〜 まつとしきかば 〜






 処暑を過ぎたにもかかわらず、未だ暑熱の去らないある日。
 畑仕事から戻って来た太鼓鐘と物吉から、野菜の入った籠を受け取った光忠は、代わりに冷やしたタオルを渡してやった。
 喜んでタオルにうずめた顔を再びあげた瞬間、鶴丸が吹き出す。
 「こりゃ驚いた!
 白い貞宗達が、こんがり黒くなっているぞ!」
 指をさされた二人は、互いに顔を見合わせて、笑い出した。
 「ほんとだ!
 太鼓鐘、こんがりしちゃってますよ!」
 「物吉だって!
 これじゃあ黒王子だぜ!」
 衣装も黒くするか!と、はしゃぐ太鼓鐘に、光忠も笑い出す。
 「じゃあ二人とも、長船派に入る?」
 言った途端、騒ぎを聞きつけたか、勝手口の扉が音を立てて開いた。
 「日焼け止め、ちゃんと塗らなきゃだめだろう、お前達!
 あんまり黒くなると、悪い長船にさらわれるよ!!」
 「悪い長船とは聞き捨てならないな、日向。
 俺達は誘惑するだけさ。
 なぁ、親父?」
 騒動しか持って来ない日向と大般若の組み合わせに、光忠はうんざりとため息をつく。
 「馬糞臭い人達は、お風呂入るまで厨房に来ないで。
 今日は温泉宿もお休みだし、広い露天風呂に入りたかったら使っていいから、とっとと行ってくださいー」
 平坦な声で言ってやると、頬を膨らませた日向が貞宗達を手招いた。
 「行こう!
 お父様と一緒にお風呂!」
 「はーい」
 挙手した二人は、日向に駆け寄りながらまたくすくすと笑う。
 「お風呂、しみちゃうかな?」
 「皮がむけて斑になったら、刃紋が変わったりすんのかな?」
 楽しそうな二人に大般若もつい、笑みを浮かべた。
 「親父も来るかい?」
 「行かないし、親父と呼ぶなって言ってるでしょ!!
 何度言えば、そのきれいなおつむの中に入るんだい?!」
 包丁を持って迫る光忠から、大般若が高笑いしつつ逃げ出す。
 「まったく!」
 「まぁまぁ、光坊」
 ヒステリックな声をあげる光忠へ、鶴丸が声を掛けた。
 「いいじゃないか、血縁なんだし。
 俺なんか、孫でもない奴らからジジィ呼ばわりされてるんだぞ」
 笑う彼に、しかし、光忠は不満げに首を振る。
 「鶴さんは自分で言ってるんじゃないか。
 でも僕は、オジサン呼ばわりされる覚えはないんだよ!」
 「いやいや、粟田口がいるからいまいち実感はないが、堀川や虎徹から見ても、鎌倉時代生まれは十分オッサ・・・イタイイタイ光坊痛い!!」
 頭を鷲掴みにされて、鶴丸が甲高い悲鳴をあげた。
 と、
 「なんだ、また騒いでいるのか?」
 外まで聞こえた、と、暖簾をくぐって大倶利伽羅が入って来る。
 「また大般若か?」
 正確に言い当てた彼に、鶴丸から手を離した光忠は何度も頷いた。
 「あの子ってば・・・!
 僕を親父呼ばわりするし、勝手におつまみ持って行くし、いつの間にか宴会してるし、温泉宿のお客さん相手にホストごっこするし!
 ほんっとになんで、あんなに聞き分けないのっ!!」
 きぃっ!!と、ヒステリックに声を荒らげる光忠へ、鶴丸も頷く。
 「派手に遊んでいるのに、ほとんど金がかかっていないのには驚くな」
 徹底した質素倹約、と、まだ痛む頭を撫でつつ感心すると、大倶利伽羅も訝しげな顔で頷いた。
 「鯰尾なんか、目立って遊んでいるわけじゃないのに、湯水のように消えると言っているが・・・」
 「鯰尾くんのは、ゲームへの課金でしょ。
 ほとんど依存症だろうから、もう本人にもどうしようもないのかもしれないけど、にゃにゃくんは人に驕らせるのがうまいんだ。
 ホストごっこしている時なんか、お客さんがどんどん高いお酒を入れちゃって・・・!」
 顔を覆ってしまった光忠の背を、鶴丸が慰めるように叩く。
 「客の要望が多すぎて、止められなくなったもんなぁ。
 本陣のお偉いまで常連になったもんだから、主がもう、どうにでもなれとさじを投げてしまったしな」
 あれには驚いた、と苦笑した。
 「絶対に認めないだろうと思っていたのになぁ」
 と、光忠が悔しげにこぶしを握る。
 「博多くんだよ・・・!
 博多くんが、儲け優先でどんどん高いお酒仕入れちゃって・・・!
 いつの間にかホスト遊びがサービスに組み込まれていたんだよ・・・!」
 一期一振が叱っても聞かない上、外面はいい主が客の要望を無碍にできないことを利用して、ちゃっかりと既成事実を作ってしまった。
 「せっかくの・・・癒しの空間が・・・!」
 嘆く光忠に、大倶利伽羅が吐息する。
 「こないだ演練に行った時、うちのサービスのことが、ホストクラブ長船、とか言われていたぞ」
 「長船でホストごっこしてるの、にゃにゃくんと小竜ちゃんだけでしょお!」
 心外だ!と声を荒らげる光忠に鶴丸も頷いた。
 「むしろ、そこで正宗を外された日向が怒るんじゃないのか?
 大般若と日向で、指名客の多さを競っているんだろう?」
 言えば、また光忠が顔を覆う。
 「あの二人は全く・・・!
