† Milky Way †
※これは、D.Gray−man中国神話パラレルです。 あまり深く考えず、頭を空っぽにして読んでくださいね★ |
「・・・いい加減、可哀想だと思うのよ」 ジェリーはそう、ため息混じりに呟くと、切なげに眉をひそめる。 「あの子、まだ若いのにお仕事ばっかりで。 確かに有能だし、真面目な子だから、お仕事がうまく行って楽しいのはわかるんだけど・・・年頃の女の子が遊びもせずに仕事ばかりって、どうなの?」 ぶつぶつと言いながら、ジェリーは手ずから入れた茶を、九天玄女(きゅうてんげんじょ)に差し出した。 「それは私も思うぞ、西王母。 仕事が大事なのはよくわかるが、あの年頃の少女と言うものは、もっと華やかでいいはずだ」 ジェリーを身分で呼んだ女も頷いて、受け取った熱い茶に息を吹きかける。 彼女が茶をすする間、部屋にはその芳香のみが満ちた。 ややして、 「だからな、私からも天帝に言ったのだ。 少しは姫を外に出してやるように、とな」 軽い吐息と共に出た言葉に、ジェリーは目を見張る。 「んまっ! クラウドちゃん、コムイに言ってくれたの?!」 感謝と期待に満ちた声に、しかし、クラウドは苦すぎる笑みを浮かべた。 「・・・・・・すまん」 失敗した、と、むなしく笑声を上げる彼女に、ジェリーはがっくりと肩を落とす。 「大事な姫に悪い虫でもついたら大変だと、それはすごい剣幕で怒鳴られたぞ」 「んもう・・・! あの過保護兄はぁぁぁぁぁ!!」 「ひっ!!」 ジェリーが絶叫した瞬間、間が悪く部屋に入ってきた青鳥が驚いて、手にした数々の書簡を派手にぶちまけた。 「あらっ! アラアラ、ごめんなさいね、ミランダ! アタシとしたことが、大声上げちゃって!」 ジェリーは慌てて立ち上がるが、クラウドは椅子に座ったまま、床に這うミランダをちらりと見遣る。 「修行が足りんな」 「すみませんっ!!」 顔を真っ赤にして、落とした書簡を拾ったミランダは、改めて揃えたそれをジェリーに差し出した。 「お・・・お手紙です」 「アラん? どなたかしら・・・きゃあん 書簡を開いた途端、ジェリーが歓声をあげる。 「アレン? ・・・ああ、東の牛飼いか」 クラウドの呟きに、ミランダが頷いた。 「はい・・・。 今、西王母様の一番のお気に入りの子なんです」 「可愛くて、とってもいい子なのよー アタシの桃を、そりゃあおいしそうに食べてくれてねぇ 「私も、多少のことは聞き及んでいる。 思いやりのある仕事をすると」 「はい。 私も、何度も助けられました」 そう言って、ほんのりと笑うミランダに、クラウドは笑みを深くする。 「あのラビの友人であることは少々気になるが・・・西王母と青鳥が認める者ならば、間違いはなかろう」 笑みを含んだ声で言うと、クラウドは帯に挿した扇を抜き取り、ジェリーの広げる書簡をその先で示した。 「めあわせてはどうだ?」 「え?」 「えぇ?!」 あっさりと言ってのけた彼女に、悲鳴じみた声が上がる。 「天帝は?!」 「今度こそ、説得する」 強い意思を込めて、きらりと光るクラウドの目に、二人は息を呑んだ。 やがて、 「そうね・・・いいかも・・・・・・」 「いいんですかぁっ?!」 呟いたジェリーに、ミランダが今度こそ悲鳴を上げる。 「だって、このままでいいわけないじゃない・・・」 そうは言いつつも、戸惑いがちなジェリーに反し、クラウドの口調はそっけなかった。 「そろそろ天帝も、妹離れする時期だろう」 そうと決まれば、と、クラウドは早々に席を立つ。 「私は天帝を説得するので、西王母、見合いのセッティングをよろしく」 「え?! えぇ・・・・・・」 まだ、ためらっているジェリーに、クラウドは振り返りざま、微笑んだ。 「可愛い姫のためだ」 「そうね・・・・・・」 だが、まだ頷き得ないジェリーに、意外なところから声がかかる。 「リナリーちゃんが嫌なら、無理には勧めない、と言う事でいいんじゃないでしょうか・・・」 ミランダの、控えめだが最もジェリーの意に添う申し出に、彼女もようやく頷いた。 「そうね! 最後はあの子が決めることだわ!」 ぱん、と、扇で手を打ったジェリーに、くすくすと軽やかな笑声が上がる。 「なんだ。お気に入りの少年を、取られたくないのかと思ったぞ」 「そんなわけないじゃない」 クラウドの指摘に苦笑を返し、ジェリーは拳を握った。 「そうと決まれば善は急げよ!! ミランダ、アレンちゃんとリナリーのとこに、お使いに行ってね!」 「はっ・・・はいっ!!」 ミランダが緊張気味に頷き、クラウドも今度こそ踵を返す。 「我らが組めば、あの天帝もなんとか出来るだろう」 「そうね!」 「本当に・・・・・・」 戦乙女の自信に満ちた背を、ジェリーとミランダは、頼もしげに見送った。 天女達の会見から、数日後。 天の川の東に住むアレンの元に、西王母からの書簡を携えた青鳥が現れた。 「どっ・・・どうしたんですか、ミランダさん? なんだかボロボロですけど・・・・・・」 彼女を迎えるや、アレンが驚いて問うと、ミランダは悲しげに俯く。 「それが・・・先日の雨で、天の川が増水していて・・・・・・。 