† 宴の始末 †






 「大哥・・・大哥・・・朝だよ、起きて」
 凄まじく散らかった執務室の、大きな机に突っ伏して寝ているコムイの肩を、優しく揺すって、リナリーが耳元に囁きかける。
 と、
 「小妹・・・請小時・・・・・・」
 重要書類に埋もれたコムイが、寝ぼけた声を上げる。
 他者の声であったら、『リナリーが結婚するぞ』と言わない限り、決して目を覚まさない彼だが、愛しい妹の声となれば別だ。
 その上、物心つかないうちに国を出たリナリーの母国語は幼く、小鳥の囀りのような可憐さがある。
 これで起きない男がいたら、むしろ、お目にかかりたいくらいだ。
 「ダメよ、早く起きて、兄さん」
 再び、耳元に囁かれた声に、コムイはのろのろと顔を上げた。
 「おはよ」
 そう言って、リナリーがにっこりと微笑むと、コムイはどんなに濃いコーヒーを飲んだ時よりも顕著に覚醒する。
 「おはよぉーリナリィー」
 幸せそうに蕩けた顔で、コムイがリナリーを抱き寄せた。
 「今日はリナリーに起してもらったから、一日中シアワセだよ、ボクは」
 他人が聞いたら、全身を粟立てて砂を吐くだろう台詞を恥ずかしげもなく吐くコムイの背に腕を回し、リナリーは兄をなだめるように軽く叩く。
 「兄さん、一緒に食堂に行きましょ」
 「うんっ!」
 彼の執務机の上には、決済待ちの書類が山と詰まれてあったが、コムイは全く顧みることなく、満面に笑みを浮かべて即答した。
 この日はなぜか、部屋中を幽鬼のように漂っているスタッフの影もなく、コムイは誰に阻まれることもなく、リナリーと共に食堂へ向かったのだった。


 コムイが覚醒する直前、教団本部内の食堂は賑々しく飾り立てられ、部屋の中心に据えられた大テーブルには、ジェリー特製の、巨大なケーキが置かれた。
 エクソシストとは言え、若いアレン達は、大人達から次々に渡される料理や飲み物を持って、厨房とテーブルとを、何往復もさせられる。
 そうやって、ようやく準備の整った部屋に、リナリーに連れられたコムイが現れた。
 「おっはよー・・・って、あれ?みんな揃って、どうしたんだい?」
 コムイを見る人々の顔が、みな、一様ににやけている。
 その中から一人、リーバーが進み出て、コムイとリナリーに、シャンパンの注がれたグラスを渡した。
 「リーバーくん?どうしたの、コレ?」
 不思議そうに、金色の液体を掲げ見るコムイに、リーバーが意地の悪い笑みを深める。
 「みんな、グラスは行き渡ったか?!」
 彼の声に、食堂に集まった人々の口から陽気な声が上がった。
 「では!我らが尊敬する、コムイ・リー室長の三十路突入を祝って!!」
 「げっ!!」
 「乾っっっっ杯――――っっっ!!!」
 心底嫌な顔をしたコムイに、メンバーの顔はより晴れ晴れと笑み輝き、リーバーの乾杯の音頭に唱和して、クラッカーまでもが鳴り響いた。
 「ボッ・・・ボクはまだ、20代だよ!!」
 三十路じゃないもんっ!!と、絶叫するコムイに、特に、科学班メンバー達が、嬉しそうな声を上げて笑う。
 「往生際が悪いですよ、しつちょーぅ?」
 「そうそう!ようこそ、三十路ワールドへ!!」
 「これであんたも、立派なおじさんです!!」
 既に三十路を越えたメンバー達が、あくまで抵抗しようとするコムイを囲んで、意地の悪い、それでいて、嬉しそうな笑声を高らかに上げた。
 「お・・・おじさんじゃないもん!!おじさんじゃないよね、リナリー?!」
 祝い事の主賓、と言うよりはむしろ、刑場に連行される咎人のような顔で泣き叫びながら、コムイがリナリーに縋る。
 「うん。兄さんは兄さんよ」
 「でも、傍から見ればおじさんさ〜〜〜♪」
 リナリーの言葉を全否定したラビが、グラスを掲げて陽気に歌った。
 と、
 「・・・・・・もう、ラビの支援なんかするもんか」
 暗い目を光らせて、コムイがぼそりと呟く。
 「・・・大怪我しても、武器が大破しても、もう、絶対助けてやらない」
 そして、最も危険な任地に送り込んでやる、と、ねちねちと呟くコムイに、ラビが深々とこうべを垂れた。
 「ゴメンナサイ、コムイ室長!」
 「平伏」
 「へへぇー!!!」
 言われるがまま、床に膝を付くラビを見下ろして、コムイは満足そうに頷く。
 「室長様、お注ぎさせていただきます」
 「うむ、くるしゅうない」
 膝行(しっこう)してワインボトルを傾けるラビに、コムイはグラスを差し出して赤い液体を受けた。
