† MEMORIES †






 「あの魔女め!!
 またしてもぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」
 自分の方が魔女のような顔をして、リナリーは執務室のドアを蹴りつけた。
 ブリジットとリナリーの間で幾度も破壊されたそれは今、鋼鉄へと素材を変えている。
 「絶対楽しんでるから!
 リナリーいじめて楽しんでるからあああああああああああああああああああ!!!!」
 甲高い喚き声と鋼鉄を蹴る金属音に、ただでさえ長時間労働でささくれ立っている科学班スタッフ達の神経が、更に荒んだ。
 「いい加減にしろ!!!!」
 いつも厳しいリーバーだけでなく、いつもは優しいスタッフにまで怒鳴られて、リナリーがむくれる。
 「だってあの魔女、兄さん誘拐してったあああああああ!!!!
 今日はリナリーのお誕生日なのに!!
 兄さん返せバカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
 「ぃやっかましい!!!!」
 一際高く鳴った金属音を圧する怒号が、部屋中に響いた。
 「誘拐じゃなくて中央庁出張だろが!!!!
 わがまま言うんじゃねぇ!!!!」
 「ぴぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
 げんこつされた頭を抱えてうずくまったリナリーの傍らに、いつの間にか神田がいる。
 「お前・・・いつの間に・・・・・・?」
 言おうと思っていたことを先に言われてしまい、むなしく手を開閉させるリーバーの眼前に、黒いファイルが突きつけられた。
 「ガセネタだった。
 ファインダーの質が落ちてんじゃねぇか?」
 憮然と言った彼からファイルを受け取ったリーバーは、乱暴な筆跡で『調査終了』とサインされた紙面に苦笑する。
 「探索班に苦情言ってやれよ」
 「とっくに言った」
 不機嫌に鼻を鳴らした神田は、未だうずくまるリナリーを見下ろした。
 「そんなに戦いてぇんなら、ドアじゃなく俺の相手しろ」
 「やだっ」
 ぷいっと、そっぽを向いたリナリーの髪が、むんずと掴まれる。
 「ぐだぐだ言ってねぇで、立て!!」
 「ぎゃああああああああああああん!!!!」
 「お・・・おい!やめろ!」
 大きな泣き声をあげるリナリーに、さすがに慌てたリーバーが止めに入るが、神田は無視してリナリーを無理矢理に立たせた。
 「放せぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
 髪を掴んだまま放さない神田の手を引き剥がそうとするが、彼の手はびくともしない。
 「相手、するか?」
 「やああああああああああ!!!!」
 溢れる反骨精神と共に叫ぶと、足払いをかけられて小脇に抱えられた。
 「黙って来い!」
 「やだああああ!!!!
 助けてっ!助けて班長ぉぉぉぉぉ!!!!
 リナリーが誘拐されちゃうよおおおおおおおお!!!!」
 絶叫し、じたじたと足をばたつかせるリナリーの頭を神田が容赦なくはたく。
 「おとなしくしろぃっ!!
 ためにならんぞっ!!」
 「・・・まさに誘拐犯だな」
 更に音量を増したリナリーの号泣に耳を塞いだリーバーは、しかし、神田を止めようとはしなかった。
 「とっとと連行しろ」
 やかましい、と、無情に放たれた言葉にリナリーがカッとなる。
 「酷いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!」
 駄々っ子のように泣き叫ぶリナリーの、ばたつかせた足でイノセンスが光を放った。
 「てめっ・・・こんな所で!!」
 危険を感じ、声を詰まらせた神田の周りからは既に、危機管理能力に優れた科学者達が逃げ去っている。
 「放せええええええええ!!!!」
 言われるまでもなく、神田はリナリーを放り投げた。
 室内に光の放物線を描きながら、空中でくるりと回転したリナリーが見事に着地を決める―――― 薬品棚に。
 「きゃっ?!」
 いくら頑丈なつくりでも、イノセンスの蹴りを受けてはひとたまりもない薬品棚が崩れ、毒物以外の何物でもない薬品が混じりあって、危険なガスを発生させた。
 「きゃああああああああああああああああ!!!!」
 「リナッ・・・!!」
 彼女の悲鳴を煙幕越しに聞いたものの、生身で突入できる者などいない。
 「防護服防護服!!!!」
 慌てて常備の防護服を着たリーバーが駆け寄り、他の者達も素早く換気や浄化作業に動いた。
 「リナリー!!無事か?!」
 防護服のヘルメット越しに呼びかけながら、リーバーは白煙の中を手探りする。
 「リナリー!!」
 「ふぇ・・・ふええええええええええええええええええ!!!!」
 甲高い泣き声があがった方へ手を伸ばすと、小さな手が彼の手を握った。
 酷く嫌な予感を覚えながら引くと、それは軽々と引き寄せられる。
 「リ・・・リナリー・・・・・・」
 「ふええええええええええええええん!!!!」
 顔を涙でぐしゃぐしゃにして泣くリナリーは、見事に幼児と化していた・・・・・・。


 「とりあえずお前が面倒見ろ」
 リーバーからリナリーを渡され、神田は目を吊り上げた。
 「なんで俺が!!」
 「だってお前のせいだし」
 「それに、リナリーを無理矢理連れて行こうとしてこうなったんだしさ、いいじゃん」
 「持ち運びが便利になったな」
 見事な連係プレーで次々に畳み掛けた科学者達が、神田の背を押してドアへ導く。
 「じゃあ、後のことはよろしく!」
 「薬が切れるまでの辛抱だ!」
 「幸運を!」
 その言葉を最後に、無情に閉ざされたドアを神田は唖然と見つめた。
 次いで、腕の中の小さなリナリーを見下ろすと、未だぐずりながら彼女は神田の髪をいじっている。
 「・・・いい加減、泣きやめ」
 ため息混じりに言うと、きょとん、と丸くなった目が神田を見上げた。
 「・・・なんだよ」
 泣き止みはしたが、まんまるく開かれた目と口に嫌な予感がして問えば、
 「ねえさま、おとこの子になっちゃったの?!」
 と、甲高い声があがる。
 「・・・〜〜〜〜誰が姉様だ!
 ふざけてんのか、てめぇ!」
 耳をつんざかれた神田が苦しそうに唸ると、リナリーはまた、目を潤ませた。
 「ねえさま、どうしておとこの子なんかになっちゃったの?!
 わるいまほうつかいにやられちゃったの?!」
 「・・・・・・は?」
 たどたどしい英語と幼すぎる話の内容に唖然とする神田へ、リナリーは更に詰め寄る。
 「リナリーがまほうをといてあげるからね!」
 ぷちゅ、と、頬にキスされた神田の目が点になった。
 「ねえさま、もどった?」
 小首を傾げたリナリーには答えず、神田は振り向き様、科学班のドアをバリケードごと蹴り開ける。
 「なんだよ、戻ってくるなよ」
 想定の範囲内か、粉々に砕け散ったドアを見る科学者達は冷静だった。
 しかし神田は冷静どころではなく、まっすぐにリーバーへ歩み寄ると、リナリーを突き出す。
 「治せ!!」
 「なにを」
 冷静かつ簡潔に問い返せば、神田は荒く息をついた。
 「こいつ、身体だけじゃない!
