† Trick! †
〜Party for Lavi〜







 空を厚く雲が覆い、時折、雷光の閃く雨天の下、舟は教団本部に帰還した。
 まるで水から上がったばかりであるかのように、全身を重く濡らしたエクソシストは、迎えの言葉にも憮然と頷いただけで、つかつかと本城の内部を進む。
 「今帰ったぞ、この野郎!」
 蹴破る勢いでドアを開けると、部屋の主は、驚いて書類から顔を上げた。
 「あれ?!どーしたの、神田君?!今はお盆休みでしょー?!」
 コムイの素っ頓狂な声に、神田は眉間の皺を更に深くして、掌に握りこんだイノセンスを渡す。
 「え?!運んでくれたのかい?
 ・・・って、任務終えたらそのまま日本に帰るんじゃなかったっけ?」
 訝しげに問うコムイに、神田は長い黒髪から滴る水をわずらわしげに払いつつ、吐き捨てるように言った。
 「立て続けに台風が起こりやがって、海を渡れなかったんだ!」
 「あー・・・それで、帰って来ちゃったんだぁ・・・・・・」
 ご苦労様、と、苦笑して、コムイは神田をねぎらう。
 「でもさ、いつもこの時期、神田君いないから、今年はラビが喜ぶよー」
 「あ?
 ・・・そういや、もうすぐだったか?」
 「うん、もうすぐだよ。10日。
 毎年、カードとプレゼントだけは、律儀に贈ってるよねー」
 なぜそんな事まで知っているのか、侮れないコムイに更に憮然と黙り込み、神田は踵を返した。
 と、
 「着替えたら、ジェリーのとこ行きなよー。
 面白い話が聞けるよ♪」
 再び書類に目を落としつつ言ったコムイに、神田は興味なさげに鼻を鳴らして、執務室を出て行った。


 「アラ?!
 アラアラ・・・!どーしたの、神田?!」
 食堂のカウンターに現れた神田に、ジェリーが大きな声を上げて寄って来た。
 「盆休みじゃないの、アンタ?!」
 「・・・台風で帰れなかったんだよ」
 忌々しげに吐き捨てた神田に、ジェリーが慰めるように笑う。
 「アラ、じゃあ、せっかくだからラビの部屋に行ってあげなさいよぉ」
 「あ?なんでだ?」
 片眉を吊り上げ、仏頂面で問い返した彼に、ジェリーは大きなトレイにいくつもの皿を載せつつ、笑声を上げた。
 「あの子ねぇ、ブックマンのおじいちゃんへお誕生日のプレゼントするのに、色々やらかしちゃってぇ
 今、自室で謹慎させられてるのよぉ」
 「ふん・・・。
 何をやらかしたんだ、今度は?」
 「それは直接聞きなさいな
 ハイ アンタの蕎麦とラビのお昼ご飯
 「・・・・・・あ?」
 なんでだ、と、手渡されたトレイを見下ろす神田に、ジェリーはにっこりと微笑む。
 「運んであげてちょうだい


 「・・・・・・なんで俺が」
 ラビに、昼食の配達なんぞしなければならないのか、と、ぶつぶつ呟きながら、神田はラビの部屋のドアをノックする。
 「開けろ。メシだ」
 傲慢に呼びかけると、ドアはすぐさま内側から開いた。
 「ユウ?!どしたんさ?!」
 ここにいるはずのない彼への、再三の問いに、神田はまたもや『台風だ』と、憮然と呟く。
 「それより、今度はお前、何をやらかしたんだ?」
 「あははっ!
 それが、すっげ楽しかったんさ!」
 陽気に笑いながら、ラビは『入れ』と、神田を手招いた。
 「わざわざメシ持ってきてくれて、ありがとさー
 ジジィ、こういうことにはすっげ厳しいから、『謹慎』っつったら、マジ外でらんなくて!」
 言いつつ、散らかったテーブルの上のものを無理矢理押しのけ、ラビは神田が持ってきたトレイを乗せる。
 「お前、今日で謹慎3日目だろ。
 今まではどうしてたんだ?」
 神田の問いに、ラビは早速サンドウィッチを頬張りながら、『色々』と応えた。
 「ここを通りかかる奴が、ジェリー姐さんに頼まれて運んでくれるんさ。
 リナにはコムイが、嬉しそーに運んでるらしいし、アレンにいたっては、ジェリー姐さん自らデリバリーするそうさ。
 ずりーよな、あいつ!
 姐さんのお気に入りだがら、『足りない』って泣き付いたら、部屋でも作ってもらえるらしいさ!」
 謹慎しているとはいえ、さすがにラビ・・・どこからか情報を手にしている。
 「モヤシはともかく、リナリーまでか?
 あいつ、リーバーにお前の手伝いをするな、って言われた時、頷いてたがな」
 「そっか?
 でも、リナが一番、やる気だったさ。『仲間はずれにするな』って」
 「あぁ・・・なるほどな・・・・・・」
 科学班で、いつも大人に囲まれているリナリーは、同じ年頃の友人が少ない。
 そのためか、神田とラビが二人でいるのを見つけると、いつも話題に入りたがったものだ。
 「あのクセ、まだ治ってやがらねぇのか、あいつは」
 「寂しがりだかんな、リナ」
 陽気に笑って、ラビは冷たく冷やされたお茶をうまそうに飲む。
 「それで、俺とアレンが作戦練ってた時に、リナが無理矢理入ってきてさ・・・」
 ラビが、楽しそうに語った、オークションハウスでの一件を聞き終えると、神田は興味なさげに鼻を鳴らした。
 「暇な奴らだ」
 「今度はユウも誘うからさ〜!たまにはこういったことにも付き合うさ〜!」
 「そして一緒に謹慎しろってか?冗談だろ」
 馬鹿ばかしい、と、吐き捨てた神田に、ラビが唇を尖らせる。
 「いいじゃん!たのしーぜー?」
 「そうか。謹慎は楽しいか」
 「いや・・・これはあんまり・・・」
 「なら遠慮する」
 ラビの反論を容赦なく塞いで、神田はすらりと立ち上がった。
 「え?!もう行くんさ?!」
 「食事は済んだ」
 ごく当然のように言い放った神田の腕を掴んで、ラビは必死に取りすがる。
 「嫌さ!行かないで、ユウちゃん!!お前がいなくなると、俺は暇で死んじまうさ!!」
 「暇で死ねるなら死んでみろ」
 ラビの懇願を無情に退けて、ドアノブに手を掛けた神田に、ラビはなおも取り縋った。
 「ひどっ!!じゃあ、寂しくて死んでやるっ!!
 死んだら、絶対化けて出てやるさ!!六幻に取り憑いて、パワーダウンさせてやるさぁぁぁぁ!!」
 「・・・・・・・・・」
 忌々しげに舌打ちして、神田はドアノブから手を離す。
 「・・・お前、そんな奴だったか?」
 陽気なのは表面だけで、実は冷淡でドライな内面を持つラビだからこそ、共にいても煩わしさを感じなかったのだ・・・今までは。
 「お前・・・その辺にいるガキと同じじゃねぇか」
 「ユウが遊んでくれるなら、ガキでいいさ」
 「・・・・・・・・・」
 いつまでも縋りつき、神田が頷くのを待っているラビを見下ろして、神田は、不承不承折れた。