流れの速さに舟が転覆して、川に落ちちゃったの・・・・・・」 「えぇっ?!大丈夫ですか?!」 アレンが目を丸くすると、ミランダは儚げに微笑んだ。 「大丈夫よ・・・私、落ちたり、溺れたりすることには慣れているから」 「慣れないでくださいよ!!」 思わず悲鳴を上げたアレンの鼻先に、すっと、美しい木箱が差し出される。 「・・・だから、お届け物だけはいつも、破損しないように気をつけているの。 ハイ。 西王母さまからですよ」 「あ・・・ありがとうございます」 そういう問題だろうかと、疑問に思いつつもアレンは、ミランダが差し出した箱を受け取った。 「・・・あれ? なんですか、この服?」 箱の中から、手触りのいい布で仕立てられた服を取り出し、アレンは首を傾げる。 「きれいな織物ですねぇ・・・でも、なんで?」 西王母が手紙につけて送ってくれるのは、いつも食べ物だったはずだ。 不思議に思って尋ねれば、ミランダはふわりと微笑む。 「一緒に、西王母さまからの招待状が入っていたでしょう?」 「はい、おいしい物をたくさん用意するからいらっしゃいって・・・ アレンがうっとりと頬を染めると、ミランダの笑みが苦笑に変わった。 「・・・その時にね、他にもお客様がいらっしゃるの。 アレン君にもぜひ、紹介したいからって・・・」 「これを着て来なさい、ってことですか?」 「そうなの!」 察しのいいアレンに、かなりのところほっとして、ミランダが頷く。 「お客様と言うのが、この布を織った人なのよ。 だから・・・」 「あぁ、その方に喜んでもらえるんですね 「ええ!」 思わず安堵の息をついたミランダに、アレンが首を傾げた。 「だって・・・どう言えばいいか、わからなかったんですもの」 アレンの仕草に、ミランダが苦笑する。 「例えば・・・そうね、これが阿修羅さんだったら私、まともに伝えることが出来なかったと思うわ」 しみじみと言う彼女に、アレンも納得したとばかり、深々と頷いた。 「彼は・・・ミランダさんみたいにか弱い女性が近づいていい人じゃありませんよ。 乱暴だし失礼だし目つき悪いし誰がモヤシだってんだ自分こそぱっつんのクセにあんな顔した奴に女顔なんて言われる筋合いないんですよ!!」 興奮のあまり、だんだん語調がきつくなっていくアレンを、ミランダは慌てて押しとどめる。 「ま・・・まぁまぁまぁまぁ!落ち着いて?!ね?!」 彼女の必死な声に、アレンも我に返り、気まずげに頬を染めた。 「ご・・・ごめんなさい・・・・・・」 「いいえ」 俯いてしまったアレンに苦笑して、ミランダは小鳥のように小首を傾げる。 「それで・・・来てくれるかしら?」 「もちろんです!」 ぱっと、嬉しげな顔をあげたアレンに、ミランダはほっとして笑みほころんだ。 「よろしくね。 ・・・・・・・・・あの・・・・・・」 長い逡巡の末、ミランダはまるで、哀願するかのような上目遣いでアレンを見つめる。 「絶対、来てね?」 「は・・・はい・・・」 なぜそこまで念をおされるのか、わからないまでもアレンは、深くうなずいた。 「西王母さまによろしく」 「えぇ ようやく晴れやかな笑みを浮かべ、去って行ったミランダを見送ると、アレンは手にしたままの織物を困惑げに見下ろす。 「食べ物じゃなかったよー・・・・・・」 残念そうなアレンの声に、飼い牛達が気遣わしげに鼻先を寄せてきた。 更に数日後。 西王母主催の宴にやって来たアレンは、華やかに着飾った天女達には目もくれず、まっすぐにジェリーの元へと走って行った。 「ジェリーさーん 「きゃああん 飛びついてきた少年を、ジェリーはたくましい胸板で受け止め、ぎゅう、と抱きしめる。 「アレンちゃん、お仕事辛いんじゃなくて?ちゃんとご飯食べてる?」 相変わらず体の細い少年に、ジェリーが気遣わしげに問えば、アレンはにこりと笑った。 「食べてますよ ジェリーさんが毎日送ってくれるの、全部 「だったらもっと大きくなってもいいはずなのにぃ・・・今日は、おいしいものたくさん用意したから、いっぱいお食べなさいね 「わぁい 尻尾があったなら、千切れんばかりに振っていただろうアレンの様子に、とうとう周りから苦笑が漏れる。 「相変わらず、西王母の前では甘えん坊だ、あいつは・・・」 苦笑を漏らした一人であるクラウドが、紗幕の後ろで緊張に震えている少女にもそれを向けた。 「どうだ?あまりにも好みでないなら、この話はなかったことにするが?」 「ねぇ・・・そもそも、なんでこういう話になっちゃったの・・・?!」 「言っただろう。 仕事ばかりしているお前を不憫と思ったからだ」 「だ・・・だからって、今日初めて会った人と・・・」 「見合いなど、そんなものだ。 何度も言うが、あちらには、これが見合いだとは伝えていない。 お前が嫌なら、それでいい」 淡々と言われて、ようやく決意したらしい少女は、そろそろと紗幕の影から顔を覗かせる。 と、目当ての少年は、西王母に頭を撫でられて、嬉しそうに笑っていた。 「・・・・・・」 「どうだ?」 さりげなく、だが、内心、かつてないほどに緊張して、クラウドが問うと、少女は目尻を赤らめて振り向く。 