† TROUBLE T †






先にこちらをご覧くださいv
Comics『この道の向こうに君が待つ』

 「・・・何を騒いでいるのですか、さっきから」
 科学班からもらったと言う携帯ゲーム機の小さな画面を見つめたまま、奇声をあげたアレンをリンクがうるさげに振り返った。
 「私は仕事中なのですから、静かに遊んでいなさいと言ったでしょう!」
 「だってこれおかしいよ!
 どうがんばってもリナリーとデートできないんだ!!」
 あぐらをかいていたベッドに寝転んで、アレンが画面を見上げる。
 「おかしいなぁ・・・!
 なんで他の子だったら好感度が上がるコマンドを選んでも、リナリーの好感度は下がってくんだろ・・・」
 クッション代わりのティムキャンピーにも画面を見せながら、ピコピコとボタンを押すアレンに鼻を鳴らし、リンクはデスクに向き直った。
 「君のことですからどうせ、ゲームの中でも皆さんにイイ顔をして、小娘を拗ねさせたんでしょう」
 「・・・あ、そっか」
 失敗した、とぼやくアレンをリンクはまた振り返る。
 「・・・まさか正解するとは思いませんでしたよ。
 本当に迂闊な子供ですね、君は」
 「・・・いいもん、やり直すもん」
 「次は音を消しなさい。
 同じ曲調をひたすらくり返されていると、集中できません」
 「はぁい」
 リンクの背に舌を出し、寝転んだままゲームを始めたアレンがしばらくして、また唸り出した。
 「もぉ!!
 またコムイさんに邪魔されたっ!!
 『あらぬ噂』発動されたら絶対攻略できないじゃん!!
 対抗カードのリーバーさんがレアすぎるうううううううううう!!!!」
 足をばたつかせてベッドの上を転げ回るアレンに、リンクのこめかみが引き攣る。
 「うるっさいですよクソガキ!!騒ぐなと言っているでしょう!!!!」
 「だってえええええええ!!!!
 リーバーさんが足りなくて、コムイさんを止められないんだ!!!!」
 ぴょこんっとベッドの上に起き上がったアレンは、ピコピコとボタンを押してまたスタート画面へ戻った。
 「うーん・・・。
 先にリーバーさんの好感度をあげて、リーバーさんの出現率をあげてからリナリー攻略に入ってー・・・うん、ミランダさん攻略は一番最後にして、それまでにリーバーさんを使い切れば・・・って、ダメだ!
 リーバーさんの好感度をあげすぎたらリナリーが出てこなくて、また男子キャラルートだ!!」
 ティムキャンピーを頭に乗せて、ぴょこぴょことベッドの上を跳ねながら腕組みし、ゲーム機の前で考え込むアレンにリンクがため息をつく。
 「たかがゲームでやかましい!
 静かに・・・」
 「ラビに攻略法聞いてくるー!」
 「コラッ!!
 勝手に出て行くんじゃありません!!」
 部屋で遊んでいると思ったからこそリンクも書類仕事ができたのに、アレンが出て行くなら監視任務を優先せざるを得なかった。
 「・・・っあぁもう!
 また仕事が溜まりますよ!!」
 ペンを放り出して席を立ったリンクは、ハンガーに掛けていた上着を取ると、まくっていた袖を下ろしつつアレンを追いかける。
 が、素早いアレンには中々追いつけず、結局食堂で捕獲することになった。


 「は?
 ナニお前、まだクリアしてねーの?」
 得意顔のラビに上から目線で言われて、不満げなアレンがテーブルに伸びる。
 「だぁーって!先の行動を読んでくのとか、苦手なんだもん・・・!」
 ねぇ?と、ティムキャンピーに同意を求めつつ頬を膨らませたアレンの目の前に、ラビが端末を差し出した。
 「・・・コンプリート?!
 あ!レア絵までゲットしてる!!!!」
 ゲーム機をもらったのは昨日のことなのに、既に終了しているラビをアレンが、尊敬の眼差しで見つめる。
 「どーやったの?!」
 思わず詰め寄ると、ラビはにんまり笑ってアレンの端末を操作した。
 「・・・あぁ、やっぱりさね。
 お前、主人公固定にしてっからコンプできんのさ」
 「固定に・・・するでしょ。
 このゲーム、僕のモテモテハーレムなんでしょ?」
 訝しげなアレンに笑い出したラビが、自分の端末をキャラクター設定の画面へ戻す。
 「見てみ、俺の。
 女キャラによって主人公変えてるんさ。
 クラウド元帥は何とか俺でがんばったから時間かかったけど、ミランダはリーバーで、蝋花はお前でやったら一瞬で落ちたぜ」
 「あぁー・・・そっか。
 フラグ?って言うの?
 それが立ってるキャラでやっちゃえば楽だったんだ」
 こくこくと頷いて、アレンはリナリーを指した。
 「当然僕で落としたんだよね?」
 「んにゃ。ユウ」
 「はあああああああああああああああああ?!」
 絶叫に驚いたティムキャンピーが飛び上がり、食堂に集まった団員達が迷惑そうにアレンを見たが、彼は気づかず、ラビに詰め寄る。
 「なんでそんな汚らわしいことするかなぁ!!!!」
 「お前より汚らわしくないさね。
 この二人は幼馴染フラグ立ってっから、すげー簡単だっさ。
 あとエミリアと・・・本当だったら、クラウド元帥も主人公をユウにしてると、あっさり落ちるんだよなぁ・・・。
 あ、リナリーはコムイとのレア絵あるぜ。
 こっちは兄妹仲良し絵だけど」
 「くうううううううううう!!!!
