† あいのしるし †
「あー・・・終わった終わった 一晩中行われた、ハロウィンパーティの後片付けを終えたジェリーは、清々しく笑って、筋骨隆々たる腕を振った。 「お疲れ様でした、料理長!」 「あはん 何日も前から働きづめだったシェフ達に、朗らかに声を掛けながらも、ジェリーは、洗ったばかりのまな板にカボチャを載せる。 「あれ?料理長、明日の仕込みなら俺たちが・・・」 夜勤のシェフ達が言うと、彼女は、にこやかに首を振った。 「違うのよぉ。 これは、ジャック・オ・ランタンを作ってくれた子達への、ご褒美なの 仕込みだけしとくから、明日、あの子達に焼いてあげてくれるぅ?」 そう言って、ジェリーは切ったカボチャを蒸す間、パイ生地を練り上げていく。 「いいですけど・・・パイって、どんだけ作るんすか?」 シェフ達が、呆れつつ見やった先では、一目では数え切れないほどのカボチャが蒸され、ベッドにすらなりそうな量のパイ生地が練られている。 「いくつかって聞かれたら、3個だわね」 「・・・この量で3個しか作んないって・・・あぁ!一つは、ウォーカーさん用だ!」 手を打った彼らに、にっこりと微笑み、ジェリーは、練り上げたパイ生地を、手早く3つに分けた。 「この、一番大きいのがアレンちゃんね で、普通の大きさのがラビ、小さいのは神田にあげてちょうだい」 「神田さん?あの人、パンプキンパイなんて食べるんですか?」 「大丈夫よ 言いながら、彼女は、蒸しあがったカボチャを、熱いうちに裏ごししていく。 その、神業的な手早さを、まだ経験の浅い、若いシェフ達は、ぽかんと口を開けて見つめた。 いや、手早さだけではない。 大量のカボチャペーストに、砂糖や生クリーム、卵黄を、完璧に混ぜ合わせる技量と膂力。 繊細な気遣いと、逞しい二の腕を併せ持つ、彼女にしかできない業だった。 「よく見ていろよ、お前ら!たくさんの材料を、無駄なく効率よく、完璧な一つの物にしてしまうこの技量! 教えられるのを待つな!見て盗め!!」 先輩シェフの叱咤に、若手達が真摯な目で応える―――― 体育会系の熱気に満ちた厨房で、一人、ジェリーだけが優雅に振舞っていた。 「ホホホホホ 料理は気遣いと心意気よー 「ウッス!姐さん!!」 若い衆の熱い視線を受けて、ジェリーの腕は更に盛り上がった。 ―――― 後刻、 「じゃ、後は任せたわね と、ジェリーは、エプロンを外した。 「料理長、明日から・・・じゃない、もう今日ですね。休暇はどちらで過ごされるんです?」 ジェリーが仕込みを終えたパイに、布巾を掛けつつ問うたシェフを振り返って、彼女は、嬉しげに身をよじる。 「南の国で、バカンスよーん 「へぇ!南フランスとか、地中海とかですか? いいなぁ・・・俺も来年は、実家に帰るのやめて、バカンスにしようかなぁ・・・」 彼の言葉には、笑って答えず、ジェリーは、台に置かれた3つのパイを示した。 「まぁ、大きさが違うから、間違えないとは思うけど・・・神田の分はちゃんと神田に渡してあげてね。 あの子、呼ばれても取りにはこないでしょうけどねぇ」 「はい。 厨房のことも、ちゃんと責任持って管理しますから、安心していってらっしゃい」 「はいはぁい 大きな手を可憐に振りつつ、ジェリーは、厨房を後にした。 自室へと続く、長い石の廊下には、ハロウィンパーティの名残で、紙吹雪やクラッカーが散らかっていたが、明日になれば、清掃班がきれいにしてくれることだろう。 のんびり歩を進めていると、昼に、アレン達が大はしゃぎで作っていた、大きなジャック・オ・ランタンがいくつか、ごろごろと転がっていた。 「あは 思わず寄って見ていると、 「こんばんは」 と、声を掛けられて、ジェリーは飛び上がらんばかりに驚いた。 「カッ・・・カボチャがしゃべっ・・・?!」 思わず裏返った声に、可憐な笑声が重なる。 「ヤダ・・・カボチャじゃないよ、ジェリー」 ふわ・・・と、暗い廊下に風が起こり、大きなカボチャの上に、ラベンダー色の魔女が降り立った。 「ま・・・!リナリー!アンタ、脅かすんじゃないの!」 柳眉を吊り上げると、再び可憐な笑声が上がる。 「ごめんなさい。脅かすつもりはなかったのよ?」 すとん、と、カボチャの上に腰を下ろして、リナリーは、頭にかぶった、大きなラベンダー色の三角帽子を取った。 「ね・・・ジェリー、明日から休暇なんでしょ?」 「そぉよぉ。南の国で、バカンスなの ウフフ・・・と、嬉しげに笑う彼女を、しかし、リナリーは不安げな目で、じっと見上げる。 「・・・・・・ホントは、どこ行っちゃうの・・・・・・?」 「だぁかぁらぁ・・・南の・・・国よ・・・・・・」 困ったように、頬に手を当て、目を逸らしたジェリーからしかし、リナリーは目を逸らさなかった。 「帰って・・・来るよね、ここに?」 「もちろんよ」 瞬時に応えた彼女に、リナリーは、微苦笑を浮かべる。 「約束よ。お土産、楽しみにしてる」 そう言うと、リナリーは立ち上がり、ぎゅ・・・と、ジェリーに抱きついた。 