† twinkle,twinkle †






 クリスマスも無事終わり、そろそろ年も改まろうかと言う時間、ワインで温まった息を揚々と吐きながら、ミランダは軽い足取りで自室に入った。
 入手したばかりのゴーレムを室内に放つと、彼女は酔い覚ましにと持たされたティーポットから、熱い紅茶を注ぐ。
 「ふふ・・・v 可愛いv
 ティーカップを持ってベッドに腰を下ろし、ミランダは黒く真ん丸い通信用ゴーレムが、コウモリに似た羽根を羽ばたかせて飛び回る様を楽しげに見上げた。
 「せっかくだから、名前をつけようかしら・・・」
 じゃれ付くようにミランダに寄ってきたゴーレムを、指先でからかっていると、不意に耳元で呼び出し音が鳴る。
 「ハイハイv
 酔っ払ったミランダは、驚きもせず陽気に笑い、声を掛けて回線を開いた。
 『しつちょーぅ。コッチ、中国に着きやしたー・・・って!!
 えぇ?!なんでミランダさんっ?!』
 目を丸くして絶叫するリーバーの映像に、ミランダはひらひらと手を振る。
 「ふふv
 コムイさんと、賭けをしたんですよーv 映像も転送できるゴーレムを、戦利品としていただきましたv
 『え・・・?じゃあ・・・・・・?』
 「えぇv リーバーさんが驚いている顔、ちゃんと見えてますよv
 そちらも見えますか?」
 と、ミランダがまた陽気に手を振ると、回線の向こうでリーバーが苦笑した。
 『ご機嫌ですね・・・』
 「ハイv だって、コムイさんに勝って、こうやってリーバーさんとお話できるんですものv
 がんばった甲斐がありましたv
 いつものミランダであれば、到底口にできないような大胆な台詞に、かえってリーバーが赤面する。
 『と・・・ところで、室長に勝ったっていうのは・・・?』
 茹で上がったようになったリーバーの顔に反応がなかったのは、画像の精度が低かったせいか、ミランダ自身が酔っ払っていたせいか・・・。
 おそらくその二つの理由で、ミランダはリーバーの表情に何のコメントもせず、得々と話し出した。


 その日、時計が0時を指せば、日だけではなく年までが改まる夜。
 行く年を惜しむ杯と、新たな年を待つ杯が重ねられ、パーティは既に酔いの回った人々の、陽気な笑声で賑やかさを増していた。
 そんなパーティ会場を、ミランダは満足げに見渡す。
 ―――― 思えばずっと、一人で過ごしてきた。
 クリスマスも新年も、誕生日も・・・。
 部屋の隅に置かれた椅子に熱い身体を預けて、ミランダはワインに温まった息をそっと吐いた。
 酔いのせいか夜が更けたせいか、微かな眠気に覆われた目で、再び賑やかなパーティ会場を見渡していた彼女は、ある姿を目にして、はっと瞼から眠気を振り払った。
 「アレン君・・・」
 真っ青な顔をして、コソコソとパーティ会場の様子を伺っているのは、命の危険を感じて本部を逃げ出したはずのアレンだった。
 ミランダは席を蹴って立つと、壁沿いにそろそろと、しかし、できる限り急いで、アレンの元へ駆けつける。
 「ど・・・どうしたの?
 あなた、ほとぼりが冷めるまで帰ってこないはずじゃ・・・?」
 背後から声をかけると、アレンはびくっと肩を震わせて、怯えた顔で振り返った。
 「ミ・・・ミランダさん、隠して・・・!」
 アレンに、すがるような目で見られたミランダは頷いて、ロングドレスの裾を持ち、ふわりと広げる。
 「キッチンまででいいの?」
 「はい!なんとか逃げ込みます!」
 アレンは頷くと、ミランダの傍らにしゃがんで、そろそろと歩む彼女の歩調に合わせて移動した。
 ―――― 皆さん、酔っ払ってて良かった・・・。
 厨房の中にアレンが転がり込むのを確認すると、ミランダは胸に手を当て、ドキドキと跳ねる鼓動を抑える。
 パーティ会場にいる者たちのほとんどが、周りが見えていない状態である事が幸いした。
 そうでなければ、ミランダの不自然な動きが見過ごされるわけもない。
 ようやく、ほっと吐息した時、
 「アラ、ミランダ!アンタこんなとこでナニやってんの?」
 会場の配膳から帰って来たジェリーに突然声をかけられて、ミランダはビクリと震えた。
 「あ・・・あの・・・あの・・・」
 とっさに言い訳が出てこず、まごまごしていると、カウンターの向こうからアレンが顔をのぞかせる。
 「アラ!ア・・・」
 呼ぼうとした名前を、ジェリーは飲み込んだ。
 彼女も、アレンがコムイに命を狙われていることを十分承知している。
 ジェリーはそそくさと厨房に入ると、カウンターの向こうに隠れているアレンの隣にしゃがみこんだ。
 「・・・どーしたの、アレンちゃん!
