† Rubbish! †
―――― その日。 カレンダーを見やった老人は、にこりと笑った。 黒の教団本部の、本城を歩き回っていた神田は、談話室のソファに白い後頭部を見つけて、声を掛けた。 「おい、モヤシ!ラビのヤツをしらねぇか?」 途端、憮然とした顔が振り返り、忌々しげに口を開く。 「知りませんよ、そんな人!」 神田に対し、アレンが憮然とした顔を向けるのはいつものことだが、ラビの名に対してまでも忌々しげな口調であることに、ふと、神田は首を傾げた。 ―――― また、ケンカでもしやがったか? 神田とアレンは、自他共に認める犬猿の仲だが、ラビとアレンはむしろ、仲が良い方だと思う。 ただ、仲が良すぎて、よくケンカもしていた。 今日もそんなところだろうと、何気なく歩を進めた神田は、アレンが座るソファの傍らに、ラビが寝転んでいる姿を発見し、拳を握る。 ゴッ! 「いったぁぁぁぁぁぁぁ――――っ!!!!!」 突如、間近で起こった悲鳴に、ラビが驚いて本から顔を上げた。 「イキナリなにすんですか、乱暴者!!」 「なにすんだ、じゃねぇ!! ナニ隠してやがんだ、てめぇは!!」 「な・・・なんでいきなりケンカしてんさ、お前ら・・・・・・?」 ソファの上に膝立ちになり、おろおろと仲裁に入ったラビにも、神田の怒りが向く。 「お前も!隠れてんじゃねぇよ!!」 「だから、なんのことさぁ――――?!」 意味不明な神田の剣幕に、泣き声を上げるラビを、ギリ、と、彼は睨みつけた。 「そうか、てめぇら・・・!二人して俺をはめようって魂胆か?!」 「はぁっ?!」 神田の理不尽な決め付けに、アレンとラビは、頓狂な声を揃える。 「とぼけてんじゃねぇよ!今日がなんの日か、しらねぇ俺じゃねぇぞ!」 「今日・・・・・・?」 アレンが、神田に殴られた場所をさすりながら首を傾げると、その傍らでラビが、ものすごい悲鳴を上げた。 「しまっっっっったさぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」 悶絶するラビに、アレンはびくっと飛び退る。 「俺としたことが!こんな大事なことを忘れるなんて!!」 「なっ・・・ナニナニナニ?!」 わけがわからず、動揺するアレンに反し、神田は、忌々しげに鼻を鳴らした。 「っんだ!本気で気づかなかったのかよ!」 「今のは気づかなかったんじゃないさ!ユウが俺の名前を間違えたんさ!!」 「なんだと?!」 「俺はRabbiじゃなくて、Laviだって、何度言ったらわかるんさ、このボケッ!!」 RとL・・・一文字違うだけで、発音は全く違う。 ラビがそのことを指摘すると、アレンもウンウン、と頷いた。 「神田が、いきなり『Rabbi(ユダヤ教の聖職者)を知らないか』なんて言うから、僕は知らないって言ったんですよっ! それをいきなり殴るなんて・・・この乱暴者!!」 「うっ・・・うるせぇ!! 大体、RとLの違いなんて、些細なもんだろ!そのくらい、おもんぱかれ!」 「全然違うさ!日本語の、『お』と『を』以上に違うさ!呼ばれてることに気づかなかったくらいさ!」 そう言って、ラビは悄然と肩を落とす。 「ユウと俺、初めて会ってから、もう何年になるんさ・・・? なのにお前は、いまだ俺の名前も正確に覚えてくれないなんて・・・・・・!」 「う・・・・・・」 ラビの恨み言に、さすがの神田も、反論を封じられた。 「俺は、同い年のお前と友達になれて、ものすごく嬉しかったのに・・・お前はそうやって、いつまでも俺を友とは見てくれないんさ・・・・・・」 「ラ・・・ラビ・・・!」 