† get out from the shell †






 新しい年が始まり、最初の月が駆け足で過ぎ去った2月のある日。
 黒の教団本部は、幾日も降り続く雪にすっかり覆われていた。
 降り積もって間もない頃ならともかく、毎日のように窓外を白く塗りこめられては、雪遊びにも飽きてしまう。
 自然、用もなく屋外に出る者は少なくなり、暖かい部屋で過ごすことが多くなっていた。
 「やみませんねぇ・・・」
 外に出なくなった一人であるアレンが、白く曇った窓を開けて、夜空を灰色に染める雪雲を見上げる。
 「寒いさ!
 さっさと窓閉めろよ!」
 ラビの苦情に、アレンは頷いて窓を閉めた。
 「いつまで降るのかな・・・」
 冷たい窓ガラスに手を滑らせて、夜を背景にちらつく雪を透かし見る。
 と、不鮮明な風景に、奇妙な影が映った。
 「・・・なにあれ?」
 目を凝らすと、誰かが雪を踏み分けて、門から続く道を本城に向かって来る。
 「清掃班の人かな」
 大きな袋を抱えているから、季節はずれのサンタクロースかと思った。
 「いい加減、やまないかなぁ・・・」
 既に白く曇って、外が見えなくなった窓に、アレンは額を当てる。
 「なんなら晴らそうか?」
 ラビの何気ない言葉に、アレンは苦笑して振り向いた。
 「長い間はもたないじゃないですか」
 「まぁな」
 気のない返事にアレンは、談話室の絨毯の上にあぐらをかくラビの傍らに歩み寄り、膝を付く。
 「なに?やな結果でも出ましたか?」
 ラビの手元を覗き込めば、十字の形に並べられたトランプは、全て表を向いていた。
 「なんだ、いい運勢じゃないですか」
 素直に喜ぶアレンの傍らで、しかし、ラビは首を振る。
 「全然。
 だってこれ、俺が思い通りに並べたカードだもんさ」
 「?
 表向けたまま並べたの?
 占いの意味がないじゃないですか」
 アレンの呆れ声に、しかし、またもやラビは首を振った。
 「さっき、神経衰弱したろ?
 それで今、手元にあるカードの順番を、すっかり覚えちまって。
 シャッフルしてもぜんぜん狂わねェから、いい運勢並べてみたんさ」
 「うわぁ・・・つまらない人だなぁ・・・・・・」
 眉をひそめるアレンに、ラビも同意して頷く。
 「こんな時は、俺の記憶力も困りもんさ」
 ころん、と、後ろに倒れて、ラビは暖かい談話室をさかさまに見回した。
 「なんか、おもしれーことねぇかなー」
 「トランプも飽きちゃいましたよねー」
 ラビに並んで、アレンも寝転ぶと、その目の端に黒いつま先が映る。
 「おい、暇か?」
 不機嫌な声に視線を上げれば、身体中に雪をまぶした神田が立っていた。
 「見ればわかるでしょー?すーっごくヒマー」
 「ユウちゃん、なに持ってんさー?クリスマスはとっくに終わったぜー?」
 絨毯の上に寝転がったまま、間延びした声を上げる二人に、神田が眉を寄せる。
 「だらけやがって、しゃきっとしろ!」
 頭を蹴られそうになって、二人は慌てて起き上がった。
 「あ、その袋!
