† Still I’m With You †
それは、年の瀬も迫って、気ぜわしいだけでなく、実際に慌しくなってくる、12月の初日のこと。 来季新入団予定の科学者達のリストを繰っていたリーバーは、『現科学班員への質問条項』のページで手を止めた。 その、第一項目に、書いてあったのだ。 『本部科学班が、エクソシスト達、特に、寄生型エクソシストに、『人でなし集団』と呼ばれているというのは本当ですか?』 「・・・人でなし集団?」 ピクリと、眉を上げた科学班班長は、近くにいた科学者達を手招きして、その項目を見せる。 「言い得て妙――――――――!!!!」 途端に沸いた爆笑に、リーバーも膝を叩いて爆笑した。 「すっげ的確な質問だろ?!」 「ホントに! オレ、室長は絶っっ対アレンに嫌われてると思う!」 「あったりまえじゃん! 入団初日に『手術』されてんだぜ?!」 「俺だったら絶対逃げるよ!」 笑いの収まらない彼らに、リーバーは更に条項を展開する。 「他にも、こんなんあるぞ! ―――― コムイ室長は極悪非道の悪の権化だって、本当ですか?天才の誉れ高いコムイ室長に限ってそんな事ありませんよね?!」 その項目に、皆、呼吸困難になるほど笑い転げた。 「やべぇ、こいつ!崇拝者だ!!」 「恐れを知らない若者って、すっげぇー!!」 「でもマジ、俺も思ってた! 本部科学班は超エリート揃いで、コムイ室長は教団を改革した天才だって、先輩にマジ顔で言われたもん!」 「そうやって偽情報流して、若者を騙すんだよー! かわいそうになー。現実知ったら、どんな顔すんだろうな、こいつら!」 が、そう言って笑い転げている辺り、彼らもコムイの薫陶を十分に賜っているとしか言い様がない。 それを指摘すれば、全員、間違いなく慄然としたことだろうが、生憎、ここに忠告者はいなかった。 話題の本人も、その妹も、現在取り込み中である。 それに思い至ったメンバーが、悪気なく声を掛けた。 「班長、いちおーあの人、監視してなくて良かったンすか?」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・俺がか?」 ものすごい間の後に発せられた、凄まじく苦々しい声に、皆、一様に苦笑する。 それはすぐに、クスクスと、かすかな笑声として漏れ、そのうち、大爆笑に代わった。 「笑うな!!」 リーバーの怒声に、笑声は更に大きくなる。 「だって班長〜〜〜!」 「いくつですか、あんた!」 「いい年して・・・!」 「歯医者が怖いなんて!!」 弱みを容赦なく指摘され、リーバーは憮然と黙り込んだ。 その様に、また笑いが溢れたが、ふと、一人が首を捻る。 「けど・・・マジな話、室長以外にも治療できる人間がいた方がいいと思うんすよね」 「そうだなぁ・・・あの人になんかあった時に困るし」 「それ以前にあの人、完璧なサディストだし・・・。 アレンなんか治療の度に、可哀想なくらい泣いてるもんなぁ・・・」 「もうちょっと性格が穏やかで、腕のいい人がやってあげれば・・・」 じっと、熱い視線が集まる感触を得て、リーバーは忌々しげに舌打ちした。 「無理」 「なんでっ!」 「班長がやってあげれば、まだマシでしょうに!」 が、彼らの要請に、リーバーは頑なに首を振る。 「俺・・・医療用ドリルの音が、死ぬほど嫌いなんだよっ!!」 工業用なら平気だけど、と、言い募る彼に、皆、一様に眉をひそめた。 「じゃあ・・・俺やっかなぁー?イマイチ、手先器用じゃないんだけど」 「お前・・・それ、かえって可哀想だろ・・・。 っつってもなー・・・俺も、1インチ以上のものしかいじったことねぇしなー・・・」 「うー・・・・・・・・・ん」 悩ましげな思案は、やがて、諦めに向かう。 「悪ぃ」 「がんばって耐えろ、クロウリー!」 深刻な顔をして、彼らはここにはいないクロウリーに、エールを送った。 一方、エールを送られたクロウリーは、治療室の寝台に拘束され、部屋中を恐怖の叫びで満たしていた。 「どどどどどどどどどどどどこも悪くないのであるっ!!欠けてもいないのであるっ!!治療は不要なのであるぅぅぅぅ〜〜〜〜っ!!!!」 しかし、耳を聾(ろう)せんばかりの絶叫も、どこ吹く風と無視して、コムイは手術用手袋をはめる。 「クロちゃんが健康なのは知ってるよーん♪ だーぃじょうぶ!今日は痛くないから、お口あけてねー♪」 マスク越しのくぐもった声に、クロウリーは必死に首を振った。 「うううううううう嘘であるぅぅぅぅっ!!! こないだもそう言って、ドリルで削られたである!!」 「あぁ、あの時はイノセンスの状態を見せてもらったんだよー。 大丈夫大丈夫。あれはもう、終わったからねー 「信じられないであ・・・ぐふぅっ!!」 なおも抵抗するクロウリーの首をも固定して、コムイは医療用ライトでクロウリーを照らす。 「ホラホラァ〜!あんまり暴れると、首絞まるよー?」 「〜〜〜〜っ!!!」 常態で既に絞まっている拘束具に、クロウリーの顔が赤紫に変わっていった。 「はいはい〜♪ じゃあ、ちゃっちゃとやるから、お口あーんしてー が、クロウリーは間もなく顔色が土気色に変わる、という状況に陥ってさえ、頑なに口を閉じている。 「も〜・・・クロちゃってば〜!」 強情な彼に、コムイは眉をひそめて、クロウリーの耳元にしゃがみこんだ。 「クロちゃんもさー、ルーマニア出身なんだから、ヴラド・ツェペシュのことは知ってるよねー? ドラキュラのモデルになった人ー。お国じゃ、英雄なんだって?」 必死に歯を食いしばるクロウリーに、コムイの笑みが深まる。 「彼、敵兵を串刺しにして殺したから、串刺し公なんて言われてるんだってね?」 にこやかに、恐ろしい話をするコムイの声が、不意に、低くなった。 「・・・拷問は、ルーマニアの専売特許じゃないよぉ〜? 中国はねぇ〜拷問を芸術にまで高めた人がいてぇ〜・・・その人の最高傑作が、『いっそ殺して』って言う・・・・・・」 「治療してもらうであるっ!!」 涙声で降参したクロウリーに、コムイはにんまりと笑って立ち上がる。 「最初から、素直になればいいのにー」 と、泣きじゃくるクロウリーを見下ろして、コムイは愉快そうな笑声を上げた。 「大丈夫大丈夫 寄生型ってさぁ、ただでさえレアなんだけど、後天性寄生型って、ボクの知る限りクロちゃんだけなんだよねぇー♪ クロスの破戒僧がどんな手を使ったかも含めて、じっくり観察したいんだぁ 入団早々、とんでもない人間に目をつけられてしまった、と、クロウリーはとめどない涙でこめかみを濡らす。 「じゃあ、検査始めるよー♪ 痛かったら、手を上げてくださーぃ♪」 キュィィィン!と、ドリルの回る、甲高い音を間近に聞いて、クロウリーの全身に脂汗が噴出した。 「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!」 あえて、見せ付けているとしか思えない至近距離に、鋭い先端を突きつけられて、クロウリーは背中を寝台に押し付ける。 逃げ出せるはずもないのに、そうせずにはいられない恐怖の真っ只中に、しかし、一筋の光明が差したのは、その時だった。 「兄さん。