† 春よ、来い †
「・・・ねぇ。 何してるのか、聞いてもいいですか・・・?」 アレンの問いに、しかし、神田とラビは、沈黙したまま、答えてはくれなかった。 「あのぅ・・・・・・」 不気味な二人に、恐る恐る近づき、アレンは再び声を掛ける。 が、彼らは腰に手を当てた格好で、同じ方角を向いて並び立ち、無言で何かを食べていた。 「なに食べてるんですか?」 訝しげに眉を寄せ、更に尋ねるアレンを、彼らは無視し続ける。 その態度に、アレンが『殴ってやろうか』と思い始めた時、 「あら!アレンちゃんも食べるぅ〜?」 彼らに代わって声を掛けてくれたのは、いつも明るい料理長だった。 「ジェリーさん・・・あれ、なんですか?」 神田達からは、どうやら答えを得られそうにない、と諦め、アレンは、ジェリーに駆け寄る。 と、彼女は、皿の上に太くて長い物体を乗せ、アレンに差し出した。 「アレンちゃん、みたらし団子が好物なんだから、お寿司も知ってるわよね?」 「でも、生魚は食べられません」 身を引きつつ、即答したアレンに、ジェリーは華やかな笑声を上げる。 「大丈夫よぉん 「はぁ・・・・・・」 彼女が言うのなら間違いないだろう、と、アレンは、退いた分を戻り、更に近寄って、まじまじと『ソレ』を見つめた。 「・・・・・・で、これをどうするんですか?」 アレンが問うと、ジェリーは、ウフフ・・・と笑って、黙々と恵方巻にかじりつく二人を示す。 「神田達がやってるでしょ 「イヤ・・・ワケわかんないんですけど・・・・・・」 アレンは振り返ると、不気味な二人の姿に、眉をひそめた。 いや、アレンだけではない。 食堂に集った人々は、おのおの食事の手を止め、謎の行動をとる二人の姿を、遠巻きに見つめていた。 が、ややして、 「完っ食〜〜〜!!!」 手にした恵方巻を片付けたラビが、歓声を上げる。 と、 「俺も」 食後のお茶をいただきながら、何事もなかったかのように、神田も呟いた。 「うわっ!しゃべった!」 ずっと無言だった二人の声に、びくっ!と、アレンが身を震わせる。 「悪ぃか」 ギロリ・・・と、神田の冷酷な目で睨まれ、アレンは更に怯えた。 「だって!!二人して無言だから、声の出ない魔法にでもかかったのかと思ったんです!!」 「なんで魔法さ!普通、風邪で喉をやられたとか思わねぇ?」 呆れ声のラビに、アレンは、きょとん、と、目を丸くする。 「え?だって風邪ひかないでしょ、二人とも?」 ナントカは風邪ひかない・・・と、口を滑らせたアレンに、二人は同時に手元の皿を投げつけた。 「うわっ!っった!!」 フリスビーのように襲い掛かってきた陶器の皿を、アレンはなんとか両手で受け止める。 「危ないでしょ!僕がよけたら、ジェリーさんに当たるじゃないですか!!」 「あぁん ジェリーが、身をよじって嬌声を上げると、 「・・・ちっ!」 アレンの鼻を砕けなかったことが非常に悔しい、と言わんばかりの表情で、神田が舌打ちした。 「それで?何してたんですか、二人とも?」 手にした皿をジェリーに返して、アレンが改めて問うと、ラビが、アレンの手元にある恵方巻を指す。 「ユウの国の風習だとさ。 そのスシを今年の縁起のいい方角に向かって無言で喰うと、いい事があるんだと」 面白そうだから付き合ってみた、と言うラビに反して、 「いい事・・・?」 と、アレンはその単語に対し、警戒気味に身を引いた。 「また爆竹とか使うんですかっ?!」 東洋って怖いっ!!と、思いっきり退いたアレンに、二人は首を振る。 「節分で爆竹を使うなんざ、聞いたことがねぇ」 「ってか、あんな危険なことをやんのは、中国でもコムイだけさ」 「そっか・・・よかったぁ・・・・・・」 胸の奥から深く吐息して、アレンは、ジェリーが出してくれた恵方巻を取り上げた。 「じゃあ、僕もやろ♪ やり方を教えてください!」 皿を持って駆け寄っていくと、ラビが、窓を指し示す。 「今年の恵方―――― 縁起のいい方角のことな。 