† Lies and Truth †








 4月に入ったとはいえ、夜はまだ寒い、ある春の日――――・・・。
 夜明け前の、暗い回廊を資料室へ向かっていたリーバーは、曲がり角から伸びた二本の足に、訝しげに眉をひそめた。
 数日間寝ていない目をこすり、まじまじと見つめると、人体の膝から下が、床の上に並んでいる。
 「誰か倒れてんのか?!」
 慌てて角まで駆けつけたリーバーは、眼下の光景に息を詰まらせた。
 古びた石床に、長い黒髪がほころんだ花のように広がっている。
 白い衣装に身を包んだ少女の胸には、蝋燭の微かな光を受けて、鈍く光る刃が深々と突き刺さり、薄い胸板を貫いていた。
 「リナ・・・・・・!!」
 引きつった声に、応えはない。
 硬く閉ざされた瞼はぴくりとも動かず、ただ、長い睫毛が滑らかな頬へ落とす陰が、天井近くでちらちらと揺れる明かりに踊るだけだった。
 「リナリー!!」
 抱き起こした身体の冷たさに、リーバーは真っ青になって彼女を抱き上げる。
 医務室に向かおうと足を踏み出した時、回廊の向こうから楽しげな話し声が近づいてきた。
 急いで駆け寄ると、談笑しながら大きなワゴンを押していたアレンとラビが、目を丸くして立ち止まる。
 「どしたんさ、リーバー?そんなに慌て・・・っ!!」
 彼が抱き上げたリナリーに視線を移したラビは目を見開き、アレンはぽかんと口を開けたまま、立ち竦んだ。
 「急いで医務室に連れて行くんだ!!手伝ってくれ!!」
 切羽詰った彼の声に、緊急事態に慣れたエクソシスト達は頷き、ワゴンの上から手早く皿をどける。
 「乗せて下さい!!」
 脱いだ団服をワゴンに掛けたアレンが言うや、リーバーはリナリーを乗せた。
 「医務室には俺らが連れてくさ!リーバーはコムイに・・・!」
 常になく、真剣な顔をするラビを、リーバーは一瞬、鋭い目で見たが、すぐに踵を返す。
 「頼んだぞ!!」
 「はい!」
 真摯な声を、リーバーの背に向けて放ったアレンの傍らで、ラビがにんまりと笑った。
 「まぁかせてぇー♪」
 先程の真剣な顔とは逆に、ラビが締りのない顔で間延びした声をあげると、ワゴンの上に横たわっていたリナリーが、ムクリと起き上がる。
 「どんな顔してた?!」
 大きな目を、キラキラと輝かせて詰め寄るリナリーに、アレンは頭の上のティムキャンピーを示して、にこりと笑った。
 「後で、ティムのメモリーを見せたげますよv
 「うん!楽しみねv
 クスクスと、肩を震わせて笑うリナリーを、ラビが再びワゴンの上に押し付ける。
 「ホラ、ちゃんと死体の振りするさv
 本番は、これからだぜv
 この日――――・・・エイプリルフールのために、長い間策を練って来たエクソシスト達は、声をひそめて笑いながら、次なる舞台へと向かった。


 ラビたちと別れて間もなく、科学班に飛び込んだリーバーは、真っ青な顔をコムイに向けたまま、唇を震わせた。
 「リーバー君?」
 コムイが、訝しげに首を傾げるが、リーバーはなんと言えばいいかわからないまま、ただ、室長のデスクの前に立ち竦む。
 「なにか・・・あった・・・?」
 さすがに、尋常でない事態を悟って、コムイが尋ねると、リーバーは頷いて、噛みしめていた唇を開けた。
 「リ・・・リナリーが・・・・・・・・・」
 皆まで言う必要はない。
 リーバーの態度と、その名だけで、コムイは椅子を蹴って立ち上がった。
 「今はどこに?!」
 既に出口付近に差し掛かりつつ問うコムイに、リーバーは『医務室』とだけ口走る。
 コムイが駆け去っていったドアの向こうと、青ざめた顔で立ち竦むリーバーとを見比べていた科学者達は、彼に恐る恐る問うた。
 「あの・・・なにがあったんすか・・・・・・?」
 リーバーが、何とか口を利けるようになるまで随分かかったが、我慢強く待った彼らは、答えを聞いた途端、科学班を飛び出していく。
 「くそっ・・・!」
 思い足を引きずるようにして、再びドアに向かったリーバーは、目の端に写ったものに足を止めた。
 「・・・大丈夫っすか」
 虚ろな声をかけると、床にうずくまって震えていたミランダは、涙に濡れた顔を上げる。
 「誰が・・・・・・」
 泣声をあげるミランダに手を差し伸べると、彼女は首を振り、自分で立ち上がった。
 「見ない方がいい・・・」
 ミランダが、医務室に向かおうとしていることに気づき、呼び止めるが、彼女はまた、首を振る。
 「もう・・・なにも出来ないことは知っています・・・でも・・・・・・」
 壁に縋って、嗚咽を漏らしながら、ミランダは言った。
 「最期くらい、見取ってあげなきゃ・・・仲間なんですから・・・・・・」
 リーバーは、ミランダの震える肩を抱いて、共に科学班を出る。
 「気を・・・しっかり持って下さい・・・・・・」
 自分の方こそ、倒れそうな顔色をしていながら、リーバーは虚ろな声を出した。
 「しっかりしないと・・・・・・」
 ミランダに、と言うより、自身に言い聞かせているようなリーバーの口調に、ミランダが顔を上げる。
 「リーバーさん・・・」
 ミランダの声は、彼の耳に届かなかったのか、リーバーは口を引き結んで、歩を踏み出した。


 一方、死体の振りをしたリナリーを運んでいたアレンとラビは、医務室に向かう廊下で、できるだけ多くの団員達にリナリーの姿を見せた。
 回廊の角を急いで曲がり、ざわめく団員達の視線が途切れた一瞬、リナリーはワゴンを飛び降りる。
 「ユウちゃんユウちゃん!
