† 鳩の中の猫 †






 それは、爽やかな夏のある日のこと。
 黒の教団本部の庭には、カトリック系の施設にふさわしく、色とりどりのバラが咲き誇っている。
 しかし、未だ花より団子の少年であるアレンは、美しい花々には目もくれず庭を突っ切り、花の香(か)よりもなお芳しい匂いを放つ食堂へと向かっていた。
 と、その頭上に、樹影などではない影が差す。
 途端、アレンは後頭部を強打され、整備された石畳の上に倒れた。
 「う゛っ・・・・・・!!」
 倒れた際、額までも石に打ち付けた彼の、白い髪が赤く染まっていく・・・。
 「ティム・・・・・・!」
 それが、意識を失う前の、彼の最後の言葉だった。


 「きゃああ?!アレン君?!」
 アレンとは違い、咲き誇る花々を求めて庭にやって来たリナリーは、彼女の足元に、血みどろで横たわる少年を発見し、悲鳴を上げた。
 「ど・・・どうしたの?!しっかりして!!誰か!!医療班!!」
 リナリーの悲鳴は屋内にまで届き、アレンは素早く駆けつけた医療班のスタッフによって、すぐさま療養所に運ばれて行く。
 「アレン君・・・・・・!」
 アレンを乗せた担架に、気遣わしげに付き従うリナリーを、パタパタと羽音を響かせながら、ティムキャンピーが追って来た。
 「ティム・・・!大丈夫よ、きっと、アレン君は大丈夫だから・・・!」
 既に一抱えもあるほどに成長したゴーレムを胸に抱きとめ、リナリーは自身の不安を紛らわすように、何度も囁く。
 そして、
 「大丈夫よね、ドクター?!」
 療養所に着くや、縋るような目で詰め寄ったリナリーを、ドクターはなだめるように何度も頷いた。
 「大丈夫。骨には異常ないし、この子は元々丈夫だから」
 「でも!!すごい出血だったの!」
 「それは、単にこの子の髪が白いから、他の子より目立っただけだよ。
 ・・・しかし、額の方は石畳にぶつけたんだとしても、誰がこの子を殴ったのかねぇ?」
 「え・・・?殴られたの?!」
 信じられない・・・と、大きな目を見開くリナリーに、ドクターは眉をひそめて頷く。
 「多分ね。
 ほら、見てごらん。
 後頭部の、ほとんど頭頂が傷ついているだろう?
 この子よりも身長の高い人間・・・とも限らないか。エクソシストなら、並外れた跳躍をするからね」
 「そんな・・・!仲間にこんなことをする人が、いるわけないわ!!」
 思わず、憤りの声を発したリナリーをなだめるように、ドクターは手を半ば上げた。
 「そんなに怒らないで。
 私は単に、傷の形から推理しているだけなんだから」
 そう言って、彼は白い包帯が巻かれたアレンの頭を指し示す。
 「誰かがこの子の背後、または上部から鈍器を振り下ろし、殴りつけたってところかな?」
 「酷い・・・・・・!」
 「まったく、誰だろうねぇ、こんなことするのは。
 ケンカしたにしても、気絶したんなら、すぐにここに運んでもらわないと困るよ」
 そう言うドクターからは、悲壮感も焦燥感も感じられない。
 なぜ、と問えば、『非常識な人種の集まった組織に、今更常識的日常など求めやしない』と答えたことだろう。
 しかしリナリーは、こんな非常識集団の中に育っても、珍しく常識的な考え方のできる少女だった。
 「ひどいわ・・・!絶対、犯人を見つけなきゃ!!」
 そして、きつくお灸を据えてやる!と、拳を握る。
 「ドクター!アレン君をお願いします!」
 そう言うと、激しく憤ったリナリーは、くるりと踵を返し、足音も高く療養所を出ていった。
