† Taste of Love †
〜 百花繚乱大奥絵巻 〜






†このお話は日本・江戸時代を舞台にしたD.Gray−manパラレルです†

  D.Gray−manの原作とは、ほとんど関係ありません。
  人死が出る可能性もありますので、苦手な方はご注意下さい。
  男女逆転でもありませんので、頭空っぽにして読んで下さい。





 江戸に幕府が開かれて、既に200年余り。
 日本はさしたる内乱もなく、外寇にもさらされず、長い平和を享受していた。
 そんなある、春の日。
 暖かい陽光の中を、ひらひらと蝶が舞い、清々しく刈り込まれた庭木の上に止まった。
 途端、
 「ジジィ!俺、大奥に入るさ!」
 陽気な大声に、蝶は驚いて再び飛び立つ。
 「・・・大奥が、どんなところかわかっておるのか?」
 文机に向かって書き物をしていた老人は、筆を置くと、まっすぐに孫を見据えた。
 「そのくらい、知ってるさ。魑魅魍魎の跋扈する、伏魔殿だろー?」
 陽気な顔で、あっさりと言ってのけた少年を、老人は鋭い目で見返す。
 「それがわかっていて、どうして大奥になぞ行こうとする?」
 「だって、将軍様って、ものすんごい美少女だっつーじゃん?!
 うまく取り入って側室に・・・・・・」
 刺し殺されるのではないかと思うほど、鋭い視線で睨まれて、少年は笑みを引きつらせた。
 「・・・っつーのは冗談でぇ・・・・・・」
 老人に膝を詰め、彼は珍しくも真面目な顔で談判する。
 「俺、将来はじいちゃんの跡を継いで、この国一の・・・いや、世界一の史家になるんさ!
 そのためにも、あえて国の中枢とも言える大奥に乗り込んで、この国の動くさまを見ていたいんさ!」
 「ふむ・・・・・・」
 老人は頷くと、再び筆を取り、文机に新たな紙を載せた。
 「やや動機が不純のようだが、お前の言わんとするところはわかる」
 滑らかに筆を走らせ、長い手紙を一気に書き終えると、老人は、まだ墨蹟の乾かない紙を孫に差し出す。
 「紹介状じゃ。持ってけ」
 「マジ?!」
 老人の差し出した文に飛びつき、少年は歓声を上げた。
 「ありがとうさ、ジジィ!
 俺、半年後にはお部屋様(側室)になってっからー♪」
 「調子に乗るでないわ、この馬鹿者っ!!」
 門出の祝いに強烈な蹴りを喰らい、少年は庭の隅まで吹き飛ばされた。


 江戸の片隅で、一人の少年が大奥への入城を決めた頃、日本の南端にある城内でも、一人の少年が大奥への旅を強いられていた。
 「――――・・・そう言うわけだ、アレン。
 俺の借金をチャラにするために、大奥に入れ」
 「はあぁぁぁぁぁぁぁっ?!」
 少年の絶叫が、城中に響き渡る。
 「なっ・・・ちょ・・・ちょっと待って下さい、師匠・・・じゃなくて、殿!!
 なんで僕が、江戸の大奥なんかに入らなきゃならないんですか!!」
 「・・・だぁら、去年、無礼な英国人をぶっ殺したら、ヤロウ共、莫大な賠償金を要求してきやがってな。
 俺の借金だってあるのに、払えるかバカヤローっつったら、幕府のヤロウが、お前を将軍の正室に差し出したら、立て替えてやると言って来やがった」
 広々とした謁見の間の最奥にふんぞり返ったまま、傲慢に言う藩主を、アレンは凄まじい目で睨み据えた。
 「な・・・なんで・・・!
 なんで僕が、将軍の正室なんかに!!」
 正室とは、正妻・・・つまり、この国を治める将軍の、公式の妻になるということ。
 まだ見たこともない、遥か遠い地に住む人間の妻になる・・・しかも、そうなったら住む場所は、この国を裏で動かすとまで言われる大奥だ。
 真っ青になって震えるアレンを、しかし、藩主は追い払うように手を振る。
 「いいから行け。
 おぅ、そうだ。
 お前、一応俺の実子ってことになってるから。ボロを出すなよ」
 「ふざけろ――――!!!」
 とっさに立ち上がり、藩主に掴みかかろうとしたアレンは、どこからか湧き出た家臣たちに両脇を固められ、ずるずると引きずり出されていく。
 「江戸に行っても達者でな」
 「こっ・・・このバカ殿ぉぉぉぉぉっ!!!一生恨んでやるぅぅぅぅぅっ!!!」
 絶叫する少年は、しかし、家臣らによって無理矢理籠に乗せられた挙句、その日のうちに、長い長い旅をすることになった。


 「ここが・・・江戸城!!」
 少年―――― ラビは、天に向かってそびえる城の、大きな門を見上げ、歓声を上げた。
 今までは、遥か遠くから望み見るだけだった城が、すぐ近くにある。
 「今日から俺も大奥女中さ
 待っててさ、将軍様
 彼が嬉しげに笑った時、重苦しい音を立てて、門が内側から開いた。
 「わぁい お迎えご苦労様さー♪
 俺が将来のお部屋様・・・」
 しかし、中から出て来た武士達は、ラビを無視して、その傍らを走り去る。
 「あれ・・・?」
 気勢を殺がれて、呆然と立ち竦むラビは、なおかつ、武士の一人に頭を掴まれ、無理矢理引き倒された。
 「なにすんさっ!!」
 抗議の声と共に上げた頭は、再び地面に叩きつけられる。
 「へぶっ!!」
 「無礼者!姫君のお輿入れであるぞ!」
 「へ?姫??」
 頭を押さえつけられながらも、性懲りもなくラビが顔を上げた時だった。
 「放せっ!」
 突然、甲高い声が上がったかと思うと、ゆるゆると門に向かっていた籠の戸が開き、鮮やかな打掛(うちかけ)を羽織った少年が飛び出す。
 「輿入れなんて、絶対嫌です!!放してっ!!」
 「ひ・・・姫様!!」
 「お待ち下さい、姫君っ!!」
 「姫って呼ぶなー!!!!」
 江戸中に響き渡るような絶叫に、ラビが目を丸くして、小柄な『姫君』を見ていると、ふと、互いの目が合った。
 「・・・・・・っ!」
 まじまじと見つめるラビの目から、彼はばつ悪げに目を逸らして俯く。
 と、その一瞬の隙を突いて、周りの武士たちが丁重に・・・しかし、反抗を許さぬ力で、彼を再び籠の中へと押し篭めた。
 「早く!」
 我に返った姫がまた、暴れださぬうちにと、籠はものすごい速さで城の中へと飛び込んでいく。
 「・・・あ!ちょっと待つさ!!」
 目の前で閉まりつつある門に、ラビは慌てて駆け寄った。
 「待って!!俺、今日から大奥にご奉公に上がる、ラビさ!!入れてくれー!!」
 あっという間に細い隙間へと変わった合わせ目をすり抜け、ラビは城内に転がり込む。
 「きょ・・・今日からよろしくさ!」
 冷淡な目で、飛び込んできた少年を見下ろす門番達に、ラビはにっこりと愛想笑いを浮かべた。


 ―――― なんで僕が、こんなところに・・・・・・!
 四方を屈強な武士たちに囲まれ、城内を歩まされたアレンは、大奥へ入るや、今度は大勢の女中らに囲まれ、その最奥へと導かれる。
 広々とした部屋に入ると、アレンの知る限りでは、その城の城主しか座れないような、一段高い場所に座らされた。
 憮然と、雛壇の飾り物の気分を味わっていると、ざわざわと重い衣擦れの音がして、大勢の、身分高そうな者達が現れる。
 整然と入室してきた彼らは、アレンの下座に坐すと、一斉にこうべを垂れた。
 「お初にお目にかかります、御台所(みだいどころ)」
 そう、声を発したのは、一同の先頭に座した、最も身分高そうな人物だ。
 「大奥総取締(そうとりしまり)、神田にございます」
 冷たい声の主は、傲然と顔を上げると、憮然としたままのアレンを見据えた。
 「以後、お見知りおきを」
 「・・・誰が御台(みだい)ですか」
 将軍の正室となる者を、正面から見据える不遜さに、アレンは反感を覚えて呟く。
 「僕は、御台所・・・将軍の正室になることを、了承した覚えはありません」
 途端、色めきたった室内で、しかし、神田一人が冷淡にアレンを見つめた。
 「では、この大奥に、何のために参られた?」
 「それは・・・・・・」
 借金のかたに、とはとても言えず、口ごもるアレンに、神田は冷ややかな一瞥をくれる。
 「この大奥に入られた以上、なんぴとたりとも外に出ることはまかりなりません。
 御台様も、一日も早く、この大奥のしきたりになじまれますよう」
 切れ長の目に、刃のような光を宿し、神田は薄く笑みを浮かべた。
 「御台様が一日も早くこの大奥になじまれますよう、この神田がご指南つかまつります」
 作り物めいた秀麗な顔に浮かぶ笑みは、氷のように冷たい。
 「また、ここはお国元ではございませぬ。将軍様のことは、上様とお呼びになりますよう」
 嫌味な言い様に、眉をひそめるアレンへ、神田は続けた。
 「では、そろそろお召し替えを―――― そのように田舎臭い、無骨なお召し物は、この大奥に似つかわしくございませぬ。
 もっと雅なものを、ご用意してございますゆえ」
 はっきりと、怒りの表情を浮かべたアレンに、神田は涼しい笑みを浮かべる。
 ―――― コイツ、大っキライだ!
 眉を吊り上げ、アレンは長い間、総取締と睨みあった。


 広々とした大奥の廊下を拭く手を止めて、ラビは、深々と吐息した。
 「お部屋様への道は遠そうさぁ・・・」
 大奥では、多くの人間が、ただ将軍一人のために働いている。
 身分も後ろ盾もない少年一人が、お部屋様・・・将軍の側室になるなど、夢のまた夢だ。
 よほど運が良くなければ、このまま一生、下働きである。
 「この国の動くさまを見てくるって、大見得切ってきたんだけどなぁ・・・」
 今のままでは、大奥の床しか見ないで一生を終えてしまう。
 「どっかに運でも転がってねぇかな」
 雑巾を水桶に放り投げると、ラビは、よっこらせ、と、重たげな声を掛けて、大きなそれを持ち上げた。
 と、
 「御台様!!お待ち下さい、御台様!!」
 悲鳴じみた声を撒き散らしながら、数人の奥女中らが、中庭をはさんだ向こうの回廊を、早足にやってくる。
 彼らの先にいるのは・・・
 「あ」
 ラビは、門前でちらりと見た『姫』の姿を見止めて、水桶を持ったまま彼を見遣った。
 すると、向こうも彼に気づいたらしく、怒りと共に床を踏み鳴らしていた足を止め、ラビを見遣る。
 そのまま、お互いに見つめあったところへ、奥女中たちが追いついた。
 「御台様、どうぞお召し替えを・・・これ!そなた!!」
 突然、回廊の向こう側から怒鳴られて、ラビが目を丸くする。
 「立ったまま御台様とお目を合わせるとは何事か!!」
 頭を下げろと、高圧的に命じられ、慌てて下を向こうとしたラビを、しかし、別の声が止めた。
 「待って下さい!
 あの者を、責めないでください」
 その声に、ラビだけでなく、御台を囲む奥女中たちも目を丸くする。
 「そなた、こちらへ」
 手招かれて、ラビは、言われる通りに中庭に下り、無遠慮に御台所を見上げた。
 その無礼さに、奥女中たちがみな、眉をひそめる中、御台所一人が微笑む。
 「名は?」
 「ラビっす。よろしく」
 にこ、と、懐こく笑う彼に、御台所も笑みを深めた。
 「決めた。
 この者を、僕の部屋付小姓(へやつきこしょう)にします」
 御台所の宣言に、奥女中たちだけでなく、ラビと共に床拭きをしていた下働きの者たちまでが瞠目する。
 そしてそれは、思わぬ幸運に見舞われたラビとて同じだった。
 しかし、御台所は、呆然と立ち竦む彼に手を差し伸べ、自分と同じ場所へ上がるよう、差し招く。
 「ついて来て下さい。着替えを手伝って欲しいんです」
 「は・・・はぁ・・・」
 まだ呆然としたまま、ラビはふらふらと、御台所について行った。
 彼の部屋は、大奥の中でも最も広く、豪奢な部屋―――― だが、広すぎるそこは、妙に寒々としている。
 「お前たちは下がっていなさい」
 ラビ以外の奥女中たちに命じると、御台所は、彼らの衣擦れの音が聞こえなくなるのを待って、更に奥の部屋へとラビを導いた。
 彼は、自らの手で襖を閉めると、表情を強張らせてラビに向き直る。
 「ラビ・・・と言いましたね?」
 思いつめた表情の彼に、ラビはただ、頷いた。
 「君に・・・お願いがあります」
 ゆっくりと、ラビに歩み寄りつつ、御台所は軽く袖を上げる。
 「僕の・・・味方になってください」
 「へ?味方?」
 その意外な言葉に、ラビは目を丸くした。
 御台所と言えば、この国を治める将軍の正妻だ。
 栄耀栄華も思うがままの地位にいるはずの彼が、どうしてラビのようなお端下(はした)女中にこのような頼みごとをするのだろうかと、いぶかしく思っていると、彼は、更にラビに詰め寄った。
 途端、袖からのぞく御台所の左手が刃と化し、ラビを壁際に押し付ける。
 「・・・ちょっ?!
 なにさ、これぇぇぇっ?!」
 悲鳴を上げるラビを、鋭い眼光で黙らせ、彼は、低い声で続けた。
 「僕は・・・この城に売られてきました・・・。
 信頼できる家族から引き離され・・・連れ込まれた大奥は、まるで牢獄です・・・」
 囚われの身を嘆く御台所に、今実際に囚われているラビは、鋭い刃を喉元に当てられて、声も出せない。
 「その上、この大奥の人間は、みんな冷淡で、人形のように本音を見せない・・・。
 だけど、君は違いました」
 にこりと浮かべた笑みも、しかし、刃を突きつけられたラビを和ませるには力不足だった。
 「君は、まっすぐに僕を見返し、にこりと笑ってくれた・・・。
 僕はこの城で初めて、『人間』に会えたんです」
 だから・・・と、真摯な瞳が、ラビを見つめる。
 「どうか、僕の味方になって・・・!」
 「わわわわわっ・・・わかったさ!!だから、この刃を引っ込めて欲しいさ!!」
 必死で頼み込むラビに、御台所はほっとしたように微笑み、刃を収めた。
 「こ・・・こここ・・・怖かったさ・・・・・・!!」
 死ぬかと思った、と、へたり込むラビに、御台所はふわりと笑う。
 「約束ですよ。
 僕の、味方になってくださいね」
 その代わり、と、御台所は、イタズラっぽい笑みを浮かべた。
 「君を僕の、部屋付小姓にして上げます。
 出世おめでとう、ラビ
 「は・・・はぁ・・・・・・。
 ありがとさ、御台様・・・・・・」
 本当に良かったのかどうか、未だ表情から青味が抜けないまま、呆然と呟くラビに、御台所は笑みを深める。
 「アレンです。
 二人の時は、アレンって呼んでください」
 「は・・・はぁ・・・、アレン様」
 こうして、大奥に上がったその日のうちに、将軍正室の部屋付小姓に召し上げられたラビは、動乱の幕末を、御台所と共に歩んでいくこととなった。


 一方、自室に戻った大奥総取締役、神田は、
 「今度の御台所は、中々丈夫そうだな」
 と呟くと、先程まで対面していた少年の、強情な顔を思い浮かべて冷笑する。
 「田舎者がどこまでがんばるか、見ものだ」
 御台所を除けば、大奥の最高位である身分柄、与えられた広い部屋で、彼は重い打掛を脱ぎ捨てた。
 「ミランダ」
 半ば開いた扇子を放り、呼びかけると、華奢な大奥女中がまかりこし、彼の脱ぎ捨てた打掛を、丁寧にたたんで行く。
 「御台所は、これで三人目。
 前の二人は、大奥に上がられて間もなく、身まかられたが・・・・・・」
 神田の冷笑に、ミランダの薄い肩が、びくりと震えた。
 「いつまで生きていられるかな、アレン姫」
 ふっと、漏れた恐ろしい笑みに、室温は急激に下がっていくようだった。


