† Let’s go to the answer †








 ドアを開くと、そこは、『無』だった・・・・・・。


 「科学班の仕業か?」
 ブックマンが忌々しげに呟くや、彼の弟子は泣声をあげて長い回廊を駆け去っていった。
 どうせ、誰かの部屋に押し入って安眠を得るのだろうと、彼は呆れた風に吐息する。
 「被害者は、誰だろうかの・・・」
 現在、最も可能性が高いのは、ラビが珍しく気を許しているらしいアレンだ。
 きっとあの弟子は、彼の迷惑など顧みず、部屋を奪ってしまうことだろう。
 やれやれ、と、再び吐息して、ブックマンは踵を返した。
 責任者に一言、苦情を言うために、長い回廊を科学班へと向かう。
 毎度の事ながら喧騒に満ちた室内を、ブックマンは淡々と突き抜け、部屋の最奥にあるデスクに突っ伏す科学班室長に声を掛けた。
 「起きられい。妹御が結婚するそうだ」
 「はぅ――――――――――――?!」
 すさまじい勢いでコムイが起き上がると、ブックマンは麻痺のツボに鍼を刺して彼の動きを封じる。
 「コムイ室長、我らの帰還報告は聞いたかな?」
 「はぅっ・・・ぶっくま・・・・・・?!」
 「帰ったはいいが、部屋が破壊されておる。
 ラビは泣きながらどこぞへ行ってしまったが、私は無駄に駆け回る体力が惜しいのでな。
 早々に部屋を用意していただきたい」
 言いながら、麻痺の鍼を抜いてやると、コムイはがくがくと首を縦に振った。
 「すっ・・・すみませんでした!
 一昨日だったかなぁ?
 1階の部屋使って、コムリンVの起動確認しようとしたら、電源入れた途端に飛んでいっちゃってぇv
 屋上まで吹き抜けにしちゃったんですよねぇ―v
 てへv と、笑ったコムイの手の平に、再び鍼が刺さる。
 「激痛ぅぅぅぅぅぅっ!!」
 「いい加減にせぇよ、室長殿」
 「すっ・・・すみませんんん〜〜〜〜!!!!」
 コムイは痛みをこらえながら、すぐさま清掃班へ内線をかけ、空室の確保及び清掃を命じた。
 「ご用意ができましたのでっ・・・!ご案内させていただきましゅっ!!」
 だから抜いて、と、泣きながら差し出された手から、ブックマンは鍼を抜いてやる。
 「うえー・・・!治療・・・あれ?」
 鍼が抜かれた途端、激痛どころか血のにじんだ痕もない手の平に、コムイは目を丸くした。
 「それが治療だ。目が覚めただろう」
 凄腕の鍼灸師でもある老人にあっさりと言われ、コムイは苦笑しつつ首を鳴らす。
 「あー・・・なんか、眼精疲労が軽減された気がします」
 「また、いい加減なことを」
 「あははv
 まぁ、そんなこといいじゃないですかーv
 ご案内しますよん♪」
 言うや、コムイはブックマンの背を押し、軽い足取りで科学班を出た。
 「・・・って、室長――――?!」
 思わず見送ってしまった部下達の絶叫を背に、コムイは堂々と部屋を出られたことが嬉しくてたまらない様子で、長い回廊を歩む。
 「別に、室長自ら案内していただくことはないのだがな」
 ブックマンがやや皮肉な口調で言うと、コムイは楽しげに笑って首を振った。
 「フフフフフ・・・v
 おかげさまで堂々とサボ・・・イヤイヤ、息抜きできますよーv
 「おぬしのせいで私まで恨まれてはかなわん」
 思わずため息を漏らしたブックマンに、コムイは再び首を振る。
 「ブックマンを恨むだなんてそんな、呪詛返しされそうなこと、誰もしませんってー」
 「・・・さり気に失礼だな、おぬし」
 ブックマンが憮然とするが、コムイは気にする様子もなく回廊を渡り、階段を下り、清掃班が出て行ったばかりの部屋のドアを開けた。
 「ハイハイ、どうぞーv
 久しぶりに、床の見えるお部屋でお休みくださいv
 「・・・・・・おぬしにだけは言われたくないわい」
 以前の部屋は、毎日のように届けられる各国の日刊新聞や、ラビが収集したガラクタが溢れて足の踏み場もなく、床など見たことがない。
 しかしそれは、世界中から寄せられる報告書や申請書で溢れた、コムイの部屋にも言える事だった。
 「あ!ティーテーブルが床の上に乗ってますよ!
 ちょっとコレ、ラビが見たら感動するんじゃないですかー?」
 ブックマンの皮肉を完璧に無視して、コムイは小さなティーテーブルに添えられた椅子に座る。
 「ボクでも座れるーv すごぃーvv
 コムイがそんな些細なことで喜べるのは、今までブックマン達の部屋に設えられていたティーテーブルが、積み上げられた日刊新聞の頂上に乗せられるという、まるで曲芸並みの条件下にあったからだ。
 「まぁまぁどうぞ、お座りになって」
 はしゃいだついでに手を差し伸べ、コムイはブックマンに椅子を勧める。
 「疲れておるのだがな・・・」
 「あ!そうだろうと思いまして・・・」
 「ルームサービスよーんv
 見事なタイミングでドアが開き、ジェリーがティーセットを持って入ってきた。
 「ブックマンのおじいちゃん、お疲れ様んv
 甘いものでも食べて、ゆっくり休んでねーんv
 コポコポと、軽快な音を立てて料理長自ら淹れた茶を、ブックマンは気圧された様子で受け取る。
 「まぁまぁ、一服v
 ジェリーに礼を言い、再び閉ざされたドアを見やる視線を戻して、コムイはブックマンに茶を勧めた。
 「・・・何か、話したいことでも?」
 憮然と茶器を取った老人に、コムイはにこりと笑って頷く。
 「お弟子のことですよ。どうも最近、精彩を欠いているようですが」
 「そう見えるか?」
 茶をすする振りをして、さり気なく視線をはずしたブックマンに、コムイは微笑んだ。
 「私には、随分と悩んでいるように見えましたよ」
 故意か無意識か、一人称を改めたコムイに、ブックマンは俯いたまま、目だけを上げる。
 「アレン君の影響かもしれませんね・・・今の彼は、同年代の子達と一緒にいるのがとても楽しそうだ―――― 偽りなく」
 自分の茶器を取り上げ、一口茶をすすってから、コムイは続ける。
 「私達の基準で言えば、良い方向に変わった、と言うべきことですが、あなた達の基準には外れるでしょう。
 ラビの悩みも、そこに原因があるのかも」
 「そのような相談は、受けておらんな」
 「そりゃ、あなたにはできませんよ!」
 思わず笑声をあげたコムイは、ブックマンにひとにらみされ、慌てて口許を引き結んだ。
 と、ブックマンはコトリ、と、微かな音を立てて茶器を置く。
 「放って置かれい」
 一言、放たれた言葉に、コムイは眉根を寄せた。
 「それは、あやつが自分自身で解決することだ。
 それに・・・・・・」
 ふっと、ブックマンは軽く笑声を漏らす。
 「あやつは、それを悟られるようなことはせん―――― おぬしと、料理長は別にして、な」
 笑みを苦笑に代え、ブックマンは付け爪の先で茶器をもてあそんだ。
 「むしろ、あやつの変化に気づくとは、おぬしらの眼力に感服する」
 ブックマンの言葉に、コムイも苦笑する。
 「すごいのはボクよりもむしろ、ジェリーですよ。
 彼女が一人一人の体調やメンタル面を気遣って、ボクに教えてくれるんです」
 ジェリーが『あの子、変よ』と言い出したら目を配るようにしている、と、種を明かすと、ブックマンは微苦笑を浮かべた。
 「教団の母親だと、言うだけのことはあるな」
 「自他共に認めるママンですよ、彼女は」
 どこか自慢げに言ったコムイは、表情を引き締める。
 「その彼女が、ラビの心配をしているんです。
 彼は若いが、さすがにあなたの後継者だけあって、今まで自分の『心情』を見せることをしなかった。
 飄々として、みんなと『上手く』付き合っていたのに、なんだか最近、『感情』を見せるようになった、ってね」
 それは、常識的に見れば、むしろ喜ばしいことだろう。
 だが、ラビ自身だけでなく、ブックマンや、彼らの役目をも知るジェリーは、それがラビのメンタルな部分に影響するのではないかと気にかけていた。
 「それで?