 一緒にいると、ろくなことをしないんだから・・・!」
 言われてみれば・・・と、大倶利伽羅は小首を傾げた。
 「張り合っている割には、よく一緒にいるな。
 本当は、仲がいいんじゃないのか?」
 その指摘に、鶴丸が笑い出した。
 「むしろ、日向がライバル視しているのは光坊だしな。
 貞坊と仲がいいから、嫉妬されているんだな!」
 愉快げに背を叩かれた光忠が、顔をあげる。
 「僕・・・日向君にはいつも、誘拐犯を見るような目で見られるんだ。
 前にうっかり『日向ちゃん』って呼んだ時は、本気で蹴られたし・・・」
 しょんぼりと落ちた光忠の肩を、鶴丸が慰めるように撫でてやった。
 「せっかく、貞宗達とはいい関係を築いているんだ。正宗とも仲良くなれるよう、俺が取り計らってやろう!」
 鶴丸が得意げに胸を反らすと、大倶利伽羅が疑わしげに眉根を寄せる。
 「やめておけ。
 数珠丸にでも頼んだ方がうまく行く」
 「あの二人が、抹香くさい説教に耳を貸すわけがないだろう!」
 いいから任せろと、胸を叩いてむせ返った鶴丸を、光忠は不安げな目で見つめた。


 同じ頃、障子や襖をすべて開け放ち、涼しい風が吹き抜ける梅の間で、和泉守兼定はそっと眉をひそめた。
 「・・・修行から帰って以来、之定が怖い」
 「なにを今更」
 思い切って相談したものの、堀川の返答はあっさりしたものだった。
 「歌仙さんの気が短いのは最初からだし、傲慢な上から目線は主さんへ対してもだし、わざわざ文系を名乗っているのは脳筋をごまかすためだって、主さんがいつも言っているよ。
 うちの兄弟もほら・・・なんて言ってたっけ」
 「似非文系」
 「そう、それ」
 うん、と頷いた堀川は、ぽりぽりと茶請けのせんべいをかじる。
 「山姥切兄さんが人の悪口を言うなんて、よっぽどだよね」
 「自己評価が低すぎて、他人の悪口どころじゃないからな、あいつ」
 それはそれでなんとかならないのかと、呆れる兼定にまた、堀川は頷いた。
 「兼さんが来る前ってさ、歌仙さんの他には短刀と脇差と、キヨ達古参組がいたくらいなんだよね。
 主さんは、歴史の知識はあっても全く戦闘経験がなくて、戦略はあっても戦術は丸投げ状態でさ。
 かなり危ない状況にもなった時、歌仙さんは迷わず、懐柔策よりも手っ取り早い、恐怖支配を選んだよね。
 あの頃に比べたら、今は断然ましになったよ・・・歌仙さんも本丸も」
 はふ・・・と、冷たい茶を飲みほして吐息する堀川に、兼定は首を振る。
 「・・・いや、今でもブラック本丸だろ、ここ。
 他の本丸の主は、新刃に一人で戦場渡らせたり、七日以内に戦力を最大限まで上げろなんて言わないって、温泉宿の客から聞いたぞ」
 他の本丸の主が慰安に訪れる珍しい本丸だけに、演練場だけでは仕入れられない情報も色々と入って来た。
 しかし、堀川はその言葉に首を振る。
 「主さんと同じ階層にいる審神者さん達は、似たようなもんだよ。
 僕こないだ、見たもの。
 この本丸にまだ、千代金丸さんが来てない時点で、演練場にはほとんど戦力最大限の千代金丸さんいたよ」
 「・・・鬼ばっかだわ」
 「うちの主さんが刑部姫なら、他は亀姫、橋姫かな。酒呑童子もいるかもね?
 怖い怖い」
 くすくすと笑っていた堀川が、急に変な声をあげて固まった。
 「なんだ、せんべい喉に詰まらせたか?」
 しゃべりながら食うからだと、冷たい茶の入ったボトルを取り上げようとした兼定の手が止まる。
 「ひ・・・髭切・・・!」
 開かれた襖の陰に半分身を隠し、覗き込んでいた彼がにんまりと笑った。
 「いいこと聞いちゃったなぁ・・・v
 ここの刑部姫を斬れば怒られるけど、他の本丸の鬼なら・・・v
 「ダメー!!
 絶対ダメですー!!!!」
 くるりと身を翻した髭切の上着を、駆け寄った堀川が慌てて掴む。
 「他の本丸との諍いは、一番のご法度ですよ!!
 主さんを斬る以上のお叱りが来ますよ!!」
 「えー・・・。
 たくさんいるんだし、一人や二人、斬ってもわからないってぇ!」
 大丈夫大丈夫、と笑う彼に、堀川だけでなく兼定も必死に首を振った。
 「バレるに決まってんだろ!
 膝丸ー!!膝丸ー!!
 兄貴を止めてくれー!!!!」
 大声をあげる兼定に髭切の拘束を任せた堀川が、端末を取り出してメッセージを送る。
 ややして、膝丸が駈け込んで来た。
 「兄者!
 他の本丸に攻め入ってはいかんぞ!!」
 「いや、そこまではしないけど・・・なんて書いて送ったんだい?」
 問われた堀川は、送信済みの画面を見せた。
 「髭切さんが、近隣本丸を片っ端から滅ぼすつもりです。止めてください」
 「いやいやぁ。そこまでしないでしょー」
 のんきに笑う髭切に、膝丸は戸惑った表情を浮かべる。
 「しない・・・のか?
 兄者なら、やりかねないと思ったのだが・・・!」
 「もぉー。
 歌仙じゃあるまいし、片っ端からなんて・・・・・・楽しそうv
 きらりと、目を輝かせた髭切に堀川が顔をこわばらせた。
 「膝丸さん!
 お兄さん止めてください!!」
 「兄者!!