「全く・・・いつまでも甘えんぼねぇ、アンタは」 「いいじゃない・・・・・・」 上から降り注ぐ呆れ声に、リナリーは更に、きつく抱きつく。 「約束よ・・・?」 再び囁かれた言葉に、ジェリーは、リナリーの髪を撫でつつ頷いた。 「わかったわよ、甘えんぼさん。ちゃんと帰って来るから。泣かないの」 ぽんぽん、と、優しく背中を叩いてやると、リナリーは、ジェリーに抱きついたまま、微かに頷いた。 翌日、ジャック・オ・ランタンのごほうびを取りにいらっしゃい、という、ジェリーからの伝言を受けて、アレンとラビは、食堂へ走って行った。 「ジェリーさぁぁぁぁん!!」 「ごほうび取りに来たさ!!」 我先にとカウンターに取り付いて、アレンとラビが声をかけると、シェフの一人が苦笑しつつ、パイの載った皿を持ってきた。 「早かったですね。さすが、エクソシスト」 言いつつ差し出された皿には、どちらにも、こんがりと焼けた、おいしそうなパンプキンパイが乗っていたが、その一方は、通常の10倍は軽くありそうな大きさだ。 「あれ?ジェリーさんは?」 当然のように、巨大な方のパンプキンパイを受け取りながら、アレンが問うと、彼は軽く頷いた。 「料理長は、今日から休暇です。 毎年、ハロウィンが終わると、交代でお休みするんですよ。 12月から1月までは、俺達、休む暇もないから」 「そっか・・・年末年始は、大変だもんなぁ、厨房は」 通常サイズのパイを、嬉しげに受け取りながらラビが言うと、シェフは軽い笑声を上げる。 「まぁ・・・ハードですけど、あなたたちみたいに、命かけてるわけじゃありませんからね」 そう言って、踵を返そうとした彼だったが、ふと、思い出したようにラビを見遣った。 「そうだ、ラビさん。あなたなら、料理長の年を知ってるんじゃありませんか?」 「へ?なんでさ?」 唐突な質問に、ラビが目を丸くすると、他のシェフ達からも、期待に満ちた視線が向けられる。 「だって、ブックマンはなんでも記録するのが仕事なんでしょ?」 彼の言葉に、背後で、シェフ達がうんうん、と頷いた。 「そうだけど・・・姐さんの年まではカバーしてないさ!」 途端、あからさまに肩を落としたシェフ達に、アレンが、不思議そうに首を傾げる。 「なんでそんなに、ジェリーさんの年が気になるんですか?」 と、シェフ達は、困惑顔で顔を見合わせた。 「今月7日・・・料理長の誕生日なんですけどね、誰もあの人の年を知らないものだから、ロウソクを何本用意すればいいか、わからなくって」 「・・・・・・・・・・・・そんな理由?!」 思わず、呆れ声で合唱してしまったラビとアレンに、シェフ達が一斉に反駁する。 「だって!デリケートな人なんですよ、ウチの料理長!」 「1本でも多かったら、機嫌を損ねるじゃないですか!」 「かといって、あからさまに少ないのも嫌味だし!」 「だからってロウソク立てないのはかわいそうだし!!」 「・・・じゃあ、直接本人に聞けばいいさ」 「それができたら、あんたには聞いてないんですよっ!!」 がつんっ!と、怒鳴られて、ラビは首をすくめた。 「こうなったら、ウォーカーさんっ!あなたは料理長のお気に入りだし!」 「聞いたらきっと、あなたには・・・!」 シェフ達の、期待に満ちた目に、しかし、アレンはきっぱりと首を振る。 「なんでですかっ?!」 絶望に満ちた声に、アレンは、どこか遠くを見遣った。 「女性に年を聞くのは、野暮です・・・」 彼の言葉に、ラビもシェフ達も、しばらく、声を上げることができなかった。 その声には、少年らしくもなく、あまりにも深い自嘲と反省が込められていたのだ。 「・・・お前・・・一体、どんな経験すれば、そのセリフをそんな声で言えるんさ・・・?」 ラビの問いに、アレンは、ふっ・・・と、暗い笑みを漏らす。 「女性遍歴華々しい、クロス元帥の弟子ですよ、僕は・・・?」 「・・・っわかった!もう、みなまで言うな・・・・・・!」 ラビの提言に、シェフ達も、一様に深く頷いた。 「休暇かぁ・・・。いいなぁ」 言いながら、アレンは、バケツのように大きなボウルから掬った、柔らかい生クリームを、まだ熱いパンプキンパイにつけて頬張った。 「まぁ、任務がない時は、休暇みてぇなもんだけどな、俺達は」 アレンの正面の席で、同じくパンプキンパイをつつきながら、ラビが笑う。 「寝てるとこを連行されて、気がついたら船の中だったってコトもあるけどね」 「そんなん、しょっちゅうさ。 ウチのジジィ、目的地をいわねーから、うっかり寝てたら、汽車から突き落とされたことあったもんな」 「・・・よく死ななかったね」 乾いた笑声を上げるアレンに、ラビも、『全くだ』と、深く頷いた。 「目的地と言えば、姐さん、どこに行っちまったんかなぁ? シェフは、南にバカンスに行ったっつってたけど」 「バカンス?実家に帰ったんじゃなくて?」 フォークを咥えたまま、アレンが小首を傾げる。 「インドの人だったよね、ジェリーさん? どの辺りの出身なのかな?僕がいたとこと近いかな?」 濃いミルクティーを、マグカップにダバダバと注ぎながら、アレンは、機嫌よく笑った。 