ラビの低い声に、アレンまでもが、気遣わしげに彼と神田とを見比べる。 口添えをしたくはあったが、意地っ張りな神田のこと、アレンが口を出せば、却ってこじれるに違いないと判断し、沈黙を守った。 と、湿っぽい空気に耐えかねたか―――― 信じがたいことに、とうとう、神田が折れた。 「・・・・・・悪かった」 ものすごく低く小さな声で呟かれた謝罪に、ラビはぱっと顔を上げ、にんまりと笑う。 「えへへー♪ ユウちゃん、もう間違えちゃイヤさ?」 「・・・あっ!てめぇ!!!」 「へへへ♪ ユウちゃん、怒っちゃダメダメん 「あー!エイプリルフール!」 そういうことか!と、手を打つアレンを、神田が忌々しげに睨んだ。 「ふざけた日を設けやがって、暇人どもが!」 人様の国の慣習に対し、酷い言葉を吐き捨てると、神田は踵を返す。 「あれ?ユウ、俺に用だったんじゃないさ?」 「もういい!!」 いきり立って談話室を出て行った神田を見送り、ラビは苦笑した。 「あちゃー・・・今日は口利いてくんねぇな、こりゃ」 明日には仲直りできる、と、言外に言うラビに、アレンが思わず、感嘆の視線を送る。 と、 「ところでアレン。 今日がエイプリルフールだと知ってしまった以上、俺達には、嘘を仕掛ける義務があると思うんだが、どうだろう?」 振り返り様、問いかけるラビに、 「いや・・・義務はないと思うよ・・・・・・?」 なんでそんなことに義務を感じるの、と、アレンは脱力したが、彼はきっぱりと首を振った。 「何を言うさ! いいか、アレン?!エイプリルフールは、一年で一度だけ、嘘をついていい日なんさ! つまりは、あの厳しいジジィを騙し、仕事熱心なリーバー以下、科学班の仕事を邪魔し、ジェリー姐さんから夕食のおかずをかっぱらっても怒られない日!ビバ!!」 「なにがビバ・・・・・・」 どうも、ハロウィンと混じっている気がする、と言うアレンに、ラビはブンブンと首を振る。 「アレン!そんなに意志の弱いことでいいんさ?! こんなチャンスを逃すって事は、最後の楽しみに取っておいたデザートを、横からかっさらわれるくらいに悔しいことだぜ?!」 「デザートを取られるのは悔しくて哀しいけど・・・・・・」 『今日』を逃すことはそうでもない・・・と、続けようとしたアレンの口を塞ぐように、ラビは畳み掛けた。 「そうだよな!お前もきっと、悔しいに違いない!ってことで!さぁ、いくさ!」 「どこへ?!」 ぐいぐいと腕を引かれて、無理やり立たされたアレンが、目を丸くしていると、ラビはにんまりと笑った。 「デザートを作ってもらいに!」 「はぁぁ?!」 わけがわからず、しかし、強引なラビに腕を引かれるまま、アレンは彼に付いていった。 ―――― その頃、科学班で、城内の映像を写すモニターを睨みつけていたリナリーは、くすりと笑みを漏らして、兄の執務室から戻ってきたリーバーを呼び止めた。 「はーんちょう お仕事、一区切り付いたんでしょ?お昼に行ってきたら?」 「ん? うーん・・・けど、もう一つ、終わらせておきたいのがあるからなぁ・・・・・・」 渋るリーバーに、しかし、リナリーは首を振る。 「それが終わるまでお預けにしたら、結局、お昼食べられないでしょ? 実験の経過レポートは、私が管理しておくから、行ってらっしゃいよ」 再度勧められて、リーバーは手にしていたノートをリナリーに渡した。 「じゃあ、これ頼むぜ。チェックの仕方は・・・」 「大丈夫。一昨日からやってたものでしょ? 横で見てたから、なにをチェックすればいいかはわかるわ」 「そっか。