† Gift U †







 イブの日は、ホワイトクリスマスへ向けて、朝から雪化粧に熱心だった。
 どんよりと曇った空からひっきりなしに雪が舞い落ちる。
 既に厚く積もった根雪の上に降り注いだそれを、子供達が歓声をあげて蹴散らした。
 「おっと」
 黒いコートの上に降りかかった雪を気障な仕草で払い落とした彼は、叱られる前に逃げてしまった子供達を笑って見送り、手にしたステッキで門の呼び鈴を押す。
 古臭い邸が並ぶ一画で、比較的新しいその邸には既に電気が通っており、門の呼び鈴もよく響いた。
 間もなく現れた門番に古い名刺を差し出し、来訪を告げると、少し驚いたような顔をした彼は素早く門を開け、客人を通す。
 ゆったりと前庭をポーチへ向かう客とは対照的に、邸内へ走った門番の連絡を受けて、執事が玄関のドアを開けた。
 「先の主人のお客様であられましたか」
 インド人の執事は流暢な英語でまだ若い彼を恭しく迎える。
 「今はご子息が継いでおられるのだろう?
 仕事の依頼は受けてもらえるのかな?」
 にこやかに言って彼は、手にしたステッキで、ドアの上に掲げられた紋章を指した。
 「・・・現在の主人はまだ若輩のため、ご依頼の内容によります」
 一礼して、用心深く表情を隠した執事に彼は頷く。
 「この家の者ならわかっているだろうが、依頼内容はあちこちにぺらぺらと喋っていいようなものじゃない。
 彼には無理だと思ったなら、最初からここには来ない」
 気を悪くした様子もなく、淡々と言った彼に執事は詫びるように深く頷いた。
 「どうぞ奥へ。
 主人は間もなく参ります」
 恭しく案内に立った執事に頷き、彼は客用の応接間に入る。
 暖炉の火で暖まり、しずくを落としそうになったコートはメイドがすかさず預かって去って行った。
 「行き届いてるじゃないか」
 くすりと笑って彼は、火の傍の一番いい席に座る。
 「あのお子様は俺を見たら、どんな顔するかな」
 いたずらを企む悪童の顔で、彼は閉ざされたドアを見つめた。


 「お客様?どんな?」
 アレンに問われた執事は、客が持参した古い名刺を差し出した。
 「お父様のお客様であられたようです。
 坊ちゃまはまだ若輩者で、大きなお仕事はできませんが、と申しあげましたら、坊ちゃまでも十分可能だとおっしゃいました。
 若く身なりのよい紳士であられますが、言葉は少々、外国訛りでございましたね」
 「・・・若輩者って」
 アレンがぱんぱんに膨らませた頬を、ラビが面白そうにつつく。
 「ホントのことじゃんか。
 親父さんが亡くなってからお前がやったことって言えば、ミランダに宝石を返そうとして失敗したことと、マァムに卵返したことだけじゃん。
 他はジジィの命令で俺の手伝い。
 若輩の上に未熟で経験不足さ」
 ラビの指摘に、一々頷く執事を睨んだアレンは、よいせとソファから立ち上がった。
 「今日はリナリーが来てなくてよかった。
 きっと、興味津々で覗きに来ただろうから」
 「今日と明日はコムイが引き止めてっからね。
 せめて、お前の誕生日パーティだけでも来てくれればいいさねー」
 笑いながらついてくるラビを、アレンは肩越しに睨む。
 「一緒にやるの?」
 「一人じゃ無理かもしれんさね」
 ごく当たり前のように言って、ラビはアレンの背を押した。
 「お前よりも経験豊富な俺がついててやっから、お仕事がんばるさ」
 「う・・・うん・・・」
 悔しいが、付き添いがいることにほっとしたアレンは、階下に降りて客用の応接室に入る。
 「お待たせし・・・ふぁっ?!」
 突然沸いた奇声に驚き、ラビがアレンの頭越しに部屋の中を覗いた。
 「お・・・お前っ!!」
 ティーセットを前にくつろぐ客の顔を見た途端、ラビも顔色を変える。
 「や!」
 「や!じゃないさ!!」
 平然とウィンクした彼に、ラビが噛み付いた。
 「なんでお前がココにいるんさ、怪盗!