 と、彼女の後を、パタパタとティムキャンピーがついて来る。
 「ティム・・・あなたも協力してくれるの?」
 自身にまとわりついて来るゴーレムに微笑んだリナリーは、はっとしてその尾を掴み、引き寄せた。
 「もしかしてあなた、現場を見ていたんじゃないの?!」
 ティムキャンピーには、映像記録機能がついている。
 「あの時の映像を出して!」
 リナリーの声に反応し、ティムキャンピーは、鋭い歯がサメのようにずらりと並んだ口を開けた。


 ジジッ・・・と、軽いノイズの後、鮮明な映像が映し出された。
 赤い髪の少年が、いたずらっぽい笑みを満面に浮かべ、迫ってくる。
 『うわー!見てみ、ユウ!コイツ、マフィン食ったさ!!』
 歓声を上げるラビの背景を見るに、どうやら、彼がいるのは食堂のようだ。
 「ラビったら・・・!ティムに食べ物をあげちゃいけないって、言ったのに・・・!」
 もうっ!と、頬を膨らませてリナリーが見つめていると、ティムキャンピーの映像に、もう一人の少年が現れる。
 『食うのか?どこに入ってやがんだ?』
 神田の不思議そうな顔が、ティムキャンピーに迫った。
 『ホント、どこに入んだろうなぁ?ちゃんと消化すんのかなぁ?』
 ラビの手がティムキャンピーの両脇を掴み、興味津々とした顔が、あらゆる角度から写される―――― ラビが、執拗に弄り回しているのだろう。
 『乱暴にすると、壊れるんじゃねェか?』
 『だって、知りたくねぇ?
 なんでゴーレムなのに成長してんのかとか、食ったもんどこに行ってんのかとか』
 『確かにな・・・』
 そう言うと神田は、手にした箸で、海老の天ぷらを摘み上げた。
 『肉食かどうかも、興味ある・・・・・・』
 「まぁ!!何てことするの、神田ったら!!」
 ティムキャンピーの口の中に、海老を放り込んだ神田に、リナリーがまた、声を荒げた。
 『うわっ?!マジ?!コイツ、肉食?!』
 『さっき、マフィンも食ってたからな・・・雑食だろ』
 『おっもしれー!味覚あるんかな、コイツ?!』
 『試してみるか?』
 「二人とも・・・・・・!!」
 犯人探しとは別に、この二人にもお灸を据えてやらなきゃ、と、リナリーは拳を握る。
 が、既にその必要はなかったようだ。
 『コラ!何やってんだい、君たち!ゴーレムに食べ物をあげちゃダメだろう!!』
 二人の背後から伸びた手が、ゴゴンっ!と、小気味のいい音を立てて、少年たちを張り倒す。
 「兄さん・・・!」
 歓声を上げて、リナリーは兄の出現に拍手した。
 『ティムが壊れたらどうするんだい?!』
 叱り付けるコムイの手には、スパナが握られている。
 『ってぇー!!』
 『テメェ!!コムイ!!スパナで殴りやがったな?!』
 『だってキミたち、ボクのゲンコツくらいじゃ言うこと聞かないじゃないか』
 酷いことをさらりと述べる兄に、しかし、リナリーはもっともだと頷いた。
 しかし、懲りもせず、
 『ティムならだいじょーぶさぁー!再生機能がついてんだから!』
 と、反駁するラビに、コムイは再びスパナを掲げる。
 『こういうのはね、外殻は再生できても、内部からの腐食には弱いんだよ。
 だから食べ物をあげるなんて、もってのほか!今度やったら、麻酔ナシで解剖するよ、キミたち?』
 『鬼畜室長!!』
 『なんとでもおっしゃい、ガキンチョどもっ!!』
 そう言って、コムイは哄笑しながらその場を去って行った。
 と、なぜかティムキャンピーが、彼の後を追っていく。
