† GOOD LUCK MY WAY V †
おもちゃ箱の中のようなロードの世界には、巨大な人形やぬいぐるみがいくつも漂っていた。 アレンは闇の中、人形の虚ろな目に見つめられ、ふかふかのぬいぐるみに頬を撫でられながら進む。 ロードを追いかけるアレンが彼女の扉を抜けた瞬間、甲高い破裂音がした。 「!!」 驚いて足を止めた彼の頭上へ、リボンや紙吹雪が降り注ぐ。 「おかえり、兄弟ぃー 嬉しげな声につぶっていた目を開けると、相変わらずまん丸な身体をした伯爵と陽気なティキ、暢気そうなワイズリーが、煙をあげるクラッカーを振り回していた。 「待っていましたヨ、アレン・ウォーカー 我輩、アナタのお祝いをしようと、昨日から寝ずにお菓子を作ってたんですヨ 両手を広げ、親愛を込めてアレンを抱きしめた伯爵の頭上ではしかし、黒猫が歓迎とは正反対の様子で毛を逆立てている。 「ルル=ベルは歓迎してくれてないみたいですけど」 「ボクだって歓迎してないよっ!!」 苛立ちを隠さない声を伯爵の肩越しに見れば、目を吊り上げたシェリルが今にも噛みつかんばかりの形相でアレンを睨んでいた。 「なんで家族で過ごすクリスマスに、こんなよそ者を迎えなきゃならないんだいっ?!」 イライラと足を踏み鳴らすシェリルに、ワイズリーが暢気に笑う。 「家族だとも。 ウォーカーは我らと同じ、ノアの宿主なのだからな」 「ボクは認めてないよっ!こんな性悪っ!性悪っ!!」 真っ直ぐに指差されてムッとしたアレンが、伯爵を押しのけてロードを抱き上げた。 「ご招待ありがとう 「どういたしましてー にこりと笑ったアレンの頬にロードがキスをした瞬間、シェリルが絞め殺される鶏のような声で絶叫する。 「・・・さっ・・・騒がしいですヨ、シェリル。びっくりしました・・・!」 エルフのように長く尖った耳を両手で塞いだ伯爵へ、シェリルは一足に詰め寄った。 「千年公!!!! こんっっっっなふしだらな少年を我が家に入れるなんて、ボクは我慢できないよ!!」 「ふ・・・ふしだらってシェリル、キスしたのはロードなんだから、それを言うならむしろロー・・・」 「ティッッッッキィィィィィィィィィィ!!!! ボクの可愛いロードに無礼な口を利くことは断じて許さないからね!!!!」 ヒートアップし、ますます声を甲高くしていくシェリルの前で、伯爵は耳を塞ぐ手を下ろせずにいる。 と、彼の窮状を悟ったか、伯爵の帽子の上にいた黒猫がするりと降りるや巨大な蛇と化し、しゅるしゅると床を擦りながらシェリルに這い寄って締め上げた。 「きゅう!!」 一瞬で窒息し、目を回したシェリルが床に倒れると、伯爵はほっと吐息して両手を下ろす。 「ありがとう、ルル 伯爵の大きな手に撫でられて、大蛇は嬉しげに舌を伸ばした。 「サァサ ウォーカーも招待を喜んでくれたことですし ドウゾドウゾ奥へ 「べっ・・・別に喜んでなんかいませんよっ!!」 大声をあげたアレンがロードをティキへ押し付ける。 「なんかムカッとしたから反射的に・・・」 「なんだよそれぇー!」 アレンの言い訳にロードが、頬をぱんぱんに膨らませた。 「お前、ロードからキスまでしてもらっておいて、それはないんじゃないの?」 「確かにふしだらよの」 ティキとワイズリーからも冷たい目で睨まれて、アレンは鼻を鳴らす。 「なんとでも言えばいいでしょ。 僕は、目的さえ果たせればそれでいいんですから にんまりと笑ったアレンの手には、ロードが持っていたはずのリナリー人形があった。 「あぁっ?!いつの間に?!」 驚いたロードが自分の手を見ると、ティムキャンピーが白い歯を剥いて、にかりと笑っている。 「い・・・今までどこに・・・?!」 「ティムならずっと僕の帽子の中にいましたよ?」 してやったりと笑うアレンを睨んだ目で、ロードは辺りを見回した。 「これだけ人数がいて、なんで気づかなかったのぉ?!」 苛立ちのまま、ティムキャンピーをアレンに投げつけるロードに、ワイズリーが肩をすくめる。 「いやぁ・・・うっかり、デザイアスがラストルに絞め殺されるシーンに見入っておったからのう」 「プゥ!人聞きの悪い! 死んでませんよっ」 よいしょ、と、床に伸びたシェリルを抱き起こした伯爵が、ぺちぺちと彼の頬を叩いた。 「しっかりしてください、シェリル。起きて」 伯爵の声にうっすらと目を開けたシェリルは、ぼんやりとした顔で辺りを見回す。 「どうやら落ち着いてくれたようですネ ルル シェリルを運んであげなサイ 伯爵の言葉に頷いた大蛇は、たちまち巨大な黒豹と化してシェリルの襟首に噛みつき、彼を猫の仔のように運んでいった。 「・・・サテ、アレン・ウォーカー」 プゥ、と、また吐息して、伯爵は丸い肩をすくめる。 「ロードが人形に変えたお嬢さんを取り戻して、王子の役目を果たしたと言いたげですが、サテ?」 にんまりと、伯爵は笑みを深めた。 「ずっと人形のまま、教団に飾っておく気ですか? せっかくの戦力を、モッタイナイことですねぇ クスクスと笑い出した伯爵を、アレンがきつく睨み据える。 「・・・それは、このままロードの力の範囲外に出しても、リナリーは元に戻らないということですか?」 甘かったか、と、歯噛みするアレンに伯爵は、大仰に頷いた。 「モチロンですとも そもそも・・・」 「僕の能力に、範囲外なんてものはないんだよぉ アレンと伯爵の間に割り込んで、ロードがケタケタと笑う。 「甘かったねぇ、アレンー さぁ お前の姫を元に戻して欲しかったら、僕達のパーティに参加しなよぉ 「・・・ちっ」 思わず舌打ちしたアレンは、背後から自分の首に腕を回したティキの顔を間近に見て、ぎくりとした。 「少〜年っ そんなイヤそーな顔しないでさ、陽気にやろうぜ!陽気に!」 「そっ・・・その不吉な手を僕に近づけんじゃないですよ、あんた!」 もぎもぎともがき、潜り抜けてティキの手を避けたアレンが、怒った猫のように毛を逆立てる。 「えぇー・・・なんだよ、その反応。 そんなに嫌わなくたっていいだろ」 ショックを隠せないとばかり、悲しそうな顔をするティキを、アレンはまっすぐに指した。 「僕の心臓に穴開けたこと、また忘れてんでしょこの鳥頭!!!! やった方は忘れても、やられた方は一生覚えてんですからね!!!!」 