 アンタ、猊下に付いてヴァチカンに行っちゃったんじゃないの?!」
 「・・・行きましたよ、ドーバー海峡を渡って、フランスにまで・・・・・・!」
 力なくうな垂れたアレンの頭を撫でて、ジェリーは厨房に残った料理を差し出す。
 「よしよし、お腹すいたのね・・・?」
 捨て猫を拾うに似たジェリーの行為に、ミランダも傍らにしゃがみこんで苦笑した。
 「それで・・・アレン君?
 あなた、猊下の護衛はどうしたの?せっかくリーバーさんがとりはからってくれたのに・・・」
 ミランダが首を傾げると、アレンはうな垂れるようにして頷く。
 「あの・・・ヘタレウサギが余計なことさえしなければ・・・・・・!」
 恨みがましい声に、ジェリーとミランダは一様に苦笑した。
 コムイがヴァチカンへ出張に行っている隙を狙って、一緒に出かけたアレンとリナリーの事を彼にリークしたのはラビだったが・・・その彼は今、うまうまと逃げ出したアレンの代わりに、コムイの恨みを一身に買ってしまい、塔の上に吊るされている。
 が、デートだけならともかく、ミランダが時間を止めている間の事まで見られてしまい、アレンは本部にいる間は、ヴァチカンからやってきた枢機卿の背後にかくまわれることで、なんとか処刑を免れていた。
 そして、彼を庇ってくれた枢機卿がヴァチカンに帰る時になると、本部を出る口実として、リーバーがアレンを枢機卿の護衛に任命してくれたのだ。
 ・・・が。
 直後、リーバーはコムイの代理として、アジア支部への出張を命じられた。
 コムイの代理が務まるほどの科学者で、中国語も話せる言語学者、という彼のスキルが、リーバーをアジア支部に派遣するコムイの建前だったが、本音は別のところにあったに違いない。
 その推測通り、アレンはリーバーが本部を出た直後に帰還を命じられ、泣く泣くドーバー海峡を戻ることになった・・・。
 「まったく、コムイは・・・!」
 ジェリーは呆れ果てて眉をひそめ、ミランダは困惑げに小首を傾げる。
 「困ったわ・・・コムイさんのことですもの、アレン君になにをするか・・・・・・」
 普通なら、貴重な戦力であるエクソシストを排除するなどありえないが、世界の何よりも妹を愛しているコムイに危機感を与えた以上、アレンが無事で済むはずがなかった。
 「どうしましょう・・・・・・」
 リーバーがいない今、相談する相手もなく、アレンが不安げな目をジェリーに向けると、彼女も対処しかねてただ彼の頭を撫でる。
 「困ったわ・・・」
 吐息と共に、ミランダが再び呟いた時だった。
 「こーんなところで、なにしてるのぉ〜?」
 カウンター越しに間延びした声を掛けられて、その陰に隠れていた3人はぎくりと身を強張らせる。
 「っんな?!なんでもないわよ、コムイ!!
 アアアアンタこそどうしたの?!」
 慌てて飛び上がり、すかさず厨房の入口に立って、侵入を防ぐジェリーに、コムイがわずか、目を細めた。
 「いやー?
