† RUMBLE T †





†このお話はヴァンパイア・パラレルです†

  舞台は19世紀ですが、D.Gray−manの原作とは、ほとんど関係ありません。
  頭を空っぽにして読んで下さいねv



 ―――― 月のない夜。
 吹き寄せた風に揺れるカーテンの向こうで、夜の生き物達がそっと息を殺す。
 絶対的な捕食者の出現に怯え、その目に止まらぬよう、震える様が見えるかのようだった。
 葉音さえも鎮まる静寂の中、常に軋みをあげる窓が、気配もなく開く。
 「・・・また来たのか、化け物め」
 ベッドに上体を起こした彼が舌打ちと共に吐き捨てると、今流行りのクリノリンドレスを纏った女が、くすりと笑った。
 「ご挨拶ね。
 このあたしが、わざわざ海を渡って追いかけてきてあげたのよ?
 感激して感謝のキスくらいしなさいよ」
 窓枠に腰掛け、肩にかかる髪を艶っぽく掻きあげる女に彼は鼻を鳴らす。
 「寝言は寝て言え」
 「あらv
 じゃあ一緒に寝る、ダーリン?」
 5歩ほどの距離を一瞬でなかったことにした女は、彼をベッドの上に押し倒した。
 「ねぇ、神田v
 いい加減、あたしのものになりなさいよ。
 ヴァンパイアはいいわよ?
 日光浴ができなくなるだけで、若くキレイなまま、ずーっと生きていられるんだから。
 リナリーだってとっくにヴァンパイアになっちゃったんだし、寂しいこともないわ?
 だから・・・あたしに飼われなさいv
 「断る」
 神田は人外の力で押さえつけてくる女の腕を振り解き、その髪を掴んで頭を背後に仰け反らせる。
 「ちょっ・・・やめなさいよ!!
 女の髪を掴むなんてサイテーよ、あんた!!」
 「お前が俺を襲うからだろうが、エミリア」
 再び上体を起こし、彼は自身の首筋に迫る唇を更に遠くへ引き離した。
 「余計なことしてねぇで、さっさと伝書鳩やれよ」
 「あんた、ギブ・アンド・テイクって知らないの?!
 もらってばっかじゃなくて、あんたも何か寄越しなさいよ!!」
 髪を引きちぎられそうになりながら金切り声をあげるエミリアに、神田はため息をつく。
 「ほらよ」
 冷たい唇に軽くキスをして、ようやく彼はエミリアの髪を放した。
 「そら、話せ」
 「・・・・・・腹の立つ男ね」
 それっぽっちじゃイヤだと文句を言う彼女を、神田は苛立たしげに睨む。
 「情報がねぇなら伝書鳩もお役御免だ。
 役立たずはとっとと帰れ!」
 エミリアをベッドから引き摺り下ろすや神田は、彼女の背を押して窓から突き落とそうとした。
 「わ・・・わかったわよ・・・!話すから待って!!」
 役立たずと言われては、さすがに悔しいエミリアは観念して振り返る。
 「あんただけに話すのもなんだから、パパンやリナリーの兄さんにも聞かせてあげる。
 1階にいるの?」
 「多分な」
 神田が頷くと、エミリアは先に立ってドアを開けた。
 「パパンー♪
 お邪魔してまーすv イングランドのお茶飲ませてーv
 階段を降りて行くと、一階の居間らしき部屋のドアが開く。
 「あれ?!
 エミリア君、いつの間に来てたの?!
 またユー君襲ってたの?!」
 「あー!エミリア君、待ってたのに!
 全然来ないんだもん!神田君に飽きちゃったのかと思った!!」
 中から顔を出したティエドールを押しのけて、コムイが廊下に出て来た。
 「入って入って!今、お茶入れるから!
 それにしてもよくここがわかったねぇ!
 さすが名ハンター!」
 ヴァンパイア・ハンターとは思えないほど、ヴァンパイアであるエミリアに対して友好的なコムイに神田は呆れる。
 「本家にバレたら処罰もんだぞ」
 「バレなきゃいいんだよ、バレなきゃ。
 そんなことよりエミリア君!
 クロウリー家は今、どこにいるの?!リナリーは無事かな?!」
 飛沫を上げながらティーポットからお茶を注いだコムイは、食器を鳴らして彼女の前に置いた。
 「そのことなんだけど・・・ウチ、クロウリー家と絶縁しちゃったのよねぇ」
 「はぁ?!なんで?!」
 せっかくの伝書鳩が!と、色めき立つコムイにエミリアは眉根を寄せる。
 「まぁ・・・簡単に言えば、今まで愛妾扱いだった人が正式に正妻として認められて、嫡子を持つことが許されたの。