 おぬしは何を提案してくれるのだ?」
 遠まわしな言い方を避け、結論を出せと言う老人に、コムイはしばし、無言で茶器をもてあそぶ。
 やがて、意を決したように目を上げると、老人に微笑みかけた。
 「私は、あなた達の役目と、目的を知った上で、エクソシストとなっていただきました。
 立場上、あなた方への命令権を持ってはいますが、ここを出て行かれるとおっしゃる場合、私に止める術はない」
 「それは、無論だ」
 そういう条件だった、というよりも、『ブックマン』を引き止めることは、この世界に存在する、どんな権力者にもできはしない。
 そう、それは、千年伯爵であっても。
 厳然たる言葉に、コムイは微苦笑を浮かべた。
 「では、ここに留まることで、あなたやあなたの後継者に、差支えがあるならば私は――――」
 「出て行ってほしいのか?」
 にやりと、意地の悪い笑みを浮かべる老人に、コムイは素直に首を振る。
 「まさか。
 私は、あなた達の立場や目的を知ってはいますが、その上で言いますよ。
 あなた達はボクらの、大切な仲間です、ってね」
 「迷惑な話だ」
 くつくつと笑声をあげる老人に、コムイは苦笑交じりの吐息を漏らした。
 「ご迷惑でしょうとも」
 でも、と、コムイは笑みを深めて続ける。
 「これが、ボクの軍です。
 世界中には色んな軍があって、あなたはボクよりもたくさんのそれをご存知でしょうが、ボクが作った、ボクの軍は、決して兵士を無駄死にさせない」
 「大元帥らのお気には、召さんようだがな」
 ふっと、目元を和ませ、ブックマンは茶を乾した。
 「あやつのことは心配ない。
 初めて戦場に入って、舞い上がっているだけのこと」
 「はぁ・・・それはまぁ、そうでしょうねぇ」
 ずっと、世界の框(わく)の外で傍観者に徹していた者が、突然渦中に放り込まれたのだ。
 いや、それ以前に、まだ十代の少年が戦場で、常に命を危険にさらしながら、冷静でいられるわけがなかった。
 『人間』との戦いならばともかく、『アクマ』は人間の中に入り込んで、エクソシストの肉体よりもむしろ、精神を蝕む。
 「疑心暗鬼に陥り、非常に不利な状況で生死を賭ける・・・そのような戦場で、初めて『兵士』となったあやつが、情動を増幅させてしまっただけのこと」
 「情動・・・ですか」
 オウム返しにつぶやいて、コムイは顎に手を添えた。
 「しかしまぁ、自分自身だけならともかく、あなたまで危険な目に遭っては、無理もないと言うか・・・」
 「まだまだ、未熟者だ」
 言下に言い捨て、ブックマンは首を振る。
 強力なアクマとの戦いでブックマンが負傷した時、ラビは初めて感情を露わにした。
 それより以前から、蓄積していた鬱屈が、師を失うかもしれないという恐怖に発露したのだろう。
 無理もない、とは、ブックマンは言うことはできなかった。
 人である以上、いつまでも命永らえることなどできはしない。
 だからラビには、いつまでも『後継者』でいてもらっては困るのだ。
 「一度でも絶えたら終わり・・・なのだから」
 思わずつぶやいた言葉に、コムイが目を上げる。
 その様にブックマンは苦笑して、片手をドアへ差し伸べた。
 「年寄りをこれ以上、疲れさせんでくれ。余計なことまで話してしまう」
 「あ!
 あぁ、すみません」
 コムイは慌てて立ち上がり、ドアノブに手をかける。
 「では、ごゆっくりお休みください」
 「あぁ、ありがとう」
 コムイが笑顔を残して去ってしまうと、ブックマンは新たに設えられたベッドに腰を下ろした。
 「やれやれ・・・早う、一人前になってくれよ」
 深い吐息と共に吐かれた独白には、誰も答えるものはなかった。


 数日後。
 特に任務もなく、教団で夏の日々を過ごしていたアレンは、ラビの誕生日当日を迎え、本気で悩んでいた。
 「度々頼っちゃって悪いけど、ここはやっぱり、プロフェッショナルに・・・・・・」
 ぶつぶつと呟きながら庭を横切り、バラ園に到ると、その低い生垣に小さな看板がかかっている。
 『任務にて留守中 バラに手出しをせぬように』
 「〜〜〜〜なんでこんな時に任務なんですかぁぁぁっ!」
 クロウリーの責任ではありえないことにさえ気がささくれ立って、アレンは生垣に縋りついた。
 「もう、ホントにどうしよう・・・!
 あいつに頼るのだけは、死んでも嫌だし・・・・・・!」
 と、
 「ど・・・どうしたの・・・・・・?」
 アレンがさめざめと泣く姿に気を引かれたらしく、ミランダが歩み寄ってきて、彼の背中に声をかける。
 「ミ・・・ミランダさぁん・・・・・・!」
 顔を上げたアレンの、ウサギのように真っ赤になった目が憐れで、ミランダはその傍らに座り込んだ。
 「あら・・・クロウリーさん、お出かけだったの・・・。
 ラビ君のお誕生日に、お花をあげようと思ったのだけど・・・・・・」
 目の前に掛けられた看板を見やって、ミランダが困惑げに言う。
 「は・・・花ですか・・・・・・」
 「えぇ。
 ・・・っいけなかったかしら?!」
 はっとして、悲鳴じみた声を上げた彼女に、アレンは慌てて手を振った。
 「いえ!
 そんなことありませんよ!ミランダさんからだったら、喜ぶはずです!!」
 ただ、と、アレンは再び表情を暗くする。
 「僕がお花をあげても、ラビは喜ばないだろうし・・・ってか、何を選べばいいんですかぁ・・・・・・!」
 そう言って、またもやさめざめと泣き出したアレンの背を、ミランダは苦笑しつつ撫でてやった。
 「それで、クロウリーさんに相談だったのね?」
 アレンが顔を覆ったまま頷くと、ミランダは何度も頷く。
 「じゃあ、ラビ君の好みを良く知っている人に聞けばいいじゃない」
 「嫌です!
 あのパッツンにだけは、死んでも頼みたくありません!!
 あいつに頭下げるくらいなら、アクマ100体と戦った方がぜんぜん気が楽ですよ!!」
 「いえ、あの・・・神田君じゃなくて・・・・・・」
 アレンの剣幕に気圧されながらも、ミランダは微笑んだ。
 「ブックマン・・・は・・・?」
 「え」
 「ブックマンは、誰よりもラビ君のことを知っているはずだもの。
 彼が喜ぶものがなにか、よく知っているはずだわ」
 「あぁ!」
 大きな声を上げるや、アレンはすっくと立ち上がる。
 「盲点でした!
