† DEVIL SIDE †






 ――――・・・とうとうこの日が来てしまった。
 10月末を示すカレンダーを見つめるティキの目から、ぽろぽろと涙が零れる。
 毎年毎年、意地悪な兄弟達にいぢめられ、無慈悲なエクソシスト共に蹂躙されるイベント・・・ハロウィン前夜祭の到来だった。
 「なんで・・・俺ばっか・・・・・・!」
 呟いて、ティキはこぶしを握る。
 「逃げ切って・・・見せる!」
 決然と言った背後に、にょきっと影が立ち上がった。
 「ティィィィィッキィィィィィィィィv
 なに寝惚けてんのぉv
 「我が愛しの獲物・・・じゃない、弟がパーティに参加しないなんて、がっかりにも程があるよ?」
 「主が、決して逃がさぬようにと言いました」
 「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
 背中にしがみついたロードと、両腕に縋ったシェリル、ルル=ベルに動きを封じられ、ティキが壮絶な悲鳴をあげる。
 「お願いっ!もう勘弁してっ!ハロウィン嫌い!ハロウィン怖い!!」
 「キミ一人の犠牲で我々全員が楽しめるんだよ?
 ここは献身的にならねばね、ティキ・ミック『侯』?
 ノーブレスオブリージュは、貴族の基本的道徳観なのだからv
 「もう貴族なんてやめるからっ!今日限りでやめるからっ!お願い逃がしてええええええええええ!!!!」
 「・・・・・・仕方ありません」
 「ルル・・・っv
 手を放したルル=ベルに期待したのも一瞬、巨大な蛇と化した彼女にティキは目を剥いた。
 「アナコンダァァァァァァァァッ!!」
 ティキに巻きつき、締め上げる蛇からいち早く逃げたロードは、同じくさっさと退散したシェリルに抱っこされて、楽しそうに彼らを眺める。
 「ティッキーってば、同じノアのルルからは逃げらんないんだよねぇv
 ルルーv 抵抗するなら骨砕いちゃっていいからねぇーv
 「んなっ?!ロー・・・ごふっ!!」
 血反吐を吐いてぐったりしたティキに、シェリルが楽しげに微笑んだ。
 「おや・・・本当に砕いたのかい、ルル?
 容赦のない子だねぇ」
 とは言いつつ、くすくすと笑声をあげるシェリルを、ルル=ベルは不思議そうに見つめる。
 「・・・砕いてはいけませんでしたか?」
 ならばなぜ楽しそうなのだろうと、ルル=ベルは鎌首を傾げた。
 「フフ・・・v
 キミの思う通りにしていいんだよ、ルル=ベルv
 美しい者はなにをやっても許されるんだv
 「あれぇ?
 お父様、ティッキーのことも気に入ってたんじゃなかったっけぇ?」
 そう言ってロードが意地悪く笑うと、シェリルは舞台役者のように大仰に頷く。
 「もちろん、ティキのことも美しいと思っているとも!
 だがロードv よく考えてご覧?
 美しい者には、受難に耐える姿こそ似つかわしいのだと思わないかい!」
 「思っう・・・かあああああああ!!!!」
 意識を取り戻したティキの抗議に、シェリルは肩をすくめた。
 「キミは・・・もう少し優雅に振舞えないものかねぇ?
 いつになれば下層の物言いが消えるものやら」
 やれやれ、と呟いたシェリルの髪を、目をキラキラ輝かせたロードが引く。
 「じゃあアレ・・・」
 「ダメ。いけません。却下。不可」
 否定の言葉をずらりと並べた彼に、ロードは頬を膨らませた。
 「なんでそんなにアレンが嫌いなのさぁ!」
 「可愛い娘につく害虫を好きな父親なんていません!」
 きっぱりと言って、シェリルはロードを抱いたままティキを締め上げるルル=ベルへ歩み寄る。
 「その点、キミの対処は見事だ、ルル=ベル。
 あんな性悪の害虫で下層のクソガキなんて、容赦なく殺してしまって構わないからねv
 チロチロと舌を出す蛇の頭を優しく撫でながら言うシェリルを、ロードは不満げに睨んだ。
 「ケチ!!」
 「なんとでもお言い、ロード。
 この件に関しては、パパは絶対譲りません!」
 「なんでっ!」
 「父親たるもの、娘の安全を守れなくてどうしますか!