「あー・・・そのことか。 うん、ゴメン。忘れてた」 「きいいいいいいいいいいいいいいい!!!!」 アレンがシェリルにも勝る甲高い声をあげ、伯爵がまた、困惑げに耳を塞ぐ。 「わ・・・我輩をいぢめるのはヤメテください・・・」 「そんなにうるさいのぉ?」 ロードがいたずらっぽく笑った瞬間、彼女すら思いもよらず床に『道』が現れ、飛び出した大蛇がこうべを逆さに落ちて来た。 「うわっ!!!!」 慌てて避けたアレンの代わりに、傍にいたティキの上半身が全て大蛇の口に収まる。 「おぉー! これが噂に聞く、蛇の狩りなのだな!」 歓声をあげて、ワイズリーが巨大な蛇柱と化したティキに駆け寄った。 「大蛇は大木に登り、下を通りかかる獲物に向かって落ちて来ると言うが・・・生で見るとまた、迫力だのう!」 暢気に手を叩いてあらゆる角度から蛇柱を眺めたワイズリーは、蛇の皮越しにティキをつつく。 「のうのうジョイド? 蛇の腹に収まるのはどんな気分だ? 温かいのかの?それともやはり冷たいのだろうか?」 のうのう、と、楽しげなワイズリーの声に蛇の目が動いた。 ややして、その視界に呆然とするアレンを捉えるや、忌々しげにティキを吐き出す。 「く・・・食われるかと思った・・・!」 「イヤ、食われてましたヨ、ティキぽん」 がくがくと震えるティキの背を叩いて苦笑した伯爵は、鎌首をもたげる大蛇へと向き直った。 「ルル アナタが我輩に忠実なのは、よーく知ってますヨ デモ、今日の彼はパーティの主役なのですから、食べないでくださいナ アレンへ向けて威嚇音をあげる大蛇に微笑みかけた伯爵が、アレンにも笑みを向ける。 「アレン・ウォーカー ここはひとつ、穏便にいきましょ 「・・・・・・いいでしょう」 伯爵の顔を立てるというよりは、敵地で首領に逆らうことの危険を思い、アレンは不承不承頷いた。 「ウフ お嬢さんにも席を用意しましょうネ たちまち上機嫌になった伯爵が、先に立ってアレンを導く。 「アァ・・・ このままずっとアナタがいてくれればいいのに・・・ 教団の・・・いや、中央庁の連中より、よほど暖かく迎えてくれる伯爵にほだされまいと殊更に顔をしかめ、アレンは彼の後へついて行った。 ロードの『扉』が現れた部屋を出ると、そこはまた部屋で、暖炉に赤々と火が入っていた。 だが伯爵はその部屋へ案内したわけではないらしく、そのままそこを通り抜けてドアを開け、また続き部屋へと入る。 やはりそこも暖炉で暖められ、ソファにはいくつもクッションが置かれて、居心地のよさそうな部屋ではあったが、それもただ通り過ぎた。 そうやって次々と抜ける部屋は広くて20歩ほど、狭いものは10歩ほどで次のドアに手が届くのだが、なんせ数が多い。 そんな部屋をいくつも抜けるうち、アレンはふと、以前、師と行った城を思い浮かべた。 「お城・・・なんですね、ここは・・・・・・」 ロンドンにある屋敷などは、廊下に沿ってドアが並んでいるものだが、古い城や宮殿には、小部屋を通り抜けていくものがある。 そう呟くと伯爵は肩越し、微笑んで頷いた。 「シェリル所有のカントリー・ハウスですヨ 彼は普段、ロンドンに住んでますケド、休暇中はコチラにいることが多いのデス 「はぁ・・・。 結構なことですね」 調度品を見るまでもなく、各部屋の暖炉に火が入っているだけでこの家が随分裕福であることはわかる。 こっちは『大事な戦闘員』であるエクソシストの部屋にさえ、暖房器具のひとつもないのにと、今朝のリナリーと同じ不満を抱えるアレンの腰に、ロードが抱きついた。 「だからさぁー ウチの子になっちゃいなよ、アレンー そうすれば毎日こーんなおうちで暮らせて、千年公のおいしいお菓子だって食べ放題なんだよぉ?」 「それでも心が荒むような場所にはいたかないですよ」 ふんっとアレンが鼻を鳴らすと、ロードが心底驚いたとばかり、目を見開く。 「とっくに荒んでんじゃんー!!!!」 それには一言の反論も出来ず、アレンは気まずげに口をつぐんだ。 「そっ・・・それより、まだ着かないんですか?!」 慌てて話を摩り替えると、先へ行く伯爵が肩越し、にこりと笑う。 「お待たせしましたネ、アレン・ウォーカー・・・いえ、14番目 その呼ばれ方にアレンのこめかみが引き攣ったものの、伯爵は気にせずドアを開いた。 「おいでなさい、ノアのパーティへ 途端、甘い匂いが漂ってきて、アレンの目は伯爵の肩越し、部屋の中へと向かう。 促されて中に入ると、今までとは段違いに広い部屋の中心に置かれた、大きなテーブルに所狭しとご馳走が並んでいた。 アレンは表情こそ鹿爪らしく引き締めていたものの、目の輝きは隠せず、伯爵は満足げに頷く。 「サァサ 主賓の席へドウゾ 主である伯爵の、向かいの席へ案内されたアレンは、リナリーのぬいぐるみを抱きしめたまま、警戒気味に座った。 ふと奥を見遣れば、主人の席の傍ら・・・『二番目』の実力者の席には、既にシェリルが座っている。 相変わらず、殺しそうな目で睨んでくる彼に、アレンは小さく舌を出した。 ムッとしたシェリルがハンカチの端を噛み締めて悪口雑言を封じ込めていると、彼の苦痛など忖度(そんたく)しない連中がどやどやとやって来る。 「あー!!ようやくイブのメシかよ! いっくら夜中に食べるもんだっつっても待たせすぎ!!」 「軽食しか食べちゃダメって、シェリルのケチンボ!!ヒッ!!!!」 部屋に入るやテーブルに膝を乗せ、舌を出して迫る双子が突然宙に浮いて、激しくぶつけ合わされた。 「ごっ!!」 「がっ!!」 団子になって床に落とされた双子は、頭から血を迸らせてテーブルに両手をつく。 「っにすんだシェリル!!」 「むっちゃ痛かった!!ヒィィィ!!!!」 猛然と抗議するが、逆にシェリルの冷酷極まりない目で睨み返されて、じりじりと姿勢を戻した。 「なっ・・・なんだってんだよ、いきなり糸とかさ・・・!」 「デビッ!! デビ見てアレッ!!ヒッ!!」 大声をあげたジャスデロの指す先を見遣って、デビットが目を剥く。 「クッ・・・クロス弟子ィィィィィィィィ!!!!」 