 そのせいでウチの弟の養子入りが無効になっちゃって、クロウリー家の相続権が遠くなったのね。
 おかげでパパンが激怒して、長老の代替わり式はすっぽかすわ、親戚中に檄を飛ばしてエリアーデを正妻として認めないってケンカ売りつけるわ、逆にアレイスターからは『だったら絶縁だ』って通告受けるわ、もう大喧嘩。
 普段気弱なくせに、エリアーデのこととなったら頑固だから、アレイスターも」
 苦笑するエミリアに、蒼褪めたコムイが詰め寄った。
 「じゃ・・・じゃあ、リナリーはどうなったの?!
 そんな家にいたら危ないんじゃないかい?!
 エミリア君のパパや親戚が、戦争吹っかけてくるかもしれないんでしょ?!」
 「あぁ、それは大丈夫」
 軽く手を振って、エミリアは杞憂だと断じる。
 「エリアーデを正妻として認める、って言うのは、長老会が出した結論なの。
 ウチも長老会のメンバーである以上、そこで決まったことには逆らえないわ。
 実力行使は逆に、ウチを滅ぼすことになっちゃうのよ。
 だから大げさに騒ぐのはパパに任せて、あたしは別のチャンスを狙ってるの」
 「別のチャンス・・・って?」
 リナリーに身体的な危険は迫っていないらしいと理解したコムイは、再び椅子に腰を下ろした。
 彼が落ち着いたのを見て、エミリアはお茶を飲む。
 「ヴァンパイアは、そもそも繁殖するようには出来てないからね。
 クロウリー家が嫡子を得た時が、あの家の最後だわ」
 にんまりと笑う彼女の表情に、神田でさえも背筋が凍った。
 「どういうことだ・・・?」
 思わず低くなった自身の声を忌々しく思いながら、彼はエミリアを見下ろす。
 「話せよ。
 役立たずの伝書鳩でも、そのくらいは説明しろ」
 「言われなくても話してあげるわよ」
 また役立たずと言われたことに頬を膨らませて、エミリアはお茶を飲み干した。
 「ちょっと長くなるけど、最初から話すわよ。
 眷属になったばかりの、元人間のヴァンパイア同士ならともかく、純血同士では中々子供が生まれないの。
 生まれないどころか、妊娠することも難しいのよ。
 あたし達の身体に流れている『血』はあんた達のと違って、体内に入った『異物』をすぐに殺してしまうの。
 それが不老長寿の原因でもあるんだけど、逆に言えばそのせいで、胎児までもが『異物』って認識されて、殺されてしまうんだわ」
 エミリアの話を聞いたコムイが、何度も頷く。
 「なるほど・・・。
 RHマイナス型の血を持つ女性と同じ論理だね。
 相手がRHプラス型だった場合、第1子は健康に生まれるんだけど、第2子からは流産する可能性がぐんとあがる。
 エリザベス1世の母親、アン・ブーリンがそうだったんじゃないかって言われてるよ」
 「へー・・・。
 でも、エミリア君には弟君もいるよね?
 お母さんが違うのかい?」
 ティエドールの問いに、エミリアは首を振った。
 「ママンは純血には珍しい、多産だったのよ。
 人間じゃ、2人生んだくらいで多産とは言わないだろうけど、ヴァンパイアにとっては驚くべきことよ。
 とは言ってもまぁ・・・絶対に一人しか生まれないってこともないのよね。
 ティモシーがクロウリー家の養子候補になれたのも、本家の5代前がクロウリー家の当主と兄弟で、分家であるウチには3代前にクロウリー家の娘が嫁いできたからなんだし。
 純血だからって一人しか産めないわけじゃないんだけど、多産のヴァンパイアは、お産で命を落とすことが多いわ。
 今のウチがまさにそう言う状況なのよね・・・。
 あたし達のママンは生きてはいるけど正気を失くして、今は人間が近寄れない山奥の城に隔離されてる」
 「正気を失くしたって・・・どうしてだい?」
 ため息をつくエミリアへ、コムイが再びお茶を差し出すと、彼女は遠くを見つめながらカップを手にする。
 「妊娠中のヴァンパイアは、激しく血を求めるの。
 胎児を自分の『血』から守るための本能なのか、『血』が栄養を求めているせいなのかは、サンプルが少なすぎて長老にもわからないんですって。
 でもわかっているのは、動物の血なんかじゃ満足できないってこと。