 さっき見た怪しい影って、君だったんですね!」
 「中身何さ?」
 「これか・・・」
 二人の問いを受けて、神田が肩にかけていた大きな袋を床に下ろすと、とても重たげな音がする。
 「大豆だ」
 「なんでそんなにたくさん・・・トウフでも作るんですか?」
 不思議そうに首を傾げたアレンに対し、ラビの動きは素早かった。
 脱兎の勢いでドアに向かう彼の足に、神田はすかさず足を引っ掛けて、無様に転倒させる。
 「逃げんな」
 「逃げるさ!!」
 床に這ってすら、必死に逃げようとするラビの背を踏みつけると、神田は未だ膝をついたままのアレンを見下ろした。
 「お前ら、鬼になれ」
 その一言に、アレンはきょとん、と、目を見開く。
 「・・・鬼は君でしょ?」
 「悪魔に鬼なんていわれたくねぇ」
 言いつつ、神田は悪鬼も逃げ出す形相で忌々しげに舌打ちした。
 「豆まきすんだよ。協力しろ」
 「豆まき・・・・・・」
 その言葉に、アレンは両手を打ち合わせる。
 ようやく、ラビが逃げようとしている理由に思い至ったのだ。
 「去年、思うさまぶつけてくれた、アレだ!」
 「おう。今年もやるぞ」
 「絶対、やだね!」
 きっぱりと言って、アレンは神田の足元で亀のようにもがくラビを指す。
 「やるなら二人でどうぞ。
 僕、英国人だから。日本人の慣習なんて、知らないもん」
 「そうか、じゃあリナリーでも・・・」
 「やればいいんでしょ、やれば!」
 神田の台詞を阻んで、アレンは立ち上がった。
 「でも、一方的に投げられるのはイヤです!
 交代でやりましょ」
 「交代・・・?」
 ラビが、アレンの言葉を復唱する。
 「あ!俺、いいコト考えたさ!」
 ラビの言い出す『いい事』が、いつも良い結果を生むとは限らないのだが・・・暇をもてあましていたアレンは、ついうっかりその策に乗ってしまった・・・・・・。


 その頃、科学班で室長助手の仕事をしていたリナリーは、ゴーレムの呼び出し音に応答した。
 『オレオレ♪』
 ゴーレムが上げた陽気な声に、リナリーは苦笑する。
 「なぁに?なにか、おもしろいことでも見つけたの?」
 ここ数日、暇をもてあますあまり、すっかり元気を失くしていたラビの、久しぶりに生き生きとした声だった。
 『そうv
 ゲームやるからさー、リナも参加しね?』
 「する!」
 すぐさま答えて、リナリーも目を輝かせる。
 「何するの?!」
 期待に弾む声を上げると、ラビが『その前に』と、注文をつけた。
 「うん、わかった。
 科学班の倉庫に置いてあると思うから、箱ごと持って行くねv
 『おう!待ってるさー♪』
 楽しげな声を最後に、通信を切ったゴーレムをポケットに戻し、リナリーは手にしていた膨大な書類を兄のデスクに置く。
 「兄さん、ちょっと遊んでくるねv
 「え?!なんで?!どこ行くの?!」
 悲鳴を上げるコムイに、リナリーは楽しげに笑った。
 「お城からは出ないわ。
 すぐに戻ってくるから、それまでにこのお仕事、終わらせておいてねv
 ぽん、と、リナリーが積み上げた書類を叩くと、コムイは激しく駄々をこねる。
 「ヤダァァァァァァァ!!リナリーがいないなら仕事しない!!」
 とんでもなくわがままな台詞を言う兄に、しかし、リナリーは笑みを深めた。
 「じゃあ、これが終わったら、ゴーレムで呼んで?
 すぐに戻ってくるからv
 その提案に、コムイは破顔し、何度も頷いてペンを手にする。
 「行ってきます♪」
 ひらひらと手を振って、部屋を出て行くリナリーを、科学班のメンバーは盛大な拍手で送った。


 「ラビー!持って来たよ♪」
 明るい声に、談話室にいた三人が、一斉に入口を見遣る。
 と、談話室のドアを背中で開けて、リナリーとミランダが、大きな箱を二人がかりで抱えて入って来た。
 途端、
 「まさか・・・!!」
 驚きの声を上げて、アレンが二人に駆け寄る。
 「レディに重い物を運ばせるなんて!