「・・・その呼び方もやめてくれません? つい昨日、それですごく嫌な思いをしたんで」 ムッと眉根を寄せたアレンに、しかし、人の話を聞かない双子は詰め寄った。 「なんでお前がここにいんだよ、弟子ィィィィ!!!!」 「年末っ!! 年末の取立て厳しかった!!デロ泣いちゃった!!ヒィィ!!」 デビットはともかく、泣き縋るジャスデロにアレンの表情が少し変化する。 「あ・・・それは・・・僕も・・・です・・・・・・」 「で・・・弟子・・・・・・!」 途端にデビットも涙ぐんで、同じクロスの借金仲間である三人は強く抱き合った。 「よく乗りこえたっ! よくあの借金取りを避け、生きてこの場に居合わせたものだっ!!」 デビットの芝居がかった言葉にジャスデロが感涙し、アレンの目尻にも涙が浮かぶ。 「強く・・・! 強く生きましょうね・・・!」 なにがあっても負けるものかと、妙な連帯感が三人の絆を深くした。 「おぉ・・・。 さすが14番目、ボンデスの絆に割って入るとは、大したものよ」 感心したワイズリーが、くるりと背後を振り返る。 「のう、ラストル。 おぬしもそう、嫉妬深い目で睨んでおらんで、彼を快く迎えてはどうだ?」 「・・・お断りです」 ようやく人間の姿に戻ったルル=ベルが、珍しくも不快感を隠そうとせず、きつく眉根を寄せた。 「おいおい、そんなに眉間にシワ寄せちゃ、せっかくの美人が台無しだぜ? オンナノコはもっと可愛くさぁ 「・・・また食われたいのですか、ティキ?」 しゅるる、と、ルル=ベルの舌だけが蛇と化し、長く伸びる。 「あ、それは勘弁! あんな経験、一度でいいや!」 ぶるぶると首を振るティキに鼻を鳴らし、ルル=ベルはつかつかとテーブルへ向かった。 アレンの傍らを過ぎる時、ものすごい目で睨んでやったが、アレンはにこりと笑みを返して、憎たらしいことこの上ない。 「さぁルル、こちらだよ」 アレンを憎むことに関しては、ルル=ベルと共感するシェリルが席を立ち、彼女の椅子を引いてやった。 「・・・後で一緒に、双子のお仕置きをしよう。 あんな忌々しい敵と仲良くするなんて、ボクは許せないよ」 「もちろんです、シェリル」 二人の冷たい目に睨まれて、双子は慌ててアレンから離れる。 「べっ・・・別に馴れ合ってなんかないんだからな!!」 「悲しくなっただけ!ヒッ!!」 あっさりと裏切ってくれた双子に舌打ちし、アレンは改めて席に着いた。 と、伯爵が跳ねるような足取りで主の席に立ち、一族にそれぞれ、着席を促す。 「アァ・・・ よく集まってくれました、皆さん 家族の全員ではありませんが、兄弟の大半が集まったことは嬉しい限りですヨ 「あ、ホントだ。 フィードラ達はぁ?」 ロードがホステスの席に座って首を傾げると、その仕草だけで既に表情を蕩かせていたシェリルがコクコクと頷いた。 「マイトラがフィードラの蟲を使って何か作りたいそうでねぇ。 ここにいない子達は、みんな何かしらでつきあって、方舟にいるよ 「ふぅん・・・。 イブにお仕事なんて、かわいそ」 早速テーブルのお菓子に手を伸ばそうとしたロードをやんわりと止めて、伯爵はシャンパンの瓶を取り上げる。 「ここにいない子達には、もうイブのお料理を届けてますヨ アチラも盛り上がっているでしょうから、コチラも負けずに盛り上がりましょう 言うや、伯爵が勢いよく瓶を振り立てた。 「サァテ 瓶の首を握った彼がコルクに指をかけると、皆、一様に耳を塞ぎ、わくわくした顔の片目をつぶって、そっと様子を伺う。 と、その中でアレンが、つい、と立ち上がった。 「あの! よければそれ、僕にやらせてもらえませんか?!」 突然の大声に、破裂音を待っていたノア達は話の腰を折られた時のような顔をして、アレンを見遣る。 「実は僕、お酒が飲めなくて・・・。 シャンパンにはお付き合いできないので、せめてコルクを抜いて、グラスに注ぐ役はやらせてください」 「アラ・・・。 そう言えばまだ、子供なのでしたね」 14番目とは30年以上の因縁があるため、全く意識していなかったが、確かに目の前のアレンはまだ子供だった。 「アァ・・・我輩としたことが、失念していました。 そういうことでしたら、ドウゾ 快くシャンパンを渡した伯爵ににこりと笑ったアレンは、リナリー人形をティムキャンピーに預けて、受け取った瓶のコルクに指をかける。 「いっきますよー!!」 「ちょっ!!少年!! 俺にコルク向けるのやめっ!!」 「なんでだよぉー 「透過できるのですから、問題ないでしょう」 面白がっているロードと冷たいルル=ベルに両脇を固められ、ティキが諦め顔でぎゅっと目をつぶった。 「じゃ! 覚悟もいいみたいだしー アレンの顔が、ノアよりも更に邪悪に歪む。 「そーれ コルクは弾き飛ばされてティキの眉間をすり抜け、シャンパンが彼の頭上に降り注いだ。 とっくに逃げ出したロードとルル=ベルの間で、ずぶ濡れのティキが忌々しげに歯噛みする。 「少年・・・! コルクはフェイクで、本命はシャンパンか!」 「うははー ちょっとした仕返しですよ まだまだ足りないと言いたげなアレンに舌打ちしたティキが、彼の手からシャンパンを取り上げてグラスに注いだ。 「ホイ、千年公・・・と、シェリル。ルルも。 俺の分と・・・ジジィは?飲んでいいんだよな?」 「俺はっ?!」 「俺達もっ!ヒッ!!」 身を乗り出す双子には、ティキが首を振る。 「少年が子供だから辞退つってんのに、同い年のお前らが飲んでいいわけねーだろ」 「同い年じゃない!!」 「2コ上!ジジィより年上!!ヒィィッ!!」 全然違うのだと主張するも、ティキは聞いてくれなかった。 「少年、ジュースでいいよな? ロードと、お前らもジュース」 問答無用でジュースを押し付けられ、不満顔の双子にアレンが笑い出す。 「それでは シャンパングラスを掲げた伯爵の声に、皆が振り返った。 「皆さん、新しい家族に・・・」 「違います」 きっぱりと否定されて、伯爵が悲しげに咳払いする。 「では・・・そうですネ、アレン・ウォーカーに乾杯しましょう 伯爵がグラスを再び掲げるが、 「ボクは嫌だよっ! なんでこんな、いけ好かない小僧のために乾杯しなきゃいけないんだい?!」 シェリルの尖った声と同意して頷くルル=ベルが、再び乾杯の声を止めた。 