† Lady Luck †
*注* 先に、JC3巻を読んでおくとわかりやすいです。






 ―――― Lady Luck・・・幸運の女神って、言うじゃないですか。
 でも、僕はそんな女神様、いないと思うんですよ。
 じゃなきゃ、僕は彼女に嫌われてるんです。
 だって僕・・・・・・未だかつて、幸運なんてものにめぐり会った事、ありませんから・・・・・・!

 鬼畜師匠に頭を割られ、失血死の危機に陥った僕は、それでも師の命令に従って、インドからはるばるロンドンは黒の教団本部にやってきた。
 ・・・・・・苦労して、ようやくたどり着いたって言うのに、初っ端から凶暴な異人に襲われるわ、実験体にされるわ、異生物の巣に投げ込まれるわ・・・・・・!
 幸運の女神様・・・・・・。
 ホントにいるなら、出て来やがれってんですよ!
 しかも、嘆く間もなく、凶暴な異人と一緒に駆りだされて・・・・・・そんなに人材不足ですか、黒の教団・・・・・・っ!!


 ―――― Lady Luck、って、言うでしょ?幸運の女神様。
 実は私、絶対にいるって、信じているの!
 だって、もう二度と会えないと思っていた兄さんと一緒に暮らせるようになったり、大切な仲間ができたり・・・。
 いないわけがないと思うの!
 だけど・・・・・・。
 私の確信に、疑問を投げかけるような子が、新しく入ってきちゃって・・・・・・。
 幸運の女神様・・・・・・いるならどうぞ、彼にも微笑んであげてください・・・・・・ね?


 ―――― なんの罠だろう?
 コムイから指令を受けた瞬間、アレンがまず思い浮かべたのは、その一言だった。
 無理もない。
 素直に信じるには、今まで彼に課せられた試練は、あまりにも多すぎた。
 だが、疲労に半眼を伏せた科学班室長は、重ねて言ったのだ。
 「エクソシスト単独の、時間のかかる任務だ・・・以上!」
 行け、と、合図され、コムイの執務室を出てからも、アレンは未だ、疑っていた。
 ―――― エクソシスト単独・・・?それはつまり、ファインダーがついてこないってことで・・・・・・・・・・・・え?
 きつく眉根を寄せ、考え込むアレンの俯きがちの視界に、ぴょこ、と、大きな目が現れる。
 「わっ!」
 驚いて、思わず身を引いたアレンに、リナリーが苦笑を向けた。
 「アレン君、なんでそんなに難しい顔してるの?不安?」
 「え?!いや、そうじゃなくて・・・!」
 アレンが慌てて手を振ると、リナリーは華奢な人差し指を顎に当て、首を傾げる。
 「んー・・・まぁ、確かに、イノセンスがあるかどうかわからない上に、いつまでかかるかもわからない任務だもんね。
 困ったなぁ・・・・・・荷物、多くなっちゃうよ」
 「荷物・・・・・・」
 アレンは、リナリーの言葉を反芻した。
 それはつまり、旅の支度・・・。
 「でも、結構大きな街らしいから、必要なものは現地で調達できるわよ!
 アレン君、今回は私達二人だけだから、よろしくね!」
 「二人・・・きり・・・・・・!」
 そう呟いたきり、硬直したアレンに、リナリーが小首を傾げた。
 「?
 アレン君?」
 不思議そうな表情で、自分を見つめるリナリーに、アレンは、感動のあまり涙が溢れ出しそうな目を覆う。
 ―――― 幸運の女神様!!僕は今、初めてあなたの存在を感じました!!!
 「アレンくーん・・・?」
 突然、両手を組み合わせて、感謝の祈りを始めたアレンを、リナリーはやや引き気味に見守った。