 アレンの試練は、大奥に入った翌日から始まった。
 自分でやる、と言うのを無理矢理押さえつけられ、身支度を整えさせられたアレンは、昨日と同じ場所に座らされ、神田と対面することとなったのである。
 「それでは、僭越ながらわたくしが、大奥でのしきたりをご指南申し上げます」
 下座にありながら、神田の目は冷たい優越感に満ちていた。
 「まずは、ご起床の際。
 お付の者が、『お起きになってもよろしゅうございます』とお声をおかけするまでは、お床の中でお待ちください」
 「・・・・・・せっかくですけど、僕は朝の早い方ですから。
 いちいち起こしてもらわなくても、自分で起きますよ」
 アレンの皮肉げな声を無視して、神田は薄い笑みを浮かべたまま、続ける。
 「更に、『ますますご機嫌よろしゅう』とお声をおかけしましたら、『ごきげんよう』とおっしゃり、お起きくださいませ」
 アレンを無視して淡々と続ける神田に、不快げに眉をひそめるアレンへ、彼はあからさまな嫌味を口の端に乗せた。
 「お国元ではともかく、ここは、天下人のおわす江戸城にございます。
 御台所たるもの、上様の伴侶として恥ずかしくないよう、すべての挙措が優雅でなければなりません」
 暗に、『田舎者』とそしられたアレンは、袖の中で拳を握る。
 そうとは知らぬ大奥女中達が、アレンと神田の前に、それぞれ一つずつ膳を置くと、神田は隙のない仕草で箸を持った。
 「―――― 魚はお付の者が、身をほぐしてから差し上げますゆえ、一口、二口召し上がりましたら、『お代わりを』とお命じください。魚を裏返すなど、もってのほか・・・・・・」
 途端、高い音がして、神田は目を上げる。
 その冷たい視線の先では、アレンが、持ち慣れぬ箸を落として、呆然としていた。
 「・・・はっ!」
 思わず漏れた神田の冷笑に、場の空気が凍りつく。
 「今度の御台所は、箸の持ち方もご存じないか」
 屈辱に、アレンの顔が見る見る赤くなっていった。
 その傍らで、ラビがハラハラと状況を見つめるが、神田はそ知らぬ様子で自分の前の膳を下げさせた。
 「ミランダ」
 「はっ・・・はい!!」
 傍らで怯えていた大奥女中を呼びつけると、神田はすらりと立ち上がる。
 「御台様に、箸の持ち方をご指南せよ―――― どうやら、小姓にも不自由しておられるようだからな」
 凄まじい皮肉を残して、神田が座を離れると、彼に取り入る者達までもが一斉に立ち上がり、部屋を出て行った。
 「・・・・・・つまり、こういうことですか」
 自身の他は、部屋付小姓のラビ、そして、神田の命令で残ったミランダ以外いなくなった部屋で、アレンは忌々しげに呟く。
 「僕には味方はいないと・・・大奥の者達は皆、彼の支配下にあると、そういうわけですね?」
 深々と吐息したアレンに、ミランダは青ざめた顔を俯けた。
 「彼は一体、どういう人なんです?
 大奥総取締とは、それほど権力の強いものなんですか?」
 怒りを抑えたアレンの口調に、ミランダは顔を俯けたまま、か細い声で答える。
 「大奥総取締とは・・・ただ、大奥女中達の長というだけではありません。
 この大奥の外で、大老とも協議する権力を持った方なのです・・・」
 「つまり、御台所などよりも、『外』に対して権力を持っていると、そう言うわけですか」
 「そ・・・っそう言うわけでは・・・!決して!!」
 青ざめた顔を上げ、必死に首を振るミランダに、アレンは思わず表情を和らげた。
 「・・・ごめんなさい。
 あなたを責めても、しょうがないことでしたね」
 「あ・・・いえ・・・!」
 再び、顔を俯けてしまったミランダを、アレンの傍らで、ラビが物問いたげに見つめている。
 そんな彼の様子に気づき、アレンは、視線で彼を促した。
 「あっ・・・あのさ、ミランダ・・・殿!」
 「はい?」
 意気込んだ少年の声に、ミランダが驚いて顔を上げる。
 「上様の御台所は、アレン様で三人目なんさ?
 前の二人の御台所は、なんで亡くなったんさ?」
 好奇心に満ちた目で問うラビに、ミランダは困惑げに口ごもった。
 「お・・・お二人とも、お身体の健やかな方ではございませんでしたので・・・・・・」
 「それだけではないでしょう?」
 ミランダの態度に、ただならぬものを感じたアレンが、横から口を挟む。
 「前の二人は、どんな方達だったんですか?」
 と、アレンの問いに答えたのは、真っ青になって俯くミランダではなく、傍らのラビだった。
 「前の二人は、上様がまだちっさい頃にお輿入れしてきたんで、実際には夫婦って関係じゃなかったんさ!」
 得々と語るラビに、アレンは何度も頷きながら聞き入り、ミランダは今にも倒れそうなほど青ざめていく。
 「最初の御台様は、御三家から擁立された上様が、まだちっさくて力がないことをいい事に、好き放題振舞っていたんさ。
 実際、上様の実兄であるコムイ様が大老に就任して、上様を保護するまでは、虐待もあったんじゃないかって噂されてる」
 「虐待?!」
 いくら史家の身内とはいえ、町人であるラビの耳にまで入っているということは、相当に広まった噂なのだろう。
 「事実ですか?」
 アレンがミランダを見遣ると、彼女は硬直したまま、何も答えなかった。
 「ラビ、二人目の御台は?」
 アレンの問いに、ラビはミランダを気遣わしげに見ながら答える。
 「二人目は、公家からお輿入れしたバク様さ。
 この方は、割と長い間大奥にいたらしいけど・・・ある日、急死したって話さ」
 「急死・・・」
 じっと、答えを待つようにミランダを見つめるアレンの視線から、彼女は必死に顔を背けた。
 が、
 「先の御台の死を・・・知っていますね?」
 アレンの問いに、ミランダは薄い肩を震わせる。
 「ミランダ殿」
 重ねて問うアレンに、とうとう、ミランダが震える声を発した。
 「・・・・・・・・・じ・・・持病が・・・あられたのです・・・・・・」
 「持病?」
 不審げに顔を見合わせるアレンとラビに、ミランダは顔を俯けたまま、かすかに頷く。
 「上様は・・・何もなさっておられません・・・・・・!
 上様が・・・バク様にお声を掛けられた途端、全身にジンマシンを発せられ、高熱を出されてお倒れになり・・・・・・そのまま・・・・・・・・・・」
 「それは・・・・・・事実・・・ですか・・・・・・?」
 呆れて声もないラビに代わり、アレンが引きつった声を出した。
 「はい・・・・・・・・・・・・」
 消え入りそうな声で呟くと、ミランダはうな垂れるように頷く。
 「・・・・・・答えてくれて、ありがとう。
 もう、下がっていいですよ」
 「え・・・?!でも・・・・・・」
 「神田殿には、僕が下がるように命じたと言ってください」
 断固としたアレンの口調に、気の弱いミランダが抗えるはずもなく・・・彼女は深々と一礼すると、しおしおとうな垂れたまま、アレンの部屋を出て行った。
 彼女の、衣擦れの音が聞こえなくなるまで待つと、アレンはラビを見遣る。
 「今の話・・・・・・!」
 「嘘をついているようには見えなかったさ」
 「でも・・・・・・」
 考え込むように、わずか、下を向いたアレンに、ラビも頷いた。
 「全部は話してない、ってカンジだったさ。
 アレン様、俺、情報集めてこよっか?」
 「・・・っできるんですか?!」
 思わず身を乗り出したアレンに、ラビは自信ありげに笑う。
 「これでも俺、史家の跡継ぎさ!情報収集は得意中の得意さ!」
 「頼みました!」
 すかさず言い放ったアレンに、ラビは頼もしく頷いた。


 数日後、アレンの輿入れを祝う宴が、大奥女中ら全員を招いて開かれた。
 うららかな春の陽(ひ)の元、大奥内の広大な庭に設えられた宴の席の、最も高い場所に座りながら、アレンの顔色は冴えない。
 女中達の、気取った舞いや聞き慣れぬ楽の音に、退屈しきった様子で手元の扇を弄(いら)っていると、ふと、楽が止んだ。
 すい、と、よそにやっていた視線を戻せば、それまで舞い踊っていた者達が跪き、楽を奏でていた者達が手を休めて、静かに彼を見つめている。
 「・・・・・・?」
 長い沈黙に、アレンは訝しげな視線を巡らせた。
 彼らがなぜ、自分を見ているのか・・・それに対してなにをすべきかわからず、戸惑っていると、アレンの次に良い席を占めている神田の傍らで、見かねたミランダが、そっと呟く。
 「・・・褒美に、お手近のものを、投げ与えてやってくださいませ」
 「手近なもの・・・とは?」
 「何でも良いのです。御台所からの賜り物と、皆喜びますから・・・」
 と、ミランダの差し出口を咎めるように、神田の冷たい視線が彼女を捕らえた。
 「ミランダ、御台様のご方針に口を挟むとは、僭越であろう」
 「もっ・・・申し訳ございません、神田様・・・・・・っ!!」
 「方針・・・?」
 神田の言わんとするところを察することができず、アレンが訝しげに眉を寄せる。
 と、神田は隙のない仕草でアレンに向き直り、口の端をわずかに曲げた。
 「お国元では、藩主殿の散財に御用金もままならず、家臣の方々や民は、貧困にあえいでいるとか。
 そのような国からいらした御台様ゆえ、吝嗇(ケチ)・・・失礼。倹約していらっしゃるのだろうと、推察申し上げております」
 あからさまな悪意のこもった言葉に、アレンの顔が強張る。
 「・・・・・・確かに、我が殿の散財は、目に余るものがありますが・・・・・・!」
 震える声で言いつつ、アレンは、弄っていた扇を音を立てて閉じると、女中達の真ん中へ投げつけた。
 「吝嗇(ケチ)だなんて言われる覚えはありませんよ!」
 が、地に落ちた扇を、誰も拾おうとはしない。
 ただ、アレンに対し、冷たい視線を向けるだけだ。
 「・・・っ!」
 唇を噛むと、アレンは懐の筥迫(はこせこ)を取り出し、扇と同じく投げつける。
 地に叩き付けられた筥迫は、開いて中の懐紙(かいし)が散らばせたが、それすらも拾う者はいなかった。
 「はっ・・・!
 江戸の者達には、御台様の物とはいえ、無骨なしつらえの物は、趣味に合わぬと見えますな」
 「っ!!」
 神田の皮肉に、アレンは激昂して立ち上がると、彼の周りに置かれた菓子類をすべてぶちまけて、上座を降りる。
 「どちらへ?」
 「・・・っ部屋に戻ります!
 あなた方はどうぞ、宴を続けなさい!!」
 冷笑を浮かべる神田に、震える声で怒鳴ると、アレンは足早にその場を去った。
 その背に、女中達の遠慮のない笑声が刺さる。
 ―――― 泣くもんか・・・!
 激しく肩を震わせながら、アレンは必死に涙をこらえた。
 ―――― 泣いたら負けだ・・・!
 自分の爪先を睨みつつ、荒く歩を進めていると・・・未だ不慣れな城内の、奥深くに入り込んでしまったらしく、見たことのない場所に迷い込んでしまった。
 「え・・・?あれ・・・?」
 慌てて辺りを見回すが、彼を囲む木々の形も、遠くそびえる棟の瓦の色も、全く記憶にないものばかりだ。
 「ど・・・どうしよう・・・・・・」
 戻ろうか、と考えたが、再び彼らの嘲笑にさらされるのは、耐え難いことだった。
 困り果てて、アレンが俯いた時、
 「こーい!こいこいこい!」
 間近に響いた声に、アレンはビクッと震える。
 「だ・・・だれ・・・?」
 そろそろと、声のする方に近づいていくと、木々に阻まれた向こう側から、また同じ声がした。
 「もう!なんで私のところには来てくれないのよー!」
 やや苛立った声に、アレンは興味を惹かれて、木々を掻き分ける。
 高価な打掛が、枝にかかって細かくほつれたが、そんな瑣末なことよりも、今は導かれるように声に向かって進んでいった。
 木陰を出ると、そこには大きな池があり、その上に架かった橋の欄干にもたれて、少女が一人、水面を覗き込んでいる。
 「やだ!いなくなっちゃった・・・橋の下に隠れたのかしら?」
 呟くと、少女は橋の下を覗き込もうと、欄干の上に身を乗り出した。
 途端、欄干の上に置いた手が滑り、その身体が水面に向けて傾ぐ。
 「きゃっ!」
 「危ない!」
 アレンはとっさに手を伸ばすと、少女の手を掴んで、転落を防いだ。
 「大丈夫ですか?!」
 「う・・・うん・・・・・・」
 突然現れた少年に驚いたのか、大きな目を見開いた少女は、アレンの方こそ、目を見開くような美少女だった。
 「あ・・・危ないですよ」
 握った手を未だ離そうともせず、言ったアレンに、少女ははにかんだ笑みを浮かべた。
 「うん、ありがとう」
 にこ、と、笑みを向けられて、アレンは握ったままだった手を、慌てて離す。
 「あの・・・なにしてたんですか・・・?」
 照れ隠しに問うと、少女は池を指した。
 「あのね、この池、大きな鯉がいるの。ヌシって呼ばれてるのよ」
 「鯉・・・ですか・・・」
 では、あの大きな声は鯉を呼んでいたのか、と問うと、少女は大きく頷く。
 「でもね、私が呼んでも、全然寄って来ないんだぁ。コムイ兄さ・・・ううん、大老が呼んだら、すぐに出てくるのにね」
 大きくため息をついた少女に、思わず笑みを零すと、アレンは彼女と並んで池を見下ろした。
 「声が、違うからじゃないですか?」
 「声?」
 「はい。
 魚は、とても耳がいいそうですよ。
 その、コムイ大老でしたっけ?その人の声を、餌をもらえる音、って、覚えちゃってるんじゃないですか?」
 「そっか・・・・・・」
 残念そうに呟いて、少女は深々と吐息する。
 「せっかく、お菓子も持ってきたのになぁ・・・・・・」
 そう言って、彼女が懐から出したのは、懐紙に丁寧にくるまれた、きれいな干菓子だった。
 「・・・鯉って、干菓子食べるんですか?」
 「食べないの?
 お麩(ふ)を食べるから、これも食べるんじゃないかと思って、持って来たの」
 至極まじめな少女の答えに、アレンは思わず吹き出した。
 「少なくとも・・・僕の国には、干菓子を食べる鯉はいませんよ」
 肩を震わせて笑うアレンに、少女はむぅ、と頬を膨らませたが、ややして、手にした干菓子をアレンに差し出した。
 「じゃ、一緒に食べよっ」
 言うと、彼女は欄干にもたれて、干菓子を摘んだ。
 「どうぞ。おいしいよ?」
 更に勧められて、アレンもそれを摘む。
 「ホントだ・・・おいしい」
 口元をほころばせたアレンの顔を、少女は覗き込むように小首を傾げた。
 「ねぇ、あなた、大奥の人でしょ?なんでこんなところにいるの?」
 問われて、アレンは困惑げに俯く。
 「道に迷っちゃって・・・・・・」
 「迷ったって・・・ここ、本丸よ?!普通、大奥からここまで迷わないよ?!」
 驚愕の声を上げる少女に、アレンは俯けた顔を赤らめた。
 「・・・ま、来たばっかりじゃ、しょうがないよね」
 黙りこんでしまったアレンに微笑むと、少女は彼の視線の先に、白い手を差し出した。
 「行きましょ。大奥まで、案内するわ」
 「え?!でも・・・・・・!」
 「なに?」
 笑みほころんだ顔を向けてくる少女を見つめたまま、アレンは首を振った。
 「大奥は・・・そこに閉じ込められた女中以外は、上様しか入ってはいけないんです・・・。
 神・・・大奥総取締に見つかったら、あなたが罰せられてしまいます」
 と、少女は目を丸くし、次の瞬間、噴出した。
 「・・・っそうね!
 神田は掟の番人だから・・・怒るでしょうね!」
 大奥総取締を呼び捨てにする少女に、いぶかしげな視線を向けるアレンへ微笑み、彼女は遠くを指し示した。
 「見える?あの、蒼い屋根。あれが大奥よ。
 あれを目指していけば、帰れるわ」
 木立の狭間に、垣間見える屋根を見やって、アレンは頷く。
 「ありがとう・・・」
 「どういたしまして、アレン君」
 「え?!なんで僕の名前・・・・・・」
 驚いて振り向くと、少女は既に、彼から遠い場所で手を振っていた。
 「またね!」
 そう言って、踵を返した少女の背中が、みるみる遠ざかって行くのを、アレンは呆然と見送る。
 「また・・・?」
 アレンは、少女の言葉を、訝しげに反芻した。


