† Gift V †
―――― クリスマス・イブの夜も更けて。 すっかり暗くなった外に出ると、電灯に照らされた吐息が白く浮き上がった。 「夜なのにこんなに明るいなんて・・・」 電灯のせいもあるだろうが、スモッグに覆われていないというだけでこんなにも空が明るいのかと、アレンは感動する。 「星が見えるなんて・・・なんかすごい」 「ロンドンが異常なんだと思いますけどネ クスクスと笑いながら、伯爵はたくさんの荷物が積めるように改造された荷馬車の御者台に乗り込んだ。 「さむっ! ネ・・・ネェ、ネア? 我輩、御者台は寒いので、中にいていいカシラ?」 吹き寄せた雪まじりの風に悲鳴をあげた伯爵が、震えながら御者台を下りる。 「プレゼント配り手伝いますカラ、ココは他の子に任せましょ さっさと馬車の中に乗り込み、手を叩いた彼の意向に従って、教会の中から駆け出て来た男が御者台に乗った。 「御者台に乗った人・・・」 今までどこにいたんだろうと、不思議そうなアレンを荷台の前方に設えた座席に押し込み、ネアも続く。 「Jr.も早く!行くぜ!」 「あ・・・あぁ・・・」 ラビも気になったのか、教会の中を覗いていたが、ネアに呼ばれて馬車に乗った。 「なぁ、他に誰か・・・」 「あ・・・あぁ、アジトだからね! 手下くらい、いつでも呼べる場所にいるよ!」 不自然にラビの言葉を遮りながらネアが伯爵を睨むと、彼は気まずげに肩をすくめる。 「マァマァそんなコトより 話題を変える必要性に駆られて、伯爵が小首を傾げた。 「我輩のお料理はいかがだったカシラ 「お・・・おいしかったです・・・」 口を濁しながらも言ったアレンに、伯爵は大仰なほど喜ぶ。 「マァ嬉しい おなかいっぱいになった子供が、ほっぺをつやつやさせているのを見るのがとても好きなんですよ、我輩 ダカラ 乗車席の後ろにある荷台に積み上げられたプレゼントの山を、窓越しに指した彼はうれしげに笑った。 「いつもはお菓子なんて食べられない子供達を、つやつやさせてあげましょ ネ?と、頬をつつかれたアレンが、こくりと頷く。 「じゃあ、行きましょー 伯爵が屋根をノックすると、馬車は自動車とは段違いにゆっくりと動き出した。 一方、ロンドンでは、少年探偵達が怪盗の手伝いをしているなどとは思いもしない人々が、和やかにイブの食事を楽しんでいた。 「こんな日にまでお仕事なんて、アレン君達も可哀想に・・・。 ジェリーさんのお料理、食べたかったでしょうにね」 ワイングラスを片手に、ミランダが小首を傾げる。 「そぉねぇ・・・。 でも明日戻って来るんなら、ちゃんとお料理も用意できるから大丈夫よん もし明日帰って来られなくったって、アレンちゃんのためならアタシ、いつだってご馳走作っちゃうわぁん お気に入りの少年への愛情を惜しまないジェリーに、リナリーが頬を膨らませた。 「なんだよ、ジェリーったらいつもアレン君独り占めにして!ナンダヨ!」 「アラァ アンタやラビのためにだって、ちゃぁんと作ってあげるわよん? アレンちゃんは一番のお気に入りだけど、アンタ達にだってアタシ、わけ隔てなく愛情注ぐわん むくれてしまったリナリーを抱き寄せようとしたジェリーを、コムイが横から押しのける。 「ボクは! ボクはリナリーだけに愛情注ぐよ! だから、あんな子豚はジェリぽんにお料理してもらって忘れてよ、リナリー!」 「お・・・お料理しちゃダメだよ!」 本気にして焦るリナリーに、リーバーも同意した。 「中国人がなんでも食べるってのは聞いてますけど、アレンは煮ても焼いても食えないと思いますよ」 「リーバー先生、そういうことじゃなくてね・・・」 「意地悪ばっかり言うんですから!」 リナリーの呆れ声を遮ったミランダに、皆の視線が集まる。 「え・・・どうしたっちょか、ミランダが声を荒げるなんて、珍しい・・・」 驚いて固まってしまったリナリーの代わりにちょめ助が問うと、ミランダはワインで染まった頬を膨らませた。 「だってリーバーさん、私がサチコちゃんのお店で買ったお人形が怖いって、勝手にラッピングして、アレン君の家に持ってっちゃったんですよ! 誕生日プレゼントだなんて言って・・・私が気に入って部屋に飾ってたのに!」 憤然と詰め寄ってくるミランダから、リーバーは身を仰け反らせて逃げる。 「だってあれ、めちゃくちゃこえぇぞ?! 無表情の下膨れ顔だけならまだしも、お前が買った時よりも髪伸びてたんだぞ?! 絶対呪われてるって言うのにお前が店に返さないから! 苦肉の策でアレンとこにやったんだ!」 アレンの家なら、多少不気味な物が増えたって問題ないはずだと言い張るリーバーに、ミランダが更に詰め寄った。 「だからって! 