† D・O・L・L †







 僕のかわいいお人形・・・
 白磁の肌に 黒いドレスがよく似合う
 僕のかわいいお人形・・・・・・
 長い髪をきれいに梳いて レースのリボンを結んであげる


 照明の抑えられた暗い廊下を、ティキ・ミック卿はゆっくりと歩いていた。
 両脇の壁には、数多くの肖像画が掛けられ、ふと気づくと、その全ての視線が自身に集まっているように思う。
 が、不思議と居心地の悪さは感じなかった。
 むしろ、安堵感すら覚えながら、ティキは、廊下の突き当りに現れたドアのノブに手を掛けた。
 途端、
 「ねぇぇっ!!いいでしょぉぉぉっ!!!千年公〜〜〜〜!!!!」
 ドアの向こうから聞こえた甲高い声に、ティキは伸ばした手を、思わず引き寄せる。
 しばし逡巡した後、踵を返した背に、重く響く声が掛かった。
 「誰ガ帰っていいト言いましたカ?ティキぽん
 「・・・・・・へーぃ」
 降参の手を上げて、ティキは再び、ドアノブに手を掛ける。
 「おじゃましまぁす」
 観念して部屋に入ると、大きな安楽椅子にゆったりと腰掛けた一族の長が、にこやかに彼を迎えた。
 「いらっしゃイ 待ってマしたヨ
 猫のように彼の膝に絡みつく少女をやんわりと押しのけ、千年公はティキに向かう。
 「今日、アナタを呼んだのハ、他でもアりマせん
 言うや、千年公はひょい、と、ロードを抱え上げ、ティキに差し出した。
 「我輩ハこれカラお出かけしマす ロードのお守りをお願いしマすネ
 「は・・・はぁぁぁぁぁぁぁっ?!」
 「なんでぇぇぇぇぇぇぇぇっ?!」
 二人は異口同音に不満の悲鳴を上げたが、千年公はお構いなしに椅子から立ち上がり、ティキにロードをおしつける。
 「我輩、急いでマす レロ 一緒ニいらっしゃイ
 「ハイ 伯爵タマー
 千年公の呼びかけに、ジャック・オ・ランタンの頭がついた傘は、喜びの声を上げ、彼の手の中に飛び込んだ。
 「じゃア、ティキぽん 後はヨロシク
 「ちょ・・・待ってください、千年公・・・っ!」
 縋るように伸ばされたティキの手を阻むように、彼の目の前で、鮮やかなオレンジの傘が開かれる。
 「ヨロシクヨロシクー
 陽気な声で言いつつ、千年公はクルクルと楽しげに回り、闇の中に消えて行った。
 「せんっねんっこぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」
 ティキの悲鳴は、部屋中に空しく響いた。