 第一段階、せいこーぅ!!」
 ラビが潜めた声で言うと、回廊に面した部屋に素早く飛び込んだリナリーの代わりに、神田がワゴンに飛び乗った。
 「ほら、テーブルクロスを頭までかぶるさ!!」
 大きいとはいえ、料理を運ぶためのワゴンに神田の身長は余る。
 が、身体を縮めて納まった神田の上に、ラビとアレンはテーブルクロスを掛けて、長い黒髪以外の全てを覆った。
 「なんだかちょっと違う気もするけど・・・」
 「それ、お前の偏見だから、ノープロブレムさ!」
 アレンの不満を切り捨て、ラビは交代時間の遅れを取り戻すべく、回廊を疾走する。
 次の角に入った時間は、先程までのスピードで回廊を通り過ぎた場合の時間と同じだと、精確な体内時計を持つ次代のブックマンは断言した。
 「アレン、ドア開けるさ!!」
 「はいっ!!」
 医務室のドアを開けて、ワゴンごと飛び込んだラビは、驚くドクターやナース達の間を抜け、医務室の寝台にワゴンを寄せる。
 「ど・・・どうしたのかねっ?!」
 駆け寄ろうとするドクター達の前に、アレンはさりげなく割って入って道を塞ぐと、涙目で彼らを見上げた。
 「リ・・・リナリーが・・・・・・!!」
 声を詰まらせて、中々次の言葉を言い出せないアレンに、ドクターもナースも視線を集中させる。
 その隙に、ワゴンから寝台へと転がり出た神田は、そのままベッドの陰へ下り、カーテンなどで巧みに姿を隠しながら窓辺に寄って、外へ出た。
 その様を、ラビは呆然とした面持ちを作って、ベッドの周りをカーテンで囲いながら確認する。
 彼が、カーテンを閉め終わった音が合図だった。
 「リナリーが、ナイフで刺されて意識不明なんです!!」
 「なに?!」
 アレンの言葉に、ドクター達は血相を変えてベッドに殺到する。
 「手術の用意だ!!」
 ドクターの、その言葉だけで機敏に動き出したナース達は、しかし、彼が乱暴に引き開けたカーテンの向こうに、誰もいないことにまた目を剥いた。
 「どういうことだ?!」
 ドクターの怒声に、しかし、ラビもアレンも、驚いた表情をする。
 「さ・・・さっき俺、ちゃんとベッドに乗せたさ!!」
 「そ・・・そうですよ!
 ねぇ、ドクター!ワゴンにリナリーが乗っていたの、見ましたよね?!」
 「え・・・」
 アレンの問いに、ドクターは眉をひそめたが、ナースの一人が頷いた。
 「顔は・・・見てないけど、長い黒髪は見たわ」
 と、他の一人も頷く。
 「私も・・・髪に触ったし、布越しだけど、人の容も見たわ」
 その証言を補足するように、ラビはベッドの脇にどけていたワゴンを指した。
 「リナを乗せる時、このワゴンに乗ってた皿は全部下ろしちまったから、何かを見間違えたって事は絶対無いさ」
 「そもそも、人一人乗せたら、他に何も乗りませんよ」
 ラビの意見に同意して、アレンは訝しげに眉根を寄せる。
 「どこにいっちゃったの・・・・・・」
 ナース達はベッドを囲んで、その下まで覗き込むが、人間はおろか、テーブルクロスの中に人間の容を作れるような詰め物すら見当たらなかった。
 「・・・リナリーは本当に、瀕死だったのだろうね?」
 ドクターが疑わしげに問えば、二人は『リーバーに聞け』と、声を揃える。
 「それに、俺らがここに来るまでに、たくさんの団員が見てるさ!」
 そう言ってラビが唇を尖らせると、ドクターは吐息混じりに頷いた。
 「では・・・どこに」
 ふと見遣った窓は、内側からしっかりと鍵が掛けられている。
 夜明け前の空気は冷たく、患者の身体に障るからと、日が昇るまで開けることを禁じている窓だ。
 もちろん、それは神田が出た後、ラビが素早く閉めたのだが、そんな事は誰も知らない。
 ミステリーは、真っ青な顔をしたコムイが医務室に飛び込んでくるまで、それぞれの頭の中でぐるぐると回っていた。


 その頃リナリーは、次の目的地に向かって走っていた。
 ダークブーツを履いていない上に、贋物の剣が胸から伸びているため、いつも程の俊足は発揮できない。
 が、時折物陰に隠れつつも、彼女はこの計画に加担した誰より早く、目的地付近に至った。
 姿勢を低くして、植え込みの陰に隠れたリナリーは、目的地であるバラ園の様子を、遠くから慎重に窺う。
 次の目標となったクロウリーが、毎日時間通りにここへ来ることは知っていたが、他の団員に見つからないためにも、念を入れる必要があった。