 「じゃあ、二手に分かれて探しましょうね」
 同じ『日』が、既に30日間も繰り返されていると言う、不思議な街の城門をくぐった途端、リナリーはそう言い放った。
 「えぇっ?!もうですか?!」
 街には、コムイの予想通り、エクソシストしか入れなかったが、ここまでは、ぴったりとファインダーにお供されたのだ。
 ようやく二人きりになれたというのに、幸福感を味わう間もなく、すぐ仕事なんて・・・・・・!
 「リナリィー!
 一時間でいいですから、一緒に行動しましょう?!じゃないと僕・・・・・・」
 アレンは両手を組み合わせ、涙を浮かべて哀願した。
 「迷子になっちゃいます!」
 「もう・・・仕方ないなぁ・・・」
 そう言いつつも、くすくすと笑声を上げるリナリーに、アレンは内心、拳を握る。
 ―――― 母性本能くすぐり作戦、成功です!
 そんな策略が巡らされているなどとはつゆ知らず、リナリーは大通りを指した。
 「じゃあ、一緒に街を一巡りしましょうか。
 ついでに、待ち合わせできるような場所も、確認しましょ」
 「はいっ!」
 機嫌よく笑って、アレンは腕を差し出す。
 「なに?」
 きょとん、と、目を丸くするリナリーに、アレンは笑みを深めた。
 「はぐれちゃったら困りますから。お手をどうぞ、レディ」
 途端、リナリーが顔を赤らめ、目を潤ませる。
 「?
 どうしました、リナリー?」
 アレンが不思議そうに問うと、リナリーは慌てて首を振り、そっと、アレンの腕を取った。
 「いっ・・・行きましょ・・・っ!」
 「はい
 嬉しそうに笑って、前を向いたアレンに反し、リナリーは真っ赤な顔を俯けて、自分の靴先ばかりを見つめる。
 「こうしていると、デートみたいですね、リナリー
 「そそそそっ・・・そうねっ!!」
 「曇り空なのが、ちょっと残念ですけど」
 「うっ・・・うん・・・っ!ゆゆ・・・雪が降りそうね・・・っ!」
 「今度は、晴れた日にデートしましょ!」
 「うんっ・・・!」
 耳まで赤くして俯く、リナリーの横顔を見下ろしながら、アレンは、ようやく見つけた幸運の女神の姿に、心からの感謝をささげた。
 ―――― 女神様、ありがとー!!!!


 一方、その傍らではリナリーが、こんなにも動悸の激しい自分に、動揺していた。
 ―――― ど・・・どうしよう!!こんなの、初めて・・・・・・!!
 アクマ以上の悪魔として、全ての人間から恐れられる兄の手の中、大切に守られてきたリナリーは、同世代の男の子に『レディ』として扱われた経験がない。
 ―――― レ・・・レディって・・・!私のこと、レディって・・・・・・!!
 その上、腕を組んで街を歩くなんて・・・・・・
 「デートみたいですね、リナリー
 思っていたことを先に言われて、リナリーの動悸は更に高まる。
 更に、
 「今度は、晴れた日にデートしましょ!」
 などと言われ、心臓が止まるかと思った。
 ―――― 今度?!今度って・・・えぇっ?!誘ってくれてるの?!
 「うんっ・・・!」
 すかさず返事をして、そっと傍らのアレンを見上げると、彼は、嬉しそうに笑っていた。
 ――――・・・やっぱり!ホントにいるのよ、幸運の女神様って!!
 アレンの歩調に合わせながら、リナリーはまた、赤い顔を俯ける。
 ―――― コムイ兄さん、ありがとう!
 ・・・・・・この状況が見えたならば、何が何でも妨害に来るだろう兄に、どう勘違いしたものか感謝の言葉をささげて、リナリーは雪雲の下、アレンと仲良く街を巡った。


