† GOOD LUCK MY WAY T †
「・・・いい加減、飽きたさ」 67本目のツリーに星を飾ったラビが、脚立を降りてため息をつくと、うんざりした顔のアレンも頷いた。 「・・・・・・一年に一回、一本のツリーに一個だけ飾るから嬉しかったんだね、星って・・・」 大きな箱にわんさか入った星と、未だ飾りつけの終わっていない青々としたツリーを見比べて、アレンもまたため息をつく。 「もうやだ・・・ツリー見たくない・・・・・・!」 「な・・・泣くなさ! 俺だって辛いんから・・・!」 しくしくと泣き出したアレンの背中をぽふぽふと叩き、ラビは顔をあげさせた。 「ちょっと休憩しよ! 姐さんのスイーツでも食えば、ちったぁ気も晴れるさ!」 「・・・っうん!」 ようやく泣き止んだアレンの頭に、ティムキャンピーも喜んで降りてくる。 「リンクー! 僕達食堂にお茶しに行くけどー!」 声をかけると、ツリーの飾りつけ中だったリンクは脚立から降りないまま振り返った。 「勝手に行きなさい。 私はマンマから命じられた任務の最中ですので、こちらを優先します」 「はいはい・・・」 厳しい監視から逃れることは嬉しいが、優先順位で負けたことは少し悔しい気がする。 が、 「ママンが相手じゃしょうがないさね 後で礼でも言っとくさ!」 軽く背中を叩かれて、アレンもようやく笑みを浮かべた。 「そうですね! ミランダさん、ほんとに女神・・・!」 ここにはいない彼女の顔を思い浮かべ、両手を組み合わせるアレンにラビが笑い出す。 「しっかりお布施でもするんさね!」 「何がいいかな? ミランダさん、お菓子好きだよね?」 「みんな好きだろ。特に・・・」 こんなに遠くまで漂ってくるいい匂いに、ラビが鼻をひくつかせた。 「姐さんの料理はさ!」 「うんっ!」 ミランダにも何か作ってもらおうと、駆け出したアレンの頭から振り落とされて、ティムキャンピーが慌てて後を追う。 「ティムー。 お前、またデブってんぞ」 ぷにっとしたボディをつついてやると、怒ったティムキャンピーに歯を剥かれた。 「怒ったってホントじゃん。 アレン、ティムにはあんま、食わせない方がいいさ」 「そだね! って、いだいだいだい!!!!」 頭に食いつかれたアレンが悲鳴をあげて食堂に飛び込み、厨房のジェリーが何事かと顔を出す。 「んなっ・・・なにん、アレンちゃん?! なんでティムちゃんに食べられちゃってんのん?!」 「ティムにご飯あげないって言ったら食べられました!」 えぅー!と、泣き声をあげるアレンに苦笑して、引き剥がしてやったジェリーがティムキャンピーに犬のおやつ用ガムを与えた。 「歯がかゆいならこれでも噛んでなさい。 で?アレンちゃん達は何がいいのん?」 「えっとー・・・」 骨の形をしたガムをガリガリと噛むティムキャンピーをじっと見るアレンに、ジェリーが笑い出す。 「もうごはん食べちゃう?」 「ぶ・・・ブランチをー・・・」 「お前、昼メシしっかり食ったろ!」 目を逸らすアレンの頭をはたいて、ラビが笑った。 「姐さん、ティーセットくださいさ 「ハイハイ ローストビーフのサンドウィッチもつけたげましょうねん 尻尾を振る仔犬のような二人に背を向けたジェリーが、あっという間に大きな皿を持って振り返る。 「ハイ、召し上がれー 「ふおおおおおおお!!!!」 「きゃああああああ サンドイッチの他、スコーンやケーキ、クッキーなど、美々しく並んだ皿を受け取って、ラビとアレンが歓声をあげた。 「あと、お茶とミルクねん 蜂蜜?お砂糖?」 「じゃあ、今日は蜂蜜でー 「ジンジャーとシナモンもください!!」 「ハイハイ 望んだものを次々と出してくれるジェリーを、二人は本気で魔法使いだと信じそうになる。 と、 「いいよ、本当に魔法使いだと思っちゃって。 じゃなきゃ、あんなに手早く作れるわけないもん」 テーブルに着くや、はむはむとサンドウィッチを頬張ってアレンが言った。 「俺だって別にかまやしねぇさ。 むしろその方が楽しそうさね!」 かじったクッキーが思った以上に熱くて、悶えつつラビがお茶で流し込む。 「ジェリーさんが時間を操るエクソシストだったら僕、心底納得したと思います」 「あー・・・あの速さは時間止めてるとしか思えねーもんな」 涙目で頷いたラビは、壁の時計が2時を指した瞬間を見て、眉根を寄せた。 「なぁ・・・。 ミランダ達が出てってから、もう5時間だぜ? あいつら、今年はどんだけオーナメント買い込むんさ?」 「・・・僕、もう星飾るのヤダ」 うんざりと言ったアレンが、ため息をお茶に吹きかける。 「俺だって嫌さ・・・! あれ以上ツリー増えたら、飾り終えた頃にゃ年が明けてるさね!」 新しい城に引っ越した当初は、皆が張り切って飾り付けたクリスマスツリーだが、置き場所が余りあるために毎年際限なく増えて行き、今や12月になると決して狭くはない部屋に森ができるほどになっていた。 「・・・またツリーを運んできたら、薪にして火にくべてやろうぜ」 「ミランダさんの目の前でやると泣いちゃいそうですから、見てないところでね」 アレンも遠まわしに同意して、スパイスの効いたお茶を飲み干す。 「でも、クリスマス市って賑やかで楽しそうだもんね。 ミランダさんじゃなくても、夢中になるのはわかるなぁ」 「まぁなー。 俺も行きたかったケド、タイミングが悪かったもんなー・・・」 ラビ達師弟とアレン、クロウリーがそれぞれの戦地から帰って来た時、ミランダはリーバーを荷物持ちにドイツへ出発する所だった。 「・・・あんなにはしゃいだミランダさんが見られるのは、年に一回だよね。 僕、『おかえりなさい』と『行ってきます』をドイツ語で言われちゃったけど、絶対気づいてないよ」 苦笑するアレンの向かいで、ラビが口を尖らせる。 「リーバーもさ、ミランダが来るまでは仕事一筋だったんに、今じゃミランダ優先だもんなー・・・。 俺は冗談で『荷物持ち代わってやろーか?』っつっただけなんに、あんな殺しそうな目で睨むことないじゃん」 「おかげで僕までとばっちりだよ。 なんで僕まで一緒にツリーの飾りつけやんなきゃいけないんだよ」 ムッと睨んできたアレンを、ラビも睨み返した。 「お前はいいだろ! 毎年やりたがってんだからさ!」 「だから言ったじゃんー! 一年に一回、一本のツリーに一個の星を飾るから嬉しいんだって! 森みたいにわんさかあるツリーに飾るのはもう、作業であって娯楽じゃないよ!」 