 夜明け前の庭は暗く、バラの木々が時折、風に揺られて乾いた音をあげるため、探りにくくはあったが、彼女は人の気配がないことを感じ取るや、一気にバラ園までの距離を踏破する。
 「よし!」
 誰の目にも触れず、バラの木の間に身をひそめたリナリーは、小さく快哉をあげた。。
 そのまま、白い服を汚さないように気を使いながら、そろそろと園芸用の小屋に至る。
 温室に似たそこは、普段、クロウリーがバラの肥料置き場として使っているものだが、今日は違うものが用意してあった。
 昨日、クロウリーがバラ園を出た後に、ラビとアレンが一所懸命運び入れたものだ。
 白いバラが満たされた、黒い棺桶に駆け寄ると、リナリーはその中に横たわった。
 小屋にある時計を見上げると、もうすぐ夜の明ける時刻・・・・・・。
 リナリーはポケットから小さな氷嚢(ひょうのう)を取り出すと、冷たさを堪えて手に握りしめた。
 「さむ・・・・・・っ!」
 ぶるりと震えながら、手首にまでそれをこすり付けて、体温を下げる。
 「早く来てよね、クロウリー・・・!」
 ガタガタと震えそうになる歯を噛みしめ、震える手で氷嚢をポケットにしまいこんだ時、さくさくとこちらに歩いてくる足音が聞こえた。
 リナリーは目をつむると、呼吸を止めて、小屋のドアが開くのを待つ。
 「・・・なっ?!」
 ドアが開いた途端、上がった悲鳴に、笑い出しそうになる口元を、リナリーは必死に引き締めた。
 「リ・・・リナリ・・・・・・!!」
 棺に駆け寄る足音が乱れ、震える手が、リナリーの冷たい手に触れる。
 「そ・・・そんな・・・・・・」
 クロウリーの激しく動揺した声を聞くと、さすがに気の毒には思ったが、計画完遂のためと我慢して、無言を貫いた。
 「だ・・・誰かに・・・知らせねば・・・・・・!」
 長い間、棺の傍らで呆然としていたクロウリーが立ち上がり、リナリーは内心、ほっと吐息する。
 鳥類並の肺活量を誇る彼女だが、いつまでも息を止めていられるわけではない。
 ―――― 早く・・・出て行ってぇ・・・!
 呼吸を止めたまま、一所懸命に祈るが、緊急事態に慣れていないクロウリーはまだ、おろおろと小屋の中をうろついていた。
 ―――― っ死んじゃうぅー・・・!!
 夜明け前でなければ、死人に似せたメイクも空しく、紅潮した顔が見て取れただろう。
 が、幸いなことに、クロウリー自身が持って来たランプは、激しく震える手に釣られて揺れ動き、彼自身も動揺のあまり、リナリーをまともに見ることもできないでいた。
 それを知っていれば、彼女はこっそり呼吸することもできただろうが、生憎、目を閉じたままでは、クロウリーの様子は耳と気配に頼るしかない。
 彼の目がどこに向いているかわからないまま、本当に瀕死になったリナリーの肺が、とうとう限界を迎えた時・・・彼女が呼吸すると同時に、ドアが開いた。
 「なに騒いでんだ、クロウリー?」
 不機嫌そうな声を、これほど嬉しく思った事はない。
 リナリーにやや遅れてバラ園に至った神田は、計画を忠実に遂行し、まさにグッドタイミングでドアを開けたのだった。
 ―――― ありがとう〜〜〜〜!!
 大きく呼吸して起き上がったリナリーを目の端で見遣り、神田は、顔をぐしゃぐしゃにして泣きじゃくるクロウリーを睨む。
 「いい年して、泣いてんじゃねぇよ」
 その台詞は本気らしく、忌々しげな口調の神田に、クロウリーがうな垂れた。
 その隙に素早く棺から出たリナリーは、壁の一部を押して穴をあけ、小屋の裏側に出る。
 それも昨日、アレンとラビが壁を切って作った、小さな秘密のドアだった。
 リナリーはそっと、木の板を元の位置にはめ込むと、バラの木々に身を隠しながら、次の目的地に向かう。
 と、小屋の中では神田が、クロウリーの泣声に紛れた、微かな物音を聞くや、忌々しげに舌打ちした。
 「で?リナリーの死体なんか、どこにあんだよ」
 「なにを聞いていたであるかっ!!そこに・・・・・・え?!」
 振り向いたクロウリーは、棺に満たされた、白いバラを見つめたまま硬直する。
 「棺なんか運んで、ここで寝んのか、お前?趣味悪ぃな」
 「寝るかっ!!
 第一、この棺は私が運んだのではないであるっ!!」
 神田の発言にすかさず抗議したクロウリーは、しかし、困惑顔で視線を戻した。
 「し・・・しかし、確かにさっきまで・・・・・・」
 「寝ぼけたんじゃねぇのか?」
 「そんなばかなっ・・・!!」
 そう言いながらも、自信なげに眉をひそめたクロウリーは、何か手がかりでもないかと、棺の中や周りを見回す。
 「はっ・・・!