 絶対に人間の血が必要なの。それも大量に」
 そのため、眷属が用意する量では間に合わず、夜な夜な狩りに出かけては、一晩中血をすすることもあった。
 「あたしの時がそうだったんだって。
 あの時は、領民が一人残らず殺されたそうよ。
 でもちょうど世界中で死に至る病気が流行っていた頃で、村全体が滅ぶことは珍しくなかった。
 だからヴァンパイア・ハンターにも見逃されたらしいわ」
 「それは・・・『本家』も迂闊なことだったね」
 エミリアが生まれる前のことならば、この場で一番年長のティエドールさえも生まれていない。
 だが、そんな大事件があったことすら知らなかったとは、悔しく思わずにはいられなかった。
 「こっちも必死で隠したそうよ。
 眷属を村に行かせて、村人が生きているように偽装したらしいわ。
 だって・・・滅んだ村は、1つや2つじゃなかったから」
 息を呑む彼らから気まずげに目を逸らして、エミリアはカップをソーサーに戻す。
 「でも、あたしが生まれたら途端にけろっとして、普段通りに戻ったんですって。
 人間の血もそんなに欲しがらなくなって、『一生分飲んだからもういらない』なんて言ってたらしいわ・・・。
 ティモシーを妊娠するまでは、本当に無害な人だった」
 しかし、2人目を妊娠した途端、彼女はまた血を求めるようになった。
 以前とは桁違いに激しく・・・。
 「ママンを・・・いえ、ヴァンパイアがあんなに恐ろしいものだとは思わなかった・・・。
 ママンは人間だけじゃ足りなくなって、眷属まで襲い始めたの・・・!
 パパンが、このままではあたしも殺されるって危険を感じて、ママンを隔離したんだけど・・・山奥の領地だったのに、ママンは遠くまで狩りに行っては一晩に一つ、村を滅ぼしてたそうよ。
 この時は村が滅んだ理由も病じゃ済まなくて、パパンが長老会に泣きついて、他の一族も協力してママンを城に閉じ込めてくれたわ。
 十分な量の人血を与えて、ティモシーも無事に生まれて・・・これでようやく元通りだって思ったのに・・・・・・」
 いつも強気なエミリアが、声を詰まらせた。
 ヴァンパイアにとって、人血は強い酒と同じだ。
 それを長期間、大量に飲み続けた母親は、人間で言う中毒症状を起こして完全に正気を失った。
 「もうママンは、城から出してもらえない・・・。
 あんた達の言う『危険なヴァンパイア』だから、外に出ればハンターに狙われる。
 そしてハンターは、そんな危険なヴァンパイアの一族を滅ぼそうとする」
 「あぁ・・・そうだね。
 今からでも狩りに行きたいくらいだよ」
 暗い声を放つティエドールを見つめ、エミリアは頷いた。
 「でしょうね。
 だからあたしは、今後クロウリー家がそうなることを願っているの」
 暗い顔に笑みを浮かべて、彼女は小首を傾げる。
 「あたしを生んですっかり正気に戻ったと思われていたけど、ママンは心身に重大なダメージを負っていたんだわ。
 ティモシーが子供のまま、全然成長しないのもきっと、ママンの心身が不完全な状態で生まれたからよ。
 本当ならラビみたいに、ある程度の年までは普通の人間と同じように成長するものなのにね。
 だけどあの子は何十年も子供のままだわ。
 長い時間がかかるだけで、あたし達は全くの不老ってわけじゃないけど、それがあの子のハンデなんだと思う。
 ・・・そうね。
 純血の家が、原則として長子相続なのはきっと、そのせいなんだわ。
 長子に比べて、二番目に生まれた子はハンデを負っていることが多いの。
 その家特有の『能力』を持って生まれることも少ないわ。
 クロウリー家は『羽根』の遺伝子をそれは大切にしていたけど、遺伝子を受け継ぐ子供以前に、アレイスター自身が無事でいられるかしらね?」
 「どういうことだ・・・?」
 暗い顔で笑うエミリアを、神田が睨んだ。
 「アレイスターの両親が亡くなったのは、妊娠中の奥方が夫を食い殺したからだそうよ。
 千年も前のことだもの・・・妊娠したヴァンパイアの欲求を満たせるほど、人間の数は多くなかった。
 彼女は眷属を食らい、夫までも食らい尽くしたんですって。
