† Rubbish! †







 ―――― その日。
 カレンダーを見やった老人は、にこりと笑った。


 黒の教団本部の、本城を歩き回っていた神田は、談話室のソファに白い後頭部を見つけて、声を掛けた。
 「おい、モヤシ!ラビのヤツをしらねぇか?」
 途端、憮然とした顔が振り返り、忌々しげに口を開く。
 「知りませんよ、そんな人!」
 神田に対し、アレンが憮然とした顔を向けるのはいつものことだが、ラビの名に対してまでも忌々しげな口調であることに、ふと、神田は首を傾げた。
 ―――― また、ケンカでもしやがったか?
 神田とアレンは、自他共に認める犬猿の仲だが、ラビとアレンはむしろ、仲が良い方だと思う。
 ただ、仲が良すぎて、よくケンカもしていた。
 今日もそんなところだろうと、何気なく歩を進めた神田は、アレンが座るソファの傍らに、ラビが寝転んでいる姿を発見し、拳を握る。
 ゴッ!
 「いったぁぁぁぁぁぁぁ――――っ!!!!!」
 突如、間近で起こった悲鳴に、ラビが驚いて本から顔を上げた。
 「イキナリなにすんですか、乱暴者!!」
 「なにすんだ、じゃねぇ!!
 ナニ隠してやがんだ、てめぇは!!」
 「な・・・なんでいきなりケンカしてんさ、お前ら・・・・・・?」
 ソファの上に膝立ちになり、おろおろと仲裁に入ったラビにも、神田の怒りが向く。
 「お前も!隠れてんじゃねぇよ!!」
 「だから、なんのことさぁ――――?!」
 意味不明な神田の剣幕に、泣き声を上げるラビを、ギリ、と、彼は睨みつけた。
 「そうか、てめぇら・・・!二人して俺をはめようって魂胆か?!」
 「はぁっ?!」
 神田の理不尽な決め付けに、アレンとラビは、頓狂な声を揃える。
 「とぼけてんじゃねぇよ!今日がなんの日か、しらねぇ俺じゃねぇぞ!」
 「今日・・・・・・?」
 アレンが、神田に殴られた場所をさすりながら首を傾げると、その傍らでラビが、ものすごい悲鳴を上げた。
 「しまっっっっったさぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」
 悶絶するラビに、アレンはびくっと飛び退る。
 「俺としたことが!こんな大事なことを忘れるなんて!!」
 「なっ・・・ナニナニナニ?!」
 わけがわからず、動揺するアレンに反し、神田は、忌々しげに鼻を鳴らした。
 「っんだ!本気で気づかなかったのかよ!」
 「今のは気づかなかったんじゃないさ!ユウが俺の名前を間違えたんさ!!」
 「なんだと?!」
 「俺はRabbiじゃなくて、Laviだって、何度言ったらわかるんさ、このボケッ!!」
 RとL・・・一文字違うだけで、発音は全く違う。
 ラビがそのことを指摘すると、アレンもウンウン、と頷いた。
 「神田が、いきなり『Rabbi(ユダヤ教の聖職者)を知らないか』なんて言うから、僕は知らないって言ったんですよっ!
 それをいきなり殴るなんて・・・この乱暴者!!」
 「うっ・・・うるせぇ!!
 大体、RとLの違いなんて、些細なもんだろ!そのくらい、おもんぱかれ!」
 「全然違うさ!日本語の、『お』と『を』以上に違うさ!呼ばれてることに気づかなかったくらいさ!」
 そう言って、ラビは悄然と肩を落とす。
 「ユウと俺、初めて会ってから、もう何年になるんさ・・・?
 なのにお前は、いまだ俺の名前も正確に覚えてくれないなんて・・・・・・!」
 「う・・・・・・」
 ラビの恨み言に、さすがの神田も、反論を封じられた。
 「俺は、同い年のお前と友達になれて、ものすごく嬉しかったのに・・・お前はそうやって、いつまでも俺を友とは見てくれないんさ・・・・・・」
 「ラ・・・ラビ・・・!」
 ラビの低い声に、アレンまでもが、気遣わしげに彼と神田とを見比べる。
 口添えをしたくはあったが、意地っ張りな神田のこと、アレンが口を出せば、却ってこじれるに違いないと判断し、沈黙を守った。
 と、湿っぽい空気に耐えかねたか―――― 信じがたいことに、とうとう、神田が折れた。
 「・・・・・・
悪かった
 ものすごく低く小さな声で呟かれた謝罪に、ラビはぱっと顔を上げ、にんまりと笑う。
 「えへへー♪
 ユウちゃん、もう間違えちゃイヤさ?」
 「・・・あっ!てめぇ!!!」
 「へへへ♪
 ユウちゃん、怒っちゃダメダメん 今日は、嘘ついてもいい日なんだからさ♪」
 「あー!エイプリルフール!」
 そういうことか!と、手を打つアレンを、神田が忌々しげに睨んだ。
 「ふざけた日を設けやがって、暇人どもが!」
 人様の国の慣習に対し、酷い言葉を吐き捨てると、神田は踵を返す。
 「あれ?ユウ、俺に用だったんじゃないさ?」
 「もういい!!」
 いきり立って談話室を出て行った神田を見送り、ラビは苦笑した。
 「あちゃー・・・今日は口利いてくんねぇな、こりゃ」
 明日には仲直りできる、と、言外に言うラビに、アレンが思わず、感嘆の視線を送る。
 と、
 「ところでアレン。
 今日がエイプリルフールだと知ってしまった以上、俺達には、嘘を仕掛ける義務があると思うんだが、どうだろう?」
 振り返り様、問いかけるラビに、
 「いや・・・義務はないと思うよ・・・・・・?」
 なんでそんなことに義務を感じるの、と、アレンは脱力したが、彼はきっぱりと首を振った。
 「何を言うさ!
 いいか、アレン?!エイプリルフールは、一年で一度だけ、嘘をついていい日なんさ!
 つまりは、あの厳しいジジィを騙し、仕事熱心なリーバー以下、科学班の仕事を邪魔し、ジェリー姐さんから夕食のおかずをかっぱらっても怒られない日!ビバ!!」
 「なにがビバ・・・・・・」
 どうも、ハロウィンと混じっている気がする、と言うアレンに、ラビはブンブンと首を振る。
 「アレン!そんなに意志の弱いことでいいんさ?!
 こんなチャンスを逃すって事は、最後の楽しみに取っておいたデザートを、横からかっさらわれるくらいに悔しいことだぜ?!」
 「デザートを取られるのは悔しくて哀しいけど・・・・・・」
 『今日』を逃すことはそうでもない・・・と、続けようとしたアレンの口を塞ぐように、ラビは畳み掛けた。
 「そうだよな!お前もきっと、悔しいに違いない!ってことで!さぁ、いくさ!」
 「どこへ?!」
 ぐいぐいと腕を引かれて、無理やり立たされたアレンが、目を丸くしていると、ラビはにんまりと笑った。
 「デザートを作ってもらいに!」
 「はぁぁ?!」
 わけがわからず、しかし、強引なラビに腕を引かれるまま、アレンは彼に付いていった。