 「ど・・・どこ行ってたんさ、アレン様!!」
 部屋に戻るや、真っ青になったラビに飛びつかれて、アレンは驚いた。
 「どうしたんですか、そんなに慌てて・・・」
 「どうしたもなにも・・・それはこっちの台詞さ!!
 アレン様が宴会で激怒って席を立った挙句、大奥を出て行ったって、大騒ぎになってたんさ!!」
 「出て行ったって・・・・・・」
 出て行けるわけがないだろう、と言いかけて、アレンは、大奥から迷い出てしまった自分に苦笑する。
 「もう、ホントに心配したんさ・・・!何かあったんじゃないかって・・・・・・」
 言ってしまってから、はっと口をつぐんだラビに、アレンが訝しげに眉を寄せた。
 「ラビ?なにを聞いたんですか?」
 彼は今日、『先の御台所達の死因を調べる』と言って、アレンの元を離れたのだ。
 ただ事ではないラビの慌てようを、アレンが御台所達の死因と結びつけたのも当然だった。
 ラビは、大きく呼吸すると、人目を気にして辺りを見回し、アレンの耳に口を寄せる。
 「前の御台様達は・・・殺されたのかもしれないさ」
 「え?!」
 目を見張るアレンに、ラビは至極真面目な顔で頷いた。
 「どうも、神田様が・・・」
 「失礼いたします、御台様」
 ラビの口を塞ぐように、凛とした声が響く。
 はっとして見遣ると、いつの間に現れたものか、神田が、多くの女中達を引き連れて、すぐ目の前に立っていた。
 「・・・どちらに行かれたかと、案じておりました」
 心にもない言葉を、冷笑を浮かべた唇に載せて、神田は女中らを手招く。
 「どうぞ、お召し替えを。
 本日、上様がお渡りになられます」
 「上様が・・・?」
 思わず顔を強張らせたアレンに、神田は笑みを消して頷いた。
 「はい。お珍しくも、ご自身からお望みに―――― 江戸には珍しい鄙(ひな)の話でもお聞かせください」
 またもや『田舎者』と呼ばれて、アレンの顔が引きつる。
 「・・・・・・嫌だ・・・と言ったら・・・・・・?」
 聞き入れられるわけがないとは知りつつ、ささやかな抵抗と共に言えば、神田は、アレンの震える声を、鼻で笑った。
 「ご自由に。上様には、そう申し上げましょう」
 「え・・・・・・」
 「ただし」
 思わぬ光明を得たと思った瞬間、神田は冷酷な目を向け、冷厳な声で言う。
 「上様のご意向に逆らうは、謀反と同じ。
 あなただけでなく、お家のお取り潰しも構わぬと仰せなら、どうぞ、ご辞退なされい」
 「・・・・・・・・・っ!」
 自分の言葉に、アレンが青ざめ、震える様を満足げに見ると、神田は、衣装を捧げ持つ女中達を、殊更に眺め回した。
 「皆、下がって良い。
 御台様は、お褥(しとね)をご辞退されるそうだ」
 神田の命に、一斉にこうべを垂れ、踵を返そうとした女中達を、高い声が制す。
 「待って!!」
 勝ち誇った笑みを浮かべる神田から、必死に目を逸らし、アレンは震える声で呟いた。
 「わかりました・・・・・・。
 言う・・・通りにします・・・・・・・・・」
 「さようでございますか。
 それでは、お召し替えをお手伝いいたしましょう」
 嘲笑を含んだ声に、唇を噛み締めながら、アレンは女中らのなすがままに、衣装を替えた。


 「・・・む・・・無理矢理・・・無体をされそうになったら、た・・・たとえ上様でも・・・・・・っ!」
 寝所で一人、アレンは震えながらブツブツと呟いた。
 ラビとは話をする間もなく引き離され、寝所の周りはアレンが逃げないようにとの思惑か、神田の息のかかった者達でびっしりと固められている。
 「あ・・・当身でも何でも食らわせて・・・・・・!!」
 涙目で呟いた時、遠く、鈴の鳴る音がした。
 将軍が、大奥に入った合図だ。
 「に・・・逃げたいよぅ・・・・・・!」
 ぽろぽろと、大粒の涙を流しながら、とうとう、アレンは泣き声を上げた。
 一方、多くの女中たちにかしずかれて、大奥に入った将軍は、足取りも軽くアレンの元へと向かう。
 「・・・・・・本当にいいのか?」
 半歩後ろに付き従う神田に囁かれて、彼女はにこりと笑みを浮かべた。
 「いいのよ。心配してくれてありがとう、神田」
 笑みを含んだ声に、神田は憮然と眉をひそめる。
 「どういう風の吹き回しだ?
 前の二人は、お前が泣いて嫌がったから、俺は・・・・・・」
 「そろそろ、年貢の納め時ってことよ。大丈夫だから、心配しないで」
 更に言って、彼女は足を早めた。
 「ここでいいわ。
 後は、夫婦水入らずで
 「・・・・・・なにかあったら、俺を呼べ。
 外の者達は、俺の配下だ」
 「何もないってば。心配性ね、神田は!」
 「あのな・・・・・・」
 「じゃあねー♪また後で
 もの言いたげな神田の面前でひらひらと手を振り、将軍は寝所のふすまを開けた。
 と、中で、細い影がビクリと震える。
 「あなたが新しい御台所ね?」
 将軍の声に、アレンは驚いて振り返った。
 燭台に灯る、淡い炎が照らし出した、若く美しい将軍の姿に、しばし呆然と見蕩れる。
 「はじめまして、リナリーよ。よろしくね、アレン君」
 「こ・・・鯉の池の・・・・・・!!」
 「えへ さっきは黙っててごめんね
 厚く敷かれた布団の上に座ると、リナリーはその傍らをポンポン、と叩いて、アレンに座るように示した。
 アレンが、おなしく従うと、彼女は袂(たもと)から懐紙に包んだ菓子を取り出し、アレンの前に広げる。
 「あの後ね、兄さ・・・じゃない、コムイ大老に聞いたら、呼ぶんじゃなくて、手を叩くんですって。
 明日、一緒にやらない?」
 「鯉を・・・ですか?」
 「うん!アレン君に、あの池のヌシを見せてあげるよ!」
 懐紙の上に乗った菓子をつまみながら、リナリーはコロコロと笑った。
 「あ、お茶がないのね。
 神田ー!お茶がないの!持ってきてー!」
 「ちっ!」
 リナリーが呼ばわるや、ふすまが開いて、神田が二人分の茶を運んでくる。
 「・・・上様、ここになにをしにいらしたのです?!茶ァ飲みにいらしたんですか!」
 丁寧な口調ながらも、憤りを含んだ声に、リナリーは臆することなく笑って頷いた。
 「うん、そう
 だって、今日初めて会ったんだもん。お茶しながら、おしゃべりでもしたら、仲良くなれるかなぁって」
 「・・・・・・あのな」
 既に輿入れしてきた御台所と寝所にいながら、『お茶しながらおしゃべり』とは、勘違いもはなはだしい。
 「年貢はどうした」
 「収めるには、準備がいるでしょ?」
 にこ、っと微笑まれて、神田はうんざりした顔で立ち上がった。
 「・・・それでは、どうぞごゆっくり!
 朝まで語り明かしやがれ!!」
 「やぁねー。そんなことしないわよ、お肌に悪いもの。
 一刻ほどで帰るから、お鈴廊下、開けておいてね」
 いけしゃあしゃあと言ってのけたリナリーに、神田のこめかみが引きつる。
 「泊まりに来たんじゃねぇのか!!」
 「城内と言っても、外泊したら、兄さんに怒られちゃう」
 「何のための大奥だ!!」
 一声叫ぶや、神田は勢いよく踵を返し、後ろ手に激しくふすまを閉めた。
 「もー。神田ってば、すぐ怒るんだから」
 「あ・・・あの・・・・・・」
 一人置いてけぼりにされていたアレンが、遠慮がちに声をかけると、リナリーはにこりと微笑んだ。
 「怖がらないでいいわよ。
 今日は、本当におしゃべりしに来ただけなの」
 「は・・・はぁ・・・・・・」
 切れそうなほどに張り詰めていた緊張がほどけて、アレンはぐったりと脱力する。
 「で・・・でも・・・・・・。
 あなたが上様だったなんて・・・・・・」
 「びっくりした?私もよ」
 いたずらっぽい笑みを浮かべて、リナリーはアレンを見つめた。
 「いきなり、御台所が本丸に現れるんですもの。逃げてきたのかと思ったわ」
 「はは・・・・・・」
 気まずげに笑ったアレンに、リナリーは手を差し出す。
 「これから、よろしくね、御台所。
 私、いい旦那さんになれるよう、がんばるわ」
 「は・・・はい・・・!!」
 アレンはリナリーの手を両手で握ると、真っ赤な顔で何度も頷いた。
 「ぼ・・・僕も、立派な御台所になります!!」
 怒鳴るような大声で答えたアレンに、リナリーは笑みを浮かべてもう一方の手を添える。
 「うん。一緒にがんばろうね
 江戸幕府最後の将軍と御台所は、そうやって長い間、互いの手を握りしめていた。


 翌日、重臣達と、内外の様々な事案を協議していたリナリーは、眠たげな顔で、最も上座に座る大老を見遣った。
 「・・・・・・そんなに泣かなくても、何もしてないってば」
 昨夜は一睡もしなかったのだろう。
 真っ赤に充血した目から、滂沱と涙を流すコムイに、リナリーは呆れ声を出した。
 「ぼんっっどーに゛?!ヴゾぢゃな゛い゛よ゛ね゛、上様?!」
 掠れきった涙声で、切々と訴えるコムイに、リナリーは今朝何度目かの頷きを返す。
 「天地神明に誓って、何もしてません」
 「大切な上様になんかあったら、ボク・・・・・・っ!!!!」
 「何もしてませんってば」
 うんざりと手を振って、リナリーは立ち上がった。
 「どこ行くんですっ?!」
 必死に取りすがるコムイを引きずりながら、リナリーはすたすたと歩き出す。
 「御台所と約束してるの。
 すぐ戻るわ」
 「いっ・・・いつから上様は、政務を放り出すような悪い子になっちゃったんですか!!行かないでー!!!!」
 「兄さんにだけは言われたくないもん!」
 それに、と、リナリーは自分にすがりつく大老を見下ろした。
 「今から私、休憩時間だもん!
 御台とお昼食べて、なにが悪いの!」
 「お昼はボクとー!!いつも一緒だったじゃなーぃ!!!」
 「だって昨日、アレン君と約束したのよ。池のヌシを見せたげるって」
 「じゃあ、ボクも行くよ!!」
 悲鳴じみた声を上げるコムイに、リナリーは目を丸くした。
 「・・・なんで?」
 「ボクのたいっせつな上様の、奥さんなんでしょ?!
 この目でしっかりと品定めしなきゃ!!」
 「はぁ・・・・・・」
 呆れ果てた声を上げるリナリーの肩に腕を回し、コムイは彼女と連れ立って歩き出す。
 「さぁ!とっとと行って、とっとと帰ってこよーね!」
 「う・・・うん・・・・・・」
 デートに親がでしゃばってくるような、異様な状況に、リナリーは深々とため息をついた。


 「る〜〜〜♪
 上様とデート 上様とデート
 朝起きた瞬間から、非常に上機嫌なアレンを、ラビは薄気味悪そうな目で見遣った。
 「着物はどれにしようかな〜♪
 ねぇ、ラビ!この臙脂(えんじ)って、地味ですよね?
 薄紅と若草と浅葱と、どれがいいと思う?」
 「・・・そうさなぁ・・・。
 浅葱は田舎侍ってイメージがあるし、若草はイマイチ地味だから、薄紅なんていいんじゃないさ?」
 「そうだね!
 じゃあ、帯は・・・」
 「打掛を西陣の総柄にするんなら、帯は落ち着いた色がいいさ。
 打掛が白っぽいから、帯は臙脂なんてどうさ?」
 「えー?地味じゃないかなぁ?」
 「帯締を錦の丸ぐけにすれば、そう地味でもないさ・・・・・・ってか!」
 ラビは、座敷中に広げられた衣装を見渡し、大きく首を振った。
 「なんで着物も帯も打ちかけも大柄なもんばっかなんさ!いくらなんでも、暑っ苦しいさ!!」
 「えー?
 僕の国元じゃ、着物は着物で、帯は帯で、華やかで質のいいものが好まれるんですよ?」
 「・・・だからって、着物も帯も、打掛まで種類の違う、大きな花柄なんて着られちゃ、目の休まる場所がないさ!!」
 ある意味目のやり場がない、と言うラビに、アレンはむう、と、頬を膨らませる。
 「じゃあ、君に任せますよ。
 でも、地味にしないでくださいね!」
 せっかくのデートなんだから!と、張り切るアレンに、ラビは深々と吐息した。
 「・・・昨日まで、あんなに嫌がっていたくせに・・・・・・」
 意外と尻軽だったんだな、と、胸中に呟くラビに、アレンははしゃいだ声を上げる。
 「だって、上様があれ程の美少女だなんて、知らなかったんですよ
 もう、すっごく目が大きくって、きれいな黒髪で、可愛い声で
 「え?!マジ?!そんなにすごいんさ?!」
 元々、『目指せ!お部屋様!』をスローガンに大奥へと乗り込んできたラビの、興味津々の問いに、アレンはにっこりと笑って頷いた。
 「それはもう、見たこともないような美少女ですよ
 「へぇぇぇ〜 そんなにすごいんかぁ〜
 アレンの、あまりにも幸せそうな声に、ラビもうっとりと夢想する。
 と、
 「ラビ」
 数オクターブ低くなった声で、アレンが呼びかけた。
 「・・・・・・もし、僕を差し置いて上様のご寵愛を得ようなんて考えていたら・・・その時は・・・・・・」
 「な・・・なにっ?!なにされるんさ、俺?!」
 慌てふためいて、後ずさったラビに、アレンは微笑を向ける。
 「殺します」
 きっぱりと言われて、ラビは震え上がった。
 「さぁ、殺されたくなかったら、早く着替えさせてください!」
 「わ・・・わかったさ・・・っ!
 だからその怖い笑い方、やめて欲しいさっ!!」
 三日月の形に歪んだアレンの唇に、ウサギのように怯えながら、ラビは急いで衣装を揃える。
 「だって、これから上様とデートなんですよ 口元が緩んじゃって
 はしゃぎまくってクルクルと回るアレンを、ラビは制止した。
 「ハイハイ。可愛くするから、じっとしてるさ、御台様」
 せめてもの仕返しに、力いっぱい帯を締めてやると、アレンが苦しげにうめく。
 「ラ・・・ラビッ・・・!苦しっ・・・・・・!」
 「ナニ言ってんさ!
 このくらい締めねぇと、帯が落ちるさ♪」
 いけしゃあしゃあと嘘をついて、ラビは文庫型に帯を結ぶと、打掛を着せ掛けた。
 「はい、できたさ、アレン様。
 可愛くできたと思うぜ?」
 「そ・・・そぉ・・・?ありがと、ラビ・・・」
 帯の苦しさに、荒く息をつきながら、アレンはふらふらと部屋を出る。
 「あ、アレン様!
 俺もお供するさ!」
 脱ぎ散らかされた衣服を慌ててたたんで、ラビが立ち上がった。
 「御台様が一人、うろついちゃいけないさ!」
 「は・・・はい・・・。
 よろしく・・・・・・」
 よほど苦しいのか、ほとんど目を回しながらふらふらと歩いていくアレンに、ラビは気まずげに眉をひそめる。
 「あっちゃぁ・・・やりすぎたかな・・・・・・」
 呟くと、ラビは急いでアレンの後を追った。
 「ほ・・・ほら、しっかり歩くさ、アレン様!
 庭に転げ落ちちまうさ!」
 千鳥足のアレンが、危うく回廊から落ちそうになったのを慌てて引き止め、支えつつ歩いていると、突然、アレンの背筋がぴんと伸びる。
 「ア・・・アレン様・・・?」
 今にも倒れそうなほどふらついていたアレンが、突然しっかりと歩き出したことに驚くラビの耳が、大勢の衣擦れの音を捉えたのは、まもなくのことだった。
 「神田様・・・」
 大勢の女中を引き連れ、堂々と回廊の真ん中を歩む大奥の長に、ラビも背筋を伸ばす。
 その視線の先で、神田は唇に薄く笑みを浮かべると、アレンの真正面に対峙して、立ち止まった。
 「・・・昨夜は、上様と仲良くご歓談なされたようで。まずは、お喜び申し上げます。
 あれほど、お輿入れを嫌がっておられた御台様が、あのように軽々と変節なさるとは、この神田、思いもよりませなんだ」
 ―――― この、尻軽が。
 言外に匂わされて、アレンの目が吊り上がる。
 が、次の瞬間、アレンの口元が、不敵な笑みを浮かべた。
 ラビはじめ、二人の対決を見守っていた者達が、一斉に息を呑む。
 「・・・輿入れした以上、僕は名実共に御台所です。
 ―――― 神田」
 呼び捨てにされて、神田の眉が吊り上がった。
 「もう、あなたの指図には従いません!」
 真っ直ぐに神田の目を見据える、気丈な目に、彼は忌々しげに目を眇める。
 「・・・・・・どうぞ、ご随意に」
 静かな声は、凍りついた湖のように冷たく、しかし、その下には怒りの奔流を秘めている。
 裾を払って、道を譲った神田に一瞥もくれず、アレンは堂々と胸を張り、凍りついたように動かない女中達の間を抜けていく。
 「ア・・・アレン様・・・・・・!」
 彼らの姿が見えなくなるまで歩いたところで、間近に見た対決に、未だ震えが止まらないラビが呼びかけると、アレンはやや青ざめた顔で振り向いた。
 「この大奥で、総取締と真っ向から対立するのは・・・!」
 「僕は、御台所なんです、ラビ」
 諌めようとするラビを、真っ向から見つめて、アレンは彼の言葉を遮る。
 「大奥の長は、総取締じゃない。御台所です。
 ・・・・・・負けるもんか」
 気丈に言い放つアレンを、ラビは気遣わしげな目で見つめ、深く吐息した。
 と、ふと、微苦笑を浮かべる。
 「・・・・・・そんなこと言って、声が震えてるさ、アレン様」
 「帯が苦しいからですよ!」
 ラビの言葉にすぐさま反駁すると、アレンは裾を払って再び歩き出した。


