† 化 生 †






 「アレン!!あっそぼうぜー!!」
 陽気な声を上げて、勢い良くアレンの部屋のドアを開けたラビは、アレンが、力なくベッドに突っ伏している様に驚いて、目を丸くした。
 「どした?!具合悪ぃのか?」
 返事の代わりに、厚く包帯を巻かれた左腕が、ぎこちなく上がる。
 「っあー・・・。コムイに治療されたんか・・・・・・」
 こくり、と、枕にうつ伏せた頭が、かすかに動いた。
 「つっくづく寄生型って、カワイソウさぁ・・・」
 しみじみと言いつつ、ラビは椅子をアレンの枕元に運び、背もたれを抱くように座る。
 「コ・・・コムイさん・・・僕になんか、恨みでもあるのかな・・・・・・」
 特別酷い気がする、と、アレンが涙声を上げると、ラビは、うつろな目を彼に向けるアレンの頭を、くしゃくしゃとかき回した。
 「恨みじゃなくて、嫉妬さ。
 お前、リナに近づきすぎたんさ」
 「えぇっ?!そんな理由?!」
 思わず絶叫し、がばっと起き上がったアレンが、貧血を起し、はかなくマットの上に倒れ込むと、ティムキャンピーが彼の周りをパタパタと、気遣わしげに飛び回る。
 悲運な姫を守る、忠実な従者のような姿に、ラビは思わず笑みを漏らした。
 「まぁ、コムイの悪意は、リナに好意を寄せた男全員にもれなく向けられてっから。
 アジア支部長なんて、そりゃもう気の毒な・・・ぶふっ・・・!!」
 いきなり吹き出したラビを、アレンはぼんやりと見つめている。
 「そういえば前に、なんでいじめるんですか、って聞いたら、警告だって言われた・・・・・・」
 「うん。普通、コムイに『警告』された人間は、その場で手を引くもんさ。件の支部長だって・・・くくくっ・・・!!」
 そう言ってラビは、引き付けを起したように笑い転げた。
 「で・・・でも・・・!リナリーがあんなに親切にしてくれてるのに、無視するわけにはいかないでしょ?!」
 「正直に、可愛い子に構ってもらって嬉しい、って言ったらどうさ?」
 再びベッドの上に起き上がり、熱弁を振るうアレンに、ラビは目尻に浮いた涙を拭いながら苦笑する。
 「ゴーレムはあんなに正直なんだからさ。なぁ?ティムー?」
 言いつつ、ラビはティムキャンピーに手を差し伸べた。
 「ティム?ティムが正直って、どう言う事?」
 きょとんとした顔をするアレンに、ティムキャンピーを手に取ったラビは、にんまりと笑う。
 「これ、クロス元帥のゴーレムだけどさ、今はお前が主人だろ?
 ゴーレムは契約主か、使用者の感情を反映して動くって、知ってたか?」
 「え・・・?」
 ぽかん、と、アレンは目と口を丸くした。
 「ティムってさー、めっちゃリナに懐いてんよなー?!」
 「・・・えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!??」
 顔を真っ赤にして、絶叫したアレンに、ラビが楽しげに笑う。
 「いくら紳士的に振舞ってたって、ゴーレムの性質を知ってるヤツにはバレバレさ!」
 「そそそ・・・そんなっ!!ウソでしょう?!」
 「ホント♪」
 ティムキャンピーを頭に乗せて、ラビがにんまりと笑った。
 大きなメロンほどに成長したティムキャンピーは、ラビの言葉に同意するように、長い尾を振っている。
 「単に・・・師匠のゴーレムだから、女の子好きなだけだと・・・・・・!」
 「じゃあ、なんでジェリー姐さんにまで懐くんさ。ユウの前からはそそくさと逃げっか、さもなきゃイタズラかましてんのに」
 「あっ・・・・・・!」
 ラビの言うことには、心当たりが多すぎた。
 「もうお前、コムイの悪意から逃げられねぇかんなー?」
 「うわーんっ!!どうしよう!!」
 「どうしようって、何が?」
 突如、かけられた可憐な声に、アレンのみならず、ラビまで飛び上がる。
 「リリリリリ・・・・・・!!」
 「リナ・・・男子の部屋にいきなり飛び込んでくるのは、レディとしてどうかと思うさ」
 慌てふためくアレンに代わり、ラビが諭すように言うと、リナリーはぷぅ、と、頬を膨らませた。