 ここから悲鳴が聞こえたもんだから、何かと思ったぜ。
 顔洗って出直して来い」
 「とっくに洗ったであるよっ!!」
 無情に言い放って踵を返した神田の背に、クロウリーが苛立たしげに声を荒げた。
 リナリーと神田によってはめられたという事情を知れば、更に激昂することだろう。
 そう思うと更に愉快な気持ちになって、神田は密やかに笑みを漏らした。
 「確かに・・・見たのであるがなぁ・・・・・・・・・」
 とうとう不安げな声になったクロウリーの声を背に受け、神田は笑みを深める。
 「とにかく、悪趣味なもんは片付けることだな」
 肩越しにクロウリーを見遣ると、神田はリナリーを追って、次の目的地に向かった。


 「い・・・急がなきゃっ・・・・・・!!」
 身を隠しつつ、本城に戻ったリナリーは、夜明けと共に起き出した、多くの団員達の目を盗んで、地下に至った。
 「と・・・到着・・・!!」
 さすがに息を切らしつつ、ゴンドラ置き場に忍び込む。
 エクソシスト始め、団員達が乗り込む船着場とは、少し離れた場所にあるその片隅に、整然と置かれた竿やロープ類に混じって、黒く『×』が書かれた大きな袋が置いてある。
 素早く駆け寄って袋を取り上げたリナリーは、杭につなげてあるゴンドラのひとつに、その中身を撒き散らした。
 「ふふ・・・v
 バラ園の小屋に置いた棺桶のように、白いバラで満たされたゴンドラに、リナリーは満足げに微笑む。
 「オフィーリアみたいだわv
 楽しげに呟きながら、空になった袋を隠していたリナリーの耳が、人声を捉えた。
 「うそ・・・っ?!もう来ちゃったの、神田?!」
 リナリーは慌ててゴンドラに乗り込み、杭に絡んだロープを引く。
 が、通常はすんなりと解けるはずのロープは、どう引っ張ってもほどけなかった。
 「なんで・・・っ!!」
 運の悪いことに、多くのゴンドラの中でこの舟だけ、乗り慣れないファインダーが繋いだため、ロープはもやい結びではなく、引けば引くほど固く締まる本結びになっていたのだ。
 そうするうちにも、声はどんどん近づいてくる。
 「ど・・・どうしよう・・・!」
 このいたずらの最終章は、舟を出すよう命じた神田の前に、死体となったリナリーが、バラで満たされた舟に横たわって現れると言うものだ。
 その際、神田はできるだけ多くの団員を連れて来る事になっていて、最後に派手に驚かせる予定だったのに、このままでは舟を出しにくる、ファインダーしか脅かせない。
 「解けろっ!!」
 焦るあまり、リナリーは力いっぱいロープを引いた。
 途端、
 「きゃあっ?!」
 リナリーの体重が、一方にだけかかったために、小さなゴンドラはあっさり転覆する。
 「ぷはっ!!」
 一旦、水中に沈んだリナリーが、白バラの流れの中に顔を出すと、ゴンドラ置き場には既に、リナリーの悲鳴と水音を聞きつけたらしいファインダー達が駆け寄っていた。
 ―――― いけない・・・・・・っ!!
 水から飛び出したところを見られていないように祈りつつ、リナリーは目を閉じて、水路の流れに身を任せる。
 彼女の傍らに寄り添うように、大量の白いバラが共に流れて、むしろ効果的だった。
 ―――― 結果・・・オーライ、かな?
 今にも神田の舌打ちが聞こえてきそうな予感がしながら、リナリーは船着場へと流れていく。
 ―――― そろそろかな?
 意外に長い時間、水の中に身を浸していたリナリーが、それとなく耳を澄ませると、息を飲む音が聞こえた。
 ―――― やった!
 笑い出しそうになる顔を必死に引き締めていると、誰かが水に飛び込む音がする。
 ―――― 神田、ごめんね・・・。
 舟に横たわって現れるはずだったのに、舟から放り出されてしまったために、神田もやむを得ず、救出に来てくれたのだろうと思った。
 ―――― でも、予想外のことだったから、神田も演技じゃなく、驚いたよね?
 水に沈んだ背に手を添えられ、船着場へと運ばれていく途中、片目を細く開けて・・・慌てて閉じる。
 ―――― なんでソカロ元帥が?!
 うっかり神田だと思いこんでいたが、背に当たる、大きくて固い手の感触は、確かに神田より大柄なものだった。
 ―――― 私の次に早いのに、なんで出遅れるのよ・・・!!
 焦るあまり、理不尽な怒りを持ったリナリーの体が、水中から持ち上げられる。
 「クラウド」
 「あぁ・・・」
 ソカロ元帥が、水中からあげたリナリーの身体をクラウド元帥が引き取り、濡れることも構わず抱きしめた。
 ―――― クラウド元帥まで!なんでっ?!
 クラウド元帥に抱きしめられたまま、思考をめぐらせるリナリーの耳に、もう一人の元帥の声が届く。
 「大丈夫かね、ウィンターズ?
