† 砂時計 †
■4月7日。 私立サンタンジェロ学園校内にて、同校に通う双子の兄弟が死亡。転落死。 ■5月3日。 市内山中にて、私立サンタンジェロ学園教諭死亡。転落死。 ■5月27日。 市内民家にて食中毒事故発生。長女死亡。中毒死。 今年、春に起きた三件の事故―――― 別段、珍しい事でもなかった。 身近で頻繁に起こっては困るが、実際には頻繁に起こっている事故。 1週間ほどで人々の記憶から消える程度の、そんな事故の数々。 ただこの三件は、ほんの2ヶ月の間に一つの家族の中で起こった事故だった。 これらの事故により、ある紳士は養子を二人、甥を一人、そして、娘を一人亡くしている。 そんな彼が、不幸な偶然だと割り切れず、誰かの悪意によるものだと考えるのも無理はない。 八つ当たりとわかっていても、人はその心情をこそ理解するだろう。 そしてその心情を理解したのは、彼の古い友人である私の上司だった。 普段、『情』を職務に持ち込むことのない上司の屈託を見かねて―――― 私が調査をかってでたのは、事故発生から約半年が経った頃のことだった。 私立サンタンジェロ学園。 由緒正しいカトリック系の学校だ。 勉学だけでなくスポーツも奨励し、全国の主な大会でその名を聞かないことはない。 だが今年、その名は数々の栄光とは逆に、暗いニュースでも名が挙がった。 前理事長一族に続いた、不幸な事故。 そう・・・事故と言われているし、警察による捜査でも、不自然なことなど何もなかった。 ただ、前理事長だけが納得していない。 そんな事故の再調査のために、私、ハワード・リンクは特別捜査官の任を得て、この学園に派遣された。 公の捜査ではない。 そんなことをすれば所轄にも本部にも角が立つため、私には別の名目が与えられた。 警察庁から文部科学省への人事交流。 その業務の一つとして、少年犯罪を未然に防ぐ立場から現在の教育現場を視察する、という名目だ。 文武両道の誉れ高い名門校を視察したいという要請に、校長は喜んで私を迎えてくれた。 ―――― 名門校だったこの学園に不穏な事故が続いたため、名誉回復の機会とも見たのだろう。 下にも置かぬ扱いを受け、しばし学園に籍を置くことになった私は、密かに『事故』の調査を開始した。 「文科省から出向・・・ですか」 不思議そうな口調で、ミランダはデスクのカレンダーを見た。 秋色に変わったそれには、学内行事の予定がびっしりと書き込まれている。 「あの・・・私がその方の案内をするのは・・・なぜなんでしょう・・・?」 不満なわけではないけれど、と、小さな声で呟いた彼女に、学年主任のコムイはにこりと笑った。 「うん。本当ならボクかリーバー君がやるべきなんだろうケド、偶然にも彼、ミランダ先生と出身校がおんなじなんだよねー」 「あら、そうなんですか?」 途端に納得して、ミランダは頷く。 「初めての場所で戸惑うことも多いでしょうけど・・・それなら早くに馴染んでもらえそうです」 「でしょ? それに彼も、怖いおにーさんより優しいおねーさんの方が喜ぶと思うしィ 「怖いおにーさんってのは俺のことっすか、主任」 数学教師のリーバーにじろりと睨まれて、コムイはわざとらしく震え上がった。 「めっちゃくちゃ怖いじゃーん! 相手はお勉強しかしてこなかったエリート官僚だよ?怯えて泣いちゃったら可哀想だもーん」 ケラケラと笑いながら、コムイが席を立つ。 意外なほどの長身には、いつもながら圧倒された。 「じゃ、ヨロシクね、ミランダ先生 「はい」 軽く手を振り、職員室を出て行ったコムイを、ミランダも席を立って見送る。 「じゃあ・・・急いで予定を調整しなきゃいけませんね。 授業のスケジュールを変えるわけには行かないから、そのほかを・・・」 「調整は最初の2、3日でいいぜ」 「え?」 リーバーの言葉に、ミランダはカレンダーを見つめていた目をあげた。 「担当に決まったから教えておくけど」 声を潜め、手招く彼にミランダは耳を寄せる。 「彼は文科省の官僚じゃない、警察庁の官僚だ」 「・・・警察?」 驚いて目を見開くミランダに、リーバーが頷いた。 「人事交流で文科省に出向してるそうなんだが、元々少年犯罪が担当で、今回の視察も、少年犯罪を未然に防ぐ立場から現在の教育現場を視察する、って名目だそうだ」 「少年犯罪・・・ですか」 その言葉に嫌な記憶を呼び起こされ、ミランダは眉をひそめる。 「彼本来の業務の他に、あの事故の話も聞かれるかもしれないな」 リーバーの重い口調に、ミランダは思わずため息をついた。 「私には・・・荷が重いかもしれませんね・・・・・・」 ■11月1日。 私は私立サンタンジェロ学園に出向した。 校長との挨拶を済ませると、案内してくれると言う女性教諭が現れた。 「初めまして、ミランダ・ロットーです」 線の細い、気弱げな彼女の担当は語学で、私と同じ出身校のため、今回の案内役に当てられたのだと言う。 「それはお手数をお掛けしまして、申し訳ありません」 「いいえ、とんでもない。お役に立てればいいのですが」 にこりと、優しげな笑みが好印象だ。 だが優しいゆえに、今時の生徒には苦慮しているのではないかと思う。 校内を巡る途中、その件について尋ねて見ると、彼女は意外そうに目を見開き、『とんでもない』と首を振った。 「とてもいい子達です。 私があまり・・・その・・・頼りがいのない人間だからか、進んで助けてくれますよ」 善良な雰囲気を持つ彼女には、悪童達も手を出しかねるのだろう。 事実、すれ違う生徒達が彼女に向ける笑みは、随分と親しげな・・・例えるなら、少々頼りない姉をサポートする弟妹達の笑みだった。 私に対しても礼儀正しく挨拶をしていく生徒達は、確かに『名門校』の名にふさわしい。 「こちらが礼拝堂ですよ。 毎週月曜日の1時間目と、月に1度、日曜日が礼拝の時間になります」 そう言って礼拝堂に向かって一礼した彼女は、教師と言うよりもむしろ、修道女のように見えた。 世間には問題の多い教師もいるが、彼女に限っては、『聖職者』と言う名がふさわしいように思える。 「礼拝ですか・・・神学の教諭も、あなたのように善良な方なのでしょうね」 「私なんてそんな・・・ですがクラウド先生は、神に仕えるにふさわしい方だと思います」 自身については謙遜しつつ、同僚の教諭については誉める―――― ますます好印象だ。 こんな教師ばかりなら教育現場の未来も明るいのに、と思いつつ、礼拝堂を過ぎ、別棟に入る。 「あぁ、養護の先生にもご紹介しなくては」 職員室には滅多にいらっしゃらないので、と笑いながら彼女は、保健室のドアをノックした。 と、『はぁい』と、意外なほど甘い声が返る。 「おはようございます、エリアーデ先生。今、よろしいでしょうか・・・?」 ロットー教諭が保健室のドアをそろそろと開けた途端、驚いたことに、香水の甘い香りが漂ってきた。 「アラ、ミランダせんせ。お具合でも悪いの?」 回転椅子を回して、くるりと向き直った養護教諭が、脚線美を見せびらかすように足を組みなおす。 「アラ、そちらは?」 ここは学校だと言うのに、随分と派手な化粧をした養護教諭は、これまた派手なマニキュアを塗った爪をひけらかすように顎に当てた。 「ハワード・リンク・・・先生、でよろしいんでしょうか? 文科省から出向していらっしゃったんです」 「アラ、ま」 なにが『アラ、ま』なのか、にこりと微笑んだ彼女に、私は内心の苛立ちを抑えて会釈する。 「しばらくの間、よろしくお願いします」 「コチラこそ 組んだ足をほどきもせず、頷いた彼女に苛立ちは募ったが、朝のチャイムがそれを紛らわしてくれた。 「予鈴ですわ。 職員室へ行きましょう、リンク先生。 エリアーデ先生は・・・・・・」 「後から行きますわ 「はい。それでは」 丁寧に会釈するロットー教諭に対して、養護教諭はひらひらと手を振って応じる。 随分と対照的な二人だ。 だが、善良なロットー教諭は、彼女の無礼を無礼とも思っていないらしい。 「きれいな方でしょう? 生徒達に、一番人気のある先生なんですよ」 「そうですか・・・」 「優しい方で、私にも色々アドバイスしてくださるんですが、中々難しくて・・・お恥ずかしいわ」 一体なにをアドバイスしていると言うのか・・・もしや善良な婦女子を悪の道に誘い込んでいるのではないかと、私は甚だ心配になった。 ―――― 同日、サンタンジェロ学園ミカエル寮。 半年振りに立った男子寮の玄関で、彼は困惑げにうろうろしていた。 何度か行きつ戻りつして、ようやく小さな声をあげる。 「た・・・ただいま・・・・・・」 途端、そのか細い声を耳ざとく聞きつけた寮監が、ばたばたと出てきた。 「アレンちゃ――――ん!!!!」 歓声をあげて抱きついてきた寮監に押し倒されそうになったアレンは、なんとか持ちこたえる。 「ジェ・・・ジェリーさん、お久しぶりです・・・!」 「ああんっ! 帰ってくるって連絡もらってから、今か今かって待ってたのよぉ!! やぁん 怒涛の畳み掛けに流され、アレンはただひたすら頷いた。 「んもう! ちゃんとごはん食べないから、こんなほっそくなっちゃうのよう! えぇえぇ、ママンがついてるからには、こんなかわいそうなことさせないからぁん!」 「は・・はい・・・」 以前と変わらない様子をアレンは嬉しく思うと同時に、戸惑いを感じる。 屈託を漂わせるアレンの様子に気づいたジェリーは、彼を抱きしめたまま、にこりと笑った。 「アレンちゃんが送ってくれた荷物は、お部屋に置いてるからねぇん あぁ、お部屋は前とおんなじよん チャオジーも神田寮長も、今はガッコだけど・・・」 ちらりと、ジェリーは壁の時計を見遣る。 「ラビはもう、推薦で進学先決めちゃったから、おうちにいると思うわ。 会って来たの?」 「ま・・・まだ・・・です・・・」 ジェリーの腕の中で、アレンは気まずげに俯いた。 「そう・・・。 あの子、アレンちゃんがいなくなった後、随分元気なかったわよぉん?」 ジェリーの大きな手に撫でられて、アレンが頷く。 「なにがあったかなんて、ヤボなことは聞かないわ。 でも、顔くらいは見せてあげなさいよん」 「はい・・・」 もう一度頷いて、アレンは甘えるようにジェリーに抱きついた。 ―――― 後刻、 「こ・・・こんにちは・・・・・・」 長い長い逡巡の後、アレンはようやく、その小さな診療所のドアを開けた。 ドアのすぐ横には、受付の窓がある。 そのガラス越し、鮮やかな赤毛の少年が、これまた鮮やかな緑色の目を細めて笑った。 「おかえりさ」 「・・・・・・っ」 やや怯み、俯いて言葉を探すアレンに笑みを深め、ラビは受付から出てくる。 「おかえり、アレン」 もう一度言って、頭を撫でてくれるラビの手の下で、アレンは思わず泣きそうになった。 だがなんとか堪え、表情を硬くしてラビを見上げる。 「ただいま・・・。 止まった砂時計の砂を、落としに来ました」 「ん・・・」 アレンの虚勢を見抜いたラビは、困り顔に笑みを浮かべて、ただ頷いた。 ―――― ロットー教諭の案内で職員室へ入ると、すぐに職員朝礼が始まった。 校長から私の紹介があり、私も軽く挨拶をして、文科省から出向の旨を伝える。 「皆さんも協力してあげてください」 校長がその一言で締めるや、教諭達は一斉に席を立った。 「皆さん、授業ですか?」 「いえ、今日は月曜ですから、1時間目は礼拝なんです」 教員もそのほとんどが参加するのだと聞かされて、納得する。 「では、神学のナイン教諭にはそちらでお会いできるのですね」 「えぇ。 先生は学園の専属教師ではなく、礼拝の時だけ教会からいらっしゃる方ですから、出向の期間だけでしたら、何度も会うことはないでしょうが」 「ではぜひご挨拶を」 ロットー教諭に案内され、再び赴いた礼拝堂で教員用の席に着くと、間もなく神学の教諭は現れた。 その名と役職から、てっきり男性だと思っていたが、現れたのは妙齢の美しい女性で、自身の先入観を反省する。 「初めまして、文科省より出向でまいりました、ハワード・リンクと申します」 礼拝の後、壇上から降りてきたナイン教諭に挨拶をすると、彼女は優しげな笑みと共に挨拶を返してくれた。 この学校の生徒だけでなく、教師をも調査対象とする私は、滅多に会えないという彼女の様子をこの機会にじっくりと窺う。 が、犯罪者を見慣れた私の目に、終始礼儀正しく振舞う彼女は聖職者にふさわしく常に自身を律しているように見えた。 ―――― この件に関して、彼女は無関係だろう。 そう思うと同時に、彼女ほど冷静で自身を律することのできる人物なら、計算通りに事故を装った殺人くらいはやってのけそうだった。 「・・・むしろ、彼女であればこそ」 予鈴が鳴るや、会釈して先に行った彼女の背を見送りながら、思わず呟いた私にロットー教諭が不思議そうな顔をする。 「なにがですか?」 「いえ・・・独り言です」 そう言うと彼女はにこりと笑って頷いた。 「行きましょう」 「はい」 ・・・一旦職員室に戻るや、教師達は慌しく各教室へと散って行く。 そんな彼らを見送った私は一人、作業部屋にあてがわれた小会議室で持参のノートパソコンを開けた。 「・・・予想はしていましたが、学内のセキュリティと来たらまったく・・・・・・」 業者任せで構築された学内ネットワークはろくな管理者もなく、せっかくのセキュリティソフトも宝の持ち腐れ状態で、私が確認しただけでも数百の重要なセキュリティパッチが更新されないまま放置されている。 「こんなところでは、怖ろしくて外部接続なんか出来ませんよ」 ため息をついて、私は持参の無線ルーターを取り出した。 校長から、無線を使うのならとルーターを渡されたものの、役目が役目だけに、バックドアの危険がある他国製など使えるはずもない。 