† PiecesX †
〜5.Epilogue〜
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0時の鐘と共にクリスマス・イブが終わり、日付が25日に変わった途端、傍らの枢機卿の、無様に落書きされた顔に、コムイは不思議そうに首を傾げた。 「なんでミランダさんが寝てるの? なんでアレン君が花束持ってるの? なんで猊下の顔に落書きがしてあるの?」 「私もかね? コムイ室長、君も素晴らしい顔になっているが」 メガネにパッチリと開いた眼を描かれ、額に『サボり魔』の名を頂いたコムイに、枢機卿が大きな声で笑う。 「私のも見せておくれ」 恐縮して震える部下の手から鏡を受け取り、彼は自分の両頬に描かれた花丸と、皺で弛んだ瞼に濃く描かれたまつげに息を詰まらせるほど笑った。 「だからここは面白い!」 大声で笑い飛ばすと、数人が気まずげな笑みを交わす。 ・・・自分達が実行犯であると、白状したようなものだった。 それを見止めながら、枢機卿は顔も拭かずに談笑を続ける。 彼がそのような態度であるため、同じく落書きされた聖職者達や大元帥達も、自分だけ落書きを拭うわけにも行かず、笑みを引きつらせて枢機卿にならった。 「じゃ、俺は先に失礼します」 再び室内に談笑が満ちた頃、リーバーがミランダを抱き上げて、食堂を出て行く。 「ミランダさん、どうしたの?」 時間が元に戻る前に、ちゃっかりとコムイの側についていたリナリーは、兄の問いに慌てて笑みを向けた。 「強いお酒でも飲んだんじゃない?酔いつぶれちゃったみたいだわ」 とっさに適当な言い訳をすると、コムイはそれ以上追求せず、枢機卿との会話に戻る。 ―――― バレたかな・・・。 兄の傍らで、枢機卿の話を聞く振りをしながら、リナリーは不安げにミランダの事を考えた。 自然に逆らって時間を止めていたミランダが倒れてしまったのは、彼女自身の覚悟もあり、気にしないように努めている。 だが、察しのいい兄のこと・・・このいたずらの背景に、彼女の能力があることには、とっくに気づいているに違いない。 ―――― マズイな・・・・・・。 枢機卿の冗談に笑う振りをしながらも、早速対策を練っているだろう兄に、リナリーが焦りを隠せないでいると、枢機卿が彼女に微笑みかけた。 「では・・・そろそろ失礼しようか。老人には、夜が辛くての」 パーティのお開きを告げる言葉に、リナリーは顔を上げる。 「おやすみ、リナリー 左右の頬に軽くキスする合間に、枢機卿は忌々しげなコムイの目を盗んでそっと囁いた。 「私がいる間は、コムイを引き止めていてあげよう。頑張りなさい」 驚いて目を見開くリナリーに、枢機卿はいたずらっぽく笑い、嫌がるコムイを無理矢理引き連れて食堂を出て行く。 「猊下・・・!」 ―――― サイッコー!! 聖職者への尊敬の気持ちを新たに、リナリーは強く拳を握った。 ミランダが目を覚ますと、視界はすべて、白い布で囲まれていた。 「倒れちゃった・・・のね・・・」 ついさっきまで見ていた夢と交じり合って、判然としない記憶を手繰る。 「成功・・・したのよね?」 夢でなければ、と呟くと、彼女の声が聞こえたか、ベッドの周りを覆っていたカーテンが引かれた。 「なんだ、起きたんっすか。朝まで寝てて良かったんすよ?」 笑みを含んだ声に、ミランダは不安げな目でカーテンを開けたリーバーを見上げる。 「上手く・・・行きました・・・?」 「はい。これ以上ないほど」 片目をつぶって頷いた彼に、ミランダはほっと吐息した。 「良かった・・・走り回った甲斐がありました」 起き上がると、頭は少しふらついたが、痛みを訴える箇所はどこもない。 「私・・・強くなったみたい」 嬉しげに笑うと、逆にリーバーが、気遣わしげに眉をひそめた。 「とはいえ、身体に負担が掛かってないわけがないでしょう。 もう無理はしないで下さい」 「はい・・・」 叱られてもなぜか、嬉しそうに笑って、ミランダが頷く。 「ちゃんとわかってますか?」 ミランダの態度に、リーバーが表情と口調をしかつめらしく厳しいものに変えるが、彼女はいたずらっぽい笑みを浮かべた目で、リーバーを見上げた。 「でも・・・楽しかったでしょ?」 「・・・・・・・・・・・・はい」 反論を諦めたリーバーは、しかつめらしい表情すら維持できず、苦笑して頷く。 