† Fate †
†このお話はヴァンパイア・パラレルです† D.Gray−manの原作とは、ほとんど関係ありません。 頭を空っぽにして読んで下さいね |
―――― 月のない夜。 闇の中を、明かりも灯さず騎行する一行があった。 いずれの貴族か、身なりのよい男を中心に、前後を護衛らしき屈強な男達が守っている。 いずれも鋭い視線を辺りに投げ、一刻も早くこの平原を抜けようと馬に鞭を入れていた。 しかし時は無情に過ぎ、東の空がうっすらと明るくなってくる。 「閣下、仕方ありません! 日の当たらない場所へ避難を!」 「う・・・うむ!」 焦った声に促され、閣下と呼ばれた男は先導の騎馬に従って進路を変えた。 昇り来る太陽を避け、影へ影へと逃げる一行は、ややして深い針葉樹の森へと逃げ込む。 うっそうと生い茂る葉の下、ほっと息をついた主とは逆に、護衛達は未だ厳しい顔で辺りを見回した。 「日が昇れば、ここも安心は出来ません・・・どこかに洞窟でもあれば・・・!」 「だが、そう長い間うろついてもいられませんぞ・・・。 ここはもう、マジャル族の土地です」 勇猛な騎馬民族の名に、全員がざわりと肌を粟立てる。 いかに屈強な彼らとて、大勢のマジャル族を相手に主を守りぬけるとは思えなかった。 「くっ・・・! 夜のうちに平原を抜けていればこんなことには・・・・・・!」 悔しげに唇を噛む彼らに、しかし、主は鷹揚に首を振る。 「お前達の責任ではないである。 戦を避けようとすれば、この遠回りは必要であったのだから」 「は・・・・・・」 寛大な主に却って恐縮した彼らは、血走った目を辺りに配った。 なにしろ、『純血』の主は陽光を浴びると死んでしまう。 彼への忠義はもとより、彼の祖父である当主の信頼に応えるためにも、彼らは全力を尽くす必要があった。 護衛の中では一番素早い者を探索に出すと、主と護衛達は気配を潜めてじっと待つ。 時間との勝負に、じりじりと焦げ付くような思いでいると、探索に出ていた男が戻って来た。 「この先は危険です! 森が切れて、マジャル族が放牧をしていたと見られる草地になっております! これ以上は進まれるべきでないかと・・・!」 息を切らしつつ言うと、護衛達は苦いものを噛み潰したような顔をする。 「た・・・確かに、草原に出るよりはここにいた方がいいだろうが・・・」 太陽が昇ることを恐れ、不安げに顔を見合わせる護衛達に、主は穏やかに微笑んだ。 「幸い、今は冬である。 太陽はこの森だけでなく、厚い雲にも遮られて、我が身を損なうほどの光は出さぬであろうよ」 そう、楽観的な考えを述べた主を、護衛達は悲観的な目で見つめる。 「た・・・確かに、閣下のおっしゃるとおりではありますが・・・」 「あぁ、これ。 まだ受勲もしておらぬのに、閣下と呼ぶのはやめて欲しいである。 アレイスターで良いであるよ」 「は・・・はい、アレイスター様・・・」 頷きながらも、今はそんなことを言っている場合ではないだろう、と言うのが本音だった。 『純血』に生まれ、厚い城壁の中でのんびりと生きて来たために、至極穏やかな主だが、城の外が戦場であることを思えば、その性格は時に短所にもなる。 「ともかく、万が一と言うこともあります。 日が高くならないうちに、隠れられる場所を探しましょう」 早口に急かされ、アレイスターは困惑げに頷いた。 「しかし・・・どこへ?」 危険は知らされたが、安全な場所は知らされなかった、と呟けば、探索に出た者が恥ずかしげに頷く。 「し・・・失礼しました。 あの・・・放牧地の近くではあるのですが、おそらく羊飼いが夏の間に使っていたらしき小屋を見つけました。 非常に小さなものでしたが、冬は誰もおりませんでしょうから、アレイスター様だけでもそちらに入られてはいかがでしょうか?」 「ふむ・・・だが、それではお前達が困るであろう? 今後の行程も護衛してもらわねばならんのだ。 余計に疲れさせたくはないである」 「それは・・・お心遣い、嬉しく思いますが・・・・・・」 『純血』とは思えない寛大さに、却って護衛達は戸惑った。 と、護衛の長が進み出て、きっぱりと首を振る。 「我らはアレイスター様を無事に送り届けるのが役目です。 目的地に着きましたら、十分休ませて頂きますので、日の高い間は小屋の裏にでも隠れております」 「はぁ・・・そうであるか・・・・・・」 親切を無碍にされた事を怒るでもなく、どこか感心したようにアレイスターは頷いた。 「では、休ませてもらうとするか。 ・・・実は、こんなに長い間、馬に乗ったのは初めてなのである。 正直、疲れたであるよ・・・」 苦笑した彼に、護衛達は生真面目に頷く。 「では参りましょう。 お前達、奴らがどこに潜んでいるかわからない。 決して油断するな」 長の言葉に大きく頷いた護衛達は、辺りに目を配りながら案内に従い、粗末な小屋に至った。 成人男性一人がようやく抜けられる程度の小さなドアを開けると、無人の小屋は闇に沈んでいる。 窓とも言えない小さな穴しかない部屋に、護衛達は手早く持参の黒幕を張った。 厚いフェルトの幕は幾重にも重ねられて、危険な陽光を完全に遮るように出来ている。 「どうぞ、アレイスター様」 招かれて小屋に入ると、羊飼いの使っていたらしい、粗末なベンチが厚いマットに覆われて、見事な寝台へ変わっていた。 「我らは外におりますので、何かございましたら壁を叩いてお知らせ下さい」 そう言って、彼らが恭しく去って行った時にはもう、森の外では日が昇っている。 いつもであれば、これより早い時間に眠りについているはずだが、長い距離を騎行したためか、身体は疲れているのに神経が昂ぶって、目が冴えたままだった。 「・・・困ったであるな。 日が翳れば、すぐに出発であるのに・・・・・・」 吐息して目を閉じたものの、脳裏に祖父の顔と声が浮かんですぐにまた目を開ける。 「おじい様は・・・なぜ私などに・・・・・・」 いつもの酔狂ではないかと思うと、深いため息が漏れた。 ―――― 祖父が突然、彼に『東フランク王国へ行け』と命じたのは2日前のことだ。 王国にマジャル族が攻め入り、王が苦戦していると言う報告は聞いていたが、気の毒なことと思いつつも、遠く離れた他国の事件だと、アレイスターはのんきに構えていた。 しかしその後、突然祖父に呼び出され、彼はかの国へ行くよう命じられた。 その地に住まう親戚を、クロウリー家の領地へ避難させよと言うのだ。 万が一王が敗れ、王国がマジャル族に支配されるようになっては、彼らの安全が脅かされないとも限らない。 『純血』の一族は多くが人間の国とは関わりを持たず、それぞれの領地を守っているが、なにしろ今のマジャル族は破竹の勢いで、平原を越えてあらゆる国を席巻していた。 その際、人間の国だけを滅ぼせばよいものを、『純血』の一族が所有する地にまで手を伸ばし、多大な被害を与えている。 幸い、彼らの侵略によって滅せられた一族はまだないが、長老達の間では、ローマ軍侵攻以来の災難だとも囁かれていた。 「しかし避難をと言っても・・・私は、城から出たことがないのだが・・・・・・」 それを領地とは言え、行った事のない土地へ案内しろというのだから、無茶という他ない。 「彼らは私を送り届けた後も、ついて来てくれるであろうか・・・・・・」 不安を言葉にすると更に不安が募って、気が焦った。 もう眠ることも出来ずに身を起こしたアレイスターは、自身を囲む黒幕を見回す。 だが当然、目を楽しませるようなものはなく、アレイスターは小屋の窓があった辺りに寄った。 幾重にも重ねられた幕を半分ほどめくると、密やかな森の音が聞こえる。 常緑の森には冬でも微かに動物の気配があり、あの声はどんな鳥だろう、あれはウサギの足音だろうか、などと思いを巡らせた。 と、動物とは違う気配が、そっとこちらへ近づいてくる。 足音を忍ばせてはいるが、雪を踏む音が意外に響いて、人外の耳には容易に捉えられた。 それには護衛達も気づいたのだろう、小屋の裏から剣を抜き放ちつつ飛び出し、近づいて来た者は驚いて足を止める。 「なんの用だ、女!!」 剣呑な声が響き、アレイスターは眉根を寄せた。 「なんと・・・女子にそのような口を利いてはならぬであるよ」 外へ呼びかけると、護衛達が気まずげに身じろぎする気配がする。 アレイスターは幕をめくり、小屋の外へ出た。 「ア・・・アレイスター様!!」 声まで蒼白にして主を小屋へ押し戻そうとする護衛達を、アレイスターは軽く手を振って下がらせる。 外はやや眩しくはあったが、陽光は冬の雲と生い茂った葉に遮られ、思った通り、彼の肌を焼くことはなかった。 「このくらいなら大丈夫である。 ところで・・・そちらが来訪者であるか」 護衛達の陰にいた若い・・・まだ少女の面影を残した女を見遣った瞬間、アレイスターの呼吸が止まる。 騎馬民族らしく、随所に毛皮を配した衣装を纏った女は、アレイスターと目が合った瞬間、困惑げに淡い色の目を揺らがせたが、すぐにキリ、と表情を引き締め、彼を睨んだ。 「ここはあたしの小屋だ! お前達こそ何者だ!!」 小さな身体をピンと伸ばし、張り上げた声が勇ましく、アレイスターははっとする。 「それは・・・迷惑をかけたである。 我ら旅の者であるが、戦を避けて道を変えたために迷い、夜中駆けて来たのである。 馬も疲れたゆえ、休める場所を探していたら、ここを見つけたのであるよ。 放牧地の小屋であるようだから、冬の間は誰も使っておらぬのだろうと思っていたである。 あいすまなんだ」 丁寧に詫びた彼を、しかし、少女は奇妙なものを見るような目で見つめた。 「・・・? なんであるか?」 アレイスターも不思議に思って問うと、少女はぎゅっと眉根を寄せ、鼻を鳴らす。 「お前達、キリスト教徒か? 王国の奴らもそうだったが、男のくせに軟弱で、すぐに頭を下げるのだな!」 「無礼者!!!!」 暴言に激昂した護衛達にも、少女は鼻を鳴らした。 「あたしはマジャルの神に仕える娘だ! キリスト教徒なんかに膝を屈する程、弱くなんかないよ!」 言うや駆け出し、小屋の脇に繋いでいた馬の一頭に飛び乗る。 「ははっ!いい馬だ!」 いななく馬を恐れもせず、難なく乗りこなした少女は手綱を引いた。 「この馬はあたしがもらった! 日暮れまでに、出来るだけ村から離れなきゃいけないんでね!」 「あ・・・待つであるよ」 強く止めるわけではなく、やんわりと・・・子供に言い聞かせるような口調が気に障る。 「うるさい、軟弱者! 止められるんなら止めてごらん!」 馬の腹を強く蹴り、鮮やかに駆け出した瞬間、馬は灰と化して崩れ去った。 「きゃっ!!」 無様に落ちた少女は、膝下の灰を唖然と見下ろす。 と、止める護衛を押しやって少女に歩み寄ったアレイスターが、柔らかく手を差し伸べた。 「大丈夫であるか?」 「なっ・・・なにをしやがった、化け物め!!」 灰を掴んで投げるが、風の具合か、それはアレイスターには当たらずに少女の顔を覆う。 激しく咳き込む彼女の傍に、アレイスターは苦笑して跪いた。 「この馬は特殊な馬なのである。 我が眷属でない者には乗れないのであるよ」 「けんぞく・・・? 部族のことか? キリスト教徒にも、魔法を使う部族がいるのか?!」 灰にまみれた顔を乱暴に拭って問うと 、アレイスターは笑って首を振る。 「我らはキリスト教徒ではないし、魔法を扱う部族でもない。 