 ―――― その頃、科学班で、城内の映像を写すモニターを睨みつけていたリナリーは、くすりと笑みを漏らして、兄の執務室から戻ってきたリーバーを呼び止めた。
 「はーんちょう
 お仕事、一区切り付いたんでしょ?お昼に行ってきたら?」
 「ん?
 うーん・・・けど、もう一つ、終わらせておきたいのがあるからなぁ・・・・・・」
 渋るリーバーに、しかし、リナリーは首を振る。
 「それが終わるまでお預けにしたら、結局、お昼食べられないでしょ?
 実験の経過レポートは、私が管理しておくから、行ってらっしゃいよ」
 再度勧められて、リーバーは手にしていたノートをリナリーに渡した。
 「じゃあ、これ頼むぜ。チェックの仕方は・・・」
 「大丈夫。一昨日からやってたものでしょ?
 横で見てたから、なにをチェックすればいいかはわかるわ」
 「そっか。じゃあ、頼むぜ」
 「了解♪」
 踵を返したリーバーに手を振って、リナリーは室内のメンバー達にウィンクする。
 「成功
 彼女の声に、メンバー達は、にんまりと笑ってウィンクを返した。
 「しっかし・・・本当にこんなんでうまくいくのかねぇ?」
 試験管を覗き込みながら、疑問の声を上げるメンバーに、リナリーは『さぁ?』と、笑みを返す。
 「でも、偶然を『運命』だって勘違いさせることは可能よね?」
 リナリーの問いに、心理学を専門とするメンバーが、にやりと笑った。
 「そういう環境を、周りが無理やり作ればな」
 「ふふふ・・・
 あの科学で凝り固まっちゃった班長が、ミランダと『偶然』何度も会っちゃう事で『運命』を感じるようになるか・・・賭けましょ!」
 言いつつ、リナリーは手にしたノートに、『YES』と『NO』の欄を作り、『YES』の欄に自分の名を書き入れる。
 「じゃあ、俺は『NO』で。あの人ことだから、絶対何やかやと理由をつけるね!」
 「俺は『YES』だなぁ。リナリーが絡むなら、意地でも『運命だ』って言わせそうだし」
 「おい、リナリー!小細工はなしだぜ?」
 「わかってるわよ。なに賭ける?」
 「金賭けると怒られるからなぁ・・・」
 「じゃあ、チョコレート!」
 「それが無難かなぁ?」
 わいわいと、リナリーの周りに集まったメンバー達は、それぞれに名前を書き込み、今日から1週間の期限を設けて、様子を伺うことにした。
 「でも、なんで今日から始めるんだよ・・・」
 「そうだよな。なんか、変な感じだよ」
 「どうせなら、明日からやればいいのに」
 名前を書き入れながらも、ブツブツと言うメンバー達に、リナリーは、にっこりと笑う。
 「いいじゃない!思い立ったが吉日よ!」
 一方、知らないうちに賭けの対象にされていたリーバーは、ちょうど、前方の実験室から出てきた人物の姿に目を留めた。
 彼女は、手にしたレポートに目を落としたまま歩を進めているため、リーバーには気づいていない。
 「ミランダさん」
 そっと歩み寄り、間近から声を掛けると、彼女は短い悲鳴を上げて、レポートを散らばせた。
 「リリリリリ・・・リーバーさんっ!!!!」
 びくびくと、小動物のように細かく震えるミランダの様子に、リーバーは慣れた風に微笑んだ―――― 事実、当初は彼女の怯えぶりに慌てたものだが、今では逆に、驚かせてその反応を楽しんでいる。
 「スミマセン、驚きました?」
 床に散らばったレポートを拾い集めつつ言えば、彼女は、いまだ震えの納まらない首を縦に振る。
 「ホント、すみません。つい、からかってみたくなって」
 笑いながら、リーバーは自身が手にしたレポートに目を落とした。
 「あぁ・・・ヘブラスカのチェックだったんですね。
 シンクロ率、順調に上がってますね」
 「は・・・はいっ・・・・・・!」
 「努力家ですからね、ミランダさんは」
 リーバーの評価に、ミランダは真っ赤になって俯く。
 「あ・・・ありがとうございます・・・・・・」
 「ホントのことでしょ。
 それより、今、結果出たんなら、しばらくやることナシでしょ?昼飯、付き合ってくれませんか?」
 「は・・・はいっ!!」
 並んで歩き出した二人の映像を、黒い通信ゴーレムが送った先・・・科学班では、モニターを見つめていたメンバーたちが、それぞれに快哉を上げた。