「ふふふ・・・ あの顔が見れただけで、頑張った甲斐がありました 楽しそうに笑うミランダにつられて、リーバーも吹き出した。 「あのシーン、室長が見たらどんな顔するか・・・!」 意地の悪い想像に、湧き出る笑声を堪えきれず、リーバーは肩を震わせる。 「そうですね。ティムちゃんならきっと・・・・・・」 記録しているだろう、と言いかけたミランダは、貧血を起こしそうなほど一気に青ざめた。 「リリリリリリーバーさんっ・・・!!」 「あのメモリー、消さねぇと!!!!」 リーバーも真っ青になってきびすを返す。 そのまま医務室を出ようとして、彼は振り返った。 気遣わしげな顔にミランダは彼の言わんとすることを悟って、ベッドの上で頷く。 「私は大丈夫ですから、行ってください!!」 「はいっ!!」 そのまま駆け出したリーバーの背を見送って、ミランダはベッドに座り込んだまま、真っ青な顔を俯けた。 「おいアレン!!ティムは?!」 枢機卿が去ったとはいえ、まだ盛り上がりの衰えない食堂へ、血相を変えて飛び込んできたリーバーに、皆が目を丸くする。 「え・・・ティムですか・・・?」 アレンはきょろきょろと辺りを見回すが、いつも彼の側を飛んでいるゴーレムは、その尻尾の先すら見えなかった。 「どこ行ったんだろ?」 暢気に首を傾げるアレンに、リーバーが切羽詰った顔を寄せる。 「ティム、『あのシーン』を記録してるかもしんねぇぞ?!」 「え・・・・・・」 囁かれた言葉の重大さに、アレンは真っ青になって硬直した。 「ま・・・ままままままさかっ・・・!!ティム!!ティム――――!!!!」 必死に食堂中を探し回るアレンの声に、しかし、ティムキャンピーはいつまでも姿を見せない。 「ティムがどうかしたんさ?」 先程のアレンと同じく、暢気に首を傾げるラビに、アレンは真っ青な顔を寄せた。 「ティムがコムイさんに捕まったかもしれない!!」 「はぁ?それがどうし・・・・・・」 言いかけて、ラビの顔からも血の気がうせる。 「オ・・・俺の記憶に寄れば・・・ミランダが時間止めてた時、ティムはお前の頭の上で尻尾振ってたさ・・・・・・・!」 「やっぱりか・・・」 リーバーが忌々しげに舌打ちし、アレンが悲鳴を上げた。 「どーしよう!!記録されてるよ!!コムイさんに見られちゃったら・・・!!!!」 『記録』という単語に、ラビも別の意味で青ざめる。 ―――― 俺がアレンとリナのデートをコムイにリークした事、記録されてる・・・? 命の危険を感じて、アレン以上に血の気が失せた顔を、ラビはぎこちなく巡らせた。 ―――― ティムは・・・本当にコムイのとこか・・・? 記憶を辿り、目の端に写っていたティムキャンピーの軌跡を追う。 ミランダが止めていた時間が再び動き出し・・・ティムキャンピーが真っ赤になって硬直したままのアレンの頭を離れ・・・コムイの側にいたリナリーにじゃれ付き・・・彼女が相手をしなかったため、飛び立ったところで・・・・・・ 「・・・コムイに捕まってるさ」 ラビの断定に、アレンの顔色は青を過ぎて土気色になった。 「どうしたの?」 パーティ会場で悲鳴を上げるアレンをいぶかしんで、リナリーが寄ってくる。 リーバーが事情を説明すると、彼女もまた、顔を強張らせた。 「なんとかして、取り返さなきゃ・・・!」 「でも、どうやってさ?ミランダはもう、無理させらんねぇぞ?」 ラビの言葉に何度も頷いて、リーバーも同意する。 と、アレンとリナリーが声を揃えた。 「それを考えるのがラビじゃない」 「っ俺かい!!」 舌打ちしながらも、彼の頭はものすごい勢いで動いている。 ややして、 「・・・リーバー、何人か借りれるさ?」 ポツリと呟いたラビに、リーバーは頷いた。 「お偉いさんに落書きした酔っ払いどもでいいか?」 「おぅ、そんだけいりゃ十分! むしろ、もっと酔っ払って欲しいくらいさ にんまりと、ラビは自信ありげに口元をほころばせる。 「じゃあ・・・二次会、始めっか♪」 陽気な声と共に、ラビは自身のイノセンスを発動させた。 その頃、枢機卿の使う客室に、無理矢理招じ入れられたコムイは、話し好きな老人に向かって、愛想笑いを張り付かせていた。 「せっかく冬のイタリアに来たのに、ヴェニスを見ずに帰るとは、残念なことをしたものだよ、室長。 今度は是非、ゆっくりとおいでなさい。 