† Gossip †






 ―――― 黒の教団某班所属・Jさんの証言。
 「お・・・俺、見ちゃったんスよ・・・。
 A少年とL嬢が、仲良く裏庭からでてくるとこを・・・!
 アレンの奴、室長に殺されるぜ・・・って!!あぁっ!!今の、オフレコにして!!
 こんな事話したってばれたら、俺が殺される!!」


 ノックの音に応じて、無防備に部屋のドアを開けたアレンは、腕を掴まれたと思った瞬間、その両足もが地を離れていた。
 「うわぁぁぁぁぁっ!!ぎゃぁぁぁぁぁぁっっ!!」
 景色は、ものすごいスピードで背後に消えていく。
 が、泣いてもわめいても、そのスピードは全く緩まなかった。
 「おろっ・・・おろしてぇぇぇっ!!」
 恐怖に引きつった声で哀願するが、一顧だにされず、アレンはそのまま、誘拐犯と運命を共にした。


 「・・・アレン、まじめに答えるさ」
 『伸』で、アレンを連れ去った誘拐犯―――― ラビは、赤い髪に緑の葉を何枚もつけて、アレンに向き直った。
 「あんた・・・その前に言うことがあるでしょう?!」
 ブレーキなどないに等しい、ラビの暴走イノセンスは、スピードを落とさないまま大木に激突し、アレンに重傷を負わせてくれた。
 自らの血で赤く染まっていく頭を抱えて泣くアレンに、しかし、ラビはまじめな顔で詰め寄る。
 「泣いてる場合じゃないさ、お前!
 いいから、俺の質問に答えるさ!」
 「・・・なんですか、もー・・・」
 恐怖と痛みで、あふれた涙を拭いつつ、アレンはラビを睨みつける。
 「お前、リナとつきあってんさ?」
 「・・・・・・・・・・・・は?」
 単刀直入な問いに、アレンは目を丸くし・・・次の瞬間、絶叫した。
 「ナニソレ――――――――!!!!」
 と、ラビは『やっぱり』と眉をひそめ、自分の髪に絡みついた葉を払った。
 「ガセだろうとは思ったんさ。けど、確かめとかないと気持ち悪ぃしな」
 「っだだだだだだ!!
 誰が言ってるの、そんなこと!!」
 「・・・お前、リナと裏庭に行ったか?」
 誰とは言わず、事実確認を求めるラビに、アレンは頷く。
 「君の・・・誕生日プレゼントを作ってたんだよ・・・・・・」
 オークションハウスで競り落としたアステカの水晶髑髏を、びっくり箱に仕掛けていた、と白状するアレンに、ラビは苦々しい顔をした。
 「あれは痛かったさ・・・。
 まぁ、それはともかく、お前がリナと二人で、裏庭からでてくるとこを見られたんさ」
 「そ・・・それで・・・・・・?」
 「今、城中がその噂で持ちきりさ」
 「・・・・・・・・・・・・っ!!」
 アレンは蒼白になって絶句する。
 「ま・・・まさかそれ、コ・・・ッココココココッ・・・・・・・・・!!」
 恐怖のあまり、『その名』を言えないアレンを、ラビは、憐れみの目で見つめた。
 「逃げるか、戦うか・・・賭けも始まってるさ」
 「ウソぉぉぉぉ――――――――っ!!!!」
 少年の裏返った声は、木々を揺らす勢いで森に響き渡った。