私に黙ってあげちゃうなんて! アレン君が帰ってきたら、事情を話して返してもらいますからね! アレン君には別のプレゼントを用意してますもの!」 「やめてくれ! あんなの、二度と俺の部屋に・・・」 「私の部屋でもあります!!」 激しく言い合う二人の間に、ちょめ助が割って入る。 「市松人形のことなら、ちょっと話をさせて欲しいっちょ!」 和服の長い袖で二人の間に仕切りを作ったちょめ助が、リーバーに笑いかけた。 「ちゃんと取説にも書いてたんケド、あの人形は人毛を使ってっから、ある程度は髪が伸びるんだっちょよ。 それは呪いじゃなくて、普通のことなんだっちょ」 「そ・・・そうなのか? だが、ビスクドールではそんなこと・・・」 怯んだリーバーに、袖を下ろしたちょめ助は首を振る。 「西洋人と東洋人の髪質は違うし、人形のヘアスタイルだって違うっちょ。 西洋人形は髪をカールさせてんのが多いから、たとえ伸びたってわかりづらいっちょね。 でも日本人形はストレートヘアだから、梳ってりゃ縮れが伸びて髪が伸びたのがわかる。 それに、あれは船便で運んでる間は乾燥剤でくるんでっから。 湿気の多いこの国に長いこと置いてるうちに、髪が湿気を吸って伸びちまうんさ。 それはすごく普通のことだから怖がる必要はない、ってことを書いた紙を、箱に同梱してたんけどね。 読まなかったっちょか」 「んなもんなかったぞ!」 顔を真っ赤にしたリーバーから、ミランダが気まずげに目をそらした。 「・・・箱は、捨ててしまいましたね。 多分・・・その時に一緒に・・・」 「俺が毎晩どんだけ怯えたか!!!!」 「だ・・・だからって、私のお人形を勝手にアレン君にあげちゃうなんて!」 「マァマァマァ!」 また繰り返しそうな夫婦喧嘩を、ジェリーとコムイが止めに入る。 「ミランダ、いくら酒豪だからって、お酒を飲んで不満を言うのは良くないわん! 明日の朝、絶対後悔するわよん?」 「リーバー君もさ、いくら東洋の人形が見慣れなくて怖いからって、奥さんの物を勝手に人にあげるのはまずいよー! 今回はアレン君に言って返してもらって、家では君の目につきにくい所に飾ってもらいなさいよ。 ミランダさんも、意外と怖がりな旦那さんに気を遣ってあげて?ネ?」 「そ・・・そうですね・・・」 テーブルにワイングラスを置いて、ミランダは吐息した。 「あなたの目のつかない所・・・私の衣裳部屋にでも置いておきます」 そこなら間違って入ることもないだろうと言えば、リーバーも深く頷く。 「勝手にやっちまって、悪かった・・・」 彼の気まずげな声に、コムイとジェリーが目を見開いた。 「リーバー君てば絶対に謝らない子だったのに、奥さんには謝るんだね!」 「この子ったらようやく大人になって・・・!」 驚くコムイと感涙するジェリーに挟まれて、リーバーが真っ赤になる。 「確かに俺は一番年下ですけど!そんなガキ扱いは・・・!」 「リーバー先生って、意外と可愛いところあるんだねー」 「だっちょねー」 少女達にまでからかわれたリーバーは、耳まで赤くして声を失った。 冷たい隙間風のせいで、外とさして変わらない寒さの室内に息を白くしながら、アレンはそっと、ベッドの上にプレゼントの箱を置いた。 はじめのうちは、足音で目を覚まされるのではないかと緊張し、そろそろとすり足で進んでいたが、寒々しい室内で眠る子供達は頭の先まで毛布を被り、ベッドの上にうずくまっている。 そんな状態では多少の物音がしたところで聞こえないだろうし、そもそも、薄い窓は風の音や表を通る酔っ払いの声を防ぎきれず、足音がしたくらいでは誰も気にも留めないに違いなかった。 そんな気の毒な環境に眉をひそめながらも、仕事をこなした彼は馬車へ戻る。 「気付かれずにお仕事できましタ?」 鈍重そうな見かけとは逆に、軽やかに動く伯爵は既に戻っていて、アレンににこりと笑いかけた。 「戸締りも・・・ろくにしていないんですね、この辺りは」 「していないと言うより、出来ないんですヨ。 鍵だってタダじゃありませんものネ 肩をすくめた伯爵に、アレンは頷く。 と、 「寒かったさ!」 「あれ、早かったんだな!ちゃんと全部配ったのか?」 ラビとネアも戻って来て、馬車に乗り込んだ。 「く・・・配りましたよ!ちゃんとお仕事できます!」 「我輩も ネアが遅かったんですヨ むきになって反駁したアレンと、クスクスと笑う伯爵に頷いて、ネアは馬車の屋根をノックする。 次の『仕事場』へと移動を始めた馬車の中で、ラビが背後に続く大きな荷台に積まれたプレゼントの山を指した。 「なぁあれ、お菓子とニットにしちゃ重かったんケド、他に何が入ってんさ?」 危険物じゃあるまいな、と、訝しげな彼に、伯爵がまた笑い出す。 