じゃあ、頼むぜ」 「了解♪」 踵を返したリーバーに手を振って、リナリーは室内のメンバー達にウィンクする。 「成功 彼女の声に、メンバー達は、にんまりと笑ってウィンクを返した。 「しっかし・・・本当にこんなんでうまくいくのかねぇ?」 試験管を覗き込みながら、疑問の声を上げるメンバーに、リナリーは『さぁ?』と、笑みを返す。 「でも、偶然を『運命』だって勘違いさせることは可能よね?」 リナリーの問いに、心理学を専門とするメンバーが、にやりと笑った。 「そういう環境を、周りが無理やり作ればな」 「ふふふ・・・ あの科学で凝り固まっちゃった班長が、ミランダと『偶然』何度も会っちゃう事で『運命』を感じるようになるか・・・賭けましょ!」 言いつつ、リナリーは手にしたノートに、『YES』と『NO』の欄を作り、『YES』の欄に自分の名を書き入れる。 「じゃあ、俺は『NO』で。あの人ことだから、絶対何やかやと理由をつけるね!」 「俺は『YES』だなぁ。リナリーが絡むなら、意地でも『運命だ』って言わせそうだし」 「おい、リナリー!小細工はなしだぜ?」 「わかってるわよ。なに賭ける?」 「金賭けると怒られるからなぁ・・・」 「じゃあ、チョコレート!」 「それが無難かなぁ?」 わいわいと、リナリーの周りに集まったメンバー達は、それぞれに名前を書き込み、今日から1週間の期限を設けて、様子を伺うことにした。 「でも、なんで今日から始めるんだよ・・・」 「そうだよな。なんか、変な感じだよ」 「どうせなら、明日からやればいいのに」 名前を書き入れながらも、ブツブツと言うメンバー達に、リナリーは、にっこりと笑う。 「いいじゃない!思い立ったが吉日よ!」 一方、知らないうちに賭けの対象にされていたリーバーは、ちょうど、前方の実験室から出てきた人物の姿に目を留めた。 彼女は、手にしたレポートに目を落としたまま歩を進めているため、リーバーには気づいていない。 「ミランダさん」 そっと歩み寄り、間近から声を掛けると、彼女は短い悲鳴を上げて、レポートを散らばせた。 「リリリリリ・・・リーバーさんっ!!!!」 びくびくと、小動物のように細かく震えるミランダの様子に、リーバーは慣れた風に微笑んだ―――― 事実、当初は彼女の怯えぶりに慌てたものだが、今では逆に、驚かせてその反応を楽しんでいる。 「スミマセン、驚きました?」 床に散らばったレポートを拾い集めつつ言えば、彼女は、いまだ震えの納まらない首を縦に振る。 「ホント、すみません。つい、からかってみたくなって」 笑いながら、リーバーは自身が手にしたレポートに目を落とした。 「あぁ・・・ヘブラスカのチェックだったんですね。 シンクロ率、順調に上がってますね」 「は・・・はいっ・・・・・・!」 「努力家ですからね、ミランダさんは」 リーバーの評価に、ミランダは真っ赤になって俯く。 「あ・・・ありがとうございます・・・・・・」 「ホントのことでしょ。 それより、今、結果出たんなら、しばらくやることナシでしょ?昼飯、付き合ってくれませんか?」 「は・・・はいっ!!」 並んで歩き出した二人の映像を、黒い通信ゴーレムが送った先・・・科学班では、モニターを見つめていたメンバーたちが、それぞれに快哉を上げた。 リーバーたちが食堂に入った時、厨房内では、ジェリーが両脇をアレンとラビに固められ、なにやら困惑げだった。 「注文いいっすかー?」 カウンターで呼ばわったリーバーに、料理人の一人が寄ってくる。 「こんにちは、班長、ミランダさん。今日はなんにします?」 