 広い厨房の、大きなオーブンの前に座り込み、リナリーは、じりじりと時間を計っていた。
 「オーブンを睨んでたって、上手く焼けやしないわよ」
 神経質に時間を計るリナリーに、大きな中華鍋をふりふり、ジェリーが笑いかける。
 が、彼女は真剣なまなざしをオーブンの扉に据えたまま、首を振った。
 「だって、もう2度も焦がしちゃったんだもん・・・!
 今度はちゃんと計らなきゃ!」
 「ふぅん・・・。
 それでアンタ、あと、どれくらい待つ気?」
 「あと2分!!」
 リナリーがレースの開始を待つ騎手のように、緊張した面持ちで時計を睨むと、鍋の中身を皿に移しながら、ジェリーが笑う。
 「そんなに待ったら、また焦がすわよ。
 早く開けなさい」
 「え?!でも・・・!」
 「いいから」
 自信に満ちた声に、リナリーは慌ててオーブンの扉を開けた。
 と、熱とともに香ばしい匂いがあふれる。
 「ジェリー!!すごぉい!!」
 完璧なタイミングで焼きあがったクッキーを取り出して、リナリーが目を輝かせた。
 「経験が違うわよ、経験が!」
 得意げに胸を逸らす彼女に、心から礼を言って、リナリーはまだ熱いクッキーを皿に盛り付ける。
 「あら、もう行くの?」
 「うん!焼きたてを食べてもらうの!」
 嬉しそうに頷いて、リナリーは皿をバスケットに入れた。
 「じゃあね、ジェリー!ありがと!」
 「ハイハイ またいらっしゃい
 足取りも軽く厨房を出て行くリナリーを、ジェリーはほほえましく見送る。
 「ホホホ・・・ 仲良しねぇ
 明るい笑声を上げ、ふと、カウンターを見やった彼女は、ぎくりと顔を強張らせた。
 「誰と・・・・・・・・・・・・?」
 カウンターにへばりつき、怨念にまみれた声を上げるコムイに、ジェリーの喉が引きつる。
 「ミミミミミランダよ!!」
 「・・・・・・ミランダさんなら、そこでランチしてるけど・・・・・・?」
 「あらそうっ?!やだわ、リナリーったら!気づかなかったのかしらねっ!!」
 裏返った声で、けたたましくまくし立て、ジェリーは食堂で談笑しているミランダに呼びかけた。
 「ミランダ!リ・・・リナリーが、アンタの部屋に行っちゃったわよ!!」
 「え?」
 思わぬ言葉に、ミランダが目を丸くして振り返る。
 と、ジェリーはさりげなくコムイを示しつつ、一言一句、区切るように発声した。
 「リナリーが、クッキーを、持って行ったの!」
 と、ミランダは弾かれたように立ち上がった。
 「あら、大変!!」
 「ミランダさん?」
 どうしたんすか、と、同席のリーバーが目を丸くする。
 「いえっ・・・あのっ・・・えっと・・・!!」
 とっさに言葉が出ずに、うろたえるミランダと、厨房で騒いでいるジェリー、そして、カウンターにへばりついたコムイを見比べて、リーバーは首を傾げた。
 「リナリーと、なんか約束してたんすか?」
 「そそそそそ・・・そうなんですっ!!」
 がくがくと、細い首が折れるほどに何度も頷いて、ミランダはまだ途中だったランチのトレイを取り上げる。
 「わ・・・私、すっかり忘れてました!
 ご・・・ごめんなさい、リーバーさん!お先に!!」
 「いえ・・・気ぃつけてくださいね」
 「え?きゃあっ?!」
 気をつけろと言ったそばから、ミランダは椅子に蹴つまづいて、トレイをひっくり返した。
 「ごごごごごごめんなさい!!」
 「片付けはいいから!早く!」
 「は・・・はいっ!!」
 「危ない!!」
 慌てて駆け出した途端、床に落ちたトレイに足を取られてバランスを崩したミランダを、リーバーがすかさず受け止める。
 「すっ・・・すみません!!」
 真っ赤になって謝るミランダに、リーバーは愉快そうに笑った。
 「だいぶ慣れたっしょ、俺?
 傍にいる時なら、いつ転んでも大丈夫っすよ」
 途端、ミランダの顔が、湯気を上げそうな程に赤くなる。
 「ちょっと!
 いちゃつくのは後にしてくれないかしら!」
 やや苛立たしげなジェリーの声に、ミランダが振り向くと、彼女は、今にもリナリーを追いかけて行きそうなコムイを必死に羽交い絞めにしているところだった。
 「は・・・はいっ!!
 リーバーさん、ありがとうございます!
 コムイさん、また後で!!」
 一気にまくし立てると、ミランダはテーブルや椅子にぶつかりながらも、食堂を飛び出す。
 「ど・・・どこに行ったのかしら・・・!」
 ミランダは、食堂の前でしばし、うろうろと迷っていたが、思い至って、アレンの部屋へ向かった。