「・・・・・・話してみないとわかんないよ、そんなの」 ことさらに憮然とした声を出す少女に、クラウドは笑みを深めた。 ―――― 第一関門は突破か。 わかりやすい態度に笑声を漏らしてしまわないよう、気をつけながら、彼女は少女の腕を引く。 「え?!あ・・・あの・・・」 「いいから来い。 ――――・・・アレン、久しぶりだな」 「あ!九天玄女さま!」 クラウドが声をかけると、アレンは礼儀正しくこうべを垂れた。 「お久しぶりです。 先日は・・・その・・・・・・友人が、ご迷惑をおかけしまして・・・・・・」 「それは既に、本人に厳罰を下したゆえ、もう良い」 さらりと言うと、クラウドは『それより』と、笑みを深める。 「今日はいつにもまして素敵な小紳士ぶりだこと。 その服は気に入ってくれたか?」 「え? あ、これ、九天玄女さまがくださったんですか? じゃあ、ラビには秘密にしておかないと、取られちゃいますね!」 にこっ、と、無邪気に笑う様が可愛らしく、クラウドは珍しくも、声を上げて笑った。 「そうしておいで。 では、その生地を織った者を紹介しよう。おいで、リナリー」 手招かれて、少女はおずおずと進み出る。 「はじめまして・・・・・・」 紅らめた顔を俯けたまま、ぼそりと呟いた彼女にも、アレンはにこりと笑いかけた。 「はじめまして、姫! この服、すごくきれいで、着心地良くて、とても気に入りました!ありがとうございます 直球で放たれたほめ言葉に、リナリーはますます紅くなる。 そのまま、何も言えずに俯き、クラウドの背に隠れてしまった彼女を見止め、ジェリーがすかさず寄って来た。 「アラアラこの子ったら照れちゃって! ごめんなさいね、アレンちゃん。 この子、ずっと一人で引きこもってお仕事してるから、おしゃべり苦手なのよぉー」 「一人でお仕事しているんですか? 機織なんて重労働でしょうに・・・大変ですね」 アレンのそつのない受け答えに、リナリーはクラウドの背に隠れたまま、わずかに首を振った。 どうやら口の中で、『そんなことはない』とでも言ったらしい。 そんな彼女の様子に、ジェリーと苦笑を見合わせたクラウドは、すい、と身を翻して、リナリーをアレンの前に押し出した。 「きゃっ!」 「人見知りもいい加減にしろ。 せっかく来てくれたのだ。話し相手にでもなってもらえ」 クラウドがやや厳しい口調で言うと、その後をジェリーが引き取る。 「そうね、アレンちゃん アタシ、他のお客様のお相手もあるからぁ。 リナリーのこと、お願いできる?」 人見知りする子なの、と、囁くと、アレンはにこりと笑ってうなずいた。 「わかりました。お相手します」 アレンの返事に、ジェリーは満足げにうなずき、リナリーに手を振って離れていく。 そしてやがて、クラウドも・・・・・・。 二人の周りから、不自然に人気がなくならないよう、絶妙に配置された天人達は、時折二人にも話しかけながら、それぞれに笑いさざめいていた。 そのうちに、どうやら打ち解けてきたらしい。 楽しげな様子の二人を遠くから見遣りながら、ジェリーはクラウドに問いかけた。 「・・・どう思う?」 「うまく行くとも」 気遣わしげなジェリーに断言し、クラウドは微笑む。 「結局、天帝の説得はできなかったからな。 長引くと厄介だ。我々で早々に進めよう」 そう言って、ひっそりと笑った天女を中心に縁談は進み―――― 程よく日を置いた後、天球の片隅で、ささやかな式が催された。 それから、しばらく経ったある日のこと。 一人、鍛錬に励んでいた阿修羅の元に、月のウサギが飛び込んできた。 「ユウユウユウユウユウ〜〜〜〜!!!! ちょっと聞いてさ!! アレンが超酷いんさー!!!!」 大きな耳をぴるぴると震わせて泣き喚くウサギを、彼はうるさげに見遣る。 「騒がしい奴だな。 今度はなんだ? 丹精した金柑を食われたか。牛をけしかけられたか。天の川に突き落とされたのか」 興味なさげな口調を聞いてか聞かずか、ウサギは派手にしゃくりあげた。 「俺がジジィと薬こねてる間に、奴に結婚、先越されたさー!!」 「いいじゃねェか、そんなん。するつもりもねェだろ」 「ナニ言ってんさ! 俺が何度、九天玄女さまにプロポーズしちゃあ振られてると思ってんさ!!」 「何度だ?」 「54759回!」 「一日に何回振られてんだてめェは!!」 思わず突っ込むと、ウサギは涙に潤んだ目を上げる。 「それ以上にムカつくんは、結婚式に呼ばれなかったことさ! お前はともかく、俺はトモダチだって信じてたのにっ!」 「・・・お前が来ると、色々面倒だからじゃねェのか?」 「こんなにトモダチ想いの俺なのにっ!!」 叫んだ途端、ユウはしらけた目を向けた。 「ラビ・・・てめェ、自分が青鳥の結婚式で何やったか、覚えてねェのか?」 「え・・・・・・いや・・・あれは・・・・・・」 気まずげに目を逸らしたラビに、ユウは更に詰め寄る。 「天帝と共謀して、会場全ての花に火薬仕掛けたのは誰だ?」 「だからアレは・・・最後に花吹雪を舞わそうと・・・・・・」 「宴の途中で爆発して、ミランダは失神するわ、リーバーは激怒するわ、大量の怪我人は出るわ、華燭の典が一転、惨劇になっちまったじゃねェか」 「だーかーらー!! ちょっと失敗しただけさ! うまく行くはずだったんに、コムイが『派手にしよー!』