ただ、この馬の性質を知っているだけである」 少女の腕を取って立たせたアレイスターは、地に積もった灰に向かって息を吹きかけた。 途端、灰は生き物のように蠢き、盛り上がって、たちまち元のたくましい馬へと姿を変える。 「んなっ・・・!!」 目を剥いて声を失う少女の顔を、アレイスターは取り出したレースで拭いてやった。 「お前、名は?」 「エリアーデ・・・」 つい言ってしまった彼女は、慌てて彼の手を振り解く。 「あっ・・・あたしの名を奪ってどうする気だ! の・・・呪おうとしても無駄だぞ!あたしはマジャルの・・・」 「神に仕えているのであろ。 さっき聞いたであるよ」 にこりと笑って、アレイスターは右手を自身の胸に当てた。 「私はアレイスター・クロウリー三世。 以後お見知りおきを、マジャルのエリアーデ」 初めて見る『礼儀正しい』所作の意味がわからず、戸惑うエリアーデの周りで、護衛達が苛立つ。 「アレイスター様、こんな蛮族の女などお相手になさらず!」 「これ、口が過ぎるであるよ」 普段のアレイスターから思えば意外なほど強い口調でたしなめられ、全員が黙り込んだ。 「護衛の者達が失礼したであるな。 勝手に小屋を使ったこともある。 なにか詫びをしたいと思うがどうだろうか」 小首を傾げた所作が小鳥のようだと、うっかり見つめてしまったエリアーデは、再度問われて頬を染める。 「だ・・・だったらあたしを、平原の向こうに連れておいきよ! あたしは今日中に村を出なきゃいけないんだ!」 「ずいぶん切羽詰っているようであるが・・・理由を聞いても良いであるか?」 アレイスターが更に問うと、その暢気な口調が苛立たしいとばかりに睨まれた。 だがエリアーデは、自分のためと言い聞かせて重い口を開ける。 「こないだ・・・レヒフェルトでマジャルの軍が負けたんだ・・・・・・!」 「な・・・それは本当であるか?!」 「こんな嘘つくもんか!!」 驚くアレイスターにエリアーデが怒鳴るが、彼は・・・いや、彼だけでなく護衛達も、困惑げな顔を見合わせた。 「どうかしたのか?」 「いや、それがであるな・・・」 困惑するあまり、不躾な問いを護衛達すら咎めもしない。 「我らは王国が苦戦していると聞いて、かの地に住まう親戚のもとへ向かっていたのである・・・」 「なっ・・・! お前達、援軍だったのか?!」 素早く腰のナイフを抜いたエリアーデに、アレイスターはのんびりと首を振った。 「この少人数で、援軍のわけがないである。 我らは当主の命令で、親戚を我が領内へ避難させようと来たのであるよ」 しかしエリアーデの言うことが本当ならば、とんだ無駄足だったことになる。 「うむぅ・・・・・・。 進むべきか戻るべきか、それが問題である・・・」 決断を迷うアレイスターに、ナイフを収めたエリアーデが歩み寄った。 「どこまで行くんだ?村の名前は?」 畳み掛けられて、アレイスターは困惑げな目を護衛の長に向ける。 と、心得た彼は進み出て、小さな地図を差し出した。 「ここは・・・なんて言う所なんだ?」 「地名とは、人間がつけるのであろ。 ならばこの地に名前はないである」 奇妙なことを言うアレイスターを不思議に思いながらも、地図から顔をあげたエリアーデは大きく頷く。 「あたしもここに連れて行け!」 「はぁ?」 強く否定はしないが、彼女がなにを言っているのかわからない、と言わんばかりの物分りの悪さに、エリアーデはぎゅっと眉根を寄せた。 「ここは、誰も知らない土地なんだろう?! あたしは、誰もあたしのことを知らない土地に、早く行かなきゃならないんだ!」 何度も言っているだろう、と、苛立たしげな彼女にアレイスターはのんびりと頷く。 「あぁ・・・そう言っていたであるな。 うっかり聞きそびれていたであるが、それはなぜであるか?」 「あ・・・あたしは・・・・・・!」 両手を握り締めたエリアーデは、堪えがたい怒りに目尻を紅く染めた。 「あたしは今日、王国の奴に嫁がされるんだ・・・! 戦に負けたから・・・まずはマジャルの神に仕える娘を奪って、改宗させるって・・・!」 「・・・・・・酷い話であるな」 不意に、低く冷たくなった声に、皆が驚いてアレイスターを見る。 「お前が行きたいと、望んだわけではないのだろう?」 「誰があんな嫌な奴!!」 乱暴に吐き捨て、エリアーデは歯噛みした。 「あたしは戦利品なんだ・・・! 戦に負けた以上、それは仕方ないって思う・・・・・・だけど! あいつは嫌だ!!」 きっぱりと言ったエリアーデに、アレイスターが頷く。 「さすがは騎馬民族というべきか・・・まだ少女であるのに自身を戦利品とは、見あげた心がけである」 「はぁ?! あんた、あたしをバカにしてるのかい?!」 「まさか」 掴みかかって来た少女に微笑み、アレイスターは彼女を軽々と抱き上げた。 「へっ?!」 線の細い・・・とても屈強そうには見えない彼の意外な膂力に、エリアーデが目を剥く。 「あっ・・・あんた・・・!!」 「お前が戦利品なら、捕まえた者が持ち帰って良いと言うことであろう?」 「え・・・?」 唖然と口を開けた彼女に、アレイスターが笑みを深めた。 「もちろん、私は『嫌な奴』のように無理強いはしないであるよ。 お前が共に行かぬと言うのであれば、ここに残して行くである」 どうする、と問う前に、エリアーデは彼の首に腕を回す。 「急いで!」 「心得たである・・・が・・・・・・」 困ったように、彼は空を見上げた。 「我ら、陽光の下は移動できないのである。 お前、夜まで隠れられる場所を知らないであるか?」 その問いに、エリアーデが大きく頷く。 「あたしに任せておきな!」 言うや、乱暴に口づけられて、アレイスターは倒れそうに紅くなった。 日が沈むと、一行は隠れていた洞窟から馬を牽き出した。 「今夜中に、一気に駆け抜けますので!」 緊張に満ちた声に、アレイスターが頷く。 人外の聴力を持つ彼らは、エリアーデを探しているらしき人間達の気配が、未だ濃いことを感じ取っていた。 「エリアーデ、しっかり掴まっているであるよ」 一行の中では一番軽いアレイスターの馬に同乗したエリアーデは、肩越し、彼へ笑みを向ける。 「誰に言ってんだ。 馬には、生まれる前から乗ってんだ!」 自信に満ちた声に頷き、アレイスターは鞭を下ろした。 一斉に駆け出した馬は、宙を駆けてでもいるかのように、少しも足音を立てない。 「なんで・・・!」 「静かに」 大声をあげようとしたエリアーデに囁き、アレイスターが更に鞭を入れた。 「ひっ!!」 エリアーデの悲鳴を無視し、小高い岩山を軽々飛び越えた馬は、ほとんど振動もなく地に降り立つ。 「・・・っ!!」 唖然と口をあけて背後を見たエリアーデは、今まで隠れていた森が、既に地平線に沈もうとする様に声を失った。 「もうすぐレヒ河です! アレイスター様、お二人で大丈夫ですか?!」 先を行く護衛の声に、アレイスターが落ち着いて頷く。 「では・・・越えます!!」 馬が脚を早め、強く踏切った。 「きっ・・・!!」 喉から飛び出そうな悲鳴はアレイスターの手に塞がれ、エリアーデは目を丸くして下を・・・はるか下を流れる河を見つめる。 「っ!!」 今度の着地はさすがに振動があって、エリアーデは身を固くした。 「大丈夫であるか?」 気遣わしげに問われたエリアーデは、ガクガクと震えながらも頷く。 「河を渡れば間もなくです!」 横に並んだ護衛が、力強く請合った。 間もなく、と彼は言うが、それはこの馬だからこそ言える事で、決して細くはない河がたちまち地平線の向こうに隠れる様を、エリアーデは呆然と見つめる。 生まれてこの方、馬に恐怖を覚えたことなど一度もなかったが、このありえない騎行には怯えずにいられなかった。 すっかり無口になったエリアーデに苦笑し、アレイスターは目的の城まで一気に駆け抜ける。 人の足を阻む深い森は、既に深更の闇に紛れた彼らの足下に踏みしめられ、山頂まではほんの一駆けの距離だった。 「開門!!!!」 巨大な鉄の門の前で護衛の一人が呼ばわると、低い振動と共に門扉が上に引き上げられる。 「す・・・すごい・・・・・・!」 門をくぐる際、エリアーデは頭上の門扉を見あげて声を引き攣らせた。 今まで見たこともない大きさの鉄だ。 その厚みはエリアーデが2人並んで納まる程で、下を通る間は落ちてきやしないかと、はらはらと見つめた。 門をくぐれば長い隧道―――― それはそのまま、城壁の厚さだ。 その重厚さはそん所そこらの王城の追随を許さず、この城が要塞であることを無言のうちに語っていた。 これほどに重厚な城の城主ともなれば、さぞやいかつい武人だろうと、緊張と共に城内へ入ったエリアーデは、案内の侍女がアレイスターだけを伴って奥へ行った事に、少しがっかりする。 「お前みたいな小娘が、簡単にお会いできる方だと思ったのか? こちらの城主様は、クロウリー家と並ぶ名家の方だぞ」 彼女の表情に気づいた護衛の、小ばかにした口調に、エリアーデはむっと口を尖らせた。 反抗心もあって、殊更乱暴にソファに腰を下ろすと、その柔らかさに身体が沈み、驚いて腰を上げる。 「なっ・・・?!」 唖然とする彼女に、失笑が沸いた。 「馬の背しか知らない蛮族には、クッションが珍しかろう」 「気をつけねば、食いつかれるぞ!」 あからさまな嘲笑にカッとなり、手にしたクッションを次々投げて、憤然と踵を返す。 そのまま部屋を出ようとすると、眼前に突如、一人の侍女が現れた。 「お待ちを、エリアーデ嬢」 「じょ・・・嬢・・・・・・?!」 初めて聞く言葉に、エリアーデが唖然とする。 が、侍女はそんな彼女になんの反応もなく、すっと片膝を折った。 「アレイスター卿が、あなたを我が主にご紹介したいとおっしゃいました。 どうぞお召し替えを」 「は・・・?」 丁寧な言葉の意味がわからず、唖然とするエリアーデの前で、侍女は優雅に踵を返す。 「どうぞこちらへ」 不安がないではなかったが・・・エリアーデは意を決して、彼女の後へとついて行った。 その頃、城主と面会したアレイスターは、その惨い姿に目を見開いた。 ぐったりとソファに身を預けている彼女の顔は酷い傷に覆われ、気丈に振舞ってはいても、その指先は完全に血の気を失っている。 「ク・・・クラウド、その傷は・・・・・・!」 掠れ声をあげる彼に、クラウドと呼ばれた女城主は顔を引き攣らせた。 それが微笑みだと理解するのには少々時間がかかったが、椅子を勧める物腰からは、彼女の優雅さは失われていない。 「財産目当ての親族にはめられた。 飲用の血に硝酸銀を混ぜられて・・・飲まなかったのは幸いだったが、怒った奴にそれを浴びせられたのだ」 「銀・・・!」 ただの酸であればともかく、銀に対して激しいアレルギーを持つ彼らにとって、それは命取りになりかねない行為だった。 「焼け爛れた皮膚に銀が入ったせいで・・・この傷はもう、消えぬそうだ・・・・・・」 苦笑気味に呟いた彼女の前で、アレイスターは歯噛みする。 「卑怯な・・・! そうまでして財産を奪おうとは、純血の矜持もなくしたのであるか!」 「純血の矜持ゆえ、私のような若輩者に、この城を預けたくはなかったのであろうよ」 ため息混じりに言って、クラウドは部屋の隅に控えていた侍女達を手招いた。 心得て、主に歩み寄った侍女達が、手際よく傷の手当てをする。 無残に爛れた顔が、厚く包帯で覆われて行く様を、アレイスターは気の毒そうに見つめた。 「そういうわけで、せっかくの申し出だが・・・私は城を離れるわけには行かなくなった。 