† The New Year’s Party
Z †
それは春節を明日に控え、店の飾りつけなどを賑やかしく行っていた最中のこと。 「主・・・!」 息せき切って駆けて来たマホジャを、アニタはちらりと振り返った。 「どうかしましたか?」 早口に言うやアニタは、すぐに視線を前に戻す。 自身の身長を超える巨大な花瓶をやや離れた場所から見つめ、梅を枝ごと活けていた最中だけに、その声には邪魔をされた苛立たしさが混じっていた。 「今、忙しいのだから、用なら早く済ませてちょうだ・・・ホラ!気をつけて!傾いているわ!!」 パパン!と繊手を鳴らすと、はしごに登った使用人達が、慌てて枝の位置を直す。 「そうそう、そして金の飾りは柳のように垂らして・・・真ん中じゃないわ!左へと垂らすのよ!そっちは右でしょう!!」 厳しく指示を飛ばすアニタに、彼らは懸命に従った。 「こっ・・・これでいかがでしょうか・・・!」 出来上がった生け花は、店の風格にふさわしく豪奢なものだったが、アニタはまだ不満げに首を傾げる。 「うぅん・・・。 なんだか物足りないのよねぇ・・・・・・」 呟いた時、 「そうだな、少し彩りが足りないな」 背後からいきなり腰をすくわれ、抱き寄せられて髪に花を飾られた。 「え・・・!」 驚いて振り向いた瞬間、目の前が真紅に染まる。 大輪の華かと見紛うそれは、長く鮮やかな紅い髪だった。 「クロス様!」 彼の腕の中で身を翻したアニタは、歓声をあげて彼に抱きつく。 「来てくださったんですね・・・!」 感極まった声をあげる彼女を、クロスは軽々と抱き上げた。 「しばらく世話になるぜ」 「本当ですか?!」 喜色を浮かべたアニタにクロスが頷くと、彼女はまた歓声をあげる。 その様にマホジャは苦笑し、使用人達は目を丸くした。 「あの・・・マホジャ様、あの方は一体、何者で・・・?」 「あの主が、小娘みたいにはしゃいでしまわれて・・・・・・」 そっと囁いて来た彼らに、マホジャは肩をすくめる。 「主の大切な方だ。 無礼のないように」 「は・・・はぁ・・・・・・」 怪しげな西洋人に大事な主を奪われた気がして、面白くない使用人達にマホジャが苦笑した。 「クロス様は、先代からのごひいきだ。 お前達よりよほど主とのつきあいは長いよ」 途端、憮然と口をつぐんでしまった彼らに笑い、視線を戻した時にはもう、二人の姿がない。 「まったく・・・。 一番我慢しているのは私だよ」 大事な主を奪いやがって、と、マホジャは心中に吐き捨てた。 見せたいものがある、と言われ、抱き上げられたまま連れこまれた部屋は、雪に覆われた庭までもが紅いバラで覆われていた。 「まぁ・・・・・・!!」 決して狭くはない一室と庭を埋め尽くす大輪のバラは一体、どれ程の数になるのか、一目では数えきれない。 「ルーマニアの城で大事に育てられた、貴重な種だ。 お前のために運んできたんだぜ 「嬉しい・・・ 「そぉかぁ?」 バラの中から突然野太い声があがり、飛び上がったアニタがクロスに抱きついた。 「なっ・・・なにかいますわ!!!!」 悲鳴をあげて、震える指で指した庭先に、にょっきりと銀の仮面が顔を出す。 「きれいなバラに囲まれて、可愛い俺、参上★」 「なにが参上だ、この出オチが!! お前が存在する状況がまさに惨状だ!!」 アニタを抱きしめてクロスが怒鳴ると、仮面の大男は立ち上がって肩をすくめた。 「オヤジギャグ炸裂だな」 「オヤジって言うな、犯罪者ガ!!」 すかさず反駁したが、怒声は仮面に虚しく弾かれる。 「お前だって性犯罪者だろうが」 「俺はいつも合意の上だ!! ンなことより、いつからここにいんだ、ソカロ!!!!」 「ついさっきだな」 どすどすと無遠慮にバラを踏み分けて、庭から入って来る彼を、クロスが忌々しげに睨んだ。 「おい! それはレディのためにわざわざ運んできた、お前なんぞにゃ一輪たりとも買えない高価なバラだぜ?! 粗末にすんじゃねぇよ、蛮人ガ!」 「高価っつっても、どうせまた借金か、あの気味悪い食人花でも押し付けて分捕ってきたんだろうが。 人非人はどっちだかな」 野生の勘で事実を言い当てたソカロは、二人にまで歩み寄ると、背中に張り付いていた毛玉を唖然とするアニタへ押し付ける。 「俺が欲しかったのは、虎の棲息地の情報だ。 なのになんだこりゃ」 「は・・・はぁ・・・・・・」 アニタは、自分の腕の中でもぞもぞと動くモノクロ毛玉を見下ろして、また唖然とした。 「パンダって・・・どこまで狩りに行かれたんですか、ソカロ元帥・・・・・・」 「知らねぇよ。 どっかの山奥に落ちてた」 虎がいると思ったのに、と、ブツブツぼやくソカロを、突然クロスの足が蹴りつける。 「んなっ・・・にしやがんだ赤毛エエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!」 「るっせぇよ、凶悪ヅラ!! 俺を差し置いて美人と話してんじゃねェ!!」 怒号に怒号で返すと、ソカロがぶるりと震えた。 「なに・・・?! おまえ、そんなに俺に構って欲しかったのか?! キモッ!!」 「ア!ホ!か!!!! 逆だ逆――――!!!!」 鳥肌を立てたソカロ以上におぞましげな顔で、クロスが怒鳴る。 「俺が好きなのは女だけだ! 俺の視界に醜いもん入れんじゃねェっつってんだよ!!」 「なにが醜いだ、コラ! 俺だって、仮面脱いだらすごいんです 「仮面脱いでも、男である時点で醜いわっ!! とっとと出てけっ!!」 