「ンマァ・・・。 シェリル、お客様の前ですヨ?」 困惑げに伯爵がたしなめるものの、シェリルは聞く耳を持たない。 絶対に嫌だと強情を張るシェリルに困り果て、伯爵はもう一度咳払いをした。 「で・・・では・・・そうですネ。 楽しいパーティに!」 ようやく頷いたシェリルにホッとして、伯爵が杯を掲げる。 「乾杯 「かんぱーい 一部不満げな面々を除いて楽しげに唱和した兄弟が、グラスを飲み干した。 「おぉ さすがに高い酒はうまいねぇ もう一杯飲んじゃお。千年公は?」 ティキが早速瓶を傾けると、伯爵もグラスを差し出す。 「デハ、我輩もいただきましょう 「ルルは?」 「・・・もう結構です」 つんっと、ルル=ベルは冷たく言ってグラスをテーブルに置いた。 「シェリル、それ飲まんのなら私がもらってもよいかの?」 ワイズリーが、忌々しげな顔でそっぽを向くシェリルの袖を引くと、すんなりとグラスが下りてくる。 「ふふ・・・ 実にうまいな、これは。 やはり、兄弟に裕福な者がいるといないとでは大違いだの」 転生の記憶を持ち続ける智のノアは、嬉しげに言って二杯目を飲み干した。 「ずっりー!!!! なんでジジィはいいんだよ!!」 「今は年下なのにっ!ヒィィィッ!!」 絶叫して詰め寄った双子がシャンパンの瓶に手を伸ばすが、逆さにしても美酒は一滴も落ちてこない。 「きいいいいいいいいいいい!!!!」 「ヒイイイイイイイイイイイイ!!!!」 ヒステリックにシャンパンの瓶を割った双子をきれいに無視して、ワイズリーは伯爵へ向き直った。 「公や もう、ご自慢の料理をいただいてもよいかの?」 「モチロンですよ、ワイズリー サァサ 皆さんもどうぞ楽しんで・・・」 不意に伯爵の声が途切れ、シェリルが振り返る。 その視線の先では伯爵が、胸を押さえて俯いていた。 「千年公? どうし・・・」 歩み寄ったシェリルは、低く唸りだした伯爵の背を撫でながら屈みこむ。 「千年公、寝てないのに一気に二杯も飲むから、具合が悪くなったのじゃないかな? 少し座って休んでは・・・っ?!」 突然危険を感じ、シェリルが大きく跳び退る。 一瞬前まで彼がいた場所では、伯爵が獲物を仕留め損ねた狼のように歯を剥いて、獰猛に唸っていた。 「千年公・・・?!」 目を見開いたシェリルは、目の端に映った光景に素早く反応し、ロードを抱きしめて床に転がる。 「ぎゃあああああああああああああああああ!!!!」 「ヒィイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!」 ロードの両側にいた双子がティキとルル=ベルに喰いつかれ、絶叫を上げた。 「これは一体・・・!」 ロードを先に立たせ、逃げるよう背を押したシェリルは、ワイズリーの牙をよけ損ねて再び床に這う。 「・・・なんなんだよ・・・!」 飢えた獣のように目を光らせ、歯を剥く家族の姿を、ロードが呆然と見つめた。 だが視線を巡らせるうち、この部屋で一人だけ、楽しげに状況を眺める者がいる。 「アレン・・・!」 クスクスと笑う彼を睨み、ロードは詰め寄った。 「みんなに何をやったのぉ?!」 「後ろ」 ひょい、とアレンが背後を指すや、ロードは慌てて続き部屋へ飛び込み、襲い掛かって来た牙をよける。 「お・・・お父様・・・!」 絶対に自分を襲うはずがないと信頼するシェリルの攻撃に愕然とするロードを、とっくに逃げこんでいたアレンがクスクスと笑った。 「なんなの?!」 「別に。 いつも君が僕にやってくれることを、そのままお返ししているだけ ぺろりと舌を出したアレンが、鏡に映った自分の姿に見えて、ロードが声を失う。 「どう? 大事な家族が敵の罠にはまって、目の前で壊れていくのって。 最高の演出でしょぉ?」 ロードの口調を真似るアレンをきつく睨みながらも、彼の口から出た『敵』と言う言葉に胸がちりりと痛んだ。 「・・・・・・敵じゃない」 「え?」 ロードがぽつりと呟いた言葉に、アレンが瞬く。 「お前は家族だ!敵なんかじゃない!!」 真っ直ぐに見つめられ、アレンが息を呑んだ。 長い沈黙を挟んで、アレンは表情を消したまま、首を振る。 「僕は君達の家族じゃない。 エクソシスト・・・君達の敵だよ」 「違・・・・・・っ!!」 頑迷に首を振ったロードの背に、壁を透過してティキの手が伸びた。 「あぁ、そう言えばドアも鍵も無効にしちゃうのがいるんでした」 ここも危ないな、とアレンが呟いた途端、透過するまでもなく壁が破壊されて、ドラゴンと化したルル=ベルの牙が迫る。 「ね? ゆっくり交渉できる所に行きませんか?」 アレンの背後に方舟の『扉』が開くと、リナリー人形を大事そうに抱えたティムキャンピーに続いて、ティキの手を振りほどいたロードも駆け込んだ。 「では、おいとま致します、皆さん 大仰に一礼し、方舟の中に退いたアレンの鼻先を、ルル=ベルの牙がすり抜ける。 「ふふ 怖いですねぇ、彼女。 やっぱり女の人の恨みって、買うもんじゃないですね」 「・・・!」 振り向けば日が燦々と降り注ぐ白い街で、ただロードの表情だけが暗かった。 「いつも余裕綽々の君も、家族をいたぶられればそんな顔するんですよね。 ・・・自分がやられて嫌なことは人にするんじゃありません、って、伯爵は教えてくれませんでした?」 「・・・・・・アレン。 お前の望みは、リナリーを元に戻すことでしょ? 飲んであげるよ、だから僕の家族を・・・!」 詰め寄るロードを見下ろし、アレンは白々しいほどに優しげな笑みを浮かべる。 「いいですよ。 君の望みを、叶えてあげましょ」 クスクスと耳障りな笑声をあげながら、アレンはポケットから小瓶を取り出した。 「なにそれ・・・?」 見慣れないラベルが貼られた小瓶を凝視するロードへ、アレンは空のそれを放る。 「いざという時のためにって、コムイさんに押し付けられたコムビタンです」 「コ・・・?」 聞き慣れない名前に戸惑うロードに、アレンはここに来て初めて、忌々しげな顔をした。 「効果は君も見たでしょ。 君のパパや伯爵が、よだれだっらだらのみっともないゾンビになった薬ですよ」 「何のためにこんな・・・!」 