 「あら・・・?兄さん・・・・・・?」
 厨房のカウンターで、コーヒーのポットを受け取ったコムイは、そのまま執務室には戻ろうとせず、庭に通じる道を辿っていた。
 『いいねぇ・・・いい香りだ』
 映像の中で、機嫌よく呟く兄に、リナリーが微笑む。
 そう言えば、彼女が庭に出たのも、兄から『バラがきれいに咲いているよ』と聞いたからだった。
 『オヤ、ティムキャンピー?ボクについてきちゃったのかい?』
 立ち止まって振り返るコムイが、手にしたスパナで肩を叩いている。
 『アレン君はどうしちゃったんだい?さっき、食堂にはいなかったみたいだけど』
 「あ!そうよ、アレン君は?!」
 兄の言葉に、リナリーは当初の目的を思い出して、映像を注視した。
 と、映像がコムイを離れ、上昇して、四方を見渡す―――― ティムキャンピーがアレンを探しているのだろう。
 『まったく、あの子もねェ・・・。リナリーに、必要以上に近づかないなら、いい子なんだけど・・・。今のうちにお仕置きしておこうかな』
 アレンを探しているティムキャンピーが、音声のみ拾った声に、リナリーは慄然と立ち尽くした・・・。
 「まさか・・・兄さん・・・!!」
 途端、ドクターの言葉が思い出される。
 アレンは、彼よりも身長の高い人間から殴られた可能性がある、と・・・。
 「そんな・・・・・・!」
 アレンより、かなり身長の高い兄・・・。
 そして、今彼が手にしているスパナ・・・あれなら、十分にアレンを昏倒させられるのではないだろうか。
 最悪の想像を、リナリーは激しく首を振って振り払った。
 しかし、上空に舞い上がったティムキャンピーが、庭を歩くアレンの姿を捉え・・・・・・数瞬のノイズの後、映し出されたのは、頭部と額から血を流して石畳の上に横たわる、彼の無残な姿だった。
 「アレン君!!」
 リナリーが、その哀れな姿を再び目撃して、悲鳴をあげる。
 「酷い・・・!本当に、兄さんなの・・・・・・?」
 その後、ティムの捉えた映像には、庭を後にする兄のほか、誰も写ってはいない。
 「た・・・確かめなきゃ・・・!!」
 意を決して、リナリーは、科学班研究室へと駆け出した。


 「コムイ兄さん・・・!」
 血相を変えて室内に飛び込んで来たリナリーを、コムイは、嬉しそうに笑みほころんで迎える。
 「リナリー!戻りが遅いから、どうしたのかと思ったよ!どこに行ってたんだい?」
 にこにこと笑う兄の腕を取って、リナリーは真剣な顔で彼を見上げた。
 「兄さん、聞きたいことがあるの。ちょっと、一緒に来て!」
 小声で囁くと、コムイは不思議そうな顔で、リナリーを見返す。
 「どうして?ここじゃいけないのかい?」
 問われて、リナリーはややためらった後、深く頷いた。
 科学班のメンバー達は、兄のご乱行を知ったからと言って、今更、彼を咎めることなどしないだろう。
 しかし、確たる証拠もないのに、部下たちの前で兄を弾劾するわけには行かなかった。
 「いいから、来て!!」
 コムイの腕を強く引き、執務室から連れ出そうとするリナリーに、科学班メンバー達が絶叫する。
 「コラ!リナリー!!!室長をどこに連れて行く気だ!?」
 「こっちは1時間も前から決済待ってんだぞ!!」
 が、
 「すぐ戻るから!」
 アクマも怖気づく迫力で、ぴしりと言ったリナリーの前に、メンバー達は思わず道をあけていた。
 そうして、無理矢理了承を得たリナリーは、バラの咲き誇る庭へと、兄を連れ出す。