獰猛な番犬のように吠え立てたクロスは、ソカロが何か反駁する前に素早く胸元から取り出したメモに書き付けた。 「虎狩りたきゃここへ行け! いくらでも出てくるぜ!」 「ベンガル・・・? の、案内人の名前か」 クロスが書き付けた名前と連絡先を見つめてソカロが呟く。 「しばらくそこにいたんでな。 俺の名前を出せば・・・」 「おいおい、冗談じゃねェぜ。 借金取りが押し寄せてくんだろうが」 忌々しげに舌打ちすると、クロスはそ知らぬ顔でそっぽを向いた。 「・・・まぁいい。 中国で奇妙な熊を狩ってるよりゃ、インドで虎狩りしてた方が楽しそうだ」 「ついでに俺の借金、立て替えとけ」 「国家予算級の借金なんざ、誰が立て替えるか!!」 吐き捨てるや、ソカロは踵を返す。 「あ・・・もうご出立ですか?」 アニタが声をかけると、彼は振り向きもせず頷いた。 「お・・・お役に立てず、申し訳ありませんでした」 サポーターでありながら、元帥になんら有益な情報をもたらせなかった事を気にして言えば、彼はふるりと首を振る。 「別に、用のついでに寄っただけだ。 じゃあな」 そう言ってまた、わさわさとバラを蹴立てて出て行く彼を、クロスは舌打ちと共に見送る。 「相変わらず、野蛮なヤロウだ! せっかくの手向けの花を散らしやがって」 「手向け・・・?」 意外そうな顔をして、アニタがクロスを見ると、彼は大きな笑みを浮かべた。 「今日はお前の母親の・・・命日だったろう?」 「!」 意外な言葉に、アニタは目を見開く。 「まさか・・・そのためにわざわざ・・・・・・?」 声を詰まらせると、クロスはあっさりと頷いた。 「いい女だったからな。 名残惜しいだけだ」 クスリと笑った彼は、大きな手でアニタの抱く小熊を撫でる。 「あのヤロウも・・・せめて花にすりゃいいのにな」 気が利かない、と、笑い出したクロスにつられ、アニタも微笑んだ。 「あの方はまだ・・・私を子供だと思っているのでしょう」 「親を亡くした子供に、ぬいぐるみ代わりかよ!」 そう言うクロスも、アニタを抱き上げる様はまるで、小さな子供をあやしているかのようだ。 ソカロに子供扱いされるのはむしろ嬉しくても、クロスに女扱いされないことは悔しくて、アニタは出来る限り艶やかに微笑んだ。 「清明節にはまだ早いので、墓参りしても母はそこにいないと思いますわ」 「あぁ・・・あいつのことだ。 あの世でイイ男神でも見つけて、追っかけまわしてンだろうな」 クスクスと笑い出したクロスに笑みを深め、アニタは頬をすり寄せる。 「ですから、今は私と春節を楽しんでくださいな 艶めいた誘いを、クロスが断るわけがなかった。 「もちろん、喜んで・・・」 「では早速宴の用意を!!!!」 突如沸いた野太い声の大合唱に、二人が凍りつく。 その隙に、次々と湧いて出たむくつけき男達がわいわいと彼らを囲んだ。 「歓迎するっす、一応!」 「イケる口だって聞いてたんで、いい酒用意したっすよー!」 「ここは男同士、大いに飲もうじゃありやせんか!」 大声でまくし立てる彼らに、アニタが唖然と口を開ける。 「あなたたち・・・お休みをあげたでしょう?!」 まだまだ湧いて出てくる彼らは、アニタの所有する商船の船乗り達だ。 「なぜここに・・・!」 「いやいや、アニタ様に年末のご挨拶をしてからと思ったら、いかがわし・・・いやいや、珍しい客人がいるって聞いたもんですから!」 「こりゃほっとくわけにゃいかねぇって、邪魔・・・いやいや、歓迎にきやした 「・・・今、邪魔って言いましたか?」 「言ってないっす にこにことごつい顔に愛想笑いを浮かべる彼らに、アニタが深々と吐息する。 「マホ・・・」 ジャ、と、呼びかけた声は途中で止まった。 クロスに抱き上げられ、いつもより視界の高くなったアニタからは、船員達の最後尾で盛大に彼らをけしかけているマホジャの姿がよく見える。 「・・・何をやっているの、あなた」 じっとりと睨まれた彼女は、慌てて船員達の影にしゃがみこんだ。 「まったく・・・!」 文句を言ってやろうと、大きく口を開いたアニタを、クロスが抱き寄せる。 「ちょっと待ってな。 あいつら全員、潰してやんぜ」 自信満々に言い切った彼に苦笑し、アニタはため息と共に頷いた。 一方、アニタの店を出たソカロは、旅の手配を依頼するため、アジア支部へと入った。 「ソカロ元帥・・・。 なんでまた、中国に?」 どういうルート選択だろうかと、不思議そうなアジア支部長には『野暮用だ』とだけ伝える。 「それよかバク、ベンガルに行く手配をしてくれ。 できるだけ早く行きたいんでな、特別列車を仕立てて欲しい」 「了解した」 エクソシストのサポートに慣れた彼は、それだけ言って、執務机の受話器を取り上げた。 手配を命じて通話を切ると、バクはちらりと笑みを浮かべてソカロを見遣る。 「準備が整うまで、食堂にでも行ってはどうだ? 少し早いが、春節の料理が並んでいるぞ」 「あぁ、明日だったか・・・正月なんだってな。 先月済んだことを、もう一回やるのは変な気分だぜ」 そうは言いつつ、いそいそと踵を返したソカロにバクが笑い出した。 「なっ・・・なんだよ・・・!」 「いや、わかりやすい態度だと思ったのだ」 まだクスクスと笑いながら、バクもソカロに並ぶ。 「食堂もいいのだが、支部中の正月飾りが華やかで賑々しいのだ! この日のために一所懸命大掃除したのだし、ぜひとも見て行って欲しいぞ!」 今にもスキップを踏みそうなほどに浮かれた足取りで、バクが先に立った。 「そんなに嬉しいもんかね」 「嬉しいとも! 