 「アレンくーん!こっちこっちー!」
 少女の呼び声を耳にした途端、強張っていたアレンの顔がほころんだ。
 「上様
 「ちょっと待つさ、御台様!!」
 そのまま回廊から飛び降りようとするアレンを、ラビが慌てて羽交い絞めにする。
 「放してえぇぇぇぇー!!」
 「放すかっ!
 裸足で地面に降りるって、どこの野生児さっ!」
 アレンの耳元に囁き、ラビはようやく、彼をおとなしくさせた。
 「ハイハイ、ちゃんと草履を履いて・・・・・・」
 「上様ー
 「早っ!!」
 草履を履くや、駆けて行ったアレンの背が、みるみる遠ざかる様に、ラビが呆れ返る。
 「上様、鯉を見に来ました
 「うん!今から呼ぶね
 リナリーが軽く袖をまくり、手を叩くと、見たこともないほど大きな鯉が、ゆったりと泳ぎ来て、水面に頭部を出した。
 「わぁ!!ホントだ!おっきい!!」
 「でしょ
 得意げな笑みを浮かべると、リナリーはアレンに漆塗りの枡を差し出す。
 「はい。餌をあげていいわよ
 「ありがとうございます
 とても鯉の餌入れとは思えない、立派な枡を受け取ろうと手を差し出したアレンは、彼女の背後に、恨みがましい人面を見て、悲鳴を上げた。
 「背後霊?!」
 「・・・シツレイだね、御台所。ボクはこの国の大老だよ!」
 そう言って、臣下の中では最も身分の高い男は、上からアレンを見下ろす。
 「は・・・はい・・・ごめんなさい・・・・・・」
 神田には対決も辞さなかったアレンだが、なぜだかこの男には逆らいがたい雰囲気を感じて、素直に謝った。
 「で・・・でも、なんで・・・・・・」
 大老と言えば、国によほどの大事がない限り、空位のままが普通の最高位だ。
 そんな位人臣を極めた人物が、暢気に鯉の餌なんかやっていていいのか・・・・・・。
 口には出さないものの、そんな、アレンの訝しげな視線に、リナリーがにこりと微笑んだ。
 「兄さ・・・じゃない、コムイ大老は、アレン君に会いに来たんだよ」
 「僕に?」
 更に訝しげな表情になったアレンに、リナリーが頷く。
 「私の奥さんになる人だから、一度会っておきたいって」
 「奥・・・・・・」
 途端、アレンの顔が、ぽぉっと赤くなった。
 「よ・・・よろしくお願いします、コムイ大老!!僕、御台所のアレンです!!」
 「なに感極まってんさ、御台様っ!」
 ようやく追いついたラビの呆れ声も聞こえぬ様子で、アレンは更にコムイへ詰め寄る。
 「上様は、僕が末永く幸せにしますから!どうぞご安心を!!」
 「み・・・御台様・・・・・・!」
 コムイの人となりを聞きかじっていたラビが、慌てて止めようとするが、アレンの暴走は止まらなかった。
 「お家の安泰のためにも、一日も早く、お世継ぎをもうけてみせますね
 「そう・・・・・・それは心強いねぇ・・・・・・!」
 その言葉とは裏腹に、コムイの声には、おどろおどろしい怨念がこもっている。
 だが、その声音に気づかないのか、アレンは満面に笑みをたたえて頷いた。
 「お任せください!僕、立派な奥さんになります!!」
 これが、昨日まであれほど輿入れを嫌がっていたアレンと同じ人間だろうかと、疑いたくなるほどの変節振りに、ラビは痛みはじめたこめかみを押さえる。
 その、目を伏せた一瞬だった。
 「アレン君?!」
 リナリーの、悲鳴じみた声が上がった次の瞬間、大きな水音が上がる。
 「御台様?!」
 ラビが欄干に駆け寄ると、水面にアレンの、白い髪が揺れていた。
 「沈まないようにがんばって!今助けてあげるからね!!」
 「ちょっ・・・!!お待ちなさい、上様!!」
 欄干を乗り越えようとするリナリーを、背後から羽交い絞めにして、コムイが大声を上げる。
 「お部屋小(へやこ)!御台様をお助けしなさい!」
 「はぁっ?!俺?!」
 春とはいえ、まだ水は冷たい。
 そんな中、なぜ自分が飛び込まなければならないのか、と、青ざめるラビを、コムイが怒鳴りつけた。
 「じゃあ、上様を行かせるって言うのかい?!」
 「いいの!私が行くわ!!」
 腕の中で暴れるリナリーを懸命に押さえつけ、コムイはラビを、鋭い目で睨みつける。
 「・・・飛びこまないなら、蹴落とすよ?」
 冗談ではない声音に、ラビは泣きながら帯を解いた。
 「いきゃあいいんさ、いきゃあ!!」
 橋の上に落ちた帯をまたいで、欄干から飛び降りる。
 「御台様!しっかり!!」
 ラビは必死に呼びかけながら、重い絹の衣装に絡め取られ、池に沈んだアレンを浮かび上がらせた。
 「目ぇ剥いてる場合じゃないさ!起きろー!!」
 やや乱暴に頬を張るが、アレンは完全に気を失っているらしく、ピクリとも反応しない。
 「お部屋小!早くこっちに!!」
 声の方向を見遣ると、リナリーが池の淵にまで降りて、ラビに手を伸ばしていた。
 ―――― こりゃ、変節もするさ・・・・・・。
 改めて真正面から見た将軍の可憐な姿に、ラビも呆けずにはいられない。
 「なにしてるの!」
 苛立たしげな声を投げられて、我に返ったラビは、アレンを抱えたまま、水辺に向かった。
 幸い、意識不明のアレンは暴れることなく、すんなりとリナリーの手に引き渡され・・・る寸前、リナリーは押しのけられて、代わりに長身の大老が、アレンの襟首を掴んで引き上げる。
 「橋から落ちちゃうなんて、うっかりな御台所だねぇ」
 「うっかりって・・・ホントに?!
 あの時、アレン君は・・・・・・!」
 コムイの見解に反駁しようとしたリナリーを笑みで制し、彼は猫の仔のようにぶら下げていたアレンを、ようやく水から上がったラビに渡した。
 「一応、ご典医(てんい)に診てもらっておくれ。
 さぁ、上様 そろそろ戻りましょぉねー
 「で・・・でも・・・・・・」
 気遣わしげに、ぐったりと伸びているアレンを見るリナリーを、しかし、コムイは強引に引き連れていく。
 「アレン君・・・・・・」
 未練ありげに振り向くリナリーに、アレンを支えたままのラビは、悩ましげに眉根を寄せた。
 「・・・このまま御台様付部屋小姓として生きるか・・・殺されてもいっぺんお部屋様になるか・・・それが問題さ」
 「ラ゛ァァァ〜〜〜ビィィィィ〜〜〜〜!」
 「ひぃっ?!」
 途端、地の底から湧きあがってきたような、怨念にまみれた声を掛けられて、ラビが震えあがる。
 「上様は・・・・・・渡しません・・・・・・っ!!」
 言い終えるや、がくりと首を落としたアレンを見下ろし、ラビは、深々とため息を零した。


 「過労っすね」
 部屋に戻るや、早速呼びつけたご典医の一言に、ラビは目を見開いた。
 「え?!ホントさ?!」
 思わず出た一言に、ご典医は不快げに眉をひそめる。
 「何か他に、心当たりでも?」
 「いや・・・その・・・・・・」
 自分が帯をきつく締めすぎたから、呼吸困難になったんじゃないか、とは、口が裂けても言えない。
 ラビは一つ、重々しく咳払いすると、表情を改めた。
 「えー・・・つまり、御台様は先の御台様方と違い、とても健康であられて、突然気を失ってしまわれるような方ではないと・・・・・・」
 「心労は、健康なお身体こそを損なうものっすからね」
 「心労・・・・・・」
 「御台所は、お輿入れ当初、それはご心労深かったご様子。
 張り詰めていた緊張の糸が切れて、お倒れになったのかと」
 「はぁ・・・なるほど・・・・・・」
 ―――― 昨日までとは、人が変わったように緊張が解けてたしな。
 ご典医の説明に、納得しかけたラビは、しかし、ふるりと首を振る。
 「いや、しかし!
 御台様はこの程度のことで倒れるほど、ヤワなお方じゃないさ!」
 あの神田のケンカを買うほどには、気丈でふてぶてしいのだから、と、反駁するラビに、しかし、ご典医は首を振った。
 「気丈なお方だからこそ、こういう事は珍しくない」
 断言して、ご典医は座を立つ。
 「それでは、失礼する。
 ご処方は、後ほどお届けしましょう」
 そそくさと去って行くご典医を訝しげに見送ったラビは、視線を布団の中で眠るアレンの、青白い顔に戻した。
 「ジジィ・・・マジこれ、ヤバイかも・・・・・・」


 「ミランダ、御台様が、お倒れになったそうだ」
 酷薄な笑みを口の端に乗せて言った神田に、ミランダは、真っ青になった顔を上げた。
 「御台様が・・・!」
 乾いた唇を震わせて呟くと、ミランダは胸を押さえて俯く。
 「か・・・神田様・・・!どうかもう、これ以上は・・・・・・!」
 切々と訴える彼女を冷たく見下ろし、神田は、ふるりと首を振った。
 「これは、大奥に代々伝わるしきたりだ。俺の代で、勝手に終わらせることなんざできるか」
 「ですが・・・!」
 「しつこい!」
 なおも反駁しようとするミランダを、一喝して黙らせ、神田は冷笑を深める。
 「それに・・・ミランダ。
 あの薬は、俺が含ませているわけじゃない」
 神田の言葉に、ミランダの顔が、死人のように強張った。
 「か・・・神田様・・・・・・!!
 わ・・・私・・・!
 もうこれ以上、御台様にお薬をお含ませすることは・・・・・・!!」
 おこりにかかったように激しく震えながら、訴えるミランダに、しかし、神田はわずらわしげに袖を振る。
 「もういい、下がれ」
 「ですが・・・!」
 「うるさい!!」
 再びの恫喝に、ミランダの気はくじけて、崩れるように一礼すると、よろめきながら退室した。
 そのまま、幽鬼のようにふらふらと回廊を歩んだ彼女は、部屋に戻った途端、声を殺して泣き出す。
 「もういや・・・もういやぁっ・・・・・・!!」
 それほど身分の高くない家の出身である彼女が、大奥の中でも上位に入る、お中臈(ちゅうろう)となれたのは、ひたすら、神田の側で尽くしてきたからだ。
 だが、彼に従うと言うことは、必然的に、彼女の手を汚すこととなった。
 アレンを含む、三人の御台所の食事に、密かに毒を盛っていたのはミランダだ。
 死には至らない・・・だが、確実に身体を損なう劇薬と知りながら、ミランダはその辛い役目を果たしてきた。
 しかし、それももう・・・・・・。
 「く・・・・・・」
 胸を押さえたミランダは、苦しげなうめき声を上げて、倒れこむ。
 「もう・・・私は・・・・・・」
 朦朧とした意識の中で、誰かに抱き起こされた気がして、ミランダは閉じかけた目を開けた。
 「大丈夫っすか?!ミランダ殿?!」
 「リーバー・・・さん・・・・・・」
 若いご典医の顔を見上げて、ミランダはかすかに微笑む。
 「どうして・・・?」
 尋ねると、彼は、真っ赤になって、慌てた声を上げた。
 「かっ・・・勝手に入ってすんませんっ!!
 ただ・・・御台様の診察の帰りに、前を通りかかったら、うめき声が聞こえて・・・!!」
 「御台様の・・・!!」
 リーバーの言葉に、今にも気絶しそうだったミランダは瞠目して、彼に取りすがる。
 「ご容態はいかがでしたか?!お悪いの?!」
 「・・・・・・ご心配なく。
 まだ、先の御台様方ほどでは・・・・・・」
 途端、力が抜けたように落ちたミランダの肩を、リーバーは落ち着かせるように撫でた。
 「お・・・お見立ては、なんと・・・・・・?」
 「過労と・・・伝えてるっすよ」
 言いにくそうなリーバーの言葉に、ミランダは泣き笑いを浮かべる。
 「おっしゃってくださって・・・よかったんですよ・・・?
 私が・・・御台様に・・・・・・」
 「ミランダ殿・・・」
 未だ震えるその細い肩を見ていると、リーバーは、御台所の部屋付小姓の少年が、何事か気づいたらしい、とは言えなかった。
 「そんなに嫌なんだったら・・・やめませんか、こんなこと」
 抱き寄せると、ミランダの震えが、段々と収まっていく。
 「それは・・・できません・・・・・・」
 すっかり落ち着いた声音で、ミランダははっきりと言った。
 「私はもう、この大奥で・・・神田様の元で、生きることを定められております・・・。
 あの『薬』は、今や私のみが扱える・・・御台様にできるだけ害のないよう、量を調節することもできます。
 ですが、私がここを出てしまえば・・・神田様に逆らってしまった御台様は・・・・・・」
 最悪の予想を口にできないまま、再び震えだしたミランダを、リーバーはしっかりと抱きしめる。
 「じゃあ・・・ここを出たくなった時は、いつでも言ってください」
 「え?」
 不思議そうな顔で、彼を見上げるミランダに、リーバーは笑みを向けた。
 「胃の腑、心の臓、持病の癪(しゃく)まで、大奥を出る為の仮病は、いくらでもあるっすよ!」
 いたずらっぽく片目をつぶったリーバーに、ミランダも笑みほころぶ。
 「ありがとうございます・・・・・・」
 嬉しげな声に深く頷いて、リーバーは更に強く、ミランダを抱きしめた。