 頭ン中も戻ってんぜ!!」
 「はぁ?!」
 そんなことが、と、驚いたリーバーが立ち上がった途端、リナリーが泣き出す。
 「な・・・なんだよ・・・」
 「しろいふく、やあああああああああああああああああ!!!!」
 神田に襟首を掴まれたまま、リナリーは大声で泣いてじたじたと暴れた。
 「お・・・落ち着けよっ!!」
 珍しく慌てた神田が抱き上げると、リナリーは彼に縋って泣く。
 「・・・・・・ったく!
 よく見ろよ!リーバーだろが!!」
 「こわいいいいいいいい!!!!」
 号泣されてショックを隠せないリーバーは、引き攣った笑みを神田へ向けた。
 「・・・どうしようもないな、これは。
 薬が切れて元に戻るまで、お前が面倒見ろよ」
 「なっ?!」
 改めて押し付けられた神田が目を吊り上げると、リーバーは悲しく目を逸らす。
 「・・・・・・仕方ねぇだろ。
 俺・・・嫌われてんだから・・・・・・」
 魂が抜け出たように乾いた声で呟くと、科学者達は居心地悪げに自身の白衣を摘んだ。
 「嫌われても仕方ないこと、やってたんだろうなぁ・・・」
 「俺、もうリナリーとはまともに目ェ合わせらんないかもしれない・・・」
 資料で読んだり、話で聞く程度しか教団の過去の行いを知らないスタッフでさえも、かつての科学者達が幼い子供達にどんなに仕打ちをしてきたかは知っている。
 身体と共に記憶までもが退行したリナリーの怯えようは、その知識を裏付けるものだった。
 「頼む神田・・・!」
 「リナリーに俺らの姿を見せないでくれ・・・!」
 「後のことは任せたぞ・・・!」
 涙ぐんだ目をそらし、声を震わせる科学者達に背を押され、神田は破壊されたドアの外へと追いやられる。
 「・・・っおい!!」
 振り向いた時にはもう、ドアが破壊されることを予測して設置された、鋼鉄のシャッターが下りていた。


 「冗っっっ談じゃないぜあいつら!!
 なんで俺がガキの面倒見なきゃなんねェんだよ!!!!」
 首にリナリーをぶら下げたまま、どかどかと廊下を歩む神田を、誰もが奇異の目で見る。
 が、石炭のようにかっかと怒る彼に声をかけられる者は、誰もいなかった。
 ややして食堂に至った神田は、カウンターを叩いてジェリーを呼ぶ。
 「アラマァ・・・どうしたのん?」
 神田の首にぶら下がったままの、小さなリナリーの姿にジェリーは唖然とした。
 「また科学班がなにかやらかしたのん・・・?」
 信用のない口調の彼女に、神田は首を振る。
 「こいつの自業自得だ」
 「アラま!」
 大きな声をあげたジェリーに怯え、リナリーは更に神田へ縋った。
 「ついでに、頭ン中も昔に戻ってるみてぇだ」
 「アラん・・・!
 じゃあ、科学班で怯えたんじゃなくて?」
 頬に手を当て、気遣わしげに言った彼女に神田が頷く。
 「大泣きしたぜ」
 「アラアラ・・・」
 困惑げに眉根を寄せたジェリーは、厨房から出てリナリーを受け取った。
 「怖かったでしょうね。
 もう大丈夫よ」
 優しい声であやすと、彼女は敵ではないと理解したリナリーが、小さく頷く。
 「・・・どこまで戻っちゃったのかしらねぇ?
 アタシが初めてこの子を見た時は、山猿以外の何者でもなかったケドん・・・」
 どうやって確かめようかと、首を傾げるジェリーの傍らで、神田が軽く手を打った。
 「ソカロ元帥、申し訳ありませんが、食堂までおいで願えますか。
 小さな猫が紛れ込んだので」
 通信機に向かって、神田が珍しくも丁寧な口調で語りかけると、一瞬後にはソカロの巨体が現れる。
 「ランプの精ですか!!」
 「猫はどこだぁあん?!」
 驚愕するジェリーに構わず、食堂の床を見回すソカロの腕を、神田がつついた。
 「これです」
 「・・・・・・っ!!!!」
 ジェリーの抱くリナリーを見た途端、ソカロが凶悪な笑みを浮かべる。
 「なっつかしいなぁ!仔猫ちゃんよぉ〜!」
 「あっ!!」
 ジェリーが抵抗する間もなく、リナリーはソカロに奪われた。
 「ちょっ・・・ちょっと、神田!
 どういうつもり・・・?!」
 「まぁ、見てろよ」
 落ち着いて指した先ではリナリーが、自分を抱くソカロをキラキラと輝く目で見つめている。
 「ソカロげんすい!!
 でらたかいたかいして!!でらたかいたかい!!」
 興奮のあまり、超音波のように甲高くなった声に、ソカロが相好を崩した。
 「いいともv
 じゃーぁ、外に行くぜーぇ!」
 「きゃあああああああああああああああ!!!!」
 よほど嬉しいらしく、リナリーは大きな歓声をあげる。
 だがその声は、多くの団員が悲鳴と捉えた。
 「なっ・・・なに、今の声?!」
 驚いて食堂へ駆け込んだアレンは、テラスにいるソカロに抱えられた子供の姿に蒼褪める。
 「ジェッ・・・ジェリーさん、あの子は?!」
 「あぁ、リナリーが科学班で・・・どうしてかは知らないけどん、子供になっちゃったんですってぇ」
 ね?と、見遣った神田が頷く前に、リナリーを目で追うアレンが悲鳴をあげた。
 「リナリーが喰われちゃいますううううううう!!!!!!!」
 「・・・・・・は?」
 そんな馬鹿な、と、目を向けた先では・・・笑顔のつもりか、大口を開けたソカロがリナリーの小さな身体を持ち上げている。
 「アラ、ホント。
 今にもぱくりと行っちゃいそうね」
 「暢気に言ってる場合ですかっ!!!!」
 甲高い声をあげて、アレンがテラスへと駆け出した。
 「リナリー!!」
 「でら・・・」
 絶叫には、ソカロの謎の言葉が重なる。
 「たかいたかーぃv
 「?!」
 目にも止まらぬ速さで振り上げられたソカロの手に、リナリーの姿はなかった。
 「リナリー!!リナリー!!!!」
 大声で呼ばわるが、返事はない。
 「ソカロ元帥!!
 リナリーをどこへやったんですか!!!!」
 詰め寄ると、彼はにんまりと笑って空を指した。
 アレンもつられて見あげるが、しかし、そこには雲が広がるばかりでリナリーの姿などどこにもない。
 「元帥!!!!」
 「ピーピーうっせぇガキだなァ、オイ!」
 大きな肩をすくめたソカロは、再び空を指した。
 「心配しなくったって、しばらくすりゃア戻ってくるぜ」
 「しばらくって・・・!」
 目を吊り上げたアレンは、更にソカロへと詰め寄る。
 「あんな子供になにしたんですか、この肉食獣!!」
 「なにって、でらたかいたかいだろ」
 呪文のような言葉を聞いて、アレンは眉根を寄せた。
 「で・・・でら?」
 「でらたかいたかい」
 理解の遅いアレンにソカロは、呆れ口調で言う。
 「高い高いの、すっげぇ奴だ!」
 「でら・・・?」
 目を点にしたアレンににやりと笑い、ソカロは半歩退いた。
 「ついでに、着地の点数を決めるのも俺」
 「えいっv
 「がぁふっ!!」
 両足を揃えてきれいに着地したリナリーの下で、アレンが血反吐を吐いて倒れる。
 「げんすい、なんてん?リナリーなんてん?」
 キラキラと目を輝かせるリナリーに恐ろしく笑い、ソカロは常識的な高さで放り投げてやった。
 「100点だな!」
 「きゃあああああああああああvvvv
 軽やかに着地するや、歓声をあげてソカロに駆け寄ったリナリーが、彼の足に縋る。
 「もういっかい!
