† Mirus †
未だ熱気さめやらぬ、夏のある日。 足取りも軽く、黒の教団の通信班にやって来たラビは、通信員に電信文を渡した。 「・・・なぜ、あなたがリーバー班長の電信文を持ってくるんです?」 ラビの差し出した紙を見た通信員が、訝しげに眉をひそめたが、ラビは、気にせずにっこりと笑う。 「科学班の前を通りかかったら、頼まれたんさ」 「わざわざエクソシストに?メッセンジャーはどうしたんです?」 「暇だから、ついでに届けてやるよって、俺が言ったんさ」 「へぇ・・・」 未だ疑わしげに、ラビを見遣った彼は、しかし、悪びれもせず、にこにこと笑う少年の中に嘘を見出せずに、通信機に向かった。 「けど・・・なんに使うんです、こんなの?」 「研究用だってさー」 「研究ったって・・・カンガルーなんて使って、何の実験するんですか?」 「そりゃあー俺には思いも寄らないことさ、きっと!」 と、断言した途端、 「思いも寄らないのはお前自身だ!」 がうんっ!と、後頭部を拳骨で殴られて、ラビが笑顔のまま吹っ飛ぶ。 「リ・・・リーバー班長・・・!」 目を丸くする通信員から、リーバーは、通信文を取り上げた。 「スマン!この通信、中止な!事情が変わったから!」 「は・・・はい・・・」 鬼気迫る顔を近づけられた彼は、心底怯えて、一旦は開いた通信を切る。 と、それを確認したリーバーは、安堵の吐息を漏らした後、後頭部を押さえてうずくまるラビのマフラーを掴んだ。 「ラビ!ちょっと、こっち来い!!」 「ぐふっ!!ぢょっ・・・ぢょっど・・・!!リーバー!!絞まってるぅっ!!」 「ヤカマシイ!黙ってついてこい、馬鹿!」 そのまま、ずるずるとラビを引きずって、通信班を出て行った科学班班長を、通信員達は、ただ無言で見送った。 「お前、いい加減にしろよ! 俺の名を騙って、勝手に怪しいもんを輸入するんじゃねぇ!!」 通信班を出ると、リーバーはラビを人気のない裏庭に引きずって行き、ぎり、と、目を尖らせて睨みつけた。 が、彼は全く悪びれもせず、へらへらと笑って立ち上がる。 「だぁってぇー。 どんな危険物でも、どんな珍獣でも、『研究目的』の名目があれば輸入できるって知ってさー。 俺、リーバーの偽サイン書けるしー、利用しない手はないと思って 「利用じゃねぇだろ!悪用だろ!しかも、詐欺で詐称で密輸じゃねぇか!!」 「大丈夫!悪いことはしてないし」 「密輸は立派な犯罪だ!!」 がうん!と、また殴られて、ラビが泣き声をあげた。 「なんで殴るんさー!」 「あ・の・な! 無法地帯だった昔はともかく、今は規律ができて、構成員が不正や暴走をしないように、きっちり管理されてんだよ! なのに、管理職の俺が、勝手に名前使われちゃまずいだろ!」 「えぇー!かてぇこと言うなよ!俺、別にヤバイもん入荷してないし」 「ヤバイとかヤバくないとか、そういう問題とも違う!!」 ヒステリックに声を尖らせるリーバーを、あくまでマイペースのラビは、『まぁまぁ』となだめる。 「いついかなる時だって、抜け道ってのは必ずあるもんさ。 なければ、それを作るのが俺のマイ・ロー・・・ドッ!!」 「お前は勝手に獣道でも作ってろ!!」 右側面に、容赦のないニードロップを受けて、ラビが血反吐を吐きながら吹っ飛んだ。 「ブ・・・ブックマン・・・!」 「スマンな、班長。 私の弟子が、迷惑をかけた」 常人であれば、ブックマンの迫力に気圧され、ここで許してしまうことだろうが、生憎、リーバーは多少のことでは怯まない男だ。 彼は、厳格な顔をした老人に、毅然と対峙すると、 「ブックマン・・・教団の連中はエクソシストに対して、多少のことは目をつぶってしまう。 