「学内の危機管理能力のなさには呆れますよ」 思わずため息をついた時、いきなりドアが開いて、馬鹿馬鹿しいほど背の高い男が驚いた顔で私を見た。 「・・・何かご用でしょうか」 「いや、リンク先生に用ではなくてですね・・・」 言いながら、ドアに貼られたプレートを確認して、訝しげに首を傾げる。 「何か?」 「いえ・・・毎週、ここで定例会議してんですが、連絡不行き届きだったみたいっすね。 校長にここ使えって言われたんでしょ?」 「えぇ。 お邪魔でしたら・・・」 「あぁ、構わないでください」 席を立とうとした私を、彼は推し留めた。 「会議室は他にもありますんで」 じゃあ、と、会釈して出て行った彼は、数学のウェンハム教諭だったか・・・。 人当たりがいいのは認めるが、あまり好きになれないタイプだ。 ・・・決して、身長も年齢も見下ろされているからでは・・・ない。 きっと違う、と頷いて、私は仕事を始めた。 「おかえりぃん ジェリーの明るい声に迎えられて、アレンはこくりと頷いた。 「今はおじいちゃんのお手伝いが忙しいから、一応あいさつだけ。 また後でゆっくり会いに行きます」 出かける前に比べて、やや固さの取れたアレンの頬を両手で挟み、ジェリーが微笑む。 「じゃ、それまでアタシのごはん食べてなさいよぉん 英国のまっずいごはんばかり食べてたからきっと、おいしすぎてびっくりするわん 「はいっ ようやく屈託の取れたアレンの頭を撫でて、ジェリーは彼の背を押した。 「コムたん・・・じゃない、コムイ先生からもさっき連絡があってねん、復学手続きはお昼からやりましょうって。 ・・・アレンちゃん、転校じゃなかったのねん」 「はい。 あっちで暮らすのかもよくわかんなかったんで、いちお、休学ってことにしてもらったみたいです」 二度とこの国には帰ってこないつもりだったが・・・。 意地の悪い『後見人』はアレンにこの国の、この学園へ帰ることを強いた。 ・・・もちろん、アレンがここで、なにをやったのかを知った上で。 『自分の撒いた種だろ。自分でカタつけて来い』 と、どこか面白そうな声で言った意地悪な彼を忌々しげに思い出すアレンの頭を、ジェリーは優しく撫でてくれた。 「ホラ、また難しい顔になっちゃってるわん。 お子様はお子様らしい顔してらっしゃい その言葉がまるで自分の心情を見透かしているように思えて、アレンはぎくりと顔を強張らせる。 が、ジェリーは気づかない振りで、アレンを食堂のテーブルに着かせた。 「さーぁ どんどん食べてねぇん 「は・・・はい・・・!」 アレンは気まずさをごまかすように、目の前にいくつも置かれた大皿に早速手を伸ばす。 「おいしい・・・おいしいです、ジェリーさん!」 「ウフン たっくさん食べて、早く元気になってねん 歓声をあげたアレンの前に、次々と料理を運んでやりながら、ジェリーは何か重いものを抱えているらしい彼を優しく見守った。 ジェリーの愛情がたっぷり注ぎ込まれた昼食を終えたアレンは、数ヶ月ぶりに制服へ袖を通し、学園の門をくぐった。 授業中で静まり返った校内は、なんだかとても緊張してしまう。 足早に廊下を通り抜け、人もまばらな職員室に入ると、久しぶりに会うコムイが待っていてくれた。 「アレン君、お帰りー あらまぁ、早速ジェリぽんのごはんを堪能したみたいだね! ほっぺつやつやしてるよ!」 くすくすと笑いながら手招いてくれたコムイに寄って行くと、手続きの書類を渡される。 「はい、これ記入してね。 ところで、部活どうする?また陸上部に戻ってくるかい?」 「はぁ・・・そうしたいんですけど・・・・・・」 入学当初、顧問のコムイに散々いじめられた嫌な思い出に汗を浮かべながら、アレンは眉根を寄せた。 「僕、またいつ外国に呼ばれるかわからないので・・・皆に迷惑かけられませんし・・・」 やめておく、と言ったアレンに、コムイは満面の笑みを浮かべる。 「そう!リナリー目当ての悪い虫が減ってよかった!」 生徒への配慮など少しもなく、コムイは堂々と言ってのけた。 「じゃ!ソレちゃっちゃと書いちゃって! 今日はまだ、引越しとか大変なんでしょ?登校は明日からでいいんだよね?」 「はい。 実はまだ・・・時差ボケが・・・・・・」 コムイにまで自身の屈託を見抜かれるのが嫌で、アレンはとっさに嘘をついて目を瞬かせる。 「ジェリーさんのごはん食べちゃったらもう・・・眠くて・・・・・・」 「あらら。 キミってホント、お子ちゃまだねぇ」 クスクスと笑ったコムイは、アレンが差し出した書類に目を走らせて頷いた。 「じゃ、さっさと帰って、今日は早く寝るんだね。 明日は遅刻しちゃダメだよん 「はい・・・」 目をこすりながら頷いたアレンは、早々に踵を返して職員室を出る。 誰かに見つかるのも面倒だと、また足早に廊下を通り抜けようとした途中、その足音を聞きつけたらしく、小会議室のドアが開いた。 「君、授業はどうしました?」 聞き覚えのない声を見遣ると、いかにも気難しそうに眉間にしわを寄せた青年がアレンを見つめる。 「あの・・・今日は手続きに来ただけで、登校は明日からです」 見たことのない顔だ、と訝しげなアレンに、彼は頷いた。 「そうでしたか。 引き止めてすみませんでしたね」 「いえ・・・」 首を傾げたアレンに、彼はまだ気難しい顔のまま、もう一度頷く。 「私はハワード・リンク。 文科省より出向している・・・そうですね、君に言ってもわからないでしょうから、臨時職員とでも思ってくれて結構です」 「はぁ・・・」 わけがわからないながらも、逆らうと面倒そうだと直感したアレンは、ちんまりと一礼して静かな校舎を抜け、寮へと帰っていった。 その背中を見送り、リンクは部屋に戻る。 「転校生にしては・・・既にここの制服を着ているなんて、準備がいいですね」 そう言うものだろうかと首を傾げて、彼は作業中のパソコンの前に戻った。 ―――― 調べれば調べるほど、件の『事故』に不自然な点はなかった。 これらが『事件』だったとしても、4人もの人間を殺す動機が見つからない。 いや、同じ一族なのだから、動機があるとすれば学内ではなく、彼らの財産を狙った親族の仕業ではないだろうか。 だとすれば・・・ 「私は何のために、ここにいるんでしょうねぇ・・・」 つい、口から出た愚痴を、慌てて飲み込む。 その件については、ここに出向する前に上司から説明を受けていた。 曰く、一族の長は『真犯人』に会ったのだと・・・。 食中毒で入院した彼の元に、大きな花束を持って・・・その若い声に聞き覚えはなく、娘の死を嘆く目に姿はぼやけていたものの、はっきりと『殺した』と告白したのだと。 ただ、彼の一族が狙われた原因については口を濁し、単なる逆恨みだと繰り返したと言う。 「心当たりがあるのなら、自分で処理して欲しいものですがね」 とは言え、上司の心情を汲んで、調査をかってでたのは自分自身だ。 事故なら事故で納得の行く調査報告をしようと頷いた時、終業のチャイムが鳴り、ややして大勢の足音が廊下に溢れた。 ―――― 翌日は、朝から大荒れの天気だった。 暴風雨に加えて一気に気温が下がり、生徒達が冷たい雨に震えながら登校してくる。 その中で、大きなスポーツバッグを提げた少女が、真っ黒い雲を見上げて大きく頷いた。 「うん! いかにもアレン君が帰ってきました、ってカンジ!」 降りしきる雨に笑い出した彼女を、他の生徒達が訝しげに見遣っては先を進む。 「もう来てるかな?」 軽やかに歩を進めた彼女は、2年生の昇降口を通り過ぎて1年生のロッカーを覗いた。 「アレン君、見っけ 「へ?!リ・・・リナリー先輩・・・なんで?!」 ちょうどロッカーに荷物を詰め込んでいたアレンが、驚いて辞書を落とす。 「今日は雨だから、朝練はお休みなんだよー にこにこと笑って、リナリーは落ちた辞書を拾って渡した。 「あ・・・ありがとうございます」 「なぁにぃ?なんだか他人行儀!」 眉根を寄せたリナリーを、アレンは上目使いで見る。 「だってなんだか・・・気恥ずかしくって・・・。 突然出てったのに、また戻ってくるとか・・・変な奴ってからかわれますよね・・・」 「そんなこと気にしてたんだ!」 けらけらと笑って、リナリーはアレンの背を叩いた。 「気にしなくって大丈夫だよ! 陸上部はいつだってアレン君を歓迎するよ!」 元気付けたつもりのリナリーの言葉はしかし、アレンをますます消沈させる。 「あの・・・コムイ先生から聞きませんでした? 僕、またいつ外国に呼び戻されるかわからないんで、部活はやめておくって言ったんですけど・・・」 「そうなの?! 昨日は兄さん、そんなこと一言も言ってなかったのに・・・」 むぅ、と唇を引き結んで、リナリーは俯いてしまったアレンの頭を撫でた。 「それだと選手になるのは難しいけど・・・普通に運動するだけでもいいなら、入って欲しいんだけどな。 ・・・ダメ?」 際立った美少女の上目遣いの『お願い』を、無碍に出来るほどアレンは朴念仁ではない。 一瞬で真っ赤になったアレンは、こくこくと何度も頷いてしまった。 「あ!でも・・・コムイ先生はダメって言うかも! 選手にならない子はいらないって・・・!」 「兄さんには私から言っておくよ! 選手になれないからって、そんな理由で排除するのはダメだって!ね?! よし、決定!」 強引に決めてしまったリナリーは、アレンの手を両手で握って振り回す。 「今日は雨がやんだらグラウンド、雨が降ったままなら体育館だからね! ちゃんと来るんだよ?!」 アレンが頷くまで待って、リナリーは踵を返した。 「じゃ!待ってるからねー!」 手を振って2年生の昇降口へ戻って行くリナリーに、アレンは呆然と手を振り返す。 「・・・・・・いいのかな」 リナリーに気圧されてつい、頷いてしまったが、今の自分にその資格はあるのだろうかと考えて、アレンは深いため息をついた。 「・・・では、本日の朝礼は終了です。 あ、ミランダ先生。 ウォーカー君は今日から登校ですから、よろしくお願いしますね。 昨日手続きに来てたんだけど、時差ボケでフラフラしてたから、今日はまだ居眠りするかも。 その時は容赦なくブッ叩いてあげてー 「そんなこと・・・!」 学年主任の酷い言葉にミランダ先生・・・いや、ロットー教諭はぶるぶると首を振った。 「で・・・でも、以前いたクラスなんですから、お友達には困りませんよね・・・?」 「転校生ではなかったのですか?」 私の問いに、彼女はこくりと頷く。 「ウォーカー君は今の1年生達と同じ入試で入学した子なんですけど、6月頃・・・だったかしら? 外国に住んでいる保護者の方から呼び戻されて、しばらくイギリスにいたんですって」 「その保護者ってのがこの学校の理事の一人だから、籍はここに置いときたいってんで、転校じゃなくて休学扱いにしちゃったんだよね」 「6月・・・・・・」 学年主任の言葉が引っかかって、私はそっと顎を引いた。 6月と言えば一連の事故が終わった頃だが、このことになにか意味があるだろうか。 「リンク先生?」 ロットー教諭に声をかけられて、考え事が中断させられてしまった。 「どうかされましたか?」 気遣わしげに問うて来る彼女に、いつもならムッとするはずの私がなぜか、笑顔で首を振る。 「いえ、なんでもありません。 どうぞ授業へ行かれてください」 我ながら不思議に思いながら彼女を見送り、いつもの会議室へ入った。 当然の用心として、私物などは置いていない殺風景な会議室のテーブルに持ち歩いているノートパソコンのケースを置く。 「さぁて・・・」 いつも使っているノートパソコンとは別に、小さなネットブックを取り出した。 盗まれて困るような情報は一切入っていない、この仕事専用の端末だ。 電源を入れ、この学校のネットワークへ入った。 管理者アカウントは昨日のうちに確認している。 ネットワークに関して危機管理意識の希薄な校長が、あっさりと教えてくれたのだ。 『システム管理者のコムイ先生には内緒で』と、一応の釘はさされたものの、この程度の意識では管理者も苦労が多いだろう。 ともあれ、私は教えてもらったアカウントを使って遠慮なく学内のサーバーに入り、管理者権限をもって学内メールを探った。 最近はどこの学校でもそうだろうが、ここでも全生徒にメールアドレスが配布されている。 彼らが送りあったメールの内容は膨大だが、私が知りたいのは事故のあった頃のやり取りだ。 今年の入学式直前から6月頃まで。 1年生のやり取りが非常に少ない頃なので、探すのは容易だった。 その中に・・・やはり、目を引くものがある。 件名は『体育館棟の噂』というもので、返信はほぼ全校生徒からだった。 最初のメールを見てみると、3年生のラビと言う生徒の書いたもので、 『体育館棟の噂 誰か、人づてでもいい。体育館棟になんか妙な噂があるとか、聞いたことないか?』 と言う、シンプルなものだ。 ラビと言う生徒はよほど人脈が広いのか、ほんの数十分の間に数多くの返信がされていた。 そのほとんどは『知らない』『噂ってなに?』『なんかあるの?』といった、問いを返すものだ。 しかし『ラビ』からの返信がないうちに、『高等部の噂なんて知らない。だけど、部室棟になら幽霊くらい、出てもおかしくない』と言うメールが一斉返信され、続いて『棟の怪談?双子が死んだのはグエンの祟りよ!』と言う返信が、やはり全体に送信されて、『噂』は一気に『タタリ』へ変わって行った。 「なるほど、いかにも高校生らしい、馬鹿馬鹿しい噂話です」 発端となった『ラビ』に悪気はないようだが、事件の続いた学校内では、『噂』と聞くやオカルティックな連想が働いてしまったのだろう。 一斉送信されたことで、その『タタリ』とやらも一気に共有されてしまったようだ。 「さて・・・祟りの元凶とされる『グエン』とは誰でしょう?」 ふと呟いて・・・眉根を寄せる。 学校の関係者には違いないだろうと、『サンタンジェロ学園 グエン』で検索してみた。 