† Cradle †








 カタン・・・カタタン・・・と、列車は心地よい振動を響かせながら、田園地帯を進んでいた。
 振動も心地良いが、一等車両のコンパートメントは、座席の座り心地もいい。
 日々、気を張って疲れ果てた彼が、列車が動き出した途端に寝入っても、無理からぬことだった。
 しかし、たった二人きりのコンパートメント内で、相方に寝てしまわれては、退屈でしょうがない。
 「話し相手をして・・・なんて、言わないけどね・・・・・・」
 リナリーは、流れ行く窓外の、変わり映えのしない景色に飽きてしまい、ため息混じりにつぶやいた。
 「いつまで寝ているのかな、アレン君はー」
 窓に寄りかかって、安らかな寝息を立てる彼の頬をつついてみたが、何の反応もない。
 「まぁ・・・疲れるのもわかるんだけど・・・ね・・・・・・」
 以前より、人間の皮をかぶって近づくアクマを見分ける目を持っていた彼だが、今では遠くのアクマまでも感知するようになり、負担は更に増していた。
 夜、眠れないことも多いようだ。
 なかなか安眠することもできない彼の、久しぶりの眠りだと思うと、さすがに気の毒になり、リナリーは日の光を弾いてきらめくアレンの白い髪に、手を添わせた。
 「キレイ・・・だね」
 アレン自身は気にしているようだが、真っ白な髪は雪のようで、とても清らかに見える。
 「まつげも白いんだ・・・」
 閉ざされたまぶたに添う、長いまつげをまじまじと見つめ、リナリーはふっと微笑んだ。
 「まるで、スノー・ホワイトだね」
 彼の左半面を切り裂く、無残な傷を除けば、その肌さえも、雪のように白い。
 「キスしてあげれば起きるのかな・・・姫?」
 言ってしまってから、リナリーは自分の言葉に苦笑した。
 「なぁに?私、王子なの?」
 クスクスと、声を殺してひとしきり笑ったリナリーは、それでもアレンが起きない様子を見て、いたずらっぽい笑みを浮かべる。
 「起きないでね・・・」
 こっそりと、アレンの隣の席へ移動し、彼の、あらわになった首筋に唇を寄せる。
 「ふっ・・・」
 息を吹きかけてやると、さすがにぴくりと身じろぎしたものの、アレンはまた、寝息を立て始めた。
 「ふふ・・・」
 悪戯っ子の笑みを浮かべると、リナリーはしなやかに身を乗り出して、彼の前髪をかきあげる。
 「起・き・てv
 額に軽く口づけるが、何の反応もない。
 「お姫様v
 頬を軽くついばんでも、身じろぎ一つない。
 言葉とは裏腹に、その様子に安心して、リナリーはアレンの頬に手を添わせた。
 「王子様のキスだよv
 軽く触れ合わせた唇が、微かに動く。
 「きゃっ・・・!」
 慌てて身を引いたリナリーが見つめる中、アレンはくぐもった声をあげた。
 「リナリー・・・」
 「はっ・・・はいっ!!」
 悪戯がばれたかと、頬を真っ赤に染め、引きつった声をあげるリナリーに、しかし、未だ眠りに落ちたままのアレンは、ぼんやりとした声で続ける。
 「泣かない・・・で・・・・・・」
 「え・・・?!」
 「泣かないで・・・・・・・・・」
 その言葉に、リナリーはじっと、アレンを見つめた。
 「アレン君の夢の中で・・・私は泣いているの・・・・・・?」
 人前で泣いたことなんてない、と、否定しようとして・・・リナリーはふと、過去を思う。
 彼の前ではもう、何度も泣いてしまったことを思い出した。
 「や・・・やだ・・・・・・!」
 巻き戻しの町で・・・クロウリー城のふもとの駅で・・・旅の宿でも・・・。
 いったい何度、彼の前で泣いた事だろう・・・そして、彼のためにも。
 「・・・・・・私、アレン君が思うほど、泣き虫じゃないよ?」
 苦笑して彼の頭を撫でると、また『泣かないで』と言われた。
 「アレン君の前だけだよ・・・ううん。
 アレン君のせいで、泣いちゃったんだよ?」
 再び身を寄せた時、カタン・・・と車輪が跳ね、アレンの体がリナリーへと傾いだ。
 「ねぇ・・・聞いてる?」
 クスリと、肩を寄せ合ったアレンに笑みを漏らすが、もう、彼からの返事はない。
 「起きたら・・・最初に言わなきゃ」
 カタタン・・・と、車輪が跳ねるタイミングにあわせて、彼の頭を膝の上に乗せた。
 「私は、泣き虫じゃないよ・・・」
 膝の上できらめく、白い髪を撫でてやりながら、何度も囁く。
 「だから・・・心配しないで。
 私はあなたの傍にいる・・・・・・」
 囁くうち、リナリーもまた、暖かい日の光と列車の心地良い揺れに、眠りの国へと誘われて行った。


