「優秀な与力達です。
 これならば、北が少々頼りなくても、十分江戸市中の治安を守れることでしょう」
 「・・・怪我しても嫌味は元気なんですね」
 呆れるアレンを、ハワードはぎろりと睨みつける。
 「ウォーカー・・・!
 君が肋骨を折ってくれたせいで、反撃もできず殺されかけたのですから、少々の嫌味くらいは喜んで受けるべきだと思いますが!」
 「え?僕のせい?
 リンクが恨み買ったとかじゃなくて?」
 「なぜ私がそんなっ・・・!」
 意外そうなアレンに反撃を試みるが、傷の痛みで口を塞がれてしまった。
 「ハ・・・ハワードさん、しっかりしてください!!」
 真っ青になったミランダが、必死に弟の傷を押さえる。
 「だ・・・大丈夫ですからね、ハワードさん!
 傷は浅いですし、こうやって圧迫止血しておけば、血は止まりますから・・・!
 辛いでしょうけど、まだ横になるのは我慢してくださいね・・・!」
 懸命に声をかけてくれる姉へ、ハワードは悲しげに頷いた。
 「姉上様はもう、医者の奥方なのですね・・・・・・・・・」
 しみじみと言えば、真っ青だった姉の顔に、ほんのり赤みがさす。
 「わ・・・私なんて何も・・・!
 療養所の皆さんのように、優秀でもなければ知識もないし・・・。
 でも、この世でたった一人の弟を失いたくないのですから、必死になるのは当然です」
 珍しく強い口調で言うと、ハワードはまるで叱られたかのようにうな垂れた。
 「・・・・・・申し訳ありません、姉上様・・・。
 姉上様まで危険な目に・・・・・・」
 その言葉に、ミランダは激しく首を振る。
 「あなたが庇ってくれましたから、私にはかすり傷ひとつありません。
 ハワードさん・・・ありがとう・・・・・・!」
 ぎゅっと抱きしめられて、ハワードは嬉しそうに笑った。
 が、
 「あなたのおかげで、赤ちゃんも無事ですよ」
 その一言で、吐血して白目を剥く。
 「きゃああ!!
 ハワードさん!!ハワードさん!!!!」
 「リンクを殺すに刃物は要らぬ、ってことですか」
 アレンの呆れ声に重なって、『医者だ!!』と叫ぶ与力がやって来た。
 「ちょうど御典医殿が・・・!」
 「あなた!!」
 地獄に仏を見たとばかり、ミランダが焦慮と安堵の混じった悲鳴をあげる。
 「早く・・・!
 ハワードさんが・・・ハワードさんを助けてください・・・!!」
 リーバーは頷くと、ずっと弟の傷口を押さえていたミランダの手を、布越しに握った。
 「俺が代わるから、素早く手を抜くんだ」
 「は・・・はい・・・!」
 頷いたミランダは、夫の力が緩んだ瞬間、すっと手を抜く。
 と、代わりにリーバーが、分厚い布で傷口を押さえた。
 「うん、しっかり止血してくれたみたいだな。
 もう、ほとんど止まってる」
 布に血が染みあがってこないことに、リーバーが満足げに頷くと、ミランダはほっとしてへたり込む。
 「あなた・・・!
 ハワードさんを・・・・・・!」
 それ以上言えず、ミランダは弟の血に塗れて震える手を握り合わせた。
 「俺に任せておけ」
 頼もしく頷いた夫に、ほっとしたミランダの頬に涙が伝う。
 と、ミランダの血塗れの袖を、誰かがそっと引いた。
 「姉上様、どうぞお召し替えを」
 振り向くとテワクが、そっと囁く。
 「ですが・・・」
 「どうぞここはお医者様にお任せを。
 初夏とは言え、こんな雨の降る日に濡れたままでは、お風邪を召されるかもしれません。
 そうなったら大変ですわ」
 テワクの声は小さく、雨の音にさえかき消えそうだったが、その言葉は皆を緊張させた。
 「そうですよ、ミランダさん!
 今、お薬飲めないんでしょう?!」
 「頼むから大事にしてくれ!!お前一人の身体じゃないんだ!!」
 アレンだけでなく、治療中の夫までもが詰め寄って来そうで、ミランダは慌てて頷く。
 「で・・・では、すみません、少し失礼を・・・・・・」
 一礼して出て行こうとしたミランダに、テワクが従った。
 「まだ、狼藉者が残っているかもしれません。
 私がお供しま・・・」
 「ここに残れ!!!!」
 突然あがった絶叫に、皆が飛び上がる。
 「え?!なに?!」
 大声過ぎて、逆に聞えなかったアレンが目を丸くする前で、リーバーがミランダを睨みつけた。
 「狼藉者が侵入した家をうろうろするのは危ない!
 着替えは誰かに取ってきてもらって、お前は側から離れるな!!」
 大声を上げるリーバーの手に力が入りすぎて、ハワードが泡を吹く。
 「ああああああなた・・・!ハワードさんが・・・!!」
 「え?!」
 傷口が左胸であったため、うっかり肺まで圧迫してしまった。
 「だ・・・大丈夫か、ハワード?
 ・・・ん?もしかしてこいつ、肋骨折れてないか?」
 リーバーの指摘に、アレンがさっと目を逸らす。
 と、上司を見守っていた南町の与力達がいきり立った。
 「お奉行によくもこんな重傷を!!」
 「ひっとらえたら、この世の地獄を見せてやるぞ!!」
 「ひぃっ!!」
 与力達の怒号に悲鳴を上げ、ぷるぷると震えるアレンにミランダが苦笑する。
 「えっと・・・では私、どうしたら・・・・・・」
 「では、私がお着替えを持ってまいります」
 「じゃあ、僕が護衛しますよ!」
 この部屋から逃げる口実を見つけたとばかり、アレンが立ち上がった。
 無用です、と言いかけて口をつぐんだテワクが頷く。
 「じゃあ、ちょっと失礼します!」
 テワクの護衛を終えたらこのまま帰ってしまおうとの思惑を胸に、アレンは彼女の後についていった。
 が、ミランダにあてがわれたらしい部屋の前で立ち止まったテワクが、ふるりと首を振る。
 「ここでお待ちください。
 女部屋は、殿方がむやみに入っていいところではありません」
 彼女の言い分はもっともなので、アレンは頷いて坪庭に面した廊下に佇んだ。
 テワクは障子を開け、ミランダの箪笥を開ける。
 どの着物にするか、考えるふりをして、そっと囁いた。
 「・・・与力達は、あなた方を追いかけて出払っています。今のうちに逃げてください。
 裏門には番人がいますから、そこは避けて・・・」
 風呂敷に着物や小物類を包み、立ち上がったテワクの背後で、かすかな足音が去って行く。
 わずかに頷いてから、テワクは障子を開けた。
 「お待たせしました」
 声をかけると、何も知らないアレンはにこりと笑う。
 「じゃあ、早く行きましょ!
 ミランダさんが風邪引いちゃったら大変です!」
 先に立って歩くアレンに、テワクは頷いて続いた。
 その途中、さりげなく背後を伺い、誰の気配もないことにほっと吐息する。
 ―――― どうかご無事で・・・。
 そのまま奉行所へ戻っていったアレンへ一礼し、テワクは寝所へ入った。