「子供に危険物なんて渡しませんヨ アレにはね、書き方と計算の本が入ってるんです 「なんで・・・」 クリスマス・プレゼントに欲しいものだろうかと、意外そうな顔をするアレンに、伯爵はにこりと笑った。 「我輩もネアも犯罪者ですからネ、今後の我々の仕事の発展のために、金持ちを増やしておきたいのですヨ 「本をプレゼントすると、お金持ちが増えるんですか?」 不思議そうなアレンの傍らで、ラビが苦笑する。 「随分と気の長い話さね」 「そうでもないさ。 待ってもせいぜい、20年くらいだろ」 だったら怪盗もまだ活躍中だと、ネアが笑った。 「つまりネ?」 一人、置いてけぼりのアレンの前で伯爵が人差し指を立てる。 「今の世界は、ほんの一部の金持ちと大勢の貧乏人で成り立っているのですヨ。 貧乏人がなぜ貧乏かと言えば、読み書きできず、計算もできないと、お金になる職業に就けないからなんです」 「あ・・・」 ようやく気付いたアレンに、伯爵は頷いた。 「読み書き計算が出来るようになれば、自分で商売をすることだって出来るでしょ。 もっとがんばって外国語を覚えれば、陸続きの欧州ですもの、国を渡って貿易するコトだって出来る 今は隙間風の入る寒い部屋で凍えていても、儲ければ立派な家を持つことだって出来る そうやってあの子達がどんどんお金持ちになってくれれば、我輩達犯罪者も、ターゲットの範囲が広がるというものですよ 今は、各国の貴族や大金持ちからしか盗めませんケド、お金持ちが増えれば投機詐欺だって・・・ウフフ 「・・・目的が崇高なんだか下劣なんだか」 呆れるラビに、ネアが笑う。 「まぁ、怪盗が狙うのはそんな大勢の小金持ちじゃなくて、あくどいことして儲けた大金持ちだけどな! そんな奴らじゃないと、俺が欲しくなるような宝石とか持ってないし」 宝石大好き 「なんだよー。お前だって好きだろ、宝石。 インドでたんまり儲けたんだろ?」 口を尖らせるネアに、アレンとラビが首を振る。 「僕じゃないですよ!もらったのは父さん!」 「俺も、もらったのはジジィで、俺は連れてってもらえんかったさ」 「そっか、未熟者コンビだったな」 「なにおーぅ?!」 声を揃えた二人に、伯爵がクスクスと笑い出した。 「仲のイイコト そうやって一緒にお仕事がんばってくださいな 「はい」 「わかってるさ」 頷いた二人は、当初の屈託が取れていることに気付いただろうか。 ほだされているとは思いもせず、伯爵に従う二人の姿に、ネアはこっそり肩をすくめた。 ペール・ノエル・・・いや、サンタクロースに扮した4人はその夜、パリ中の孤児院を回り、更に範囲を広げて郊外にまでプレゼントを配って回った。 馬車の荷台に大量に積まれたプレゼントが全てなくなった頃、長い冬の夜が明ける。 「いやー間に合った間に合った!」 子供が目を覚ます前に配り終えたと、ネアは朝日へ向かって満足げに身体を伸ばした。 「手伝ってくれてありがとうな! がんばってくれたから、礼ははずむぜ♪」 早速小切手を切ろうとしたネアを、アレンが止める。 「今回はいいよ。 僕も勉強になったし」 「イケマセン」 横から思わぬ厳しい声がして、アレンだけでなくラビも、伯爵を見遣った。 と、彼は今まで絶やさなかった微笑を消して首を振る。 「アナタ達、家業を継ぐのでしょう? ならば、仕事には対価を求めなくてはいけません。 アナタ達は今回、我々が求める仕事を完遂したのに、自分の感情で対価を受け取らないのは家業への裏切りですよ。 それは当主ではなく、甘えんぼのお坊ちゃんがすることですね」 言われてアレンは、執事から『若輩者』と言われたことを思い出した。 あの時はいつもの冗談口だと思っていたが、今、伯爵に言われたこととあいまって、鋭く胸に刺さる。 「本当に・・・若輩者でした、僕」 肩を落としたアレンに苦笑して、ラビがネアへ手を差し出した。 「俺は受け取らないなんて言ってないさ。 ちゃんと仕事したのに報酬0なんてことになったら、ジジィからどやされっからね!」 「だろうとも」 ネアがサラサラとペンを走らせ、ちぎり取った小切手を受け取ったラビは、その値段に頷く。 「出張費と夜間作業費を考えても、十分な報酬さ。 またのご利用をお待ちしているさね」 「僕も・・・またよろしく・・・」 初めて受け取った報酬に頬を染めて、アレンは商売相手達と固く握手した。 「んじゃ、今日の昼には家に着くように送らせるよ」 乗って、と、ネアが指した先には自動車がエンジン音を響かせて待っている。 「Au revoir(オールボワール)!」 車に乗り込んだ二人を見送る犯罪者達が、にこやかに言った。 「・・・アデューじゃないんさね」 苦笑して手を振り返したラビの隣で同じく手を振ったアレンは、走り出した車内で小首を傾げる。 