 なんで気づかなかったんだろう!!」
 「それは・・・・・・」
 ふふ・・・と、軽い笑声を上げて、ミランダも立ち上がった。
 「ブックマンが、こんなことに知恵を貸してくれるはずがない、って、思い込んでいたからじゃないの?」
 「そう言われれば・・・そうです」
 ミランダの指摘にアレンは苦笑するが、それだけではない。
 ラビに巻き込まれ、共にいたずらをしてはあの厳格な老人にお仕置きをされ続けたせいか、アレンはいつの間にか、ブックマンに対して潜在的な恐怖を抱いていた。
 『こんなことで相談して、怒られないかなぁ』と言うのが、正直な気持ちだ。
 しかし、
 「背に腹は代えられません!
 ありがとう、ミランダさん!僕、行って来ます!!」
 異様なほど、気合に満ちた表情で拳を握るアレンへ、ミランダは気を呑まれて頷く。
 「え・・・っと・・・・・・。
 いいアイディアがもらえればいいわね」
 「はい!
 じゃあ、また後で!!」
 大きく手を振り、踵を返したアレンに手を振り返したミランダは、彼の姿が視界から消えた途端、困惑げに背後を振り返った。
 「お花・・・勝手に持って行っちゃ、怒られるわよね・・・?」
 クロウリーの戦闘時の姿を知るミランダは、アクマに向かっていく彼の、恐ろしい形相を思い出し、ぶるりと震える。
 「街に行くしかないわね・・・」
 切なく吐息して、彼女もまた、踵を返した。


 一方、庭の一角にブックマンを見出したアレンは、彼に駆け寄るや、両手を組み合わせて懇願した。
 「ラビが今、一番欲しがってるものって、なんですかぁっ?!」
 「・・・・・・は?」
 目に涙を溜めて跪くアレンに呆気に取られながら、ブックマンは手にした新聞をたたんで、ガーデンテーブルに置く。
 その間に、アレンの問いの意味を吟味し、彼に向き直った。
 「あれの、誕生日のことか?
 ならば、深く考え込むことなどない。おぬしが選んだものならば、なんでもよかろう」
 「どうせなら喜んでほしいんですよぉぉぉ!!」
 顔を覆って泣き崩れたアレンを、ブックマンは椅子にあぐらをかいたまま、呆れ顔で見下ろす。
 「なぜそこまで思いつめる事があるのだ・・・」
 「だって!」
 涙顔を上げたアレンは、一瞬言葉につまり、ぼそぼそと声を低めた。
 「僕は・・・・・・すごく嬉しかったから・・・・・・」
 「嬉しかった?」
 「はい・・・・・・」
 ブックマンは首を傾げつつ、アレンに椅子を勧める。
 彼の正面にちんまりと座ったアレンは、無言で先を促され、またぼそぼそと話し出した。
 「僕・・・誕生日を祝ってもらった事なんて、なかったんですよ。
 そもそも、僕自身が僕の誕生日を知りませんし。
 あ!マナ・・・いえ、養父は、僕を拾った日を誕生日にしようって言ってくれたんですけどね!
 まぁ、偶然にもと言うか、その日はクリスマスだったんで、結局はクリスマスパーティになっちゃって、それでまぁいいか、って思ってたんです」
 でも、と、アレンはなぜか、苦笑じみた表情になる。
 「色々、企んでくれるんですよね、あのひと・・・。
 去年なんか、ミランダさんに時間まで止めさせちゃって、僕、本当にびっくりした・・・・・・」
 はは・・・と、湿った笑声をあげるアレンに、ブックマンも苦笑した。
 「あれは、ミランダが言い出したことだろうに」
 「でも、ミランダさんの思い付きを、実行に移せるまでに計画を立てたのはラビだったって、後でみんなから聞きましたよ?」
 それに、と、アレンはふわりと微笑む。
 「僕だけでなく、他の人の誕生日や、ハロウィン、ヴァレンタイン・・・・・・エイプリルフールも」
 最後のイベントは、ブックマンの叱声を恐れて小声になりながら、アレンはいたずらっぽく笑った。
 「いつも、いろんなことを考えて、誰も思いつかないような計画を立てて、僕の知らないことを教えてくれて・・・一緒にいると、すごく楽しいんです」
 一緒に怒られもするけど、と、アレンは再び、怯えた目をブックマンへ向ける。
 「だから、何かラビの喜ぶようなことを、したいんですよ。
 彼は僕にとって、仲間というより、お兄ちゃんみたいな人だか・・・ら・・・」
 言ってしまってから、アレンは顔を真っ赤に染めた。
 「いいいい今のっ!!ラビには言わないで下さいね!!」
 慌てて手を振るアレンに、ブックマンも思わず笑声を漏らす。
 「それを言ってやるのが、あやつが何より喜ぶだろう、と言ってもか?」
 「ダメですっ!!
 そっ・・・そんなこと言ったら、すぐ調子に乗るじゃないですか、あのひと!!」
 耳まで真っ赤にして、アレンは必死に首を振った。
 「そっ・・・それ以外のものでお願いします!」
 引きつった声をあげながら、アレンはテーブルに額をこすりつけて懇願する。
 が、ブックマンはあっさりと首を横に振った。
 「ラビが何よりも喜ぶもの。
 それは、おぬしらがそうやって考えに考え、ラビの気に入るだろうと差し出してきたものだ。
 物に限らない。
 おぬしらが、ラビを『どう思っているか』を見せる事が、何よりあやつを楽しませる」
 「どう・・・思っているか?」
 「アレン・ウォーカー。
 おぬしはなぜ、これほどまでにラビへの贈物に悩んでいた?」
 逆に問われて、アレンはしばし、考え込む。
 「・・・普通のものじゃ・・・満足しないだろうと思ったから・・・です・・・・・・」
 自分で言ってから、アレンは目を見開いた。
 彼の部屋に溢れる、古いもの、奇妙なもの、珍しいもののほとんどが、団員達からの贈物だと知った時から、アレンは余程珍しいものでなければラビは喜ばないだろうと、思い込んでいたのだ。
 ブックマンは、ふっと笑みを漏らすと、ガーデンテーブルの上に乗せた新聞を、再び手に取った。
 「我らの性分として、もちろん、古い物や珍しい物は好いておる。
 だが、ラビは私より若い分、新しい物も随分好んでおるようだ」
 「・・・はい!
 ありがとうございました、ブックマン!!」
 アレンは歓声をあげるや、勢いよく立ち上がり、本城へと駆けて行く。
 その背を見送りもせず、ブックマンは紙面に視線を落とした。
 「兄か・・・・・・。
 私にもかつて、『ナカマ』と思える者はいたが・・・・・・」
 ふっと、笑みを口の端に乗せ、ブックマンはゆるりと首を振る。
 「昔々の話だの・・・・・・」
 苦笑まじりに呟くと、ブックマンは読み終えた新聞をテーブルの上に置き、懐から取り出した葉巻に火をつけた。


 アレンが本城に入ると、長い石の回廊を伝って、声が響いてきた。
 声に誘われるように寄って行けば、期待通り、リナリーの可憐な姿があった・・・が・・・・・・。
 「嫌なおまけがいる・・・」
 忌々しげに吐き捨てたアレンの視線の先では、目つきの悪い日本人が、リナリーを邪険に扱っていた。
 「しつっけェんだよお前!