 「ど・・・どうしたんだい、リナリー?リーバー班長に殺されるよ?」
 ビクビクと背後を窺うコムイには答えず、リナリーは素早く辺りを見回し、誰もいないことを確かめた。
 そして、
 「ティム!」
 と、彼女を追って来たゴーレムを呼び寄せ、記録された映像を映し出す。
 「・・・・・・兄さん、よく見てちょうだい!」
 「はぁ・・・」
 訝しげに、しかし、妹の迫力には逆らえず、コムイは眼鏡を掛け直して、ティムキャンピーの映像を熟視した。
 「あー。ボクが、あの子達を叱った時の・・・なんだろうね、このノイズ」
 「そっちじゃないの!その後よ!!」
 科学者らしく、映像自体よりも、その不具合の方へ目を向けたコムイを、リナリーが再び叱り付ける。
 「ハイ・・・・・・。
 あれ?アレン君?オヤマァ、倒れちゃって・・・・・・」
 全く動じた様子もなく、冷静に言うコムイに、リナリーは柳眉を逆立てた。
 「兄さん・・・まさか、兄さんがアレン君を殴ったんじゃないわよね?」
 「違うよ」
 淡々と答えた兄に、リナリーは、詰めていた息を、ほっと吐いた。
 兄が嘘をつく時は、もっと大げさに否定し、大騒ぎするものだ。
 冷静な口調での答えを聞いた途端、リナリーの疑いは払拭され、この上確認をしようとも思わなかった。
 「よかった・・・。
 ・・・・・・じゃあ、一体、誰がやったのかしら?私が来るまで、アレン君、このまま倒れていたのよ!」
 改めて憤るリナリーに、ティムキャンピーの映像を繰り返し見ながら、コムイも首を傾げる。
 「ホントにねぇ。ケンカするのはいいけど、倒れたんなら、すぐに療養所に運んでくれないと困るよ。
 ナマイキな子だけど、貴重なエクソシストなんだからさ」
 ドクターと同じような事を言う兄に、リナリーは不満げに口を尖らせた。
 「酷いわ、兄さん!アレン君は誰かに殴られて、意識不明になっちゃったのよ!心配じゃないの?!」
 「この程度の出血なら大丈夫だよ。この子は丈夫だし」
 「もう!みんな同じ事言うんだから!!アレン君がかわいそう・・・・・・!」
 リナリーが涙ぐむと、コムイは途端に慌てだす。
 「あぁっ!!リナリー、泣かないで!ボクが犯人を探してあげるからっ!!」
 「ホント?!」
 「室長の権限をなめちゃいけないよ!」
 そう言って、コムイは得意げに胸を張る。
 「まぁ、権限を発揮するまでもなく、こんなことするのはあの二人だろうし・・・・・・」
 「・・・って、神田とラビ?」
 「故意か事故かはわかんないけどね。
 アレン君、外面はいいし、ここに来て日も浅いから、あの二人の他に恨みを買ってたりする事はないでしょ」
 「・・・なんだか、険のある言い方だわ、兄さん・・・」
 「オヤ?そう聞こえたかい?」
 にっこりと笑って、コムイは踵を返した。
 「おいで、ティム。一緒にあの二人を探そう」
 「兄さん!私も行くわ!」
 言うや、リナリーは慌てて兄の後を追った。


 わざわざ探し出すまでもなく、神田とラビの二人は、未だに食堂にいた。
 「あ?モヤシ?しらねぇよ」
 突っぱねるように神田に言われ、コムイはラビへと視線を移す。
 「俺もしらねぇさ。ってか、どうかしたんかよ?」
 「実は、アレン君が庭で倒れていてねぇ。どうも、誰かに殴られて、昏倒したみたいなんだよ」
 「あー!それで、犯人はユウじゃないかって?そうなんか、ユウ?」
 得たりとばかり、手を打ったラビを、神田は忌々しげに睨みつけた。
 「なんでだ!ずっと一緒にいたじゃねぇか!!