 言ってくれたら僕が取りに行ったのに・・・」
 すかさず二人が抱える箱を取りあげ、アレンが部屋の奥へと運んだ。
 「ありがとう、アレン君v
 彼の行動に、レディ二人は声を揃え、嬉しそうに笑う。
 「当然ですよ。
 ところで・・・なんですか、これ?」
 神田が運び込んだ大量の大豆の横に箱を置き、アレンは早速ふたを開けた。
 「銃・・・?」
 アレンはたくさん詰め込まれたその一つを取り、興味津々と眺める。
 「これ、おもちゃの銃だよ。
 前にラビと遊んだの!」
 楽しげに言って、リナリーも黒い銃把を手に取った。
 「二人で・・・遊んだ割には多くないかしら?」
 ざっと見ただけでも、箱の中に2〜30丁はある銃に、ミランダが首を傾げる。
 「いや、遊んだってのはリナリーの主観で、実は教団を二分した、戦争の遺物さ」
 「はぁ・・・?」
 ラビの説明に、ミランダが更に不思議そうに首を傾げると、リナリーは手にしていた銃を彼女に渡した。
 「二分って言っても、兄さん含む教団幹部とその他全員なんだけどねv
 「あら・・・リナリーちゃんも、お兄さんの敵側に回ったの?」
 意外そうに言うと、リナリーは笑って頷く。
 「あれ、なんのパーティだったかなぁ?
 兄さんが余興で、風船爆弾飛ばしたの。
 予定では、空高く飛んで、花火が破裂する仕掛だったんだけど、風の具合でお城の中に入ってきちゃって」
 苦笑するリナリーに反し、神田が忌々しげに舌打ちした。
 「コムイと大元帥どもはとっとと安全圏に避難しやがってな。
 ラビの提案で、科学班の奴らが廃棄予定の古い銃を、火薬を使わなくていいように急いで改造したんだ」
 「弾丸の代わりに銀玉詰めて、窓から入ってくる風船を撃ち落したんだよねv
 後で兄さんも、射撃の的にされちゃったけどv
 リナリーが楽しげに笑い、ラビが苦笑を返す。
 「またあんなことがあった時のために、って、とっといてもらって良かったさ」
 「あら・・・!
 じゃあまた、コムイさんが風船爆弾を作ったの?!」
 ここに来た理由を知らされていないミランダが、驚きに目を見開くと、他のエクソシスト達は一斉に首を振った。
 「ナニ、リナに聞いてねぇの?」
 「ごめん、言ってなかった」
 「豆まきすんだよ、豆まき」
 「ってか、豆まきを口実にしたゲームですよね?」
 口々に言う彼らに、ミランダは一層困惑する。
 「・・・豆まき自体がわからないのだけど」
 「日本の風習だ」
 「元々は中国から伝わったらしいけどさ・・・」
 「やらないわよ、中国じゃ。お正月の準備で忙しいもの」
 「しょ・・・正月・・・・・・!」
 途端、動悸息切れを起こして膝を折ったアレンを、リナリーが慌てて助け起こした。
 「ご・・・ごめんね、アレン君!
 今年は無事に過ごせるように、頑張るからね!」
 「・・・ちっ!トロい奴だな。
 その日にここにいなきゃいいだけだろうがよ」
 「そ・・・それはそう・・・なんですけど・・・・・・」
 旧暦を生きていないアレンには・・・いや、旧暦など知らない人間達にとって、それは晴天の霹靂とも言うべきものだ。
 去年も一昨年も、気づいた時にはもう、コムイの異常行動に巻き込まれていた。
 そう言って涙を浮かべるアレンに、リナリーは苦笑する。
 「毎年、日が変わるものねぇ・・・」
 「そんなん、知ってる奴に聞きゃあいいコトさ。なぁ、ユウ?」
 ラビが言うと、神田も頷いた。
 「おい、モヤシ。今年の旧正月は18日だ。それまでに逃げろ」
 意外な親切心で教えてくれたかと思うと、神田は早速、組んだ指を鳴らした。
 「じゃあ、豆まきするぞ。
 鬼は誰だ?」
 アレンが神田を指し、神田がラビを指し、ラビがアレンを指す。
 「トリオでコントが出来るんじゃないの?」
 「ホントに・・・息ぴったりね」
 思わず感心したリナリーとミランダに、ラビが慌てて手を振った。
 「そうじゃなくて!