 ―――― やっぱり、一緒に行った方が良かったかしら・・・?
 リナリーは、任務中の拠点とした宿で、じりじりとアレンの帰りを待っていた。
 ―――― いくらアレン君でも、こんな時間まで迷子になるわけないし・・・何かあったんじゃ・・・・・・。
 時計の針は、もう12時近い。
 何度も、宿の玄関口に出ては辺りを見渡し、また戻るを繰り返す彼女の姿に、他の客達が奇異の目を向けていたのも、もう随分前のこと。
 今、宿の1階にある食堂には、彼女の他、誰もいない。
 そんな時、
 「アレン君・・・!こんな時間まで、どうしちゃったの?!」
 ようやく戻ってきたアレンに、リナリーは声を高めた。
 「アクマと遭遇しました」
 あっさりと言うアレンを、リナリーは気遣わしげに見つめ、先を促す。
 「女の人を襲っていたんです。
 イノセンスがどうとか・・・・・・」
 「・・・わかった。
 話は手当てをしながらよ。傷を診せて!」
 「あぁ・・・!」
 未だ、気遣わしげに自分を見つめるリナリーに、コートを脱いだアレンは、笑って手を振った。
 「コートが派手に破れちゃっただけで、傷はないです。
 レベル2が1体だけでしたし」
 「そう・・・・・・」
 リナリーは、ほっとした笑みを深める。
 「良かった。
 ・・・でも、随分戦い慣れてきたんだね、アレン君。1体とはいえ、レベル2相手に無傷なんて」
 「えへ
 嬉しそうに、アレンが笑った時だった。
 窓から、曙光が差し込んでくる。
 「あら・・・?もう朝?」
 「え・・・?僕、そんなに遅かったんですか?」
 二人同時に部屋の時計を見やれば、確かにもう、針は夜明けの時間を指していた。
 「あちゃー・・・徹夜しちゃいましたね」
 「・・・・・・?
 そう・・・ね・・・・・・?」
 奇妙な時間の流れに、納得ができない様子ながら、リナリーも頷く。
 「じゃあ、ちょっと仮眠をとってから、調査再開しましょう」
 「うん」
 アレンの提案に、リナリーは頷き、それぞれの部屋へと戻って行った。


 「これって、チャンスだよね、ティム♪」
 仮眠から覚めたアレンは、昨夜のアクマとの戦いで、ボロボロになったコートを部屋の隅に放り、荷物から新しいコートを取り出すと、それを纏いながら機嫌よく言った。
 「あのコムイさんがこんなミスするなんて、滅多にないことだよ
 アレンの傍らを、パタパタと飛び回りつつ、金色のゴーレムは、うんうん、と頷く。
 「こんな千載一隅のチャンス!
 逃したら、男としてもクロス師匠の弟子としても失格!」
 コムイが聞いたら、絶叫して襲ってきそうな台詞を堂々と吐いて、アレンは拳を握った。
 「もう放しませんよ、幸運の女神!!」


 同じく、仮眠から覚めたリナリーは、部屋に設えられた鏡の前で、髪を結っていた。
 「る〜〜〜♪」
 機嫌よく歌いながら、手にしたリボンを、きれいに髪に結わえ付けて・・・はっと、目を見開く。
 「やっ・・・やだ!私ったら、なんでリボンなんか・・・・・・!」
 任務中よ!と、慌てて鏡の中の自分を戒めた。
 「あ・・・早く出なきゃ・・・!」
 時計を見れば、もう昼近い。
 「寒いから、コートを・・・・・・!」
 と、取り出したコートの、あまりに飾り気のないスタイルに、リナリーはちょっと顔をしかめた。
 「このくらいなら・・・いいわよね。だって、あんまり飾り気がないのも・・・だし・・・」
 言い訳するように呟いて、リナリーは、髪に結わえようとしていた、サテンのリボンをコートの襟元に結ぶ。
 「えへ・・・ アレン君とお揃いだぁ」
 蝶結びにしたリボンの両端を引っ張りながら笑う、自分の顔を鏡に写した直後、リナリーはそのままの形で凍った。
 「・・・だから・・・・・・なにをしてるのよぅ、私ー・・・・・・」
 任務任務、と、呪文のように繰り返し、リナリーは、ようやく部屋を出た、