にこやかに応じる彼の肩越しに、リーバーはジェリー達を指し示した。 「どうしたんだ、奴ら?」 「あぁ・・・うん・・・・・・」 リーバーの問いに、彼はあいまいに笑う。 「いつものおねだりですよ。 なんでも、食材が足りないとかで・・・料理長が『作れない』って言うのを、二人でおねだりしてるんです」 微笑ましいんですけどね、と言って笑った彼に、しかし、リーバーは眉を寄せた。 「おい!ラビ!アレン! お前ら、無茶言って料理長の仕事の邪魔してんじゃねぇよ!」 彼がカウンターから呼びかけると、ラビとアレンが振り返り、びくっ!と身を震わせる。 「べ・・・別に、無茶言ってないさ!」 「じぇ・・・ジェリーさんなら、きっと大丈夫なんです・・・・・・」 ねぇ?!と、二人に縋られて、ジェリーは苦笑した。 「わかったわかった。 んもぅ、しょうがないわねぇ、この子達は!」 「料理長!ガキどもを甘やかすのは・・・」 「あん パタパタと手を振り、ジェリーはリーバーと、その傍らのミランダに微笑みかける。 「アンタ達は、好きなもの注文してくれていいからぁ そう言い残すと、ジェリーはラビとアレンを伴い、厨房の裏に通じる勝手口から出て行った。 「じゃあ・・・なんにします?」 改めて問うた料理人に、『食材が足りない』と言う言葉が頭に残ってしまったリーバーは、つい、 「ワニ肉のステーキ」 と口走る。 「えぇっ?!」 びくっ!と、怯えたミランダの正面で、料理人は乾いた笑声を上げた。 「本気で注文しますか、それ?」 「・・・・・・・・・・・・・・・スマン。冗談だ」 「材料が入荷したら、お知らせしますよ」 リーバーの返答をさらりとかわして、彼は、今日のところは無難な定食を二つ、カウンター越しに差し出した。 「ぅあっ・・・危なかったさぁぁぁ〜〜〜!」 「ま・・・まさか、ミランダさんが来るなんて・・・っ!」 「あの子、さっきランチしてたのに・・・まだ食べるのかしらね?」 訝しげなジェリーの言葉に、アレンとラビは顔を見合わせた。 「きっと、リーバーさんの誘いを断れなかったんですよ・・・」 「いんじゃね?ミランダ、細すぎだし」 「そりゃアタシも、あの子はもっと太ったほうがいいと思うけどぉ・・・って。そうじゃないでしょ、今は」 パタパタと手を振られて、アレンとラビは、再びジェリーに縋った。 「そうそう、忘れてたんは俺らのミスだしー!イキナリで食材が足りないのもわかんだけどー!」 「3月31日は、クロウリーさんのお誕生日なんですぅー!ミランダさんの歓迎会も、色々あってまだやってないし・・・・・・!」 「サプライズ・パーティしたいんさぁー!姐さぁーん!!」 「ハイハイ。わかったわかった。 じゃあ、今から急いでお店に電話して、夕食用の食材に追加してもらうから。アンタ達、ちゃんと連絡回すのよ?」 「はぁい!」 「さすが姐さん!ありがとうさー!!」 厨房に戻っていくジェリーに、派手に拍手を送ると、ラビは、にんまりと笑った。 「姐さん、今日は31日だって、上手く勘違いしてくれたさ♪」 「だってラビが、『絶対4月1日だって言うな!』って言うから・・・」 「あったりまえさぁ!今日がエイプリルフールだってばれたら、警戒されちまうだろ!」 警戒されて当たり前のことを実行しているラビの言葉に、協力者のアレンは渋々頷く。 「・・・こんなことして、怒られないかなぁ・・・?」 「大丈夫さ!今日は、嘘をついてもいい日なんさ!」 不安げなアレンを急かして、ラビは次なる仕掛けに向かって走り出した。 「次!