 「アレンくーん?」
 食堂に近い、アレンの部屋に至ったリナリーが、ドアの外から声をかける。
 が、なかなか返事がない。
 「いないの?」
 がっかりした様子で、ドアノブに伸ばそうとした手が、横合いから掴まれた。
 「・・・っミランダ?!」
 驚いて目を丸くするリナリーの手をそのまま引いて、ミランダは彼女をアレンの部屋から引き離す。
 「ど・・・どうしたの・・・?」
 「ちょ・・・ちょっと、私の部屋に行きましょうか・・・!!」
 「なんで・・・」
 「いいから!!」
 悲鳴じみた声で言われ、リナリーは反射的に頷いた。
 全速力で駆けてきたミランダの息は上がり、反論を許さない迫力がある。
 おとなしく手を引かれてついてくるリナリーに、ようやく息を整えたミランダは、そっと囁いた。
 「コムイさんに見つかったのよ」
 途端、リナリーも、ぎくりと顔を強張らせる。
 「ね?私の部屋へ行きましょう」
 苦笑を浮かべるミランダに諭されて、リナリーは不満げに頷いた。
 「ちゃんと、兄さんの分も焼いたのに・・・なんで邪魔するのかしら」
 「うーん・・・。
 そういう問題でもないんじゃないかしら・・・・・・」
 ミランダの部屋に入った途端、憮然と呟いたリナリーに、お茶を淹れてやりながら、ミランダは苦笑した。
 「コムイさんはあなたの事を、とても大切に思っているから・・・」
 「それはわかってるけど・・・」
 自分で焼いたクッキーをかじりつつ、リナリーは首を傾げる。
 「・・・やっぱり変だわ。
 私、なんでさっき、兄さんがいる事に気づかなかったのかしら?」
 コムイのシスコン振りが常軌を逸しているため、あまり目立ちはしないが、リナリーもかなりのブラコンだ。
 近くに兄がいれば、必ず気づくはずなのに・・・。
 そう言うと、ミランダは乾いた笑声を上げた。
 「私も・・・ずっと見ていたわけじゃないけど、コムイさん、ずっとキッチンのカウンターにへばりついて、リナリーちゃんの事をこっそり見てたわよ」
 「なんで?!」
 リナリーが目を丸くすると、ミランダはいたずらっぽい笑みを浮かべる。
 「あら・・・知らなかったの、リナリーちゃん?
 科学班ではもう、あの話でもちきりよ?」
 「なにが・・・?」
 リナリーが不安げに問うと、ミランダは笑いながら、その『噂』を話して聞かせた。
 「う・・・嘘?!」
 「ホント。
 アレン君が、コムイさんから逃げるのか戦うのかって、賭けまで始まってるわよ」
 クスクスと、楽しげな笑声に、リナリーの悲鳴が重なった。


 一方、『噂』の真偽を確かめるため、スパイ行動をとっていたコムイは、ジェリーによって椅子に縛り付けられ、無理矢理テーブルに着かされていた。
 「放してー!!行かせてぇぇぇぇっ!!」
 がたがたと椅子ごと揺れつつ、絶叫するコムイをうんざりと見ながら、対面に座るリーバーはコーラをすする。
 「どうせ、ガセっすよ。
 大体、この教団でアンタの恐ろしさを知らない奴はいないでしょ」
 「でもっでもっ!!あの子はクロスの弟子だもん〜〜〜!!」
 「あー・・・そりゃそうっすけど・・・」
 教団一の問題行動元帥の、数々の所業を思い出しつつ、リーバーは、そんな彼を師と仰がなければならないアレンの不幸に思いを馳せた。
 「でも、あいつはアンタの恐ろしさを、それこそ骨の髄まで知ってる寄生型エクソシストでもあるっしょ。
 そんなに心配しなくても、大丈夫ですって」
 面倒ごとは早く終わらせたい、と、みえみえの態度のリーバーに、コムイは子供のように泣きじゃくる。
 「リーバー君が冷たいっ!!
 ミランダさんとのランチを邪魔したから、リーバー君が冷たいよぉぉぉっ!!」
 「んなっ?!大声で変な事わめかんでくださいっ!!」
 顔を赤くして怒鳴り返すリーバーに、団員達の視線が集まった。
 途端、
 「ミランダさんといちゃいちゃできなかったからって、リーバー君がボクをいぢめるよぉぉぉぉ!!」
 と、コムイがことさらにわめき散らす。
 「やかましいっ!!」
 「ふごっ!!」
 怒りのリーバーは、手近にあったパンをコムイの口に詰め込み、口を封じた。
 「・・・このまま息の根を止められたくなかったら、おとなしくしろ」
 殺気に満ちた目と、地獄から湧き上がってきたような低い声で脅され、コムイはただ、がくがくと頷く。
 「よし・・・!」
 不気味に光る目でコムイを見据えたまま、頷くと、リーバーはジェリーに呼びかけた。
 「じゃあ、料理長!これ、連行しますんで!」
 「はいはーい!ごめんねぇ、リーバー!よろしくぅ〜
 厨房からお玉を振るジェリーに頷き、リーバーは、コムイを椅子に縛りつけたまま、科学班へと引きずって行った。