中心戦力たる子供達が早々に飽きてしまい、今や作業はほぼ、ミランダの愛犬達が担っている。 「しっかし、ティモシーが使えなかったとは予想外だったさ。 あいつ、飽きっぽいなんてもんじゃねぇだろ!」 「そんなことないでしょ。 自分の身長の何倍もあるツリーが森みたいに立ってて、うんざりしない方がおかしいんだよ」 ティモシーの身長では、一本飾るだけでどれだけの時間と体力を消耗するか、わかったものではなかった。 「最初は面白くても基本的に単純作業だからねー・・・」 「そんで早々に飽きたってか。 根性のないガキは大きくなれんさね」 そんな馬鹿な、と言いたかったが、実際に高身長の彼に言われると、言下に否定も出来ない。 それでも何か言い返してやろうと小首を傾げたアレンの耳元で、無線が開いた。 『ア・・・アレン君・・・!助け・・・てぇ・・・・・・!』 「・・・え?!ミランダさん?!」 驚いて立ち上がったアレンの正面でも、ラビが難しい顔で自分の無線を聞いている。 「・・・オケ。 すぐに行くから待ってるさ」 行こう、と、立ち上がったラビに腕を引かれて、アレンは慌てて従った。 「ね・・・なにがあったの?!そっちはリーバーさんから?!」 「ん」 短く返事したラビが、方舟の間へと駆け込む。 「なぁ!今、リーバーから・・・!」 待機していたスタッフに声をかけると、心得た彼らから次々に『必要なもの』を渡された。 「・・・・・・なにこれ」 廃棄書類を運ぶ時などに使う、大きなワゴンに台車が積まれているのを見て、アレンが首を傾げる。 「なんでこんなもの持ってくの?」 不思議そうなアレンの隣で、ラビががくりと肩を落とした。 「・・・あのさ。 荷物持ちが足りなくなったんなら、はっきりそう言ってくんないさ? リーバーがマジ声で『緊急事態だ、すぐ来てくれ』なんつーから俺、マジ焦ったし!!」 「ぼ・・・僕なんて、ミランダさんの今にも死にそうな声で『助けて』なんて言われたんですよ・・・!」 ほっと吐息したアレンの眉が、次の瞬間吊り上がる。 「びっくりしたじゃん!」 「すまんな、お前らしか手が空いてなかったんでね」 クスクスと笑うジジに、ラビも眉根を寄せた。 「犬ならいっぱいいるだろさ!」 「でも作業中だろ? あいつらが飾りつけやらなきゃ、年明けるまでツリーはただの木だぜ?」 陽気に笑う彼に、アレンとラビが深々とため息をつく。 「・・・なんでここまでやんなきゃいけないのか、わかんなくなってきた」 「も・・・張り切りすぎさねー・・・!」 「ホラ、疲れるのは後にしろよ! 早く行かないと、ミランダが力尽きちゃう!」 ぐいぐいとジョニーにまで背を押されて、二人が歯を剥いた。 「こっちだって人余ってんじゃないの?!」 「なんで俺らばっか!!」 「こちとら万年人手不足なんだよ!」 「か弱いインテリゲンチャに力仕事させる気?!」 「俺だってお利口だもんさ!」 言い返すが彼らは聞く耳持たず、二人をワゴンごと扉の中へ押し込む。 「生きて帰って来いよー!」 「なんでクリスマスに命賭けなきゃなんないんだよっ!!」 「ブックマンの貴重な血筋をなんだと思ってんさー!」 ぎゃあぎゃあと喚きながらも方舟に押し込まれた二人は、しばし憮然としたものの、仕方なくミランダ達の待つ街へと向かった。 その頃、クマのぬいぐるみが並んだ工房では、エミリアとリナリーが目をキラキラさせて、マイスターの手元を見つめていた。 「ほら、完了だ」 「わああああああああ!!!!」 中のおがくずを交換してもらい、へたっていた毛並みを直してもらうと、古ぼけていたぬいぐるみは今出来上がったばかりのようにふかふかとして、とてもいい匂いがする。 「ありがとう、おじさん! ティナ、この子をすっごく大事にしてたから、きっと喜ぶよ!」 ぬいぐるみを抱きしめて、ぴょこぴょこ跳ねるリナリーの頭を笑って撫でてやると、黒髪にたくさん糸くずがついてしまった。 「あ、すまんな」 慌てて取ってやる無骨な手の下で、リナリーが嬉しそうに笑っている。 「あの子が自分で持って来れなくなったのは残念だな。 お前は、これからも俺のぬいぐるみを自分で持って来るんだぞ。 いつでも修理してやるから」 「・・・うん」 亡くなった仲間が大事にしていたぬいぐるみを抱きしめて、リナリーが頷いた。 今にも泣きそうなリナリーの背をエミリアが優しく撫でてやると、マイスターの目が彼女へと向く。 「今日は呼び出してすまんな、お嬢さん。 あんたの連絡先を知らんからこいつに伝言してたんだが・・・もう一緒に住んでるとは思わなかったぜ。式は済んだのか?」 「だから嫁じゃねぇって、何度言やぁわかるんだ、このボケ親父が!!」 エミリアが何か言う前に背後から、神田が物凄い目で睨んだ。 「おんなじ教団の城にいるってだけだろ! 城内の女が全員嫁なわけあるか!」 「お前なら可能じゃないか、ハーレム?」 「冗談じゃねぇよ!あそこにゃ簡単に男をボコるような女ばっかり・・・」 「それで?あたしに用って?」 青筋を立てたエミリアの腕に首を絞められ、リナリーに腹を連打される神田を気の毒そうに見つめながら、マイスターが頷く。 「このクマちゃん達なんだが・・・」 工房内に所狭しと並ぶ可愛らしいクマのぬいぐるみを、彼はざっくりと取りあげた。 「う・・・売れ残りで悪いんだが、子供達のクリスマスプレゼントに持っていかないか?」 「は・・・?売れ残りって・・・」 「ありえないでしょ!!ハンスおじさんのクマちゃんだよ?!」 中々手に入らず、予約は数年先までいっぱいだと評判のクマだ。 目を丸くした神田とリナリーに詰め寄られて、真っ赤になったマイスターがぞんざいに手を振った。 「う・・・売れ残ったもんはしょうがねぇだろ! 俺は作るのが専門で、売るのは苦手なんだ!だから売れ残ったんだ!」 上擦った声で言い張る彼に、リナリーが奇妙な笑みを浮かべる横で、呆気に取られていたエミリアが嬉しげに笑う。 「ありがとう、おじさん! きっとみんな喜ぶわ!」 「そ・・・そうか・・・・・・」 真っ赤な顔をそむけた彼が、大きな袋を神田に押し付けた。 「こ・・・これに入れてけ!」 「俺かよ!」 面倒臭い、とぼやきながらも意外なほど丁寧な手つきでぬいぐるみを入れる神田に、エミリアが笑い出す。 「それにしても、あんたとぬいぐるみって意外な組み合わせよねぇ! リナリーみたいに可愛いならともかく、なんでおじさんはあんたみたいな無愛想な奴にここまでしてくれるの?」 