 もう一回でらたかいたかいして!!」
 「何度だってやってやるぜぇ〜♪」
 そうやって再び空の彼方へ消えゆくリナリーを目で追いながら、神田は軽く頷いた。
 「ジェリーと会う前の、山猿時代だな。
 でらたかいたかいはお前に禁止されたから」
 「あったりまえでしょ!!
 周りへの被害が大きすぎるのよんっ!!」
 血反吐を吐いて動かなくなったアレンを介抱しつつ、ジェリーが大声をあげる。
 「アレンちゃん!
 アレンちゃん、しっかりしてっ!
 今、医療班を呼ぶからねんっ!!」
 奇妙にねじれた身体を横たえたジェリーが一旦離れた瞬間、
 「100てーんv
 はしゃいだ声と共に、リナリーは再びアレンの上へ着地を決めた。
 「アレンちゃあああああああああああああああああん!!!!」
 ジェリーの絶叫に驚いたリナリーが、飛び上がってソカロの元へ駆けて行く。
 「げんすいー!」
 「おぉv
 上手だったぜぇv
 抱き上げたソカロに、首がもげそうな力でぐりぐりと頭を撫でられ、リナリーが目を回した。
 「ふぇ・・・」
 「おぉっと、悪ィな!
 このままもっかい行くか?」
 「やめなさいっ!!!!」
 とんでもないことを平然と言うソカロに、とうとうジェリーが怒声を上げる。
 「以前アタシ、言いましたわよね、ソカロ元帥!!
 リナリーが自分で着地地点を決められないような遊びはやめてくださいって!!」
 「ん〜?
 そうだっけなーぁ?」
 白々しくとぼけるソカロを、ジェリーがきつく睨んだ。
 「覚えてらっしゃらないならまた言いますわっ!
 でらたかいたかい禁止!!!!」
 「・・・ちっ」
 「えー!!!!」
 ソカロが不満げに舌打ちしてリナリーを下ろすと、彼女もまた不満の声をあげる。
 「やー!!!!
 もっとでらたかいたかいして!!げんすいー!!」
 ソカロの足に縋って泣き喚くリナリーを、背後からジェリーが抱き上げた。
 「いい加減にしなさいっ!
 アンタが踏み潰したから、アレンちゃんが大変なことになってるでしょ!!」
 怖い顔で叱りつけ、リナリーを神田へ渡したジェリーは、ピクリとも動かなくなったアレンを抱き起こす。
 「ホラッ!!
 ごめんなさいしなさいっ!!」
 叱られて、怯えたリナリーは、神田の胸に顔をうずめて首を振った。
 「コラッ!!」
 「いいじゃねぇか。
 ガキに踏まれて伸びるような、トロいモヤシが悪ィんだからよ」
 「アンタは甘やかすんじゃないのっ!!」
 「ふぁっ?!」
 耳元で響いた怒号に驚き、アレンが息を吹き返す。
 「なっ・・・なにが・・・?
 〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
 反射的に立ち上がろうとしたアレンは、全身の痛みに身体を折った。
 「アレンちゃんっ!!
 今、医療班が来るから動かないでっ!!」
 倒れ掛かってきた彼を抱きとめて、ジェリーが優しく背中を撫でる。
 「ジェリーさぁん・・・!」
 「あぁ、よしよし・・・!」
 ジェリーに泣き縋るアレンを肩越しに見て、頬を膨らませたリナリーは神田に頭を摺り寄せた。
 「リナリーも撫で撫でしてぇ!」
 「やなこった」
 非情な神田はきっぱりと言ってリナリーの襟首を掴み、ソカロへ差し出す。
 「ソカロ元帥・・・」
 「やー!
 あたまとれちゃう!」
 リナリーがぷるぷると首を振って暴れると、ソカロは不満げに口を尖らせた。
 「でらたかいたかいできなくなったら用済みかよ!」
 「うー・・・・・・」
 頭をもがれるのは嫌だが、彼の機嫌を損ねて遊んでもらえなくなっては困る、と、子供ながら考え込んでしまったリナリーに、ソカロは肩をすくめる。
 「オイ神田ァ!
 今日はお前がそいつのお守りすんだなァ!」
 「は?!
 元帥!!」
 押し付けようと思っていた本人に言われ、思惑のはずれた神田が目を吊り上げた。
 「しっかたねぇだろが!
 そいつァお前の方がいいらしいからよぉ」
 言われて見おろせば、さっきまで神田に襟首を掴まれていたリナリーが、いつの間にか彼の胸にしがみついている。
 それはまるで・・・
 「・・・有袋類の親子みたいさね」
 「っ!!」
 突然背後に現れたラビは一瞬後、神田の回し蹴りを受けて床に這った。
 「んなっ・・・なにすんさっ・・・・・・!!」
 血反吐を吐きながら抗議の声をあげると、神田は冷たく鼻を鳴らす。
 「俺の背後を取るんじゃねぇ!」
 「取られたのはあなたの油断でしょ!!!!」
 大声で怒鳴られた神田がびくりと震えた。
 「ババァ・・・!」
 「ババァって言うな!!
 まったくあんたって子は、毎日怪我人増産するんじゃないっ!!!!」
 神田を叱りつける婦長の背後では、アレンのために持って来られたストレッチャーにラビが乗せられている。
 「料理長、悪いけど、アレンを連れてきてくれるかしら」
 「え・・・えぇ、わかったわん!」
 アレンを軽々と抱き上げ、ストレッチャーを運ぶナース達について行くジェリーを、神田が物言いたげに見送った。
 「さて」
 冷え冷えとした声に、神田はびくりと婦長を見る。
 「リナリーのことは科学班から報告を受けています。
 あなたは責任を持ってリナリーのお守りをなさい」
 「なんで俺が!!
 他に適任がいるだろうが!!」
 と、辺りを見回すが既に、ソカロの姿はなかった。
 「にっ・・・逃げられた・・・!」
 「あぁ、それとね」
 呆然とする神田からリナリーをむしり取った婦長は、自分のカーディガンを脱いで彼女に着せかける。
 「部屋に行って、ちゃんとこの子の身体に合った服を着せなさい。
 女の子が服をはだけるなんて、みっともない」
 きちんとボタンを留めたカーディガンの袖を折って、小さな手が自由になるようにしてやると、婦長は改めて神田へ差し出した。
 「世話ならあんたの方が・・・・・・」
 この期に及んで潔くない神田に、婦長はちらりと笑う。
 「そうしたいのは山々だけど、この当時のリナリーは、西洋人を怖がっていたでしょう?
 ソカロ元帥にはなぜか懐いていたけど、クラウド元帥さえ避けていたものねぇ」
 はい、と、渡されたリナリーは、婦長の容姿と白衣に怯えてか、すっかり固まっていた。
 「その点、同じアジア人のあなたには懐いていたし」
 ほっと吐息し、神田に縋りつくリナリーに、彼は諦め切った吐息を漏らす。
 「・・・・・・わかった」
 不承不承言えば、婦長はにこりと笑って頷いた。
 「食事する時間くらいはあげるわよ」
 「当然だ」
 殊更憮然と言って、神田はリナリーを抱いたまま食堂へ戻る。
 が、
 「・・・ジェリーがいねぇ」
 肝心の料理長は、アレンを病棟へ運んで留守だった。
 「他の奴でも出来るのか?!」
 何を、とも言わない彼だが、誰もがその言わんとすることを理解している。
 「料理長が非番の時、誰が作ってやってると思ってんだよ」
 ムッとして言ったシェフは、カウンターに歩み寄ろうとして歩を止めた。
 「えーっと・・・あ!お前!オーダー取ってくれ!!」
 俺?と、不思議そうな顔で自分を指した中国人シェフに頷き、早く早くと急かす。
 「なんで俺?