お手伝いに来たわよ」 「ヒハヒィィィィィィィィィィ!!!!」 言葉にならぬ叫びを上げる、クロウリーの涙目に、微笑むリナリーの姿が滲む。 が、 「よっし!検査、開始―――――――― 張り切ったコムイの、楽しげな声と共に下されたドリルは、見事にクロウリーの歯をえぐった。 「――――――――――――――――っっっっ!!!!」 声にならぬ悲鳴に、クロウリーに歩み寄ったリナリーは、にっこりと微笑む。 「ちょっとの辛抱だからね、クロウリー! 兄さん、がんばって 「がんばるともー 救世主となるべき少女にあっさりと見捨てられ、最後の希望にと上げようとした手は・・・がっしりと、拘束されていた。 ―――― エリアーデぇぇぇぇ・・・・・・っ! 最後に見た、愛する女(ひと)の幻は、とても美しく微笑んでいた・・・・・・。 「・・・・・・それで、結局思う様いじり倒されたんですか・・・・・・」 可哀想に、という、アレンの憐憫の目に、クロウリーは顔を覆ってさめざめと泣き崩れた。 黒の教団本部の、一角である。 泣きながら回廊を歩いていたクロウリーを、アレンが見つけ、迷子を保護した警官のように手を引いて、談話室に連れて来たのだ。 「あれはっ・・・なんだったのであるか?!」 「趣味です」 きっぱりと、乾いた目をしたアレンに断言されて、クロウリーは絶句する。 「本気で、検査や治療目的だと思ってたんですか?」 諦観した顔の口元にだけ笑みを浮かべたアレンの、冷え冷えとした表情に、クロウリーはぶるりと震えた。 「甘いですよ・・・」 胸に当てた左手に、右手を重ねて、アレンが俯く。 「コムイさんは、悪の権化なんですから・・・!」 でも、と、顔を上げたアレンは、爽やかな笑みをクロウリーに向けた。 「僕達、手を組みませんか?」 「へ・・・?」 未だ涙の乾かない目を丸くして、首を傾げたクロウリーに、アレンが迫る。 「僕達、同じ寄生型適合者じゃないですか!」 「お・・・同じ・・・?」 目を見張るクロウリーに、アレンは魅惑の笑みを浮かべて頷いた。 「ハイ! 今まで僕、ずっと一人であの悪魔と戦ってきましたけど、負け続けだったんです・・・・・・でも!」 はっし!と、アレンはクロウリーの手を硬く握り、キラキラと輝く瞳で彼を見つめる。 「これからは二人で、一緒に立ち向かいましょうねっ!」 「い・・・一緒に・・・!」 故郷では、吸血鬼と忌み嫌われ、友の一人もなかったクロウリーに、この言葉は強烈なインパクトをもたらした。 「よっ・・・喜んで・・・・・・っ!!」 感極まった様子で、クロウリーはアレンの手を握り返す。 こうして―――― この日、寄生型二人の同盟が結ばれた。 「へー、同盟。クロちゃんとアレンがねぇ・・・。 名前はナニさ?いじめられっこ同盟?」 「・・・誰がいじめられっこ同盟ですか」 途端にむくれたアレンに、ラビは軽い笑声を上げる。 「まぁ、寄生型同士、同病相憐れむ感が拭えねぇけど、いいんじゃないさ?」 そう、好意的な評価をしたラビに反し、 「吸血鬼とモヤシがか? 化け物と悪魔の同盟たぁ、似た者同士、いいコンビになるだろうぜ」 という、神田の嫌味な言い様に、アレンはこめかみを引きつらせた。 「・・・じゃあ、仲良くつるんで談話室なんかに来てるあんた達はなんですか。おバカコンビですか」 「だーれーがーおバカさ、この性悪ガ」 「こんなお調子もんとなんか、つるんでねぇよ!」 すかさず反論した二人に、アレンは冷笑を深める。 「あぁ、そうか。神田は単独でおバカですもんね!」 「・・・ゴラ、モヤシ!てめぇ表出ろ!ぶった斬ってやる!!」 六幻に手をかけ、立ち上がった神田に、同じく立ち上がったアレンが不気味に左手を光らせた。 「望むところですよ!返り討ちにしてくれます!」 「ちょ・・・ちょっと落ち着くであるよっ!!」 クロウリーが慌てて二人の間に入ると、ラビもソファにそっくり返って頷く。 「やめとくさ、二人とも。 外、雨降ってんしー。月も12月に入って、めちゃ寒いぜー・・・」 途端、ラビがいきなり飛び起きて、クロウリーだけでなく、アレンと神田も驚いた。 「クロちゃん!今日、誕生日じゃん!!」 「・・・あ」 指摘されて、初めて気づいたらしいクロウリーが、頬を赤らめる。 「わ・・・忘れていたである・・・・・・」 「げ!信じらんねぇさ! なんでこんな自分的ビッグイベント忘れるんさ!!」 ラビに迫られたクロウリーが、たじたじとなって、か細い声を上げた。 「だって・・・ずっと祝ってくれる友達もなく・・・一人であったのであるから・・・・・・!」 しょげ返った仔犬のようなその可憐さに、きゅぅ、と、胸を締め付けられたアレンが、拳を握る。 「思い出したんだから、良かったじゃないですか! 今年からは僕、たくさんお祝いしますよっ!!」 と、ラビも、目の端に涙をためて頷いた。 「アレンの言う通りさ〜! 俺も協力するさ!ユウもするだろ?!」 「なんで俺までっ!!」 すかさず反駁した神田は、クロウリーの感涙に潤んだ瞳で見つめられ、ふいっ!とそっぽを向く。 「ど・・・・・・どうしても、と言うなら、手伝ってやらんこともない」 アレンには激しく反発する神田も、クロウリーの無垢な目の期待は、裏切れなかった。 が、その態度がよほど気に喰わなかったのか、アレンが忌々しげに吐き捨てる。 「別に、あんたなんかに手伝って欲しくないですよっ!」 「誰がてめぇを手伝うと言った!!」 またも、臨戦状態となった二人の間で、クロウリーはおろおろと仲裁に入った。 「あー・・・とりあえず落ち着くさ、お前ら。 まず、やんなきゃいけないこと考えよーぜ」 ケンカするばかりで、何の役にも立たないアレンと神田、そして、その二人の間で右往左往するクロウリーに対して、ようやく、ラビが建設的な意見を出した。 「パーティは確実にやりたいさ。 そんなら、まず、姐さんとこにお願いに上がるのが筋ってもんさ」 おお!と、感嘆の声が上がり、ラビはやや嬉しそうに胸をそらす。 「じゃあ、早速厨房に・・・」 「神田行って来てください」 「てめぇの使いっぱなんザ、誰がやるか!てめぇで行け!」 「・・・おいっ!」 簡単に臨戦態勢に入ってしまう二人に、何度も話の腰を折られたラビが、とうとう声を荒げた。 「いい加減にするさ、お前ら!ケンカばっかして、やる気あるんか!!」 「ありますよ!もちろん!」 「手伝うっつったろーがよ!お前、なにムキになって・・・」 言いかけて、神田はその理由に思い至り、深々と吐息する。 「この・・・お祭り人間が・・・!」 額をおさえて俯いてしまった神田に、ラビは真剣な顔で頷いた。 「その通りさ! 真のお祭り人間とは、祭の準備にこそ張り切るもの・・・!邪魔する奴はゆるさねぇさ!!」 情熱に燃える目で断言されて、神田は反抗を諦め、アレンも最初から協力するつもりではあったのだから、おとなしく指示に従う姿勢を見せる。 「じゃあ、話戻すさ! ここはやっぱ、姐さんお気に入りのアレンにナシつけに行ってもらうのが妥当だと思うさ」 「はい!行って来ます!」 さっきとは打って変わって、素直に食堂に走って行ったアレンに頷き、ラビは神田とクロウリーを返り見た。 