 俺がなに用意しようが、お前にゃ関係ねェだろう!」
 「いいじゃない、教えてくれたって!私だって必死なんだよ?!」
 そう言う通り、リナリーは神田の腕に、必死に取り縋っている。
 「ねぇぇぇ!
 今年はラビに、何あげるのぉ?!」
 「リナリーもか・・・・・・」
 力が抜けそうになる足を何とか踏み留めて、アレンは二人に歩み寄った。
 「リナリー」
 アレンの呼びかけに、リナリーが振り返った一瞬、力が緩んだ隙に神田は彼女の腕からすり抜ける。
 「神田!!」
 リナリーが慌てて向き直った時には、彼の姿は既に消えていた。
 「〜〜〜〜っ逃げられた!!」
 悔しげなリナリーに、アレンは苦笑しつつ歩み寄る。
 「ごめんなさい、僕が声を掛けたから・・・」
 内心、してやったりと思いつつも、アレンは申し訳なさそうな顔で謝った。
 と、思惑通り、リナリーはふるりと首を振る。
 「いいよ。
 どうせ、あれ以上粘っても教えてくれなかったよ・・・」
 切なくため息をつくリナリーに、アレンは微笑んだ。
 「ねぇ、リナリー?
 ラビへのプレゼント、まだ決まってないんですよね?」
 「っそうなの!
 アレン君はもう決めた?!」
 リナリーが勢い込んで迫ると、アレンは笑みを浮かべたまま、思案げに顎をつまむ。
 「実は、ブックマンに相談したんですよね。そしたら・・・・・・」
 彼との会話をそのまま伝えると、リナリーの目が、キラキラと輝き始めた。
 「だったら私、いい考えがあるよ・・・!
 ラビっていつも・・・」
 最後の言葉はひそひそと、アレンの耳に囁きかける。
 「えぇ・・・実は僕も、それを考えてました!それにしましょう?」
 「うん!
 じゃあ兄さんにお願いして、どこか部屋を借りようね!」
 「はいv
 つい今まで、困惑げにひそめていた眉を晴れやかに開いて、二人は科学班へと向かった。


 その頃、この騒ぎの中心的な存在であるはずのラビは、台風の目よろしく、一人だけ喧騒の外にあった。
 しかし、いつまでも部屋に閉じこもっているわけにも行かず、よろよろとした足取りで食堂に向かう。
 「おはよーさー・・・」
 いつもより長い時間を掛けて食堂にたどり着いたラビが、生気のない声と共に片手をあげると、ジェリーは気遣わしげに眉を寄せた。
 「もうとっくに昼よ。
 ・・・それよりどーしたの、アンタ?
 ひどい顔よぉ?」
 「んー・・・あんま、眠れんくて・・・・・・」
 寝不足の赤い目をこすりながら、ぼそぼそと言う彼に、ジェリーは苦笑して手を差し伸べる。
 「アンタが眠れないなんて、よほどのことね。
 せっかくのお誕生日なのに」
 そう言って、ジェリーはラビの赤い髪を撫で、寝癖を直してやった。
 「で?悩み事?」
 あえてあっさりと問うと、ラビは思わず頷いたのち、慌てて首を振る。
 「どっちよ」
 「なんでもないさ!」
 愉快げに笑われて、ラビがむぅ、と、黙り込んだ。
 「あらあら、おしゃべりなアンタが珍しいわね。
 食欲は?」
 「あんまないさー・・・」
 「でもここに来たってことは、何か食べないともたない、って判断したのね?」
 「んー・・・そゆこと・・・」
 カウンターにもたれて、力なく頷いたラビの頭を、ジェリーはもう一度撫でてやる。
 「えらいえらい。
 じゃあ姐さんが、夜までには元気が戻るようなもの作ってあげるからねーんv
 アンタ、今日のパーティすっぽかさないでよんv
 「あ・・・うん・・・・・・」
 頷きはしたものの、屈託のあるラビの様子に、ジェリーは一瞬、気遣わしげな表情をしたが、すぐにそれを笑みに変え、カウンターに身を乗り出して、彼の頬に手を添えた。
 「食べてく?持ってく?」
 「・・・・・・持ってく」
 「オッケー♪
 じゃあ、すーぐ作るから、ちょっと待っててねーん♪」
 逡巡ののち、ポツリと言った彼に、あえて明るい声を上げ、ジェリーは踵を返す。
 すぐに戻って、ランチボックスを渡してやると、ラビはふらふらとした足取りで食堂を出ていった。
 「・・・大丈夫かしらねぇ?」
 ラビが食堂から出て行った後も、カウンターから身を乗り出したまま、ジェリーが呟く。
 「悩みは深そうだわぁ・・・」
 そう言う彼女自身も、かなり悩ましげな様子だった。


 ランチボックスを提げて、とぼとぼと部屋に戻ったラビは、以前と比べて格段に座りやすくなった椅子に腰を下ろした。
 「会いたく・・・ない・・・・・・」
 深いため息と共に暗い声を漏らし、ぼんやりと窓の外を見遣ると、その視線の先を、アレンの白い頭が日の光をきらきらと弾きながら通り過ぎて行き、ラビは思わず鼻にしわを寄せる。
 「・・・なんの嫌がらせさ、全く」
 ずっと、『原因』を考えていた。
 ブックマンになれるだろうか、などと、あり得ないことを思い浮かべ、身の凍る思いをした時から、ずっと。
 ラビの脳に刻まれた、精確な『記憶』を辿り、情報を整理し、どうしてそのようなことを考えるようになったのか、じっくりと吟味した結果、主な『原因』が彼・・・アレン・ウォーカーにあるという結論に至った。
 もちろん、アレン自身がこの結果を、直接もたらしたわけではない。
 だが遠因は、確実に彼だった。
 「ジジィはきっと・・・許さない」
 いや、それ以前に、自身が揺らいでいく。
 また、深い吐息を漏らした時、
 「誰が許さないだと?」
 突然声を掛けられて、ラビは文字通り飛び上がった。
 「ジっ・・・ジジィ!!」
 椅子から転げ落ちた姿で見上げた師は、厳格な表情でラビを見下ろしている。
 「自身の未熟を、他人のせいにするでないわ!!」
 大音声で叱責され、ラビは身をすくめた。
 「うじうじと引きこもりおって、情けない!しゃんとせんかっ!!」
 「べ・・・別に、引きこもってたわけじゃ・・・・・・」
 ない、と言う言葉は、喉から出る前に、ブックマンの眼光によって塞がれる。
 「お前、料理長や室長が気にかけてくれておったことにも、気づいておらなんだろう」
 「・・・っ?!」
 「やはりな・・・」
 ブックマンは舌打し、まだ床に座り込んだままのラビに、ゲンコツをくれてやった。
 「あい――――っ!!
 割れた!!頭割れたさ、暴力ジジィ!!」
 「やかましい!!」
 泣声をあげるラビを更に怒鳴りつけ、ブックマンは椅子にあぐらをかく。
 「全く、呆れた奴だ!
 観察すべき我らが、観察されてどうする!」
 「そ・・・そんなコト言われてもさぁ・・・!」
 頭を抱えつつ、よろよろと立ち上がったラビは、くにゃりと椅子に腰を下ろした。
 「俺・・・こんなんで、ブックマンになれるんだろうか・・・・・・」
 とうとう発せられた問いに、しかし、ブックマンは答えない。
 沈黙が部屋を満たし、こごって行く様に、ラビは不安げな上目遣いで師を見上げた。
 「ジジィ・・・」
 情けない顔をするラビに、ブックマンは心底忌々しげに舌打する。
 「お前は私の後継者だ。
 私が選び、お前が了承した・・・―――― 誰に押しつけられたでもない」
 「ジジィ・・・!」
 「だが、お前がそのように頼りないでは、考え直した方がいいかもしれんの」
 「ジジィィィィィィィィ?!」
 それまでの沈黙を突き破る絶叫に、ブックマンはうるさげに眉をひそめた。
 「うるっさい奴だの!