この傷では、そう長く騎行もできぬしな・・・」 「そうであるな・・・」 城門が厳重に閉ざされていたことを思い出し、アレイスターはぎこちなく頷く。 「お前が篭城するつもりであるなら、物資の補給は我が家が・・・」 「いいや、構うな」 きっぱりと言って、クラウドはまとわりついていた侍女達を下がらせた。 「下手に関わると、貴家にまで災いが及びかねんぞ」 「しかし・・・」 アレイスターの反駁は、手をあげて封じる。 「相続争いくらい、自力で乗り越えて見せる。 ゆえに援助は、私が正式な当主となり、自治会に名を連ねたのちに頂きたい。 ・・・・・・私は代々受け継いできた自治警長官の地位を、他家に譲る気はない」 そう断言した彼女の、包帯に囲まれた目が刃のように光った。 「・・・わかったである。 このことは、祖父に伝えよう」 しばし考えた後、アレイスターが頷く。 「せっかくの親切を無碍にして・・・」 「いいや、構わんであるよ」 今度はアレイスターが手をあげて、クラウドの詫びを封じた。 「今、私に力がないことこそ申し訳ないと思うである。 ・・・祖父に伝えることしか出来ないことを許してくれ」 本心なのだろう、情けなくうな垂れてしまったアレイスターに、クラウドが微笑む。 「これだけの『純血』がいて、駆けつけてくれたのはクロウリー家の他には色情狂だけだ。 援助をお断りするのはひとえにこちらの都合であるのだから、ここまで来てくれたことにはとても感謝している。 いや、ホントにな」 す、と立ち上がったクラウドが、大真面目にアレイスターの手を握った。 「お前が来てくれてなにが助かったって、あの色情狂と二人きりにならずに済んだことだ」 この場合、使用人である『眷属』達はカウントされない。 「今日は泊まって行ってくれるよな?!」 「は・・・? まさか・・・・・・クロスが滞在しているのであるか?!」 「その通りだ!!」 思わず大声をあげてしまって、クラウドは苦痛に顔を歪めた。 「だ・・・大丈夫であるか?!」 「〜〜〜〜傷を負っているだけでも負担だと言うのに、あいつが城内にいて、いつまとわりついてくるかと思うと負担は二乗三乗だ・・・! アレイスター、助けに来てくれたんならついでに、あいつを城外に放り出してくれ!!」 「すまんが無理である」 「くぅ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」 あっさりと断られて、クラウドは苦しげに唸る。 今にも倒れそうな声に忠実な侍女達が飛んで来て、主人を恭しくソファへ寝かせた。 「あぁ、お前達・・・! 私は親戚共の陰謀の前に斃(たお)れるのではない・・・。 世の無慈悲が私を殺すのだ・・・・・・! 怨むでないぞ、決して怨むでは・・・・・・!」 芝居がかった台詞を受けた侍女達が、じっと恨みがましい目でアレイスターを睨む。 「・・・・・・怨むなと言いながら、思いっきりけしかけているではないか」 深々と吐息して、アレイスターは頷いた。 「わかったである。 クロスには私から無体をせぬよう言ってみるが・・・期待はしないでほしいである」 「アレイスター・・・!お前だけが頼りだ・・・!」 「期待するなと言うに・・・・・・」 ちっとも話を聞いてくれない彼女にまた吐息しかけたアレイスターは、侍女達の目が未だ自分を睨んでいることに気づいて、慌てて目を逸らす。 緊急の話題変換の必要を感じて、アレイスターは懸命に頭を巡らせた。 ややして、 「ところでクラウド、こんな大怪我をしているとは知らずにいたため、連れてきてしまったのであるが・・・・・・」 言いにくそうに口を濁すアレイスターに、クラウドが目を輝かせる。 「連れて来た?動物か?!可愛いか?!」 途端に喜色を浮かべて身を起こしたクラウドが、頬を紅潮させてアレイスターの背後を見遣った。 「いや、生き物であることは確かだが・・・動物ではなく、人間である」 「あ? あぁ、非常食か」 途端につまらなそうな顔をして、クラウドはソファに身体を戻す。 「若い女だろうな?私は若い女の血でないと、どうにも飲む気になれない」 「・・・非常食などと、言って欲しくないである!」 突然の怒声に、クラウドが目を丸くした。 「ど・・・どうしたのだ、アレイスター・・・! お前の大声など、初めて聞いたぞ・・・・・・!」 驚く主人の周りで、侍女達も怯えている。 その様に我に返ったアレイスターが、恥ずかしげに頬を染めた。 「す・・・すまないである・・・。 ただその・・・私はその娘を、お前に預かって欲しいと思って・・・・・・」 「・・・はぁ? 一体どういうことだ。 非常食でもない娘をここに置いて、どうしろと言うのだ」 至極当然の問いを返されて、アレイスターはしどろもどろにエリアーデのことを話す。 「だっ・・・だから、私を頼った者を無碍には出来ないであるっ! しかし、我が城に戻ろうとすれば、また彼女の故郷を通ることになるであるし・・・そうすれば彼女も無事ではすまないかも知れないである・・・。 だから・・・・・・」 「・・・まぁ、マジャルの女なら、羊の世話をさせるにはうってつけかな。 人間は羊の血を盗み飲んで、殺してしまうこともないだろうし」 クラウドが呆れ気味にアレイスターを眺めると、彼は、血の気の薄い頬をこれでもかと紅くした。 「あ、いやその・・・できれば・・・・・・」 何度も言葉を切り、散々逡巡した挙句、苛立ったクラウドに急かされてようやく言う。 「あの娘を・・・教育してやって欲しいである・・・!」 「羊の世話なら私よりよほど長けているだろうに、今更何を教えるのだ」 「いやっ!!そうではなく・・・!!」 挙動不審に目を泳がせる彼を、侍女達も不思議そうに見つめた。 と、彼の助け舟と言うより、とどめがドアをノックする。 「お連れしました」 「誰をだ?」 ドアを開けた侍女は、主に問われるや、すっと半身を引いた。 「アレイスター卿がお連れするようにと。 マジャルのエリアーデ嬢でございます」 「これは・・・・・・!」 感心したクラウドの傍らで、アレイスターも息を呑む。 クラウドの持ち物か、ビザンティン風の華やかな衣装を纏ったエリアーデは、護衛達が『蛮族』と蔑んだ野性味をすっかり取り払って、貴婦人然とそこにいた。 「ほぅ・・・これは美しい娘だ。 アレイスターが見初めるのも無理はない」 「みっ・・・見初めるとかそう言うわけではなくっ・・・!!!!」 クラウドのからかい口調に必死に反駁しても、視線がエリアーデに釘付けになっている時点で心意は透けている。 クスリと笑ったクラウドは、再びエリアーデに目を向けた。 「この城の城主、クラウドである。 よろしくな、エリアーデ嬢」 ソファから立ち上がりもせず言ったクラウドを、無礼とも思わずエリアーデはまじまじと見つめる。 顔の半面を包帯で厚く覆われた彼女が、わずかに身じろぎする度に、見事な身体の線が柔らかい布地に浮き上がった。 思わず見惚れていると、再度声をかけられて、はっと我に返る。 「えっと・・・あの・・・・・・」 こんな時になんと言えばいいかわからず、戸惑うエリアーデは、困惑げな目をアレイスターへ向けた。 と、彼がうっとりと自分を見つめる目に気づいて、恥ずかしげに俯く。 「やれやれ・・・なんと気恥ずかしい所を見せてくれるのだ」 あまりにも初心な二人に、クラウドが苦笑した。 しかし、若く見えても既に数百年の齢を重ねた魔物であるクラウドは、そんな二人の様子にアレイスターの依頼を察する。 「・・・つまり、アレイスター。 お前はこの娘に、どこの城に出しても恥ずかしくないよう、作法を仕込めと言うのか」 「あ・・・あぁ、そうなのである・・・!」 ほっとして、アレイスターはクラウドへ頷いた。 「エリアーデがすぐにでもマジャルに戻るのなら必要あるまいが・・・彼女の状況として、近々に帰ることはままならぬであろう。 ゆえにこの国で・・・いや、この城で不自由のないよう、世話をしてくれぬものかと・・・」 「ふむ・・・。 常時であれば構わんが、今は・・・」 「なんだよそれ!」 突然言葉を遮られて、クラウドは唖然とした。 見遣ると、エリアーデが肩を怒らせてアレイスターに詰め寄る。 「あたしは、あんたについて来たんだ! こんな所に置いてけぼりにする気かい?!」 エリアーデの剣幕に、怯えるかと思ったアレイスターはしかし、意外にも踏みとどまった。 「わ・・・我が城はルーマニアにあるのである。 ここから戻ろうとすれば、またマジャルの土地を通ることになり、お前を危険にさらしてしまうである。 それはできぬゆえ、ほとぼりがさめるまではここにいてはどうかと思うのであるよ」 「う・・・」 もっともな意見に反駁できず、黙り込んだエリアーデに、唖然としていたクラウドが苦笑した。 「なんと言う気の強い娘だ。 さすがは勇猛果敢なマジャルの女だな」 クスクスと笑い出すと、エリアーデは複雑な顔をする。 「どうした?」 「・・・・・・勇猛果敢だったのは、ついこないだまでのことだ。 戦に負けた途端、男どもは腑抜けてしまった」 「ふむ?」 悔しげに唇を噛むエリアーデに、どういうことか、と、促すと、代わりにアレイスターが答えた。 「エリアーデは戦利品として、敵に嫁がされるところであったのであるよ」 「・・・それを奪ってきたのか、お前。 なかなかやるじゃないか」 感心したようなことを言いつつ、クラウドは呆れ気味に吐息する。 「しかし、後のことを何も考えずに行動するとは、さすがは世間知らずだな。 これからどうするつもりだ?」 「は? だから、お前に世話を頼もうかと・・・」 「我らの正体を隠したままでか?」 あっさりと切り返されて、アレイスターは声を失った。 「あ・・・それは・・・・・・」 「お前がこの娘を眷属にすると言うのなら、さっさとしろ。 だが、迷っているのなら今すぐ人里へ返せ。 この城は、今後の状況によっては篭城することもありうるのだ。 そんな中を人間の女がうろついてみろ。 飢えた者が何をしでかすかわからんぞ」 畳み掛けられてなにも言えないアレイスターの傍ら、エリアーデがムッと目を吊り上げる。 「あたしは村に帰るわけにはいかない! でも、男どもの自由になるつもりも・・・」 「馬鹿」 単刀直入にして誤解しようのない言葉を突きつけられ、エリアーデが頬を染めた。 「誰が馬鹿だって?!」 「お前だ、馬鹿者。 誰が貞操の話なんぞしているか。 私が言っているのはお前の命・・・お前自身が、我らの食料になりうると言っているのだ」 クラウドが言うや、表情の動かない彼女の代わりに、周りの侍女達が歯を剥く。 獰猛な肉食獣のような・・・いや、それよりも断然長い牙が、女達の唇から零れた。 「あんっ・・た・・・たち・・・・・・!!!!」 声を引き攣らせたエリアーデを、アレイスターが困惑げに見つめる。 言葉を探すばかりでなにも言えない彼の姿に、クラウドは深々と吐息した。 「我らは闇の眷属―――― お前達の間ではなんと呼ぶか知らないが、血を糧として生きる種族だ。 人の血を飲むことはあまりないが、お前のように若い娘の血は、甘くまろやかでかぐわしく・・・とても美味い」 クラウドの唇を、紅い舌がなぞる。 「飢えていなくとも、その首に食らいつきたい衝動を堪えられぬ者は多かろう」 「ひっ!!!!」 引き攣った声をあげて、エリアーデが壁際にまで後ずさった。 