「んで、俺とユウちゃん、パーティの準備な♪ 後は・・・クロちゃん、リナがどこにいるか、知んね?」 「リナリーならば、兄上と一緒に科学班に行ったであるよ」 「じゃあ、クロちゃんはリナリーに、俺達んとこに来るよう言ってくれ。そしたら、部屋で待ってて欲しいさ♪」 「わ・・・わかったであるっ!」 頬を紅潮させて、何度も頷くクロウリーに、ラビも笑って頷く。 「ほんじゃ、張り切って行くさー!」 祝われる本人よりも楽しそうに声を張り上げて、ラビは神田を伴い、いそいそと談話室を出て行った。 「クロちゃんの、お誕生会ですって?」 おいしそうな匂いを振りまきながら、大きな中華鍋を振り回す料理長を、うっとりと見つめてアレンは頷いた。 「ハイ 今日、クロウリーさんのお誕生日だって、本人も忘れてたんですよ。それで、今からだと大変でしょうけど・・・」 遠慮がちな上目遣いで見つめるアレンを、ジェリーはいたずらっぽい目で見下ろす。 「そぉねぇ。 じゃあ、参考までに聞くけどね、アレンちゃん?」 出来上がった青椒肉絲(チンジャオロース)を皿に盛り付けたジェリーは、まだ湯気を上げるお玉で背後を示した。 「バースデーケーキは、あのくらいの大きさでいいかしら?」 「え?!」 驚いて見遣ると、彼女の背後ではシェフ達が、大きな三段重ねのケーキを、どん、と、作業台に乗せて、飾り付けを行っている。 目を丸くして驚くアレンに、ジェリーは楽しげな笑声を上げた。 「アレンちゃんたら、アタシを誰だと思ってるのよぉ みんなのお誕生日は、カレンダーにチェック済みよ 頼もしい言葉に、アレンは目をキラキラさせ、大きな声で礼を言う。 と、彼女は嬉しそうに頬を染め、小首を傾げた。 「ところでねぇ、アレンちゃん? クロちゃんには、何本ロウソクを立ててあげたらいいのかしら? 「えーっと・・・29本ですね!」 「アラー・・・もうちょっと行ってると思ってたわぁ」 言ってしまってから、ジェリーは軽く咳払いする。 「・・・血色悪すぎなのよ、あのコ! アタシの料理で、ちょっとは太らせてあげないとねぇ」 そう言って、ジェリーは彼女の手元をじっと見つめているアレンに微笑んだ。 「アレンちゃんもね。 お昼、食べて行きなさいな 「はぁい 尻尾があったら振っていただろう、嬉しそうな笑顔に、ジェリーも嬉しそうに笑って、アレンの注文を受けた。 「・・・アレン君は、見つけた」 満漢全席とばかり、中華な昼食を摂っていたアレンの隣の椅子が引かれ、やや疲れ顔のリナリーが座る。 「どうしたんですか?なんだか、疲れてますね」 食べる?と、差し出された蒸篭(せいろ)の、高い段の中から、海老餃子と小龍包、マーラーカオを取り出すと、リナリーはアレンが淹れたジャスミンティーを飲んで吐息した。 「クロウリーがね、科学班に来て、ラビと神田が呼んでるから、談話室に行ってくれ、って言ったの」 「あぁ。お誕生日の件ですね」 肉まんを頬張りながら頷くと、リナリーの眉根に皺が寄る。 「それで行ったのに・・・いないのよ、あの人達!」 カンッ!と、音高く、茶器の底をテーブルに叩きつけて、リナリーが怒声を上げた。 「それでお城中、何周もしたのに・・・全然見つからないの! どこに行ったの、あの人達!!」 それで、「アレン君『は』見つけた」などと言われたのか、と納得して、アレンはテーブルの上に並べられた皿の中から、デザートを差し出す。 「まぁ、落ち着いて。杏仁豆腐食べます?」 「マンゴープリンちょうだい」 「・・・ハィ」 楽しみにしていたデザートを指名され、哀しそうに肩を落としながらも、アレンはマンゴープリンの皿を差し出した。 「それで・・・え?お誕生日の件って、クロウリーの?」 マンゴープリンでやや機嫌が直ったらしいリナリーの問いに、アレンが頷く。 「そうですよ。言ってませんでしたか? ・・・って、そうか。クロウリーさんは、自分でそんなこと言いませんよね」 「うん。知らなかったわ。 じゃあ・・・あの人達、どこでなんの作業してるの?」 「それは・・・僕も聞いてません。 僕は、ジェリーさんにパーティの料理をお願いするよう、派遣されただけなんで」 とっくに用意されてたけど、と、アレンは厨房を見遣って、忙しそうに立ち回るシェフ達に微笑んだ。 その視界の中に、暢気に談笑しつつ、食堂に入って来たラビの姿が映る。 途端、 「リナリー!」 アレンが止める間もなく、椅子を蹴って立ち上がったリナリーは、手近の箸を掴むや、鋭く手首を返した。 次の瞬間、彼女が狙い定めた場所から、引きつった悲鳴が上がる。 アレンは、思わずつぶってしまった目を、恐る恐る開いた。 と、入口付近の壁に深々と突き刺さった箸が、細かに震えている。 いや、もっと正確に言えば、ラビと神田の鼻先で、それぞれに虫の羽音に似た音を上げていた・・・。 「な・・・っ!」 「なにすんだ、てめェっ!!」 神田の怒声に、しかし、リナリーはかかとを高く鳴らして歩み寄る。 「なにすんだ、じゃないわよっ!!私がどれだけあなた達を探し回ったと思ってるの?!」 大音声で怒鳴られて、ラビがすくみあがった。 「ご・・・ごめ・・・リナ! 色々物色したり、作業場探したりで、城中うろうろしてたんさ・・・!」 つまり、彼らは見事にすれ違っていたわけだ。 「・・・それならそれで、合流場所くらい決めておきなさいよ!!」 再びのリナリーの怒声に、ラビは引きつった笑みを浮かべた。 「えー・・・やっぱ、ここ?」 「結果、合流できたんだから、いいじゃねぇか」 面倒くさそうに吐き捨てた神田に、リナリーが更に激昂する。 「過程が大問題だったのよ!!」 「お・・・落ち着いて、リナリー!」 神田に掴みかからんばかりのリナリーを押しとどめ、アレンは未だ怯えているラビに視線を向けた。 「それで、宴会部長? 材料と作業場の目処はたったんですか?」 だからこそ、暢気に昼食に来たんだろう、と踏んで問うと、案の定、ラビは壊れた首振り人形のように激しく頷く。 「会場はいつも通り、食堂になるだろうから、作業場は修練場の隅っこ貸してもらうよう、頼んできたさ。 飾り付けの材料は・・・バラ園のバラ盗んだら、クロちゃんを祝うどころじゃなくなるんで、ミランダに花屋に行ってもらった。 あと、科学班がなんかやるらしくて、俺らとは別に、えらく張り切ってたさ」 ラビの報告に頷いて、神田が補足した。 「布やリボンなんかは、備品管理室からもらって、もう作業場に運んであるぜ」 途端、アレンが吹き出す。 「・・・なに笑ってやがる、モヤシ」 神田の剣呑な目に睨まれても、アレンの笑いは収まらなかった。 「だって・・・!神田の口から、リボンだなんて・・・!!」 クスクスと笑い続けるアレンに、怒声を浴びせようとした神田の口を、ラビが背後から封じる。 「っはい!ケンカはやめてー! リナも、ごめんさー・・・!許して 神田の頭を無理矢理押さえつけ、苦労して一礼させたラビに、リナリーもようやく笑みを浮かべた。 「わかった・・・。 じゃあ、私はなにをすればいいか、教えて?」 にこり、と、微笑んだ彼女にラビもほっと吐息した・・・途端、力の緩んだ手を押しのけて、神田の頭突きがラビの顔に炸裂する。 「いつまでも押さえてんじゃねェよ、てめェ!!」 