正月は・・・」 言いかけて、ぱたりと口をつぐんだバクが、そそくさと部屋を出る。 「・・・っおい! なんだよ、気持ち悪ィな!!」 がしっと頭を掴んで持ち上げると、バクは面白いようにじたじたと暴れた。 「はっきり言えや、ゴラ」 「はっきり言えねーんだよ 不意に、クスクスと響いた笑声の発生場所を探して、ソカロの視線が巡る。 「こいつ、正月はさぁ・・・」 にょきっと、壁から顔を出した土地神に驚き、ソカロの力が緩んだ隙に、バクは彼の手から逃げ出した。 「だっ・・・黙れ、フォー!! 余計なことは言うんじゃない!!」 ずきずきと痛む頭を押さえながら大声をあげると、にょろにょろと壁から出てきたフォーが、ケタケタと笑う。 「いいじゃねぇか! こいつさー!」 「ゴラ――――!!!!」 「うるせぇ」 ごんっと、大きなこぶしで殴られて、バクが床に沈んだ。 「で?」 「うん、正月にはさ、怒っちゃいけないって風習があんだ だからこの日はさすがにトゥイも・・・あ、こいつの母親な。 いっつも厳しいあいつがニコニコして構ってくれるもんだから、バクの奴すっげー嬉しがって! おかげで正月大好きなんだ、この坊ちゃん!」 「あぁん? こいつの母親っつったら、前の支部長だろうよ。 死んで何年だァ?」 「それでも嬉しいんだろうさ、あの時のこと思い出してさ 可愛いだろう、と、楽しげに笑う土地神に、ソカロも笑みを返す。 「甘えん坊だな」 「坊ちゃん育ちだからな クスクスと笑いながら、フォーは床に伸びるバクを軽々と抱えた。 「メシ、食ってくだろ? 正月は明日からだから、まだ全部は揃っちゃいないんだけどさ、今ある分は食ってけよ♪」 「あぁ。 どんなんか、楽しみだな」 「だろうとも 嬉しげに笑って、フォーが踵を返す。 「ついて来い、でかいの!」 「いい加減、名前覚えろ!!」 舌打ちしたものの、ソカロの口調は存外に楽しげだった。 列車の準備が整った、と、サポーターが呼びに来た時、食堂では既に酒も入って、大宴会になっていた。 「樽一気ー!イェア!!」 「負けねーぞ小娘ええええええええええええ!!!!」 小さな手で軽々と酒樽を抱えたフォーに、負けじとソカロも樽を持ち上げる。 「あんまり無理するんじゃないよ、元帥」 歓声をあげる支部員達の中で、料理長のズゥがにこにこと笑った。 「フォーに酒をやるのは、川にお神酒を流すようなもんだよ。 ザルですらないんだから、人間が敵うわけがない」 「るっせぇジジィ!! 俺は神にだって勝ってみせるぁっ!!」 「よっしゃ!よく言ったぜ、でかいの!! あたしに勝ったら名前を覚えるかもしんねぇぜ!!」 ばんばんと背中を叩かれて、ソカロがよろける。 「お? もういい加減、まわってんじゃねぇのか? そんなんであたしに勝てるかねェ?」 「るっせぇよ、クソガキが!! かかってこいや、ゴルゥア!!!!」 普通の子供ならば、その声を聞いただけで震え上がっただろうが、生憎フォーは彼の何倍もの年を生きた神だった。 「どっちがガキだか、思い知らせてやんよ♪」 にんまりと笑うや、片手でもてあそんでいた酒樽を持ち直す。 彼女の身長を優に超えるそれを傾けるや、横目で見遣ったソカロに、にんまりと笑って見せた。 「Ready!」 全員の歓声が、一言にまとまる。 「Go!!!!」 怒号のような号令と共に、二人はそれぞれの酒樽を傾けた。 「危険だから、良い子も悪い子も真似しちゃいかんよ」 「真似できませんよ・・・・・・」 のんきなズゥの声を聞き流しながら、皆が固唾を呑んで勝負を見据える。 順調に樽を傾けているフォーの隣で、ソカロはさすがに苦しそうだった。 「死ぬな、ありゃ・・・」 止めるべきか悩ましいところだが、下手に止めてソカロの怒りを買えば、ただでは済まないこともわかっている。 誰もが自身の身の安全を優先し、見守っていると、先に空いた樽の向こうからフォーの満足げな顔が現れた。 「どーっだ!!!!」 得意げに鼻を鳴らし、見上げたソカロは樽を持ち上げたまま固まっている。 「あ? 死んだか?」 小さな身体を傾げて近づくと、不意に周りが暗くなった。 「・・・なんだこりゃっ!!」 「はっはーぁ!! 捕まえたぜ、仔ネズミ!!!!」 頭上をバンバンと叩く音と共に酔っ払いの声が響いて、フォーは頬を膨らませる。 「だーれが仔ネズミだ!! おい! 酒樽どけろよ!!」 内側からバンバンと樽を叩くが、当然ながらどく気配はなかった。 「このやろー・・・!」 一旦床下へと沈んだフォーは、イルカのように勢い良く跳ね上がる。 「食ら・・・ええええええええええええ?!」 必殺の頭突きを食らわせる前に襟首を掴まれ、猫のようにぶら下げられた。 「てっ・・・てめぇ!! なにしやがんだ放せよっ!!」 じたじたと暴れるフォーを小脇に抱えたソカロは、彼女の頭を掴んでぐりぐりと回す。 それがどうも、撫でているらしい、と気づいたのは、フォーが不満顔ながらもおとなしくなったのを見てからだった。 「おい、バク。 土産にこれ寄越せ」 「やるかっ!!」 今の今まで唖然と眺めていたバクが、その言葉でようやく我に返る。 「なんだ、ケチだな」 「ケチとかそういう問題じゃない! フォーはこの地の土地神なのだから、この地を離れては実体が維持できないんだ!」 方法がないわけではないが、それを教える義理はないと判断し、バクは強気に迫った。 「さぁ! そいつを放せ!!」 「ちっ・・・・・・」 不満げに舌打ちし、ソカロはフォーをバクに向けて放り投げる。 