今年は南南東だから、そっちを向いて、食い終るまでしゃべっちゃダメなんさ」 「あぁ・・・それで、二人とも無言だったんだ・・・・・・」 怖かった・・・と、頬を引きつかせるアレンに、神田が鼻を鳴らした。 「福が逃げてもいいってぇんなら、いくらでもしゃべるといい」 「イヤです!僕は絶対!幸せになるんですから!!」 決然と言い放つと、アレンはラビの示した方角を向き、恵方巻にかじりつく。 と、ラビが、意地の悪い笑みを浮かべ、アレンの前に立った。 「アーレーンー♪にらめっこ!!」 言うや、顔を変形させたラビに、アレンは吹き出しそうになる。 「・・・・・・・・・・・・っ!!」 なんとかこらえ、無言のまま、食事を続行するアレンの前で、ラビの顔が更に変形した。 「・・・っっ!!!」 「なんだよ、がんばるなぁ・・・これでどうだ!!」 「っっっ!!!――――・・・っあはははははははははは!!!!!!」 なんとか最後まで食べ終えた瞬間、弾けるように笑い出したアレンに、ラビは舌打ちする。 「くっそぉ・・・米粒噴射させてやろうと思ったのに・・・・・・」 「僕を窒息させる気ですか!」 「お前がそのくらいで死ぬかよ」 二人の攻防を、冷ややかに見つめていた神田を、アレンは涙を拭いつつ振り返った。 「で?これで終わりですか?」 「いいや。まだ、豆まきがある」 「・・・・・・? 豆の栽培でもするんですか?」 不思議な風習ですね、と、首を傾げるアレンに、神田は、テーブルの上に置かれた炒り豆を指し示す。 「違ぇよ。 鬼の面を被ったヤツを鬼に見立てて、豆をぶつけんだ」 「ぶつけるの?!やっぱり東洋って怖い・・・!!」 と、悲鳴を上げるアレンに、神田がむっと、目を眇めた。 「石を投げるよかマシだろうが!」 「あー・・・そっか。昔は石を投げてたんだよな」 本で読んだ、と言うラビに、アレンが眉をひそめる。 「ねぇ・・・なんでそんなことするの?」 「だから、鬼ってぇのは、こっちで言う魔物みたいなもんでさ、災いとかの象徴なんさ。それを追い払う儀式なんだと」 「へぇ・・・・・・」 「ちなみにこれが、鬼の面だ」 そう言って、神田が取り出した仮面を、アレンは興味深げに見つめた。 「うわぁ・・・やっぱり、怖い顔してるんですねぇ・・・・・・」 ガーゴイルみたい、と呟くアレンの傍らで、しかし、ラビが目を見開いて、頓狂な声を上げる。 「ユウ!それ、般若面さ!!」 「ハンニャメン???」 なにそれ、と、首を傾げるアレンの隣で、ラビは眉をしかめた。 「鬼は鬼でも・・・嫉妬に狂う女の顔さ・・・・・・」 「しかたねぇだろ。大元帥のとこには、能面しか置いてなかったんだ」 一応芸術品だからな、と言いつつも、さほど大事そうに扱いもせず、神田が面をつける。 「さぁ、やるか」 かたん、と、椅子を引いて立ち上がった神田の周りから、一斉に人が引いた。 「? どうした?」 「どうしたもこうしたも!!」 「ものすごく怖いですよ、神田っ!!」 いつもはキリリと結い上げている髪を下ろし、般若の面をつけた神田は、地獄から湧き出た悪魔のように恐ろしい姿をしている。 洋の東西を問わず、十分恐ろしいと思わせるその姿に、怯えるな、と言う方が無理だった。 「そ・・・それで・・・? お面を被った君に、その豆を投げつければいいんですか・・・?」 アレンが問うと、般若がその半面を向ける。 「ひぃっ!!」 悲鳴を上げて、アレンがラビの影に隠れると、般若は、ゆっくりと首を傾げた。 「・・・・・・・・・・・・そうか。俺が被ったんじゃ、豆がまけねぇな」 「今更気づくなよ!!」 ラビの突っ込みに、神田がつかつかと歩み寄り、般若面をラビに被せる。 「じゃあ、お前がやれ」 「はぁぁぁぁっっ?!」 なんで!と、ラビが抗議する間もなく、神田は炒り豆が入った大枡を取り上げると、豆を一掴みつかんで、ラビに投げつけた。 「福は内!!」 「いってぇっ!!!ってか!なんでその掛け声で豆ぶつけるんさ!!」 不自然だろ!というラビの叫びに、神田は、また一掴み、豆を掴む。 「俺の節分は特別なんだ」 謎の言葉を呟くと、神田は、再び豆を投げつけた。 