† TROUBLE V †






 賑やかな音楽に惹かれて広場へやって来た一行は、その巨大な天幕に唖然とした。
 「・・・・・・やっぱりアメリカって、やること大きいなぁ」
 開発途中で空き地になった場所を一時的に借りたそうだが、英国だけでなく、欧州のどんな土地で見るサーカスよりも巨大な施設に、アレンはただ呆れる。
 「これだけの資材を船で運ぶのも大変だったろうねぇ・・・」
 やはり唖然としたリナリーの傍らで、ラビが首を振った。
 「そんな無駄なことするかい。
 現地調達さ」
 「ホントに?!」
 「どんだけお金持ちなんだよ!!」
 目を丸くしたリナリーと、かかった金額の計算を始めたアレンにティキが、へらへらと笑う。
 「日雇いの身からすれば、こんなでかい興行は大歓迎だねぇv
 都会で実入りのいい仕事がもらえっからなv
 「ホントお前・・・悲しくなるほど庶民さね」
 貴族然としていても、意識はそう簡単には変わらないようだった。
 「つましく生きている善人にそう言うこと言うかなぁ」
 「つましく生きている善人は、殺人に悦びなど覚えないのだよ、快楽のノアよ」
 不満げなティキに鼻を鳴らし、言った女にラビが目を輝かせる。
 「元帥vvvv
 キレイさー!!!!」
 どういう設定なのか、トルコの後宮にいる美姫のような衣装を纏ったクラウドが、肩に白い小猿を乗せ、片手に鞭を持って歩み寄って来た。
 「待っていたぞ、アレン。
 動物も連れて来てくれて助かった」
 「ど・・・動物・・・・・・?」
 とても嫌な予感がして、顔を引き攣らせるティキにクラウドは、邪悪な笑みを浮かべる。
 「英国紳士には、鞭打たれて喜ぶ輩が多いと聞いたのでな。
 猛獣ショーの前の余興にいいだろう?」
 「それなんかすごい誤解されてますよっ!!」
 「俺、英国紳士じゃなくてポルトガル人だからー!!」
 ティキだけでなく、アレンも慌てて否定するが、元よりクラウドに聞く気などなかった。
 「さぁ、早く準備しろ。
 アレンは適当にジャグリングでもして場を埋めてくれればいいそうだから、気楽にな」
 「はい・・・」
 納得しがたい顔で頷いたアレンの傍らで、目を輝かせるリナリーにクラウドがクスクスと笑う。
 「お前も出たいのか?」
 「なにができるかな?!」
 とは言いつつも、じっとクラウドの鞭を見つめる彼女の考えは駄々漏れだった。
 「このノアを鞭打ちたいのだろう?」
 「ささやかなお返しだよv
 「女って!!!!」
 悲鳴をあげたティキににんまりと笑ったクラウドは、シャルワールと呼ばれるゆったりとしたズボンのポケットから薬瓶を取り出す。
 「それ・・・科学班のマーク・・・ですよね・・・・・・」
 常に嫌な思い出と共にある『科』のマークに顔を引き攣らせたアレンへ頷くと、クラウドはハンカチで自分の鼻と口を覆い、リナリーとラビに向けて吹きかけた。
 「えぇっ?!」
 「なんで俺まで?!」
 反射的につぶった目を開けた途端、子供の姿になっていた自身の姿にリナリーとラビが大声をあげる。
 「リナリーは、子供が大人を鞭打つ様がいい風刺になると思ったからだが、ラビは大きいままだと鬱陶しいからな」
 「鬱陶しいって!!!!」
 甲高い声をあげるラビに背を向け、耳を塞いだクラウドが、アレンを顎で指した。
 「楽屋に案内してやる。ついて来い」
 「あ、はい!」
 小さくなって歩きにくそうなリナリーを抱えたアレンは、脱げてしまった彼女の靴をティムキャンピーに渡し、ティキの綱を引いてついて行く。
 「俺を置いてくなー!!!!」
 後ろからラビもぺたぺたとついて来て、一行は開演前で賑やかな舞台裏へと入った。


 「・・・なんさ、これ?」
 楽屋に入るや渡された薄汚れた着ぐるみに、ラビは眉根を寄せた。
 「もう処分すると言うのでな。ちょうどいいだろう?」
 「・・・俺は処分品さ?」
 へたった毛並みに顔を埋め、しくしくと泣くラビにクラウドは肩をすくめる。
 「いいから早く着ろ。
 お前がどうしても私の手伝いをしたいというから、わざわざもらって来てやったんだぞ」
 ため息をついて、クラウドはカーテンの向こうを見遣った。
 「リナリーは一人でお着替えできるのか?」
 クスクスと笑う彼女の目の前でカーテンが細く開き、ぴょこんっと白い兎耳が飛び出す。
 「あ・・・あのぅ・・・元帥・・・・・・この格好って・・・・・・」
 もじもじと恥ずかしげに出てきたリナリーに、クラウドが吹き出した。
 「可愛いバニーガールだなv
 「う・・・バニーガールって言ったら、もっとセクシーなんじゃ・・・・・・」
 ふかふかのハイネックでノースリーブのトップは丈が短く、子供らしいふっくらしたお腹がほとんど見えていたが、丸い尻尾のついたパンツはもこもこと大きくて、肉球のついた長い手袋や靴下もおいしそうに太っている。
 「こ・・・これじゃ狼に食べられちゃうよう・・・!」
 ぴるぴると耳を震わせるリナリーを、狼の着ぐるみを着せられたティキがにやにやと見ていた。
 「可愛くしてもらったじゃん、お嬢ちゃんv
 すげぇうまそうだなぶっ!!!!」
 「破廉恥なこと言ってんじゃないですよ、この外道が」
 心底蔑んだ目で見下ろすアレンが、ティキの首に何重にも巻きつけたベルトを引く。
 「元帥、このロリコンがリナリーに触る前に縊り殺していいですか?
 きっと、鶏のように鳴きますよ」
 「死ぬ死ぬ死ぬぅ――――――――!!!!」
 既に縊り殺される鶏のような声をあげるティキに、クラウドが肩をすくめた。
 「許可すると言いたいが、生憎もう、ウサギと狼のショーは告知してしまったんだ。
 終わったら好きなようにしろ」
 「はぁ・・・」
 納得行かない顔で、アレンはベルトを引く手を緩める。
 「ちょっ・・・少年!
 捕虜は丁重に扱おうよって教団では習わないのか?!
 それに俺、ロリコンじゃないし!!!!」
 「はっ!