が、 「実家に帰るってコトはないかもな。 姐さん、親とケンカして、家出したっつってたもん」 「え?!そうなんだ?!」 「そうなんさ・・・溢れてんぞ」 「え?うわっ!!」 ラビの指摘に、アレンは傾け続けていたティーポットを、慌てて元に戻す。 と、 「・・・もったいないね」 テーブルの上にできた水溜りに視線を落として、アレンがぽつりと呟いた。 「え?ミルクティーが?」 ラビの問いに、アレンは首を振る。 「ううん。 家があるのに帰らないとか、親がいるのに会わないとか」 カップから、溢れそうなミルクティーをすすって、アレンは一つ、吐息した。 「まあ・・・俺らから見りゃ、贅沢だよなぁ、姐さんは・・・」 言いつつ、ラビはさり気なく、自分の皿を手元に引き寄せる。 「僕は、帰りたくても家はないし、会いたくても親はいないもん・・・」 しゅん、と、うなだれるアレンに、ラビも頷いた。 「そりゃ、俺も同じさ―――― だから!」 キィン!と、鋭い音がして、アレンとラビのフォークが、宙で絡み合う。 「同情を引いて、俺のパイを横取りしようとすんじゃないさ!」 「ケチ」 「それが、俺の10倍はあるパイを完食したヤツのセリフか!!」 フォークを剣戟のように烈しく戦わせ、ラビは自分のパイを死守する。 「cry over spilled milk―――― 零れたミルクを嘆いても仕方ないっつーだろ! 姐さんのことだから、過ぎた事をうだうだ言うよりは、今頃、今年のクリスマスにどんな創作料理を出すかに知恵を絞ってんだろうさ!」 何とか、アレンの攻撃を退けたラビが、荒く息をつきながら言うと、アレンは、不満げにフォークを咥えたまま頷いた。 「ジェリーさんがいないからどうしようかと思ったけど・・・やっぱ、みたらし団子食べようっと♪」 「そっちかよ、ヲイ・・・!」 脱力しながらも、ラビは、再び襲ってきたフォークを弾き返した。 「すみませーん!みたらし団子を・・・」 アレンが、再び厨房のカウンターに行くと、厨房の中ではリナリーが、シェフを相手に何やら懸命に話していた。 「あれ?リナリー?」 アレンが声をかけると、リナリーは涙の滲んだ目を向ける。 「ど・・・どうしたんですか?!」 リナリーの涙に驚いて問うと、彼女は、キッとまなじりを吊り上げた。 「ジェリーにケーキを焼いてあげたいのに、シェフ達が、オーブンを使っちゃダメって言うの・・・!」 「なんでです?」 目を丸くして、アレンがシェフ達に問うと、彼らはとんでもないことだ、と言わんばかりに烈しく首を振った。 「料理なんか滅多にしない子が、オーブンを使うなんて、危ないからですよ!」 「オーブンの火力をなめちゃいけない!あなたに何かあったら、俺達がコムイ室長に殺されるんです!」 「め・・・滅多にお料理をしないのは事実だけど! オーブンを使うのは初めてじゃないもん!」 甲高い声を上げて、リナリーはアレンを振り返る。 「ねぇ、アレン君?!私、エッグタルト、作ったよね?!」 「ハイ、おいしかったですよ」 にっこりと笑ったアレンを示し、リナリーが、『ほら!』と、得意げに胸を張るが、 「焼くのは料理長がやってくれたんでしょう?」 「あんた、オーブンの仕込み、なめんじゃないですよ」 「焼き方になるには少なくとも、1年は修行してもらわないと!」 と、シェフ達はけんもほろろだ。 「そんなに長いことかけてたら、来年のお誕生日祝いになっちゃうじゃない!」 「そうそう、来年また、出直しておいで」 「ほらほら、仕事の邪魔だから!」 「お菓子あげるから、向こうで食べておいで」 あからさまに子供扱いで、リナリーは、クッキーの入ったバスケットと共に、厨房から追い出された。 「ひっ・・・ひどい!!チャレンジもさせてくれないなんて!」 鼻先で、ぴったりと閉ざされたドアに、リナリーは拳を打ちつける。 が、カウンターの向こう側ではシェフ達が、何も聞こえない振りをして、仕事に戻っていた。 「ジェリーに言いつけてやるから!」 「どうぞご勝手に!」 冷たく返されて、更にいきり立ったリナリーをなだめながら、アレンは、元のテーブルに戻って行った。 「なんか、猫が騒いでるような声がすると思ったら、リナリーだったんさ?」 「甲高くて悪かったわねっ!」 ラビの言葉に、ぷんっ!と、頬を膨らませて、リナリーは、テーブルにクッキーの入ったバスケットを置いた。 「ジェリーには、いつもお料理を教えてもらっているから、お誕生日にはその成果を見せようと思ったのよ、私! なのにシェフ達ったら、、なんてわからずやなのかしら!」 だんっ!と、テーブルを叩くリナリーに、しかし、ラビは、深々と吐息する。 「料理長のいねー時に、厨房大爆発なんて事になったら、サイアク、シェフ達のクビが飛ぶもんな」 「なによ、失礼ね! 私、そこまで不器用じゃないもん!!」 更に憤ったリナリーを、ラビは、猫のように光る目で、じっと見つめた。 「薪に火を点けた事もないくせに」 「うっ・・・・・・!」 「火加減の調節もできないくせに」 「うぅ・・・・・・!」 