 ―――― これは一体、どういう状況なんだろうか・・・・・・。
 駅に停車したらしい列車の、一際高い揺れに目を覚ましたアレンは、自分が明らかに座席などとは違う、柔らかい何かに頭を乗せている状況に、戸惑いを禁じえなかった。
 ―――― もしかして・・・もしかしなくても・・・・・・コムイさんにばれたら、この世で最も残酷な方法で殺される状況・・・だよね・・・・・・?
 彼の頭上で、安らかな寝息を立てるリナリーの、可愛らしい寝顔を見上げた途端、アレンの全身から汗が噴出す。
 ―――― 何でこんなことに・・・ってか、見ないでくださぃぃぃぃぃぃ!!!!
 駅に停車した列車の外は、行き交う乗客や物売りであふれ、カーテンがあいたままの窓からは、遠慮ない視線が入っては、失笑や苦笑とともに通り過ぎていった。
 「リ・・・リナリー・・・・・・」
 好奇の目に耐えかねて、アレンが声をかけるが、彼女が起きる気配はない。
 「あ・・・あの・・・えっと・・・・・・!」
 耳まで真っ赤にして、脳内に対策を講じるが、戦闘中なら臨機応変に動く頭も、緊張のあまり硬直していた。
 自分が起き上がればいいんだ、と気づいたのは、子供たちがからかいの口笛を吹きつつ窓辺によじ登ってきた時のことである。
 背筋にがんばってもらい、そろそろと起き上がろうとする彼を、しかし、未だ眠りの中にありながら、リナリーはしっかりと押さえつけた。
 「まだ・・・休んでないとだめだよ・・・!」
 「は・・・はい・・・!」
 明らかに寝言とわかっていながら、逆らえない迫力に屈して、彼女の膝の上に頭を戻したアレンを、窓の外から子供たちがからかう。
 「もう・・・いつも無茶ばっかりするんだから・・・アレンくんはぁ・・・!」
 「す・・・すみません・・・・・・」
 「一人で戦っちゃ・・・ダメ・・・・・・」
 「は・・・反省します・・・・・・」
 ―――― 早く出発してくださいぃぃぃぃぃっ!
 リナリーの寝言に律儀に答えつつ、アレンはひたすら、列車が出発する時を待った・・・・・・。


 カタン・・・カタタン・・・と、列車は心地よい振動を響かせながら、田園地帯を進んでいた。
 振動も心地良いが、一等車両のコンパートメントは、座席の座り心地もいい。
 ついうとうとと、眠りそうになる目をしかし、アレンは必死にこじ開けた。
 「アレン君?寝ちゃっていいんだよ?」
 正面に座ったリナリーが、そう言って可愛らしく小首を傾げるが、アレンはひたすら固辞する。
 「だって・・・疲れてるでしょ?」
 「いえっ!!
 昼間、しっかり寝ましたから・・・!!」
 「でも・・・目的地には、まだ時間があるし・・・。
 眠れないなら私、膝枕してあげようか?」
 そう言って、にこっと笑ったリナリーに、アレンの男心は軽々と篭絡されそうになったが、左手を握り締め、必死に踏みとどまった。
 「ご・・・ご好意は、とっっっても嬉しいのですが、僕はまだ命が惜し・・・あぁ!!なんでも!!」
 残念そうな顔をするリナリー以上に、本心では残念に思っていたが、ここで負けては確実に命を落とす。
 「リ・・・リナリーこそ、疲れてるでしょ?!
 僕のことは気にせず、寝てください!!」
 「ううん。私も、お昼の間にたっぷり寝ちゃったから、眠くないの」
 「そ・・・そうです・・・か・・・・・・!」
 内心の失望感を顔に出さないよう、必死に気を使いつつ、アレンは引きつった笑みを浮かべた。
 「ねv
 眠くなるまで、おしゃべりしてよv
 「そ・・・そーですねー・・・・・・」
 「仕事の話はナシでね!
 えーっと、今から行く、ウィーンなんだけど、ザッハトルテって、おいしいチョコレートケーキがあるのv
 なんでも、老舗争いしているお店があって、どっちもそれぞれにおいしいらしいよv
 「へ・・・へえー・・・。
 それはぜひ、食べ比べしたいですね!」
 「そうでしょー?!
 でね、他にもおいしいお菓子がたくさんあってーv
 「はは・・・・・・」
 長々と続くリナリーの話に相槌を打ちつつ、アレンは眠りに落ちそうになる意識を、必死に引き止める。
 ―――― 早く・・・着いてください・・・・・・!
 任地に着けば、危険と苦痛に囲まれることはわかっていたが、アレンは今、必死に旅の終わりを願った。
 ―――― 少なくとも・・・リナリーとは別の部屋で眠れる・・・!
 任地に着くまでの長い道のり、アレンの不眠は未だかつてない深刻さで続いたという・・・。




Fin.
 










唐突に書きたくなった、突発ショート・ショート・アレリナ話でした!
先日、列車旅行した時に、ぼんやりと考えていた話を書いたらこんな風になりましたよ(笑)
えぇ、D.グレアニメで、こんなに可愛い子と同じコンパートメントにいながら、ずっと寝ていた主人公に、お仕置きもしてあげたかったの(笑)
なぜだかリナリーが、アレン君の寝込みを襲って、セクハラしまくってます(笑)
でもまぁ、逆よりいいよね!(をい)












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