 幼女に庇われてるヘタレの分際で、言うことだけは一人前ですね!」
 「その幼女に迫られてまんざらでもないのはお前だろ、少年んんんんんん!!!!」
 返す刀でざっくり斬られ、アレンが言葉を失くした。
 「アレンくぅん・・・?」
 「ちっ・・・違いますよ!
 まんざらでもないなんて、絶対あっちの主観ですから!!
 僕は大迷惑してますとも!!!!」
 リナリーにじっとりと睨まれ、慌てたアレンがティキを睨みつける。
 「余計なこと言ってんじゃないですよ、ノア内ラビ!」
 「なっ・・・なにそれすげぇ屈辱感っ!!」
 「なに勝手に俺を貶めてんさお前らっ!!」
 ぎゃあぎゃあと喚く三人に舌打ちしたクラウドが、ラビの頭に目玉の取れかけたウサギの被り物を被せた。
 「早く着替えろと言っているだろう!」
 「あ・・・あい・・・!」
 真っ暗になった視界の中で怒鳴られて、ラビが途端に縮こまる。
 「アレンも、化粧はいいのか?」
 「あ、しますします。
 ショーに出るなら美しくあらねば」
 「そ・・・そうなんだ・・・」
 ごく当然の口調で言われて、リナリーが目を丸くした。
 「リナリーもしてあげましょうか?
 そのままでも十分可愛いですけど、ステージでは顔をくっきり見せるためにもお化粧は必須なんですよ」
 「そうなんだ!!」
 それで今日のクラウドは、後宮の美姫のように華やかなメイクをしていたのかとようやく納得する。
 「じゃあ、リナリーもやってv
 「はいv
 自分の化粧はそっちのけで、リナリーの化粧をするアレンにクラウドが舌打ちした。
 「早く済ませろ。
 一応、リハーサルはしていないと流れがわからないだろう?!」
 「あ、はい!すぐやりますから!」
 イライラとした早口で言われ、アレンが慌てて頷く。
 「じゃあリナリー、目をつぶってじっとしてるんですよーv
 可愛くしますからねーv
 「・・・絵的には完全にロリコンの変質者だな」
 座って頬杖をついたティキが、ピエロ服のまま小さなリナリーの顎をつまみ、パフで顔を撫で回すアレンに舌を出した。
 「うるさいなぁ!
 ヘタレは黙ってテントの隅でもつついてなよ!」
 ムッとしながらも手は休めず、アレンはリナリーの長いつけ睫毛をした目にアイシャドウを入れ、小さな口に紅をさし、乱れないようにヘアワックスで整えた髪の上からラメを散らす。
 「ほっぺには星がいい?ハートがいい?」
 「四つ葉のクローバー!」
 鏡を見て歓声をあげたリナリーに、アレンが笑い出した。
 「それは斬新だな。
 いいですよ」
 ハートの型紙を使い、フェイスペイント用の絵の具でリナリーの頬に四つ葉のクローバーをステンシルすると、それが乾く前にラメを散らして頬にもキラキラと輝きを添えた。
 「どうですか?」
 「可愛い!!!!」
 舞台メイクがお気に召したらしいリナリーが、はしゃいだ声をあげる。
 「アレン君、絵はからっきしなのに、お化粧は上手なんて不思議だねぇ!」
 「・・・そうですね」
 やや傷ついた顔で、アレンが苦笑するのも気づかず、リナリーはクラウドに駆け寄った。
 「元帥!
 お化粧してもらった!」
 「よしよし、可愛い可愛い」
 やたらぞんざいに言って、クラウドは持っていた鞭を手渡す。
 「じゃあこれを振って見ろ。
 ちゃんといい音がするように、そして観客からも見やすいように大げさに振るんだぞ」
 「はぁいv
 諸手をあげてクラウドから鞭を受け取ったリナリーは、自分の身長よりも長い鞭を振り回した。
 「えいっ!えいっ!!」
 明らかにティキを狙って振り下ろすが、頬杖をついたままニヤニヤと笑う彼にはかすりもしない。
 「と・・・透過の力使ってるでしょ!!!!」
 「使ってねーよ。
 お嬢ちゃんがヘタなだけv
 「うー!!!!」
 ムキになって振り回しても、ティキに当たるどころかいい音もしなかった。
 それでも振り回し続けていると、背後からクラウドがリナリーの手を掴む。
 「リナリー、手首だけ使って振り回しても、うまく行かないぞ。
 ちゃんと身体全体を使って振らないと、怪我をしてしまう」
 こういう風に、と、クラウドが振り上げた鞭が目にも止まらぬ速さでティキを打ち据えた。
 「ぎゃっ!!!!」
 アレンのベルトに繋がれたままの彼は、透過も出来ずに悲鳴をあげる。
 「ちょ・・・なにすんの、お姐さんっ!!
 反対!!捕虜虐待反対!!!!」
 「虐待ではない」
 冷え冷えとした声と共に、再び鞭が振り下ろされた。
 「お前達に殺された弟子の復讐だ!」
 「余計悪いいいいいいいい!!!!」
 恥も外聞もなく、ティキが悲鳴をあげて逃げ回る。
 が、首をベルトに繋がれた上、狭い楽屋の中ではそれも限界があった。
 「さぁ、やってごらん」
 「はいっ!!」
 テントの隅に追い詰められたティキへ、リナリーが鞭を振り下ろす。
 「あいたっ!!」
 「当たったー!」
 諸手をあげて飛び跳ねる極悪ウサギに、着ぐるみを着たラビがくぐもったため息を漏らした。
 「元帥、教育上よろしくない光景だと思うんけど、コレ」
 子供に見せていいのかと、苦言したラビにクラウドがにんまりと笑う。
 「どうせショーが終われば殺すのだ。
 その前に少々遊んだ所で問題はないだろう」
 「殺すのっ?!俺、殺されちゃうのっ?!」
 リナリーの振り回す鞭から逃げつつ、悲鳴をあげるティキをクラウドが冷たく見下ろした。
 「生きて帰れるとでも?」
 「生かして帰そうよ!!」
 敵らしからぬことを言うティキに鼻を鳴らし、クラウドは肩に乗った小猿を撫でる。
 「ラウ。
 今日はご馳走だな」
 「食われるのおおおおおおおおおお?!」
 嬉しげに跳ねる小猿に悲鳴をあげるティキを、アレンの頭上からティムキャンピーがじっと見つめていた。
 「ティムも食べたいの?