 何のために銃を持ってきてもらったと思ってるんさ!」
 箱の中から銃を取り出すラビに、ミランダが首を傾げる。
 「豆まきの代わりに、ゲームやろうぜ♪
 みんな、年の数に1コ増しで豆取るんさ。
 ソレが弾丸なv
 ラビは早速袋を開けると、19個の大豆を取り、そのいくつかを銃の中に詰め込んだ。
 「年の数って・・・僕が一番少ないじゃないですか!」
 「いいじゃん。お前、銃撃慣れてんだろ?」
 あっさりと言われて、アレンは頬を膨らませる。
 「自分の手が銃になるのと、その先に銃口があるのとじゃ、感覚が違うんですけど!」
 「それ以前に、年の一つ増しってなんだ。
 そりゃ撃つんじゃなくて食うんだろうが」
 と、神田も憮然とした口調で反論した。
 が、ラビは手にした銃を振り、楽しげに笑う。
 「おもしろけりゃいいじゃん♪
 それに、弾の数もちょうどいいと思うんさv
 「あら・・・なぜ?」
 几帳面に、大豆を26個数えていたミランダが顔を上げた。
 「ミランダは命中率低いだろうし、リナは逃げ足はぇえから、当てらんなくても当たりゃしねぇだろ」
 「逃げ足って・・・」
 アレンと同じく、リナリーも頬を膨らませる。
 「とにかく、ハンデもちょうど良くて、楽しめると思うぜ?」
 ちゃき、と、ラビが楽しげに銃を構えると、アレンもふてくされながら頷いて、豆を充填した。
 アレンに続いて、豆を取り上げたリナリーが、ふと顔をあげる。
 「ねぇ、これ、逃げられる範囲を決めておかないと、いつまでも終わらないよ?」
 「それに、勝負の方法も決まっちゃいねェよ」
 やるからには勝つ、と、気合十分の神田が鋭い目でラビを睨みつけた。
 「それはユウちゃん、豆まく時は鬼に、面をかぶせてたじゃないさ?」
 「お面?
 あぁ、ガーゴイルに扮した人に、これをぶつけるの?」
 ようやく事態を理解して頷いたミランダの顔から、次の瞬間、血の気が引いた。
 「・・・恐ろしいお祭ね・・・」
 「昔は石を投げてたらしいぜ。それが今は豆になってんだから、怖かねぇだろ」
 神田の言葉に、ミランダは更に震え上がる。
 「ま・・・まぁまぁ!
 石ぶつけるわけじゃねぇからな、ミランダ!」
 すかさずフォローを入れ、ラビはゲームの参加者達に向き直った。
 「じゃあゲームの説明をするさ!
 まずみんな、この面かぶるさv
 「いつの間にこんなもの・・・」
 鬼の絵が描かれた紙を受け取って、リナリーが呆れ声を出す。
 「4人分くらい、簡単に作れるさv
 ミランダの分もすぐ作るから、ちょっと待ってさv
 笑顔を輝かせて、ラビは絨毯の上に座り込み、手早く鬼の絵を描くと、ハサミで紙を切り出した。
 「なんだか・・・随分と薄い紙ね?」
 丸く切り取った薄紙の輪郭を、やや厚い紙で補強しただけのそれは、面と言うよりポップアップだ。
 かぶると絵の描かれた部分が頭上に飛び出すようになっていた。
 「なんだか的みた・・・い・・・」
 はっと気づいて、リナリーは得意げな笑みを浮かべるラビを見遣る。
 「コレ、撃ち破った奴が勝ちな♪」
 「やっぱり・・・」
 苦笑し、リナリーは改めて的をかぶりなおした。
 「移動できる範囲はこのフロアだけな!イノセンスの使用は不可。ミランダ、ぜってぇ不可!」
 わざわざ彼女に向けて言い募るラビに、ミランダが苦笑する。
 「了解。時間停止は使いません」
 手を上げて誓う彼女に頷き、ラビは他の参加者達を見回した。
 「不可!」
 「・・・・・・了解」
 改めての宣告に、それぞれ不満の表情を浮かべ、銃を持った手を上げる。
 「よっし!