 「ちゃんとノックもしたし、呼びもしたわよ?なのに返事がないから、入ってきたんだもん。
 アレン君がお昼も食べずに寝込んでるって聞いたから、よほど体調が悪いんだと思って。まだ調子悪い?」
 小首を傾げるリナリーに、激しく首を振ったアレンは、再び貧血を起し、はかなく倒れる。
 「・・・・・・まだ、悪いみたいね」
 「まぁ、本調子じゃないさ」
 乾いた笑声を上げて、ラビは椅子をリナリーに譲り、アレンの傍らに移動した。
 「で?見舞いは何さ?」
 「ラビに持ってきたんじゃないわよ?」
 思わず眉をひそめたリナリーに、ラビは大仰に首を振る。
 「リナはいつからそんな、心の狭い女の子になってしまったんだろう!お兄ちゃんはとても残念だっ!!」
 「・・・あげないとは言ってないでしょ」
 芝居がかった口調で嘆くラビに、リナリーは開け放たれたままのドアを示した。
 ドアの外にあったのは、大きめのワゴン。
 その上には、湯気を上げる何種類もの料理が、十人分ほども乗せてあった。
 「ジェリーに持って行けって言われたんだけど、まだ無理かしら?」
 「ってか、相変わらずスゲー・・・。こんなにほっそいのに、よく食うよなぁ・・・・・・」
 「・・・細くて悪かったですね」
 「お。復活したさ」
 ころん、と、ベッドの上を転がり、起きあがったアレンに、ラビが微笑む。
 「さっすが、花より団子の高燃費少年。食いもんの匂いに釣られたか」
 「だって、お腹空いたんですよ。治療されてから、何も食べてないんですから!」
 精神的ダメージが大きすぎて・・・と、うな垂れるアレンを、リナリーが気の毒そうに見つめた。
 「ホント・・・兄さんってば、どうしてあんなに、アレン君をいじめるのかしらね?」
 悪気なく、不思議そうに呟いたリナリーに、アレンとラビは硬直する。
 「どうしたの?」
 黙り込んだ二人を、きょとん、と、見つめる大きな目から、二人は慌てて視線を逸らした。
 「いえっ・・・!おいしそうな匂いに、つい呆然と・・・!」
 「俺も、小腹が空いたなぁ・・・って・・・アハハ・・・」
 わざとらしい笑声を上げて、二人は意味深な視線を交わした・・・。


 「あっ!またやってる!!」
 耳元に響いた、アレンの鋭い声に、サンドイッチの皿を持ったラビは、悪びれもせず笑った。
 「だって面白いさ、コイツ!ピクルス食ったぜ、今!」
 ティムキャンピーの尾を掴んで引き寄せると、ラビは鋭い牙の並んだ口の中を覗き込む。
 「どこに入んだろ?ちゃんと消化すんのかなぁ?」
 興味津々と、弄り回すラビからティムキャンピーを取り上げ、アレンは、眉を逆立てた。
 「もう!勝手にいじらないで下さいよ!それでなくても最近、ティムが大きくなっちゃって、頭に乗られると重いんですから!」
 「だって、知りたくねぇ?
 なんでゴーレムなのに成長してんのかとか、食ったもんどこに行ってんのかとか」
 「それは・・・思いますけど・・・。
 でも!師匠からの大事な預かり物なんですから!壊したりしたら、僕が壊されます!!」
 言いながら、アレンはラビの手をかいくぐり、ティムキャンピーを腕の中に抱きこむが、ラビも負けてはいない。
 「だーいじょーぶさぁー♪ティムには、再生機能がついてんだから!」
 何とかアレンからティムキャンピーを取り上げようと伸ばした手は、しかし、差し伸べられたもう一つの手によって遮られた。
 「でも、外殻は再生できても、内部からの腐食には弱いかも知れないでしょ?」
 そう言って、ゴーレムを取り合う二人の間に、リナリーが割り込む。
 と、アレンの腕から滑り出たティムキャンピーは、尻尾を振りながら、リナリーの腕にじゃれ付いた。
 「欲しがっても、食べ物をあげたりしない方がいいわよ」
 ね?と、小首を傾げて微笑むと、アレンも深く頷く。
 「そうそう!余計なことしないでくださいよ、もぅ!」
 アレンが頬を膨らませるが、ラビはどこ吹く風とばかり、陽気に笑った。
 「俺、一度会ってみてぇんだよなぁ、クロス元帥!