 なーんか、オンナノコ同士コソコソしてるなぁって思っただけー。何してるの?」
 何気ない風を装ってはいるが、こっそり厨房に入ったはずのミランダの存在を察知している辺り、コムイは彼女たちが何を隠しているか、既に知っているのだろう。
 「な・・・なんでバレたのかしら・・・?」
 「そりゃバレますよぅ・・・!僕が帰ったことは、入口の衛兵さん達が報告してるでしょうから・・・!」
 「あ、そうね・・・」
 アレンに指摘され、ミランダは気まずげに口元に手を当てた。
 きっと、アレンが帰ってきたら何を置いても報告するよう、指示していたに違いない。
 「アレン君、コムイさんに見つからないうちに裏口から・・・」
 カウンターの陰に隠れたまま、そっとアレンの肩を押し、裏口に行かせようとしたミランダは、見遣った窓辺に衛兵の姿を見止めて、慌てて彼を引き止めた。
 「コムイさんったら・・・!」
 どうやらアレンは、厨房に逃げ込んだことで、袋のネズミになってしまったらしい。
 迷った挙句、ミランダはアレンに隠れているように言いつけ、カウンターから顔を出した。
 「コ・・・コムイさん、私たちに何か、ご用だったんですか?」
 引きつった笑みを向けると、コムイは飄々とした笑みで応える。
 「うんv
 ・・・二人して、何を隠しているのか教えておくれv
 状況を知っているだろうに、あえて問うコムイに、さすがのミランダもカチンと来た。
 「何も隠してませんよ。ジェリーさんとおしゃべりしていただけです。
 でもこれ以上、パーティのお世話で忙しいジェリーさんを引き止めるわけにも行きませんから、そろそろ失礼しようと思っていたんですよ」
 「そう?それじゃあ、ボクが厨房入っちゃおうかなー?」
 カウンターに頬杖をつき、その下を覗き込もうとするコムイの前に慌てて立ち塞がって、ミランダは懸命に悲鳴を押し殺すアレンをかくまう。
 「コムイさんこそ、厨房に隠れちゃいけませんよ。
 年越しパーティの主催者でしょう?」
 にこりと微笑むと、コムイも笑って・・・しかし、首を振った。
 「ボクらにとっては、今日は大晦日じゃないんですよ。
 だからホラ、リナリーもとっくに部屋で寝てますしv
 「リナリーちゃん・・・」
 ピクリと、ミランダの眉が上がる。
 リナリーが今、この会場にいないのは、パーティに興味がないからではなく、コムイによって部屋に閉じ込められているからだ。
 通信ゴーレムを使って、ミランダに助けを求めた彼女だったが・・・リナリー自身ですら、自分が広い城内のどこに閉じ込められているかがわからず、助けようがなかった。
 「リナリーちゃんは一体、どこの部屋で寝てるんでしょうねぇ?」
 「えへへへへv ヒミツでぇーす!」
 にっこりと笑うと、コムイは白衣のポケットを探った。
 「そんなことよりミランダさん、ゲームしませんか、ゲーム!」
 「は?」
 リナリーの居場所への追求を避けるためか、さっさと話題を変えたコムイについて行けず、呆然とするミランダの目の前に、コインが差し出される。
 「賭けしましょうv
 ボクが勝ったら・・・そこに、ナニが隠れてるのか教えてもらいます」
 その言葉に、ミランダの全身から血の気が引いた。
 黒の教団において・・・いや、ほとんどの環境において、彼女ほど不幸と不運を背負って生まれてきた者はいない。
 彼女に対抗できる程アンラッキーな人間は、世界広しといえども、アレンくらいしか見当たらなかった。
 そんな、確実に彼女の負けを見込んだコムイの申し出に、ミランダは、汗の浮いた顔を引きつらせながら首を振る。
 「えー?嫌なら、無勝負で侵入しちゃうけどー?」
 にょっと、カウンターの陰を覗き込もうとするコムイに、アレンの必死に抑えた悲鳴がかすかに漏れた。
 ミランダは、自分の足元でガタガタと震えるアレンをちらりと見遣ると、決然としてコムイに向かう。
 「コムイさん・・・じゃあ、私が勝ったら、なにをくれますか?」
 ミランダが必死で微笑むと、コムイはちょっと驚いたように瞬き・・・ややして、笑みを返した。
 「アレン君の無事と、リナリーの事以外なら、なんでもv
 「ひどいっ!!なんですか、それ!!」
 機先を制されて、ミランダが絶叫すると、コムイは愉快そうに笑う。
 「なにが欲しいですか、ミランダさん?」
 コインをもてあそびつつ問うコムイを睨みつけ、ミランダは決然と頷いた。
 「では、私が勝ったら、あなたの通信用ゴーレムを頂きます!」
 「へ?なんで?」
 意外な要求に目を丸くするコムイに、ミランダは目を細める。
 「リナリーちゃんを探すんですよ。
 コムイさんの通信用ゴーレムなら、映像も受信できますから、どこにいるかわかるでしょう?