 「ただいま!
 南で写しもらってきましたよー!」
 北町奉行所に戻ったアレンは、用部屋へ声をかけた。
 「エミリアお嬢様の言った通りでした!
 ホントに同じ判例があって、びっくりしましたよ!」
 「あら、あたしの記憶力を疑ってたの?」
 意地悪く笑って鼻を弾いてやると、アレンは面白い鳴き声をあげる。
 「っるっせぇよモヤシ!
 ぴぃぴぃ泣いてないでとっとと持って来いゴラ!!」
 人使いの荒い奉行に頬を膨らませ、アレンは大事に包んだ写しを差し出した。
 と、
 「わぁ・・・!きれいな字ねぇ!
 南の例繰方、代わったの?」
 奉行の隣から覗き込んだリナリーが歓声を上げる。
 「はい、なんでも以前の方は、腰痛と老眼でお役返上したそうで、若い娘さんに代わってました!」
 「あら、ウチと同じなのね」
 アレンの『若い娘さん』という台詞に、ちょっとムッとした様子のリナリーを横目で見ながら、エミリアが笑った。
 「あちらのお奉行の縁なのかしらね?」
 「さぁ?
 バタバタしてたんで、そこまでは・・・あ!そうそう、大変だったんですよ、南!
 役宅に狼藉者が侵入して、お奉行が重傷なんです!!」
 「えぇっ?!具合はどうなの?!命が危ないの?!」
 と、心配したのはエミリア一人で、神田とリナリーは『ふぅん』と、冷たく呟く。
 「どんな恨み買ったんだ、あいつ?」
 「これで少しは嫌味が治るんじゃない?」
 「ちょっとあんたたち!!」
 二人の冷酷な言葉にエミリアがいきり立つが、どちらも軽く肩をすくめただけだった。
 「恨みを買う職業だってのは、お前も知ってるだろうが」
 「それに、ホントに危険なら、アレン君が真っ先に言うよ」
 ね?と、小首を傾げたリナリーに、アレンが頷く。
 「見たところ、傷はそんなに深くなかったです。
 襲われた時は、ミランダさんに赤ちゃんができたってことでショック死寸前でしたから、丸腰だったんでしょうね。
 お姉さん庇って、肩口から左胸にかけて斬られたんでしょう」
 こんなカンジ、と、アレンは自分の左肩から胸へ手刀を滑らせた。
 「相手は右利きか」
 「ですね。
 ミランダさんが悲鳴を上げてくれたんで、南の皆さんがすぐに駆けつけて、それ以上手が出せなかったみたいです」
 それに、と、アレンは微笑む。
 「ちょうどリーバーさんが来てくれて・・・あれ?
 そう言えばリーバーさん、なんで南町なんかにいたんだろ?
 今、御典医ですよね?」
 気づいて小首を傾げるアレンに、神田が鼻を鳴らした。
 「リンクが月番の時に決めた赴任は俺が取り消した。
 療養所へ帰る途中、嫁を迎えに行ったんじゃねぇか?」
 「はぁ・・・。
 色々大変ですね、先生も・・・・・・」
 苦笑したアレンは、また首を傾げる。
 「でも、変ですよねぇ?
 リンクは着任してまだ2ヶ月で、先月の月番では、揉めるような裁きはなかったはずですよ。
 僕、先月からの引継ぎ書見てますけど、新任奉行の様子見した人が多かったらしくて、難しい件は全部こっちに来てました」
 「おかげでこっちは大忙しだがな!」
 と、神田が忌々しげに舌打ちした。
 緊急の訴えや事件でない限り、民はより公平な裁きをする奉行を選ぶことができる。
 特に商家は、自身の損得に関わるために、新任の奉行の情報が得られるまでは、大事な訴えを待つことがあった。
 「うん、だから、リンクが『奉行として』恨みを買うことって、まだないはずなんですよ。
 目付けの時に買った恨みだとしても、相手は旗本や御家人でしょ?
 ミランダさんが見たって言う、浪人風の狼藉者なんて・・・」
 「雇ったのかもしれないじゃない。
 目付の時には何らかの理由で手を出せなかったけど、奉行として町に下りてきた今・・・・・・」
 言いながら、リナリーの声がだんだん小さくなっていく。
 「・・・ってことはないかな。
 役宅は奉行所に比べて手薄だったとしても、与力や同心がひしめく中に、わざわざ入っていくなんてねぇ・・・?」
 「あぁ、よほどのことだろうな」
 頷いて、神田はリナリーを見やった。
 「お前、家に帰れ」
 「なんでっ?!」
 「そしてモヤシ、ウチのオヤジに狼藉モンの似顔絵描かせて、南町へ持って行け。
 ミランダに見せるんだ」
 次々に指令を発する神田に、エミリアが手を打つ。
 「もしかして、ご隠居様を狙った輩と同じかもしれないってこと?!」
 「・・・気のせいなら、それに越したことはないんだがな」
 呟いて、神田は眉根を寄せた。
 「オヤジが言ってたろ、襲ってきた奴らは、攘夷派の奴らかも知れねぇって。
 リンク自身には恨まれる心当たりがなくても、あいつはルベリエ老中の腹心だ。
 もしかしたら、そっちの方かと思ってな」
 「そうね、ルベリエ老中は開国派だもんね。
 本人は今、警戒の厳重な邸で寝込んでるから手が出せないけど、奉行所の役宅は意外に手薄だわ。
 内情を知ってる者が仲間にいれば、侵入はたやすいわね」
 頷いたエミリアは、真っ青になって震えるリナリーを見やる。
 「すぐに帰りなさいよ。
 今、一番危ないのはあんたの兄さんだわ」
 無言で立ち上がったリナリーに、アレンが続いた。
 「僕も行きます!」
 「てめェは先に役宅行けっつってんだろが!!」
 すかさず怒鳴られて、アレンが足を止める。
 「で・・・でもぉー・・・・・・」
 「でもじゃねェ!!とっとと行かねェと減俸すんぞ!!」
 また怒鳴られて、頬を膨らませたアレンは役宅へと向かった。


 一方、奉行所を出たリナリーは雨の中、馬を走らせた。
 家に戻ることも考えたが、兄に会うのが先と、城へと向かう。
 だが、出自はともかく、今の身分は町奉行所与力である彼女に登城の資格はなく、やきもきしながら兄が出て来るのを待った。
 と、随分と長い時間、雨に濡れながら待つリナリーの前で、門が開く。
 傾きかけた日が、雨雲を更に黒く染める中、じっと佇む彼女を高位高官の家来達が警戒気味に見て行った。
 徐々に暗くなって行く空の下、いくつもの駕籠が通り過ぎたのち、ようやく目当ての駕籠が門をくぐる。
 「兄さん!!」
 呼びかけると、驚いた家来達が足を止め、コムイも駕籠の窓を開いた。
 「リナリー?!
 どうしたのさ、そんなにずぶ濡れになって!!」
 駕籠から出て来ようとする兄を、リナリーは駆け寄って止める。
 「護衛に来たんだよ、兄さん!
 詳しいことは帰ってから話すから、お願い、しばらく一緒にいて!」
 愛しい妹の申し出にコムイが否と言うわけもなく、彼は喜んで頷いた。
 「誰か、リナリーに傘を渡しておくれ。
 元気なのはいいけど、どれだけここにいたのさ?
 初夏ったって、まだ雨は冷たいでしょ。
 キミが代わりに駕籠に乗るかい?」
 コムイの申し出にはしかし、きっぱりと首を振る。
 「じゃあ、さっさと帰ってお風呂に入れなきゃね。
 ちっちゃい頃みたいに一緒に入・・・!!」
 「イヤ」
 「ハイハイ、リナリーってば冷たいんだから・・・」
 拗ねた兄の変わらぬ様子にほっとして、リナリーは先導の家来に頷いた。
 再び動き出した駕籠の傍から離れず、リナリーは辺りに鋭い視線を走らせる。
 ただ事ではない様子を察した家来達は、駕籠に従う足を速めて屋敷へと戻った。
 「・・・それで?」
 若い娘らしくもなく、早々に風呂から出て来たリナリーに、コムイが苦笑する。
 「何があったのかな、姫様?」
 北町奉行所では与力でも、家に戻ればリナリーは、まごうことなき旗本の姫だった。
 だが、彼女自身は与力のままで兄と向かい合う。
 「兄さんが、狙われてるかもしれない」
 大真面目に言った彼女に、コムイも表情を引き締めて頷いた。
 「覚悟の上だったけど・・・早かったね」
 呟いたコムイに、リナリーがきつく眉根を寄せる。
 来るにしても、条約締結が公けになった後だと思っていた。
 「なんで・・・情報が漏れちゃったの・・・?」
 どこから、と呟くリナリーに、コムイは首を振る。
 「攘夷派にはね、冷静な判断力のある人間は少ないんだ。
 開国を進めようとする者はみんな売国奴で、異人と会う奴は粛清すべき裏切り者なの。
 ボクは今日、たまたま無事だったけど、ルベリエ老中は邸で寝込んでて幸運だったよ・・・。
 開国のことで狙われるとしたら、まずはあの人か、彼の腹心で今は町奉行のリンク君だろうねぇ。
 彼らの犯行って、いかに注目を集めるかが焦点だから・・・どうしたの、リナリー?」
 真っ青になって震える妹に、コムイは気遣わしげに手を差し伸べた。
 と、リナリーは兄の腕を抱きしめる。
 「リ・・・リンクが襲われたの・・・!
 だから神田が、ご隠居を狙ったのと同じ者かもしれないから帰れって・・・!」
 「そっか、それで・・・」
 苦笑して、コムイはリナリーを抱き寄せた。
 「大丈夫だよ。リナリーが守ってくれるなら、ボクは安全だからね?」
 昔、攘夷派らしき狼藉者に両親を殺された兄妹は、彼らへの怒りも深い。
 兄までもが奪われるのではないかと、リナリーが警戒するのも無理からぬことだった。
 「兄さん・・・!
 奴らが捕まるまで、リナリーを傍にいさせて・・・!
 今の私はお城に登る資格がないけど、兄さんの家臣にしてもらえれば随行できるよ・・・!」
 そのためには与力を辞めてもかまわない、と言うリナリーに、コムイは目を見開く。
 「いいのかい?
 だってキミ、ずいぶん楽しそうに・・・」
 「兄さんが殺されちゃったら全然楽しくないんだよ!!」
 お願い、と、上目遣いで頼まれて、嫌と言えるコムイではなかった。
 「わかった。
 じゃあ、今日からずっと一緒にいようねv
 リナリーが傍にいてくれるんなら、攘夷派なんか捕まらなくていいのにv
 うっかり本音を漏らしたコムイの頬を、リナリーが抓む。
 「もう!!リナリーは真面目に言ってるのに!!」
 「イテテ!!
 ゴメンってば、許して!!」
 「許しません!!」
 きゃあきゃあとはしゃぐ兄妹には、狼藉者も近づけなかったか、その日は何事もなく過ぎていった。