 邪魔したい!!
 思う様邪魔して引き裂いて、主人公とヒロインのラブラブグッドエンドにしてやりたい!!!!」
 「どこの魔王だ、コラ」
 ティムキャンピーを引き伸ばして怒るアレンに呆れて小突いたラビは、彼の背後に佇むリンクへにんまりと笑った。
 「テワクって、泣き顔可愛いさねーv
 ユウでイジメまくったテワクが、涙堪えてプルプルしてるとこにお前で優しくしたら、すげー簡単に落ちたさv
 「・・・今ここで、あなたをイジメまくってやりましょうか、Jr.?」
 物凄い目で睨まれて、ラビは慌てて端末へ向き直る。
 「アアア・・・アレン!なんで姐さんが攻略対象になってんさね!
 姐さんはサポート要員だろ。
 リナリーをお前で攻略したいなら、リーバーだけじゃ足らんさ」
 「えぇー?!だって・・・・・・」
 その問いにアレンは、さも意外だとばかりに目を丸した。
 「ジェリーさんのこと、大好きだもん、僕・・・。
 いつも一番最初に攻略したよ?」
 と、当然のように言うアレンにティムキャンピーが頷き、ラビが苦笑する。
 「攻略しちまったら、もうサポートには回んねぇもんなぁ・・・一旦姐さんを諦めてさ・・・」
 しかし、その提案にはアレンが激しく首を振った。
 「ダメだよ!
 ジェリーさんを攻略しないと、回復アイテムの『特盛りカツ丼』がもらえないんだよ?!」
 「は?!なんさ、それ?!
 俺も知らねぇさ、そのアイテム!!」
 ラビに詰め寄られて、アレンは得意げにこぶしを握る。
 「ジェリーさんを攻略したら、作ってもらえるようになるんだよ。
 『お小遣い 0』でもらえちゃうのに、全回復するんだ!」
 「そんなアイテムがあるんなら、多少ボコられたところで回復待たなくて済むじゃんか!
 クラウド元帥攻略には必須アイテムだったさ!!」
 『お小遣い』を使い果たしてしまったと、悔しげなラビにアレンが嬉しそうな顔をした。
 「ラビも知らなかったなんて!
 愛の勝利ですよねーv
 「ちぇーっ!!!!」
 「・・・・・・馬鹿馬鹿しい」
 たかがゲームの話題でここまで盛り上がる二人を、リンクが馬鹿にしきった目で見下ろす。
 「そんな下らない話をするのなら、一々食堂などに集まらずに部屋でやってはどうですか。
 私は仕事が溜まっていて・・・」
 「じゃあ、アレンの部屋にいこーぜ!」
 「うん!
 ジェリーさんに特盛りカツ丼と、他にごはん作ってもらいましょう!」
 はしゃぎ声をあげながら注文カウンターへ走っていく二人の後に、リンクは呆れ顔でついて行った。


 「・・・だから、なんとしても『僕』で攻略したいんですってば!」
 部屋に戻るや最早遠慮もなく、アレンが大声をあげた。
 「神田なんか絶対ダメ!
 あいつを使うくらいなら、コムイさんで兄妹エンドでいいです!!」
 「だったら姐さん攻略すんなっつってんじゃんさ!」
 詰め寄ってくるアレンを押しのけて、ラビがピコピコとボタンを押す。
 「姐さんを攻略しちまうとリナリーの『嫉妬』ゲージがあがるっつってんのに、なんでいっつも最初に姐さん攻略するんさ、お前は!」
 鼻を弾かれたアレンが、涙目でラビを睨んだ。
 「・・・だって、特盛りカツ丼・・・!」
 「そりゃもう現実で食ったろ!
 ゲームなんから・・・」
 「ヤダ!
 ゲームだって、ジェリーさんから愛されない教団になんていたくないもん!」
 アレンがティムキャンピーを抱き潰しながら足をばたつかせて絶叫すると、早速仕事に戻ったリンクが目を吊り上げる。
 「静かにしなさいと言っているでしょう!!
 二度と口が利けないよう、舌を切り落としてやりましょうか?!」
 冗談とは思えない迫力で怒鳴られて、アレンだけでなくラビまでもが両手で口を覆い、リンクに背を向けた。
 「・・・ジェリーさんは必要なんですよ!
 ママンに特別扱いしてもらえないと僕、寂しくて死んじゃうもん!!」
 「どんだけ姐さんに餌付けされてんさ、お前は!」
 ひそひそと声を潜めつつも、強く主張するアレンにラビが呆れる。
 と、アレンはムッとしてラビが握る端末を横から操作した。
 「ホラホラ、食堂のメニュー見てよ!
 ジェリーさんから特別扱いされてると、全回復の特盛りカツ丼だけじゃなく、リナリーに渡すと好感度が上がる『マカロン』とか、元帥とお近づきになれる『ラウのごはん』もゲットできるんですよ!」
 「あ!