信じがたい薬効に戸惑うロードの前で、アレンは『強力すぎた強壮剤』と言う訳にも行かず、目を泳がせる。 「・・・教団のマッドサイエンティストが作った兵器の副産物・・・ですかね」 「なんっ・・・!!」 ロードが驚愕してくれたことにホッとして、アレンは再び、余裕に満ちた笑みを浮かべた。 「そしてこれが、まさかの時のためにって、バクさんが持たせてくれた解毒剤です」 ポケットからもう一つの小瓶を取り出したアレンは、ロードにそれを見せびらかしつつリナリー人形を抱えたティムキャンピーを呼び寄せる。 「さぁ、ロード? 交渉ですよ」 リナリー人形と解毒剤を並べたアレンに、ロードが頷いた。 途端、人形がぐんぐんと大きくなり、リナリーの身長ほどになった瞬間、軽い破裂音と共に元の彼女が現れる。 「・・・・・・あれ?」 大きな目を丸くして地面に座り込んだリナリーが、傍らのアレンを見上げた。 「リナリー・・・よかった」 ホッとした顔でリナリーへ手を差し伸べるアレンを、ロードが嫉妬深い目で睨む。 その彼女の目の前でアレンの手を取ったリナリーは、戸惑う目を巡らせた。 「ここ・・・方舟だよね・・・? なんで私、こんな所に・・・ロード?!」 臨戦態勢になったリナリーへ、ロードは鼻を鳴らす。 「・・・アレン、約束だよぉ」 「そうですね」 解毒剤をロードへ放ると、受け取った彼女は悔しそうに・・・いや、むしろ寂しそうに眉根を寄せ、アレンを上目遣いに見上げた。 「・・・・・・来てはくれないんだね」 「何度も言っているでしょう。 僕は君達の敵だって」 二人の間に漂う異様な雰囲気に、リナリーが困惑する。 「・・・・・・ふん」 手の中の解毒剤を見つめたのち、ロードはくるりと踵を返した。 「今日は姫と一緒に帰してあげるよ。 でも・・・次はこうは行かないからね」 諦めない、と、言外に言うロードへ、アレンは苦笑する。 「わかってくれませんか? 僕は君達の家族じゃない・・・彼女の仲間です」 「アレンく・・・っ?!」 いきなり抱き寄せられたリナリーが、顔を真っ赤にした。 肩越し、酷く傷ついたような顔をしたロードに見つめられ、居心地悪い思いをしていると、彼女はふいっと目を逸らしてドアを開ける。 「アレンなんて・・・嫌い」 ポツリと呟かれた言葉に、なぜかリナリーを抱くアレンの手が、ピクリと震えた。 「お前が敵だって言うなら・・・もういい。 僕は敵らしく、お前を捕らえて、繋いで、一生出られないようにしてあげる」 「・・・その前に、僕に倒されないといいね」 自分でも不思議なほどためらいがちに言うと、ロードはもう、振り返りもせずにドアを抜ける。 「今日はバイバイ。 でも・・・さっき言ったことは必ず、実行するから」 乱暴に閉ざされたドアをじっと見つめたまま、腕に力をこめるアレンを、リナリーが困惑げに見つめた。 「アレン君・・・なにがあったの?」 ややして改めて問うと、アレンは彼女を抱きしめていたことに今頃気づいたらしく、慌ててリナリーから離れる。 「ごっ・・・ごめんなさい! うっかり人形のままのつもりで・・・!」 「人形?」 ムッとした顔のリナリーに、アレンは慌てて事情を説明した。 「そ・・・っか。 私、本当にぬいぐるみになっちゃってたのか・・・」 眉根を寄せて俯いたリナリーが、拳を握る。 「悔しいな・・・! ロードにまた、やられちゃうなんて・・・・・・!」 ロードがノア一の実力者だとはわかっていても、年下にしか見えない彼女に何度も敗退していることが悔しくてならなかった。 「でも、今回『も』ちゃんと、助けられましたよ?」 どこか得意げに、アレンが笑う。 大きな目を瞬いたリナリーは、思わず吹き出した。 「そうだね・・・! ことロードに関しては、いつもアレン君は助けてくれるね」 クスクスと笑うリナリーの手を取ったアレンは、気取って一礼する。 「ですから姫、どうか・・・」 「だめ」 またクスクスと笑って、リナリーは首を振った。 「王子の地位は、まだ渡せないんだよ」 「えぇー・・・!」 情けなく眉根を寄せて、アレンが口を尖らせる。 「そろそろ王子の役目、交替でいいでしょ? いつもいつも僕のこと、姫って・・・」 今回こそは、と、アレンはティムキャンピーを呼び寄せた。 「ティムのメモリーを見れば、絶対リナリーも僕こと白馬の王子だって言ってくれますよ!」 「だったら見ない! 絶対見ない!!」 牙の並んだ口を開けるティムキャンピーの前で、リナリーは目を覆い、背を向ける。 「えぇー! ねぇねぇ、見てってば! 王子の活躍!見てくださいよぅ!」 「ヤダったらヤー!」 はしゃいだ声をあげてじゃれあう二人の間で、ティムキャンピーは呆れたように口を閉じて、大きなため息をついた。 ―――― 一方、ノアの居城では。 解毒剤を投与され、呆然と床にへたり込む兄弟達を置いて部屋を出たロードは、憮然と続き部屋を歩いていた。 手には、アレンが落として行った赤いサンタ帽を握りしめている。 「・・・・・・キライだ」 呟いた言葉に、目頭が熱くなった。 「きらい・・・アレンなんて・・・嫌い・・・」 震える手が、サンタ帽を抱きしめる。 「早く帰って来てよ・・・ネア・・・・・・!」 声を殺して泣くロードの涙が、帽子に濃い染みを作った。 「あぁー!帰ってきたさ!」 夜中の孤児院に遠慮なく上がった大声に院長とエミリアが飛び上がり、慌ててラビの口を覆った。 「しー!静かに!」 「子供たちが起きちゃうでしょぉ!!」 二人してたしなめられ、ラビが気まずげに頷く。 が、そんな彼らを完全に無視して、刀の鯉口を切った神田がアレンに迫った。 「てめぇ、今までどこ行ってやがった! 返答次第じゃブッた斬る!!」 「って、もう斬る気満々じゃないですか!!!!」 今にも居合い斬りされそうな迫力に、アレンが全力で後ずさる。 「僕の話を聞く気なんか、まったくないでしょ!!」 「くだらねぇ言い訳してもブッた斬る!!」 「ひっ!!」 柄に手をかけた神田から逃げ惑うアレンを、リナリーが背後にかばった。 「待って! 私が話すから!」 リナリーが間に入り、アレンから聞いた事情を話すと、補足としてティムキャンピーも動画を映し出す。 「ね?! 