† The New Year’s Party
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「作戦会議を始めよう」 地上のはるか下にある闇の中、円卓の中心に置かれた小さなカンテラがかろうじて着座する者達の顔を浮かび上がらせる。 机上に両肘をつき、組んだ両手の上から一同を見渡す目は、知らぬ者が見れば驚くほど幼かった。 しかし、その見た目にそぐわぬ老獪な視線に薙がれた者達は、緊張に身を固くする。 「去年は失敗した。 それは紛れもない事実だ。 今年は同じ轍を踏まないよう、作戦を固めていく」 良く通る声が、広く密閉された室内にこだました。 傍らに座る青年の、悔しげに歪んだ顔を見遣り、頷いた少女はすっと背筋を伸ばす。 すると、小柄な身体が妙に存在感を増した。 「今年こそ!春節の迷い客確保!! どんな手を使ってでもいい! あらゆる罠を使って、獲物を確保するぞ!!」 こぶしを振り上げた少女の声に、円卓を囲む面々が鬨の声をあげる。 「来年こそ!このアジア支部に福を呼ぶぞ!!」 若き指導者が、女神に着き従う使者のように傍らに立ち、こぶしをあげると感動のあまり、泣きだす者まで現れた。 そんな中、 「あのぅー・・・フォーさん?」 妙に白けた声で、挙手する者がいる。 「なんだ、蝋花?」 じろりと、強い目で見られた少女は怯えたように首をすくめたが、そのままの姿勢で歓声の中心にいる少女を見た。 「迷い客ゲットに罠を張るって、おおげさじゃないですか? そもそも、迷い客はおびき寄せるものじゃ・・・」 「ばかやろうっ!!」 「はぐっ!!」 余計なことを言う口をふさぐため、繰り出されたこぶしをまともに受けた蝋花が部屋の隅まで吹っ飛ぶ。 「きさまそれでも漢人か!!」 「すっ・・・すみませんっ・・・!」 雷鳴のような怒号を受けて、震え上がった蝋花が悲鳴じみた声を上げた。 「相手は西洋人・・・! こちらの暗黙の了解が通じない相手だぞ?! 去年はそれで失敗したってのに、きさまはまた同じ過ちを繰り返す気か! それで本部科学班に行きたいなんて、片腹痛いわ、このアジア支部の恥さらしが!!」 「フォ・・・フォー!さすがにそれは言いすぎですぞ・・・!」 慌てて間に入った老人が、蝋花の上に屈みこむ。 「大丈夫ですか、蝋花?」 「いえっ・・・いいんです、ウォンさん・・・!」 よろよろと立ちあがった蝋花が、フォーへと強く頷いた。 「その通りでした、フォーさん!! わたしっ・・・がんばります!」 「おう!それでこそアジア支部の一員だ! 気概を持て、気概を!!」 「はいっ!!」 「よし! 資料を配布しろ!」 円卓に戻ったフォーの命に従い、各人に写真つきの個人データが配布される。 「ターゲットはミランダ・ロットーとアレイスター・クロウリー。 みなも知っての通り、エクソシスト達だ。 どちらも世間知らずで迷子癖持ちと言う、いかにも狙い目のカモだ」 本人達が聞けば落ち込むようなことを、フォーは淡々と述べた。 「こいつらを清におびき寄せ、件の店まで誘導し、何としても迷い客に仕立て上げるぞ!」 視線を横へ投げるや、傍らのバクが強く頷く。 「全員、気合を入れろ!! アジア支部の知恵を結集するぞ!!」 支部長の振り上げたこぶしに呼応して、地下に地鳴りのような歓声が響き渡った。 「もしもーし。 やぁ、バクちゃん 執務室で補佐官に睨まれながら、陽気な声をあげるコムイにしかし、回線の向こうから浮かない声が返ってきた。 『そうだとよかったんだが・・・実は、あまり大々的にやるなとお達しが来たのだ』 大げさなほどにしょげ返った声に、コムイが苦笑する。 「そっかー。 うん、そうだよね。今、色々ごちゃついてるしね」 カトリックの祭ならともかく、アジアの正月なんぞにうつつをぬかすなと、口を挟んだ者がいるのだろうと思ったコムイに、回線の向こうでため息が応えた。 