 これだけは千年公にも歯向かって見せるよ、ボクは!」
 毅然とした態度で言われて、さすがのロードが口をつぐむ。
 そっぽを向いてしまったロードに苦笑し、シェリルはぱんぱんに膨らんだ頬に頬ずりした。
 「せっかくのハロウィンなんだから、ティキをいぢめて遊んでおいで」
 「んがっ?!」
 ルル=ベルの拘束が解けた途端、シェリルに踏まれてたティキが、カエルのような悲鳴をあげる。
 その声にやや興味をそそられたロードが、シェリルの腕から下りた。
 「・・・そうだね」
 「ぎゅぶっ!!」
 ティキの腹に着地すると、また変な声が漏れる。
 「これで我慢してあげるよ」
 「ぎゃぶぅ!!ごぶぅっ!!げっぶぅ!!!!」
 腹の上でぴょんぴょんと飛び跳ねるロードに、ティキは血反吐の効果音を吐き続けた。


 ―――― 一方、ロンドンの教団本部では。
 ティキと同じくらい虐げられているくせに、ティキと違ってハロウィンを楽しみにするラビが、鏡に向かってにんまりと笑った。
 トランプを飾った帽子からは、長いウサギの耳も生えている。
 盛装を着崩し、リボンタイも横に結んで、堅苦しい中央庁の人間に見られれば、1時間は説教されそうな格好だった。
 だがラビは、鏡に写った自分の姿に満足げに頷く。
 「完っ璧v
 踊るような足取りで踵を返し、部屋を出るとバタバタと足音が近づいてきた。
 「ラビ!!
 耳つけて!耳!!」
 ラビと違って正装のアレンは、燕尾服の裾をひらひらさせながら駆け寄って来る。
 「耳!耳取れた!!」
 白い猫耳が片方取れてしまった白いカチューシャを差し出したアレンは、振り返ったラビに眉根を寄せた。
 「・・・なにそれ、時計ウサギっぽくないよ?
 服くらいちゃんと着たら?」
 中央庁以外にも服装にうるさい奴はいたかと、ラビは笑い出す。
 「いいんさ、今日は三月ウサギだからv
 「マーチラビット?
 君、三月だけじゃなくて、一年中発情してん・・・ぎゃん!!」
 眉間のしわを突かれて、アレンが悲鳴をあげた。
 「うっさいさね、性悪猫!
 耳つけてやんねーぞ!」
 「えぇー!!いいじゃん!つけてよ!!」
 頬を膨らませたアレンに耳とカチューシャを押し付けられたラビは、手の上のそれを難しい顔で見つめる。
 「これ、取れてんじゃなくて折れてんじゃん。
 修理するの難しいぜ?」
 「えぇっ!!
 これに合わせて尻尾つけたのに!!」
 不満げに言ったアレンの後ろでは、燕尾服の裾の間から、ふわふわの尻尾が揺れていた。
 「なんでもいいからその耳つけて!!」
 ぐりぐりと頭を押し付けてくるアレンを、ラビはうるさげに押しのける。
 「わかったから離れるさ!
 そんなにくっついてたらなんもできんさね!」
 言うや辛うじてカチューシャについていた耳も折り取ってしまったラビに、アレンが目を剥いた。
 「ラビが僕の耳壊したあああああああああああああああ!!!!」
 ぎゃあん!!と大声で泣き喚く声は遠くまで響いて、行き交う団員達が何事かと足を止める。
 と、
 「うっさいさね、クソガキ!
 ちゃんとつけてやっからちょっと黙るさ!」
 「だって僕の耳壊したじゃん!!ひどい!!」
 ぎゃあぎゃあと喚くアレンに肩をすくめたラビは、彼の頭上にでっぷりと座り込んだティムキャンピーの口に、壊れたカチューシャを放り込んだ。
 「壊れちまったもんはしょうがないさ。
 あれは一旦折れちまうともう使えねーの!」
 言いながら、ラビはポケットから取り出したヘアピンで、ふわふわの耳をアレンの髪に留める。
 「だから、直接留めた方が早いんさね」
 おとなしくしろ、と、押さえつけた頭にもう一つの耳を留めて、ラビは歩を下げた。
 「ん。バランスおっけv
 猫耳の・・・なんさ、そのカッコ?」
 「執事です!」
 得意げに言ったアレンは、ラビの目の前でくるりと回る。
 「ジェリーさんに、ティーンズは配膳手伝いなさい、って言われたでしょ?
 だからリナリーは黒猫メイドで、僕は白猫執事なんですv
 おそろいv と、得意げに胸を張ると、
 「お?もう着替えてんさ?
 じゃあ早速見に行こうかね♪」
 楽しげなラビに背を押されたアレンは肩越し、困惑げに眉根を寄せた。
 「ダメですよ・・・今、クラウド元帥とミランダさんのお着替え手伝ってるから」
 「そりゃぜひ見に・・・ごふっ!」
 アレンの強烈な肘鉄を食らって、ラビが屈みこむ。
 「・・・っなにすんさ、クソガキ!」
 「そんなこと言っていいの?
 このこと言いつけたら、肘鉄どころの被害じゃないよ?」
 確実に命がない、と囁かれ、ラビは黙り込んだ。
 「わかったら食堂いこ!
 今日のパーティは修練場を改装してやるから、お皿とか早めに運んでって、ジェリーさんに言われたんだ!」
 ラビのネクタイを掴んで連行するアレンに、ラビは仕方なしについて行く。
 「運ぶの俺たちだけなんさ?ユウは?」
 「知らない。
 興味ないし」
 つんっと言った生意気なアレンの耳を、ラビは笑って引っ張った。
 「いっ!!いたいっ!!ヒト耳引っ張んないで!」
 「猫耳引っ張ったって痛くないだろーさ」
 だからこっち、と、ラビはくいくい引っ張る。
 「俺らだけで大量の皿運ぶのめんどいさ。
 ユウ探しにいこーぜ♪」
 「やだよ!