あまりの激痛に声もなく、ラビは食堂の床に鮮血を落としながら、長い間しゃがみこんでいた・・・。 部屋で待っていろ、と、ラビには言われたが、部屋にいても特に何もすることはなく、クロウリーはやや小降りになった雨の中、傘もささずにてくてくと、教団本部内のバラ園へ向かった。 カトリック系の施設にふさわしく、元々この教団に存在したバラ園だが、彼が趣味も兼ねて世話を手伝っているうちに、ほとんど、クロウリー個人のバラ園と言っても差し支えないほど、彼の丹精した花々が見事に咲き誇っている。 バラは、寒さに強い植物ではあるが、冬でもきれいに花を咲かせ、来年もその美しさを保ちたいなら、この時期の世話は、どれだけ手間をかけてもかけすぎると言うことはなかった。 「あ・・・。藁がもう、残り少ないのではなかったかな・・・?」 呟いて、クロウリーは真っ直ぐにバラ園へ向かおうとしていた足を止め、踵を返す。 「まだ植えたばかりの子らが、乾燥しないようにしてやらねば」 てくてくと、厩舎に向かう途中、クロウリーは視線の先に、幾人もの白衣姿を見つけて、慌てて植え込みの中に隠れた。 先程体験したばかりの、恐怖の歯科治療が、見事にトラウマになってしまったのだ。 刈り込まれた潅木の陰で、耳をそばだてて気配を伺うと、段々彼らの声が近くなってくる。 「・・・っえー?!食堂の外だけ?!他はやんないの?!」 「当たり前だろー?あっためるんならともかく、冷やすのにどんだけ電気食うと思ってんだよ」 「そうだけどさー・・・もうちょっと広範囲にすると思ったから、俺・・・」 がっかりした声に笑声が沸いた。 「そりゃあ、本物が降りて来るまで待てよ。もうそんなに時間かかんねぇだろ」 声と共に、台車だろうか、ゴロゴロという鈍い音が、クロウリーの隠れている潅木の前を過ぎて行く。 「ところで・・・雨降ってんのに、シート外して大丈夫なんか、コレ?」 「配線とか、ヤバくねェ?」 「ちょっとお前、ラビ呼んできてくんね?あいつに、雲払ってもらおうぜー」 「あぁ、その手があったか!りょーかい♪」 一人が駆け去って行き、他の者達も、台車をゴロゴロと押しながら食堂の方へと去ったのを気配で確認して、クロウリーはようやく潅木の陰から出てきた。 「なんだったのだ?」 首を傾げたものの、クロウリーはそれ以上追求せずに、厩舎へと向かった。 「ねぇ・・・今、気づいたんですけど、あの時ラビが、僕たちだけにこっそりクロウリーさんのお誕生日だって教えてくれてたら、サプライズ・パーティができたんじゃないですか?」 リボンで花飾りを作りながら、アレンが言うと、 「そう言えばそうね。食堂の方は、準備万端だったんだし」 同じくリボンの花を作りながら、リナリーも頷く。 「・・・またお前らは、結託して俺をいぢめて・・・! あん時、俺がクロちゃんに言わなかったら、ユウはここにいないさ!」 むくれて自己弁護するラビに、アレンは苦笑した。 「確かに・・・クロウリーさんが仔犬ちゃんのような目で見なければ、神田が・・・ぶふっ!!」 「なんだ!!」 言いかけて吹き出した、とても失礼なアレンに、神田が尖った声を上げる。 「だってっ・・・! 神田ってば、黙々と垂れ幕に字を入れてるんだもん・・・! 浪人の内職みたいですねっ!」 最後の余計な一言に、神田の手の中で、ボッキリと筆が折れた。 「誰が浪人だ、この根無し草が!」 「たのしーですよ、浮き草人生!それが何か?!」 「ケンカするなっつってんさ、もー!!」 今日だけでもう、何度目かの仲裁に入ったラビが、背後から呼ばれて振り返る。 その隙に、遠慮なく掴み合おうとした神田とアレンは、青筋を立てたリナリーにハサミを突きつけられて、それぞれの作業に戻った。 「・・・なに?」 諦観のこもった表情で、深々と吐息しつつ、ラビがジョニーに向かうと、彼は、妙に楽しそうに問う。 「ラビさ、雨雲を払うのって、どのくらいの時間、維持できるんだ?」 「時間?」 驚いたように目を見開いた彼に、ジョニーは大きく頷いた。 「実は、科学班でクロウリーが喜びそうなこと企んでてさ♪ けど、それにはどうしても雨が邪魔なんだよ〜」 そう言って、眉をしかめる彼に、ラビは、顎に指を当てて、しばらく考え込む。 「今日はそんなに風がないから、30分はもつかなぁ・・・?」 「えー・・・そんなもんなんだ・・・?」 がっかりと肩を落とす彼に、ラビは頷いた。 「俺の木判は、別に雲に限ったことじゃねェけど、対象を消すんじゃなくて、払うだけなんさ。 ロンドン中の雲を消し去る事ができない以上、雲が流れてくるんを止められやしないさ」 もっともな事を指摘されて、ジョニーは深々と吐息する。 が、 「・・・じゃあ、必要な時間、払ってもらえばいーんじゃん」 ぽん、と、手を叩き、ラビの腕を引いた。 「リナリー!ちょっとラビを借りてくよっ!」 「は?!」 「はぁい」 「はぁい、じゃねぇさ、リナ!俺がいなかったら準備・・・!」 「後はこっちでやっておきまーす」 アレンにも手を振られて、ラビは、益々不安の色を濃くする。 「お・・・お前ら、絶対ケンカすんじゃないさ?!せっかく準備したもんを、台無しにすんなよっ!!」 ジョニーに引きずられながら、必死に言いつけるラビに、神田までが手を払った。 「いいから、とっとと行けっつんだ」 「お前が一番不安なんさっ!!」 お祭りに対しては誰よりも真剣なラビが、悲鳴じみた声を上げる。 が、 「大丈夫大丈夫♪神田を信じてやれよー」 暢気なのか無責任なのか、ジョニーは陽気な声で言うと、本気で悲鳴を上げるラビを、外に引きずっていった。 「・・・で?なにすんさ、あんたら?」 時折強くなる雨の中、傘もささずに外で待っていた科学者達に、ラビが目を丸くする。 「ヒミツ 揃って指を唇に当てた彼らを気味悪く思いつつも、ラビはイノセンスを発動させた。 「・・・ほんじゃま、行くさ!」 天に向かって木判を打ち込むや、途端に雲の晴れた空を見上げて、一同から歓声が上がる。 得意げに笑うラビを、しかし、ジョニーが押しのけて、機械に被せたシートに手を掛けた。 「時間はあんまりないから!みんな、急いで作業してくれ!」 「俺も手伝おうか?」 彼らがなにをやるのか知りたいと、好奇心に満ちた目を向けるラビに、彼らは首を振る。 「いいから、お前は空を見ててくれよ!」 「雨雲が来そうだったら、また払ってくれな!」 「えぇー!」 不満げな彼を無視して、科学者達は手早くシートを外し、何十本ものケーブルを窓から棟内に入れて、食堂の隣室に用意していた大容量バッテリーに繋いで行った。 「ナニ?そんなに電気食うもんなんさ?」 「こっち見なくていいから!」 「空みてろ、空!!」 「・・・っつったって、こんなに早くは雲も流れてこないさー」 が、ラビの声など聞こえぬ様子で、彼らは樹脂製のシートで配線の接続部分を覆っていく。 「まだ電源入れんなよー!」 「おい!シート、足りなくね?!」 「マジ?! おいラビ!ボケッと見てないで、科学班から樹脂シート持って来て!!」 「俺、空見てんだもんさー♪」 せめてもの仕返しにと、ラビが意地悪く笑うと、科学者達の声が荒くなった。 