『こちらではクリスマスよりも正月が大事だ、などと言えばまた面倒なことになるからな。 実際、そうなのだが、近視眼の聖職者にはわかってもらえんのだ』 そう言ってバクは、またため息をつく。 『だから今回、アジア支部では春節をささやかにしかできないのだ。 本当にささやかでな。 とても人を招くような状況ではないのだ。 とても残念だがささやかなんだ。 ざ・ん・ね・ん・だが! くれぐれも!こっそり来たりとか!ダメだと思うぞ?!』 しつこく念を押すバクの言わんとするところに、さすがに気付いたコムイがにんまりと笑った。 「あぁ、そうか・・・。 それはとても残念だねぇ。 だけど仕事で清に行った子達が、うっかりお邪魔するかも知れないんだけど、それは任務だからしょうがない、って許してもらえるかい?」 『もちろんだ! あ、いや・・・!』 思わず歓声を上げてしまったバクが、気まずげに咳払いする。 『それは仕事だからしょうがない。こっちは通常運営しているのだからな! 仕事はしょうがない。むしろ来るべきだ!』 そうだろう?と、たたみかけられたコムイは、思わず吹き出し、慌てて咳でごまかした。 「何組か行くかもしれないから、サポートよろしくね」 『まかせろ!!』 漢人同士、意思が疎通したことを確認し、機嫌よく電話を切る。 と、早速厳格な補佐官が声をかけてきた。 「室長、アジア支部長となんのお話を?」 よもや悪巧みではあるまいな、と、彼女の目が口ほどにものを言う。 「違うよー。 春節ができないから、今回はご招待できない、って残念なお知らせ」 いけしゃあしゃあと言って、コムイは再び受話器を取った。 「・・・今日はやたらとアジア支部からの要請が多いな」 室長補佐官から回って来た申請書をめくりながら、リーバーは首をかしげた。 「エクソシストを2人? しかも名指しか」 ミランダとクロウリーの名前にまた、首をかしげる。 彼らの他にも、別の任務やアジア支部への用事で清国へ向かわされるエクソシストや団員がずいぶんと多かった。 いくら国土の広い国とはいえ、こういうことも珍しい。 「・・・どういう状況だ?」 『それはだねぇ・・・リーバーくぅん・・・ 呟いたリーバーの背に、コムイの笑みを含んだ声がかかった。 驚いて振り返ると、彼のすぐ後ろにコムイの通信ゴーレムが飛んでいる。 『楽しい楽しい春節のはじまりはじまりーってことさ 今年は大々的にできないから、こそーりやるよ 「・・・あんたらの企みっすか」 アジア支部が関わっている以上、コムイだけの企みではないと、容易に察せられた。 むしろ、アジア支部長主導の企みと考えていいだろう。 「補佐官に怒られても知りませんよ?」 『だから こそーりやるんだってば 誰にもナイショ 疑問を解明しそうな君にだけ教える、と、機先を制して飛び去っていったゴーレムを、リーバーは苦笑して見送った。 「ナイショだって言っても、顔に出そうな二人には秘密、ってことか」 必要以上にいじられなければいいが、と思うと、不安になってくる。 『俺も・・・アジア支部に行って来るかな』 優秀なスタッフの引き抜き工作でもしてこようと、リーバーはいそいそとデスクを立った。 「・・・今回はなんの任務なんでしょうねえ?」 清国内にある、『扉』の出口となった教会の前に佇んで、ミランダは傍らに立つクロウリーを見上げた。 終始無言の彼は、長身もあいまって近づきがたい雰囲気を醸し出している。 「クロウリーさん、どう思いますか?」 「・・・なんの任務でもいい。とっとと終わらせるだけだ」 素っ気ない、というよりもっと、冷たい声にしかし、ミランダは苦笑した。 他の人間であれば、気弱な彼女の事、自分が悪いことをしたのではと気にして口をつぐんでしまうが、事情を知るだけに今は、慰めるように彼の背に手を添える。 