 さぁ、私の手に捕まって、上がりなさい」
 「いらん。自分で上がれる」
 さば、と、派手な水音がしたのは、ソカロ元帥が水路から上がったためだろうかと考えていると、ようやく神田の声がした。
 「クラウド元帥、リナリーは俺が・・・」
 「いや、私がやる」
 神田の申し出をきっぱりと断って、クラウド元帥は、リナリーを抱いたまま立ち上がる。
 「リナリーは・・・教団に数少ない女性エクソシストとして、昔から目をかけていた・・・なのに・・・・・・」
 「残念なことだ・・・本当に、残念なことだ・・・・・・」
 ティエドール元帥の哀しげな声に、リナリーの良心がチクチクと痛み出した。
 ―――― そろそろ本当のこと言っていいかなぁ・・・あ、でも、神田がいるから、怒られるなぁ・・・・・・。
 とりあえず、彼が何か言い出すまでじっとしてようと決めたリナリーは、そのまま死体の役を続けることにする。
 が、戦闘時ならともかく、こういう悪巧みには機転の利かない神田が、うまい打開策を見つけ出す前に、悲しみに暮れたクラウド元帥は踵を返した。
 「クラウド?」
 ソカロ元帥の問いに、憂い顔の美しい元帥は、気鬱げな声を出す。
 「せめて・・・私の手で、礼拝堂に運んでやりたい・・・・・・」
 「あぁ・・・・そうだね、クラウド・・・!それがいい・・・・・・!」
 そう言って、ティエドール元帥もクラウド元帥の後に続き、ソカロ元帥までもが、頷いて後に従った。
 「あ・・・」
 「ユウは、コムイに報せてあげなさい」
 何か言い出そうとした神田を、ティエドール元帥がやんわりと押し留める。
 「君なら・・・こんな辛いことも、ちゃんと報告できるだろう。
 コムイには・・・そうだね、しばらく礼拝堂に来ない方がいいと、そう伝えなさい」
 「は・・・はい・・・・・・」
 頷いて、師を見送ってしまった神田は、しばし、その場に佇んだ。
 「・・・・・・礼拝堂・・・・・・しばらく・・・・・・?」
 師が口にした言葉の意味を、反芻しつつ考えてみる。
 「死体は・・・火葬・・・・・・・・・これはもしかして・・・ヤバい・・・か・・・・・・?」
 ようやくそのことに気づいた神田は、リナリーに次ぐ速さで回廊を駆け出した。


 ―――― 誰か冗談だと言って!!!!
 クラウド元帥に抱かれて、礼拝堂に運ばれたリナリーは、棺桶に入れられた挙句、蓋を閉められて、驚愕した。
 「う・・・嘘・・・っ!!
 ねぇ、嘘でしょ?!」
 慌てて蓋を押し上げようとするが、寝そべった体勢では十分に力を込めることもできず、重い蓋はびくともしない。
 「た・・・助けて!!助けて下さい!!」
 悲鳴をあげながら、力いっぱい蓋を叩くが、外には届かないのか、何の反応もなかった。
 「ブーツは部屋に置いてきちゃったし・・・・・・!」
 イノセンスがなければ、リナリーも普通の女の子だ。
 多少腕力があるとは言っても、この状態から抜け出すことは難しかった。
 「な・・・なにか・・・・・・!」
 抜け出す術はないかと、考えを巡らせていると、棺桶の外から微かに、声が聞こえる。
 「ソカロ元帥・・・?」
 リナリーは太く、大きな声に耳を澄ました。
 『コムイが見たら危険だと言っているのだ!さっさと火葬にしてしまおう!!』
 それを聞いた途端、リナリーは狂ったように棺桶の蓋を叩き出す。
 「いや!!いやだぁぁぁ!!出してぇぇっ!!!」
 泣き叫び、力の限りに拳を叩きつけるが、外からは何の反応もなかった。
 それもそのはず、元帥達は、リナリーの悲鳴が聞こえないのではなく、聞きながら無視しているのだから。
 「なめられたものだね、私達も」
 クスクスと、密やかに笑うティエドール元帥に、他の二人は揃って首を振った。
 「なめられたのはお前だけだ、フロワ」
 「神田が船着場に行くように言ってきたのは、お前だけだったじゃないか」
 ソカロ元帥とクラウド元帥の指摘に、ティエドール元帥は苦笑する。
 「ウチの子のいたずらに付きあわせて、すまないねぇ、二人とも」
 「いや・・・ちょうどいい暇つぶしだ」
 愛想なく言い放ちながら、実は最も乗り気なソカロ元帥が、いそいそと薪を運んできた。
 わざと大きな音を立てて棺の横に置くと、わずかに空いた隙間に向かって声をあげる。
 「薪はこのくらいで足りるだろうか?」
 「いいや、もっと用意した方がいいのじゃないか、ウィンターズ?油もいるだろうな」
 「あぁ、油なら私が、絵の具用のを持っているから、それを使うかね?」
 元帥達の意地悪なやり取りに、また、棺の中から泣声があがった。
 「ちょっ・・・!笑うなよ、お前たちっ・・・!聞こえるぞ」
 「一番笑っているのはお前だろうが、クラウド・・・っ!」
 「い・・・意地悪だねぇ、君たちは・・・!リーが可哀想だよ・・・!!」
 「そう思うなら助けろよ」
 もっともらしいことを言いつつ、一番楽しそうなティエドール元帥に、またもや二人は声を揃える。
 「うーむむ・・・」
 わざとらしく咳払いして、ティエドール元帥は踵を返した。
 「じゃあ私も、チョウチョを捕まえて来ようかな♪」
 軽やかな足取りで歩きだしたティエドール元帥に続き、ソカロ元帥も踵を返す。
 「では俺は、クロスのとこのガキでも捕まえるか。
 クラウド、お前はブックマンとこの赤毛を捕まえろ」
 「なんで私が一番面倒なのを・・・」
 ぼやきながらクラウド元帥は、『お仕置き中 救出禁止』と走り書きした紙にサインし、リナリーを閉じ込めた棺の上に置いた。
 「あ!