大して期待はしていなかったが・・・国内ニュースに、去年、この学園で亡くなった女生徒の記事が載っていた。 「自殺・・・か・・・」 前理事長一族に不幸が続く前にも、この学園では不幸があったのかと、更に眉根が寄る。 「彼女の祟りで前理事長一族に不幸が?なぜ・・・?」 それは・・・一番可能性が高いのは、彼女の死の原因が一族にあったからだろう。 「双子の兄弟か、亡くなった少女から、酷いいじめでも受けていたのでしょうか。 スキン・ボリック教諭は・・・見てみぬ振りでもしたのでしょうかね」 自殺した女生徒と双子とは同学年だから、あり得ないことではない。 それに、亡くなった少女は不運だっただけで、狙いは理事長や共にいた体育教師ではないかとも思う。 「そうか、それで『祟り』ですか・・・」 その情報を得てから改めて『体育館棟の噂』のメールを読んでいくと、直接に『グエン』に言及しているものもあった。 『クラウド先生も、妹を殺されたのに、よく平然としてられるよ。冷静って言うより冷たいんじゃない?』 その意見に対しては、ナイン教諭を擁護する意見が大半を占めていたが、私には彼女らが姉妹だという新しい情報が得られた。 「祟りなんて存在するものですか。 やったのだとしたら・・・えぇ、こんな事故を装うなんて無理だとしても、やった者がいたとすれば人間ですよ・・・」 そして今のところ、得た情報だけを見ればそれはナイン教諭の手になるものに見えた。 「まさか・・・」 あのナイン教諭が・・・いかにも聖職者にふさわしい彼女が、妹の恨みを晴らすために生徒や教諭を殺す? 「馬鹿らしい」 人は見た目に寄らないことはよくわかっている。 昨日、彼女に会ってみて、『彼女なら冷静に事故を装うこともするかもしれない』とは思った。 しかし、私も警察の中で様々な人間を見てきて、人を見る目にはそれなりに自信もある。 その上で、私は彼女を犯人と思わせる情報を『馬鹿らしい』と笑った。 それに、 「前理事長は、犯人を見たというのですからね・・・・・・」 呟いて、私は次々に同じような内容のメールを読んだ。 ナイン教諭が犯人なら、前理事長はなぜそう言わなかったのだろう。 委託とはいえ、自身の学園の教諭である彼女を知らないわけがないだろうに。 ならば・・・ 「確実に、彼女は犯人ではありません」 彼女が犯人であれば、私がここに来るまでもなく前理事長自身が手を打っているだろう。 それができないのは、彼が犯人の素性を知らないからだ。 もしかしたら犯人の心当たりくらいはあるかもしれないが、この学園の教諭などの、彼がよく知る人物では絶対に、ない。 「・・・と言うことは、ミランダ先生は確実に安全圏と言うことです」 我ながら驚くほどに安堵して、ホッと吐息が漏れた。 と、思った以上に大きな声だったのだろうか、ノックの音がして、ドアの隙間からあの教師が顔を出した。 「失礼。 今、ミランダ先生が安全とか・・・なにかあったんですか?」 ぎくりとした私に、彼・・・ウェンハム教諭が訝しげに眉根を寄せる。 「その画面・・・!」 ネットブックの画面を見られて、私は舌打ちしそうになった。 私は本来、このサーバーにアクセスする権限など、持っているはずがないのだ。 だが、ここで慌てても余計な疑念を持たれるだけだ。 私は落ち着き払って咳払いした。 「ウェンハム先生も管理者でいらっしゃるのですか?」 「え?!あ・・・はい。 管理者は学年主任のコムイ先生ってことになってるんですが、今年は年初から問題続きで対応に追われてまして・・・。 メールアドレスの配布なんかは代理で俺がやってたんですけど、管理は・・・」 「大変、問題のある状況ですよ、これは」 先に彼を非難することで私への非難を封じる。 その作戦のため、私はあえて、立ち上がらずに傲然と画面を指した。 「ごらんなさい、先生。 各端末のセキュリティソフトはなんとか動いていますが、肝心のサーバーが今年3月からアップデートされていない! セキュリティパッチが当てられていないせいで、ネットワークは穴だらけですよ! こんなことでは情報を盗んでくれと言っているようなものです!」 思っていたことを並べ立てると、彼は表情を険しくして頷く。 「本当に・・・責任が分散してたんで、とんでもないミスでした。 警察の方ってのは、こういう注意も喚起してくれるんですね」 後半は嫌味だろうか。 私がアクセス権を持ったことへの探りだと感じたので、先手を打つことにする。 「校長が、アクセス権を下さったのですよ。 少年犯罪を未然に防ぐための調査なら、生徒同士のメールは確認したいでしょうからと、ご親切にね」 そうなるように誘導したのは私だが、校長はそう思っているだろうから嘘ではない。 「そうですか・・・それで、ミランダ先生が安全と言うのは?」 最初に気になったことは忘れない性質なのか、質問を繰り返して来た彼に舌打ちしそうになるのをなんとか耐えた。 「えぇ・・・生徒達のメールを見ても、ミランダ先生への悪口が書かれていませんでしたので。 親切な先輩が、子供達にいじめられているのではないかと、少々心配だったものですから」 「なるほど」 苦しい言い訳だったが、信用してもらえただろうか? 「それに」 何か言われる前に、言葉を継いだ。 「生徒達も、メールでいじめや非行のやり取りをしている形跡は見当たりませんでした。 今時の学校にしては珍しく潔白ですね」 これだけ生徒がいれば、陰口の一つや二つ、流れていそうなものだがそれはなかった。 そう言うと、彼は難しい顔でため息をついた。 「ここの生徒の大半は、教師よりもこういうのに詳しいんです。 管理権を持った大人が、メールを監視していることを知ってるんですよ。 だからそういうやり取りをこのメールアドレスでやらないだけです」 「そう・・・なのですか・・・」 それは、意外と手強い敵なのかもしれない。 そう考えた私に、彼も頷いた。 「この学校では、中等部で既に高度な情報処理の授業をするんです。 昔この学校にいた教師が有能な人で、彼が残したカリキュラムの出来がいいんですよ。 コンピューターは日進月歩なんだから、教育もそれに合わせるべきだって、情報処理の教師達に徹底指導したんです。 だから、高等部の教師よりも中等部から上がってきた生徒達の方が断然詳しい。 忙しい俺達よりも、生徒に管理させた方が安心なくらいにね」 だったら高等部もそれに倣えばいいのにと、思ったことが顔に出てしまったのだろうか、彼は苦笑した。 「コムイ先生や俺がもう少し、自由になればいいんですが・・・傷がなかなか塞がらないんすよ」 「傷・・・」 言われて私はこの学校の状況を思った。 前理事長の一族は事件の後、全員がこの学園を追いやられたそうだ。 いわゆる下克上・・・と言うものらしい。 今の理事長は、今年の夏まで校長だった人物だ。 前理事長が入院し、復帰できないでいる内に理事会で理事長の座を引き摺り下ろされ、校長がそれに取って代わり、それまでの不行状が目に余った一族がことごとく退職に追い込まれたのだという。 しかし、それだけ大勢の『前理事長派』を退職に追いやったのだから、当然教師の数が足りず、学年主任や受験に必要な教科の教師達はそれまで以上の負担を強いられ、授業だけでなく雑務にも追われているようだ。 「お察しします」 「いたみいります」 軽く会釈した彼は、苦笑を浮かべたまま私のネットブックを指した。 「アクセス権、まだ必要ですか?」 言外に、返せと言われている。 「いえ・・・」 本当はまだ見ていたかったが、ここで無理を通して怪しまれても困る。 「これ以上は有益な情報は得られないようです。 どうぞ、私の権限は削除してください」 「はい。どうもです」 にこりと笑って彼は出て行き、 「・・・・・・ちっ」 私はようやく、舌打ちすることができた。 復学初日、緊張気味に教室に入ったアレンを級友達は温かく迎えてくれた。 間に夏休みがあったせいか、彼らにはアレンが半年も校内にいなかったという感覚が薄いらしい。 夏休み明けの通学がちょっと遅れた程度の認識で、変わらず話しかけてくれるクラスメイトの中に、しかし、蝋花の姿はなかった。 「あの・・・副委員長は?今日はお休み?」 尋ねると、彼らはあっさりと首を振る。 「お父さんが海外勤務になったから、転校だって。 彼女、中等部からこのガッコだったんだから、寮にでも入ればいいじゃんってみんな言ったんだけど、お母さんの方針で、家族は一緒じゃなきゃダメなんだって」 「あぁ・・・そうなんだ・・・」 自分の・・・いや、Uraniaが仕掛けたあの事件のせいだろうかと思ったが、それを確かめる術などなかった。 「なに?彼女がいなきゃ嫌だった?」 からかうように言われて、アレンは首を振る。 「寂しくないとは言わないけど、仕方ないよね。 でも、僕が休学して副委員長もいないんじゃ、学級委員ってどうしたの?」 尋ねると、いたずらっぽく笑ってクラスメイトの一人が手を振った。 「それはもう、俺が下克上しちまったからご心配なく 「下克上って・・・誰が上でも下でもないでしょ」 クスクスと笑うアレンの首に、彼の腕が回る。 「前の王様は、首を切らなきゃかな?」 「やめてよー!」 きゃあきゃあとはしゃいでいると、チャイムと共にドアが開いて、ミランダが入ってきた。 「楽しそうでなによりですけど、もう席に着きましょうね」 穏やかに注意されて、皆が慌てて席に着く。 「まずはウォーカー君、おかえりなさい。 あなたがいない間に私が担任になりましたから、よろしくね」 前担任のボリック教諭は・・・既に亡い。 その死に深く関わっていることを今は思わずに、アレンは頷いた。 「では出欠を・・・」 穏やかな声に名を呼ばれた生徒が返事をする。 とても平和な情景に・・・アレンはなぜか、居心地の悪さを感じていた。 ―――― 特に興味があったわけではないが、ここまで調べたからには・・・そう、乗りかかった船と言うものだ。 『噂』が『祟り』に変容してしまったきっかけのメールを送った男子生徒に話を聞こうと思った。 ラビと言う彼は、既に9月のうちに推薦で進学先を決めていて、今は出席日数を稼ぐだけの通学だそうだ。 「それで・・・よろしいのですか?」 私が尋ねると、学年主任はあっさりと頷いた。 「彼だけじゃないですよ。 推薦入学が決まった子達は、別室に隔離して自習させてるんです。 今から受験する子達と同じ教室に、受験から解放されて浮ついた子達がいたら迷惑でしょ。 だから別室に隔離なんですけど、彼はここの近くの診療所の孫で、午前中は家の手伝いしてて、昼から出てきてます」 「そう・・・ですか・・・」 「彼がどうかしましたか?」 教師としては当然の問いに、私は作り笑いをする。 「随分と友人が多い様子でしたので、生徒達のことをよく知る人なのではないかと推測したまでですよ」 「あぁ・・・確かに、トモダチ100人以上いますね」 クスクスと笑う学年主任を、私は注意深く観察した。 きっと・・・彼は、私の言ったことなど信用していないだろう。 だが、本当の目的などわかるはずもない。 「ちょっと話を聞いてみたいので、彼が登校した後、お話させていただいてもよろしいでしょうか。 ・・・生徒の話も聞かずに、報告書をあげるわけにも行きませんのでね」 少々の間を置いて、彼はにこやかに頷く。 「えぇ、いいですとも」 「よろしくお願いします」 そうして・・・この日の午後、私は『友達100人以上』と言う記録を持つ彼と対峙した。 「急に呼び出してすみませんね」 できるだけ愛想よく言えば、彼もわざとらしいほどににこやかに挨拶を返してきた。 ・・・実に、わざとらしい。 彼の笑顔を、私の捜査官としての経験が分析した。 ・・・彼はきっと、本当のことなど言わない人種だ。 決して本音は見せず、表面上の付き合いを飄々とやってのける。 それが彼の性格だろう。 さもなければ、あんなに『友人』が多いわけがない。 おそらく人に合わせて話題を選びもするのだろう・・・ならば、私の情報は極力与えるべきではないと判断した。 「君ほどの情報通なら、既に私のことを聞いているのでしょう?」 水を向けると、彼は笑って首を振る。 「いくらなんでも、1日じゃそんなに情報も集まらんさね。 せいぜい・・・警察庁から出向してる人で、キャリアの割には若いってこと。 国家公務員試験には年齢制限があったはずだけど、なんでまだ二十歳そこそこの人が職務に就いてんのか、すげー興味があったから呼び出しは嬉しかったさね」 にこりと笑った彼に、不覚にも私は顔を強張らせてしまった。 「・・・どうして・・・そこまで・・・?」 「昨日の全校朝礼で自己紹介したんだろ?俺はいなかったけど」 何を当たり前のことをと、笑う彼に私は記憶を探る。 が、絶対に、生徒達の前で警察庁からの出向などとは言わなかった! 「私はそんなことを言っては・・・」 「あ、俺、保健室のセンセと仲いいんさ 保健室の・・・エリアーデ養護教諭は、ミランダ先生と親しかった・・・はず。 ならば情報源はミランダ先生か・・・。 ため息が漏れそうになって、私は慌てて口を覆った。 「どこら辺がマズかったさ? 言うなってことなら、黙っとくけど?」 ニヤニヤと笑う彼を忌々しく思いながら、私は手を放す。 「・・・全て余計な情報ですが、特に警察庁からの出向と言うことは黙っていてほしいですね。 生徒の皆さんに、余計な心配をさせたくはありませんから」 「心配ってーと・・・去年の事件?それとも、今年の事故?」 問われてふと・・・違和感を感じた。 「事件・・・と言いましたか、君は? 去年の女生徒は自殺でしょう。 事件とは言えないのでは?」 とは言いつつも、そう思うのは私が捜査官であるからで、素人にとって自殺は事件なのだろうかと思った。 