コムイを騙しに行くさ! あいつに『今日はパーティするよー』って言わせれば、みんな集まるかんな!」 「だ・・・騙せるかなぁ・・・・・・」 一筋縄では行かない、室長の姿を思い浮かべて、怖気づくアレンの背を、ラビが強くはたく。 「弱気になるんじゃないさ! 今だから、『クロちゃんの誕生日』って口実も使えんだぜ?!」 「は・・・はぁ・・・・・・」 ラビと並んで走りながらも、いまだ気乗りしない様子で、アレンは眉根を寄せた。 「ところで・・・クロウリーさん、ホントはいつが誕生日なんですか?」 「12月1日!1789年にフランスで、ギロチンが議会に法案提出された日さ!」 「・・・ねぇ・・・なんでそんなこと、覚えてるの?」 友人の奇妙な記憶力に呆れながらも、アレンは乗りかかった船と、ラビに従った。 その後、まんまとコムイを口説き落とした二人は、食堂が賑々しく飾り立てられ、部屋の中心に据えられた大テーブルに、ジェリー特製の巨大なケーキが置かれるに至り、にんまりと笑みを交し合う。 「やっっったさぁぁぁ!」 「ケーキ獲得成功ですね!」 クスクスと笑っていると、配膳の指示に立ち回っていたジェリーに掴まった。 「ちょっと、アンタたちぃ!暇なら手伝いなさいよ!」 アンタ達が持ってきた話でしょ!と囁かれ、二人は料理人達から次々に渡される料理や飲み物を持って、厨房とテーブルとを、何往復もする。 そうやって、ようやく準備の整った部屋に、乾杯の音頭を取るべく、コムイが現れた。 「ヤァヤァ、みんな、準備ご苦労様! じゃあ、早速始めようか!グラスはみんな、行き渡ったかい?!」 そう言って、コムイが自身のグラスを掲げて見せると、メンバー達は、それぞれの手にしたグラスを掲げて陽気な声を上げる。 「ハイ!じゃあ、お誕生日おめでとう!リーバー班長!」 「はいぃっ?!オレっすか?!」 グラスを向けられたリーバーが、目を剥いて驚いた。 「オレの誕生日は9月っす!ってか、室長の三十路突入記念パーティじゃないんすか、これ?!」 「ボクはとっくに30歳ですぅっ!! え?!じゃあ・・・ジェリー?」 「なんでアタシが、自分の誕生日に自分でケーキ作んなきゃなんないのよ!」 逞しい両腕を腰に当て、反論するジェリーの姿に、アレンとラビは、再びクスクスと笑声を上げる。 実は、コムイを訪ねた際、彼が仕事で慌しくしていたこともあり、あえて誰の誕生会、とは言わなかったのだ。 「・・・・・・誰か、今月誕生日の人―?」 大人達の、ずさん過ぎる会話に呆れ果てたリナリーが挙手を求めるが、多くの人員がひしめくこの部屋で、誰も手を上げる者はない。 「・・・えぇっ?! ちょっと、ラビ!アレンちゃん!アンタ達、今日はクロちゃんのお誕生日だって、言ったじゃない!」 「えぇっ?!私であるか?!」 「そうよ! それとミランダ!アンタの歓迎会もしてないからって!」 「私もですかぁっ?!」 慌て声を上げたジェリーに、クロウリーとミランダが瞠目し、アレンとラビは、とうとう爆笑した。 「ジェ・・・ジェリーさん・・・っ! ごめんなさい!」 「えへへー ポカン・・・とした面々を見回して、ラビが更に笑声を高める―――― が、 ガゴンッ! すかさず飛んできたリーバーの拳に、二人の爆笑は泣き声に変わった。 「いったぁぁぁぁっ!!」 「なんでぶつんさー!」 抗議の声に、しかし、二人の前に立ち塞がったリーバーは、冷厳な目で見下ろす。 「今日はまだ、3月31日だ、バーカ!」 「え・・・?」 「ええええええええっ?!」 アレンとラビは、絶叫した。 「うそっ?!マジ?!」 