 それでお前、元帥の好感度がこんなに高いんさ?!」
 おかしいと思った、と、眉根を寄せるラビにアレンはふるりと首を振る。
 「元帥の好感度は、基本値から結構高かったですよ?
 年上にモテるタイプですから、僕v
 「くっ・・・!」
 ニコニコと嬉しげに笑うアレンに、ラビがこぶしを握った。
 「元帥攻略すんのに、俺がどんだけ苦労したと思ってんさー!!!!」
 「やっかましい!!!!」
 絶叫したラビにリンクが怒号をあげた時、部屋のドアがノックされる。
 「はい?」
 返事をするとドアが開き・・・話題の元帥が、困惑げな顔を覗かせた。
 「噂をすればさーvvvv
 歓声をあげたラビに、何か言いかけたクラウドが舌打ちする。
 「・・・ラビもいたのか」
 「いたさvv
 早速擦り寄って行こうとするラビの襟首を掴んで止めたアレンが、クラウドへ苦笑した。
 「あの・・・何かご用でしょうか?」
 任務かな、と、小首を傾げた彼に、クラウドは少し迷ったのち、頷く。
 「アレン、お前・・・昔はピエロをやっていたと聞いたのだが」
 「えぇ、はい。
 ピエロでした」
 どこかで聞いた台詞だ、と思いながら頷いたアレンに、クラウドが歩み寄った。
 「今も可能か?」
 「ジャグリングにはかなり自信ありです!」
 アレンが自信満々に笑うと、クラウドはホッとして表情を和ませる。
 「以前、私がいたサーカスがロンドンに来ているのだが、ピエロが急病だそうなんだ。
 悪いんだが、代役として協力してくれないか?」
 「は・・・・・・・・・」
 目を丸くして口を開けたアレンに、クラウドがまた困惑げな顔になった。
 「無理か?」
 「いえ・・・あの・・・・・・」
 どこかで聞いたどころか、ゲームと全く同じ台詞を言われてしまって、アレンは唖然としつつ頷く。
 「大丈夫です・・・。
 すみません、ちょっと・・・びっくりしました」
 「あぁ、急な依頼だったからな」
 口元をほころばせたクラウドに、ラビが飛び掛った。
 「俺も協力するヴァッ!!」
 「ライオンと一緒に火の輪くぐりするか?」
 一瞬で足下に踏みつけられたラビが、血反吐を吐いて目を回す。
 「元帥!部屋を掃除するのは私ですので、ご遠慮願えますか!」
 「あ?・・・あぁ、すまないな」
 リンクに厳しい声で叱られて、クラウドは気まずげにラビから足をどけた。
 「では、よろしく頼む」
 「はい」
 公演の時間や地図の描かれたメモをもらって、アレンがもう一度頷く。
 「ねぇねぇラビ、ここどこ?
 連れてってよ」
 床に転がったままのラビを足でつつきながら、アレンは久しぶりのサーカスにわくわくと目を輝かせた。


 翌朝、食堂に行くと、カウンターの中でジェリーが手を振っていた。
 「なんですか?」
 駆け寄ったアレンの頭を、ジェリーがにこにこと撫でる。
 「ねぇ、アレンちゃぁんv 午後からママとお出かけしましょv
 ハロウィンのお買物をするのだと言う彼女に、笑顔で頷こうとしたアレンの頭を背後から掴んだラビが、無理矢理上向かせた。
 「〜〜〜〜んなにすんだっ!!」
 苦しげな呻き声をあげるアレンを、ラビが馬鹿にしたような目で見下ろす。
 「ゲームを現実にする気さ?」
 言われてアレンは、はっとした。
 放してもらった頭を元の位置に戻すと、しょげ返った犬のように肩を落とし、泣きそうな上目遣いでジェリーを見上げる。
 「・・・・・・ごめんなさい。
 すごく行きたいんですけど、今日はクラウド元帥にピエロの代役を頼まれちゃって・・・・・・」
 すごく行きたい、と、もう一度呟いたアレンに、ジェリーが慌てて手を振った。
 「そう言うことならいいのよん、アレンちゃん!
 アタシも迂闊だったわ!
 昨日、クラウドちゃんがアレンちゃんのこと、『元はピエロだって本当か』って聞いてきた時に、最後まで聞けばよかったわん!」
 忙しかったから聞きそびれてしまったと、苦笑してジェリーは、もう一度アレンの頭を撫でる。
 「気にしないでいいからねんv
 うちの子達を連れてくわんv
 そう言って、厨房の中で雑用をこなす若い見習い達を振り返ったジェリーに、アレンが寂しそうな顔をした。
 「・・・・・・僕が一番、ジェリーさんの『うちの子』だったのにぃ」
 「アラッ!
 あぁん、アレンちゃん、泣かないでぇん!
 もちろん、アレンちゃんはアタシの可愛い子だから!ネッ?!」
 「はい・・・・・・」
 笑って頷いたものの、屈託を払えないアレンの表情にジェリーが大慌てする。
 「あ・・・アレンちゃん、特盛りカツ丼食べるぅ?
 そうだ、パイを焼いてあげましょぉねん!
 パンプキンパイはもちろん、アップルパイもねんv
 他にも何でも作ってあげるから、好きなのおっしゃいなv
 「はい!