が、彼ははっきりと首を振った。 「今、素人だから間違えたって思ったかもだけど、俺はちゃんとわかってて『事件』って言ったさ。 あれは自殺じゃないから」 「は・・・?」 どういうことだ? 自殺じゃないのなら事故だろうに、それをあえて事件と言う理由がわからない。 いや、まさか・・・? 「去年、この学校では殺人事件が起こった。 双子に執拗ないじめを受けた上に追い詰められて、柵をこえちまったんさ、グエンは」 「そんな報告はあがっていない」 唖然として言った私に、彼は大きく頷いた。 「もみ消されたから。 目撃者の証言はことごとく潰されて、犯人達はその日、学校にいなかったことにされて、彼女は自殺したってことにされた。 あの日、誰も部活棟の屋上にはいなかったから、あの場で実際に何が起きたのかはわかんね。 だけど、あいつらがグエンを追いかけて、追い詰めたってことを見た奴は、何人もいる。 そして・・・」 ふと言葉を切って、彼は私をじっと見つめた。 「ついさっきまで生きてた彼女の死体を見た奴も・・・」 それは・・・高校生にとって、非常にショックな出来事だったろう。 「気の・・・」 「やめてくれ。 あんたに言ってもしょうがないけど、高校生の証言を誰も採っちゃくれなかった。 このガッコの2年以上のヤツで、警察に不信感を持ってる奴は少なからずいる」 私の言葉を遮った彼の目は、実際に不信に満ちている。 飄々として、相手に話題を合わせるはずの彼は・・・私に対して、この話題を選んだと言うことだ。 確かに、この話題を振るのに私ほどふさわしい人間はいなかっただろう。 彼が時間短縮に協力してくれたことに感謝しつつ、私は本題に入った。 「君は今年の5月頃、この学校のほとんどの生徒に対し、事故で亡くなった双子が体育館棟のことで聞いていなかったか、メールを送っていますね。 なぜそのようなことを?」 彼の表情を見逃さないよう、じっと見つめる。 「もしかして、彼女の死に関わりが?」 その問いに彼は、苦笑して首を振った。 「それを言い出したのは友達。 俺は、奴らが死ぬ前、先輩達にまで『学校に妙な噂はないか』って聞いてたってのを知って、なにを聞かれたのか、そして、知ってるならその『噂』を教えてくれって言っただけさ」 「結果は、芳しくなかったようですね」 「知っての通りさ」 逆に妙な噂ができたと、彼はため息をついた。 「なぜそのようなことを知りたがったのです? 彼女の死にも関係がないのでしたら、調べる必要など・・・」 「あるね、俺には」 妙にきっぱりと言われて、訝しく思った私に彼は忌々しげに眉根を寄せる。 「あいつら・・・学校から塩酸盗み出して、屋上のフェンスの継ぎ目を焼いてたんさ。 おかげで俺は、危うく殺されるところだった」 「なん・・・?!」 驚く私に彼は、校舎の屋上から転がり落ちるところだったと言う件を話してくれた。 「そんな報告も・・・」 「だから。 もみ消されたんだってば、前理事長にさ」 「前理事長が?!」 よりによって、彼がそのようなことに関わっていたとは、不覚にも知らなかった。 と、ラビは今までに前理事長がもみ消して来た事件をいくつも教えてくれた。 「なぜ君はそんなにも・・・」 「詳しいかって? そりゃあ、グエンの事件を目撃して、その証言をもみ消されたのが俺の友達で、グエンが落ちた所を目撃したのも友達で、校舎から落ちそうになったのになかったことにされたのは俺自身だからじゃね? 自分の身を守るためにも双子の動向には注意してたし、そしたら奴らだけでなく、前理事長が一族をあげてやってることにも目が行く。 ほんの数ヶ月前まで、この学校は前理事長派と校長派に分かれてて、校長派の先生達はとてつもなく不自由な状況だったなんてことも、わかってくるさね」 そんな状況がこの学校で・・・? まさか、そんなことが許されるわけが・・・・・・! そう考えて、私は前理事長が、上司の友人であることに思い至った。 上司は彼に対して、便宜を図れる立場に・・・ある。 だが、上司は他人に厳しい分、自分にも厳しい人で、権力を利用して犯罪をもみ消すようなことは絶対にしない人だ。 ではまさか、前理事長は上司の名を利用し、所轄を脅したと言うのか・・・?! だとすれば、私がここにいることも彼に利用されたと言うことで、実に腹立たしいことだ。 黙り込んでしまった私にラビは、軽く手を振った。 「怖い顔になってるさね。 なんか俺、まずいことでも言ったさ?」 苦笑する彼に私は眉を開いて、首を振る。 「こちらのことですよ。 ・・・しかし、そうですね。 去年の事故・・・いえ、事件で、この学校にいじめ問題があったらしいことは知っていたのですが、こんな事件が起こっていたとは知りませんでした。 君達の信頼を取り戻すためにも・・・」 「信用」 「は?」 いきなり口を挟まれて、驚く私に彼はゆっくりと首を振った。 「俺らはもう、最悪の形で裏切られてるんさ。 裏切った奴をもう、二度と『信頼』なんかしない。 取り戻すのはせめて、『信用』にしとくんさね。 それならまだ可能かもしれないさ」 「・・・なるほど。 私は言葉の使い方を間違えていたようだ」 彼の言う通り、既に手ひどく裏切られた者達は、裏切った者を許す気にはなれないだろう。 「信用を。 君達の信用を取り戻せるよう、努力しましょう。 そのためにも、詳しく話を聞かせてもらえますか?」 改めて膝を進めると、彼は深く頷いてくれた。 ―――― もう、1日が経つ。 アレンは、息を詰めて教室の時計を見つめた。 昨日、この国に入国してから既に24時間以上が経つ。 時効へ向けて、砂時計の砂がさらさらと落ちていくさまを幻視した。 ―――― なんて長い・・・。 双子が彼の企みによって自ら柵を越えて以来、既に7ヶ月が経っていたが、そのうちの5ヶ月間、アレンはこの国にいなかったため、時効は加算されない。 そのことを、ラビが教えてくれた。 あの優しい幼馴染はもう、何か証拠を掴んだだろうか・・・掴んだとしたら、彼はアレンを断罪するのか・・・。 そんな思いが巡って鬱々としていた彼にしかし、後見人は厳しかった。 事情を知った彼はアレンを鼻で笑い、『逃げ切ると決めたからには逃げ切って見せろ』と、この国への再入国を命じたのだ。 ―――― 証拠は・・・ない。あるわけがない。 あの日から何度も考えた。 何か物証を残していないか・・・辿られる心配はないのか・・・・・・。 最も危ういのは『仲間』の存在だが、たとえ彼らが沈黙することに疲れ、吐露したとしても、証拠もなければ彼に繋がる方法も既に消した。 ―――― 大丈夫・・・後は、砂が落ちきるのを待つだけ・・・・・・。 視線を黒板へ戻し、いつの間にか進んでいた教科書のページをめくる。 ―――― 大丈夫・・・時間は確実に経っている・・・・・・。 そっと吐息した彼の唇はしかし、すぐにきつく結ばれた。 「アラ、ま。 じゃあ、まだお引越し済んでませんの、ミランダせんせ? あんまりのんびりしていると、年が明けてしまいますわよ?」 養護教諭の笑声が保健室の外まで響いて、私は思わず眉根を寄せた。 生徒への情報漏洩について問いただそうと思ったのだが、ミランダ先生も一緒とは・・・気を遣ってしまう。 ドアの前に立ちすくんでいると、エリアーデ養護教諭に比べて随分控えめな声が聞こえてきた。 「そうなんですけど、この人手不足の上に3年生の担任でしょう? とてもじゃないですけど、全然暇がなくて・・・もういっそ、冬休みに入ってからやろうかって・・・」 「まぁあ・・・せっかくのクリスマスに、埃っぽいことね」 ・・・ミランダ先生は、1年生の担任だったはずだが? まぁ、ここにずっと立っているわけにもいかないので、私は保健室のドアを開けた。 「ご歓談中ですが、失礼しても?」 「あら・・・どうぞ 今日も無駄に愛想を振りまく養護教諭には礼儀上の会釈をして・・・しかし、ミランダ先生へは思わず笑みが漏れる。 「お引越しされるのですか?」 外まで聞こえていた、と言い添えて養護教諭を見遣ると、彼女は嫣然と笑った。 「アラヤダ、はしゃぎすぎたかしら クスクスと笑う彼女の傍らで、なぜかミランダ先生が頬を染めている。 「どうし・・・?」 「あのっ・・・えぇと、エリアーデ先生にご用なんですよね?! 私っ・・・!」 慌てふためいて出て行こうとする彼女に、私は苦笑して首を振った。 「ミランダ先生に隠すことでもありませんので。 ただ・・・」 改めて見遣った養護教諭に向けた目が、自然と細くなる。 「エリアーデ先生が、生徒に対して少々お口が軽いのではないかと、ご注意申し上げに来ただけですから」 「アラ、マ 苦笑して、養護教諭が首をすくめた。 「アナタが実は、警察の人だって言っちゃったことかしら?」 「十分お心当たりがあるようで」 せいぜい皮肉げに言ってやるが、彼女はまったく堪えた様子もなく、クスクスと笑う。 「ゴメンナサイ でもね、このことはラビにしか言ってないわ あの子とは情報のギブ・アンド・テイクをしているだけだし、彼もああ見えて口の軽い子じゃないから、アナタが何か彼の気に食わないことでもしない限り、情報が広まることはないわよ 『彼の気に食わないことでもしない限り』と、さりげなく釘を刺して来る辺り、彼女も一筋縄では行かないようだ。 「・・・生徒とどのような情報のやり取りをしているのか、気になりますね」 「それはヒ・ミ・ツ その言い様にむっとして、何か言ってやろうと思ったが、傍らのミランダ先生が困惑げに私たちを見比べるので、やめておく。 「ところで・・・・・・」 意外にも情報通らしいミランダ先生へ、私は目を向けた。 「ミランダ先生と・・・まぁ、エリアーデ先生にも。 この学校のことをよく知るお二人に聞いていただき、判断していただきたいことがあるのですが、少々お時間いただいてもよろしいでしょうか?」 「えっ・・・わ・・・わ・・・私ですか?! 私なんてそんなっ・・・!」 「いいですわよ 慌てるミランダ先生の代わりにあっさりと頷いた養護教諭が小首を傾げる。 「なにかしら?」 「・・・この春、この学校で起こった事件の数々について」 その言葉に、ミランダ先生は眉根を寄せ、困惑げに首を傾げた。 「事故・・・だと思われますか?あのように立て続けに、同じ一族で起こった事件を?」 問いを重ねると、彼女はますます困惑げな顔をして、頬に掌を当てる。 「あの・・・確かに不幸なことですが、実際にあるんですよ、こういうことは・・・」 呟くような声とともに重く吐息した彼女の背を、傍らの養護教諭が慰めるように撫でた。 「あの・・・?!」 なにか悪いことを言ってしまったかと、顔を引きつらせた私に、ミランダ先生が苦笑する。 「私の両親がそうでしたから・・・。 親戚の結婚式に行こうと、他の親戚達と一緒にホテルの送迎バスに乗っていたら、事故に遭ってそのまま・・・。 私はその時、インフルエンザで寝込んでいたので行けなかったんですが、一緒だったら我が家はあの日に絶えてましたね・・・」 結局、一族で残ったのは、式場で待っていた一家と彼女だけになったと、ミランダ先生は悲しげに笑った。 「も・・・申し訳ありません、無神経なこと・・・を・・・?」 ふと、その話が引っかかって瞬く。 「あの・・・実は、良く似た話を上司から聞いたことがあるのですが、もしかして・・・」 問えばやはり、式場で待っていたと言うのは上司のご一家だった。 警察庁の上層部も多く出席した式だったため、テロではないかと厳重に調べられた事件だ。 しかし、結果は結婚式で泥酔した愚か者が無理に運転して車道を逆走したために起きた、不幸な事故だった。 「では、上司がいつも気にかけている姪御さんというのは・・・!」 声を詰まらせながら問うた私に、彼女はこくりと頷く。 「え・・・えぇ、おじ様にはいつもご心配をかけてしまって・・・。 私が頼りないので、本当にご迷惑を・・・」 恥ずかしげに首をすくめた彼女を見て、唐突に理解した。 上司は、いくら友人の頼みとはいえ、既に事故として処理されたことを調べ直すような人では絶対にない。 しかし、いつも気にかけている姪のことでは別だった。 確か以前、一人暮らしの家に空き巣が入ったとかで、上司が気も狂わんばかりに心配していたことを思い出す。 「・・・その後、ご自宅周辺の治安はいかがですか? 上司直々に命令されまして、私がパトロール体制を作ったのですが」 「お・・・おかげさまで、みなさん安心して暮らせているようです」 大真面目に礼を言うミランダ先生の側で、養護教諭が呆れたようにため息をついた。 「ミランダせんせだけ特別扱いしないで、他の地域にも気を配って欲しいものねぇ」 「もちろん、気を配っておりますとも」 ミランダ先生に対するよりも、彼女に対して口調が冷たくなるのは致し方ない。 「・・・しかし、そうですか。 先生方は、あの件を事件だとは思っていらっしゃいませんでしたか」 「むしろ、なぜその発想?と思いますわね」 意地の悪い口調の養護教諭に頷き、私はミランダ先生へ苦笑した。 「これは秘密にしていただきたいのですが、今回、私がこの学校へ派遣されたのは、伯父上が先生のことを心配されてのことだったようです。 先生に何も問題がなければ、私の出向期間も早く終わるでしょう」 「まぁ・・・おじ様ったら・・・」 ミランダ先生が困ったように小首を傾げる。 「確かに去年から、色々あって大変でしたけど、おじ様に気にかけていただくようなことではありませんよ・・・。 あの・・・伯父には今日にでも、電話してみます。 なんだかご迷惑をお掛けしてしまって・・・」 「いいえ。 上司からは建前でも仕事をいただいていますので、そちらを片付けることにしますよ」 私は二人の教諭に一礼して、保健室を出た。 ―――― 1日目の授業が終わった。 