 「怖・・・・・・」
 やや離れた所で、その様子を伺っていたアレンは、笑みを凍らせて立ちすくんでいる。
 と、何事もなかったように立ち上がったラビが、てけてけとアレンに向かってきた。
 「コラコラ!未成年はジュースだからね!ラビ!!ワインを注がない!!」
 しれっと、ワインボトルを持ってきたラビに、コムイの鋭い声が飛ぶ。
 しかし、ラビは飄々と笑って、手にしたグラスにワインを注いだ。
 「18歳はもう大人さ♪なぁ、ユウ?」
 言いつつ、アレンの背後にいた神田にボトルを差し出すと、彼も平然とグラスを差し出す。
 「コラ!お酒は二十歳になってから!成人もしていないガキンチョが飲んじゃダメだろう!」
 更に言い募るコムイをちらりと見遣って、神田は鼻を鳴らした。
 「日本じゃ、武士の子は15歳で成人だ」
 「なんと!それじゃあ、アレンも大人さ♪さぁ、飲め飲め!」
 調子に乗って、ラビがアレンのグラスにもボトルを傾ける。
 が、
 「だっ・・・ダメです!僕、下戸なんで、飲んだら大変なんです!!」
 アレンはバタバタと手を振りながら、慌てて自分のグラスを背に隠した。
 「下戸?」
 「欧州人のくせに、下戸ぉ〜〜?」
 思いっきり不審げな顔をして、問い返した神田とラビに、アレンは何度も頷く。
 「とにかく僕、お酒に弱いんですよ。
 前に師匠に無理やり飲まされた時は、記憶がなくなっちゃって、大変だったんです」
 その時の事を思い出したのか、深く吐息するアレンに、ラビが、にやぁりと笑みを浮かべた。
 「そりゃー大変さ・・・。じゃあ、アレン君にはジュースだなー♪」
 言いつつ、踵を返して飲み物の置かれたテーブルに走って行ったラビの肩が、笑いを堪えかねて、小刻みに震えている。
 ―――― なんか企んでやがる・・・。
 挙動不審なラビを目で追いつつ、神田は呆れたように息をついた。
 ラビとはもう、長い付き合いだ。彼が何をするかも、大体想像がついていた。
 が、あえて何も言わず、神田はアレンに視線を戻す。
 「記憶がねぇって、飲んだ時のことは、何も覚えてねぇのか?」
 「はい。よっぽどきついお酒だったみたいで、飲んだ途端に倒れちゃったらしいんですよね」
 「ふぅん・・・。じゃあ、お子様のアレンにはオレンジジュースだな!ホレ」
 親切を装って、グラスを渡したラビの目が、期待に満ちて輝いている。
 が、それに気づかないのか、アレンはなんの疑問も持たずにグラスを受け取った。
 「あ、ありがとう、ラビ」
 嬉しそうに笑うアレンを横目に見ながら、神田は、一所懸命笑いを堪えているラビに小声で囁く。
 「お前、モヤシに何をやったんだ?」
 「アレ?超高濃度スクリュードライバー♪
 オレンジジュースに、ほぼ同量のウォッカを入れてみました!ユウも飲む?」
 クスクスと笑声を漏らすラビに、神田は首を振った。
 「お前が作ったカクテルなんざ、危なくて飲めるか」
 「ふくくくく・・・っ!!アレン、飲んだらどうなるんだろうな?!早くのまねぇかなぁ・・・・・・!」
 ヒソヒソと囁き交わしながら、ちらちらとアレンの様子を伺うが、彼はグラスを持ったまま、まだ口をつけようとしない。
 「・・・しかし、子供に酒を飲ませるなんて、相変わらず無茶するね、あの破戒僧は。急性アルコール中毒は危険なんだよ」
 お前の方がよっぽど危険だ、と、突っ込まれてもしょうがないコムイが、眉を寄せて言った言葉に、アレンは苦笑する。
 「でもその時以来、師匠はお酒を飲ませようとはしませんでしたよ」
 「へぇ・・・。あいつでも反省することがあるなんて、意外だね」
 アレンの言葉に、コムイは、本当に意外そうに目を見開いた。
 「反省かどうかは・・・」
 そう言って、乾いた笑声を上げるアレンに、コムイも深く頷く。
 「何かあったとしか思えないね。
 アレン君、本当に何も覚えてないのかい?」
 クロスの身に何か不幸なことが起きたのではないかと、期待に満ちた目を向けるコムイに、『そう言えば・・・』と、アレンは、オレンジ色のグラスに視線を落とした。
 「僕が起きた時、部屋が木っ端微塵に破壊されてて、師匠が血の海の中に倒れていたのにはびっくりしました」
 「・・・・・・は?!」
 コムイだけでなく、ラビと、神田までもが、目を点にして唱和する。
 「僕が寝ている間に、アクマの襲撃でもあったのかと思ったんですけど、師匠は絶対に理由を言わないし・・・」
 ――――・・・まさか・・・・・・!