 えーっとね・・・・・・」
 ようやく屈託の晴れたアレンにホッとしつつ、にこにこと注文を聞いて厨房に戻ったジェリーの後姿を、ラビが呆れ顔で見送った。
 「・・・お誘いは断ったってーのに、しっかり攻略するなんて、さすがアレンさ。
 姐さんのハートはがっつりゲットさね」
 「ジェリーさんの贔屓だけは、誰にも渡しませんv
 こぶしを握ってにんまりと笑うアレンの殺気を感じ取った見習い達が、びくりと震え上がる。
 「コラコラ、嫉妬の炎を燃やしてねーで・・・」
 「アレン君、ラビ君」
 背後からアレンの頬を潰していたラビが、呼びかけられて振り返った。
 「なんさ、ミランダ?」
 「ふぁい?」
 潰されて変な顔になったアレンに思わず吹き出した彼女は、くすくすと笑いながら小首を傾げる。
 「あの・・・お買い物につきあって欲しいの。
 私一人だと、迷子になっちゃうから・・・・・・」
 だったらなぜ、よりによってアレンに頼むのかと苦笑したラビが何か言う前に、頭上のティムキャンピーを振り落としたリンクが進み出た。
 「喜んでお付き合いしますよ、マンマv
 ウォーカーはこれからクラウド元帥のご用事に赴かねばなりませんので、私が!
 私がご案内いたします!!」
 監視任務はどうしたと、激しく突っ込みたくはあったが、リンクが自らアレンの傍を離れるなど滅多にないことだ。
 「ありがたく解放されますv
 「言うと思ったさ」
 にんまりと笑ったアレンに、ラビがクスクスと笑いだした。
 「ふふv
 リンク、僕はごはん食べてから元帥の頼まれごとしますんで、さっさとお出かけしたら?」
 言ってやると、彼は嬉しそうな顔を必死にしかつめらしい表情に隠して頷く。
 「・・・そうしましょう。
 さv マンマv
 「えぇ」
 二人に手を振って踵を返したミランダを見送って、アレンはジェリーが差し出す料理の数々に目を輝かせた。
 「僕、幸せですっv
 今日はいい日だと歓声をあげるアレンの声を聞きつけて、テーブルからリナリーが手を振る。
 「こっちこっちー!!」
 空いてるからと呼ぶ彼女に頷き、大皿を抱えて向かうと、テーブルに着いた途端、キラキラとした目で見つめられた。
 「アレン君、今日は任務ないよね?!
 ピカデリーサーカスに行こうよ!!ハロウィンのお買い物に付き合って欲しいの!!」
 またも見慣れた台詞を音声で言われてしまい、ティムキャンピーと共に固まったアレンをリナリーが訝しげに見つめる。
 「どうかした?」
 小首を傾げたリナリーへ、アレンの隣に座ったラビが苦笑した。
 「こいつさ、サーカスはサーカスでも、見世物のサーカスに行くように元帥に命令されてんさ。
 ピエロが急病なんだと」
 「そうなんだ!!」
 心配だねぇと、途端に気遣わしげになったリナリーにラビがにこりと笑う。
 「代わりに俺がふっ!!」
 テーブルの下で思いっきりアレンに足を踏まれ、ラビが悲鳴をあげた。
 「・・・ねぇ、リナリー。
 お買い物って、どうしても今日じゃないとダメですか?」
 ジェリーを篭絡した涙目の上目遣いに、リナリーの表情が揺れる。
 「え・・・っと、仮装衣装のお買い物だから、今日じゃないと間に合わないかなぁ・・・・・・」
 断るのが心底心苦しいとばかりにリナリーが言うと、アレンは屈託に満ちた表情でため息をついた。
 「・・・そうですよね。
 僕も他の用事なら喜んでリナリーを優先したんですけど、元帥から『お前にしか出来ないから』って頼まれちゃ、お断りしようがなくて・・・。
 本当にごめ・・・」
 「ううんっ!!
 先に頼んだのは元帥なんだし、優先して当然だよ!
 それに、ピエロが急病だなんて大変だもんね!
 代わりが出来るのはアレン君だけだもん!がんばってね!」
 アレンの言葉を遮って言うリナリーに、アレンは残念そうに頷く。
 「・・・そうだ!
 リナリー、僕のピエロ見に来ませんか?
 お買い物は、その後でも間に合う・・・かなぁ?」
 子供相手の見世物だから夕方には終わるはず、と言うアレンに、リナリーが目を輝かせた。
 「行く!!
 アレン君のピエロ見て見たい!!」
 「ホント?!じゃあ行きましょ!」
 ゲームと違い、現実ではどんどん攻略していくアレンを、ラビが唖然と見つめる。
 「さすが天然ナンパ少年・・・見事な篭絡っぷりさ」
 「えへへ!
 僕、リアルの方が生き易いですv
 得意げに笑うアレンに、リナリーが小首を傾げた。
 「なんの話?」
 「ゲー・・・」
 「夢の話さv
 お前に嫌われる夢を見たって、アレンが昨日から散々泣いてたんさv
 正直に言おうとするアレンの口を塞いだラビが、ケラケラと笑う。
 「な・・・泣いてはないでしょ!!」
 もがもがともがいてラビの手を逃れたアレンが真っ赤な顔で否定すると、リナリーがクスクスと笑い出した。
 「アレン君、私に嫌われるようなことしちゃったんだ」
 「嫌われるようなことって言うか・・・元帥のお願い事を聞いた後に、リナリーのお買い物にも付き合うなんて言っちゃって、元帥からは安請け合いするなって怒られるし、リナリーからは都合のいいこと言うなって怒られるし・・・途中まで正夢っぽかったから、本当に驚きました」
 すかさず口裏を合わせたアレンがため息混じりに言うと、リナリーが納得した風に頷く。
 「すごい偶然だね!