 じゃあ、ラウと半分こね」
 「少年んんんんんんんんんんんんんんんん!!!!」
 泣き叫ぶティキへアレンが舌を出し、ティムキャンピーが歯を剥く。
 「さぁ!
 早く準備して、リハーサルに行ってこい!」
 苛立たしげな口調のクラウドに急かされて、アレン達は慌てて楽屋を出て行った。


 ―――― その頃、ハロウィンの雰囲気に浮かれた街の中では、ロードが不機嫌な顔で大きなロリポップを咥えていた。
 「〜〜〜〜もうっ!
 ティッキーってば、どこに行っちゃったんだよぉ!!」
 足元の小石を蹴飛ばして怒る彼女を、傍らのシェリルが抱き上げる。
 「本当に、どこに行っちゃったんだろうねぇ。
 迷子対策のためにも、私の糸をつけておけばよかったね」
 行き交う人々の頭上から見えるように、ロードを高く抱えてやるが、彼女の目にもティキの姿は捉えられなかった。
 その代わりに、
 「お父様ぁ!あそこ!なんか呼び込みしてる!」
 小さな手が指した先を、シェリルが見遣る。
 「サーカスだね。
 そう言えば、開発途中で空き地になった場所を貸してほしいって、アメリカのサーカス団が申請を出したそうだよ。
 確か、受理した礼にチケットをくれたとかで、私ももらったと思うんだが・・・」
 そう言ってシェリルは、自分の胸ポケットをロードに探らせて、札入れを出してもらった。
 「入ってるかい?」
 「これかな?」
 紙幣の端に挟まっていた、派手な色合いのチケットを出すと、シェリルが頷く。
 「それ一枚で何人でも、って言ってたからね。
 ロードが見たいなら行ってもいいよ」
 「そうだね・・・ティッキーなんて置いてけぼりだっ!」
 ぷくっと膨らんだロードの頬に、シェリルが嬉しげに頬をすり寄せた。
 「子供じゃないんだし、そのうち帰ってくるよv
 ティッキーなんかほっといて、パパとデートしようねぇvvvv
 そうと決まれば気が変わらないうちに、と、シェリルはロードを抱っこしたまま足を早める。
 外務大臣の一人歩きに慌てた従者達が駆け寄って来るが、道行く人々は自分達の衣装や店の商品に夢中で、誰も彼の存在には気づかなかった。
 が、さすがに賓客用チケットを渡されたサーカスの団員は気づいて、彼らを丁重に貴賓席へと案内する。
 「へぇ・・・広いね」
 「うん、ここには警察署を建てる予定だから、敷地を広く取ったんだよ。
 設計図が出来上がり次第、着工の予定なんだけど遅れててねぇ。
 その間、土地を遊ばせておくのもなんだから、彼らの申し出は渡りに舟だったそうだよv
 率直に感心したロードに対し、難しい話をしたシェリルは得意げに何度も頷いた。
 「この辺りは貧民がたむろして治安が悪かったからねぇ。
 ここに警察署を置くことで、治安維持にあたらせようって・・・」
 「そんなのどうでもいい」
 つまらない、と呟いたロードにシェリルが大慌てする。
 「ご・・・ごめんねごめんね、ロード!
 パパったらつまんない話をしてしまったねぇ!」
 可愛い娘の機嫌を損ねては、せっかくのデートが気まずいことになると、シェリルは従者達に目配せした。
 「さぁさぁ、始まるまで少し時間があるからね!
 お姫様はどれがお好きかな?」
 従者達が恭しく差し出した色とりどりのお菓子に、ロードの頬が染まる。
 「赤が好きぃv
 真っ赤なマカロンを手にとって、嬉しげにかじるロードをシェリルはとろけきった顔で見つめた。
 「ご・・・ご主人様、鼻血が・・・」
 「あぁっ!失礼!!」
 従者が差し出したハンカチを受け取ったものの、それは一瞬で真っ赤に染まる。
 「早く始まらないかなぁ・・・」
 従者が次々に差し出すハンカチの全てを赤く染めていくシェリルを呆れ顔で見ながら、ロードはぽりぽりとクッキーをかじった。


 「まぁ・・・大きな天幕ねぇ・・・・・・」
 同じ頃、サーカスの外を通りかかったミランダが、賑やかな音楽と巨大な天幕に目を丸くした。
 「アメリカのサーカス団が公演に来ているようですね。
 おそらく、クラウド元帥がおっしゃっていたサーカスとはここのことでしょう」
 見て行きますか?とリンクが尋ねると、ミランダは残念そうに首を振る。
 「そうしたいけれど、早くこれを持って帰らないと間に合わないと思うんです」
 リンクが押す、大きな台車に乗せられたたくさんの箱を振り返って、ミランダは苦笑した。
 「また・・・買いすぎちゃいましたねぇ」
 「・・・荷物持ち以外のお役に立てず、申し訳ありません」
 肩を落としてうな垂れるリンクに、ミランダは慌てて手を振る。
 「そんなことありませんよ!
 十分お役立ちでしたよ、ハワードさん!」
 「はぁ、しかし・・・やはり婦人服の見立てでは、ウォーカーやJr.には及びませんので・・・・・・」
 悔しいが、と小声で言って、リンクはため息をついた。
 ミランダが『迷子になるから』買物に付き合って欲しいと、ラビはともかく、よりによって迷子癖のアレンに声をかけていたのは、『道に迷うから』ではなく、『服選びに迷うから』だったのだ。
 「私のなら自分で好きなのを選ぶんですけど・・・キャッシュさんになにが似合うのか、わからなくなってしまって・・・」
 クリスマスの衣装は気に入ってもらえなかった、と、悲しそうにうな垂れたミランダに、リンクはあからさまに動揺した。
 「こ・・・今回はきっと気に入ってもらえますよ!
 コルセットで締め付ける必要のないものを選んでいるのですから!」
 かぼちゃの着ぐるみとか、と、大真面目に失礼なことを言うリンクに、ミランダが苦笑する。
 「少なくとも、窒息して目を回すことはありませんよね・・・」
 「大丈夫ですとも!」
 力強く請け負って、リンクは積み上げられた箱を指した。
 「かぼちゃが気に入らなければ、幽霊もオ●Qもありますから!」
 「・・・本当に喜んでもらえるかしら」
 実用第一で可愛さを無視してしまったのではないかと、途端に不安になったミランダへ、リンクがこぶしを握って頷く。
 「いざとなればきっと、被服係の皆さんがなんとかしてくださいます!」
 「そうですよね!」
 その提案にようやく喜色を浮かべたミランダが、手を叩いて頷いた。
 「だったらやっぱり、早く帰らなきゃ!
