† 烈日の頃 †
〜 Party for Rabbi 〜





 8月のある日、アレンは、真剣に悩んでいた。
 ―――― 一体、何を贈ればいいんだろう・・・・・・。
 単に、彼の誕生日を知っただけだったなら、こんなに悩みはしなかった。
 しかし、彼の奇怪な趣味までも知ってしまった今では、ありきたりで無難なプレゼントを贈るわけにも行かない。
 「大体、赤ん坊のミイラとか、ダイオウイカの目玉のホルマリン漬けとか集めて、何が嬉しいんだろう・・・・・・」
 奇怪な・・・と、呟いて、アレンは、はた、と手を打った。
 「あー!!いたいた、相談相手!」
 思わず大きな声を上げて、アレンは駆け出した。
 行く先は、教団本部の庭にある、バラ園。
 夏の花盛りの今、彼は、必ずここで、バラの世話をしている。
 「クロウリーさんっ!!」
 黒衣に白いエプロンを着けて、剪定をしていたクロウリーは、アレンの声に、バラの樹の間から顔を出した。
 「なんであるか?」
 「相談があるんです!」
 そう言って、駆けて来た少年を見下ろして、クロウリーは首を傾げる。
 「相談?」
 「ハイ!奇妙な物を集めるのが好きな人って、どんなものをあげれば喜ぶのかなぁって」
 アレンの言葉に、クロウリーは苦笑した。
 「例えば、私の祖父のような人には、何を贈れば喜ぶか、と言うことであるか?」
 「ハイ。クロウリーさんも、おじいさんにプレゼントする時は悩んだんじゃないかなぁって思って!」
 にこ、と笑うアレンに、クロウリーは何度も頷く。
 「まさに、その通りである。
 祖父は、非常に奇怪好みな人で、コレクションルームには、世界中のありとあらゆる奇怪なものが積んであったものだ」
 「クロウリーさんのお城、そんなものがたくさんありましたもんね・・・」
 あは・・・と、乾いた笑声を上げるアレンに、クロウリーは笑声を上げた。
 「悪趣味だと思ったであろう?
 曽祖父の時代までは、普通の城であったらしいのだがな」
 私が生まれた時には、既にあの状態だった、と語るクロウリーの声が、乾いていく。
 「そう、それで、私が祖父に贈った物であったな?」
 「ハイ!参考にさせてください!」
 目を輝かせるアレンの前で、クロウリーは視線を宙に据えて記憶を辿った。
 「そうであるな・・・一番喜ばれたのは、赤ん坊のミイラ」
 「それはもう、持っていました」
 「そうか。では、深海に棲むと言う、ダイオウイカの・・・」
 「目玉も、持っていました・・・」
 「なに?!では・・・首狩り族の・・・!」
 「首のミイラも持ってるんです、ラビってばー!!」
 「・・・我が祖父が生きていれば、いい友人になれただろうに・・・・・・」
 呆れ口調のクロウリーに、アレンは悄然と頷く。
 「どうもお邪魔しました・・・・・・」
 踵を返し、とぼとぼと戻っていくアレンの背を見送りながら、クロウリーも呟いた。
 「・・・燃え残っていれば・・・我が城から、何か取り寄せるであるか」