 ―――― 翌日、リナリーは早朝に出仕する兄について登城した。
 評定所の控えの間までついて行くと、既に神田が座している。
 「よぉ」
 声をかけてきた彼に、リナリーは無言で一礼した。
 「昨日は無事だったみてぇだな」
 「おかげさまでねv
 はしゃいだ声をあげて、コムイは自分の座に座る。
 「神田君、ありがとぉvv
 リナリーが日がな一日傍にいてくれるなんて、家を継いで以来初めてだよーvvv
 も、これが最高の誕生日プレゼントってやつ?!
 火盗改めの職だけじゃ全然お礼に足りないから、長崎奉行なんかどうだい?!」
 「嫌がらせか!
 いらねぇよ、そんなん!!」
 軟体動物の動きで迫ってくるコムイを邪険に払った神田は、障子の向こう、回廊に佇み、じっとこちらを睨んでくる老中の姿に顔を強張らせた。
 「千歳老中、大目付の冗談ですから・・・」、
 と、言い掛けた神田に背を向け、老中は荒々しい足取りで評定の間へと向かう。
 「・・・・・・なにくだらねぇこと言ってくれてんだ!
 あのジジィが勘違いしたら面倒なことになるだろうが!!」
 「え?うんと・・・ゴメン、ボク、良かれと思って・・・」
 「ちっともいいコトねぇんだよっ!!
 なんで俺が長崎なんかに行かなきゃなんねぇんだ!
 老中への嫌がらせか!」
 怒鳴ると、コムイはあからさまに慌てた。
 「・・・・・・当たりかよ」
 乾いた声で呟くと、コムイはすごい勢いで頷く。
 「神田君が気づくと思わなかったからびっくりしたよ!
 すごいね、野生の勘!」
 「馬鹿にしてんのかテメェ!」
 怒号をあげて神田が、コムイの胸倉を掴んだ。
 「老中と若年寄がティキを長崎奉行にしようとしてんのを阻めっつったのはテメェだろうが!!」
 さすがに声を潜めた彼から、コムイは顔ごと目を逸らす。
 「えー。そんなの覚えてなーぃv
 「いざって時に逃げるつもりだな、テメェ・・・!」
 「とーぜーんv
 ケラケラと甲高い声で笑う兄と、そんな彼を今にも締め上げそうな神田に口を出すこともできず、リナリーはそっと吐息した。
 ―――― 私にも身分があれば、ここで神田を止めて、兄さんを叱ることもできるのに・・・。
 城中では、妹とは言え身分のない者は声を発することすら許されない。
 また吐息したリナリーに、コムイを突き飛ばした神田がにやりと笑った。
 「ここで口を利きてぇなら、俺に代わって町奉行にでもなるか?」
 考えを見透かされたリナリーは、真っ赤になって首を振る。
 「はっ!
 欲しけりゃいつでも譲ってやんぜ」
 「そしたらおにーちゃんと一緒に登城できるねーv
 そうしようよ、リナリーv
 むくりと起き上がるや、きゃいきゃいとはしゃぎだしたコムイに神田が意地悪く笑った。
 「となったら、住むのは役宅だがな」
 「いけません!!
 あんなむさい男だらけの奉行所に泊り込みなんて、兄さんは絶対に許しませんよ!!」
 途端に態度を翻した兄に、リナリーが苦笑する。
 早く行って、と、身振りで示すと、神田は意地悪く笑いながら、コムイは『絶対ダメだからね!』と念を押して、ようやく出て行った。


 二人が評定所に入るとそこは、険悪な空気に包まれていた。
 発生場所は思った通り老中で、二人は気まずい思いで座に着く。
 ―――― さて、どんな攻撃がくるか・・・。
 奇しくも心中に同じ言葉を呟いた二人を、老中が睨みつけた。
 彼が帯から扇子を抜き、その先を積み上げられた書類に向けた瞬間、二人は同時に耳を塞ぐ。
 「二人トモなんでスカこの書類ハ!!
 仕事舐めルのも大概ニなサイ!!!!」
 すさまじい怒号に飛び上がったのはしかし、他のメンバーで、当の本人達は鼓膜を破られることもなく、しれっと頷いた。
 「すみませーん」
 「以後気をつけます」
 いけしゃあしゃあと言った彼らに、老中の顔が真っ赤に染まる。
 「ちっとモ反省ガ見えまセン!!
 アナタタチ、それでモ幕府の重役デスカ!!」
 「一応」
 「今は」
 「キイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!」
 老中の絶叫は城中に響き、控えの間にいたリナリーを飛び上がらせた。
 「なっ・・・なに?!」
 思わず声をあげた口を、リナリーは慌てて塞ぐ。
 そのままそっと部屋の外へ耳を澄ませると、絶叫の主らしき声が、更に怒鳴っているのが聞こえて頬を膨らませた。
 ―――― なによ!北町の書類は私とエミリアで作ったんだから、間違えてなんかないもん!
 兄さんのは知らないけど、と、更に耳を澄ませたリナリーは、老中の声がますますエキサイティングしていることに気づいて、苦笑する。
 ―――― 反撃されてるんだ。
 神田や兄のことだから、老中に対しても傍若無人な態度を取っているのだろうと思い至り、老中が気の毒になってきた。
 ―――― あんなに怒鳴って、大丈夫かな?
 老中は、そうは見えなくても随分な年だと聞いていたが、怒声を聞く限り、随分と元気に思える。
 だがそう思ったのはリナリーがその姿を見ていなかったからで、評定所では在席の面々が、今にも脳の血管が切れて倒れるのではと、はらはらしていた。
 「ご老中〜・・・わかりましたから、そんなに興奮しないでくださいよ〜。
 ここで倒れられたら、みんなに私たちのせいだって言われちゃうもん〜」
 ねぇ?と、声をかけられた神田が頷く。
 「難癖つけられるのは迷惑です」
 「誰のせいデこんなニ怒ってルンですカ!!!!」
 「え?ダレ?神田君?」
 「お前だろ。
 俺は書類作ってねェんだから」
 「アナタタチですヨッ!!!!フゥッ!!!!」
 絶叫の後、奇妙な声がしたと思った途端に老中が、どすん、と、倒れこんだ。
 「ホラァ〜」
 「言わんこっちゃない」
 元凶の二人が呆れて肩をすくめる前で、評定所のメンバーが大声を上げて助けを呼ぶ。
 「父上っ?!」
 御用部屋で知らせを受けた若年寄も飛んできて、評定所は大変な騒ぎになった。
 が、老中が御典医に囲まれて去ってしまうと、元凶二人は何事もなかったかのように評定を始める。
 「あ・・・あの・・・しかし、御老中抜きでは・・・・・・」
 口ごもる他の大目付達にコムイは肩をすくめた。
 「いんじゃない?
 どうせ老中なんて、箔付けの飾りだし」
 ね?と、声をかけられた神田も平然と頷く。
 「だな。
 おい、俺、月番で忙しいんだ。
 急いでやんぜ」
 冷酷な二人にため息を漏らし、一同はのろのろと座に戻った。