あっさりと、何事もなく。 このまま無事に過ごせるだろうかと、アレンはため息をついた。 ―――― いいや、過ごせるはずだ。 そもそも、自分は彼らの死には、直接関わっていないのだから。 そんな思いが何度も巡って、気分が浮いては沈んだ。 「どうしたの、ウォーカー?具合悪い?」 とうとう、クラスメイト達にも気づかれて、気遣わしげな顔が周りに並ぶ。 「・・・っううん! 時差ボケかな、ボーっとしちゃって」 慌てて首を振った彼に、クラスメイト達が笑い出した。 「なんだ、寝てたんだ」 「目を開けたまま寝るって、器用だね!」 「笑わないでよ! ワケわかんなくなっちゃった授業中に、必死で起きてたんだから!」 自身も笑ってごまかし、席を立つ。 「あと一日くらい寝たら治るかなぁ・・・。 夜になると目が冴えちゃうんだよね」 「週末まで無理じゃね?」 「無理かぁ・・・」 苦笑して、アレンは彼らに手を振った。 「じゃあ、しばらくは早寝早起き頑張る」 「がんばれー わざとらしくあくびをしながら、アレンは教室を出る。 ふと窓の外を見れば、雨は相変わらず降り続いていた。 「体育館・・・か」 彼が罠にはめた兄弟の死に場所だ。 気が進まなかったが、アレンは出来るだけ平然として足を向けた。 「・・・まさか、リンク先生が伯父の部下の方だったなんて」 保健室に残ったミランダが唖然と呟くと、エリアーデがクスクスと笑い出した。 「例によって、監視しに来たんじゃありませんの? まぁだ反対しているんでしょ、伯父様?」 「・・・えぇ。 本家本流の伯父はともかく、遠縁の私なんて大した家柄でもないのに、ロットー家に彼はふさわしくないってそれはもう、大反対を・・・。 元警官の興信所の方が何人も、彼の周りを調べまわっていたそうです」 がっくりと肩を落としたミランダの背を、エリアーデはいたわるように撫でる。 「それでも何も出なかったんですから、ミランダせんせも安心でしょ 反対される理由もなくなったんですから 「そうなんですけど・・・まだ何か、反対する理由をこじつけてきそうで・・・」 しょんぼりと眉尻を下げるミランダを見下ろして、エリアーデは苦笑した。 「ただでさえ忙しいのに、悩みが多くて大変ですわね」 1学期の間に相次いだ『事故』のため、今年は夏休み中も、通常の期間で終えられなかった授業の補習に全生徒が出席させられた。 その上理事会が揉めていたために、教員達は体力的にも精神的にも過酷な夏を過ごす羽目になり、その疲労は秋になっても癒されてはいなかった。 「ミランダせんせなんて、おうちのリフォームは終わってるのに、まだお引越しできないんですものねぇ」 話をリンクが来る前に戻したエリアーデへ、ミランダは大きなため息をつく。 「・・・今年中に入居できればいいんですけどねぇ。 防犯は・・・先程リンク先生も請け負ってくださいましたけど、やっぱり不安で不安で・・・!」 「空き巣事件、すっかり怯えてましたものねぇ・・・」 頷きながらエリアーデは、震えるミランダの肩を慰めるように撫でた。 去年の初めだったか、両親を亡くした女が大きな家に一人暮らしだという噂でも聞きつけたらしく、ミランダの家に空き巣が入ったのだ。 幸い泥棒と遭遇することはなかったものの、家中を荒らされたショックでミランダは寝込んだほどだった。 「あの時は・・・残業で遅くなったのでリーバーさんに送っていただいて、通報も事情聴取も全部彼がやってくれましたから、私はあんまり覚えていないんですけどね・・・」 恥ずかしそうに俯くミランダに、エリアーデが首を振る。 「無理もないわ。 私だって、もしそんな目に遭ったらショックで何も考えられないと思うもの」 でも、と、エリアーデはいたずらっぽく微笑んだ。 「それがご縁で、ご婚約おめでとう 来年の誕生日には入籍だなんて素敵じゃないの 「え・・・えぇ、そうなんですけど・・・」 自宅に帰れば今度こそ泥棒と鉢合わせするのではと、怯えるあまり帰宅恐怖症になり、不眠にもなって精神的に不安定だったミランダを支え、婚約してからは両親の遺した家をリフォームして一緒に暮らそうと言ってくれた彼にはとても感謝している。 しかし、 「3年生の担任は私より忙しくて、夏休み前からずっと、深夜過ぎにならないと帰ってこられないんです・・・」 と、ミランダは重くため息をついた。 「こんなハードワークの合間に、引越しなんて大変な作業をしてもらうわけにはいきませんし・・・かといって私一人では無理だし・・・」 「そぉねぇ・・・」 苦笑して、エリアーデは小首を傾げる。 「でも、大きな荷物は預けて、今はリーバーせんせのお部屋で生活には不自由ないんでしょ? だったら、預けた荷物の運び入れだけお願いして、後は徐々にお引越しでもいいんじゃないかしら。 家が2つあるなんて素敵じゃない 「そ・・・そうですね!!」 両手にこぶしを握って、ミランダがいきなり立ち上がった。 「私!知らせてきます!!」 「アラ・・・じゃあまたねー エリアーデの笑顔に見送られ、ミランダは保健室のドアも閉めずに駆け出す。 「・・・って、エリアーデ先生に言われたんです! これなら忙しいあなたの手を煩わせることはありませんし、徐々に荷物を移して、ゆっくり時間ができてからお片づけしましょう!」 息を切らして職員室に戻ったミランダがデスクワーク中のリーバーに囁くと、彼はホッとした表情で頷いた。 「そっか、一気にやることしか考えてなかったな・・・。 だいぶ疲れて、頭の動きが鈍ってるみたいだ」 大きくため息をついた彼に、ミランダは申し訳なさそうに首をすくめる。 「・・・あなたの方が忙しいのに、私一人じゃなにもできなくて・・ごめんなさい・・・」 うな垂れるミランダの頭をぽんぽんと軽く叩いて、リーバーは首を振った。 「気にすんな。 それより・・・」 もう一度吐息して、リーバーはやや離れた所にいるコムイに声をかける。 「主任、教員の増員って、まだ決まらないんすか?」 問われたコムイは、振り返って肩をすくめた。 「上の揉めごとが終わった直後だもん、まだムリだよー」 『上』とは理事会のことで、元理事長を引き摺り下ろした後の処理がまだ残っているようだ。 「やれやれ・・・いい加減、教員増やさないとリタイヤするのも出てくるんじゃないですか?」 リーバーの言葉に、コムイは苦笑した。 「今学期中にはなんとかするよ。 だから、キミ達も引っ越しがんばって」 手を振って職員室を出て行くコムイの背中に、リーバーが『地獄耳め』と呟く。 「聞こえますよ・・・」 苦笑して座り直したミランダは、背もたれに深くもたれかかった。 「でもこれで、気になっていたことが一つ解決しましたねぇ・・・。 エリアーデ先生にはまた、お礼を言っておかないと」 「いつもながら・・・仲いいんだな」 意外そうに・・・と言うよりもむしろ、呆れたようにリーバーが言う。 華美な美貌と派手な振る舞いで眉をひそめられることも多いエリアーデと、地味な風貌といつも遠慮がちなミランダの気が合うのは不思議なことだった。 しかし二人とも、お互いにないものを持つゆえに惹かれ合うのか、気がつけばいつも隣り合って楽しげに話している。 「いつも何を話してるんだ?」 興味を惹かれて問うと、生真面目なミランダは真剣な顔で考え込み、重々しく口を開いた。 「今日はお引越しのことですけど、昨日はエリアーデ先生が一所懸命なのにクロウリー先生が本気になってくれないという話を・・・。 どう思いますか? あのエリアーデ先生が一所懸命迫ってらっしゃるのに、なぜクロウリー先生は避けてしまわれるんでしょう?」 「・・・うん、その話は置いとこうか、ここでは」 そんなこと自分に聞かれても困る、とは思いつつも邪険にもできず、リーバーは場所が悪いからと逃げる。 と、確かに職員室ですべき話題でもないと頷いて、ミランダは壁の時計を見上げた。 「そろそろ皆さん、戻って見えますね・・・。 私は今日、定時であがれますけど、あなたは・・・」 「受験前の3年担任に定時は無理」 再び書類に向かった彼の肩に、ミランダは優しく手を置く。 「深夜過ぎですね。待っています」 「待たなくていいから、寝てなさい」 「でも・・・」 「いいからちゃんとメシ食って早く寝ろ。 また貧血で倒れたら、一年生達が慌てるだろ」 「はい・・・」 夏の補習中に、生徒達の前で倒れてしまったミランダは、苦笑して頷いた。 「じゃあ・・・そうだわ、アレン君の様子を見て来ようと思ったんでした! 今日は授業に集中できてないようでしたから」 「あぁ、時差ボケの。 若いんだから、1日で治りそうなもんだけどな」 「それだけじゃなく、授業も遅れてそうでしたし・・・外国とでは、やっていることが全然違うでしょうからね」 早口に言って、慌しく駆け出ていくミランダを、リーバーは呆れ顔で見送る。 「転ぶなよー」 「こ・・・子供じゃありませんから!」 顔を真っ赤にして振り返ったミランダは、言ったそばから転びそうになって、慌ててドアにしがみついた。 「ウォーカー君!」 体育館に入る前に呼ばれて、アレンは振り返った。 「ミランダ先生・・・なんですか?」 足を止めて待つと、担任教師は息を切らして駆け寄って来る。 「きょ・・・教室に行こうとしたら・・・体育館に行ってるのが見えたから・・・!」 追いかけて来た、と言って、彼女はにこりと笑った。 「今日はどうでしたか? なにか困ったことはありませんでしたか?」 問われてアレンは目を彷徨わせる。 何かおかしな素振りでもしてしまったのだろうかと・・・それが、彼女の目を引いてしまったのだろうかと、内心うろたえながらも彼は首を振った。 「そう・・・。 まだ時差ボケもあるでしょうけど、外国とは授業の内容も違うんでしょう? だから、混乱してるんじゃないかと思って。 ねぇ、近いうちに、全教科の進度を確認しませんか? そうしたら先生達も、アレン君にわかりやすく教えることができると思うの」 「あ・・・ありがとうございます・・・」 なんだそんなことかと、ほっとしつつアレンは、こんなことでうろたえる自分に焦る。 ―――― これが・・・苛まれるってことか・・・。 後悔なんかない、良心の呵責もないと言い切っていたのに、やはり以前のままではいられなかった。 ラビが気にかけていたのはまさにこのことだったと、今更ながらに理解する。 「そう・・・ですね、今日の授業、正直ついていくのも辛かったです。 教科書のどこを読んでるのかもわかんなくなったり。 補習してくれると嬉しいんですけど・・・先生達は今、すごく忙しいんだって、クラスの皆が言ってましたよ?」 原因は自分だと、気にしながら見つめた担任は、優しく笑って首を振った。 「私達のことは気にしないで。 1年生を担当する先生達は、3年生の担当に比べればまだ余裕があるから。 じゃあ・・・今週は時差ボケが辛いでしょうから、来週初めにでもやりましょうね。 がんばりましょう 「はい・・・」 こくりと頷いて、アレンは手を振るミランダを見送る。 「・・・疲れちゃった」 たった1日でこんなにも消耗するとは思わなかった。 些細なことが、こんなにも気にかかるなんて・・・。 見上げた体育館の、屋上を巡る柵は見えなかった。 だがきっと、まだ立ち入り禁止のままなのだろうとため息をつく。 と、 「なにしてんだ、こんなとこに突っ立って」 冷ややかな声に目を戻すと、剣道の防具を身にまとった3年生が、アレンを見下ろした。 「か・・・んだ先輩・・・」 「陸上部は今日、2階の体育館に間借りしてっぞ。 行くなら早く行けよ。 コムイに会う勇気がないならとっとと帰れ」 アレンが顧問の存在に怯えていると思ったのか、意地悪く笑う神田に首をすくめる。 「でも・・・リナリー先輩が、必ず来るようにって・・・」 上目遣いのアレンに、神田は冷たく鼻を鳴らした。 「頭の上でこれ以上の悲鳴はごめんだぜ」 体育館の1階は武道場だ。 コムイにいたぶられる男子陸上部員達の悲鳴は、既に剣道部員達の耳に入っていた。 「気・・・気をつけます・・・」 ぺこりと一礼して、アレンはとぼとぼと階段をあがる。 その後―――― 新たに加わった悲鳴に、神田は呆れ顔でため息をついた。 ―――― 翌日。 雨は止んだものの、空は相変わらず厚い雲に覆われていた。 私はあてがわれた小会議室の時計を見つめ、上司の定例会議が終わる時間を待つ。 「そろそろ・・・ですか」 時間に正確な上司は、会議を長引かせることがない。 この学校の全教員が授業中でもあるこの時間、決して邪魔が入らないタイミングを見計らって、上司の個人携帯へと電話を掛ける。 『報告かね』 案の定、すぐに出てくれた上司に、私は確認した。 「姪御様は何の問題もなく、お仕事をなさっておいでです」 まず言えば、気まずげに吐息する気配がする。 『それは良かった。 それで・・・なにか事故ではない確証は出たのかね?』 「いいえ。ですが他に気になることがありました」 と、私は元理事長が上司の名を利用して、かつてこの学校で起こった事件の数々を揉み消していたらしいことを報告した。 『やはり・・・。 実は何年か前、私には聞いた覚えもない自動車事故を所轄が『配慮した』と言って来た事がありましてね。 つい数ヶ月前にも、『以前と同じく配慮した』などと・・・。 問い詰めたら慌てて取り繕って、それ以後決して口を割ろうとしませんでしたのでね。 君には悪いが、調査に行ってもらうことにしました』 「―――― なるほど、その件をあらかじめ知らされなかったのは、私に余計な先入観を持たせないためでしたか」 『君なら調査可能と思ったのでね』 淡々と言われた言葉に、私の頬が緩む。 「では、今後は元理事長がどのように長官の名を使ったか、そうしてどのような事件をもみ消したのか、確証を得る調査をすればよろしいのですね?」 