僕、一人でがんばったんですよ?!」 ここぞとばかりにアピールするアレンに、神田も舌打ちして刀を収めた。 「・・・そこは疑ってごめんなさい、じゃないのかな」 神田の態度を甚だしく不快に思いつつ、アレンは唖然とする院長に苦笑する。 「また、変な人の侵入を許しちゃってすみません。 リンクに言って、鴉の結界を張りなおしてもらいますから」 「え・・・えぇ、そうね・・・。 そうしていただけると嬉しいわ・・・・・・」 引き攣った声をあげる院長に頷き、アレンはエミリアを見遣った。 「これ以上ここにいて迷惑になってはいけませんから、おいとましませんか?」 「そう・・・ね」 少し残念そうに頷いたエミリアが、院長の頬にキスする。 「じゃあ、院長先生。 今夜は失礼します」 「そう・・・クリスマスのパーティまではいて欲しかったけど」 それは本心か、院長はさびしそうに笑った。 と、同じく残念そうに肩をすくめたラビが、アレンの耳元を指す。 「さすがにもう、リンクも起きてるだろうからさ、さっさと手配してもらおうぜ」 無線しろ、と言われたアレンが、思いっきり顔をしかめた。 「・・・リンクってば自分が勝手に寝てたくせに、置いて来たことで絶対ぎゃあぎゃあ言いますよ。 連絡すんの、やだなぁ・・・」 「四の五の言ってんじゃねぇよ、モヤシ! とっととやれ!」 非常に不快な言い方をされて、顔を引き攣らせながらアレンは無線を開く。 「あー・・・リンク、こんばんは」 案の定、部屋中に響くほどの声で怒鳴り返されて、アレンは耳から無線機をむしり取った。 寝ている子供達を起こしてはいけないからと、手近にあったティーカップを伏せて音を閉じ込める。 ・・・しばらくして、リンクが一通り怒鳴り終え、息切れした頃を見計らって、ティーカップの下から無線機を取り出したアレンが用を伝えた。 「じゃ、そゆことで! 鴉が来たら入れ替わりに帰りますんで!」 素早く用件を伝えるや、無線機の電源を落としたアレンに、リナリーが惜しみない拍手を送る。 「アレン君、監査官の扱いに慣れてきたねぇ 「生真面目な分、行動の予測が簡単なんですよね、リンクは」 にこりと笑って、無線機をポケットにしまいこんだアレンに院長が笑い出した。 アレンの本性を見抜いている彼女の笑声に少し、居心地の悪い思いをしながらアレンも苦笑する。 「ほんじゃ! 帰る準備しますか!」 ラビが声をかけると、頷いた面々がそれぞれに動き出した。 孤児院に派遣された鴉と入れ替わりに教団本部へ帰るや、アレンは方舟の間で待ち構えていたリンクに襟首を掴まれ、連行されてしまった。 「なんだよ・・・ちぇーっ!!」 事情を説明しようにも、聞く耳持たずに行ってしまったリンクの背に、リナリーが思いっきり舌を出す。 「ま、今に始まったこっちゃないさね」 落ち着けと、笑うラビにも頬を膨らませた。 「はは! 機嫌直しに、こっちのパーティに行こうぜ! 大人達のパーティはまだやってんだろ・・・っぅああああああああああああああああああああああ!!!!」 時計を見たラビが突然大声をあげて、リナリーだけでなくエミリアや神田までもが飛び上がる。 「なっ・・・なんだてめぇ!!」 驚いてしまった照れ隠しか、殊更に凶悪面の神田に迫られたラビは、しかし、いつもの彼のように怯えることもなく、バタバタと時計を指した。 「0時!! もう0時過ぎてるさ!!!!」 「あ?それがどうし・・・」 「きゃあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」 リナリーの口からも絶叫があがって、神田がまた飛び上がる。 「なっ・・・なんなんだよ!!」 やかましい、と怒鳴りかけた神田の胸倉を、リナリーが掴んだ。 「アレン君のお誕生日!!!! 向こうでサプライズやろうと思ってたのに、忘れてたよ!!!!」 「あの部屋のツリー、0時になったら破裂するクラッカー仕込んでたんに!!」 「あんた達なんてことしてんのよ!!」 今頃、院長が敵襲かと驚いているのじゃないかと、エミリアが真っ青になる。 「あ・・・あたし、院長先生に電話してくる!!」 「まぁ・・・院長にはちゃんと言って許可もらったンけど・・・」 聞く前に飛び出して行ったエミリアに呆れるラビの傍らで、リナリーが気まずげに眉根を寄せた。 「鴉・・・今頃すっごく驚いてるだろうなぁ・・・・・・」 お仕置きされるだろうかと、怯えるリナリーに神田が鼻を鳴らす。 「かまわねぇだろ。 なんか文句言ってきたら、そんなことでビビりやがった奴らを嘲笑ってやれ」 「は・・・」 「はぁ・・・・・・」 二人は神田の傲岸な態度に唖然としたものの、よく考えればそれもそうかと笑い出した。 「・・・じゃ、アレンの誕生日は明日、起きてからにするとして・・・パーティに行くか?」 手を差し伸べるラビに、リナリーは笑って首を振る。 「今日はなんだか疲れちゃったから、もう寝るよ」 「そか、おやすみ♪」 「うん!」 二人に軽く手を振り、リナリーは方舟の間を出て行った。 「うぅ・・・寒い・・・! せっかくお風呂入ったのに、一瞬で冷えちゃったよ・・・!」 ぶるぶると震えながら自室に戻ったリナリーは、廊下とそう変わらない冷たい空気にまた震えた。 「・・・クリスマスプレゼントが、暖房じゃないってことはわかった」 不満げに口を尖らせ、リナリーは机の上に置いたプレゼントの箱を確認する。 「さて・・・どうやって渡そうかなぁ・・・」 いつもなら、0時ちょうどに渡せる場所にアレンがいてくれたものだが、今年は事情が変わってしまった。 「・・・明日やるって言ってたし、ラビに相談すればいいよね」 自覚はなかったものの、ロードに人形にされてしまったせいか、酷く体がだるい。 「もう寝ちゃお・・・ふわっ?!」 ベッドに入った途端、思わぬ暖かさに驚いて毛布をめくった。 「な・・・なにこれ・・・? 湯たんぽ・・・・・・?」 ベッドの中には、ふかふかの布で作ったコムイ人形が潜んでいて、膨らんだ腹部でちゃぽちゃぽと音がする。 「・・・・・・暖房が欲しいとは言ったけどぉ・・・」 呆れながらも抱きしめた人形は、とても暖かかった。 