 評定を終えて、奉行所へ帰って行った神田と別れ、リナリーは用部屋へ向かうコムイについて行った。
 初めて見る兄の執務室は、見慣れた奉行所のそれより断然広く、断然散らかっている。
 「・・・・・・・・・お掃除してくれる人とか、いないの?」
 ようやく口を利けるようになったリナリーの問いに、コムイは恥ずかしげに笑った。
 「いるよ?
 でも、片付けられちゃうとどこに何があるかわかんなくなるから、そのままにしてもらってるんだ」
 「祐筆くらい、雇えばいいのに・・・」
 ため息混じりに言うと、コムイは肩をすくめる。
 「いたけどね、異国との応対を担当した途端、ルベリエ老中に取り上げられちゃった。
 重要機密事項だから、全部一人でやって、外に漏らすなって。
 失敗したら切り捨てる気だよ、やな人だよねー」
 不安げな顔をしたリナリーに、コムイは殊更明るく笑った。
 「心配しないでv
 お兄ちゃんはこれで結構、したたかだからさv
 それより、と、コムイは畳の上に散らばった書類を踏み分け、座に着く。
 「リナリー、例の狼藉者が捕まってもさ、ここでボクのお手伝いしない?
 ある意味、奉行所より危ない仕事だけど、ずっと一緒にいられるよ?」
 「え・・・でも・・・・・・」
 困惑するリナリーに、コムイはにこりと笑った。
 「神田君は、火盗改めに行く気満々だし、そうなったら内与力のキミは失業でしょ?
 おうちでおとなしくなんてしてないだろうから、そうしなよ」
 畳み掛ける兄に、しかし、リナリーは首を振る。
 「私、神田が火盗改めに行くんなら、ついて行くよ!」
 「はぁっ?!」
 目を剥いて絶叫した兄を、リナリーは気まずげな上目遣いで見上げた。
 「・・・・・・・・・いいでしょ?」
 「ダメに決まってるでしょ、そんなの!!
 火盗改めがどんなとこか知ってる?!凶悪犯相手にするんだよ、凶悪犯!凶!悪!!犯!!!!」
 鼓膜が破れそうな大声を出す兄に、リナリーは耳を塞いだまま頷く。
 「わかってる・・・。
 だけど私、神田の・・・」
 「許しませんっ!!!!」
 容赦なく口を塞ぐ声に、しかし、リナリーは反発もできずにうな垂れた。
 「神田君について行きたいなんてワガママ言うなら、彼を長崎に飛ばしちゃうからね!
 さすがに長崎まではついてけないでしょ!!」
 畳み掛けたコムイは、リナリーが開こうとした口を更に怒声で塞ぐ。
 「そんなことになったら、神田君はどんなに怒るだろうね!
 きっと一生、口利いてもらえないよ!」
 「う・・・ふぇ・・・えええええええええん!!!!」
 泣き出したリナリーに、コムイはうろたえた。
 が、ここは我慢とこぶしを握る。
 「泣いてもだめなものはだめです!
 危険なところとわかっていて妹をやる兄がどこにいますか!!」
 「ぎゃあああああああああああああああああああんっ!!!!」
 「ダメったらダメ!!
 泣くのやめなさい!!!!」
 文机を叩いて怒鳴ると、リナリーは唇を噛んでしゃくりあげた。
 コムイは大きなため息をついて、散らばった書類を拾い上げる。
 「リナリー、お手伝いして」
 仕事は仕事、と、態度で示した兄に頷き、リナリーは涙を拭って差し出された書類を受け取った。


 その頃、リナリーのいない奉行所では、アレンが不満げに書類の整理をしていた。
 「なんだ、元気ないな」
 未だ奉行所に居座るクラウドが、気軽に詰め所へ入ってくる。
 「怒られますよ、クラウド様!」
 ぎょっと目を丸くしたアレンにしかし、彼女は笑って手を振った。
 「奉行が帰ってくるまでだ。
 ヒアリングはできても、読み書きはできないから安心しろ」
 「本当ですかね」
 ため息混じりに呟いたアレンに、クラウドは小首を傾げる。
 「なんだ、元気がないのかと思ったらお前、拗ねてるのか」
 「えぅっ?!なんでっ?!」
 慌てた彼に、クラウドは微笑んだ。
 「リナリーがいないからつまらないんだろう?
 お前、随分リナリーがお気に入りのようだからな」
 「くぁっ・・・くぁっ・・・くぁっ・・・!!」
 「なんだ、アヒルの真似か?」
 「クラウド様、それ他の人に言った?!」
 真っ赤になって詰め寄るアレンに、クラウドはにんまりと笑う。
 「言うわけないじゃないかv
 私とお前だけの秘密だv
 「ほほほほほ・・・ほんとですか?!嘘だったら承知しませんよっ?!」
 「あぁ、嘘なんかつかないが・・・・・・」
 意地悪く言うクラウドを、押し倒さんばかりにアレンが縋った。
 「つかないけど、なにっ?!」
 「バレバレだと思うぞ、とっくにv
 「えぇっ?!」
 アレンが悲鳴を上げると、例繰方詰所から資料を持って戻って来たエミリアが首を傾げる。
 「なに騒いでんの?
 ・・・クラウド様、もうすぐお奉行が帰ってきますよ」
 早く戻れと言わんばかりのエミリアに、クラウドはにこりと笑った。
 「エミリア、アレンの好きな子知ってるか?」
 「リナリーでしょ。バレバレよ」
 あっさりと言われて、アレンが悲鳴を上げる。
 と、
 「なに騒いでんだテメェら!」
 ちょうど戻った神田が、怒声を上げた。
 が、詰所にクラウドの姿を見るや、舌打ちする。
 「・・・また出てきやがって」
 「いいじゃないか、暇なんだ」
 役宅には隠居しかいないし、とぼやくクラウドに神田が鼻を鳴らした。
 「だったらとっとと船に帰ってやることやれよ!」
 「せっかく来たんだから、江戸見物したーぃv
 「朝っぱらからこんなに雨が降ってんのに、気が知れねぇぜ!
 行きたきゃ一人で・・・」
 言いかけて、神田は首を振る。
 「命が惜しけりゃここから出るな。
 あんたの応対したオヤジや開国派の腹心が襲われてるんだ」
 「あぁ、ジョウイハとかいう連中だろ?
 怖いよな、いきなり斬りつけられたら大変だ。下手すれば死ぬんだからな」
 言葉の割りに危機感の感じられないクラウドを、神田が睨みつけた。
 「だからとっとと仲間のところに帰れっつってんだ!
 こっちも忙しいってのに、あんたまで抱えて迷惑なんだよ!」
 吐き捨てるや、クラウドが目を潤ませ、アレンとエミリアが目を吊り上げる。
 「なんっつーこと言うんですか、とーへんぼく!!」
 「あんたもうちょっと言いようってもんがあんでしょうよ!!」
 が、二人の抗議にも神田は動じなかった。
 「泣き落としはリナリーで慣れてんだ。
 その程度で動くと思うなよ」
 鼻を鳴らして神田が用部屋に行ってしまうと、クラウドが舌打ちする。
 「これが通じないとなると、次の手は・・・」
 「えー・・・」
 本気で心配したのに、と、ぼやくアレンの頭をクラウドは笑って撫でた。
 「アレン、あいつの弱点を知らないか?」
 「知ってたらとっくにお奉行の座を奪ってます!」
 「あんた・・・」
 可愛い顔して腹黒いアレンに、エミリアが呆れ声をあげる。
 「神田を追い落としたって無駄よ?
 リナリーは神田と主従関係にある内与力なんだから、神田が失脚すれば一緒にお役御免よ」
 「う・・・!
 じゃあやっぱり、筆頭与力様を直接攻略すべきですか!」
 「そうね。
 でもあの子には怖いお兄ちゃんがいるから、リナリーは落とせても、お兄ちゃん攻略は難しいでしょうね」
 「うぅ・・・・・・!」
 頭を抱えたアレンに、エミリアはにやりと笑った。
 「それにね、あたしも一応、旗本の娘だから教えてあげるけど、リナリーんちくらいの名門になったら、婿候補もそれなりの家柄じゃないと吊り合わないわよ?
 兄さんは大目付なんだから、同等かそれ以上・・・。
 順当なところじゃ神田なんだけど、ご隠居があの子の兄さんと親戚になるの嫌がってるから、よほど本人達の意志が固くない限り無理でしょうね。
 だったら今のところ、狙える位置にいるのは千歳様のところのティキ様とか・・・」
 「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」
 惨い現実を突きつけられて、アレンが悲鳴をあげる。
 「ひどい・・・!
 エミリアお嬢様、ひどいぃぃぃぃぃぃ!!!!」
 「ご・・・ごめん、そんなに泣かないで・・・」
 「そうだぞ、男の子はそんなに泣くものではない」
 アレンの錯乱振りに手を出しかねたエミリアに代わり、クラウドが泣き喚くアレンの頭を撫でてやった。
 「もし、どうしても許されぬというのなら、二人して我が国に来ればいい!
 我が国には身分などなく、お前達を知る者もない。
 二人して仲良く暮らせばいいではないかv
 「クラウド様・・・!」
 涙目を上げたアレンに、クラウドは頷く。
 「それに、大目付の妹を人質にすれば、私も後々便利そうだしな!」
 「さらっと惨いこと言わないでくださいっ!!」
 絶叫すると、用部屋から『やかましい!!』と怒号があがった。
 「しゃべってねェで仕事しろィ!!!!」
 更に怒号が来て、与力達は一斉に背筋を伸ばす。
 「ホラホラ、お奉行が怒ってるから仕事するよ。
 クラウド様も、役宅へ戻ってください」
 「・・・ちぇっ。つまらん」
 早々に仕事へ行ってしまったアレンを見送り、クラウドは渋々立ち上がる。
 「昼ごはんまで退屈だー・・・」
 エミリアにまで去られてしまって、クラウドはぼやきながら役宅へ向かう。
 「昼前で忙しいジェリーに声をかけたら怒られるだろうし・・・隠居しか相手はおらんのか」
 自国で知事の公邸と言えば、使用人だけでなく友人知人や迷惑な親戚にいたるまで大勢押しかけて、賑やかなものだ。
 だがここには、数人の雑用係の他には隠居しかいない。
 それも、普段は自邸にいるというのだから、若い奉行の身辺は閑散としていることこの上なかった。
 「寂しくないのか、あいつは・・・」
 立ち止まって呟いたクラウドの鼻先を、何かが過ぎ去る。
 「なんだ?」
 ふと見れば、傍らの柱に矢が刺さっていた。
 「っ!!」
 弓弦の響きに身を沈め、部屋に逃げ込む。
 「・・・こういう家の造りは助かるな」
 簡単に家の中に逃げ込めるが、それは敵が簡単に入り込めるということでもあった。
 「フロワ!!」
 隠居が茶を飲んでる部屋へ駆け込んだクラウドは、大声で呼ばわる。
 「敵襲だ!!」
 「うん、聞こえてる」
 のんびりとした口調で言った彼は、『よいしょ』と立ち上がった。
 「逃げるんだ!」
 「やだよ、めんどくさい」
 そう言った隠居は壁を叩き、天井近くに掛けてあった長槍を落とす。
 「しつこい輩は叩き伏せないとね」
 「なんだお前、戦えるのか」
 目を見開いた彼女に、隠居はくすりと笑った。
 「君くらいにはね」
 「そうか」
 隠居へ笑みを返し、クラウドも迫り来る足音へと向き直る。
 「ならば、助けんぞ」
 「そりゃこっちの台詞なんだけどねぇ」
 肩をすくめた隠居は、座敷に踏み込んで来た浪人達へ、鋭い目を向けた。