 耳元で騒ぐでないわ!!」
 「だっでっ・・・だっで、ジジィィィィィィィィ!!」
 ティーテーブルに突っ伏して泣きじゃくるラビの紅い髪を見下ろしたブックマンは、先日の、コムイとの会話を思い出して苦笑する。
 ブックマンはラビに・・・いや、彼の後継者に、幼い頃から様々なものを見せてきた。
 そのせいだろう。
 好奇心にきらめいていた小さな目は、数々の戦場を見つめるうちに精彩を欠いて行き、物事だけでなく、人間をも冷淡な目で見るようになってしまった。
 ブックマンとして、何より大切なことは、常に第三者の目で『冷静に』情報を記録していくこと。
 それは、目の前で起こる事実やその場に交錯する情報、ましてやそれらを作り出す人間を、冷淡に見下すことと同義ではなかった。
 だがそれは、『言葉』で教えても、簡単に納得できるものではない。
 ためにブックマンは一度、弟子に『戦争』を経験させる必要を感じた。
 ずっと、歴史の框の外で世界を傍観させていた弟子を、一兵士として戦場に入れる・・・。
 ブックマン自身のみならず、後継者をも失う可能性がある、危険な賭けだった。
 いや、『記録』する対象が、千年伯爵とノアの一族、及び、イノセンスでさえなければ、いかに彼とて、『ブックマン』を絶やす可能性のある賭けには出なかったろう。
 しかし、今回の相手はどちらも、外側から傍観して記録できる者達ではなかった。
 仕方なしに・・・と、彼はあらかじめ、弟子に言ったものだ。
 それは確かに、事実のひとつではあったが、全てではなかった。
 「・・・いい加減に泣きやまんか!!」
 ごすっ!と、泣き伏したまま上がってこない頭に再びゲンコツをおろすと、ラビはようやく顔を上げる。
 「全く、いつまでも未熟者でいてもらっては困るぞ!
 お前は・・・私の跡継ぎなのだからな!」
 「あ・・・あぁ・・・・・・」
 殴られた頭をさすりながら、まだ屈託のある顔を俯けるラビを、ブックマンは睨みつけた。
 「なんじゃ!
 私の跡を継がんと言うか!」
 ブックマンの叱声に、ラビは慌てて顔を上げ、激しく首を振る。
 「ちっ・・・違うさ!!
 そんなこと、思っても見ないさ!!」
 「だったらなんじゃ、その不満そうな顔は!」
 更に畳み掛けられて、ラビは視線を彷徨わせた。
 「不満じゃなくて・・・っ!!」
 逡巡の挙句、ラビは視線をブックマンへ戻し、上目遣いで見上げる。
 「許して・・・くれるんさ・・・・・・?」
 その不安げな声に、ブックマンはふと笑みを漏らした。
 「なにを許す?
 未熟であることか?」
 ラビの問いの意味を知っていながら、ブックマンは意地悪く問い返す。
 と、ラビはうな垂れるように頷いた。
 「俺・・・この教団の奴らが好きだ・・・・・・。
 そんな気持ち・・・持っちゃいけないって、頭じゃわかってるのに・・・・・・」
 「そうだな。
 好悪の情は、冷静な判断を鈍らせる」
 淡々とした師の言葉に、また、ラビはのろのろと頷いた。
 「でも・・・この戦争で、あいつらが命を落とすかもしれないなんて、考えるだけでも怖いって、思うようになっちまったんさ・・・・・・。
 ブックマンに、心はいらねェのに・・・・・・!」
 ずっと『情報』だけを記録し、徹底的に『感情』を排除してきたラビにとって、初めて得た本物の『感情』は、彼を困惑させるだけでは済まない。
 彼の存在意義すら揺るがすものの存在に、身を焦がすような焦燥感と、背筋の凍るような恐怖を同時に味わいながら、その情動の全てを飄々とした笑みの下に隠しおおせなければならない苦しみは、他者の想像の及ぶところではなかった。
 だが・・・と、うな垂れた弟子を厳格な表情で見下ろしたブックマンは、心中に呟く。
 ―――― 深く傷つき、苦しむ・・・この経験は、無駄ではない。
 『文字』にはできない『記録』。
 ラビはここで、それを得た。
 「許そう・・・」
 ブックマンの低い呟きに、ラビは顔をあげる。
 「ジジ・・・」
 「涙を拭かんか、みっともない!」
 「ジジ――――――――!!!!」
 幻聴ではないと言う確信を持って、暑苦しく抱きついてきたラビに、ブックマンは忌々しげに舌打した。
 「二度目があると思うなよ」
 「うんっ!
 ありがとうさ、ジジィ〜〜〜〜!!!!」
 ブックマンの不機嫌な声にさえ感涙するラビに、彼は深々と吐息する。
 「・・・・・・まだまだ死ねんな」
 ぽつりと呟いた独白に、ラビは嬉しそうな笑声をあげた。


 一方、アレンとリナリーは、自分達がラビを悩ませていた主因だったとも知らず、工具類がそろった部屋に思い思いの材料を並べ、器具を操っていた。
 作業はそれぞれに行っていたが、リナリーがバーナーに火を点けた時には、さすがに驚いて声を掛けた。
 「リ・・・リナリー、大丈夫ですか?僕、やりましょうか?」
 アレンが遠慮がちに申し出ると、彼女は笑って首を振る。
 「大丈夫だよ。
 科学班のお手伝いをしているから、こういうのは慣れてるんだ♪
 アレン君の方こそ、大丈夫?」
 注意深く火元を見つめたまま、リナリーが問うと、アレンは彼女に向けていた目を手元に戻した。
 「僕の方は、もうすぐ完成ですよv
 「もう?!早いねぇ!」
 リナリーが感心すると、アレンはやや得意げに笑う。
 「リナリーのよりは簡単ですから。
 こっちが終わったら、手伝いますよ」
 「うん!お願いね!」
 その後しばらく、二人は無言で手元に集中した。
 やがて、
 「でーきたっ!」
 アレンが歓声をあげ、出来上がったそれをリナリーに見せる。
 「わぁv カッコイイv
 「へへ・・・v
 リナリーの感想に、アレンは得意げに笑った。
 「リナリーの方はどうですか?」
 「私も、もうすぐできるよ」
 既にバーナーからは火が消えて、リナリーは少々手間のかかる仕上げに入っている。
 「・・・僕、やりましょうか?
 手が傷つくでしょ?」
 リナリーの手元をじっと見ていたアレンが申し出ると、彼女は弾けるように笑い出した。
 「そんな心配しなくていいよ!