 「他に、相談できそうな人は・・・・・・」
 呟いたアレンは、一瞬脳裏に浮かんだ顔を、容赦なく拭い去った。
 「知ってるかもしれないけど、近づきたくないし」
 はっ!と、嫌悪を隠そうともせず言い放ったアレンを、呼び止める者がいる。
 「ウォーカー殿、お久しぶりでございます」
 礼儀正しく一礼した、白い団服のファインダーに、アレンはたちまち目を和ませた。
 「トマ!お久しぶりです!元気でした?」
 「ハイ、おかげさまで」
 「・・・?
 それ、なんですか?」
 身を起した彼が、大きな箱を抱えているのを見たアレンが問うと、トマは、箱の側面に張られた荷札を、アレンにも見えるように掲げた。
 「神田殿から、Jr.へのお届け物でございます」
 「ジュニア?」
 「ブックマンJr.・・・ラビ殿のことでございますよ」
 「あ、そう言えば、そんな風に呼ぶ人もいるって・・・・・・」
 「ブックマンの後継者への、敬称でございます」
 そう言ってトマは、にこ、と、目元を和ませる。
 「それで、神田は何を送ってきたんですか?」
 つい先ほど、脳裏から払拭した顔が、今は教団内にいないと知って、アレンの口調も滑らかになった。
 「お誕生日のプレゼントでございましょう。律儀な方ですから」
 「へぇ・・・まだ何日かあるのに」
 「遅れるよりは早い方が、と言う、お心遣いでございますよ」
 神田に好意的なトマの口調に、アレンはやや反感を持ちながらも、にっこりと笑う。
 「トマ!僕、ちょうどラビの部屋にいくところだったんです。ついでに持って行ってあげますよ」
 「え?そんな、申し訳ない・・・・・・」
 「いえ!僕も、中の物に興味ありますから!ラビにお願いして、見せてもらいます!」
 「はぁ・・・。
 では、申し訳ありませんが、こちらのお手紙もご一緒にお願いできますか」
 アレンが受け取った箱の上に、そっと、封書が置かれた。
 「どっ・・・どこの王侯貴族からのお手紙ですか・・・?!」
 思わず声を上げてしまうほど、その表書きの字は、優雅にして秀麗なものだった。
 「几帳面な方ですから」
 「ウソッ?!神田の字?!」
 あんなに口が悪いのに、字はこんなにきれいなんだ、と、アレンは目を丸くする。
 「神田殿の文語は、非常に丁寧でございますよ」
 「詐欺だ・・・!手紙で詐欺をしていますよ、絶対・・・・・・!」
 じゃなきゃ、会話も筆談ですればいいのに、と、アレンは毒づいた。
 それには、慎ましやかに返答を避けて、トマはアレンに一礼する。
 「それでは、よろしくお願いいたします」


 「ラビー!ラビラビ!!お届け物でーっす!」
 今回は無用心にドアを開けようとはせず、廊下から大声で呼ばわると、中から返答があった。
 「うぃーっす!今、手が離せないから、勝手に入ってー」
 「ヤダ」
 ラビの声に、アレンは短く応じる。
 「だーいじょうぶだーって!ドアの付近は片付けたから!開けても大丈夫さ!」
 「騙されるもんか」
 再び、冷淡に応じると、ややしてドアが開いた。
 「え?!何でリナリーがいるの?!」
 ラビの代わりに、この部屋のドアを開けた少女に、アレンが目を丸くする。
 「それに・・・その格好、何・・・・・・?」
 呆然と問うアレンに、リナリーは苦笑した。
 今の彼女は、いつもの活動的な団服ではなく、質素なワンピースに、フリル付きの白いエプロンを着けて、まるでメイドのような格好をしている。
 「お誕生日プレゼントの最中よ」
 アレンを部屋に迎え入れたリナリーは、そう言って苦笑を深めた。
 「最中って・・・?」
 「部屋のお掃除を手伝っているの」
 「ちょっとは足の踏み場ができたろ?」
 アレンの部屋と同じく、そう広くはない部屋の窓辺に、奇怪なコレクションを並べていたラビが、振り返って嬉しげに笑う。
 「・・・どこのオヤジですか、アンタ」
 「人聞きの悪ぃ事言うんじゃないさ・・・。俺がメイド服着てくれって、頼んだわけじゃねーよー」
 「それより、ラビに届け物じゃなかったの?」
 リナリーに言われて、アレンは手にしたままの荷物を、上に乗った手紙ごと渡した。
 「トマから言付かってきたよ。神田からだって」
 「ユウ?!」
 喜色に満ちた顔は、しかし、手紙を開いた途端、しょんぼりと曇る。
 「ユウのはくじょーものー・・・・・・」
 「なぁに?また不参加?」
 「神田、今はどこで任務なんですか?」
 「・・・任務じゃないさ」
 興味津々と寄ってきたリナリーとアレンに、ラビは手紙を渡した。
 「まぁ!相変わらず、きれいな字と文ねぇ!」
 感歎するリナリーの傍らから紙面を覗きつつ、アレンが毒づく。
 「神田なんて、文語でしゃべってりゃいいんですよ。手紙でしか神田を知らない人は、絶対勘違いしますよ」
 「それは言えるわ・・・」
 苦笑して、リナリーは再び紙面に目を落とした。
 「そして今年も、里帰りしちゃったのね、神田」
 「なんで夏に里帰りするんですか、あの人?」
 アレンの問いに、憮然と荷を解きながら、ラビが答える。
 「あいつ、クリスチャンじゃないから、クリスマス休暇をもらわない代わりに、夏に里帰りしちまうんさ・・・。
 毎年、盆に間に合うように帰っちまうから、いっつも俺の誕生日にはいやしない・・・・・・」
 憮然と、と言うよりは、悄然と俯いて、ラビは箱から一抱えはある品物を取り出した。
 「ボン・・・って、ナニ?」
 丁寧に紙にくるまれた品物を、ラビが解いていく様を興味津々と見つめながら、アレンが更に問うと、
 「日本の風習で、先祖の霊を祭る行事」
 と、ラビは彼らしくもなく、愛想なく答える。
 が、品物を包んでいた紙を全て解いてしまった彼は、中から出てきたものに、目を見開き、歓声を上げた。
 「さすがユウ!!わかってるぜ――――!!」
 「あら、可愛い!」
 ラビが、両手で抱え上げた物に、リナリーも笑みを漏らす。
 それは、きれいな和服を着た、長い黒髪の日本人形だった。
 「・・・なんで人形」
 リナリーはともかく、ラビが喜ぶ様に、嫌な予感がして、アレンが目を眇める。
 「もしかして、日本製のミイラ?」
 「んなわけねぇだろっ!」
 すっかり元気を取り戻したラビが、すかさず突っ込む。
 「正真正銘の日本人形さ!有名な寺にあったのを、譲ってもらったってさ!」
 「へぇ・・・日本って、お寺で人形を作るんだ?」
 意外だ、と、呟くアレンに、ラビはにこにこした顔を横に振る。
 「ちゃうちゃう!この人形は特別!
 しっかり呪われてて、日に日に髪は伸びるわ、涙は流すわ、夜中に歩き出すわ、おもしれーオプションがついてるんさ!」
 「ひぃぃっ?!」
 悲鳴を上げて飛び退ったアレンと違い、リナリーは冷静だった。
 「・・・相変わらず、変わった物が好きよねぇ、ラビは」
 と、呆れ口調の彼女に、ラビはすっかり機嫌の良くなった顔を向ける。
 「リナも、なんか面白いもん見っけたら、俺にくれ!」
 「それが見つからないから、こうやってお掃除してるんでしょ」
 腰に手を当て、リナリーは、深々と吐息した。
 「まったく、兄さんと同じね、ラビは。
 面白そうだとか、楽しそうだとか、そんな理由で色んなものを部屋に持ち込むから、ちっとも片付かないんだから」
 ブツブツと言いながらも、リナリーは仕事・・・いや、プレゼントに戻る。
 てきぱきと、部屋中に散らばった奇怪な物々を片付けていくリナリーを見ながら、アレンは、また考え込んでしまった。