「今、ジェリー姐さんがいなくて、シェフ達は忙しいんさ。あんま、手を焼かせちゃ悪いさ」 「うー・・・・・・!」 反論することもできず、リナリーは、目に涙を溜めて肩を震わせる。 と、 「ラビ・・・そこまで言わなくても・・・」 さすがに気の毒になって、アレンが仲裁に入った。 「リナリーだって、いつもお世話になっているジェリーさんのためを思って・・・」 が、 「火をなめんじゃないさぁ。 リナがひどい火傷なんかしたら、コムイが泣きじゃくるぜ?お前も、リナに怪我なんかして欲しくねぇさ?」 「あ・・・それはそうかも」 と、あっさり引き下がる。 「な? リナ、アレンの迷子癖が不治の病であるのと一緒で、お前の料理下手もそう簡単には・・・」 「しっつれいね!!」 ラビの言葉に、リナリーは真っ赤になって、テーブルを叩いた。 「オーブンを使っちゃダメだって言うなら、いいもん!他のを作るから!」 「火加減も見れないお前が、作れるもんなんてあるんさ?レパートリーも少ないクセに」 「余計なお世話よ!」 べしっ!と、クッキーを一掴み叩きつけて、リナリーは席を立つ。 「ジェリーが帰ってくるまでに、ぜーったい!レベルアップしてやるんだから!」 ぷんっ!と、頬を膨らませ、踵を返したリナリーを見送ったアレンは、粉々になったクッキーにまみれたラビを、目を丸くしたまま振り返った。 「ど・・・どうしたのかな、リナリー? なんだか、妙に苛立ってない?」 「俺の言ったことが、図に当たったからか?」 クッキーを払いつつ、首を傾げたラビに、アレンは深々と吐息する。 「もうちょっと、言葉に気をつけたら?リナリーは、女の子なんですから・・・」 「正直に言っただけじゃんか」 「正直すぎるのも時によりけり」 キィン!と、鋭い音がして、またもや、ラビとアレンのフォークが絡み合った。 「食欲に正直なお前に言われたくないさ」 「・・・・・・ちぇっ」 食堂を出たリナリーは、そのままミランダの部屋に駆け込んだ。 「えぇー・・・? オーブンだけじゃなくて、火も使っちゃダメなの・・・?」 「そうなの!危ないからダメだって言うの!だから、火を使わなくてもいいレシピ、何か知らないかなぁって・・・!」 「火・・・を使わない料理って・・・あるの・・・?」 サラダくらいじゃない?と言うミランダに、『やっぱり?』と、リナリーも肩を落とす。 「でも・・・火を使っちゃいけないのは、厨房でだけでしょ?」 にこ、と、微笑んだミランダに、リナリーは、はた、と気づいて、苦笑した。 「ミランダさん、そんなに科学班に入る口実欲しい?」 「え・・・?えぇっ?!」 リナリーに図星を指され、真っ赤になって、身を竦めた彼女に、リナリーは、意地の悪い笑みを浮かべる。 「班長の助手になるなら、兄さんに頼んであげてもいいよ?」 「そっ・・・!!そんな事言ってないわよ?!」 慌てふためいて手を振るミランダに、リナリーは、笑みを深めた。 「そぉ?班長は、喜ぶんじゃないかなぁ」 殊更、からかうように言う彼女に、ミランダは、訝しげに眉をひそめた。 「リナリーちゃん、どうかした?」 「何が?」 にっこりと、いつも通りに微笑んだ彼女に、ミランダは、眉間の皺を深くする。 「何か・・・苛立ってるみたいだわ。 あなたが人に八つ当たりするなんて・・・よほどのことでしょ・・・?」 気遣わしげに問われて、リナリーは、ミランダ以上に顔を赤らめた。 「ご・・・・・・ごめんなさい・・・・・・っ!!」 うなだれるように、深くこうべを垂れたリナリーに、ミランダは更に気遣わしげに顔を寄せる。 「どうしたの?何かあった・・・?」 言いながら、ミランダはリナリーをベッドに座らせ、その隣に腰を下ろした。 と、リナリーは、俯いたまま、こくりと頷く。 「ジェリーさんが、どうかしたの?」 再び尋ねると、リナリーはまた頷いた。 「一体・・・・・・」 「帰ってこないかもしれない・・・・・・! ジェリー、もう、ここには帰ってこないかも・・・・・・!!」 「えぇ?!どうして?!」 瞠目して、声を高くしたミランダの胸に、リナリーはすがりつくように顔を埋める。 「ジェリーは・・・家に・・・帰ったの・・・! 家出してから、もう、何年も帰ってなかったのに・・・・・・!」 いつしか、涙声になったリナリーの背を撫でながら、ミランダは先を促すように頷いた。 「ちゃんと・・・話をつけてくるって・・・・・・だけど!」 涙に濡れた顔を上げ、リナリーは、ミランダを見上げる。 「両親に会ったら・・・きっと、ここに帰りたくなくなるよ・・・!」 とうとう、声を上げて泣き出したリナリーを抱いてやりながら、ミランダもまた、動揺せずにはいられなかった。 ジェリーは、エクソシストと言う大役の前に怖気づいていたミランダを受け入れ、励まし続けてくれた、頼りがいのある存在だ。 彼女のいない教団なんて、考えられない・・・・・・。 どうにかすれば、リナリー以上に混乱しそうになる思考を何とか留め、ミランダは、震える手で、泣きじゃくるリナリーの肩を掴んだ。 