 「そんでモヤシ、お前ちゃんと南に行ったんだろうな?
 報告があがってねェぞ、報告が!!」
 神田が用部屋にアレンを呼び出すと、彼はふてくされた顔で頷いた。
 「昨日、ご隠居様に似顔絵を描いてもらおうとしたんですけど、構図が気に入らないとかデッサンがいまいちとか散々時間を掛けられまして。
 出来上がったのが真夜中だったもんですから、今朝行って来ました!」
 「はっ!
 それで昨日は静かだったのかよ」
 吐き捨てた神田を、エミリアが呆れ顔で見やる。
 「あんたもしかして、夕餉にお父上がいないことに気づかなかったの?」
 「いつも一人だからな。全く気になんなかったぞ」
 きっぱりと言った彼に、エミリアがため息をついた。
 「なんて寂しい人なの・・・・・・」
 「っるっせぇよ!
 オラ、モヤシ!とっとと報告しろ!」
 「ふんっ!
 リンクはまだ白目剥いてぶっ倒れてたから証言取れませんでしたけど、ミランダさんはご隠居渾身の似顔絵を見て、彼らで間違いないって言ってくれましたよ!これでいい?!」
 奉行に向かって口の利き方を知らない与力は、ご褒美にげんこつをもらう。
 「よし、これで絞れたな。
 後はこの似顔絵を市中に貼って情報を募るか。
 おい、瓦版屋を・・・」
 呼べ、と言う前に、神田の耳が役宅の騒ぎを聞き取った。
 「おいでなすった!」
 「は?なにが・・・神田!!」
 すばやく立ち上がり、踵を返した神田をエミリアが呼ぶと、彼は既に走りながら肩越しに叫ぶ。
 「お前は来るな!
 敵襲だモヤシ!
 与力集めろ!!」
 「はい!!」
 神田とは逆に、詰所へと駆けて行ったアレンが、すぐにまた役宅へと走っていく様を、エミリアはおろおろと見送った。
 この奉行所には長いこと住んでいた彼女も、こんな状況は初めてだ。
 「な・・・何かできることは・・・!」
 うろたえて辺りを見回すが、神田にも言われた通り、行けば足手まといになりかねないエミリアはここに残っている他なかった。
 「神田・・・」
 エミリアが気遣わしげに彼らが去った方を見遣る。
 だがその役宅では既に、神田達の出番さえなくなっていた。
 「おや、今頃来たの、ユー君」
 「お前達が遅いから、仕留めてしまったが良かったか?」
 意地悪く言った二人を、与力達が唖然と見つめる。
 「・・・俺が聞いたのは、こいつらの悲鳴か」
 「多分」
 声を揃えた隠居とクラウドに、神田はため息をついた。
 「おい!こいつらひっ捕らえろ!」
 顎をしゃくると、与力達が三人の浪人者を拘束する。
 「ようやくケリがついたな。
 そういうわけで、あんたは帰れ」
 「早速?!」
 息子の無情な宣告に、隠居が悲鳴を上げた。
 「そっ・・・それはないんじゃないかなユー君?!
 パパンがんばったよね?!がんばったんだよパパンは!!
 何年かぶりに本気出しちゃったんだよ?!パパンの本気を見て欲しかったよ!
 ねっ?!ねっ?!
 今日はパパンの勇姿を肴にみんなで語り明かそう大会とか!!」
 「しねぇよ!けぇれけぇれ!!」
 あまりにも冷たい神田の態度に隠居が泣き出すと、たまりかねてクラウドが進み出る。
 「いいじゃないか、ユウ・・・。
 フロワまでいなくなったら、本気で私の話し相手がいなくなってしまう・・・」
 「だからあんたも船に帰れっつってんだよ!
 それが嫌なら大目付の家か、俺の実家にでも行ってろ!」
 自分まで怒鳴られて、クラウドは不満げに口を尖らせた。
 「じゃあ、ジェリーを連れてってもいいか?」
 「絶対にだめだ!」
 それにはアレンをはじめ、多くの与力同心達も賛同し、クラウドは舌打ちする。
 「なんだなんだ、異人をいじめおって、意地の悪い民族だな!」
 「っるっせぇよ!
 文句があんなら国にけぇれ!」
 取り付く島のない神田に頬を膨らませたクラウドは、開き直ったように腕を組んだ。
 「今日で出て行けと言うのならせめて、日本の裁判を見せてもらおうじゃないか!
 当然、公平な裁きをするのだろうな!」
 「あぁ?!
 北町奉行舐めんなゴラ!」
 「はん!
 私は異人なのでな、北も南も知るか!
 四の五の言わずに実力見せてみろ!」
 「上等だコラ!
 目に物見せてやらァ!!」
 売り言葉に買い言葉で傍聴権を勝ち取ったクラウドが嬉しそうに笑う。
 「で?
 今回は現行犯逮捕だから、有無を言わせずセップクなのか?」
 わくわくと目を輝かせるクラウドに、拘束された浪人達は身を強張らせ、与力達は眉をひそめた。
 「んなわけねぇだろが。
 まずは取り調べて・・・」
 「あぁ、拷問か!」
 すかさず言ったクラウドを、神田が睨む。
 「ンなもんやりたくったってそうそう許可はおりねぇんだよ!!」
 思わず本音を漏らした彼に、浪人達は震え上がり、与力達はますます眉をひそめた。
 「・・・拷問好きらしいってことは、なんとなく察してたけど・・・」
 「やっぱり拷問やりたくて火盗改めに行きたがってんじゃないか?
 さもなきゃ、わざわざ出世コース捨てんだろ」
 「サドの趣味に生きる変態なんですね!」
 「てめぇらごちゃごちゃうっせぇよ!
 特にモヤシ!誰が変態だ!!」
 生爪剥ぐぞ、と脅されて、与力達は我先に逃げ出す。
 拘束されていた浪人達は彼らに引き倒され、歩くこともままならず引きずられて行った。
 「おお、あれが『引っ立てる』ってことか!
 私が知っているのは、ロープで馬と繋いで、疾走する馬に地面を引きずらせるというものだが、それに比べると随分優しいな!」
 「あんなの普通、やってねぇよ!」
 与力達が逃げただけだ、と、神田は冷たく言う。
 「与力達があいつらを調べて、ウラ取って、例繰方が判例を取り出してから俺が裁きを下すから・・・すんなり行っても4日はかかる」
 と、神田の話を聞きながら、指折り数えていたクラウドは頷いた。
 「では、裁きが見れるのは13日だな。
 この日はちょうど大目付の邸に招かれているから、それまで世話になるぞ」
 「あぁ。
 ・・・ってちょっと待て!!!!」
 大声を上げて、神田がクラウドを睨む。
 「なに居座る気満々なんだよ!」
 「いかんか?」
 「いいわけねぇだろが!!」
 いけしゃあしゃあと言った彼女にまた怒鳴ると、クラウドはうるさげに耳を塞いだ。
 「また引っ越すのが面倒だ。
 そして話し相手がいないのも寂しい。
 だからしばらく隠居と世話になる」
 「隠居の世話になれよ!!」
 表情を輝かせた隠居を指せば、彼は楽しげな笑声をあげる。
 「いいのかな、ユー君v そんなこと言ってぇv
 どうしても出てけって言うんなら、また豪華な行列仕立てちゃうよ?でも中身は空だよ?じいやにすんごい怒られるよ?」
 「くっ・・・・・・!」
 悔しげに声を失った神田に、二人はにんまりと笑った。
 「じゃあ、もうしばらく世話になるぞ!」
 「ジェリーv お昼ご飯、なにー?」
 きゃあきゃあとはしゃいだ声をあげる二人に、神田は忌々しげに舌打ちして背を向ける。
 「大目付の邸で解散だからな!」
 「はぁーい・・・!」
 不承不承言った彼らに鼻を鳴らし、神田は奉行所へと戻って行った。