「えへ・・・ 子守唄人形はアレだったけど、これは好きだなぁ・・・ にこにこと頬ずりしたリナリーはしかし、ふと瞬く。 「・・・兄さん、いつの間に部屋に入ったんだろ」 鍵はかけていたはずだがと、見遣ったドアに首を振った。 「ま、いっか」 たいした危機感も持たず、コムイ人形を抱いたリナリーは、あっという間に眠りに落ちる。 ―――― そして、アレンの部屋でも、 「ティムキャンピーがもう一匹いる・・・」 リンクに散々説教されたのち、ようやく部屋に戻れたアレンは、目をこすりながらベッドの中に転がる2羽のティムキャンピーを見下ろした。 「一個にはコムイよりって・・・カードついてるけど、なにこれ?」 本物のティムキャンピーがじゃれ付くティムキャンピーに手を当てると、とても暖かい。 と、同じく隣のベッドを探っていたリンクが、中に潜んでいた物を取り出した。 「湯たんぽですね。 私のはケーキ型ですか。 芸が細かいですね」 可愛らしいケーキの形をした湯たんぽを見せると、アレンが条件反射的に噛み付く。 「ウォーカー、かじるんじゃありません」 ケーキの代わりにげんこつを食らわせて湯たんぽを取り戻したリンクが、不思議そうにドアを見遣った。 その視線に気づいて、アレンはベッドの上にティムキャンピー湯たんぽを戻す。 「いつの間に入ったんだろ、コムイさん・・・? なんか、罠がありそうで怖い」 「・・・実に日頃の行いのわかる反応ですね」 しかし、と、リンクはアレンに意地悪く笑った。 「かじっても害はなかったのでしょう?」 「僕、明日冷たくなってるかも」 大真面目に言ったアレンは、ティムキャンピーがじゃれつくそれの処理を科学班に頼むべきか、真剣に考える。 と、 「アレン! お前ンとこにも入ってたさ?!」 突然ドアが開き、ラビが駆け込んで来た。 「湯たんぽのこと?」 「ん! 鍵閉めてたのに、あいつなんで入ってこれたんさ?」 酷く焦った様子のラビに、アレンは首を振る。 「知らない。 マスターキーでも持ってんじゃない?」 「もしくは、鍵ごと外されたかですね」 室長ならできるでしょう、と、リンクの指摘に二人が頷いた。 「プレゼントは嬉しーけど、プライバシーの侵害はよくないと思うさね!」 「はぁ・・・。 ベッドの中に、見られちゃまずいものでも隠してたんですか?」 何気ない問いだったが、ラビは目を逸らして答えようとしない。 「とっ・・・とにかく! ユウがコムイをシメに行くっつってたけど、付き合うさ?」 慌てて話題を摩り替えたと丸わかりのラビに、アレンが呆れた。 「いくらなんでも、プレゼントくれた人をシメに行くなんて・・・」 言いつつ、アレンの口は笑みの形に歪んでいく。 「面白そうな見もの 「だろ?」 「君という子供は・・・」 呆れながらもリンクは、ラビと連れ立って部屋を出たアレンの後に続いた。 教団本部のパーティ会場は、さすがに大人達ばかりだけあって、深夜を過ぎても賑わっていた。 だがそこに、コムイの顔はない。 「あれ?コムイさんは?」 キョロキョロと会場を見回すが、神田にシメられているコムイどころか、リーバーやミランダ、キャッシュの姿すらなかった。 「ミランダさんがパーティにいないなんて、珍しいですねぇ。 いつも、最初から最後まで飲んでるのに」 不思議そうに言うと、隣のリンクが渋い顔をする。 「マンマは・・・ぎっくり腰が悪化し、病棟で休んでいらっしゃいます。 忌々しいことにあのホーキ頭が付き添って、私達は婦長に追い出されてしまいました・・・!」 「・・・それ、お前らが病室できゃんきゃん騒いだからじゃね?」 ラビに図星を指され、リンクが声を詰まらせた。 「あーあ。 キャッシュは?」 笑い出したラビを赤い顔で睨んで、リンクがそっぽを向く。 「・・・キャッシュ・ドップは、マンマがコルセットを少々きつく絞めてしまったそうで、救急救命室にいますよ」 「・・・どんだけ絞めたらそんなことになるんですか」 神田よりもよほどシメたんだな、と、呆れるアレンの背を、ラビが押した。 「な、隣の部屋に行ってみね? 酔い潰れた連中が寝かされてるって、姐さんが言ってたさ! そこに運ばれてんのかも!」 「うん・・・・・・」 そこまでしてコムイ危機の場面を見るよりは、ここでご馳走をいただきたいと言いたげなアレンの背を、ラビがもう一度押す。 「姐さんも向こうにいるさねー 「あ、そうなんだ!」 だったら彼女に帰還の挨拶をしなければと、アレンが歩を早めた。 「ジェリーさーん! ただい・・・」 ドアを開けた途端、目の前で破裂音が響き、アレンの頭上にリボンと紙吹雪が降り注ぐ。 「・・・・・・覚えててくれたんだ」 てっきり忘れられた挙句、夜が明けてからに持ち越されたのだろうと思っていたアレンは、思わぬ展開に目を丸くした。 「ふっふーん コムイがみんなに湯たんぽ配るってゆーからさ、お前が説教されてる間に、俺が得意の技でお前らの部屋の鍵開けて、ベッドに仕込んだんだよーン 「・・・・・・そこまでする必要があったのですか?」 唖然と口を開けるリンクの前で、ラビが指を振る。 「コムイが侵入して物を置いてったなんて、怪しいにも程があるだろ? なんかの罠だって匂わせた上でユウがシメに行くぜ、っていやぁ、きっとついてくるって思ったんさ 「くっ・・・! 罠を張ったのはあなただったのですか、Jr.・・・!」 悔しげなリンクに笑い出し、ラビはアレンの髪についた紙吹雪を払ってやった。 「驚いたさ?」 「・・・うんっ!」 にこりと笑ったアレンの手を、横合いからジェリーが握る。 「アレンちゃん せっかくのお誕生日なのに、アタシのケーキを食べないなんて許さないわよん まだ煙をあげるクラッカーを放り捨て、手を引くジェリーにアレンが仔犬のようについて行った。 「なんで俺まで付き合うんだ、馬鹿馬鹿しい」 すれ違いざま、鼻を鳴らしてクラッカーを放り捨てた神田にも、今回は嬉しげな笑みを返して、アレンはテーブルの傍で待っていたコムイにぺこりと一礼する。 「ティムキャンピーの湯たんぽ、ありがとうございます 「罠なんかないから、安心して使いなよ 冗談交じりに言いながら頭を撫でるコムイに、アレンが笑い出す。 