 なんて冷たい奴らだ・・・!」
 気がつくと、一人残されていた彼女は、慌てて踵を返す。
 「さて・・・あの子はどこにいるのだろうな・・・・・・」
 通り縋る団員達に尋ねていったクラウド元帥は、何人目かで『医務室にいる』という情報を得、走って行った。


 その頃、医務室では・・・。
 泣き喚くコムイと嘆く科学者達と騒ぐファインダー達とそれらを煽動するエクソシスト達のおかげで、蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。
 「静かにせんか――――!!!!」
 とうとうドクターが怒鳴り声を上げ、一瞬、室内は静かになったものの、
 「だってリナリーがいなくなったんですよぉ?!」
 「大変さ!すごい怪我だったのに!!」
 と、またもや煽り出したエクソシスト達のせいで、元の木阿弥となる。
 さっきからこの繰り返しで、全く収拾がつかない有様を、忌々しげに睨み回していたドクターは、医務室のドアがまた開いた途端、舌打ちした。
 「今度は誰だ!!」
 ドアを開けただけで怒鳴られた神田は、ムッと眉をひそめたが、ドクターを無視して部屋の奥のラビを見やる。
 「ラ・・・」
 呼びかけようとした瞬間、神田は前のめりに崩れ落ちた。
 「神っ・・・!」
 反射的に駆け寄ろうとしたドクターを、しかし、神田の背後にいたティエドール元帥が押しとどめる。
 「あぁ、心配しなくていいよ、ドクター。
 ウチの弟子にちょっと説教しようとしたら、逃げられちゃってねェ」
 弟子を手刀一発で仕留めた元帥は、『よっこらしょ』と、年よりじみた声をあげて、神田を肩にしょった。
 「やれやれ、すっかり大きくなったねェ・・・だが、いたずら坊主なのは相変わらずだ」
 にこにこと笑いながらティエドール元帥が去ってしまうと、入れ替わりにソカロ元帥と、やや遅れてクラウド元帥までやってくる。
 「なんなんですか・・・」
 元帥達まで騒ぎに来たのかと、ドクターがうんざりとした声をあげると、二人は彼を無視して、真っ直ぐに目標へ向かった。
 「ラビ・・・」
 「元帥〜vv なになに?俺に会いに来てくれたんさ?!」
 目をキラキラさせるラビに微笑み、クラウド元帥が腕を伸ばす。
 「ちょっと来い」
 避ける間もなく首に絡んだ腕に頚動脈を締められて、ラビはあっさりと落ちた。
 「ラ・・・?!」
 一瞬の出来事に、アレンが声をあげた瞬間、彼もまた、前のめりに倒れる。
 「ウィンターズ、鼻を折るぞ」
 クラウド元帥がすかさず注意してくれたおかげで、ソカロ元帥はアレンの襟首を掴み、彼は顔面から石の床に叩きつけられずに済んだ。
 「あの・・・・・・?」
 この部屋の中で、唯一冷静なドクターが訝しげに問うと、元帥達は揃って肩をすくめる。
 「今日は何の日だ?」
 クラウド元帥の問いに、いい大人達がぽかんと、口を開けた。
 「コムイ、お前のところのおてんば娘は捕まえて、お仕置きしているよ。
 後はこの、いたずらっ子達を懲らしめるだけだ」
 「は・・・じゃあ・・・・・・・・・?」
 「小僧共のいたずらだ」
 ソカロ元帥の無愛想な声に、皆が安堵の息をつく。
 「エイプリルフールかぁ・・・・・・」
 「ちくしょー・・・やられたー・・・」
 ブツブツとぼやきながら三々五々散っていく団員達に、ドクターはじめ医療スタッフ達は、清々したとばかり肩をすくめた。
 が、ただ一人、怒りのオーラを纏って仁王立ちするコムイに、まだ安堵の息はつけない。
 「元帥・・・・・・」
 地獄の底から湧きあがってくるような、おどろおどろしいコムイの声に、元帥達は顔を見合わせ、手にした獲物を見せ付けた。
 「お仕置きは私たちがやるから、お前は見ているといい」
 「クラウドに従え、コムイ。
 お前が手を出すと、収拾がつかなくなる」
 元帥達の尤もな言い分に、医療スタッフらは揃って頷いたが、そこで引き下がるコムイではない。
 「そぉーですねぇぇぇーv
 じっくり、拝見させていただきましょぉかぁぁぁぁv
 ただでは済まないと思わせる、コムイの気迫だった・・・・・・。


 東の空が徐々に明るさを増し、ロンドンの町を覆っていた濃い霧が、黒の教団本城に音もなく満ちる頃、冷え切った礼拝堂に安置された棺の中で、リナリーは今朝何度目かの泣声をあげた。
 「ごめんなさい!ごめんなさい!もうしませんから!!たすけてぇ!!だしてぇぇぇぇ!!」
 泣きじゃくりながら、身体を覆う重い木の蓋を叩くが、外からは何の反応もない。
 「誰か!誰かぁ!!
