† THE GHOST IN MY ROOM V †
〜 Trick and treat! 〜





 「ブックマーン!
 Trick or treatv
 大きなカボチャ頭を揺らしながら走ってきたお化けに、ブックマンは苦笑して菓子の入った籠を差し出した。
 「動きにくくはないのか?」
 「慣れてますから!」
 カボチャの口の辺りから、こっそりと覗く目が、にこりと微笑む。
 「お菓子ゲーット!
 すごいおっきなお饅頭ですねェ!なんですか、コレ?」
 手の平ほどの大きさの、丸く平べったい饅頭を籠から取ったカボチャ頭が、注意深く首を傾げた。
 「月餅(げっぺい)だ。
 中国の菓子でな。餡に木の実や果物を混ぜてあって、美味いのだ」
 「へぇー!
 じゃあ僕、ちょっとここで休憩しちゃおうかな!」
 言うや、ズボっとカボチャ頭が取れて、中から白髪の少年が現れる。
 「あー暑かった!
 このカッコでゲームしてたら、動きにくくって負け続きなんですよねー」
 「そうだろうの」
 笑いながら、老人が淹れてくれたぬるめのお茶を、アレンは一気に飲み干した。
 「特に、うちの小童は朝からえらく張り切っておったからの。
 全く容赦がなかったろう?」
 「はい!
 アップル・ボビンの時なんか、溺れそうになりながら勝ちにこだわってましたよ」
 危うく死者が出るところだった、と、吐息しつつ月餅に噛み付いたアレンは、途端に目を見開く。
 「おいしー!」
 「そうか。たんと食え」
 「はい!」
 アレンはさっさと一つを平らげ、籠に手を伸ばした。
 「ところでブックマン、さっき、ちらっと話題にのぼったんですけど、師匠の改造アクマに会ったんですって?」
 茶のおかわりを淹れてやっていたブックマンは、アレンの問いにぴくりと片眉を上げる。
 「おぬし・・・改造アクマのことは知っておったのか」
 「はぁ・・・一応僕、師匠の弟子なんで」
 3つ目の月餅に手を伸ばしつつ、アレンは眉根をきつく寄せた。
 「師匠のことですから、人型の時は美人なアクマだったでしょ?」
 「あぁ・・・」
 感情のない声で応じるブックマンを上目遣いに見て、アレンは熱いお茶を手に取る。
 ふぅ・・・と、ため息に似た音を立ててお茶に息を吹きかけると、爽やかな香りが立ち上った。
 「僕が師匠に拾われた頃も・・・いましたよ、キレイで明るくて、話好きなアクマが。
 一緒にいたのは短い間でしたけど、僕は彼女を、姉のように慕っていました」
 人形のようにキレイな・・・でも、悲しい伯爵の『玩具(おもちゃ)』を。
 「拾われる前後には、僕も色々ありまして・・・。
 半端なくダメージ受けてたのに、師匠は輪をかけてトラウマを植え付けてくれる人じゃないですか。
 そんな状況で、いつの間にか・・・というか、当然と言うか、彼女を拠り所にしていたんですよね、僕」
 淡々と語るアレンに、ブックマンもまた、端然と頷いた。
 「それで・・・僕は何もかも、彼女に話しました。
 絶望のあまり、養父をアクマにしてしまった事も、アクマになった彼を自分の手で壊してしまったことも」
 「そうか・・・」
 静かに茶をすすったブックマンとタイミングを合わせるようにアレンも茶をすすり、また籠へと手を伸ばす。
 「自分の中に溜めておくより、誰かに話してしまいたかったんです。
 本当は師匠に聞いてもらって、指針を示して欲しかったんですけど、あの人は僕の話なんかろくに聞いちゃくれませんからね。
 僕は彼女がアクマだって事も忘れて、ひたすら話しました。
 そしたら・・・・・・」
 月餅を咥え、しばし無口になったアレンを、ブックマンは急かしもせず、ただ茶をすする。
 「・・・そしたら、彼女は教えてくれました。
 アクマに封じられた魂は、自分をアクマにしてしまった人間を、憎んでなんかいない。
 絶望を乗り越えて、強く生きてくれなかったことを悲しみはしても、そこまで自分を愛してくれた者を、愛しこそすれ憎むなんてことは決してない。
 だからお前は、償うことばかり考えず、生きて歩み、アクマを救ってくれと・・・・・・」
 「・・・・・・そうか」
 ブックマンは頷き、黙祷するように目を閉じた。
 「その話をしてくれた直後・・・彼女はいなくなりました・・・。
 僕は、彼女を探して探して・・・でも、とうとう彼女を見つけることは出来なかった・・・。