 ひょこ、と、科学班を覗き込んだリナリーは、兄が、泣きながら執務机に着いているのを見て、素早く表情を整える。
 ―――― 平常心よ、平常心・・・!
 いつも通りの態度を心がけて、科学班に足を踏み入れたリナリーは、まっすぐに兄の元へ歩み寄って、その傍らにバスケットを置いた。
 「兄さん クッキー作ったのよ、食べて
 途端、しん・・・と静まり返った室内に、リナリーの笑みが引きつる。
 誰もが、自身の作業に集中しているふりをして、リー兄妹の動向に意識を向けていた。
 「み・・・みんなも食べて
 くるりと向き直ると、凍結していた時間が、ぎこちなく動き出す。
 「ワ・・・ワァ・・・おいしそうダナァ・・・!」
 「お・・・俺、昼食い損ねたんだぁ・・・!」
 リナリーが差し出したバスケットに、震える手が次々に伸び、こんがりと焼けたクッキーを取っていく。
 「兄さん?食べないの?」
 リナリーがバスケットを差し出すと、コムイは捨てられた子犬のように、潤んだ目で彼女を見上げた。
 ―――― う・・・・・・。
 無言のプレッシャーに、リナリーの笑顔も凍りつく。
 『アレン君とあなたがつきあってるんじゃないかって、噂になっているの』
 ミランダの言葉を思い出し、リナリーは殊更に明るい笑みを浮かべた。
 「ど・・・どうしたの、兄さん?」
 「リナリー・・・ボクにナニか、言うことない・・・・・・?」
 今にも死にそうなほど、か細い声で問う兄に、リナリーは喉を引きつらせる。
 「なにかって・・・」
 異様なほど静まり返った室内に、リナリーの声だけが響く。
 「ボクに・・・隠してること・・・あるよね・・・・・・?」
 「隠してる・・・こと・・・・・・?」
 彼女の一言一句を聞き逃すまいと、耳をそばだてる科学班メンバーたちと、縋るような目で彼女を見つめる兄に、リナリーの中で、何かが切れた。
 バンッ!と、掌を兄のデスクに叩きつけると、全員がびくりと身を震わせる。
 「―――― ないわ」
 じろりと、室内を見回すと、彼女に集まっていた視線が、一斉に逸らされた。
 「ないわよ、あなたたちが考えているようなことは、何もね!」
 過度の心配性である兄に知られると面倒なことになると思い、隠れてアレンと会っていたことは認めるが、神や兄に顔向けできないほど、不道徳な行いをしたことは一度もない。
 更に言えば、裏でコソコソと囁かれる程に、親密な仲でもないのだ。
 そう、一気にまくし立てると、リナリーは不意に、肩を落とした。
 「それに・・・アレン君、年上はイヤかもしれないでしょ?」
 途端、彫像のように固まっていたメンバーが、声を荒げる。
 「それはねーだろ!!」
 「っつか、俺たちのリナリーが!!」
 「そんな理由でふったら、俺たちでアレンを八つ裂きにしちゃる!!」
 けんけんごうごうの声が湧き上がる中、リナリーは兄に向き直った。
 「だから・・ね、兄さん?」
 青筋の浮いた顔に、にっこりと凄絶な笑みを浮かべ、リナリーは兄に詰め寄る。
 「私の邪魔、しないで
 自失して、ぽかんと開いた兄の口にクッキーを押し込むと、リナリーはバスケットを手にして、踵を返した。

 『逃げる』か『戦う』か――――。

 アレンを対象に行われた賭けのテーブルに、リナリーはあえて、自身を乗せた。
 選択肢がこの二つなら・・・エクソシストである彼女が選ぶのは当然、『戦う』道だ。
 「さぁ・・・アレン君?私は選んだわよ?」
 挑戦的な笑みを浮かべ、リナリーは、足取りも軽く回廊を歩いていった。