 その頃、将軍のお召しにより大奥を出た神田は、春の花に満ちた庭の中に、憤怒の表情を浮かべたリナリーを見止めて、憮然と吐息した。
 「・・・コムイはどうした?一緒じゃないのか?」
 珍しいな、と、あからさまに話題を逸らそうとする神田に、リナリーはこれ以上無理なほど、目を吊り上げる。
 「どういうこと?!私、何も命じてないわよ?!」
 「何のことだ?」
 いけしゃあしゃあととぼける神田に、リナリーは甲高い怒声を上げた。
 「今日、アレン君が倒れたのよ!
 そのまま池に落ちちゃって、危うく溺死するところだったわ!!」
 「へぇ・・・それはまた、難儀なことだったな」
 「難儀なことだったな、じゃないわよ!!」
 だん!と足を踏み鳴らし、リナリーは涼しい顔をした神田に詰め寄る。
 「もう、御台には手を出さないでちょうだい!!」
 雷のような一喝を、しかし、神田は柳に風と受け流し、真っ向からリナリーを見つめた。
 「御台様にお薬をお含ませすることは、大奥のしきたりにございます」
 突然、口調を改めた彼に、リナリーが鼻白む。
 「将軍家のいやさかのため、何より、上様のお身の安全のため、尽力いたしておる次第」
 「だ・・・だから、それは・・・・・・!」
 「お話がそれだけならば、失礼させていただく」
 「ま・・・待って!待ちなさい!!」
 既に踵を返した神田に追いすがって、リナリーは眉を吊り上げた。
 「とにかく!もう、御台にあの毒を盛るのはやめて!」
 「これは、たとえ上様であろうとも、止めることはできないしきたりでございますゆえ」
 「じゃあ!御台が食事をする時は、私も一緒に食べるわ!」
 「・・・なに?」
 刃のように鋭く尖った神田の目を、懸命に見返しながら、リナリーは言い募る。
 「いいでしょ?私たち、夫婦なんですもの!」
 毒を盛れるものなら盛ってみろ、と言わんばかりの挑戦的な目を、神田は斬りつけるようなまなざしで見据えていたが・・・先に、剣を納めたのは神田の方だった。
 彼は、憮然と吐息すると、
 「どうぞ、ご随意に」
 そう呟いて、歩み去る。
 「か・・・勝った・・・・・・!」
 激戦に、凄まじく体力を消耗してしまったリナリーは、その場にへたり込みながらも、紅潮した頬に笑みを浮かべた。


 「・・・ったく!あいつ、人の気もしらねぇで・・・・・・!」
 ブツブツと、忌々しげな呟きを漏らしながら足早に回廊を行く神田を、呼び止めた者がいる。
 「やっほー♪神田殿、元気ー?」
 「コムイ・・・」
 軽薄な声に鋭く振り向き、神田は鋭い視線を大老に叩きつけた。
 「上様さぁ、なんの御用だったんだい?」
 「・・・御台所に、もうあの薬を盛るなってよ」
 舌打ちと共に吐き捨てた彼に、コムイは眉をひそめる。
 「えぇー!せっかくボクが作ったお薬なのにぃ〜〜〜!
 なにが気に入らなかったのかな?」
 「今日、あのヤローが危うく溺死しかけたんだろ?それで、めちゃくちゃ怒ってたぜ」
 「うーん・・・今度の御台は丈夫そうだから、そう簡単に白目剥いたりしないと思ってたんだけどねぇ」
 「食ってる量がハンパじゃねぇんだよ、今度の奴は!」
 御台所ともなれば上品に、ほんの少しの量を食すのが、気品ある食事というものだが・・・。
 「あいつ、そりゃもうバクバクと、十人前は平らげるからな」
 「そっかぁ・・・じゃあ、過剰摂取しちゃったんだねぇ」
 忌々しげな神田の言葉に、コムイは苦笑して応じた。
 「じゃあ、もうちょっと毒性を控えた薬を作って・・・」
 「やめとけ。
 リナリーが、これからは御台と一緒に食事をするそうだ」
 「なっ・・・?!」
 真っ青になって絶句したコムイに、神田は不快げに眉をひそめる。
 「あいつのことだ。
 御台と膳を取り替えるくらいのことはやるだろうからな・・・しばらく、薬を入れるのは諦める」
 「もももももも・・・!!もちろん、そうしておくれよ、神田殿!!
 もし、可憐でか弱い上様があんなの摂取しちゃったら、大変なことになるよ!!」
 「・・・薬に可憐は関係ねぇし、か弱くもねぇだろ、あいつは」
 「なに言ってるんだい!!
 ボクの大事な上様が、ほんの少しでも毒性のあるものを摂取するなんて・・・!!
 断固阻止!!断固阻止!!!!」
 神田のささやかな反駁に、大げさな程首を振って、コムイがわめきたてた。
 「と・・・ともかく、御膳所(ごぜんしょ)に連絡して、決して上様には悪いものを食べさせないように、気をつけるんだよ?!」
 「・・・・・・わかった」
 大老とは思えない偏愛ぶりに、呆れ果てて反論する気力もなく、神田はあっさりと頷く。
 「ミランダに、その旨命じておく」
 「うんっ!!よろしくね!!」
 言うや、勢い良く踵を返して、駆け出したコムイの背中を見送り、神田は眉をひそめた。
 「あいつ・・・マジで御台所を排除にかかるな・・・」
 自分が手を下すまでもなく、近いうちに御台所の座が空くだろう事を予想して、神田は呆れたように首を振る。
 「ま・・・俺にとっても都合がいい」
 御台所にとって、最大の危険人物と化したコムイを放置したまま、神田は、さっさと大奥へと戻って行った。


 「アレン君・・・アレン君、しっかり・・・!」
 きれいな声の呼びかけに、アレンはうっすらと目を開けた。
 しかし、視界は膜がかかったようにぼやけて、はっきりとした像を映さない。
 頭は鉛が詰まったように重く、胸は錘でも乗っているかのように息苦しく、再び目をつぶると、ひた、と、冷たい手が額に添えられた。
 ―――― 気持ちいい・・・。
 混濁した意識の中で、そう呟くと、アレンはそのまま眠りに落ちる。
 「アレン君・・・」
 気遣わしげにアレンの寝顔を見つめるリナリーに、後ろに控えていたラビが、見かねて声を掛けた。
 「上様、御台様の看護には、俺がついてるさ。だからもう・・・」
 しかし、リナリーは頑なに首を振る。
 「だって・・・アレン君がこんな目に遭っちゃったのは、私のせいなんだもん」
 「上様・・・」
 「ラビ・・・だったっけ?
 ごめんね、私が・・・神田を止められなかったから・・・・・・」
 長い睫毛を伏せたリナリーの横顔を、ラビは惚れ惚れと見つめた。
 が、眠っているアレンのわずかな身じろぎに、ビクッと震えて慌てて視線を逸らす。
 「・・・?
 どうしたの?」
 「いっ・・・いや!なんでもないさ!!
 ア・・・アレン様のことは、上様のせいじゃないさ!」
 「でも・・・」
 「誰かのせいだって言うなら・・・そんな馬鹿馬鹿しいしきたりを作っちまった奴らだろ?」
 「そうね・・・神田だって、好きでこんなことやっているわけじゃないよね・・・・・・」
 アレンに関してのみ言えば、好きでやっていると思う、とは、さすがのラビも言えなかった。
 不自然に目を逸らしていると、
 「あ!アレン君!」
 リナリーが高い声を上げ、うっすらと目を開けたアレンを見つめている。
 ―――― ふ・・・不用意なこと言わなくて、ほんっとーに良かった・・・!
 跳ね回る鼓動を抑えるように、ラビはそっと吐息した。
 見た目からは想像のできないほど、性格の悪いアレンのことだ。
 寝ている振りをして、聞き耳を立てることくらい、やりかねない。
 が、さすがに今回ばかりは、ラビの予想も外れて、アレンは未だに重い頭を上げることもできず、気遣わしげに自分を見下ろすリナリーを見上げた。
 「上・・・様・・・・・・」
 「アレン君!もう大丈夫だよ!これからは、私がついてるからね!」
 「え・・・?」
 「私がいない時は、何も口にしないでね?
 お薬も飲んじゃダメだよ?」
 畳み掛けるように言い募るリナリーに、アレンはわけがわからないままに頷く。
 「うん・・・!
 じゃあ、これからは、ごはんも一緒に食べようね」
 リナリーが合図をすると、女中らが膳を運んできた。
 「え・・・はい!!」
 途端に元気になって、アレンは勢いよく起き上がる。
 「アレン様!!」
 ぎょっとして駆け寄ったラビの思った通り、アレンは「あ・・・」と、目を回して倒れこんだ。
 そんな状態でもちゃっかりと、リナリーの膝の上に頭を乗せる辺り、ラビも思わず感心したほどの策士ぶりだ。
 「アレン君、しっかりして!!
 急に起き上がっちゃダメだよ!」
 ラビの手を借りて、アレンを抱き起こしたリナリーは、彼女に力なく寄りかかった彼の、真っ青な顔に浮いた汗を拭ってやる。
 ―――― すっげぇうらやましー・・・。
 狙っているとしか思えないシチュエーションに、ラビはまたもや舌を巻いた。
 ―――― ここで俺が、『代わります』なんて言ったら、一生恨まれるさ・・・。
 リナリーとアレンの傍らで、手を出しかねているラビに、しかし、冷厳な声が降りかかる。
 「お前、上様にそのようなことをさせて、何をぼーっとしている?お代わり申せ」
 「ひぃっ!神田様!!」
 思わず悲鳴を上げて飛びのいたラビを、神田は冷たく見下ろし、次いで、リナリーをも見下ろした。
 「そのようなこと、下々に任せればよろしいでしょうに」
 「私のせいでこんなことになったんだもの!私が看病するわ!」
 「看病?」
 将軍に対してすら変わらぬ態度で、神田は冷淡に応じる。
 「上様のどこに、そのような時間が?」
 毎日みっちりと予定の詰め込まれたリナリーには、確かに、看病する時間などなかった。
 しかし、
 「じゃあ、あなたはもう、御台に手を出さないって、誓えるの?!」
 「誓う?」
 リナリーの子供っぽい反駁を、神田は鼻で笑う。
 「ご自分のご身分を、お考えあれ。
 このような瑣末事(さまつじ)に、いちいち関わっていられる程、お暇ではありますまい」
 「う・・・・・・」
 言葉を失うリナリーに、神田は更に言い募った。
 「それに・・・今は大事な時。
 奥のことより、表の政務を大事になされよ」
 「大事な時・・・?」
 耳ざとく、その言葉を聞きつけたラビに、再び冷酷な視線が突き刺さる。
 「お前には関係のないこと。
 余計なことを言うでない」
 「はっ・・・はい・・・・・・!」
 ビクビクと怯えながら、何度も頷くラビを冷たく見下ろして、神田はその視線をリナリーに据えた。
 「さ。
 後は、我らにお任せを。
 上様はご自分の責務を、お勤めになさいますように」
 反論を許さない声音に、リナリーも口をつぐんでしまう。
 が、
 「わかったわ・・・」
 強い目で神田を見返し、自分にもたれるアレンを強く抱きしめた。
 「じゃあ、こちらで膳を頂いたら、すぐに帰るわ」
 強情にも、自ら毒見をする、と言い張る彼女に、軽く吐息して、神田は女中らが運んできた膳を、二人の周りに並べさせる。
 「どうぞ、召し上がれ」
 緊迫した空気で、その場に居合わせた者達を一様に凍りつかせながら、神田はリナリーから、激しい視線を逸らした。
 そのまま、踵を返して神田が退室すると、部屋は明らかにほっとした雰囲気に満たされた。
 ―――― こ・・・怖かったさ・・・・・・!
 こんなことで、この大奥で生き残れるのか、と、かなりのところ気弱になりつつ、ラビは、気を失ったままのアレンの、青白い顔を、気遣わしげに見遣った。


 それから数日、食事の際にはリナリーが付き添うようになってから、アレンはみるみる回復していった。
 「やっぱり・・・あの薬のせいだったんじゃないの!」
 リナリーの怒りに、神田は涼しい顔をして『偶然でしょう』と言ってのけたが、気の弱いミランダは、彼のように受け流すこともできない。
 いつ自分に追及の手が伸びるのか・・・いや、追及されるのは当然としても、あの冷酷な神田のこと、罪を自分ひとりに押し付けて、断罪するのではないかと思うと、恐ろしくて眠れない夜が続いた。
 いっそ、大奥を出てしまおうかとも思ったが、そうなれば、中臈(ちゅうろう)の身分を失った自分など、簡単に処分されてしまう。
 悩みの深さに、ミランダは日に日にやせ衰え、胸を締め付ける痛みに、立ち上がれないこともしばしばだった。
 その日は、特に苦しみが強く、臥せったまま起き上がれないミランダを案じた女中が、ご典医を呼んでくれた。
 「ミランダ殿・・・!」
 床に臥せたミランダの顔色が、死人のように青ざめている様に、彼女の診察に訪れたリーバーまでもが顔色を失う。
 「どうしてこんな・・・」
 前に診た時は、ここまで酷くはなかったのに、と驚くリーバーの声に、ミランダがうっすらと目を開けた。
 「リーバーさん・・・・・・」
 「一体、何があったんすか?この様子は・・・」
 毒でも盛られたか、と、早速脈を取り始めたリーバーに、ミランダは床の上で弱々しく首を振る。
 「私のせい・・・私が、弱いせいで・・・・・・」
 「ミランダ殿・・・・・・」
 彼女がここまで弱った原因に思い至り、リーバーは骨の透けるミランダの手を、両手で包み込んだ。
 「・・・大奥のしきたりでは、確か、女中は親が死んだ時と、嫁ぐ時には大奥を出ることを許されるとか」
 「えぇ・・・。
 ですが、私の両親は既になくなりましたし・・・この身分を捨てて嫁いでも、嫁ぎ先に迷惑がかかります・・・・・・」
 神田の権力は、大奥内だけでなく、大老や老中にまで及んでいる。
 大奥の暗部を知るミランダを妻に迎えた武士は、大変な困難に見舞われるに違いない。
 「私のような疫病神・・・誰も・・・・・・」
 「武士じゃなきゃ、関係ありませんよ」
 ミランダの自嘲に、断固としたリーバーの声が重なった。
 「俺は、武士じゃありませんからね。あなたをもらったって、問題ない」
 「え・・・・・・」
 すっかり落ち窪んだ目を見開くミランダに、リーバーは暖かく微笑む。
 「武家でなくてもいいなら、俺のとこに嫁いで来ませんか?」
 「そ・・・それは・・・でも・・・・・・!」
 ミランダは赤くなった顔を、しかし、懸命に振った。
 「いけません!そんなことしたら、あなたのご身分が・・・!」
 ご典医の位は、間違いなく剥奪される・・・そう言って、リーバーの手を振り解こうとしたミランダの手を、彼は強く握る。
 「構いません。
 俺はいわゆる、『手に職を持った』人間ですからね。
 なぁに・・・今から町医者になるって言っても、『元ご典医』の肩書きがあれば、患者には困りません」
 「で・・・でも・・・・・・」
 真っ赤な顔を逸らし、なおも手を振り解こうとするミランダの耳元に、声が囁いた。
 「俺じゃ、嫌っすか?」
 途端、ミランダの抵抗が止み、今までとは別の意味で、首が振られる。
 「一緒に、ここを出ましょう」
 再びの囁きに、今日初めて、ミランダは頷いた。


 大奥を出たい、という、ミランダの申し出に、神田は当然、いい顔をしなかった。
 「理由は?」
 不快げな問いに、ミランダはそっと、リーバーの書いた見立てを差し出す。
 「心の臓の病・・・?」
 神田は、彼の前で深くこうべを垂れた中臈を見遣って、そのやつれ果てた姿に眉根を寄せた。
 「大奥づとめは、ままならないか」
 「はい・・・・・・」
 答えた声も、今にも消え入りそうなほどに儚い。
 「・・・・・・いいだろう。
 上様にはそのように申し上げておく」
 言うや、神田は隙のない仕草ですらりと立ち上がった。
 「あ・・・どちらへ・・・」
 不安げな視線を向けるミランダに、神田は素っ気なく答える。
 「御台所の国元から、珍しいことに、藩主自身が挨拶に来てやがる。
 まだ寝床で甘ったれてる奴を、叩き起こして連れてくんだよ」
 憮然と言い放つと、神田は彼に続いて立ち上がりかけたミランダを、目で制した。
 「必要ない。
 そんな、今にも倒れそうなツラしてちゃ、表にも出せねぇ」
 冷たく言って、神田は再び座り込んだミランダの傍らに立ち止まる。
 こうべを垂れたミランダを見下ろすと、その薄い肩が、かすかに震えていた。
 「お前は、色々と役に立ってくれたんだがな。
 ・・・・・・残念だ」
 「・・・・・・っ神田様!」
 思わぬ言葉に、ミランダが顔を上げた時には、もう神田の姿はない。
 「お許しください・・・・・・」
 ミランダは振り絞るような声を上げた。
 神田は、確かに容赦のない人間ではあったが、大奥で生き抜けるほど強くなかったミランダを、彼なりに庇護してくれていたのだ。
 「お許しを・・・・・・」
 溢れる涙を拭いもせずに、ミランダは、何度も彼の影に向かって詫びた。