 戦場であれば主も殲滅を許すだろうから・・・そうだ!共に太刀魚を獲りに行くのはどうだ?!」
 太刀だけに!と、必死に言い募る膝丸に、髭切は肩をすくめる。
 「わかったわかった。
 別の本丸や審神者を斬るのはやめてあげるよ」
 「兄者・・・!」
 ほっとして、膝丸は髭切を羽交い絞めにする兼定を見遣る。
 「すまなかったな。もう大丈夫だ」
 「あ・・・あぁ・・・」
 頷いたものの、本当に大丈夫だろうかと、不安げに拘束を解いた兼定に髭切が、にこりと笑った。
 「もぉー。
 ちょっとした冗談だったのにぃ」
 「そうは見えませんでしたけど・・・っ?!」
 声を上ずらせた堀川へも微笑み、髭切は小首を傾げる。
 「ところで僕ねぇ、ここへは偶然来たんじゃなくて、君を呼びに来たんだよ」
 言われて、堀川は瞬いた。
 「そうなんですね!
 戦ですか?遠征ですか?」
 歩み寄った彼に、髭切は首を振る。
 「ううんー。
 山姥切がねぇ、主に出立のお願いをしにきてたから、お見送りするかなぁって」
 「なんですってー!!!!」
 歓声混じりの大声に、膝丸がびくりとした。
 「な・・・なんだ、いきなり・・・」
 「あ!ごめんなさい!
 髭切さん、ありがとうございます!
 山伏兄さんにも知らせなきゃ!!失礼します!!」
 くるりと踵を返すや、駆け去った堀川の背を、兼定はうっかり見送ってしまった。
 「・・・あ!
 俺も見物に!」
 「見物?
 見送りではないのか?」
 妙なことを言う、と訝しげな膝丸に、兼定は気まずげに口を覆った。
 「そ・・・そうそう、見送り!
 どんな顔して出て行くのか、興味があるからな!」
 「そういうの、見物って言うんだよぉ」
 くすくすと笑いつつ、髭切は兼定の背を押す。
 「行こうv
 僕も、見物したいんだぁ」
 「おう!」
 小走りに回廊を行く二人にため息をつき、膝丸も後を追いかけた。


 堀川が、離れにある山姥切の部屋に至った時には既に、山伏だけでなく古参組の面々が集まっていた。
 「てっきり兄弟だけだと・・・」
 呆れる堀川に、蜂須賀が振り向く。
 「彼を心配しているのは、お前達兄弟だけではないぞ。
 ・・・いいな、山姥切。
 生水は飲んではいけないものだからな?
 ちゃんと街か里へ行って、お水をくださいと言えるのか?
 無理なら十分な飲料を持って行くべきだ」
 と、荷物にこれでもかとペットボトルを入れる蜂須賀を押しのけ、陸奥守が山姥切の両肩を掴んで迫った。
 「江戸時代でも初期はまだ、治安が悪いそうじゃ。
 おまんが斬られるとは思わんが・・・兄さん、きれいじゃの、なんて寄って来る奴を信用しちゃいかんぜよ?
 知らんもんにフラフラついて行ってもいかんぜよ?」
 「もー。
 山姥切だって子供じゃないんだから、そんなのわかってるってぇー」
 不安げな顔をする山姥切の肩から陸奥守の手を引き剥がし、清光が笠をかぶせる。
 「紐の長さ、調節完了っと。
 造花でデコっといたから、間違えて持って行かれる心配はないよ。
 あ、もしかしたら、可愛いから交換して、って言われるかもだけど、その時はちゃんと笠に名前を書いて、失くさないようにね」
 「手紙はまめに書きたまえよ。
 これだけじゃ、紙が足りないだろうに。
 墨は?
 ・・・あぁ、やっぱり、使いかけなんか入れて!
 新しい物をあげるから・・・って君、ちゃんと墨をすることができるかな?良い墨汁があるから、そちらをあげようか」
 勝手に荷物のチェックをしていた歌仙に言われ、山姥切は無言で頷いた。
 「合羽には撥水加工をしたのか?
 濡れたままだと風邪をひくぞ」
 「あ、それは俺がやったーv
 ラメ入りスプレーで、ちょっと可愛くしておいたよv
 衣文掛けを前に眉根を寄せた蜂須賀へ清光が挙手し、荷物に香りつきの除菌スプレーを加える。
 「これ!
 絶対便利だから持ってって!
 主おすすめのバラの香り!」
 液体ばかりを詰め込まれ、かなりの重量になってしまった荷物を山伏が、ひょい、と持ち上げた。
 「なるほど!
 さすがは古参の面々である!
 この重さはさぞかし修行になろうぞ、兄弟!」
 大笑しつつ渡した荷物の重さに、山姥切の腕が伸び切る。
 「あ・・・ありがたいが・・・この重さは・・・・・・!」
 「重さ?」
 山姥切が、震える手で提げる荷物を、歌仙が片手で取り上げた。
 「大げさな。
 お小夜よりは重いが、いずみよりは軽いじゃないか」
 「えー?どれどれー?」
 手を伸ばして来た清光に渡してやると、彼も片手で受け取る。
 「うん、思ったより重くないじゃん。大丈夫大丈夫!」
 ね?と渡された蜂須賀が、頷いて陸奥守へ預けた。
 「水をあと、5本は入れておこう」
 「いや、薬を入れるスペースがいるきに、4本くらいにしたらどうじゃ?」
 「なに!薬を入れていなかったのか?!
 まったく君ときたら!
 山伏、何かいい丸薬を持っていないかな?」
 「おお!任されよ!」
 歌仙に問われた山伏が、意気揚々と部屋を出て行く。
 ややして戻って来た彼は、数珠丸と大典太、ソハヤノツルキも連れていた。
 「伺いましたよ、山姥切。
 とうとう修行に赴かれるとか。
 さぁ、このお守りをどうぞ。
 仏があなたを守ってくださいます」
 数珠丸が手ずから守り袋を首に掛けると、大典太とソハヤもそれぞれ、高価そうな磁器の壺を押し付けてくる。
 「腹痛や歯痛にも効く丸薬だ。持って行け」
 「こっちは怪我に効く膏薬だ!頑張れよ!」
 「拙僧からは、薬草や山菜の載った書物を贈ろう!
 山内に迷った時などに便利であるぞ!」
 よりによってまた重い物を渡されて、山姥切が受け取った荷物は腕がちぎれんばかりの重さになった。
 「・・・?