「どう違うんだっけ?」 「また会おう、と、永遠にサヨナラの違いさ」 警察には『Adieu』と言うだろう二人が、自分達には『また会おう』と言ったことに気付いて、アレンも苦笑した。 「面倒なことには呼んで欲しくないなぁ・・・」 「それは大丈夫」 妙に自信を持って、ラビが断言する。 「仕事を選ぶ権利くらい、こっちにもあるんだからさ」 「それもそっか」 リナリーに嫌われるようなことはすまいと心に誓って、アレンは深く頷いた。 ―――― 一方、少年達を見送った犯罪者達の元へ、ゆっくりと歩み寄って来る者がいた。 「よぉ、じいさん。 朝早くからご苦労だね」 にこやかに振り向いた怪盗に、老人は無表情のまま頷く。 「ごきげんよう、伯爵」 「お久しぶり、ブックマン 会釈した老人に、伯爵も帽子を上げて会釈を返した。 「問題なく済んだようじゃの」 「まぁね」 小柄な老人を見下ろして、ネアが微笑む。 「寒がりの千年公が教会から人を呼んだ時は、こっそり見張らせてることがあいつらにばれたかと思って焦ったけどさ」 じろりと睨まれた伯爵は、気まずげに首をすくめた。 「・・・気付かなかったんですカラ、いいでしょ」 言い訳のように呟く彼に鼻を鳴らして、ネアは再びブックマンを見下ろす。 「孫にまで抜き打ちテストなんて、厳しいな、じいさんは」 「探偵なんぞに私の居場所を察せられた未熟者に罰則だ」 ブックマンはきつく眉根を寄せ、鼻を鳴らした。 「我らもウォーカーも、白も黒もない、グレーの位置にいるべき一族だ」 呟くように言って、彼はネアと伯爵を見比べる。 「我らは恣意的に事の善悪を決めるべきではない。 そんなこととは関係のない場所にいるべきなのに、あやつらは探偵に傾倒しすぎた。 このままでは探偵を善とし、おぬしらを悪と決めてかかってしまう。 他者がどう思おうと、我らはそれを決めてはならぬのだ」 忌々しげに言ったブックマンに、伯爵が頷く。 「両家にはそうあっていただかなくては 善と悪など、時代によってコロコロと変わる価値観でしかないものに、アナタ方が揺らいでもらっては困るのですよ 「もちろんだ。 次代にも、その意識は継がせるつもりでおる」 深く頷いたブックマンは、彼らの前から一歩下がった。 「ゆえに、今回はおぬしらに協力をあおぎ、あえて仕事を依頼していただいた。 せっかくのクリスマスに、つまらんことをさせてすまなんだな」 両手を組み合わせ、東洋式の礼をするブックマンに、ネアは首を振る。 「楽しかったよ。 またご協力願いたいね」 「そうか」 顔をあげたブックマンは、懐から袱紗を取り出した。 「そら、報酬だ。 おぬしらがあやつらに払った以上の価値があろう」 「メルシ♪」 嬉しげに受け取ったネアは、袱紗を払って中から鶏卵ほどもある宝石をつまみ出し、朝日にかざす。 光を受けてキラキラと輝く宝石に目を細め、彼は満足げに頷いた。 「待って、運転手さん!マッテ!!」 自動車の中で突然ラビが大声を上げ、うとうとしていたアレンは迷惑そうに彼を睨んだ。 「なに大声出してんの、びっくりした・・・」 憮然と言うが、ラビはアレンを無視して運転席へと身を乗り出す。 「悪いんケド、寄って欲しいところがあるんさ!」 「・・・殿下のお邸? ダメだよ、まだ夜が明けたばっかだよ? きっとお休み中だよ」 「そ・・・そっか・・・。 じゃあさ!!」 再びの大声に、アレンはイライラとラビの脇腹をつついた。 「なんだよ!」 「先にちょめの店に行って、クリスマス・プレゼント仕入れるさ! そんでユウちゃんに渡しとくさね! あいつなら夜明け前には起きてるだろうし、殿下には直接会えんでも、せめてプレゼントだけは・・・!」 「あぁ・・・あの人、年寄りみたいに早起きですもんね。 でも、ちょめ助さんはたぶんまだ寝てるよ」 ちょめ助がロンドンにいるとは知らないアレンがあくびまじりに言うが、ラビは『大丈夫さ!』とこぶしを握る。 「店にちょっと忍び込んで、プレゼント用のお茶買うだけだもんさ! 置手紙と一緒に代金を多めに置いといて、後で電話すればいいさね!」 半日とは言え、怪盗と共に仕事をしたラビは、既に侵入方法や鍵の開け方を会得していた。 いくつもの孤児院を回って何種類もの鍵を開けているうちに、ちょめ助の店が使っている物と同じ種類の鍵も開けていると、自信満々に言う。 「もう怪盗に毒されちゃって・・・」 呆れ顔で呟いたアレンは、止めても無駄だとため息をついた。 「後でちょめ助さんにもプレゼント贈っときなよ。 じゃないと、すっごく怒られるよ、きっと」 「おうよ! ってことで運転手さん!ボアシー・ダングラー通りまでやっとくれ!」 はしゃいだ声の指示に従って、自動車はボアシー・ダングラー通りの日本茶館へと寄る。 