「あんまり無理しないでください。 ずっと発動しているのは、寄生型のクロウリーさんにはかなりの負担なんでしょう? 任務が始まる前に疲れてしまいますよ」 「わかっているが・・・」 やや動揺した声に、ミランダは笑みを深くした。 「発動、解いていいですよ。 ここにはまだ、私しかいませんし」 もうしばらく、アジア支部のファインダーも迎えに来る様子がないと、ミランダは懐中時計を見る。 人通りもない道は静かで、晴天にもかかわらず、鳥の声すらしなかった。 「さ、どうぞ」 「う・・・うむ・・・」 ずっと伸ばしていたクロウリーの背筋が緩み、長身が沈む。 鋭かった目つきが垂れた途端、潤んでぽろぽろと涙がこぼれた。 「うぅ・・・! どこに行ってしまったのであるか、アレン・・・!ラビ・・・!」 しゃくりあげながら泣くクロウリーの背を、ミランダが優しく撫でる。 「元気でいるかしら・・・。 ラビ君は・・・ブックマンも一緒なんですから、大丈夫だと思いますけどね・・・」 現在、黒の教団では、監査官殺害事件の犯人としてアレンを追っていた。 しかしそれは、ずっとアレンと共にいた彼らには到底信じられないことで、直接会って話を聞きたいと願っている。 そしてクロウリーはそれ以上に、友として彼らを心配していた。 「連絡だけでも、取れればいいんですけどねぇ・・・」 逃亡時、アレンは無線を持たずに行ってしまったし、もし持っていたとしても、追跡される恐れのあるものは捨ててしまっただろう。 それに、これはコムイがこっそりと教えてくれたことだが、アレンと親しかった団員の無線は傍受されているそうで、彼と接触した瞬間には追手が差し向けられる手筈となっていた。 この会話も、聞きようによっては問題なのかもしれないが、今回の件に関してはさすがのミランダも憤りを覚え、反発したい気持ちになっている。 ために今も、あえてアレンの話題を持ち出した。 「ちゃんとごはん食べているのかしら。 風邪なんか引いてないかしら・・・アレン君の事だから、一人でも大丈夫だとは思うけれど・・・」 「アレンは逃げることなどないのである・・・! 監査官のことも、きっとなにかの間違いであるよ・・・!」 「そう思います、私も」 傍受しているならむしろ聞いて欲しいとばかり、ミランダも強い口調で言う。 「アレン君とハワードさんは仲良しでしたし、あの時はノアも・・・あら?」 何か記憶違いがあった気がして、ミランダは首をかしげた。 「なんだったかしら・・・」 違和感を辿ろうとした時、間近で破裂音が響き、飛び上がる。 「ば・・・爆竹?!」 コムイ達のせいで、なんの音だかはわかっていても、突然だとやはり驚いた。 「あいかわらず、すごい音であるな・・・!」 耳をふさいでちぢこまったクロウリーも、怯えた目を辺りにさまよわせる。 その視線を避けるように、彼らの様子を伺っていたファインダーが、物陰に潜んだ。 「・・・対象確認。 A計画、開始する」 『了解。 A開始後、M計画突入する。M班、準備はいいか?』 『問題なし』 無線を通じてやり取りされる声に緊張が走る。 『GO!』 司令の声とともに、二人が背にした教会から爆音が響いた。 「きゃあ!!」 「んなー?!」 爆竹とは比べ物にならない爆音に驚き、悲鳴を上げた二人にファインダーの団服を着た大柄な男が駆け寄ってくる。 「お待たせしました、アジア支部のファインダーです! 襲撃を受けて・・・こちらにお願いします!!」 くるりと踵を返し、また走り出した彼の後に二人も続いた。 と、彼はどんどん人通りの多い広場の方へと走っていく。 「アクマが人混みに紛れているなら厄介だ・・・。 ミランダ、一般人を守れるであるか?」 「やってみます・・・いえ、やらなきゃ!」 未だ怯えながらも言った彼女に、クロウリーは頷いた。 