 いずみ、ちょっとこちらへおいで」
 「俺?」
 歌仙に呼ばれて部屋に入ると、突然抱き上げられる。
 「のっ・・・之定?!」
 驚いて暴れそうになった彼の重さを量るように、幾度か揺らしてからおろしてやると、続いて山姥切の手から荷物を取り上げた。
 「・・・いずみより重くなってしまったか。
 手押し車でも使うかい?」
 「・・・荷物を減らそうとは思わないのか?」
 素朴な疑問を口にすれば、古参組が一斉に首を振る。
 「水は絶対に必要だ!」
 「俺のは使うでしょー?」
 「薬も書物も、えらい便利そうじゃ!」
 「手紙を書かないなんて、主に失礼だよ」
 減らせない!と、声を揃えた彼らに、髭切が吹き出した。
 「本当に、面白い見物だねぇ。
 仲が良くて、なによりだよ」
 「一番心配な子だからねぇ・・・」
 呟いた歌仙に、蜂須賀も深刻な顔で頷く。
 「浦島が出かけた時も心配したが、あの子は誰とでも仲良くなれる子だから、寝食の心配はそこまでじゃなかった。
 しかし・・・」
 「山姥切、ちゃんと宿取れる?ごはん注文できる?非常食、もっと入れておこっか!」
 「まずは挨拶じゃ!
 元気に大きな声で!それ!言うてみ!!」
 清光と陸奥守に迫られ、言葉を失って震える山姥切を見かねた堀川が歩み寄る。
 「僕がついて行こうか?」
 「い・・・いや!それはさすがに・・・!」
 「でも・・・本当に大丈夫?
 困ったことがあっても、一人でなんとかしなきゃいけないんだよ?できる?」
 「おい、堀川。
 それはさすがに、山姥切に失礼だぞ」
 進み出た膝丸が、堀川の肩を掴んで引き寄せた。
 「短刀達だって、立派にこなして来たのだ。
 心配しすぎるのは男士に対して、侮辱にもなるぞ」
 もっともな言葉にはしかし、堀川は眉根を寄せる。
 「じゃあ膝丸さんは、髭切さんが修業に行くって言ったら・・・」
 「兄者。
 兄者の修行にはぜひ、俺を同行させてくれ」
 「舌の根も乾かないうちに」
 ころりと態度を変えた膝丸には、大典太も思わず呟いた。
 その傍らで、数珠丸がそっと微笑む。
 「そんなに案じなくても、大丈夫ですよ。
 なんとかなるものです」
 「案ずるより産むがやすしってな!」
 「自身の足りぬところを補うも、また修行であるぞ!」
 ソハヤと山伏も大きく頷き、勝手に荷物を探った。
 「一度に持てねぇなら、分ければいいじゃねぇか!」
 「水は、丈夫な背負い袋に入れるとよいな!」
 二人だけでなく、皆がわいわいと荷物を小分けにして、山姥切の肩や背に負わせる。
 「お前たち・・・ひとつ言っていいか・・・?」
 今にも崩れそうな足をなんとか踏みしめ、山姥切が震える声をあげた。
 「小分けにしても・・・重量は変わらない・・・っ!!」
 「それはそうだが、鎧と同じだ。
 とても持ち歩けぬ重さでも、着ればそう、負担ではなくなる」
 大典太の言葉に、ソハヤも頷く。
 「大鎧だと思えばいいじゃねぇか!
 帰って来る時には、新しい衣装に変えるんだろう?
 鍛練になるぜ、きっと!」
 「兄弟はまず、足腰を鍛えることからであるな!」
 ぷるぷると震える山姥切の足を見下ろし、山伏が大笑した。
 「山姥切兄さん、歩いてみて!
 ほら、こっちだよ!」
 手を叩く堀川へ向かって一歩を踏み出すや、膝から崩れ落ちる。
 「あーあー!
 か弱ぇなぁ、まったく!」
 歩み寄った兼定は、山姥切が背負った荷物を取って、立たせてやった。
 「之定、やっぱ手押し車があった方がいいんじゃねぇのか」
 「そうだねぇ・・・。
 水だけでも載せてあげようか」
 頷いた歌仙に、蜂須賀が表情を明るくする。
 「あぁ!
 だったらもっと運べるな!
 非常食も、これだけの量で足りるか、心配だったんだ」
 「行商じゃあるまいし、更に増やそうとするな!」
 悲鳴じみた声をあげる山姥切に、蜂須賀が迫った。
 「じゃあ、自力で確保できるのか?
 知らない人に話しかけられるのか?
 三日月の言うように、お前が修行中に干からびて野垂れ死にするんじゃないかと、お母さんは心配で!」
 「誰がお母さんだ!
 刀派すら違うだろう!!」
 「わしも、山姥切を一人で行かせるのはどうにも心配じゃ。
 堀川、やっぱり一緒に・・・」
 「皆さま」
 穏やかな、しかし、よく通る声に場が静まった。
 「修行とは、なんでしょう」
 仏僧の問いかけに戸惑う面々へ、数珠丸は微笑む。
 「修行とは、己を見つめ直し、より高みを目指すこと。
 周りが気をまわしていては、本人のためにもなりません。
 それに、信じて見守ることは、あなた方の修行とも言えるのではありませんか?」
 大丈夫、と、数珠丸は笑みを深くした。
 「仏がお守りくださいます。
 どうぞ、思うがままにお行きなさい」
 「・・・そー言われちゃったらさぁ」
 気まずげに、清光が首をすくめる。
 「・・・うん、俺もまだ、修行不足だったかも。
 みんなも、ちょっと落ち着こっか」
 「そうだね・・・。
 蜂須賀、山姥切が持ち運べる程度に減らそうか」
 「う・・・」
 歌仙の言葉に蜂須賀は、悩ましげに口を覆った。
 「・・・山姥切・・・野垂れ死にだけは・・・!」
 「三日月の言うたことが、よっぽど刺さったようじゃのう」
 「あの爺さん、いつもへらへらしてるくせに、口が過ぎるんだよ」
 清光が口を尖らせると、髭切が笑い出す。
 「そうならないようにね、ってことだよぉ。
 本当にありそうなことだったら、冗談なんかで言わないってぇ」
 ねぇ?と、髭切が見やった数珠丸と大典太はしかし、そっくりに首を傾げた。
 「そうなったのなら、それも仏のお導きでしょう」
 「それまでの刀だったと言うことだな」
 「天下五剣の共通認識ひどくないですか?!」
 やっぱり一緒に、と、不安げな堀川の背を、山伏がはたく。
 「心配無用!