 キャッシュさんに選んでもらって、可愛くしてもらいましょv
 「はいっv
 早速踵を返したミランダの後に、リンクは尻尾を振る犬のように着いて行く。
 その背後では、ショーの開始を知らせる太鼓が賑やかに打ち鳴らされていた。


 「き・・・緊張してきたさ・・・!」
 舞台袖でぷるぷると震えるウサギの着ぐるみの後ろで、真っ青になったリナリーが物も言えずに震えていた。
 「そんなに気負うことないですよ。
 並んでいるのはジャガイモかカボチャだと思えばいいんです」
 余裕で笑うアレンが、わくわくと賑やかな舞台を覗く。
 「オープニングのピエロさん、うまいですよねぇ!
 あの人がピエログループのリーダーさんだそうです。
 僕もエクソシストじゃなかったら、あの人とお仕事したいな!」
 「へー・・・そんなにすごいんさ?」
 化粧をしていない時は、紛れ込んだ一般人かと思うほどに普通の容姿の中年男だった。
 が、アレンは『とんでもない!』と首を振って、彼を見る観客達を指す。
 「ほら見て。
 お客さんは、あの人が動くのに合わせて目を動かしてるんだよ」
 彼の姿を目で追い、彼が指す物へ目を向ける観客達は一糸乱れぬ動きで、等身大の機械人形のようだった。
 「・・・うわぁホントさ!気持ち悪っ!」
 思わず言ったラビを、アレンが容赦なくはたく。
 「シツレイなこと言ってんじゃないですよ、あんた!
 あれが、君が気軽ぅーに『俺もやる』とかほざいたピエロの実力ですよ!
 地面に額擦りつけて謝るといい!!」
 頭にかぷった大きなウサギの被り物を揺さぶられ、ラビは簡単に目を回した。
 「さ、僕達は半ばくらいの、あんまり重要じゃない所でお手伝いするだけなんですから、気負わなくて大丈夫!
 なんかあったら周りがフォローしてくれます!」
 そう言う話になっていると、クラウドも言っている。
 「げ・・・元帥、どこ行っちゃったのかなぁ・・・・・・」
 ようやく口を利いたリナリーが、不安げに声を震わせた。
 「私・・・元帥より先に出て行かなきゃなんでしょ・・・?」
 きょろきょろと不安げな目をさまよわせるリナリーに、アレンが微笑む。
 「アシスタントを連れてくるって言ってましたから、すぐに戻ってきますよ」
 「俺と言うものがありながらさっ!」
 ウサギの被り物の中で、ラビが口を尖らせた。
 「アシスタントなら俺がやるってんのに、なんでさっ!」
 「あのねぇ。
 元帥は猛獣使いですよ?
 猛獣使いのアシスタントが、草食ウサギに務まるとでも?」
 食べられちゃうよ、と小突かれて、ラビは憮然と黙り込む。
 「こ・・・怖い人かなぁ・・・・・・?」
 リナリーまで不安がらせてしまって、アレンは苦笑した。
 「猛獣使いは普通、毎日猛獣の世話をするものですよ。
 それで猛獣との信頼関係を築くんですけど、クラウド元帥の場合はラウで猛獣を萎縮させて意のままに操る手順でしょうから、猛獣達を不安がらせないためにも、お世話係がアシスタントに来るんじゃないかなぁ。
 これだけ大きなサーカス団なら、猛獣使い一人じゃ複数の動物のお世話なんか難しいでしょうしね」
 「へー・・・・・・」
 ぼんやりと口をあけて感心するリナリーの頭を撫でてやったアレンは、獣の臭いに顔をあげる。
 「元帥、立派なライオンですね!」
 大きな檻の中で悠然と寝そべる逞しいライオンは、たてがみに黒い毛が混じってとても強そうだ。
 「彼が一番、強くて誇り高いそうなんだ。
 あまりに獰猛で、猛獣使い達がもてあましているからと預けられた」
 と、平然と言う彼女の前で、ライオンは平伏するように床に顎をつけている。
 「やっぱ、動物には誰が一番強いかわかるんさねぇ・・・」
 とても獰猛には見えないライオンに近づいたラビは、一声吼えられて尻餅をついた。
 「びっ・・・びっくりしたさ!!」
 「だから言ったじゃないですか。
 君みたいなウサギ、食べられちゃうよって」
 クスクスと笑ってラビの腕を引いたアレンは、ずれた首の位置を直そうとする彼を邪魔しながらクラウドへ首を傾げる。
 「アシスタントさんはまだですか?」
 「いや、ここにいる」
 そう言って彼女が踏みつけたリンゴ箱は、内側から激しく乱打されていた。
 「猛獣がもう一匹いるんです?」
 「猛獣じゃないぞ、失礼な」
 鼻を鳴らして、クラウドは木箱の蓋を踏みしめていた足をどける。
 「ふぬー!!!!」
 「可愛い娘だv
 「神田vv
 飛び出てきた目つきの悪い子供をクラウドが抱き上げ、リナリーが嬉しげに駆け寄った。
 「娘じゃねぇし!なんでお前までいるんだ!!」
 「元帥に子供にされちゃったの・・・神田も?」
 小首を傾げて、リナリーはアラビアン・ナイトに出てくる王子のような姿の神田をまじまじと見つめる。
 「お姫様じゃないの?」
 「姫なわけあるかっ!!」
 憤然と怒鳴った神田の頭を、アレンがわざとらしく押さえつけ、にまにまと笑った。
 「格好は王子でも、最強のボスキャラがこんなチンクシャになってくれて、僕はとっても嬉しいですよv
 「気安く触るんじゃねぇよ、モヤシ!!」
 「ふふん♪
 こんなちみっ子に言われたって、痛くもかゆくもないですv
 あぁ・・・あれほど登場を恐れていたボスキャラが、こんな残念な姿になるなんて・・・v
 にんまりと笑って、アレンはクラウドへ親指を立てる。
 「グッジョブです、元帥!」
 「あぁ・・・」
 頷いたものの、不満げなクラウドに、ようやく被り物の位置を修正したラビが小首を傾げた。
 「やっぱ、おひめさまの格好させたかったんさ?」
 「なぐっぞウサギ!!!!」
 途端に怒鳴られて、ラビが震え上がる。
 が、神田はクラウドに抱っこされたままで、とてもラビまで手が届きそうになかった。
 「・・・このサイズの衣装が、王子用しかなかったんだ。
 それを知っていたら、教団で作らせたのになぁ・・・・・・」
 いかにも残念そうにため息をついたクラウドに、神田が忌々しげに舌打ちする。
 「いい加減、放せよ!なにがしたいんだ!!」
 「え?