「確かに今回の任務は、私の領分であるな。 アレンがいない今、人混みでアクマを察知できるのは私しか・・・」 と、辺りの気配を探るが、爆竹の煙に覆われた広場でそれは、思った以上に難しい。 「そんなばかな・・・!」 いくらなんでも、煙幕程度で気配が辿れなくなるはずがないと、クロウリーは困惑げに辺りを見回した。 しかし、いくら集中しても行き交う人々の中にアクマの気配はない。 「どこに・・・はぅっ?!」 いつの間にか、ファインダーやミランダの姿がないことに気づいて、クロウリーの額に汗が浮かんだ。 「こ・・・こんなところで・・・迷子になったであるぅ・・・!」 幾度か訪れたことがあるとはいえ、言葉もわからない異国で一人、迷っては不安しかない。 「どこにいったであるかー!ミランダー!ファインダー!!」 突然泣きわめきだした異国人を、春節に浮かれる人々が訝しげに見つめた。 一方のミランダは、足の速いファインダーの背を追い切れず、人混みに取り残されてしまった。 「ク・・・クロウリーさんともはぐれてしまったわ・・・!」 周りを異国人に囲まれ・・・とはいえ、ここではミランダの方が異国人なのだが、彼らが爆竹を鳴らす度に悲鳴を上げてすくんでしまう。 「こ・・・こんな時は・・・!」 落ち着け、落ち着けと自分に言い聞かせて、懸命にポケットを探った。 「あああああったわ!!通信ゴーレム! か・・・回線を開いて・・・!」 声紋で開くはずのそれがなぜかまったく動かず、ミランダは更に慌てふためく。 「どうして・・・!! お・・・お願いです!動いて・・・!!」 両手の平に乗せた、コウモリに似た何かに一所懸命話しかける彼女を、皆が気味悪そうに避けて行った。 ミランダを中心にぽっかりと空いた中へ、軽やかな足取りで駆け込んでくる者がいる。 「よぉ!迎えに来てやったぞ」 「ふぉ・・・ふぉ・・・ふぉ・・・!!」 目にいっぱい涙をためて震えるミランダを見上げたフォーは、気まずげに苦笑した。 「えーっと・・・通信ゴーレム、使えなくなったのか?」 「そうなんです!! ファインダーの人やクロウリーさんともはぐれちゃって、私、どうしていいかって・・・! 来てくれてありがとおおおおおおおおおおおおおお!!!!」 小さな少女に抱きついて号泣するミランダから、更に人が離れていく。 「ちょっと待ってな」 それを幸いと、フォーはこっそり囁いた。 今日の彼女はアジア支部にいる時と違って、周りの少女達が着ているものと同じ清服を纏っている。 その袖の中からフォーは小さな箱を取り出した。 「このイヤーカフス、バクが作った通信機なんだ。つけてみな」 箱を開けると、かつてアレンがつけていた物と同じ銀色のイヤーカフスが、周りの紅い装飾を受けてほんのり薄紅に染まっている。 「あ・・・ありがとうございます・・・! わ・・・私の通信ゴーレム、教団を出る前に、コムイさんにチェックしてもらったのに・・・!」 なにかしてしまったのかと、気にするミランダにフォーは乾いた笑みを浮かべた。 ―――― そりゃ、確実にコムイの仕業だよ。 そうは思ったが口には出さず、フォーは自分に縋るミランダの肩を慰めるようにたたいてやる。 「でもよかったじゃないか。 教団支給の通信機は傍受されてるっていうし、これならそんなことはないぜ?」 「そ・・そうですね・・・!」 そうとわかると、自分でも驚くほどに開放感があった。 早速耳に通信機をつけて声をかけると、すぐにファインダーから返答がある。 『はぐれてしまってすみません。 誘導しますので、その通りに進んでください』 その言葉にミランダはほっと胸を撫で下ろした。 「ありがとうございました、フォー。 おかげで、ちゃんと任務がこなせそうです」 よかった、と呟くミランダの手を、フォーが取る。 「こんな人混みじゃ、誘導されてもまた迷うかもしれないだろ。 