「っなにすんだ、でかいの!! もっと大事に扱え!!!!」 受け止め損ねて倒れたバクを踏みつけ、激昂するフォーにソカロは鼻を鳴らした。 「でかいの、じゃねぇ。ソカロだ。 勝ったら覚えるっつったろうが」 「勝ってねぇだろおおおおおお!!!! あたしの方が先に飲み干したんだから、あたしの勝ちだ!!」 地団太を踏むフォーの足元で、ひき肉になりかけているバクをソカロが面白そうに見下ろす。 「俺の勝ちを宣言したら助けてやっていいぜぇ?」 「勝・・・者・・・! ソ・・・カロ・・・元・・・帥・・・・・・!」 それだけ言って、動かなくなったバクの上からフォーを摘み上げた。 「オラ!なんか言えや!」 「へんっ!!」 ぷいっと、そっぽを向いてしまったフォーに、ソカロは恐ろしい笑顔を向ける。 「言わねぇと、樽に入れて土産物にしちまうぜ?」 「やっ・・・やれるもんならやってみろよ! あたしはここの土地神なんだから、連れ出されたってすぐに戻って来れるさ!」 「無事にか?」 意地の悪い問いには、即答できなかった。 フォー自身、契約で繋がったチャン家の者がいない状況で、自身の守護する土地から出たことはない。 ために、その時にどうなるのか、正確にはわかりかねた。 「はっ! 素直になった方が、身のためじゃねぇのかぁ?あぁん?」 身分は聖職者のはずだが、ならず者と変わらない物言いをするソカロに、フォーが舌打ちする。 「・・・・・・・・・・・・げんすぃ」 「あぁん?! きっこえねぇなぁぁぁぁぁあん?!」 フォーの酷く小さな声に対し、ソカロは大仰なまでに大きな声をあげた。 「うっせーな、ソカロ元帥!!!! 神のあたしが呼んでやってんだろうが、ありがたく思いなっ!!!!」 真っ赤になって大声をあげたフォーに、ソカロは大口を開ける。 「ひぁーっはははは!!!! いーぃ反骨精神だぜ、クソガキ! やっぱり土産にしたくなった!」 「話が違うじゃねぇか!! 放せゴルゥアッ!!!!」 吊られたまま、じたじたと暴れるフォーをしばらく楽しげに眺めていたソカロは、にんまりと笑うと彼女を放り投げた。 「こんにゃろっ!!」 ウォンに介抱され、仰向けになったバクの腹に華麗な着地を決めたフォーは、悔しげにソカロを睨む。 「次は正々堂々勝負しろよ、ソカロ!!」 「おいおい、もう呼び捨てかよ」 とは言いながら、楽しげなソカロをフォーは、まっすぐに指差した。 「次は完勝する!! バクの仇を取ってやるんだからな!」 「バクを踏み潰してんのはお前だろうが」 冷静な指摘は聞こえなかった振りをして、フォーはこぶしを握った。 「とっとといっちまえ! けど、必ず戻って来いよ!!!!」 こぶしを開いて再び指した先では、アジア支部のサポーターが困惑げにソカロを見つめている。 「あぁん?」 「あっ・・・あの・・・・・・! 列車の用意が・・・・・・」 怯えきった声に肩をすくめ、ソカロは大きな歩を踏み出した。 「またな、クソガキ!」 人間の子供なら、簡単に首がもげそうな力でフォーの頭を撫で、どかどかと食堂を出て行く彼を、皆が唖然と見送る。 「あたしが倒す前に倒されんじゃねぇぞ!!!!」 ヒステリックな声に肩越し、軽く手を振って、ソカロはアジア支部を後にした。 ――――・・・支部を出るまでは何とか精神力で耐えたソカロだったが、列車に乗り込むや間もなく、意識を失った。 彼が目覚めた時にはもう、日は沈んで夜が更けている。 「・・・・・・あ? 時差があるんじゃなかったか?」 なんでこんな時間なんだろうと、時計を見つめて固まっているソカロに、サポーターが肩をすくめた。 「時差の分も含めてお休みでしたよ・・・」 「はぁん・・・・・・ま、いいか」 あっさりと言ってソカロは、列車の狭い座席に詰めていた身体を伸ばす。 「どうせ、エクソシストか幹部しか使わねぇ列車だろうがよ! 寝台くらい乗せとけや!!」 「へっ?! いやあの・・・乗せてますし、ご案内しようとしたんですけど・・・・・・!」 途中で酔いに負け、座席に倒れ込んで寝てしまったのはソカロだった。 怯えながらもそう言えば、ソカロは舌打ちして黙り込む。 あまりに長い沈黙に困惑したサポーターは、おどおどとまた口を開いた。 「そ・・・それであの・・・もうじきベンガルに着きますので・・・・・・」 「あぁ、後のことは適当にやる」 「は・・・はぁ・・・・・・」 あからさまにほっとした顔で、サポーターが頷く。 「では、案内人の手配はさせていただきます。 現地ではその者にお申し付けください」 さっさと肩の荷を降ろそうとするサポーターに、ソカロはクロスからもらったメモを差し出した。 「こいつを頼む」 「は・・・はぁ・・・・・・」 走り書きされた名前と連絡先を読んで、サポーターは頷く。 「では連絡してみましょう。 うまく行けば、駅まで迎えに来るでしょう」 大きく頷き、車両を出て行った彼にソカロも頷いた。 「見つかるといいがなぁ・・・・・・」 首を捻りつつ見遣った窓は、明るい車内が写るばかりで外が見えない。 「・・・・・・トラが」 呟いた時、 「サルならいるんだがな」 笑みを含んだ声がかけられて、ソカロはぎくりと背後を見た。 「クラウド・・・!」 「タイでアジア支部の専用列車が通るのを見かけたのでな。 途中乗車させてもらったぞ」 そう言って教団唯一の女元帥は、どさりとソカロの対面に腰を下ろす。 「なんでトラなんか欲しいんだ?」 単刀直入の問いに、ソカロは目を泳がせた。 