その様に、クラウドがくすりと笑う。 「なぁに・・・お前も眷属になれば、襲われることはない。 だが、このままではいずれ我らの食料だ。 早々に選べ」 とは言いつつ、彼女の本心が『出て行け』であることは容易に察せられた。 唇を震わせながらエリアーデが、背を壁に押し付けた途端、隠し戸であったらしいそこが後ろへ開く。 「きゃっ・・・」 「おっと」 よろけたエリアーデを、大きな手が背後から支えた。 「いい匂いがすると思って来てみたら、いい女じゃないか。 アレイスター、クラウドの見舞いに持って来たのか、これ?」 魅惑的な声が耳朶に触れた瞬間、エリアーデの肌が粟立つ。 人の言葉を発していながら、その声はまぎれもなく捕食者のそれだった。 「クラウド、俺にも少し分けてくれ。 若い女の生き血は美味いからな」 首筋に男の息が触れて、エリアーデが悲鳴をあげる。 クラウドの話は半信半疑に聞いていたが、今、はっきりと身の危険を感じた。 怯えるエリアーデにすかさずアレイスターが歩み寄り、強張る腕を取って引き寄せる。 「いい加減にするであるよ、クロス。 彼女はお前の食料ではないである」 珍しく憤った様子の彼に、クロスと呼ばれた男は肩をすくめた。 「あぁ、だからそれ、クラウドの見舞いなんだろ? 活きのいい女だ・・・俺の部屋にまで甘い血の匂いが漂ってきたぜ。 この生き血を飲めば、少しはあいつの怪我にもいいだろう」 一足に距離を詰めたクロスが、エリアーデの顎に指をかける。 愉しげな笑みを浮かべて自分を見つめる男の、長く鮮やかな赤毛に溢れる血を連想して、エリアーデは喉を引きつらせた。 しかし、 「やめろ」 低く冷たい声音と共に、アレイスターがクロスの腕を掴む。 「この娘は食料などではないと言っている。 お前は余計なことを気にせず、クラウドの治療に専念するがいい」 言うやアレイスターはエリアーデの手を引き、クロスを押しのけて踵を返した。 慣れない靴によろけるエリアーデを支え、憤然とした足取りで部屋を出て行く。 その背を唖然と見送ったクラウドは、はっとして侍女達を傍に侍らせた。 「お前も出て行けっ!!」 エリアーデと違い、貞操の危機を感じたクラウドが、怒った猫のように目を吊り上げる。 が、クロスは気にせず、侍女達の背に庇われたクラウドに擦り寄った。 「いいじゃないか。あいつもお前の治療に専念しろって・・・」 「お前なんぞに触られたら、治るものも治らない! とっとといねぃ!!」 怒号と共に、クラウドの目が紅く光る。 途端、クロスは笑みを浮かべたまま、動きを止めた。 「ふぅ・・・」 「ごっ・・・ご城主様!!」 ふらりと倒れたクラウドを、侍女達が慌てて支える。 「まったく・・・重傷の私に・・・よくも能力を・・・使わせ・・・おって・・・・・・」 か細い声で文句を言う間に、クラウドは意識を失った。 一方、クラウドの部屋を出たアレイスターは、エリアーデの腕を引いて、暗い廊下をずんずんと進んでいった。 「ちょっ・・・あんっ・・・た・・・!!」 時折足をもつれさせながら、エリアーデは必死についていく。 「ねっ・・・待っ・・・てっ・・・!!」 息を切らしながら言った瞬間、さばき損ねた長い裾を踏んで、前のめりに倒れた。 だが、無様に転がる前に、彼女はアレイスターに抱き止められる。 「大丈夫であるか?」 「だっ・・・大丈夫なわけあるかっ! 待ってって、何度も言っただろ?!」 肩で息をするエリアーデを、アレイスターが不思議そうに見下ろした。 「どうしたのであるか?」 「あの城主と違って、あたしはこんな裾の長い服に慣れてないんだよっ!!」 苛立たしげに言って、エリアーデはアレイスターを突き放す。 「ったく、どういうつもりだい! あんな女に会うだけなのに、散々な目に遭ったよ!」 大声で言いながら、エリアーデは長い裾をたくし上げ、腰帯に挟んだ。 すると、すっきりと伸びた白い脚が露わになって、アレイスターは慌てて目を逸らす。 「そ・・・そんなに・・・嫌な目に遭ったのであるか・・・?」 顔を紅くして問えば、エリアーデは憤然と頷いた。 「あの召使い、身体を清めるためだとか言って、あたしを湯の中に突き落としやがったんだ! 出ようとしたら首を掴んで沈めやがって、絶対殺す気だったね!」 ものすごい力だった、と、首をさする彼女を、アレイスターが気遣わしげに見つめる。 「そ・・・それは気の毒であったな・・・。 しかし・・・・・・」 まだ少女の身体つきを見下ろしたアレイスターは、思わず吐息を漏らした。 侍女によって全身を磨かれたエリアーデの肌は、ミルクにバラの花びらを浮かべたような彩りを纏って艶めかしく、健康的な輝きを放っている。 青い瞳は気の強い光を放ち、波打つ金色の髪は柔らかくうなじを覆って、クロスの言う通り、甘い香りを放っているかのようだった。 「実に・・・美しいである」 「んなっ?! なに言ってんだい、いきなり・・・!」 真っ赤になったエリアーデに、アレイスターが微笑む。 「我が手元に置いておきたい気持ちはあるが、先ほども言ったように、我が城へ連れ帰るには弊害があるのであるよ。 しかし、この城もお前にとっては安全ではないようである・・・ならば・・・・・・」 指を当てた顎を、アレイスターは考え深げに引いた。 「クラウドの避難場所にしようとしていた城がある・・・。 そこにしばらく、かくまってやろうと思うのであるが・・・・・・」 「じゃあ、そうしておくれよ!」 詰め寄ったエリアーデを、アレイスターは困惑げに見る。 「実は・・・確かにそこは我が家の領地ではあるのだが、私は行ったことがないので、案内できるものかどうか・・・。 クラウドが避難するのであったら、護衛達もついて来てくれたであろうが・・・・・・」 「なんだよ! あたしみたいな『人間』を護衛するのは役不足だって言いたいのかい?!」 目を吊り上げて更に迫るエリアーデとは逆に、アレイスターは冷静に首を振った。 「違うである。 彼らは祖父の・・・当主の家来であるため、本来、私の命令を聞く立場にないのであるよ。 こんなことになるとわかっていたなら、我が家来達を連れてくるのだったが、生憎彼らは文官ばかりで・・・私を守って平原を駆けられる者などいなかったのである」 役に立たずすまない、と、あっさり詫びたアレイスターに、エリアーデが眉根を寄せる。 こんなにも素直に謝ることのできる彼が『人間』ではないなんて、信じられない思いだった。 しかし、口は全く逆の言葉を放つ。 「頼りない奴!」 大声で言ってしまってから息を呑み、怒っただろうかと恐る恐る窺ったアレイスターは、しょんぼりと肩を落としていた。 「あ・・・あの・・・」 「すまないである・・・」 謝ろうと思ったのに先に謝られてしまって、エリアーデは気まずげに目を泳がせる。 しばらくして、 「あ・・・あたしが頼んで、ここまで連れて来てもらったんだ。 後は自分でなんとかする」 最初からそのつもりだったんだと自分にも言い聞かせ、エリアーデはにこりと笑った。 「逃がしてくれてありがとう、おかげで助かった。 城主にもよろしく」 軽く手を振って、エリアーデはアレイスターの傍らを通り過ぎる。 そのまま出口へ向かおうとした彼女の腕を、アレイスターはとっさに掴んだ。 「・・・・・・なんだよ」 エリアーデが驚いて目を見開く。 「まだなんか用かい?」 余計な期待はさせるなと、眉根を寄せたエリアーデだけでなく、アレイスターも思っていた。 だが、頬を紅潮させたアレイスターの口から出たのは、およそ理性とは程遠いものだ。 「共に・・・私が共に行くのであれば、護衛達もついて来てくれると思うのである!」 一息に言ったアレイスターは、自身の言葉に慌てた。 「あ・・・その、なんと言っても私は唯一の跡取りであるし、おじいさまの命令も私を守ることであったのだから、きっとそこは彼らも理解してくれると思うであるし・・・!」 しどろもどろに言って、アレイスターは大きく息を吸う。 「お前が嫌でなければ、一緒にいてほしいである!」 「は・・・はぁ・・・・・・」 アレイスターの勢いに気おされて、思わず頷きそうになったエリアーデは、はっとして歩を引いた。 「あんたまさか、その城であたしの血を吸い尽くそうって魂胆じゃないよね?!」 「まさか!」 すかさず言って、アレイスターは懸命に首を振る。 「ご・・・誤解のないように言っておくが、我ら別に、人の血のみを呑んで生きているわけではないである! 我らにとって人の血は、強い酒のようなものなのだ・・・!」 なんとかわかってもらおうと、アレイスターは肩で息をしながら言い募った。 「クロスのように、年がら年中酔いどれているような輩には魅力的かも知れぬが、子供はまず飲まぬであるし、成体でも毎日のように飲む者は稀である!」 「そ・・・そうなのか・・・?」 疑わしげなエリアーデに、アレイスターは大きく頷く。 「ク・・・クラウドも言っていたであろ、人の血を呑むことはあまりないと! 切羽詰ることでもなければ、家畜もたくさんいるというのに、わざわざ人を襲ったりしないであるよ!」 言われて見れば、城主は『篭城するかもしれないから危険だ』と言っていた。 「じゃ・・・じゃあ、かなり飢えない限りは・・・・・・」 「飲まないであるよ! 戦の前の景気づけや祝勝には、死なない程度に提供してもらった血を飲むこともあるが、純血たるもの、相手の意に反して襲うことなどまずないである!」 エリアーデの疑いを晴らそうと畳み掛けたアレイスターが、深く吐息する。 「我らが直接血を飲むのは、相手を倒す時と・・・その・・・・・・」 口ごもったアレイスターが、気弱げな上目遣いでエリアーデを見た。 「その・・・・・・人間を・・・仲間にする時である・・・・・・」 「仲間・・・? あんた達、人間を仲間にできるのか?」 言ってから、エリアーデは唐突に納得する。 クラウドが『眷属になれば襲われることもない』と言っていたことを思い出したのだ。 「眷属ってのは・・・あんた達と同じになるってことか・・・!」 言いながらエリアーデは、クラウドの侍女達の姿をも思い出す。 獣のように長い牙を持った彼女達は一見、普通の女であるにもかかわらず、エリアーデをものすごい力で押さえつけた。 「あたしも・・・眷属になれば、あんな風になるのか・・・?」 口元に手をやり、ふっくらとした唇の上から小さな犬歯に触れる。 と、彼女の不安を察して、アレイスターが小首を傾げた。 「人間から眷属になった者でも、あそこまでになるにはかなりの時がいるのである。 ナイン家はよき主人が続いたゆえ、長く仕えている者が多いが、ほとんどの者は人と変わらぬ寿命で生涯を終える。 中には、牙も生えぬまま寿命を終える者も・・・・・・」 「ふぅん・・・」 エリアーデの青い目に、好奇心の光が浮かんだ。 「それ・・・もっとよく知りたい」 一旦は引いた歩を進め、アレイスターに歩み寄ったエリアーデが、彼をほとんど真下から見あげる。 「いいよ。 連れてって」 「わ・・・我が領地に・・・であるか・・・?」 「うん」 頷いたエリアーデは、自分で言っておきながら困惑げなアレイスターの手を取った。 「そうと決まれば、早く行こう! 篭城しようかって所に長居しちゃ、城主に迷惑だよ」 「そ・・・それもそうであるな・・・・・・」 彼女の言う通りだと頷いたアレイスターは、エリアーデと共に出口へ向かう。 