† Gift T †
†このお話はシャーロック・ホームズシリーズを元にしたパラレルです† 舞台は19世紀ですが、D.Gray−manの原作とは、ほとんど関係ありません。 頭を空っぽにして読んで下さいね |
―――― デスクの上には解答欄が真っ白なままの用紙が柱のように積み重なって、しかもいくつも立ち並んでいた。 ペンを握ったまま、顔色を紙のように白くしたアレンが、涙が零れないように上を向く。 「・・・っ終わらない!」 えぐえぐとしゃくりあげながら見遣った壁のカレンダーは、既に22日までが消されていた。 「こんなの・・・クリスマス休暇前になんて、絶対終わらない・・・! 終わんなかったら1月2日に提出って、僕のクリスマスがなくなっちゃうよー!!!!」 とうとう泣き出したアレンの大声に、何事かと部屋のドアが開く。 「なに泣いてんさ、アレン? とっとと宿題終わらせて、クリスマスの準備しよーぜ?」 へらへらと笑うラビを、アレンは涙目で睨んだ。 「元はといえば、ラビが僕をおじいちゃんの手伝いに連れてったからでしょー!!!! 自分だけ終わらせて・・・手伝えー!!!!」 ぴぃぴぃと泣き声をあげると、ラビはやれやれと肩をすくめて歩み寄ってくる。 「まだ1日あんじゃん。 こんくらい余裕で終わるさー そう言うラビは、長期自主休校の罰でアレンの倍以上の宿題を押し付けられていたが、翌日には完璧に仕上げて提出したために、怒り狂った教師達を更に怒り狂わせていた。 「なんで僕まで連帯責任なんだよ! 僕は好きで学校休んだわけじゃないのに!!」 「アレ? じゃあお前、家業継がんの?」 にやにやと笑うラビに反駁を封じられ、アレンは悔しげに黙りこむ。 「・・・ぐから・・・」 「ん?」 「継ぐから協力してよ!!」 「お前が家業を継ぐことと、俺が宿題の手伝いをすることにはなんも関係がないように思うケド?」 意地悪く笑うラビを睨みつけ、アレンはデスクの引き出しから写真屋の封筒を取り出した。 「神田の目を盗んで撮った殿下の写真。 これでどーだ!」 「この程度の宿題、晩メシ前に終わらせてやるさ!」 途端に張り切ったラビが、積みあがった宿題の柱を引き寄せる。 「お前の筆跡真似て、テキトーに間違えとくのなんて、ヨユーさね 「・・・いちいちムカつくのは置いといて、よろしく」 こめかみを引き攣らせながら、アレンは涙を拭って宿題に向き直った。 翌日、無事に宿題を提出したアレンは、教師達の疑わしげな目から逃げるように下校した。 「クリスマス休暇だーい 同級生達と一緒になってはしゃぎ声をあげ、手を振って別れる。 「えへへ 誕生日のお祝いできないからって、たくさんもらっちゃった プレゼントの箱をいくつも抱えたアレンが上機嫌で自宅に戻ると、1階の居間には既に、リナリーがいた。 「アレン君、おかえりー。 ねぇ、ツリーの飾りって、こんなカンジでいいのかな?」 昨日まではただの木でしかなかったツリーが、今はたくさんのオーナメントで飾られて、キラキラ輝いている。 「はい! 宿題が忙しくて全然準備できなかったから、来てくれて助かりました と、わざとらしく言ったアレンを、メイド達が生暖かい目で見つめた。 クリスマスの準備をしていた彼女達に、アレンが『リナリーに来てもらう口実なんだから、ツリーには絶対触らないで!』と、泣きついたのはつい昨日のことだ。 「よかったですねぇ、宿題終わって」 「終わらなかったらクリスマス中止でしたもんねぇ」 意地悪く笑うメイド達に気まずげに頷き、アレンはもらったばかりのプレゼントをツリーの下に置いた。 「もうもらったの?」 「うん、クラスメイト達から。 僕、25日が誕生日だから、お誕生日プレゼントも兼ねてるんですけど、いつも変なのばっかりくれるんです。 お風呂に浮かべるアヒルとかカエルのおもちゃとかびっくり箱とか。 ラビなんか、去年は真っ白いジグソーパズルだったんですよ。 イジメです」 「そっかぁ・・・」 羨ましそうな、そして少し寂しそうなリナリーの声に、アレンは小首を傾げる。 「どうしました?」 