† Snow Drop †
「―――― 3・・・2・・・1・・・!」 「Happy New Year ――――!!」 カウントダウン完了と同時に、発射されたシャンパンボトルのコルクと、クラッカーから飛び出したリボンが宙を舞う。 「カンパーイ!!」 なんのスピーチもなく、手にした杯を掲げた者達は、もうかなりのところ、酔いが回っていた。 それもそのはず、年越しパーティは、もう2時間も前から行われている。 新たに開いたボトルの中身を、互いのグラスに注ぐ手は、ミランダのグラスの上にもやってきた。 「ホラホラ!ミランダさんも飲んで飲んでー!!イケるクチでしょ?!」 「あ・・・いえ・・・私はもう・・・・・・」 アルコールで顔を真っ赤にしたミランダが、慌てて手を振るが、酔っ払いはそんな言葉を聞きはしない。 「シャンパンなんて、お酒じゃないっすよー!ホラホラ!!」 「いえ・・・でも・・・・・・」 迫ってくるボトルを避け、グラスを高く掲げたミランダだったが、 「そうそう、シャンパンくらいじゃ酔わないって!ハイ、もう一杯!」 完璧に酔っ払っているラビに、いつの間にか背後を取られ、肩越しにシャンパンを注がれていた。 「あらー・・・・・・」 困惑げに、金色に弾ける酒を満たされたグラスを見る彼女に、アレンが苦笑してジュースを渡す。 「無理しなくていいですよ。酔いつぶれちゃったら大変ですし」 「あら、ありがとう、アレン君」 気が利くのね、と、ミランダが微笑むと、ラビが憮然と口を尖らせた。 「邪魔してんじゃないさ、アレン! せっかくみんなで盛り上がろうってのに!」 「あ、じゃあ、僕がそのシャンパン、もらっちゃおうかな?」 そう言って、にこ、と笑ったアレンに、 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・申し訳ありません、アレン様!」 一気に酔いが醒めた様子で、ラビが、深々とこうべを垂れる。 「あんまり、レディに無理強いしちゃいけませんよ 「ハイハイ・・・」 ここぞとばかり、紳士風を吹かせるアレンに、苦々しく頷いて、ラビは自身のグラスに残ったシャンパンを注いだ。 「あれ?まだ飲むんですか?」 「すっかり酔いが醒めたかんな。飲み直しさ」 「あ!じゃあ僕、おつまみ取って来てあげますー!」 「単に自分が食いてぇだけだろっ!!」 「あらあら・・・・・・・・・」 キャンキャンと喚きながらテーブルへと走っていった二人に、ミランダは、仲がいいんだか悪いんだか・・・と苦笑する。 と、 「あー!!ミランダさん、ジュースなんか飲んでるぅ!!」 「ダメじゃないですか!ホラ、飲んで飲んでー!!」 彼女が一人になった途端、ワインボトルを持って迫って来た酔っ払い達に、ミランダは慌てふためいた。 「わっ・・・私、ちょっと失礼しますね!」 「えー?!どこ行くんですかぁぁぁ?!」 「まだ寝ちゃだめですよっ!!」 「すぐ戻ってきてねぇぇー 陽気な声を上げつつ、手を振る酔っ払い達に苦笑を返して、ミランダはこれ以上声を掛けられないよう、そっとパーティ会場を抜け出す。 が、会場を出ても、パーティの喧騒は石の回廊に反響して、幾重にも響き渡り、いつまでもミランダを追いかけてきた。 「・・・屋内で休憩するのは無理みたいね・・・」 耳鳴りのように響く喧騒に、苦笑しつつ呟くと、彼女は庭へと続く道を選ぶ。 「――――・・・ふぅ」 深夜の庭に出て、ようやく彼女は息をついた。 しかし、酒で火照った身体に、冷気が心地よい、と思ったのは一瞬で、すぐに震えが出る。 それもそのはず、ここ数日、降り続いた雪は厚く積もって、すっかり葉の落ちた木々を白く覆っていた。 「・・・部屋から、コートを取ってこなきゃ」 暗い空を見上げて、ポツリと呟いた時、 「その必要はないっすよ」 「え?!」 振り向く間もなく、彼女の身体は、暖かいショールで包まれていた。 「お届けものっす」 「・・・っリーバーさん!!」 ミランダが驚いて振り向くと、背後で、彼はにこりと笑った。 「あの・・・なぜ・・・」 「ここにいるのがわかったかって?後をつけてきたからっすよ」 ショールは、ミランダが部屋を出るのに気づいたジェリーに渡されたのだ、ということは、黙っておく。 「だいぶ飲まされてたみたいっすけど、大丈夫っすか?」 