 私、怪我には慣れてるんだから」
 エクソシストだもん、と、笑う彼女に、しかし、アレンはふるりと首を振る。
 「エクソシストでも、ですよ。
 ジェリーさんが言ってました。
 女性は、手を大事にしないといけないんだって」
 「え・・・そうだっけ?」
 「そうですよ」
 だから、と、アレンはリナリーの手を、両手でやんわりと包み込んだ。
 「これは、僕がやります。
 いいでしょ?」
 「う・・・うん・・・・・・」
 微笑みと共に懇願され、リナリーは頬を赤らめて頷く。
 「じゃ・・・じゃあ私、アレン君が作ったものをラッピングするね!」
 照れ隠しか、リナリーは早口に言って、赤くなった顔を背けた。
 「はいv おねがいしますv
 そんな彼女へにこりと笑い、アレンはリナリーから受け取ったものに、やすりをかけていく。
 「それにしても・・・工芸は上手なんだね、アレン君。
 ・・・・・・あの絵からは、想像できない」
 ぽつりと付け加えられた一言に、アレンは苦笑した。
 「一応、科学者の弟子ですから」
 「私と同じだね!」
 くすりと笑みを漏らしたリナリーは、はっと目を見張る。
 「・・・そうか。私の料理とおんなじなんだ・・・・・・」
 「えっ?!
 イヤ、僕、リナリーの料理は上手だと思いますよ?!」
 「・・・なんとか成功してるのは、ジェリーが横についててくれるからだよ」
 リナリーは苦笑しつつ、アレンの作ったものを丁寧に箱に収め、ラッピングして行った。
 「そのうち、ジェリーさんに頼らなくてもよくなりますよ」
 「そ・・・そうかな・・・?
 私もいつかは、ジェリーみたいに料理が作れるようになるかしら・・・?」
 呟いたものの、リナリーはすぐに首を振る。
 「無理ね・・・」
 早々に諦めて、切なく吐息する彼女に、アレンも苦笑を返した。
 「ジェリーさんは魔法使いですからねぇ・・・。
 彼女のようになるには、相当難しいんじゃないですか?」
 それとも、と、アレンは首を傾げる。
 「リナリーは、ジェリーさんの跡を継ぐんですか?」
 「それはないけど・・・・・・」
 「でしょ?」
 にこりと笑って、アレンはやすりを作業台の上に置いた。
 「ラビはブックマンの跡を継ごうと一所懸命ですけど、リナリーはもっと視野を広げてていいんじゃないんですか?
 ―――― ハイ、完成です」
 「・・・うん!
 うん、ありがとう、アレン君!」
 アレンが彼女の掌に載せてくれた物を見つめ、リナリーはふわりと微笑む。
 「私は、私なりにがんばるよ」
 「その時はぜひ、ご相伴させてくださいねv
 リナリーの決意にあえて軽口で答え、アレンは壁に掛かった時計を見遣った。
 「そろそろ、食堂の準備が始まる頃ですね」
 「じゃあ、お手伝いに行こうか!」
 リナリーはラビへのプレゼントを手早くラッピングすると、早速踵を返す。
 「プレゼントさえ決まれば、ラビの誕生日だって怖くないですよ!
 あとはご馳走食べるだけー♪」
 「楽しみだね!」
 軽い足取りでついて来るアレンを振り返り、リナリーも晴れ晴れと微笑んだ。


 アレン達が食堂に着いた時、既にパーティ会場は完成しつつあった。
 「はやっ!
 もう手伝う余地がありませんね・・・」
 「みんな、パーティ好きだからね」
 アレンの驚きにリナリーは笑って答え、厨房へと歩み寄る。
 「ジェリー!
 何か、お手伝いすることある?」
 リナリーの呼びかけに、料理人達の中心で指示を出していたジェリーは、微笑みを向けた。
 「あら、アンタ達、もう出来上がったの?
 早かったわねェ」
 「うん!
 工作は得意なのよ、私達v
 ね?と、微笑みかけられて、アレンも頷く。
 「ほほほ・・・v
 お料理もそのくらい得意だったらよかったわね、リナリーv
 「もう!言われなくてもわかってるよ!」
 真っ赤にした頬を膨らませるリナリーに、ジェリーは更に笑声をあげ、カウンターに大皿をいくつも並べた。
 「じゃあ、配膳手伝ってv
 シェフ達がどんどん出していくから、がんばって往復してね。
 アレンちゃん!
 つまみ食い、めっ!」
 「あっ!はいっ!!」
 大皿へ伸ばしかけていた手を慌てて引っ込め、アレンは笑ってごまかす。
 「準備ができたら、ラビを呼んできてねv
 「はいっ!」
 ジェリーの依頼に快く頷き、二人は料理人達や、同じく手伝いに来た団員達と共に厨房とテーブルを往復した。
 そうして準備が整うと、アレンが真っ先に踵を返す。
 「僕、ラビを呼んできます!」
 「あ!待って、アレン君!
 ラビ達の部屋、替わったんだよ?場所わかる?」
 「あ・・・・・・」
 途端に不安げな顔になったアレンに、リナリーはにっこりと微笑んだ。
 「一緒にいこ!
 私、二人の部屋知ってるから!」
 「はい!」
 アレンは嬉しそうに頷きを返し、リナリーと連れ立って廊下に出る。
 と、
 「オヤ」
 不幸にも、コムイとばったり鉢合わせ、アレンは真っ青になって硬直した。
 「コ・・・コムイさん、お早いお着きですね・・・!」
 恐怖のあまり、異様なほど礼儀正しい口調になったアレンへ、コムイはにんまりと微笑む。
 「うん。
 何か手伝うことはないかと思ったけど、もう終わったみたいだね」
 「えぇ、ついさっきね」
 なんでもないことのように・・・と言うより、事実、リナリーにとってはなんでもないことなのだが、アレンの恐怖心に気づきもせず、彼女は兄に笑いかけた。
 「今から、ラビを迎えに行くところなんだv
 「あぁ、彼らの部屋、替わっちゃったからねェ。
 アレン君一人じゃ、迷子になっちゃうよねェ」
 陽気に笑うコムイに、アレンはぶんぶんと激しく首を振って頷く。
 「そ・・・そぉなんですよ!
 僕、方向音痴なんで・・・っ!」
 「じゃあ、君は食堂にいなよーv
 ラビはボクらで迎えに行くからv
 「え?!」
 「さぁさ、リナリーv
 お兄ちゃんといこーv
 「う・・うん・・・」
 アレンを気にしながらも、兄に強引に促され、リナリーはコムイと二人で回廊の奥へと消えてしまった。
 「・・・・・・チクショー!」
 アレンが思わず壁に懐くと、その背に嘲弄を含んだ声が掛かる。
 「とんびに油揚げ、だな」
 「・・・うるっさいんですよ!今頃のこのこ来ておいて!」
 彼が忌々しげに睨んだ先には、案の定、神田が涼しい顔をして佇んでいた。
 「パーティなんてめんどくせぇ。
 あのヤローが騒ぐから一応来てやったが、渡すもん渡したら、俺は部屋に戻る」
 『渡すもの』と言う言葉を聞くや、アレンの目は、神田が小脇に抱えた薄い箱に集中する。
 「今年はなにを用意したんですか?」
 「ラビに渡す。ラビに聞け」
 ・・・予想したことではあったが、相変わらず愛想のない受け答えに、アレンの気がささくれ立った。
 「いいじゃないですか、ケチ!!」
 「はっ!
 先にてめェに見せるくらいなら、ケチで結構だ!」
 「ちょっとくらい、いいじゃないですか!まさかまた、呪われてんですか?!」
 「うるっせぇよ、誰が教えるか!!」
 今にも掴み合わんばかりの形相で喚き合う彼らを、団員達が遠巻きに避けて行く。
 が、足早に食堂へと駆け込む彼等の中で、ただ一人、リーバーが暢気な程の自然体で二人の間に割って入ってきた。
 「おいおい・・・相変わらず仲悪いな、お前ら。
 パーティ始まるんだろ?