あぁ、もちろんその時は、リナリーも連れて来てくれなくては困るよ?」 「はは・・・妹がお気に召したようで・・・・・・」 いい加減、うんざりとした声音で乾いた笑声をあげるコムイに、気づかない振りをして枢機卿は鷹揚に頷く。 「リナリーはとても可愛らしくて、いい子だね。 あんなに若く、愛らしい子が戦場に赴くなど、これほど哀しいことはない。 こんな戦は、早く終わらせなくてはいけないね」 他の者が言えば、『戦場も知らない人間が気楽なことを』と、反感を持たれた事だろうが、この枢機卿にしみじみと言われると、なぜか胸に沁みた。 「はい・・・出来る限り、終結を急ぎたいと・・・」 礼儀正しく一礼するコムイに、枢機卿は何度も頷く。 「戦が終わったら、イタリアに来なさい。 なんと言ってもイギリスは気候が悪い上に、ロンドンときては空気も悪い。 コムイ室長、長生きしたかったら、ぜひともイタリアに移住しなさい」 熱心に勧められて、コムイはまた、乾いた笑声をあげた。 ―――― そして思う存分、リナリーを側に置くつもりですか、このイタリア人ガ。 忌々しい気分が表情に出ないよう、コムイが懸命に努力していると、不意に、窓の外が明るくなる。 「なんだね・・・?」 老齢にしては身軽く、窓辺に寄る枢機卿に従って、コムイも窓の外を見遣った。 と、再びの破裂音と共に、夜空に炎の花が咲く。 「これは素晴らしい!」 感嘆する枢機卿の傍らで、コムイはあんぐりと口を開けた。 ―――― ナニやってんだぃ、あの子達・・・・・・。 テラスに続く窓を開け、ベランダから身を乗り出して見下ろした中庭では、コムイの部下達が大はしゃぎで花火を打ち上げている。 と、 「あー 「猊下ー 自分達を見下ろす存在に気づいて、コムイの部下達が陽気に手を振った。 「今何時だと思ってんのさ、キミタチ!」 コムイが、珍しく常識的な意見を述べると、中庭の部下達は、揃って耳に手を当て、首を傾げる。 「いまー!何時だとー!!」 強い向かい風を受けながら、コムイは声を張り上げるが、中庭にいる部下達には届かないようだった。 更に声を張り上げようとするコムイを、傍らの枢機卿が制す。 「いいじゃないか。花火を見せてもらおう」 にこにこと、楽しげに笑う彼とコムイの間を、その時、一際強い風が吹きぬけた。 「掏(ス)ってきたわよ!!」 歓声をあげて戻ってきたリナリーを、アレンとリーバーが拍手で迎える。 リナリーの手の中に、おとなしく納まっていたティムキャンピーは、彼女が手を開くとパタパタと飛び立って、アレンの頭上に収まった。 「まだ・・・見てないですよね・・・?」 ドキドキと、恐怖に顔を引きつらせながら、アレンが頭の上のティムキャンピーを手に取る。 「ティム・・・コムイさんにメモリー見せた・・・?」 不安げな声で問うと、ティムキャンピーは丸い身体を横に振った。 「よ・・・良かった・・・・・・!!」 全身で安堵の吐息をつき、アレンはティムキャンピー奪取の功労者であるリナリーに、深々とこうべをたれる。 「ありがとうございました!」 アレンが礼を言うと、なぜか彼の手の中で、ティムキャンピーも前に傾く。 「どういたしまして 彼らのシンクロした動きに、リナリーはクスクスと笑声を上げた。 「じゃあ早速! ティム、今までのメモリーを全・・・」 「待て待て待て待て!!!!」 消去、と言おうとしたアレンを、リーバーが慌てて止める。 「アレン!お前、まだトルコでの戦況報告してねぇだろ!!」 「あ・・・」 言われて、アレンは気まずげに頭を掻いた。 「そっか、ごめんなさい。 帰還報告はしたけど、戦況報告まだでしたね」 ティムをラビに持っていかれてたから、と呟くアレンの手からティムキャンピーを取り上げて、リーバーが深々と吐息する。 「危ないとこだったぜ・・・。 とりあえず、消していいメモリーと、必要なメモリーを確認するか」 そう言って、リーバーがティムキャンピーのメモリーを映し出そうとした時―――― パタパタと軽やかな羽音を立てて、リーバーの手からティムキャンピーが飛び立った。 「え?!ティム?!」 「どこ行くの?!」 驚いて、ティムキャンピーの姿を目で追うアレンとリナリーにも、彼は知らん顔でドアの外へ飛んで行く。 「ティム!!」 慌てて追いかけたが、二人がドアに駆け寄った時には、既にその尻尾の先すら見えなくなっていた。 同じ頃。 