リーバーが気遣わしげに問うと、ミランダは、苦笑して頷いた。 「実は・・・お酒は、それほど苦手でもないんです。 ただ・・・大勢の人に囲まれるのには、慣れてなくって・・・・・・」 そう言って、恥ずかしげに俯いた彼女に、リーバーも苦笑する。 「あー・・・すんません。この教団、女の人が少ないんで、みんなはしゃいじまって・・・・・・」 後でシメときます、と、真面目な顔で言うリーバーに、ミランダは慌てて手を振った。 「そんなっ!悪いのは私ですから! で・・・できるだけ早く、慣れようとはしているんですが・・・今まで、上手に人付き合いできなかったから・・・・・・・・・ゴメンナサイ・・・・・・」 段々とか細くなっていく声に、リーバーは、ふと笑みを漏らす。 「別に、無理しなくってもいいっすよ。 ここって、変人のルツボっすから、合わせようと思ったら、自分も変にならなきゃ無理っす」 そう言って、陽気に笑ったリーバーに、ミランダも、ほっと、頬を緩ませた。 と、リーバーは、次の話題を探すように庭を見回し―――― 雪に覆われた庭の木々を指し示す。 「こないだのクリスマスの時、教えてくれましたよね。クリスマスツリーの起源は、ドイツの民間信仰だって」 リーバーの指す方向を目で追って、ミランダは頷いた。 「えぇ・・・モミの木には小人が住んでいて、村に幸せを運んでくれるんですって。 だから、村人は小人の住む木に飾り物をして、その周りをみんなで踊って、小人にいつまでも木に留まってもらうようにするんですよ」 夜闇に白い息を吐きながら言ったミランダは、ふと思い出して、軽い笑声を上げる。 「ドイツの風習が、英国にまで広まったのは、女王様のご夫君のおかげだそうですね」 「あぁ・・・そうらしいっすね。 アルバート公・・・でしたっけ?俺が生まれる前に亡くなってるけど」 ミランダの言葉に、リーバーは記憶の隅から、現女王の亡夫の名を探し出した。 「そうです。ドイツの方なんですよ」 ヴィクトリア女王の夫、アルバート公は、とうに亡くなっていたが、同国人であるためか、親しみのこもった声音で言うミランダに、リーバーは笑みを漏らす。 「まぁ、今の王室の人間に流れる血は、70%くらいドイツ人ですからね。ドイツの風習を取り入れるのも、抵抗がなかったんじゃないすか?」 彼の、科学者らしい言いように、ミランダも笑みを漏らした。 「道理で、住みやすいはずだわ」 「――――で? ドイツでは、クリスマスも新年も祝うのに、誕生日を祝う風習はないんすか?」 突然、いたずらっぽい声音で問われて、ミランダの鼓動がドキリと跳ねる。 「いえ・・・そんなことはありませんけど・・・・・・」 ドキドキと、鼓動を早くしながら、ミランダが傍らのリーバーを見遣ると、彼の目は、いたずらを企んでいる少年のように輝いていた。 「じゃあ、なんで今日が誕生日だって、誰にも言わないんです?」 「え?!」 ミランダは、真っ赤になって、頓狂な声を上げる。 「お祭好きな連中のことだから、きっと、新年よりも盛大に乾杯したと思うっすよ?」 クスクスと笑声を漏らしていたリーバーは、ミランダが真っ赤になった顔を俯けて、肩を震わせる様に、訝しげに首を傾げた。 「ど・・・どうして・・・・・・!!」 「へ?」 か細い声に、問い返しつつ、耳を寄せると、 「ど・・・どうして私の誕生日を知ってるんですか?!」 引きつった声を上げられて、リーバーは目を丸くする。 「どうしても何も・・・俺、一応、科学班班長なんすけど」 機密書類を見ることのできる彼は、当然、ミランダのプロフィールも入手していた。 「ミランダさんのことは、現在のシンクロ率まで、ばっちりチェックしてますから!」 と、得意げに言ったリーバーに、しかし、ミランダは必死に取りすがる。 「だ・・・誰にも言わないでください!」 「へ・・・?」 存外の反応に、リーバーが目を丸くしていると、ミランダは、顔を真っ赤にして俯いた。 「ぅあっ!!すっ・・・すんませんっ!! そりゃ、女の人が年バラされるのは嫌っすよねっ! だ・・・大丈夫っす!俺まだ、誰にも言ってませんから!!」 慌てふためくリーバーに、ミランダは首を振る。 「ち・・・違うんです・・・・・・!」 「えー・・・と? あ!俺、ミランダさんのスリーサイズはチェックしてませんよ?!」 