『もちろん、その件もだが・・・』 途端に歯切れの悪くなった上司の口調を訝しく思いながら、指示を待った。 と、 『姪が・・・な・・・。 結婚すると言うのですよ、どこの馬の骨ともわからん男と!!』 低く怒りのこもった声に、私の眉根も寄る。 「ミランダ先生が・・・!」 『同じ学校の教師ですよ・・・! 元部下達で、今は探偵をしている者達を総動員して奴の身辺調査をしたのですが、よほど腹黒いらしく、何も出てこなかった・・・! 25年も生きていれば、犯罪歴の1つや2つ出てきそうなものを!!』 それはさすがに思い込みだろうと思ったが、上司の気持ちを慮って何も言わずにいた。 するとそれを同意と思ったか、上司は早口でまくし立てる。 『君に依頼したのはもちろん、元理事長の件だ!だがしかし!そのついでにさまざまなことが耳目に入ることだろう!そうに決まっている!!だから言わずとも君が姪のことを気にかけてくれたようにだね、姪に近づく馬の骨の犯罪歴を洗いだして、姪の目を覚ましてやって欲しいのだよ!もちろんついでのことだがね!これは君の業務でも任務でもなく、ついでのことだがね!!』 ・・・ついでと言いながら、メインであることはよくわかった。 「・・・承りました、長官。 必ず、ご満足いただける報告を」 『よろしく頼むよ!!』 と、何度も繰り返す上司の電話を丁重に切って、私は眉根を寄せる。 「どこの馬の骨でしょうね・・・!」 なぜか、あの気に食わない数学教師のことを思い浮かべながら、私は忌々しく舌打ちした。 ―――― 上司に命じられた『メイン』の仕事はともかく、先に『建前』の仕事を片付けておくべきだろう。 そう判断して、私は再び電話を掛けた。 『おはようございます、リンク監査官』 私を本来の役職で呼ぶ女性管理官に、『内密で』と前置きする。 「今から私が言う人物の犯罪歴・・・いえ、裁判歴を調べてください。 長官の名を騙り、犯罪をもみ消した疑いがあります」 『承知しました。どうぞ』 促されて、私は元理事長及び亡くなった彼の一族と、まだ生存する一族の名を挙げた。 「そして、被害者・・・と言っていいものか、彼らによって被害をこうむった可能性のある人物がいれば、現在の状況をお願いします。 連絡は電話で。 私は今、データ管理の不十分な場所にいますので、メールでの連絡はもちろん、留守電にも入れないでいただきたい。 連絡可能な時間帯は・・・」 時計を見ながら、いくつかの時間帯を指示すると、彼女は明快な返事をした。 『では、できる限り早めにご連絡いたします』 「よろしくお願いします」 自分でデータベースにアクセスできないのは不便だが、有能な同僚がいることは非常に助かる。 この調査が進めば、彼の言っていた『信用』も取り戻せるだろうか・・・と考えて、私は眉根を寄せた。 「・・・これは彼の思惑通り、ということでしょうか」 思わず苦笑が漏れる。 「まぁ・・・協力には感謝するとしましょう」 彼の証言は非常に重要だった。 授業終了のチャイムの音に、私は席を立って窓の外を見る。 事情を知ってしまったせいか、グラウンドから帰ってくる生徒達の笑顔に屈託があるように見えてならなかった。 「なぁ、ホントに時差ボケだけ?具合悪いんじゃないの?」 気遣わしげな声をかけられて、アレンはぎくりと震えた。 「だ・・・大丈夫だよ。 時差ボケ・・・とはもう、違うかもしれないけど・・・」 「そうか? 自分からあんまりしゃべらないし・・・外国にいる間になんかあった?」 指摘されて、アレンは慌てて首を振る。 「えっと・・・それはね、きっと・・・しばらく、言葉がわかんない国にいたからじゃないかな。 イギリスに行く前に何カ国か点々としてたからさ、なんて話しかければいいのか・・・というより、何語で話しかければいいのか、迷っちゃって・・・!」 「あ、そっか!」 アレンの苦し紛れの言い訳を、信じてくれたらしいクラスメイト達が苦笑した。 「大変だったなー。おじさんって、スパルタなんだろ?」 「そうなんだ・・・いつも自分の都合ばっかで、僕は振り回されてばっかり」 大げさにため息をつくと、方々からよしよしと頭を撫でてくれる。 「でも、帰ってこれてよかったじゃん。 もう転校って言うか・・・休学しなくていいんだろ?」 「それは・・・わかんない。 また呼びつけられるかもしれないし」 だからまた部活も辞めるかも、と言うと、彼らはまた、アレンの頭を撫でた。 「お目当ての先輩、残念だったなー 「お前、あからさま過ぎたもん。 コムイ先生に殺される前に、離脱できてよかったんだよ」 妙に事情通の彼らに小突かれ、思わず笑声をあげる。 「酷いよ、僕の不幸を楽しんでるでしょ!」 「あれ?わかった?」 「傍目から見てると楽しかったんだけどね♪」 きゃあきゃあと甲高い声ではしゃいで・・・そうしている間は、鬱屈を忘れられた。 ―――― さすがに優秀な人間は違う。 そう、改めて感じた手際だった。 朝に依頼した仕事は、昼休み後の授業時間中に詳しい報告となって私の元へ届いた。 『・・・以上が元理事長が行ったらしい、事件もみ消しの経緯です。 そして本来、被害者だったはずの方の氏名及び近況、遺族となった方の近況をお伝えします』 次々と読みあげられる名と近況を聞きながら手帳に書き込む。 「・・・ありがとうございました、フェイ管理官。 急な依頼にもかかわらず、正確な報告を感謝します」 『いえ。 あらかじめ長官より、監査官のサポートを依頼されておりましたので。 また何かありましたらどうぞ』 「ありがとうございます」 礼を言って電話を切った私は、手帳に書いた名前へ目を落とした。 「アレン・ウォーカー・・・この学校の1年生ですか。 一旦休学して、今月から再登校・・・きっとあの子ですね」 一度だけ見た、授業中にうろついていた少年の顔を思い出す。 朝礼で名前も出ていたことだし、間違いはないだろう。 「父親を失った事故・・・いえ、事件ですか。 その犯人と疑われたのが、かつての担任教師・・・これは偶然でしょうか」 報告を受けるまで、最も疑わしい・・・しかし、最もありえない人物はナイン教諭だと思っていた。 しかしもう一人、この学園に疑わしい人物がいたとは。 「少し・・・話を聞いてみましょうか」 時計を見つめて、私はこの日の全授業が終わる時間を待った。 ―――― 今日も、一日が終わる。 昨日よりは幾分冷静に、アレンは時計を見つめた。 終業のチャイムが鳴り、放課後になる。 席を立った彼を、しかし、担任が呼び止めた。 「はい、なんですか?」 部活用のスポーツバッグを見えるように持って、急いでいるのだと示した彼に、担任は申し訳なさそうに眉根を寄せる。 「あのね、アレン君・・・今、臨時の先生が見えているのだけど、あなたにお話を聞きたいそうなの」 「話? 臨時の先生が、なんでですか?」 不思議に思って問うと、担任は彼の言葉を思い出すように宙を見つめた。 「えぇと・・・確か、帰国子女の子に、外国との授業の違いを聞きたい、だったかしら。 あぁ、ちょっと違いますね。 帰国直後のアレン君が今、何に不自由しているか聞きたい、だったわ。 他の学校でも、帰国子女の子はちょっと苦労しているみたいだから、ケアするにはどうしたらいいか、意見を聞きたいのですって」 「はぁ・・・いいですけど、長くかかりますか? 僕、今から部活なんで、話が長くなるなら、コムイ先生に言っておかないと・・・」 遅刻を理由に、どんな厳しいペナルティを課せられるかわからないと震え上がる。 と、 「それならもう、リンク先生が直接コムイ先生に言ってらっしゃいますから。大丈夫ですよ」 請け負ってくれた彼女に、アレンは頷いた。 「わかりました。 どこに行けばいいですか?」 担任に小会議室を示されたアレンは、不要になったスポーツバッグを席に置いて向かう。 「リンク先生・・・って言うんだ。 あの、厳しそうだった人かな」 書類の提出に来た時に一度だけ会った彼を思い浮かべてドアを開けると、思った通り、そこにはあの彼が待っていた。 先生、と呼ぶには随分と若い。 臨時とは聞いたが、教育実習生と言うものだろうかと考えつつ、アレンは勧められた席に座った。 「部活があるのに、すみませんでしたね」 「いえ」 アレンがにこりと笑って首を振ると、彼は早速本題に入る。 どの国にいたのか、その国ではどのような授業があったのか、帰国して何が不自由だったかなど、次々に発せられる問いに答えて行くうちに会話がリズムを持って、回答から淀みが消えていった。 それが罠だったと気付いたのは、問いが父に関するものになってからだ。 「この学園の理事の一人であった父上が亡くなった際、君は犯人を見たのですね?」 流れのままに『はい』と答えそうになって、アレンは口をつぐんだ。 「どうしました?」 低い声の問いに、アレンは無言で首を振る。 「見ていないと? 調書では、まだ10歳だった君が目撃証言をしたとありますが?」 「似顔絵を作ってもらったことは確かですが・・・あの日は雨が降っていて、小さな僕が路上から見た程度では、正確な似顔絵なんか出来ないって言われました・・・」 「しかしその時、君は今年亡くなったスキン・ボリック教諭を犯人だと供述したとありますが?」 「そ・・・そうなん・・・ですか?」 声を詰まらせ、問い返したアレンを、リンクは訝しげに見つめた。 「そのように記録してあります。 事実、父上を轢いた車両はボリック教諭のもので、彼は事情聴取を受けています。 ただし、それは前日に盗難にあったものである上、彼本人には当日のアリバイがあり、この場にいたはずがないと言う反証が出ていますね。 そのため警察はボリック教諭を解放し、この事件は犯人が捕まらないまま、時効となりました」 淡々と語る声に、アレンの手が震える。 膝の上で両手を重ね、震えを止めようとする彼を、リンクはじっと見つめた。 「ウォーカー君? 君は、かつての担任が5年前の事件関係者だと、気付きませんでしたか?」 「え・・・」 何か言おうとして、アレンは声を詰まらせる。 今までがテンポよく、リズミカルなほどに進んだ応答だけに、今の会話は不自然なほど澱んでいる・・・そう、感じた。 なんとか切り抜けなければと、焦るアレンの頭の奥で、誰かが囁く・・・―――― 私を起こさないで。 ――――・・・私を起こさないで もうこれ以上『敵』はいないのだから 見えない振りでやり過ごせる敵ならいないも同じ ネメシスはそんな易い存在ではない 罪を隠すために罪を犯すことがあってはならない・・・―――― 決して! 「ウォーカー君?」 黙りこんでしまったアレンに、リンクが呼びかけた。 「どうしました?」 問いかけに、顔をあげたアレンはつい先程までの不安げな表情を払拭して、妙に落ち着いた目で彼を見返す。 「・・・覚えて・・・いないんです」 声にも、もう狼狽はなかった。 「記録があるのにって、変に思うでしょう? だけど、今の後見人・・・僕の叔父に当たる人なんですが、彼が言うには、僕は父を亡くしたショックのあまり、しばらく死んだようになっていたそうなんです。 飲食はもちろん、眠りもせずに人形のようになっていたって。 その間に、父が亡くなった直後の記憶が消えてしまったらしくて・・・気がついたら外国にいた、という感覚です。 僕を心配した叔父が、この街どころか、国からも離してしまったので。 僕はまだ父が生きていると思っていて・・・父さんはいつ帰ってくるんだろうと言っては叔父を困らせました。 亡くなったんだって思い出したのは、翌年の命日、お墓参りに帰国した時です。 その時には、犯人のことなんかはすっかり・・・」 「・・・そうでしたか」 リンクの沈んだ声に、アレンは深く頷く。 「スキン先生が・・・あの時の人だったんですね・・・。 僕、自分が関わった事なのに、調べようがなかったから・・・」 「そうでしょうね」 軽く吐息したリンクを、アレンはじっと見つめた。 「あの・・・先生はなんでこんなことを?」 「あぁ、申し遅れました。 私は今、文科省よりの出向と言うことになっていますが、本来は警察庁の者です。 少年犯罪を未然に防ぐと言う立場から、この学校をモデル校として参照しに来たのですが、前理事長の件で気になることがありまして。 ついでに調べているところでした。 君には、帰国子女としての意見を聞くだけのつもりだったのですが、こちらの調査にも関わっていたという記録を見つけてしまいましたのでね。 不愉快な思いをさせたのでしたら、申し訳ありませんでした」 「不愉快だなんて・・・」 微かな笑みを浮かべて、アレンは首を振る。 「でも・・・僕にこういう聞き取りをしているってことは、もしかしてスキン先生が犯人だったと思ってるんですか? そして、前の理事長があの事件をもみ消したんだって・・・」 「・・・それはどうでしょうね。 まだ調べてみないとわかりません」 用心深く言った彼に、アレンは笑みを深めた。 「時効なのに。 人を殺しても、たった5年で時効になった事件なのに、どういう風の吹き回し?」 うろたえていた少年と同じ人物だとは思えない不敵な笑みに、リンクは息を呑む。 「この国の警察なんて、もうとっくに信用してないのに・・・今更僕に、なんの用だってんだろう!」 椅子を蹴って立ち上がったアレンは、きつくリンクを見下ろした。 「スキン先生があの時の人で・・・前理事長があの事件をもみ消したかもなんて・・・知りたくなかったよ!! 責めようにも、もう死んじゃったなんてね!!」 激しい口調で言い捨て、アレンは足音も荒々しく部屋を出る。 そのままの歩調で昇降口まで行き・・・周りに誰もいないことを確認してから、ほっと吐息した。 瞬いた目が、暗い光を帯びる。 「ネメシスは・・・もう起こしちゃいけない。 