「カレンダー確認しなさいよ、アンタ達!今日は月末よ!」 ジェリーの言葉に、コムイがウンウン、と頷く。 アレンとラビは、いつもスケジュールに厳しい二人を、うまく騙せたと勘違いしていたが・・・何のことはない。事実、今日は3月31日だったのだ。 「え・・・?!じゃあなんで・・・?」 「そうさ!なんで俺ら、今日がエイプリルフールだって勘違いしたんさ?!」 顔を見合わせ、記憶を辿った二人は、『あ!』と、大声を上げた。 ―――― 今日がなんの日か、しらねぇ俺じゃねぇぞ! 「神田――――!!」 「ユウ――――!!」 思えば、神田のこの一言さえなければ、二人が勘違いすることはなかったのだ。 「えぇっ?!なに?!騙された?!騙されちゃったんさ、俺ら?!」 「神田・・・!先走るなんて、極悪非道!!」 慌てふためく二人に、再び拳が飛んだ。 「誰が極悪非道だ、コノヤロウ!」 「ってぇさ、ユウ――――!!」 「問答無用で殴る行為が、極悪非道でないとでも!」 二人の反論は、しかし、神田の鋭い眼光により封殺された。 「別に騙しちゃいねぇよ!俺は・・・・・・」 言いかけて、神田は忌々しげに舌打ちした。 「な・・・なに・・・・・・?」 目を丸くして、成り行きを見守っていたリナリーが、急に黙り込んだ神田に、堪りかねて問う。 「ジジィっ!!自分の弟子をしつけんのに、俺を利用すんじゃねぇ!!」 神田が睨んだ先では、ブックマンが一人、クスクスと笑声を上げていた。 「えーと・・・つまり・・・・・・?」 まとめようか、と、コムイが顎に手を当てた。 「ブックマンは、神田君がラビを探すように仕向けた際、『西洋には、嘘をついてもいい日があるから気をつけろ』と教えた、と」 そう言って、神田を指差すと、彼は忌々しげに頷いた。 「それを聞いた神田君は、うっかりラビの名前を発音し損ねて、アレン君が『ラビなんて知らない』と言ったことに対し、今日がその『嘘をついていい日』だと勘違い」 今度は、神田は頷かない―――― 彼の、山より高いプライドに差し障るのだろう。 「神田君の激怒状態に、アレン君とラビは、今日がエイプリルフールだと勘違い。 んで、1日早くイタズラしちゃった、と。こういうわけかい」 「ハイ・・・・・・」 捕まった仔ウサギのように、小さく縮こまっているアレンとラビに、コムイは苦笑した―――― 叱るに叱れないのは、彼らが、ブックマンにしてやられたからだ。 かといって、ブックマンに苦情を言うわけにもいかない。 何しろ彼は、誰を騙したわけでも、嘘をついたわけでもない―――― ラビ達が、勝手に勘違いしただけだ。 「やれやれ・・・・・・」 「途中で気づかなかったの?」 深々と吐息するコムイの傍らで、リナリーが、大きな目を丸くして問う。 「全然・・・・・・」 「イタズラの計画に、猛進してたさ・・・・・・」 「呆れた」 二人の答えに苦笑し、リナリーは、傍らの兄を見上げた。 「兄さん、せっかく準備しちゃったんだし・・・」 溺愛する妹の『お願い』に、コムイは締りのない笑みを浮かべた。 「そうだね! では、突然ではありますが、ミランダさんとクロウリー君の歓迎会に変更しまーす! 歓迎会やってなくてゴメンね!寂しかったでしょう?」 「えっ・・・えぇ・・・はぁ・・・・・・」 「まぁ・・・やってくれると言うのならば・・・・・・」 改めてパーティの主役に指名された二人は、揃って曖昧な声を上げる。 「ゴメンね、忘れていたわけじゃないんだよっ!!」 「・・・嘘くさい」 メガネの奥の目を光らせ、満面に笑みを浮かべるコムイに、神田が、冷ややかに呟いた。 