何気ない問いだったが、神田の手を止めるには十分だった。 「余計なことは・・・」 「いや、いいさ」 肩をすくめたマイスターは、苦笑してエミリアに向き直る。 「昔、こいつが・・・俺んとこの末っ子を壊ってくれたんだよ。 死んだ母親を恋しがってアクマなんかになりやがって・・・全く、出来の悪い子供だった」 ため息混じりに言うと、リナリーは気まずげに黙りこみ、エミリアは真っ青になって謝った。 「ご・・・ごめんなさい、あたし・・・!」 本当に余計なことを言ってしまったと、泣きそうになりながら何度も謝る彼女の肩を、マイスターが笑って叩く。 「もう昔のことさ。 他の子供達はしっかり育って、あちこちの親方に弟子入りしてるからな。 クリスマスには、職人のイイ顔になって戻ってくるよ」 「・・・はっ! 男ばっかで色気のねぇこったな」 「じゃあ、お前来るか? お前、男のクセに色気あるもんなぁ!」 生意気な口を利く神田の頭をぐしゃぐしゃと撫でて、マイスターは豪快に笑った。 「そうだ、今度お前のぬいぐるみ・・・」 「俺の等身大フィギュアならとっくに師匠が作ってっから、余計なことすんな!」 怒った猫のように目を吊り上げて怒鳴ると、彼は残念そうに肩をすくめる。 「ま、いくら美人でも、男のぬいぐるみなんかたくさんは売れないか。 お嬢ちゃん達、ぬいぐるみになるか?」 「なるなるー!!」 「すごく嬉しい!!」 もろ手をあげたリナリーとエミリアに舌打ちし、ぬいぐるみを袋に詰め終えた神田はずっしりと重いそれを肩に担いだ。 「おい、いい加減、帰るぞ」 「わぁ! 神田、サンタさんみたいだよ!」 「そうだ! あんたペール・ノエルやんなさいよ 子供達より先に二人に寄ってたかられて、神田がうんざりとした顔をする。 「おいおい、美人二人に迫られて、なんだその顔は!」 「鏡見慣れてっから、別になんとも思わねぇよ!」 あっさりと言った彼は、唖然とするマイスターに手を振って工房を出た。 「あ!待ってよ、神田・・・おじさん!また来るね!」 慌てて続くリナリーを追おうとして踵を返したエミリアは、マイスターに抱きつく。 「ぬいぐるみをありがとう! 本物のペール・ノエルには、子供達からお礼の手紙が来ると思うわ!」 別れ際に頬へキスされた彼は、真っ赤な顔で彼女達へ手を振った。 一方、ワゴンを押しつつ方舟から出た二人は、空気の冷たさにぶるっと震えた。 「寒っ!!コート着てても寒っ!!」 「アレン、見てみ!!あんなに雪積もってるさ!!」 ティムキャンピーを抱きしめたまま、アレンが教会の窓から外を見ると、冬枯れた樹も墓地も、厚く雪に覆われている。 「・・・ラビ、あんなに雪が積もってて、ワゴンの車輪は動くんですか?」 「・・・なんか・・・無理って気がするさね」 どう考えても、ワゴンの車輪は地面に着く前に雪に呑まれる気がした。 「だったらワゴンはここに置いておいて、外の荷物は少しずつ運び込んではどうです?」 迎えてくれた神父に言われて、二人と一羽はぱふん、と手を叩く。 「ですね!」 「そうさせてもらうさ!」 手間はかかるがその方がいいと、二人は頷きあって外へ出た。 「さぶー・・・! ミランダー・・・!ミランダやーい・・・!」 マフラーに半面をうずめて、くぐもった声でミランダを呼ぶラビに、アレンが苦笑する。 「猫探してるんじゃないんだからさ・・・」 言いつつ無線を開いて、リーバーに到着した旨を告げた。 「ラビ、クリスマス市の簡易休憩場所ってわかる?」 途端に不安げな顔になったアレンに笑い、一旦無線を切らせて自分がリーバーと繋ぐ。 「迷子癖のある奴に道案内しても無駄さね」 『だよな』 回線の向こうで苦笑したリーバーが、自身らの居場所を言うと、ラビはキョロキョロと辺りを見回すアレンの腕を引いた。 「ホレ、おとなしくついてくるさ! あちこち屋台出てっケド、ふらふらしてたら迷子になるんから、にーちゃんから離れんなよ!」 「こっ・・・子供じゃないもん!」 真っ赤になって言い返したアレンの頬が、ぶにっと引き伸ばされる。 「ぷきいいいいいいいいい!!!!」 「おんぶできるだけ子供の方がまだ楽さ!! 四の五の言わんとちゃんとついて来るさね!」 紅くなった頬を膨らませて、しかし、反論の出来ないアレンの腕をラビが引いた。 が、 「・・・あ!ラビ、プレッツェル! なんかいい匂いするよ?ヴルストかなぁ? ねぇねぇ、あのシナモン入れてるの、なに?」 キョロキョロと辺りを見回しては話しかけてくるアレンに苛立って、ラビは彼の首根っこを掴む。 「後で好きなだけ見せてやっから! 今はリーバー達と合流すんのが先さ!」 「あい・・・」 ぷくっと、また頬を膨らませてしまったアレンにため息をついて、ラビは首根っこを掴んだまま、ずりずりと引きずって行った。 「お待たせさー! 荷物持ちに来たぜ!」 買い物客用の休憩スペースでモールドワインを飲んでいた二人に声をかけると、ミランダがほっとした顔を向ける。 「よかった・・・! もう、二人じゃ運べなくて、どうしようかと困ってしまったの」 「それで、荷物はどこですか?」 テーブルに駆け寄ったアレンが、二人の間にあったプレッツェルをティムキャンピーと一緒にかじりながら聞けば、ミランダが壁際を指した。 「あれなんだけど・・・」 見れば、簡易壁の補強用に積み上げられたらしい木箱の前に、どっさりと袋が積み重ねてある。 「あぁ、確かに結構な量さね。 でもリーバーが何往復かすれば、運べねぇ量じゃないんじゃ・・・」 苦情めいた口調で言うと、空になったカップを置いたリーバーが吐息した。 「ラビ、どこ見てる?」 「どこってそりゃ、あの袋・・・」 と、ラビが指した目の前で、袋は席を立った家族連れが、それぞれに担いで出て行く。 「あれ・・・?」 荷物が消えてしまった様を唖然と見ていると、ミランダがため息をついた。 「あれじゃないわ。あの木箱全部よ」 「きばこ・・・」 ぽかんと口を開けたアレンの目の前にあるそれらは、天井近くまで積み上げられている。 「壁・・・?」 「えぇ、壁沿いに置いてある物全部なの」 持てないから運び込んでもらった、と言う彼女がどこか得意げで、アレンもラビも、ぽかんと口を開けたまま何も言えなかった。 「ワ・・・ワゴンに乗らねぇと思うんけどこれ・・・」 ようやくラビが言うと、リーバーが『心配するな』と手を振る。 「メインはワゴンじゃなくて、その中に積んだ台車だ。 アレならこの箱が5つずつは運べるからな。 