あたしが連れてってやるよ」 「ありがとう!! そうしてもらえると、本当に・・・!」 安心して涙ぐむミランダにフォーは笑い出した。 「あたしにまかせな!」 「うぅ・・・! ここは一体どこであるか・・・! だれかー・・・!」 べそをかきながらさまよっているうちにクロウリーは広場を出て、民家の立ち並ぶ路地へ入ってしまった。 広場へ戻る道を聞こうにも、言葉など通じそうにない地元民ばかりで困惑する。 それでも、なんとか勇気を出して声をかけた。 「あ・・・あの・・・! 広場へ戻る道を知りたいのであるが・・・」 途端、話しかけた若い男の目の色が変わる。 獲物を見つけた狩人のような眼光に思わず歩を引いたクロウリーの手を、彼はがしりと掴んだ。 『迷っているのか!!しかも異国人!!!!』 大声でまくし立てられたが、クロウリーには彼が何を言ったのか理解できない。 いや、わかったとしても、彼がどうして目を輝かせて自分の手を握るのか理解できなかっただろう。 困惑する彼に構わず、男はクロウリーの手を引いた。 「・・・おぉ!案内してくれるのであるか!」 世間知らずで疑う事を知らないクロウリーは、ほっとして彼の後についていく。 と、彼は家の間の細い道を抜け、中央が広場になった円形の建物の中へクロウリーを導いた。 「ここは・・・先ほどの広場ではないと思うが・・・」 紅い飾り物に囲まれて、楽しげな人々がひしめき合っている様子は同じだが、開けていた広場と違い、ここは厚い壁に囲まれている。 よく見れば広場を囲むのは住居で、集合住宅なのだとわかった。 「あ・・・あの・・・! 広場とは言ったであるが、ここではないである! 私が戻りたいのは・・・」 『なに言ってるかわかんないけど、まぁ飲め!食え!』 彼が言った途端、クロウリーを囲む人々が次々に酒と料理を差し出す。 『迷い客だなんてめでたい!』 『しかも異国人だぞ!』 『なんて珍しいんだ、今年は絶対福が来る!!』 皆が皆、目を輝かせて迫って来て、クロウリーもおずおずと酒肴を受けとった。 『よーしどんどん食え!』 『まだ持ってくるから!遠慮するなよ!』 大笑する人々に囲まれて、なにが何だかわからないまま飲み食いしているうちに酔いが回って来る。 「ジェリーの料理とはまた違ってうまいであるな。 欧州にはないスパイスである」 おじいさまなら喜んだろうと、珍しい物が好きだった祖父を思い出した。 『辛いものもいけるくちか!』 『じゃあ、酒もそれに合うやつを出してやろうな!』 クロウリーを取り囲む人々が次第に増えていき、間もなく彼を中心に宴会の輪ができる。 『もっと飲め!もっと食え!』 「うまいであるー!」 任務も忘れてご機嫌のクロウリーを、土楼にあるたった一つの門からそっと窺う者がいた。 「ま・・・マズイっす、支部長・・・じゃない、司令! クロウリーを土楼の住人に奪われました!」 『はぁ?!馬鹿かキサマ!! 盗賊も避けて通る土楼なんぞに連れ込まれたら、明日まで取り返せんだろうが! なにをやっとるんだ!』 「すっ・・・すんません!」 耳をつんざく声に涙目になりながら、ファインダーの団服を着た彼は対処を求めた。 『仕方ないな・・・! あいつの通信ゴーレムはコムイが壊しているはずだから、お前のゴーレムをクロウリーの側に飛ばせ。 俺様がお前と合流するよう指示を出す』 「ハイっす!」 白い団服のポケットから、コウモリの形をした通信ゴーレムを出し、宴会の中心にいるクロウリーへ向けて放つ。 パタパタと飛んでクロウリーの肩に止まったゴーレムは、周りには聞こえない程度の音量で彼に話しかけた。 『クロウリー、僕だ。バクだ。 ファインダーからはぐれたと連絡があったんで、こちらで誘導することにした。 とりあえずその土楼から出ろ。 表でファインダーが待っている』 「えぇー・・・。 