「違いますっ!」 怒鳴られたリーバーは、これ以上の失言を恐れて口をつぐんだ。 と、ずいぶんと長い沈黙の後、ようやくミランダが口を開く。 「だ・・・だって・・・・・・わ・・・私、こんなに暗い性格なのに、1月1日生まれだなんて・・・恥ずかしくて・・・・・・」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え? そんなことっ・・・すか・・・?」 意外な答えに、つい、問い返すと、ミランダは、涙の浮かんだ目を、キッと上げた。 「普通の日に生まれた人には、わかりませんよっ!小さい頃から、どんなにからかわれたか・・・・・・!」 嫌な思い出がフラッシュバックしたのか、肩を震わせて嘆くミランダを抱き寄せ、リーバーはなだめるように背を叩いてやる。 「大丈夫大丈夫・・・誰にも言いませんから。 ついでに、室長の口も封じておきます」 「お・・・お願いします・・・・・・」 「ハイ。任せてください」 クスクスと、笑声を漏らす彼の振動が、心地いいと感じて・・・ミランダは、更に顔を赤くした。 「でも、誰にも言わないんじゃ、誰からも祝ってもらえなくて、寂しいんじゃありませんか?」 「それは・・・でも、私、あんまり賑やかなのは・・・・・・」 そう言って、控え目に微笑んだミランダの背が、また、ポンポン、と、軽く叩かれる。 「じゃあ、こっそりお祝いしましょう・・・・・・実は、こういうのは、めっちゃ照れるんすけどね・・・・・・」 言うや、リーバーはミランダから離れ、厚く積もった雪を踏みしめて、先ほど彼が指し示した落葉樹の根元まで歩いていった。 「リーバーさん?」 不意に木の根元にしゃがみこみ、雪を掻き分け始めた彼に、何をやっているんだろう、と、ミランダが興味を引かれて見つめていると、彼は雪の上にしゃがみこんだまま、彼女を手招く。 「・・・なにをしているんですか?」 「いや、料理長が、ここに植えたって、教えてくれたんすよね」 「ジェリーさんが?何を?」 興味を引かれて、ミランダも雪を踏みしめ、リーバーの隣にしゃがみこんだ。 「見えます?」 リーバーが指し示すが、暗い空の下では、彼の指先ですらよく見えない。 「なんですか?」 目を凝らし、更に近づくと、リーバーが取り出したペンライトが灯り、白い雪をまとった、小さな花が照らし出された。 「スノードロップ!」 「誕生花ですよね?」 思わず歓声を上げたミランダに、リーバーも嬉しげに笑う。 「ただ、これを贈るのは縁起が悪いんで、見るだけにしておいてください」 「あら・・・よくご存知ですね」 意外そうに、ミランダが傍らのリーバーを見遣ると、彼は照れたように笑った。 スノードロップは、天使の贈り物と言う伝説の他に、『あなたの死を望む』という意味もある。 「ちゃんと調べましたから!」 やや得意げに言ったものの―――― 実は、贈ろうとしてジェリーに叱られたことも、黙っておく。 「だから、プレゼントはこっちにしといてください」 不意に、膝の上に置かれた小さな箱に、ミランダは息が止まるほど驚いた。 「リ・・・リーバーさん?!これ?!」 「気に入ってくれるといいんすけどね」 故意にか、ライトの明かりを箱の上にのみ落とし、リーバーは自身の表情を隠す。 ミランダは、緊張と寒さで、震える手をリボンにかけ、ぎこちなく包装を解いた。 箱を開けると、銀色のピアスが1対、ライトの明かりをはじいている。 「可愛い・・・・・・!」 レースのように透かし細工の施された、可憐な花形のピアスに、歓声を上げると、リーバーがほっと、息をつく気配がした。 「銀は魔を弾き、ピアスは耳から入り込もうとする悪魔を防ぐと言いますから・・・」 思いがけず、真摯な声音で囁かれ、ミランダは、箱から取り出したピアスを、温めるように両手で包み込む。 「ありがとうございます・・・大切にしますね」 と、その手に、大きな暖かい手が載せられた。 「――――・・・お守りにしてください。 次の戦場からも、その次の戦場からも、無事に、帰ってこれるように」 「えぇ・・・きっと・・・・・・!」 どんな顔をして言っているのか・・・表情を見せようとしないリーバーに、ミランダは笑みを深め、耳にピアスをつける。 「似合いますか・・・・・・?」 