早朝の通りにまだ人気はなく、ラビは見咎められる心配もなしに軽々と店の鍵を開けた。 「えーっと・・・玉露と宇治の抹茶と干菓子のセットがあったよな。 一番高いやつ・・・あぁ、これこれ!」 怪盗から報酬をはずんでもらったおかげで随分気前のいいラビが、陶器の瓶を並べて入れた箱を取り上げる。 「この陶器の瓶も、こっちじゃ人気の伊万里なんだよな これにするさ いい香りのする桐箱の蓋を閉めたラビは、他にもいくつか茶のセットを選ぶと、カウンターの気付きやすい場所に置手紙を置き、その上に代金を乗せ、更に錘を乗せて固定した。 「よっし! じゃあ運転手さん、次はアンリ・マルタン通りまで!」 意気揚々と自動車に乗り込んだラビが、座席に埋もれて寝息を立てるアレンをつつく。 「ホレ! お前もこれ、持って行きな!」 「むにゃ・・・?」 押し付けられた箱に突っ伏しそうになる頭を懸命に持ち上げて、アレンは首を傾げた。 「えぇと・・・上客の殿下に僕からもプレゼント、ってこと?」 「そ 俺は高級茶葉セットだから、お前は茶器セットな。 一緒に渡せばすぐにお茶が楽しめるってことで、気が利いてるだろ?」 「あーそーだねー・・・」 そういう気は回るよね、と、アレンは目を擦りながら寝言のように呟く。 「んでこっちが、ユウちゃんへの賄賂・・・じゃない、心づけ 殿下へのプレゼントほど高級茶葉じゃないけど、ちょめがお勧めしてた煎茶のセットさ 「ホント・・・よく気が回るよね」 大あくびしてなんとか目を開けたアレンは、馬車なんかより随分早く過ぎる外の風景を眺めた。 いつの間にか見覚えのある風景に至り、何度もくぐった門の前に自動車が止まる。 「ごめんくださいさー 閉ざされた門越しに、ラビが庭掃除をするメイドに声をかけると、彼に対して良い印象を持っていない彼女は眉根を寄せて邸内に入った。 「よし! これでユウちゃんが来てくれるさ!」 「・・・見た途端に護衛官呼ばれるって、どんだけ不審者なんだよ」 呆れ顔のアレンが呟く間に、恐ろしい顔の護衛官が目の前に迫る。 「何しに来やがった、不審者が!」 「ユウちゃん、酷いさー!」 「あぁ、やっぱり不審者なんだ」 納得したアレンが、格子を掴んで『開けてくれー』と喚くラビを押しのけた。 「おはようございます、神田。 仕事の用でパリに来たので、殿下にご挨拶もなく去るのもどうかと思いまして」 「お前らに限っちゃ挨拶の必要なんざないんだがな!」 仕事が増える、と、忌々しげな神田に、睡眠不足のアレンは反駁する気も起きない。 「うん、ラビが迷惑かけないうちに帰りますよ」 と、閉ざされた門の隙間から、アレンは茶器の箱を差し出した。 「これ、お得意先の殿下にクリスマス・プレゼントです。 僕からは茶器で、ラビからは高級茶葉セット。 あぁ、神田にも、ちょめ助さんお勧めの煎茶セットだって。 今後とも、ウォーカーとブックマンの便利屋をよろしく」 神田の手にプレゼントを押し付けたアレンは、ぺこりと一礼すると、ラビの腕を引く。 「ホラ、用は済んだでしょ。 ロンドンに帰りますよ」 「嫌さー!! 殿下ー!殿下、どうかひと目ー!!」 「うるっさい!! 僕は早く帰ってゆっくり寝たいの!!」 二人の騒ぎに、珍しく呆気に取られていた神田が我に返った。 「おい、モヤシ」 「誰がモヤシだってんだ、このパッツンが!」 寝ぼけていてもその言葉には鋭く反応するアレンの前で、門が開く。 「殿下はまだお休みだから、謁見させるわけにはいかねぇ。 だがわざわざ来た奴らをただで返したんじゃ、後でお叱りを受ける。 ちょっと待ってろ」 言うや踵を返した神田の背を、アレンは門前でぼんやりと見送った。 邸内に侵入しようとするラビを何度も引き止めているうち、神田が大きなバスケットを持って戻ってくる。 「ホラよ。 今からロンドンに帰るんなら、朝飯持ってけ。 まだカフェは開いてねぇだろ」 「神田・・・!」 なんて気が利くんだろうと、感動するアレンの手に、更に箱が押し付けられた。 「それとこれは、リナに渡してくれ。 べ・・・別に、クリスマス・プレゼントってわけじゃないんだが・・・送るのを忘れてたから、ついでに届けてやってくれ」 気恥ずかしそうに目を逸らす彼に、アレンは顔を引き攣らせる。 「あー・・・そう。 リナリーとはクリスマスに会う予定ないけど、それでもいいんなら」 「だからクリスマス・プレゼントじゃないっつってんだろ!」 照れ隠しか、殊更に大声で言った彼に舌を出し、アレンはラビの腕を乱暴に引いた。 「渡しときますよ。朝ごはんありがと」 じゃあね、と、背を向けたアレンに神田も頷く。 「嫌さー!! やっぱり殿下に会ってから・・・がふぅっ!!」 