 「ちぇーっ!千年公の、ケチー!!」
 長が消えた闇へと、舌を出すロードを小脇に抱えたまま、ティキは、呆然と立ち竦んでいた。
 「ティッキー!いい加減、降ろせよぉ!!」
 「・・・・・・・・・・・・」
 「ティッキィィィィー!!」
 バタバタと腕の中で暴れだしたロードを、毛足の長い絨毯の上に放り投げて、ティキは、手近の椅子にどっかりと腰を下ろす。
 「っあぁー!もう!
 今回はなんだっ?!
 遊びか?!宿題か?!課題が溜まってあそばすのかっ!!」
 あからさまに邪険に扱われ、ロードは頬を膨らませた。
 「違うよ!僕は、新しい人形が欲しいんだ!」
 「人形〜〜〜〜?」
 ロードの言葉に、ティキは、呆れたと言わんばかりに語尾を延ばす。
 「人形ならお前、たくさん持ってんじゃねぇか。
 まだ、リボンも解いてないのだってあんだろ」
 「飽きちゃったよ、あんなの」
 あっさりと言った彼女に、ティキは深いため息をついた。
 「ったく・・・このワガママお嬢が・・・・・・っ!」
 顔を覆い、ぐったりとうな垂れるティキの後頭部を、ロードが遠慮なく叩く。
 「いいから、これを見なよ」
 ティキが顔を上げると、目の前に一枚の写真を突き出された。
 「可愛いだろ?僕の人形♪」
 「東洋人か?」
 差し出された写真を見ながら問うと、ロードは、嬉しそうに頷く。
 「うん リナリーって言うんだぁ♪
 せっかく手に入れたエクソシストだったのに・・・・・・!」
 逃げられた、と、唇を尖らせる彼女に、ティキは思いっきり眉をひそめた。
 「それで?」
 「それで、って?」
 「まさかと思うが、ロード・・・。
 俺に、この小娘ひっ捕まえて、お前の人形にしろってか?」
 果てしなく嫌な予感を口にすれば、目の前の少女は、にやりと口の端を曲げる。
 「ティッキーならさぁ〜、ひっ捕まえて、内臓抜いて、剥製にするのも簡単だろぉ?」
 残酷なことを楽しげに口にする少女に、ティキはぐったりと脱力して、椅子の背もたれに懐いてしまった。
 「・・・っとにお前は悪趣味だな」
 「いいじゃん。
 ティッキーも、ムサイおっさん追っかけるより、カワイイ女の子追いかけた方が楽しいだろぉー?」
 ティキを背もたれから引き剥がし、ロードは無理矢理自分に向きなおさせたが、
 「断る」
 と、一蹴され、目を丸くした。
 「なんで?」
 「興味ねぇ」
 憮然と放たれた一言に、ロードの目が、更に大きく見開かれた。
 「・・・・・・・・・・・・ティッキー」
 「なんだよ」
 「こんなカワイイ子に興味ないって、ロリコンか?!」
 音を立てて後退していったロードを、ティキは忌々しげに睨み付ける。
 「・・・・・・ロリコンじゃねぇ」
 「じゃあ、ショタコンか!こっえぇなぁ、オイ!!」
 「ショタコンでもねぇし恐くもねぇ!!」
 ロードの暴言に激しく傷つきつつ、ティキは写真をつき返した。
 「用がそれだけなら、帰るぜ、俺ァ!」
 アホらしい、と、毒づきながら立ち上がったティキを、しかし、逃がすロードではない。
 「じゃあ、手伝ってよ」
 「アホか!!
 世界のどこにいるかもわかんねぇエクソシストを、はるばる追っかけろってか!!」
 千年公の指示ならともかく、ワガママ娘の道楽には付き合ってらんねぇ、と、背を向けたティキの上着を、ロードは子供とは思えない力で引いた。
 「わかったよ!リナリーは諦める・・・」
 けど、と、ロードは上目遣いでティキを見上げ、甘えるように小首を傾げた。
 「他の人形を捕まえるのは、手伝ってぇー?」
 「・・・・・・・・・・・・は?」
 思わず、間の抜けた声を出したティキの腕を、ロードはねだるように引いた。
 「かわいい人形がほしいんだぁ
 「・・・・・・・・・・・・・・っ!」
 引き剥がそうにも、がっちりと腕を固められ、身動きを封じられたティキは、切ないため息をつく。
 ―――― 千年公・・・俺、また子守ですか・・・・・・!
 『子守ハ、慣れていルでショウ
 そんな、意地の悪い声を聞いた気がして、ティキはまたもや大きなため息をついた。