 また盗品を隠しに来たんじゃないだろうな!」
 イースターの日、よりによってこの邸に盗品を隠されたせいで、ラビは祖父の居場所をコムイに知られ、アレンはこの国の君主との繋がりを悟られ、甚だまずい立場に置かれたのだ。
 「余計なことしかしないあんたがなんの用だ!!」
 出てけ!と外を指差すアレンに、怪盗を名乗るフランス人は、やれやれとため息をついた。
 「お茶でも飲んで、ちょっと落ち着いたらどうかな?
 それと、俺の名前はネア。
 ちゃんと自己紹介しただろ?」
 ね?と微笑み、まるでこの邸の主人であるかのように席を勧める彼を、アレンとラビは忌々しげに睨む。
 だが憤然としながらも着席した二人は、温かいお茶にミルクと砂糖をたっぷり入れて飲み干し、吐息してから身を乗り出した。
 「で?」
 「なんの用さ?」
 「・・・お前ら、容姿は全然似てないのに、双子みたいな動きするねぇ!」
 妙なところに感心して、ネアはティーカップをソーサーに戻す。
 「とりあえず、サンドウィッチのお皿取ってくれる?
 あ、俺ベジタリアンだからハムいらない。
 キュウリのサンドウィッチちょうだい」
 「んなこと聞いてねぇし!
 さっさと食って用件言えよ!」
 イライラしながらも律儀にサンドウィッチの皿を差し出したラビに、ネアは肩をすくめた。
 「せっかちだなぁ。あのホクロ刑事みたいだ。
 あいつ、牢獄で俺にイライラしながらネチネチ尋問してさぁ・・・絶対ドイツ系だろ!
 俺のエスプリが効いた冗談を理解しない上にユーモアにも欠けてる。
 絶対友人にはしたくないタイプだな!」
 「それには同意しますけど、あんたの回りくどい話し方にイライラするのは僕も同じですよ!
 さっさと用件言えってんだ!」
 「エスプリ(機知)よりも今はエスプレッソ(急速)さ!」
 「お、うまい!」
 ラビの返しに機嫌を良くして、ネアは再びティーカップを取った。
 「そうそう、そういうの。
 せっかく会話をするんなら、楽しみたいんだよ、俺は。
 仕事だってそうさ。
 労役なんて苦痛だろう?
 楽しんで行こうじゃないか!」
 のらりくらりと本題を避けるネアにため息をついた二人は、早い展開を諦めてソファの背もたれにもたれかかる。
 だらしない姿勢でまだ温かいお茶をカップに注ぎ、甘くしたそれをゆっくりと口に含んだ。
 「そうそうv
 ようやく落ち着いてくれてよかった。
 お前達には、ペール・ノエルに扮して恵まれない子供達にプレゼントを配る手伝いをして欲しいんだよ」
 「ペール・ノエル・・・?」
 それがフランス語のファーザー・クリスマスだと気付いて、アレンは首を傾げる。
 「いきなり用件言ったと思ったら、怪盗のくせになに言ってんだよ」
 「怪盗だからさ!」
 訝しげな声をネアは、すかさず否定した。
 「知ってるか?
 今、アメリカじゃペール・ノエルのことをサンタクロースって呼んでんだと!
 空飛ぶトナカイにソリを引かせて、家の煙突から中に忍び込んで、子供の枕元にプレゼントを置くらしいぞ!
 な?!
 こんなアクロバティックなサンタの代わりなんて、怪盗以外の誰に出来るんだよ!」
 やろうぜ!と、こぶしを握るネアを、ラビが胡散臭そうに見遣る。
 「やろうぜ・・・って、一人でやればいいじゃんか。
 怪盗はお前一人だろ」
 「確かに怪盗は俺一人だけど、仕事にはいつも、仲間を使うんだ。
 その仕事にふさわしい仲間をね」
 今回はお前達、と指された二人はそっくりに嫌な顔をした。
 「僕、怪盗の仲間になった覚えはありませんよ。
 そんなに悪い子じゃないもん!」
 「そうさ。
 悪の片棒なんか担がんさね」
 アレンの言葉にラビも、何度も頷く。
 と、二人の反応にネアは、呆れ顔になった。
 「あのな・・・『ウォーカー』も『ブックマン』も、正義も悪も関係ない『便利屋』だろ。
 じゃなきゃ英国の意向に逆らって、あの美人の殿下の一族を亡命させたりしないだろうに。
 だろ?