 じゃあみんな、この部屋出て、10秒後に戦闘開始さ!」
 楽しげな声にまた『了解』の声が上がり、全員、早足で談話室を出て行った。


 「Ready!」
 吹き抜けになった中心部をぐるりと囲む広い回廊に、銃を持って散らばったエクソシスト達が、ラビの合図を待つ。
 「Go!!」
 石壁に反響した声が消えないうちに、第一弾がラビの頬をかすめた。
 「甘いさっ!!」
 真向かいにいたアレンに、2連射で応じる。
 1発目を余裕でよけたアレンは、避けた先で2発目に襲われ、慌ててのけぞった。
 「あっぶな!!」
 床に転がり、欄干の隙間から、今度は右側を走る神田を狙う。
 アレンの弾と、別方向から襲い掛かるミランダの弾を同時によけた神田は、間近にいたリナリーに連射した。
 「きゃっ!!」
 欄干を背に、1発目をよけたものの、2発目は彼女の逃げる先を正確に予知している。
 早くも脱落かと見えた時、リナリーは欄干を蹴って吹き抜けを飛び越え、向かいの回廊へ着地した。
 「リナ!
 イノセンス使うなって言ったろ!!」
 「使ってないもーん!私の実力だもん♪」
 ラビに舌を出した次の瞬間には、しなやかに背を逸らし、ミランダの攻撃をよける。
 「反撃!」
 素早く体勢を整えたリナリーは、ミランダを撃つと見せかけて、ノールックで神田を撃った。
 が、確実に神田を捉えた弾は、黒い刃に遮られる。
 「ちょっと!それ反則じゃないの?!」
 「イノセンス使うなっつってんさ!!」
 リナリーだけでなく、ラビも絶叫するが、神田はいけしゃあしゃあとのたまった。
 「発動はしてないぜ」
 「神田、卑怯ですよ!」
 「うっせぇ、モヤシ!!」
 互いに撃ち合った弾を、神田は刃で切り落とし、アレンは左手を差し出して・・・
 「イノセンス使うなっつってんだろが!」
 横合いからラビに、左手を撃たれる。
 「は・・・発動してないですよ・・・?」
 「嘘つけ!お前は発動しねぇと使えねぇじゃんか!!」
 使おうとした時点で有罪、と言うラビに、全員が賛同した。
 「ひっ・・・ひどい!!」
 「実力で勝負しろ、モヤシ!」
 「アンタが言うなぁぁぁぁ!!」
 絶叫と共に2連射するが、なんの作意もない攻撃では、あっさりとよけられても仕方がない。
 続く動作で反撃されると同時に、別方向のラビからも銃撃された。
 「ほんっと、猪突猛進さ、お前」
 かろうじてよけたアレンに呆れた口調で言いつつ、手はミランダへ銃口を向けている。
 「俺も出来るんさ、ノールックv
 「きゃあ!!」
 確実に仕留めようとするラビから逃げようとしたミランダが、足を滑らせて床に倒れた。
 その頭上を、リナリーの弾が通過する。
 「外しちゃった・・・」
 「もう!!」
 ミランダはそのまま欄干の陰に隠れ、リナリーに反撃するが、彼女はひらりとかわして、向かいの欄干に足をかける。
 途端、
 「きゃっ!」
 「リナリー!!」
 足を滑らせた彼女に、アレンが青ざめて駆け寄った。
 が、
 「チャーンス!」
 「隙あり!」
 ラビと神田は容赦なくリナリーに銃口を向ける。
 「アンタらナニ鬼畜なことしてんですか!!」
 助けるどころか、リナリーの落下位置を予測して連射する二人に、アレンが怒声を上げた。
 「リナリー!つかまって!!」
 アレンが手を伸ばした先に、しかし、リナリーの姿はない。
 「え?!」
 真っ青になって吹き抜けのホールを見下ろすと、横合いから声がかかった。
 「アレン君、こっちこっち!」
 見ればリナリーが、間近の欄干に腰を下ろして手を振っている。
 「リナがこんなんで落ちるかよ!」
 「せっかくのチャンス逃しやがって、馬鹿が!」
 思えば当然のことを言われて、アレンは顔を赤らめた。
 その間にも、神田とラビが連射した弾を、リナリーが軽やかによけている。
 「アレン君!ぼーっとしてると、撃たれちゃうよ!」
 こんな風に、と、リナリーは神田の背後を取り、的にほとんど銃口を当てて発射した。
 が、
 「させるか!」
 神田はすかさず身体を沈め、リナリーに足払いをかける。
 「きゃあっ!!」
 「神田ぁぁぁぁぁ!!アンタ女性になんて事すんですか!!」
 絶叫するや、アレンは、床に倒れたリナリーに銃口を向ける神田へ、3連射攻撃を浴びせた。
 「うるせェよ!