 神田、どうしてここにいるか知らないの?」
 目を丸くしたリナリーに、神田は不満げに頷いた。
 「・・・寝てたら窓ぶち破ってきたラウにさらわれて、ワケがわからんうちに子供にされた挙句、箱に詰められて眠らされて、気がついたらこのカッコでここに連れてこられた」
 「・・・人権無視か」
 さすがに呆れたラビから顔ごと目を逸らしたクラウドが、いけしゃあしゃあと舌を出す。
 「可愛いからいいじゃないか」
 「可愛かったら誘拐してサーカスに売り飛ばすのか、あんたは?!」
 「元帥・・・悪徳女衒みたいですよ・・・」
 さすがのアレンもフォローできずに苦笑すると、クラウドはムッと眉根を寄せた。
 「なんだ、元帥のやることに文句あるのか、お前達?」
 「元帥だからってーより、美人だから文句ないさ!」
 「開き直りやがって!」
 「ヒエラルヒーって・・・厳しいですね・・・・・・」
 途端におとなしくなった三人に、リナリーが苦笑する。
 「元帥ってやっぱり、強いなぁ・・・・・・」
 それぞれ反骨精神に溢れた三人を、一言で従わせた彼女を見上げると、クラウドは笑ってリナリーを見下ろした。
 「お前も従わせるのだよ、あいつをね」
 整然と大道具が並ぶ先を示されて、リナリーはこくりと頷く。
 「が・・・がんばります!」
 決然とこぶしを握った彼女に微笑んだクラウドは、手懐けるように優しく頭を撫でてやった。


 「猛獣、まだぁ?」
 空中ブランコを見上げながら、ライオンが見たいと呟いたロードの隣で、シェリルがパンフレットをめくった。
 「これが終わったら、ピエロを挟んで次だよ。
 楽しみだねぇv
 ニコニコと小首を傾げるシェリルに頷きもせず、ロードは指を弾く。
 「じゃあ早く終わっちゃえ」
 途端、空中ブランコの綱が切れて演者が落下した。
 悲鳴があがる中、ロードはブランコの下に張られていた網を指して大笑いする。
 「見て見てぇ!
 蜘蛛の巣にかかった蝶みたいだよ!」
 派手な衣装が網の上に広がって、もがく姿はまさに囚われの蝶だ。
 ケラケラと笑うロードの声につられ、周りにも徐々に笑声が広がっていく。
 「まぁ・・・怪我がないようで何よりだよ」
 ロードがやったことと知りながら、外務大臣らしい建前を呟いたシェリルが目配せすると、舞台上で恐縮していた演者がそそくさと袖に引っ込んだ。
 入れ替わりに、気まずくなった会場の空気をごまかすように、派手な化粧のピエロがまろび出て来る。
 大玉に乗って場内を回りながら、ジャグリングで火の輪くぐりの輪や道具を中央へ投げつけ、それを受け取った薄汚い着ぐるみのウサギが舞台を設置して行った。
 「さぁ、いよいよだよ、ロードv
 舞台の出来上がっていく様を、娘よりもわくわくと見つめていたシェリルは、ピエロの放った火の玉が輪に着火するや盛大な拍手を送る。
 にこやかに一礼したピエロは、次に手にした松明の全てに火を着け、高い天井をいっぱいに活かして見事なジャグリングを披露した。
 「へぇー・・・すごーい・・・・・・」
 さすがのロードも感心して見つめていると、ピエロはよろける振りをして松明でウサギを追いかけ、炎をあげる輪の方へ追い詰めて行く。
 こけつまろびつ逃げるウサギは、とうとう逃げ道を塞がれ、火の輪に飛び込んで・・・火達磨になった。
 「きゃあ!!」
 「こ・・・子供は見ちゃいかん!!」
 悲鳴をあげ、慌てて子供の目を塞ぐ親達の手を振り解いた彼らは、ピエロが広げた白いマントの下から現れた黒焦げのウサギに盛大な拍手を送る。
 にこやかに一礼したピエロは、ウサギと共に手を振りながら袖へと去っていくが、炎の曲芸に感動した観客達の拍手は、とても鳴り止みそうになかった。
 「アンコールだよ、ラビ!もっかいやるっ?!」
 「やるかっ!!」
 黒焦げになった被り物を床に叩きつけ、ラビはアレンへ詰め寄る。
 「喜んでんじゃねぇさ、このピエロッ!!死ぬかと思ったさね!!」
 「舞台は命がけだって、君にもよーっくわかったよねv」」
 「なっ?!
 ・・・う・・・うん・・・・・・」
 ここで頷かなければ本気で丸焼きにされてしまうと、危機を感じたラビが渋々頷いた。
 「さぁ盛り上がってますよ!
 リナリー、がんばってね!」
 「うんっ!!」
 気合十分な顔で、古代ローマの戦車を模した車に乗り込んだリナリーは、狼の着ぐるみを着たティキへ繋がる手綱を強く引く。
 「それー!」
 「あいたっ!!」
 コツを掴んだリナリーの鞭は音を立ててティキを打ち、彼は逃げるように走り出した。
 「おぉ!早い早い!」
 小さなウサギが狼に鞭を当てて駆ける様に、盛り上がっていた観客達が更に盛大な拍手を送る。
 「・・・えへv
 嬉しくなったリナリーは、手綱を捌いてティキを火の輪へと向かわせた。
 「へ?!ちょっとお嬢ちゃん?!
 こんなの予定にない・・・!」
 目の前に迫った炎にティキが焦るが、リナリーは構わず、戦車ごと彼を炎の輪に突っ込ませる。
 「そーれ!」
 「んぎゃあああああああああああ!!!!」
 炎を纏いつつ、なんとか輪を潜り抜けたティキと戦車の上に、しかし、リナリーの姿はなかった。
 炎に迫る直前、飛び跳ねて炎の上を越えたリナリーは、宙でくるくると回って、軽やかにステージに降り立つ。
 「じゃーんv
 両手を挙げてポーズを決めた小さなウサギに、会場から割れんばかりの拍手が沸いた。
 「かぁわいいーv
 ロードまでもが楽しげに拍手をし、ステージ上で手を振るウサギを見つめる。
 「・・・ねぇ、お父様ぁ。
 あの子、連れて帰っていいよね?」
 「ん?そうだね。
 気に入ったのなら、好きにするといいよ」
 ただしこっそりね、と笑うシェリルに、ロードはにんまりと笑って頷いた。


 「楽しかったよぉーv
 頬を紅潮させて袖に跳ね戻って来たリナリーを、アレンが笑って抱きとめた。
 「上手でしたよ、リナリー!