 俺が!いつ!モヤシを殴りにいく隙があったってぇんだ、この馬鹿!!」
 「――――ってことさ、コムイ。俺達、こっから動いてねぇよ?」
 「ほほぅ・・・それは確かだね?お互い、口裏を合わせてアリバイを作ったわけじゃないね?」
 「なんでそんなことすんだ」
 「殴りたくなったら、その場でやってるさ。んで、動かなくなってたら療養所に運ぶさ。別に、こそこそするような事じゃないだろ」
 そんな事をさらりと言ってしまう日常がおかしいとは、全く思っていないらしいラビが言うと、コムイもうんうん、と、何度も頷く。
 「そりゃあ、全くその通りだね。
 まぁ、ボクも本気で君たちを疑ってたわけじゃないけどさ」
 その空気は、既に二人にも伝わっていたらしく、彼らはこともなげに頷いた。
 「とりあえず確認って奴だろ?そんな事やりそうなの、俺達だけだもんなぁ、ユウ?」
 「その上、放置しそうなのは俺だけか?」
 ふん、と、鼻を鳴らして口の端を曲げた神田に、コムイもラビも、何度も頷く。
 「って事さ、コムイ。わりぃなぁ、俺達が犯人じゃなくて!」
 「アハハ・・・だったら仕方ないねぇ。じゃあ、これにて迷宮入りって事で!一件落・・・」
 「兄さん!!」
 さっさと捜査を終わらせようと目論むコムイに、リナリーの怒声が飛んだ。
 「迷宮入りって何よ!一件落着でもないわよ!!やる気ないの?!」
 「酷いな、リナリィー・・・ちゃんと、捜査したじゃないか〜。犯人が見つからなかっただけだよ〜」
 「普通、犯人が見つかるまでやるのが捜査でしょう?!」
 「だってぇ〜。この程度のこと、あまりにも日常茶飯事過ぎて、捜査したよって前例を作っちゃうと、後が面倒なんだよ〜」
 「兄さんは!いつからそんな、悪徳官僚みたいな事を言うようになったの!!」
 「早く執務室に帰らないと、今度こそリーバー班長に殺されるしぃ〜・・・・・・」
 「もういいわ!!」
 激怒して、リナリーは言い切った。
 「もう頼まない!私だけで、鳩の中の猫を見つけて見せる!」
 「鳩の中の猫・・・って、なんだ?」
 「無辜(むこ)の群衆の中にいる危険人物」
 神田の問いに、ラビが簡潔に答える。
 「無辜・・・?ここの構成員がか?」
 「少なくとも、アレン君は被害者よ!!」
 神田の言葉に、更に激昂して、リナリーが断言した。
 「こうなったら、ティムの映像を何度でも洗い直して、きっと見つけて見せるわ!ティム!!」
 呼び寄せると、ティムキャンピーがパタパタと羽ばたいて、リナリーに寄って来る―――― 途端、
 「ゴッ?!」
 ティムキャンピーは失速し、かなりの高さから、コムイの頭頂に落下した。
 「に・・・兄さん?!」
 悲鳴を上げ、兄を抱き起こしたリナリーの腕の中で、コムイの白衣が、鮮やかな赤に染まっていく。
 「きゃああああああ!!!兄さん!!兄さん、しっかりして!!!」
 「医療班!!担架を早く!!!!コムイが負傷したぞ!!」
 騒然となった食堂で、一際高く声を上げるリナリーとラビの傍ら、神田は、一人黙然と、床に転がったティムキャンピーを拾った。
 「重いな・・・30キロ以上あるんじゃねぇか?」
 その上、ゴーレムは石でできている。
 これほどに重く、固いものが落ちてきたら、エクソシストだってひとたまりもないだろう、と思い至り、神田はラビを呼び止めた。
 「もしかしたら・・・モヤシを昏倒させたのは、コイツじゃねぇか?」
 神田の言葉に、ラビも思わず蒼ざめた。
 「うぁ・・・そっかー・・・!
 映像で見るに、すんげぇ高さから降って来たんだろうな!アレン、カワイソーに・・・・・・」
 こわごわと、一抱えはあるティムキャンピーの重さと固さを確かめるラビの手の中で、ギギ・・・と、きしんだ音を立て、ティムキャンピーが身じろぐ。
 「あ、動いた!