 まぁいいけど。
 えーっと・・・神田は蕎麦でいいんだよな?小姐(お嬢ちゃん)は?」
 中国語なまりの英語で問うと、リナリーは嬉しげに頬を染めて『甜点心!(お菓子)』と、甲高い声をあげた。
 「オッケー。
 じゃあ、テーブルで待ってなよ」
 嬉しそうに足をばたつかせるリナリーを不思議に思った彼が同僚に問うと、彼を呼んだシェフは苦笑して肩をすくめる。
 「あの子、ここにさらわれて来たようなもんだったからな。
 昔は西洋人を怖がって、口を利いてくれなかったんだよ」
 「へぇー・・・」
 意外だ、と、呟きながら蒸篭を取り出した彼が見遣ったカウンターの向こうでは、暴れすぎたのか、神田にはたかれたリナリーが泣き声を上げていた。


 「黙って座れ!!」
 「ぎゃあああああああああああああん!!!!」
 神田と離れたくないのか、じたじたと暴れて座ろうとしないリナリーの泣き声に、神田はこめかみを引きつらせた。
 「いい加減にしねぇと、鴉小屋にぶちこむぞ!!」
 途端、黙り込んたリナリーが、椅子に座って俯く。
 「ったく、世話かけんじゃねぇっ!!」
 厳しく叱られたリナリーは、不満げに頬を膨らませてそっぽを向いた。
 泣いても暴れても思い通りにならない神田とはもう、口を利いてやらないつもりでいると、長い長い沈黙が訪れる。
 とはいえそれはリナリーの主観で、実際には2分もしないうちに彼女が痺れを切らした。
 「〜〜〜〜なんでおしゃべりしてくれないのっ!!」
 「はぁ?!」
 腕を掴まれた神田は、わけがわからず眉根を寄せる。
 「別に、話すことなんざねぇだろ!」
 「ねえさまはリナリーがきらいなのっ?!」
 「姉さま言うな!!」
 自分勝手に泣いたり暴れたり拗ねたりする生き物に苛立った神田は、食堂中を見回し、押し付ける相手はいないかと探したが、手ごろな人間は誰もいなかった。
 「・・・ジェリーが帰ってくるまで待つしかねぇな」
 思わず頭を抱えた神田の前に、蕎麦を乗せたトレイが置かれる。
 「料理長ならしばらく戻らないよ。
 お気に入りの坊やが思った以上に重症らしくて、今日のランチタイムは任せるって、副料理長に無線が入ってた」
 言いながら彼は、リナリーの前にも蒸篭を積み上げた。
 「熱いから気をつけろよ」
 頭を撫でて厨房へ帰る彼に頷いたリナリーは、キラキラと輝く目で湯気を立てる甜点心を見つめる。
 ややしてちょいちょいと、猫のように指先で触っては、それが持てるほどに冷めるのを待ち、またちょいちょいと指先で触ることを繰り返した。
 その様に思わず見入ってしまった神田は、はっとして箸を取る。
 「・・・・・・ったく、だからあいつはモヤシだってェんだ!
 鈍いし弱いし役にたたねぇし、邪魔ばっかりしやがって!」
 蕎麦つゆにたっぷりとわさびを溶きながら、神田はぶつぶつと文句をたれた。
 「・・・あ?
 そういや、あいつにいつもついてる犬っころはどうしたんだ?
 あいつがいるんだから、ジェリーは必要ねぇだろ」
 無線で呼び戻そうかと、箸を置いて回線を開いたが、今更その必要もないかと思い直す。
 「・・・ったく、犬っころまで役に立たねぇ!」
 憮然と吐き捨て、再び箸を取った神田の、蕎麦猪口を取ろうと伸ばした手が空を掴んだ。
 「・・・あ?」
 どこに置いたか、と、テーブルを見回した神田は、傍らのリナリーを見るや、ぎくりと動きを止める。
 小さな両手で蕎麦猪口を持った彼女の顔は、ぐしゃぐしゃに歪んでいた。
 「まさかお前・・・!」
 「ぴぎゃあああああああああああああああ!!!!いだいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!」
 鼻を押さえて泣き出したリナリーに、神田は思いっきり舌打ちする。
 「蕎麦つゆ飲むな馬鹿!!!!」
 たっぷりとわさびを溶いた蕎麦つゆは、小さな子供に対し、とてつもない攻撃力を発揮したようだ。
 大声で泣くリナリーの顔が、見る見る赤くなって行く。
 「こ・・・れは・・・病棟に連れてった方がいいのか・・・・・・?」
 誰にともなく聞いてみるが、その質問に答えられる人間はいなかった。
 「あぁもう!!!!」
 苛立たしげな声をあげてリナリーを抱えた神田が、猛ダッシュで病棟へ駆け込む。
 「急患だ!!」
 大声で言うと、緊急事態に慣れたナース達は機敏な動きでリナリーを受け取り、処置室へ運んでいった。
 「後は・・・」
 「あんたも来なさいっ!!」
 踵を返した途端、ナースに腕を掴まれ、逃げ損ねた神田が舌打ちする。
 「俺がいたって、どうしようもねぇだろ・・・」
 「そういう問題じゃないのよっ!」
 言い訳じみたことを言う神田を一喝し、処置室に連れ込んだナースは、余計なことに彼の逃亡未遂までも報告した。
 「あなたに任せるって、言ったでしょう!!」
 案の定、鬼のような形相の婦長に怒鳴られて、神田は気まずげに舌打ちする。
 「それで?!
 リナリーはどういう状況なの?!」
 見た所、外傷はないが酷く痛がって、説明の出来ないリナリーの代わりに神田へ問うと、彼は彼女が大量のわさびを溶かした蕎麦つゆを飲んだことを話した。
 「子供の手の届くところに危険物を置くなんて!!」
 「勝手に飲んだんじゃねぇか!!」
 「そんな言い訳が通じるか!
 何のための子守なの!!」
 反駁以上の大声で怒鳴り返されて、神田が声を失う。
 「・・・ともあれ、怪我じゃなくてよかったわ」
 ドクターの処置を見つめながら、婦長がほっと吐息した。
 「こんな姿になったってだけでも大変なのに、大怪我なんてしようものなら、室長がどれほど怒るかしら」
 「コムイ・・・」
 ふと瞬いて、神田は無線を入れる。
 「おい、リーバー!