 その後、二手に別れて町中を捜索したものの―――― アレンが昨夜、遭遇したと言う女性は見つからなかった。
 なにしろアレン自身、彼女と遭遇した『場所』が特定できない上に、似顔絵も下手すぎて、役に立たない・・・。
 「アレン君・・・今度から、絶対一緒に調査しよう!」
 アレンの方向音痴ぶりに、呆れて言ったリナリーに、アレンは、夕食のチキンを握る手に力を込めた。
 ―――― やったね!!
 自分から言った以上、リナリーはもう、前言撤回することはできない。
 ―――― 僕の方向音痴が、こんなところで役に立つなんてね!
 せっせと仕掛けたトラップに、可愛い小鳥がかかった様を、満足げに見るアレンの前で、しかし、リナリーがポツリと呟いた。
 「兄さんも・・・色々心配してて、働きづめみたいだし。早く解決しなきゃ」
 途端、アレンはぎくりと顔を強張らせる。
 「心配?リナリーの?!」
 ―――― さすがはコムイさん・・・!僕の張った罠もお見通しか・・・?!
 冷や汗が吹き出る額を、しかし、リナリーに軽くはたかれた。
 「伯爵の動向を心配してるの!」
 ――――・・・・・・びっくりした!
 アレンは、笑ってごまかしつつ、背中に流れる冷たい汗に、鼓動を早める。
 ―――― あの悪魔の事だから、僕の罠を見越して、何か対策を講じているのかと・・・!
 任務とは全く違うフィールドで、アレンはコムイと、丁々発止の戦いを繰り広げていた。
 ―――― でも・・・この任務の間に、リナリーの好感度を上げて、他のライバルは蹴散らしておかないと・・・・・・!
 既に、コムイを最大の敵と見据えているアレンだが、彼がいるからこそ、他の男達がリナリーに手を出せないことも知っている。
 ―――― この任務、できるだけ長引かせて・・・・・・
 と、視線を上げた途端、リナリーの背後に、目的の女を見つけ、アレンは手にしたフォークを落とした。
 「って、言ってるそばから――――っ!!!!」
 肝心のところでアレンの手をすり抜けていく幸運の女神に毒づきつつ、彼は、再び逃げようとする彼女・・・ミランダ・ロットーを捕らえた。


 「うわわっ!怖い!!助けて、リナリー!!!」
 ようやく捕らえた女性・・・ミランダ・ロットーに泣き縋られ、怯えるアレンを、リナリーは苦笑しつつも庇ってやった。
 「落ち着いて、ミス・ミランダ・・・!」
 ―――― 錯乱している女性相手じゃ、さすがの英国紳士も形無しね・・・。
 彼に代わってミランダをなだめていると、ふと、アレンの目の色が変わる。
 「アレン君?」
 「リナリー。彼女を連れて、逃げてください」
 言うや、アレンはミランダを狙っていたレベル2のアクマ4体に、躊躇なく向かって行った。
 今の彼の実力では、アクマ4体を一度に相手することは厳しいと知りつつも・・・リナリーは、ミランダの保護を優先する。
 ―――― すぐに戻るから・・・!
 が、彼女が駆けつけるまでもなく、無事に合流したアレンに、リナリーはほっと息をついた。
 「よかった。レベル2を一人であんなに相手するのは、アレン君にはまだ危険だもの・・・でも、逞しくなったよね」
 そう言うと、嬉しそうに笑うのが、とても可愛い・・・と、思ったリナリーは、笑顔のまま、顔を真っ赤に染めた。
 「どうしたんですか?」
 「なっ!!なんでもない・・・っ!!」
 バタバタと手を振ると、アレンは更に不思議そうな顔をする。
 ―――― なに照れてるのよ、私・・・!
 火照った頬を、リナリーが両手で押さえている間に、しかし、アレンは時計にすがり付いて泣いているミランダに歩み寄り、彼女に優しく話しかけていた・・・。
 ―――― そう・・・よね。アレン君は、誰にでも優しいんだから・・・・・・私にだけじゃ・・・ない・・・・・・。
 すぅっと、火照った身体が冷め、リナリーの胸の中に、ざらりと、落胆と怒りと嫉妬の入り混じった砂粒が散らばる。
 ―――― 一人で盛り上がって、馬っ鹿みたい・・・。
 暗く、沈んでいこうとする思考を、12時を報せる時計の鐘が、遮った。
 途端、ミランダの部屋中に時計の文字盤が浮かび上がり、鳴り続ける時計が、逆に時を刻んでいく・・・!
 「リナリー!!」
 呆然としている間に、時計の中に引きずり込まれそうになっていたリナリーの手を、アレンの手が捕らえた。
 が、そうしていたのもわずかの間・・・窓から差し込む曙光に、二人は、目を丸くした・・・・・・。