せっかくもてなされているのにであるか」 不満げな声に、バクはムッとする。 『お前は任務で来ているのだろうが! 働け!!!!』 耳元で怒鳴られたクロウリーが飛び上がると、周りの住民達が何事かと驚いた。 「う・・・皆、すまないである。 迎えが来たので行くであるよ・・・!」 席を立ったクロウリーが言わんとすることを察して、住民達がわらわらと寄って来る。 『えぇー!もっと食ってけよ!』 『酒もまだ出すからさぁ!』 クロウリーも、言葉はわからないまでも意味を察して、以前ブックマンから教わった東洋のお辞儀をした。 「ご馳走になったである。ありがとうであるよ」 『・・・仕方ないな』 『じゃあこれ、土産に持ってけ』 『これも』 『これもな』 「あ・・・ありがとうである!」 持ちきれないほどの土産物を持たされて、大喝采を受けながら土楼を出てきたクロウリーを、ファインダーが迎える。 「す・・・すごい荷物っすね」 「うむ・・・。 なぜこんなに歓迎されたのであろうか。 以前来た時は、異国人だからと避けられていた気がするのであるが・・・」 この豹変ぶりは何事かと不思議そうなクロウリーに、ファインダーは目深に被ったフードの下で苦笑した。 「今日は特別なんすよ。 お祭りっすから」 「そうなのであるか・・・」 不思議ではあるが、歓迎されることは嬉しいと、クロウリーは素直に喜んでいる。 「・・・先越されちまって、悔しいっすけどね」 ぼそりと呟いたファインダーにクロウリーが首を傾げた。 「先?」 「いえなんでも?!」 問い返されたファインダーが、慌てて首を振る。 「さ・・・さぁ早く行きましょう!!」 早く早くと急かされて、クロウリーはもたもたと彼の後に続いた。 「あ・・・あの、フォー? こっちでいいのかしら・・・。 それにそろそろクロウリーさんと合流しないと私だけでは・・・」 「いいからいいから!」 小柄な少女の見た目に反し、人外の膂力で手を引くフォーに、ミランダはたたらを踏みつつついていく。 「でも・・・」 広場を抜けて、フォーは商店が立ち並ぶ賑やかな通りに入って行った。 「こっちこっち!」 ミランダの手を引いて入ったのは、一目で高級だとわかる衣料品店だ。 「あ・・・あの・・・なんで・・・?」 任務となんの関係があるのだろうと、訝しむミランダにフォーはにんまりと笑う。 「ただでさえ異国人は目立つんだ。 着替えて人混みに紛れこもうぜ」 その方が敵を油断させられる、というフォーにミランダは頷いた。 「じゃあ・・・できるだけ地味な・・・」 「なに言ってんだ!今日は春節だぞ?! 皆晴れ着を着てるのに、地味な格好してたら却って目立っちまう!」 「あ・・・そう・・・なんですね。 じゃあ・・・」 どれがいいのかしらと、目をさ迷わせるミランダの元へ、次々と華やかな衣装が運ばれて来る。 「お話はバク様から伺っておりますわ! メイクも任せて下さいね 奥から出て来た女将の命令で、店の者達が一斉に動き出した。 「え?!え?!あの・・・えぇ?!」 別室に連れ込まれ、手際のいい女達に着替えとメイク、髪まで整えられて、あっという間に別人のようになる。 「さすがだな、女将。 これで外に出ても目立たないぞ!」 フォーの言葉に、心外だと言わんばかりの女達を制して、女将は大きく頷いた。 「うまく変装できてようございました。 またごひいきにどうぞ」 「あぁ。 請求はいつものところにな。色を付けるぜ」 「ありがとうございます」 深々とお辞儀する女将達に手を振って、フォーはミランダと共に店を出る。 「フォー・・・これ、高いんじゃ・・・!!」 手触りの良い生地はどう考えても絹で、大きな牡丹の刺繍も金糸銀糸を施した豪華な物だった。 しかしフォーは気にするなと手を振る。 「この程度、全然お高くないから、記念に持って帰りな。 