 こんなゴーレムを作っちまうなんて、きっと、すげぇ科学者なんだろ?ぜひ作り方を教えて欲しいさ!」
 その、暢気な口調に、アレンは硬直する。
 「し・・・ししょーに・・・・・・遭う・・・・・・・・・・?」
 まるで、恐ろしい呪いの言葉でも聞いたかのように、引きつった声を出し、だらだらと脂汗を流す彼に、ラビとリナリーは、目を丸くして、顔を見合わせた。
 が、すぐにアレンの受けたトラウマを思い、揃って気の毒そうな表情を浮かべる。
 「・・・一体、どんな目に遭ったら、そこまでトラウマになるんさ・・・・・・」
 ラビが、俯いてしまったアレンの頭をガシガシとかき回しながら問うと、その手の下で、アレンが暗い声を上げる。
 「・・・・・・あ・・・遭えば・・・・・・嫌でもわかります・・・・・・・・・・・・」
 『会う』んじゃなくて、『遭う』んかよ・・・・・・と、さすがのラビも、背筋を走る冷たいものに、ぶるりと震えた。
 「そうか・・・。考えてみれば、このアレン様を、ここまで怯えさせるんだからな。ただの怖いオッサンじゃないさ・・・・・・」
 しみじみと呟くラビに、リナリーが、きょとん、とする。
 「なぁに、『このアレン様』って?」
 変な言い方ね、と、小首を傾げるリナリーに、アレンは未だ引きつった笑みを返し、
 「ホント、含みのある言い方ですよねぇ・・・ラビ?」
 と、ラビに剣呑な視線を突きつけた。
 「あれぇ?なんか、含みがあるように聞こえたさ?」
 笑いつつ、ラビは、
 ―――― その目が『アレン様』だーって、このぶりっこガ・・・・・・!
 と、心中に呟く。
 「確かにアレン君は強いけど、クロス元帥はホントに問題行動の多い人だもの。さすがに、歯が立たないと思うわよ?ねぇ?」
 「えぇ!!人でなし師匠には、いっつもいじめられて、ひどい目に遭わされて・・・・・・!」
 「かわいそう・・・アレン君・・・・・・!」
 涙を浮かべ、声を詰まらせるアレンに、リナリーも、同情の涙を浮かべた。
 「わぁい・・・策士がいるさぁ・・・・・・」
 思わず呟いてしまったラビが、またアレンに睨まれる。
 「な・・・なんか最近、当たりが辛いさ・・・・・・?」
 「余計なことばっかりするからですよっ」
 「だぁってさぁ〜〜〜」
 苦笑しつつ、ラビは、リナリーにじゃれるティムキャンピーの尾を掴んで、引き戻した。
 「こんなに珍しいもんが目の前をヒラヒラ飛んでんのに、興味を持つなって方が無理さ」
 それがブックマンの後継者たる者の性だ、と、開き直るラビから、ティムキャンピーは必死に羽根をばたつかせて逃げ出し、アレンの頭に着陸する。
 「どこまで大きくなるんかな、コイツ?」
 「師匠のところにいた時は、スイカくらいになってましたよ」
 「まだ大きくなるの?今でもアレン君、頭重いんじゃない?」
 リナリーに問われて、アレンは、ティムキャンピーを頭に乗せたまま、ぎこちなく頷いた。
 「実は、ものすごく重いです・・・・・・」
 既に、大きなメロンほどにも成長したゴーレムは、元々の素材が石だけあって、とても固く、重い。
 それが、小さかった頃と同じく、アレンの頭をお気に入りの場所と定めているものだから、正直、辛くてしょうがなかった。
 「大変ね・・・」
 苦笑しつつ、リナリーがアレンの頭から、ティムキャンピーを持ち上げた―――― その瞬間。
 ピキッ・・・と、乾いた音がして、パラパラと石の破片が散った。
 「え?!」
 大きな目を見開くリナリーの手の中で、ティムキャンピーの表面に浮いた細かいヒビは、瞬く間に繋がりあい、鋭い音を立てて真っ二つに割れる。