 「まぁ・・・。
 捕まったんですか、あの人達・・・・・・」
 よかった、と、吐息したミランダに、知らせに来たアレンは頷いた。
 「それでリン・・・いえ、お奉行の容態はいかがですか?
 今朝来た時はまだ、白目剥いてましたけど」
 「えぇ、それが・・・主人が言うには、傷はたいしたことないそうなんですが、全く起きてくれなくて・・・。
 何か悪い病気にでも罹ったのではないかしら・・・」
 ミランダが心配そうに言ったことに、アレンは必死に笑いを堪える。
 「〜〜〜〜っミランダさんも、大変ですね!」
 笑いを治めるために飲み込んだ羊羹が存外に大きく、窒息寸前で何とか飲み込んだアレンがようやく言った。
 「でも、リーバー先生が診て身体に異常がないんでしたら、そのうち起きますよ」
 「そうね・・・」
 まだ不安げではあったが、ミランダは微笑んで頷く。
 「では、北のお奉行様によろしく。
 もし、私の証言が必要なんでしたら、いつでも・・・きゃっ?!」
 回廊に陶器の割れる音がして、ミランダが悲鳴を上げた。
 「なっ・・・なんですか?!」
 つい一昨日、この場で命の危険にさらされたミランダが、びくびくと震える。
 が、平然と障子を開けたアレンは、そこで呆然と佇むテワクに首を傾げた。
 「大丈夫ですか?」
 問うが、テワクは心ここにあらずといった様子で答えない。
 「テワクさん?」
 再度声を掛けると、ふらふらとへたり込んだ。
 「ど・・・どうしたんですか・・・?」
 ミランダも回廊へ出てきて問うと、テワクの目から、ぽろぽろと涙が零れ出す。
 「テワクさん?!」
 驚いたミランダが、彼女の傍へおろおろと屈みこんだ。
 と、
 「やはり、あなたの仲間でしたか」
 冷え冷えとした声に、振り向いたミランダが目を見開く。
 「ハワードさん!
 もう起きて大丈夫なんですか?!」
 白い寝巻きに羽織を掛けただけの弟に駆け寄ると、彼は苦しげに眉根を寄せた。
 「えぇ・・・。
 たまたま目を覚ましましたら、覗き込んでいたのが姉上様でなくあのホーキ頭で。
 驚きのあまり、頭突きかまして倒してしまいました」
 「なんっ・・・!
 もう!いい加減にしてくださいな!」
 叱声をあげて、弟の寝所へ行ってしまったミランダを、ハワードが寂しげに見送る。
 「姉上様は置いといて、今は知ってる事情を話してくださいよ、シスコン奉行」
 捨てられた仔犬のような様子に、心中爆笑しながらアレンが言うと、ハワードは殺しそうな目で彼を睨みつけた。
 「彼女は・・・テワクは、以前北町奉行が越権行為で裁いた目付の妹です。
 私を襲った者達に見覚えがある気がしていましたが、やはりあなたの家の者でしたね」
 テワクに歩み寄ったハワードは、涙に暮れる彼女の腕を掴んで無理やり立たせる。
 「ちょっと!!
 女の子になにするんですか!!」
 アレンが慌てて止めようとするが、リンクは構わずテワクを引き寄せた。
 「答えなさい。
 姉上様にまで、危害を及ぼすつもりでしたか?!」
 詰問に、テワクはきっとハワードを睨みつける。
 「・・・確かに、彼らは我が家の家人ですわ・・・!
 あなたが同僚である兄様を裏切って、町奉行などの手に委ねたために我が家は断絶、彼らは浪人となりました!」
 「逆恨みもいいところです!
 元はと言えばあなたの兄が・・・」
 「存じておりますとも!」
 大声を上げて、テワクはハワードの腕を振りほどいた。
 「兄は罪を犯したのです!
 ですが裁くべきは若年寄様で、町奉行ごときでは決してなかった!!」
 「・・・まさかそれで、リンクやうちの奉行を襲ったんですか?
 本人だけでなく、家族を・・・?」
 信じがたいと、目を見開くアレンを、テワクは睨みつける。
 「止めても・・・聞かなかったのです・・・!
 だからせめて、姉上様には危害が及ばぬようにと・・・」
 「戯言を!」
 「私が本気でしたら、姉上様はもうこの世におられませんわ!!」
 ミランダと初めて会った日に殺せた、と反駁する彼女に、ハワードは声を失った。
 「それに・・・北町のお父上は最初、殺す気ではなかったのです・・・。
 あの方を襲えば、攘夷派の仕業に見せられるからと・・・」
 「・・・・・・ぅわ。
 まんまと騙されちゃいましたよ」
 アレンが気まずげに呟く。
 「でも、だったらどうして今日また・・・?」
 その問いには、ふるりと首を振る。
 「私は・・・彼らがお奉行を襲った日以来、連絡を受けておりませんでしたから・・・。
 ですが、北のお奉行は非常に手強い方で、城の行き帰りに襲おうにも、まったく隙がないと言ってましたから、たやすそうなお父上を人質にしようとしたのかもしれません・・・」
 「それで返り討ちされたんですね・・・。
 ご隠居様、暢気そうに見えて実は、すごく強いんですよ」
 あんまり知られてないけど、と笑うと、テワクは萎れた花のようにうな垂れた。
 「彼らが引っ立てられたのなら、私も参ります・・・・・・」
 「うん、そうですね・・・。
 リン・・・お奉行、いいですか?」
 苦笑して、北町奉行与力のアレンはテワクの手を取る。
 その様を、ハワードは忌々しげに見つめた。
 たとえ南町の奉行所内で起きた事件でも、今は北町の月番で、南町に裁く権利はない。
 「・・・・・・勝手にしなさい」
 そう言ってハワードは、きつく眉根を寄せた。