だからウラーニア・・・また力を」 天の運行を司るがごとく、冷静に、厳格に、逃げ切るまでの一筋の道を刻む―――― それは既に計画を成功させた彼にとって、容易なことに思えた。 ・・・いや、 「慢心は禁物。 今度の相手は国家権力だ」 口の中でそっと呟く。 「どうする・・・叩きのめすのはダメだ。 相手を激昂させれば、反撃はより強烈になる。 最善は・・・」 自分から彼を遠ざけつつ、関心をそぐ事だ。 やり方さえ間違えなければ、彼を遠ざけることは出来る。 だが、最初から狙って罠にかけたのかもしれない彼の関心を、そぐ事は可能だろうか? 「関心を・・・他に向けるんだ。 僕から遠くへ・・・」 彼は、前理事長のことを調べていると言った。 ならばアレンよりも更に強く、更に多くの不利益を、前理事長とその一族からこうむった人間を差し出せばいい。 「誰が・・・」 脳裏に多くの顔を思い浮かべた。 強く彼らを憎む人々の顔を・・・。 しばらくして、彼は再び歩き出した。 「あれ、どーしたの、アレン君? リンク先生と面談じゃなかったの?」 グラウンドで男子部員の苦しむ様を楽しげに見守っていたコムイが、歩み寄ってきたアレンに気づいて振り向いた。 「あの・・・今日は・・・・・・」 声を詰まらせるアレンを、コムイは気遣わしげに見つめる。 「顔色悪いね。 どうかした?」 屈み込んで問う彼に、アレンは何か言おうとして口をつぐみ、首を振った。 「えぇと・・・つまり今日は、部活休みますって?」 「はい・・・」 ようやく頷いたアレンの頭を、コムイが優しく撫でる。 「わかったよ。 帰ってお休み」 「は・・・」 再び頷こうとした時、 「どうしたの、アレン君?体調悪いの?」 駆け寄ってきたリナリーが、アレンの額に手を当てて顔を上げさせた。 「熱はないみたいだけど・・・顔色悪いね。 大丈夫?」 「大丈夫じゃないから今日は部活休むってさ。 リナリー、邪魔してないで解放してあげなさい」 妹が男子と親しくすることを嫌うコムイが、リナリーの手を取ってアレンから引き離す。 「えー・・・でも・・・」 リナリーが額に触れても、無反応だったアレンが気にかかった。 いつもなら、大仰なほどに慌てるのに。 リナリーが気遣わしげに見つめるアレンとの間に割って入ったコムイが、妹を上から見下ろした。 「寮にはジェリぽんがいるから大丈夫! 看病なんて出来ないキミより、何千倍もお役立ちだから!」 「う・・・そうだけど・・・!」 そんな言い方はないだろうと、睨む妹を無視して、コムイはアレンを振り返る。 「気をつけてお帰り」 「はい・・・」 ぺこりと一礼して、顔を上げたアレンが一瞬、リナリーを見つめた。 その視線に気づいた彼女は、アレンへ微かに頷き返す。 黙って彼の背を見送った後、 「アイタタタ! 兄さん、突然オナカが痛くなったので部活早退します!」 わざとらしく、リナリーがしゃがみこんだ。 「はぁ?! なにゆってんの、この子は!!」 仮病と言うにはあまりにもわざとらしい演技に呆れるコムイに、リナリーは軽く手を上げる。 「明日はきっと頑張るよ!」 「待ちなさい、リナ・・・!コラ――――!!!!」 猛ダッシュで駆け去った妹に追いつけるはずもなく、コムイは悔しげに歯噛みした。 「待って、アレン君!」 歩調を緩めて待つまでもなく、すぐに追いついて来たリナリーを、アレンは暗い表情のまま振り返った。 「どうしたの?何かあった? 体調が悪いってだけじゃないよね?」 気遣わしげなリナリーに、アレンは逡巡した後、頷く。 「あの・・・・・・」 低い声でぼそぼそと、リンクとの話を語ると、リナリーの眉が吊り上った。 「酷い・・・! なんて無神経なの!!」 リナリーに父のことを話したのは初めてだったが、頭のいい彼女はすんなりと理解して、アレンのために憤ってくれる。 そんな彼女を巻き込むことにためらいを感じながらも、アレンはまた、低く呟いた。 「僕・・・あの人が犯人かもだなんて思わずに、弔辞まで読んでしまって・・・。 なんだか悔しくて・・・・・・!」 「そう・・・だったね・・・」 俯いたアレンを慰めようと、そっと彼の肩に置いたリナリーの取る。 「まさか僕・・・あの人を殺しただなんて、思われてるのかな・・・」 「まさか!」 リナリーは即座に否定した。 「確かにラビは、スキン先生の『事故死』を疑っていたけど、どう見てもあれは事故だよ! それにあの日、アレン君はラビと一緒に医院のお仕事してたんでしょう?!」 「うん・・・・・・」 「だったら絶対にありえないよ!! 双子だって自業自得の事故だし、一年生の子は食中毒だったじゃない! そのどれにも、アレン君は関われないでしょう?!」 「もちろんです」 大きく頷いたアレンは、リナリーの手を握る手にわずか、力を込める。 「リナリー先輩だって、そうでしょう?」 「当たり前だよ!」 自信満々に、リナリーは頷いた。 「入学式前日はうちに先生達が来て、遅くまで打ち合わせやってたもん! 私、コーヒーとかずっと差し入れてたんだから、出かける暇なんかなかったよ! それにゴールデンウィークはシンガポールの親戚のうちに遊びに行ってたし、一年生の子が食中毒になった時はアレン君や神田先輩とラビのうちにいたもん!」 だから、と、リナリーは真剣な目で、アレンを見つめた。 「アレン君がこんな嫌な思いするなんてダメだよ! 私から兄さんに、しっかり言っておくから! そのリンク先生には、兄さんからしっかり指導してもらうからね!」 任せて!と、請け負ってくれたリナリーに、アレンは微笑んで頷く。 「ありがとうございます・・・! やっぱり、リナリー先輩は優しい」 取ったままの手を引き寄せ、縋るように抱きしめた。 「ア・・・アレン君っ?!」 放課後とは言え、まだ部活動の終わっていない学校には生徒も教師も多い。 誰かに見られたらまずいと、真っ赤になって慌てるリナリーを、アレンはすんなりと放した。 「お願いします。 僕はもう・・・あの人の顔、見たくない」 父さんのことを思い出すから、と、笑みを消したアレンに、リナリーは赤い顔のまま何度も頷く。 「かっ・・・必ず、言っておくよ・・・!」 抱きしめられたことは秘密にしておいた方がいいな、と、混乱しつつも的確な判断をしながら、リナリーは肩を落としたアレンを見送った。 ―――― 翌朝、ホームルームが終わった頃合だろうか、小会議室のドアをノックする音がした。 私が返事をすると、ミランダ先生がおずおずと顔を出す。 「これはミランダ先生、どうされました?」 席を立って迎えると、彼女は言いにくそうにためらった後、私を見上げた。 「い・・・いけませんよ、生徒を傷つけるようなことをしては!」 単刀直入に言うことには慣れてないのだろう、次の言葉が続かず、目をさまよわせる彼女に私は苦笑する。 「昨日のアレン・ウォーカーのことですね。 あれは私も、少々やりすぎたと反省しております」 彼は彼女が担任をしているクラスの生徒だ。 昨日はどうだったかと聞かれた彼が、担任に泣きついたのだろう。 「・・・学年主任のコムイ先生にも改めて事情を聞いて、驚きました。 アレン君のお父様が亡くなったことは知っていましたけど、まさかスキン先生がその犯人だったかもしれないだなんて・・・。 それを、何も知らないあの子に言うなんて、本当に酷いですよ!」 「も・・・申し訳ありません・・・」 いつも穏やかな彼女の、初めて見る剣幕にこの私が、慌てて謝った。 犯罪者に怒号を浴びせられても受け流せるというのに、なぜか彼女の怒りには恐れ入ってしまう。 「今後このようなことはいたしませんし、彼にも謝りますので・・・!」 ・・・普段の私であれば、絶対に自分から『謝る』などとは言わないのに、なぜか口をついて出た。 が、ミランダ教諭は首を振る。 「リンク先生の顔を見ると、お父様のことを思い出しそうだからと・・・アレン君は会いたくないそうです」 「それは・・・嫌われてしまいましたね」 苦笑した途端、睨まれてしまった。 「本当に反省してらっしゃるの?!」 「も・・・もちろんです!」 びくっと震えてしまった自分に誰より、私が驚いた。 彼女の前ではまるで、飼い主の顔色を伺う犬にでもなったかのようだ。 「非常にデリケートな問題ですから、今後は気をつけてください」 「はい・・・」 深々と頭を下げると、怒りの気配が緩んだ。 恐る恐る・・・この私が恐る恐る見上げると、ミランダ先生は困り顔で小首を傾げている。 「・・・言い過ぎてしまったかしら」 「いえ、とんでもありません!」 慌てて首を振って、心から陳謝した。 ・・・なぜか彼女には敵わないと、確信した瞬間だった。 ―――― ホームルームで担任にリンクとの面談の経緯を語った後、彼女から来るだろう報告を待っていたアレンは、1時限目が終わった頃にもたらされた結果に内心、ほくそ笑んだ。 リナリーが彼女の兄に昨日のことを言ってくれただろうとは思っていたが、念のため、担任にも援護をしてもらうという作戦がうまく行ったようだ。 彼がアレンに近づきにくくなっているうちに、元理事長の一族を恨む人間達を差し出しておけば、彼の興味は逸れるに違いなかった。 復讐のために、元理事長一族のことは調べ上げている・・・彼らを恨む人間達のことも。 その名前をいくつか、彼の前に撒いてやればいいだけのことだ。 ―――― さぁて。どうやって並べるか・・・。 ラビを使うことは出来ない。 真犯人を知っている彼は、できるだけ今回のことには関わらせない方がよかった。 蝋花はここにいないし、ならば・・・。 「チャオジー」 隣の教室の入り口で、アレンはまた寮の同室になった同級生に声をかけた。 彼は、一連の事故が殺人事件ではないかと、ラビが疑っていることを知っている。 「なんすか?」 すぐに来てくれた彼に微笑み、アレンはそっと彼に囁いた。 「・・・僕がいない間、あの事故が事件だって情報、入った?」 「そのことならここじゃなくて、寮で聞いてくれればいいのに・・・」 気まずげに背後を見遣った彼に、アレンは苦笑する。 「ごめん。 さっき思い出したら気になっちゃって」 「うん、まぁ・・・結果としては、ロードを嫌ってた・・・っていうか、ロードに酷くいじめられて恨んでたのはほぼ全員す。 けど、殺してやるってほどじゃないかな。 むしろ、触らぬ神に祟りなし、って雰囲気すかね」 下手に手を出したら、彼女の一族が黙っていないはずだと言う恐怖もあったのだろうと、チャオジーは言った。 「中等部から来た奴らってのは、暗黙の了解っていうのかな、示し合わせたように彼女の話をしたがらないんすよね」 「へぇ・・・じゃあ」 アレンは更に、声を潜める。 「神田寮長があの双子を殺しかけたとかって話は、出ないんだ?」 寮では有名なのに、と、意外そうな顔を作ったアレンに、チャオジーがはっとした。 「そういえば・・・クラスじゃ誰も、そんなコト言わないっすね。 神田先輩は中等部からこのガッコで、かなりの有名人なんすけど。 女子なんて先輩が通っただけで歓声あげるくらいで」 「じゃあ・・・なんで皆黙ってるのかな。不思議」 寮ではとても言えないけど、と苦笑したアレンに、チャオジーも頷く。 ―――― 種は撒いた。 2限目の予鈴の音に、アレンは踵を返した。 「休み中にごめんね! 変な話になっちゃったけど、気にしないで!」 申し訳なさそうな作り笑いを浮かべて、アレンは手を振る。 「あ・・・うん・・・」 手を振り返したチャオジーに背を向けて・・・アレンはほくそ笑んだ。 翌日、いつも通りラビは昼過ぎてから登校した。 自分のクラスではなく、同学年で推薦入学の決まった生徒が集められた教室で、教師に命じられた作業をこなすためだ。 学力の低下を防ぐため、自習の場合もあるが今は主に、同窓会名簿の作成や卒業アルバムの写真選びを命じられている。 今日はどこまで進んだろうかと、のんきに教室に入った途端、 「おい、てめぇ! なんのつもりだ?!」 鬼のような形相の神田に胸倉を掴まれ、ラビは震え上がった。 「な・・・なにがさ・・・?!」 「どうせまた、テメェがつまんねぇ噂流したんだろうが!!」 「だからなにがさー!!」 涙目で周りに助けを求めるが、教室内にぽつぽつと座る彼らは冷たい目線を寄越すばかりで、事情を説明しようともしてくれない。 「ユウ! まずはこの手を放して、深呼吸して落ち着いたら事情を説明してくれー!!」 ぴぃぴぃと泣き声をあげるラビを突き飛ばすようにして放すと、神田は忌々しげに眉根を寄せた。 「俺があの双子を突き落としたかも知れねぇなんて、よくも妙な噂広めてくれたな!」 「俺じゃないさ!!!!」 すぐさま否定するが、日ごろの行いのせいで誰も信じてくれない。 「今回のは笑えないぜ、ラビ? 確かに寮じゃ、神田があいつらを追い詰めて怒鳴りつけたってのは有名な話だよ。 けどそれ以来ずっとあいつらはこいつの前じゃおとなしくしてたんだ。 なんで時間が経ってから、神田があいつら殺すんだ?」 淡々と諭されて、ラビは何度も頷いた。 「そんなんわかってるさね、俺も!! だからユウがあいつらをどうかしたなんて思ってねーし、突き落としたかも、なんて言ってねーさ!!」 必死に弁明すると、冷たい同級生らの心も動かされたらしい。 「そうなの? じゃあ誰が言い出したのよ、そんなこと・・・」 「こいつに決まってる!」 「嘘じゃないってバ!!」 全然信じてくれない神田にまた胸倉を掴まれそうになって、ラビは慌てて逃げた。 「ホント信じてさ! 大体そんな噂、どこで流れてんさ?!」 周りを見回せば、同級生達が顔を見合わせる。 「・・・あたしは文芸部の後輩に聞いた。 神田先輩が双子殺したかもしれないってのは本当かって。 怯えてるって言うより、美少年が犯人のミステリードラマでも見てるノリだったな」 「俺は寮の一年に。 