って、火薬を多めに入れちまって・・・・・・」 「呼ばれねェのも仕方ねェと、思わねェか?」 「良かれと思ってやったんさー・・・・・・」 大きな耳を、再びぴるぴると震わせはじめたラビに、ユウは深々と吐息した。 「それで? あのモヤシは、誰と結婚したんだ?」 「織姫」 「織・・・?コムイ秘蔵の姫じゃなかったか?」 「そうさ。 宮殿の奥深くに閉じ込めて、誰にも会わせず、大切に育ててきたお姫さんさ」 「それを、よくもあんなモヤシにくれてやったもんだな。あいつ、そんなに気に入られてたか?」 ユウが不思議そうに問うと、ラビは憮然と頬を膨らませる。 「アイツを気に入ってんのはジェリ姐さ。 そりゃもう、ホントの親子なんじゃねぇの、ってくらいの溺愛ぶりで、姫を娶わせたんも、アレンを義理の息子にしちまおうって魂胆があんじゃねーかって話さ」 「あぁ・・・なんとなく、わかった」 ユウがうそ寒げな表情で頷くと、ラビは彼に、ねだるような上目遣いを向けた。 「ユウたん 「ヤメロ、気色悪ィ」 「新婚家庭、邪魔しにいこ 「そんなヒマなことは、一人でやれ」 「織姫の顔、見たくないさ?」 「興味ねェ」 「アレンのこと、からかってやりたくないさ?」 「奴の幸せそうな顔なんざ、見たくもねェ」 「じゃあ・・・コムイの泣き顔見物 「・・・・・・・・・」 「毎日、ストーカーみたいに貼りついてるらしいさ」 「へぇ・・・・・・」 「それをジェリ姐が、あらゆる手を使って引き剥がしてるらしいさ」 「ほぅ・・・・・・」 「あの二人の漫才、けっこ笑えね?」 「・・・・・・・・・」 「それに巻き込まれてんさ。アレン、どんな顔してっかなァ?」 「・・・・・・面白そうだな」 とうとう、そう言わせることに成功して、ラビが指を鳴らす。 「だろ?絶対、面白いと思うんさー 「べっ・・・別に、興味があるわけじゃねぇぞ! ただ俺は、奴が飼っている牛どもを見に行きたいだけで・・・!」 「牛でもコムイでもアレンでもいいから、見に行こうぜー そうと決まれば、即実行さ! 俺、結婚祝いに家庭の常備薬用意してきたから、ユウもなんか持ってくさ 「酒だな。祝いと言ったら酒だ」 「・・・それ、イヤがらせだろ」 「邪魔しに行くんだろ?」 にやりと、邪悪な笑みを浮かべた阿修羅に、ウサギは引きつった笑みを返すしかなかった。 意地悪な思惑のある二人が、天の川の東岸に着いた時には既に、新居の周りは喧騒に満ちていた。 「なんだ、あの声・・・」 「きっとコムイさ」 ユウの問いに肩をすくめ、ラビは川岸をてくてくと歩き出す。 と、彼らの周りにわらわらと牛の群れが寄ってきた。 「おー! すんげぇでかくなってんさ、ティム!」 「やっぱり、群れてるとこ見ると、圧巻だな」 二人して歓声をあげつつ歩を進めると、丸い身体に翼を持つ金色の牛は、のそのそと歩き、あるいはパタパタと羽ばたいてついてくる。 「あー・・・こりゃ、アレンが構ってやらないんで、寂しがってんさ」 「あぁ・・・コムイにつきまとわれてんじゃ、仕方ねェけどな」 「あらま!ユウちゃんたら珍しく同情的さ!」 「同情なんざするか!」 イライラと怒鳴り返す声も、新居に近づくにつれ、そこから湧き上がる絶叫に聞こえづらくなってきた。 「・・・なんか、引き返したくなってきたさ」 「これを見物に来たんだろうがよ」 扉の前で、思わず二の足を踏むラビの背を、ユウが無情に突き飛ばす。 「うわっ!なにすんさ!!」 ラビが頭で扉を押し、床に転がった途端、その背に何かがしがみついた。 「へ? ふがっ!!」 飛んできた花瓶に強打され、ラビの額から噴水のように血しぶきが上がる。 「なんでよけるのさ、アレン君!!」 「そりゃよけますよっ!!」 「俺を盾にすんじゃねーさ!!」 きゃんきゃんとわめきあう二人の間に、ラビの悲鳴も混じった。 「ちょ・・・マジ俺のデコ割れてね?! 薬・・・!!俺の薬はどこさ・・・っ!!」 アレンを背に負ったまま、ラビは血塗れて見えにくい目で、必死に持参の薬を探す。 が、それは床に落ちる前にユウの剣に受け止められ、西王母に手渡されていた。 「結婚祝いだ。 ラビからの薬と、俺から酒」 「アラ! まぁまぁ、ありがとうねぇー ちょうどお薬が必要だったから、助かったわぁ 「必要? いや、奴なら自分でなんとかするだろ」 そう言って、ユウが肩越しに指したラビは、ようやく自分が常備薬を持っていたことを思い出したらしく、自分で傷の手当てをしている。 「あン!違うのよぅ・・・お薬が必要なのは、リナリーなの。 ホラ、いらっしゃい、リナリー。 お薬塗ってあげるから」 「はぃ・・・・・・」 ジェリーの呼びかけに応じて、奥の部屋から出てきた天女に、ユウはどこか感心したように頷いた。 が、その目は一瞬にして、彼女の手に釘付けになる。 「・・・・・・ちょっと聞いていいか。 一体、どんな修行をしたら、そこまでひどい怪我をするもんなんだ?」 「しゅ・・・修行じゃない・・・・・・!」 