 コムイの奴は、今日帰って来ンだよな?!」
 問うと、回線の向こうで頷く気配がした。
 『予定では来週までなんだが、あの人のことだ、今日は絶対戻ってくるだろ』
 リナリーの誕生日だし、と、苦笑混じりの声に神田が頷く。
 無線を切った神田は、婦長へ向かってにやりと笑った。
 「子守は俺より、兄貴の方がいいだろ?」
 「・・・そうね。
 リナリーが被害を受けた事実はあるにしても、室長だったら子守を放棄はしないでしょうね」
 棘を含んだ声には動じず、神田は再び頷く。
 「ところで、いつもモヤシにくっついてる犬っころは・・・」
 「リンク監査官なら、今日は定期報告で中央庁だそうよ。
 さっき、アレンの看病に呼び出そうとしたら、通信班が教えてくれたわ」
 でも、と、婦長は胸に下げた時計を見た。
 「もうすぐ帰ってくるはずよ。
 方舟を開く時間を指定してるって、科学班の担当者が教えてくれたから」
 情報通の婦長は、病棟にいながら団員達の行動を把握している。
 それは、食堂にいながら全団員の体調を知るジェリーととても似ていた。
 「好都合だぜ」
 呟いた神田は、ようやく泣き止んだリナリーの、赤くなった顔を見下ろして笑みを漏らす。
 「子猿みてぇだな」
 ムッと頬を膨らませたリナリーに笑い、歩み寄った神田が彼女の頭を乱暴に撫でた。
 「ふにゃ・・・!」
 目を回したリナリーの額を突くと、くたりと伸びる。
 「あなた何したの――――!!!!」
 「寝てりゃおとなしいだろ」
 絶叫する婦長にあっさりと言って、神田は踵を返した。
 「ラビはもう、起きてるか?」
 「お・・・起きてるけど・・・」
 リナリーの脈を取るドクターが、心配ないと頷くまで見つめていた婦長は、ほっとして神田に向き直る。
 「また大怪我させるんじゃないでしょうね?!」
 きっと睨むと、彼はあっさりと首を振った。
 「あいつがすんなり引き受ければ、痛い目に遭うことはねぇだろ」
 「それは脅迫って言うのよ!!」
 患者の安全を守ろうとする婦長に、神田は悪魔のような笑みを向ける。
 「リナリーが起きて、俺がいないとわかったらどうなるだろうな?」
 「・・・早く帰ってくるのよ」
 子供の安全のためにあっさりとラビを売り渡した婦長へ、神田は笑みを深めた。
 「了解した」
 ついでにラビの病室を聞き出し、向かったそこにはアレンと、彼を看病するジェリーもいる。
 「ちょうどいい」
 つかつかとまずはラビに歩み寄った神田は、こわばった顔の彼に何事か囁いた。
 「なぁに?
 悪巧み?」
 訝しげなジェリーには神田だけでなく、ラビまでもがにんまりと笑う。
 「悪くはねぇだろ」
 「すっごくいいコトさねv
 「・・・信じられないんだけどぉん」
 不安げなジェリーに見つめられながら、今度はアレンに歩み寄った神田は、ベッドで眠る彼の頭を思いっきりはたいた。
 「いだっ!!」
 「なにすんのっ!!」
 飛び起きたアレンと驚くジェリーに鼻を鳴らした神田は、アレンの襟首を掴んでベッドから引きずり出す。
 「いつまで寝てんだ、ノロモヤシ!
 とっとと動け!」
 「な・・・なにが?!
 なんで僕、こんな仕打ち・・・!」
 「ぎゃあぎゃあうるっせぇんだよ!
 詳しいことはウサギに聞け!」
 横暴以外のなにものでもない口調で命じた神田は、言いたいことだけ言って、さっさと踵を返した。
 「あれ?
 ユウはやらんの?」
 ラビが声をかけると、神田は肩越しに頷く。
 「俺がいねぇと、泣き喚くガキがいるんでな」
 軽く手を振って病室を出て行ってしまった神田を、アレンはジェリーに抱き起こされながら、唖然と見送った。


 「・・・・・・っなんなの、あの人?!
 僕を殴って引きずり出して、何も言わずに出てったよ!!
 新しいいじめ?!」
 未だ痛む腹を押さえ、苦しげにうめくアレンの背を、ジェリーが気遣わしげに撫でてやった。
 「本当に・・・なんだったのかしらねぇ?
 ラビ、アンタは聞いてンでしょぉ?」
 眉根を寄せて問うと、ラビはにやにやと笑って頷く。
 「ユウちゃん・・・リナのためって名目で、自分が解放されたいがためにコムイを連れ戻す計画実行しろってさ」
 「ンマァ・・・どうやって?」
 いけないこととはわかっているが、つい興味を引かれて問うと、ラビはクスクスと楽しげに笑った。
 「アレン、お前にもいいことさねv
 「僕?」
 口を尖らせたアレンは、不満げに眉根を寄せる。
 「こんなにひどい目に遭った僕に、どんないいことが?!」
 皮肉な口調で言ってやると、ラビはにんまりと笑ってアレンの額をつついた。
 「一日、自由の身v
 「なにそれ?」
 その魅力的な言葉に、アレンは目を輝かせる。
 と、ラビは病室の壁にかかった時計を指した。
 「ただいま12時35分。
 ローマはプラス1時間だから、1時35分さね。
 つまり、ちょうど昼飯の時間さ!」
 「・・・あぁ、あっちは昼食が遅いんだっけね」
 お腹すくんだよね、と、アレンはおいしそうな匂いを纏うジェリーに抱きつき、猫のようにすりすりと頭を摺り寄せる。
 「お前・・・姐さんに甘えてる暇ないぜ?
 あっちが昼休みってことは、午前中の会議やなんやが終わったってコトさ!
 リンクの帰還を防止するんは今しかないんさね!!」
 「へ?!防止?!」
 なにそれ、と、アレンはこぶしを握るラビに目を丸くした。
 「さっきユウに言われたんさ。
 リンクが帰還用に、中央庁とこっちを結ぶ時間を指定してっから、代わりにコムイが帰って来れるようにしろって」
 「・・・・・・・・・コムイさん・・・か・・・・・・」
 アレンが、乾ききった声で呟く。
 それはまさに、前門の虎後門の狼と言うべき状況だった。
 リンクと言う敵を排除する代わりに、コムイという最大の敵を呼び込むのでは、アレンにいいことなどひとつもない。
 「・・・・・・なんか他にいいことないの?」
 防衛本能の表れか、またジェリーに擦り寄っていくアレンにラビは苦笑した。
 「お前が嫌なら寝てていいぜ?
 その代わり、なーんの役にも立たなかったってのは、リナに言うけどーv
 「・・・・・・・・・ふんっ」
 長い逡巡ののち、アレンはよろよろと立ち上がる。
 「アレンちゃんっ?!」
 慌てて止めようとするジェリーに首を振り、アレンはぽてぽてとラビに歩み寄った。
 「・・・・・・なにすればいいんだよ」
 ふてくされた口調に笑い出したラビは、両手でアレンの膨らんだ頬を潰す。
 「リンクが帰って来る扉を、閉じちまえv
 あっさりと放たれた爆弾発言は、覚悟していたアレンでさえも、一瞬心臓が止まった。


 「―――― それでは室長、昼食後のスケジュールを申し上げます」
 凛、とよく通る声が、コムイの耳を貫いた。
 整理された情報を読み上げる声は数学のように論理的で、本来の彼なら聞いているだけで心地よくなったことだろうが、その内容がこれからやらなければならない仕事のスケジュールだと気づいた途端、全ての気力と体力が殺がれる。
 「あの・・・あの、ミス・フェイ・・・・・・」
 ぐったりとテーブルに突っ伏し、か細い声をあげたコムイを、ブリジットの氷の目が貫いた。
 「なんでしょうか、室長」
 「あの・・・もうちょっとですね、時間に余裕を持って立てようと思わないかな、スケジュール・・・。
 1分刻みで次々やらされてもですね、ボク、身体はひとつしかないわけでして・・・・・・」
 「この程度の情報量は処理できる方だと、評価しておりますわ」
 きっぱりと言った彼女を、コムイは弱々しい上目遣いで見上げる。
 「それは嬉しいのだけど・・・体力の限界は、情報処理能力の限界にも通じるわけでして・・・・・・」
 「つまり、休憩なさりたいとおっしゃるの?」
 結論を急ぐ彼女にコムイは、うなだれるように頷いた。
 「昼休みはちゃんと差し上げますわ。
 ですから今のうちに、その後のスケジュールの説明を」
 「う・・・はい・・・・・・」
 観念したコムイに頷き、ブリジットは中断された説明を続ける。
 その様を、こっそりと見つめる目があった。
 「姫はっけーんv
 「・・・・・・コムイさんが姫なの?」
 ラビの言葉に、アレンはうそ寒げな顔をする。
 「その方がテンションあがんね?」
 「ちっとも」
 ぷんっと膨らませた頬は、またラビに潰された。
 「なんだよっ!」
 「ホラ、補佐官の話がそろそろ終わりそうさ」
 ラビが指した先で、ブリジットが分厚いファイルを閉じる。
 「この期に及んでまさかとは思いますが!