 僕のかわいいお人形・・・
 白磁の肌に 黒いドレスがよく似合う
 僕のかわいいお人形・・・・・・
 長い髪をきれいに梳いて レースのリボンを結んであげる


 街に出た二人は、人通りの多い場所にあるカフェのテラス席に陣取り、行き交う少女達を眺めていた。
 「おい、ロード。
 ブルネットの子、見つけたぞ」
 「やだ。黒髪はリナリーがいるもん」
 ホットチョコレートをすすりながら憮然と呟くロードに、ティキは舌打ちして視線をめぐらせる。
 「・・・あの赤毛の子、かわいいよな」
 「赤毛ぇぇぇぇぇぇ?」
 「・・・・・・栗色はどうだ?あれも可愛いぜ」
 「好みじゃないなー」
 「・・・・・・・・・ブロンド」
 「いまいち」
 ティキのチョイスに、いちいち文句をつけるロードを、彼は睨みつけた。
 「どんなのなら納得するんだヨ、お前は!」
 「そうだなー・・・・・・」
 視線は行き交う少女達に置いたまま、ロードは手元の菓子を探る。
 「肌が白くて、髪のキレイなコ。
 あ、人形なんだから、もちろん、顔も可愛くないとね!」
 「へぃへぃ・・・。
 肌が白くてー・・・髪がキレイでー・・・・・・可愛い子ー・・・・・・・・・」
 やる気なさげに頬杖をついて、目の前を通り過ぎる少女達を物色するティキの傍らで、しかし、ロードは興味をなくしたようにテーブルに突っ伏した。
 「・・・をい、ロード。
 俺がどうしてこんなことをやってんのか、ちったぁ考えてほしいんだけどなぁ・・・?」
 ティキの抗議に、ロードの頭はテーブルの上を転がり、イヤイヤと振れる。
 「やっぱり・・・リナリーじゃないとヤダ・・・・・・!」
 「あのな・・・・・・!」
 忌々しげな視線をロードの後頭部に止め、ティキは低く囁いた。
 「俺も、そして多分、千年公も!
 な・ん・ど・も言ったけどな?!
 お前のワガママのために、世界のどこにいるかもわかんねぇ小娘を追っかけるなんてゴメンだ!」
 言うや、ティキはロードの首根っこを掴み、行き交う人々に視線を向けさせる。
 「俺だって暇じゃねぇんだ!
 さっさとテキトーなの、見繕えよっ!!」
 「ヤァダァァァァっ!!リナリーがいいぃぃぃぃぃっ!!」
 「うっさい、ワガママ娘!!
 早く見つけねぇと、このまま帰るぞ、俺は!!」
 元々、子守は千年公に押し付けられただけで、『任務』ではないのだ。
 付き合う義理はない、と、断言したティキを、ロードは唇を尖らせて睨みつける。
 「ティッキィ〜・・・。
 僕、思ったんだけどさぁ〜・・・・・・」
 「なんだよ。心を入れ替えて、俺を解放してやろうとでも思ったかい」
 あり得ない期待を言葉にすると、当然ながら、ロードは首を振った。
 「そうじゃなくてぇー。
 ティッキーが内臓くり抜いちゃったら、そいつって、死ぬよねぇ〜?」
 ロードの問いに、ティキは、呆れ果てたと言わんばかりに、あんぐりと口を開ける。
 「・・・・・・ロード。
 お前、学校でナニ習ってんだ?」
 内臓抜かれて生きてるわけないだろ、と、呆れ声のティキに、ロードは、『そんなことは知ってる』と、手を振った。
 「リナリーは、僕のお人形にしちゃうんだから、それでいいんだ。
 だけど・・・リナリーが手に入らないなら、アクマでもいいか、って思ってさ」
 それなら自分で動くし、話もする、と言う彼女に、ティキは目を眇める。
 「だったら最初からそう言えよ。
 『家』に戻って、テキトーなの見繕え」
 無駄足だった、と、はやばやと立ち上がったティキの上着の裾を、ロードが素早く掴んだ。
 「もうちょっと付き合えよぉ〜。今、『家』には可愛い女の子のアクマはいないんだ」
 「・・・っったく」
 忌々しげに吐き捨てながらも、ティキは、再び腰を下ろす。
 「へへ
 ティキのそぉいうとこ、好きだなぁ〜
 なんだかんだ言って、ロードのワガママに押し切られる自分自身に、むなしくため息をつきながら、ティキは、再び大通りに目をやった。
 と、
 「お?」
 「あれ?」
 二人が、同時に呟く。
 目をしばたいて、『あぁ』と、やはり同時に呟いた。
 「ティッキー、僕、目が悪くなったのかと思った」
 「俺も」
 笑みを交わして、二人は同じ場所に視線を止める。
 そこは、少女や若い婦人で賑わう、衣料店だった。
 手袋やハンカチーフ、日傘などの小物が、ガラスのショーケースに並べられ、店の中も外も、笑いさざめく少女達で溢れている。
 その中に、二人の少女が紛れ込んだのだ。
 同じ顔、同じ服・・・・・・。
 双子らしき少女達の動きは、ティキとロードが一瞬、目を疑ったほど、見事にシンクロし、色付きの影が身に添っているのかと思ったほどだ。
 「ねぇ、ティッキー
 僕、いいこと考えちゃった
 獲物を見つけた肉食獣のように獰猛な光が、ロードの眼に宿る。
 「双子のアクマ
 僕の両脇にはべらすんだ♪」
 ―――― あれなら、俺もやりたいな・・・。
 一瞬、ティキもそう思ったほどに、美しい姉妹だった。
 白磁の肌と、ミルクにバラを浮かべたような頬。
 花びらのような唇はふっくらと微笑み、金色の豊かな巻毛が、ゆったりと流れている。
 歓喜に見開いた、大きな瞳は鮮やかなブルー。
 まさに、人形のような少女たちだった。
 その証拠に、彼ら以外にも、多くの人間が、少女達に賞賛の視線を送っている。
 その中で、ロードがぴたりと、姉妹を指差した。
 「ティッキー。アレ、僕にちょうだい」