 女王陛下の可愛いアレンたん?」
 にんまりと笑うネアから、アレンはぎこちなく目をそらす。
 彼の言う通り、『ウォーカー』も『ブックマン』も国を跨ぐ『便利屋』で、世界中のどの国家にも属さなければ、どの君主にも臣従してはいなかった。
 ただ、英国女王は世界一金払いのいい『上客』であり、彼らの家を法的に保護してくれる権力者であり、更には・・・アレンが大好きなおばあちゃんでもある。
 彼女の意向を最優先にするのは、仕事的にも個人的にもいいことがあるためで、彼女以上の支払いがあった場合は、クラウドの時のようにそちらを優先することもあった。
 「うん、いい仕事するよね、お前らの家は。
 だから今回もいい仕事してくれよ」
 な?と、返事を促すネアに、二人は渋々頷く。
 「よっし決まり!
 じゃあ、早速パリに行こう!」
 「えぇっ?!今から?!」
 既に立ち上がったネアを見上げ、アレンが不満げな声をあげた。
 「今からなんて、パリに着く頃には25日の昼になってるよ!」
 まだイブの昼前だが、ロンドンからドーバーまで行って海を渡り、フランスのカレーに着いた時点で夜は明けているだろう。
 「なんかあるんさ?」
 さすがに察しのいいラビに頷いたネアは、ポケットから懐中時計を取り出して、軽くウィンクした。
 「言ったろ、仕事にはふさわしい仲間を使うって。
 そろそろ迎えが来る頃だ。
 1泊分の準備をしな、坊や達v
 ネアの指示に二人は、素早く立ち上がる。
 依頼を受けると決めたからには、ためらってはいけないのが両家の家訓だ。
 言われた通りに1泊分とすこしの準備をした彼らが再び階下に下りると、開いたドアの向こうに最新式の自動車が待っている。
 「じ・・・自動車だ!」
 「うわぁ!!俺、欲しかったんさー!!」
 目をキラキラと輝かせ、玄関を飛び出した二人にネアが微笑んだ。
 「後部座席へどうぞ、友人達。
 俺は助手席でいいからさ」
 促されて二人は、革張りのシートも輝かしい後部座席に乗り込む。
 「うわぁ!馬車とは全然違う!」
 「まだ動いてねぇのに振動がすごいさ!!」
 きゃあきゃあとはしゃぎ声をあげる二人に続いて乗り込んだネアが、運転手に出発を促した。
 動き出した自動車の振動とエンジン音、速さに少年達がまた感動する。
 しきりに歓声をあげる彼らの興奮も、長く走る間にようやく落ち着いた頃、ネアが後部座席へと身を乗り出した。
 「お前達、名前くらいは聞いたことあるだろうケド、会うのは初めてだろ?
 今、車を運転してくれてんのが、かの有名な悪の帝王、千年伯爵さv
 「ヨロシク、若き当主殿と次代のブックマンv
 ネアの言葉とバックミラー越しの会釈に、後部座席の二人は凍りつく。
 「おぉv
 予想通りの反応してくれるよな、お前達!」
 嬉しげなネアは、伯爵へにんまりと笑った。
 「やっぱ千年公に来てもらってよかったぜv
 「アラv
 お役に立ててなによりv
 イタズラ成功!と、二人は悪童のような顔で笑いあう。
 その様にムッとした少年達は、バックミラー越しに伯爵とネアを睨みつけた。
 「あなたが『伯爵』?!本当に?!本物だって証拠は?!」
 「今まで全然姿を見せんかったくせに、いきなり現れてどういうつもりさ?!」
 驚かされた怒りか、驚いてしまった照れ隠しか、殊更に喚きたてる少年達に伯爵は苦笑する。
 「マァマァ、落ち着いてv
 我輩、本物の千年伯爵ですよv
 証拠と言われても困りますけどネェ・・・」
 何かあったかしら、と、片手でポケットを探った彼が、キャンディーを二つ差し出した。
 「こんなものしかv
 「それがなんの証拠だよ、千年公!」
 彼の冗談に爆笑するネアを、少年達は苛立たしげに睨む。
 「伯爵まで連れ出して、本当はなんのつもり?!」
 「恵まれない子供にプレゼント配るって依頼も、嘘なんだろ?!」
 すっかり猜疑心の塊になってしまった二人に、ネアは手を振った。
 「嘘なんかつくもんか!