 彼女が自爆する運命だと知っていたら、せめてあの、優しい魂を救うためにも、僕の手で壊してやりたかったのに・・・・・・」
 「・・・・・・・・・」
 語り終えたアレンは、瞑目したままのブックマンに、遠慮がちに続ける。
 「・・・って、作り話をしてやったら、ラビが号泣して、談話室にうずくまったまま動けなくなってんですけど、どうしたらいいですか?」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 肺の中が空になったのではないかと思うほど、深い吐息をつかれて、アレンはビクッと怯えた。
 「え・・・えへv
 やっぱりちょっと、やりすぎたかなぁ・・・?」
 必死に笑ってごまかそうとするアレンをじろりと睨み、ブックマンはまた吐息する。
 「えと・・・あの・・・すみません・・・・・・」
 怒鳴られる前に謝っておこう、という、姑息な打算を秘めて、アレンは深々とこうべを垂れた。
 と、
 「ボディ名はサチコと言った・・・」
 「へ?」
 「我らが会った、改造アクマの名前だ」
 「は・・・はぁ・・・・・・」
 唐突な話口にアレンは戸惑うが、ブックマンはお構いなしに続ける。
 「レベル3との戦闘直後で、船にいた全員が満身創痍の上、リナ嬢の生死すら危うい状況で出会ったゆえに、あれは・・・ラビは当初、えらく警戒し、反発しておったが、当のアクマはとても気のいい奴での。
 ラビもしまいには、あやつにちょめ助と名前をつけるほどに打ち解けておったわ」
 「はい・・・・」
 気まずげに姿勢を改めたアレンを、ブックマンは横目で見遣った。
 「だが、トラブルがあっての・・・我らは長い間、共に在りすぎた。
 彼女はとうとう、殺人衝動の限界を迎え・・・我らの目の前で壊れた」
 「・・・っ!」
 思わず息を呑んだアレンを冷静に見つめ、ブックマンは茶器を取る。
 「おぬしの言う通りだ。
 イノセンスを授けられた我らには、アクマを救う力がある。
 ちょめ助は限界を迎える前、自身が自爆する事を知らせておいてくれたでな・・・。
 あやつは・・・・・・ラビは、ちょめ助が自爆する直前に、自らの手で、彼女の魂を浄化しおったよ」
 「そんな・・・っ!!」
 アレンは愕然と目を見開き、膝の上に置いた手に視線を落とした。
 「ぼ・・・僕、そんなこと知らないで・・・ラビに酷いこと・・・・・・!」
 「全くもって、非道の行いであるな」
 「うっ・・・・・・・・・!」
 自責の念に駆られ、ぽろぽろと涙をこぼすアレンを見遣り、ブックマンは意地の悪い笑みを浮かべる。
 「それを実行したのならば」
 「・・・・・・・・・・・・はぃ?」
 泣き濡れた顔を上げたアレンは、くつくつとくぐもった笑声をあげるブックマンを、呆然と見つめた。
 「いくらラビに手厳しいおぬしとて、そこまで非道の行いはせんだろう。
 ラビから『改造アクマに会った』と聞いたおぬしは、あやつには何も言わず、私にイタズラを仕掛けに来た。
 違うか?」
 「・・・・・・・・・その通りです」
 ブックマンの指摘に、アレンは涙を拭って頷く。
 「でも・・・まさかそんな事情があったなんて、僕、全然知らなくて・・・・・・!
 先にブックマンに話したのは、不幸中の幸いでした・・・・・・」
 まだグスグスと鼻を鳴らすアレンを見遣り、ブックマンは口の端を曲げた。
 「・・・なんてな」
 「へ?」
 笑みを含んだ声に、アレンは顔を上げる。
 「おぬしにならって、作り話をしてみた」
 「はいぃぃ?!」
 絶叫するアレンに、ブックマンは楽しげに笑った。
 「まぁ、情報の確度としては、そんなこともあったし、そう言う事情もあったかも知れん、という程度の話だ。
 信じる信じないはおぬし次第」
 「は・・・はぁ・・・・・・」
 煙に巻くような言い方をされ、戸惑うアレンに、ブックマンは言い募る。
 「しかし、非道と言う点ではおぬしの方が上だ」
 「そっ・・・そうですね!!」
 話を蒸し返され、アレンはびくりと震えた。
 「ごめんなさい!
 この話、皆には絶対しませんから!」
 「全くだな。
 あまり、私の弟子をいじめんでくれ」
 「はい・・・すみません・・・」
 冗談口にすら、深々とこうべを垂れるアレンにはさすがに苦笑して、ブックマンはまだ月餅の残る籠を示す。
 「そんなに泣くでない。
 まぁ、月餅がまだ残っておるし、たんとお食べ」