 それと・・・!」
 ミランダは、きっ、とコムイを睨みつけると、手を伸ばして彼の放り投げるコインを奪い取った。
 「あ!」
 目を丸くするコムイの前で、ミランダはパーティ会場の真ん中にコインを投げ捨て、頬を膨らませる。
 「コインなんてフェアじゃありません!
 私でもちゃんと勝負できるものじゃないと!」
 「は・・・はぁ・・・・・・」
 気を呑まれて、じりじりとあとずさったコムイを真っ直ぐに睨みつけると、ミランダはビシ!と、パーティ会場のテーブルを示した。
 「勝負です、コムイさん!」
 「え・・・?」
 厨房の入口で、必死にコムイの進入を防いでいたジェリーの目が、ミランダの指先とテーブルの上の・・・ワインボトルを見比べる。
 「先に酔いつぶれた方が負けです!!」
 「えぇ――――?!」
 か弱いミランダの、あまりにも男らしい台詞に、ジェリーとコムイだけでなく、カウンター下のアレンまでもが絶叫を上げた。


 「うそ・・・マジ?」
 「えー・・・?なんかの間違いじゃねぇの?」
 「もしくは俺ら、相当酔っ払ってる・・・?」
 信じ難い光景を、容易に信じることができず、会場に集った人々は皆、一様に目を丸くする。
 が、それは夢でも幻でもなく、ミランダとコムイは、テーブルを挟んでにらみ合っていた。
 息を潜めて見守る団員達の中で、ミランダが引きつった笑みを浮かべる。
 「ルールは簡単なものにしましょう。
 お互い、グラスのワインを『乾杯』の声と同時に飲み乾すんです。
 グラスを乾せなかったら負け。どうですか?」
 ミランダの提案に、
 「あぁ、ミランダさん、中国の風習に合わせてくれたんですね!」
 コムイはぱぁっと顔を輝かせて、空のグラスを手にした。
 「え?」
 思わぬ言葉にミランダが目を丸くすると、コムイも瞬いて首を傾げる。
 「あれ?『乾杯』ですよね?
 ボクの国じゃ、『乾杯』はその名の通り、杯を飲み干すんですよ」
 楽しげに行って、コムイは手の中でグラスをもてあそんだ。
 「あ・・・そうなんですか・・・・・・」
 「はいv お酒強いですヨ、ボクv
 やめるなら今のうちだ、と、言外に言うコムイに、しかし、ミランダは引きつった笑みを向ける。
 「ドイツ人だって、朝食にビールは当たり前ですよ」
 「あはははははv 酒豪対決ですねーv
 明るい声音で言うと、コムイはボトルを取って、ミランダのグラスに紅いワインを満たした。
 「・・・中国のお酒には強くても、ワインはどうでしょうね?」
 挑戦的な口調で言うと、ミランダもコムイの手からワインボトルを取りあげ、彼のグラスに注いでやる。
 「確かに、ワインで勝負するのは初めてかなv
 「ふふふ・・・v 負けませんよv
 キィン・・・と、部屋に響き渡る澄んだ音に、数人が、銃声でも聞いたかのように首をすくめた。


 「乾っ杯!!」
 既に幾度目かの掛け声に、二人を見守る団員達から拍手が起こる。
 コムイの酒豪ぶりは、既に多くの者が知っていたことだが、いかにも華奢でか弱そうなミランダが易々と杯を空けて行く様には、感嘆の目が向けられた。
 興味津々と二人の周りに集まった団員達の中では、一部で賭けも始まったらしい。
 「イケるじゃないですか、ミランダさん!」
 「ふふv コムイさんもv
 二人とも、当初の目的を忘れてしまったのか、陽気に笑って互いのグラスにワインを注いだ。
 「乾っ杯ー♪」
 キィン・・・と打ち鳴らされたグラスは、次の瞬間には乾されている。
 「ちょ・・・ちょっとちょっとアンタ達!!いい加減にしなさいよ!!」
 決して小さくはないグラスを、もう何杯も乾している二人の間に、ジェリーが慌てて割って入った。
 「何も食べないでワインばっかり!身体に悪いわ!」
 が、勝負中の二人は、紅潮した顔をジェリーに向けて首を振る。
 「全っ然だいじょーぶだよぉ!このくらーぃ!ねぇ?!」
 「えぇv まだまだイケますよv
 コムイの挑戦的とも取れる問いに笑って頷いて、ミランダはジェリーが取り上げたワインボトルを取り戻した。
 「でもコムイさん?