 リーバーたちが食堂に入った時、厨房内では、ジェリーが両脇をアレンとラビに固められ、なにやら困惑げだった。
 「注文いいっすかー?」
 カウンターで呼ばわったリーバーに、料理人の一人が寄ってくる。
 「こんにちは、班長、ミランダさん。今日はなんにします?」
 にこやかに応じる彼の肩越しに、リーバーはジェリー達を指し示した。
 「どうしたんだ、奴ら?」
 「あぁ・・・うん・・・・・・」
 リーバーの問いに、彼はあいまいに笑う。
 「いつものおねだりですよ。
 なんでも、食材が足りないとかで・・・料理長が『作れない』って言うのを、二人でおねだりしてるんです」
 微笑ましいんですけどね、と言って笑った彼に、しかし、リーバーは眉を寄せた。
 「おい!ラビ!アレン!
 お前ら、無茶言って料理長の仕事の邪魔してんじゃねぇよ!」
 彼がカウンターから呼びかけると、ラビとアレンが振り返り、びくっ!と身を震わせる。
 「べ・・・別に、無茶言ってないさ!」
 「じぇ・・・ジェリーさんなら、きっと大丈夫なんです・・・・・・」
 ねぇ?!と、二人に縋られて、ジェリーは苦笑した。
 「わかったわかった。
 んもぅ、しょうがないわねぇ、この子達は!」
 「料理長!ガキどもを甘やかすのは・・・」
 「あん 違うの違うの、リーバー 心配しないで
 パタパタと手を振り、ジェリーはリーバーと、その傍らのミランダに微笑みかける。
 「アンタ達は、好きなもの注文してくれていいからぁ
 そう言い残すと、ジェリーはラビとアレンを伴い、厨房の裏に通じる勝手口から出て行った。
 「じゃあ・・・なんにします?」
 改めて問うた料理人に、『食材が足りない』と言う言葉が頭に残ってしまったリーバーは、つい、
 「ワニ肉のステーキ」
 と口走る。
 「えぇっ?!」
 びくっ!と、怯えたミランダの正面で、料理人は乾いた笑声を上げた。
 「本気で注文しますか、それ?」
 「・・・・・・・・・・・・・・・スマン。冗談だ」
 「材料が入荷したら、お知らせしますよ」
 リーバーの返答をさらりとかわして、彼は、今日のところは無難な定食を二つ、カウンター越しに差し出した。