 翌日、登城した神田は、アレンが持って帰った情報も加味して、事の仔細を直接大目付に伝えた。
 「・・・ってワケだからリナリー、帰って来い」
 「うんっ!!」
 嬉しそうに頷いたリナリーに、しかし、コムイが覆いかぶさる。
 「なにご亭主みたいな台詞言ってんの神田君!!
 リナリーがせっかくボクのお仕事手伝ってくれてるのに!
 もう返さないに決まってるでしょぉ!!!!」
 それに、と、コムイは口を開きかけた神田に畳み掛けた。
 「神田君は火付け盗賊改め方に行くんじゃない!
 リナリーはそんな危ない所に連れて行かせないからね!
 ボクのかわいいリナリーが、凶悪犯相手にするなんて冗談じゃありません!
 町奉行所の与力だって、文官だから仕方なく認めたんだからね!!
 えぇえぇ、火盗改めなんて、お兄ちゃんは認めませんよ!冗談じゃない!!」
 リナリーを抱きしめてまくし立てるコムイの台詞を半分ほど聞き流して、神田は吐息する。
 「じゃあいいぜ。
 お前はここに残んな」
 「神田!!」
 悲鳴をあげるリナリーに、神田は口の端を曲げた。
 「説得は自分でやれっつっただろ。
 できねぇならお前は連れて行けない」
 「そうそう!!
 いいこと言うじゃん、神田君〜〜〜〜!!
 リナリーは絶対、火盗改めになんか行かせません!!」
 きっぱりと言われて、リナリーは兄の腕の中で萎れる。
 と、
 「何を騒いデいルのデスカ?」
 不機嫌な声がして、千歳老中が控えの間に入って来た。
 「あ・・・すみません、ご老中!
 ちょっと神田君と話を・・・」
 「聞こえテいましタよ。
 妹君を、北町奉行が火盗改めなンかニ 連れテ行こうトしてルのですっテ?」
 フン、と、鼻を鳴らして、老中は手にした扇子を振る。
 「そノ件ですガ、心配ハ要りませンヨ、大目付v
 神田殿ハこれかラも町奉行ですトモv
 「は?!」
 目を剥いた神田に、老中はにやりと笑った。
 「ちょうド我が一族ニ、ふさわしイ者がイましたノデねv
 マダ任期ノ残ってル神田殿を、ワザワザ罷免すル必要もナク、良い人事だっタと思っておりマスv
 にこりと笑った老中の言葉を、神田は聞いているのかいないのか、呆然として固まっている。
 「デスカラ、大目付v
 「はいっ?!」
 言葉だけで神田を倒してしまった老中に呼ばれ、コムイはリナリーを抱きしめる腕に力をこめた。
 「妹君を救っテあげタ御礼ニ、ティッキーの長崎奉行就任ノ件、賛成しテくださいナv
 反対すル役ハ、別の者ニやらせマスのデv
 クスクスと笑い出した老中に、コムイもまた、固まる。
 「デハお先ニ失礼v
 来た時とは打って変わって上機嫌なまま、老中は評定所へと入って行った。


 「おぶぎょー?
 お奉行、聞いてますー?
 お奉行!ジ・エンド・お奉行!!」
 耳元で叫んでも、全く反応しない神田に呆れて、アレンはため息をついた。
 「なんなんでしょうね!
 お城でなんかあったのかな!」
 振り返ると、神田と一緒に戻ってきたリナリーが苦笑する。
 「それが・・・火盗改めの事、ダメになっちゃって・・・・・・」
 「へ?なんで?
 大目付様が進めてたんでしょ、その人事?
 誰が取り消せるのよ!」
 目を丸くしたエミリアに、リナリーは『ご老中』と呟いた。
 「え・・・?
 もしかして、開国のことがばれたの?」
 リナリーの耳に囁くと、彼女はふるりと首を振る。
 「そんなカンジじゃなかったな。
 多分、兄さんが冗談で神田を長崎奉行にしようって言っちゃったのに危険を感じて、先手を打ったんだと思う」
 「へぇ・・・。
 それならいいけど、これ、使い物になるの?」
 エミリアが指した先では、固まった神田がアレンに弄られていた。
 「アレン、顔に落書きするのはいいけど、ちゃんと後で落とすのよ?」
 鑑賞用なんだから、と叱られて、アレンが不満げに頬を膨らませる。
 「じゃあ、最後におでこに肉・・・ぎゃうん!!」
 筆が触れる直前、動いた神田に思いっきりげんこつされて、アレンが倒れた。
 「なにやってんだモヤシ・・・・・・!」
 地獄の獄卒も泣いて許しを請う形相で立ち上がった神田が、アレンを踏みつける。
 「ふざけんのも大概にしろこのクソガキ!!」
 「ぐぼっ!!がぶっ!!」
 アレンが踏みつけられる度に奇妙な音を発して、女達が慌てて止めに入った。
 「落ち着いて神田!!」
 「意識が戻ってよかった!
 さ、仕事しよ、仕事!!」
 両側から神田の腕を取り、アレンから引き離して座に座らせる。
 「はい!
 じゃあ、今回の襲撃の件ね!
 南のテワクって子が、色々話してくれたから、裁きもすんなり行きそうよ!
 大目付様のお・・お誕生会?
 間に合うようでよかったよかった!」
 「逆恨みって怖いよねー!
 神田、これだけじゃなくあちこちで恨み買ってるだろうから、気をつけてね!」
 「はい、これが判例!
 でも今回、テワクって子が協力的だから、少しは減らしてあげていいと思うんだ!」
 「と言うわけで量刑、これでどうかな!
 はい、サインサイン!!」
 エミリアとリナリーに次々まくし立てられ、神田は勢いのままサインしそうになった。
 「・・・って、なんでだよ!
 しゃべってんのはテワクって南の元与力だけだろうが!
 隠匿罪は減刑してやってもいいが、襲った奴らに減刑はいらねぇだろ!!」
 「えぇー・・・でも、そんなことしたらまた恨み買うよー?」
 不安げに言ったリナリーを、神田が睨みつける。
 「かまわねぇんだよ、それが仕事なんだから!!
 くだらねぇこと言ってねぇで、いつも通り処理しろぃ!!」
 また火盗改めを逃したことがよほど悔しいのか、いつも以上に機嫌の悪い神田にリナリーが膨れた。
 「なんだよなんだよ!
 せっかく心配してあげてるのに!」
 「そうね、だけど・・・カッコいいじゃないv 惚れ直したわv
 「えー・・・・・・」
 その感性が信じがたいとばかり、リナリーが声をあげる。
 「だって今の神田、猫だよ?」
 指差したリナリーに、神田は眉根を寄せ、エミリアは吹きだした。
 アレンが鼻先を塗ってヒゲを描いたために、今この部屋には大きな黒猫がいるようだ。
 「そうね、観賞用としてはちょっと不足ね」
 「なに言ってんだ、テメェら!
 仕事しろ仕事!」
 一人気づいていない神田の生真面目な声に、二人は華やかな笑声をあげた。


 その数日後、コムイの誕生日当日。
 賓客達は今頃裁判中だからと、のんびりしていたコムイは家来の慌てた声に起こされた。
 「んなぁにぃ〜?」
 目をこすりつつ起き上がると、早く早くと手を引かれる。
 「んもー・・・なんだよー・・・ボクまだ寝てた・・・・・・」
 ぼやいていたコムイは、家来が指した物を見上げて唖然とした。
 「・・・・・・・・・ナニコレ」
 彼の前に突如現れたのは、千両箱の山。
 他にも広い座敷いっぱいに高価な品物が並び、更に家来が指した池を見やれば、大きな錦鯉が幾尾も泳いでいた。
 「ナニコレ・・・なにこれ?!なにこれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
 驚愕したコムイを家来達が、気まずげに見つめる。
 「それが・・・千歳家の使いの方々が、先日のお礼だと持っていらっしゃいまして・・・」
 「お礼?!
 なんのお礼?!」
 「わ・・・私どもには詳しくは・・・・・・」
 「お使いの方々も、なんの礼かは聞いていないということでしたので・・・まずはお知らせをと」
 当然の処置にコムイもそれ以上彼らを責めることはできず、黙り込んだ。
 だがすぐに、
 「心当たりのないものだから、お返しします、って言っておいで」
 と命じると、家来達は物言いたげな視線を送って来る。
 「なんだよ?」
 「あの・・・すぐに突き返されてしまうのは、あちらのお立場としても・・・・・・」
 言い難そうな家来に無言で頷き、コムイはこの状況をいかにすべきか脳をフル回転させた。
 眠気はすっかり覚めて、冷静な判断が蘇る。
 「うん、わかった。
 これはしばらく借りておこう」
 「は・・・はぁ・・・・・・」
 それはそれで不安げな家来達に笑いかけ、コムイは頼もしく頷いた。
 「大丈夫、ボクに任せといてv