「だって、日頃の行いが・・・」 「だからそれさ! ボクはあーんな、つまらない罠は張らないってコト やるなら徹底的に、と、ウィンクするコムイにアレンが苦笑した。 「本当はリナリーにだけ作ってあげてたんだけどね。 まぁ、ついでだったからキミ達にもね 「・・・そのおかげで室長のお仕事は3時間ずれ込んだのですから、今すぐ執務室にお戻りいただけますか」 背後霊のように浮かび上がり、肩に手をかけたブリジットの怖ろしい声を受けて、コムイが震え上がる。 「ミ・・・ミス・フェイ、でもボクは・・・・・・!」 「お祝いも済みましたし、ウォーカーも十分満足したはずです。 そうですね、ウォーカー?」 はいと言わなければ今にも呪い殺されそうな目で睨まれ、アレンがガクガクと頷いた。 「では参りましょう、室長。 今夜中に終わらせてくださいませんと、クリスマスの朝を平和に迎えられませんので」 「う・・・はい・・・・・・!」 観念して引きずられて行くコムイを、アレンが手を振って見送る。 ややテンションの下がった室内で、ジェリーが一つ、手を叩いた。 「じゃあコムたんは抜きで、夜中のティーパーティしましょ アレンちゃん 明日もパーティやったげるからねぇん 「はい ジェリーが大きく切り分けてくれたケーキを受け取って、アレンが蕩けそうな笑みを浮かべる。 「あれ? ユウ、もう行くンか?」 自分もケーキを受け取りながら、ドアを出ようとする神田の背中に声をかけると、彼は舌打ちして手にしたものを掲げた。 「俺はコムイに呼ばれて、これを取りに来ただけだ」 丸いクッションのようなそれの表面には、鮮やかに大輪の花が刺繍されている。 「・・・つまり、勝手に部屋に入った室長をシメに来たのではなく、プレゼントを取りに来るように呼ばれて来たと言うわけですか」 そのついでにクラッカーまで渡されたらしいと察して、リンクは大きく頷いた。 「よくまぁ、帰ってからの短時間でここまで仕込んだものです」 「・・・何が短時間だよ。 リンクってばたっぷり一時間は僕をお説教してたよ・・・!」 お代わりのケーキを受け取りながら、アレンが眉根を寄せる。 「リナはもう寝るっつったから誘えんかったけど、あっちでなんやかんやあった割にゃ、今年も無事に祝えてよかったさ イベンターの面目を潰さずに済んだと、ラビの方が嬉しげな顔をした。 「そう・・・ですね。 お祝い・・・してはくれようとしていたんですけど」 嫌い、と、ロードに言われた言葉が妙に胸に刺さって、アレンが複雑な顔をする。 と、 「ま、何があったにせよ、ウチの子をウチでお祝いできて嬉しいわん 華やかに笑って、ジェリーが甘いお茶を淹れてくれた。 「来年もまた、楽しいイベントを期待してるわよん 「まーかせてさー!」 フォークを掲げて得意げに言ったラビに、アレンも屈託を払って笑い出す。 「じゃあ、肝心のラビのも考えてよ! いつも困ってるんだからさ、僕!」 「それはさすがにお前らでやれよ!」 期待してるから、と言われて、また部屋に笑声が弾けた。 ―――― しかし翌朝。 「なにぃ――――――――?!」 絶叫が城中に響き渡ると、ラビは亀のように首をすくめた。 「夜にアレン君のパーティやっただってぇ?! リナリーを仲間はずれにするなんて、どういうつもりだよ!!」 足を踏み鳴らしながら詰め寄るリナリーに、ラビだけでなくアレンまでもが怯え、神田は早々に退散する。 「だ・・・だってお前、寝るって言うから・・・・・・!」 「パーティやるってわかってたら起きてたんだよ! なにそれ!勝手にやって!これだから男の子は!!!!」 怒りの収まらないリナリーが、厨房に走って行って仕事中のジェリーに抱きついた。 「みんな酷いよっ!!!!」 思いっきり頬を膨らませたリナリーの頭を撫でて、ジェリーも苦笑する。 「だったら今日はアンタがティーパーティを主催してあげなさいな 「ティーパーティ?」 涙目をあげると、ジェリーが笑って頷いた。 「昨日はミランダもいなくて、華はアタシしかない寂しいパーティだったからねん 華やかなパーティをやってあげると、アレンちゃんも喜ぶわん それに、と、ジェリーがサングラス越しにウィンクする。 「コムたんはお昼の間、執務室に缶詰よん むしろ夜よりは邪魔が入りにくい、と言われて、リナリーが目を輝かせた。 「よっし!! 見てるがいいよ、ラビ!! 負けないんだからね!!」 カウンター越しに宣戦布告されて、ラビが顔を引き攣らせる。 「ア・・・アレン・・・」 ギラギラした目で睨むリナリーから視線を外せないまま、ラビが囁いた。 「出来るだけ大げさに喜んでやるさ」 俺の命のためにも、と懇願されたアレンが苦笑する。 「リナリーの主催なんて、嬉しくないわけないでしょ」 彼女があんなにも張り切ってくれることが既に嬉しいと、アレンは厨房のリナリーを見遣った。 途端に顔を真っ赤にして、ジェリーの背後に隠れてしまった彼女に微笑む。 「僕の・・・本当の・・・・・・」 ロードの寂しげな表情を思い出さないよう、心の奥に封じて、アレンは笑みを深めた。 「仲間ですから」 その口調にわずかな屈託を感じて、ラビがそっとアレンの表情を窺う。 同じくリンクもアレンの表情を窺っていたが、彼はただ、異様にきれいな微笑みを、クリスマスの朝日に照らし出していた。 Fin. |
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20011年アレン君お誕生日SS最終話は、リクエストNo.71『姫返上希望アレンと王子防衛リナリー』でした! リナリーは明け渡すことを拒んでいますが、事実として対ロード戦に関してはアレン君が王子名乗ってもいいんじゃないかと思って書いて見ましたよ! そして、ちゃんと『GOOD LUCK MY WAY』にもなったかなぁと・・・! この題名、『我が進む道に幸運を』って意味だそうですよ。 『英語としておかしいかな、って聞いたら『イイヨ!b』って言われたんでつけてみた』と、hydeがゆってました(・▽・) ので、ノアに望まれながらもエクソシストとして生きるアレン君の姿が書けたらいいなぁと。 ちゃんと書けてますか?(^^;) ともあれ、お楽しみいただけたら幸いです |