と、護衛達と合流する前に、回廊の真ん中に突然現れた数人の侍女達に道を塞がれた。 「お帰りでございますか」 淡々と、感情の見えない声で問うた一人に、アレイスターが頷く。 「クラウドにはよろしくと・・・」 「困ります」 アレイスターの言葉を遮った女が眉根を寄せて、初めて感情らしい感情を見せた。 「我が主はただいま、不自由な状況でございます。 どうぞお助けくださいませ・・・!」 全員で両手を組み合わせ、懇願する彼女らにアレイスターが困惑する。 「し・・・しかし、クラウドはエリアーデに出て行けと・・・」 「それは・・・その通りでございますが、主はエリアーデ嬢の安全が保証できない、と申したのです」 だから、と、一人が歩み寄った。 「アレイスター様のお部屋にエリアーデ嬢のお部屋もご用意させていただきます。 どうか・・・城内にお留まりくださいまして、主をもうおひと方よりお守りくださいませ・・・!」 「あ・・・あぁー・・・クロスであるかー・・・・・・」 主人思いの彼女達が必死になるはずだと、唐突に納得してアレイスターが頷く。 「エリアーデ、そう言う事情である。 この真冬に、慣れぬ道を騎行するよりは、侍女らの協力のもと、この城に留まる方が安全であろう」 「・・・あのクロスって奴がいるんじゃ、あたしも危険なんじゃないのか?」 「・・・そうであるな」 やっぱり出て行くか、と、揺らぎそうになったアレイスターを留めるべく、侍女達は口々にエリアーデを守る方法をまくし立てた。 鳥のさえずるような声を半分も聞き取れないでいるアレイスターが呆然とする内に、侍女達は二人を囲む。 「というわけですからどうぞ、ご案内いたします」 「いや、しかし・・・」 「どうぞ」 「どうぞ」 「どうぞこちらへ」 侍女達は二人を囲むと、ものすごい力で抱えるようにして城の一室へ連れ込んだ。 驚くほど広い部屋は暖炉に赤々と火が灯り、石造りの城とは思えないほど暖かい。 「アレイスター様はこちらのお部屋をお使いください。 ここは抜け道のない部屋でございますので、ご安心を」 つまり、クロスが無断で侵入することはないと、侍女は断言した。 「エリアーデ嬢は続きの間をご使用ください。 こちらももちろん、抜け道などありませんし、お食事は私共が交代でお届けします」 「なんだか・・・部屋でこっそり猫を飼っている気分であるよ」 アレイスターの呆れ声をきれいに無視して、並んだ侍女達が一斉にお辞儀をする。 「どうぞごゆっくり」 言うや止める間もなく、彼女らは部屋を後にした。 「こ・・・こんなことになってしまって・・・」 すまなそうに肩をしぼませるアレイスターに、エリアーデは肩をすくめた。 「いいよ、別に。 どうせ行くあてなんかなかったんだ」 凍死しなかっただけもうけもん、とあっさり言って、エリアーデはソファに寝そべる。 今度はクッションの弾力に驚くこともなく、向かいの椅子に座るアレイスターを見あげた。 「ねぇ・・・さっきの続き、聞かせて」 「さっきの・・・とは?」 戸惑う彼に、エリアーデは眉根を寄せる。 「眷属になった人間のことだよ。 どんな順序で仲間になるのさ?」 言うと、アレイスターは『あぁ』と頷いた。 「仲間にする時は、ただ血を吸うのではなく、ほんの少しだが、我らの血液を与えるのであるよ。 ただしこれは、そうしようと思ってするわけではない。 この牙は、普段は普通の歯とそう変わらないのであるが、対象に喰らいつく時にやや伸びる・・・らしい」 「なんだよ、はっきりしないね!」 イラッとして声を荒げると、アレイスターはまたしょんぼりと肩をすくめる。 「す・・・すまないである・・・。 実は・・・私はまだ、対象に喰らいついたことがないのであるよ・・・」 「は?! そんなことが・・・って、できるのか」 唐突に納得して、エリアーデは半ば起こした身体を再び横たえた。 彼らが普段飲んでいる血は、食肉用に処理される家畜や提供された人間の血だというのだから、おそらくそれはゴブレットなんかに入って、行儀よく食卓に並ぶのだろう。 「それに、我らの血を与えたとしても、眷族になれるかどうかはその人間の体質の問題だそうな。 いくら血を与えても、眷属になれなかった人間もいたというし、逆に、まったく血を与えた覚えがないのに眷族と化した人間もいたらしい」 「じゃあ・・・あんたに血を吸われても、あたしが眷属にならないことだってあるんだ・・・・・・」 「そうであるな」 どこかぼんやりと言った彼女に、アレイスターは生真面目に頷いた。 「眷属になったとしても、牙が生えるのはかなり経った後である。 仲間に引き入れた者の力加減にもよるし、一概にどのくらいで、とは言えないそうであるが・・・人血を飲めるようになると成体になったと思っていいようであるな」 「ふぅん・・・・・・」 エリアーデのくぐもった声を訝しく見やると、今にも眠ってしまいそうに目を閉じている。 「こ・・・これ! ちゃんとベッドで寝るであるよ!」 「ここでいい・・・・・・」 ほとんど寝言の答えにアレイスターがうろたえている間に、エリアーデは寝入ってしまった。 「ど・・・どうすれば・・・・・・」 侍女を呼ぼうかと、キョロキョロするアレイスターの目に、寝室のドアが写る。 「・・・運んでよいものであるか? しかし・・・・・・」 まだ使っていないとは言え、婦人の寝室にむやみに入るのはためらわれた。 この様を見る者があれば、さっさと運べと呆れたことだろうが、生まれ育った城からほとんど出ずに過ごした彼は、教本通りの対処方法しか知らない。 考えあぐねた結果、自分の寝室から毛布を持って来て、眠るエリアーデにかけてやった。 「こ・・・これでよし・・・!」 大仕事をやり遂げたような顔をして、アレイスターが大きく頷く。 「しかし、随分早くに寝るのであるな。 夜明けにはまだ遠いであるのに・・・」 呟いた彼は、はたと手を叩いた。 「そうか・・・人間とは、夜に眠るのであるな」 そのことに妙に感心したアレイスターは、珍しい生き物を観察するかのようにエリアーデの寝顔を見つめる。 安らかな寝息を立てる彼女を飽きもせず眺めていると、身動ぎした彼女の髪が流れて、首筋が露わになった。 「あ・・・」 白い肌に浮かぶ青い血管に、アレイスターの目が釘付けになる。 まるでそこから甘い香りが放たれているような気がして、アレイスターは自らの意思によらず引き寄せられた。 眠る彼女の傍らに跪き、そっと触れた肌の熱さに鼓動が跳ねる。 こくりと喉を鳴らし、彼女の上に屈みこんだ時―――― 鼻をつく硝煙の臭いに我に返った。 「なん・・・であるか・・・?!」 驚いて窓に駆け寄ると、人外の目が城門の攻防戦を捉える。 「ど・・・どこの軍であるか!!」 「アレイスター様!!」 唖然とする彼の元へ、侍女の案内で護衛達が駆けつけた。 「敵襲でございます! どうぞ避難を!!」 「あ・・・あぁ・・・」 戸惑いながらも頷いたアレイスターが、この騒ぎにおいてさえ目を覚まさないエリアーデを抱き上げる。 「そんな者、お捨て置きください!」 「そうは行かぬであろ!」 聞く耳を持たず、エリアーデを抱えたまま案内の侍女に従う彼を、護衛達は呆れつつ追った。 「クラウドはどこであるか? 傷をおして戦っているのであるか?」 気遣わしげに問うと、侍女は眉根を寄せて首を振る。 「主は・・・あの後意識を失われて、未だ回復しておられません。 クロス様も主の目に睨まれて固まったままで・・・」 「なんと・・・このような時に、呆れた奴である」 どうせクラウドにちょっかいを出そうとして反撃されたのだろうと、状況を正しく理解したアレイスターが吐息した。 「せっかくおとなしいのだ、お前達の盾にでもするがいいであるよ。 無駄に大きいのであるから、矢を防ぐにはもってこいである」 大真面目に言う彼に、皆が思わず笑みをこぼす。 「こちらへ」 幾分和んだ口調で、侍女が回廊の途中にある壁を押した。 地下へと続く通路に明かりはないが、彼らには難なく見通せる。 「この通路は裏の森に続いております。 しばらく行かれますと離宮がございますので、そちらにお隠れください」 「あぁ・・・ありがとうである。 クラウドは・・・?」 「主は・・・」 困惑げに口を濁した侍女は、ふるりと首を振った。 「必ず、お守りします。 えぇ、あたくし共も、恩に報いる道は存じているつもりです」 きっぱりと言って、アレイスターを護衛達と共に通路に押し入れた侍女は、壁を元通りに戻す。 「だ・・・大丈夫であろうか・・・・・・」 気遣わしげに背後を見るアレイスターを、護衛達が先へ促した。 「ナイン家は代々自治警長官を勤めて来た家です。 きっと大丈夫ですとも」 きっぱりと言われて、アレイスターが頷く。 「そう・・・であるな・・・。 私がいても、迷惑なだけである・・・」 しょんぼりしてしまった彼に『そう言う意味ではない』と言いたくはあったが、今は避難が先と通路を駆けた。 結構な距離を行った先に、地上へ続く階段がある。 「先に私が」 一行を押し留め、先に立った一人が足音を忍ばせて階段をのぼり、小さな鉄製のドアの覗き窓から外を窺った。 森は闇に沈んでいたが、人外の目と耳は、外の様子を正確に捉える。 「大丈夫です。 どうぞ」 そっとドアを開けて、彼は一行を呼び寄せた。 「おそらく、この道の先が離宮でしょう」 雪に覆われ、道は定かではなかったが、冬枯れた樹木は人一人が通れるほどの幅を開けて立っている。 「お急ぎを」 「う・・・うむ・・・」 闇の中を不自由なく駆け、着いた離宮には既に、世話係の侍女が待っていた。 「こちらでございます!」 声を潜め、一行を入れると厳重に鍵をかける。 存在が知れぬようにとの配慮か、入り口から部屋までの廊下には一点の明かりもなく、しかし、窓のない部屋に至れば暖炉には赤々と炎が踊っていた。 「・・・ここまでいらっしゃればもう、大丈夫です。 万が一敵襲があっても、クロウリー家の方々には手を出さないでしょうから」 気鬱げな声で言う侍女を、アレイスターが気遣わしげに見る。 「主人の傍にいたかったであろう。 すまないことをしたであるな」 「いっ・・・いえ!そんな!!」 慌てて首を振った彼女は、アレイスターの手の中で寝息を立てるエリアーデに気づき、蒼褪めた。 「あの・・・お怪我でも・・・?」 逃がす手順に不手際があっただろうかと、声を詰まらせる彼女にアレイスターが首を振る。 「寝ているだけであるよ」 「あ・・・あぁ、眷属になさったのですね」 失血性の失神だと勘違いして、進み出た侍女がエリアーデに手を伸ばした。 「では、寝室にお連れします」 勘違いを訂正すべきか、アレイスターが迷っている間に、エリアーデの身体は彼女の手に移る。 「少々失礼致します」 エリアーデを軽々と抱えたまま、一礼した侍女は部屋を出て行った。 閉ざされたドアをアレイスターが困惑げに見ていると、護衛の一人が彼に劣らず困惑げな顔を向ける。 「あの・・・アレイスター様、あの女を眷属になさったので・・・?」 恐る恐る問われて、アレイスターはますます困った顔をした。 「い・・・いけないであろうか・・・」 エリアーデを眷属にする前に聞いておこうと、そんなつもりで放った言葉に、屈強な護衛達がたちまち萎れる。 「そっ・・・そんなにいけないことであるか?!」 「いえ・・・・・・」 「いけないことは・・・ないのですが・・・・・・」 「アレイスター様のご意志ですから・・・・・・」 「我々がとやかく言うことでは・・・うっ・・・!!」 