暴れるラビの腹に膝を打ち込んで、アレンは動けなくなった彼を座席へ放り込んだ。 「アデュー」 にやりと笑って門を閉めた神田に、その意味を知ったばかりのアレンは苦笑する。 「永遠にサヨナラ、だってさ、ラビ」 座席に乗り込んだアレンは、運転手にカレーへ行くよう、指示した。 来た時と同じく、多くの人間が思いもつかない速さでロンドンに戻った二人は、まずはアレンの邸でぐったりと横になった。 自動車や船、汽車に乗っている間に寝てはいたものの、揺れない場所での休息は、今の彼らにとって不可欠だった。 「うまく行ったようですね」 若輩者の若主人が、初仕事を無事に終えたと見て、執事が穏やかに微笑む。 「さぁ坊ちゃま方、ソファの上なんかに転がってないで、ちゃんとベッドで寝ましょうか」 目が開かない二人に肩を貸し、それぞれの寝室まで歩かせると服を着替えさせてベッドの上に転がした。 「3時には起こしますから、ベーカー街へ行くんですよ。 リナリー様からお誘いを受けてますからね」 「りにゃ?」 その名に一瞬目を開けたアレンが、またとろとろと目を閉じる。 「あぁ・・・ダメですね、これは」 起きそうにない、と苦笑した執事が軽く手を打った。 そっと部屋を出た彼は、早足に階段を下りる。 「初仕事を成功させた子には、ご褒美をあげないと!」 メイド達に素早く指示を出した後、重々しく咳払いをした彼は、もったいぶって電話の受話器を取った。 アレンが目を覚ますと、部屋は既に、夜に覆われていた。 「・・・家に着いたの、何時だっけ」 よく覚えてはいないが、まだ日は高かったように思う。 起き上がって時計を見ると、もう6時を過ぎていた。 「・・・・・・あ!クリスマスディナー!!」 通常のディナーとは違い、昼過ぎから始まる特別なディナーを逃してしまったと、アレンは再び枕に突っ伏す。 「・・・ま、いっか。 どうせ今日はラビと二人だし」 きっと彼はまだ起きていないだろうと、アレンはのろのろと起き上がった。 「パーティも、クリスマスより僕のお誕生日だし。 でも、ターキーはちゃんと作ってくれてるよね」 ぶつぶつと言いながら身支度を整えたアレンは、この邸でラビが使っている寝室に入る。 案の定、まだ寝ている彼の上に容赦なく飛び乗った。 「ふぎゃっ!!」 突然の攻撃に晒され、悲鳴をあげたラビの頬をつまんで引き伸ばす。 「起きてー。 もうクリスマスディナーの時間じゃないけど、僕のお誕生日パーティやってー」 「いだい!!いだいさ!! 祝う気持ちがなくなるからやめるさ!!」 「はーい」 ベッドから飛び降りたアレンは、頬をさすりながら起き上がったラビに服を投げてやった。 「ねぇ、今年のターキーもカレー風味だと思う? カレーって嫌いじゃないんだけど、むしろ好きなんだけど、ターキーまでカレー風味にしちゃうのはどうかと思うんだよ、僕。 ジェリーさんのだったら、英国風だったのかなぁ。 でも、ジェリーさんもインド人だもんね。 だったら僕んちと同じで、カレー風味なのかな。 ねえ、どう思う?」 「姐さんだったら、あらかじめ頼んでおけば、お前の好み通りに焼いてくれただろうさ。 でも、あっちはあっちでやってるんから、お前はカレー風味のターキーで我慢するんさね。 タンドリー風味は辛すぎてやだってお前が言うから、工夫してくれたんだしさ」 他愛のないことを話しながら、身支度を終えたラビがドアを開ける。 「一羽分丸ごとタンドリーは無理、って言ったのはラビもじゃん。 カレーは辛さを調節してくれるのに、あれは辛いまんまだったから、おじいちゃんまで咳き込んじゃったんだよね。 おじいちゃん、今年は帰ってこなかったねぇ」 廊下を歩きながらラビを見上げると、彼は肩をすくめた。 「忙しいんだろ。 俺は、ジジィが帰ってきたら長時間の説教確定だからさ、あんま帰って来て欲しくないけど」 「自業自得って言うには可哀想だったよね、ラビ」 あれはコムイが鋭すぎたんだと言いながら肩をすくめたアレンが、クリスマスツリーを飾ったパーティ用の部屋のドアを開ける。 途端、いくつもの破裂音がして、驚くアレンとラビの上に紙吹雪が舞い落ちた。 「・・・びっくりした」 メイド達の仕業かと思った目の前に、クラッカーを掲げたリナリーの笑顔がある。 「お誕生日おめでとう、アレン君 両手を広げ、抱きつこうとしてくれた彼女はコムイが背後から羽交い絞めにした。 「ちょっ・・・なにするんだよ、兄さん!」 「年頃のオンナノコが、男の子に気軽に抱きついちゃいけません!」 至福の瞬間を目の前でさらわれてしまい、がっかりと肩を落とすアレンを、代わりにジェリーが抱きしめてくれる。 「おめでとぉーん 「わぁ!!ジェリーさんだジェリーさんだ!! あの・・・あの、もしかして・・・その・・・!!」 