 ・・・その後、ミランダの話を聞き、考えた結果、時計は彼女の絶望感に共鳴しているらしいという予想が立った。
 「でも・・・わかるな、それ」
 時間を巻き戻すことができれば・・・犯した罪を、なかったことにもできるのに・・・・・・。
 アレンの呟きに、リナリーも頷く。
 「自分も人も・・・傷つけないでいられたらいいよね・・・・・・」
 でも、と、リナリーは、魔女の扮装をして、劇場のビラを配るミランダを見遣った。
 「このままだと、ミランダだけが辛いのよ?」
 街の時を止めていながら、彼女だけは同じ日が繰り返されていることを知っている―――― もう30回以上、彼女だけが、『最悪の日』を過しているのだ。
 「罰だとしても・・・もう、終わっていいんじゃない?」
 「罰・・・・・・」
 リナリーの言葉に、アレンは、はっと目を見開いた。
 ―――― あの日を・・・マナが死んだ日を、なかったことにできればいいと・・・思った・・・・・・。
 しかし、それはあの哀しい日を、アレンだけが何度も繰り返し体験することと同意だ。
 「そっか・・・・・・」
 あの日・・・『ミランダの時計』が存在しなかったのは、非常な幸運だった。そして、今、考え違いをしていたアレンの側に、リナリーがいたことも・・・・・・。
 ―――― コムイさんが、溺愛するはずだよね。
 クスリと笑みを零し、アレンはリナリーには見えないように苦笑した。
 ―――― 何が何でも強奪!と思っていたけど・・・難しいかも・・・・・・。
 むー・・・と、アレンが考え込んでいる側で、しかし、停滞していた事態は、急激に動き出していた。


 「アレン君!!」
 アクマ達の罠にかかり、ミランダと引き離された挙句、重傷を負って倒れたアレンを、リナリーは眼下に見下ろした。
 ―――― 守らなきゃ!
 とっさに浮かんだ思いは、しかし、アクマ達の気配に遮られた。
 レベル2のアクマ3体に囲まれ、逃げ道は極端に狭まっている。
 ―――― 正面から戦りあっても、無理・・・。
 リナリーは、自身の実力を正確に知っていた。
 まずはアレンの身柄を確保し、逃げるべきだ。
 ―――― 大丈夫・・・逃げ切れる・・・・・・!
 冷静にアクマ達の動きを見極め、牽制しつつ、アレンを確保した―――― そう思った、瞬間。
 何もなかった場所・・・いや、なにもあるはずのない、壁の中から、一人の少女が現れた。
 「ロード様!!」
 アクマ達が、揃って畏怖の声を上げる。
 「ナニ逃げようとしてんのぉ、エクソシスト?」
 「――――っ!」
 思わず睨みつけると、少女は、無邪気な笑みを浮かべ、リナリーをじろじろと見遣った。
 「へぇ・・・エクソシストにも、お前みたいなカワイイ子がいるんだぁ」
 「あなた、誰?!」
 ただの少女ではないことは、現れた時点でわかっている。
 が、あえて問えば、
 「時間稼ぎしてんのぉ?」
 と、大きな目が、猫のように細まった。
 「お前、人形みたいにかわいいねぇ・・・決めた!お前を、僕の人形にしたげるよ」
 「何を・・・・・・!」
 反駁しようとしたリナリーの目の前で、傲慢な少女は、アクマに命じる。
 「捕まえろ。絶対、傷をつけるなよぉ」
 途端、凄まじい高音が、リナリーの鼓膜を貫き・・・・・・その意識は、闇に堕ちた。