「えぇ、とても」 いやにきっぱりと放たれた声に、ミランダは、小さな明かりに照らされた中で、ふっくらと微笑んだ。 「あ!ミランダさん、おっそーい!!」 「どこ行ってたんですかー!!」 ミランダがパーティ会場に戻ると、早速酔っ払いたちが寄って来る。 「え・・・えーっと・・・」 なんと言おうか、おどおどと立ちすくんだ彼女の元へ、酔っ払いを掻き分けて、救世主が現れた。 「ちょっと、ミランダ!アンタ、酔いを醒ますって、どんだけ冷めてきたのよ!」 派手にまくし立てながら、ジェリーがミランダを確保し、暖炉の側へ連行する。 と、どこまで知っているのか、リナリーも、人々を掻き分けて寄って来た。 「寒かったでしょ、ミランダ!さぁさぁ、火の側にどうぞ!」 「え・・・えぇ・・・・・・」 戸惑いつつも、ジェリーとリナリーに両脇を固められ、おとなしく従ったミランダは、なぜ二人が火の側にこだわったのか、ようやく理解した。 酔ったり騒いだりしている人間は、まず火の側には寄ってこない。 そして今、この部屋で、酔っても騒いでもいない人間は、この三人だけだった。 二人の企みに舌を巻きつつ、ミランダは凍えた手先を火にかざす。 「―――― で?リーバーは、うまくできたのかしら?」 「うっ・・・うまくって?!」 傍らのジェリーに、興味津々と問われ、ミランダはうろたえた。 と、 「大丈夫よ、ジェリー!さっきから、キラキラしてるわ 反対側から、リナリーが抑えきれないとばかり、明るい笑声を上げる。 「アラ!素敵なピアスねぇ さりげなく付け加えられたジェリーの一言に、ミランダは目を丸くした。 「一点ものって・・・買った物じゃないんですか?!」 「班長、すごく器用なんだよ 「えぇ?!」 リナリーからの情報に、驚愕の声を上げると、それを聞きつけてコムイもやってきた。 「三人で何をそんな、コソコソ話してんのさー?」 リナリーが構ってくれない事が不満なのか、すねたような声を出す彼に、しかし、ミランダは答えることができず、ジェリーとリナリーは笑って答えない。 「リナリー!お兄ちゃんに隠し事なんて!!」 「えへへー ね 「なっ?!女同士って・・・・・・!!」 「コムイ」 抗議の声を上げようとした彼に、ジェリーの冷厳な声が突き刺さる。 「言ったでしょ?これは、女同士の秘密なの 凄みのある声に、コムイは怯えきって、何度も頷いた。 「余計なことは、しないわよね?」 にっこりと笑いつつも、大きな拳をバキボキと高らかに鳴らされ、コムイの首は、更に烈しく上下に振れる。 「ホホホ さぁさ、ミランダ!飲み直しましょ!あと一杯くらい、イケるでしょ?」 「あ!ジェリー!私も!」 甘えた声でねだるリナリーに、ジェリーは頷いた。 「その代わり、軽いのをちょっとだけよ?」 「うん!やったぁ すっかり従順になったコムイに命じて運ばせたシャンパンを、ジェリーがリナリーのグラスにも半分ほど注いでやると、彼女は、嬉しそうに目を輝かせる。 「じゃあ、改めて乾杯 「ハッピーバースデー、ミランダ!」 こっそりと、耳元に囁かれた言葉に、ミランダは、くすぐったげに笑った。 「乾杯・・・ グラスの重なる、澄んだ音に合わせるように、三人はクスクスと、明るい笑声を上げる。 その様を、火から遠ざけられた獣のように遠巻きにしていた少年たちが、不思議そうに眺めていた。 Fin. |
| 新年&ミランダさんお誕生日記念SSでした! あぁ、この話、実際に酔っ払いつつ書いてたなんて、言えやしない!>言ってんじゃねぇか 酔わずに書けるか、コンチクショー・・・!(開き直るな) その上、ミランダさん、ピアスはしていないんですけどね(笑)←確認済み なんでピアスになったかと言うのは、チャットでネタを頂いたからなんですが、ドラマで、『ピアスの起源は、耳から入ろうとする悪魔を防ぐため、入口にお守りとしてつけた』という話を見たからでもあります。>From『相棒』 ミランダさんは、敬虔なクリスチャンで、おまじないとかを本気で信じていそうだと思います。>敬虔なクリスチャンはおまじないをしませんか。ゴメンナサイ(笑) ちなみに、スノードロップって・・・英国じゃ、2月に咲くらしいです・・・・・・(・▽・)>だめじゃん; きっと、教団のはピンポイントで咲く花だったんですよ・・・(言い訳がましい) |