 わぁぁぁんっ!!にいさぁぁぁぁぁん!!!」
 ヒステリックに泣き喚く声を、わずかに開けた隙間越しに聞きながら、ティエドール元帥は苦笑した。
 「やっぱり可哀想だねぇ・・・リーだけでも、出してやるかな・・・」
 言いつつも、失神した自分の弟子は、棺に入れて蓋を閉める。
 「・・・なっ?!」
 棺の閉まった音に、はっと目を覚ました神田は、自身の眼前を真っ暗に覆う棺の蓋に手を当てた。
 「なんだ・・・?!」
 押せばわずかに持ち上がった蓋らしき物が、急に重みを増して動かなくなる。
 ティエドール元帥が、あっさり開きそうになった蓋の上に、慌てて飛び乗ったのだ。
 「あぶないあぶない・・・」
 こっそりと呟きながら、時折揺れる蓋の上で重石となる。
 そうするうちに、他の二人も、それぞれの獲物を手に戻って来た。
 「おぉ、大漁だねぇv
 にこにこと笑って棺の上に座るティエドール元帥を、二人の元帥とコムイが物問いたげに見つめる。
 「いやいや、うちの子は元気で・・・っ」
 がぼんっと、大きな音を立てて持ち上がった蓋の上で、ティエドール元帥は転がりながら体重をかけ、蓋を閉じた。
 「死人のクセに出ようとするのでね」
 「なるほど・・・」
 クスリと笑って、クラウド元帥はラビを棺に押し込め、上に座る。
 「空気取りを設ける必要はないか」
 ソカロ元帥も、アレンを棺に放り込むと、その上にどっかりと座った。
 間もなく、彼らの乗った棺の中から涙混じりの悲鳴があがり、蓋を乱打する衝撃が来る。
 「ソカロ、気をつけるんだよ?ウォーカーは・・・・・・」
 言いつつ、ティエドール元帥は、ひょい、と身体をずらして、下から突き出された黒い刃を避けた。
 「爪か」
 黒い棺を貫いた五本の爪を避けて、ソカロ元帥が鼻を鳴らす。
 「おい、ウォーカー!
 俺にかすり傷ひとつでもつけてみろ。殺すぞ」
 恐ろしい声で凄まれるや、棺から突き出された爪が、そろそろと中に納まった。
 「ふふ・・・!
 ラビ?皆を驚かせたお仕置きだよ。しばらく私と一緒にいるがいい」
 クラウド元帥のささやきに、内からの乱打が止まる。
 だがひとつだけ、ティエドール元帥の乗る棺だけは、刃先が収まることはなかった。
 「あー・・・そろそろ切り刻まれちゃうねェ」
 暢気に笑いながら、黒い刃を避けていたティエドール元帥は、棺の蓋を切り裂いて飛び出した弟子の額に、自身のイノセンスを打ち込んで、再び気絶させる。
 「・・・・・・死んだか?」
 「まさか」
 目を見張るクラウド元帥に、ティエドール元帥はにこりと笑って、鑿(のみ)のような形のイノセンスの、刃とは逆の方を示した。
 「桂で殴ったから、寝ているだけだよ」
 温厚そうな顔をして、意外と容赦のないティエドール元帥に、コムイは惜しみない拍手を送る。
 「さすが、あの神田君のお師匠様ですねぇ・・・・・・」
 気性の荒い神田を手懐けているだけの事はある、と、感心しながら、コムイはただひとつ、誰も乗っていない棺に歩み寄った。
 「あーん・・・あぁーん・・・・・!
 にいさぁぁーん・・・ごめんなさいぃー・・・・・・!」
 外の騒ぎは聞こえなかったのか、ひたすら泣きじゃくるリナリーの声に苦笑して、コムイは棺の蓋を開ける。
 「もう悪さはしないかい、お転婆さん?」
 「にいさぁん・・・・・・!!」
 涙でぐしゃぐしゃになった顔をコムイの胸に押し付け、リナリーはぶるぶると震えながら泣き喚いた。
 「ごめんなさい・・・ごめんなさいぃ・・・・・・!!」
 しゃくりあげながら、何度も言うリナリーを抱きしめて、その背を優しく撫でてやる。
 「心配したんだよ?」
 「うん・・・ごめ・・・なさい・・・っ!
 だからっ・・・焼かないでぇ・・・・・・っ!!」
 「は?焼く?」
 コムイが眉をひそめると、リナリーは涙に濡れた顔を上げた。
 「げ・・・んすいたちが・・・っリナ・・・火葬するって・・・・・・っ!!」
 途端、気まずげに目を逸らした元帥達を、コムイはきつく睨みまわす。
 「ちょっと元帥方・・・!
 ボクの可愛い妹に、なんてこと言ってくださるんですかっ!」
 「まぁ・・・いたずらが過ぎたからな」
 「俺の弟子なら、この程度では済まなかったぞ」
 「いやぁ・・・私は、可哀想だって言ったんだけどねぇ」
 「一人で善人ぶるなっ!!」
 クラウド、ソカロの両元帥に怒鳴られて、ティエドール元帥は気まずげに頭を掻いた。


 その後、ようやく『お仕置き』から解放された4人は、ぐったりした顔で談話室の一隅を占めていた。
 「怖かったよぅ・・・・・・!」
 顔を覆ってさめざめと泣くリナリーに、神田が忌々しげに舌打ちする。
 「お前が失敗しなきゃ、うまく行ってたんだぜ?自業自得だろうが!」
 「ちょっと神田!そんな言い方ないでしょう?!