ですがそれは、若い奴らを増長させて、あんまりいいコトじゃないと、俺は思うんすよ」 そう、厳しく言った彼に、ブックマンも真摯な目で頷いた。 「それに、これはコトがコトです。 二度とこのようなことのないよう、ブックマンからもご指導ください」 「あいわかった。迷惑をかけた、リーバー班長」 深々と、こうべを垂れた老人に、リーバーもまた、一礼する。 「よろしくお願いします」 そう言ってラビを見遣ったリーバーは、思わず苦笑を漏らした。 余程強烈な攻撃だったのか、彼は未だ地に伏したまま、起き上がれずにいる。 「心得た」 こくりと頷くや、リーバーがやったように、ラビのマフラーを掴んで、地の上を引きずって行った老人を、リーバーは苦笑したまま見送った。 「アホか、お前は!」 ぺいっ!と、ブックマンによって投げ出された形のまま、満身創痍のラビは、自室の床に転がる。 「今度は、何を企んでいたのだ!」 「いやー・・・リーバーの誕生日が近いなぁと思ってさー」 ごろん、と、床に転がったまま言うと、ブックマンは、呆れたように吐息した。 「・・・それで?今回は、何を輸入しようとした?」 「カンガルー♪」 ぴょこん、と、飛び起きて、ラビは嬉しそうに笑う。 「リーバーもきっと懐かしがると思ったし、ここの庭をカンガルーがピョンピョン飛んでたら、俺らも和まねぇ?!」 その様を想像しているのか、うっとりと宙を見つめる弟子に、ブックマンが、再び吐息する。 「・・・全く、お前という奴は。 なぜわざわざカンガルーだ!世話をするなら、ワラビーの方が、まだ世話が楽だろう!」 「んー・・・それも思ったんさ。 けど、ワラビーは個体数が減ってるって言うし、絶滅したらかわいそうじゃん?」 その点、カンガルーはたくさんいる、と、真面目な顔をして言う弟子に、ブックマンは痛む頭を押さえた。 「・・・そもそも、そういう問題ではなかったな。 お前、一体何度、科学班班長の名を騙って密輸したのだ?」 「まだ24回さ」 「もう24回じゃろ!!」 みぞおちに強烈な正拳突きを食らって、ラビが再び、床にうずくまる。 「班長が怒るのも無理ないわ!一体何をそんなに密輸したのだ?!」 「んー・・・?一番最近のは、ジジィにやったパンダだろー? その前は、ユウにマンドリネットの花、コムイにスパイクサラマンダー、リナにカンムリシロムク・・・でも、最初のプレゼントは、愛しの元帥 「ほとんど絶滅危惧種ではないか!!」 がごんっ!と、烈しい蹴りを食らって、ラビがまたもや床に伸びた。 「お前、動物だけじゃなかろう! ミイラとか、骸骨とか、よりによって密輸するしかないものばかりに興味を持ちおって・・・!」 「だって!普通のもんじゃ、おもしろくないさ!!」 ジジィだって好きだろ、と反論され、ブックマンがわざとらしく視線を逸らす。 「・・・とにかく、班長の名を騙って密輸入するのはやめておけ。 誕生日プレゼントに、胃潰瘍を贈るつもりなら別だが」 「ちぇーっ!じゃあ、なんにすっかなぁ・・・・・・」 「とりあえず、今回は真っ当な物にしておけ」 「真っ当なもんかぁ・・・」 いかにも難問だと言うように、ラビが頭を抱えた。 ややして、 「ジジィ、ジンベエザメって真っ当の内に入っかな?」 真面目な顔をして言う弟子に、ブックマンの蹴りが飛ぶ。 「飼育に困らんものを考えろ!!」 烈しい怒声に、ラビは渋々頷いた。 「あら、班長。密輸阻止は間に合ったの?」 科学班に戻るや、リナリーに問われ、リーバーは深く頷いた。 