 「・・・絶対、マテールのララを見て思いついたんだ、神田・・・・・・」
 先を越された、と、うなだれていると、その目の前を、てくてくとクロウリーが横切っていく。
 「おぉ、アレン。よい贈り物は、見つかったであるか?」
 ふるふると首を振ると、クロウリーはにこりと笑った。
 「それはちょうど良かったである。
 今、通信班に寄ってきたのであるが、試しに、ルーマニアにいるファインダーと連絡を取ったところ、我が城の近くにいるらしいのだ。
 幸い、あの火は、所蔵庫にまでは届いていなかったらしくてな、何か見繕って送ってくれる様、頼んだのである」
 「えぇっ?!じゃあ、変わった物が届くんですか?!」
 「うむ。
 どうせ、私にはいらないものばかりだ。ラビの気に入りそうな物があったら、贈ってやるといい」
 「ありがとうございます!!」
 勢い良く頭を下げたアレンに、クロウリーもうなずく。
 「うむ。10日には間に合うよう、頼んでおいたであるから、もう少し待っておいで」
 「はい!」
 ―――― そして数日後、ルーマニアから届いた荷をクロウリーと一緒に開けたアレンは、その尋常ではない物々に、目を丸くした。
 「・・・なんですか、これ?」
 古い、怪しげな瓶に入った粉を取り上げると、クロウリーはラベルを見て何度も頷く。
 「ゾンビパウダーであるな。
 劇薬で、これを使われた者は仮死状態となる。それを、死亡したと間違えて、埋葬したそうである」
 「えー・・・生き埋めでですか?」
 やだなぁ・・・と、眉を寄せるアレンに、クロウリーは陽気に笑った。
 「そうであるな。しかし、埋葬された人間の中には、墓の中で意識を取り戻し、自力で出てくる者もいる。それが・・・」
 「あー!ゾンビ!」
 「うむ。そういう由来であるらしい」
 「へぇぇ・・・!こんなのあげたら、ラビがすごく喜びそう・・・だけど・・・・・・」
 暗い顔をしてうつむいたアレンに、クロウリーが首を傾げる。
 「・・・確実に、僕で実験しようとするだろうから、やめます」
 「・・・・・・そうであるな。では、これはどうだ?アフリカの、呪術師の仮面である」
 「うわっ!怖っ!!」
 仮面とはいえ、動物の頭部を模したそれは、アレンの身長の半分ほどの大きさがある。
 「ラビのことだから、真夜中に被って本部内をうろつきまわるでしょうね・・・・・・」
 「・・・やめるである。考えただけで恐ろしいである・・・・・・」
 意外と気弱なクロウリーは、この仮面が暗闇から現れる様を想像したのか、身震いしてアレンからそれを取り上げた。
 「難しいものであるな・・・・・・」
 「・・・・・・知らなきゃよかった」
 青ざめた額を寄せ合いながら、二人して深い吐息を漏らす。
 と、その時、
 「あれ?」
 アレンが箱の中から取り上げたものに、クロウリーも目を見開いた。
 「これって・・・」
 「梱包をする時に、混じったのであろうな。科学班にでも持っていくか?」
 喜ぶかもしれない、と呟いたクロウリーに、アレンは首を振ってにっこりと笑った。
 「僕、これにします―――― 思い出の品だし」
 「・・・・・・プレゼントにか?」
 「はい!」
 そう言って、明るく笑った少年に、クロウリーはぎこちなく頷いた。
 「では・・・・・・私は、コモドドラゴンの剥製でも贈るか」