 コイツ、急に大きくなったから、うまく飛べなくなっちまったのかなぁ?」
 「だろうな。自分の体重に引っ張られてんじゃないか?」
 言いつつ、二人が、ぎこちなく身じろぎするティムキャンピーを見守っていると、それは、身体に対してあまりにも小さな四肢を突っ張って、四つん這いに起き上がった。
 そして、ブルブルッと、震えたかと思うと、大きく裂けた口を開け、げふっと、中に詰まっていたものを吐き出した。
 「あれ?!マフィン?!俺がやったやつさ!」
 「海老だ・・・・・・」
 目を点にして見つめる二人の手から、ティムキャンピーはすっきりした、と言わんばかりに、滑らかに飛び立つ。
 「なぁ・・・ユウ・・・?もしかしてさ・・・・・・」
 「・・・・・・俺達がやったもんが原因か・・・?」
 気まずげに呟いた二人は、背後に凄まじい怒りのオーラを感じて、硬直した。
 「あ〜な〜たぁ〜たぁ〜ちぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
 白い繊手が、思いも寄らぬ力で二人の肩をがっしりと掴み、更に身動きを封じる。
 「悪い猫達は、お仕置きよ!!」


 「―――― う゛〜・・・イテテ・・・・・・」
 療養所の、白いベッドの上に起き上がったアレンは、あまりの痛みに、頭の前後を押さえて呻いた。
 「おや、気がついたかい」
 ドクターに呼びかけられ、アレンは『ハイ』と、返事をする。
 「一体、何があったんだね?リナリーが、大騒ぎしていたよ」
 特に慌てる様子もなく、淡々と尋ねる医者に、アレンは乾いた笑声を上げた。
 「ティムが・・・いきなり失速して、降って来たんです。
 いつもみたいに、僕の頭に乗りに来たんだと思っていたから、避け切れなくて・・・・・・」
 「はぁ・・・そりゃあ、痛かったろうね。
 まぁ、骨には異常はないみたいだから、血が止まったら帰っていいよ」
 「ハイ」
 頷いて、早速ベッドを降りようとしたアレンは、隣のベッドに横たわるコムイの姿に、ぎょっと目を見開く。
 「コムイさん?!どうしちゃったんですか?!」
 驚きのあまり、甲高い声を上げるアレンに、ドクターは深く吐息した。
 「君と同じだよ。ティムキャンピーが、頭の上に落ちてきたんだと」
 「うわぁ・・・大丈夫かなぁ、コムイさん・・・・・・」
 エクソシストのアレンですら、昏倒した威力だ。
 ただの人間であるコムイには、致命傷だったのではないかと問うと、ドクターは『大丈夫』と断言した。
 「彼は帽子を被っていたから、君ほどの傷は受けてないよ。彼も丈夫だから、心配ない」
 「はぁ・・・・・・」
 このドクター、本当に大丈夫かな、と言う危惧を抱きながらも、アレンは、曖昧に頷く。
 「じゃあ、そろそろ失礼します・・・」
 「うん。お大事にね」
 ぺこりと、包帯の巻かれた頭を下げたアレンに、ドクターはにこりと笑った。
 そのまま、踵を返して療養所のドアを開けたアレンは、またもや驚愕に目を見開いた。
 「ラビ?!神田も、何してるんですか?!」
 ドアの外では、二人が、満々と水を湛えた大きな樽を両肩に担ぎ、正座をしている。
 「っるせぇ!!ほっとけ、モヤシ!!」
 「い・・・いわゆるー・・・ひとつのー・・・しゅ・・・修行・・・みたいな?」
 「はぁ・・・・・・。が・・・がんばってくださいね・・・・・・」
 それが、リナリーが『悪い猫たち』に科した罰だとは知らず、アレンは、不思議な光景を背に、ティムキャンピーを探しに行った。





Fin.

 










『鳩の中の猫』は、アガサ・クリスティーのミステリー小説の題名からもらいました。
名門女子校で起きる殺人事件の話で、これを思い出した時、本気で『しまった・・・黒鶫は、こっちの題名の方がふさわしかった』と嘆いたものですよ・・・。(後の祭り)
しかし、随分昔の記憶な上、未確認ですが、『鳩=平和の象徴』となったのは、ピカソが彼の作品で、鳩を平和のシンボルとして描いて以降だそうで、それ以前はむしろ、凶暴なイメージがあったそうですよ。
ので、19世紀の住人である彼らが、『鳩=無辜の群衆』とは思わなかったかもしれませんが、その辺は大目に見てやってください・・・;
そして・・・実は、ミステリーを書く気満々だったくせに、冒頭でアレン君が犯人の名(ティム)を呼んでいる辺り、まぬけっつーか、なんつーか・・・。
久しぶりにアレン君が黒くないなぁと思ったら、単に意識不明で口を開かなかっただけって、どうなのよ・・・(打ちひしがれ)
もう、ふつーにギャグSSとして読んでくださいまし・・・。












ShortStorys