「こんなに早く、流れて来ないっつったのはお前だろ!」 「いいから早く行けよ!雲が流れてくる前に戻って来いよ!」 人使いの荒さは科学班の悪習なのか、容赦のない指令に、ラビは渋々踵を返す。 ―――― その後、重い樹脂シートを運んで来たラビは、雲が出たと言っては木判を要請され、材料が足りなくなったと言っては科学班と現場を往復させられ・・・馬車馬のように働く、とは、まさにこのことだ。 「もー・・!お前ら、人使い荒すぎさ!!」 さすがに疲れ果てて、しゃがみこんだラビのうなじを、水滴が打つ。 「ラビー!!雲払え、雲っ!!」 科学者達のヒステリックな声に、ラビは泣きそうになりながら、イノセンスを発動した。 「すっかり晴れたであるな」 ラビが雲を払っているなどとは、露ほども思わず、クロウリーはわさわさと藁を運んできては、バラの木の根元に被せていった。 「次は予備剪定(せんてい)か・・・やれやれ、冬は忙しいことであるな」 そうは言いつつも、楽しげな様子のクロウリーである。 彼は、道具や肥料を置いている小屋に行く途中、きれいに咲いている花々を見て、嬉しそうに笑った。 「がんばって冬を越すであるよ、お前達」 途端、風にそよいだ花々は、クロウリーの言葉に頷いたかのようだ。 ふと空を見上げると、ずっと太陽を隠していた厚い雲がすっかり晴れていて、クロウリーはなぜか、寂しそうに眉をひそめた。 「この国は・・・冬が遅いのであるな・・・・・・」 彼自身が火を放ち、焼け落ちた城跡は、もうすっかり雪に覆われている頃だろう。 遠く離れた故郷を思い、ため息をついた彼は、瑞々しい紅い花々が彼を見上げている気がして、微笑を浮かべた。 「寂しくはないであるよ。もう、仲間がいるであるからな」 ―――― ただ・・・紅いバラのよく似合うあの女(ひと)は、もう逝ってしまったが・・・・・・。 「・・・・・・お前たちもいるし、寂しくないである」 もう一度、繰り返した言葉には、やや苦いものが混じっている。 「・・・それより、早く剪定せねばな。 たいして寒くもないのに、日が暮れるのは早いであるよ」 雪深い土地に生まれ育ったクロウリーは、平然と言って、剪定ハサミを軽快に鳴らした。 が、それは、決して多くの人間の意見ではない。 本城にある図書室のカウンターに、大量の本を置いたリーバーは、くしゃみの音に振り返って、暖炉の真正面に鎮座していたものが置物などではなかった事に、初めて気づいた。 「風邪っすか、ブックマン?」 声を掛けると、火に向かって座っていた老人は、もぞもぞと動いて振り向き、頷く。 「この頃、朝が冷えての。 任務中であれば、このような事はないのだが、本部にいると、どうも気が緩んでならん」 「そろそろ、雪も降り出すでしょうしね。こじらせないでくださいよ」 「うむ、気をつけんとな」 頷いて、膝の上に置いていた本のページをめくるブックマンに、貸し出し手続きの終わった本を持ち上げたリーバーは再び声を掛けた。 「あのー・・・もし良かったら、クロウリーの誕生日パーティの準備、手伝ってやっちゃくれませんか? 今、部下達がラビ貸しきってんで、リナリー達が大変だと思うんすよ」 「誕生日? あぁ、今日であったな。 それで私の弟子は、なにを手伝っておるのだ?」 ブックマンの問いに、両手で積み上げられた本を抱えたリーバーは、不自由そうに窓を差す。 「雨雲払ってもらってるっす」 「・・・・・・・・・・・・」 窓の外を見上げ、ブックマンは黙って本を閉じた。 「では・・・暇でも潰しに行くか」 そう言って、腰を上げたブックマンに、リーバーは本を抱え直して笑う。 「よろしくっす! 俺も、こっちが一段落したら、手伝いに行きますんで!」 言うと、彼は高々と積み上げられた本を落とさないよう、よろめきながら科学班へと帰って行った。 その頃、ラビに頼まれて花屋に行ったミランダは、店中の紅バラを買い占めて、店主に目を丸くされた。 「あの・・・パーティ用でしたら、紅いバラの他にもいかがですか?」 紅バラにしか見向きしなかった彼女に、店主が遠慮がちに言うが、ミランダは眉をひそめて悩んだ挙句、首を振る。 「クロウリーさんに、他の花なんて想像できない・・・」 バラ・・・それも、真紅のバラ以外の花は、彼にふさわしくないと思う。 「変ですか・・・?」 不安げに首を傾げると、店主は慌てて首を振った。 「いいえぇ!そうおっしゃるなら、どうぞ全部お持ち下さい!」 だが、紅バラにこだわるあまり、一つの店だけでは到底数が足りず、ミランダは次々と花屋を巡った。 「・・・なんだか私、明日には『紅いバラの魔女』なんて、怪談のネタにされてそうだわ・・・・・・」 頬に手を当て、物憂げに吐息したものの、すぐに笑みが漏れる。 「なんだか・・・格好いいわね」 馬車いっぱいに積んだ紅バラの中で、ミランダはクスクスと楽しげに笑った。 「ごめんなさい、もう一軒、寄っていただけますか?」 御者に言うと、彼も笑って頷く。 「紅バラの魔女様の、仰せの通り」 冗談めかした口調で言うと、彼は馬に鞭を当てた。 「こんなにたくさんのバラに囲まれるって、なんだか楽しいわ」 女王様にでもなったみたい、と言いかけて、ミランダはまた笑う。 「女王様じゃないわ、魔女様ね」 どんな怪談が出来上がるか、いたずらな心を弾ませるミランダを乗せて、馬車は町中に紅バラの香気を振りまいて行った。 「よっし!完成だね!」 パーティ仕様に飾られた食堂を見渡して、采配を振るっていたコムイが満足げに頷く。 が、 「お誕生日・・・パーティ・・・?」 多くの者が、そのコーディネイトに首を傾げた。 それもそのはず、テーブルクロスは黒一色、飾りのリボンは真紅、花も真紅のバラのみ、と来ては、パーティはパーティでも、怪しげなザバトを連想してしまう。 「そりゃ・・・確かにここは『黒の教団』っすけどね・・・」 「なんだか・・・魔女が大挙してやってきそうな雰囲気だわねぇ・・・」 ジェリーの感想に、大量のバラを仕入れて来たミランダが、テーブルに縋りついた。 「ご・・・ごめんなさい・・・! 私ったらつい調子に乗って、紅バラばっかりこんなに・・・!」 「ミ・・・ミランダ!泣かないで!!」 「大丈夫です!クロウリーさんのお城って、こんな雰囲気でしたもん!懐かしがってくれますよ!!」 リナリーとアレンが、必死にフォローすると、彼女は涙に濡れた顔を上げる。 と、彼らと違って、別に慌てる様子もなく、リーバーが頷いて見せた。 「別に、紅バラがいけないわけじゃないでしょ。むしろ俺は、テーブルクロスが問題だと思うね」 なんで黒、と、呟いた彼に、コムイが挙手する。 「だって、それが用意してあったんだもーん!ジェリーが出してきたんじゃないの?」 「アタシは出さないわよ。アンタが持ってきたんだと思ってたわ」 すかさず首を横に振ったジェリーに、コムイが首を傾げた。 「へ?そうなの? じゃあ、誰が・・・」 「はーい!備品管理室から持ってきたのは、神田でーす!」 「選んだのは俺じゃねェ!ラビだ!!」 コムイの問いに、アレンがすかさず答え、神田は怒声で反論する。 「どーいうセンスしてんのかしら、あの子ったら・・・」 頬に手を当て、苦笑したジェリーに答えたのは、ブックマンだった。 