 あんなにお客さんを喜ばせられるなんて、リナリーは天才ですね!」
 「えへへーv そうかなぁ?」
 「・・・俺は全然喜ばしくないけどな」
 未だぷすぷすと煙をあげる着ぐるみを脱いで、ティキがため息をつく。
 「じゃ!
 役目を終えたことだし、俺はそろそろ・・・」
 「待てィ!」
 武器を構えたエクソシスト3人に迫られて、ティキが笑顔のまま凍りついた。
 「あんたラウとティムの餌になるんですから、元帥が気持ちよく舞台を下りるまでここで待ってんですよ!」
 「頭からはむはむされるといいさ!」
 「大丈夫!
 ラウもティムも好き嫌いないから、残さず食べてくれるよ!」
 「可愛い顔して酷いこと言わないでくれるかな!!」
 草食系ではありえないウサギ達に舌打ちして、ティキはクラウドの姿を探す。
 彼らと入れ替わりにステージに立った彼女は、普段のポーカーフェイスからは想像もつかない満面の笑みで観客達に向かい、ライオンを自在に操って拍手を浴びていた。
 「元帥のあんな笑顔、初めて見たさぁv
 「神田も、初めてなのにライオンを乗りこなしちゃってるねv
 なぜかライオンの背に乗せられた神田が、憮然として手綱を操る様には、目の肥えた観客達も惜しみない拍手を送る。
 「ライオンって、乗れるんだぁ!」
 ライオン欲しい!とロードにねだられ、シェリルはクスクスと笑った。
 「ルルに頼めばいいじゃないか」
 「あいつ、僕を乗せようとしないもん!」
 わがままだから、と頬を膨らませたわがままなノアの長子は、ライオンの背で軽々と宙返りした彼に目を輝かせる。
 「僕もあれ、やるぅ!!!!
 お父様ぁ!あのライオン買ってぇ!」
 「うーん・・・。
 女の子なら召使いだって言い張れるけど、さすがにライオンは・・・お母様が泣いちゃうんじゃないかなぁ・・・?」
 「えぇー・・・!」
 建前よりもほんの少し、妻を気に入っているシェリルの気遣いに、ロードは渋々頷いた。
 「わかったよぉ・・・僕も、お母様のことはちょっと気に入ってるからぁ・・・・・・」
 名残惜しそうな目でライオンを追うロードを、シェリルが蕩けきった顔で抱きしめる。
 「イイコだなぁ、ロードはvv
 さすがパパの自慢の娘だよぉvvv
 「もぉー!
 そんなにぎゅってされたら前が見えないぃー!」
 もがいてシェリルの腕を振り解いたロードは、女の猛獣使いが一礼して袖に下がり、その後を追って袖に入って行くライオンの後姿にため息をついた。
 しかし、
 「えぇっ?!こんなに?!」
 すぐさま、10頭近いライオンの群れがステージに出て来て、ステージを周回する。
 その迫力に、ロードだけでなく場内の観客達が一斉に歓声をあげた。
 「これはまた・・・馬鹿馬鹿しいほど大規模だねぇ・・・」
 感嘆を英国紳士らしい皮肉に包んだシェリルも、手は惜しみない拍手を送る。
 「こんなにいるのなら、1頭くらいいただいてもいいような気がするけど・・・」
 期待に目を輝かせたロードに、しかし、シェリルは苦笑して首を振った。
 「お母様が泣いちゃうってば」
 「・・・・・・ちぇ」 
 頬を膨らませたロードが、ステージを周回しつつ、次々に火の輪をくぐるライオン達を見つめる。
 「じゃあせめて、あの子は連れて帰らないとね」
 「そうだね」
 にんまりと笑ったロードの頭を、シェリルは優しく撫でてやった。


 一方、全員が下がった舞台裏では、いよいよティキが最期の時を迎えようとしていた。
 「あぁ・・・何もいいことのない人生だった・・・。
 家ではいぢめられ、悪者たちに囚われて今・・・化物の餌食になろうとしているなんて・・・!
 俺って可哀想・・・!なんて可哀想!
 こんなことなら気のいい仲間たちと一緒に、鉱山で肉体労働でもしてる方がましだった・・・!」
 さめざめと涙をこぼす彼に、神田が舌打ちする。
 「ムカつく奴だな・・・!」
 「どっちがわるものだよ!」
 鼻にしわを寄せて怒るリナリーの傍らで、アレンも憮然と頬を膨らませた。
 「ラウもティムも化物じゃないし!」
 ねー?と、頬を寄せ合うアレンとティムキャンピーを見上げて、ラビがそっとため息をつく。
 「どうした?
 同病相哀れむというやつか?」
 クラウドにクスクスと笑われ、ラビは慌てて首を振った。
 「ひ・・・一思いにやっちゃえばいいさっ!」
 「そうだな。
 ラウ、食べられないものはペッするのだよ」
 「キキッv
 嬉しげに頷いた小猿が、ちょろちょろとティキに駆け寄った途端、巨大化する。
 「ひいいいいいいいい!!!!」
 「ティム、早く行かないと食べ負けちゃうよ」
 「♪」
 ティキの傍らに降り立ったティムキャンピーもまた、巨大化して鮫のように尖った歯を剥いた。
 「分けやすいように、から竹割りにしてやろうか?」
 ちき、と、刃を鳴らして構えた神田に、ティキが蒼白になる。
 「じょじょじょじょ・・・冗談はよしてくれよ!
 な・・・なぁ、本気じゃないよな、お前ら?!
 ハロウィンのイタズラだよーんって、この辺りで言っちゃおうよ!お菓子あげるからさ!!」
 じたじたともがくが、アレンのベルトに囚われていては透過する事も出来なかった。
 「とりあえず、首飛ばすか」
 「出来るだけ、出血は避けたかったんだがなぁ・・・」
 掃除が大変だからとぼやいたクラウドが、神田に頷いて処刑を許す。
 「じゃあ・・・」
 神田が刀を振り上げると、白い衣装に血しぶきがかかるのを嫌ったリナリーが、とことこと後ろに下がった。
 途端、
 「きゃあ!!」
 甲高い悲鳴があがり、振り向いたエクソシスト達の目の前で、リナリーが闇の中へ引きずり込まれていく。
 「この扉・・・ロード?!」
 「助かった!!」
 王冠を戴いた扉へ向けて、ティキが喜色を浮かべた。
 「やだぁっ!!」
 「リナッ!!」
 もがきつつ伸ばされた小さな手を掴む前に、リナリーの姿は闇の中へ消える。
 代わりに、訝しげな顔のロードが、ひょっこりと首を出した。
 「ティッキー・・・!