 なんでわざわざあの仏頂面探さなきゃなんないんだよ!
 せっかくの楽しいハロウィンの雰囲気が台無し!」
 ぷりぷりと頬を膨らませたアレンが歩を早め、ラビを引きずって行った。
 「大体さ、興味ないなら参加しなきゃいーじゃん!
 毎年毎年、無理矢理誘われただのなんだの言って、結局ノリノリで仮装してんじゃん!
 いい加減、女王の座は女の子に譲れっつーんですよ、あの女装癖っ!!」
 「アレンそれ、ユウちゃんに聞かれたら・・・」
 怯えて辺りを見回すラビを、アレンは勢いよく振り返る。
 「ふんっ!聞かれたって別・・・に・・・・・・」
 背後から、むんずと頭を掴まれたアレンの動きが凍った。
 「誰が女王だゴルゥアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
 「ひぃっ!!ユウちゃん!角生えてるさ、角!!!!」
 片手でアレンを持ち上げた神田の姿に、ラビが怯える。
 それもそのはず、悪魔のような彼は今、悪魔の扮装をしていた。
 「放せ悪魔っ!
 イタイ!!イタイ――――!!!!」
 アレンは吊られたまま必死に足掻くが、神田の手は万力のように彼の頭を締め付ける。
 「放して欲しけりゃ、二度とナメた口利くんじゃねェ!」
 「利くっ!
 ぎゃああああああああああああああん!!!!」
 頭蓋骨が砕けそうな程に締め付けられ、悲鳴をあげたアレンの目が、くるりと裏返った。
 「ユ・・・ちゃん・・・・・・アレンが・・・・・・」
 真っ青になって声を引き攣らせるラビへ、神田はアレンを放り投げる。
 「崖の下にでも捨てとけ」
 「イヤそれはいくらなんでも・・・」
 アレンを抱えたラビを、神田は凄まじい眼光で睨みつけた。
 「捨てろ」
 「あいっ!!」
 びくっと飛び上がり、頷いたラビに神田が鼻を鳴らす。
 「あ・・・あれ?
 どこ行くンさ?」
 踵を返した神田の背に問うと、彼は肩越しにラビを見遣った。
 「ジェリーの命令で、準備の手伝いだ」
 言うや、すたすたと回廊の奥へ消えてしまった神田へ、ラビは肩をすくめる。
 「さすが姐さん・・・。
 悪魔のユウちゃんを従えるなんて、真の女王さね」
 苦笑してアレンを抱え直したラビは、とりあえず病棟だろうかと、彼を運んで行った。


 同じ頃、リナリーはクラウド元帥の部屋で、彼女の着替えを手伝っていた。
 リナリー自身は黒い猫耳と黒い尻尾をつけ、ミニのエプロンドレスを着ているため、知らない人間が見れば、女主人に仕えるメイドだと思っただろう。
 普通、使用人と間違えられれば怒ってしかるべきだが、今日のリナリーはそんな状況を楽しみながら、クラウドを飾って行った。
 「できました!」
 背中のリボンを結び終えると、リナリーは歩を下げ、姿見に映るクラウドを惚れ惚れと見つめる。
 「すごい・・・セクシー・・・v
 「本当に・・・」
 ソファに浅く腰掛けたミランダも、胸の前で手を組み、頬を染めた。
 女吸血鬼の仮装をしたクラウドの紅いドレスは、基本は身体に添ったマーメイドラインだが、胸元と背中が大胆に開いて、細いリボンが交差している。
 大きく開いたスリットからは容のよい脚がさらされて、目を奪われずにはいられなかった。
 「マントを着せちゃうのが惜しいなぁ・・・・・・」
 呟いて、中々マントを渡そうとしないリナリーに苦笑し、クラウドが彼女の手からそれを取り上げる。
 「私より、ミランダがマントを脱いだ方がいいんじゃないか?」
 意地悪く言ってやると、ミランダは慌てて胸元を掻き合わせた。
 「だっ・・・ダメですっ・・・!!」
 真っ赤になって俯く彼女に、リナリーが不満げに口を尖らせる。
 「なんだよ!