神田が双子追い詰めて脅したって話、詳しく聞かせてくれって。 もしかしてそのまま突き落としたのかって。 ・・・とりあえず、げんこつしてそんなことするわけねーだろ、っつっといた」 「俺はクラスの奴だな。 そんなことして推薦取り消されるんじゃないか、なんてマジ顔だったぜ」 「そりゃ大変さ・・・」 道理で神田が激怒するはずだと、ラビは納得した。 おそらく仕掛けたのはアレン・・・。 なにか自分に追及の手が迫るようなことがあったために、彼らへ恨みを持つだろう人間の名前を撒き餌のようにばら撒いたに違いなかった。 「えーっと・・・。 じゃあユウの他に、『犯人』だって噂されてる奴っていんの?」 きっといるだろうと確信を持って問えば、案の定、あちこちから名前が挙がる。 「まぁ、前にお前がばら撒いた『祟りメール』のせいで、怪しい筆頭はクラウド先生ってことになってるけどな。 お前もう、一生許してもらえないと思うよ」 「そんなっ!!」 「自業自得だ、馬鹿!!」 蒼ざめるラビに、神田が忌々しげな舌打ちをした。 「まぁ、祟りは非科学的だとしても、あいつらを恨んでる人間ってかなりの数いたじゃない? だったらそのうちさ・・・・・・」 意味深に言葉を切った彼女に、視線が集まる。 「恨みを持った人間がみんなであいつらを殺した、なんてこと言われるんじゃない? ナントカ急行殺人事件みたいに クスクスと笑い出した彼女に釣られて皆笑い出し、深刻だった雰囲気は途端に和やかなものになった。 ―――― 恨んでいる人間が多すぎる。 手帳に書いた名前のページをめくりながら、私は紙面へため息をついた。 この中で一番怪しいと言えばやはり、妹を亡くしたナイン教諭だが・・・何も証拠はない。 それに、そろそろ出向期間も終わる。 建前上の仕事を片付けながら、前理事長が上司の名を使って行った数々の隠蔽工作を調べ上げなければならない。 場合によっては本来の仕事である監査官として、処分する人間も出てくるだろう。 「そちらへ集中ですね」 枝葉にこだわって、大本を見過ごすわけには行かなかった。 となれば、生徒達への聴取はもう必要ないが・・・やはり、あのウォーカーと言う少年のことが気になっていた。 しかしこれ以上の接触は、ミランダ先生に禁じられている。 「彼に聴取を行った直後に、こんなにも怪しい人間の名前が出ること自体、作為を感じるのですがね」 だがそれは根拠があってのことではなく、単なる勘だ。 勘で監査官たる自分が動いてはいけないと、自制する気持ちもある。 「いや・・・」 軽く首を振って、私は名前の並んだ手帳を閉じた。 「彼がこの件に関わっているなら、今後の調査で再び浮かぶこともあるでしょう」 排除ではなく保留だと、私は頷く。 「まずは、建前上の報告書を書き上げますか」 順番を決めてしまえば、仕事の早さには自信がある。 私は一気に報告書を書き上げると、前理事長の所業を知っているに違いない職員への聴取リストをも作り上げた。 「・・・それでまずは私に、ってことね ミランダ先生の授業中を狙って訪ねた保健室で、養護教諭は得意げに微笑んだ。 「理事長や校長、学年主任にも当然伺いますが、あなたは生徒側の事情にも通じていらっしゃるようですから。 ・・・それに、彼らほどにはこの学校を守る気概もないようだ」 「あぁら、酷いおっしゃりようだこと」 とは言いながらも気を悪くした様子はなく、彼女はデスクに置いたティーカップを取り上げた。 「・・・そうね、言いたいことはたくさんあるわ。 そもそも私は、前理事長に採用されたんですのよ。 だから前理事長派だと思われてて、ちょっとめんどくさいコトになっているの。 私、派閥とかそういうの、面倒で嫌いなのに」 なぜよりによって、と、ぼやく吐息が紅茶にかかる。 「私がどっち派でもないって、本心からわかってくれるのは、やっぱり派閥とか考えないミランダせんせだけなのよ。 だからかしらね、私達、全然似てないのに気が合うの。 難しいこと考えて、がんじがらめになっちゃってるセンセ達にはわかんないでしょうけど」 そう言ってクスクスと笑う彼女のことが、ようやく理解できた気がして、私は肩の力を抜いた。 「では、あなたが知っている前理事長の所業を、全て教えていただけますね?」 「いいわよ」 一息ついた彼女は、今年の『事件』から順に過去へと、驚くべき記憶力で知る限りのことを話してくれた。 軽薄な見た目と違い、その内容はそのまま報告書に記載してもいいほどに的確にまとめられている。 「・・・驚きました」 「こう見えても私、先生で医療従事者なの。 報告書をまとめるのは得意よ?」 まるで私の考えを見透かしたかのようだ。 クスクスと笑いながら彼女は、とても医療従事者とは思えない長い爪で自身の唇を指した。 「私が言った、ってことはナイショにしててくださいね まぁバレるでしょうけど、証拠がなければなんとでもごまかしちゃうし 「証人に不利なことはしませんよ」 証言が採れなくなるからと、ごく当然のことを言った私に彼女はまた、クスクスと笑う。 「あなたが来てくれてよかった。 私も、このまま黙っているのは気が引けたから。 前理事長がいなくなった今が頃合だと思っていたのだけど、私から理事長達にわざわざ言うのも・・・ねぇ?」 苦笑する彼女に、私は頷いた。 「ご協力に感謝します、先生。 この情報を元に、理事長達からも証言をいただいて、更に証拠固めをすることにしましょう。 その後は・・・」 私の、監査官としての仕事を行うべきだろう。 頷いた私に、彼女は小首を傾げた。 「ねぇ、お話したついでに、もう一つ聞いていかないかしら?」 彼女らしくもなく、やや早口になった口調に私は、半ばあげていた腰を下ろした。 「ミランダせんせのことですけど。 伯父様が、彼女の婚約者を認めてくれないんですって」 「そのことですか・・・」 上司がおそらく、主に頼みたかっただろう仕事のことを言われて、私は知らず、身を乗り出していた。 「婚約者とは一体、どんな人物なのでしょう」 眉根を寄せた私に、養護教諭はくすりと笑った。 「あなたも知っている、リーバーせんせですよ ・・・・・・驚きはなかった。 やはり、と思うと共に、上司の不安・・・いや、不満も理解できた。 「私の上司は彼が、ロットー家にふさわしくないと思っているようです。 そもそも上司の家は・・・」 「結婚するのはあなたの上司じゃなくてよ」 きっぱりと言われて、不本意ながら黙り込んだ。 と、彼女はいつもの軽薄な雰囲気を拭い去って、意外なほど真面目な顔で私を見つめる。 「確かにミランダせんせは真面目な人だから、騙されてるんじゃないかって周りが心配するのもわかるわ。 でも彼は誠実で、信頼に足る人よ」 信頼・・・。 その言葉は、今の私の胸に深く刺さった。 「伯父様はミランダせんせを、まだ人を見る目のない子供だと思ってるんでしょうけど、その点は大丈夫よ。 彼女は人一倍臆病だから、本能的に悪い人間を嗅ぎ分けるの」 ・・・それは、彼女への評価としてどうかと思う。 しかし養護教諭は妙に自信満々に断言した。 「彼女が怖がらないってだけで、人としては十分よ。 それに・・・」 にんまりと、彼女は意地悪く笑った。 「伯父様の権力を駆使しても、彼のアラは見つからなかったんでしょ? ミランダせんせの代わりに、十分調査は出来たんじゃなくて?」 それを言われてしまうと、返す言葉がない。 黙りこんでしまった私に、養護教諭はひらひらと手を振った。 「伯父様にご報告申し上げてちょうだいな 式にはぜひ参加してあげてください、って 「・・・そのような報告命令は受けていませんが、何かのついでがあれば」 なんとか絞り出した声は、我ながら酷くかすれていた。 ―――― 一粒の砂を砂漠へ落とすように、同じ憎しみを持つ人間で周りを覆った。 操られているとは思いもしない人間達が、好き好きに口にする名で彼のリストは覆われ、自分の名は10のうちのひとつ、100のうちのひとつ、1000のうちのひとつとなって、単なる記号と化した。 「星々のひとつひとつに名前があっても、その全てを知るのは一握り・・・。 ましてや、運行を司るのはウラーニアただ一人」 声に出さない呟きは、冷たく澄んだ天へと昇り、消えてしまう。 「のんびり天体観測か?」 不意にかけられた声に驚きもせず、彼は空へ向けていた目を下ろした。 「深夜に寮生でもない人間が、なんで寮の屋上にいるの? 不法侵入だよ、ラビ?」 くすりと笑う彼に、ラビはため息をつく。 「確かめたいことがあってさ。 お前はまだ時差ボケなんか?」 「そうだね・・・ロンドンはいつも曇ってて、澄んだ夜空なんて見られなかったから。 この国はいいね」 落ち着き払った声に歩み寄って、ラビは手にしたライトで彼を照らした。 「・・・ウラーニアか。 アレンはどうした?」 低く呟くと、彼は小さな明かりの中でにこりと微笑む。 「ここにいるじゃないか。 僕は僕だよ、ラビ」 淡々とした口調の中に、どうしようもない暗さを含んだ声・・・それは、ラビの知る幼馴染のものでは決してなかった。 「・・・帰って来た時は、アレンのままだったのにな。 自分の罪に怯えて、糾弾を恐れて・・・時間が過ぎる様を、息を詰めて見つめていた。 そんなお前が可哀想だって、思ってたのにさ」 「だって証拠なんか、あるはずがない」 怯えも恐れもない、妙に平坦な表情で、彼は笑う。 「僕が・・・ううん、『私』が・・・! ネメシスが認めた復讐を、ウラーニアが天の運行を司るがごとく実行した。 そこに罪はなく、糾弾する者はなく、ゆえに罪人もない。 怯えなどあるはずがない」 静かに語りながら、彼は再び夜空を見上げた。 「罪に怯え、糾弾を恐れ、法から逃げる罪人はもう、僕ではなくあの人だ・・・当然の報いを、受ける日は近い」 「あぁ・・・。 だけどお前への・・・アレンへの疑いだって、完全に晴れたわけじゃない」 「証拠はなくても証人はいるしね」 ちらりと、ラビを見る銀色の目が冷たく光る。 「・・・不法侵入の少年が、誤って転落したって事故がないとも限らないけど?」 足音もなく歩み寄って来た彼の両手が、ラビの両腕を掴んだ。 しかしラビは身動ぎもせず、落ち着いた目で彼を見下ろす。 「・・・怖がらないんだ」 真上にある幼馴染の目を覗きこみながら、彼は楽しげに笑った。 「お前がそんなことしないって、わかってるからさ。 ウラーニアは、自分が司る天の運行にイレギュラーを認めない。 そして何より、ネメシスは罪を隠すために罪を犯すことはない」 神話の女神達になぞらえて諭すラビに、彼はにこりと微笑んだ。 「その通り。 ネメシスはそんな、易い存在じゃない。 ウラーニアも決して、天の運行を滞らせはしない」 掴んでいたラビの両腕を放して、彼は楽しげに笑う。 「・・・だから、僕は僕に言い聞かせるんだよ。 僕に罪はなく、僕を糾弾する者はなく、ゆえに僕は罪人じゃない。 僕に怯えなどあるはずがない」 自身の胸に手を当て、そっと目を閉じた彼は、低く呟いた。 「もう、雨に怯える事はない・・・」 呟いた彼の閉じた目を、ラビの手が覆う。 「・・・だったらもう消えろ、クソ女神。 いつまでも時差ボケしてんじゃねぇさ」 忌々しげに囁いた彼の手の下で、後悔の雫が静かに湧き、そっと流れ落ちた。 ―――― 上司が望んでいたメインの仕事では十分な成果を得られなかったが、私本来の職務においては十分な成果を得られた。 養護教諭からもたらされた情報を元に、現理事長や校長、学年主任等各教諭達へ入念な聴き取り調査を行い、更に証拠固めをして、前理事長へ加担した警察内部の者を洗い出した。 ・・・教諭の一人へは、入念過ぎる上に職務を逸脱した聴取があったとして、上司へ個人的な抗議があったそうだが、それは上司が『家庭内のこと』として揉み消してくれたようだ。 意外と長引いた出向期間の後、元の部署へ戻った私は、不行状が発覚した警察官への処分などで日々を忙しくすごし、既に12月を迎えていたことにさえ気付かなかった。 ・・・あぁいっそ、気づかなければよかった。 白い封筒に華やかな封印・・・。 普通ならそれで気付きそうなものを、差出人の名前につい浮かれて、開けてしまったのだ。 二つ折りのそれを開いた途端、溢れ出た文言が、数ヵ月後に行われる結婚式の日時を告げていた。 「なぜ私が・・・・・・!」 忌々しげに呟いた私は、返信用のカードに不参加と書いたのち、白く無垢な招待状を思いっきり破り捨てた。 Fin. |
| ・・・・・・ようやくできた!(;д;) ずっと書かなきゃ書かなきゃと思い続けては、中々出来上がらなかったリクエストNo.32『St.Angel版リーバー対リンク(リバミラ)』が出来ましたよー!!!! もうこれ、何年かかったことでしょう! これでようやく、気がかりが晴れました!! 題名はラルクアンシエルの曲からですが、そもそも前作もこの曲を聞かなきゃラストが決まらなかった、という、3作に通じる曲なのです。 ・・・これを聞く度に、『早く書かなきゃ;;;』と思ってました;;; ちなみに作中で隔離された(笑)ラビの設定は、私の経験に基づいてますよ。 私、大学は推薦で受かったんで、同じく推薦入学決めた子たちと自習室に隔離されてました。 自習っても、特になにするわけでもなく、先生が出した課題をこなすだけですけどね。 今はどうなんでしょうね? 同じ教室にいたらさぞかし迷惑だと思うんですが、やっぱ隔離されてますか?(笑) そして、これを読んだ多くの方は思ったでしょう。 『くれはさん、殺人事件の時効は2010年に撤廃されたよ!』って! えぇ、前作を書いた時点(2007年)では、まだ殺人事件の時効は25年だったんですよ!! さっさと書かなかったから腐ったんですよ、ネタが!!(涙目) もう一生ばれませんようにアレン君の犯罪!!>ふざけんな。 |