 消えたと思ったら、こんな所でなにしてんのぉ?」
 「ロード助けてっ!
 こいつらが俺を殺そうとするんだ!」
 ぴぃぴぃと泣き声をあげるティキに吐息し、ロードはアレンを見遣る。
 「やっほぉv
 まさか、あのピエロがアレンだったなんてぇv
 にょきっと、肩まで出てきたロードが、小さな手を振った。
 「あのコ・・・ただの小さな子供だと思ってたけど、さっきリナってゆった?」
 小首を傾げた彼女に、神田が舌打ちする。
 「ふふふv
 僕のだーい好きなリナリーが、あんなに可愛くなってたなんて!
 今から着せ替えが楽しみだなぁv
 じゃあね、と、また手を振って闇の中に消えようとするロードを、ティキが止めた。
 「俺も助けてっ!!」
 「えぇー・・・・・・」
 あからさまに不満げなロードに、ティキが愕然と顎を落とす。
 「なんで助けてくんないのっ?!」
 「だぁってぇー・・・」
 と、ロードはティキを繋ぎとめるアレンのベルトを指した。
 「アレンに捕まってるってことは、人質なんでしょぉ?
 ティッキーを返す代わりにリナリーを返せって、きっと言われるもんー」
 「そんなっ?!」
 絶望的な目で周りを見回せば、冷たい目をしたクラウドが、こくりと頷く。
 「今、ここでこいつの首を落とされたくなければ、リナリーを返せ」
 「ほらねぇ?」
 ため息をついて、ロードは肩をすくめた。
 「リナリーを目の前でさらわれちゃったのに、こいつら妙に落ち着いてんだもんー。
 そう言うと思ったよぉ」
 「返してくれますよね?」
 そのためには、ティキを引き渡すこともやぶさかではないと、強い目で要求するアレンにロードが口を尖らせる。
 「せっかくゲットしたお人形を、遊ぶ前に返しちゃうなんてやだぁ。
 ティッキー、ちょっと首切られちゃいなよ」
 「死ぬよっ!!!!」
 絞め殺される鶏のような甲高い声で抗議するティキの傍らで、ラビが訝しげに眉根を寄せた。
 「もうティッキーで遊ぶのに飽きちゃったんさ?」
 「えぇっ?!」
 そんなことはないはずだと、必死の形相になったティキにロードが吹き出す。
 「あははっ!
 ティッキーのそんな必死な顔、滅多に見られないよねぇ!
 ねぇ、ティッキー?
 僕の言うことをなーんでも聞くなら、助けてあげてもいいよぉ?」
 「・・・それなんて死刑宣告?!」
 危機的状況に置かれても、それには簡単に頷けないティキが、こうべを垂れた。
 「ホラァv
 早く言っちゃいなよぉv
 僕の言うこと、なーんでも聞くってさぁv
 「う・・・!
 ロードの・・・言うこと・・・」
 「待て」
 地を這うようなティキの声を、クラウドが遮る。
 「彼が要求を呑めば、リナリーは返さないということか?」
 「そぉなるねぇv
 「馬鹿にしおって・・・!」
 クラウドの鞭が翻り、激しく床を打った。
 彼女の命令を受けるや、巨大化したままのラウが大きな手でティキを掴む。
 「ならば返さずともよい!
 その代わり、このノアは殺す!」
 「おいっ!」
 「そんな!!」
 「なに言ってんさ元帥!!」
 3人に詰め寄られても平然として、クラウドはロードを睨んだ。
 「お前はあの子と・・・リナリーと遊びたいのだろう?
 ならば、すぐに殺すことはないだろう」
 にんまりと笑ったロードを、クラウドは冷たく見返す。
 「猶予があれば、あれもエクソシストだ。
 自力で何とかするだろう」
 猶予とはつまり、子供薬の切れる時間のことだ。
 今はか弱い仔ウサギでも、元の姿に戻ればリナリーのこと、世界最速の足で逃げ出すことも可能だろう。
 「生意気ぃ・・・。
 僕の気が変わっちゃわないといいけどねぇ?」
 「それは、こいつを殺すことで、と言う意味か?」
 クラウドの言葉に応じて、ラウがティキを握る手に力を込めた。
 「んぎゃあああああ!!!!潰れる潰れる!!!!」
 今にも死にそうな彼の声に、ロードの表情がほんの少し揺らぐ。
 と、その変化を見逃さなかったクラウドが、いきなり歩を進めた。
 「っ?!」
 一瞬で目の前に迫られ、逃げる間もなく顎を掴まれたロードが、唖然とクラウドを見上げる。
 「さぁ、どうするノアの長子よ?
 お前の家族の命は、私の手の中だ」
 冷たい声に、ロードの目が揺らいだ。
 彼女は・・・エクソシスト元帥は、他のエクソシスト達とは違う。
 少しでも対応を誤れば、眉ひとつ動かさず、ティキの身体を握り潰すことは明白だった。
 「さぁ、わかるだろう?」
 冷たい目でまっすぐに見つめられ、ロードは息を潜める。
 「こちらの立場が、上だと言うことが」
 猛獣をやすやすと屈服させる強い眼光と口調に気圧され、ロードが唇を噛んだ。
 「僕を従わせようなんて、無礼な奴・・・」
 「んぎゃっ!!」
 突如湧いたティキの悲鳴を、ロードがびくりと見遣る。
 血を吐いて目を回す彼の姿に、彼女の頬が紅潮した。
 「落ち着け。殺してはいないぞ・・・まだな」
 笑みも浮かべず、淡々と言ったクラウドを睨んだロードは、冷たい目で睨み返され、居心地悪げに目を逸らす。
 「ロード!」
 「っ?!」
 突然の大声にびくりと身を震わせたロードは次の瞬間、悔しげに顔を赤らめた。
 「僕を・・・支配しようとするなぁ!!!!」
 彼女の甲高い声に応じて、扉の奥の闇からいくつもの手が伸びる。
 クラウドを捕らえようとしたそれはしかし、すかさず下がった彼女の鞭にしたたか打たれ、弾き返された。
 一旦地に這ったそれは蛇のようにのたうって、ティキを捕らえる猿へと伸びる。
 「ラウ!!」
 「キッ・・・!」
 一瞬で繭のように包み込まれた猿は、締め付けてくるあまたの手をその怪力で内側から引きちぎり、弾き飛ばした。
 が、もちろん手の目的は猿ではない。
 緩んだ猿の手からティキを奪い取った手が、再び地に這った瞬間、地割れでも起こしたかのようにぽっかりと黒い穴が現れ、ティキを飲み込んだ。
 「ちっ!アレン!」
 「はい!!」
 クラウドの声に応じ、ティキに繋がるクラウン・ベルトを引いたアレンの足元が突然崩れ、ティキともども呑まれて行く。
 「アレン!!!!」
 思わず手を伸ばしたラビは、いつもなら余裕で届くはずの場所に指先すら届かず、勢いあまった腕の振りに引かれるように穴へとまろび落ちて行った。
 「あ・・・!