 ジェリーさんも心配してますし、そろそろ負けを宣言したらどうですか?」
 ミランダが、コムイのグラスにワインを注ぎつつ言うと、
 「ミランダさんこそーv か弱いあなたが、これ以上無理することはありませんよv
 ミランダの手からワインボトルを取り上げたコムイが、彼女のグラスに注ぎつつ笑う。
 「あら。私のことは、ご心配なくv
 「ボクもーv
 キィン・・・と、またもや打ち鳴らされたグラスに、ジェリーは深々と吐息して、厨房に下がっていった。


 「ど・・・どうですか、あの二人・・・?」
 まだカウンターの影にしゃがみこんで、隠れていたアレンに、ジェリーは苦笑した。
 「いくらもうすぐ新年だからって、はしゃぎすぎよねぇ、二人とも」
 頬に手を当て、小首を傾げたジェリーを、アレンは不安そうな目で見上げる。
 「ぼ・・・僕、今のうちに逃げられないかな・・・?」
 「まぁ・・・今はやめときなさい。酔っ払った振りしたコムイに、殺されるわよ・・・」
 「ひぃっ・・・・・・!」
 口元を押さえて、必死に悲鳴を押し殺すアレンの傍らにしゃがみこみ、ジェリーは気の毒そうな顔でアレンの頭を撫でてやった。
 「とりあえず、勝負がつくまで待ちなさい。どっちに転んでも、アンタに悪いようにはならないわよ」
 「え・・・?なんで?」
 不思議そうな顔をするアレンの問いに、ジェリーは口元に手を当ててにんまりと笑う。
 「ふふ・・・v
 アタシ、コムイともミランダともお酒飲んだことあるんだけどぉ、どっちもものすごくお酒強いのよねェ。
 ワインボトルの10本や20本、簡単に空けちゃうわよぉv
 ・・・・・・でも」
 クスクスと笑って、ジェリーが指し示す先を、アレンはこっそりと見遣った。
 もう何度目か、数えきれないほど重ねられた杯をまた満たして、乾杯の声を上げる二人の様子に、アレンは寒気を感じて顔を引っ込める。
 「二人とも、目が笑ってないぃぃぃぃ!!!!」
 「お互い、ライバルを見つけたって感じでしょ?
 だから、アレンちゃんが大丈夫なのよv
 と、力強く請け負って、ジェリーが頷いた。
 「あの二人が本気でやりあっている以上、確実にどちらかが酔いつぶれるわ。
 けど、残った方も絶対無事じゃすまないわね。
 つぶれる寸前まで行って、明日は記憶がないんじゃないかしらv
 「えぇー・・・・・・。
 コムイさんはともかく、ミランダさんにはあんまり無理をさせたくないんですけど・・・・・・」
 アレンの紳士的な言い様に、ジェリーは笑って、ぽふぽふとアレンの頭を叩く。
 「大丈夫。
 今の様子を見る限り、あの子・・・」
 ジェリーの言葉を遮るように、会場から歓声が沸いた。


 「・・・っそろそろ降参しませんか、ミランダさんっ?!」
 「あらあら、コムイさんたらお顔が真っ青ですよ?もうやめたらどうですか?」
 ほんのりと紅潮した頬に手を当て、クスクスと楽しそうに笑うミランダの目は、しかし、笑っていなかった。
 「なんのっ・・・!まだまだっ・・・・・・!!」
 今にもテーブルに突っ伏しそうな頭を気力のみで上げて、コムイはワインボトルを取り上げる。
 震える手でグラスに傾けると、テーブルクロスの上に赤い液体が大量に零れた。
 「無理をしない方がいいですよ」
 ミランダはコムイの手からワインボトルを取り上げると、危なげない手付きで彼のグラスにワインを満たす。
 「さぁ?乾杯しましょうか」
 ミランダが滑らかな動きで自分のグラスを掲げると、コムイはテーブルに腕をついて身体を支えながら、震える手でグラスを掲げた。
 「乾・・・・・・っ!」
 コムイの震える声が途切れる。
 テーブルクロスの上に、ワインを鮮血のように零して彼が倒れると、ミランダはコムイが握ったままのグラスにグラスを合わせて、涼やかな音を鳴らした。
 「私の勝ちです」
 グラスの触れ合う音に似た、澄んだ声音で言うと、彼女は自分のグラスを一気に飲み干す。
 「コムイさん、あなたの通信用ゴーレムはもらいましたよv
 大歓声の中、空のグラスを掲げたミランダは、誇らしげに笑った。