 隙を作る方が悪ぃ!」
 的より顔を狙った弾でアレンを牽制し、リナリーへ銃口を戻す。
 「そうね・・・」
 リナリーはにこりと笑い、右手を上げた。
 「隙を作る方が悪いわ!」
 引き金を引いたのは同時。
 そして、乾いた音を立てて、的が裂けたのも同時だった。
 「相撃ち・・・!」
 「くやしー!!」
 破れた的を、忌々しげに床に叩きつけた神田の傍らで、リナリーは床を叩いて悔しがる。
 「私、まだ4発しか使ってないよ!」
 「俺は10発か・・・。半分近く残ってんじゃねぇか」
 憮然として、神田は銃から取り出した豆を放り捨てた。
 その横合いから、
 「お前ら下がってるさ!ムダに当たんぜ!」
 陽気な声がかかり、二人は更に憮然として壁際に下がる。
 「最速と疾速が相撃ちしてくれるなんて、超ラッキーさv
 言いつつ、ラビは回廊を巡って、柱の陰に隠れていたミランダに照準を定めた。
 「ミランダ見っけv
 「あ!きゃああ!!」
 連射を受け、ミランダは慌てて逃げ出す。
 「逃げてばっかじゃおもしろくないさ♪
 ミランダ、一番たくさん弾持ってんだからv
 ラビの放った無神経な言葉に、ミランダのこめかみが引きつった。
 「・・・そうね」
 銃口を向ける目が据わっている。
 さすがのラビも、不穏な空気を悟って、知らず、歩を下げていた。
 「いくらでも撃ってやるわよ!!」
 怒声と共に放たれたヒステリックな銃撃に、ラビは逃げ惑い、奇妙なダンスを踊る。
 「ラビ君、逃げてばっかりじゃおもしろくないわよ!」
 先程の台詞をそのまま返されて、回廊中を逃げ回っていたラビは踵を返し、ミランダに向かい合った。
 「それもそうさ!」
 ラビを追いかけて、すぐには止まれなくなっていたミランダの的に、照準を定める。
 「もらった!」
 ラビが引き金を引いた瞬間、薄紙の裂ける乾いた音が上がった。
 が、それは向かい合うミランダではなく、ラビの頭上で弾けた音だ。
 「んなぁぁぁぁぁぁっ?!」
 見事に裂けた自身の的に悲鳴を上げ、振り返ると、背後でアレンが不適に笑っていた。
 「レディをいじめるなんて、僕が許しませんよ♪」
 アレンの台詞に、リナリーは惜しみない拍手をささげ、その傍らで、神田が忌々しげに舌打ちする。
 「ちぇっ・・・。
 イケると思ったんに、負けちまったさ」
 憮然と床に座り込んだラビが、欄干に背を預け、破れた的を吹き抜けのホールへ放り捨てた。
 「じゃ、後は一騎打ちで決めるさ」
 傍観を決め込んだラビの目の前で、しかし、アレンは自ら的を外して吹き抜けへと放り捨てる。
 「アレン君?」
 訝しげに首を傾げるミランダへ、アレンは笑みを向けた。
 「棄権します。レディ相手には戦えませんから」
 気障ったらしい台詞に、ミランダとリナリーは感動し、ラビと神田は、背を預けていた場所から10センチほどずり落ちる。
 「・・・ちょっと待つさ、アレン。
 お前にそんなこと言われちゃ、情け容赦なくリナを撃ったユウと、ミランダ追いかけた俺が悪役になっちまうだろ」
 「悪役じゃないですか。特に神田」
 「うるせェ!」
 剣呑な目で睨みつけ、神田は持っていた銃をアレンに投げつけた。
 「ちょっ・・・危ない!!」
 ものすごい勢いで飛んできた銃をとっさに受け止め、アレンは神田に投げ返す。
 「もー!怒んないでくださいよ!負けは負けでしょ?!」
 アレンの抗議に、神田は舌打ちし、リナリーとミランダは、揃って首を傾げた。
 「そう言えば・・・負けたらどうなるの?」
 リナリーが、やや不安げに問うと、アレンが楽しそうに笑う。
 「豆まきの鬼になるんです♪」
 アレンは早速、踵を返して談話室に駆け込み、大量の豆が入った袋を抱えて出てきた。
 「さぁ、神田v 鬼になってくださいv
 アレンが嬉しげに笑いかけると、神田は眉根を寄せたまま、リナリーの腕を取る。
 「相撃ちなら、こいつもだろ」
 「えぇっ?!私も?!」
 リナリーが悲鳴をあげ、アレンも抗議の声をあげた。
 「鬼は一人でいいじゃないですか!