「・・・でけぇネコだから」 笑うだろうか、と思ったクラウドは、意外にも真剣な目つきで顎を引く。 「気持ちはわかるが・・・飼うならヒョウの方が飼いやすいぞ?」 「そうなのか?!」 否定されるどころか、前向きなアドバイスをもらって、ソカロは身を乗り出した。 と、クラウドは頷き、自身の肩に乗ったサルを撫でる。 「ヒョウはとても賢い生き物で、争いを避ける性質を持つ。 用心して飼っていれば、サルよりもよほど人に迷惑をかけたりしないぞ」 「キィッ!!」 途端に抗議の声をあげたサルを抱き上げ、クラウドは微笑みかけた。 「もちろん、お前以上に賢い生き物などいないさ、ラウ・シーミン。 目の前の大猩々(ゴリラ)など、お前の半分の知能もないぞ 「そりゃ俺のことか!!!!」 こぶしを握って怒声をあげたソカロに、サルは機嫌よく長い尾を振る。 「お前、ラウにまで見下されて哀れだな」 「お前が仕込んでんだろぉがあああああ!!!!」 列車の全窓が震える程の大音声を前に眉ひとつ動かさず、クラウドはにこりと笑った。 「それで、なぜ大きな猫が欲しいんだ? もしかして今月の・・・」 「ちょ――――っっと興味があっただけだ!!!!」 クラウドの言葉を大声で遮り、ソカロは挙動不審に窓の外を見遣る。 「お・・・お前みたいに、動物の世話をするのも楽しいかと思ってな!!」 「ふぅん・・・・・・」 にやにやと意地の悪い笑みを浮かべたクラウドはラウ・シーミンを膝に乗せ、ソカロを眺めながらその白い毛並みを撫でた。 「ラウに、狩って来させてもいいぞ」 「へ・・・?」 意外な申し出に驚くソカロへ、クラウドは笑みを深める。 「ラウのいない間、お前が私をアクマから守ると言う条件を果たせるのならば、だが」 ラウ・シーミンは、そうは見えないがクラウドのイノセンスだ。 いつアクマに襲われるかわからない状況で、それを手放すことは非常な勇気がいる。 だが、 「本当にヒョウを狩ってこれるっつーんなら、承諾してやってもいいぜ」 ためらいもなく言った彼に、クラウドは頷いた。 「そういうわけだ、ラウ。 お前ちょっと森へ入って、親を亡くした仔か、さらわれて困っている仔を保護しておいで。 近くに親がいるなら返してあげるんだよ?」 「キッ!」 クラウドに向け、敬礼の姿勢を取ったサルの頭をソカロが背後からはたく。 「キキッ!」 「なにをする!!」 目を吊り上げたクラウドとサルに、ソカロは鼻を鳴らした。 「わかってんのかよ、このサル」 「お前なんぞより、よほど私の言葉を理解しているぞ! なぁ、ラウ?!」 「キッ!!」 大きく頷き、ソカロへ向けて歯を剥いたサルに、彼は肩をすくめる。 「じゃー、お手並み拝見と行こうか。 いいか?ヒョウだぞ。 チーターでもいいが」 「無知。この無知。 チーターがいるのはアフリカだ」 ラウに言い聞かせるソカロに、クラウドが冷たく言い放った。 「ラウ、こんなアホの言うことを聞いて、アフリカにまで行ってはいかんぞ。 私の元には、ちゃんと戻って来れるね?」 「キッ!!」 再び敬礼の仕草をしたサルに微笑み、クラウドは窓を開ける。 「早く帰っておいで」 「キキッ!!」 窓から外へ飛び降りたサルに手を振り、クラウドは窓を閉めた。 「ところでな、ソカロ」 「あぁん?」 窓を閉めても立ったままのクラウドを訝しげに見上げれば、彼女はすたすたと車両の端へと寄る。 「駅に着く前に、歓迎の宴があるようだ。 がんばってくれ」 「うた・・・げええええええええええええええええええ?!」 鼻先を掠めた砲弾に驚き、ソカロは巨体をのけぞらせた。 「言っておくが、私が呼び寄せたんじゃないぞ。 窓を開けたらもう、そこにいたんだもの」 「だったらそう言え・・・よっ!!!!」 発動したイノセンスで、次々と襲い来る砲弾を跳ね返しつつ怒鳴れば、クラウドは壁に背を預けて小首を傾げる。 「逃げるので精一杯だったんだな」 「のんびり歩いてったろぉがああああああああああああああ!!!!」 苛立ちと共に放った反撃が、窓外のアクマを切り裂いた。 「そこからでは、壊りにくいのじゃないか? 屋根へあがってはどうだろうか」 「横でガタガタぬかすんじゃねぇ!!!!」 とは言っても、車両内にいたのでは反撃しにくいのも確かだ。 「別に、お前に言われたからじゃないからな!!」 窓枠に足をかけて肩越しに言えば、クラウドは呆れたように肩をすくめた。 「ゴツイ顔でツンデレなセリフ言ってないでとっとと壊れ。 気色悪い」 冷たいにも程がある言葉に心が折れそうになりながら、列車の屋根に上がったソカロは、悲しみと共に襲い来るアクマ達を殲滅する。 「・・・・・・終わったぞ」 窓から逆さまに顔を覗かせると、クラウドの姿がなかった。 「お?外にでも吹っ飛ばされたか?」 少しいい気分になったソカロは、再び車両に乗り込んだ途端、別の車両で茶を飲んでいる彼女の姿を見てがっくりと肩を落とす。 「ご苦労だったな」 「・・・・・・お前はどこの王様だ」 あまりにも尊大な態度には、怒るより先に呆れてしまって、力が抜けた。 そんな彼に、クラウドは鼻を鳴らす。 「言ったじゃないか、ラウの代わりに私を守ると。 大猩々にしては良くやったね」 「テメェを守ンのは引き受けたが、サル呼ばわりされることまで承知しちゃいねぇよ!!」 「なんだ、せっかく大猩々にまで進化したのに。 サル以下のままが良かったのか?」 「どぉ言う意味じゃそりゃあああああああああ!!!!」 「あ・・・あのっ・・・!!」 