「だったらなんでそのように泣くのであるか!!」 悲鳴じみた声をあげると、俯いていた彼らが一斉に涙目をあげた。 「では言わせて頂きますが!!」 「マジャルの男なら兵にも使えましょうが、あんな女など!」 「あんなのを城に入れれば、由緒あるクロウリー家の品性が疑われます!」 「ご当主様がお許しあそばすとは思えません!!」 口角泡を飛ばして詰め寄る彼らに、気弱なアレイスターは反論も出来ず、ぱくぱくと口を開閉させる。 その様に、護衛達は矛を収めてため息をついた。 「・・・・・・・・・不本意ではありますが、眷属にしてしまわれたのでしたら仕方ありません」 長が代表して、アレイスターに歩み寄る。 「しかし、城に連れ帰るのはおやめください。 あんな無礼な娘を連れ帰っては、ご当主様がどれ程お怒りになるか・・・!」 ぶるりと震えあがった彼に、しかし、アレイスターはふと我に返った。 「いや・・・きっと、おじいさまも気に入るであろうよ。 おじいさまは珍しいことがとてもお好きゆえ、さぞかし刺激に・・・」 言いかけて、アレイスターはぽん、と手を打つ。 「珍しい物好きと言えば、最たる方がいるではないか! クラウドが忙しいなら、ブックマンに世話をしてもらえばよいである!」 「ご迷惑ですってええええええええええええええええええええええ!!!!」 全員が口を揃えて絶叫したため、戻って来た侍女が飛び上がった。 「なんっ・・・なんっ・・・?!」 敵襲か、と、青い顔で辺りを見回す彼女に、アレイスターが苦笑する。 「いや、すまなんだ。 エリアーデを今後どうするか相談していたのであるが、熱が入ってしまったである」 「は・・・はぁ・・・・・・」 そんな話題で大の男が何人も泣くものだろうかと、唖然としつつも侍女は頷いた。 「あ・・・お前には、関係のないことであるな。 クラウドの身が気になるであろう」 気まずげに言われた彼女は、首を振ろうとして俯き、目に涙を溜める。 「すっ・・・すまないである! 気の利かぬことを・・・!」 「いえ・・・!」 涙を拭って、彼女は顔をあげた。 「失礼致しました。 皆様のことは、主に代わりまして必ずお守り致します」 健気な言い様にしかし、アレイスターだけでなく護衛達も気遣わしげな顔を見合わせる。 「あの・・・アレイスター様のお許しがいただければ・・・」 自身の家来ではないからと、言い出せないでいるアレイスターの気持ちを察して長が言えば、彼は大きく頷いた。 「あぁ・・・! クラウドを助けようぞ!」 喜色を浮かべたアレイスターとは逆に、侍女が蒼くなって首を振る。 「いけません、そんな・・・! これは我が家の問題ですから、クロウリー家を巻き込んでは・・・!」 「いや、最初から巻き込まれるつもりであったのだろうよ」 侍女の言葉を遮って、アレイスターが微笑んだ。 「人間の戦争からクラウドを避難させよとは、妙な命令だと思ったのである。 この城が、いかに精強とはいえ軽装の騎馬隊を防げぬわけがない。 更にはおじい様ともあろう方が、ナイン家の事情を知らなかったとも思えぬ。 ならばきっと、私を送り込むことで、彼らの攻撃を防ぐ目論見であったのだ」 言うや、アレイスターはまっすぐにドアへと向かう。 「どっ・・・どちらへ!!!!」 悲鳴じみた声をあげて止める侍女を振り返り、アレイスターが笑みを深めた。 「もちろん、城に戻るのであるよ。 お前には、エリアーデを頼むである」 「いけません!! それではここまで来ていただいた意味が・・・!」 「いや、意味はあったである」 自分一人がわかったようなことを言うアレイスターを、侍女は不安げに見上げる。 「エリアーデを安全な場所へ避難させたことと、お前に会ったことであるな」 「あ・・・あたくしでございますか・・・?」 意味がわからず、呆然とする彼女にアレイスターは頷いた。 「見事な忠誠心である。 褒美にお前の主人を助けるであるよ」 「・・・・・・っ!!」 頬を紅潮させ、声を失った彼女の目が、涙で霞む。 瞬いて再び鮮明になった時、視界にはもう、彼らの姿はなかった。 闇の中を再び城へ戻った一行は、走り回る侍女の一人を捕まえて、クラウドの元へ案内させた。 深い傷を負ったクラウドは未だ動けず、クロスは固まったまま放置されている。 「・・・・・・何をやっているのであるか、この赤毛は」 呆れ果てたアレイスターが、クロスの首根っこを掴んで暖炉の前へ放り出した。 しばらくじりじりと火に炙らせていると、クロスの巨体がいきなり飛び起きる。 「なにすんだテメェ!!!!」 絶叫した彼の紅い毛先に、オレンジの炎が灯っていた。 「よくも俺の美髪を!!」 手近の水差しを取るや、髪を燃やす炎を消したクロスがものすごい目で睨んでくる。 「俺になんの恨みがある?!」 「積もり積もった恨みをいちいち並べる暇がないである。 いつも迷惑しかかけぬのであるから、たまには協力するであるよ」 さらりと酷いことを言って、アレイスターは未だ意識の戻らないクラウドを指した。 「クラウドを・・・」 「よし、俺が介抱してやろう」 「馬鹿を言うな」 すれ違いざま、みぞおちにこぶしを入れられて、クロスが身体を折る。 「おま・・そういう奴だったか・・・・・・?」 常に温厚なアレイスターの、意外すぎる暴力行為を受けて、クロスが苦しげな声を上げた。 と、彼は『非常事態ゆえ』と呟く。 「私も腹をくくったのである。 クラウドを・・・ナイン家を助けようと」 静かだが、断固たる思いを込めた声に、クロスは愉快げに目を細めた。 「俺も、クラウドを助けることはやぶさかじゃない。 だが、今まさに攻め込んできている連中に、戦経験のないお前がどう立ち向かう気だ?」 意地悪く聞いてやったが、アレイスターはクロスの嫌味な口調を気にする風もなく頷く。 「彼らに軍を退くよう、言うのであるよ」 「それで納得するか?」 鼻で笑うクロスに、アレイスターはにこりと笑った。 「この家の財産を狙う者と言えば、私でも思い浮かべる者がいるが――――・・・果たして今、クロウリー、マリアンの両家をも敵に回そうとするであろうか」 「・・・・・・はん。 奴にそんな度胸はないだろうさ」 馬鹿にした口調のクロスに、アレイスターが頷く。 「クラウドは残念ながら今、家を継いだばかりの若輩者となめられているのである。 ならば、長老会のメンバーが当主である我が家と、曲者で有名なお前が姿を見せれば、おのずと退くであろうよ」 言ってから、アレイスターは首を傾げた。 「・・・甘いであるか?」 「いや」 くすりと笑みを漏らして、クロスが首を振る。 「いい手だ」 「そうか」 ほっとして、アレイスターはクロスの腕を取った。 「ならば、早速行こうではないか」 「あぁー待て待て。 こう言う事は、まず見た目で圧倒しなきゃなんねぇんだよ」 そう言ってクロスは、焦げてしまった毛先を手に取り、眉根を寄せる。 「傷んだ所を切って揃えて・・・っつかなんで暖炉にくべやがった、テメェ!!」 「マッサージしてやる暇も人手もなかったからである」 あっさりと言って、アレイスターはクロスを急かした。 「早くするであるよ、早く! 敵が押し寄せてきてからでは遅いである!」 「ちっ・・・仕方ねェな。 じゃあとっとと片づけてクラウドの介抱を・・・ 「余計なことをすれば、今度はクラウドがお前を火にくべるであろう」 うんざりと言ったアレイスターは、護衛達に命じてクロスの両脇を固めさせる。 「さぁ!ゆこうぞ!」 しかし城壁へ連行する間にも、着替えるだの人前に出られる格好じゃないだのやかましいクロスにアレイスターは眉根を寄せた。 「いい加減にするであるよっ!!」 城壁を挟んで戦闘中の兵士らの背後で、アレイスターが声を荒げる。 「そんなに着替えたいなら、とっととこの戦を収めるであるっ!!」 指差した先では、今にも敵兵が城壁を越えようとしていた。 「ちっ!」 舌打ちと共に、護衛から解放されたクロスが黒い丸薬をばら撒く。 「あ」 それを目にした者は慌てて離れたが、城壁から顔を出したばかりの敵はまともにぶつかった。 「ぎゃんっ!!!!」 炸裂した丸薬が、火花と共に凄まじい臭気を放つ。 斬られようと死なない眷族だが、犬にも勝る嗅覚を持つためにそれは今、剣よりも効果を発するものだった。 目を回し、次々に落ちて行く彼らへにんまりと笑い、レースで鼻を塞いだクロスが城壁へ足をかける。 「よーぅ! いい夜だな!」 城壁の下へ向かって呼びかけると、あからさまに動揺した様子でクロスを見上げる者がいた。 「クロス・・・! お前がいたのか・・・!!」 人外の目は難なく闇を透かし、生意気な若造を睨む。 と、 「私もいるであるよ」 クロスに並んだアレイスターの姿に、彼の家来達までもが息を呑んだ。 「なぜ・・・クロウリー家までも・・・!」 「親戚であるからな」 あなたもだろう、と、アレイスターに憮然と言われ、彼は気まずげに口をつぐむ。 「あなたがクラウドにしたことは許しがたいである。 この件は自治会へ報告させていただく」 「んなっ?! ちょっと待ってくれ!!」 慌てふためく彼を、クロスが楽しげに見下ろした。 「今のうちに、俺らを殺して口を塞ごうったって無駄だぜ? アレイスターがここに来たのは、長老会のメンバーであるジジィの命令だ。 てめぇの所業なんて、とっくに知られてんだよ!」 そんな事実は全くないのに、クロスは堂々と嘘をつく。 「おとなしく裁かれやがれィ!」 ケタケタとけたたましい笑声をあげるクロスを、悔しげに睨んだ彼がふと、眉根を寄せた。 「・・・なんで髪が焦げてるんだ?」 「・・・っやっぱ言われたじゃねぇか!!」 たちまち笑声を収め、クロスはアレイスターを睨む。 しかし、 「うるさいである」 冷たく言って、アレイスターは眼下の兵を見回した。 「疾く退かれよ。 長居はあなた達のためにならんぞ」 その言葉に、援軍の存在を疑った兵士達の足並みが乱れる。 そこへ、よせばいいのにクロスが嫌がらせの丸薬をばら撒いて、眼下は阿鼻叫喚の地獄絵図となった。 「おぉー 逃げてる逃げてる 楽しそうに手を打つクロスに、アレイスターは深々とため息をつく。 「・・・あの惨状では、我らもしばらく外に出られないである」 「鼻と目を塞いでりゃ平気さ♪」 悪びれもせず言ったクロスは、逃げ遅れた兵に最後の一つを投げつけ、彼の転ぶ様を指差して笑った。 「こんなのが純血であるとは、まったく嘆かわしい限りである」 またため息をついたアレイスターは護衛達を連れ、城壁にクロスを残して城へ戻る。 重傷の身を起こしたクラウドにことの次第を知らせてから、彼らと共にエリアーデのいる離宮へと戻った。 「無事であったか?」 泣きながら迎え出た侍女のことはもちろん、エリアーデのことを気遣いつつ問えば、彼女はあの騒動にさえ眠ったままだと言う。 「さすがに・・・剛毅であるな・・・」 思わず吹き出し、今までの緊張を解いてしまったアレイスターは、暖かい部屋でのんびりと彼女が目を覚ます時を待った。 ―――― 夜明けにはもう少し間のある時間だったが、眠りの浅くなった時に何か物音がして、エリアーデは目を覚ました。 「んー・・・?」 窓のない部屋は暗く、物音の正体は判然としない。 寝直そうかと思ったが、 「あっつ・・・!」 暖炉に火の燃え盛る部屋は冬にしては暖かすぎて、否応なく目を覚ました。 