 「リーナリィィィ〜〜〜〜 お昼ごはんだよぉぉぉぉぉ〜〜〜〜
 愛に溢れた声と共に現れた兄へ、リナリーは微笑んだ。
 「ありがと、兄さん
 「なんだか、雛に餌を運ぶ親鳥の気分だよ〜 リナリー、あーんして
 他人が見たなら、全身を粟立てて凍りつくだろう所業を、なんの恥じらいもなくやってのけるコムイに、しかし、リナリーも嬉しそうに応える。
 「あーん
 リナリーは、開けた口にブドウの実を入れてもらった。
 「おいしいかぃ、リナリー
 「うん
 可愛い妹に、だらしなく目元を下げる兄に微笑むと、リナリーは手にしていたバラの束をテーブルに置く。
 「ずいぶん進んだようだね」
 きれいに編まれたバラの冠を手にして、コムイは鋭い棘をまじまじと見つめた。
 「棘は取らなかったのか・・・ケガしなかったかい?」
 気遣わしげな問いに、リナリーはふるりと首を振る。
 「大丈夫。
 冠を編む時は、手袋をしてたもの。もうすぐ完成よ」
 両手を広げて、ケガはないことを見せると、コムイはにこりと微笑んだ。
 「じゃあ、出来上がったらお兄ちゃんがあずかるよ。
 科学班の機器の上に吊るしておけば、すぐにきれいなドライフラワーになるからね」
 「うん!」
 テーブルに並べられた昼食を、早速つつきながら、リナリーは嬉しげに頷く。
 「兄さん、今年のラビのお誕生日で一番、目を引くのは私達のプレゼントね、きっと!」