「まったくあのガキは、豪快と言うか考えなしというか・・・今度はカンガルーを輸入しようとしてたぜ」 「え・・・止めちゃったんだ・・・・・・」 残念そうに言うリナリーを、リーバーは、軽くねめつける。 「あのな、リナリー。ここは動物園じゃないんだ。カンガルーなんて輸入して、だーれが世話すんだ?」 「班長、やらないの?」 「・・・俺は、お前の兄さんの世話で、手一杯だよ!」 言いつつ、リーバーは自身の机に積み上げられた書類を抱え、熟睡モードのコムイの後頭部にどっかりと乗せた。 「しつちょーぅ!首を折られたくなかったら、あと5秒で起きて下さい! いーち!にーぃ!」 と、5秒寸前で、圧迫に耐えかねたコムイが、大量の書類の下で亀のようにもぞもぞともがき出す。 「・・・ちっ。 おはよーございます、室長」 「・・・今、ちっ、って舌打ちしたの、なんで?」 「いや、一度首を折ってやったら、次から寝起きがよくなるかなぁと思って」 怖いことをさらりと言って、リーバーはまだ目の醒めきっていないコムイの手に、ペンを握らせた。 「はい、ココとココとココにサインして、他のはハンコ下さい」 「んー・・・その前に、リナリー 愛しい妹に、とろけんばかりの甘い声を投げかけたコムイの前に、しかし、リーバーが立ち塞がる。 「いーや!リナリーのコーヒーより、先にこっちを片付けて下さい!」 「い・・・いいじゃないか、コーヒーくらい」 怯えながらも反駁したコムイに、リーバーは、鬼気迫る顔を寄せた。 「コーヒーが欲しければハンコを寄越せ!さもないと、あんたのコーヒー豆、全部水に漬けて捨ててやる」 「・・・世話って言うより、囚人と看守みたいだわ」 苦笑しつつ、リナリーは兄のために、コーヒーを淹れに立つ。 「あら・・・コーヒー豆、なくなっちゃった。 兄さん!私、食堂でコーヒーもらってくるね」 「えぇぇー!!すぐ帰ってくる?!すぐ帰ってくる?!」 一時でも愛する妹と離れていたくないと言わんばかりに、泣き声を上げるコムイに、リナリーは笑って首を振った。 「わかんない。ジェリーのトコに行ったら、つい長くなっちゃうから」 「じゃあ、代わりにリーバー班長が行って来て!そしてリナリーはココに残る!」 甲高い声で放たれたわがままに、リーバーの我慢も限界に達した。 「たわけた寝言を言ってる暇があったら、とっととハンコ捺せェェェェェ!!!!」 「鬼畜ぅぅぅぅぅぅぅ!!」 リーバーと兄の絶叫を背中越しに聞きながら、リナリーは科学班を出て、食堂へ向かう。 「そっか・・・もうすぐ、班長のお誕生日なのね」 ラビが、カンガルーを輸入しようとした、という情報から、彼の企みを察して、リナリーはクスクスと笑声を上げた。 「いくらなんでも、カンガルーは世話が大変よねぇ」 でも、去年よりはマシね、と、呟いた彼女に、 「なにがです?」 と、少年の声がかかる。 「アレン君!」 笑みほころんで振り返った彼女に、少年は、にこ、と、微笑んだ。 「今度は、カンガルーを飼うんですか?」 リナリーに駆け寄り、問うたアレンに、彼女は笑って首を振った。 「違うの。 ラビが、カンガルーを輸入しようとしたらしいんだけど、班長に阻まれちゃったのよ」 「えー・・・見たかったな、カンガルー。 おなかに袋があるんですよね?」 「うん。赤ちゃんカンガルーは、その中で大きくなるんですって!見たいよねぇ・・・」 アレンと並んで歩きながら、うっとりと両手を合わせたリナリーは、しかし、残念そうに首を傾げる。 「でも、班長ったら、世話が大変だから絶対ヤダっていうの。