「・・・すごいな、これ」 暖炉に歩み寄ったエリアーデは、眠りを妨げないよう、黒い衝立で目隠しをされた炎に唖然とする。 しかも薪は、一晩中燃え盛っていたにしては太く、木の色さえ残していた。 「あ・・・もしかして、薪を替えてくれたのか?」 侍女が出入りする音だったろうかと呟き、エリアーデは自分の服を見下ろす。 アレイスターとの話の途中で寝てしまったため、服は昨日のままだった。 「・・・・・・このまま部屋を出てもいいのかな」 またなにか失敗をして、馬鹿にされるのも腹立たしいと、エリアーデが考え込んでいると、彼女の独り言を聞きつけたらしい侍女が着替えを持って現れる。 「お召し替えをどうぞ」 「あ・・・うん・・・・・・」 出て行かなくてよかった、と、ほっとしつつエリアーデは着替えを侍女に任せた。 長い・・・呆れるほど長い時間をかけて身支度を終えると、ようやく部屋から出してもらえて、エリアーデは履き慣れない靴でよろよろと案内に従う。 やがて通された部屋では、アレイスターがのんびりとくつろいでいた。 「待っていたであるよ。 報せたいことがあるのだ」 機嫌よく言った彼に、エリアーデは小首を傾げた。 昨夜までは、城中に張り詰めた空気が漂っていたものだが、今はアレイスターだけでなく、侍女達の表情も柔らかい。 「・・・・・・何かあったのか?」 不思議に思って問うと、アレイスターは頷いて彼女に椅子を勧めた。 「敵が去ったのである。 これでクラウドも、治療に専念できるであるよ」 「そうか・・・・・・」 厚く包帯に覆われた城主の顔を思い出し、エリアーデは頷く。 「・・・キレイな顔をしてたんだろうな」 呟くと、アレイスターはあっさりと頷いた。 「彫像のように美しい顔をしているであるよ、クラウドは。 傷は残るそうだが、あの美貌を損ねることはまずないであろう」 他の女を誉める言葉に、エリアーデがムッとしたことにも気づかず、アレイスターは上機嫌に笑う。 「しかも彼女は、代々自治警長官を勤めた家の当主である。 人間の皇帝でさえ跪かせる品位の持ち主であるよ。 ゆえに・・・」 「どーっせ!!!!」 突然大声をあげたエリアーデに、アレイスターは唖然とした。 「城主に比べればあたしは、もの知らずの蛮族だって言いたいんだろ!」 苛立たしげな声に驚くあまり、アレイスターは声を失ってただエリアーデを見つめる。 と、それを図星を突いたせいだと勘違いしたエリアーデは、怒りに目を吊り上げた。 「あの城主と比べられて、勝てるわけがないじゃないか!!」 「く・・・比べてなどいないである・・・!」 「じゃあなんなのさ?!」 うろたえるアレイスターを睨みつけると、彼は怯えた子供のような上目遣いになる。 「その・・・昨夜・・・クロスと共に敵を退けて、クラウドに恩を売ったのであるよ・・・・・・」 いつもの彼であれば、恩を売ろうなどと、考えもしなかっただろうが、今回は特別な事情があった。 「えと・・・その・・・! お前がもう・・・マジャルの村に戻らないのであれば、こちら側の作法を身につけるべきかと考えたのである」 一旦は断られたが、一晩で状況は変わった。 「クラウドも、今回は引き受けてくれるというから・・・」 「勝手にやり取りしやがって、あたしは猫かっ!!」 まさに毛を逆立てて怒る猫のようなエリアーデに、アレイスターがうろたえる。 「そっ・・・そんなつもりでは・・・」 「じゃあどんなつもりだよ! ここにいろと言ったり、やっぱりやめるとか別の城に行くとか! はっきりしなよ!!」 苛立たしげに言われて、アレイスターは肩をすぼめた。 「そ・・・そうであるな・・・・・・。 お前を・・・その・・・振り回して悪かったである・・・・・・」 しかし、と、アレイスターはまたエリアーデを上目遣いに見る。 「今度は確実である。 クラウドにはお前を客人として預かることを確約してもらったし、お前も彼女の元にいれば安全である。 それに、彼女はよい教師にもなるであるよ。 ここにいる間は、色々と教えてもらうといいである」 「そう言う事じゃなくて!」 椅子を蹴って立ち上がったエリアーデは、つかつかと彼に歩み寄った。 「あんたはあたしに、傍にいて欲しいって言ったろ!」 「あ・・・あぁ・・・・・・」 紅くなって頷いたアレイスターに、エリアーデが屈みこむ。 「それは人間として? それとも、眷属として?」 「・・・っ!」 困惑するアレイスターの目を、エリアーデはじっと見つめた。 「人間としてなら、食料として?」 「それは違うである!」 即答したアレイスターにエリアーデが頷く。 「じゃあ、どういう人間として? 知人? 友人? それとも・・・・・・・・・」 エリアーデが更に屈みこみ、アレイスターの耳に囁いた。 「恋人?」 「っ!!」 真っ赤になって声を失ったアレイスターを、エリアーデはまじめな顔で見つめる。 「どうなの?」 「わっ・・・私はっ・・・!!」 彼がエリアーデをどう思っているか・・・それは、出会ってからの態度を見ればわかっていた。 しかし、エリアーデの処遇すらいちいち翻してきた彼でもある。 これは・・・このことだけは、はっきりとさせたかった。 「あたしは・・・好きだよ。 多分、初めてあんたを見た瞬間から・・・」 あの森の中で、声を荒げるでもなく、穏やかに命じた彼――――。 騎馬民族の精悍な男達に囲まれて育ったエリアーデの目には、温厚な彼がひどく新鮮に映った。 だが彼は、クラウドのような洗練された美女を見て育ったのだ。 彼の目に、自分はどれほど野蛮に映っていることだろうかと不安にならずにはいられなかった。 「ねぇ・・・どうなのさ? あんたはあたしをどう思ってるの?」 更に問うて、エリアーデは彼に抱きつく。 「ねぇ?」 細い指で髪を掻きあげ、耳の後ろへ流すと白い首筋があらわになった。 見るからにうろたえたアレイスターの、乱れた息が耳朶に触れる。 「あんたが望むなら、あたしは眷属になったっていいんだ」 目を閉じて身を委ねれば、背中に彼の、震える手が触れた。 「さぁ・・・」 更に身を寄せた瞬間、すごい力で引き離される。 「え・・・?」 「そっ・・・そんなに簡単に決めるものではない!」 真っ赤な顔で、引きつった声を上げるアレイスターにエリアーデは目を見開いた。 「だって・・・」 「お・・・お前は、神に仕える娘だったのであろう?! わっ・・・私達の眷属になると言うことは、その神を捨てることである!」 「あ・・・・・・」 なぜそのことに思い至らなかったのか、蒼ざめたエリアーデから、アレイスターはじりじりと身を離す。 「そ・・・それに、肝心なことを言っておらなんだが・・・眷属なればもう、二度と陽の下に出ることは叶わないのである・・・・・・」 「出たら・・・どうなるの・・・・・・?」 「馬を見たであろう・・・」 眉根を寄せた彼女から目を逸らしたまま、アレイスターはぼそぼそと言った。 「馬・・・? ・・・あの、灰になった?!」 奪おうとして失敗した、不思議な馬のことを思い出した彼女に、アレイスターが頷く。 「あの時は、眷属でない者が乗ったゆえ、その体温の熱さに身体を維持できなかったのである。 まぁ・・・体温程度の熱であれば復活できるのであるが、陽光はだめであるな・・・。 陽光を浴びた瞬間、我らは灰となって消えてしまうのであるよ・・・」 それで彼らはこんなにも陽を避けるのかと、エリアーデはようやく気づいた。 愕然とする彼女を、アレイスターはそっと窺う。 「エリアーデ・・・・・・」 小さな声で呼びかけると、彼女はぎこちない動きで彼を見遣った。 「人間の崇める神とは、突き詰めればつまり、太陽であるのだろう? 神に仕えていたお前が、それを捨てることができるのであるか?」 その問いに即答できず、エリアーデは黙り込む。 彼女の思いつめた表情を悲しげに見つめて、アレイスターは立ち上がった。 「ア・・・!」 「よく考えるのである。 クラウドは、人間のお前でも客人として迎えると言っているのだから」 低く言ったアレイスターは、彼女に背を向け、部屋を出て行こうとする―――― その背に、エリアーデは抱きついた。 「・・・・・・言ったよね。 あたしはあんたの戦利品だ」 「エリ・・・?!」 肩越し、目を見開いたアレイスターに、にこりと微笑む。 「嫌な奴じゃないんだろう?」 腕の中で、ゆっくりと向き直らせたアレイスターの首を、エリアーデは抱き寄せた。 「さぁ・・・あたしを捕らえるがいい」 白い首筋をさらしたエリアーデの放つ、甘い香りに抗えない・・・。 舌を這わせて探り当てた頚動脈に、アレイスターは白い牙を突き立てた。 「・・・っあ」 ぷつりと音を立てて穿たれた傷に痛みはなく、全身に熱く酔いが回る感覚に膝が折れて、エリアーデはアレイスターを抱く手に力を込める。 冷えた指先が震え出したが、それでも離れまいと懸命に縋るエリアーデを、アレイスターが抱きしめた。 薄れ行く意識の中、その感触に安堵して、エリアーデは目を閉じる。 次に目を開いた時――――・・・彼女はもう、人ではなくなっていた。 「では・・・また近いうちに」 エリアーデが眷属となって数日後、アレイスターはルーマニアの居城へ帰ることになった。 「またすぐに、戻るであるから・・・!」 名残惜しげな彼に、見送りのエリアーデは唇を噛んで頷く。 今にも泣き出しそうな彼女を慰めようと、馬を下りたアレイスターをクラウドが突き飛ばした。 「何っっっっ回目だ貴様ら!! いい加減にしろ!!!!」 クラウドの怒号に怯えた馬達がいななき、アレイスターの騎乗を急かす。 「ちっ・・・近いうちに・・・」 「それももう、何回も聞いたわ! とっとと行け!」 アレイスターの乗った馬にクラウドがムチをおろした。 「必ずー・・・・・・・・・!」 「人んち逢引に使うな!!!!」 ようやく出立したアレイスター一行へ吐き捨てたクラウドは、エリアーデに向き直る。 「さぁ、時間を無駄にしてしまった。 今日のレッスンは巻いていくぞ!」 「はっ・・・はい!」 踵を返すや、さくさくと早足に歩いていくクラウドを、エリアーデが追った。 「背筋を伸ばせ! 馬に乗る時のようにだ! ドレスの裾を踏まないように、少しだけたくし上げて・・・甲を見せるな、馬鹿者!!!!」 「は・・・はい!!」 歩き方ひとつでも目こぼしのないクラウドに、しかし、萎縮するでもなくエリアーデはついて行く。 雪が凍って、滑りやすい石畳の上に慎重に足を下ろしていると、クラウドの叱声が容赦なく飛んできた。 「なんだその及び腰は! 足元を見るな、前を見ろ! 背筋を伸ばせと言っているだろう!」 「はっ・・・はい!!」 「返事は『はい』だけだ!いちいちどもるな!」 「申し訳ありません! あたし・・・」 「『わ』たし!」 「あ、はい! わたし・・・」 「なんだ?」 足を止めたクラウドにまっすぐ見つめられ、エリアーデが目を泳がせる。 「目をそらすな!」 「はい!!」 反射的に背筋を伸ばし、エリアーデはクラウドを見つめた。 「あた・・・わたし、少々お聞きしたいことがあるんですけど・・・」 「クラウド様、わたし、少々お聞きしたいことが、ございますが、よろしいでしょうか」 クラウドに細かく区切って言い直され、エリアーデは内心舌打ちしながら頷く。 「クラウド様、わたし、少々お聞きしたいことがございますが、よろしいでしょうか」 「なんだ?」 承諾されて、エリアーデはまっすぐにクラウドを見つめる。 