 「はい・・・!」
 ぐいっと涙を拭い、アレンが月餅を取ると、ブックマンが笑みを深めた。
 「ところでな、アレン」
 「はい?」
 呼びかけられ、アレンは月餅を口に運ぶ手を止める。
 「馳走してやったのに、いたずらもするとはちと、欲張りではないか?」
 「え・・・えへv
 だって、こんな時くらいしか、ブックマンにイタズラできないしー・・・」
 途端、鋭い目で睨まれて、アレンはすくみ上がった。
 「調子に乗りました!すみませんっ!!」
 月餅を手にしたまま、深々と頭を下げたアレンに、ブックマンは鷹揚に頷く。
 「うむ。
 ならば私も、祭り中のことゆえ、水に流そう」
 その言葉にアレンは、ほっと表情を和らげた。
 「あ・・・ありがとうございます!」
 喜色を浮かべた彼に笑みを返し、ブックマンはアレンが持つ月餅を示す。
 「遠慮せずお食べ」
 「はいっ!」
 ぱくんっと、大口を開けて月餅に噛み付いたアレンの眉根が、急激に寄った。
 「どうした?」
 「いえ・・・あの・・・これ・・・・・・?」
 にんまりと笑ってブックマンが問うと、アレンは不可思議な表情を浮かべつつ、口の中の月餅を咀嚼する。
 「なんか・・・今までのと匂いが違・・・」
 「遠慮せず、全部お食べ」
 「は・・・はい・・・っ」
 再度言われ、もぐもぐと咀嚼するアレンを、ブックマンは楽しげに見つめた。
 「ところでな、アレン。
 私は常々、子供達に『イタズラかご馳走か』の選択を迫られることに、疑問を感じておってな」
 「は・・・はひ・・・・・・」
 不明瞭な発音で返事をしたアレンは、なぜか、真っ赤な顔をして、涙も浮かべている。
 が、ブックマンは彼を楽しげに見つめたまま、構わず続けた。
 「まぁ、菓子はともあれだ。
 なぜ私達がいたずらをしてはいかんのだろう?そうは思わんか?」
 「・・・・・・・・・っ」
 アレンが涙を零しつつ頷くと、ブックマンは満足げな笑みを浮かべて小首を傾げる。
 「既にパーティで盛り上がっていながら、イタズラは大人気ないと言う、その論理展開がそもそも、論理的ではないと思うてな。
 今年は特別な趣向を凝らしてみたのだよ―――― アレン・ウォーカー」
 冷静な口調で話していたブックマンは、とうとうたまりかね、吹き出した。
 「唐辛子餡の月餅を食うたな?!」
 肩を震わせて笑うブックマンに、唐辛子入り月餅の完食を言外に強要されたアレンは、真っ赤な泣き顔で悶える。
 「み・・・水・・・・・・ッ!!」
 「小童が。
 私を騙そうなんぞ、100年早いわ」
 自分は安全な月餅をつまみつつ、ブックマンは悶え苦しむアレンを楽しげに見遣った。
 「・・・・・・100年後には、どっちも死んでますよ・・・・・・」
 体内を灼く熱に苦しみつつ、アレンは思わず憎まれ口を叩く。
 「唐辛子月餅、もう一つ食うか?」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・生意気言ってもうしわけありませんっ」
 厳格な老人の前に、アレンの反骨精神はあっさりと挫けた。
 「お・・・お願いですからお水くださいぃぃぃぃ!!!!」
 「よかろう」
 しかし、彼の悲鳴に対して出されたのは熱い茶で、アレンは更なる拷問を受け、全身から滝のような汗を流す。
 「イタズラを仕掛ける相手は、慎重に選ぶのだな」
 「す・・・すみません・・・・・・っ!」
 冷厳な声と共に差し出された冷水を一息に飲み干したアレンは、同時にブックマンの恐ろしさを、身に沁みて思い知ることとなった。



Fin.

 










2007年ハロウィンSSの挿話です。
ジジィとアレン君しか出てこない、超SSですが、楽しんでいただければ嬉しいです♪
ちなみにこのお話、記念すべき(?)D.グレSS90作目となりますよ(笑)
なのに、なにテキトーな話書いてんでしょうね、私(笑)
ってか、D.グレだけで90作も書いたんですね、私。
1つの二次創作でこれだけのSSを書くなんて、ちょっとすごいと思った俺(笑)
でも、クオリティの高い原作と、読んでくださる皆さんのおかげで書き続けていられます!
ありがとう!これからもがんばります!












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