激しいやり取りをする元帥二人の間に、サポーターが勇気を振り絞って割って入った。 「きょ・・・教団本部より、緊急無線です! 元帥方には帰還命令が出ています!」 「帰還命令・・・?」 その言葉に、二人の声が揃う。 「何事だろうか」 首を傾げたクラウドに、ソカロが首を振った。 「さぁな・・・。 だが、ただ事じゃねぇだろ」 一般エクソシストと違い、元帥達は本部の命令に拠らずして動いている。 それを敢えて帰還せよと言うからには、なにか重大なことが起こったと考えて間違いなかった。 「おい、この列車、このまま進路を変更できるのか?」 元死刑囚のくせに、こういうことにはなぜか律儀なソカロが問うと、サポーターは大きく頷く。 「一旦駅に入りまして、損傷した車両を換え、燃料を積みます! 一刻も早く、港にお連れしますし、船も手配いたしますので!」 気合たっぷりに声を張り上げたサポーターに、クラウドが微笑んだ。 「頼む」 あっさりと頷いた彼女を、ソカロは気まずげに見遣る。 「お前、ラウは・・・」 「案ずるな」 きっぱりと言って、クラウドは足を組み直した。 「ラウはお前より賢いからな」 「まだ言うか――――!!!!」 ソカロの怒号を、クラウドは愉快げに笑う。 「だって本当のことだもの。 悔しければ、あの子の賢さを超えてごらん」 高慢な彼女への舌打ちは、再び被った仮面に閉じ込められ、外に漏れることはなかった。 しかし彼女の言ったとおり、ラウ・シーミンは列車が港に着く前に追いつき、見事役目を果たした。 「どうだ、賢いだろう、この子は 今までの相棒の中でも、一番偉い子だ 自慢げに言いながらクラウドが撫でる小猿は、満足げに目を細めている。 そしてその向かいでも、ソカロが嬉しげにヒョウの子供を撫でていた。 「ふっかふかだな、おい こいつ、母親を亡くしちまったのか?」 小さな身体で一所懸命にミルクを舐めるヒョウに目を細めると、小猿はソカロの言葉がわかるのか、小さく首を振る。 「なんだ、じゃあはぐれちまったのか?」 その問いにも不正解だと言わんばかりに反応が鈍かった。 「では・・・別の動物にさらわれていたのだね。 ヒョウも、子供のうちは色々な動物に狙われるからな」 コクコクと頷く小猿を、クラウドはまた撫でてやる。 「偉かったね、ラウ 「キキッ!!」 ご褒美の果物を嬉しそうにかじりながら、小猿は嬉しげな鳴き声をあげた。 「・・・・・・・・・で」 にんまりと、意地の悪い笑みを浮かべたクラウドから、ソカロは必死に目を逸らす。 「そろそろ、本当の理由を言ってはどうだ、ソカロ?」 「んなっ・・・なにがだ?!」 挙動不審に目を泳がせながら、ソカロはせわしなくヒョウを撫で続けた。 聞かれたくないと、明らかに動揺していることを知りながら、クラウドは獲物を狙う獣のようにソカロを見据える。 「そのヒョウだ。 本当に、おまえ自身が欲しかったのか?」 笑みを含んだ、サディスティックな声の問いかけに、ソカロは何度も頷いた。 「ふぅん・・・。 連れて歩くつもりか?」 「そ・・・それもいいな!」 「今はいいだろうが、私のラウと違ってそれは普通のヒョウだからな。 大きくなると、世界中連れまわすのは面倒だぞ?」 にんまりと笑って、次の答えを待つクラウドは、心底楽しそうだ。 猫になぶられるねずみの気分を味わいながら、ソカロは口ごもった。 「飼う自信がないのなら、この国に残しておいき」 「いや!! ちゃんと面倒見るから!!!!」 うっかり誘いに乗ってしまったソカロが、気まずげに目を逸らす。 「の・・・野良猫拾ったんじゃあるまいし、街に放置なんざできるかよ!」 「なんの、私にだって人脈くらいあるのだ。 ここのサポーターに話を通せば、引き取り手などいくらでも・・・」 「それだと約束が!!」 「約束か」 「あ・・・・・・」 してやったりと、クラウドは意地悪く笑った。 「2月だもんなぁ・・・」 意味深な言葉に全て見抜かれていることを察し、ソカロは小さく頷く。 「で・・・でかい猫を・・・土産にするって言っちまったんだよ・・・・・・」 「お前の大きな猫にか?」 クスクスと笑われて真っ赤になったソカロは、仮面をしていることに心底安堵した。 「まったくお前は、リナリーには甘いのだから。 いくら性質が猫に似ていても、あの子は人間だよ」 「ぅわっ・・・わかっているぞ、そのくらい!!」 顔が隠れていても、上ずった声では威厳も何もあったものじゃない。 慌てて咳払いする彼に、クラウドは笑い出した。 「自分の弟子にも、そのくらい優しくしてやればいいのに」 「・・・あいつらは可愛くねぇじゃねぇか」 好きで弟子にしたわけじゃなし、と、更に酷いことを言う。 と、 「一旦引き受けたものは、最後まで面倒を見るもんだ」 呆れ口調で言ったクラウドに、ソカロは眉をひそめた。 「お前は弟子を、ペットだとでも思っているのか?」 「そんっ・・・そんなわけないだろう! 娘だと思っているとも!」 「今、噛んだろ」 「噛んでない!」 ようやく反撃できたことに気をよくして、ソカロは甘えてくるヒョウの子供を撫でてやる。 「次にあいつらに会ったら、お前がペットだと思ってるって、言ってやんよ♪」 「そんなこと思ってないと言っているだろうが!!」 絶対に言うな、と、脅しをかけたクラウドだったが、そんなことをするまでもなく、彼女も彼も、その後弟子達に会うことはなかった・・・・・・。 久しぶりに帰還した教団本部で、弟子達の死を知らされたクラウドの悲嘆振りは酷いものだった。 