顔を真っ赤にして、俯いてしまったリナリーの手を取り、ジェリーが苦笑しながら薬を塗った。 「アレンちゃんのために料理するんだって、張り切ったのはいいんだけど・・・包丁や油で怪我しちゃってねぇ・・・。 ・・・アンタ、ホントに料理は苦手なのね」 ジェリーの呆れた口調に、リナリーはますます赤くなる。 「ねぇ・・・これ、すぐに治る? このままじゃ、布が織れないよ・・・・・・」 哀しげに彼女が呟いた途端、彼らの傍らで甲高い悲鳴が上がった。 「大変だ! 僕の可愛いリナリーが、大切なお仕事をできなくなってしまうなんて! 家庭内暴力だ!ドメスティック・バイオレンスだ!! アレン君たらなんて酷い子なんだろう! ボクのリナリーに、こんな大怪我させて!!」 「え?!ち・・・違うよ?! これは自分でやったんだし・・・すぐに治るよね?!」 リナリーが慌てて反駁するが、当然ながら、コムイに聞く耳などあろうはずもない。 「治るもんかい、こんな大怪我が! こんな酷いところにいつまでもいちゃいけない! さぁ、ボクと実家に帰ろう、リナリー!」 「えぇっ?!そんな、お義兄さん!!」 「キ――――!!!! キミなんかに、お義兄さんなんて言われる筋合いはないんだよっ!!」 そうこうするうちにも、コムイはジェリーの手からリナリーを奪い取り、家を出て行く。 「待って・・・リナリー!!」 「ア・・・アレン君っ!!」 「カモン船!荒れろ天の川!! もうこの子は返しませーん!!」 勝利の高笑いを響かせながら、去って行く天帝とその妹を、ユウとラビは呆然と見送った。 「これは・・・いくらなんでも・・・・・・」 「あぁ・・・新婚家庭に対する仕打ちとは思えねェさ・・・・・・」 その傍らでは、愛妻を奪われたアレンが、ジェリーにすがり付いて泣いている。 「わぁぁぁぁぁぁぁんっ!!リナリーがぁぁぁぁ!!」 「ヨシヨシ・・・そんなに泣かないで・・・。 アタシが何とかするから!ね?!」 ジェリーはそう、請け負ったものの・・・一度リナリーを奪われたコムイが、二度と隙を見せるはずもなく、リナリーがアレンの元へ戻ってくることはなかった。 「若い身空でバツイチ」 「齢15にしてバツイチ」 「うるさいんですよアンタらっ!!」 杖を振り振り牛を追う傍ら、両サイドから嫌味と嘲笑にさらされ、アレンが苛立った声を上げた。 「第一!離婚してませんから!!」 「別居も長引けば、事実上の離婚さね」 「早いうちに清算しとくんだな」 「清算とか言うなぁぁぁぁぁ!!!!」 甲高い声で絶叫し、アレンは手にした杖をへし折る。 「西王母さまと九天玄女さまがなんとかしてくれるって、言ってくれましたもん! リナリーは絶対、帰ってきてくれるんですっ!!」 「だからてめェはモヤシだってぇんだよ。 てめェの女房くらい、てめェで連れ戻せ」 ユウの厳しい言葉に、アレンは一瞬、絶句したが、すぐにきつく、彼を睨み返した。 「じゃあ君は、天帝に逆らえるんですか。あの人を本気で敵に回すことができますか」 憮然と沈黙したユウに、アレンは暗い笑みを向ける。 と、ラビが暢気な口調で割って入った。 「なーんかさー。 あの後、ジジィに聞いたんけど、コムイの奴、あの姫には相当思い入れが深いらしいさ」 「それ・・・僕も聞きました。 伝承技術保護のために、リナリーは長い間、一人きりで修行させられたって」 可哀想に、と、アレンが呟くと、ラビも頷く。 「一族の中であの子一人だけ、ちっさい頃に引き離されてちまったらしいさ。 だから戻った後は、コムイが『もう放さない』って、閉じ込めちまったらしい」 「せっかく解放されたのに、また閉じ込められたってことか」 呆れ口調のユウに、しかし、ラビは首を振った。 「まぁ、大事な技術を持ってる奴には、仕方ないことさ。 俺だってホントは、薬の製法を守るために、外に出ちゃいけねぇって言われてるもん」 「その割には君、ぴょこぴょこと・・・」 「あちこち飛び回っているように見えるのは、気のせいか?」 「うぇっ?! あぅっ・・俺のことはともかく!!」 必死に手を振ってごまかし、ラビは慌てて言い募る。 「そんな身の上なもんで、姐さんたちが気の毒に思ったってことらしいさ!」 「それは、西王母さまから聞きました。 あの兄には苦労するだろうけど、がんばってねって」 「まさに苦労して、しかも奪還されて、その上俺は、デコ割られたんさ」 まだ痛い、と、恨みがましく包帯を巻いた額を近づけてくるラビから、アレンは不自然に顔を逸らした。 「だってあの時はちょうどいいところに盾になるものが出てきたもんだからつい・・・」 「誰が盾さ!!」 ぼそぼそと言い訳するアレンをぽかりと殴り、ラビは傍らで草を食む牛の背に乗ってあぐらをかく。 「おかげで俺は、姫の顔も見れんかったさ! すっごい美人だって聞いたけど・・・」 「はい!とっても美人です!!」 「お前の言う『美人』は信用ならないさ。 お前から見れば、おばさんも婆さんも『美女』じゃないさ。 ユウ、お前、見たんだろ?」 「あぁ。 ・・・そうだな。まぁ、普通なんじゃないか?」 「普通って・・・あんな美人を普通?! アンタの目は節穴ですか!!」 