「鬼も内!」 「はぁぁぁぁぁっ?!」 「魔物を追い払う行事じゃないんですか?!」 ラビの絶叫に、アレンも唱和し、目を丸くする。 が、神田は、平然と豆を掴んだ。 「災厄を招来している俺が、鬼を追い払うと思うか?」 「あぁ、なるほど・・・って!!それ!ぜってぇ正しい節分じゃねぇだろ?!」 思わず納得しかけたラビが、豆の波状攻撃から逃げつつ叫べば、 「まったくもって正しい節分だ」 と、断言される。 「そんなことで、本当に幸せになれるんですか?!」 ラビの逃走に巻き込まれ、なぜか一緒に逃げるはめになったアレンの問いにも、 「それはさっき、恵方巻食ったろ」 と返され、節分の正しい姿を知らないアレンは、口をつぐむしかなかった。 「後で、年の数に一つ増しで、豆食わせてやるから。お前らおとなしく鬼になれ!」 「だからって!!そんなに力こめて投げんじゃないさ!!」 「いっ!!痛――――っ!! 神田!!単に、豆をぶつけたい気分ってだけなんじゃないんですか?!」 食堂中を逃げ回りつつ、抗議の声を上げる二人に、神田は、にやりと口の端を曲げる。 「そんなに嫌うもんじゃないぜ、モヤシ。 今お前に投げてんのは、モヤシの種なんだからな」 「だからなんだ――――!!!!」 神田の嫌味な言い様に、アレンは怒りを募らせながらも逃げ回った。 「幸せになりてぇんだろ?」 福は内!という掛け声と共に、ばらばらと豆をぶつけられ、アレンは決然と首を振る。 「絶対無理です!こんなんで、幸せになんかなれっこない!!」 日本なんて大嫌いだ!と、絶叫したアレンに、ラビも、深く頷きを返した。 「節分の正しい姿を調べ上げて、仕返しするさ!」 そう言って、神田から逃げつつ、図書館方面へと進路を変更したラビに、アレンも従う―――― が、この後、全ての豆をまき終わった神田の攻撃から解放された二人は、『節分』の行事をあまりに深く調べすぎたために、地方によっては『鬼も内』という掛け声も存在することまでも知ってしまった・・・・・・。 「・・・・・・どうするんですか?」 視線を紙面に落としたまま、アレンは眉間に皺を寄せ、憮然と言う。 「仕返しできないじゃないですか」 「・・・・・・・・・知らなかった振りして、豆投げつけるか?」 「君がいいと言うなら・・・僕は構いませんけど」 アレンの言葉に、次代のブックマンは、がっくりとうな垂れた。 「・・・・・・無理。知っていながら、知らなかった振りすんのは・・・・・・!」 情報操作は、ブックマンの誇りを著しく傷つけるのだと、嘆くラビに、アレンは、深々と吐息する。 「・・・・・・ハイハイ。 じゃあ他に、なにかいい仕返し考えましょ」 アレンは、ラビが頭に引っかけていた般若面を取り上げると、自身の顔を覆った。 「この恨み、はらさでおくべきかー」 「・・・・・・お前が言うと、全然シャレになってないさ・・・・・・」 「じゃあ、早く考えましょ、仕返しの方法♪」 いやに楽しげに急かすアレンに、ラビは口元を引きつらせる。 「ほんっとにお前ら・・・仲悪いのな・・・・・・」 「復讐は我にありー♪」 般若面の裏側から漏れる、楽しげな声に、ラビは、深々と吐息した。 ―――― ユウにしろアレンにしろ・・・福なんて来るわけがないさ・・・・・・・・・。 だがせめて、いつも巻き込まれて可哀想な目に遭う自分には、幸せが訪れて欲しいと、ラビは、痛切に願わずにはいられなかった。 Fin. |
| 神田は関西人なんかい、って、そんなことはないと思いますが(笑) むしろ、ラビが関西人っぽいですが。(どんな偏見だよ;) なんか毎年、『バレンタインデーは無視するくせに、節分はやる』サイトになっているので、恵方巻と豆まきは外せませんでした・・・。 私は九州人ですが、恵方巻イベントは一昨年辺りからやってます(笑) だって、楽しいんですもの(笑)>新しいことと珍しいこととイベントが大好きな福岡人。 今回、SSを書くつもりは全然なかったのに、突発で書いたので、イマイチまとまってなくて、ごめんなさい; |