 「・・・そう言うわけで、コムイさんを潰してきましたv
 『はあ・・・』
 嬉しそうに笑うミランダに、リーバーは苦笑した。
 『結局、何本くらい空けたんすか・・・?』
 恐る恐る問うリーバーに、ミランダは細い指を折って数える。
 が、その数が15本を超えた辺りで、リーバーが制止した。
 『そんなに飲んで、平気なんすか?!』
 絶叫のあまり、音声のひび割れるリーバーに、ミランダは陽気に笑う。
 「だって私、ズルしましたからv
 『え・・・?ズル・・・?』
 目を丸くする彼に、ミランダは腕を掲げて自分のイノセンスを示した。
 「時間回復かけてたんですよv
 ちょっと酔っ払った状態からのリカバリーにしましたから、皆さん、気づかなかったみたいv
 ひとしきり、楽しげに笑うと、ミランダは湯気を上げる紅茶をすする。
 「リカバリーが終わった時、倒れても大丈夫なように、先に部屋に戻ったんです」
 ワインボトルをダース単位で空けてさえ、自分の足で立つ彼女の酒豪ぶりに、引き止めるものなどいようはずがなく、誰もが拍手で見送った。
 「ところで、リーバーさん?そちらの様子はどうですか?」
 ミランダが問うと、リーバーは切なげに吐息する。
 『それが、こっちはカレンダー自体違ってて・・・今日は大晦日でもなんでもないらしくって、みんな普通に仕事して普通に食事して普通に寝てしまいましたよ・・・・・・』
 悲しそうにぼやくリーバーを見ると、酔ってはいてもさすがに気の毒になって、ミランダは表情を改めた。
 「早く帰ってきてくださいね。そしたら、改めてお祝いしましょう」
 『そうっすね・・・乾杯してくれますか?』
 「えぇ!」
 ミランダがにこりと笑うと、回線の向こうでリーバーが俯き、なにやら手探りするような動きをする。
 『どうせなら、今乾杯しましょうか』
 顔を上げたリーバーは、シャンパンのように泡立つ液体を入れたグラスを掲げた。
 「あら・・・ちょっと待って下さいね!」
 言うや、ミランダは慌ててベッドから立ち上がるが、彼女の部屋にはティーセットはあってもグラスはない。
 「これでいいですか・・・?」
 格好がつかないけど、と、恥ずかしげに笑って、ポットからまだ温かい紅茶を注ぐと、ミランダはカップを掲げた。
 「乾・・・」
 『ちょっと待って下さい!』
 言いかけたミランダを制して、リーバーは懐中時計を取り出す。
 ロンドンの時間を刻むそれは、彼が今いる場所からは、とうに過ぎ去った時を示していた。
 「どうしたんですか?」
 ミランダが問うと、彼は時計盤を差し出す。
 「あら、もうすぐ0時ですね」
 彼女の視線の先で、長針と短針は頂点を目指して重なり合い、秒針は半ばを過ぎようとしていた。
 『せっかくですから、カウントダウンしましょう』
 「はいv
 リーバーの申し出にミランダは頷き、カップを掲げたまま、ゴーレムが投影する画像に顔を近づける。
 間もなく、リーバーが示す時計の秒針は、『10』の文字を過ぎた。
 『Seven・・・』
 「Sechs(ゼックス)・・・じゃないわ、Six」
 つい、母国語が出たミランダに、回線の向こうでリーバーが笑む。
 『Funf(フュンフ)』
 リーバーの流暢な発音に、ミランダも微笑んで頷いた。
 「・・・Vier(フィーア)」
 『・・・Drei(ドライ)』
 「・・・Zwei(ツヴァイ)」
 ・・・・・・Eins!(アインツ)
 「Happy New・・・」
 『Happy Birthday!』
 ミランダの言葉を遮ったリーバーの声に、ミランダは瞬く。
 「え・・・?」
 『あのヤローが中国なんかに追いやるから、今日言うのは無理だと思ってましたよ』
 でも、と、リーバーはいたずらっぽく笑った。
 『俺が最初に言いましたよね?』
 どこか得意げに言う彼に、ミランダは思わず吹き出す。
 「あ・・・ありがとうございます・・・!」
 笑いで手が震えて、零しそうなティーカップをサイドテーブルに置き、ミランダは改めてリーバーに向き直った。