「うん・・・友達たくさんいて、いいなぁって・・・」 ソファにどさりと座って、リナリーはクッションを抱きしめた。 「アレン君もラビも、学校の他にお仕事もあって、友達たくさんいていいなぁ・・・。 私は神田達と離れちゃったから、友達って言えばアレン君とラビ、ちょめちゃんとミランダくらいだよ・・・。 でも、ちょめちゃんもミランダも、お仕事忙しいから遊んでくれないし・・・ジェリーは大好きだけど、ずっと一緒に家事をするのもなんだかだし・・・。 やっぱり、女学校に行った方がいいのかなぁ・・・」 「そ・・・それはやめてほしいなぁ・・・! 僕が会いに行けなくなりますもん!」 今なら監視の目はコムイだけだが、リナリーが学校に通うようになれば、教師達も監視の目を光らせることになる。 婦女子の素行に厳しい女王様が治める英国では、ある程度以上の階級の女子が男と気軽に口を利ける風潮ではなかった。 「なんとかほかの事でお友達作って欲しいです・・・もちろん、女の子の!」 こぶしを握って詰め寄るアレンに苦笑し、リナリーが頷く。 「英国のお行儀でも教えてくれる学校とか、あればいいんだけど」 そう言うと、アレンは訝しげな顔をしてリナリーに歩み寄り、完璧な礼儀作法で彼女へ手を差し伸べた。 「お手をどうぞ、レディ」 「恐れ入ります」 アレンの手に手を重ね、羽根のようにふわりと立ち上がったリナリーの前で彼が一礼すると、彼女も見事な仕草で会釈する。 「・・・お行儀学校、行く必要ありますか?」 「・・・必要だと思ったんだけどなぁ」 クスクスと笑い出したアレンにつられて、リナリーも笑い出した。 その頃、ベーカー街の下宿では。 ジェリーが忙しくクリスマスの準備をしていると、家のベルが鳴った。 「ハァイ?」 ドアを開けると、久しぶりに見る日本娘の笑顔がある。 「んまぁ!サチコちゃん! パリから帰ってきたのねん ジェリーの大きな腕で抱きしめられたちょめ助は、嬉しげに笑った。 「ご無沙汰してたっちょ 支店が落ち着いたから、今日ロンドンに戻ってきたんだっちょよ!」 これお土産、と、ちょめ助は大きな菓子箱を差し出す。 「世界一料理がうまいジェリーママンにお菓子なんて失礼かもだけど、パリ支店で作ってる和菓子も入れてっから、食べて欲しいっちょ 「ンマァ 喜んで受け取ったジェリーは、ちょめ助を暖かい部屋に招いた。 「散らかっててごめんなさいねん! クリスマスの準備してたんだけどん・・・リナリーが、アレンちゃんのお手伝いに飛んでっちゃってん!」 手が足りない、と苦笑する彼女に、ちょめ助が腕まくりする。 「じゃあおいらが手伝うっちょ!」 「アラン・・・でもぉ・・・」 ちょめ助にお茶を出した手を、ジェリーは頬に当てた。 「お店、忙しいんじゃないのん? ロンドンの本店も今、書き入れ時でしょおん?」 日本茶を専門に扱うパリ支店と違い、ロンドン本店は工芸品や雑貨を扱っている。 クリスマスの時期には、普段売れないような高価なものも売れると聞いていた。 気遣わしげなジェリーにしかし、ちょめ助は首を振る。 「本店は店長ががんばってくれてるから、オーナーは暢気にしてても大丈夫なんだっちょ こんなに大儲けできるなんて、クリスマスって、いい風習だっちょねー! 日本もやればいいのに!!」 「アラン?日本って確か、仏教国じゃなかったん?」 不思議そうに言うジェリーに、ちょめ助は笑って手を振った。 「その辺、節操ないから大丈夫だっちょ。 八百万の神々に、今更一人や二人、神様が増えたってどうってことないっちょね」 「おおらかねぇん しかしその考え方はよくわかると、インド人のジェリーも頷く。 「神様は一人ってゆーのが、逆に不思議なのよねん。 マ、ここでこんなこと言うと怒られちゃうから、言わないけどん 内緒話のように言うジェリーに、ちょめ助はクスクスと笑い出した。 「やっぱりこの家は居心地いいっちょ ママンだけじゃなく、探偵もリナリーも、信仰に一々難しいこと言わないし、肌の色は一緒だし」 「いつでもいらっしゃいよん 若いのに苦労があるらしいちょめ助の頭を撫でて、ジェリーは一旦キッチンへ戻る。 