5往復で事足りるだろ」 「はぁ・・・そうですか・・・・・・」 ならばよかったと、安堵したアレンがほっと吐息した。 「しっかしよくもまぁ、こんだけ集めたもんさね! 店ごと買い取ったんじゃないさ?」 何が入っているのかと、手が届く場所にある箱を開けてみると、オーナメントがたくさんついた布がきれいにたたまれて収まっている。 「なんさ、これ?」 広げていいかと聞くと、ミランダが嬉しそうに頷いた。 「前にキャッシュさんに申し訳ないことをした時・・・お詫びがしたいなら、クリスマス市でなにかいいもの買って来てくれ、って言われたんです。 だからその箱から2列目までは、キャッシュさんへのプレゼントなんですよ 「へ・・・へぇ・・・そりゃ・・・・・・」 「すっごくびっくりするでしょうね、キャッシュさん・・・・・・」 嬉しく思うかは微妙だが、と呟きつつ、ラビが広げた布をアレンも眺める。 「・・・なんですか、これ?」 濃い緑色のフリルが何段も重なって、裾に行くほど広がるそれは、たくさんのクリスマスオーナメントで飾られていた。 見た瞬間は布製のクリスマスツリーかと思ったが、壁掛けにしては筒状に縫製してあって、まるで・・・。 「・・・ドレス?」 訝しげに言ったラビの隣で、アレンも手を打った。 「ホントだ!ファスナーがある!」 そう思って見れば、タートルネックになった襟の形なども中々凝っていて、まぁ・・・可愛いかもしれないと・・・思・・・・。 「可愛い・・・かな?」 「可愛いでしょう?!」 首を傾げてしまったアレンに、ミランダがはしゃいだ声をあげた。 「これ、星のついた帽子もセットになっていて、とても可愛いんです きっとキャッシュさんに似合うわ 「キャッシュにか・・・」 「キャッシュさんに・・・か・・・・・・」 彼女が着たところを想像して、二人の口元が微妙に曲がる。 例えばこれをミランダのような、背が高くて細い、なのに出るところはしっかり出ている、女性が理想とするボディの持ち主が着れば『キュートだ』と称えられることだろうが、キャッシュのようにふくよかな人間が着ると、ツリーの着ぐるみになるだろうことは容易に想像できた。 「うん、リーバー。止めてあげるさ」 「ここはリーバーさんの出番でしょ」 「えぇっ?!どうして?!」 賛同してくれない二人に驚いたミランダが、困惑げな目でリーバーを見ると、三人の視線を集めた彼は苦笑して首を振る。 「いいんじゃないか、面白くて」 「ですよね ホッとして頷くミランダの後ろで、アレンとラビはわざとらしく身を寄せた。 「ラビラビ、これってあれだよね? パワーとセクシャルの間のハラスメント」 わざわざ聞こえるように言ってやると、ラビも大げさなほどに頷く。 「リーバーは科学者だから、アカデミックも入ってるさ」 「最低上司ですね」 「最低上司さ」 「おい、お前ら」 苦笑して、リーバーは他の箱を指した。 「それが気に入らなきゃ、他の衣装だってあるんだからいいだろ」 「何着買ってんさ!!」 「キャッシュさん、一日で衣装持ちですね・・・」 きっと軽い気持で言ったことだろうに、こんな結果をもたらすとは彼女自身、思っても見なかっただろう。 「あ、こっちは白いさ。 きっと、デラックスでゴージャスなケーキみたいになるさね」 「こっちは赤ですかー・・・ひげをつけたらサンタみたくなるんじゃないかな」 次々に箱を開けては好き勝手なことを言っていた二人は、満足してしまうとどちらからともなく頷いた。 「木箱っつっても板は薄いし中は布だし」 「かさばるだけで重量はないから、運ぶのは思ったより楽そうだね」 「あぁ・・・でも気をつけてね。 油断していると・・・」 腰を浮かせたミランダが、突然悲鳴をあげて椅子に座り込む。 「え?!なんさ?!」 「ど・・・どうしました?!」 驚く二人に、リーバーがミランダの腰をさすってやりながら苦笑した。 「やめろって言うのに箱を持ち上げようとして、ぎっくり腰になっちまったんだよ」 「あ・・・それでさっき、あんな死にそうな声で助けてって・・・」 納得したアレンが、テーブルに突っ伏して声もないミランダを気遣わしげに見つめる。 「ミランダさんって、自分の怪我は時計で吸い取れないんですっけ?」 「あ!」 そう言えば、と、思わず顔をあげたミランダが、また声にならない悲鳴をあげて突っ伏した。 震える手を膝に乗せた時計へ伸ばし、それが発光するやミランダが平然と顔をあげる。 「自分にも有効だって、忘れてました」 ほっと吐息して、ようやく立ち上がった。 が、 「治したわけじゃないんだから、辛くてもあのままがよかったんだ。 さもないとまた無茶して、二重に怪我しかねないぞ」 苦情めいた口調のリーバーに、ミランダは肩をすくめる。 「だから知ってたのに言ってくれなかったんですね。意地悪だわ」 でも、と、ミランダは嬉しげに笑って踵を返した。 「無茶しなければいいんですよね? 奥のお店をまだ見てなかったから、私、もう一度行って来ます 早速休憩所を出て行くミランダを、リーバーも慌てて追う。 すれ違い様、忌々しげに舌打ちされたアレンは、気まずげにラビの陰に隠れた。 「・・・買物に対する女のパワーってすげぇさ。 リーバー、我慢強いにも程があるさね」 自分はとても付き合いきれない、と呆れるラビの袖を、アレンが後ろから引く。 「でもさ、さすがにここまでやったんだから、後半戦は楽だと思うんだよ」 だから、と、アレンは猫のようにラビの背に頭をすり寄せた。 「僕もクリスマス市巡りやりたいー!」 連れてけとねだるアレンに、ラビはため息をつく。 「ティムの尻尾をしっかり掴んで、絶対にーちゃんからはぐれんなよ? こんな人ごみの中で迷子探すのはマジ勘弁さ!」 「あいっ!」 張り切って敬礼したアレンにもう一度ため息をついて・・・しかし、賑やかなことが好きなラビは軽やかな足取りで、先に行った二人の後を追った。 「ねぇねぇ! ヴァン・ショー・・・じゃなくて、こっちじゃ・・・えーっと・・・?」 「グリューワインか?」 エミリアに腕を引かれた神田がうんざりと答えると、彼女は大きく頷いた。 「そう!それ!! 飲んで行こうよー ぐいぐいと彼の腕を引き、クリスマス市へ引き入れようとするエミリアの反対側で、リナリーも神田の腕を取る。 「もー! リナリー置いてかないでってばぁああああ!!!!」 「おいっ!!」 ぬいぐるみの入った袋を落としそうになり、神田が慌てて持ち直した。 