が、彼の言葉を黙殺して、コムイは、強引に二人を主賓の席に押し上げる。 「では!新たなるエクソシストに!乾杯!!」 ようやく発せられた乾杯の音頭に、集った人々は杯を掲げて、アレンとラビはほとんど泣きながら、唱和した。 その後、ミランダ&クロウリー歓迎会と化したパーティ会場で、アレンはリナリーに手招きされた。 「なんですか?」 すぐさま駆け寄って行くと、彼女はいたずらっぽい笑みを浮かべて、アレンにひそひそと囁いた。 「あのね、科学班で賭けをやってるんだけど、アレン君も参加しない?期間は今日から1週間」 「今日から?どうせなら、明日からの方が区切りがいいでしょう?」 「それはみんなにも言われたけど、思い立ったが吉日、って言うでしょ? ね?アレン君は、リーバー班長が『運命』を信じるようになると思う?」 クスクスと、楽しげな笑声を上げるリナリーに、アレンは首を傾げる。 「リーバーさんが・・・信じそうにないなぁ。なにかしら理由をつけると思いますよ」 「じゃあ、アレン君は『NO』ね。賭けるのはチョコレートよ リナリーが、ポケットから取り出した紙に、アレンの名を書く間、アレンは部屋の隅に、全てを仕掛けた老人の姿を見つけ、思わず駆け寄った。 「ブックマン!ブックマン!教えて欲しいことがあるんです!」 そう言うと、老人は、機嫌よく笑って頷く。 「この勘違い・・・ブックマンが仕掛けたんだってのはわかりましたけど、なんでそんなことを?」 問えば、老人は低く笑声を上げ、部屋の隅で拗ねた猫のようにしょげている、彼の弟子を示した。 「アレン、お前にももう、私の弟子が、どんなにいたずら好きか、わかったことだろう」 彼の言葉に、アレンは苦笑して頷く。 「半日で、これだけのいたずらをしてしまう小僧が、明日一日の猶予を持ってしまったら、何をしでかすかわかったものではない」 だから、あえて勘違いさせ、明日の大騒動を防いだのだ、と言う彼の言葉を聴きつけて、『でも・・・』と、リナリーも歩み寄ってきた。 「神田が『ラビ』の発音を間違えるなんて、偶然でしょ?」 そう言って、首を傾げるリナリーに、アレンも強く頷く。 「そうだ!それって、ほとんど賭けですよね? どうしてあの時、神田がラビの発音を間違えるって、わかったんですか?」 アレンの問いに、ブックマンはにこりと笑った。 「なぁに・・・私が神田と話した時、ずっと、ラビのことを『Rabbi』と発音していたのだよ」 そのせいで、神田はただでさえ苦手とするRとLの発音を、取り違えてしまったのだ、と、老人は楽しげな笑声を上げる。 「私の計画に、穴はないよ」 ブックマンの不敵な言葉に、アレンとリナリーは、揃って首を竦めた 明日―――― 本当のエイプリルフールが訪れても、彼にだけは嘘はつけない・・・。 そう、確信せずには、いられなかった。 Fin. |
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たとえ、バレンタインデーを忘れようとも、エイプリルフールはやります!(笑) それが私のアイデンティティ!!(ウルサイ) なんたって、エイプリルフール用TOPは、1月には出来上がってましたから!(笑) そんなことにだけは、ムダに夢中になりますから、私!(笑) さて、このネタは、6巻でラビのつづりが『Lavi』だとわかった時、『ウサギとは別物か・・・ってか俺、この名前は発音できねぇぞ?』と思ったのがきっかけ★ 無理やり日本語表記にすれば、『ゥラヴィ』だよね、多分。←英語はとっても苦手。 |