 『逃げる』か『戦う』か――――。
 その選択を強いられた少年は、真っ青な顔に冷や汗を流しながら、地面を睨んでいた。
 「先輩の立場で忠告させてもらえば・・・本気じゃないなら手ぇ出すな。
 コムイは、中途半端な覚悟で挑んでいい相手じゃないさ」
 地面に胡坐をかいたラビは、空を見上げながら、どこか暢気な口調で言う。
 「おまけにもひとつ言っとくさ。
 選ぶのはお前だけじゃない」
 「え・・・?」
 ようやく顔を上げたアレンに、ラビはニヤリと笑った。
 「相手がいること忘れんじゃないさ。
 お前とリナと、二人で決めな」
 そう言うと、ラビは勢いをつけて立ち上がり、アレンの頭に乗っていたティムキャンピーを取り上げると、空に放つ。
 「じゃ、俺は消えっから!」
 「え・・・・・・?」
 「後はガンバレ」
 サクサクと、下草を踏むラビの足音が消えてしまった後も、アレンは、呆然と彼の去った方角を見つめていた。
 と、
 「アレン君?そこにいるの?」
 再び、サクサクと、下草を踏む音が聞こえたかと思うと、木々を分けて、リナリーが姿を現す。
 「見つけた。
 どうしたの?また迷子?」
 クスクスと、軽やかな笑声を上げる彼女の肩では、ティムキャンピーが羽根を休めていた。
 「部屋に行ったら、いないんだもん。探したんだよ」
 「どうして・・・?」
 「クッキー、焼いたの」
 はい、と差し出されたバスケットを、アレンは、未だ迷いに満ちた表情で受け取る。
 「ホントは、焼きたてをあげたかったんだけど、冷めちゃったね」
 「い・・・いえ・・・・・・。
 ありがとうございます・・・・・・」
 クッキーに視線を落としたまま、アレンは、弱々しい声で礼を言った。

 『逃げる』か『戦う』か――――。

 自分一人の問題なら、答はとうに決まっている。
 ラビに言われるまでもなく、本気でないなら、最初から戦おうなんて思わない。
 だが――――――――・・・。
 アレンは、不安げな目で、傍らに座ったリナリーを見遣った。
 ―――― 彼女は、迷惑かもしれない・・・・・・。
 たくさんいる『仲間』の一人でしかないアレンと、たった一人の大切な『兄』では、そもそも天秤にすらかけられないに違いない。
 そう思うと、なかなか、決心がつかなかった。
 アレンが、自身の思考の迷宮から抜け出せないでいると、彼の隣で、リナリーがくすりと笑みを漏らす。
 「アレン君、私、宣戦布告しちゃった」
 悪戯っぽい声音に、アレンは首を傾げてリナリーを見遣った。
 と、彼女は鮮やかに笑い、アレンを正面から見つめる。
 「兄さんに。
 アレン君との仲、邪魔しないでねって」
 「え?」
 不意に、頬に触れた柔らかな感触に、アレンは目を見張った。
 「アレン君は?」
 バスケットの持ち手を握りしめたまま、硬直していたアレンは、笑みを浮かべる余裕すらなく、強張った顔でぎこちなく頷いた。
 「ぼ・・・僕も・・・・・・」
 思わず逸らしていた視線を、リナリーに戻し、硬く強張ったままの頬を懸命に動かして微笑む。
 「僕も・・・戦います・・・・・・!」
 「うん
 にこりと、笑みを深めたリナリーの頬に、アレンも、誓うようにキスを返した。


 「・・・まさか、この教団に『勇者』が現れるなんて、想像だにしなかったっすよ・・・・・・!」
 サラダボウルにフォークを突き刺し、真剣な顔で言ったリーバーに、ミランダは、堪えきれずに笑声を上げた。
 「リナリーちゃんの・・・『お姫様』の助けがあったからこそ、でしょう?」
 ハーブティを淹れたティーカップをリーバーに差し出し、ミランダは、別のテーブルで仲睦まじく談笑している二人を見遣った。
 「なんとか丸く収まったみたいで、よかったですね」
 楽しそうに笑うミランダに、しかし、コムイの恐ろしさをよく知るリーバーは、頷くことができなかった。
 「まぁ・・・・・・『勇者』には、がんばって欲しいっすね・・・・・・」
 せめて、伯爵との戦争が終わるまでは、生きていて欲しいと願うリーバーの思いをよそに、コムイの個人的な実験室では、ただならぬ研究が進行しつつあった。
 「教団の『大魔王』の面子にかけて、邪魔してやるぅぅぅぅぅっ!!!」
 涙声の叫びは、室内の異音を圧して響き渡り、アレンを闇に葬る計画は、水面下で着々と進行しつつあった・・・・・・。




Fin.

 










リクNO.7『からかわれつつ幸せなアレリナ』でした(^^)
まず、皆さんにお尋ねしたいです。
・・・・・・ここまでやって、良かった、私?!(涙目)
原作で既に公認であるならともかく、
『一ファンでしかない私がこんなことやっちゃって良かったのかなぁ・・・』とか、
『みなさん、これ読んで不快に思っちゃいないかしら;;』とか、ナチュラルに思いましたから、今回;;;;
SS書いてて、こういうことをお願いするのはめったにないことなんですが、賛否含めて、感想くれたら嬉しいです;;;>BBSでも拍手でもメールでも












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