 せっかく選んであげたのにぃ!」
 「う・・・こんな・・・露出が激しいなんて・・・思わなくて・・・!」
 パニエで裾の膨らんだドレスの胸が大きく開き、クラウドのドレスと同じく、リボンだけで留まっているものだと気づいたのは、着てしまった後だった。
 「ど・・・同色のビスチェがあったらよかったけど・・・なんでこんないたずらするの!」
 顔を真っ赤にして睨んでくるミランダに、リナリーはいたずらっぽく舌を出す。
 「だってハロウィンだもーん♪いたずらしたっていいんだもーん♪」
 悪びれもせず言って、リナリーは小首を傾げた。
 「今日のミランダ、魔女なんだから、セクシーに決めちゃえばいいじゃないv
 ビスチェなんか脱いじゃいにゃんv
 襲い掛かり、マントだけでなく服まで脱がそうとするリナリーに、ミランダが悲鳴をあげる。
 「・・・コラ、リナリー!」
 必死に抵抗するミランダに構わず、じゃれつくリナリーへ、呆れたクラウドが向き直った。
 「そうやって真っ向勝負で挑んでばかりだから、手間取るのだ」
 「え・・・?!クラ・・・!!!!」
 リナリーを押しのけたクラウドが、ミランダを軽々とソファへ押し倒す。
 「やっ・・・やめてくださ・・・やああああああん!!!!」
 両手を頭上にまとめられたミランダの胸にクラウドが手を滑り込ませ、蛇のように這わせた。
 「ちょっ・・・元帥ぃぃぃぃ!!!!
 どこ触って・・・・・・あぁんv
 「・・・ぅわー・・・これが百合かぁ・・・・・・」
 リナリーが教育上、よろしくないシーンを興味津々と見つめる前で、ホックを外されたビスチェが抜き取られる。
 「きゃ・・・返してくださいいいいいいいいい!!!!」
 「わぁー・・・v
 締め付けから解放されたミランダの胸が揺れる様に、リナリーが頬を染めた。
 「リナリーも、あと何年かしたらこんなドレス着れるかなーvv
 「ちょっ・・・リナリーちゃん!!やめっ・・・いやぁん!!」
 「気持ちいーvv
 クラウドに代わってミランダの上に乗ったリナリーが、彼女の胸にむにむにと頬ずりしていると、
 「おい、リナリー!
 ジェリーが・・・」
 突然開いたドアが、物凄い勢いで閉ざされる。
 「なんだよその反応ー!!」
 「寄んじゃねぇ変態ども!!
 女同士でなにやってんだ、キッショク悪ぃ!!」
 不満げな声をあげて寄って来たリナリーをドア越し、神田が怒鳴りつけた。
 「別に、じゃれてただけだよぉ!
 なに?なんか用だったんじゃにゃいの?」
 自分勝手に話を終わらせて、神田に塞がれたドアを叩くと、ドア越しに舌打ちの音がする。
 「ジェリーが配膳手伝えってよ!
 いい加減、着替え終わったんだろが!」
 「あ・・・うん、クラウド元帥は終わったんだけど、ミランダが・・・」
 脱がせちゃった、と、見遣った先では、散々蹂躙されて呆然とするミランダの服を、クラウドが直していた。
 「あ、いいみたい。
 行くから開けてよ」
 もう一度叩くと、ドアは細く開いて、また激しく閉ざされる。
 「ちょっと!!」
 「いい加減にしろお前ら!!」
 「はぁ?!
 別に何も・・・」
 言いつつリナリーが振り返った先では、クラウドがミランダを抱きしめるようにして、腰のリボンを結んでいる所だった。
 「誤解だって!」
 「今後一切俺に近づくな!!」
 リナリーの声を遮るようにして神田が怒鳴り、どすどすと乱暴な足音が遠ざかっていく。
 「?
 なにを怒っているのだ、ユウは?」
 さすがに不穏な空気に気づいたらしいクラウドが問うと、リナリーは肩をすくめた。
 「さーぁ?
 ママが女の子といちゃいちゃしてたのが、ヤだったんじゃないですか?」
 その言い様に、クラウドが顔をほころばせる。
 「そうか・・・ヤキモチとは可愛いな、ユウはv
 言えばいくらでもかまってやるのにv
 「はっきり言うのが恥ずかしいお年頃なんですよーv
 クスクスと笑いあいながら、リナリーとクラウドは、両側からミランダの腕を取って立たせた。
 「え?!」
 目を丸くした彼女の両側で、リナリーとクラウドが意地悪く笑う。
 「さぁ、行こうか魔女殿!」
 「テンプテーションで悩殺だにゃんっv
 「ええええええええええええええええええええええええ!!!!」
 絶叫を発しつつミランダは、二人に抱えられるようにして会場へと連行された。


 「・・・マンマ?」
 石の回廊を伝って、遠くから聞こえてくる悲鳴に、リンクは耳をそばだてた。
 「やはりマンマですね!」
 カラス天狗の仮装をした彼は、背中の羽根を揺すりながら駆け出す。
 「マンマ?!」
 3つに分かれた回廊の真ん中で呼びかけると、奥からまたミランダの悲鳴が聞こえた。
 「すぐに参ります!!」
 天狗効果ではあるまいが、リンクはあっという間に悲鳴の発生源を探し当て、敬愛するミランダの元へ駆けつける。
 「マンマ!!」
 喜色を浮かべたのも一瞬、
 「・・・ぶばっ!!」
 彼女らしからぬ露わな姿に、リンクの繊細な神経は簡単に焼き切れた。
 「なっさけないなぁ、監査官ってば!」
 鼻血を溢れさせながら、床に転がったリンクを、リナリーがせせら笑う。
 「班長が見たら、なんてゆーかなーv
 やっぱり鼻血出して転がるかなv
 「見せればわかることだ」
 楽しげなリナリーに笑い、クラウドがミランダの腕を引いた。
 「楽しみにゃーんv
 床に転がったリンクをわざわざ踏みつけて、リナリーもミランダの腕を引く。
 「んなっ・・・?!やっ・・・やめてぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
 必死に抗うも、エクソシスト二人に両脇を固められては逃げることも出来ず、その上、彼女自身の悲鳴が遠くまで響いて、野次馬の耳目を集めた。
 段々増えていくギャラリーの中を科学班へ向かっていると、野次馬の群れから子供が飛び出してくる。
 「うぉー!!