兄さんの世話だけでいっぱいいっぱいだって」 「あは・・・リーバーさんらしいですね」 「でしょー」 「じゃあ、去年よりはマシって言うのは?」 何をやらかしたんだ、と、視線で問うアレンに、リナリーは吹き出した。 「班長、9月8日がお誕生日なんだけど、この日の誕生花の一つに、トリカブトがあるの」 「トリカブトって、毒草の?」 「うん。 ラビったら、それを一株、鉢植えにしてプレゼントしたのね」 「・・・普通、そんなのプレゼントにする?」 あきれ果てたアレンに、『だってラビだもの』と、さらりとリナリーが言う。 「それに、『これがあれば、いつでも殺れる!』って書いたメッセージカードが添えてあって・・・!」 「それまさか、コムイさん暗殺用?!」 アレンの、頓狂な声に、リナリーは明るい笑声を上げた。 「それからしばらく、兄さんったら班長にわがままを言わなくなって、班長も睡眠不足と胃痛が改善されたんですって!」 「ラビ・・・そこまで考えて、トリカブトを上げたのかな?」 「さぁ、どうかしら? ラビのことだし、考えているようで考えてないのかも」 クスクスと、明るい笑声を上げるリナリーに、アレンも釣られて笑ってしまう。 「じゃあ、僕はなににしようかな・・・リナリーは、もう用意したんですか?」 「ううん、まだ。 去年はねぇ、コウモリの羽の形をしたペンをあげたのよ」 「コウモリ・・・ハロウィーンでもないのに?」 どこか得意げに言うリナリーに、アレンが、不思議そうに首を傾げると、 「中国ではコウモリは、幸せのシンボルなの。蝙蝠と幸福の発音が同じだから」 と教えられ、深く頷いた。 「あぁ・・・前にもそう言ってましたね」 「班長は中国語も話せる人だから、ちゃんとわかってくれて、喜んでくれたの!」 「へぇ・・・。 じゃあ、リーバーさんには、実用的な物とか、普通のプレゼントでいいんですね!」 ほっと、表情を緩めたアレンに、リナリーも笑って頷く。 「えぇ。ラビの時みたいに、悩まなくていいからね」 「・・・ホントに、あの時は悩みましたよ・・・」 がっくりとうなだれるアレンに、リナリーがまた笑った。 「じゃあ、来年は一緒に考えましょ!二人だったら、いい知恵も出るかもしれないわ」 「はい!」 嬉しそうに頷いて、アレンはリナリーと並んで、食堂に向かった。 ――――・・・そんな二人を、物陰から見送っていた者がいる。 二人の、楽しそうな様子に、声を掛けそびれたミランダだった。 「9月8日・・・リーバーさんの、お誕生日なのね・・・・・・」 盗み聞きするつもりは全くなかったのだが、音のよく響く廊下での会話は、自然とミランダの耳に入った。 「わ・・・私も・・・何かプレゼントしようかしら・・・」 でも、何を・・・と、考え込んだミランダは、ふと思いついて、科学班へ向かった。 「・・・ジョニーさん、ジョニーさん、ちょっといいですか?」 科学班の入り口から、顔だけのぞかせて、ミランダはリーバーの部下を呼び止めた。 「ハイ?なんすか?」 気さくに笑って寄って来た、厚いめがねの研究員に、ミランダは、おずおずと問う。 「あの・・・8日がリーバーさんのお誕生日だって聞いたんです。 それで・・・ジョニーさんだったら、リーバーさんに何をプレゼントすれば喜ばれるか、知ってるかなぁって・・・・・・」 顔を真っ赤にして、俯いたミランダに、ジョニーはにんまりと笑った。 「ミランダさんがくれるものなら、なんだって喜ぶと思うっすよ、班長は♪」 「で・・・でも・・・・・・!」 はずしちゃったら嫌だし、と、眉をひそめるミランダの手を取り、ジョニーはこそこそと科学班を出る。 「ジョニーさん?!