「さ! 手伝ってくれるとわかったからには遠慮はしないわよん! お茶を飲んじゃったらジャガイモの皮を剥いて、お野菜刻んでちょうだい 「アイサー テーブルに置かれた籠いっぱいの野菜越しに、ちょめ助はジェリーへと敬礼した。 「あれ?もう来てたんか」 自宅で昼食を済ませてからアレンの邸へ来たラビが、部屋の飾り付けに忙しいリナリーへ声をかけた。 「おかえり・・・じゃないか。 ここ、アレン君ちだもんね」 歩み寄って来たリナリーから『はい』と渡されたヤドリギの枝に、ラビは目を丸くする。 「・・・どしたんさ、こんなにたくさん」 「? アレン君が、全部天井から吊るしてね、って持って来たんだけど、椅子に登っただけじゃ届かないんだ。 ラビなら届くよね?」 「・・・・・・届くけど・・・さ」 ヤドリギの意味を知らずに渡されたのだろうと察して、ラビはきょろきょろとアレンを探す。 「アレンは?」 「これを私に渡したら、そそくさとどっか行っちゃったよ」 さては吊るし終えた頃に戻ってくるつもりかと、ラビは従弟の姑息さにため息をついた。 「リナ、これってさ・・・」 ヤドリギの下にいる人とはキスをしていい、と言う風習があるのだと教えてやると、リナリーは目を吊り上げて肩越しに背後を指す。 「まだあるんだよ。天井が埋まるくらい」 「あいつもこんな策略巡らせんと、堂々とできんもんかね」 苦笑したラビは、部屋の外へ向かって声をあげた。 「あっれー?リナ、天井をヤドリギで埋めちまって! これはキスしてやんねーと!」 「だめえええええええええええええええええええ!!!!」 罠にはまってまんまと呼び寄せられたアレンが、部屋に飛び込んだ途端にリナリーの強烈な平手打ちを食らう。 「なにさせようとしてるんだよ!」 「ぅぐ・・・ごめんなひゃい・・・」 両の頬を真っ赤に腫らしたアレンがえぐえぐとしゃくりあげた。 「やましい気持ちはなかったんですけど・・・!」 「これだけやっといてやましい気持ちがないって・・・にーちゃんはお前の将来が不安になって来たさ」 大真面目に言ったラビからは、あからさまに目を背ける。 「まさか! 他にも変な罠仕掛けてないよね?!」 リナリーがアレンの腫れた頬をつねってやると、ぴぃぴぃと泣き出した。 「やってません!信じて!」 「これだけ盛大に前科作っておいて、信じられるわけないでしょ!」 怒鳴りながらアレンの頬をみょーんと伸ばすリナリーの肩を、ラビが笑って叩く。 「キモチはわかるけど、他にはなんもないから許してやって 「・・・どうかな。 ラビも共犯って可能性があるよね?」 すっかり信用をなくして、アレンは肩を落とした。 「自業自得さ」 うな垂れてしまったアレンの頭をかき回しながら、ラビが苦笑する。 「じゃあヤドリギは・・・まぁ、別の部屋にまとめて置いといて」 きっとリナリーに睨まれ、ラビは慌てて手にした枝を束の中に放った。 「早く飾りつけやっちまおーぜ!」 明日はイブだと、モールを取り上げたラビにリナリーが頷く。 「ホラ!ちゃんと働いて!」 「あい・・・っ!」 リナリーに耳を引っ張られたアレンが、涙目で頷いた―――― その様を、邸の外から双眼鏡で覗く者がいる。 「なにやってんだろ」 ラビやリナリーが窓に背を向けていたため、なにを話していたかは読み取れなかったが、ヤドリギを手にして喚いていた様子に事情を察することは出来た。 「あんなのがウォーカーの名を継げるのかなぁ」 双眼鏡で見つめる先のアレンは、またリナリーに叩かれて泣いている。 「・・・・・・あれでちゃんと仕事ができるんだろうか」 そう言った彼は双眼鏡を目に当てたまま、低い唸り声をあげた。 To be continued. |
![]() |
2014年アレン君お誕生日SS第1弾です♪ 実はこれ、去年のクリスマス用に書いていたものでした。 なので、ここまでは既に去年のうちにできていたと言う(笑) 間にイースターを挟んだので、書いた当初と展開は変わってますが、私のお気に入りのシリーズですので、楽しんでいただければ幸いです |