いたずら実行犯達が派手に花火を上げる間、自身のイノセンスで強風を起こし、リナリーをコムイのいる部屋に導いた影の立役者は、ブックマンからちょろまかした高級な葉巻の紫煙を、風に揺らめかせていた。 風上でじっと待っていると、彼の思惑通り、軽やかな羽音を立てて金色のゴーレムがやってくる。 ラビは、葉巻の薫りに誘われてやってきたティムキャンピーににやりと笑うと、その吸い口を差し出した。 「ティムー ジジィの葉巻やるから、俺と一緒にいた時のメモリー、消してくんね?」 薫りの良い紫煙を羽根に絡めながら、しばらく迷うようにうろうろとしていたティムキャンピーは、葉巻から火が消えそうになった瞬間、ぱくりと吸い口に噛み付く。 「〜〜〜♪」 再び灯った火に、薫りの良い紫煙が立ち上ると、ティムキャンピーは長い尻尾を満足げに揺らした。 「うまいだろ、ティム?ジジィのとっておきだぜー? ・・・・・・さぁ、満足したら、とっとと例のメモリーを消すさ。なぁ?」 ラビがにじり寄ると、もうちょっととばかり、ティムキャンピーは顔を背けて、葉巻を深く吸った。 「ティームー? メモリー消しちまったら、それやるからさー・・・早く・・・・・・!」 一旦葉巻を取り上げようと手を伸ばすと、ティムキャンピーの長い尻尾が鞭のようにしなって、ラビの手を打ち据える。 「いってぇ!!」 高い悲鳴を上げて、ラビはティムキャンピーを睨みつけた。 「俺がやったんだぞ、それ?!」 ラビの抗議に、しかし、ティムキャンピーは知らん顔で葉巻をふかす。 「・・・ったく、さすがクロス元帥の作ったゴーレムさ! 性格悪いったらありゃしねぇ!」 忌々しげに呟きながら、ラビはティムキャンピーの尻尾を捕まえて引き寄せた。 「アレンも性格悪いしな。 やっぱ、朱に交われば赤くなるんさ」 尻尾を手繰って羽根を掴み、ティムキャンピーの動きを封じると、ラビはその口から葉巻を取り上げる。 「さーぁ、ティム! コレが欲しけりゃ、俺がアレンとリナのデートをコムイにリークしたメモリーを消すさ」 イヤイヤと首を振るティムキャンピーに、ラビが更に詰め寄った時、彼の横顔に影が差した。 「・・・なにを・・・リークしたですって・・・・・・?」 地を這うような低い声音に、ラビはびくりと震える。 振り返ることもできず、硬直したラビの手から、ティムキャンピーが飛び立った。 「・・・・・・・・・あ!」 引きつった声をあげ、ティムキャンピーを目で追った先に、冷ややかに微笑むアレンの顔があった。 「ラビ・・・・・・!」 血塗れたように紅い左手が光を帯び、鋭い爪が伸びる。 「信じてたのに――――!!!!」 絶叫と共に振り下ろされた爪が、一瞬前までラビがいた場所を切り裂いた。 「まっ!!待つさ!!落ち着くさ!!」 「問答無用です!!!!」 「きゃあああああああああ!!!!」 夜も更けた城内に、凄まじい破壊音とラビの悲鳴が響き渡る。 「クラウン・エッジ!!」 「大技放つんじゃねェェェェェ!!!!」 アレンの放った技がもたらした爆風に、ラビだけでなく、ティムキャンピーまでもが窓の外へ弾き飛ばされた。 そのまま地面に落下していったラビに対して、ティムキャンピーは空中でくるくると回って体勢を立て直し、そのまま羽ばたいて、一番近い窓の中へと飛び込む。 「・・・なんの騒ぎだい? あれ、ティム?ここにいたんだ」 上階の騒ぎに、窓辺に寄ったコムイは、自身の手の中に飛び込んできたゴーレムを部屋に放って窓を閉めた。 「さーぁ・・・。 あのクソガキがなにやらかしたのか、じっくり見てやろうかなぁ・・・・・・」 ベッドに腰掛けたコムイは、長い腕を差し伸べて、ティムキャンピーを手に止まらせる。 「ティム、時間が止まっていた時の映像を見せておくれ」 コムイの要請に応じて、ティムキャンピーは映像を映し出し・・・・・・聖夜の空に、新たな絶叫が響き渡った。 Fin. |
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書く予定のなかった、アレン君お誕生日SS第5弾です(笑) 4話目が遅刻してしまったので、お詫びを兼ねての『その後』です(^^;)すんませんっした!(><;) 書く予定はなかったとか言いつつ、実は、4話に入れられなかったエピソードを書いただけなんですがね(^▽^;) お楽しみいただけたら幸いです |