「ユウも、鏡を見慣れてっからなぁー・・・」 「ナルシスト!このナルシスト!!」 「っんだとこの女顔!!」 「誰に言われてもあんたにだけは言われたくないですよっ!!」 キーキーとサルのように甲高い声を上げて、掴みあう二人をラビが呆れて眺めていると、その背にそっと、遠慮がちな声がかかった。 「あの・・・・・・・・・」 中々、続きの出てこない声を、ラビがいぶかしく思って振り向くと、ユウとアレンの剣幕に怯えきった様子のミランダが、おどおどと身を震わせている。 「あ、久しぶりさ、ミランダ。 どしたん?」 ラビが気さくに話しかければ、彼女はようやく、ほっと吐息した。 「あの・・・・・・アレン君・・・・・・」 「ん。了解了解♪ おーぃ、アレン!喧嘩やめるさ!ミランダが来てっぞ!」 「あ!はい!」 言うや、アレンはユウを蹴り飛ばし、ミランダに駆け寄ってくる。 「てめェ!!モヤシ!!」 まさに鬼の形相で追いかけてくるユウに、なぜか、ミランダの方が逃げ出した。 「ちょ・・・?! なんで逃げるんですか?!」 「だってっ!怖いっ!!」 必然的に、アレンとも追いかけっこをはじめたミランダを見かねて、ラビが紅い布を振る。 「ユーゥ。ストップストップ」 「俺は牛かっ!!」 「まぁまぁ。ミランダが帰ったら、思う存分やればいいさ」 それより、と、ラビはひっそりと囁いた。 「ミランダがどんな報せを持って来たんか気になるさ」 お前もだろ、と言い募られて、ユウは憮然と口をつぐむ。 と、同時に、アレンの甲高い声が響いた。 「リナリーが倒れたですって?!」 どうして、と、取りすがるアレンに、ミランダは困惑げに眉根を寄せる。 「実家に無理矢理連れ戻されてから、リナリーちゃんはお兄さんに、それはもう怒ってしまって・・・。 お仕事をボイコットしただけでなく、ハンガーストライキまでしちゃったの・・・。 あの子、やると決めたら徹底しちゃうから・・・・・・。 アレン君と離れ離れになってからずっと、一滴の水も口にしてないのよ・・・・・・」 ため息交じりの話の最後に、ミランダはひときわ大きなため息をついた。 「ハ・・・ハンガーストライキなんて・・・! そんな、恐ろしいこと!!」 真っ青になって震えるアレンへ、ラビが何度も頷く。 「お前がやったら、半日で死亡さ。 思っても実行すんじゃねェよ?」 「しませんよ! ってか、できません!!」 即座に否定して、アレンはミランダへ向き直った。 「それで?! リナリーはどうなったんですか?!」 「あ・・・今は大丈夫よ。 西王母様が天帝を説き伏せて、ご自分の宮に引き取ったから」 「じゃあ、お見舞いに!!」 「それが・・・・・・」 途端に表情を暗くして、ミランダはまたもや、深いため息をつく。 「アレン君にだけは、絶対会わせないって条件で、リナリーちゃんを引き取らせてもらったの・・・・・・」 「なんでっ!!」 「そうでもして保護しないと・・・いくら天女でも、死んでしまうからよ・・・・・・」 彼女が哀しげに目を伏せる様に、リナリーの容態を重ね、アレンはうな垂れた。 「なんで・・・・・・」 と、その頭に、細い手が載せられる。 「西王母様と九天玄女様、そして私も・・・なんとか二人が会えるように、説得するわ。 だからもう少し・・・もう少しだけ、待って下さいね。 私はそれを伝えに来たんですよ」 「はい・・・・・・」 アレンの納得しがたい声に、ミランダは暗い表情のまま、宮殿へと戻って行った。 その頃、天の宮殿では、最も高貴な二人が、子供のように甲高い声をあげて怒鳴りあっていた。 「絶対ダメだよ! 絶対許さない!! そもそも、ボクに秘密でリナリーをお嫁にあげちゃうなんて、なんて酷いことすんだい!」 「うるっさいわね! 天女の支配者はアタシよぉ?! 天帝だからって、文句言われる筋合いはないわ!」 それに!と、ジェリーは扇の先を突きつける。 「アレンちゃんはアタシの目に適った、いい旦那さんよ! それをアンタ、無理矢理引き離して! せっかくうまく行っていたのに、アンタが余計なことするから、リナリーが大変なことになったじゃないのよ!」 「うっ・・・! ボクだって・・・まさか、あんなにまで・・・・・・」 途端に悄然とうなだれたコムイを見下ろし、ジェリーは深々と吐息した。 「可哀想に、あんなに痩せてしまって・・・。 このままじゃ、機織どころじゃないわよ。 アンタもいい加減、折れなさいな」 「それとこれとは話が別!!」 「別じゃないでしょ! アンタが二人の夫婦仲を許しさえすれば、あの子は元気になるのよ!!」 堂々巡りする言い争いに、さすがのジェリーも疲れ果て、うんざりとした声をあげる。 「・・・妥協案を探しましょ。 まずは、リナリーを元気にする。これは文句ないわね?」 「うん!もちろん!!」 「じゃあ、アレンちゃんをお見舞いに・・・・・・」 「あのクソガキ!! この宮に一歩でも踏み入ってごらんなさい!蜂の巣にしてやるヨ!!」 「〜〜〜〜・・・このわからずや!!」 「ふん!! なんとでも言うんだね! ボクは、敵を自陣に迎える気なんてさらさらないよっ! ここに来たが最後、アレン君の命はないものと思いなさい!!」 