 とっとと食堂に入れよ」
 「でも・・・!」
 「入れ!」
 問答無用で背を押され、二人は突き飛ばされるようにして食堂に入る。
 途端、
 「・・・ふんっ!!」
 二人は同時に顔を背け、全く反対の場所に陣取ってしまった。
 「やれやれ・・・」
 リーバーは苦笑すると、彼の背後でおどおどと状況をうかがっていたミランダに手を差し伸べる。
 「もう大丈夫っすよ」
 声を掛けると、彼女は彼の後に続いて、そっと食堂を覗き込んだ。
 「・・・よかった。今日はまともなんですね」
 ほっと吐息したミランダを先に行かせ、リーバーは彼女の背を支える。
 「いつでも倒れてもらって、構いませんけど?」
 「きっ・・・昨日は・・・すみません・・・・・・っ!」
 リーバーの軽口に、ミランダは顔を真っ赤にして、勢いよく頭を下げた。
 たかがお化け屋敷程度のレイアウトに驚いて気絶したなど、エクソシストとしてあるまじきこと。
 呆れ気味な団員達の視線にさらされ、身の置き場がないと縮こまるミランダに、リーバーはいたずらっぽい笑みを向けた。
 「今日は、チャンスがなさそうですね」
 彼のからかい口調に、ミランダは首まで真っ赤になる。
 だが、リーバーがあえて、周りにも聞こえるように言ってくれたおかげで笑声が沸き、雰囲気も和んで、ミランダはようやく息をつく事ができた。
 「あ・・・ありがとうございます・・・・・・」
 俯いたまま、儚い声で囁くと、リーバーは返事の代わりにミランダの背を軽く押す。
 「気にしないで」
 リーバーのさり気ない気遣いに、ミランダも落ち着いて会話できるようになった頃、今夜の主役が現れた。
 「わーぃv くるしゅーないさー♪」
 歓声をあげて食堂に入ってきたラビに、四方からクラッカーの破裂音が沸き、リボンが降り注ぐ。
 「みんな、ありがとさーv
 おかげさまで、お婿に行ける年になりましたv
 「イヤイヤ、君、とっくに行けるでしょ」
 ラビの背後で、共にリボンにまみれたコムイが苦笑した。
 「だーって、コムイが『永遠の29歳!』って言い張るしー。
 俺も、永遠に18歳でいいかなって思ったんさーv
 「ボクは29歳だよっ!にじゅうきゅうさいだよっ!!」
 早速始まった漫才に笑いが起き、その中をグラスが回される。
 「それじゃー!
 先日のブックマンに続き、ブックマンの後継者に祝杯を挙げたいと思いますっ!」
 コムイはグラスを持った手を掲げ、宣言した。
 「バースデーソング、斉唱〜〜〜〜〜〜!!」
 彼の号令と共に、パーティ会場を歌が満たす。
 「Happy Birthday To You〜〜〜〜♪」
 「乾っ杯〜〜〜〜!!」
 「みんな、あんがとさーv
 盛大な祝福に、ラビは機嫌よく杯を乾した。
 「さぁもう一杯♪」
 空になったグラスを差し出して、シャンパンをねだるラビの頭を、コムイは笑ってくしゃくしゃと撫でる。
 「今日は許すけど、自分の酒量はわきまえるんだよ?」
 「わかってるさーv
 室長手ずからシャンパンを注いでもらったラビは、嬉しそうに頷いた。
 機嫌よく2杯目を乾そうと上げたグラスに、横から別のグラスが重なる。
 「誕生日おめでとう」
 無愛想な口調ながら、律儀に祝いを述べる彼に、ラビは破顔した。
 「ユウv あんがとさーvv
 改めてグラスを鳴らして乾杯すると、神田は小脇に抱えていたものをラビに差し出す。
 「今回は、何も憑いてないぞ。だが、中々に面白いものだ」
 「へぇ・・・開けてい?」
 神田が頷くと、ラビはびりびりと包装紙を破った。
 その音に、アレンとリナリーが慌てて寄って来る。
 「それ!すっごく気になってたんですよ!!」
 「なになに・・・きゃ?!」
 「なんですか、これ?!」
 平面の箱の中から出てきたものに、三人とも目を見張った。
 それは、人間の顔に見える・・・が、妙にごつごつとした線で描かれた、滑らかさのない絵だった。
 ややして、
 「・・・猫さ」
 ラビの呟きに、アレンとリナリーは顔を見合わせ、改めて絵に視線を落とす。
 やがて、
 「あ!ホントだ!!」
 「顔のパーツが、全部猫になってるわ!」
 それは、丸まったり伸びたりと、実に自由な姿をした猫たちが集まって構成する人間の姿・・・騙し絵だった。
 「歌川国芳。
 こういう、奇天烈な遊びをするのが好きな画家だ。
 お前の気に入るんじゃないかと思ってな」
 特に誇るわけでもなく、淡々と言う神田に、ラビは大きく頷く。
 「すっげおもしれぇ!!
 サンキューさ、ユウ!
 やっぱお前、俺のコトわかってるさーvv
 「くっつくな、うぜぇ!!」
 ぎゅう、と抱きしめられて、神田が怒声を上げた。
 その間に、アレンとリナリーはまた、顔を見合わせ、同時にプレゼントの箱を差し出す。
 「プレゼントです!」
 「手作りなのよ!」
 神田を捕獲したまま、ラビは得意げな顔をした二人から嬉しそうに箱を受け取った。
 「レディ・ファーストなーv
 そう言って、まずリナリーのプレゼントを開いたラビは、中から出てきたものに目を丸くする。
 「手作りか、これ?!」
 中心に十字架を配した大振りのシルバーリングは、支えの部分にも薔薇の刻印を施すという、精緻なものだった。
 「すっげ!サイズもぴったりさ!」
 早速指輪をはめたラビの満足げな様子に、リナリーも満足げに笑う。
 「えへv
 工作は得意なのv
 「サンキューvv めっさ気に入ったさーvv
 機嫌よく言って、ラビは指輪をはめたまま、アレンのプレゼントを開けた。
 「アレン・・・!これ、お前が作ったんさ?!」
 同じく銀のペンダントは、シンプルなタグ型でありながら、地に精緻な唐草模様を施している。
 そしてその中心には、やはり十字架のモチーフが刻んであった。
 「よくもまぁ、こんな細かい仕事をしたもんさ・・・」
 思わず感嘆の声を漏らすと、アレンは得意げに笑う。
 「これでも僕、科学者の弟子なんですよね。
 師匠の手伝いで、機械の部品を作ったりもしてたんです・・・男にアクセサリー作ってやったのなんて、初めてですけど」
 「・・・俺も、男にアクセサリー作ってもらったんは初めてさ」
 お互いに、少々寒い思いをしたものの、ラビはすぐにペンダントも身につけ、アレンとリナリーを一緒に抱きしめた。
 「あんがとさーv すっげうれしいさv
 「えへv
 「あのね、ラビ?指輪とペンダントの、裏を見て?」
 アレンと共に、ラビに抱きしめられたリナリーが言うと、彼は不思議そうな顔をして、指輪とペンダントを一旦外す。
 と、
 「・・・・・・Lavi」
 指輪とペンダントの裏側に、その名はこっそりと刻まれていた。
 「こうしておけば、落としても大丈夫よね!」
 「身元確認だってできますよ!」
 誉めてっ!と、期待に目を輝かせる二人に対し、ラビは手元に視線を落としたまま、黙り込む。
 ―――― なんで、こんなこと・・・・・・。