 そんな事件があったのち、昼を過ぎた頃、北町奉行所からジェリーが来てくれた。
 「ジェリぽーんv
 見て見てぇvv
 厨房で料理の準備をしていたジェリーは、母屋から駆けてきたコムイに呼ばれてついて行く。
 と、案内された部屋に、金銀宝飾の数々が美々しく飾られているのを見て、目を丸くした。
 「な・・・ナニコレ?!」
 今朝のコムイと同じ言葉を発した彼女に、コムイは楽しそうに笑う。
 「すごいでしょ!
 千歳様からの賄賂v
 ケラケラと笑う彼に、ジェリーは唖然と口を開けた。
 コムイは今まで、収賄にも贈賄にも手を染めたことがなかったのに、これは一体どういうことかと、彼女の目が口ほどにものを言う。
 と、彼女の驚き顔が面白いとばかり、コムイは更にケラケラと笑い出した。
 「もちろん、受け取らないよんv
 でも、ただ返したんじゃ角が立つからさ、こうやって飾り立てて、クラウド殿をびっくりさせようかと思ってさ!」
 「そ・・・そうなの・・・・・・」
 ほっと吐息したジェリーに、コムイは大きく頷く。
 「若年寄も老中も、何かと仕掛けてきたから、なにかあるだろうなぁとは思ってたけど、賄賂もここまで来ると感心するよ!
 池に鯉も放してんの!
 見る?!」
 「え・・・えぇ・・・・・・」
 まだ呆然として、ジェリーはコムイについて行った。
 「わ・・・賄賂って、もっとこっそりやるものだと思ってたわ・・・・・・・」
 池の中で優雅に泳ぐ錦鯉を見下ろしたジェリーが呟くと、コムイも苦笑して頷く。
 「千歳様は特別。
 こんな財力持ってて、しかも派手好きなんて、あの人くらいのもんだよ」
 肩をすくめたコムイは、傍らのジェリーに笑いかけた。
 「だからさ、あんな財宝に負けないでね、ジェリぽんv
 おいしいごはん作ってぇv
 コムイが彼女に賄賂を見せた目的を察し、ジェリーは大きく頷く。
 「まかしといて、コムたんv
 絶対に負けないお料理を作るわんv
 「うんっv
 大きく頷き返したコムイに微笑み、ジェリーは意気軒昂と厨房へ戻って行った。
 やがて池を見下ろす座敷に、ジェリー渾身の料理が並べられた頃。
 仕事を終えて疲れた様子の奉行と元気なリナリー、はしゃいだ声をあげるクラウドと楽しげな隠居が連れ立ってやって来た。
 「いらっしゃーぃv
 なんだか随分楽しそうですね」
 先日の宴とは打って変わって、打ち解けた口調のコムイに、クラウドは何度も頷く。
 「面白かったのだ、裁判がな!」
 興奮気味の彼女に、コムイは首を傾げた。
 「面白い?お裁きが?」
 まぁまぁ座って、と、座を勧めて自分も座したコムイに、クラウドは膝を進める。
 「オシラスって所に罪人と証人を引き出すのだが、そこでは罪状を述べて詮議を下すだけじゃなく、オブギョウが難詰するのだな!」
 「・・・・・・・・・・・・は?」
 じっとりとコムイが神田を見遣ると、彼は気まずげに目を逸らした。
 「かっこよかったのだーv
 しらばくれる罪人にな、えーっと・・・」
 記憶を探ったクラウドは、いきなり片膝を立てる。
 「四の五の抜かしてんじゃねぇ、悪党ガ!
 テメェらの所業は全ッ部わかってンだよ!
 これ以上ガタガタぬかすと、閻魔に代わって舌抜くぞゴラ!!
 ―――― って!
 ユウが叱りつけたら、途端におとなしくなったのだ!
 なぁコムイ?
 今、私が言ったことを訳してくれないか?
 なぜかフロワもリナリーも、訳してくれないのだ」
 「そりゃ・・・訳さないでしょうねぇ・・・・・・」
 日本の品位に関わる、と、コムイは神田を睨むが、彼はまた、そっぽを向いてしまった。
 「なんでだ?
 なんで訳してくれないんだ?
 いじわるか?いじわるなのか?」
 しつこいクラウドに、コムイは吐息する。
 「適切な訳語がないからですよ。
 閻魔が元はインド神話の法と光の神で、そのうち死神にされて仏教では地獄の王様になったなんて言ってもわかんないでしょ」
 「神は唯一絶対の我らが神のみだ。
 異教の神話なんて認めんぞ!」
 「だから訳せないって言ってるんです」
 それより、と、コムイは手を叩いて、続きの間の襖を開けさせた。
 「思う存分、日本の工芸品見てってください。
 この日のために、千歳老中が貸してくれたんですよv
 いけしゃあしゃあと言ってコムイが示した先には、ジェリーも見た財宝の数々が美々しく飾られている。
 「なんと・・・」
 息を呑んだクラウドに、コムイは満足げに笑った。
 「どうぞ、思う存分眺めてくださいv
 そちらの国では珍しいものもあるでしょうから、目の保養にもしてくださいねv
 ただし、と、コムイは目を細める。
 「眺めて楽しむだけですよ。
 欲しけりゃ、それだけの対価を払うことです」
 我が国に対して、と、微笑んだコムイの言わんとするところを察して、クラウドは口の端を曲げた。
 「それは今後、存分に話し合おう。
 前向きに、な」
 「あなたにとってだけ、前向きではありませんように」
 笑みを深めたコムイの目が、刃のように細くなる。
 既に始まった刃のない戦いを、座した全員が息を呑んで見守った。


 翌日、千歳家の門を、コムイの家来達が次々にくぐった。
 贈った物を返されて、不愉快な顔をする老中に、使いのリナリーがにこりと微笑む。
 「この度は、大変良き物をお貸し頂きまして、誠にありがとうございました」
 「貸ス・・・?
 ナニを言っていルのでスか?
 我輩は・・・・・・」
 言いかけた老中の口を、リナリーの微笑みが塞いだ。
 「ご老中が数々のお品を貸してくださったおかげで、異国の方も十分ご満足されたご様子です」
 「ハ・・・?」
 唖然とする彼に、リナリーはこうべを垂れる。
 「おかげさまで、開国へのご相談も順調に進み、上様へのご報告もご満足いただけたということです」
 「ナッ・・・?!」
 愕然と口を開けた老中に、俯いたままのリナリーはこっそり笑った。
 が、表情を微笑みに戻して、ゆっくりと顔を上げる。
 「御礼に、ティキ様の長崎奉行への推挙は任せて欲しいとのことでした」
 上座で固まったままの老中に再びこうべを下げ、リナリーは座を退いた。
 「では、これにて失礼いたします」
 完璧な礼儀作法で出て行った彼女を、呆然とした老中は引き止めることもできず見送る。
 かなりの時間、そのままの姿勢で固まっていた彼は、唐突に息を吹き返した。
 「・・・オノレ、狡猾なネズミどもメ!」
 コムイが黒船の艦隊司令官と条約を結び、ティキを長崎奉行に推挙したということは、既に長崎奉行という地位が、実入りのいいものではなくなりつつあるということだ。
 そして彼がそうした背景には、幕府で力を持ちすぎ、将軍家に勝るとも劣らない保守派となった千歳家の力を殺ぐ目的もあった。
 何しろ、今回の人事でこの家は、多くの財産をばら撒いたのだから。
 「オノレ・・・!
 オノレ卑怯の輩・・・!
 こノ怨み、はらさデおくべきカ・・・!」
 怨嗟の声は低く染み渡って、城内のコムイを震えさせた。



Fin.

 










2010年コムイさんお誕生日SSです。
コムイさん・・・?ってくらい、神田さんが出張っててすみません;;;
しかも、ある意味バッドエンドなカンジで(笑)
このシリーズはお気に入りなので、また書けたらいいなぁと思います。
ところでこれ、中々できあがらなくて、結局完徹&書きあがったのが13日朝の8時15分でした(笑)
ここまで命削らんでも、と、我ながら思う。












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