 でもそれは一人息子を殺されたご当主の怒りを買って、アレイスターが生まれたその日に、太陽の下に捨てられたって聞いたわ」
 ぞっとして言葉もない男達に、エミリアは笑みを深める。
 「元人間とは言え、あまりにも長い時間を生きたヴァンパイアが、安全に子を産めるものかしら。
 あたしはエリアーデがアレイスターを食い殺して、生んだばかりの柔らかい子供まで食ってくれないかと期待している。
 それ以前に、彼らの領民が村ごと滅ぶようなことがあれば、あんた達が一族ごと滅ぼしてくれるんじゃないかと期待しているの。
 そうすれば、クロウリー家は戦わずして我が家のものよv
 にこりと、いつも通りの笑みを浮かべて彼女はお茶を飲み干した。
 「お茶、ごちそうさまv
 今日はお客様の予定があるから、この辺で失礼するわ。
 ここにもそのうち、誰かが訪ねて来るかもよ?」
 ウィンクされたコムイが、訝しげに瞬く。
 「誰かって?」
 「この時期、イングランドは闇の力が濃いのよ」
 クスクスと笑って、エミリアは席を立った。
 「信心は薄いくせに、妖精や化け物のことは信じているこの国の連中が、ハロウィンの前夜に馬鹿騒ぎをするでしょう?
 おかげでこの国では、10月31日に冥府の門が開くの」
 「だからなんだ?」
 化け物はお前だろうと、神田の遠慮のない言い様にエミリアは頬を膨らませる。
 「ニッブイわねぇ!
 闇の力が濃いってことは、あたし達の力が増すってことよ!
 この時期、人間の言う『湯治』感覚でイングランドに来る一族は多いわ。
 嫡子を望むあの家なら、きっと来るわね!」
 「エ・・・エミリアくん、それってもしかして・・・!」
 椅子を蹴って立ち上がったコムイに、エミリアは意地悪く目を細めた。
 「アレンが意地悪しなければ、リナリーはここに来たがるんじゃないかしら?
 ・・・あぁ、でも!
 その時はあの子達に、さっきあたしが話したことを喋っちゃだめだから!
 あたしは、ぜひともあの家が滅んで欲しいと願ってるんだから、さっき言ったことを喋られちゃ困るわ!
 あの夫婦が先に対策を練ったり、長老に相談したら困るもの!
 絶対に喋らないでね!」
 そう、何度も念を押すエミリアに、ティエドールが苦笑する。
 「エミリア君・・・君って本当にいい娘さんだねぇ。
 ヴァンパイアでさえなければ、ユー君をお婿にもらってもらうのに!」
 「あらv
 ヴァンパイアでもいいでしょ、パパンv
 可愛がってあげるわよv
 「放せ!!」
 一瞬の隙に抱きすくめられた神田が、忌々しげにエミリアの腕を振り解いた。
 「俺はお前に飼われる気なんかねぇ!」
 「まったく・・・強情ねぇ。
 でも、クラウドお姉さまが言っていたわ。
 反抗する動物を屈服させて、愛玩するのがいいんだってv
 クスクスと笑って神田の頬にキスしたエミリアは、ひらりとドレスの裾を翻す。
 「またね、ダーリンv
 「二度とくんな!!」
 忌々しげに吐き捨てた神田をしかし、コムイが押しのけた。
 「また来てね、エミリア君!
 今度はおいしいお茶菓子も用意しておくよ!!」
 先に立って玄関のドアを恭しく開ける彼に、エミリアは優雅に会釈する。
 「じゃあ、また近いうちにv
 「待ってるからねー!」
 闇の中へ溶けるように姿を消した彼女へと、コムイは熱心に手を振り続けた。



 To be continued.




 










2015年ハロウィンSSです!
ネタがなくて困り果てた末のヴァンパイアシリーズですよ(笑)
実は前作を書き終えた直後に嫡子のことは考えてたんですが、真面目にやると絶望的な展開になりそうだったんで、寝かせてました。
ハロウィンなら基本的にギャグなので、深刻にならずに展開できる予定です。
・・・あぁ一人、深刻な危機の人がいますが。>恒例(笑)
生きろよ!(いい笑顔で)
ちなみに、血液型が出てくるのは20世紀になってからなので、いくらコムイさんでもRHのことなんか知らないと思いますが、そこは仮想ってことでスルーよろしく(笑)













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