 「アーレンちゃーん お昼持ってきたわよぉー
 ノックされる前に、その芳しい香りに誘われて、ふらふらとドアへ寄っていたアレンは、ジェリーの呼びかけに、嬉しげにドアを開けた。
 「ジェリーさん!!オナカすいたぁぁぁぁ!!!!」
 料理長に飛びつかんばかりのアレンに、ジェリーはにっこりと微笑み、大きなワゴンごと昼食を部屋に運び込む。
 「さぁさぁ、たーんとお食べなさい
 「いただきます!!」
 嬉しそうに昼食を頬張るアレンを見て、更に嬉しそうに微笑みつつ、ジェリーは両手を組み合わせた。
 「なんだかアタシ、雛鳥に餌を運ぶ親鳥の気分だわぁ
 別の部屋で、コムイが全く同じ台詞を吐いたとはつゆ知らず、ジェリーはワゴンの一番下に入れておいた鉄板とバーナーを取り出す。
 「今日のデザートは、焼きたてのクレープにしましょおねぇ〜
 昼食のデリバリーだけでなく、出張料理人まで引き受けてくれるジェリーに、アレンは目をキラキラさせて何度も頷いた。
 「ジェリーさんの料理、ホントにおいしいです!!謹慎させられても、ジェリーさんが来てくれるから、僕、すごく幸せです!!」
 お世辞でもなんでもなく、本気で言うアレンに、ジェリーが嬉しげに頬を赤らめる。
 「もぉ!アレンちゃんたら、うれしいことを言ってくれるわぁ どんどん食べてねぇ
 ジェリーはバーナーに火を入れると、手際よくクレープを焼いていった。
 「わぁ 僕、オレンジソースのクレープ、大好きです!!」
 アレンは目を輝かせて、爽やかな香りを放つ炎を見つめる。
 「ウフフ
 アレンちゃんのために、今日はリキュールを控え目にしましょうね
 ハイ、召し上がれ
 オレンジソースを絡めて焼きあげたクレープに、アイスクリームを乗せて差し出すと、アレンは感涙して受け取った。
 「わぁい!!焼きたてー!!」
 喜んで頬張るアレンを微笑ましく見つめながら、次なるクレープを焼こうとしたジェリーは、ふと、思い出して手を止める。
 「そうだ、アレンちゃん。
 ラビのお誕生日に、って作っていたものは、もう出来上がったの?」
 「もうちょっとで完成です」
 もごもごと、クレープを頬張りつつ、アレンがフォークで示した先には、一抱えはある大きな箱が置いてあった。
 「昨日、ジェリーさんが持って来てくれたバネを取り付ければ、僕の方は完成ですよ」
 「アラアラ 楽しみねぇ
 カラフルに色づけされた木の箱を見やって、ジェリーが微笑む。
 「リナリーの方も、準備は順調だったわよ。
 バラのリースは今日作るって言ってたわ」
 「今日?それ、10日までにドライフラワーになりますか?」
 「科学班の機器の上に吊るしておけば、あっという間に乾くわよ
 心配そうなアレンに微笑んで、ジェリーは次なるクレープを空になった皿に載せた。
 「楽しみねぇ
 クレープを頬張るアレンを、幸せそうな顔で見ながら、ジェリーは少女のように軽やかに笑う。
 「へへ♪
 きっと、今年一番、みんなの目を引くプレゼントは、僕達のですよ!」
 リナリーと同じことを言うアレンに、しかし、ジェリーはいたずらっぽい笑みを浮かべて首を傾げた。
 「どうかしらねー?
 ラビが一番喜ぶプレゼントは、今日、帰ってきちゃったしね
 「へ?」
 なんですか、と、問うアレンに、ジェリーはまた、軽やかな笑声を上げる。
 「神田がねぇ、帰国できなくて、帰ってきちゃったのよぉ。
 今頃、暇をもてあましたラビに泣き落とされて、遊び相手になっているでしょうねぇ
 途端、アレンの顔が忌々しげに引きつる様に、ジェリーは楽しげな笑声を上げた。


 「スリーカード!」
 「ツーペア・・・。
 どっちが勝ったんだ、これは?」
 テーブルに展開したカードを見比べて、首を傾げる神田に、ラビは嬉しそうに笑って自身を指す。
 「俺の勝ちさ!」
 にこにこと笑いながら、改めてカードをシャッフルするラビを、神田は眉根を寄せて見遣った。
 「楽しそうだな」
 「っつか、嬉しいんさ!なんの思惑もなく、カードゲームができるこの状況が!!」
 拳を握るラビの目には、まごうことなき感涙が浮かんでいる。
 「思惑?」
 カードに思惑があるのか、と、当然の問いを発する神田に、ラビは、うな垂れるように頷いた。
 「ユウ・・・。お前も一度、アレンと勝負してみるさ・・・!
 あいつ、ポーカーに関しては、あらゆる手を使って勝ちにくるんさ!!」
 「あらゆる手?」
 「まぁ、はっきり言えば、イカサマさ」
 「・・・なめたヤロウだ」
 心底忌々しげに吐き捨てた神田にカードを配りつつ、ラビも頷く。
 「まぁ、あいつの場合、クロス元帥の弟子って言う、のっぴきならない事情もあるんさ。
 けど、金のかかってない勝負にも、勝ちにこだわるっつーのはどうかと思うさ」
 「イカサマとわかっていて、勝負するお前もお前だ」
 配られたカードを見て、神田は首を傾げた。
 いまいちルールがわからないために、毎回、どのカードを交換すべきか迷うのだ。
 「イカサマって見破れれるんなら、俺だって負けちゃいないさ!けど・・・」
 カードを交換しつつ、ラビは切ないため息をつく。
 「どうやってイカサマやってんのか、全然わかんね・・・」
 そう言ったラビの、カードの山に乗せた指が、ピクリと動いた。
 ―――― もしかして、ユウ相手なら、俺にもできんじゃないかな・・・。
 そう思い、ふと正面を見れば、神田はまだ、自身のカードを見つめて悩んでいる。
 こっそりと、山から多めにカードを取るが、予想通り、神田は気づきもしなかった。
 ―――― よっしゃ!
 心の中で快哉をあげ、ラビは神田の様子を伺いながら、有利なカードを残し、余ったカードを素早く隠す。
 「ユウ?早くチェンジするさ」
 「あぁ・・・」
 悩みつつ、3枚をチェンジした神田に、にやりと笑って、ラビは手札を開いた。
 「ロイヤルストレートフラーッシュ!」
 誇らしげにカードを示すラビに、神田は驚きもせず、自分の手札を開く。
 「スリーカードと、どっちが強い?」
 まじめに問い返す神田に、ラビはがっくりと肩を落とした。
 「・・・っこのままじゃ、張り合いなさすぎさ!
 ユウ!!ゲームを面白くするためにも、今から猛特訓さ!」
 「必要ねぇだろ」
 ゲームなんかどうでもいい、と言い放つ神田に、しかし、ラビはぶんぶんと首を振る。
 「せっかくやるんなら勝つさ!!
 じゃないとお前、アレンに笑われるさ!!」
 途端、神田の目の色が変わった。
 「誰が誰を笑うだと?」
 刃のように鋭い眼光に、ラビがびくりと震える。
 「イ・・・イヤ・・・、アレンはホラ、ポーカーのプロだし・・・!確実にお前に勝つ自信もあるだろうし・・・!」
 しどろもどろになったラビの言い訳を遮るように、神田がテーブルを殴りつけた。
 「イカサマ野郎なんかにゃ、負けねぇよ・・・!」
 更に迫力を増した眼光に怯えつつ、ラビは手近の紙とペンを引き寄せる。
 「んじゃ、まずはルールと役を、きちんと覚えるさ。役が強い順に書いとくから、配られたカードを見て、できるだけ強い役になるよう、考えてチェンジするんさ」
 「おぅ!」
 カードを持った神田の表情が、ゲームを始めてから初めて、真剣になった。
 「その意気さ!」
 思惑が図に当たったラビは、今、怯えていたことも忘れて、にこりと笑う。
 ―――― 必勝・アレン!ユウを実験台にして、俺もイカサマのプロになるさ!
 見当違いな目標を掲げたラビは、まず、神田を好敵手にすべく、ポーカーの手ほどきを始めた。