凄まじい気炎に舌打ちし、ジェリーは扇を広げてせわしなく煽いだ。 「じゃあ、いいわ。 リナリーがもう少し元気になるまで、あの子はアタシが預かる。 そして、自分で歩けるくらいにまでなったら、天の川の岸で、アレンちゃんに会えるようにしてあげましょ。 このくらいはいいわよね?!」 「〜〜〜〜・・・リナリーが、対岸に渡っちゃダメだよ?! 会うのは西側!!これは絶対譲れない!!」 「このっ・・・・・・!!」 怒りのあまり、ジェリーの扇を振る手が、更にせわしなくなった。 が、 「・・・っいいわ! それで妥協しましょう! じゃあ西の川岸に新居を用意してあげて、しばらく・・・」 「いらないよ! 会うのを許すのは、一日だけだもんっ!!」 「アンタねぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」 とうとう、扇をへし折って絶叫したジェリーの迫力にも怯まず、コムイは決然と首を振る。 「間違いがないように、ちゃんと監視役もつけてよね?! じゃなきゃダメ! 一日だって会わせない!!」 コムイの意思・・・と言うより我意は、それ以上の妥協を決して許さず、結局はジェリーの方が、折れざるを得なかった・・・。 「そう言うわけで、なんとか一日、会えるようにはしたから・・・・・・」 「・・・・・・」 「拗ねないでちょうだいよぉ・・・アタシだって、かなりがんばったのよぉ?」 それは、すっかり嗄れてしまった声を聞けば、容易に想像できる。 リナリーは寝台に寝そべったまま、気遣わしげなジェリーを見上げた。 「いつ・・・?」 ジェリーに負けず劣らず、かすれた声で尋ねると、彼女はほっとしたように笑う。 「五日後よ。 アンタも、そんなにやつれた姿を見せたくないだろうと思ってね」 「ん・・・・・・」 顔を赤らめて、頷いたリナリーの頭を、ジェリーは優しく撫でてやった。 「もうすぐ会えるから・・・早く、元気になってね」 「うん・・・・・・」 そうして、周りの多大な努力の結果、ようやく二人が会えることとなった当日は、朝から黒い雲が天を覆い、重い雨が降り注いでいた。 その上、強風が天の川を波立たせ、とても舟が渡れる状態ではない。 「そんな・・・・・・」 対岸にいるはずのアレンの姿を見出せず、リナリーは不安げに唇を噛んだ。 同じく、アレンも。 あまりに激しい波風に、ティムキャンピーの翼も歯が立たず、川を渡りかねていた。 「リナリー・・・・・・」 しょんぼりと肩を落とす彼を慰めるように、ティムキャンピーが長い尾を添わせる。 激しい雨に濡れそぼりながら、雲の切れる気配はないかと、必死に空を見上げる彼と同じく、リナリーも両手を握り合わせて天を仰いだ。 この日のために選んだ服は、ずぶ濡れになって重く肌にまとわりつき、きれいに結っていた髪は風に乱れて、かんざしも落ちてしまっていたが、彼女は気にも留めず、祈り続ける。 その姿は、見ている方が辛くなるほど、憐れなものだった。 「こんな・・・可哀想なこと・・・・・・」 リナリーをやや離れた場所で見守っていたミランダが、その様に思わず涙を零す。 「なんとかしてあげたいけど・・・どうしたら・・・・・・!」 とはいえ、そう簡単に良い考えが浮かぶはずもなく、ミランダがおろおろと視線を彷徨わせていると、その目の端を、白いものがかすめた。 「え・・・?」 目を見開く彼女の傍らを、白い翼の群れが過ぎて行く。 「なに・・・?!」 驚き、あとずさった拍子に、ミランダは自分の裳裾を踏んでよろめいた。 「きゃっ」 転びそうになった途端、その背をしっかりと支えられたミランダは、振り向いて更に目を見開く。 「あ・・・あなた・・・・・・」 「お仕事ご苦労さん」 常に天帝の側にいるはずの夫が突然、自分の背後に現れたことに驚いたミランダだったが、すぐに得心して、顔をほころばせた。 「この鳥達は、あなたですね?」 「そう。 あのシスコン天帝、どうにかして二人を邪魔してやろうと、てぐすね引いてたんで、こりゃヤバイってんで、対処しておいたよ」 「さすがだわ・・・!」 「惚れ直した?」 「ええ!!」 歓声をあげてリーバーに抱きついたミランダを、川の東側から望遠鏡で眺めていたラビは、傍らのユウに話しかけた。 「アレンは姫と念願の再会で、ミランダは旦那とラブラブで・・・なーんで俺はお前とこんなとこで、ボケッと鳥見てんさ」 「嫌なら一人で眺めてろ。俺は帰る」 「ちょっ・・・?!帰んないで欲しいさ! 一人で眺めてっと、余計寂しいさ!!」 早速踵を返したユウを慌てて引き止め、ラビは切なく吐息する。 「俺も、九天玄女さまとラブラブしたいさぁー・・・」 「返り討ち覚悟でか」 「・・・・・・なんで負け決定なんさ」 「勝てるとは思えねェ」 きっぱり言われて、ラビの大きな耳が、しおしおと垂れた。 「しかし、まぁ・・・・・・」 半面を覆うほどに垂れた耳の下から、ラビが、苦笑混じりの声をあげる。 その視線の先では、久しぶりの再会を果たした二人が、熱い抱擁を交わしていた。 「一応これ、めでたしめでたし、ってやつさ?」 