 「ぅあっ・・・危なかったさぁぁぁ〜〜〜!」
 「ま・・・まさか、ミランダさんが来るなんて・・・っ!」
 「あの子、さっきランチしてたのに・・・まだ食べるのかしらね?」
 訝しげなジェリーの言葉に、アレンとラビは顔を見合わせた。
 「きっと、リーバーさんの誘いを断れなかったんですよ・・・」
 「いんじゃね?ミランダ、細すぎだし」
 「そりゃアタシも、あの子はもっと太ったほうがいいと思うけどぉ・・・って。そうじゃないでしょ、今は」
 パタパタと手を振られて、アレンとラビは、再びジェリーに縋った。
 「そうそう、忘れてたんは俺らのミスだしー!イキナリで食材が足りないのもわかんだけどー!」
 「3月31日は、クロウリーさんのお誕生日なんですぅー!ミランダさんの歓迎会も、色々あってまだやってないし・・・・・・!」
 「サプライズ・パーティしたいんさぁー!姐さぁーん!!」
 「ハイハイ。わかったわかった。
 じゃあ、今から急いでお店に電話して、夕食用の食材に追加してもらうから。アンタ達、ちゃんと連絡回すのよ?」
 「はぁい!」
 「さすが姐さん!ありがとうさー!!」
 厨房に戻っていくジェリーに、派手に拍手を送ると、ラビは、にんまりと笑った。
 「姐さん、今日は31日だって、上手く勘違いしてくれたさ♪」
 「だってラビが、『絶対4月1日だって言うな!』って言うから・・・」
 「あったりまえさぁ!今日がエイプリルフールだってばれたら、警戒されちまうだろ!」
 警戒されて当たり前のことを実行しているラビの言葉に、協力者のアレンは渋々頷く。
 「・・・こんなことして、怒られないかなぁ・・・?」
 「大丈夫さ!今日は、嘘をついてもいい日なんさ!」
 不安げなアレンを急かして、ラビは次なる仕掛けに向かって走り出した。
 「次!コムイを騙しに行くさ!
 あいつに『今日はパーティするよー』って言わせれば、みんな集まるかんな!」
 「だ・・・騙せるかなぁ・・・・・・」
 一筋縄では行かない、室長の姿を思い浮かべて、怖気づくアレンの背を、ラビが強くはたく。
 「弱気になるんじゃないさ!
 今だから、『クロちゃんの誕生日』って口実も使えんだぜ?!」
 「は・・・はぁ・・・・・・」
 ラビと並んで走りながらも、いまだ気乗りしない様子で、アレンは眉根を寄せた。
 「ところで・・・クロウリーさん、ホントはいつが誕生日なんですか?」
 「12月1日!1789年にフランスで、ギロチンが議会に法案提出された日さ!」
 「・・・ねぇ・・・なんでそんなこと、覚えてるの?」
 友人の奇妙な記憶力に呆れながらも、アレンは乗りかかった船と、ラビに従った。