 俺は本当に、プレゼント配りの依頼をしたんだっての!」
 「そうそう、1年に1回くらいはイイコトするんですよ、我輩達v
 ねv と、笑いあう二人が更に少年達を苛立たせる。
 「なにがいいことですか!マァムの敵のくせに!」
 「そうさ!
 最上客の敵は俺らの敵さ!」
 きゃんきゃんと喚きたてる少年達に、伯爵はため息をついて肩をすくめた。
 「我々は確かに、英国の法には逆らってますケド、女王陛下の敵じゃありませんよ」
 「いけしゃあしゃあと!」
 「ホントですって」
 声を揃えた二人に、伯爵は苦笑する。
 「まぁまぁ、千年公の日頃の行いはともかく、今回の依頼はパリでプレゼント配りなんだから、お前らのマァムに迷惑はかかんないだろ?」
 「日頃の行いッテ・・・」
 不満げな伯爵の声は無視して、ネアは肩越し、二人へウィンクした。
 「プレゼントは千年公特製のお菓子だぜv
 お前らにもやるからがんばれよv
 報酬も弾む!と、確約するネアに、二人は渋々頷く。
 一度依頼を受けた以上、完璧にこなすこともまた、両家の家訓だった。


 「え?
 アレン君達、出かけちゃったんですか?クリスマスなのに?」
 アレン達が連れ去られた後、リナリーの訪問を受けた執事は、困惑げに頷いた。
 「今日と明日は、リナリー様が兄上に見張られて来て下さらないだろうからと・・・急な仕事の依頼でしたが、リナリー様がいらっしゃらない家にいるのもつまらないと申しまして、外国へ・・・」
 リナリーの気を悪くさせないよう、気を遣う執事に彼女も仕方なく頷く。
 「どこに行っちゃったのかは・・・」
 「仕事でございますので。
 こちらの家業としては、お客様のご依頼内容を漏らすわけには参りません」
 「ですよねー・・・」
 かつて彼女の主君も、彼らの守秘義務によって亡命することが出来たのだから、文句を言える立場ではなかった。
 「仕方ないな・・・じゃあ、帰ったら伝えてください。
 今日は無理だろうけど・・・ジェリーがアレン君達の分もクリスマスのご馳走作ってるから、25日のディナーにでも、間に合うなら来てね、って!」
 「承知しました」
 恭しく一礼した執事に手を振り、雪を踏んで家に帰ったリナリーは、コートを脱ぐとすぐに厨房へと入る。
 「ジェリー!ちょめちゃん!
 アレン君とラビ、お仕事で家にいなかったよ!」
 「アラァ・・・残念ね」
 「せっかくおいらの日本料理、食べさせてやろうと思ったのに」
 途端に手の止まった二人に、リナリーは肩をすくめた。
 「外国に行ったらしいから、今日来るのは無理だろうね。
 だから執事さんに、25日のディナーに間に合うようなら来てね、って伝言したよ」
 「そうねん。
 イブのディナーに来られないのは残念だけど、クリスマスでもいいわねん。
 ちょめちゃん、もう1泊していきなさいよぉんv
 「おいらはいいけど・・・迷惑じゃないっちょか」
 「アラァン!
 迷惑だったら言わないわぁん!」
 「私も!
 ちょめちゃんが泊まってくれると嬉しい!」
 今夜も女子会だと、はしゃぐリナリーにちょめ助は照れくさそうに笑う。
 「じゃ、お言葉に甘えてv
 ・・・でも、今夜も仲間はずれにしたら、探偵がまた拗ねちまうっちょ」
 「いいんだよ!