 ミランダ姉ちゃん、すっげえええええええええええ!!!!」
 揺れる胸めがけて飛びつこうとした小さな身体は、みぞおちをクラウドのピンヒールに抉られてあっさりと沈んだ。
 「全く、この馬鹿弟子は・・・。
 いい加減、煩悩を抑えろと言っているだろう!」
 既に泡を吹いて白目を剥くティモシーの腹を、クラウドのヒールが更に抉る。
 「・・・ちっ。
 白目を剥いていては、泣かせることもできないではないか」
 心底忌々しげに吐き捨てた彼女から、怖気たギャラリーが歩を引いた。
 「おい、リナリー。
 私はこの子を連行するから、ミランダをしっかり捕まえていろ」
 「はいっ!」
 大きく頷いたリナリーは、クラウドが手を放すとすかさずミランダを横抱きにする。
 「リッ・・・リナリーちゃん!!」
 「姫のことはお任せくださいにゃんv
 楽しげに言って、リナリーは駆け出した。
 「ちょっ・・・ねぇ!!リナリーちゃん!!放して!!」
 必死に声をあげるものの、エクソシストとは言え、身体能力に自信のないミランダは、リナリーの疾走に怯えて彼女にしがみついている。
 「だいじょーぶだいじょーぶv
 リナリー力持ちだから、落としたりしないよ!
 アレン君だって抱っこできるんだから!」
 リナリーは得意げに言うが、ミランダはそんな意味じゃないと首を振った。
 「マッ・・・マント返して!!」
 「無理だよ、部屋に置いてきちゃったもん♪」
 顔を引き攣らせて声を失ったミランダに、リナリーはしてやったりとにやつく。
 「せっかくおしゃれしたんだから、見せびらかさなきゃねーv
 「きゃああああああああああ!!!!」
 リナリーが科学班のドアを蹴り開けるや、中のスタッフ達の目が集まり、ミランダがまた悲鳴をあげた。
 「な・・・なんだ?!」
 リーバーが驚いて立ち上がると、にんまりと笑ってリナリーが駆け寄る。
 「はんちょーv お届けものだにゃんっv
 はしゃいだ黒猫メイドの腕の中では、ミランダが真っ赤になって震えていた。
 「おい!なに意地悪して・・・」
 歩み寄って来たリーバーに、リナリーはにこりと笑う。
 「意地悪じゃないよーぅv
 班長にセクシー魔女をお届けにきたんだにゃんv
 言って、リナリーはリーバーへミランダを渡した。
 「特に胸がセクシーでしょーv 触ってみてv
 「なんでだー!!!!」
 真っ赤になって絶叫しつつも、ミランダを放さないリーバーへ、リナリーがにまにまと笑う。
 「無理しなくていいよ、班長ーv
 ほらほら、むにむにだよ?ぷにぷにだよ?気持ちいいよ?」
 言いながら、リナリーはリーバーの腕の中のミランダに・・・正しくはその胸に、むにむにと頬ずりした。
 「やっ・・・だめぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
 「だってキモチいいんだ・・・にゃんっ!!」
 げんこつされたリナリーが、そのままミランダの胸に顔をうずめる。
 途端、
 「やぁんっv
 異常に色っぽい声があがって、また視線を集めてしまったミランダが真っ赤になった。
 「ミ・・・ミランダ、今の声どうやって出すの?」
 間近で聞いてしまったリナリーが、きらきらと目を輝かせる。
 「やーん?やあああー・・・にゃんっ!!」
 ミランダに詰め寄ったリナリーは、またげんこつされてリーバーを睨んだ。
 「舌噛んりゃったりゃにゃいかっ!!」
 「うっさい春先猫!
 とっとと料理長の手伝い行って来い!」
 「ラビじゃあるまいし!