 神田がラビを見遣ると、彼も同じことを思ったのか、蒼ざめた額に汗を浮かべていた。
 「そう言えば、それからしばらく、師匠が僕をいじめなくなりましたねぇ」
 まぁ、ほんの一時期ですけど、と言って笑ったアレンが、グラスを口に運ぶ・・・。
 「あっ・・・アレン・・・!!」
 ラビが、駆け寄ったが間に合わなかった。
 ―――― ごっくん。
 ・・・アレンが、その一口を含んだ途端、ラビが凍りつく。
 が、
 「あれ?なんかこのジュース、変わった味しませんか?」
 別に豹変する様子もなく、訝しげに首を傾げたアレンに、ラビが、詰めていた息をほっと吐いて、引きつった笑みを浮かべた。
 「そ・・・そっか?不味いなら別のを・・・」
 「いいですよ、不味くはないですから」
 こくこくと、一気に飲んでしまったアレンに、神田も眉を寄せ、ラビの腕を引いた。
 「おい、下戸が一気飲みしてるぜ?」
 「だ・・・大丈夫!急性アルコール中毒くらいなら、コムイが何とかしてくれるっ!!」
 ヒソヒソと囁きあう二人を、アレンが眉を寄せて見遣る。
 「なにをそんなに、コソコソ話してるんですか、さっきから?」
 カンジ悪いですね、と、尖った声を出すアレンを、しかし、神田は冷たく見下ろした。
 「別に、モヤシには関係ねぇだろ」
 「・・・モヤシじゃありません。アレンです。
 ひと月生き延びたら覚えるって言ったじゃないですか。もう忘れたんですか、この鳥頭」
 「鳥・・・っ?!」
 途端、刃のように目を鋭く尖らせた神田を、アレンが殊更にからかうように笑う。
 「あぁ、シツレイ。
 鳥じゃなくて、馬の尻尾でしたね。でも、中身は鳥頭。サイアク」
 「サイアクなんはお前の毒舌さっ!!ユウが激怒ってるー!!!」
 アレンの、あまりにも命知らずな言動に、ラビが真っ青になって悲鳴を上げた。
 が、
 「ぎゃーぴーうるさいんですよ、ラビ。ウサギならウサギらしく、無言でニンジンでもかじってたらどうなんですか」
 ラビに向き直ったアレンの、凄まじい毒舌に、さすがのラビもかちーんときた。
 「ウサギじゃねぇって、何度言ったらわかるんさ、この白ウサギっ!白ウサっ!!」
 ガシガシと、乱暴にアレンの白い頭を掻き回すラビの手の下で、アレンの目つきが変わる。
 「ウサギにウサギって言われたくありませんよっ!!」
 ガッ!と、左手でラビの腕を掴むと、アレンはそのままイノセンスを発動させ、大きく振りかぶって、彼を投げ飛ばした。
 「ぎゃああああああ!!!」
 長い悲鳴を上げて宙を舞ったラビは、食堂の壁に激突する危機はなんとか避けたものの、たむろしていたファインダーの中に突っ込んで、頭から酒をかぶってしまった。
 「なんだなんだ?!」
 「なにイキナリ降って来てんだ、ラビ!!」
 驚いたファインダー達に助け起されながら、ラビは急いでアレンと神田を見遣る―――― と、思った通り、そこでは最悪の対決が始まっていた。
 「きゃー!!!ユウ様抜刀!!みんな離れろっ!!!」
 ラビの悲鳴じみた声に、食堂に集っていたメンバーが、我先にと出口へ殺到する。
 その群れの中へ、ラビも紛れ込もうとしたが、
 「お前は残って止めてこんかっ!!」
 どこからか現れた師の蹴りを喰らって、対決の真っ只中へと放り込まれた。
 「ジジィッ・・・!!」
 血を吐くような絶叫の先には、既に、師の姿はない。
 代わりに、
 「大丈夫、ラビ?」
 と、リナリーに助け起され、ラビは目を丸くした。
 「リナリー!?早く逃げるさ!!アレンもユウも、正気を失ってんだぞ!!」
 「そうよ。だから、止めなきゃでしょ?せっかく、兄さんのお誕生日パーティなのに」
 そう言って、頬を膨らませるリナリーのマイペースさに、ラビは呆れ果てる。