「おそらく、クロウリー城の雰囲気が記憶に残っておったのだろう。 見聞きしたものを全て記憶してしまうのが、我らの性癖だからな」 「厄介なクセですねー・・・」 ブックマンの言葉に、乾いた笑声を上げたアレンは、ふと周りを見回す。 「それで?宴会部長はどこに行っちゃったんですか?」 「あら・・・? そう言えば、ジョニーに連れて行かれてから、見てないわよね」 きょろきょろと、リナリーが周りを見回していると、突然、食堂の窓が開いた。 「もうカンベンして欲しいさっ!づがれだー!!!!」 窓枠に足を掛け、室内に入って来ようとするラビの背に、白衣の科学者達が幾人も取り付いて、彼を引きずりおろそうとしている。 日が傾いて、薄暗い逢う魔が時に現れたその光景は、まるで、生者を地獄に引きずり込もうとする亡者の群れのようだった。 「だって雲が!雨雲が来てんじゃないか!」 「いいから払え!もういっぺんだけ・・・いや、あと2回・・・3回・・・?」 「なんで増えて行ってんさ! お前ら、木判打つ度に俺がどんだけ体力吸われてるか、ちったぁ考えるさ!!」 「え?なにお前、疲れてんの?」 絶叫するラビに縋りつく一人が、不思議そうな顔で見上げる。 「それ以外の事に聞こえたんか?!」 「なーんだ。じゃあ!」 「ミランダさん!」 「はぃっ?!」 亡者達に呼ばれて、ミランダがびくりと震えた。 そんな彼女に、彼らは声を揃える。 「リカバリーよろしこ!」 「労基法プリィィィィズゥゥゥゥゥゥッッ!!!!」 無情な言葉に泣き喚くラビを、ミランダの『時間』が囲んだ。 「ご・・・ごめんなさいね、ラビ君・・・・・・」 「うっうっ・・・寒いさー・・・腹減ったさー・・・・・・」 無理矢理疲労回復させられ、窓の外に引きずりおろされたラビは、泣きながらイノセンスを発動させ、木判を空に向かって打ち込む。 「よーっし!じゃあ、こっちも発動なー♪」 興味を引かれ、皆が窓辺に寄ると、二階の窓にまで到達しそうな高さと、小さな部屋ほどもある立方を持つ機械の、スイッチが入れられた。 途端、機械の上面に設えられた煙突のようなものから、何かが空に向かって放たれる。 「なにアレ?!」 口々に驚きの声を上げ、窓から身を乗り出して見上げた黄昏の空から、細かなものが降り注いだ。 「雨・・・?」 「・・・じゃない!!雪だ!!」 差し出した掌に落ち、体温に溶け出したものに、あるいは目を丸くし、あるいは得意げに笑みを浮かべる。 「おめでとう!成功だねぇ〜♪」 コムイが声を掛けると、外で空を見上げていた科学者達が、嬉しそうに頷いた。 「すごい!これ、本物なの?!」 空から降って来る雪を受け止めて、目を丸くするリナリーに、コムイは得意げに胸を反らせる。 「水蒸気を対流させて、雪の結晶を作る装置なんだよー クロちゃんが、もう冬なのに雪がなくて寂しい、って言ってたのを聞いて、みんなで作ってみたのさ〜♪ 小さい装置だから、本部の敷地全部を雪で覆うことはできないんだけどね、食堂の外くらいなら、白くすることはできるよん 「小さい・・・?」 得々と語るコムイの傍らで、アレンは、彼が50人は入りそうな巨大な機械を見上げ、唖然と呟いた。 「ホントはねー、こんなちゃちなことじゃなくて、雲にヨウ化銀をぶち込めばいいじゃないかって言ったんだけどー・・・」 「・・・毒の雪が降るからやめろ、って、止めた」 憮然とリーバーに言われ、コムイはつまらなそうに口を尖らせる。 と、 「室長〜!そろそろいいカンジっすよ!」 あらかじめ、地面に細かい氷の粒を敷き詰め、その上に塩を撒いていたために、地に落ちた雪は溶けることなく降り積り、地面を白く覆っていった。 「じゃあ、誰かクロちゃん呼んできてー その他の諸君は、ボクが作った特別製クラッカーを・・・!」 言いかけたコムイの口が、背後から塞がれ、彼の手が指し示した先にあったクラッカーは、爆発物処理用のスーツを着た科学者達が、用心深く室外に持ち出して行く。 「・・・なっ!なにすんの!ボクがせっかく・・・!」 拘束者の手を振りほどいて、悲鳴を上げるコムイの前に、リーバーが立ち塞がった。 「こんなこともあろうかと、俺がちゃんと安全なクラッカーを用意しましたから!」 途端に上がった大きな拍手に、リーバーは得意げに頷き、コムイは悄然とうな垂れる。 「じゃあみんな、クラッカー用意!」 「おーう!!」 リーバーの音頭に、手に手にクラッカーを持った団員達は楽しげに唱和した。 「クロウリーさん!パーティの準備ができましたよ!」 アレンがノックしつつ声を掛けると、クロウリーの部屋のドアが、そろそろと開いた。 「きゃあ アレンの隣で、部屋から出てきたクロウリーを見たリナリーが、歓声を上げる。 「お・・・おかしくないであるか・・・?」 きちんと盛装した自身の姿を、恥ずかしげに見下ろすクロウリーに、アレンもリナリーもぶんぶんと首を振った。 「さすが貴族ですね、クロウリーさん!すごく決まってますよ!」 「うんっ! 今からバッキンガムに行ってもおかしくないよ!」 「さ・・・さすがにそれは・・・・・・」 真っ赤な顔を俯けて、大きな身体を縮めるクロウリーの手を、左右からアレンとリナリーが取る。 「さ!早く行きましょ!科学班が、すごい事してくれたんですよ!」 アレンに手を引かれて、たたらを踏みつつ歩を踏み出したクロウリーが、目を丸くした。 「な・・・なんであるか?」 「うふふ リナリーにも手を引かれて、歩きにくくはあったが、クロウリーには二人の手の温もりが、とても嬉しい。 だが、こんな時でもふと思い出すのは、あの女(ひと)の、冷たくすべやかな手の感触だった。 二人の仲間の手は、とても温かいのに、確かな真心がこもっているのに、慕わしく思うのは血の通わない、『人形』の手だ・・・。 ―――― こんなことではいけないと・・・わかっているのであるが・・・・・・。 自身の心情に自嘲したクロウリーは、二人に手を引かれるまま歩を進めて、食堂に入った。 途端、 「HAPPY BIRTHDAY!!」 大勢の明るい声と共に破裂音が鳴り響き、色鮮やかな紙吹雪や紙テープが降り注ぐ。 生まれて初めて、賑々しく祝ってもらったクロウリーは、驚きと感激のあまり、しばらく口が利けなかった。 「クロウリーさん?」 無反応の彼を、訝しげに見上げたアレンの視線の先で、クロウリーは首まで真っ赤になって、目に涙を浮かべている。 「うっ・・・嬉しいであるっ・・・・・・」 かすかに漏れた声に、無反応の彼を緊張気味に凝視していた団員達が顔を見合わせ、殊更に明るい歓声を上げた。 「やったぁー!クロウリーが泣いたぞー!」 「よっしゃー!もっと感激させてやるっ!!」 張り切った面々が、道をあけてクロウリーをパーティ会場に引き込む。 「さぁ、男爵閣下!」 「どうぞ奥へ!」 おどけた口調の招きに、クロウリーはそろそろと歩を進めた。 ふと見れば、テーブルは全て、黒いテーブルクロスで覆われ、活けてあるのは真紅のバラのみ。 「・・・・・・懐かしい」 彼の呟きに、多くの者が驚声を上げた。 「マ・・・マジだったんだ・・・!」 「すげぇ、ラビ・・・!」 