 逃げたら承知しませんわよ!!」
 「はい・・・・・・」
 死にそうな声で呟いたコムイに鼻を鳴らしたブリジットは、尖ったヒールでくるりと踵を返し、威圧的な靴音を響かせながら出て行った。
 「うう・・・・・・食欲ないぃー・・・・・・」
 一人残され、テーブルに突っ伏してぼやくコムイの背を、誰かがつつく。
 「はい?!」
 ブリジットか、と、強張った顔をあげるとラビが、にんまりと笑っていた。
 「あれ?
 なんでラビ・・・アレン君も」
 ラビと、彼の背後で憮然としているアレンにコムイが目を丸くする。
 「助けに来たさーv
 「え・・・でも、ボク・・・・・・」
 腕を取るラビに、コムイは困惑げな目を向けた。
 「・・・・・・さすがにここで逃げたら・・・殺されるヨ・・・」
 ついさっきまでここにあった、ブリジットの鬼の形相を思い出し、コムイはぶるっと震える。
 「そう・・・ですよね!
 じゃあやっぱり、残った方がいいんじゃないかなぁ・・・」
 ちろりと期待を込めて見たラビは、しかし、あっさりと首を振った。
 「お前が帰ってこんと、リナリーが暴れて大変なんさ!
 城が破壊される前に連れて帰れって、ユウちゃんの命令さね!」
 事実をより大げさに語るラビに、アレンがこっそり舌打ちする。
 「でも・・・・・・」
 内心激しく葛藤しつつ、コムイは壁の時計を見つめた。
 「お昼休みが終わったらボク・・・」
 「午後のスケジュールは聞いたさ!」
 ブリジットの話した内容は既に、盗み聞きしていたラビの頭にも入っている。
 「次の予定は3時から。
 これは、のんきな枢機卿達がシエスタするからだろ?」
 「うん・・・。
 いいよねー、お昼ご飯の後はお昼寝とかさー。
 教団でも取り入れたいけど、リーバー君が許してくれなさそうだよねー・・・・・・」
 忌々しげにぼやくコムイに、ラビがずいっと迫った。
 「そりゃそうさ、昼食後の昼寝は仕事の効率をよくする、なんつってるけど、そりゃ適度な睡眠時間って前提じゃん。
 ここの連中みたいに、ハンパに長い時間じゃあ、その後の会議なんて、昼寝の続きの居眠り時間さね。
 フケても問題ねーだろ♪」
 あっさりと言うラビに、さすがのコムイが唖然とする。
 「・・・・・・でもボク、ここじゃ一番の下っ端で・・・」
 「代わりの人形でも置いときゃ、誰も気づかんさ。
 ヘイッ!アレンー!」
 「はいはい・・・」
 気乗りしない顔でアレンが引きずってきたのは、サンタクロースが持つような大きな袋だった。
 「何が入ってんの?」
 興味を引かれて問うと、アレンは無言で袋を抜き取る。
 「リ・・・リンク監査官・・・・・・」
 一体何をしたのか、見事に目を回したリンクが床に転がった。
 「ど・・・どうしたの、コレ?!」
 「中央庁の方舟の間にいたのを拉致監禁」
 声を揃えた二人に、コムイが顔を引きつらせる。
 「・・・・・・何やってんだよ」
 乾いた声をあげるコムイの腕を、ラビが笑って掴んだ。
 「寝ぼけたおっさん達の話なんて、こいつに任せときゃ大丈夫だってv
 「そうそう、ブリジットさんもいますし、コムイさんが一緒になって寝ているよりは、建設的な会議になるんじゃないですか?」
 どこかやさぐれた口調のアレンには苦笑し、席を立ったコムイは代わりに目を回したリンクを座らせる。
 「後はヨロシクーv
 軽やかな足取りで部屋を出て行こうとしたコムイは、しかし、二人に止められた。
 「・・・なんだよぉ」
 「このまま出てったらバレバレさ!」
 「隠れてください。僕達で運びますから」
 そう言って二人は、リンクを入れてきた袋を指す。
 「ど・・・どうしても・・・・・・?」
 何かの冗談だろうと、期待を込めて問うた彼に二人は、あっさりと頷いた。


 「転がるな!ちゃんと足を組め!」
 訓練場の一画で座禅を組む神田は、隣でころころと転がるリナリーを怒鳴りつけた。
 「だ・・・だってぇ・・・・・・」
 膝に足を乗せようとしたところでまた転がってしまい、リナリーは諦めて寝転ぶ。
 「できないー・・・」
 「・・・俺の膝に頭のせるな」
 そうは言いながら、落とそうとはしない彼に気を良くして、リナリーはそのまま目をつぶった。
 「くー・・・」
 「寝るな!!」
 怒鳴っても、既に寝てしまったらしいリナリーは起きる様子もなく、神田は仕方なくそのまま座禅を続ける。
 と、膝の上でぴくりと、リナリーが身じろぎした。
 「どうした?」
 問う間に飛び起きたリナリーは、神田の背に隠れる。
 「おい・・・」
 「ユウ、見ーっけ!!!!」
 「・・・あんた人に用事頼んどいて、姿くらますのやめてくださいよ」
 騒がしいラビと不満顔のアレンが歩み寄ってくると、背後のリナリーが、神田の服を掴んで震えだした。
 「リナ?
 なんで隠れてんさ?」
 かくれんぼか、と、のんきに差し出したラビの手から、リナリーが必死に逃げる。
 「えー・・・?」
 「お前の赤毛が嫌なんだろ」
 吐息して立ち上がった神田は、リナリーを抱き上げて軽く背中を叩いてやった。
 「安心しろ。
 こんなヘタレ、17のお前なら簡単に倒せる」
 「・・・・・・・・・否定はしませんけどね」
 改めて言うことだろうかと、顔を引きつらせるラビをアレンが押しのける。
 「じゃあ、僕は?