 滅多に江戸には寄り付こうとしない、南国の大大名がやってくると言うことで、城内は緊迫したざわめきに満ちていた。
 大奥でも、病床のアレンの周りを、女中達が慌しく行きかう。
 彼らは病中だろうとお構い無しに、アレンを抱え起こし、身支度をさせようと取り囲んだ。
 「ア・・・アレン様!もう大丈夫なんさ?」
 いかにも乱暴な手つきで身支度をさせる女中達から、ラビはアレンを引き取ると、不満げな顔の彼らを全員下がらせる。
 無理矢理起こされたアレンは、荒く息をつきながら、それでも気丈に顔を上げた。
 「・・・いいもなにも・・・国元の殿が来るんでしょ?
 あの幕府嫌いがわざわざ足を運んだって言うのに、僕がいないなんてことになったら・・・今度こそ殺されます!」
 そもそも、アレンに用があるからこそ、わざわざ来たのだろう。
 「うぅ・・・遭いたくないよぉぅ・・・・・・!」
 「おいおい、なんか、熊にでも遭遇しそうな言い方さ」
 「熊の方が、まだマシですよ!!
 あぁぁぁ・・・!!
 今日はまた、どんな嫌がらせをしに来たんだろう・・・!
 幕府が嫌いなら、自分の城でのうのうとしてればいいのに!」
 顔を覆って泣き出したアレンに、ラビは不思議そうに首を傾げた。
 「仮にも親父なんさ?なんでそんなに・・・」
 「違いますよ!本当の父はとっくに亡くなりました!」
 「はぁ??
 じゃあ、今日来る大名はなんなんさ?」
 当然の問いに、アレンは涙に濡れた顔を上げる。
 「実は僕・・・父が亡くなった後、下働きとして国元のお城に奉公に上がりまして・・・。
 あまりのわがままぶりに、誰もが持て余した殿の身の回りのお世話をしていました・・・・・・」
 「・・・それがなんで、御台所に・・・・・・」
 「あのバカ殿・・・!
 自分の借金をチャラにするために、僕を売りやがったんですぅぅぅぅ〜〜〜〜っ!!」
 親族に、手ごろな年齢の少年がいなかったため、アレンを『実子』と偽って大奥に送りこんだのだ。
 「あっちゃあ・・・・・・」
 道理で、大奥に入るのを嫌がったわけだと、ラビはようやく納得する。
 「うぅ・・・っ!
 あのバカ殿、もう白書院の間に来ちゃったんでしょうか・・・!
 助けて、浅野内匠頭(あさのたくみのかみ)っ!!」
 白書院の間とは、将軍が大名に謁見する間であり、そこに至る松の廊下は、赤穂藩藩主・浅野内匠頭による刃傷(にんじょう)事件があった場所でもある。
 「おーぃ・・・!
 いくら、松の廊下っつったって、浅野内匠頭はとっくに死んでるさー・・・」
 「幽霊くらいいないんですか?!
 ・・・もっとも、あのバカ殿は殺しても死なないでしょうけど・・・!」
 「ホラホラ、いい加減泣くのやめるさ!」
 泣き崩れようとするアレンを支えてしっかり立たせると、ラビはその肩に打掛を着せ掛けた。
 「大丈夫さ。白書院の間には、上様がいるんだし。
 いくら田舎のバカ殿・・・あ、いや、外様の大名っつったって、上様の前で妙なことはしねーさ!」
 「・・・・・・うちのバカ殿をなめちゃいけませんよ、ラビ・・・!
 あの人のバカさ加減は、常軌を逸してるんですから!」
 「えー・・・」
 そこまで言われる藩主に興味がわいたラビは、叱責覚悟で、アレンを迎えに来た神田に提案する。
 「あのー・・・神田様。
 アレン様・・・じゃない、御台様のお身体は、まだ本調子じゃないさ。
 俺、ついてっていいっすか?」
 「なに?」
 鋭い視線が周囲を薙(な)いで、女中らは一様に首を竦ませたが、真っ直ぐにその目を向けられたラビは、飄として受け流した。
 「神田様は、ご使者のお相手で忙しいだろうから、御台様の事は俺に任せて欲しいさ!」
 自分の視線に竦みあがりもせず、どころか、にこりと笑みを返してきたラビに、神田はわずかに目を細める。
 「・・・勝手にしろ」
 珍しくも、あっさりと譲歩した神田の覇気のなさに、彼のことを知る女中たちが、そっといぶかしげな視線を交し合った。
 が、いつもならば、そんなわずかな素振りですら見逃さない神田が、他の何かに気を取られているかのように、無言で踵を返す。
 「お早く参られい。クロス殿は既にお見えだ」
 「ひ・・・っ」
 恐怖に息を呑んだアレンをも顧みず、神田は先に立って歩き出した。
 一人で勝手に歩いていく彼に、竦んでいたアレンさえも、一時恐怖を忘れて、凍りついた秀麗な横顔を見送る。
 「ど・・・どうしちゃったんですか、あの人・・・・・・」
 「さぁ・・・。
 でも、許可はもらえたさ!」
 そう言ってラビは、陽気な笑みを浮かべてアレンの背中を押した。
 「さ!行くぜ、御台様!」
 「う・・・うん・・・・・・」
 ラビとは逆に、刑場に引きずり出される死刑囚のような顔をして、アレンはとぼとぼと歩き出した。


 ―――― どこの御三家ぇぇぇぇぇっ?!
 アレンと共に白書院の間に入ったラビは、心中に絶叫した。
 それも無理はない。
 大大名とはいえ、江戸からはるか遠い、南国の外様大名であるはずのクロスが、臣下では幕府の最高位であるはずの大老を凌ぐ上座に座っていたのだ。
 将軍を輩出する御三家と同じ扱いに、しかし、目を剥いたのはラビだけで、神田は黙って下座に控える。
 「あ・・・あり得なくね?!」
 小声でアレンに囁けば、彼は、必死に藩主から顔を背けながら、かすかに首を振った。
 「・・・あの人なら、たとえ殺されたって、上座に居座りますよ。
 上様が男性だったら、間違いなく引きずりおろされてましたね・・・」
 「ど・・・どんな外様さ・・・・・・」
 ラビの常識が・・・いや、世間の常識が全く通じない遠国の藩主は、しかし、そんな奇妙な座に、平然と座っている。
 ―――― 常軌を逸してる、ってのは、ホントだったんさ・・・。
 先ほどは、アレンの話を割り引いて聞いていたラビだが、この位置だけで、常軌を逸していることは十分理解できた。
 ―――― じゃあ、バカ殿ってのも・・・。
 本当のことか、と、アレンをリナリーの側に座らせたラビは、そそくさと下座に下りて、全体の様子を伺う。
 と、リナリーには特に、何の変化も見られなかったが、あからさまに忌々しげな表情のコムイと、どこか上の空の神田が印象的だ。
 そのただ中に、
 「リナリー、アレンは気に入ったか?」
 どこか嘲弄を含んだような、皮肉げな声が上がり、ラビはまたもや目を剥いた。
 これは、この国の最高権力者に対する、外様大名の口の利き方では、絶対にない。
 だが、忌々しげな顔を歪めたコムイに反し、リナリーはにっこりと笑って頷いた。
 「えぇ、仲良くやっているわ」
 「フン・・・。
 アレン、お前、俺が大奥に入れと言った時には、そりゃあ抵抗したもんだが・・・すっかり骨抜きにされたようだな―――― このマセガキが」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・おかげさまで。
 良い縁を結んでいただきまして・・・・・・・・・・・・」
 ものすごい長い間の後に上がった、振り絞るような声は、紛れもない怨嗟を含んでいる。
 が、アレンはクロスの顔を見ないようにするためか、深々とこうべを垂れていて、その表情はラビからはうかがい知れなかった。
 ―――― ・・・言いたいこと言ったらとっとと帰ってよ、この鬼畜藩主が・・・!!
 一心不乱に畳の目を数えながら、アレンは天敵の気配を探るウサギのように、目に頼らずクロスの気配を探る。
 「それで?
 幕府嫌いのアナタが、ワザワザ江戸まで、一体なんの用があってワザワザいらしてくださったんですかねぇ?!
 ワザワザワザワザ、嫌味でも言いに来ましたか、ワザワザ!!」
 アレン以上の怨嗟をこめて、『わざわざ』を連発するコムイを、クロスは鼻で笑った。
 「俺はそんなに暇じゃない」
 途端に殺気立ったコムイとアレン、困惑げに小首を傾げるリナリーと、珍しくも上の空な神田・・・。
 滅多に見られない場景を、ラビは興味津々と目を輝かせて見つめた。
 その視線の先で、この場の誰よりも偉そうな藩主は、のんびりとタバコに火をつける。
 ―――― こ・・・このヒト、ホントに何様さ・・・?!
 目を皿のようにして、ラビがクロスの一挙手一投足を見つめていると、彼は、紫煙と共にとんでもないことを言い出した。
 「リナリー、お前、英国から御台をもらうつもりはねぇか?」
 「は・・・・・・?」
 「はぁぁぁぁぁぁ?!」
 大きな目を見開いて、唖然とするリナリーの周りで、絶叫が沸く。
 「み・・・御台はもう、アンタが押し付けたでしょ!!
 この上、なんで上様が夷狄(いてき)なんかの御台を迎えなきゃなんないの!!」
 コムイが悲鳴じみた声を上げ、
 「そうですよ!!
 大体、僕を大奥に入れたのは殿でしょ?!」
 アレンが重ねて絶叫する。
 が、クロスは紫煙をくゆらせたまま、二人の怒声をどこ吹く風と受け流した。
 どころか、
 「神田・・・このガキ、お前の気に障って、とっくに殺されてると思ってたんだがな?」
 「・・・・・・・・・」
 すい、と、視線を上げて、神田はクロスを見たが、特に言葉はない。
 代わりに、怒声を上げたのはアレンだった。
 「殿!
 あんた、命の危険を知っていながら、僕を大奥に売りましたね?!」
 「ちっ・・・。
 お前さえ死んでいれば、新しい御台を押し付けられたのにな」
 「そう言うモンダイじゃないよっ!!
 なんで英国なの!!なんで夷狄なの!!」
 「夷狄、夷狄って、その夷狄に大砲向けられて、不平等な条約を結んだのはどこのどいつだ?」
 「ウルッサイよ、この破廉恥藩主ガ!!
 誰に言われても、アンタに批判されたくないねっ!!」
 「に・・・兄さん、落ち着いて!」
 ようやく自失から立ち直ったリナリーが、コムイを制してクロスを見据える。
 「クロス殿、改めて聞くわ。英国から御台を迎えろって、どういうこと?」
 リナリーの問いにクロスは、紫煙を吐きながら、面倒そうに言った。
 「・・・去年、ウチの藩士が英国人を殺したろ。
 その報復に、奴ら、軍艦で攻めてきやがってな」
 「えぇ?!
 戦争してさんさ?!いつの間に?!」
 突然、口を挟んできたラビに、クロスは訝しげな顔で振り向く。
 「ついこないだだ。
 俺が国元を出る前日まで、ドンパチやってたぜ」
 「くっそ・・・!絶対、ジジィ行ってるさ!!
 俺も行きたかった・・・・・・!」
 きつく握った拳を畳に押し付けて悔しがるラビを、その場にいた全員が、一時動きを止めて見つめた。
 「・・・っそんなことより!
 もしかして、武力制圧されちゃったの?!
 それで、あちらは御台を押し付けようとしているの?!
 最も早く理性を取り戻したリナリーの問いに、クロスは、『いや』と、首を振る。
 「あちらとは痛み分けって奴でな。
 互いに相当の被害をこうむったんで、今、講和を結んでいるところだ」
 「・・・それで?!
 それが本当なら、一番講和の席にいなきゃいけないアンタが、なんでこんなとこにいるの?!」
 今にも飛び掛らんばかりに、片膝を立てたコムイの指弾に、クロスはにやりと笑った。
 「講和条件の一つに、日本国王との縁組、って項目を付け加えるのはどうかと思ってな。
 その相談だ」
 「相談している態度かい、それがっ!!」
 「僕はどうなるんですか、僕はァァァァ!!!!」
 コムイの怒声に、アレンの絶叫が重なる。
 「だぁら。
 アレン、お前、大奥に入ることをあれだけ嫌がってたんだ。
 許してやるから、国に帰って来い」
 「なっ・・・!」
 あまりに勝手な言い様に、アレンが絶句した。
 そんな彼を無視して、クロスは皮肉げな笑みを浮かべ、リナリーとコムイを見比べる。
 「お前たちも、別に世継ぎさえ確保できれば、御台なんざ誰でもいいんだろうよ。
 気に入らないなら・・・今まで通り、始末すりゃいいじゃねぇか。なぁ、神田?」
 その時、ずっと黙り込んでいた神田がすらりと立ち上がり、クロスの背後に立った。
 「どうぞご退出を、藩主殿。
 上様はもう、あなたにお話しする事はないようだ」
 「そうか?ナシはまだ終わっちゃいないがな」
 「いいえ、終わりです」
 きっぱりとした声が、凛と響く。
 見れば、アレンが立ち上がり、真っ直ぐにクロスを見据えていた。
 「国元の意向がどうあれ、僕はもう、御台所です!
 上様のお側から離れるつもりはありません!」
 「アレン様・・・」
 あんなに怯え、震えていたアレンの、毅然とした姿を、ラビは感嘆の目で見つめる。
 が、
 「本当にそれでいいのか・・・アレン?」
 冷酷な目で真っ直ぐに見返されて、アレンは明らかに怯んだ。
 「いいんだな?」
 再度の問いに、アレンは中々出て来ない声を飲み込み、決然と頷く。
 それを合図としたかのように、再度、神田が促した。
 「どうぞ、クロス殿」
 「ふん」
 クロスは鼻を鳴らすと、すらりと立ち上がる。
 「後悔しなきゃいいがな」
 とんでもない捨て台詞を吐いて、白書院の間を出て行ったクロスに、コムイが激しい罵声を浴びせた。
 「なんなのさ、あのバカ殿!!
 上様を愚弄するにも程があるよ!!
 もう来るな!二度と来るな――――!!!!」
 「に・・・兄さん!落ち着いてってば!!」
 罵声と共に、激しく畳を叩きつけるコムイを、リナリーがなだめる。
 「アレン君も・・・大丈夫?」
 立ち上がったまま硬直しているアレンにも声を掛けると、彼は、気が抜けたようにへたり込んだ。
 「アレン様!」
 慌てて駆け寄ろうとしたラビを制して、神田が進み出る。
 「用はもう済んだでしょう。戻ります」
 へたり込んだままのアレンの腕を、やや乱暴に掴み、上座から引きずりおろした。
 「あ・・・アレン君!また後でね!」
 「は・・・はい・・・・・・」
 まだ呆然としたまま、かすれた声を上げるアレンに、リナリーはにこりと微笑んで手を振る。
 「お早く」
 憮然とした口調の神田に促され、ラビを従えて、アレンはヨロヨロと大奥へ続く回廊を渡った。
 その途中、
 「逃げると思っていた」
 人目のなくなった場所で、神田がポツリと呟いた言葉に、アレンは俯けていた目を上げる。
 「あのような目に遭ったのだ、きっと・・・」
 「逃げません!」
 きっぱりと発せられた言葉に、神田は歩みを止めて振り返った。
 「僕は、御台所です!
 絶対に・・・逃げませんよ!」
 気丈なまなざしに、ふと、神田が笑みを零す。
 「え・・・・・・」
 いつもの冷たい笑みではない、どこか、楽しげなそれに、アレンだけでなく、ラビも気を殺がれて呆気にとられた。
 「それでこそ・・・イジメ甲斐があるというものだ」
 冗談めかした声音に、アレンも思わず、笑みを浮かべる。
 「負けませんよ。あなたにも・・・バカ殿にも」
 「・・・・・・期待している」
 そう言うと、神田は拭うように笑みを消し、いつもの頑なな表情で再び歩を進めた。
 その背後で、ひっそりと、アレンはラビと、笑みを交わした。