 アレン君って、予知夢とか見ちゃうタイプ?」
 「わかんない。
 いつもは夢とか覚えてないし」
 慌ててバケットサンドを咥えて自分の口を塞いだアレンは、もごもごと言ってそれ以上の追求を防いだ―――― 自分の見る夢は、どうにも危険な気がする。
 「・・・それより、すぐに出られますか?
 僕はごはん食べたら案内わんこと一緒に行っちゃいますけど」
 「誰が案内わんこさ、誰が!!」
 ティムキャンピーにつつかれたラビが、アレンの頭をくしゃくしゃとかき回した。
 「お前、頼みごとする時くらいは殊勝にさね・・・!」
 「あ!やっぱりここにいましたぁー!!!!」
 突然甲高い声が響き渡って、ラビの気がそれる。
 「ウォーカーさぁん!お久しぶりですぅ!」
 隣のラビや対面のリナリーには全く気づかない様子で、猪突猛進の乙女が突っ込んできた。
 「ロ・・・蝋花さん・・・!」
 「えへへーv
 支部長が会議に呼び出されたんで、無理矢理お供して来ました!」
 ティムキャンピーを押しのけて笑う彼女を、リナリーがムッと睨む。
 が、その不機嫌さにも気づかぬ様子で、蝋花はアレンの手を両手で握った。
 「明日はハ・・・ハロ?えーと??」
 「ハロウィンの前夜祭!」
 ラビとリナリーの憮然とした声が揃い、必要以上に刺々しくなる。
 「そうそう!それです!」
 ようやく二人の存在に気づいた蝋花が、喜色を浮かべた。
 「街が華やかで楽しいよって、室長が!
 支部長もやることないなら行ってこいって言ってくれたので!
 ウォーカーさぁんv 案内してくださぁいv
 ロンドンって初めてなんですぅ!と、またもゲームと同じ台詞を言われてしまって、アレンは目に見えて動揺する。
 「こ・・・これは絶対・・・コムイさんの罠ですよ・・・ね・・・?」
 「あいつならやりかねねーさ・・・!」
 ひそひそと囁きあうアレンとラビに押しやられた蝋花が、悲しげに眉根を寄せた。
 「ダメですかぁ・・・?」
 「ダ・・・」
 「ダメよっ!!」
 リナリーが言うより先に叱声が飛んで、蝋花が固まる。
 「あ・・・あの・・・・・・?」
 誰だろうと、問う前に足音も高らかにエミリアが駆け寄って来た。
 「あんた達二人とも!
 街に出るから荷物持ちして!」
 有無を言わせぬ迫力に、思わず頷きそうになったアレンが慌てて手と首を振る。
 「ム・・・無理です!ごめんなさい!」
 「じゃあラビだけでいいわ!!」
 「いや、俺も・・・!」
 揃って首を振られて、苛立ったエミリアが爪を噛んだ。
 「まずいわ・・・!
 ソカロ元帥とティエドール元帥の命令なのに、遂行できなかったらティモシーが・・・!」
 じろりと睨まれて、リナリーも慌てて首を振る。
 「わっ・・・私も用事が!!」
 「ちっ!!」
 激しく舌打ちしたエミリアに、ラビが首を傾げた。
 「ユウは?」
 何気なく問うた途端、またアレンに足を踏まれる。
 「不吉な名前言わないでよ!
 あンのサイアク敵キャラが出てくると、途端に攻略が難しくなるんですよ!!」
 ひそひそと囁くアレンを訝しく見下ろしながら、エミリアは首を振った。
 「どこにもいないのよ!
 任務じゃないらしいけど・・・誰も居場所を知らないの!」
 知っていればとっくに連行したと、エミリアは悔しげに歯噛みする。
 「他に誰か・・・!」
 辺りを睥睨したエミリアが、唖然と佇む蝋花に目をつけた。
 「あなた、科学班の子?!
 ヒマなら手伝って!!」
 「えっ?!ええー?!」
 目を丸くする蝋花に、リナリーがにんまりと笑う。
 「エミリア!
 彼女、アジア支部の科学班見習いの人で、ハロウィンで賑わうロンドンを見たいんだってわざわざ来てくれたんだよ!
 だから・・・」
 「それは好都合ね!
 今からロンドンに行くのよ!
 十分楽しめるわ!!」
 「そっ・・・そんなっ・・・!!」
 アレンとの楽しいデートを妄想していたのに、こんなに気の強そうな女の荷物持ちだなんて、がっかりにも程があった。
 「わ・・・私ぃ・・・!」
 「エミリア!」
 何とか断ろうとした蝋花を、リナリーが遮る。
 「私、アレン君と!
 アレン君と一緒に!