 8月10日、誕生日パーティの席は、祝いだか呪いだか、訳のわからない雰囲気に満たされていた。
 「ねぇ、リナリー・・・。ラビの誕生日って、毎年こんなのなの・・・?」
 「うん。ハロウィーンみたいでしょ」
 あっさりと頷いた彼女に、アレンは何度も頷く。
 カボチャランプこそないものの、主賓であるラビの傍らに山と詰まれたプレゼントは、どれも古びて不気味で気味の悪いものばかり。
 中には、明らかに毒薬らしい瓶まである。
 「・・・・・・あれ、使うの?」
 「まさか。中にはカエルが入っているのよ」
 毒薬の瓶を指したアレンに、リナリーがクスクスと笑う。
 「じゃあ、なんであんなのに入ってるの?」
 「ヤドクガエルって、猛毒のカエルだからですって」
 「・・・・・・・・・・・・・・・」
 あまりにもあっけらかんと吐かれた言葉に、アレンは硬直してしまった。
 「こ・・・この教団の人達って・・・・・・!」
 やっぱり変だ、と呟いたその目の端に、なにやらふわふわとした物が写る。
 「え?」
 なに、と、目をやった先には、ブックマンが、自身の身長ほどもありそうな、大きなウサギのぬいぐるみを抱え、ラビに渡しているところだった。
 「えええ?!そんな馬鹿なっ!!」
 アレンは思わず絶叫した。
 大きな赤いリボンをつけた、ピンクの毛並みをしたウサギは、どこも怪しいところのない、普通のぬいぐるみに見える。
 強いて怪しいといえば、そんなファンシーなものを、19にもなった男子が、大喜びで受け取っているところだ。
 「か・・・怪奇趣味だけじゃなかったんだ・・・・・・!!」
 がっくりと肩を落としたアレンには目もくれず、ラビは、師匠からもらった大きなウサギのぬいぐるみを抱え、嬉しそうに笑っていた。


 「お前が欲しがっていた物だ」
 大きなウサギのぬいぐるみを差し出して、そう囁いた師に、ラビは目を輝かせた。
 「わぁぁぁ!!じいちゃん、サンキュー!!」
 「苦労したのだ。大事にするのだぞ」
 しかつめらしく言った師に、ラビは何度も頷いて歓声を上げる。
 「もちろんさ!ずっと欲しかったんだ、これ!!」
 本気で喜んでいるラビに、周りの人々が次々と退いて行った・・・が、彼自身は全く頓着することなく、クロウリーからもらったコモドドラゴンの剥製の上に、それを乗せ、大満足している。
 「やっぱ、じいちゃんわかってるさー!」
 「もちろん・・・これでもお前の、師匠だからな」
 ふ、と、笑みほころんだ顔に、ラビも喜色を浮かべて頷き返した。