 ティエドール元帥にはバレちゃいましたけど、コムイさんは思いっきり騙せたんですから、いいじゃないですか!」
 すかさずリナリーを庇ったアレンに、神田の鋭い眼光が刺さった。
 「るっせぇよ、モヤシ!俺の主目的はあのオヤジだ!!」
 「誰がモヤシだっつってんですよあんた何度言っても覚えが悪いですね!!」
 「ちょいダマって」
 一触即発の二人に、冷静な声が水を差す。
 あぐらをかいた膝の上に頬杖をついたラビが、珍しく真剣な目で一点を凝視していた。
 目に写るものでなく、自身の中の記憶を見つめていた彼は、頷いて視線を三人に戻す。
 「最大の失敗は、やっぱ、リナが舟を出し損ねたことさ」
 「う・・・ごめんなさい・・・・・・」
 リナリーがうな垂れるや、何か言い出そうとしたアレンを、ラビは手を突き出して止めた。
 「第二の失敗は、ユウのミスチョイス。
 ティエのおっさんだけ連れてくるつもりが、他の元帥二人もついて来ちまった」
 ふっと、アレンが勝ち誇ったような笑みを浮かべ、神田は忌々しげに舌打ちする。
 「けど、一番足の速いリナと、リナの次に早いユウが仕掛けに回る役になったのは、間違いじゃないさ。
 つまり、つまづいちまった原因は、アレンを遊撃に使わなかったことだな」
 「え?僕?」
 目を丸くしたアレンに、ラビは悔しげに頷いた。
 「つまりは、俺の采配ミスかー・・・!
 あーチクショウ・・・!
 二人で医務室に行く必要はなかったんさ!」
 掌に拳を打ち付け、ラビが悔しげに唸る。
 「すまんかったさ、みんな。
 次は俺、采配ミスしねェように気をつけっから」
 潔くミスを認めたラビに、三人は何も言えず、ただ頷いた。
 「じゃあ、来年はなにするか、今から軽く決めとくさv
 悪びれず笑うラビに、思わず笑みが漏れる。
 「あ!でも、死体はやめましょ。シャレになんないよ」
 リナリーの提案に、三人は三様の表情で頷いた。
 「オヤジめ・・・思いっきり殴りやがって・・・!」
 「ソカロ元帥・・・怖かった・・・・・・」
 額を押さえて唸る神田の隣で、アレンは真っ青な顔で呟く。
 「えーv 俺、クラウド元帥に抱きしめてもらったしーv 結構満足vv
 「抱き・・・うん・・・物は言い様・・・かな・・・?」
 大はしゃぎのラビに半笑いを浮かべて、アレンは空しい声をあげた。
 明らかに裸締めされていたよ、とは、言ってはいけないことなのだろう、多分。
 「じゃあ、どんなのにすっかな!」
 明るい声と共に顔を上げたラビは、目玉がこぼれんばかりに目を剥いた。
 「んな・・・っ?!」
 「ラビ・・・みんなも、その顔・・・!!」
 「アレン君も、落書きされてるよ?!
 え?!私もなの?!」
 リナリーが慌てて取り出した小さな鏡に、押し合いへしあいして、4人の顔が写る。
 「・・・・・・・・・っ!!」
 頬に花丸を描かれたり、額にペンタクルを描かれたり・・・・・・派手に落書きされた顔を鏡越しに見た4人は、思わず吹き出した。
 「ヤラレタ・・・・・・!」
 「お仕置きよ、きっと・・・!」
 誰も気づき得ない、一瞬の間にこんなことができる人間は、教団に・・・いや、世界に一人しかいない。
 犯人と目された女性エクソシストは、薄暗い回廊を科学班班長と並んで歩きながら、ペンをポケットにしまった。
 「騙された仕返しだ、ガキども」
 忌々しげに呟いたリーバーは、しかし、次の瞬間には笑い出している。
 「心配したんですものね・・・!」
 しかつめらしい口調の割りに、ミランダの表情も楽しげだった。



Fin.
 










みなさん、エイプリルフールには騙され下さいました?ほーっほほほほほ!!!!(哄笑)
3月24日の日記で、『しばらくは感想と日記以外の更新ができないと思います』とかほざきつつ、実はこれを書いていたんですのよ!あーっははははは!!
なんたって、エイプリルフールの準備は、何ヶ月も前からやってましたから!
TOPページは去年のうちに作ってましたから!(笑)
題名はまさに、この話のためだけにとっておいた『Lies and Truth』です(笑)
実はこのお話は、幻想水滸伝108のお題に使おうと思っていたものでした。
ですが、使おうと思っていたお題は別のお話で使ってしまったので、書く機会がなくなったものをリサイクル。
元話は、火葬ではなく、水葬の予定でしたけど、教団関係者は全員、火葬にされる運命であるため、より危険なお話となって再登場。>やなカンジ;
お話の都合上、リナリーはまだ髪が長い設定となっております★












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