 子供にしたのはまずかったか・・・・・・」
 気まずげな顔で、深い穴の奥底へと落ちていく人質とピエロ、焦げたウサギを見送ったクラウドは、扉の閉まる音を振り返る。
 「ちっ!!」
 ロードの扉は消え失せ、同時に地面に開いた穴も塞がって、何事もなかったかのように賑やかなステージの音が聞こえてきた。
 「逃がしたか・・・って?!
 ユウ?!ユウはどこだ?!」
 慌てて辺りを見回すが、神田の姿はない。
 「ラウ!!」
 「キィ・・・・・・」
 小猿の姿に戻ったラウは困惑げな顔で、今の今までロードの扉があった場所を指した。


 「・・・なんでついて来てんだよぉ」
 扉を閉めて安堵した所に刃を突きつけられ、ロードは自分とそう変わらない年頃の少年に眉根を寄せた。
 「お前・・・神田ユウだよねぇ?
 いつの間に入ってきたのぉ?」
 ネズミか、とぼやく彼女に、神田は舌打ちする。
 「リナリーを返しやがれ!!」
 「やだぁー」
 クラウドと同じことを激しい口調で、しかし、彼女よりは恐ろしくない子供に、ロードは笑って肩をすくめた。
 「まだ遊んでないって、ゆったじゃんーv
 「てめぇ!!」 
 振り下ろされた刃は彼女を切り裂いたが、ロードはクスクスと笑って血も出ない傷口をなぞる。
 「そういえばお前、僕の能力を実見したことないんだっけかぁ。
 僕は斬れないよぉv
 耳障りな笑声に舌打ちし、神田は意味を成さない刃をそれでも突きつけた。
 「リナリーを返せ!」
 「ふふ・・・そぉだなぁ・・・。
 お前も遊んでくれるってゆーんなら、考えてあげてもいいよぉv
 考えるだけだけど、と、意地悪く舌を出して、ロードは踵を返す。
 「てめぇ!どこ行く気だ!!」
 「気になるならついておいでよぉv
 軽やかに歩を進めながら、ロードはくるりと神田を振り返った。
 「そこに、リナリーがいるかもよぉ?」
 「・・・ちっ!!!!」
 舌打ちし、刀を鞘に納めた神田にロードがにんまりと笑う。
 「鬼さんこちらぁー♪」
 からかうように歌いながら、ロードは闇の奥へ奥へと踊るように進んでいった。


 ―――― 一方、地中に落とされたアレン達は、明るく白い部屋の床に積み重なって、唖然と天井を見上げていた。
 地面だったはずのそこは一瞬で塞がり、なんの変哲もない、白い天井に変わっている。
 「方舟の部屋・・・かな?」
 「そうに決まってんだろ・・・!
 わかったら・・・早く俺の上からどけぇ!!!!」
 苦しげなティキの訴えは聞こえない振りをして、アレンは目を回したラビを抱えたまま、ティキの上に座った。
 「新しい方舟って、こんなに近代的なカンジなんだぁ・・・」
 「少っ・・・年っ・・・!!!!
 みぞおちに・・・乗ってるっ・・・!
 俺のみぞおちに・・・二人分の体重・・・ぐはぁっ!」
 わざわざ彼にダメージを与えるべく、みぞおちを踏みつけて立ち上がったアレンは、背後から伸びる彼以外の影にぎょっとして振り返る。
 と、忌々しげな顔をしたシェリルが、無言で彼らを見つめていた。
 「あなたは・・・!」
 「なんで君たちまで来るかなぁ」
 招待してないよ、と、シェリルは眉根を寄せる。
 「僕はティキだけを取り返すつもりだったのに・・・あぁ、そのベルトかい。
 とても嫌な感じだねぇ・・・イノセンスだろう?」
 思わず頷いてしまったアレンは、シェリルを睨んだまま、抱えたラビを叩いて目を覚まさせた。
 「なにすん・・・うひゃっ!!」
 目を開けた途端、ノアと対面してしまったラビが、わたわたと槌を探る。
 「ちょ・・・ちょあっ!」
 小さな身体にふさわしく、小さくなった槌を構える彼の姿は、冗談にしか見えなかった。
 案の定、鼻を鳴らしたシェリルが、不吉な手を彼らへ差し伸べる。
 「ロードが君達の存在に気づく前に・・・」
 『殺しちゃだめだよぉ、お父様ぁ!』
 部屋中から、ここにはいないはずのロードの声が響いて、シェリルが手を止めた。
 『アレンは僕がご招待したのぉ!』
 「そんな・・・」
 彼らはティキに引かれ、あるいは偶然落ちてきただけで、招待などされているはずがない。
 しかし、
 『いいからぁ!
 僕が招待するから、ちゃんと連れてきてぇ!』
 再三の要請に、シェリルはため息をついて頷いた。
 「・・・・・・・・・わかった・・・よ・・・」
 今にも殺しそうな目で睨まれて、アレンとラビが竦み上がる。
 「姫の・・・お気に召すまま・・・・・・」
 地獄から這い出た亡者のような呪わしい声には、アレン達だけでなくティキまでもが震え上がり、彼の糸に操られるかのように連行されていった。



To be continued.


 










2012年ハロウィンSS第3弾ですv
どうも『ポルトガル人』と聞くと、脊髄反射的に『ポルトガル人がっ長崎へー♪カステラカステラ♪カステラカステラ♪』って歌が流れてきますw>おそらく九州中でやってるカステラのCM。
ポルトガルにカステラないそうなんだけどねw












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