 女子会なんだから、兄さんは来なくていいの!」
 きっぱりと言ったリナリーに、ジェリーが笑い出した。
 「そんなコト言ったら、コムたんが『ボクもオンナノコになる!』って言い出すわよぉんv
 ・・・ジェリーが言うと、全く冗談に聞こえない。
 「ア・・・アラ・・・?」
 沈黙してしまった少女達に慌てたジェリーが、取り繕うように手を振った。
 「だ・・・だからねん、リナリー!
 コムたんの仲間はずれ、ナシねん?!
 せっかくのイブなんだもの、ちゃんと仲間に入れたげましょ!」
 「う・・・うん、そうだね・・・」
 「そうだっちょ、そうするっちょ」
 引き攣った顔で何度も頷く二人の背後で、厨房のドアが細く開く。
 ジェリーの目配せを受けてそっとドアを閉めたコムイは、女性用化粧品でフルメイクした顔をタオルで拭った。


 馬車より断然早い自動車で駅に乗り入れた一行は、そのまま特別仕立ての汽車に乗り込み、時刻表を無視してドーバーに着くと、また自動車ごと高速艇に乗り込んで海を渡り、一般的な英国人には想像がつかない速さでパリに到着した。
 「まさか・・・今日の夕日をパリで見られるなんて・・・・・・」
 世界標準時を有する英国よりも東に位置するパリは、ロンドンよりも1時間早く夕暮れを迎える。
 それをこうして眺めていることが、なんとも不思議だった。
 思わず感動する少年達の背に、ネアが声をかける。
 「赤毛君は美人殿下のトコに行きたいかもだけど、仕事優先しろよ!
 あぁでも、男爵家は今年、領地に帰り損ねてまだパリにいるから、彼の家になら・・・」
 「オンナノコなら乳飲み子でも許容範囲だけど、男は乳飲み子でも嫌いさ!」
 きっぱりと断言したラビから、アレンが身を離した。
 「・・・クロウリー家に跡継ぎが生まれてよかったね、って喜んであげればいいのに」
 去年の12月に発覚した夫人の妊娠から既に1年。
 この夏に生まれた跡取り息子の写真は、狂喜した男爵の手によって世界中の親戚・友人・知人に配られていた。
 その写真を、アレンとラビも入手している。
 「奥方似の、可愛い子じゃないですか。将来が楽しみだって、今から噂になってるのに」
 「いくら可愛くったって、男は嫌いさ」
 頑ななラビにため息をつき、アレンはネアを見遣った。
 「行く気ないみたい。
 さっさと仕事終わらせましょ」
 「だな」
 苦笑して、ネアは二人を手招く。
 彼が案内したのは古い教会で、今は誰も使っていない場所だった。
 「修復する金が集まらないまま、崩落の危険があるからって放置された教会だよ。
 千年公が・・・いや、建築家のミールがこっそり修繕してくれて、今は俺のアジトの一つになってる」
 「つまり不法占拠デス!」
 「そうそう・・・って、千年公!」
 ネアがすかさず伯爵をはたくが、英国からの客人達はちらりとも笑ってくれない。
 「・・・王室がドイツ系になったら国民までドイツ系になるのかよ」
 ちぇっと、舌打ちしたネアにラビが首を振った。
 「イヤ、単にお前らが嫌いなだけ」
 「楽しいばかりがお仕事じゃないのはわかってますから、早く終わらせよっつってんですよ」
 「楽しくやればいいのに・・・つまんねー奴ら」
 ぶつぶつとぼやきながら、ネアは教会の中に入る。
 中は壊れかけた外見からは想像できないほどきれいに改修され、暖炉などではない最新の暖房器具で部屋の隅々まで温められていた。
 「おまえらも大陸に拠点移せばいいんだよ。
 あんな島国に引っ込んで、『便利屋』もないもんだ」
 驚く少年達の表情から、その心情を正確に読み取ったネアが意地悪く笑う。
 と、ラビがムッとして鼻を鳴らした。
 「あーそうさね。
 いずれアメリカにでも行くかね」
 そう言ってやると、ネアはまたつまらなそうに口を尖らせる。
 「ちょっとは仲良くしてくれたってさぁ・・・」
 こっちこっち、と手招きして、彼はかつて礼拝堂だった部屋へ二人を導いた。
 「わ・・・!」
 積み上げられたプレゼントの数に、今度こそ二人が声をあげる。
 「へへっ!すっごいだろ!