 この名は、教団に属している間だけに使う、仮初めの名・・・いずれこの場を離れる時には、抹消しなければならない名前なのに、彼らはこの名を刻んでくれた。
 本当の名前は、とっくに捨てたというのに・・・・・・。
 刻まれた名前を見つめ、困惑するラビを、アレンとリナリーは不思議そうに見上げた。
 そして彼らの表情が、不安げになるほど長い沈黙ののち、ラビの背に伸びた手が、彼の服の裾を引く。
 「ジジィ・・・・・・」
 ラビが振り返ると、ブックマンはしゃがむようにと、身振りで示した。
 「なんさ・・・?」
 素直にしゃがみこむと、ブックマンはラビの耳元に口を寄せる。
 「誕生日プレゼントだ。新しい名をやろう」
 「え・・・」
 途端、ラビの表情が凍りついた。
 新たな名前を得る――――。
 それは、この銀に刻まれた名前を捨てるだけではなく、この『記録地』を出ることと同義だ。
 言葉を失ったラビに、ブックマンはふっと、口元をほころばせる。
 「・・・と、思ったが、まだここを出るわけにはいかん。
 これで我慢せい」
 ぽす、と、手の上に乗せられた箱を呆然と見遣り、ようやくからかわれたことに気づいたラビは、噛みしめた歯の間から、引きつった声を漏らした。
 「ジ・・・ジジィ〜〜〜〜!!!!」
 「まだまだ、未熟者だの」
 「ジジィがだましたんさっ!」
 ラビの抗議の声を、耳を塞いで無視し、ブックマンはにんまりと意地の悪い笑みをうかべる。
 「・・・確かに、ここからはいずれ出て行く所存だ。が、それは今ではない」
 「わ・・・わかってる・・・さ・・・・・・」
 だがその時は、彼らがこの場に存在した痕跡を、全て消し去らねばならない。
 その時には・・・仮初めの名が刻まれたこの指輪、このペンダントをも、捨てなければならないのか・・・。
 悄然としたラビの心情を読み取ったか、ブックマンは笑みを深めた。
 「昔、そう言う名を持つものがいた、と・・・覚えておくのも悪くはなかろう」
 「ジジ・・・ッ?!」
 驚いて顔を上げたラビに、ブックマンは笑みを苦笑に替える。
 「全く、私も甘いな・・・」
 「ジジィ――――!!」
 突然、ブックマンを抱きしめて号泣し始めたラビの異様さに、皆が数歩、退いた・・・。
 「アレンッ!リナッ!!
 俺、これ大切にするさ!!」
 沈黙から一転、感涙にむせぶラビに抱きしめられ、二人は困惑しつつも、彼の背をなだめる。
 「うっ・・・うんっ・・・・・・!」
 「なんだかよくわからないけど・・・喜んでもらえてよかったです・・・・・・」
 ラビの行動の意味がわからず、戸惑う二人に反し、事情を知るコムイは苦笑しつつ彼らに歩み寄ると、さり気なく割って入り、ラビからリナリーを引き剥がした。
 「それじゃーv
 なんだか感動的なことが起こってるのに、蚊帳の外にいるのが寂しいから、ボクからもプレゼントをあげちゃうぞ!」
 「おぉっ?!なにさ?!」
 期待に満ちたラビの眼前に、コムイは黒いファイルを差し出す。
 「ラビさぁ〜バカンスに行きたいって、言ってたよね?」
 「そんなこと言ってないさ!!」
 コムイが差し出したそれに、伸ばしかけていた手を慌てて引き戻し、ラビは懸命に首を振った。
 が、彼の傍らから、アレンが悪気なく口を出す。
 「言ってましたよ?
 僕の部屋を襲撃した時、大声で」
 「えぇっ?!マジ?!覚えてないさ、そんなこと!聞き間違いじゃね?!」
 必死にとぼけようとするラビに、しかし、アレンはムッとした表情になって、頑固に首を振った。
 「言いました!
 僕の部屋に入ってきた、最初の言葉がそれでしたもん!」
 言い終えるや、
 「アレン〜〜〜〜〜!!!」
 と、上がったラビの悲鳴に、アレンは目を丸くする。
 「え?なに?」
 自分の言った事がどういう効果をもたらすか知らず、驚くアレンの傍らで、コムイが嬉しげに大声を上げた。
 「では!優しいボクからラビと、ブックマンにもプレゼントだよー♪
 地中海クルージングつき!南の島リゾート○日間の旅、ペアでご招待!」
 「えぇっ?!すごい!!」
 いいなぁ、と、各所からうらやましげな声が上がる中、ラビは必死に首を振る。
 「ありえねーさ!
 明らかにアクマ関係してんじゃん、そのファイル!!」
 「気のせいだよ!」
 「気のせいなわけあるかっ!!」
 「どうぞどうぞーvv
 「い・・・いらないさぁぁぁぁぁぁ!!」
 激しく抵抗したものの、悪魔の黒いファイルはコムイによって強引に押し付けられ、ラビはブックマンと共に地中海へ旅立つ事が決定した・・・。


 「大人なんて、嫌いさ・・・・・・」
 数日後、地中海を臨む海岸で砂山を作りつつ、ラビは、傍らに座る師を見遣った。
 「なーんで、プレゼントが任務なんさ」
 「お前が、南の島に行きたいなどとぬかすからだ」
 「ジジィだって言ったじゃん〜〜〜〜」
 憮然と頬を膨らませ、ラビは手にした小さなスコップで、砂山に手を入れていく。
 「あーぁ。ホントのバカンスに行きたいさぁ・・・」
 「そう思うのなら、早く一人前になるのだな。
 私は引退した後は、南の島に住まうつもりだから、時々遊びに来るがいい」
 「そんなんありかよ・・・!」
 ぺしぺしと、スコップで砂を叩いて固めていたラビは、手近にあった流木の枝を拾って、砂を細々と削っていった。
 「ロンドン塔、完成v
 「窓がひとつ多いぞ」
 「・・・こまけーこと言うんじゃないさ、砂遊びで」
 せっかくの喜びに水を差されて、ラビが憮然とする。
 だがそれ以上に憮然として、ブックマンは深々と吐息した。
 「・・・引退は、まだまだ先だな」
 「んじゃ、もうしばらく一緒にいるさ、ジジィv
 にこ、と陽気に笑うラビに、一瞬、ブックマンは呆ける。
 「な?」
 言い募られた途端、ブックマンの顔色が変わった。
 「馬鹿たれ!!はよう一人前になれ!!」
 逃げようと思った時には、もう遅い。
 「ぴぎゃ――――!!」
 鋭い爪が襲い掛かり、青い空と白い砂浜の狭間に、血の花が鮮やかに咲いた・・・・・・。




Fin.
 











2007年、ラビお誕生日SSです!
公式でラビ情報が入ったので、過去話多用してみました!
おかげでちょっと暗めになってしまいましたが、基本的にはJC7巻辺りの情報で書いていますので、単行本派の方達でも大丈夫な・・・はず・・・・・・・。
そしてジジィお誕生日SSのコメントにも書いていましたが、ラビのお誕生日なのに、主にジジィが話しています(笑)
他では中々できない、せっかくのセット作品なので、視点を入れ替えたお話が書いてみたかったのでした(笑)
ただ、実を言えば夢オチは、記憶喪失&発狂と並んで、あまり好きなネタではありません。
今回書いて満足したので、おそらく、もう夢オチ系は書かないと思います(笑)
ともあれ!
ラビ、お誕生日おめでとーv












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