 クラウド元帥の命令を遂行しなきゃだから、私の分もお願いできるかなぁ?」
 わざわざ蝋花の前でアレンと一緒なのだと強調したリナリーが、ポケットからメモを取り出した。
 「これ、よろしくーv
 ちらりと、得意げな目で蝋花の泣き顔を見遣ったリナリーからメモを受け取り、エミリアは強引に彼女の手を引く。
 「さぁ!ロンドンを案内してあげるわ!!」
 「やぁんー!!!!」
 蝋花の泣き声が遠くなっていく様に、リナリーが悪い笑みを浮かべた。
 「・・・さーぁ、アレン君v
 私、用事がなくなっちゃったから、サーカスにお付き合いするよ?」
 向き直ってにっこりと笑ったリナリーに頷くアレンを、ラビがつつく。
 「・・・ついさっきまで俺ら、オンナノコ達を攻略する側だと思ってたけどさ」
 「これ、完璧に攻略されましたよね・・・・・・」
 乾いた笑みを浮かべて、アレンは全回復アイテムの特盛りカツ丼を手に取った。


 「・・・で、お前が何の命令をされたんさ?」
 呆れ顔のラビに、リナリーはにんまりと笑った。
 「いつもお世話になっている元帥のお役に立てるなら、リナリーだって喜んでお手伝いするよって意味だよv
 クスクスと笑うリナリーと並んで、アレンも嬉しそうに頷く。
 「そう言うわけでラビv
 リナリーに連れてってもらうから、もう案内わんこしなくていいですよ!
 てかハウス!」
 「お前って奴はなにを勝手なことぬかしてんさ!!」
 ビシビシとアレンの額をつつきながら、ラビが口を尖らせた。
 「俺だって、元帥の好感度を上げるためなら協力は惜しまんさ!
 リナリーよか絶対お役立ちだぜ!」
 「火の輪くぐりでもするんですか?」
 意地悪く言ってやると、ラビが黙り込む。
 「なになに?
 元帥の飼いウサギになって、ライオンと一緒に火の輪くぐるの?!
 それも見てみたい!!」
 わくわくと目を輝かせるリナリーを、ラビがムッと睨みつけた。
 「くぐらねーさ!
 ・・・・・・・・・たぶん」
 自信なさげに言ったラビにアレンが吹き出し、リナリーと一緒に笑声をあげる。
 「・・・アレン、ゲー・・・」
 「そっ・・・そろそろ行きましょうか!」
 じろりと睨まれたアレンが慌てて笑いを飲み込み、ラビの言葉を遮った。
 「ラビのことも誉めてくれるといいですね、元帥!!」
 「あぁ!!
 ご褒美のキスは俺のもんさ!!!!」
 こぶしを握って絶叫したラビにリナリーが目を丸くし、ややしてアレンをじっとりと睨む。
 「・・・・・・ふーん。そうなんだ」
 「ちっ・・・違いますよ!
 ラビが勝手な妄想してるだけで、僕が元帥からもらうご褒美はバイト代です!」
 ばたばたと手を振るアレンの隣で、ラビが不満げな顔をした。
 「俺はバイト代なんかより、元帥のキスがいいさ!
 だからお前も協力するさね!」
 「なにをですか。火の輪くぐりの練習にでも付き合うんですか」
 肩を抱く手をつねってやりながらアレンが口を尖らせる。
 と、ラビがもう一方のこぶしを高く上げた。
 「俺もピエロやるさ!」
 意気揚々と言い放った途端、
 「ふっ・・・ざけんなトーシロが!!!!
 ピエロ甘く見んじゃないですよ!!!!」
 珍しくも本気の怒号をあげたアレンに、リナリーが飛び上がる。
 「ア・・・アレン君、落ち着いて・・・!」
 「・・・あぁ、失礼」
 蹴倒してしまった椅子を気まずげに戻しながら、アレンは唖然とするラビを見下ろした。
 「僕と一緒にピエロやるっつーんなら、それなりの覚悟はしてもらいますからね」
 冷え冷えとした目で睨まれて、ラビが震え上がる。
 「は・・・早く謝ったほうがいいんじゃないかな・・・?」
 余計な口出しかとは思ったが、傷は浅いうちがいいと囁いたリナリーにコクコクと頷きつつ、ラビが何度も詫びを入れた。
 「・・・まぁ、いいですよ」
 憮然としつつも、アレンは謝罪を受け入れる。
 「とりあえず、火の輪くぐりの練習には付き合ったげます」
 「するかああああああああああああ!!!!」
 本気の目をしたアレンに心底怯えながら、ラビは食堂中に響き渡る悲鳴をあげた。


 ―――― ハロウィンを明日に控え、はしゃいだ子供達で埋め尽くされた街中を、頭からシーツをかぶったお化けが看板を掲げて歩いていた。
 無言ながら身長のあるそれがゆらゆらと人並みを縫って歩く様は妙に優雅で、子供達は水中の魚でも見るような目で追って行く。
 と、それは『大売出し!』と派手な看板がかけられた店へ吸い込まれて行き、子供達は親の手を引いて次々と続いた。
 「あぁー・・・来ちゃった・・・・・・!」
 所狭しと並べられたお菓子が、溢れんばかりの色彩と甘い香りで子供達を誘惑する中、親達が頭を抱える。
 「も・・・やめて!お菓子なら買ってあるんだから、これ以上はいらないの!」
 「ホラ、行くわよ!!そのチョコを棚へ戻しなさい!」
 子供達の歓声で騒がしい中、親達の叱声と子供の泣き声がアクセントになり、更に喧騒を増していた。
 そんな中、子供と言うには大きく、大人と言うには幼い東洋人を連れた女が、彼女に持たせた籠に次々とお菓子を入れて行く。
 「え・・・エミリアさぁん!重いですぅ・・・!」
 とうとう泣き声をあげた彼女を見もせずに、エミリアはパッケージごとチョコレートの箱を籠へ入れた。
 「もうちょっと我慢して!!