 その後、まんまとコムイを口説き落とした二人は、食堂が賑々しく飾り立てられ、部屋の中心に据えられた大テーブルに、ジェリー特製の巨大なケーキが置かれるに至り、にんまりと笑みを交し合う。
 「やっっったさぁぁぁ!」
 「ケーキ獲得成功ですね!」
 クスクスと笑っていると、配膳の指示に立ち回っていたジェリーに掴まった。
 「ちょっと、アンタたちぃ!暇なら手伝いなさいよ!」
 アンタ達が持ってきた話でしょ!と囁かれ、二人は料理人達から次々に渡される料理や飲み物を持って、厨房とテーブルとを、何往復もする。
 そうやって、ようやく準備の整った部屋に、乾杯の音頭を取るべく、コムイが現れた。
 「ヤァヤァ、みんな、準備ご苦労様!
 じゃあ、早速始めようか!グラスはみんな、行き渡ったかい?!」
 そう言って、コムイが自身のグラスを掲げて見せると、メンバー達は、それぞれの手にしたグラスを掲げて陽気な声を上げる。
 「ハイ!じゃあ、お誕生日おめでとう!リーバー班長!」
 「はいぃっ?!オレっすか?!」
 グラスを向けられたリーバーが、目を剥いて驚いた。
 「オレの誕生日は9月っす!ってか、室長の三十路突入記念パーティじゃないんすか、これ?!」
 「ボクはとっくに30歳ですぅっ!!
 え?!じゃあ・・・ジェリー?」
 「なんでアタシが、自分の誕生日に自分でケーキ作んなきゃなんないのよ!」
 逞しい両腕を腰に当て、反論するジェリーの姿に、アレンとラビは、再びクスクスと笑声を上げる。
 実は、コムイを訪ねた際、彼が仕事で慌しくしていたこともあり、あえて誰の誕生会、とは言わなかったのだ。
 「・・・・・・誰か、今月誕生日の人―?」
 大人達の、ずさん過ぎる会話に呆れ果てたリナリーが挙手を求めるが、多くの人員がひしめくこの部屋で、誰も手を上げる者はない。
 「・・・えぇっ?!
 ちょっと、ラビ!アレンちゃん!アンタ達、今日はクロちゃんのお誕生日だって、言ったじゃない!」
 「えぇっ?!私であるか?!」
 「そうよ!
 それとミランダ!アンタの歓迎会もしてないからって!」
 「私もですかぁっ?!」
 慌て声を上げたジェリーに、クロウリーとミランダが瞠目し、アレンとラビは、とうとう爆笑した。
 「ジェ・・・ジェリーさん・・・っ!
 ごめんなさい!」
 「えへへー エイプリルフールのイタズラさ、みんな♪」
 ポカン・・・とした面々を見回して、ラビが更に笑声を高める―――― が、
 ガゴンッ!
 すかさず飛んできたリーバーの拳に、二人の爆笑は泣き声に変わった。
 「いったぁぁぁぁっ!!」
 「なんでぶつんさー!」
 抗議の声に、しかし、二人の前に立ち塞がったリーバーは、冷厳な目で見下ろす。
 「今日はまだ、3月31日だ、バーカ!」
 「え・・・?」
 「ええええええええっ?!」
 アレンとラビは、絶叫した。
 「うそっ?!マジ?!」
 「カレンダー確認しなさいよ、アンタ達!今日は月末よ!」
 ジェリーの言葉に、コムイがウンウン、と頷く。
 アレンとラビは、いつもスケジュールに厳しい二人を、うまく騙せたと勘違いしていたが・・・何のことはない。事実、今日は3月31日だったのだ。
 「え・・・?!じゃあなんで・・・?」
 「そうさ!なんで俺ら、今日がエイプリルフールだって勘違いしたんさ?!」
 顔を見合わせ、記憶を辿った二人は、『あ!』と、大声を上げた。