 リナリーは発情期なんかじゃ・・・にゃあっ!」
 リーバーに鼻を弾かれて、リナリーがまた悲鳴をあげる。
 「ぅえー!!!!兄さんー!!!!班長がいぢめるー!!!!」
 「もう一発いくか?!」
 「にゃっ!!」
 リーバーが振り上げたこぶしに怯え、リナリーが退いた。
 「早く行かねぇと、料理長にも叱られるぞ!」
 怖い顔で言われて、リナリーが慌てて踵を返す。
 「しっかり働けよー!」
 一瞬で部屋を出たリナリーに言って、リーバーはミランダを見下ろした。
 「マントくらい、羽織れよ・・・」
 あまりにも露出の高いドレスにリーバーが眉根を寄せると、ミランダは困り果てて俯く。
 「それが・・・リナリーちゃんに、取られてしまって・・・・・・」
 「・・・じゃあ、ドレスの下に何か着るとか」
 「・・・・・・・・・クラウド元帥に脱がされてしまって・・・・・・」
 可哀想なほどうな垂れてしまったミランダに、リーバーはため息を漏らして白衣を脱いだ。
 「あいつ、もう一発殴ればよかった」
 ぼやきつつ、ミランダに白衣を着せると、一番上までボタンを止める。
 その様に、落胆の声をあげた部下達は殺意に満ちた目で睨んで黙らせ、リーバーはミランダの背を押した。
 「俺、まだ仕事があるから。
 やることないならそこにいろ」
 部屋の片隅に置かれたソファの、雑然と置かれた荷物の隙間にミランダを座らせて、周りからの目を遮る。
 「どっか行く時は、必ず声をかけろよ!!」
 独占欲だだ漏れの命令に気づかないのか、ミランダはほっとして頷いた。


 「ねぇーお父様ぁー。
 ティッキー潰して遊ぶの飽きちゃったぁー」
 長い長い拷問の末、ようやく飽きたロードをシェリルが抱き上げた。
 「そうかいv
 じゃあ次は別のゲームをしようねv
 ハロウィンのゲームはなにが好きかな?」
 シェリルが頬をすり寄せると、ロードはくすぐったそうに笑う。
 「ゲームより、ティッキーを飾って遊びたいぃv
 はしゃいだ声をあげると、シェリルは意外そうな顔をした。
 「おや、もう着替えるのかい?
 女王陛下の仮装は疲れるから、パーティの直前にやるってキミ・・・」
 「だから僕じゃないよぉ。
 ティッキーを飾って遊ぶのぉv
 僕が用意した衣装、ぜーんぶ!!」
 着せ替え人形する、とはしゃぐロードを下ろしてやったシェリルは、自らの血の海に沈むティキを見下ろす。
 「フフ・・・v
 着せ替えねぇ・・・v
 シェリルが嬉しげに笑うや、人間の姿へと戻ったルル=ベルが歩を引いた。
 「・・・・・・シェリル・・・・・・鼻血が・・・・・・」
 警戒する猫のように、じっと視線を外さない彼女に指摘され、シェリルは胸ポケットのハンカチを気障な仕草で引き抜く。
 「おっと、失礼v
 これから起こる、すばらしい光景を夢想してしまった」
 クスクスと笑って、シェリルはティキへ歩み寄った。
 「さぁ、ティキ?
 立ち上がって、まずは血を拭きたまえ」
 シェリルが命じると、白目を剥いたティキは見えない手に抱き起こされるようにして立ち上がる。
 「さぁ、血みどろの服なんか脱い・・・っ!!!!」
 「おとぉさまぁー。鼻血ぃー」
 他ならぬ自分が服を血みどろにして興奮するシェリルを、ロードが呆れて見あげた。
 「・・・おっと、いけない。
 小さなレディにみっともない所を見せてしまった。
 ではロードとルル=ベルは一旦出て・・・」
 「俺と二人きりになってなにしようってんだ!!
 放せ――――!!!!」
 怪しい空気に目を覚ましたティキが絶叫すると、シェリルは残念そうに眉根を寄せる。
 「別に何もしやしないよ。
 キミが白目を剥いていたから、着替えを手伝ってあげようとしただけで・・・」
 「じゃあなんだその残念そうな顔はっ!!」
 「やだなぁ。
 人の顔にまでいちいち文句つけないでくれたまえ」
 いけしゃあしゃあと言って、シェリルはティキを操る糸をほどいてやった。
 途端、
 「ぐぁばっ!!」
 人体には不可能な姿勢で立たされていたティキが、無様に転げる。
 「やれやれ・・・いつも言ってるじゃないか、ティキ。
 貴族たるもの、常に優雅にいたまえ」
 「じゃあアンタも転べ――――!!!!」
 「あっ・・・!」
 目にも止まらぬ速さでシェリルに足払いをかけると、彼は不自然なほどゆっくりと倒れた。
 「あぁ、なんと言うことだ!
 矢は尽き、剣折れてこの身に鋼の鎧は重く、手綱も切れて地に膝をつく日が来ようとは!」
 役者じみた声を張り上げたシェリルは、自らが繰り出した糸で半ば宙に浮いたまま肩膝と片腕を突いて、ギリシャの彫像さながら、悲劇的なポーズを演じてみせる。
 「・・・・・・もういい。鬱陶しい」
 あまりの大仰さに胸焼けのしてきたティキが肩をすくめると、シェリルは一旦宙に浮いてから降り立った。
 「なんだよ。
 せっかくボクがお手本を見せたと言うのに、つれないねェ」
 「あんなん手本になるかよ!」
 忌々しげに言うと、シェリルは残念そうに肩をすくめる。
 「じゃあ、キミには初歩から教えてあげよう。
 まず・・・」
 「もぉ!!