 「―――― 大変なことになったね」
 聞き覚えのある声に目覚めるや、まず目に写ったのは、恐怖の対象だった・・・。
 「コムイさん?!」
 絶叫すると、悪魔の科学班室長は、満面に笑みを浮かべつつ、特製の巨大な工具を軽々と持ち上げ、世にも恐ろしい機械音を響かせる。
 「アレン君、今回は痛かっただろう?辛かっただろう??ボクが、きちんとケアしてあげるからね!!」
 言うや、起動音と共に、工具のドリル部分が回転を始めた・・・!
 「ぎゃあああ!!!!」
 迫りくる刃から逃げようにも、重傷を負った身体は言うことを聞いてくれない。
 「ホラ、アレン君!じっとして!」
 「そんなこと言われても・・・っ!!」
 たとえ麻酔が効いているとわかっていても、怖いものは怖い。
 そう言いかけて・・・アレンは、ちゃんと痛みを感じる左腕に、眉をひそめた。
 「あの・・・コムイさん・・・?まだ、麻酔が効いてないみたい・・・なんです・・・け・・・ど・・・・・・?」
 全身から吹き出る冷や汗と共に、血の気までが引いていく。
 と、案の定、悪魔はその口元を、三日月形に吊り上げて笑った。
 「・・・・・・麻酔?
 ナニソレ。
 そんなもの使ってないよ?」
 「はぁぁぁぁぁっ?!」
 絶叫し、必死にベッドの上を這い回るアレンの襟首を捕まえて、コムイは笑みを深める。
 「アレン君・・・リナリーと二人きりで任務に就かせたのは、確かにボクの裁量ミスだった。
 だから初日に、一緒に街を歩いてたことは、不問にしてあげるよ」
 済んだことだしね、と、言いつつも、メガネの奥で光る目は、全くもってアレンを許してなんかいない。
 「でも・・・!」
 パタパタと、アレンを気遣うように飛んできたティムキャンピーが、コムイの頭頂に止まった。
 「千載一隅のチャンスって、どういうこと・・・・・・?」
 「うっ・・・!」
 「逃したら、男としてもクロス師匠の弟子としても失格・・・・・・ねぇ・・・・・・?」
 迫り来るコムイの笑みに、アレンが真っ青になって震えだす。
 「その上デートのお誘いとは!言語道断んん――――っ!!麻酔ナシで修理してくれるぅぅぅぅぅっ!!!!」
 「きゃあああああああああああああ!!!!」
 ・・・身近にいた、裏切り者の存在を呪う少年の絶叫は、雪に覆われた病棟中に、悲壮に響いた・・・。


 ―――― Lady Luck・・・・・・
 本当にいるなら、今、この時、僕を助けてください・・・・・・・・・・・・



Fin.

 










リク募集作品第3段♪『アレリナ』にございます。
シチュ指定がなかったので、パラレルでも書こうかなーと思っていたのですが。
『お互い、意識し始める辺りなんかいいかもねー』と、このようになりました(笑)
アレン君は、コムリン事件当時、既に意識している(リーバー班長談)と思われますので、リナリーの方で(笑)
基本としては、兄さんの失策、アレンの策略、ってカンジで、一つ。>なにその、悪逆非道な設定;
そうそう、これらの設定は、D.グレ3巻感想参照です。
さすがだ、俺!
ちゃんと、ネタは用意していたんだね、あの時の俺!!(別人格みたいに言うな)
けど・・・苦労したわりにはいまいちな出来・・・;
ごめんなさい;;












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