 赤毛じゃな・・・」
 「や――――――――!!!!」
 思いっきり拒否した挙句、神田に抱きついて泣くリナリーの前で、アレンが笑顔のまま硬直した。
 「・・・西洋人全般嫌いなんだって、気づけ」
 心底馬鹿にした神田の口調に、アレンは辛うじて息を吹き返す。
 「・・・ヘタレじゃないだけマシか」
 「聞こえてますけどね、アレンさんっ?!」
 ラビの抗議の声は無視して、アレンは背後の袋を指した。
 「ご要望の品です。
 飾りつけはこっちでやっておきました」
 見れば、サンタクロースが持つような大きな袋には、派手なリボンが掛けてある。
 「ふん。
 きっちり仕事はしたようだな」
 そう言っただけで、労いもない神田にはムッとしつつも、諦観のこもった顔でアレンは肩をすくめた。
 「リナリーが気に入ってくれるといいんですけどね」
 「それは・・・どうだろうな」
 にやりと笑って、神田は袋の前にリナリーを降ろす。
 「開けろよ」
 「・・・・・・なに?」
 自分の身体よりも大きな袋を見上げ、不安げなリナリーの頭を神田が撫でた。
 「いいものだ」
 そう言って言葉を切った神田は、ムッと眉根を寄せる。
 「誕生日おめでとう」
 「・・・なんでそういう顔で言うわけ?」
 「照れてんだろ」
 神田を不思議そうに見上げるリナリーの背後で、アレンは彼そっくりに眉根を寄せ、ラビは苦笑した。
 「さぁさ、早く開けてさーv
 「何してんだよ・・・!」
 神田の背後から彼の手を取り、ひらひらと振って袋を指すラビに、剣呑な声が上がる。
 「いいじゃん、俺らの容姿が怖いっつーんだから。
 二人羽織ー★」
 イェイ!と、調子に乗って万歳させた瞬間、神田の踵がラビの足を踏みにじった。
 うずくまってうめくラビを気にしながらも、神田に『行け』と示されて、背伸びしたリナリーは袋のリボンに手を掛ける。
 「んっしょ!」
 一気に引くと、リボンが解けて中から・・・
 「よーぉv  仔猫ちゃぁーんv
 「んなっ?!」
 「はっ?!」
 「ひっ・・・!」
 「げんすいーvvvv
 突如現れたソカロの姿に声もない三人とは逆に、リナリーが歓声をあげた。
 「でらたかいたかいしてくれるの?!でらたかいたかい!!!」
 甲高い声をあげてソカロに抱きつくリナリーの姿に、アレンはがっくりと肩を落とす。
 「なんでアレが平気で僕はダメなんですか・・・?」
 何がいけないんだろうと、寄り添った壁に渦巻きを描いた。
 「アレン、壁えぐれてる!えぐれてるさ!!」
 ラビが止めなければ向こう側まで貫通しただろう渦巻きに頬を寄せ、横目で見遣った先では『でらたかいたかい』を禁止されたソカロが、3階分の高さを吹き抜けにした訓練場の天井近くまでリナリーを投げては受け止める、『ちょいでらたかいたかい』で遊んでいる。
 「・・・・・・あれ?
 そういえばコムイさんは?」
 「・・・・・・・・・あれ?」
 「お前ら仕事はきっちりやれよ!!!!」
 顔を見合わせた二人は、鬼上司のような神田に怒鳴られて、亀のように首をすくめた。


 「ったく、どこで摩り替えられたんさー!」
 神田の命令でコムイを探しに出たラビが、忌々しげにぼやいた。
 「ソカロ元帥も、意地悪しないで教えてくれればいいのに・・・!」
 ラビの隣を走りながら、アレンも小さな声で愚痴る。
 しかし当然、リナリーと遊んでいたいソカロが、コムイの隠し場所を教えてくれるわけがなかった。
 「・・・でらたかいたかいは無理でも、ちょいでらくらいなら僕にだってできるのに、なんでリナリーはソカロ元帥の方がいいんだろ。
 僕の方がかっこいいし可愛いし優しいし・・・」
 「滲み出る邪悪さを見抜かれたんさ、きっと」
 子供だから、と、ラビはぼやくアレンのハートをぐっさりと刺し貫く。
 「ホラ!今はそんなことブツクサ言ってねぇで、コムイ探すさね!」
 そう言ってラビは、アレンが中央庁への『扉』を開いた空き部屋のドアを開けた。
 「ここでリボン結んだんだから、代わるとしたらここだよねぇ・・・」
 きっと、彼らが一旦ここにコムイを置いて、リボンやハサミを取りに行った隙に入れ替わったのだろうと、二人の考えは一致している。
 「部屋の中に隠されてればいいけど・・・」
 呟きながらアレンが見回した空き部屋には、とても人が隠れられそうにない大きさの箱が積み重ねてあるだけで、その裏を見てもコムイはおろか、猫一匹見当たらなかった。
 「・・・お前、中央庁からコムイの入った袋抱えて来たんだろ?
 なんで、ソカロ元帥と入れ替わったことに気づかなかったんさ!
 全然体重がちげーだろ!」
 苛立たしげに当たり始めたラビを、アレンはムッと睨む。
 「ラビだって、イノセンスはどんなに巨大化しても、重さを感じないっつったじゃん!
 僕だって、発動した左手で持った物の重さなんて、ほとんど感じないもん!
 感覚で数mg程度の違いはあるかもだけど、そんなの僕にはわかんないよ!」
 憤然と言って部屋を出て行こうとするアレンを、ラビが呼び止めた。
 「捜査放棄さ?!」
 「違うよっ!
 この部屋にいないんだから、近くの部屋に放り込まれてんじゃないかって思ったんだ!」
 「ここらの部屋全部、鍵閉まってるだろ」
 あっさりと言われて、アレンは眉間にしわを寄せた顔で振り返る。
 「じゃあどこだってんだよ!」
 イライラと問えば、ラビは壁に寄って、そこに走る亀裂をなぞった。
 「俺がこの部屋に入った時、こんなひびはなかったさね」
 超人的な記憶力を誇るラビは、そう断言して肩越しにアレンを見やる。
 「アレン、押してみ」
 「はぁ?!」
 「いいから!」
 反抗的なアレンの手を取り、壁際に引き寄せたラビは、亀裂がきれいな方形に走っている様を見せた。
 「な?