「だ・・・大丈夫よ・・・! ジェ・・・ジェリーさんは・・・あ・・・あなたを・・・・・・見捨てたりしないもの・・・・・・!」 自身の言葉に、ミランダは、はっ、と、目を見張った。 リナリーが、まるで、捨てられることを恐れて泣く子供のようだと気づいたのだ。 「そうよ・・・ジェリーさんは、絶対、あなたを見捨てたりしないわ!」 やや自信を得た声音に、リナリーも、泣き声を止める。 「大丈夫よ・・・。一緒に、あの人の帰りを待ちましょ? そして彼女が帰ってきた時、お料理の弟子として、レベルアップしたんだって所を見てもらわないとね」 クス・・・と、笑みを漏らしたミランダに、リナリーは大きな目を見開いた。 「私も、あなたのレベルアップに協力するわ」 「うん・・・!ありがとう・・・・・・!」 「けど、リナの腕でレベルアップったって、たかが知れてるさ」 突然、間近で沸いた声に、ミランダとリナリーは、飛び上がらんばかりに驚く。 「ラ゛・・・!!ラビ君??!!」 「一体どこから・・・?!」 「だーって。アレンが、リナの様子が変だって言うからさー」 「い・・・言いましたけど・・・!僕、勝手にレディの部屋に入るのには反対したんですよ?!」 信じてください!と、涙ながらにすがり付いてくるアレンには頷いて、リナリーは、ラビをきつく睨みつけた。 「神出鬼没は構わないけど、レディの部屋には勝手に入ってこないで!」 「だって、カギ開いてたし?」 「そう言う問題じゃないの!出て行って!!」 更に目を吊り上げたリナリーに、しかし、ラビはいたずらっぽく笑いかける。 「そんなこと言っていいのかなぁ? せーっかく、料理の下手なリナが、厨房を使わなくてもできそうなものを教えてやろうと思ったのにさ?」 「え・・・・・・?!」 「そんなものがあるの?!」 怒りも忘れて、問い返した彼女達に、ラビは、笑って頷いた。 「ミランダも、科学班に入る口実ができて、一石二鳥なものさ♪」 「え゛・・・っ!!」 ラビの言葉に、ミランダが真っ赤になって身を引く。 「ぜひぜひ、リーバーにも手伝ってもらおーなー?」 からかうような声音のラビと、真っ赤になって俯くミランダを興味深げに見ているアレンを、リナリーは、咎めるように睨みつけた。 「食用着色料〜〜〜〜?そんなん、厨房にあるだろ?」 ラビに声を掛けられたリーバーは、振り向きもせず、素っ気なく応じた。 「厨房からは追い出されたんさ。だから、リーバーに作ってもらおうと思って♪」 「お前なぁ・・・・・・俺が今、どんだけ忙しいか・・・・・・」 冷たく突き放そうとした時、 「そうですよね・・・すみません、リーバーさん。 ちょっと、お部屋の隅で、火を貸していただくだけで構いませんから」 控えめに発せられたミランダの声に、リーバーは勢いよく振り返る。 「いえ!植物から色素を取り出すなんて、準備さえしてしまえば仕事に影響しませんから!何色が欲しいですか、ミランダさん?!」 途端、態度を変えたリーバーに、ラビが、声を必死に抑えて爆笑した。 「リーバーさん、全然態度違うし・・・」 「な?ミランダを連れてきて、正解だったさ?」 呆れ声のアレンに、笑いの発作に襲われ続けているラビが、苦しげに言う。 「リーバー!とりあえず、赤・青・黄色をくれよ!他の色は、混ぜてなんとかすっから!」 すかさず、必要量の交渉に入ったラビに、アレンはふと思いついて、コムイの席に走っていった。 『科学班室長』のデスクでは、ハロウィンパーティで全身に火傷を負ったため、未だにミイラのように包帯でぐるぐる巻きにされたコムイが、決済のはんこを捺している最中だ。 彼は、にこにこと駆け寄ってきたアレンを見やると、 「どうしたの、アレン君?何か用?」 と、何のこだわりもなく尋ねた。 「コムイさん、発光キャンディーの材料、分けてくれませんか?」 アレンの要請に、しかし、コムイは眉をひそめて首を振る。 「ダメダメ!あれは、発火の危険があるってわかったからね。 キミだけならともかく・・・・・・」 と、コムイは、アレンの背後に立つリナリーに、気遣わしげな目を向けた。 「リナリーが怪我でもしたら大変だよ!」 「じゃあ、出来上がったのでいいですから!まだ、残ってるでしょ?」 にこにこと言うアレンに、コムイは、更に眉間の皺を深くする。 「なに?火を吹きたいの、キミ?」 「違いますよ。飾りにするだけです」 アレンが、ぶんぶんと、烈しく首を振って否定すると、 「誰も食べないならあげてもいいけど・・・リナリー!決して、キミは触っちゃいけないよ?!」 と、縋るような目で、愛しい妹に懇願した。 が、兄に懇願されるまでもなく、リナリーは、そんな危険な物を触ったり、ましてや、口に入れるつもりはさらさらない。 「もちろん、わかってるわ、兄さん」 と、リナリーが返答したのと引き換えに、キャンディーはアレンの手に渡った。 「わーい!コムイさん、ありがとー!」 大喜びで、危険なキャンディーを持ち帰ったアレンに、ラビは、引きつった笑みを向ける。 