どこに・・・」 「通信班!あそこで、いいものをお取り寄せしてもらいましょう!」 「お取り寄せって・・・?」 何を?と、問うミランダに、ジョニーは、いたずらっぽい笑みを深めた。 「班長には懐かしくて、俺たちには珍しいものです!ミランダさんからプレゼントしたら、絶対断りませんよ!」 「ええ?!」 訳がわからないまま、ミランダはジョニーに連れられて、初めて通信班に入っていった。 「まっとうなもの・・・真っ当なもの・・・って、そもそもなんだ?」 ブツブツと呟きながら、ラビは本棚から適当に本を取った。 「派手だけど真っ当で、賑やかだけど真っ当で、皆をびっくりさせる真っ当・・・・・・」 ベッドに寝転がり、ラビは、自分が贈るにふさわしいプレゼントを考えつつ、ページをめくる。 「密輸しなくても、皆の度肝を抜くものって・・・どんなんさ?」 彼にしては珍しく悩みつつ、『家庭用お掃除の裏技集』をどんどんめくっていった。 「石鹸で落ちない場合は、ベーキング・パウダーを使って磨く・・・ふぅん。 銀も、ベーキング・パウダーを溶かした水につけとけば、キレイになるんだよなぁ・・・。 カルシウムの汚れは、石灰化しやすいので早めに・・・カルシウム?」 あれ、と、呟いて、ラビはベッドの上に起き上がった。 「カルシウム・・・?ベーキング・パウダーと・・・・・・」 ―――― ナトリウム。 宙を睨んだラビの目の奥で、幼い頃の記憶が蘇る―――― 他でもない、リーバーの声が。 ―――― これは、何色になると思う? まだ幼かった頃・・・好奇心旺盛なラビにとって、科学班の研究室はまるで、夢の工場だった。 様々なことに興味を持ち、研究員たちの後をついて回るラビを、リーバーはうるさがりもせず、空いた時間には色んな実験を見せてくれた。 ―――― お前の髪の色にそっくりだな。 そう言って、大きな手で撫でてくれたことは、今でも覚えている。 「見っけたぜ、リーバー!!」 『家庭用お掃除の裏技集』を握り締め、ラビは、ドアを開け放ったまま、部屋の外へ飛び出した。 「要るもんは・・・厨房と治療室で揃うかな?!」 足りないものは、ロンドンで簡単に手に入る。その程度のものだ。 「ビバ!真っ当――――!!」 よく響く廊下に奇声を放って、ラビは材料を集めるため、教団中を駆け巡った。 そして9月8日―――― リーバーの誕生日当日。 仕事を優先した彼のために、パーティは夕刻から始まった。 「HappyBirthday! リーバー君、キミの日ごろの努力に報いるため、科学班に最新式の計算機を導入してあげたよーん!」 「マジですか――――?!」 コムイの言葉に、リーバーだけではなく、科学班メンバーの全員が歓声を上げる。 が、 「ふっふっふ! 言っておくけど、フェルト計算機なんて目じゃないから! あんな計算機、原始的だといわんばかりにボクが改良に改良を重ね、あらゆる計算、データ解析を可能にした、未来型計算機だよ!」 という、追加項目に、全員のテンションが、一気に下がる。 「・・・室長・・・まさか、また、アンタの人格を入れてないでしょうね・・・?」 低い声音で尋ねたリーバーに、コムイは、得意げに胸をそらした。 「あっはっは!ダーイジョウブ! 今回は、リナリーを最優先保護対象にして、絶対にあの子だけは無事なよう、プログラムを組んだから! 名づけて、コムリンV――――!!」 「ぶっ壊せ――――!!!」 「あぁっ!!何をするんだい!!」 コムイが止める間もなく、リーバーを始めとするメンバー達が、各々武器を持ってコムイのプレゼントに襲い掛かって行く。 