 兄弟は強い刀であるからな!!」
 「う・・・うん・・・」
 頷いたものの、まだ不安げな堀川に清光が苦笑した。
 「兼さんの時みたいに、こっそりついて行かないでよー?
 あの時も、帰ってから主に、すごく怒られたでしょー?」
 「は?!
 国広!お前、ついてきてたのかよ!」
 「え・・・えっと・・・!
 キヨ!なんで言うの!!」
 と、顔を赤くする堀川に清光は舌を出す。
 「こっそりついてってるのは一期だけじゃないよ、ってバラしたくなったv
 「太刀なのに、短刀にも見抜かれない彼の隠蔽能力は素晴らしいね。
 新たな力の発現か、って、主も一期に対しては、もう叱ることはなくなったよ」
 くすくすと笑う歌仙に、陸奥守が何度も頷いた。
 「最初に乱が行った時ゃー、主も心配しすぎて憔悴しちょったからの。
 一期も最初は我慢しちょったけんど、次の五虎退からはこっそりついて行くようになったがよ」
 「・・・俺も見守りたかったが、当の浦島に断られてしまった」
 不満げな蜂須賀に、山姥切は頷く。
 「俺も・・・断る。
 兄弟の気遣いは嬉しいが・・・頑張らなければ、修行にならないと・・・・・・」
 震える声で、必死に言う姿が仔犬のようで、古参組がまた、おろおろし始めた。
 「鳩を使うように、主へ進言しようか?
 僕がいない間、光忠が進言したそうなんだが・・・結局使われずに手元にあるようだし」
 珍しく甘い歌仙の申し出に、清光が笑い出す。
 「歌仙がいない間、光忠がぼやいていたんだよー。
 これって僕の修行じゃないの?!忙しすぎるでしょ!って!」
 「本丸の人数は増えたのに、料理ができる刀は増えていないからねぇ。
 それで、どうする?使うかい?」
 改めて尋ねた歌仙に、山姥切は首を振った。
 「それも・・・い・・・いらない・・・!」
 声を詰まらせつつ、懸命に言った彼を、蜂須賀が抱きしめる。
 「山姥切っ!無事に・・・!無事に帰って来るんだぞ!
 何かあったら手紙に書いてくれれば、お母さんが迎えに行くからっ!!」
 「だから誰がお母さんっ・・・抱き着くな!!」
 「だってお前!本当に野垂れ死にしそうだからっ!」
 「すごい評価だな・・・」
 呆れる膝丸の傍らで、髭切がくすくすと笑った。
 「あの子、人付き合い苦手そうだし、兄弟くらいしかお見送りしてくれないんじゃないかなぁと思って来てみたけど、ちゃんといたんだねぇ、お友達」
 よかった、と呟く髭切を、堀川が意外そうに見上げる。
 「髭切さんが、そんな気をまわしてくれるなんて、驚きました」
 「それも驚いたが、お前にはあとで、きっちり話を聞かせてもらうぜ」
 尋問モードで迫る兼定からは気まずげに逸らした目を、堀川は山伏へ向けた。
 「きっと・・・強くなって帰って来るよね?大丈夫だよね?」
 「あぁ!大丈夫である!
 拙僧は最初から、心配などしておらんぞ!」
 力強い声で言ってもらい、堀川もようやく安心する。
 「山姥切兄さん、がんばってね!!」
 こぶしを握って声を弾ませた堀川に、山姥切はぎこちなく頷いた。


 「あれ、兄弟揃って遠征・・・じゃないか。
 修行に行くのか、山姥切?」
 「・・・そういうお前達は遊びか」
 出立の間で行きあった鶴丸に声を掛けられた山姥切は、水着に浮き輪、水中メガネを完備した鶴丸の姿に呆れた。
 「おう!
 みんなで海に行くんだ、海!」
 「主も誘ったんだけどよ、盆を過ぎたらクラゲが出るからやだって言われた!」
 既に海水浴帰りのような、こんがりとした顔をして、やはり水着の太鼓鐘が口を尖らせる。
 「僕だっていやだよ・・・。
 なんでわざわざ痛い思いをしなきゃいけないんだよ・・・」
 「大丈夫ですよ、父さま!