それより、せっかくきれいに化粧してんだから、あんまり焦って汗で崩すなよ。髪も乱れるし」 「えっと・・・はい・・・」 俯き加減のまま、フォーについていくミランダを、行き交う人々が興味深そうに見て行った。 「わ・・・私、変なんじゃ・・・!!」 「いーや? 美人だから見られてるだけだよ♪」 フォーのからかい口調を本気になどできるはずもなく、ミランダは赤面をますます伏せる。 そのまま、フォーの影だけを見つめて進んで行くと、彼女はやけに広い階段を上り出した。 ふと顔を上げると、そこは大きな酒楼だ。 「あの・・・ここは?」 任務でなぜ酒楼に、と、不思議そうなミランダを振り返り、フォーはにんまりと笑った。 「アジア支部の春節の宴へようこそ、ミランダ・ロットー! 迷い客は大歓迎だぜ!」 「迷い客・・・?」 なんのことだろうと、ますます不思議そうな顔をするミランダの背に、声がかかる。 「ミランダ! ようやく合流できたである!」 「クロウリーさん・・・! あの・・・その荷物は・・・?」 大きな荷物をいくつも抱えて、よろめきながら歩み寄って来るクロウリーに問うと、彼もやはり不思議そうな顔で首を傾げた。 「道を聞いた者に連れ込まれた広場でもてなされて、土産までもらったのである。 なんなのか、わけがわからないのであるよ」 「それはね」 と、クロウリーに付き添っていたファインダーが、ずっと目深に被っていたフードを跳ね退けた。 「春節の日に迷い込んで来た客は福をもたらすって信じられてるからさ」 「お前・・・!李桂であったのか!!」 ファインダーだと信じきっていたが、アジア支部の若き科学者だとわかって、クロウリーだけでなくミランダも驚く。 「支部長の命令で、迷子になった二人をうまく誘導するようにって任務だったんだけど、クロウリーが土楼の連中に連れ込まれちまったから、仕方なく案内することになっちまった」 「え・・・じゃあ、私がはぐれたのも・・・」 「わざと置いてったのさ。 けど、リナリーみたいな戦闘員ならともかく、若い女を一人で街に放り出すのは危険だからな。 ミランダはあたしが迎えに行ったんだ。 全然気付かなかったろ」 得意げに笑うフォーに、ミランダは苦笑した。 「任務が嘘だなんて思いませんもの」 「コムイが協力したからさ、うまくいったぜ? ミランダの無線を壊したのもコムイだし」 最初から計画通りだったと知って、ミランダはもう、笑うしかない。 「じゃあ、リナリーちゃん達ももう来てるんですね」 「だと思うぜ? 行って確かめな♪」 あたしは別に用事があるからと、フォーは力の抜けてしまったミランダとクロウリーを笑って見送った。 「さて・・・と」 上りかけた階段を下りて、フォーはこの大きな酒楼の隣にある、やや小さな酒楼へと入る。 顔見知りの店員に軽く手を振って奥に進んだフォーは、密談などに使われる、最も奥まった個室のドアを開けた。 「こっそり猫でも飼ってる気分だ」 クスクスと笑うフォーに、がつがつとテーブルの上の料理を平らげていたアレンが笑う。 「この日に清に来ないって選択はありませんよ 機嫌良く言う彼に歩み寄って、フォーは大きく頷いた。 「珍客は大歓迎だ! たんと食え!本当に・・・!」 満面に笑みを浮かべて、フォーはアレンの背を叩く。 「元気そうでなによりだ。 あたしを頼ってくれて、嬉しいぜ」 地祇冥利に尽きると、神の座にある少女は、彼の幸運を願った。 Fin. |
| D.グレ始めて12年目でございますよ! 今年は再連載&再アニメ化と、イベントが続きますね! 原作がまだまだアレなので、今回、お祭りは自粛ムードなカンジの教団で書いてみました。 クロちゃんとミランダさんがメインなのは、お誕生会してあげられなかったから・・・(吐血) ちなみに言わなくてもアレだと思いますが、冒頭はエヴァなカンジで見てください(笑) |