毒舌もすっかり鳴りを潜め、ソカロですら声をかけかねている。 うまく慰めるか、そうでなければ空気を読まずに彼女へ付きまとう奴でもいないものかと、誰もが思っていた時、ソカロの元に荷物が届いた。 「なんだ?」 「ティエドール元帥からです。 本部にはもうしばらく戻らないので、これをソカロ元帥にとのご伝言です」 「フロワから・・・!」 ひとつ、思い当たることがあって、ソカロが頷く。 荷物を受け取った彼は、いそいそと部屋に戻り、カーテンをしっかりと閉めてから荷を解いた。 「おぉ・・ 中から出てきた数々の猫グッズに、思わず頬がほころぶ。 「カーテンは・・・後でかけるか。 これは?タペストリー? いや、なんかの飾りか?」 取り出した紙は、猫の形に切り抜いてあった。 「フロワの奴、なんか書き付けてねぇのかよ・・・っと、あったあった」 箱の中を探っていると、片隅に白い封筒が差し込んである。 開いてみると、見たことのある文字が挨拶と共に各グッズの説明をしていた。 「中国なんかじゃ今年は兎年だけど、ベトナムでは猫年なんだよ・・・って、なんだそりゃ? 干支??えとってなんだ?? まぁいいや・・・この紙の猫は、中国の正月飾りにあやかってつくったものだから、春節の間は飾っておいで・・・? あぁそう言えば、春節は3日間やるんだったか?」 では今は、その最中だろう。 しかし、 「春節っつっても、こっちじゃ別になんもやってないだろうさ。 まぁ、せっかく送ってきやがったんだ、飾ってやってもいいけどな」 言葉は文句だが、その口調はやけに楽しげで、ソカロは更に箱の中身を取り出した。 と、その中に、 「ね・・・猫耳・・・・・・?」 カチューシャにつけられたふかふかの猫耳を、ソカロはまじまじと見つめる。 色は黒と薄い茶トラの二種類で、黒の方には『猫年にちなんであげたのに、ユー君に拒否されちゃったよぉ・・・!』と、悲しげなメモが貼り付けてあった。 「・・・だからって俺にどうしろっつーんだよ」 呆れたソカロは黒い猫耳をつけてみて、自分に似合わないことを確認してから足元にじゃれ付くヒョウの子供を抱き上げる。 「お前にも似あわねぇな。 元々ついてるし」 当たり前のことを大真面目に言って、ソカロはヒョウを抱いたまま部屋を出た。 「小娘にでもやりゃあいいか」 ついでにこいつも押し付けてこようと、抱えたヒョウの頭を撫でる。 「いじめられたら、俺ンとこに逃げて来いよ?」 「ミャア」 小さく鳴いて、肩に登って来たヒョウが落ちそうになり、慌てて支えた。 「お前、猫の癖に鈍くさいな・・・! そんなことじゃ、大きな猫に敵わないぜ?」 「ミャア」 じゃあ行きたくない、とばかりに身を捩るヒョウを落とさないよう、ソカロの手が追いかける。 「おい、おとなしく・・・」 「ミャア」 「ちょっ・・・落ちるっつってんだ・・・ろっ?!」 腕から飛び出たヒョウを追いかけ、伸ばした手の上をまたちょろちょろと逃げられた。 「おい!! 鈍くさくなんかねぇからお前、じっとしろ!!」 段々足を早めながら、ソカロは手の中を逃げるヒョウだけを見つめて回廊を駆ける。 「動くなって!!」 曲がり角に差し掛かり、目の前に壁の迫ったソカロが焦った声をあげた。 「ぶつかるっつってんだろ!!」 激突を避け、なんとか方向転換した先に、見慣れた背中がある。 「ぅわっ!!」 避けきれず、ぶつかった彼女はムッとした目を肩越しに投げた。 「・・・・・・何をするんだ、デカブツ!」 低い声をあげて、ゆっくりと振り返ったクラウドの姿に・・・不覚にも鼓動が跳ねる。 「お・・・お前・・・!」 頬を染めて声を詰まらせるソカロに、クラウドが眉根を寄せた。 「ゴツイ顔しているくせに、乙女みたいに頬を染めるな、気色悪い」 冷たい言葉を発する彼女に、ソカロは無言で窓を示す。 雪をちらつかせる空は昼といえども暗く、窓は室内の明かりを受けて鏡のようになっていた。 そこに映る自身の姿に、クラウドが固まる。 「さすがフロワだな!! こっちの茶トラ猫耳はお前用だったんだ!!」 似合う!と、こぶしを握って断言したソカロが、血塗れの肉隗となって床に這うまで一瞬の出来事だった。 「・・・くだらないことをするな!!」 冷酷な顔でソカロを踏みつけるクラウドの肩では、白い小猿が嬉しげに跳ねる。 「どうした、ラウ?」 目を向けると、サルは嬉しげに頬をすり寄せてきた。 「なんなのだ・・・お前もか」 足に擦り寄ってきたヒョウを抱き上げると、ミャアミャアと鳴きながら鼻先をすり寄せてくる。 「キキッ 長い尾でクラウドの頭上に触れ、またすりすりと頬をすり寄せて来た小猿に、クラウドはようやく理解した。 「なんだ、お前達。 私が猫耳なんかつけて、嬉しいのか?」 「キッ 「ミャア 二頭してすりすりと擦り寄られて、クラウドは苦笑する。 「猫耳がついたからと言って、私がお前達の母親になったわけではないのだが・・・そうか。 こいつも、人と言うより獣に近いからな。 ホラ、起きろよ大猩々」 踏みつけた足で揺すってやると、痙攣していたソカロが血の泡を吹いて動かなくなった。 「・・・おい、ヒョウ。 これ食べて証拠隠滅しろ」 「なに平然と言ってんだてめぇああああああああああああああ!!!!」 がばぁっと起き上がったソカロの形相に、ヒョウだけでなくイノセンスの小猿までもが怯えて、クラウドに縋る。 「第一! こんな監視ゴーレム飛び回ってる場所でンなことしたって、バッレバレだろうがよっ!!」 彼らの周りを飛び回る、黒いゴーレムを指して言えば、クラウドはあらぬ方を見遣った。 