その様を、遠くからびくびくと見守っていたミランダは、自身のプレゼントが入った大きな箱に視線を落とすと、深く吐息した。 「やっぱり・・・やめようかしら・・・・・・」 ジョニーが選んでくれたのだから、コムイほど外してはいないはずだが、衆人環視の中でプレゼントを渡すなんて、気の小さいミランダにとっては凄まじく勇気のいることだ。 「やっぱり・・・やめよう・・・」 と、踵を返したミランダは、いつの間にか彼女の背後にいた人物の、厚い胸板にまともにぶつかってしまった。 「ちょっとぉ!ちゃんと周りを見てから方向転換してくれるぅ?!」 「ごっ!!ごめんなさい!!」 絶叫するように詫びたミランダを、高い所から見下ろして、ジェリーが太い笑みを浮かべる。 「せっかくのケーキを、落とすとこだったわ。ミランダ、アンタ、罰としてこれ持って行きなさいよ!」 「私が?!」 悲鳴じみた声を上げるミランダに、ニコニコと笑いながら、ジェリーは太い両腕で支えていたケーキの大皿を、ワゴンに乗せた。 「そうよぉ。アンタが持って行ったら、リーバーも喜ぶでしょうからねぇ。ホラ、早く!」 そう言って、ジェリーはワゴンの持手をミランダに譲る。 と、 「じゃあ、ミランダさんが用意したプレゼントは、僕が運びますよ」 「ミランダ、私たちと一緒に行きましょ!」 すかさずアレンとリナリーが寄って来て、ミランダの両脇を固めた。 逃げられなくなったことで、ようやく決意したミランダは、ケーキの乗ったワゴンを、リーバーの元へ運んで行く。 「さぁさぁ!みんなぁー!ケーキが来たわよぉ!」 食堂中に響き渡ったジェリーの声に、全員の目がミランダ達に集まった。 いや、正しくは、彼女が運ぶケーキに。 彼女らが通り過ぎる度、 「さすが料理長・・・」 「でけー・・・・・・」 と、感嘆の声が上がる。 そして、彼女らが到達した場所でも、 「すげー・・・・・・」 と、リーバーが、彼の身長の倍はある巨大ケーキを見上げ、呟いた。 「すごいのはケーキだけじゃないですよ!」 ぴょこ、と、ケーキの影からアレンが顔を出し、大きなプレゼントの箱を、リーバーの前に置く。 「ミランダから、班長にプレゼントですって!」 アレンの反対側から、リナリーも顔を出し、一緒にミランダを引っ張り出した。 「ミランダさん!」 思わず喜色を浮かべたリーバーの前で、ミランダは顔を真っ赤にして俯く。 「あの・・・おめでとうございます・・・・・・」 か細い声で囁いたミランダに、リーバーは大きな笑みを浮かべた。 「ありがとうございます!開けていいっすか?」 「あ・・・ハイ!」 明るいリーバーの声に、ミランダはすんなりとプレゼントを差し出すことができた。 ジェリーの思惑か、巨大ケーキとアレン達が、周囲の視線から彼女の姿を隠してくれたことも、勇気を出せた一因だろう。 が、リボンを解き、大きな箱を開けて、中の物を覗き込んだリーバーは、目を丸くして動きを止めた。 「き・・・気に入りませんでしたか?!」 ミランダの、悲鳴じみた声に、しかし、リーバーは破顔して首を振る。 「いいえ・・・びっくりしただけです」 言いながら、リーバーは箱の中に手を差し入れ、中の物を取り出した。 「わぁ・・・!」 「可愛い!!」 興味津々と、リーバーの手元を窺っていたアレンとリナリーが、出てきたものを見て歓声を上げる。 リーバーが箱の中から取り出したのは、灰色の毛並み、大きな耳の動物―――― コアラだった。 もぞもぞと動いては、小さな手に持った葉を食べる様は、抱きしめたくなるほど可愛らしい。 「班長班長!!私にも抱っこさせて!!」 