 「ユウ・・・!お前、集中力はホント、人並みはずれてるさ・・・!」
 1時間後、かなりの手練と化した神田に、心底感心して、ラビが呟く。
 「そういえばお前、その意地っ張りと負けず嫌いで、英語をマスターしたんだっけか」
 教団に入った直後は、流暢とは言い難かった神田だが、今では悪口雑言思うがままの毒舌王だ。
 生粋の英国人であるアレンですら、神田以上の毒舌は言えずに口をつぐむことがある。
 「さすが、サムライは違うさ!」
 妙なところに感心したラビだが、神田は、誉められてまんざらでもないようだ。
 「ゲームを覚えるくらい、なんてことねぇよ」
 やや得意げに言う彼に、ラビは、にやりと笑みを漏らす。
 ―――― そろそろ、試してみてもいいか。
 シャッフルしたカードを配り、チェンジすると見せかけて、山から多めにカードを引いた―――― 瞬間、
 「ラビ、お前が捨てたカードは、2枚だろ。ナニ、6枚も引いてやがんだ」
 鋭く指摘されて、ラビがぎくりと顔を強張らせた。
 「え?俺は2枚しか・・・・・・」
 「とぼけんな。俺の目は節穴じゃねぇぞ」
 と、猛禽の目が、鋭くラビを射る。
 「ユウ・・・すげー・・・・・・」
 多めに引いたカードを山に返し、ラビは呆然と呟いた。
 「よく見抜いたさ」
 「モヤシのマネか?くだんねぇ事してんじゃねぇよ」
 「悪かったさ」
 眉根をきつく寄せる神田に、ラビは苦笑して詫びる。
 「ただ、アレンに勝つには、イカサマ練習した方がいいかなぁって思ったんさ」
 詫びた直後にもかかわらず、悪びれた様子もなく言い放つラビを、神田はじろりと睨んだ。
 「イカサマやってんだってわかってんなら、現場を指摘すりゃいいじゃねぇか」
 今の俺みたいに、と言う神田に、しかし、ラビは悲しげに首を振る。
 「それが、わかってても見破れねぇんさ・・・。
 あいつ、いつの間にカードすり替えてんだか・・・」
 「俺にも、見破れないと思うか?」
 意外な問いに、ラビは目を丸くして神田を見た。
 「え・・・?アレンと勝負するんさ?」
 信じられない、と言わんばかりのラビに、神田は憮然とする。
 「てめぇのぎこちないイカサマと、モヤシの気合の入ったイカサマじゃあ、難易度は違うだろうがな」
 だが、と、神田は冷酷な笑みを浮かべた。
 「あの、気にくわねぇ似非ジェントルマンの鼻をあかしてやるのは、気分がいいだろうぜ」
 二大怪獣大戦争の予感に、背中に冷たい汗が流れるのを感じつつも、ラビは笑みを浮かべる。
 「それ・・・・・・超絶面白そうさ!!」
 言うや、ラビは無勝負となったカードをシャッフルし始めた。
 「俺はイカサマ練習、ユウはイカサマを見破る練習しようぜ!」
 『打倒・アレン!』を合言葉に、若手エクソシスト年長組は、今までとは気合からして違う勝負を始めた。