「今後に重大な課題を残してはいるがな」 アレンの前途に困難が待ち受けている様を見通してか、ユウは妙に嬉しげな顔で呟き、天の川を覆いつくさんばかりのカササギの群れをのんびりと眺めた。 ・・・その後、ユウの希望的予測を見事に反映して、リナリーとアレンは、何年も会えないままだった。 「・・・今年も雨だね、アレン君」 天の川の対岸で、リナリーがやや憮然とした声を上げる。 「す・・・すみません、リナリー・・・」 天気が悪いのは自分のせいではない、と、断言できない雨男のアレンは、彼女の苛立ちに、ただ悄然とこうべを垂れる。 一度目は、リーバーが手配したカササギの協力により、増水した天の川も渡れた二人だったが、二度目はなかった。 以後、リーバーもミランダも、この日は必ず重要な用を命じられるようになり、決して二人には関われないようになっている。 つまり、二度も失策を犯す天帝ではなかったということだ。 「もう・・・毎年雨で増水するんだもん。 いつになったら会えるの?」 不機嫌なリナリーの声に、アレンは牛の背に乗せていた大きな袋を、慌てて引きずりおろした。 「大丈夫です! こんなこともあろうかと、今年は月からウサギをさらってきました!」 「わぁぁぁぁぁぁんっ!!放すさぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」 大きな耳をぴるぴると震わせながら泣き喚くラビに、アレンは凄絶な笑みを向ける。 「ラビ・・・君が木判を使わないようにと、お義兄さんから厳しく戒められているのは知っていますよ。 だけど、僕たちの愛のために、君が尊い犠牲となってくれたことは一生忘れませんから!」 「ちょっ?!なに勝手に決定事項にしてんさ! お前らに協力したら、俺がコムイに殺されるんさ!!」 「後でコムイさんに殺されるのと、今僕に殺されるのと、どっちがいいですか?」 更に凄みを増したアレンの笑みに、ラビはもう、声も出せないほど怯えた。 「はい 「・・・・・・・・・・・・・・・木判っ」 消え入りそうな声で呟き、ラビが手にした槌を発動させる。 「リナリー!晴れましたよ!」 「アレン君 牛に乗って川を渡ってきたアレンを、リナリーが歓声を上げて迎えた。 「ようやく会えたね!」 「はいっ 抱き合って喜ぶ夫婦の対岸で、しかし、ラビは心身ともにすくみ上がり、震える足を懸命に踏み出す。 「と・・・とりあえず、逃げるさ・・・・・・!」 できるだけ体勢を低くして、のんびりと草を食む牛の体に身を隠しながら、ラビは可能な限りの早さでその場を逃げ出した。 「ここまで来れば・・・!」 自宅近くまで一気に駆け抜けたラビは、見慣れた薬房の姿にほっと吐息する。 「ジジィ、ただいまさー」 薬草の匂いにすら安堵して、扉を開けたラビは、そのままの姿勢で凍りついた。 「ヤァ、お邪魔してるよー」 暢気な声を上げてラビを迎えたのは、共に住まう老人ではなく、彼が今、最も会いたくなかった天帝その人だった。 「なんかさー。今日、大雨のはずなのに、局地的に晴れたよねー?なんで?」 理由を知っているだろうに、あえて問う彼から、ラビはじりじりとあとずさった。 「ボク、君には厳重に注意したよね? アレン君に協力しないでおくれって」 忘れちゃった?と、にっこり笑う顔が怖い。 「わわわわわわわわ・・・忘れてないさ!! ただ俺、アレンに脅されてっ・・・・・・!!」 「そう。 じゃあ、二度とボクの命令に逆らわないように、アレン君よりも怖い目に遭わせないといけないね?」 迫り来るコムイの手から素早く逃れようとするが、それより先に、伏せた耳をむんずと掴まれた。 「嫌さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 ラビの絶叫に、救いの手はどこからも現れず・・・・・・以後、天界に彼の姿を見かけることはなくなったと言う・・・・・・。 Fin. |
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2007年七夕用のお話でした 古代中国は、封神サイトをやっていた時に散々勉強したので、天人関係はサクサク書けたのですが、お勧めカップルを二組も夫婦にしちゃったのはちょっと照れました(・▽・)>なぜお前が照れる・・・; 織姫が天帝の娘だったり、西王母の娘だったり、むしろ西王母が織姫の原型なんだよとか、中国の神話って中々難しいので、色々こじつけていますが、まぁ、その辺は軽く読んでくだされば幸い。 この話で行くと、コムイ兄さんとジェリーが親子になりますしねェ(笑)>笑うな; 道教の神様や、仏教の守護神もごちゃ混ぜにしてますし、そもそも『天人&天女』って書き方間違ってんじゃないの?とか、あんまり厳しく書いても時間がかかるだけですからね。>そう言うのは封神で散々やったので、それが読みたい方は『封神演義的書庫』へどうぞ★ ちなみに、我がサイトに通ってくださる方達なら、ジェリー姐さんが美しく慈愛に溢れた女神の中の女神、西王母にふさわしいと思ってくださると、信・じ・て・る! |