 今から行くのは、南のリゾート島ですから。
 主様が、日焼けしたくないから自分は行かないけど、クラゲやサメ対策がされた場所を紹介してあげる、って、わざわざ予約してくれたんです!」
 ふてくされる日向を物吉がとりなすと、光忠が苦笑して小首を傾げた。
 「あんまり日に当たらないと、骨が弱くなってしまうから、主くんには海に入らないまでも、一緒に来てほしかったんだけどねぇ」
 「へー。そうなのか。
 だったら無理やり連れて来いよ、伽羅坊!」
 「なんで俺が・・・」
 鶴丸につつかれて、嫌な顔をする大倶利伽羅に、山姥切がため息をつく。
 「お前まで遊びに行くのか」
 馴れ合わないんじゃ、と、呟く彼の背を、堀川と山伏が強く叩いた。
 「大倶利伽羅さんも、修行から帰ってから丸くなったんだよ!」
 「うむ!兄弟もきっと、上手くやれる!大丈夫である!」
 「それに、主ならさっき、部屋で倒れたから行けないぞ」
 ガラガラと、大荷物の乗った手押し車を押して入って来た蜂須賀が言うと、皆の顔色が変わる。
 「倒れたって、なんでだ?!」
 「さっき、誘った時はなんともなかったのに・・・!」
 駆け寄った太鼓鐘と物吉には、大黒天かと思うほどにパンパンに膨れた袋を担いだ陸奥守が答えた。
 「心配せんでえい。
 山姥切が持って行く荷物が、太刀二人分くらいの重さになったきに、一緒に運べるように、特別な術をかけてもらっただけぜよ」
 「イレギュラーな時間遡行に力を使うのはわかるけど・・・それで倒れるって。
 荷物を減らせばいいじゃないか」
 光忠の指摘に、山姥切は何度も頷いたが、後から入って来た清光が首を振る。
 「それ、主にも言われたけど、中身見せて説明したら、全部必要だな、って納得してくれたよ。
 歌仙が介抱してるから、みんな遠慮なく行っちゃってー」
 ほいほい、と手を振って、清光は山姥切の衣装を直してやった。
 「がんばっておいでよね!」
 にこりと笑うと、山姥切は緊張した顔で頷く。
 「行ってくる・・・遠くへ」
 渡された大荷物を持って、時空の彼方へ消えた彼を、皆が盛大に見送った。
 が、その中で一人、日向は呆れ顔で腕を組む。
 「ねぇ。
 行くって言っても、大体四日程度だって聞いたよ?
 なにあの大荷物。
 行商なの?」
 効率が悪い、と、いかにも官僚の口調で言う彼に、光忠が頷いた。
 「山姥切くんが行くって知ってたら、僕がカッコよくまとめたんだけど。
 声を掛けてほしかったなぁ」
 ちらりと見やった蜂須賀は、しかし、憤然と彼を睨み返す。
 「厳選した結果だ!」
 「山姥切には、あれくらい持たせんと心配じゃ」
 「大太刀二人分から、何とか太刀二人分にまで減らしたんだよ。あれ以上は無理だよ」
 陸奥守と清光にまで言われ、困惑する光忠を助けるように、大倶利伽羅が口をはさんだ。
 「俺の時は、あんなに必要なかった。
 お前達もそうだったろう?」
 「そうなんですけど・・・僕の兄弟はすごいコミュ障ですから。
 最悪、四日間、誰にも会わずに山に篭ることになっても大丈夫な装備ですよ!」
 「山に登れねーだろ、あの荷物」
 必死な堀川に容赦なく突っ込んで、太鼓鐘は光忠の手を引く。
 「見送ったし、俺らもいこーぜ!」
 「そうだね。
 鶴さん、ちゃんとパーカー着て。日焼けするよ」
 言うと彼は、楽しげに首を振った。
 「日焼けしに行くんだ!
 伽羅坊みたいに、こんがりしてやるぜ!」
 「あんまりこんがりすると、焼き鳥って言われるんじゃない?」
 意地悪く鼻を鳴らして、日向はぱたぱたと自身を手で仰ぐ。
 「やっぱり僕、行くのやめるよ。
 暑いし、日焼けしたくないし」
 さっさと踵を返した日向の腕を、鶴丸がすかさず掴んだ。
 「そう言うな、日向!
 お前がひなたを嫌ってどうする!」
 「・・・くだらないジジィギャグに背筋が寒くなった」
 「重畳だ!
 もっと涼しくなりに行こう!
 行って来るぜ!!!!」
 張り切って手を振る鶴丸に、清光達も苦笑して手を振り返す。
 「海かぁ・・・。
 山姥切見送ったし、俺達も行く?」
 のんきに振り返った清光に、蜂須賀が眉根を寄せた。
 「君はこれから遠征任務じゃなかったか?」
 「わしら、江戸城に行って来い言われちゅうが」
 猫探し、と笑う陸奥守に、堀川も大きく頷く。
 「僕も、陸奥守さんと蜂須賀さんのお手伝いで江戸城です!
 兄弟は太郎さんと遠征だよね?
 太刀魚、たくさんとって来てね!」
 「あいわかった!任されよ!」
 胸を叩いて請け負った山伏は、清光らへ一礼した。
 「我らの兄弟が、世話になった」
 「ううん。俺らが勝手にやったことだよ。ね?」
 「おせっかいだとは思ったのだが・・・どうにもな」
 「なんちゃーない!
 山姥切とは、この本丸が始まった頃からのつきあいじゃき!」
 気さくな彼らに、堀川も一礼する。
 「皆さん、ありがとうございました!
 この借りは、きっと山姥切兄さんが返すよ!」
 「無事に帰ってくれば、それでいいよ。ね?」
 涙を浮かべる蜂須賀の背を叩いてやりながら、清光はにこりと笑った。


 一方、海水浴へ行った面々は、夏の日差しを弾いて輝く水面を、満足げに眺めていた。
 「さすが南国!この直射日光、容赦ないな!!
 相手にとって不足なし!!」
 白い肌を日にさらし、大声をあげる鶴丸に光忠が声を掛ける。
 「鶴さん、やっぱりやめなよ。
 日焼け止め、塗ろう?」
 「いやだ!
 俺もこんがりするんだ!」
 「まぁ、おいしそうにはなるかもね」
 ぶんぶんと首を振る鶴丸へ呆れ顔を向けた日向は、大倶利伽羅が設置したパラソルの下でぺたぺたと日焼け止めを塗った。
 「ねー。
 誰か、背中塗って」
 「おう!任せろ!!」
 物吉と、何やら企むようにくすくすと笑いあっていた太鼓鐘がやって来て、日向の手から日焼け止めを受け取る。
 「父ちゃん!
 後で一緒にビーチバレーやろうぜ!
 短刀の機動を見せつけてやるんだ!」
 「いいね!