 別室で、自分を中心とした謀議がなされているとはつゆ知らず、アレンは、作成中の『箱』の具合をためつすがめつ見つめる。
 幾度も、蓋を開けたり閉じたりして、調整していた彼は、とうとう、満足げに頷いて、手にした工具を置いた。
 「よし!
 ティム!ちょっとおいでー!」
 呼びかけると、金色のゴーレムがパタパタと寄ってくる。
 「リナリーに、できたよ、って報せてきて」
 金色のゴーレムは、アレンの言葉にコクリと頷くと、彼が指し示す箱をじっと見つめてから、パタパタと羽ばたいて、窓から出て行った。
 ゴーレムはそのまま、いくつもの窓を過ぎ、目的の窓に至ると、長い尻尾の先でガラスを叩く。
 「あら、ティム!」
 気づいたリナリーが窓を開け、金色のゴーレムを迎え入れた。
 と、ティムキャンピーはサメのように鋭い歯が並ぶ口を開け、アレンが自室で作っていた箱の映像をリナリーに見せる。
 「できたんだ!間に合ってよかった・・・・・・」
 ほっと吐息すると、リナリーは軽い足取りで書き物机に向かい、便箋にペンを走らせると、ティムキャンピーの小さな手にそれを持たせた。
 「ティム、これをアレン君に届けてね
 了承した、と言わんばかりに長い尾を振り、金色のゴーレムは入って来た窓から、再び出て行く。
 「今日で謹慎は終わりだし・・・明日、仕上げはできるかしら・・・?」
 リナリーは首を傾げると、真剣なまなざしで、時計とカレンダーを見比べた。


 「フルハウス!」
 「ちっ・・・!ツーペアだ」
 憮然とカードを放って、神田は眉をひそめる。
 「今のはフェアか」
 「あぁ、今のはイカサマなしさ。
 ユウ、お前、俺のは完璧に見破れるようになったさ」
 「そりゃ、まだお前が下手だからじゃねぇのか?」
 遠慮ない一言でラビを沈没させると、神田はチラリと時計を見遣り、すらりと立ち上がった。
 「あれ?!ユウちゃん、行っちゃうんさ?!」
 悲しげな顔を上げるラビに、神田は無情に頷く。
 「訓練の時間だ。カードにも飽きたしな」
 「えぇぇぇぇぇぇっ!!
 そんな、ユウちゃん!!俺、今日まで謹慎なんさ!部屋から出られないんさ!!遊んでくれぇぇぇぇ!!!」
 「うるせぇ!!
 てめぇの遊びにゃ、もう、十分付き合ってやったろうが!」
 「全然足りないさぁっ!!もっと遊んでぇぇぇぇぇ!!」
 「ガキかっ!!」
 「遊んでくれるならガキでいいさっ!!」
 性懲りもなく、『寂しくて死ぬ』を連発するラビに、神田の目が吊りあがった。
 「いい加減にしろ、てめぇ!!
 俺にも俺の都合があんだよ!!」
 冷たく踵を返し、ドアノブに手をかける神田の背に、ラビが必死に取りすがる。
 「都合って、何も今でなくてもいいさ!
 アラビアのことわざも、明日できる事を今日するなって言ってるさぁぁぁっ!!」
 「生憎、俺は『今日できる事を明日するな』と教わる民族だ!」
 「勤勉は必ずしも美徳じゃないさ!」
 「俺には美徳に見える!!」
 手を突き出し、ぐいぐいと力いっぱいラビを押しのけて、乱暴にドアを開けた神田は、何とか勝利をおさめたかと見えたが、背中に取りすがった子泣きジジィに体重をかけられ、そのまま廊下に倒れこんだ。
 「てめ・・・このっ・・・離せっ!!」
 「いーやーだぁぁぁぁぁっ!!」
 ラビを背に乗せたまま、ずりずりと這い出ようとする神田を、ラビは必死に押しとどめる。
 が、その赤い毛先が、ドアの外に出ようとした瞬間、
 「ラビ!!お前、今部屋から出たら、謹慎日数が延びるぜ!!」
 肩で息をしながらの、神田の絶叫に、ラビの力が緩んだ。
 「ハウス!!」
 しょげきった犬のように、悲しげな顔をしたラビに厳しく命じて、すっかり息の上がった神田は、忌々しげに吐き捨てる。
 「そのまま待て!
 おとなしくしてたら、夕食も持ってきてやらぁ!!」
 「え?!ホント?!ホントさ?!」
 尻尾があったら振っていただろう、喜色を浮かべて、ラビが目を輝かせる。
 が、
 「勘違いすんな!持ってくるだけだ!!」
 冷たく言い放って、神田は、ラビの部屋のドアを乱暴に閉ざした。