 ―――― 『天使達』と、姉妹は呼ばれていた。
 上流ではないが、それなりに裕福な家庭の娘達。
 世の中の悪意など知らない・・・そんな幸せな二人が、悪魔に目をつけられた。

 ―――― 悪魔だなんて、思わなかった・・・!

 若く、身なりのよい紳士・・・それが彼女達の、『彼』への第一印象だった。
 にこやかに挨拶をし、家に招き入れられた彼は、両親と和やかに談笑しながら―――― その命を奪ったのだ。
 両親の骸に外傷はなく、医者も『心臓発作』と片付けてしまった。
 葬儀を終えても、ただ呆然とするしかなかった彼女らの前に、再び、悪魔は現れた。
 慈悲深い『庇護者』の顔をして、彼は誘惑したのだ・・・。

 ―――― 死者を、呼び戻したくはないか?

 嘆きのあまり、悪魔の言葉に惑わされ、その魂を呼び戻した娘。
 アクマと化した妹を形に、悪魔に囚われた娘。
 同じ顔だが、一人はアクマ、一人は人間。
 アクマの性を顕して、夜毎血にまみれる妹に、姉は毎夜嘆き続けた。


 「ティッキィィ〜 ありがとぉ〜
 喉を鳴らさんばかりに歓声を上げつつ、彼の背にまとわりついてきたロードの首根っこを、ティキは後ろ手に掴むと、猫を持ち上げるようにして視線を合わせた。
 「じゃあ、もういいな?
 俺は帰るぜ!」
 と、ロードは大きな目を猫のように細めて、にっこりと笑う・・・こんな時の彼女は、ろくなことを考えていない。
 「あのねぇ〜 僕、いい事考えたんだぁ〜
 案の定、そんな事を言い出した彼女をソファの上に放り投げ、ティキは踵を返した。
 「そうか、それは良かったな。
 楽しい事は一人でやれよ」
 「一緒にやろぉよぉ〜
 絶っ対!楽しいからぁ〜
 「やだ」
 「じゃあ、話だけでも聞いて?」
 再びティキに擦り寄り、上目遣いで『おねだり』するロードを、彼は、白い目で見下ろした。
 「やだね。
 話を聞いちまったら、無理矢理引き入れるからな、お前は」
 彼がそう言った途端、ロードの目が、剣呑な光を帯びた。
 「手伝えよ。
 楽しいぜぇ?獲物を狩りにいくんだ」
 にやりと、口の端を曲げた彼女に、ティキは『やっぱり』と、深く吐息した。
 「・・・追っかけるのはやめたってか」
 「さっすが!察しがいいなぁ、ティッキーはぁ〜
 「それでおだててるつもりか!」
 ティキの怒声は柳に風と受け流し、ロードは部屋の片隅でうずくまるものに声をかける。
 「ミカエラ!ガブリエラ!」
 来い、という命令に、ビスクドールのような少女の一人が立ち上がり、忠実な犬のようにロードの傍らに寄ると、ふわりと絨毯の上に座り込んだ。
 次の命令を待つように、じっと、大きな青い瞳で見上げてくる少女には満足げに微笑み、ロードは、いつまでも同じ場所でぐずぐずしているもう一人の少女に、低い声を投げかける。
 「ガブリエラ。僕の命令が聞こえないの?」
 ロードの声に、少女はびくりと肩を震わせ、涙に濡れた顔を上げた。
 「わ・・・わたし・・・そんな名前じゃない・・・・・・!」
 勇気を振り絞った少女の言葉に、ティキは、『あーぁ・・・』と、肩をすくめる。
 ロードは、反抗的な『飼い犬』に対し、もっとも残酷な主人だ。
 ―――― かわいいコがいじめられるのを見るのは、あまり好きじゃないな。
 思いつつも、彼は、そっと目を逸らした。
 気の毒に思いはしても、ロードからかばってやるつもりはない・・・そんな事をしたら、ティキがどんな目に遭うかわからない。