「リナリーの後で、僕も抱っこしていいですか?!」 きゃあきゃあと寄って来る二人を、しかし、リーバーはやんわりと押し留めた。 「待て待て。コアラの爪は鋭いから、このまま抱くと怪我するぞ」 そう言うと、彼は一旦コアラを箱に戻し、自身の白衣を丸めてコアラに持たせた。 「わぁぁぁ!!抱きついたぁぁぁぁぁ!!」 「かっ・・・可愛い!!!」 甲高い歓声を上げる二人の目の前で、再びリーバーが、コアラを抱き上げる。 「ミランダさん、ありがとうございます!すごく懐かしいですよ」 にっこりと笑ったリーバーを見て、ミランダも嬉しそうに笑みほころんだ。 「よかった・・・。 それで・・・あの・・・・・・」 ミランダの、中々言い出せない言葉を察して、リーバーが、赤子のように抱いていたコアラを、ミランダに差し出す。 「どうぞ、抱いてみてください。爪に気をつけて」 「はい・・・!」 嬉しそうに笑って、ミランダは、リーバーから暖かい生き物を受け取った。 「ミランダー!次、私ね?私ね?」 「その次は僕!僕!!」 おねだりをする猫のように、ミランダの周りに擦り寄る二人に、リーバーは苦笑する。 と、ふと気づいて、辺りを見回した。 「ラビは?こんなの見つけたら、一番に寄って来る奴が、どこ行っちまったんだ?」 リーバーの問いに、彼の周りにいた者達が、一斉に部屋中を見渡す。 「ホントだ!どこにもいないや」 「あのお祭り好きがパーティに参加しないなんて、あり得ないのに・・・」 「ブックマンもいないっすね・・・・・・」 ざわざわと、声が上がった時だった。 「みんなー!準備できたさ!」 件の少年の声が、部屋の外・・・中庭に面したテラスから上がった。 「ちょっと、外に出てくれー!」 陽気な声に誘われて、パーティ会場と化した食堂から中庭へ、次々と人が出てくる。 と、イノセンスを手にしたラビが、舞台俳優よろしく、中庭の中央に立って一礼した。 「親愛なるリーバー班長へ。かつての生徒から、誕生日祝いさ!」 「へ・・・?」 生徒?と、呟いて、訝しげに首を傾げたリーバーの目の前で、ラビが槌を一閃する。 と、彼の周りを、いくつもの文字が巡り、その中の『火』の文字が、ラビの正面で止まった。 「火判!」 一声、槌を振り下ろした地面に、『火』の文字が刻まれ、炎が巡る。 「劫火灰燼!」 火は立ち昇るや、中空で巨大な蛇の形となり、城の棟と棟の間に張り巡らされた鉄線に吊るされた玉に喰らいついた―――― 途端、色鮮やかな火花が弾け、夜空に、巨大な花を咲かせる。 「花火だ・・・!」 「すっげぇぇ!!」 大きな歓声を受け、気を良くしたラビは、次々に火柱を立ち上げ、あらかじめ吊るしておいた玉を、炎の蛇に食わせていく。 その度に、夜空には色鮮やかな花が咲いた。 朱赤、黄赤、黄緑、青、紫―――― 闇に咲く花々に、リーバーは、愉快そうに笑った。 「カルシウム・ナトリウム・ホウ素に銅、カリウム・・・よくこんなに集めたな」 「あぁ! 昔、あんたが教えてくれたんさ!身近なもんでできる、炎色反応の実験♪」 楽しそうにくるくると回りながら、ラビは槌を振り回し、炎を立ち上げては夜空に花を咲かせる。 「真っ当なプレゼントは、お気に召したかい、先生?」 最後に、色とりどりの花々を、一斉に咲かせたラビは、両腕を大きく広げ、大歓声と拍手の中、気取って一礼した。 「あぁ、さすがは俺の、一番の生徒だ。見事な炎色反応実験だったぜ!」 親指を立て、ニッ、と笑ったリーバーに、槌を収めたラビも、嬉しそうに笑う。 「・・・けど、素材を破裂させるための火薬は、どっから持ってきたんだ?」 