 が、
 「えー?イイヨイイヨ、止めなくて。
 これも中々見れない見世物だし、ボクの三十路パーティより楽しいしねー」
 そう言って手を振る主賓は、もっとマイペースだ。
 「兄妹・・・・・・!」
 コムイとリナリーを繋ぐ、強力なDNAの存在に、ラビは寒気を覚えずにはいられない。
 が、そうこうしているうちに、アレンと神田の対決は苛烈さを増していた。
 「から竹割りにしてくれるっ!!」
 「やれるものならやってミナサイ!!」
 大上段に振りかぶった神田を、煽るようにアレンが哄笑する。
 「ぎゃああああああ!!ユウ様激怒!!アレン君人格崩壊!!」
 「ラビ、もうちょっと気の利いた実況はできないのかい?」
 「実況じゃねぇだろ、このマイペース室長――――っ!!」
 とにかく止めろ、と、ラビも自身のイノセンスを発動させた。
 「二人とも、やめ――――・・・っ!!!」
 二人の間に壁を、と、振り下ろした大槌が、神田の六幻とアレンの腕に受け止められる。
 「んげっ!!」
 「すっこんでろっ!!」
 何があっても絶対に連携しない二人に、同時に怒鳴られた上、弾き飛ばされて、ラビが再び宙を舞った。
 「危ない!!」
 リナリーが叫び、イノセンスを発動させる。
 超高速で駆け寄るや、リナリーは彼を抱きしめ、一瞬で食堂の隅に移動した。
 「大丈夫、兄さん?!」
 「うんっ!」
 嬉しそうなコムイの声に、一瞬前まで彼が立っていた床に叩きつけられたラビは、血みどろの顔を上げる。
 「・・・・・・俺はどうでもいいんか・・・・・・!!」
 血を吐くような叫びに、リナリーは、一瞬迷った後、こくりと頷いた。
 「もうちょっと悩んでから頷くさ――――っ!!!!」
 凄まじく傷心したらしく、ラビは自身の血にまみれた床に突っ伏して大泣きする。
 と、その目の端に映っていたリナリーが、再びコムイを抱きしめ、一瞬にして消え去った。
 「へ・・・・・・?」
 嫌な予感に顔を上げると、
 「界蟲一幻!!!」
 「十字架ノ墓!!!!」
 大暴走の二人が、互いに大技を繰り出す。
 「バ・・・バカタレ――――!!!屋内でそんな大技使うな――――!!!」
 ラビの絶叫を掻き消すように、拮抗する力の余波は、食堂内を木っ端微塵に破壊し、皿やテーブルの破片が雨と降り注ぐ。
 「け・・・けんかをやめてー・・・二人をとめてー・・・!」
 最早、歌うしかない危機的状況の中で、ラビは出口を目指して匍匐前進した。
 と、ラビの眼前に、だんっ!と、たくましい足が踏み出され、
 「いー加減にしなさい、アンタたちー!!!」
 甲高い絶叫と共に、神田とアレンに、大奔流が放たれた。
 神聖なる職場を荒らされた、料理長以下、料理人たちの、怒りの放水だ。
 本来、消火に使用される凄まじい水圧に、さすがのエクソシストたちも吹き飛ばされる。
 「もう!食堂がめっちゃくちゃじゃないの!!反省しなさい、ガキンチョども!!」
 激怒のジェリーが振り回すホースが、渦をも生み出し、なぜか、ラビも巻き込まれて、共に奔流の中を転げまわる。
 と、その中でもがいていたアレンが、突然動かなくなった。
 「ほぇっ?!アレン・・・?!」
 飛沫に遮られ、見えにくい目を凝らすと、完全に酔いつぶれたアレンが、渦に目を回して、ぷかぷかと浮いている。
 「ジェ・・・ジェリー!!放水ヤメヤメ!!アレンがおぼれてるさ!!」
 ラビが慌てて叫ぶと、
 「モヤシなんざ、溺れちまえっ!!」
 神田が絶叫し、傍らに流れてきたアレンを水中に沈めた。
 「こら!おヤメなさい、ユウちゃんっ!!」
 途端、ジェリーのたくましい腕に支えられたホースが、まっすぐに神田へ向き、その水圧でアレンを沈める腕を弾き飛ばす。
 「はぁーい!お水止めてェ!