 August―――― 8月生まれの皇帝が、自身の名をつけたと言う月。
 その烈日の元、この師も生まれた。
 性質までも8月の名に由来したか、威厳に満ちたその人となりに、幼い頃は怯えたこともある。
 しかし、常に冷静で、物事を第三者の目で捉え、真実を記憶していくその姿に憧れた―――― いずれ、世界を知りたいと願ったあの日。
 彼の後継者にと選ばれ、新たな名を与えられた日のことは、決して忘れない。
 いずれブックマンの名を継ぐ日の為に―――― ともに、世界を巡る日々こそが、彼から与えられた、一番の贈り物・・・。


 パーティ終了後。
 「アレンー!!プレゼント運ぶの手伝って
 と、ラビにせがまれ、アレンはコモドドラゴンの剥製を抱えた。
 「重いよー・・・怖いよー・・・」
 巨大トカゲの、気味の悪い頬と頬をくっつけ、アレンが青息吐息で泣き言を言う。
 しかし、ご機嫌のラビは、巨大なピンクのウサギを抱え、ニコニコと先に立って歩き出した。
 「まぁまぁ。いいもん見せてやるから!」
 「あ私もー!」
 そう言って、リナリーも雑多なプレゼントの箱を持って、ついて来る。
 「リナ、ヤドクガエルに気をつけろよ」
 「うん、瓶の蓋はしっかり閉めてるし、大丈夫だよ。
 それより、ずっと欲しがってたものって、何?」
 ニコニコと笑ってついて来るリナリーに、アレンは首をかしげた。
 「え?このウサギじゃないんですか?」
 「ふふふふふ――――――――――っ!!」
 仲のいい兄妹のように、声を合わせて笑う二人に、アレンはさらに首をかしげる。
 やがて、ラビの部屋に着き、ドアをくぐったアレンは、整然と片付けられたその場に、感心してリナリーを振り返った。
 「お疲れ様でした」
 「ホントに・・・」
 そう答えて、リナリーは苦笑する。
 と、
 「あ、その辺、空いてるとこに置いてー♪」
 のんきに言ったラビに、リナリーが眉を吊り上げた。
 「もう!せっかく片付けたんだから、整理して置いて!」
 「・・・んじゃ、とりあえずテーブルにー・・・」
 と、ラビが示したテーブルに、リナリーが次々と箱を載せていく。
 が、
 「コモドドラゴンは置けないよ」
 と、アレンが巨大トカゲの剥製を示すと、ラビは嬉しそうに顔をほころばせた。
 「ドラちゃんは俺のベッドに乗せてあげて
 「悪趣味な・・・・・・」
 そう呟きながらも、大重量の剥製を下ろしたアレンは、やれやれと吐息する。
 「どうせなら、そっちのウサギちゃんを乗せたらどうですか?」
 すると、ラビだけでなく、リナリーまでもがぶんぶんと、首を横に振った。
 「ウサギが欲しいんだったら、お前にやるけど?」
 「って、あんなに喜んでたのに?!」
 いやにあっさりと申し出たラビに、アレンは驚いて甲高い声を上げる。
 と、アレンの傍らから、リナリーが不満げな声を上げた。
 「ラビ、外側は私にくれるって言ったじゃない!」
 「外側?」
 アレンが訝しげに問い返すと、にこ、と笑って、ラビがハサミを取り出す。
 「ちょーっと、見られちゃヤバイもんなんさ」
 「ヤバイって・・・え・・・・・・?」
 「やだ、アレン君。ブックマンが、ぬいぐるみなんか選ぶと思った?」
 「はぃぃっ?!」
 あっさりと指摘されて、アレンは瞠目した。
 「やっぱり、普通の物なんかじゃないんだ?!」
 既に数歩を退いたアレンに、ラビが笑みを深める。
 「ふふふー見て驚け
 しゃきしゃきと、軽快にハサミを鳴らして、ラビはためらいもなくぬいぐるみの背中の縫い目を切って行った。
 と、白い綿にくるまれて、大きな壷が4つも出てくる。
 「なにこれ・・・」
 「カノポス壷ね!」
 首を傾げるアレンの傍らで、リナリーが歓声を上げた。
 「なに、それ・・・?」
 首をかしげながらも、アレンがラビを手伝って、壷をくるむ綿を剥がして見ると、蓋に犬や鳥などの動物が模してある、なかなか可愛い壷だ。
 「へぇ・・・可愛い。
 でも、これの何がそんなに・・・・・・」
 面白いんだろう、と、さらに首を傾げるアレンに、ラビとリナリーが、そっくりの笑みを向けた。
 「これ、ミイラの副葬品よ!」
 「人間をミイラにする時に、内臓を収めた壷さ!」
 「わぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」
 悲鳴を上げて飛び退ったアレンに、魂の兄妹とも言うべき二人は、嬉しそうに手を打ち鳴らす。
 「さすがアレン!いい反応さ!!」
 「驚いた?アレン君、驚いた?!」
 楽しそうに笑う二人に、アレンが恨みがましい目を向けた。
 「どっから持ってきたんですか、こんなの?!」
 涙目で訴える彼に、二人はまた、そろって人差し指を唇に当てる。
 「もちろん、お墓でしょうね。エジプトの」
 「絶対に秘密さ。そのためにじいちゃん、ぬいぐるみなんかに包んでたんだからさ」
 「あんたもブックマンも・・・リナリーまでもが変だ――――っ!!」
 黒の教団に入ってまだ日の浅いアレンは、己の常識との間に立ち塞がる壁の厚さに、涙に暮れるしかなかった。