 「きゃあああああ!!!!」
 「ティッ・・・ティム―――――!!!」
 狭い部屋は、リナリーとアレンの甲高い悲鳴に満たされた。
 「アレン君!!どうしよう・・・ティムが!!」
 「ラビ!!ピクルスなんて食べさせるから!!」
 「えぇ?!俺?!」
 「ごめんなさい、アレン君!!ティムが・・・!!」
 「リナリーのせいじゃありませんから!泣かないで・・・!!」
 「だから、俺のせいって目で見るな――――!!」
 「僕・・・!師匠に殺されます・・・・・・!」
 真っ青になって、俯いたアレンだったが、その頭に、ぽふっと、なにか、柔らかいものが乗る感触がする。
 「え?」
 驚いて手をやると、何かふかふかとした物が、ティムキャンピーの定位置に乗っていた。
 「アレン君・・・!それ・・・!!」
 「なにさ、それ・・・!」
 リナリーの指し示したものに、ラビが目を見開く。
 「なに・・・って?」
 問い返したアレンの目の前に、金色の尾が垂れた。
 と、
 「カワイイ!」
 再び、リナリーが歓声を上げる。
 アレンが不思議に思って取り上げると、それは、金色の羽根、金色の尻尾を生やした、小さな天使だった。
 「えぇっ?!」
 驚愕の声を上げて、アレンは自分の手の中に納まる小さな生き物を見つめた。
 丸みのある頬はピンク色に染まり、柔らかい金の巻き毛の中には、小さな角が埋まっている。
 瞳の大きな、丸い目はくるくると動き、まるで、ラファエロの描く天使像のように愛らしい。
 「ま・・・まさか・・・・・・!!」
 アレンが、その小さな生き物の前髪を掻きあげると、額には、金の十字架が刻されていた。
 「ティ・・・ティム――――?!」
 「ウゾッ?!」
 「ホントに?!」
 アレンの絶叫に、ラビとリナリーも唱和する。
 「ま・・・まさか、あの丸い状態って、卵だったんかよ!?
 なんちゅー奇っ怪な・・・と、ラビが感心交じりに呟いた。
 と、
 「アレン、ちょっと貸してくれ!」
 ティムキャンピーを眺めているうちに、好奇心が沸き起こったか、ラビは興味深げにアレンからその小さな生き物を受け取ると、ためつすがめつ調べ始める。
 やがて、
 「アレン、やっぱこれ、ティムで間違いないと思うぜ?」
 そう呟くと、ラビは、小さな生き物の小さな口を、無理矢理開けさせた。
 その中には、天使の姿からは思いも寄らない、鋭い牙が、サメの歯のようにずらりと並んでいる。
 「間違いないです!この歯は、ティムの歯ですよ!!」
 アレンが叫ぶと、天使の姿をしたティムキャンピーは、ラビの手から逃れて、アレンの腕に抱きついた。
 人間の赤子よりもふたまわりほど小さい、人形のような手を懸命に開いて、しっかりとアレンにしがみつく姿に、リナリーが目を輝かせる。
 「かっ・・・かわいい!!」
 感極まったリナリーの声に、ティムキャンピーは振り向き、パタパタと羽ばたいて、リナリーの膝の上に、ちょこんと座った。
 「かわいい!!すごく可愛いわ、ティム!!お人形みたい!!」
 リナリーが大喜びして抱き上げると、ティムキャンピーは、大きな目をくりくりと動かしながら、長い尾を振る。
 「おー・・・ティムがリナリーに懐いてるさ」
 にんまりと笑って、ラビが、傍らのアレンを見遣ると、
 「も・・・元々、リナリーには懐いていましたよ、ティムは・・・っ!!」
 アレンは裏返りそうになる声を必死に抑え、できるだけさりげなく言った。
 「しっかし、こんなもんを仕込んでおくなんて、お前の師匠、ホントに面白い人さ」