 「あの・・・嬉しいです・・・」
 ミランダのはにかんだ笑顔に、リーバーも嬉しそうに頷く。
 「本当に嬉しい・・・」
 胸に手を当て、うつむいたミランダに、リーバーは笑みを深めた。
 『側にいられないのは、残念っすけど』
 「そうですね・・・でも」
 笑みほころんだ顔を上げると、ミランダはベッドから立ち上がって、窓のカーテンを開ける。
 「そちらは、晴れていますか?」
 ミランダの問いに、リーバーはロンドンを遠く離れた場所から、空を見上げた。
 『えぇ、雲はありませんよ』
 答えると、回線の向こうでミランダがふわりと微笑み、空の一点を示す。
 天頂から動かない星を示しているのだと気づいて、リーバーも同じ星を見上げた。
 「今日は風が強いせいか・・・北極星がとてもきれいに見えるんですよ」
 『こっちもです。
 俺がいるのは地下なんで・・・すっげぇ遠い上に、空はものすごく小さいんっすけどね』
 ほとんど真上を見上げている彼に微笑んで、ミランダはゴーレムに手を差し伸べる。
 「私・・・自分の事がずっと嫌いでした・・・。
 不器用で・・・不器量で・・・運もないし、なんで生まれてきたんだろうって、誕生日の度に思ってたんですよ・・・・・・」
 一人のクリスマス・・・一人の新年・・・・・・誰も祝ってくれない誕生日・・・・・・・・・。
 「でも・・・・・・」
 気遣わしげな視線を向けるリーバーに、ミランダはふわりと微笑んだ。
 「あなたに会えて・・・あなたが祝ってくれた。こんなにも、遠い場所にいるのに・・・・・・」
 『えぇ。近くにはいないけど、同じ星を見てますよ』
 ミランダの言わんとするところを察して頷いたリーバーに、ミランダは心から嬉しそうに笑う。
 華奢な手を、ゴーレムの投影するリーバーの像に添わせると、彼も、手を差し伸べた。
 「愛してます・・・」
 胸にせりあがって来た思いをそのまま唇に乗せ、ミランダは目を伏せる。
 「・・・酔っているのか、なんて、言わないで下さいね。私・・・・・・」
 この場にふさわしい言葉を探しあぐねて、声を詰まらせたミランダの目の端に、リーバーの笑みが映った。
 『・・・近くにいないのが残念だ。目の前で言われてたら、言葉もいらないくらい抱きしめたのに・・・・・・』
 笑みながらも、冗談ではない声音に、ミランダは伏せていた目を上げる。
 『俺も・・・』
 愛してます、と、低く囁かれ、ミランダは泣きそうな顔を、ここにはいないリーバーに寄せた。
 「待っていますよ・・・」
 『待っていてください』
 実際には触れ合うことのない唇を触れ合わせて・・・ミランダの目に涙が浮かぶ。
 不器用な自分でも、必要としてくれる人がいること・・・不器量な自分でも、愛してくれる人がいること・・・・・・それが何よりも、嬉しかった。
 「ありがとう・・・・・・」
 部屋の外には、新年を祝う賑やかな声が満ちていたが、ミランダの耳には届かない。
 ただ、冬の空に冴え冴えと浮かぶ星の明かりを受けて、心地良く目を閉じた・・・。




Fin.

 










2007年最初の作品は、ミランダさんお誕生会でした!
えー・・・これ、ラスト書き終えたのは実は、仕事納めの日から徹夜した30日のAM6:00のことでして・・・;
つまり、12月に入ってからほとんどまともな睡眠取ってない、寝不足のピーク時に徹夜して書き上げたんだからそりゃあちょっと宇宙に行ってる頭でもカンベンして欲しいなぁ!
・・・・・・なんなの、このラブラブ祭;;;
原作じゃまだ、せいぜい『知人』の域なのにこんなことしていいんですか、くれはさん・・・;;;
・・・これで、原作で別のカップリングになったりしたら、くれはさん、ヘソ噛んで死にそうな勢いですよ;;;
あぁ許して;;;
そして、2月も始まった頃に読み直して気づいたんですが!
ロンドンが0時なら中国は午前8時!
ちょー夜明けてるよ・・・;;;;












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