 翌朝。
 ようやく謹慎の解けたアレンは、清々しい顔で食堂に走って行った。
 と、先にテーブルについていたラビが、やはり清々しい顔つきで手を上げる。
 「なんだか、すごく久しぶりに会った気がしますね!」
 「ホントさ〜!部屋にじっとしてんのって、マジ拷問だな」
 しみじみと呟くラビの隣では、しかし、神田がげっそりとした顔つきで、蕎麦をつついていた。
 目の下に隈を作った彼は、いつも以上に凶悪な顔をしている。
 「ど・・・どうしたんですか、神田?夏バテ?」
 アレンが思わず問うと、彼は、いつもはきりりと結っている髪を力なく揺らして、忌々しげにラビを睨んだ。
 「一晩中、ポーカーにつき合わされたんだ・・・!
 この馬鹿・・・謹慎くらって暇だからって・・・・・・!」
 今にも突っ伏しそうなほど、ふらふらと揺らめく神田を、アレンは不思議な動物でも見るような目で見つめる。
 「へ・・・へぇ・・・。
 意外と、付き合いいいんですね」
 「てめぇも、こいつのうっとおしさを味わえばいい!!」
 苛立たしげに叫んだ神田を、ラビが哀しげに見遣った。
 「うっとおしいなんて、ひどいさー。
 俺はただ、健気で淋しがりやの子犬ちゃんなのに」
 「誰が子犬・・・!」
 「ってか、自分で言うか、そういうこと!!」
 ラビの発言に、二人は全身を粟立てる。
 が、ふと思い至って、アレンは凶悪さを増した神田の顔を見遣った。
 「でも、一晩中付き合ってたって事は、神田、ポーカー覚えたんですか?」
 アレンの口調に、優越感が加味されている事を敏感に嗅ぎ取って、神田の眼光が鋭さを増す。
 が、アレンはそんな彼に、挑戦的に笑うと、更に言い募った。
 「見たかったなぁ、ラビにカモられる神田」
 あからさまな嘲笑に黙っていられるほど、温厚な神田ではない。
 「・・・・・・勝負だ、イカサマ野郎!」
 地の底から湧き上がる、瘴気のような声音で、神田が宣戦布告した。
 と、
 「かかってラッシャイ!」
 アレンも、普段の紳士振りをかなぐり捨て、傲慢に挑発する。
 「俺も参加してい?」
 二人の喧嘩を止めるどころか、面白い事になったと言わんばかりに機嫌よく笑って、ラビも参戦を申し出た。


 『喧嘩は他でやってね』という、ジェリーの強い要望を受けて、戦場はラビの部屋に決まった。
 「勝負だ、モヤシ!!」
 「ははっへほひ、はっふんはんひー!!(かかって来い、パッツン男児!!)」
 真剣な神田に対し、アレンはみたらし団子を何本も口に入れたまま、勝負を受けてたつ。
 「・・・なんか、間抜けな光景さ」
 苦笑しつつ、カードを配ったラビは、しかし、手元のカードに、思わず眉をひそめた。
 ―――― 初っ端から手無しかよ・・・。
 かと言って、最初からイカサマに挑戦するのもはばかられる。
 ―――― どーっすかなー・・・?
 どのカードを交換するか、迷っていたラビの傍らで、神田が怒声を上げた。
 「モヤシ!!てめぇ、7枚も取ってんじゃねぇ!!」
 「ふぇっ?!」
 いきなりイカサマを指摘されて、アレンは目を丸くし、ラビはがっくりとうなだれる。
 ―――― コイツ、ためらいなしかよ・・・!
 「どれだけ腐ってんさ、お前の根性・・・・・・」
 自分もイカサマをしようと考えていた事は、はるか高みの棚に上げて、ラビはアレンを睨みつけた。
 が、アレンは悪びれもせず、無勝負となったカードをまとめてシャッフルする。
 「ちぇっ・・・。
 よく見抜きましたね、神田」
 「あたりまえだ!!ナメてんのか、てめぇは!!」
 「じゃあ、正々堂々と勝負してやりますよ」
 「最初ッから正々堂々勝負しやがれ、イカサマ野郎が!!」
 神田の怒声に、アレンは肩をすくめ、カードを配った。
 が、
 「・・・っ!
 アレン、お前、カードオープンするさ!!」
 ラビの指摘に、アレンは舌打ちして、テーブルに置かれたままのカードを開く。
 目の前に展開されたロイヤルストレートフラッシュに、さすがのラビもこめかみを引きつらせた。
 「おーまーえぇぇっ!!」
 「正々堂々の舌の根も乾かねぇうちに、いい度胸だな、てめぇ!!」
 「だって僕、クロス師匠の弟子ですよ?」
 あっけらかんと笑うアレンに、思わず納得したラビに反し、神田は激しくテーブルを叩く。
 「てめぇの外道っぷりまで師匠のせいにすんじゃねぇ!!」
 「だぁーって、ホントに師匠のせいだもーん」
 再び無勝負となったカードを集め、シャッフルするアレンの手から、ラビがカードを取り上げた。
 「ホントにお前、クソガキさ・・・。
 これじゃあゲームになんねぇから、せめて一度はイカサマ無しで勝負するさ」
 「仕方ないですねぇ。じゃあ、僕の実力を見せてあげますよ!」
 「いちいち上から物言うんじゃねぇよ、このモヤシが!!」
 「はんっ!地獄に落としてやりますよ!!」
 「はいはい、勝負勝負〜」
 煉獄の炎を燃やす二人の間であぶられながら、ラビは、軽快な音を立ててカードをシャッフルした。