 そんな事を考えていると、案の定、ロードに従順なアクマと化した妹によって、彼女はロードの前に、乱暴に引き据えられた。
 「僕に逆らうなよ、ガブリエラぁ。
 お前に似合うようにって、天使の名前をつけてやったんじゃないか」
 ―――― シンデレラと意地悪な姉だな・・・。
 少女の髪を乱暴に掴み、涙に濡れた顔を無理矢理上げさせるロードに、ティキは深々と吐息し・・・ふと気づいて、そっと足を忍ばせた。
 ロードが少女をいたぶっている間に逃げてやろう・・・そんな、男の風上にもおけないことを考えつつ、ティキは、じりじりとドアに寄って行った。
 ―――― もうちょっと・・・・・・!
 そっと、後ろ手にドアノブを掴んだ瞬間。
 「ティッキー?どぉこ行っちゃうのぉ?」
 逃げ損ねて、ティキは音高く舌打ちした。
 「狩りに付き合ってぇ、って、言ったじゃーん?」
 「イヤダぁ、って、言ったじゃーん?」
 へなへなとドアに縋りつつ、ロードの口調を真似ると、彼女は少女の髪を掴んだまま、無造作に引きずって、ティキに歩み寄った。
 その痛みに、ガブリエラが悲鳴を上げるが、ロードは頓着する様子など全くない。
 「こいつら餌にして、エクソシストをおびき寄せるんだよぉ♪」
 楽しそうだろ、と、にこりと笑う彼女に、ティキは思いっきり顔をしかめた。
 「誘ったって、お目当てのカノジョが出てくるとはかぎらねぇだろ」
 「だぁーかぁーらぁー」
 小首を傾げ、ロードは、甘えるようにティキを見上げる。
 「リナリーが出てくるまで、エクソシスト達、殺してってよ、ティッキィー
 「・・・・・・・・・・・・」
 嫌な予感が見事に的中して、ティキは硬直した。
 「ねーぇ
 促すように、腕を掴むロードの手を、無造作に振り払う。
 「お遊びもいい加減にしろ、ロード。
 それは千年公の許しがない限り、手を出していいもんじゃねぇ」
 戦争には、周到な準備が要るものだ。
 圧倒的戦力があるとはいえ、わずかな歪みが全体を崩してしまう事もある。
 しかし、ティキの懸念など関係ない、と言わんばかりに、ロードは笑った。
 「このくらい、大丈夫だよぉー。
 千年公も許してくれるさぁー」
 そんな、何の根拠もない事を言って、ロードは再び、ティキの腕に手をかける。
 「ね、ティッキー?」
 甘えるように腕を引く彼女の、もう一方の手には、泣き濡れる生きた人形・・・。
 ティキが陥れた少女の、おびえた目と目があって、ティキは、再びロードの手を払った。
 「俺は、お前にその人形をやったじゃないか。
 あんまり欲張るもんじゃないぜ、お嬢ちゃん」
 言うや、決然と踵を返したティキに、二度までも振り払われたロードは、憮然と舌を出す。
 「なんだい、ケチ!!」
 が、ティキはロードを無視して、扉を開けた。
 「いいもん!僕だけでやるからね!」
 怒りと共に、少女の髪を掴む手に力が入り、ガブリエラが悲鳴を上げる。
 「僕だけで楽しんじゃっていいの?!人間を殺したくないの?!」
 無言で閉ざされたドアに、ロードは尖った声をぶつけた。
 「なんだよ!意気地なし!!」
 激昂の声とともに、ロードはガブリエラを乱暴に放り出した。
 引きつった泣き声を上げる彼女に、更に怒りは募り、手近にある物を次々と投げつける。
 「リナリー・・・」
 しばらくして、ガブリエラをいじめることにも飽きたロードは、ソファに深く腰を下ろし、切なく吐息した。
 「なんで・・・僕の人形にならなかったんだよ・・・・・・」