 救護はーん!アレンちゃん救出してちょーだい!」
 ジェリーの声に、食堂内の奔流はたちまち治まり、瞬く間に現れた救護班によって、アレンは療養所へと連れ去られた。
 「で?!この原因を作ったのは、誰?!」
 たくましい両腕を腰に当て、眉を逆立てたジェリーの問いに、ラビへと視線が集まる。
 「ええっ?!なんで・・・」
 わかったんだ、という言葉を飲み込んだラビに、一様に呆れ顔をしたメンバー達が、口々に言う。
 「なんでも何も・・・」
 「こんなことするの、お前だろ?」
 「どうせ、妙ないたずらでもしたんだろ」
 ため息交じりの声に、神田も無情に頷いた。
 「・・・あぁ。こいつが、モヤシに酒を飲ませやがったんだ」
 水に浸かって、ずっしりと重くなった団服を脱ぎ、濡れた髪を絞りながら言うと、みな一様にやっぱり・・・と、頷く。
 「・・・って!ちょっと待て!確かに、酒を飲ませたのは俺が悪かったッ!だけどユウなんか、素面で界蟲を放ちやがったんだぜ?!」
 同罪だろ?!と、抗弁するラビに、しかし、同調するものはいなかった。
 「だって、神田だもんな」
 リーバーの一言に、全員が納得する。
 「なんだ、それ!?俺は悪くて、ユウ様お咎めなし?!差別さ!」
 と、
 「元々の原因はお前だろうが!!」
 なおも抗弁するラビに、ブックマンの叱咤が飛ぶ。
 「ジジ・・・」
 顔を引きつらせる弟子を、ブックマンは冷たく見上げた。
 「このバカタレが!罰として、この始末をつけろ!!」
 「始末・・・って、まさか、この部屋のおかたづけ・・・?」
 真っ青になった額に汗を浮かべる弟子に、ブックマンは冷厳に頷く。
 「神田以外の手を借りることを禁ずる。今日中に片付けろ!」
 ブックマンの言葉に、神田が不快げに眉を寄せた。
 「・・・俺もか?」
 「あったりまえじゃ、このバカタレが!!」
 「俺一人でやるの、ぜーったい無理だってっ!!お願い、ユウ!!ユウちゃん!!ユウ様!!手伝ってっ!!」
 「・・・・・・・・・・・・・・・」
 「いいからとっとと始めんかっ!!」
 ラビに縋られて、思いっきり不満げな神田に怒声を落として、ブックマンは踵を返した。
 「―――― 今日中に片付いておらなんだら、二人とも、塔から吊るすぞ」
 肩越しに投げられた、冗談ではない口調に、さすがの神田も反駁を封じられた・・・・・・。


 「・・・・・・はれ?」
 目を覚ましたアレンは、ベッドの周りを囲む白いカーテンをぼんやり見つめた。
 見覚えのある風景に、アレンはぼんやりと呟く。
 「なんで僕・・・療養所にいるんだろ・・・・・・?」
 そこは、彼が何度も世話になった事のある、教団内の療養所だった。
 「ヤァ、気分はどうだい、アレン君?」
 この場所ではもう、おなじみの声に、アレンは、外からカーテンを開けた人物を見上げた。
 「・・・・・・なんか、頭がくらくらしますぅ・・・・・・」
 麻酔をかけられた後のようだ・・・そんなことを考えていると、妙に嬉しそうに、コムイが笑う。
 「イヤイヤ、楽しいパーティをありがとう。
 今日の催しも面白かったけど、クロスがあんな目に遭ったんだと思うと・・・・・・・・・!」
 こらえかねた様子で、肩を震わせ、笑うコムイに、アレンは更に訝しく眉を寄せた。
 「来年もまた・・・よろしくね・・・・・・っ!!」
 とうとう爆笑しながら、部屋を出て行ったコムイの背を、アレンは、不思議そうな顔で見送った。





Fin.

 










これは、『大虎になるアレン君の話を書きたい。だけど、パーティの口実がない』と、悩みつつも書き始めたお話でした。
が、『6月13日はコムイの誕生日』だと教えてもらいまして、それを口実に書き直したものです(笑)
強くなったアレン君の代わりに、ラビが思いっきりいじめられています。
しかも、リナまで鬼畜の仲間入りなカンジで・・・・・・・・・。
『ラプンツェル』を書いた直後にこれを書いた私もかなり違和感でしたが、あれを読んだ後にこっちを読んだ人もかなり違和感だろうな、なんて思いつつ、それでも書いたお話・・・;












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