「何が恐いって・・・・・・ついこないだ、あれだけ激烈な抗争を繰り広げたクセに、にこやかに会話してるオマエラがコエー・・・・・・!」 悪魔同士の関係って、こんなものかもしれない、と呟くラビの耳元に、こっそりと、アレンが囁いた。 「こんなのまだ、序の口ですよ・・・?」 「わぁっ・・・鳥肌が・・・!!」 将来起こるかもしれない、壮絶な婿舅抗争に思いを馳せて、ラビは心底震え上がった。 「そんじゃー!ピエスモンテ作成に取り掛かるさー♪」 「ぴ・・・・・・?!」 「ピエスモンテ――――?!」 「飴を作るとは聞いたけど、そんなに難しいのを作るなんて、聞いてないよ?!」 陽気なラビの宣言に、三人は悲鳴を上げた。 ピエスモンテ―――― 飴を使った工芸菓子は、菓子職人が長い時間を掛けて習得する芸術作品であって、素人4人が数日で何とかできるものではない。 が、ラビは、そんな意見にあっさりと首を振り、にっこりと笑った。 「見た目が派手で、喜ばれて、なおかつ、作っちまえば味は関係ないってーのが、ピエスモンテを選んだ理由さ! 飴細工に必要な濃度さえ覚えちまえば、火加減も細かく調整する必要はないし!」 「で・・・でも・・・!そんなことでできるものなの?!」 かなり疑わしげにミランダが問うと、ラビは、『さぁ?』と、首を傾げる。 「俺は、作り方を知ってるだけで、作ったことはねーから! でも、なんとかなるんじゃね?」 「なんとかって・・・・・・」 呆れるリナリーを、ラビは、『いいからいいから』となだめ、大量の水飴と、リーバーが抽出してくれた着色料を並べた。 「案ずるより生むがやすし!習うより慣れろー♪」 言いながら、彼は早速水飴を火にかけ、色を混ぜていく。 「仕方ないですね・・・」 アレンも、そう呟くと、近くのデスクから紙とペンを借りて、なにやら描き始めた。 「ジェリーさんが喜びそうなのって言ったら、エレガント系ですか?」 さらさらと、音を立てるペンに興味を引かれ、覗き込んだリナリーが、思わず歓声を上げる。 「うっわぁ・・・!アレン君、上手ねぇ・・・!」 紙には既に、幾種類かのデザイン画が描き込まれていたが、そのいずれもが、南国の花やリボンをあしらった、優雅なものだった。 「ホント・・・この孔雀なんて、とってもきれいだわ・・・!」 デザイン画の一つを指し示したミランダに、アレンが、嬉しげに笑う。 「じゃあ、これをベースにしますか? この孔雀の身長を高くして、足元にリボンと花・・・羽根の中心には、コムイさんからもらった発光キャンディーをつけましょう」 言いながら、アレンはデザイン画に細かく指示を書き込んでいった。 「ラビ、後で、このデザインがバランスを取れるように、比率の計算してください」 「おう。 じゃあ、お前たちはその間、飴細工の練習してるさ。 アレンはなんとかなるにしても・・・女子二人、火傷すんなよ」 「そこまで不器用じゃないって言ってるでしょ!」 いきり立つリナリーとは逆に、ミランダは、不安げに肩をすくめる。 「私は・・・無理そうだから、飴を煮る係をやるわ」 「煮詰めすぎないよう、気ぃつけてな」 ラビの忠告と共に鍋を譲り受けて、ミランダは、不安げながらも頷いた。 「そんじゃ、練習開始ー!」 「私、リボンー♪」 「じゃあ、僕、花ー♪」 ラビの宣告と共に、アレンとリナリーは、楽しげに飴細工に取り掛かった。 ―――― が、11月7日当日、ジェリーは夜が更けても、教団本部へ帰ってこなかった。 「・・・・・・帰ってきませんね」 今にも泣きそうなリナリーの傍らで、気遣わしげにアレンが呟く。 「船が遅れてるのかなぁ・・・?」 大きなケーキの前で、シェフ達も困惑げに囁きあった―――― 結局、バースデーケーキにロウソクは立てられず、彼ら渾身のシュガークラフトの花々が、ケーキを色鮮やかに飾っている。 「帰ってこなかったら・・・どうしよう・・・・・・・・・!!」 とうとう泣き出してしまったリナリーに、コムイが大慌てで声を上げた。 「通信班!!ジェリーから何か、通信が入ってないかい?!」 「料理長は、ゴーレム持ってませんよー」 「電話も入ってませんしねぇ・・・」 クラッカーを、もてあそびつつ言う通信員達をねめつけて、コムイは、泣いているリナリーを抱き寄せる。 「大丈夫大丈夫! ジェリーのことだから、ちゃんと帰ってくるよ!ちょっと、遅れているだけさ!」 「でも・・・ホントに遅いですねぇ・・・。列車が事故ったとか、情報入ってませんか?」 シェフの問いに、またもや、通信員達は首を振った。 「そんなに、事故は重なりませんよ。ウォーカーさん帰還時ならともかく」 「・・・僕がなんですか?」 眉をひそめたアレンに、通信員たちの間から笑声が沸く。 「気づいてないんですか、ウォーカーさん? あなたが帰ってくる時とか、出かける時って、必ず船が嵐に遭ったり、列車が遅れたりするんですよ」 「俺たちの間では、嵐を呼ぶ少年って言われてますよ」 「え?!ひどい・・・っ!」 「だって、ホントだもんなぁ?」 「そうそう、だから、リナリー。 