 太刀なんかには負けないよ」
 じろりと睨まれた光忠が、びくりとしてクーラーボックスから出したペットボトルを落とした。
 「か・・・伽羅ちゃんー・・・!」
 「情けない声を出すな」
 大倶利伽羅にまで睨まれて、光忠が肩を落とす。
 「僕は・・・貞ちゃんと仲良しなだけで、にゃにゃくんみたいに正宗と張り合おうなんて思ってないのに・・・」
 「まぁ、大般若が長船として張り合っている以上、祖が関係ない、じゃ済まんよな」
 楽しげに笑って、鶴丸は日向へと手を振った。
 「海に入ろうぜ!」
 「まぁ・・・せっかくだから、入るけど・・・。
 水で、日焼け止めが落ちたりしない?」
 「大丈夫!
 これ、水に強い奴だから!」
 「父さま!早く早く!!」
 パッケージを見せる太鼓鐘に頷いた日向は、物吉にも呼ばれて立ち上がる。
 「日焼け止めありがと、太鼓鐘。いこ」
 「うん!」
 ほぼ天頂から降り注ぐ日の下には、不思議なことに人の姿はなく、海は彼らだけのものだった。
 「驚きだな!浮き輪をつけていると、前に進まないぞ!!」
 激しく水を蹴立てながらも、波に押し戻される鶴丸を太鼓鐘が指さして笑う。
 「気合が足りねぇんだよ!
 派手に行くぜ!!うがっ!!」
 果敢に飛び込んだものの、やはり押し戻された太鼓鐘が波打ち際に転がった。
 「みっちゃーん!!投げてくれ!!」
 「え?
 あぁ、はいはい」
 両手を振る太鼓鐘を抱き上げた光忠が、勢いをつけて遠くへと放り投げる。
 「ひゅー!!
 これで波に負けないぜ!!」
 ばしゃばしゃと波を蹴立ててはしゃぐ太鼓鐘に、物吉と鶴丸が目を輝かせた。
 「光忠さん!僕も僕も!!」
 「俺も俺も!!」
 「いいよ!順番ね」
 浮き輪を付けた物吉を抱き上げた光忠が勢いをつけて放り投げ、あがった水飛沫に視界を塞がれながら、続いて鶴丸を抱き上げる。
 「鶴さん、相変わらず軽・・・」
 「悪かったね」
 冷え冷えとした声に驚いて瞬くと、日向の顔が間近にあった。
 「日向く・・・あ!!」
 鶴丸だと思って、思いっきり振り回した日向の軽い身体は、太鼓鐘と物吉の頭上を越えて、遠くまで飛んで行く。
 「ご・・・ごめん!
 大丈夫?!」
 「平気だよ、このくらい」
 一旦沈んだ海中から顔を出した日向は、浮き輪に顎を乗せて、やれやれと吐息した。
 「涼しい・・・」
 呟いた彼は、間近で挙がった水飛沫に迷惑そうな顔をする。
 「鶴丸、鬱陶しい」
 「必殺!!鶴の水浴び!!」
 日向のことなど意に介さず、ばしゃばしゃと水面を叩く鶴丸に対抗して、太鼓鐘と物吉も水をかけてやった。
 「楽しそうだなぁ。
 伽羅ちゃんも投げる?」
 「いらん」
 ずんずんと進んで行った彼は、大波に足を取られて転ぶ。
 「竜捕獲!
 投げまーす!」
 「なっ!!」
 ひょい、と持ち上げられた大倶利伽羅は、抵抗する間もなく放られた。
 大きな水飛沫に歓声が上がり、太鼓鐘が手を振る。
 「みっちゃんも来いよー!!」
 「うん。
 そこ、どのくらい深いの?・・・あれ?」
 浮き輪をつけて、ぷかぷかと浮かぶ彼らの傍に寄り、追い抜いても、水面はまだ、光忠の肩の下にあった。
 「巨大生物が」
 「その言われ方、ちょっと傷つく・・・」
 舌打ちする日向に苦笑して、傍で沈みかけていた大倶利伽羅を引き上げる。
 「無理して立とうとしなくても」
 「・・・うるさい」
 試したものの、わずかに身長が足りなかった大倶利伽羅が、悔しげに唸った。
 「それにしても、こんなにきれいな場所なのに、誰もいないねぇ。
 主くん、奮発してくれたのかな?」
 不思議そうな光忠に、太鼓鐘が笑って水を浴びせる。
 「ぷらいべーとびーち、ってやつじゃないか?
 思いっきり騒いでもいいってことだろ!」
 「確かに、ここなら貞がやかましくても、他人に迷惑はかけないな」
 「なにおうっ・・・ぶくぶくぶく・・・」
 反駁しようとした途端、大倶利伽羅によって沈められた太鼓鐘が水中でもがいた。
 「太鼓鐘、一旦潜って!ほら、こっちだよ!」
 物吉の差し出した手を取って浮かび上がった太鼓鐘は、またすぐに潜って大倶利伽羅の足を掬う。
 「貞っ!!」
 「仕返しだ!」
 浮かび上がってきた得意顔に、日向が惜しみない拍手を送った。
 「ところでここって、どこだ?」
 ひとしきり遊んで、すっかり冷えた身体を温めようと、ひなたに転がる太鼓鐘が問うと、端末を取り出した光忠がGPSを表示させる。
 「沖縄、ってどこだろ・・・。
 あぁ、琉球のことか。
 外国だねぇ」
 「おぉ!千代坊のいたところか!
 そうと知っていれば、あいつも連れて来たんだけどな!」
 と、見遣った大倶利伽羅は首を振った。
 「今日は槍と一緒に筑前へ遠征に行っている。戻るのは夕方だ」
 「じゃあ、今度来る時は誘いましょうね!」
 また来たい、と笑う物吉に、日向も頷く。
 「そうだね。
 思ったより楽し・・・子供達とだけなら」
 つんっと、光忠から視線を外す日向の頭を、鶴丸がくしゃくしゃと撫でた。
 「短刀と脇差だけじゃ、いざと言う時危ないぞ?