 ―――― 後日。
 「ヤックン
 今日のご機嫌はいかがかなー?」
 コモドドラゴンの剥製にまたがり、窓辺に置いたバラの鉢植えに水をやったラビは、ヤドクガエルのヤックンが棲まう水槽にもジョウロで水を足した。
「今日の朝ごはんはコウロギだよーん♪」
 鮮やかなオレンジに黒の斑点を持つ、つぶらな瞳の毒蛙は、ラビの与えた虫をぺろりと飲み込む。
 「やーっぱ、かわいいさぁ、ヤックン
 ニコニコと目元を和ませ、ジョウロを脇に置いたラビは、その隙に水槽の中のカエルを見失い、目を丸くした。
 「ヤックン?!ヤックン、どこさ?!」
 現地から輸入されて間もないヤドクガエルは、猛毒を持っている。
 部屋から出ては大変、と、慌てて窓やドアを閉めて回り、改めて室内を見渡したラビは、その眼前で蠢くものに硬直した。
 「食人花・・・・・・!」
 バラだと思っていた鉢は、かつてクロウリー城で襲われた、食人花・・・!
 きつく蕾んでいた花弁はいつの間にか花開き、植物にはあり得ない鋭い牙の間から、ヤドクガエルのオレンジ色の足がはみ出ていた。
 「ぎゃあああああああああ!!!ヤックン――――――――ッッ!!」
 泣き叫ぶラビの前で、つぶらな瞳の猛毒蛙は、食人花の餌食となってしまった。
 「ア・・・アレン――――!!!あんの・・・・・・極悪高燃費モヤシ――――――――!!!!」
 ラビが、食人花とは知らずに、種から育てていたそれは、アレンが、『思い出の品です』というメッセージとともに送ったものだ。
 思い出は思い出でも、最悪の思い出に、ラビはその日、涙に暮れた・・・・・・。






 Fin.

 










このお話は、ブックマン&ラビお誕生会の後編でございますv
・・・・・・誕生日のお祝い話やなかったんかい;
アレン君の代わりに、ラビが一身に私の愛(イジメ)を・・・!>いい迷惑。
アレン君の名誉のために言って置きますが、アレン君は本気で『いい思い出の品』として贈っただけで、ラビへの嫌がらせとか、ましてや、ヤドクガエル隠滅の陰謀を企てたわけじゃありませんからねv

さて。
元々、八月は『October』と言ったそうですよ。『octopus(タコ)』って意味だったそうです。8本足だから。
それが、ワガママな皇帝が間に自分の名前を入れて、『October』は10月にずれたそうな。あぁ、本来の意味なし。
では『August』の意味は、と言うと、『威厳のある、堂々とした』です。
元々は、ローマ皇帝の事を『Augustus』と呼んでいたそうな。(皇帝の親族の女性はAugusta)
今回、盆休みで帰省の神田とか、クリスマス休暇ありの黒の教団とか、んなわけあるか設定目白押し(笑)
しかしこれで、お誕生日画像のぬいぐるみ二つの意味が、おわかりいただけたかと思いますv












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