 この店狭くて、カートが入れないんだもの!」
 籠の重さにぷるぷると震える腕が見えないのか、エミリアは更にお菓子を箱買いしていく。
 「お・・・男手を頼めばよかったじゃないですかぁ・・・!」
 教団は男性団員の方が圧倒的に多いのだし、エミリアのような美人が頼めばイヤとは言わないだろうと言えば、じろりと睨まれた。
 「蝋花、あんたそんな根性じゃ、いつまで経っても見習いよ!
 このご時世、男以上に働いてようやく認められるんだからね、あたし達は!
 キャッシュを見習いなさい、キャッシュを!!」
 厳しく叱られて、蝋花ははっと目を見開く。
 アジア支部科学班見習いである蝋花と、本部科学班第一班で働くキャッシュとの差は、単に年の差だと思っていたが、そんな甘いものであるはずがなかった。
 「あ・・・あのぅ、エミリアさぁん・・・!
 言いたいことはわかるんですけどぉ・・・」
 「なぁに?」
 しょんぼりしてしまった蝋花に、ちょっと言い過ぎたかと気まずげなエミリアが語気を緩めると、彼女は困惑げな目で見上げてくる。
 「これって、なんの関係があるんでしょお?」
 少なくとも、科学者としてのキャリアには関係ないと思う、と言う彼女にエミリアはにんまりと笑った。
 「エクソシスト元帥とのパイプ繋ぎよ」
 「がんばりますぅ!!!!」
 途端に張り切った蝋花が、籠を捧げ持つ。
 「これはぁっ・・・元帥達が召し上がるんでしょうかぁ!」
 緊張気味に尋ねると、エミリアは顔を歪めて首を振った。
 「違うわ・・・!
 ソカロ元帥がティモシーを人質に取ってあたしに命令したの。
 ティエドール元帥がクラウド元帥のために、お菓子の像を作るから、急いで材料を仕入れて来いって・・・!
 昼までに帰らないと、ティモシーをチョコの鍋に沈めてコーティングしてやるって・・・!」
 「ひぃぃぃぃっ!!!!」
 悪鬼達がぐつぐつと煮えたぎる鍋の上に子供を吊るしている様を想像して、蝋花が悲鳴をあげる。
 「ででで・・・でもどうして?!
 本部にだって、食堂はあるでしょぉ?!
 材料ならそこに・・・・・・!」
 「料理長のジェリー姐さんとクラウド元帥は仲良しなの」
 「あぁー・・・・・・・・・」
 きっと秘密裏に行いたい悪事なのだろうと納得し、蝋花は何度も頷いた。
 「どんなのができる・・・んでしょうねぇ・・・・・・」
 「まぁ・・・ちょっと興味はあるわよね」
 こくりと頷いたエミリアが、ついさっきまでぎっしりと詰まっていたはずの棚を空にしてしまい、傍らの子供に大泣きされる。
 「補充おねがーい!」
 店員の迷惑そうな顔をものともせず、エミリアは店ごと買い占める勢いで、次々と棚を空にして行った。


 ――――・・・その店の奥、在庫の積まれた部屋で、
 「・・・あっつ!!」
 頭からかぶっていたシーツを脱いだ男が、パタパタと手で顔をあおいだ。
 「もう秋だってーのに、これ被ってっとさすがに暑いな!」
 手にしたままの看板を店員に渡すと、彼はニコニコと笑って小さな袋を差し出す。
 「なんも喋んなかったのにうまいね、アンタ!
 ハイ、バイト代。
 アンタが一番子供を連れて来てくれたから、ちょっと上乗せしといたよ!」
 「サンキュv
 受け取った袋の中で触れ合う硬貨の音に嬉しげに笑った男が、ひらひらと手を振った。
 「俺も助かったよ!
 なんとか顔を見られずに逃げ出したかったからさ」
 その上バイト代ももらえてラッキーだと喜ぶ彼に、店員は小首を傾げる。
 「いいナリしてんのに、小銭をもらって喜ぶなんて不思議だね。
 貴族じゃないみたいだけど・・・」
 「成金だよ、俺は♪」
 クスクスと笑って、彼は硬貨の入った袋を、仕立てのいいスーツの胸ポケットにしまった。
 「堅苦しいパーティから解放してくれてありがとさんv
 また機会があったらバイトさせてくれ」
 「あぁ、ぜひに!」
 握手して店員と別れると、彼は裏口から店を出る。
 「・・・・・・」
 用心深く辺りを見回し、誰もいないことを確認して、裏道を駆け出した。
 「自由だ!!
 俺はっ!とうとうあの残虐で惨劇でしかないパーティを抜け出したぞ!!」
 両手を広げて感激に震えつつ、涙に潤む目で秋の空を見上げる。
 「ロンドンの曇り空だって今日は明るく見えらぁ!!
 よくやったぞ俺!やったぞよく!!」
 顔を覆って泣きながら、うっかり歩を進めた彼はそのまま裏道を飛び出して、表通りを歩いていた少年にぶつかった。
 「あぁ、失礼!