遠慮がちな囁きの間を抜けて、窓辺に誘われたクロウリーは、空から降る白いものに、目を見開く。 「まさか・・・!」 驚いて窓辺に駆け寄り、手を差し伸べると、ふわりと落ちてきた雪が掌の上で溶けた。 「本物・・・・・・」 呆然と、夕闇の中に降り注ぐ雪を見つめていたクロウリーは、冷めたくなった手を握り、目を閉じて、真紅のバラが放つ香気を吸い込む。 ―――― アレイスター様・・・・・・。 耳の奥に、バラの香気のようにあまやかなあの女(ひと)の声が聞こえた。 ―――― アレイスター様・・・。 脳裏に、誰よりも美しかったあの女(ひと)の姿が蘇る。 ―――― 今でも私は、あなたと一緒にいますわ・・・。 「・・・そうであったな」 あの女(ひと)を・・・エリアーデを喪い、長く暮らした城を出た後、彼には多くの仲間ができた。 それはとても嬉しく、喜ばしいことではあったが、彼の心に空いた穴を埋める事とは、少し、違っていた。 だが・・・・・・。 久しぶりに雪に触れて、ようやく判った気がする。 あの女(ひと)と、彼らは別のものだ。 あの女(ひと)を喪った跡を、彼らの存在で埋める必要などない。 「ありがとう・・・・・・」 いかなる魔法か、彼に『雪』を贈ってくれた者達に、クロウリーは心から礼を言った。 いつしか、彼の頬を濡らしていた涙が滴ると、背後でも、もらい泣きか、はなをすする音がする。 「もうぅ・・・そんなに喜んでもらったら、俺っ・・・!」 「ひぐっ・・・!!が・・・がんばった甲斐があったよぉっ・・・!」 「えらいわっ!よくがんばったわね、アンタたちっ!ホラ、姐さんの胸の中でお泣きなさいっ!!」 感激したジェリーが、泣きながら腕を広げると、降雪機の開発に関わった者達が押し寄せて大泣きし、一部、異様な世界が出来上がった。 「なぁ〜・・・俺もう、部屋はいっていー・・・?」 にょき、と、窓の外から赤い髪を突き出したラビに、クロウリーが驚いて飛び退く。 「寒いんさー!もう中に入れてー!」 感涙に咽ぶ者達とは、別の意味で泣声を上げるラビに、わけがわからないながらもクロウリーが手を差し伸べた。 「何をしていたのであるか?」 氷のように冷え切ったラビの手に、クロウリーが驚いて問うと、窓をよじ登って食堂に入ったラビは、寒さで赤くなった鼻をこすりながら空を示す。 「雨が降ってたら雪が降らせらんねっつって、ずっと雲を払わせられてたんさ・・・」 言うや、ガタガタと震えて、火のそばに走っていくラビに、クロウリーは苦笑した。 「ご苦労様である」 「いんやー!喜んでくれたんならそれでいいさ♪」 クロウリーの労いに、早速暖炉の前に転がったラビは、笑って手を振る。 「じゃあ、クロちゃんが大泣きしてくれたところで!パーティ始めるよーん みんなグラス持ってー コムイの号令で、それぞれの手にグラスが行き渡り、シャンペンが抜かれた。 「それじゃ!せーの!」 「HappyBirthday!!」 多くの仲間達の声に、クロウリーがまた涙ぐむ。 「あっ・・・ありがとうである・・・・・・っ!」 懸命に声を振り絞った彼が掲げたグラスに、涼やかな音を立てて、いくつものグラスが触れていった。 その中で、 「嬉しいですよね、こういうの」 アルコールではない飲料が入ったグラスを触れさせたアレンが、未だ涙の止まらないクロウリーに微笑みかける。 「また来年も、やりましょうね!」 「生きてりゃな」 遠慮なく放たれた神田の一言に、アレンの笑みが引きつった。 「・・・なんでせっかくの雰囲気をぶち壊すかなぁ、この不調法もの!」 「不調法はてめぇだろうが、この下戸!」 「ややや・・・やめるであるよ、二人ともっ!」 慌てて仲裁に入ったクロウリーに、二人は今にも浴びせようとしていた罵声を収める。 パーティの主役の顔を立てたつもりか、お互いにぷぃっと顔を背けると、相手の顔が見えない場所にまで離れてしまった。 「・・・困ったもんさね、あいつらにゃ」 しばらく火にあたって、ようやく体温を取り戻したラビが、シャンペンのグラスを持ってクロウリーに歩み寄る。 「でも、パーティの間は、クロちゃんが仲裁に入れば止まるみたいさ。よろしくな♪」 笑ってグラスを合わせるラビに、クロウリーも苦笑して頷いた。 「私で止められるのなら、がんばるであるよ」 「本当は、ケンカしないのが一番いいんだけどね」 無理か、と笑って、リナリーもクロウリーのグラスに自分のグラスを合わせる。 「ところでクロウリー・・・ずっと窓の側にいて、寒くないの?」 作り物ではあるが、雪が降り続いている上に、夜闇に覆われた気温は瞬く間に下がっていき、窓からは冷たい風が吹き込んでいた。 が、クロウリーは平然として、窓辺に佇んでいる。 「平気であるよ、このくらい。まだ、暖かいくらいである」 「マジで?!俺、凍えてたのに!」 外から吹きつける、雪まじりの風に、ラビがぶるりと震えた。 「ラビ、ブックマンと一緒に暖炉にあたってたら? あなたまで風邪引いたら大変よ?」 気遣わしげに言うリナリーに、しかし、ラビは眉をひそめる。 「ジジィと〜?なんか、『ブックマンってそう言う人種?』とか思われそうで、イヤさー・・・」 言われて、暖炉を見遣ったクロウリーは、ブックマンが火の近くで玉子酒をすすっているのを見て、吹き出した。 「確かに・・・お前たちが並んで玉子酒をすすっている姿を想像すると、笑えるである・・・!」 「妙にほのぼのしいのって、どうかと思うさ」 言いながら、ラビは飲み干したシャンパングラスに、赤ワインを注ぐ。 「俺だってもう、子供じゃねぇんだしー」 当然のように口元に運んだグラスは、しかし、目の前で取り上げられた。 「まだガキだろ。酒量をわきまえろ」 代わりに、ジュースのグラスを渡されて、ラビは憮然とリーバーを見上げる。 「ちゃんとわきまえてるさ。 もう一杯くらい、大丈夫・・・」 取り上げられたグラスに手を伸ばしたが、それはラビの手が届く前に他の手に渡された。 「ラビ君、ホットワインなら作ってあげられるわよ? レモンと蜂蜜を入れて、お湯で割るの。風邪にいいわ」 シナモンを入れてもいいわね、と、にこやかに言うミランダに、ラビはこれ以上の戦闘を断念する。 おとなしくなったラビにクスクスと明るい笑声を上げて、ミランダはクロウリーに歩み寄った。 「クロウリーさん、ごめんなさい・・・ここをバラで埋めちゃったの、私なんです・・・。 私、どうしてだか、クロウリーさんにはこの花しかいけない気がして・・・」 不安げな上目遣いで見上げてくるミランダに、クロウリーは笑って首を振る。 「とても嬉しいであるよ、ミランダ。 この花のおかげで、大事な人のことを思い出したである」 どこか遠い目をして、穏やかに言うクロウリーに、ミランダはほっと吐息した。 「良かった・・・気に入らなかったら、どうしようかと思いました・・・」 安心したように笑って、彼女はリボンで飾られた箱を差し出す。 「どうぞ、お誕生日プレゼントです」 にこり、と笑って差し出された箱を受けとり、クロウリーは嬉しげにリボンを解いた。 「なんであるか・・・?」 中から出てきた物に、クロウリーが首を傾げると、ミランダは照れたように頬を染める。 