 これ、元帥の神狂いの痕だろ?」
 「・・・・・・あんな凶悪面のクセに、なんでこんな繊細な仕事するんでしょうね、あのひと」
 乾いた声で言ったアレンは、発動した左手でゆっくりと壁を押す。
 と、それはずりずりと沈んで隣室と繋がった。
 するとそこには、目を回したコムイが大の字になって伸びている。
 「おー・・・姫発見さ」
 「・・・・・・見つけちゃった」
 嬉しげなラビに反し、どこか忌々しげなアレンがため息をついた。
 「・・・まぁいいや。
 これで任務完了間近だね」
 憮然とした口調で言いつつ、アレンは白目を剥くコムイを改めて袋に詰める。
 「おいおい、なんでそんなに拗ねてんさ、お前?」
 いつまでも機嫌の悪いアレンを不思議に思って問うと、彼は袋の口をリボンで飾りながら、頬を膨らませた。
 「・・・せっかくのお誕生日なんだから、一緒にお茶でもして、あわよくばラブラブしたかったのに、他ならぬリナリーに攻撃されて神田なんかに取られてソカロ元帥なんかに奪われるなんて、悲しいったらありゃしない。
 その上、連れて行けば確実にナンバーワンを持ってくコムイさんを救出するなんて・・・僕は一体、何のために存在するんだろう。
 こんなことなら今日一日、ノアいじめでもして遊んでいたかった・・・」
 言葉の端々に黒さを滲ませるアレンに、ラビが苦笑する。
 「まぁ、それもリナが元に戻るまでのことさv
 戻った後に、お前ががんばったこと、アピールすりゃいいじゃん♪」
 「・・・・・・・・・そうだね」
 その言葉にやや機嫌の直ったアレンが、頷いて袋を抱えた。
 「じゃ、お姫様にプレゼントをお届けするかなー」
 「そうしてください★」
 ようやく笑みを見せたアレンに、ラビも笑って彼の頭を撫でる。
 ―――― 彼らの背後で、袋が怪しく蠢いたことには気づかずに、二人はのんきに談笑しながら訓練場へと戻っていった。


 「リナリー、今度こそプレゼントさ!」
 「・・・本物の」
 ラビとアレンがじっとりと睨んだ先で、ソカロは不満げに舌打ちする。
 「あっさり見つかったもんだなぁ、オイ!」
 うまく隠したと思ったのに、ラビの記憶力は彼の予想を超えていた。
 「今度は確実だろうな?!」」
 苛立たしげな神田にムッとして、アレンが頷く。
 「すりかえられないよう、気をつけましたんで」
 またじっとりと睨まれたソカロは、白々しくそっぽを向いた。
 「よし、じゃあリナリー。
 開けていいぞ」
 「うん!」
 わくわくと袋を見つめていたリナリーは、今度はどんないいことが起こるのかと、期待に胸を膨らませてリボンを引く。
 彼女の背後でも、アレン達が緊張に満ちた目で見つめる中、リボンが解けてコムイが転がり出た。
 「にいさん!!!!」
 リナリーが歓声をあげると、アレンとラビは、肺が空になるほどに大きなため息をつく。
 「よかったさ・・・!
 今度はティエのおっさんが出てくるかと・・・!」
 「クラウド元帥が『イリュージョン!』なんて出てきたら僕、どうしようかと思ってました・・・・・・」
 「元帥達はマジシャンか」
 馬鹿にしきった口調で言った神田も、内心はほっとしていた。
 再びリナリーに目をやると、小さな手で一所懸命にコムイをゆすっている。
 「にいさん!
 おめめさましてー!」
 何度も呼びかけるうちに、薄く開いたコムイの目が、真ん丸くなった。
 「にいさんv
 「リナリー?!
 ちっちゃい!!!!」
 子供になったことは聞かされてなかったコムイが、小さなリナリーを軽々と抱き上げる。
 「うっわ可愛い!!可愛い!!
 でも誰がこんなことしたの?!」
 大声をあげると、神田が『自業自得』と答えた。
 「自分でやっちゃったなんて、おてんばさんv
 「きゃーvv
 頬を摺り寄せられて、リナリーがはしゃいだ声をあげる。
 「・・・・・・愛は盲目」
 何をやっても許されるリナリーに、今は思うさま嫌われているアレンがむなしい声をあげた。
 「・・・・・・西洋人でも、リナリーに好かれる方法を教えてください」
 とうとう反感のくじけたアレンがソカロの袖を引くと、彼はアレンの頭をもぎ落とさんばかりの力で撫でる。
 「ふが・・・!」
 「そのくらい、自分で考えな、クロスの弟子が!!」
 その呼称がなんだかひどい悪口のような気がして、アレンはラビの背に縋ってしくしくと泣き出した。


 ――――・・・数日後。
 「・・・今年のお誕生日のこと、全く覚えてないなんて!」
 元の姿に戻ったリナリーは、いつの間にか2月20日が過ぎていたことに愕然とした。
 「ラビ達が子供になった時は、ちゃんと記憶あったんでしょ?
 なんで私は覚えてないんだろ・・・・・・」
 むぅ、と、眉根を寄せて問うと、テーブルの向かいでファイルをめくっていたラビが、笑って首を振る。
 「科学班にも、どういう薬剤の組合せで記憶が退行しちまったのか、わかんねってさ。
 ショック状態だったんかもしれんけど。
 ユウは心当たりないんさ?」
 隣に座る神田に問えば、彼もふるりと首を振った。
 「イノセンス発動して、自分から得意げに蹴り入れてたんだからな。
 ショック状態なんざおこがましいぜ」
 その嫌味な言い方に、リナリーが口を尖らせる。
 「元はといえば、神田がいじめるからじゃないか!」
 「そもそも、お前のワガママが激しかったからだろ!」
 「まぁまぁ、二人とも」
 目を吊り上げて喚きあう二人の間に、ラビが閉じたファイルを挟んだ。
 「原因究明は、科学班が暇を見つけてやるっつってるし、のんきに結果を待とうじゃないさ」
 「・・・なんだこれ?」
 「次の任務?」
 それにしては、教団の黒いファイルではなく、装丁もアルバムのようだと不思議そうな二人に、ラビはにんまりと笑う。
 「ちっさいリナのログv
 そう言ってラビがページをめくると、幾枚もの写真が丁寧に貼り付けてあった。
 「う・・・わぁ・・・・・・」
 小さな自分に唖然とするリナリーの額を、ラビが軽くつつく。
 「言っとくけど、盗撮じゃねーさ。
 お前も嬉しそーにポーズ決めてんだろ」
 「そ・・・だね・・・。
 全然覚えてないけど・・・・・・」
 コムイや神田、ソカロと一緒に写っている自分は、とても楽しそうだった。
 しかし、
 「大変だったぜ、全く・・・。
 ワガママ怪獣の世話なんて、もう二度としねぇからな!」
 憮然として、次々と幼いリナリーの悪行を並べ立てた神田に、リナリーは不思議そうな顔をする。
 「そんなことしないよ。
 リナリー、昔っからいい子だもん」
 ね?と、ラビを見遣るが、彼だけでなく、その言葉に賛同する者はもはや、この教団内には誰もいなかった。
 「えー・・・・・・」
 気まずげに目を泳がせたリナリーは、唯一味方になってくれそうなアレンの姿を食堂に探す。
 だが珍しいことに、彼も彼についている監査官の姿も、昼食時のここにはなかった。
 「アレン君は任務?」
 聞くと、ラビだけでなく神田までもが、気まずげに目を泳がせる。
 「・・・・・・どうかした?」
 甚だ悪い予感を覚えて問えば、二人は曖昧に頷いた。
 「その・・・余計なことを言っちまったのを、一番まずい奴に聞かれたって言うか・・・・・・」
 「・・・お前以上に自業自得だな」
 ラビはともかく、神田の声にまで明らかな憐憫の色が混じっていることに気づいて、リナリーが目を見開く。
 「何があったんだよ・・・・・・」
 唖然としたリナリーの問いには、二人とも首を振って答えてはくれなかった。
 アレンがここにいない理由・・・。
 コムイが目を覚ましているとも知らず、うかつにも『あわよくばラブラブしたかった』などと言ってしまったアレンは、彼のもう一つの望みを叶えるべく手配したコムイによって、ノアの調査及び探索へと追いやられていた。




Fin.


 










2011年リナリーお誕生日SSでした!
これはリクエストNo.59『神田と仔リナで擬似親子』を使わせてもらってますv
ニコさんお待たせ(笑)
以前もらったネタ、総出演です(笑)
無駄にソカロ元帥が絡んでいるのは、こないだの春節ネタをもらった時に使わなかったものを使いました!
『でらたかいたかい』は07-GHOSTネタです(笑)
世は年度末の2月に、本当に年度末のSS、お楽しみいただけたら幸いですv












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