 「アレン君、遅いなぁ・・・・・・」
 城の奥まった場所にある、夏の花々で覆われた庭のベンチに腰掛けたリナリーは、退屈を紛らわすようにブラブラと足を揺らした。
 傍らに置いた、大きなバスケットをちらっと見ると、また、本城へ続く道にアレンが現れないか、遠く見遣る。
 「もう・・・何してるのかしら」
 唇を尖らせて呟くと、やや遠くから、パタパタと聞き覚えのある羽音が聞こえた。
 「ティム!」
 呼びかければ、アレンのゴーレムは滑らかに降下して、リナリーの膝の上に降りる。
 「ねぇ、ティム?昨日、アレン君には手紙を渡してくれたのよね?」
 問えば、ティムキャンピーは何度も頷いた。
 「じゃあ、どうして来ないのかしら?もしかして、迷ってるのかなぁ?」
 人目にはつきづらいが、この庭は特に、入り組んだ場所にあるわけではない。
 だが、哀しくなるほどの方向音痴である少年には、やや難題だったか、と思っていると、ティムキャンピーは、鋭い牙がずらりと並んだ口を開け、トランプに興じるアレンの姿を映し出した。
 「な・・・!」
 その光景に、リナリーは眉を吊り上げて絶句する。
 「何してるの、アレン君!!」
 猛然と立ち上がり、リナリーは駆け出した。
 俊足は瞬く間にラビの部屋に至り、歓声を漏らすドアを乱暴に開け放つ。
 「あれ?リナ?」
 どうやら勝利を収めたらしいラビの歓声が、驚きの声に変わった。
 「なんかあったのか?」
 背後に感じる怒りのオーラに、神田も訝しげに振り向いた―――― その正面で、アレンは真っ青になって凍りつく。
 「アレン君、時間はとっくに過ぎてるわよ?」
 にっこりと、凄絶な笑みを向けられて、アレンは弾かれたように立ち上がった。
 「ごごごごごめんなさい!!」
 テーブルや椅子にぶつかりながら、慌ててドアへ向かうアレンに、ラビが上機嫌で声を掛ける。
 「アレン 用事が終わったら、また勝負するさ
 勝利に酔い痴れる彼を、アレンが振り向き様、烈しく睨み据えた。
 「二度目はないと思いなよ!!」
 「アレン君!」
 リナリーの怒声に、アレンは慌てて部屋を飛び出る。
 「ごめんなさい!」
 「もう!いいから、早く!!」
 頬を膨らませ、踵を返して駆け出したリナリーを、アレンは必死で追いかけていった。


 「リ・・・リナリー、ごめんなさい・・・!」
 一旦自室に戻ったアレンは、『箱』を持って待ち合わせ場所に現れた。
 「なんか・・・勝負しているうちに、みんな熱くなっちゃって・・・」
 「もういいわよ」
 それより、と、リナリーは大きなバスケットの中から、いばらの冠で飾られたそれを取り出す。
 「どう?」
 やや得意げに差し出す彼女に、アレンは満足げに頷いた。
 「いいですね!すごくカッコイイ!」
 「カッコイイ・・・のとはちょっと、違う気がするけど」
 苦笑するリナリーの手から、そっとそれを受け取ると、アレンは、冠がしっかりと固定されていることを確認して、箱から部品を取り出した。
 棘でケガをしないように気をつけつつ、透明な下部に、土台となる厚いゴム板をあてて固定すると、更にそれを箱に取り付けたバネの先に取り付ける。
 「ねぇ・・・バネの力で蓋が開いちゃわない?」
 「大丈夫。
 力加減は、十分調整しましたから」
 言いながら、アレンはぐいぐいとそれを箱の中に押し込み、蓋を閉めて掛け金を下ろした。
 「ね?開かないでしょ?」
 「ホントだぁ
 クスクスと笑いつつ、二人は一緒に箱を飾り立てていく。
 「明日が楽しみね
 リボンを結びながら、楽しそうに笑うリナリーに、アレンも悪戯っぽい顔で頷いた。
 「本当に・・・