「お前・・・! 粗末にしたら、もう二度と作ってもらえなくなるぜ!」 叱られて頬を膨らませたリナリーが、開いた手で袋の下を支える。 「こうしてればいいよね! ねぇ!リナリーもグリューワイン?飲んでみたいー 「あら、じゃあリナリーはアルコールのない子供用ね 「子供って言わないでよっ!」 女達に挟まれ、両腕を引かれた神田の目が吊り上がった。 「ちったぁ離れろ!歩きづれぇだろ!!」 突然の大声に周りの買い物客達が飛び上がり、三人を遠巻きにする。 と、 「あれ?!ユウ?!」 視界の開けた先で、ラビが驚いた顔を向けていた。 「リナリー!なんでここにいるの?!」 彼の陰から顔を出したアレンも声をあげて、二人が駆け寄ってくる。 「なんさ、ユウってば両手に花!! むしろ大輪の花三輪!!」 「誰が三輪目だゴラっ!!!!」 両手がふさがっているため、蹴りをくれてやろうとしたラビは後ろに引いて避けた。 「エミリア、ユウちゃん放さんで。マジ危険だからさ」 「うんっ 喜んで神田の腕に縋ったエミリアに、反対側でリナリーがむくれる。 「なんだよ、さっきからリナリー無視して!」 「してねぇだろ!」 「もっと構えええええええええ!!!!」 エミリアへの対抗心むき出しでわがままを言うリナリーの袖を、同じくらいむくれたアレンが引いた。 「神田なんかほっときゃいいじゃないですか!」 僕に構え、と言わんばかりの拗ねた態度に、ラビが吹き出す。 「けど、なんでお前らここにいるんさ?」 アレンの頭をくしゃくしゃにしながら問うと、エミリアがにこりと笑った。 「あたしがおじさんに呼ばれたの!」 「俺は伝令役と付き添い・・・」 「私は用があったからついて来たんだよ!」 無理矢理二人の間に割って入ったリナリーにはラビも苦笑する。 「リナ・・・お前、思いっきりお邪魔なんじゃね?」 「そ・・・ソンナコトナイヨ?」 「目ェ逸らすな。わざとかよ」 「ち・・・チガウヨ?」 懸命に否定するが、目がぴちぴちと泳ぐのは止められなかった。 「ユウ、リナはこっちで引きとろっか?」 「別に・・・」 「ぜひそうしてちょうだい!」 ラビの申し出に、神田を押さえ込んだエミリアがすかさず応じる。 「じゃあリナリー 後でねー 「あ!こら!!」 神田の腕を引いて、さっさと離れようとするエミリアに声をあげるが、リナリーの腕はアレンに掴まれていて、追いかけることができなかった。 「もう、アレン君! 神田取られちゃったじゃない!」 「いいじゃん、あんな目つきのわっるいのいなくったって!」 ぷくっと頬を膨らませて反駁したアレンに、リナリーも頬を膨らませる。 「よくないっ! リナリーを無視するなんて全然よくないいいいいいい!!!!」 ヒステリックな声をあげたリナリーの頬は、ラビに容赦なく潰された。 「にゃにふんにょっ!!」 「お前・・・ミランダの時もそうだったけど、兄ちゃん取られたからって嫉妬すんなよ」 「し・・・嫉妬なんかしてないよ!!」 「してるさ。 あん時だって、後で気まずーィことになったんから、いい加減大人になるさね」 笑って鼻を弾かれたリナリーは、紅くなった鼻をさすりながらむくれる。 無言で見遣った先にはまだ二人の背中があって、しかも誰かに呼び止められたようだった。 「あれ? 班長達も来てたんだ!」 いい口実が出来たと駆け寄ったリナリーに、ミランダが嬉しげに笑う。 「リナリーちゃんも!荷物持ちが増えて助かったわ!」 「え・・・?」 いきなりそんなことを言われて驚くリナリーに構わず、ミランダははしゃいだ声をあげた。 「また来ようと思ってたけど、今日でお買い物終わりそうね!」 「まだ買うのっ?!また腰に来ますよ?!」 「そうさ!今日はとっとと帰った方がいいさね!」 思い留まらせようと声を張り上げたアレンとラビには、輝くような笑みが返る。 「大丈夫よ! 痛みなんて忘れてしまえるもの!」 「お前は大丈夫でも、俺が力尽きそうなんだが・・・」 最初からミランダに付き添っていたリーバーが珍しく弱音を吐くと、神田が意外そうに目を見開いた。 「お前がそこまで言うって・・・よほどのことだな」 「よほどさ!うんにゃ、よっぽどなんてもんじゃないさ!」 「今日の功労賞はリーバーさんですね、ってくらい!」 ラビとアレンからも同情されたリーバーが、涙に声を詰まらせる。 「だが・・・一年に一度と思えば・・・・・・!」 「兄さんのお世話よりはマシだって思えるもんね・・・」 苦笑したリナリーが、『じゃあ』と指を立てた。 「ミランダのお買い物には私とエミリアが付きあう・・・にゃんっ!!」 「あたしは嫌だからね!二人で行っておいで!」 エミリアに頭をはたかれたリナリーが、わざとらしく泣き声をあげたが、誰もが彼女の思惑を見抜いて慰めてくれようともしない。 「ひ・・・ひどいよ、みんな! ホントに泣いちゃうんだから!」 「やっぱり嘘泣きだったのかよ!」 「にゃうっ!うううー!!」 神田に頬をつねられて、リナリーが本気の泣き声をあげた。 「か・・・神田君、リナリーちゃん泣いちゃってますから・・・!」 放してあげて、と、ミランダが取り成すと、神田は不満げながらも手を放す。 「リナリーちゃん、大丈夫?」 「ふみゃー!」 助けてもらったリナリーはすかさずミランダに泣きついた。 よしよし、と撫でられるリナリーを見て、ラビが思わず苦笑する。 「ホント・・・甘やかしてくれる人間を見つけるのがうまいさね、リナは」 「僕に甘えればいいのにぃ!」 ぶぅ、と頬を膨らませたアレンの頭を撫でたラビは、視線を戻してぎょっとした。 「リーバー?!」 「へ?」 皆が一斉に見遣った先では、雪の積もった地面に片手をついて、リーバーがしゃがみこんでいる。 「え?!どしたん?! とうとう力尽きたんさ?!」 「そ・・・それもあるかもしれないが・・・」 真っ青な額に汗の玉を浮かべて、リーバーは苦しげな声をあげた。 「4日連続徹夜した後に、ワインはやばかったか・・・」 悪酔いした、と、か弱い声のリーバーに、ミランダが駆け寄ってしゃがみ込む。 「リ・・・リーバーさん、ごめんなさい! 私が無理に誘ったから・・・!」 「いや・・・。 俺もまさか、グリューワイン一杯で酔うとは思わなかったんだが・・・」 予想外、と、苦しげに呟くリーバーにアレンも歩み寄って、屈みこんだ。 「リーバーさん、休憩所に戻った方がいいですよ。 誰か付き添って・・・」 「わっ・・・私が付き添います!!」 