 怪我はな・・・ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!」
 突然あがった悲鳴に驚いた少年は、彼を見て目を丸くする。
 「ティ・・・ティキ!!!!」
 「なんでここにいんの、少年!!!!」
 思わず後ずさったティキは、彼の背後に目をやって、絶望的に顔を引き攣らせた。
 「お嬢ちゃんと眼帯君も・・・!」
 既に臨戦態勢の三人に睨まれて、ティキは両手を挙げる。
 「待って待って、落ち着いてみんな!
 いつも言ってるけど、この期間は俺ら、オフなの!
 戦いもしないし誘拐もしないから、そんな目で見ないデ!」
 大声で言った途端、はっと眉根を寄せた。
 「少年!
 確かに俺はオフなんだけど、たった今ロードから逃げて来たとこなんだよ!
 あいつにとってお前の誘拐は仕事じゃねぇんだから、逃げないとさらわれちまうぜ!」
 早く行けと手を払う彼を、アレンがじっとりと睨む。
 「もちろん、誘拐される気なんてさらさらないですけど・・・!」
 「蹴倒したい気持ちではいっぱいなの!」
 「俺も!!」
 「だから早く逃げろってぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
 脚と槌を振り上げたリナリーとラビから飛びすさり、ティキは半ば壁に沈んだ。
 「逃げようったってそうはいきませんよっ!!」
 巨大な爪で壁を抉ったアレンが、ティキの首を掴む。
 「このままスパンと・・・」
 切り落としてやろうか、と言いかけたアレンを、子供達の歓声が止めた。
 「すごいー!!あれ、どうやってるの?!」
 「まぁ・・・本当にすごい手品ね」
 賑やかな表通りは人通りも多く、壁に埋まったティキと巨大爪のアレンは人々の好奇の目を集める。
 「やばいさ!
 リナ!あれ!!」
 「あ・・・うん!!」
 ラビが指した屋台に駆け寄ったリナリーが、硬貨を投げ渡すや取り上げた商品の布を彼へ放った。
 「レディース&ジェントルメン!
 壁に埋まったかに見える男と巨大爪の少年ですが・・・!」
 宙で布を受け取ったラビが大きく広げ、アレンとティキの頭にかける。
 「そら、ご覧の通り!」
 布を取り去ると、アレンとティキが何食わぬ顔で壁の前に立ち、一礼した。
 歓声と拍手に包まれて、笑顔で手を振る4人は、投げられた硬貨を受け取り、早々にその場を立ち去る。
 「いやー・・・助かったよ、眼帯君。
 少年が無茶するからさぁ」
 「元はと言えば、あんたが逃げようとすっからでしょ!!!!」
 へらへらと笑うティキに、アレンが怒声をあげた。
 と、背後から槌を突きつけるラビが、油断なくティキを睨むリナリーを見遣る。
 「リナ、クラウド元帥に連絡しろよ。
 ノアを捕まえたけど、どうしますかってさ」
 「逃げられないように拘束しとくんで、お願いします」
 そう言ってクラウン・クラウンを発動させたアレンも、クラウン・ベルトをティキの首と腰に巻きつけた。
 「相変わらず、派手な道化姿だねぇ、少年。
 まぁ、ハロウィン前の街中じゃ、まだ地味な方だけどさ」
 苦笑したティキが言うように、色とりどりの衣装で客寄せする店員や屋台の人々はもちろん、買い物客達も買ったばかりの品を早速身につける者が多く、白いマントのアレンはむしろ、地味な方だ。
 「その腕切り取って、紅く染めるのってのはどうだろな♪」
 「・・・エクソシスト3人に囲まれてるってのに、ムカつくほど余裕ですね」
 眉根を寄せたアレンに笑ったティキが、通信中のリナリーを振り返った。
 「お嬢ちゃん、元帥は俺を逃がしてやれって言わなかったか?」
 からかい口調にムッとしたリナリーが、通信を切ってティキを睨む。
 「言うわけないでしょ。
 アレン君、元帥は先にサーカスのテントに行ってるから、ティキを連れて来いって」
 「え?
 クラウド元帥が・・・」
 それは心強いと、にんまりと笑ったアレンがティキを拘束するベルトを引いた。
 「さぁ、ついて来るがいいですよ、哀れな虜囚メv
 教団の女王様に思いっきり躾けられるといい!」
 「は?!
 なにそれ、あの元帥ってそーゆー人なのっ?!
 そもそもサーカスってどゆこと?!」
 途端に余裕が消えたティキに、アレンの笑顔が邪悪に歪む。
 「百聞は一見に如かずですよv
 その身体に教えてもらうがよいわ、豚野郎v
 「なんか嫌な予感しなしねぇんだけど!!!!」
 悲鳴をあげる口をクラウン・ベルトで容赦なく塞ぎ、アレンは生贄を捧げる臣下よろしく、女王の下へと彼を連行して行った。



To be continued.


 










2012年ハロウィンSS第1弾ですv
これから第3弾くらいまではリクエストNo.47『クラウド&アレンのサーカス語り』を使わせてもらいます(^^)
・・・あ、第2弾はあんまり関係ないか。
期間中、お楽しみくださいな(^▽^)












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