「わたし、貴婦人の教育をしていただいてるんですよね?」 「そうだ。 わたしに貴婦人の教育をしていただいておりますのだ」 いちいち訂正してくるクラウドに頬を引きつらせ、エリアーデは更に問うた。 「なんだか、兵士の育成をされている気分なんですけど」 「なぜだか兵士の育成をされている気分でございますのか」 にんまりと笑うクラウドの顔が憎たらしい。 「えーぇ! どういうわけでしょうか、そういう風に感じますの、わたくし!」 ほとんど自棄になって、エリアーデはクラウドから学んだ丁寧語を並べた。 「わたくしの実家も、騎兵でございましたから知っているんですけど・・・」 「存じておられるのか。それは素晴らしい」 「えーぇ! 新兵の訓練をする時など、クラウド様のような厳しいお方がこれでもかと新兵達をいぢめてらっしゃいましたわ!」 言ってやった!と、鼻息を荒くするエリアーデに、しかし、クラウドはあでやかな笑みを浮かべる。 「そのようなものと一緒にするな、馬鹿者」 きっぱりと言われて、エリアーデはムッとした。 「違いますでしょうか?!」 「違うとも」 大きく頷いたクラウドが、こぶしを握る。 「貴婦人への道は、新兵教育などよりはるかに厳しく険しいのだ! 新兵がドレス着るか?!新兵がハイヒール履くか?!新兵がコルセットするのか?!」 「コルセットはむしろ兵士の必需品・・・」 「口答えするな!!」 上官そのものの口調で、クラウドがムチを突きつけた。 「いいか?! 貴婦人と呼ばれる者は、騎士が騎士であるために、常に尊崇の対象であらねばならんのだ! 目の前で何が起ころうと、常に美しく、優美であれ! そのためにはまず、言葉遣いと身体の一挙手一投足が完璧であること! 新兵が戦勝祈願で飲んだくれていても、貴婦人は大いなる慈愛を持ってそれを見守り・・・」 「お? なんか熱く語ってるな、クラウドー 「もしも身に危険が迫れば・・・」 「怪我治ったんなら、俺と一緒にのもー・・・ぜぁっ!!!!」 一瞬でクロスの巨体を肉塊に変えたクラウドが、血まみれのムチで空を切る。 「我が身を守ることくらいは出来るようにしておけ!」 「はい、教官!」 エリアーデの変わり身の早さには、地に這ったクロスも感心した。 「よろしい!では続けるぞ!」 「はいっ!」 雪の中にクロスを放置して、女達は城へ戻ってゆく。 「いいか、ドレスを着るために必要なのは、脚力・筋力・体力だ! 特に筋力!! これがなければ、まず立つことが不可能! なぜなら・・・」 段々遠くなっていく声は、クラウドが離れていくからか意識が遠のいているからか、判然としないままにクロスは吐血して目を回した。 その頃、平原を渡る一行は、戦に道を塞がれることもなく国境を越え、行きの半分の時間で居城へ到達した。 「おぉ、無事であったか、孫よ!」 一行を出迎えた当主は、無事帰還した孫を抱きしめ、彼を守ってくれた家臣達を十分に労って役を解く。 アレイスターも、一人一人に礼を言って帰したのち、祖父に呼ばれて書斎へ入った。 大量の蔵書に囲まれた部屋でソファに腰をおろした祖父が、身振りで向かいに座るよう促す。 「報告は聞いたであるよ。 人間の戦は早々に済んだものの、その後、ナイン家の城が攻められたそうだな」 早速本題に入った祖父に、アレイスターはゆっくりと頷いた。 「たまたまクロスがおりましたので、事なきを得ました」 自身の手柄は一切口にせず、アレイスターはクロスの功績とクラウドの状況についてのみを語る。 「この件につきましては、クラウドが既に自治会と自治警に報告しております。 数日のうちに、長老会へもご報告があがるでしょう」 「うむ。 正しい処置であるな」 満足げに頷いた祖父に、アレイスターはほっとした。 「だが」 途端に祖父の口調が厳しいものとなり、アレイスターは再び緊張する。 「お前は正しい処置をしなかったようである」 「私・・・ですか・・・・・・?」 声を詰まらせる孫を、祖父は厳しい目で見つめた。 「人間の女を眷族にしたそうであるな」 「・・・・・・・・・はい」 やはり既に報告があがっていたかと、アレイスターは膝に目を落とす。 「どのような女であるか」 「・・・・・・・・・もうご存知でしょうに」 目を落としたまま呟くと、祖父は軽く鼻を鳴らした。 「気に入った者を眷属にするのはかまわん。 だが、その後の件については問題である」 言うや、祖父は胸元から巻かれた羊皮紙を取り出す。 「新たに眷属に加えた女を妻にしたい、だと? お前は、純血の我が家名を絶やす気であるか」 クラウドに止められつつも共に自治会へ出願したはずのそれが、目の前に広げられた。 「・・・お取り消しになったのですか?」 「もちろんである。 私だけではない。 長老会全員一致で、この件は不可とした」 つき返された羊皮紙を見つめたまま、動かない孫に彼は、眉根を寄せる。 「なにを血迷うたか。 私はお前を、その程度の判断もできぬ愚か者に育てた覚えはないである」 厳しい口調に目をあげたアレイスターは、またすぐにうな垂れるだろうという彼の予測を裏切り、羊皮紙を彼に差し出した。 「処分するのであるか?」 「いいえ!処理をお願いします、おじいさま」 その言葉の意味を理解しかねて、彼が黙り込む。 かなりの間を置いて、 「処理・・・とは、その女との結婚を承諾しろ、と言う意味であるか?」 用心深く尋ねた祖父を、アレイスターはまっすぐに見つめた。 「はい」 落ち着いた表情は、とても血迷っているようには見えない。 彼は、深々と吐息した。 「不可である」 「おじいさま!」 「不可に決まっておる。 お前は我が家の、たった一人の跡継ぎである。 純血以外の血を入れてはいかんのである」 頑迷な口調に、アレイスターはカッとなって立ち上がる。 「座れ」 反抗を許さない口調で命じられ、アレイスターは再び座った。 「聞けば、マジャルの女と言うではないか。 もの珍しいのはわかるゆえ、眷属として仕えさせるのはよい。 だが、妻は許さん」 「では・・・私がこの家を捨てればお許しいただけますか?!」 「なに・・・?」 「私がこの家を出て行くと言っているのです。 跡は誰ぞ、血統優れた者を養子に迎えればよろしい」 「なんと言うことを言うのだ!!!!」 城中に響き渡るほどの怒号に、しかし、アレイスターは小動もしない。 いつもは気弱で、こんな声を聞けば震え上がるというのに、その決意は並々ならぬものと見えた。 「本気だと・・・言うのであるか・・・! お前は本気で人間なぞ娶り、この純血を穢して我が家の羽根の遺伝子を消滅させるというのか・・・!!」 声を震わせる祖父に、アレイスターは微笑む。 「運がよければ受け継がれるでしょう」 「だが、一旦失われた純血は元に戻らぬ!!」 怒りのまま羊皮紙を引き裂いた祖父に、アレイスターは眉根を寄せた。 「おじいさま・・・」 ばらばらと舞い散る紙片を、アレイスターはテーブルから払い落とす。 「どうぞ、思う存分引き裂かれてください」 アレイスターが服のあちこちから取り出した出願書が、テーブルを埋めて行った。 「これを全部引き裂かれようと、また書きます。 おじいさまが認めてくださるまで、何度でも」 羊何頭分になるか、と、大真面目に数え始めた孫を前に、彼の力が抜ける。 「もう・・・・・・よいである・・・・・・・・・」 祖父の微かな呟きを、アレイスターは聞き逃さなかった。 「ありがとうございます、おじいさま! きっと、おじいさまもエリアーデをお気に召すことでしょう!」 家の大事を人間の女と引き換えておきながら、嬉しげにはしゃぐ孫の姿にもはや、声もない。 「我が家は・・・私の代で終わりである・・・・・・」 せめて有望な養子を探さねばと、アレイスター・クロウリー1世は、重い重いため息をついた。 「・・・―――― と、まぁ、そんな経緯があって、私達は結ばれたのよ 長い長い思い出話を満足げに語り終えたエリアーデに、アレンは盛大な拍手を送った。 「エリアーデさんが、昔はおてんばだったなんて意外です・・・!」 「ほほほ 私だって昔はやんちゃをしていたのよ 1000年も前のことだけど、と、エリアーデは得意げに笑う。 と、ベッドに半身を起こして聞いていたリーバーが、訝しげに眉根を寄せた。 「あれ・・・? あの、エリアーデさん・・・? 確か以前、カール大帝の巡察使に迫られたのを助けてもらった、って言ってませんでしたか?」 なんとか記憶を探り当てたリーバーに、エリアーデは大きく頷く。 「えぇ、最初に言ったでしょう? 私の部族は、レヒフェルトの戦争に負けてから急に宗旨替えをするようになって。 生き残るために必要だったと言えばその通りなんでしょうけど、私は自分の神を簡単に捨てる輩を面白く思わなかったし、結婚を迫ってきた相手がすごく嫌な奴だったから逃げ出して・・・」 「イヤ、そうじゃなくて! 東フランク王国のオットー1世がレヒフェルトで勝利したのは955年でしょうが! カール大帝なんてとっくに死んでるでしょ!」 「アラ?そうだったかしら?」 嘘か本気か、エリアーデは可愛らしく首を傾げるが、リーバーに対して効果はなかった。 「そうですよ! エリアーデさん、生まれてからまだ、900年くらいしか・・・」 「だぁって、1000年の方が素敵じゃない どうせ1000年生きるんですもの。構わないでしょ」 それに、と、エリアーデは微笑む。 「アレイスター様は本当に1000年以上生きてらっしゃいますものね 「なんか・・・怪しくなってきましたよ・・・」 リーバーの呆れ口調に、エリアーデはクスクスと笑い出し、元気を得たアレンはこぶしを握って立ち上がった。 「お二人ともそんなに大変な状況で結ばれて、今に至ってるんですもんね! それに比べたら僕なんて、全然ちょろいですよ!!」 頭に厚く包帯を巻いていながら、それでも明るく笑う少年に、エリアーデも笑って頷く。 「がんばってね 「はい!!」 大声で言うや、リーバーの寝室を飛び出して行ったアレンの悲鳴が聞こえるまで、ほんの数秒だった。 「アラアラ、手強いお嬢さんねぇ 私より強いかも、と、エリアーデが楽しげに笑う。 「冬至の祭までに、少しは打ち解けてくれるといいわね」 ね?と、笑いかけたリーバーは、頷いてはくれなかった。 「アラアラ、意地悪だこと」 そう言って、もう何百年も前に人間であることを辞めてしまった女はクスクスと笑う。 「あなたにもいつか、よかったと思える日が来るわよ」 「来ますかね・・・」 「来ますとも」 自棄気味な呟きに明るく答え、エリアーデは戻って来たミランダと彼の看病を代わった。 「・・・だってそれがfate(運命)なんでしょ」 部屋を出た彼女の呟きは、中の二人に届いたかどうか・・・・・・。 エリアーデはこれから起こることを想い、楽しげな笑声をあげた。 To be continued. |
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2010年アレン君お誕生日SS第1弾です。 完徹なう(笑)>現在AM9:00(笑) 起きたら推敲しますんで、今は変なところスルーでお願いします(笑) ・・・・・・そして推敲完了したのが年明けて11.1.16でございますごめんなさい(^^;) アレン君お誕生会なのにアレン君が出てこないお話でした(笑) 三部作の第一回目なので、設定の見直しということでどうぞ、的な。 |