すかさず言ったミランダに、放り出されたリナリーがぷくっと膨れる。 「ミランダはお買い物続けるんじゃないの?!」 「だ・・・だって、私のせいでこうなったのに、リーバーさんを放ってはおけませんもの・・・!」 蒼褪めたリーバーから目を放さず言うと、神田が呆れ気味に肩をすくめた。 「ならとっとと城に帰って休んでりゃどうだ?」 「あら、ダメよ! リーバー班長がお城に帰ったら、かえって休むどころじゃないでしょ!」 新参者のくせに、一番リーバーの立場を理解している風のエミリアが、神田の腕を放さないまま声をかける。 「ミランダ、あんたは未練が残るでしょうけど、買物はこの子達にお使いさせなよ!」 「え・・・えぇ・・・」 困惑げに目をあげると、アレンがにこりと笑った。 「任せてください! 僕も、クリスマス市巡りたかったし!」 ね?と、振り返ったラビも大きく頷く。 「あんな大量の荷物はゴメンだけど、常識の範囲内なら任せてくれさ 「リナリーもお手伝いするよ!神田もー!」 「俺は・・・」 「あんたはあたしとグリューワイン飲むんでしょ! リナリー! さっきから散々邪魔してんだから、いい加減離れなさいよ!」 「じゃ・・・邪魔だって言われたー!!!!」 ぎゃあんっと泣きつかれたアレンが、嬉しそうにリナリーの背を撫でた。 「いいじゃないですか あの二人は放っておいて、僕と・・・イタタタタタ!」 リナリーの背を撫でる手をいきなり捻りあげられ、アレンが神田を睨みつける。 「なにすんですか、この乱暴者!!放せ!!」 「てめぇこそ放せこのエロモヤシが! クロス元帥の弟子なんぞに年頃の娘を任せたら、何されるかわかったもんじゃねぇぜ!」 信頼の『し』の字もない非情な見解をされて、アレンが頬を引き攣らせた。 「ひっ・・・酷い!! 好きで師匠の弟子になったんじゃないのに!!」 甲高い声の抗議は、しかし、神田の怒号に圧せられる。 「てめぇの好き嫌いなんざ知るかっ! 事実そうなんだからとっとと離れろィ!!」 「あ、じゃあ俺がー・・・」 アレンをリナリーから引き剥がした途端、漁夫の利とばかりに近寄ってきたラビを二人の目が睨んだ。 「もっと悪ィだろが、このエロウサギ!!」 「万年発情期のクセに!!!!」 二人から強烈な蹴りを受けて、ラビが血反吐を吐きながら吹っ飛ぶ。 「ひっ・・・酷いさ! 俺は親切心で・・・!」 「下心が見え透いてんだよ!」 「この三月ウサギ!!木の下でお茶会でもしてろっつーんですよ!!」 神田に怒鳴られ、アレンに舌を出されたラビがしくしくと泣きじゃくると、苦笑したエミリアが振り解かれた神田の腕を再び取った。 「この二人なら牽制しあうから大丈夫よ。 さ、行っといで、リナリー!」 「ひゃっ!!」 背中を突き飛ばされたリナリーが、きっと振り返った先では、神田がエミリアに抱えられるようにして買い物客の群れの中へと引きずり込まれていく。 「力持ちさねー!」 感嘆の声をあげるラビを、リナリーだけでなくアレンまでもが睨んだ。 「なんで止めてくれないんだよ!」 「牽制するって、ホントに?!」 二人からバラバラのことを聞かれて、ラビは肩をすくめる。 「ヘタに止めてエミリアを敵に回したら後がこわそーだケド、明らかにやり過ぎない限りは牽制する気なんてないさ」 誰も敵には回さない、と、うまく立ち回るラビに唯一、リナリーが頬を膨らませた。 「リナリーは敵に回したよ!」 「どうだかね? お前にそんな度胸があるとは思えんけど?」 クスクスと笑われて、リナリーは真っ赤になった顔をそむける。 「とりあえずミランダ、リーバーは俺とアレンで運ぶさね」 しゃがみこんだままのリーバーの前でどうすることも出来ず、おろおろしていたミランダが、ほっとした顔をあげた。 「お・・・お願いできますか?!」 「はい! ミランダさんも腰痛めちゃったんだから、休んでてくださいね」 時計は解除した方が、と気遣うアレンに苦笑して、ミランダが頷く。 「休憩所でおとなしくしてることにします」 両脇をアレンとラビに支えられ、抱えられたリーバーを気遣いながら、ミランダは不満げについて来るリナリーを振り返った。 「リナリーちゃん、ごめんなさいね」 「いいよ、別に」 とは言いながらも、憮然とした彼女の手を、ミランダの暖かい手が包み込む。 「ラビ君に言った方が確実かもしれないけど・・・」 今は取り込み中だからと、真剣な目で見つめられて息を呑んだ。 「あのね・・・」 すい、と、深呼吸したミランダが次の瞬間、長々と買物リストを口頭でまくし立てる。 「覚えた?」 「む・・・無理だよう!!!!」 涙目で首を振ったリナリーが、きゅっと眉根を寄せた。 「えぇと・・・最初から20番目くらいまでは何とか・・・でももっとあったよね?!」 「そうね、数えてはないけど、50は言ったと思うわ」 「紙に書いてよう!!!!」 「そうしてあげたいけど持って来てなくて・・・あなた!紙とペンを持ってますか?」 肩越しに声をかけると、リーバーが微かに頷く。 「よかった! ちょっと待っててね、リナリーちゃん」 目を丸くして固まったリナリーに言い置いて、ミランダはリーバーに駆け寄った。 休憩所に運び込まれた彼から筆記用具を受け取って、ずらずらと長いリストを書き上げると、リナリーに渡す。 「よろしくね 「う・・・うん・・・」 頷いたリナリーは急いで休憩所を出、追いかけて来たアレンとラビをくるりと振り返った。 「ミランダ・・・さっき班長のこと、『あなた(ダーリン)』って呼んだよね?!」 「聞きました・・・」 「うっかり言っちまったんだろうなぁ・・・」 未だ目を丸くするリナリーに、アレンとラビが苦笑する。 「び・・・びっくりした・・・・・・!」 顔を真っ赤にして俯いてしまったリナリーの肩を、アレンが笑って叩いた。 「仲がよくっていいことじゃないですか」 「本気で邪魔だから、さっさと行こうぜ!」 「う・・・うん・・・」 後ろ髪を引かれる風なリナリーの背を、二人が押す。 「早くしねーと、マジ日が暮れるさ」 「まぁ、夜になっても楽しそうですけどね、ここ」 プレッツェル買って、と、ごねるアレンの頭をはたいて、ラビは弟妹を引率していった。 「あら、これおいしいのね!」 神田と二人、カフェに入ったエミリアは、スパイスのたっぷり入ったホットワインに大きく頷いて、持っていたカップを彼へ差し出した。 