 クロスが江戸城に乗り込んできた日以降、リナリーはまるで、御台所との仲睦まじさを内外に知らしめるように、大奥に通っていた。
 その日も、大奥のアレンのもとに渡った彼女は、しかし、決して晴れやかな顔をしてはいなかった。
 「また・・・攘夷派だか不逞浪士だかが、江戸や京都で暴れてるらしいの・・・・・・」
 疲れ果てた顔に、深刻な表情を刻むリナリーを、アレンとラビが気遣わしげに見つめる。
 「それで、兄さ・・・大老が、そういう人たちを厳しく罰する法を定めて・・・毎日のように、たくさんの人が捕縛されてるわ」
 「捕縛って・・・まさか、処刑されてんさ?!」
 ラビの問いに、リナリーは唇を噛んで俯いた―――― それが、答えだ。
 「そりゃまた・・・大老もえらくキレてっさ・・・。
 なんか、らしくねーっていうか」
 「らしくない?」
 アレンの問いを受けて、ラビは遠慮もせずに、得々と話し出した。
 「大老って、御三家の一つ、紀州藩の藩主で、名君って評判だったんさ」
 「・・・将軍職も、ホントは兄さんが継ぐはずだったんだけど、藩政の方に力を入れたいからって、私が継いだんだ」
 リナリーに口を挟まれ、一瞬、気まずげな表情になったが、ラビはそのまま続ける。
 「外国と交渉して、開国したのも・・・別に、大砲突きつけられてやけっぱちになったってわけじゃな・・・」
 「リナリー!!」
 ラビの言葉を阻むように、突然、高い音を上げて障子が開き、神田が足音も荒く上座に向かった。
 「すぐ本丸に行け!コムイが・・・」
 「兄さん?!
 神田、兄さんがどうしたの?!」
 腰を浮かせたリナリーを、神田は強張った顔で見つめる。
 「・・・城外で襲われた。
 今、ご典医が診ているが・・・重態だそうだ」
 「・・・っ!!」
 すぐさま駆け去ったリナリーに続いて、アレンも立ち上がったが、その前に神田が立ち塞がる。
 「どちらへ?」
 「神田殿・・・っ!僕も・・・」
 「行って、どうするのです?何かの役に立つとでも?」
 「それは・・・・・・」
 「御台所は、大奥を動かぬもの。
 ここでじっとしていらっしゃいませ」
 言うや、神田は素早く踵を返して、リナリーの後に続いた。
 「ラビ・・・!」
 「了解!
 情報仕入れてくるさ」
 ラビもまた出て行き、一人、広い部屋に残されたアレンは、夕闇の迫る庭を眺めたまま、身じろぎもしない。
 部屋に灯火が灯され、食膳を運ばれても、アレンは彫像のように動かず、膳が手をつけられぬまま下げられた後も、そのままでいた。
 どれほどそうしていたのか、花の香を含んだ夜風が灯火を揺らしたかと思うと、ラビが慌しく入ってくる。
 「アレン様!
 大老、かなりヤバイみたいさ!」
 障子を閉めるや、ラビは声を潜めて囁いた。
 「ちょうど、出入りの呉服商が現場見てたってんで、聞いてきたんさ!
 大老を襲ったのは、大老の施策に反発した浪士ってことになってるけど、どうも・・・・・・」
 更に声を潜め、ラビは、アレンの耳元に口を寄せる。
 彼のもたらした情報に、アレンは目を見開いた。
 「殿が・・・・・・?」
 「あの呉服商、大奥だけじゃなくて、あの人の江戸藩邸にも出入りしてるんさ・・・そこで、見た顔だったって・・・・・・」
 「そんな!
 まさか、それって・・・・・・!」
 真っ青になって震えるアレンの傍らで、ラビは気遣わしげに眉を寄せる。
 と、ラビが、視線を外に向けた。
 大勢の衣擦れの音が、足早に近づいてくる。
 息を詰め、アレンを庇うようにラビが立ち上がるのと同時に、女中達が慌しく室内になだれ込んで来た。
 「御台様、お召し替えを」
 「本丸においで下さい」
 「上様のお召しでございます」
 口々に言い立てて、彼らはラビを押しのけ、アレンを囲む。
 「ちょ・・待つさ!なんで上様が!」
 「存じません」
 「急ぎのお召しとしか」
 「お早く」
 無表情な女中たちは、無感情な声音で言い立て、手早くアレンを着替えさせると、本丸へと導いた。
 「ア・・・レン様っ!!」
 ラビは意地で女中らの間に割り込み、アレンを押し出した途端に閉まろうとする本丸への扉を無理矢理抜ける。
 「も・・・何さ!!
 俺、門に挟まれそうになったり、扉に挟まれそうになったり・・・!!
 戸難か?!戸難なんさ?!」
 「・・・なにそれ」
 聞いたこともない災厄を口にするラビに呆れつつも、アレンは本丸の茶坊主たちに囲まれて、リナリーが待つ間へと通された。
 「上様・・・・・・」
 呼びかけたが、アレンは次に続く言葉を探せない。
 部屋の真ん中に延べられた床の上に、傷だらけのコムイが横たわっていた。
 リナリーはすでに生気を失った彼の手を握りしめ、肩を震わせて泣いている。
 と、
 「御台様、どうぞお座り下さい―――― お前たちは下がれ」
 部屋の薄闇の中に、ひっそりと座っていた神田が声を掛け、茶坊主や小姓達が一斉に去っていった。
 途端、
 「リナリー。そのままでいいから、聞け」
 がらりと口調を変えた神田に、アレンもラビも、瞠目した。
 が、そんな彼らを無視して、神田は続ける。
 「幸い、不逞浪士どもは全員捕らえた。
 表向きは、コムイは急に病を発したため、江戸城で療養しているということにするぞ」
 「え?!か・・・神田殿、なぜ?!」
 驚声に、しかし、神田はアレンの方も見ずに淡々と言う。
 「攘夷派だか倒幕だかしらねぇが、そんな奴らに大老が殺された。しかも、将軍の御座所たる江戸城の門外で。
 ・・・・・・そんな事が知れたら、さぞかし不逞浪士どもは勢いづくだろうよ」
 「だ・・・だけど、それじゃあ上様が・・・!」
 気遣わしげにリナリーを見つめるアレンを一顧だにせず、神田は厳しい口調で言い募った。
 「リナリー、俺は、次期将軍職を狙う奴らからお前を守るよう、コムイに頼まれてここにいる」
 その言葉に、リナリーは涙目を上げ、アレンとラビは驚いた顔を見合わせる。
 「俺は、コムイがこうなちまった今も、奴の依頼を無効にするつもりはねぇよ。
 だが、お前はどうなんだ?」
 「私・・・・・・?」
 涙で酷くかすれた声に、神田は深く頷いた。
 「お前が、将軍職なんて欲しい奴にくれてやる。安全な場所で、穏やかに暮らしたいってぇんなら、協力してやってもいいぜ」
 それは、大切な家族を亡くしてしまった少女には、とても魅力的な言葉だったろう。
 しかし、リナリーは涙を振り払うように、首を振った。
 「ヤダ・・・!」
 「それは、権力に固執するって事か?」
 意地の悪い問いに、リナリーは再び首を振る。
 「私は・・・他人に責任を押し付けて、安穏に生きるなんてできないよ・・・」
 硬くまぶたの落ちた、兄の顔を見つめるリナリーに、神田は頷いた。
 「わかった。
 なら俺は、今まで通り、お前を守る」
 そして、と、神田はようやく、その目をアレンに向ける。
 「さて、御台所。
 なにか言うことは?」
 ラビが仕入れた情報は、既に、神田も知っていることなのだろう。
 殊更感情の消えた声を受けたアレンは、リナリーに対し、深くこうべを垂れた。
 「アレン君・・・?」
 訝しげに眉を寄せるリナリーに、アレンは、低く呟く。
 「不逞浪士を装って、国元の藩士が紛れていた可能性があります」
 「え・・・?!」
 リナリーの驚声に反し、案の定、神田は沈黙を守っている。
 「どうぞ、ご処罰を」
 そう言った声は、アレン自身も驚くほど冷静だった。
 いくら、アレンが関与していないことだとわかっていても、身内を亡くした悲しみは、理性的な判断を阻むことだろう。
 アレンはよくて廃位、悪ければ処刑か・・・。
 結果、クロスの思惑通り、御台所の座が空く事になる。
 ―――― バカ殿の思惑通りってのは悔しいけど・・・仕方ないな。
 これ以上、リナリーを苦しめることは、アレンの本意ではない。
 誰もが声を上げないまま、粛としてこうべを垂れるアレンを見つめている。
 かなりの間を置いて、神田の視線が、リナリーへと移った。
 すると、まるでそれが合図であったかのように、リナリーが首を振る。
 「アレン君は・・・何も知らなかったんでしょ・・・?」
 かすれた声が、今にも消え入りそうな声音で呟く。
 「それに・・・」
 ちらりと、リナリーは端然と座す神田を見遣る。
 「アレン君を処罰する・・・理由は何?」
 「え?」
 驚いて顔を上げたアレンを真っ直ぐに見つめ、リナリーは頷いた。
 「コムイ兄さんは、急な病で床に就いているだけ・・・・・・」
 震える声が、薄暗い部屋に沁みる。
 「しばらく・・・城内で療養したけど・・・そのまま身まかった・・・・・・。
 ・・・・・・そうよね、神田・・・・・・?」
 涙声の問いに、神田は表情を消したまま、深く頷いた。
 「上様の、御意のままに」
 深く沈んだ声で応えると、彼は、すらりと立ち上がって、悲しみに満ちた部屋を静かに去った。


 「・・・っ神田様!」
 背後から呼びかけられて、神田は足を止めた。
 「なんだ?」
 振り返れば、御台所の部屋付小姓が、足早に彼を追って来る。
 「御台所についてなくていいのか?」
 「御台様は、上様とこに残してきたさ!」
 「ふん・・・。
 それで、俺になんの用だ?」
 「・・・あの藩主、危険さ・・・!」
 コムイの暗殺が、本当に御台所の座を空位にするためだけに行われたのであれば・・・とんでもないことには違いはないが、イカれたバカ殿以外の何者でもない。
 だが、
 「大老ってさ、あのバカ殿と対立してたんじゃね?例えば、尊王・・・」
 「黙れ」
 冷厳に言って、神田は再び歩を進めた。
 大奥に続く回廊ではなく、人気のない場所へと歩いていく彼に、ラビは勇んで付いて行く。
 「・・・それで?
 てめぇはどこまで知ってやがんだ?」
 刃のような眼光で睨まれて、ラビは思わず竦みあがったが、勇気を奮い立たせて神田と対峙した。
 「・・・知ってるわけじゃないさ。
 ただ、俺は推理してるだけ」
 「は!当て推量かよ」
 「言っとくけど!俺の勘は当たるんさ!」
 反駁して、ラビは言い募る。
 「神田様・・・俺、ついこないだまで町中にいたから、わかるんさ。
 討幕派には、後先考えねぇで、将軍や幕臣をぶっ殺しちまえって、単純な奴らも多いさ。
 あのバカ殿が、そんな連中を利用してんだとしたら、ここ、ヤバくね?」
 「利用?何のために」
 眉根を寄せ、試すように問う神田に、ラビは顎に手を当て、思案しながら答えた。
 「強欲な藩主の中には、尊王攘夷なんてわめきながら、マジで将軍の座を狙ってる奴もいるって話さ。
 あのバカ殿、もしかしたら・・・」
 「リナリーに譲位させるために、戦でも仕掛けてくるってか?」
 「そうさなぁ・・・。
 さすがに、そこまで思い切ったことはねぇかもしんねぇけど・・・」
 言いさしたラビの頬が、思わぬ明かりに照り映える。
 「なにさ?!」
 驚いて見遣ると、黒い樹影の向こうに、高々と炎が上がっていた。
 「あの方向は・・・大奥?!」
 神田は声を上げるや、身を翻して駆け出している。
 だが、彼の向かう方向は大奥ではなかった。
 「どこに・・・?!」
 一瞬、大奥に向かうか神田に従うか、迷ったラビは、結果、神田を追った。


 「リナリー!!」
 神田が、リナリーとアレンの元に駆けつけた時、そこは彼と同じく、駆けつけた小姓達によって守られていた。
 「神田・・・!」
 ほっと、頬を緩めたリナリーは、しかし、すぐに表情を改めて命じる。
 「大奥総取締、神田!
 大奥の消火と、女中らの救助の指揮を命じます!
 非常時ゆえ、彼らが大奥に入ることを許可しなさい!」
 「了承した」
 短く答えると、神田は追いついてきたラビに命じた。
 「お前は上様と御台様をお守り申せ」
 「わ・・・わかったさっ!」
 ラビが頷くと、神田は豪華な打掛をその場に脱ぎ捨てる。
 「行くぞ。続け」
 「はっ!」
 得物を手にするや、小姓らに短く命じ、共に駆け去った。
 「だ・・・大丈夫でしょうか・・・!」
 「神田が行ったんだもの。大丈夫よ」
 深い信頼が垣間見える言葉に、一瞬、アレンが哀しそうな顔をする。
 「でも・・・もしかしたら、この火事も・・・・・・」
 「考えすぎよ!」
 アレンの言葉を、リナリーはきつい口調ですぐさま否定した。
 『この火事も、クロスの仕業ではないか』―――― その考えは、リナリーにもよぎっていたのだ。
 「大丈夫!アレン君は、守って見せるからね!」
 疑惑を振り切るように言ってのけたリナリーに、しかし、アレンは更に哀しげな顔になった・・・。
 一方、炎上する大奥に向かった神田は、消火と救助の指揮を取っていた。
 知悉(ちしつ)する大奥内を駆け巡るうち、炎の中に、怪しげな動きをする人間を見つけた。
 武士の姿をしているが、神田が伴った者達の中にはなかった顔だ。
 「待て」
 呼ばうと、明らかに怯んだ顔をする。
 「・・・お前達が火を放ったのか」
 鋭い声に、神田の周りにいた者達も、殺気立った目を彼らに向けた。
 「追え!」
 踵を返した者達を鋭く示し、周りの者に命じる。
 「決して本丸には上がらせるな!!」
 神田の声に、重なるように悲鳴が上がった。
 「!」
 その声に、神田の表情が厳しさを増す。
 「てめぇら、気をつけろ!!」
 得物をかざし、飛びすさった神田が一瞬前までいた場所に、高らかに矢が刺さった。
 「ちっ・・・!何人いやがる!」
 逃げ惑う者達の悲鳴や、燃え盛る炎の音に阻まれて、敵の気配が探れない。
 「誰か!本丸に報告を!!」
 その声に応じて駆け出した小姓の一人が、背に矢を受けて倒れた。
 「くそっ・・・!」
 夜闇に隠れている者達にとって、炎に照らし出されている神田達は、格好の的だ。
 「援護する!なんとしても報せろ!!」
 神田の命に、逃げ惑っていた女中たちも、武芸の心得のある者達が得物を持って駆けつける。
 彼らの援護によって、女中らが何人か、本丸へ逃げ出した。
 「お前ら・・・持ちこたえろよ!!」
 先陣を切って攻め入った神田に、多くの者が続いた。


 「・・・なんか変さ」
 遠くに聞いていた悲鳴が、段々近づいてくる様に、ラビは立ち上がった。
 様子を伺おうと、障子を開けた瞬間、飛び込んできた女中らに押し倒されて、無残に潰される。
 「ど・・・どうしたの、あなたたち・・・」
 火に追われただけにしては様子が変だと、問うたリナリーに、彼らは口々に大奥が襲撃されていることを報せた。
 「なんですって・・・!」
 立ち上がったリナリーを、周りの小姓達が慌てて制する。
 「じゃあ、あなたたちは早く、神田達の救援に行って!」
 苛立たしげなリナリーの命を受け、立ち上がった小姓達と共に、アレンも腰を上げた。
 「アレン君?!」
 「上様・・・実は僕、守られるより、守るほうが好きなんです」
 肩から打掛を滑らせると、アレンは女中達の下に埋もれているラビを救い出す。
 「行きますよ、ラビ。
 たまにはいいとこ見せないと!」
 「アレン君!!」
 腰を浮かせたリナリーを笑みで制して、アレンは踵を返した。
 「上様は、僕が守りますからね」
 にこりと笑うと、アレンはラビと共に、大奥へと向かった。