 それはいいからぁ!
 今は仮装ぉー!!」
 業を煮やしたロードの大声に、シェリルは大仰な仕草で頷いて見せた。
 「これは失礼した、我が愛しの姫v
 お楽しみを邪魔してしまったねェ」
 「ホントだよッ!
 ティッキーには衣装をたっくさん用意したんだから、ぜひとも全部着てもらわなきゃ!」
 こぶしを握って張り切るロードに、しかし、ティキは不安しか覚えられない。
 「・・・なにすんだよなにするつもりだよ絶対ヤなことが起きるんだから俺もう帰っていいかな・・・!」
 ブツブツと呟きながら半ば床に沈んだティキの髪を、ロードが乱暴に掴んで引き止めた。
 「そんなこと、僕が許すと思ってんのぉ?」
 爛々と光る瞳を見るまでもなく、舌なめずりする肉食獣のような声に、ティキは震え上がる。
 「いや・・・ンなうまく行くなんて・・・思ってないけど・・・さ・・・・・・!」
 心底逃げたい、と、怯える彼の心中を察して、ロードはにんまりと笑った。
 「ルルーv
 着せ替え人形するよ!
 お前も手伝えよぉv
 「・・・・・・どうすればよいのですか?」
 姉の命令に、どこか不満そうに言った彼女の腕を取ったロードは、掴んでいたティキの髪を彼女の手に預ける。
 「引き抜いてぇv
 「・・・はい」
 遠慮なくティキの髪を引くと、彼が壮絶な悲鳴をあげた。
 「いだいっ!!いだい首がもげるぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」
 「コラコラ、みっともない声を出すんじゃないよ、ティキ。
 そもそも、キミが逃げようなんて思わなければ、こんな事態にはならなかったのだからね」
 ため息混じりに言ったシェリルは、ルル=ベルへ微笑む。
 「ご婦人の細腕には辛い作業だろう。
 代わってはどうだね?」
 それは決して、『自分と代われ』と言う意味ではなかった。
 彼の言葉を正確に理解したルル=ベルは、頷いて巨大な龍と化す。
 「みぎゃあああああああああああああああああああああ!!!!」
 大きな牙が眼前に迫り、ティキが絶叫した。
 「ルルッ!!ルル頼むからその口で・・・あぎゃああああああああああああああああああ!!!!」
 悲鳴はルル=ベルの口内にこもって、ひどく小さく聞こえた。
 「おやおや、食べてしまってはいけないよ、ルルv
 お腹をこわしてしまう」
 「心配はそっちか――――!!!!」
 震える手で龍の顎をこじ開けたティキが絶叫する。
 が、その時には既に、彼の身体は床から引き抜かれていた。
 「おぉv
 見事な一本釣りだ、ルルv
 さぁ、ばっちぃからペッしなさいv
 素直なルル=ベルに吐き出されたティキは、床に這ったまま滂沱と泣き濡れる。
 その彼を不思議そうに見下ろしながら、人の姿に戻ったルル=ベルは首を傾げた。
 「一本釣りとはなんですか?」
 「おや、ルルは釣りをしたことがないのかい?」
 「はい」
 こくりと頷いた彼女の頭を、シェリルは小さな子供に対するように優しく撫でる。
 「では、ボクが教えてあげるよ、ルルv
 ロードも一緒にどうだい?」
 振り返れば、ロードはふるふると首を振った。
 「今日はティッキーで遊ぶんだもん」
 離れないとばかり、ロードは床に這うティキに馬乗りになる。
 「もちろん、釣りは後日のつもりだったんだけど・・・そうだね、ロードv
 では現役外務大臣のお父様が、二人の望みを同時に叶えてあげようv
 その言葉に、目を輝かせたロードとルル=ベルとは逆に、嫌な予感を覚えたティキがじりじりと逃げ出した。
 が、
 「なに逃げようとしてんのさぁ」
 背から下りたロードが、ティキの髪を引いて笑う。
 「放せ!!
 虐げられ続けた俺の第六感が逃げろっつってんだよ!!」
 「ほぅ・・・さすがに冴えているね、ティキ。
 その通りだよv
 意地悪く笑ったシェリルの指が不気味にうごめくや、ティキの身体が宙に浮いた。
 「なにする気だ――――っ?!」
 絶叫するティキを、目を輝かせて見あげる姉妹の傍ら、シェリルがクスクスと笑い出す。
 「言っただろう、ルルとロードの望みを一度に叶えてあげるんだってv
 再びシェリルの指がうごめくと、ドアが開いて、色とりどりの衣装が整然と入ってくる。
 誰の手にもよらず運ばれて来たそれらは、ぐるりとノアの兄弟を囲んだ。
 「さぁ、ロードv
 まずはどの衣装にしようかv
 楽しげに笑うシェリルに抱き上げられたロードが、衣装の数々を見回す。
 「じゃあねェ・・・・・・」
 高い場所からカラフルな円を見下ろしたロードは、楽しげに一着を指差した。
 「あれぇ!!」
 「承りました、姫v
 大仰に頷いたシェリルの指がうごめき、円の中から派手派手しい錦のキモノが一揃い浮かび上がる。
 「なんか物凄くヤな予感がすんだけど!!!!」
 じたじたと暴れるティキを、シェリルが愉快げに見あげた。
 「さぁv
 お着替えしようねぇ、ティキv
 「へっ・・・?!