「飲んでみなよ! そっちのもちょっとちょうだい 窓辺のカウンター席に並んで座った二人は、神田が不機嫌そうな顔をしてさえいなければ、仲睦まじいカップルに見えたかもしれない。 しかし、特に嫌がりもしない彼に、エミリアは嬉しそうだった。 「あの子達、今頃お買い物がんばってるのかしら」 ミランダのお使いは大変そうだと笑うエミリアの隣で、神田は人混みの奥を指す。 「きっとあれだろ」 見れば、行き交う買い物客の頭の向こうに積み上げられた箱が飛び出て、ゆっくりと移動していた。 「まさか。 品物を補充している業者でしょ?」 「いや。 さっき、リナリーの『重い』って声が聞こえたからな」 「・・・あんたどういう耳してんのよ」 厚いガラス越しでは外の喧騒などほとんど聞こえないのに、姿も見えないほど離れたリナリーの声をしっかり聞き分けた彼にエミリアは呆れる。 「甘い」 「ハイハイ」 目の前を荷物が行き過ぎるまで、目を放さないままカップをつき返した神田に苦笑して、エミリアはまだ湯気をあげるそれに口をつけた。 「これを飲み終わったらあの子達と合流してあげるからさ、そんな心配そーな顔で見てんじゃないわよ」 「は?! お・・・俺は別に・・・!」 明らかに慌てた様子の神田に笑い、エミリアは彼の持つカップに自分のカップを触れ合せる。 「じゃ、ずっとあたしといる?」 その問いには無言になってしまった彼に、エミリアは吹き出した。 「まったく、心配性のお兄ちゃんよね!」 「・・・悪かったな!」 更に不機嫌になった彼の肩に頭を乗せて、エミリアが楽しげに笑う。 「次はどんな手で、妹からお兄ちゃんを奪ってやろうかなー 「お前・・・楽しそうにいじめてんじゃねぇよ。 あいつが泣き出すと色々面倒なんだ」 「ふふ・・・ 加減はわかってるわよ。 伊達に大勢の子供達の世話してないわ」 でも、と、エミリアはイタズラな上目遣いで神田の秀麗な顔を見あげた。 「あんなに反応がいいとさ、つい、いぢめたくなっちゃうのよねー わかるでしょ、と微笑まれて、神田は軽く吐息する。 「俺はお前みたいに悪趣味じゃねぇよ」 「嘘よ。 アレンが本気で突っかかってくるのを見て、楽しんでるくせに クスクスと笑われて、神田はまた無言になった。 その様に、エミリアはまたクスクスと笑う。 「しょうがないお兄ちゃんだこと 似た者同士の二人は、全く逆の表情で外の風景を眺めた。 雪雲に覆われた空は、段々と暗さを増していく。 「また降り出しそうね。 外が寒そうだわ」 「荷物を運ぶのが難儀そうだな」 「あら、じゃあ・・・」 ワインを飲み干して、エミリアがカップを置いた。 「さっきの休憩所に運び込んだ荷物、教会に運んでてあげようよ。 どうせみんな、あのポイントから方舟に乗るんでしょ?」 小首を傾げて神田の顔をのぞき込むと、あっさりと頷く。 「先にクマを運んどくか」 立ち上がった彼に、エミリアも続いた。 「サンタにはあんたもなってよね! 子供たち、絶対喜ぶからさ!」 「・・・・・・」 面倒臭い、と言う呟きはなぜか口から出る前に止まって、神田が頷く。 「やったー はしゃいだ声をあげて頬にキスされた彼の顔は、必要以上に不機嫌にしかめられた。 一方、ミランダのお使いに駆け回っていた三人は、3往復を完了した時点でへこたれ、屋台脇のベンチに座り込んで、ぽりぽりとプレッツェルをかじっていた。 「ねぇ、もう・・・売切れたってことにしない? あれだけ買い込んだんだし、オーナメントは足りるでしょ?」 リナリーの提案に、アレンとラビも、無言で頷く。 「そろそろ班長も歩けるだろうから、後はあったかいお城でツリーの飾りつけでもしてようよ」 そう言った途端、ラビの手からカップが滑り落ち、アレンが飲んでいたお茶を吹いた。 「ど・・・どうしたの・・・?!」 「あー・・・実は俺達さ・・・・・・」 「その、ツリーの飾りつけに飽きて、こっちに来ちゃったんですよね・・・」 「・・・・・・つまり今年も森なのね?」 ため息をついたリナリーに、二人はぎこちなく頷く。 「もう・・・! 毎年毎年、誰があんなに運び込んでるんだよ・・・! いい加減、学習して欲しいよ!」 「それ、俺も思ったんさ。 だから調べてみたら・・・」 思わせぶりに言葉を切ったラビに、リナリーとアレンが耳を寄せた。 「団員が個人で持ち込んだ以上の数・・・つまり、あの部屋を森にしちまうくらいの量が、ある邸から運び込まれてたことが判明したぜ」 「ある邸って、どこ?!」 「量から言って、英国内よね?大陸から船で運ぶのは大変そうだもん」 興味津々と問うアレンと、眉根を寄せて推理するリナリーに、ラビが大きく頷く。 「英国内に邸を持ち、教団に深い繋がりがあって、ミランダのためならどんな無茶もやらかす奴って、だーれだ?」 ラビが人差し指を立てて言うや、二人の顎が、かくんと落ちた。 「そ・・・そんなことやらかす人って言ったら・・・!」 「長官しかいないじゃない・・・・・・!」 がっくりと首を落としたリナリーに、ラビが『正解』と頷く。 「幹にちゃんと、ルベリエ家の紋章が焼印されてたさ。 だから俺、薪にしちまおうっつったんさね」 にんまりと笑ったラビに、アレンも深く頷いた。 「遠慮しなくていいんだね」 「26日になったらお庭でキャンプファイヤーでもしたいね」 リナリーがやさぐれた顔で言うと、ラビは何度も頷く。 「これ以上の重労働はゴメンさ。 ケド、城以外に俺らの逃げ場所ってあるかねぇ・・・?」 「なんかこの時期、ノアも遊び呆けて休戦状態ですもんね。 あの人達、ホントいい加減だから」 世界の敵のクセに、イベント時期になると途端にやる気を失くすノア達の顔を思い浮かべ、アレンは深いため息をついた。 「戦争くらい、真面目にやれっつーんですよ。 なんでもかんでも遊びにしちゃって、しかも今回の原因は兄弟ゲンカとか・・・! 巻き込まれる方の身にもなれっつーの!」 ぐちぐちとぼやくアレンの背を、リナリーが慰めるように撫でてやる。 「・・・けど、戦場にも行けないとなると、ホントに私達って、行動範囲が限られちゃうね」 それが当たり前の世界で生きてきたのだから、今更虚しいとは思わないが、このままでいいのかという疑問は沸いた。 「これだけ世界中飛び回ってんのに、意外と狭いですよね、僕らの世界」 「ら、ってゆーな。 俺はちゃんと見識広めてるさね」 ムッとしてラビが反駁した途端、 「アラでも、逃げ場所はないんでしょ?」 にょきっと突如入って来た顔に、三人が三人とも驚いて仰け反る。 