「日頃の行いがいいから、正当防衛だと言えば信じてもらえる。きっと」 「どんだけ腹黒いんだ、お前!!」 「女がいつまでも清純なわけないだろう。 ティーンのガキか、お前は!」 「開き直るなあああああああああああああああ!!!!」 興奮のあまり、血を噴出しながら迫ると、なぜか拍手が沸く。 「珍しい水芸だな」 「お前の頭にも噴水作ってやるぜぁっ!!!!」 クラウドの頭頂へ向けて振り下ろしたこぶしは、巨大化したラウにあっさりと阻まれた。 「か弱いなぁ、お前」 「そう言うことは自分でやってから言え!!」 ラウに首根っこを掴まれ、猫のように吊るされたソカロが忌々しげに言う。 「ところでな、お前」 「んっだよ!!」 「リナリーはいないそうだ。 クロスを探しに行ったらしいぞ」 「あぁんっ?! ・・・あ・・・あぁ、そうか・・・。 べっ・・・別に、仕方ないんじゃないか、任務なら・・・・・・」 何も言っていないのに、驚愕と失望と言い訳をするソカロへ向けたクラウドの目が、意地悪い笑みを浮かべた。 「なんだよっ!!」 「別に何も言っていないが?」 帰還して以降、ずっとしょげ返っていたくせに、今やすっかり元通りに意地の悪い笑みを深めたクラウドを、ソカロは忌々しげに睨む。 「・・・お前は獲物をいたぶっている時が、一番いい顔をするな!」 「だって楽しいもの あまりにもあっさりと言われて、さすがのソカロが言葉を失った。 「可愛い赤子ならともかく、屈せしめるなら駻馬がいい。 お前もまぁ・・・いたぶるには面白いんだが、従順になったら気持ち悪いしなぁ・・・。 どうすべきだと思う?」 「それを俺に聞くのか、性悪女ああああああああああああああ!!!!」 城中に響くほどの絶叫を、クラウドは心地よげに聞く。 「お前でさえこんなに楽しいのだもの。 ユウの悲鳴はどれ程心地よいだろうか うっとりと頬を染めたクラウドが撫でる手の下で、ヒョウも心地よさげに目を細めた。 「早く帰ってこないだろうか、ユウは それまの暇つぶしに、クロスからもらった肉食花でも躾けて遊ぶかな クスクスと笑声をあげるクラウドを、ソカロは気味悪げに見つめる。 「・・・興味が別に移ったんなら、そろそろ俺を解放しねぇか?」 せいぜい嫌味ったらしく言ってやると、彼女はむぅ、と、眉根を寄せた。 「お前さっき、私の頭に噴水を作るとか言っただろう」 「・・・・・・・・・・・・言ったかねェ?」 気まずげにそっぽを向くが、そんなごまかしが通用する相手ではない。 「そんなに噴水が好きなら、存分に味わわせてやろう ラウ にこりと笑ったクラウドが、まっすぐに指差した窓の向こうには、凍った噴水がわずかながらの水を噴き出していた。 「沈めておいで 「てめえええええええええええええええええええええええ!!!!」 怒号は、窓から出たラウ・シーミンが離れるほどに小さくなっていく。 「ほらご覧。 あれが、私に逆らった者の末路だよ 冷たい風のせいだけでなく、ぶるぶると震えだしたヒョウに囁きかけたクラウドは、凍った噴水に飾られた、奇妙なオブジェを楽しげに眺めた。 ―――― 一方。 クロスは当然のように帰還命令を無視して、アニタの店に居座っていた。 宣言通り、波状攻撃で挑んできた邪魔者を全て酔い潰し、今やアニタと二人、薔薇の花見酒を楽しんでいる。 「お前もだいぶ、こなれて来たみたいだな」 くすくすと笑ってアニタの腰を抱き寄せると、彼女は艶やかな黒い髪を白い指に絡めて微笑んだ。 「なんのことでしょうか?」 「死なない程度に調整したんだろうな、酔いを回す薬はよ?」 ほんのりと紅い耳朶に囁きかけると、彼女はくすぐったそうに笑う。 「そんなもの、知りませんわ・・・ただ」 紅を含んだ目尻が、艶めいた笑みを浮かべた。 「新年の祝い酒には、屠蘇散を入れるものですわよ」 クスクスと笑うアニタの首に、クロスも笑みを浮かべた唇を這わせる。 「とんだ延命長寿の薬だな」 密やかな笑声は、厚く積もった白雪に染み入り、眠る邪魔者達を起こすことはなかった。 Fin. |
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2011年旧正月SSでした! The New Year's Partyが7作目ということはすなわち、D.グレ始めて7年目と言うことです(笑) 去年『150作目!』と書いてますが、これが170作目なので、1年で20作書いてるってことですね。 頑張るなぁ、俺!>なにを人事のように。 ちなみに今回は、まったくネタが思い浮かばなかったので、チャットで色んなネタをもらいました(笑) 時間軸とか登場人物のチョイスが渋いのはそのためだと思う(笑) 本当は、アニタさんメインのはずだったんですが、なんかソカロ元帥に中心が移動してしまって実にすみません; 狩って来るのも本当はトラだったんですが、それをヒョウにしたのは、たまたまヒョウの特集を見ていて、その可愛さと賢さに萌えたから(笑) ヒョウって、人間を除けば最も広範囲に分布する肉食獣だそうです。 ・・・人間って、肉食獣だったのか、って突っ込みは、私じゃなくBBCへお願いします(笑) ちなみにすごいぜヌーって、本当に『ヌー』って鳴くんだぜ! ヒョウに襲われてたヌーが、どう聞いても『ヌーヌー』鳴いてたもん!!>関係ないよね。 あぁ・・・うん、今年もお楽しみいただければ幸いです(・▽・) 今回使わなかったネタは、別の話で使おうと思います。 |