ウォーカーさんがここにいる以上、料理長は順調な旅をしているはずですよ!」 嫌味なほど、自信に満ちた言葉に、アレンは忌々しげに眉間の皺を深め、リナリーは更に泣き出した。 「じゃぁ・・・ジェリーは、自分の意志で帰ってこないってことじゃない・・・っ!」 「あぁっ!!リナリー、泣かないで・・・!!キミ達も、余計なコト言わない!!」 コムイが、一際高い声を上げた時。 「アンタはまた、なーにを騒いでるの?」 訝しげな声に、食堂に集った人々が、歓声を上げ、クラッカーを鳴らした。 「料理長!お帰りなさーい!!」 「は?!・・・はぁ・・・ありがと・・・・・・?」 ただならぬ歓迎振りに、驚きつつも礼を言ったジェリーは、泣いているリナリーに歩み寄り、苦笑を浮かべる。 「そんでまた、アンタはなんで泣いてるの?」 コン、と、軽く頭を叩いてやると、リナリーは、ジェリーに泣きすがった。 「だって!!帰ってこないんじゃないかって・・・・・・!!」 「約束したでしょ、帰ってくるって。 信用ないわねぇ、もぉー・・・・・・」 苦笑して、リナリーを抱きとめたジェリーは、改めて周りを見回し―――― 不思議そうに首を傾げる。 「で?何のお祝いしてんの、コレ?」 「何のって・・・今日、料理長の誕生日でしょー?!」 絶叫したシェフ達に、ジェリーは一瞬、ぽかんと口を開け―――― 続いて、絶叫した。 「ウッソ?!今日だっけ?!え?!今日、何日?!」 「7日だよ・・・・・・」 呆れた口調のコムイに、ジェリーは、頬を真っ赤に染めて、恥ずかしげに身をよじった。 「ヤダ!!アタシ、時差ボケかしら?!6日だと思ってたわ!!」 一日早く切り上げて帰ってきたつもりだったのに、と言う彼女に、すがり付いていたリナリーが、脱力する。 「たった5時間の時差で・・・なんで日付間違えるの・・・・・・?」 「間違えちゃったもんはしょうがないじゃない! じゃあ、ナニ?!アンタが泣いてるのって、アタシが帰ってこなかったから?!」 アラアラ・・・と、困惑げに頬に手を当て、呟いたジェリーに苦笑して、リナリーは、涙に濡れた顔を上げた。 「お帰り、ジェリー」 「ハイ、ただいま」 にっこりと笑った彼女に、バースデーパーティの開始を告げるべく、改めてクラッカーが鳴らされた。 「お誕生日おめでとうございます、料理長!!」 「ぜひ!!俺達の成果を見てください!!」 厨房の若い衆達が、絶叫と共に彼女の前に進み出て、広いテーブルを指し示す。 そこにずらりと並べられた、渾身の作品群に、ジェリーは微笑みながらも鋭い目を光らせた。 「あら・・・!あのピエスモンテは、誰の作品かしら?」 実物大ではないかと思うほど、大きな孔雀に、花とリボンをあしらった飴細工を示すと、リナリーとアレン、ラビ、ミランダの4人が挙手する。 「俺ら、がんばったさ、姐さん!!」 ラビの声に、ジェリーは嬉しそうに頷いた。 「ありがとう 「ジェリー・・・あれ、孔雀のつもりだったんだけど・・・・・・」 「え?!あ・・・あぁ、そうね!きれいな孔雀だわ!」 リナリーの指摘に、ジェリーが慌てて言い直す。 「ほら・・・!やっぱり、首が太くて短かすぎるって言ったじゃないですか!」 アレンが、ラビを責めるように囁きかけると、 「アホか!!お前のデザイン通りにやったら、首がボッキリ折れてたさ!!」 と、ラビが声を高めて反駁した。 「そこをバランスよく計算するのが君の役目でしょ!」 「初心者に無理なデザインしたお前が悪い!!」 「ちょっと!ケンカしないの、アンタ達!」 ジェリーが、犬のようにキャンキャンと喚きだした二人の間に入ると、『あ』と呟いて、アレンが彼女の腕を取る。 「そだ!ジェリーさん、ロウソクに火をつけてください!!」 「え?ロウソク?」 途端、眉をひそめた彼女に、アレンが大きく頷いた。 「お誕生日キャンドルじゃないですよ! こないだの、発光キャンディーを光らせるための熱源なんです!」 言いつつ、アレンは、孔雀の羽の下に設えた、幾本かの細い一輪挿しを示した。 一つ一つ、長さの違うそれには、フロートキャンドルが浮かび、火を点けられる時を待っている。 「何度も実験して、ようやく成功にこぎつけたんですよ!」 「俺の綿密な計算の賜物さ!!」 「じゃー、明かりを消して演出しないとねー♪」 コムイの合図に、食堂の明かりが消された。 「ジェリーさん、お願いしますね」 ミランダが、火を灯した細長いロウソクをジェリーに渡すと、誰からともなく、バースデーソングが沸き起こる。 楽しげな歌声に乗って、ジェリーが全てのフロートキャンドルに火を灯すと、その熱で、孔雀の羽に仕込まれた発光キャンディーが一斉に輝きはじめた。 「ま・・・まぁぁぁぁ!!なんてキレイなの!!!」 「ヤッター!」 「成功さ!!」 感嘆の声を上げるジェリーの背後で、アレンとラビが、嬉しげに拳をつき合わせる。 「へぇ・・・キャンディーの周りの空気を暖めて、口の中に入れたのと、同じ状態にしたんだね」 感心の声を上げるコムイの傍らで、リーバーも頷いた。 