「エ・・・エミリア・・・!」 「びっくりした・・・!」 声を引きつらせたリナリーとアレンにはにこりと笑って、エミリアはベンチの背もたれに頬杖をついた。 「ね、お城にいたくないんならさ、パリの孤児院でボランティアやんない? たまになら子供達の世話も楽しいわよ?」 「孤児院って・・・ティモシーがいたあそこですか?」 「ふぅん・・・おもしろそーさね!」 乗り気な二人の間で、しかし、リナリーは小首を傾げる。 「やってもいいケド、外出を許してもらえるかなぁ?」 今日は特別に許しがもらえたが、エクソシストが任務以外で城外に出ることは、滅多に許されることではなかった。 「アラ、じゃあ神田と二人で行こっかなぁ?」 「行くに決まってるじゃない!!」 すかさず言ってしまってから、リナリーはエミリアに乗せられたことに気づいて、悔しそうな顔をする。 「あはは プレゼントはたっくさん仕入れたから、イブに遊んであげて、寝付いたら枕元に置くだけよ。 前準備はぬいぐるみを包装するくらいだから、面倒でもないでしょ?」 リナリーのふくれっ面をつつきながら言うエミリアに、アレンとラビも頷いた。 「あそこで悪ガキはティモシー一人だったし、子供達のお世話くらい平気ですよ」 「違う場所のパーティって楽しそうさ 兄ちゃんが思いっきり遊んでやるさね 「よかった!」 嬉しそうに笑って、屈んでいたエミリアが身を起こす。 「じゃ、そろそろお城に戻ろうよ! 休憩所にあった荷物はもう、神田がほとんど教会に運んじゃったから!」 「マジで?!ラッキーさ!!」 ラビは嬉しげに腰を浮かせたが、アレンとリナリーは両手で暖かいカップを包んだまま、立ちあがろうとはしなかった。 「だったらもう少し、ここでゆっくりしてていいよね」 「・・・だね。 お使いばっかりで、まだ巡ってないもん」 「アンタ達さり気に酷いわね」 呆れ顔のエミリアに、リナリーはふくれっ面のまま、ひらひらと手を振る。 「構ってくれないお兄ちゃんには、リナリーだって構ってあげないんだもん!」 「あっそ。 じゃあ、神田にはそう言っとくわ」 苦笑してラビを見遣ると、『引率』と呟いてまた腰を下ろした。 「おっけ。 なら班長達にも言っておくから、気が済んだら帰っておいで」 くしゃくしゃと髪をかき回されたリナリーが抗議の声をあげるが、エミリアは構わず踵を返す。 「後でねー 「あいよー♪」 肩越しに睨んでくるリナリーの両脇で、手を振る二人に手を振り返し、エミリアは休憩所へと戻って行った。 「あら・・・じゃあ、残りのお買い物は?」 休憩所でエミリアの報告を聞いたミランダは、困惑げに首を傾げた。 「もう少し、残ってたはずだけど・・・」 「帰りに買って来るでしょ。 お使いを放棄するような子達じゃないわよ」 三人が『売り切れたことにしよう』などと囁いていたことは知らないエミリアが、にこりと笑って手を差し出す。 「それで? あたしは班長とミランダと、どっちに手を貸してあげればいいの?」 問えば二人が二人とも、互いを指した。 「どっちよ」 呆れると、テーブルに突っ伏していたリーバーが顔をあげる。 「俺は一人で歩けるんだが、ミランダは・・・」 「私はイノセンスを使えば平気ですもの」 首を振ってミランダが伸ばした手を、リーバーは頑固に押し留めた。 「だから! それに頼ってたら治るもんも治らなくなるだろ!」 「帰るまでのことですもの。いいでしょ」 にこりと笑ったミランダは再び手を伸ばし、リーバーの腕を肩にかける。 と、大声をあげたためにまたくらくらと目が回りだしたリーバーが、力なく寄りかかって来た。 「ふふ 本当に弱いんですねぇ」 繊細な見た目に似合わぬ、うわばみのミランダに笑われて、リーバーがムッと眉根を寄せる。 「・・・帰ってもどうせ、ツリーの飾りつけやりたいとか言って解除しないんだろうが。 そんなことやってちゃ、お前のことだから二重に怪我をしかねないぞ」 帰ったら寝ていろと、憮然と言ったリーバーに、ミランダは口を尖らせた。 「そんな意地悪を言うあなたには、魔法をかけてあげませんよ?」 「俺は自力でなんとかするから、お前も自力でなんとかしろ」 「まぁ!」 「あのさ、痴話げんかは見てて楽しいんだけど、もうすぐ神田が戻ってくるわよ? そろそろやめないと、ウチの旦那が・・・」 「誰が旦那だ!!」 休憩所のドアを開けるや神田が怒号を放ち、テーブルに着いていた客達が飛び上がる。 「あら、ダーリン。 そんなに大声だしちゃ、他のお客さんに迷惑よ?」 「だったら妙な呼び方すんのやめろ!!」 つかつかとエミリアに歩み寄る神田の道筋にいた客達が、そそくさと立ち上がって休憩所を出て行った。 「アラアラ、追い出しちゃって」 神田の怒号を平然と受け流したエミリアが、肩をすくめてテーブルの二人を指す。 「痴話ゲンカが長くて、まだ準備できてないの」 「またかよ!」 忌々しげに舌打ちした神田が、喧嘩していると言う割には仲良く寄り添った二人を睨んだ。 「こいつらに手はいらねぇだろ。 用は済んだし、とっとと帰るぞ」 残った荷物のいくつかを持ち上げ、踵を返した神田に慌ててエミリアがついていく。 「済んだって、まだ荷物残ってるわよ?」 「後はラビ達がやるだろ。 なんで俺一人で全部やんなきゃいけねぇんだよ!」 言われてみれば、それもそうかと納得したエミリアが二人を振り返った。 「じゃああたし達先に帰るから! ごゆっくりどうぞ!」 そう言って彼女達が出て行ってしまうと、喧嘩を続けるのもなんだか張り合いがなくなった気がして、どちらからともなく苦笑する。 「・・・もうしばらく休んで、動けるようになったら運んでやるよ」 「そうですね・・・働かないのもたまにはいいかも」 くすりと笑ったミランダは、休憩所内のカウンターに声をかけて、酔い覚ましのお茶を注文した。 To be continued. |
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2011年アレン君お誕生日SS第一弾です これはリクエストNo.79『みんなでお買い物』でもありますよー。 うん、6人って結構大変だった(笑) 必要以上にラブラブしてるのが二組いるんですが、あんまり気にしないほうがいいですよ★>書いてるの誰ですかー! 第二弾はポロポロ不幸な子が出てきそうですが、ラストは本当にグッドラックになればいいなぁと思ってますよ! あぁ、うん・・・がんばります;;;; |