 千年公がせっせと作ってくれたお菓子を、一つ一つ丁寧にラッピングしたんだぜ!
 他にも、千年公手作りのニット帽とか手袋とかマフラーとかv
 それを俺が、一つ一つ丁寧にラッピング・・・」
 自慢げに胸を張るネアを無視して、少年達はプレゼントの山へ駆け寄った。
 「すげーな、家内制手工業!」
 「この蒸気の世の中によくもここまで!」
 「・・・アラ?
 なにか、微妙に馬鹿にされた気が・・・」
 ぴくりとこめかみを引き攣らせた伯爵までも無視して、二人は振り返る。
 「じゃ、とっととやっちまうから配る場所指示して」
 「今日から25日の夜明け前までがんばりますから、通常料金の他に出張費と夜勤手当もお願いしますね」
 そろばんを持って詰め寄って来たアレンに、ネアが顔を引き攣らせた。
 「・・・旅費はタダだったろ」
 「旅費と出張費は違う!」
 声を揃えて詰め寄る二人に渋々頷き、ネアはかつて信者たちが座っていた席から黄色いニット帽を取り上げる。
 「わかったから、これ被ってな」
 「・・・なにこれ?制服?」
 きょろきょろと辺りを見回したアレンは、白く曇って鏡代わりになった窓に駆け寄った。
 ネアに被せられた黄色いニット帽は、淵にサメの歯のようなギザギザのフェルト飾りがついていて、アレンの頭に噛み付いているように見える。
 淵の上には半分になった十字架らしき模様があり、小さな角と、羽根らしき飾りもあった。
 「可愛いけど・・・なんの動物?」
 「俺の・・・ティムキャンピー・・・」
 もったいぶった口調のネアを、アレンが睨みつける。
 「・・・なんか今の言い方、ちょっとイラッとしたんだけど。
 なんなの、ティム・・・なんとかって」
 「俺のオリジナルマスコットv
 可愛いだろ?
 編みぐるみもあるぞ!」
 千年公に作ってもらった!と、彼が差し出した掌には、ころころと丸いボディに羽と角、前面に十字架の模様が入った編みぐるみが乗っていた。
 「気に入ったんならやるよ。
 これ持ってがんばんな!
 そんでJr.にはー・・・!」
 と、クリーム色のウサギニット帽を渡す。
 「これで完璧だ!」
 「なにがさ!!」
 ウサギのニット帽を被ったラビを見て、満足そうなネアは自らも赤いニット帽を被った。
 「外は寒いから、あったかいカッコしていこうぜ!
 千年公は御者なv
 自動車だとエンジン音が目立っちまうから、改造した荷馬車を使うけど、なるべく静かに、そして広範囲に配るぜ!
 じゃあ、日が暮れる前に夕飯と作戦会議だ!」
 夕飯、の一言に、アレンの目が輝く。
 「我輩のごはん、おいしいですよーv
 にこりと笑った伯爵からは気まずげに目をそらしながらも、アレンはそわそわとネアの後について行った。



 To be continued.




 











2014年アレン君お誕生日SS第2弾です♪
怪盗がベジタリアンってのは、原作のルパンの設定ですよ。
でも、『友達と食事する時は肉も食べるよ。変な奴って思われたくないからね』だそうなので、ゆるーいベジタリアンだったみたいです。
しかも、『ベジタリアン用のメニュー』と言いながら卵は入ってる辺り、当時のベジタリアンってどんな奴らなんだろうと思った・・・。
まぁ、それはどうでもいいですね。
メインは伯爵様vですからね!(きっぱり)













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