 「問題は・・・これが単なる気まぐれなのか、深い意味があるのか、趣味の陰謀なのか、見極めなきゃいけないってことですね・・・・・・」
 クロスの問題行動に悩まされ続けたアレンは、師の行為に対し、かなり疑り深くなっている。
 「趣味の陰謀って・・・・・・」
 仮にも神父だろ、と、ラビは呆れたが、リナリーはにこにこしながら首を振った。
 「こんなに可愛いんですもの!陰謀はないと思うわ」
 ねー?と、ご機嫌のリナリーが、ティムキャンピーに笑いかける。
 「ホントに可愛い!!お人形みたい!!」
 「いえ、そうやって喜んでいるリナリーの方が・・・」
 可愛い、と言いかけて、アレンは慌てて口をつぐんだ。
 「・・・お前、本気で用心しとかないと、今度こそ命がないさ・・・・・・」
 ラビの忠告に、アレンは両手で自分の口を覆って頷く。
 一方のリナリーは、天使の姿をしたティムキャンピーに夢中で、アレン達には見向きもせず、ティムキャンピーを放そうとしなかった。
 更には、
 「可愛い可愛いティムーベィビー♪私がママよ♪」
 などと歌いだし、すっかりお人形遊び気分だ。
 そんな彼女に、アレンも、ついほほえましい気持ちになって、
 「リナリーがママなら、パパは僕ですねー」
 と、笑う。
 が、
 「んじゃ俺は?」
 と、隣で自身を示したラビには冷たかった。
 「え?加わるんですか?」
 「・・・アレン君、一度お兄ちゃんと、じっくり話し合う必要があるんじゃないかと思うが、どうだろう?」
 アレンの冷淡な態度に、笑みを引きつらせてラビが言うと、アレンは大げさに肩をすくめる。
 「はいはい。仲間に入れて欲しいんですね。じゃあ・・・・・・近所の悪ガキ」
 「Trick or treat!って、ヲイ!!」
 すぱんっ!と、きれいに入った裏拳突っ込みに、アレンが甲高い声を上げた。
 「痛いじゃないですか!大体、ハロウィーンはとっくに終わったでしょ!」
 「お前が近所の悪ガキとか言うからさ!そんなのより、もっと捻りの効いた設定にしようぜ!例えば―――― 」
 と、ラビは宙に視点を定める。
 「そーだ!アレンが俺の弟で、リナがその嫁さんで、俺は弟の嫁に横恋慕のヤバイ兄!!」
 得意げに笑ったラビに、再びアレンの甲高い声が上がる。
 「どこの昼ドラですか、それ!!」
 「んでんで、リナの実の兄さんは、リナを大切に思うあまり、性悪な婿を殺してしまうんさ!」
 「サスペンス劇場か!!」
 「未亡人になっても大丈夫さ、リナ!」
 「僕を勝手に殺さないで下さい!!」
 「後は俺が、子供の面倒も含めて見てやる!!」
 「次にコムイさんに殺されるのはアンタだ――――!!!」
 怒涛のどつき漫才に、リナリーが明るい笑声を上げた。
 「ふふ・・・ホントに二人とも、仲がいいわねぇ」
 「だろぉー?」
 「・・・っそう見えるんですか?!」
 嬉しそうに笑うラビと、ショックを隠せないアレンに、リナリーは笑って頷く。
 「とても楽しそうだわ。すっかり呼吸が合ってるし」
 「それって・・・僕がラビのペースに呑まれてるってこと?!」
 「そうそう!器が違うんさ、アレン♪」
 言いながら、殊更子供扱いするように、アレンの頭を撫でるラビに、アレンはこめかみに青筋を浮かせる。
 と、リナリーが、またクスクスと笑声を上げた。
 「初めてね。アレン君が、対等にケンカする相手なんて」
 「え・・・?」
 きょとん、と、目を見開くアレンに、ティムキャンピーを抱いたまま、リナリーは優しく微笑む。
 「今まで、アレン君の周りって、大人ばっかりだったんじゃない?