「発光温度、35度でしたっけ? ロウソクを置く場所と浮力の高低差で、発散される熱を調整してんですね・・・でも・・・・・・」 「なに?」 「あいつら・・・周りの飴細工が溶けない工夫はしてんですかね?」 訝しげに眉を寄せたリーバーに、コムイは思わず吹き出す。 「いくら着色料なんかの不純物を混ぜてるからって、熱で飴が溶けないなんて思ってないでしょ。 きっと、羽根の部分だけは他の素材で作ってるんだよ」 ねぇ?と、コムイが傍らのリナリーに笑いかけると、リナリーは、キャンドルと発光キャンディーの、ほのかな明かりを受けた顔を強張らせた。 「リナリー・・・もしかしてあれ・・・全部飴なのかい・・・・・・?」 コムイの引きつった声に、リナリーは、ぎこちなく頷く。 「・・・飴細工を作るのに・・・夢中だったの・・・・・・!」 「総員、撤収――――!!孔雀から逃げろ!!」 すかさずリーバーが叫んだが、遅かった。 ぼと、と、溶け落ちた飴のかたまりが、直下にあった一輪挿しを倒し、更に並べられた一輪挿しはドミノ状に倒れて、偶然にも火が消えずに倒れたキャンドルが、発光キャンディーに着火したのだ。 「きゃあああ?!」 「火の鳥出現?!」 大量の発光キャンディーが仕込まれた、孔雀のピエスモンテは、たちまち炎に包まれ、闇に逃げ惑う人々を妖しく照らす。 「ととととと・・・とにかく火を消すさ!!」 「でも!!発光キャンディーって、水で消えなかったよ?!」 ハロウィンパーティでの惨劇を思い起こし、叫んだアレンに、 「おどきなさい!シェフ達を通して!」 と、ジェリーの甲高い声が命じた。 指示通りに道をあけると、手に手に大きな濡れタオルを持ったシェフ達が駆け寄り、一斉に孔雀を覆い隠す。 と、空気を遮断された炎は、あっけなくタオルの下に封じられた。 「火は消えたわよ!明かり点けて!怪我してる子はいない?!」 彼女の指示で、食堂に再び明かりが点り、落ち着きを取り戻した一同が、ほっとした顔を見合わせる。 「ね・・・姐さん、サンキュー!!」 「怪我人が出なくてよかった・・・・・・」 心底ほっとした様子の犯人達を、ジェリーは逞しい両腕を腰に当て、見下ろした。 「・・・・・・・・・・・・ゴメンナサイ」 小動物のように縮こまり、震えてお仕置きを待つ体勢の二人の頭に、大きな手が載せられる。 「ちょーっと、張り切りすぎちゃったわね、アンタ達! ・・・・・・・・・でも、嬉しかったわよ」 「姐さん!!」 「ホント?!」 ぱぁっと顔を輝かせた二人の頭を、ジェリーは、がしがしと力強く撫でた。 「来年また、作ってね にっこりと笑ったジェリーに、少年達は、大きく頷く。 と、 「あ、そうそう 突然、パン、と手を打って、ジェリーは置きっぱなしだった自身のスーツケースに駆け寄り、なにやら取り出すと、リナリーの元へと駆け戻った。 「約束のお土産よ」 言うや、シャラ・・・と、さやかな音を立てて、リナリーの頭に、色鮮やかな薄紗がかけられる。 「わぁ・・・キレイ・・・・・・」 滑らかな手触りに、思わず笑みを浮かべたリナリーに、ジェリーがにっこりと微笑んだ。 「サリーって言うの。衣装一式、揃えてきたからね。後で着てごらんなさいな」 「うん!ありがとう、ジェリー!!」 歓声を上げて、飛びついてきたリナリーを抱きとめ、ジェリーは、上品な笑声をあげる。 「全く・・・この子はいつまでも甘えんぼさんね 子供をあやすように言いながら、コムイを見やると、彼も、穏やかな笑みを返した。 「それで?話はついたのかい?」 密やかに囁きかけられた声に、くすりと笑みを漏らし―――― ジェリーは、明かりが消された時でも掛けたままだったサングラスを示す。 「まぁたパパと大喧嘩して、痣ができちゃった・・・・・・でも、ここに帰る事は認めさせたわ。 来年また、ケンカしなきゃいけないみたいだけどね 「来年もまた、ケンカをしに帰るのかい?」 クスクスと、コムイが軽い笑声を上げた。 と、 「そりゃあ・・・誕生日は、自分を生んでくれた親に感謝する日ですからねぇ 穏やかな笑声を上げたジェリーのために、今日、三回目の仕切り直しを宣言する、祝いのクラッカーが鳴らされた。 Fin. |
| ジェリー姐さんお誕生日SSでした 誕生会も5回目となり、さすがにネタが尽きていたのですが(苦笑)、拍手で『人を祝うばかりで自分の誕生日忘れてそう』というコメントを頂いて、なんとか方針が立ちました!(笑)ありがとうございます! そして、『オーブンを使わなくていいデザートはないか』と、泣きついたところ、かいんさんに『飴は?』というヒントをもらい、ピエスモンテ作成ー!! あぁ、皆さんの協力のおかげさまで成り立ってます・・!(涙) そして、ジェリー姐さんは、プロフィールに寄れば、『幼い頃、ムエタイ道場を継げと言う親に反発して家出』したとのことですので、○年目の和解をテーマにしてみました。 みんなで幸せになろうぜ!!なぁ?!(縋る目で) ちなみに、19世紀に、1週間でインド・英国間を往復、なんて、不可能だと思います。(断言) |