はしゃいだ声を上げたアレンは、彼女の肩越しにテーブルを見つめた。 「アレンちゃんのために用意したのよん 英国風のターキー、気に入ってくれるかしらん 「きゃああああああああああ 歓声をあげてジェリーに抱きつくアレンを、リナリーがむくれて睨む。 「私が抱きつくより喜んでるよね、アレン君!」 「色気より食い気だねぇ」 クスクスと笑うコムイにムッとしたリナリーは、兄の足を思いっきり踏んで、拘束を解いた。 「ふんっ!なんだよ!」 憮然として鼻を鳴らすリナリーの肩を、ちょめ助が笑って叩く。 「まぁまぁ、今日はアレンの誕生日なんだし!許してやるっちょよ!」 「うぎゃ!ちょめ!! もう文句言いに来たんさ?!」 「は?なんのことだっちょ?」 ラビの大声に驚いたちょめ助が、目を丸くした。 「おいら、一昨日から姐さんちに泊まってたんけど・・・本店でなんかやったんだっちょか?」 ラビがパリ支店に忍び込んだなどと、夢にも思わないちょめ助の言葉に、ラビは慌てて首を振る。 「あ・・・後で詳しく話すさ!」 コムイの耳がある場所ではまずいと、声を潜めたラビを訝しく思いつつも、ちょめ助は頷いた。 その間に、ミランダとリーバーがアレンに歩み寄る。 「あ・・・あのね、アレン君・・・」 「執事殿にはもう、事情を話したんだが・・・」 「どうかしたんですか?」 ようやくジェリーから離れたアレンが小首を傾げると、二人は代わる代わる、この邸に持って来た日本人形のことを話した。 「・・・リーバーさん、酷い! 僕だって欲しくないですよ、そんな怖いもの! ぜひ持って帰ってください!!」 詰め寄ってくるアレンから、リーバーは気まずげに目を逸らす。 「すまん・・・やるならラビにすればよかった」 「そうさな・・・ホントに髪が伸びるんなら、ちょっと見たかったさ」 頷いたラビに、ちょめ助が目を輝かせた。 「だったらお勧めのがあるっちょ! 元は大名のお姫様が持ってた由緒正しい人形で、寺で供養されてたってのが!」 「それは・・・大丈夫なんか?」 ただ事ではない雰囲気だと、警戒気味に問うラビに、ちょめ助は大きく頷いた。 「悪さなんかしないっちょ! でも、あの荷が着いた時に夜遅くまで店に残ってた本店の店長が、歩いてるの見たって怯えて、早く処分したいって言ってんだっちょ! お前が引き取ってくれるんならタダでもいいっちょよ! いや、おいらからのクリスマス・プレゼントにするから、ぜひ引きとるっちょ!」 詰め寄ってくるちょめ助から、ラビが仰け反って逃げる。 「それはさすがに俺も・・・!」 「やっぱり呪われてんのもあるんじゃないか!!」 ラビの傍で悲鳴じみた声をあげて、リーバーがミランダに向き直った。 「やっぱりあの人形、ここに置いて行こう! じゃないと家の中を歩き回るぞ!」 「そんなことありませんってば・・・本当にもう!」 「僕はいりませんってばー!」 「ハイハイーィ お料理が冷めちゃうわよーん」 ジェリーが手を叩いて、騒がしい場を治める。 「クリスマスに怪談もないでしょぉん。 今日はクリスマスと、アレンちゃんのお祝い 「はい ジェリーに頭を撫でられて嬉しそうなアレンに、リナリーがまた膨れた。 その様に気付いたアレンが、彼女へ声をかける。 「ナンダヨ!」 「神田から、預かったものがあるんです」 「え?」 思わぬ名を聞いて怒気を封じられたリナリーに、アレンはツリーの下に置いていた箱を取って渡した。 「クリスマス・プレゼントですって」 「アレン君達、パリに行ってたの?」 「え?!あ!! えーっと・・・! ひ・・・秘密です・・・・・・!」 何気ないリナリーの問いに激しく動揺するアレンを、ラビが睨む。 顔を真っ赤にして俯いてしまったアレンの背を、コムイがにこやかに叩いた。 「すごく興味あるなー どうやったら短時間でロンドンとパリを往復できるのか、詳しく教えてよ 「えっと・・・その・・・・・・!」 一番知られてはまずい人間に問い詰められそうになったアレンの腕を取って、ラビが引き寄せる。 「今回は俺らの家業のことだから 探偵にも秘密さ 「オヤ、残念」 とは言いながら、さして残念には見えないコムイが、いち早くテーブルに着いた。 「キミ達はともかく、ブックマンの協力が仰げなくなると僕も困るからさ、追求はしないことにするよ。 さ、せっかくジェリぽんが作ってくれたのに、冷めちゃうよ?」 まるでこの家の主人のように席を勧めるコムイに、皆が苦笑する。 「どうぞ召し上がれ アレンちゃん、ラビも、プレゼントはツリーの下に置いてるからねぇん 「はいっ 「ありがとさー 少しでも早く話を変えたい二人がテーブルに着き、まだ立っていた面々もそれぞれに席に着いた。 