 礼儀正しいのはアレン君のいい所だけど、それって今まで、年の近い友達がいなかったからじゃないかな、って、気にしてたのよ」
 「そう言われてみれば・・・大人ばっかりでしたね」
 宙を見据えて呟いたアレンに、ラビがニッと笑った。
 「年が近いっつっても、3コ上だけどな!」
 「あ、それは考えたことないよ。ラビ、僕より子供っぽいもん」
 「うっさい!お前が老けてんの!」
 「人が気にしていることをっ!!」
 「困ったお兄ちゃん達ね〜。ねー?ティムー?」
 またケンカを始めた二人を、にこにこと見守りつつ、リナリーはティムキャンピーに頬をすり寄せる。
 「うふ。やわらかーい!ふくふくしてるー!」
 「あは・・・そうしてると、ホントにママみたいですね、リナリー」
 「え?!ホントに?!そう見える?!」
 とても嬉しそうに笑ったリナリーに、アレンは頷いた。
 「リナリーが本当にママになったら、コムイさんは泣きそうだけど・・・・・・あ!」
 突然、声を上げたアレンに、リナリーもラビも、驚いて目を見開く。
 「何?アレン君」
 「お前、なにいきなり大声上げてんさ?」
 「あー・・・師匠、そう言う事か・・・・・・!」
 「は?クロス元帥?」
 訝しげに首を傾げるラビに、アレンはにっこりと笑った。
 ―――― あ。コイツ、なんか企んでるさ。
 アレンの笑顔に、直感したラビは、とばっちりを恐れて口を噤む。
 「ねぇ、リナリー?ティムをコムイさんに、見てもらいましょうよ」
 「兄さんに?」
 きょとん、と、目を丸くしたリナリーに、アレンは笑みを深めた。
 「ハイ。コムイさんなら、ティムがこうなった仕掛けもわかるかもしれないでしょ?」
 「それもそうね!」
 ぱぁっと、顔を輝かせたリナリーに、アレンは何度も頷く。
 「それでね、ちょっと、驚かせようかなぁって・・・・・・リナリーも手伝ってくれます?」
 にこにこと愛想良く笑み続けるアレンが発する、どす黒いオーラから、ラビは、必死に目を逸らした・・・。


 その後、嬉しそうにティムキャンピーを抱いたまま、リナリーは科学班室へ戻ってきた。
 「兄さん!コムイ兄さん、見て見てー!!」
 「え?!どうしたんだい、リナリー?」
 可愛い妹の声に、コムイの顔が思わず緩む。
 が、愛しい妹がその腕に抱いた子供の姿に、たちまち表情が凍った。
 「リ・・・リナリー・・・?!その子、誰?!」
 悲鳴じみた声を上げるコムイに、リナリーはにこにことティムキャンピーを差し出す。
 「兄さん、この子はね・・・」
 「僕たちの子供でーす!」
 「んなっ???!!!」
 ひょい、と、リナリーの後ろから現れたアレンが、爆弾を投下した。
 「僕がパパで、リナリーがママなんですよねー?」
 「うん!
 ね?兄さん!可愛いでしょー?」
 二人の問題発言に、コムイだけでなく、彼の怒りを恐れる科学班のメンバー達も氷結する。
 「ア・・・アレン君!!!こんなことして、ただで済むと思っているのかい!!!!!」
 激昂し、絶叫するコムイに、アレンは、ふっと、不敵な笑みを浮かべた。
 「思ってます・・・だって」
 すい、と、アレンはリナリーの左手を取り、コムイの目の前に掲げる。
 「僕たちまだ、結婚はしてませんから!」
 途端、
 「――――――――・・・っ!!!」
 声にならない悲鳴を長く引いて、コムイが卒倒した。
 「に・・・兄さん!!コムイ兄さん!!大丈夫?!」
 「わぁい!やっと一勝――――っ!!ありがとう、師匠――――っ!!」
 悲鳴を上げるリナリーの傍らで、アレンは、心から嬉しそうに笑い、ティムキャンピーの小さな拳と自分の拳をつき合せた。




Fin.

 










このお話は、ずっと以前、日記や絵板やイラストの方で書いていた擬人化ティムのお話ですv
『鳩の中の猫』より先に書き始めたものですが、書いていた途中で傷害事件に変わり、擬人化ティムの出番がなくなったため、別の話としてアップした、という裏事情があります。
台詞とか状況が、所々重複しているのは、そのためです(^^;)
ゴーレムが契約者、もしくは所有者の感情に感応して動く、と言うのは、私の希望交じりの独断設定ですから、真に受けないでくださいねv
ちなみにこのお話は、記念すべき二次創作100作目に当たります。
(現在、サイトアップしているもののみですので、アップしていないものや、なくしてしまったものを加えるともっとあると思いますが;)
よくがんばった、自分・・・!












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