 「マジで戦を仕掛けてやがんのか・・・?」 
 闇に隠れていた敵兵のほとんどを、一刀の元に切伏せた神田は、残敵の姿を求めて、闇を透かし見た。
 混乱に乗じた時ならともかく、たとえ闇の中に隠れていようと・・・いや、闇に覆われているからこそ、大奥の内部を知悉している者の方が有利だ。
 敵はじりじりと追い詰められ、ひときわ炎の激しい場所へと追い込まれつつある。
 「最初の攻撃で、全員を倒せなかった・・・なのに、引き際を誤った、お前たちの負けだ」
 神田の傍らで、弓を引く音が沸いた。
 自ら放った炎に照らされ、逃げ場さえも失い、最早、敵の方が格好の的だ。
 「撃て」
 短い命令に、弓弦の音と悲鳴が重なる。
 一瞬にして、半分以上の仲間を失った敵が怯む間もなく、新たな弓弦の響きと悲鳴が上がった。
 「生き残った者は捕らえろ!
 お前たちは、他に逃げた者がいないか探し出せ!」
 次々と命令を出して、急速に場を収めると、神田は既に縄をかけられた敵兵に歩み寄る。
 「さて、大奥に火を放った理由とやらを、話してもらおうか」
 冷徹な目で見下ろしてくる大奥総取締に、しかし、囚われた者達は反抗的だった。
 「そうか、話したくないか・・・・・・」
 冷え冷えとした声に、ふと顔を上げた者達は、炎に照らし出され、夜叉のような笑みを浮かべた神田の姿に総毛立つ。
 「では、お前達がどれほどの忠誠心を持っているものか、試してやろう。
 ・・・・・・簡単に話すなよ?
 俺も、長く楽しみたいんでな」
 長刀を掌中に滑らせると、神田は邪悪な目を、囚われた者達に巡らせた。
 「お前、口が堅そうだな」
 真っ直ぐに刀を突きつけられた男を、神田の周りにいた者達が囲み、彼の前に引き出す。
 不自由ながら、身をよじって抵抗する彼を冷笑と共に見下ろし、囚われた者達に問いかけた。
 「さぁ、賭けでもするか?
 コイツが、どこまで黙っていられるか・・・」
 固唾を呑んで見守る者達へ、神田は愉快げに笑いかける。
 「口を利くのに、目や鼻はいらねぇよなぁ?」
 まさに、眼前に突きつけられた刃に、引き出された者の喉が鳴った。
 「お前が話さなきゃ、別の奴の目をえぐるぜ?
 ・・・6人もいるんだ、そのうち誰かの口が、軽くなるだろうよ」
 神田の笑みが深まり、硬く閉じられたまぶたに、鋭い刃先があたる。
 「ひっ・・・!」
 引きつった悲鳴が、脂汗の滴る喉を引きつらせた時、
 「ちょっと待ったぁぁぁっ!!」
 アレンが駆けつけ、長刀を持つ神田の腕に縋った。
 「ままままま待って下さい、神田殿!!この人達は、あのバカ殿に命令されて仕方なくやったんです!!
 そ・・・そうでしょう?!そうですよね?!」
 「ア・・・アレン様・・・」
 「姫様・・・・・・」
 必死に神田に取り縋り、弁明するアレンに、囚われた者達の視線が集う。
 「放せ!
 城内に火を放ち、なおかつ我らに弓引いた者達だ!
 仕方ないで済むか!!」
 「で・・・でも!!拷問なんていけません!!」
 言い募り、アレンは必死な目を囚われた者達に向けた。
 「お願い、知ってることを話してください!
 この人に話せないなら、僕が話を聞きます!
 だから・・・・・・!!」
 「放せ!!」
 「ヤダー!!!!」
 「はいはい、ちょっと落ち着くさ、二人とも!!」
 激しくもみ合う二人の間に入って、ラビが彼らを引き離す。
 「なぁ、あんたら。
 この姫さんに、なんか恨みでもあるんさ?」
 もがくアレンを羽交い絞めにしたまま、問うたラビに、囚われた者達は心外そうな顔をした。
 「だって、そうだろ?
 あのバカ殿の命令で、ここに火を放って、幕府に弓引いたって事は、あのバカ殿の実子ってことになってる、この姫さんを処刑させるってことだぜ?」
 はっと、表情を強張らせる彼らに、ラビは珍しく、真面目な顔で言い募る。
 「幕府に姫さんを殺されたってんで、なんもしらねぇ国元の怒りをあおって、一致団結、倒幕に邁進するってか?
 それ、犠牲にされた方は、たまんねぇんじゃね?」
 ラビの指摘に、彼らは一様にこうべを垂れた。
 「あんたら、あのバカ殿に利用されてるだけさ。
 あの人・・・なんでこんなことやってんのか、教えてくんねーさ?」
 ラビの説得に、彼らは互いの様子を探るように顔を見合わせ・・・長い逡巡の後、とつとつと話し出す。
 彼らの話に拠ると、クロスは朝廷に対して働きかけ、倒幕の密勅を受けようとしているらしい―――― この騒ぎは、倒幕の意志が固いことを告げる、布石だった。
 「・・・っなんでこんなことばっかり熱心に・・・・・・!」
 仕事は全くしないくせに、と、重く肩を落とすアレンを支えて、ラビは神田を見遣る。
 「神田様、このことを・・・」
 「わかっている。
 この者達は牢にぶち込んでおけ!
 処罰は追って報せる!」
 言うや、彼は本丸へと踵を返した。
 「ぼ・・・僕もいきます!!」
 「俺も行くさ!」
 轟音と共に動き出した歴史の行く先を見届けるため、ラビは、アレンと共に神田の後を追った。


 アレン達が本丸に戻った時には、既に、召集を受けた幕臣達が、リナリーの元に集まっていた。
 「上様、ご報告がございます」
 煤に汚れた着物の肩に、脱ぎ捨た打掛を羽織っただけの姿で現れた大奥総取締と御台所、その小姓の姿に、幕臣達はただならぬ気配を感じ取り、ただ息を呑む。
 そしてその驚愕は、彼らのもたらした報告に、より大きくなった。
 「馬鹿な!
 朝廷が倒幕に手を貸すだと?!」
 「公家どもに何が出来る。
 たとえ大政を奪ったところで、政も知らぬやつらだ」
 「その人材を・・・各藩に募ってるってことでしょ?」
 幕臣たちの怒声に、冷静なリナリーの声が重なった。
 「確かに、今の朝廷には、倒幕するだけの力も、政権を維持するだけの人材もないわ。
 だけど、それを提供する者達がいるのよ」
 肘掛にもたれ、思案げに首を傾げて、リナリーは独白のように呟く。
 「幕藩体制に不満を持つ者、今のままでは権力に近づけない者、そんな者達が新たな旗印を掲げて、力を得ようとしている・・・・・・」
 ふと目を上げて、リナリーは幕臣達を見回した。
 「開国と不平等条約が、彼らに決断させたってことね」
 「なんと不埒な!」
 「このような時に、大老はどうされた?!」
 「言いたくはないが・・・あの方が幕府にまつろわぬ者達を弾圧したから、このようなことになったのではないか?」
 「大老は・・・・・・」
 無情な言葉に、リナリーは震える声を、懸命に抑える。
 「急な病で、臥しているわ。
 この議題は、ここにいるものたちだけで収めましょう」
 厳しい声音で反論を封じると、リナリーは再び、視線を巡らせた。
 「考えのあるものは発言を。
 身分は問わないわ―――― どう、ラビ?」
 突然水を向けられて、ラビが目を見開く。
 幕臣達も、リナリーが彼らではなく、大奥総取締や、御台所ですらなく、身分の低い女中などに意見を求めたことに、驚きを隠せない様子だ。
 だがリナリーは、幕臣達を軽んじたわけではない。
 最初に、この中では最も身分の低いラビが発言することで、他の者達の論議を活発にする目論見だった。
 が、この国を動かす者達の、厳しい視線を集める中で、ラビは、飄と微笑む。
 「じゃ、遠慮なく」
 わざとらしく咳払いをすると、怖いもの知らずの部屋小は、末席から良く通る声を発した。
 「現在、最も大きな戦力を持っているのは、もちろん幕府さ。
 だから討幕派は、朝廷をそそのかして倒幕の勅令を受け、この戦を正当なものにしようと画策してるんさ」
 そんなことはわかっている、と、忌々しげに吐き捨てる幕臣達に、にこりと笑いかけ、ラビは続ける。
 「討幕派には、今日みたいな無茶をやらかす強硬派も多いが、上様とナシつけて、穏便に譲位願おうって奴もいる。
 彼らとは、話し合う価値があんじゃねーさ?」
 「話だと?
 話し合って、どうする?」
 「上様に、将軍職を明け渡せと言っている奴らだぞ!」
 あからさまな嘲弄で応える幕臣達に、ラビは懐こい笑みを向けて、彼らの毒気を殺いだ。
 「思うんだけど・・・今の時点で、倒幕派は朝廷内の主導権を握ってんのかな?」
 「え・・・・・・」
 ラビの問いかけに、幕臣達は訝しげな顔を見合わせる。
 今日の襲撃を受けた直後にもたらされた、『倒幕の密勅』の報告に、いつしか彼らの間には、『討幕派が朝廷を牛耳っている』という先入観が生まれていたのだ。
 「200年もの間、幕府の庇護の下に生きてきた皇族や公家が、いくら権力が欲しい、開国が気に入らねぇからって、そう簡単に幕府討伐を許すと思うかい?」
 なにしろ、兵力という点では、将軍家を凌ぐ藩など存在しない。
 存在しないよう、200年もの間、念入りに諸侯の力を殺いできたのだ。
 「でも・・・・・・」
 ラビの意見に、口を挟んだのはアレンだった。
 「あのバカ殿・・・あ、いえ、藩主は侮れませんよ。
 あの人は・・・・・・」
 言いかけて、アレンは黙り込んだ。
 大奥に放たれた炎の中、国元の藩士達が語った話と、クロスの人となりを彼なりに吟味するうち、ある考えに至ったのだ。
 ―――― きっと殿は、尊王倒幕にかこつけて、新しい世で高位に就くなんて・・・わかりやすいことは考えてない。
 「アレン様?」
 口をつぐんだままのアレンを、ラビが訝しげに見るが、彼は黙って首を振るだけで、答えなかった。
 ―――― あの人はきっと、単純に楽しんでいるだけ・・・みんなが混乱して、右往左往しているのを見て、笑っている・・・・・・。
 しかし、こんなことを言っても、誰も信じてはくれないに違いない。
 彼らのように、権力に近い者達ならなおさら、遊びで国を滅ぼす人間など、存在すら理解できるものではない。
 「・・・ともあれ、討幕派の中でも穏健派を取り込んで、彼らの間に楔を打ち込むというのね?」
 アレンを気にかけながらも、リナリーが発した問いに、ラビは深く頷いた。
 「でも、クロス殿が・・・あの人が絡んでいるなら、遠からず、倒幕の勅令は下されるのじゃないかしら。
 穏健派を取り込んでも、その時期をずらすことになるだけ・・・」
 「良いではありませんか。
 奴らが倒幕の兵を上げると言うなら、蹴散らすまで」
 低く呟いた神田に、多く同意の声が上がった。
 『逆賊討ち滅ぼすべし』と、強硬な意見が大勢を占める中、リナリーは冷静な目で座を見渡す。
 「それで?
 戦場は江戸?」
 その一言に、沸き立っていた場は、水を打ったように静まり返った。
 「強硬派に強硬手段で立ち向かってどうするの?この国を、焦土にでもするつもり?」
 憂鬱そうな声音に、アレンが俯けていた目を上げる。
 「先手を・・・打つ方法がありますよ」
 静まり返った場に放たれた言葉に、幕臣達の視線がアレンに集まる。
 「あの人は・・・あの人の目的は、騒ぎを大きくすることです。
 あちらの思惑に、こちらが付き合う必要はないでしょう」
 重い声に、リナリーは我が意を得たりとばかり、笑みを浮かべた。
 「そうね・・・!
 いいことを考えたわ。みんな聞いて」
 姿勢を正したリナリーに、皆の視線が集まる。
 「朝廷に、大政を奉還しましょ」
 いたずらっぽい声音で放たれた、意外な言葉に、皆一様に息を呑んだ。
 「もちろん、ただでは返さないけどね♪」
 軽く片目を閉じて、リナリーはいたずらを企んでいる少女のような笑みを浮かべた。


 将軍が天皇に、大政を奉還する・・・!
 その報せは、幕府から朝廷にもたらされ、国中を驚愕の渦に叩き込んだ。
 しかしこの措置によって、幕府は朝廷が『倒幕の勅令』を発することを阻止し、討幕派の出鼻をくじいたのだ。
 「・・・上様も、思い切ったことするさ」
 権力に最も近い場所で、望み通り、この国の動く様を見つめながら、ラビが呆れ声を出す。
 大政奉還・・・つまり、この国を動かす政権を、天皇に返上すると言うのは、あくまで形式上のこと。
 一旦は政権を手放すことになっても、討幕派が主流とは言えない現在、皇族にも公家にも、政権を担う能力はない。
 それを十分に思い知らせた後、幕府が再び実権を掌握すればいいのだ。
 案の定、征夷大将軍職をも返上しようとしたリナリーを、朝廷は慌てて慰留している。
 「うまく行っているみたいですね」
 大奥を焼き出されたため、一時、江戸城の西ノ丸に居を移したアレンは、安堵して、彼の前に座す、もう一人の人物を見遣った。
 「ですが、今は最も油断のならない時。
 僕たちが相争っている場合ではありません。
 上様の御為、あなたにも協力して欲しいのです」
 真摯な声音を向けられ、大奥総取締、神田は、彫像のように感情のない顔を、アレンに向ける。
 「私にどうしろと?」
 表情と同じく、感情の消えた声で問う彼に、アレンは姿勢を正して対峙した。
 「共に上様をお守りしましょうと、そう言っているのです」
 「共に?」
 「足手まといだと・・・そう思いますか?」
 反駁の機先を制されて、神田の眉が、かすかに上がる。
 その様に、アレンもわずかに口の端を曲げた。
 「僕は、役に立ちますよ、神田殿。
 あのバカ殿との交渉には使えなくても、藩士達との交渉には使えます」
 大奥に火を放った藩士達を、アレンは必死に庇い、処刑させなかった。
 その事実を、それとなく江戸や国元の藩士達に伝え、アレンは『藩と藩士のために力を尽くす、慈悲深い姫』という評判を得たのだ。
 「攻めるだけが戦ではない。
 それは、上様自身が示されたことです。
 穏健派を懐柔し、強硬派の牙を抜く・・・それが出来るのは、僕だけですよ?」
 「ふ・・・」
 いかにも自信に満ちた言い様に、神田が笑みを零した。
 「見届けてやろうじゃないか。お前の大言壮語が、本物になるかどうか」
 「・・・ホントに、気に食わない奴ですよね、あなた」
 神田の言葉に憎まれ口を返しながら、アレンもにこりと、笑みを深める。
 彼ららしい言い様に苦笑を浮かべて、ラビは、ようやく結成された連合を、手を叩いて祝福した。
 「じゃあまずは、あのバカ殿の対処からさ」
 そう言うと、ラビは、このまま引き下がりはしないだろう、大大名の動向を調べ上げた書簡を懐から出す。
 「うちのジジィからの手紙。
 あの藩の動きを、逐一書いてあるさ」
 「ラビ・・・君、ホントにすごいですね・・・!」
 感嘆の声を上げるアレンと、興味津々と視線を向ける神田に、にこりと笑って、ラビは、手にした書簡を広げた。
 「さぁ・・・御台様、総取締!
 この国動く様を、見せてくれな♪」


 ―――― その頃、南国の城内では、城主が轟音を上げて動く歴史の中、のんびりと煙草をふかしていた。
 「先手を取られちまったか・・・ガキどもめ」
 言葉に反し、その声音に、悔しがっている様子はない。
 「だが、これでこそ戦り甲斐があるってもんだ」
 ―――― おもしろき ことのなき世を おもしろく
 低く呟くと、彼は、いかにも愉快げな笑声を上げた。




Fin.

 










リクエスト10番目、『アレリナお江戸パロ』でした♪
これは、去年12月に行った、『まるっとアレン君お誕生日祭』のおまけ、『本編とは全く関係ないあらすじと次回予告』(12/16〜)で書いていたものをストーリー化したものです。
無駄に張り切りまくって、宣伝マンガ2本も描く始末(笑)
元ネタは、『大奥』の第1部(第一章じゃないよ)『篤子編』です。
でも、第13代将軍から第15代将軍まで、リナが一人でやってます。
受験生の皆さん、この歴史、大嘘だから!信じちゃダメだから!!(をい)
更には、『こんな神田違うと思います!!』と抗議されそうですが・・・皆さん、神田ですよ?
奴は、アレン君を思う様いじめるためなら、
どんな難しい台詞だって完璧な滑舌で言ってのけますよ!!
思う様趣味に走った作品ですが、気に入ってくださったら嬉しいです












ShortStorys