 ―――― 今日がなんの日か、しらねぇ俺じゃねぇぞ!

 「神田――――!!」
 「ユウ――――!!」
 思えば、神田のこの一言さえなければ、二人が勘違いすることはなかったのだ。
 「えぇっ?!なに?!騙された?!騙されちゃったんさ、俺ら?!」
 「神田・・・!先走るなんて、極悪非道!!」
 慌てふためく二人に、再び拳が飛んだ。
 「誰が極悪非道だ、コノヤロウ!」
 「ってぇさ、ユウ――――!!」
 「問答無用で殴る行為が、極悪非道でないとでも!」
 二人の反論は、しかし、神田の鋭い眼光により封殺された。
 「別に騙しちゃいねぇよ!俺は・・・・・・」
 言いかけて、神田は忌々しげに舌打ちした。
 「な・・・なに・・・・・・?」
 目を丸くして、成り行きを見守っていたリナリーが、急に黙り込んだ神田に、堪りかねて問う。
 「ジジィっ!!自分の弟子をしつけんのに、俺を利用すんじゃねぇ!!」
 神田が睨んだ先では、ブックマンが一人、クスクスと笑声を上げていた。


 「えーと・・・つまり・・・・・・?」
 まとめようか、と、コムイが顎に手を当てた。
 「ブックマンは、神田君がラビを探すように仕向けた際、『西洋には、嘘をついてもいい日があるから気をつけろ』と教えた、と」
 そう言って、神田を指差すと、彼は忌々しげに頷いた。
 「それを聞いた神田君は、うっかりラビの名前を発音し損ねて、アレン君が『ラビなんて知らない』と言ったことに対し、今日がその『嘘をついていい日』だと勘違い」
 今度は、神田は頷かない―――― 彼の、山より高いプライドに差し障るのだろう。
 「神田君の激怒状態に、アレン君とラビは、今日がエイプリルフールだと勘違い。
 んで、1日早くイタズラしちゃった、と。こういうわけかい」
 「ハイ・・・・・・」
 捕まった仔ウサギのように、小さく縮こまっているアレンとラビに、コムイは苦笑した―――― 叱るに叱れないのは、彼らが、ブックマンにしてやられたからだ。
 かといって、ブックマンに苦情を言うわけにもいかない。
 何しろ彼は、誰を騙したわけでも、嘘をついたわけでもない―――― ラビ達が、勝手に勘違いしただけだ。
 「やれやれ・・・・・・」
 「途中で気づかなかったの?」
 深々と吐息するコムイの傍らで、リナリーが、大きな目を丸くして問う。
 「全然・・・・・・」
 「イタズラの計画に、猛進してたさ・・・・・・」
 「呆れた」
 二人の答えに苦笑し、リナリーは、傍らの兄を見上げた。
 「兄さん、せっかく準備しちゃったんだし・・・」
 溺愛する妹の『お願い』に、コムイは締りのない笑みを浮かべた。
 「そうだね!
 では、突然ではありますが、ミランダさんとクロウリー君の歓迎会に変更しまーす!
 歓迎会やってなくてゴメンね!寂しかったでしょう?」
 「えっ・・・えぇ・・・はぁ・・・・・・」
 「まぁ・・・やってくれると言うのならば・・・・・・」
 改めてパーティの主役に指名された二人は、揃って曖昧な声を上げる。
 「ゴメンね、忘れていたわけじゃないんだよっ!!」
 「・・・嘘くさい」
 メガネの奥の目を光らせ、満面に笑みを浮かべるコムイに、神田が、冷ややかに呟いた。
 が、彼の言葉を黙殺して、コムイは、強引に二人を主賓の席に押し上げる。
 「では!新たなるエクソシストに!乾杯!!」
 ようやく発せられた乾杯の音頭に、集った人々は杯を掲げて、アレンとラビはほとんど泣きながら、唱和した。