 ―――― 僕のかわいいお人形・・・

 ロードは、泣き続けるガブリエラを、冷たく見遣った。
 「お前みたいに、うるさく泣く人形なんて、いらないよ」

 ―――― 白磁の肌に 黒いドレスがよく似合う

 「お前みたいに、無様な人形もいらない」
 ガラス玉のような目で、じっとロードを見つめるアクマにも、冷たく吐き捨てる。

 ―――― 僕のかわいいお人形・・・・・・

 「リナリー・・・・・・」
 クッションに顔をうずめて、ロードは、再びご執心のエクソシストの名を呼んだ。
 「お前は特別だよ・・・」
 にこりと、口の端を曲げて呟く。
 泣かない。話さない。逆らわない。
 ただ、笑みを浮かべているだけの人形。
 神に与えられた全ての力を封じられ、ただ、ロードのためにだけ存在する、美しい娘・・・。
 「リナリー・・・リナリー・・・・・・」
 ソファに寝転がり、クッションを抱きしめて、ネズミをいたぶる猫のような目で、少女達を見つめた。

 同じ顔をしていても、一人はアクマ、一人は人間。

 「餌は手に入れた・・・。
 お前を狩りに行くよぉ・・・
 そして・・・・・・

 ―――― 長い髪をきれいに梳いて レースのリボンを結んであげる

 ビスクドールのような少女たちを見つめて、ロードは楽しげに微笑んだ。





TO be Continued.

 










書きも書いたりD.グレSS50作目〜〜〜
・・・・・・すんません、お暇だったら、誰か誉めてやってください;
さて、このお話は、D.グレリク6番目、『ティキ&ロード&伯爵ギャグ』でした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・わかってますよ;
『ギャグじゃねぇじゃん!!』と、突っ込んだアナタの手のスナップまで、ちゃんと見えました!>をい。
確かに、ギャグではないですが、ティッキーのへたれっぷりは、書いていて楽しかったです(笑)
ロードちゃんの残酷さも>をい。
更に言えば、これ、続きます・・・!(^^;)
えぇ、続編を先に思いついた、本末転倒な話だったものですから・・・!
ちなみに、19世紀イギリスに、『ロリコン』とか『ショタコン』なんて言葉はありませんよ(笑)
語源が知りたい人はご自分でどうぞ(笑)>私が知っているのは、おそらく噂の類なので












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