 そして翌日。
 「なんだか俺、今日はとても清々しい気分さぁ〜
 たくさんのプレゼントに囲まれて、嬉しげに言うラビに、アレンが笑いかけた。
 「昨日、ポーカーで僕に勝ったから?」
 「うん お前に正々堂々勝ったから
 わざわざ言い募るラビに、笑顔を忌々しく引きつらせたアレンを、何か大きな箱が押しのける。
 「どけ、モヤシ。
 おい、ラビ。代替品だ」
 「代替?」
 なんの代わりだろうか、と、首を傾げて箱を受け取ったラビが、盛大に包み紙を剥がした。
 と、紙の下から現れた、やたら立派な桐箱に、ラビだけでなく、アレンの顔も引きつる。
 「ユ・・・ユウちゃん・・・?これ・・・・・・」
 まさか・・・と、恐る恐る、箱を開けたラビと、彼の横から中を覗き込んだアレンの顔が、凍りついた。
 「お菊ちゃん再びー?!」
 桐箱に収まっていたのは、髪の長い日本人形・・・。
 去年の、悪夢のような出来事を思い出し、腰の引けるラビに、神田はふるりと首を振った。
 「違う。これは市松人形だ。お市とでも呼んでやれ」
 「―――― でも・・・幽霊は憑いちゃってるんでしょ?!」
 既に数歩を退いて、遠くから呼びかけるアレンに、神田はごく当然の顔をして頷く。
 「去年やったものは、お菊が成仏しちまって、ただの人形になっちまったからな」
 「そんな代替品、いらねぇさぁぁぁっ!!」
 そうは言っても、物が物だけに放り出すこともできず、ラビが泣き叫んだ。
 その時、
 「騒ぐでないわ、小童。そのようなもの、なんでもない」
 冷静な声と共に、ブックマンが進み出て、ラビに、写真立てほどの小さな額縁を差し出す。
 「ほれ、メソポタミアの印章の礼だ。受け取れ」
 「なにさ?」
 途端、何気なく受け取ったラビの表情が、あまりの衝撃に固まった。
 「なんだ?」
 彼の傍らから、手元を覗き込んだ神田が、片眉を上げて頷く。
 「経文か。随分古いな」
 「ず・・・随分古いなって・・・言うことはそれだけか、この大ボケ日本人――――!!!!」
 突如の怒声に、さすがの神田が驚いて顔を上げると、ラビは、その目の前に経文を突きつけた。
 「百万塔陀羅尼!
 現存する世界最古の印刷物で、日本の宝物(ほうもつ)さ!!」
 「護り札代わりに持っておけ」
 興奮状態の弟子に、ブックマンはにやりと笑う。
 「ジ・・・ジジィ・・!これ、どっから・・・?!」
 本当であれば、大英博物館に収蔵されていい宝物だ。
 いかにして入手したか、興味の尽きない弟子に、しかし、ブックマンはそらとぼけて笑った。
 「貴重なものだとわかるなら、決して失くすでないぞ。お前が持ち得なくなった時は、大英博物館にでも寄贈するのだな」
 「じゃ・・・じゃあ、それまでは護ってもらうさ・・・!」
 未だ興奮冷めやらず、じっと手元に視線を据えたまま、どこか呆然と呟くラビに満足げに微笑んで、ブックマンは踵を返す。
 「そうか・・・日本の経文なら、お市にも効果的かも知れんな」
 ラビの興奮に反して、どこか暢気に神田が呟いた―――― 途端、ガタガタッ!と、霊の憑いた人形が、桐箱の中で激しく動く。
 「何だ?!」
 「え?!霊障?!」
 突然の騒音に、この場に集まった団員たちの視線が集まる―――― が、
 「えいやっ!悪霊退散っ!」
 ラビが、べしっ!と、軽快な音を立てて、人形の額に陀羅尼経を叩きつけると、怪しげな黒煙が上がると同時に、人形は動かなくなった。
 「よっしゃ!悪霊退治完了♪」
 嬉しげに笑うラビの隣で、神田は不満げに鼻を鳴らす。
 「すごーい!それ、効果あるのねぇ!」
 幽霊騒ぎを、遥か遠くからこわごわと見つめていたリナリーが、もう安全だとわかると、素早く寄って来た。
 彼女の後ろには、アレンが従者のように従っている。
 「じゃあ、これは縁起物第2弾ってことで!」
 アレンが重そうに運んできた、一抱えはある大きな箱に、ラビは不思議そうに首を傾げた。
 「縁起物?」
 「二人で選んだのよ
 オークションハウスに行った時に、と、こっそり囁くリナリーに、ラビが破顔する。
 「マジ?!あの時、オークションハウスにあったやつって言えば・・・・・・!」
 わくわくとリボンを解き、掛け金を弾いて蓋を開ける。
 「アステカの水晶ドク・・・っ!!」
 途端、強いバネの力で飛び出してきた、硬い物体に正面衝突し、ラビは鼻を押さえてしゃがみこんだ。
 「あったりー♪」
 「アステカの、水晶ドクロよ
 しゃがみこんだラビを囲み、いたずらっ子二人は、嬉しそうにはしゃぐ。
 「いばらの冠は私が編んだの
 「びっくり箱は、僕が作りました!」
 「気に入った?」
 「ねぇ、気に入った?」
 口々に感想を求める二人を、ラビは下から睨み上げた。
 「飛び出してさえ来なけりゃ・・・サイコーのプレゼントだったさ!!」
 涙目の感想に、アレンとリナリーは嬉しげに手を打ち合わせる。
 「Happy Birthday To You〜〜〜♪」
 「Happy Birthday Dear.Lavi〜〜♪」
 陽気にバースデーソングを歌う二人に、ラビは鼻を押さえたまま苦笑した。
 おてんばな妹と、悪戯好きな弟には勝てない―――― そんな、諦観の混じった笑みに、紅いひびが入る。
 「ラビ、お前の頭にいばらが刺さってんだが・・・痛くねぇのか?」
 神田の指摘で初めて、額から噴水のように上がる出血に気づいたラビは、城中に響き渡る絶叫を上げた・・・・・・。




Fin.

 










神田が盆休みを取るなんて、私の勝手な設定ですから!(笑)
信じちゃイヤン>そんな人いねぇから。
さて、これは2006年の、ラビお誕生日記念SSでございます。
2回目と言うこともあり、ネタが尽きていた管理人が、日記で泣いていたところ、『こんな日くらいはいじめられずに、幸せなラビはどうでしょうか』とご意見をいただき、がんばってみました!!
ラビってば、神田を取り込み、アレン君に勝ち、ジジィから超貴重品を貰いましたよ!!
リナ(&アレン)からだって、超貴重な水晶髑髏貰いましたよ!!ビバ!!
・・・最後の最後でかわいそうだったけどな!(爽笑)
ともあれ、貴重なご意見をありがとうございました。
そして、いつもメールでチャットで泣きつく私に、ネタ提供をありがとう、かいんさん(笑)












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