 その後、ミランダ&クロウリー歓迎会と化したパーティ会場で、アレンはリナリーに手招きされた。
 「なんですか?」
 すぐさま駆け寄って行くと、彼女はいたずらっぽい笑みを浮かべて、アレンにひそひそと囁いた。
 「あのね、科学班で賭けをやってるんだけど、アレン君も参加しない?期間は今日から1週間」
 「今日から?どうせなら、明日からの方が区切りがいいでしょう?」
 「それはみんなにも言われたけど、思い立ったが吉日、って言うでしょ?
 ね?アレン君は、リーバー班長が『運命』を信じるようになると思う?」
 クスクスと、楽しげな笑声を上げるリナリーに、アレンは首を傾げる。
 「リーバーさんが・・・信じそうにないなぁ。なにかしら理由をつけると思いますよ」
 「じゃあ、アレン君は『NO』ね。賭けるのはチョコレートよ
 リナリーが、ポケットから取り出した紙に、アレンの名を書く間、アレンは部屋の隅に、全てを仕掛けた老人の姿を見つけ、思わず駆け寄った。
 「ブックマン!ブックマン!教えて欲しいことがあるんです!」
 そう言うと、老人は、機嫌よく笑って頷く。
 「この勘違い・・・ブックマンが仕掛けたんだってのはわかりましたけど、なんでそんなことを?」
 問えば、老人は低く笑声を上げ、部屋の隅で拗ねた猫のようにしょげている、彼の弟子を示した。
 「アレン、お前にももう、私の弟子が、どんなにいたずら好きか、わかったことだろう」
 彼の言葉に、アレンは苦笑して頷く。
 「半日で、これだけのいたずらをしてしまう小僧が、明日一日の猶予を持ってしまったら、何をしでかすかわかったものではない」
 だから、あえて勘違いさせ、明日の大騒動を防いだのだ、と言う彼の言葉を聴きつけて、『でも・・・』と、リナリーも歩み寄ってきた。
 「神田が『ラビ』の発音を間違えるなんて、偶然でしょ?」
 そう言って、首を傾げるリナリーに、アレンも強く頷く。
 「そうだ!それって、ほとんど賭けですよね?
 どうしてあの時、神田がラビの発音を間違えるって、わかったんですか?」
 アレンの問いに、ブックマンはにこりと笑った。
 「なぁに・・・私が神田と話した時、ずっと、ラビのことを『Rabbi』と発音していたのだよ」
 そのせいで、神田はただでさえ苦手とするRとLの発音を、取り違えてしまったのだ、と、老人は楽しげな笑声を上げる。
 「私の計画に、穴はないよ」
 ブックマンの不敵な言葉に、アレンとリナリーは、揃って首を竦めた
 明日―――― 本当のエイプリルフールが訪れても、彼にだけは嘘はつけない・・・。
 そう、確信せずには、いられなかった。




Fin.

 










たとえ、バレンタインデーを忘れようとも、エイプリルフールはやります!(笑)
それが私のアイデンティティ!!(ウルサイ)
なんたって、エイプリルフール用TOPは、1月には出来上がってましたから!(笑)
そんなことにだけは、ムダに夢中になりますから、私!(笑)
さて、このネタは、6巻でラビのつづりが『Lavi』だとわかった時、『ウサギとは別物か・・・ってか俺、この名前は発音できねぇぞ?』と思ったのがきっかけ★
無理やり日本語表記にすれば、『ゥラヴィ』だよね、多分。←英語はとっても苦手。












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