訝しげに眉をひそめるリーバーに、ラビは、『てへ 「武器庫の銃弾から、火薬全部抜いちゃった あは 「なんっだと、てめぇぇっ!?」 「なんてことしやがるか、このクッソガキャ――――!!」 怒号を上げつつ、一斉にラビに詰め寄った警備員達の眼前から、しかし、ラビの姿は一瞬にして掻き消えた。 「えっ?!」 息を呑み、瞠目して辺りを見渡した彼らの目の前に、血反吐を吐きつつラビが降ってきて、ぐしゃりと地にめりこむ。 一体何が起こったのか、と、呆然と立ちすくんでいると、地に伸びたラビの上に、同じく上空から降って来たブックマンがきれいな着地を決めた。 「すまんな、おぬしら。 私の弟子は、どうも、加減と言うものを知らん」 ぐりぐりと、容赦なく弟子を足蹴にする老人に、さすがの彼らも、怒りを忘れて言葉を失う。 「この馬鹿には、ちゃんと仕置きをしておくゆえ」 「いえ・・・どうぞもう、その辺で・・・・・・」 これ以上仕置きを受けたら、死ぬんじゃないか?と、不安な目で見守る男達の視線を平然と受け流して、ブックマンは、失神した弟子を引きずりつつ、共に退場した・・・。 「・・・いい舞台でしたね」 オチもついて、と、引きつった笑みを浮かべるアレンに、リーバーもぎこちなく頷く。 「豪快なのは、ラビだけじゃねぇなぁ・・・・・・」 あのじいさんも加減を知らねぇよ、と、呟くリーバーに、ミランダからコアラを受け取ったリナリーが、一際はしゃいだ声を上げた。 「ねぇねぇ、班長!コアラの名前、なんにするの?」 花火の後の惨劇など、見なかったと言わんばかりの彼女に、リーバーは苦笑する。 「そうだなぁ・・・ミルスなんてどうだ?」 「ミルス?」 リーバーの言葉を復唱したアレンは、不思議そうに首を傾げた。 「初めて聞く言葉なのに・・・なんでかな、聞いたことがある気がする」 そう言うと、リーバーは、大きな笑声を上げた。 「ラテン語だからな。英語とも、深く繋がっているさ」 「あー、そっか。なんて意味ですか?」 何度も頷きながら、アレンが問うと、リーバーは、なぜか、ミランダを見て笑う。 「素晴らしい、って意味」 そう言って、いたずらっぽく片目をつぶったリーバーに、ミランダは呆然とし・・・次の瞬間、頭から湯気が出るほどに赤くなった。 Mirus・・・『素晴らしい』と言う意味のラテン語は、また、『Miranda(ミランダ)』の名の由来でもあった。 Fin. |
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リーバー班長お誕生日記念SSでしたv これは、3万ヒット記念リクで、邑さんより頂きました、『班長&ラビSS』も兼ねていますv(うまく絡んでいるだろうか;) 9月8日の誕生花は諸説ありまして、背景はその一つ、竜胆(りんどう)。花言葉は『正義』です。 他にも鳳仙花(私に触れないで)やトリトマ(あなたは私を楽しませる)、果てはトリカブト(騎士道・厭世家・人間嫌い・敵意・美しい輝き(爆笑))まであったのですが、竜胆の他には素材が見つからなかったのさ(笑) トリカブトと言えば、コムイの誕生花にもジキタリスがあることだし、この二人、『教団史上最強の毒花コンビ』として、後世に語り継がれるといいと思います(笑) そして、『Miranda』の名前はシェークスピアの造名らしく、『Mirus』が語源とは、はっきりは言えません。 ただ、『ミランダ』の短縮形である『Mira』の語源が、『Mirus』だったというだけです・・・; ちなみに、『Mirus』が本当に『ミルス』と発音するかどうかも怪しいです; |