 ぎゃ――――!!なにさせんの、エッチ!!!!」
 宙に浮いたまま、自らの手で服を脱いでいくティキを、姉妹達が興味津々と見あげる。
 「ちょっ・・・なに見てんの、お嬢ちゃん達っ!!
 レディがはしたないぞっ!!」
 「いいじゃんかぁv 減るもんじゃなしv
 「ちっさい子がンなことゆーな!!」
 「勉強です」
 「お前も大真面目にゆーな!!
 はぁぁぁなぁぁぁぁしぃぃぃぃぃてぇぇぇぇ!!!!」
 じたじたと暴れるティキににこりと笑い、ロードはシェリルの腕から下りた。
 「僕、お前より年上だよぉ?」
 「そーでしたっ!
 放しておねーさーん!!!!」
 必死に懇願するも、シェリルはロードが止めるわけがないと、さっさとキモノを着せていく。
 「ちょっ・・・なにこれ?!
 こんな派手なキモノってあんの?!」
 「あるともv
 にこりと笑ったシェリルの指が不吉にうごめき、ティキを床に座らせた。
 「・・・・・・これ以上、どんな仕打ちを・・・・・・」
 とめどなく涙を流すティキに、シェリルが肩をすくめる。
 「痛いことなんてないから、泣くのをおやめ、ティキ。
 これじゃあ化粧も出来ないよ」
 そう言ったシェリルを、様々なメイクアップ道具がぐるりと囲んだ。
 「さぁ、まずは涙を拭いて」
 「むほっ!!」
 よける間もなく飛んできた熱いタオルに顔を覆われ、ティキが動けないながらも悶える。
 「さぁ涙を拭いたらお化粧だよv
 「ぶはっ!!」
 熱せられて紅くなった顔を、水白粉をたっぷり含んだ刷毛が幾度も撫で付けた。
 「俺なにされたのっ?!」
 鏡!と叫ぶティキを、ロードはにやにやと笑って眺める。
 「鏡は最後のお楽しみにとっておきなよぉv
 その楽しげな声音に恐怖を覚えたティキが、引き攣った悲鳴をあげた。
 だが既にその口は真っ赤に塗られ、眉は太く塗りつぶされている。
 「・・・っ出来上がりだよv
 肩を震わせながら、シェリルが手を一振りして、大きな姿見を引き寄せた。
 「バカ殿――――――――!!!!」
 真っ白に塗られた顔に真っ赤な口紅、黒々と太く眉を引かれたティキが絶叫する。
 「はいv
 これで完全体だよぉv
 背後からロードが被せたちょんまげかつらが、ティキの髪を納めてテカテカと輝いた。
 「・・・・・・・・・ぷっ!」
 くくく・・・と、身体を折って肩を震わせるルル=ベルをティキが睨み、シェリルが目を丸くする。
 「・・・いや、大したものだ、ティキ!
 このルル=ベルを笑わせるなんて、よくやったよ!!」
 「嬉しくねえええええええええええええええ!!!!」
 感嘆と共にシェリルが両手で握った手を、ティキは忌々しげに払った。
 だがシェリルはにんまりと笑うと、またも不吉に指をうごめかす。
 「さぁ、ルルv
 キミのやりたがっていた釣りをしよう!
 きっと、今より楽しいよv
 「別に・・・」
 どんなものか知らなかっただけで、やりたかったわけじゃない、と、言おうとしたルル=ベルは、シェリルの笑顔に黙り込んだ。
 と、見えない糸によって、ティキの腰が絡め取られ、不自由な姿勢で宙に浮く。
 「なっ・・・なにするつもりだこの変態っ!!」
 じたじたと手足をばたつかせて怒鳴るティキに、シェリルはわざとらしく肩をすくめた。
 「ひどいねぇ。
 キミに言われたくはないんだよ」
 にこりと笑ったシェリルが手を払うと、ティキの身体はそのまま宙を移動し、ロードが床に開けた『扉』の上へぶら下げられる。
 「イヤアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!
 もう嫌な予感しかしないいいいいいいいい!!!!」
 ぎゃあぎゃあと喚くティキの声を心地よく聞いたシェリルは、花瓶の百合を一つ抜いて、その茎に自身の持つ糸を絡めた。
 「さぁ、ルルv
 この百合を竿代わりに、ティキを餌代わりに、異空間の釣りを楽しみたまえv
 「はい」
 「ハイじゃないいいいいいいいいいいいいいいい!!!!」
 素直に百合を受け取ったルル=ベルが頷く様が、涙に滲んだ瞬間。
 「ぎゃああああああああああああああああああああ!!!!」
 ティキは漆黒の闇へと落ちて行った。



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