 どうしても二人がいいって言うなら、ラビが代わりますよ!」
 「えぇっ?!俺かい?!」
 悲鳴じみた声をあげるラビに、アレンはあっさりと頷く。
 「悪役って呼ばれるのが嫌なら、ここで代わってあげるべきですよ!
 そしたら少しは、大暴落してるラビの株だってあがるんじゃないですか?」
 「既に大暴落してんのか!」
 「神田はずっと暴落のままですけどね!」
 「お前・・・その意味、ちゃんと知ってて言ってるさ?」
 ラビの問いは軽やかに無視して、アレンはリナリーとミランダを手招いた。
 邪悪な思いは笑顔の下に封じ込め、アレンは袋の中に入っていた枡に大豆を入れて、二人に渡す。
 「はいv
 神田とラビに、思う存分ぶつけてくださいねv
 自らは大袋を抱え、邪悪な笑みを浮かべて、鬼となった二人に向かった。
 「ちっ!」
 「チクショー!覚えてるさぁぁぁぁ!!!!」
 「あはははは!!待てー!!」
 フロア内、と言う規制を無視して逃げ出した鬼達を、満面の笑みを浮かべてアレンが追いかける。
 合図もなしに始まった鬼ごっこを、呆然と見送ったのは一瞬。
 リナリーとミランダも、すぐに鬼達を追いかけて行った。
 「クソ・・・!モヤシが調子に乗りやがって!!」
 「絶対、仕返ししてやるさ!!」
 いかにも鬼らしい台詞を吐いて、二人は城内を駆け回る。
 それを追って、アレン達も城中に豆を撒いて回り・・・全て撒き終える頃には、城内全ての回廊に、豆が転がっていた。


 ・・・・・・その後、激怒の清掃班班長に捕まり、たっぷりと説教された5人は、夜明けまでに城内に散らばった全ての豆を回収するよう、厳命されたのだった。



Fin.

 










・・・節分?
いや、節分SSですからね、これ(笑)
大豆って、煎ってなきゃ銀玉の代用くらいにはなるんじゃないかな!>予想かよ。
ネタがなかったら書かないと言っていた節分SSですが、ラルクの『Wind of Gold』を聞いて連想してしまったのです。
【連想ゲーム】
Wind of Gold→ミランダさん→EXISTENCE→銃を持つミランダさん→豆鉄砲
こんなカンジで!(・▽・)b>わからんよ・・・;
題名は、なんかいいのないかなーと探して、これにしました。>EXISTENCEが合わなかったので;
shellは普通、貝とか殻ですが、薬きょうって意味もあるんですって。
・・・薬きょう使ってねぇだろ。←今気づいた;
しかもこの題名、どう考えても『閉ざした心を解き放て』(意訳)なんですけどね;
でも・・・この題名使わなかったら、仮題がそのまま題名になってたんだよ?
仮題、『Peases』(豆たち)だよ?>『Pieces』のもじりで;
そんな英語ないよ?!↑こんな日本語もないわい。












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