「歯磨きセットです 強力再石灰化成分配合で、とっても歯にいいんですって やや得意げに笑うミランダの傍らで、クロウリーの手元を覗き込んでいたリーバーが、ぼそりと呟いた。 「・・・イノセンスは石灰じゃないっすよ・・・・・・」 途端、ミランダの顔が真っ赤に染まる。 「そ・・・そそそそそそうですよね!や・・・ややややややだっ私ったら・・・・・・!!!!」 発火するのではないかと思うほど、真っ赤になって恥じ入ったミランダに、リーバーが慌ててフォローした。 「す・・・すみません!! いや、俺は直接調べてないから確実なことは知らないっすけど! クロウリーの歯はイノセンスだけで形成されてないかもしれませんもんね!石灰成分もないとは言えませんもんね!」 リーバーが、ミランダに苦しい言い訳をしつつ、必死にフォローしている隙を狙って、ラビは奪われたグラスを取り戻し、上機嫌でワインを口にする。 「ラビ・・・」 「いいじゃん。パーティなんだし♪」 非難がましい顔をするリナリーに笑みを返して、ラビは未だ雪の降り続く窓外を見やった。 「それにしても、いつまで降るんかねェ、コレ? 人工雪にしちゃ、随分長い間降ってるさ」 ラビの疑問を聞きつけたコムイが寄ってきて、同じく窓外を見遣る。 「機械の中に入ってる、材料がなくなるまでは降るよ。 だけど・・・確かにこんなに長い間、降るほどの材料は・・・」 窓辺に寄って、コムイが外の機械の状態を見ると、雪を作り出していたそれは機械特有の振動を止め、上辺に設えた噴出口も、白い結晶を吐き出すのをやめていた。 「・・・・・・初雪だね!」 コムイの、やや気まずさを含んだ声に、科学者達から悲鳴が上がる。 「ヴゾ――――!!!!」 「いつから?!いつから本物の雪になってたんだ?!」 「お・・・俺たち、人工雪作りに失敗したんかな?!」 引きつった声を上げる中に、老人の冷静な声が響いた。 「大丈夫じゃ。 本物の雪が降り出したのは、つい3分前のこと。 おぬしらが作った雪は、ちゃんとクロウリーの観賞に堪えておったよ」 大きくはないが、よく通る声に、たちまち狂騒は収まる。 「そ・・・そっかぁ・・・」 「良かった・・・・・・」 ほっとした吐息が流れる中、ブックマンは口の端に意地の悪い笑みを浮かべた。 その視線の先では、彼の弟子が、早々と床に倒れ臥している。 「全っ然っ・・・・・・良くないさぁ!!!!」 低い場所から立ち上った絶叫に、皆の視線が集まった。 「じゃあナニ?! 俺は雪を降らせようって連中のために、一所懸命雪雲追い払ってたんさ?!」 涙まじりの声に、つい先程まで泣き叫んでいた連中が、気まずげな顔を見合わせる。 「ま・・・まぁ、そうなるかなぁ・・・・・・?」 苦笑混じりの声に、ラビは勢いよく起き上がって、テーブルのワインボトルを取り上げた。 「おっ・・・おい、ラビ!!」 「うっせー!ヤケ酒なんさ!止めんなっ!!」 リーバーの手をかいくぐり、暖炉の側に寄ったラビは、ブックマンの隣でえぐえぐとしゃくりあげながら、空けたグラスにワインを注いでは飲み干す。 「いいように使われおって」 苦笑しつつ、うな垂れた弟子の頭を撫でてやるブックマンの姿に、一同から笑みが漏れた。 「いやぁ〜ほのぼのしいねぇ〜!」 ちゃっかりとリナリーの肩を抱いて、コムイは暢気な声を上げる。 「リナリィィィ〜お兄ちゃんも、リナリーとほのぼのしたーぃ 「ハイハイ・・・」 擦り寄ってくる兄の頭を、リナリーは苦笑しつつ撫でてやった。 「まったく・・・ほのぼのしいことであるな」 リナリーに頭を撫でられて、嬉しそうにしているコムイや、楽しげに談笑している仲間達。 暖炉の前で拗ねているラビや、食堂の片隅でまたケンカしているアレンと神田でさえも、クロウリーの目にはとても温かく写った。 そう、冷たい風に乗って吹き込む、雪さえも・・・。 心の裡に住まうあの美しい女(ひと)と同じく、かけがえのない仲間達が側にいてくれることに、そしてその彼らが、こうして彼の誕生日を祝ってくれていることに、クロウリーは言い知れぬ喜びを感じていた。 「・・・・・・ありがとうである・・・・・・!」 感極まって、またもや泣き出したクロウリーに皆の視線が集まる。 「もー!また泣いてるよぉ、クロちゃん!」 「ハイハイ、泣かないで泣かないで!」 「おーぃ!閣下のグラスが空だぞー!誰かワイン!」 陽気な声が上がり、ほろ酔いのグラスにまたワインが注がれた。 「では! 閣下のご健康と、今後の益々のご活躍を願って!」 既に酔っ払っているらしい誰かの音頭に、皆のグラスが掲げられる。 「乾っっ杯っ!!」 再びの声に、グラスが涼やかな音を鳴らして触れ合った。 ―――― 一晩中続いたパーティも終わり、夜明けと共に意識を取り戻した清掃班が、パーティの後始末のため、いち早く食堂にやって来た時、部屋中に散乱した酒瓶に埋もれて、一人、倒れている少年を発見した。 「ねぇちょっと、大丈夫?酔いつぶれちゃったの?」 火の消えた暖炉の前で、うつ伏せになっていた彼を揺すると、ゴロン、と転がって仰向けになる。 「きゃっ・・・!」 まだ光の弱い朝日に照らされた顔は、明らかに高熱で赤く染まっていた。 「誰か手伝って!ラビさんが大変よ!」 彼女の悲鳴に応じて、たちまち数人が集まり、即席の担架でラビを医務室に運ぶ。 「・・・風邪だね。心配ないから、君達は仕事に戻っていいよ」 そう言って苦笑したドクターに、彼女たちは安心したように笑みを返して仕事に戻っていった。 「それにしても・・・」 真っ赤な顔をして、熱にうかされるラビを見下ろし、ドクターは苦笑を深める。 「ウォーカーとクロウリーが『いじめられっこ同盟』なんてものを作ったと聞いたが・・・君こそ有資格者なのではないかね?」 自分の言った言葉に吹き出して、ドクターは気の毒な患者の額に氷嚢を乗せた。 「早く元気になりたまえよ」 クスクスと、意地悪な笑声を、いまだ収められないままに・・・。 Fin. |
| 2006年の、クロちゃんお誕生日SSでした! 題名は、ラルクの曲名です。 『ラルクアンシエルでD.グレのお題』を、黙々と消化しています(笑) ほとんど書き終わったところで、『winter fall』にすればよかった、と思いましたが、これはこれで別のお話でやりますよ(笑) さてこのお話は、BBSで、バトンさんに頂いたネタが元になってます(・▽・) バトンさん、ありがとうございましたー!(^▽^) ・・・って、書いているうちに、方向がガンガン変わって、リク内容とは違うものになっちゃったんですけどね;>をい。 しかも、初っ端から拷問になるとは・・・; 『いっそ殺して』という拷問は、則天武后の時代の拷問吏が考え出した拷問方法だったように記憶しています。 この日本語訳、冗談だと思ってたら、どうも本当にそんな名前だったらしくて、覚えていたのです。>妙なもん覚えとるな; ヴラドのコトもホントです。吸血鬼伝説、調べたことあるから♪ 人工雪は、北海道大学の中谷宇吉郎先生の研究参照です。 世界で初めて人工的に雪の結晶を作った方です。>20世紀にな!(笑) 実際に降らせることができるかどうかは知らないっ!(・▽・)>をい。 |