と、神田からのプレゼントをひざの上に乗せていたリナリーが、うずうずとして我慢しきれず、ラッピングのリボンを解く。 隣に座ったちょめ助が興味津々と見つめる前で、箱を開けたリナリーの頬が紅潮し、ややして固まり、気まずげにアレンを見遣った。 「ど・・・どうしたんですか・・・?」 どういう変化だろうと、驚くアレンに見えるように、リナリーは箱の中から木製のオルゴールを取り出す。 ちょっとしたアクセサリーも入れられる小物入れの、可愛らしい装飾が施された蓋を開けたリナリーは、その曲を聞いてまた苦笑した。 「曲まで・・・さすが幼馴染だね・・・」 「素敵だと思うけど・・・どうしたの?」 不思議そうに首を傾げるミランダには笑って答えず、席を立ったリナリーは、ツリーの下に置いていたプレゼントの箱を取ってアレンに渡す。 「・・・これ、アレン君のプレゼントに用意したんだけど」 その箱の大きさに思い至ることがあって、アレンは急いでリボンを解いた。 箱の中から現れたのは、リナリーが神田からもらったオルゴールと、全く同じものだ。 「神田ってば、興味ない振りして、ちゃんと私の好みを知ってたんだね・・・。 そして私は、私が好きなものをアレン君にあげちゃったの」 「曲まで同じだ・・・」 蓋を開けたアレンの言葉に、ラビが吹き出した。 「良かったさね、リナとおそろいじゃんか!」 「偶然にしてもすごいな」 「偶然って言えるのかな!」 呆れるリーバーに、コムイがムッとして言い返す。 「なに拗ねてんですか、探偵。 神田はあんたより長い間、リナリーと一緒にいたんですから。 リナリーの好みくらい、知ってて当たり前でしょ」 リーバーが苦笑しつつ言ってやると、コムイはむくれて首を振った。 「わかってるけど、お兄ちゃんとしてはお兄ちゃん役取られたみたいで面白くない!」 「アラマァ、アンタ達兄妹、ふくれっ面になるとそっくりねん!」 ケラケラと笑うジェリーを赤くなった顔で睨んで、リナリーはアレンに向き直る。 「・・・別のにする?」 「ううん!!」 困り顔のリナリーに、アレンは慌てて首を振った。 「リナリーが好きなものを選んでくれたんでしょ? だったら嬉しいです! それに・・・」 恐る恐る、アレンはコムイを見遣る。 「お揃いになったのは不可抗力だから・・・これが元で、コムイさんにいぢめられることはない・・・ですよねー?」 「んまぁ!この子ったら牽制して!」 ムッとしたものの、さすがのコムイも偶然を責めることはできなかった。 「神田君め・・・いつかいぢめてやるっ!」 「返り討ちに遭いますよ」 苦笑したリーバーは、ジェリーが料理を取り分けてくれた皿を受け取り、ミランダに渡す。 「そうだ、こっちも偶然、人形を忘れて帰ったり・・・いや、人形が歩いてどっかに行っちまってたり・・・」 「ちゃんと持って帰りますから! 悪巧みしないでくださいな!」 「わざと置いてかないでくださいよ!」 怯えるアレンに笑ったちょめ助が、キラキラと輝く目でラビを見つめるが、彼は呪い人形を贈られてはたまらないと、そっと視線を外した。 「ハイハーイ 今日はクリスマスだけどん、アレンちゃんのお誕生日をお祝いして、乾杯しましょ その声に、部屋の隅で控えていた執事が歩み寄って、それぞれのグラスにシャンパンとジュースを注ぐ。 「アレンちゃん、おめでとう カンパーイ 大好きなママンの声に皆が唱和してくれて、アレンは嬉しげに頬を染めた。 「ありがとうございます・・・!」 いつもはラビとブックマンしかいないテーブルに、こんなにも大勢の客が来てくれたことが嬉しくて、アレンは背後を通り過ぎようとした執事を見上げる。 「みんなを呼んでくれて、ありがとう」 「いいえ。 初仕事をがんばった坊ちゃまに、ご褒美ですよ」 そう言ってウィンクした彼に、アレンは嬉しげに笑った。 ・・・父を亡くして以来、ずっと塞ぎこんでいた少年に笑顔が戻ったことと、黒く塗り込められていたこの邸に彩りが戻ったことを、長く仕えていた彼も嬉しく思う。 これからもこの邸が明るくあるようにと願いを込めて、執事は若い主人の背を、励ますように叩いてやった。 Fin. |
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2014年アレン君お誕生日SSラストです! いい所は全部伯爵様 しかもラストは名もなき執事に持ってかれました(笑) 誕生日くらい、祝ってあげたいんですけどね!>書いてるのくれはさんですよね! 最近、イギリスの貴族ドラマを見続けているので、なんとなくクロウリー家の執事をイメージしていますよ。>クロちゃんちではなく!(笑) 彼は余計なことなんか言いませんけどね(笑) ともあれ、お楽しみいただければ幸いです(^^) |