 主も言っていただろう。
 海に行くなら、必ず大きなものを連れて行け、って。
 その点、光坊は気配りの達人だからな!安心だぞ!」
 「あ、そう。
 じゃあ早く、冷たい飲み物ちょうだい。暑くなって来た」
 愛想のない口調で言うや、差し出した日向の手を、大倶利伽羅が払う。
 「・・・そんなに暑いなら、海に放り込んでやろうか」
 「伽羅ちゃん、落ち着いて。
 はい、日向くんどうぞ」
 「・・・ありがと」
 光忠から受け取ったペットボトルを肩に当てて、日向は眉根を寄せた。
 「ねー。太鼓鐘。
 ちゃんと背中に、日焼けどめ塗ってくれた?
 なんかひりひりするんだけど」
 「塗った塗ったー!これでもか!って、ド派手に塗ってやったぜ!」
 調子のいい太鼓鐘に笑みを浮かべて、日向は日焼け止めを取り上げる。
 と、慌てたように物吉が、彼の手から奪い取った。
 「厚く塗ったから、かえって海水で流れちゃったのかも!
 僕が塗り直してあげますよ!」
 「え・・・うん、ありがと。
 でも、そんなことってあるの?」
 「あるんじゃないか?!あの波、すごかったし!!」
 太鼓鐘も言えば、波打ち際を見遣った日向が頷く。
 「そうだね、自力では行けなかったものね」
 納得した様子の日向に何度も頷き、ぎこちない笑みを見合わせる貞宗達に、光忠は苦笑した。
 「貞ちゃん、物吉くん、なにを・・・」
 「みっ!!光坊!!そろそろ昼にしよう!!」
 光忠の問いを遮って、鶴丸が彼の腕を引く。
 「え?いいけど・・・三人でなに企んでるの?」
 単刀直入の問いに、鶴丸が目を泳がせた。
 「た・・・楽しいことだな、うん」
 「つまり、ろくなことを考えてないと言うことだ」
 きっぱりと言い放った大倶利伽羅へ、鶴丸は口を尖らせる。
 「伽羅坊・・・その評価はどうなんだ?」
 「日頃の行い」
 「う・・・!」
 反駁できない鶴丸に笑って、光忠はまた海に入ろうとする貞宗達へ声を掛けた。
 「先にお昼しないー?」
 「するー!」
 砂を蹴立てて戻って来た太鼓鐘が、早速クーラーボックスから材料を取り出す。
 その傍で大倶利伽羅がバーベキューコンロを設置し、物吉が炭を入れた。
 「うちの連中は手際がいいな!」
 感心する鶴丸も、食器や調味料を取り出し、光忠の手が届きやすい位置に配置する。
 「・・・確かに、長船の祖を中心に回ってるみたいだね」
 手を出せないでいるうちに、すっかり準備が整えられた様を、日向が不満げに見つめた。
 「長い間つるんでいるからな、こういうことは得意なんだ。
 顕現してからも、光坊を中心に厨房をまわしているしな」
 鶴丸が見やった光忠は、火加減を調節しながら既に、焼きの準備に入っている。
 「・・・ねぇ。
 僕にもなにか、手伝わせてよ。
 上げ膳されるの、居心地悪い」
 「でもなぁ・・・。
 父ちゃん、料理できないだろ?」
 申し出をあっさりと断られた気がして、むっとした日向は太鼓鐘の頬を摘まんだ。
 「あのね、太鼓鐘。
 歌仙が出かけている間、僕も長船の祖が苦労していたのは知っていたけど、『刀剣は増えたのに料理ができる刀が少ない』って状況は、君達が自ら作り出したものだと思うよ?」
 「え・・・?」
 意外なことを言われたとばかりに目を見開く光忠へも、鼻を鳴らす。
 「新刀は料理ができないって、決めつけるもんじゃないよ。
 そりゃあね、出来るかできないかで言えば、出来ない刀が多いだろうさ。
 顕現したばかりで、この身体を使うことにすら慣れてないのに、いきなり手先を使うようなことは、出来なくて当然じゃないか?
 でもずっとそうだと決めつけて、包丁の使い方さえ教えもしない君達は単に、厨房を占有したいだけに見えるけどね」
 「いや、そんなつもりは・・・なかったんだが、結果的にそうなっているかな」
 「・・・伊達か細川しかいないな、そう言えば」
 反駁しようとして、思い直した鶴丸に、大倶利伽羅も頷いた。
 「ちゃんと先のことを考えなよ。
 このままだと、長船の祖が留守でもしたら、本丸が鳥取の餓え殺しみたいに干からびるよ」
 「かつえ・・・!」
 絶句し、震え上がった物吉の肩を、太鼓鐘が励ますように叩く。
 「ねーよ!
 俺らがいるし、みっちゃん一人が留守しても、温泉宿を休みにするくらいの影響で済むけどさ・・・うん。
 確かに、料理できる刀が少ないってのは、父ちゃんの言う通りかもしんねぇ」
 と、光忠を見上げた太鼓鐘が言い募った。
 「俺ら、本丸にいる間はずっと厨房にいるじゃん?
 俺はともかく、みっちゃんなんか、古参組の奴らと同じくらいの時期に顕現して、ずっと料理引き受けてきたんだろ?
 もしかしたら、他の連中が入りづらい場所になってたのかも」
 「うーん・・・。
 隔てなく接していたつもりだったんだけどなぁ・・・。
 歌仙くんは平気で入って来るし・・・って、そうか。
 歌仙くんは第一刀だから、どこへでも遠慮なしだよね」
 「食い意地のはった三日月が滅多に近づかない、ってだけで、気づくべきだったな・・・」
 鶴丸も、気まずげに頭を掻く。
 「じゃあ、帰ったら歌仙さんにも言って、お料理教室のスケジュールを組みましょう!」
 物吉の提案に、光忠が大きく頷いた。
 「そうだね。
 短刀くん達が怪我すると危ないからって、配膳しかお願いしてなかったけど、火を使わないお手伝いくらいはお願いしてもいいかな。
 餃子を包んでもらうとか!」
 声を弾ませる光忠を、大倶利伽羅が訝しげに見る。
 「餃子包みは、嫌なことがあった時のストレス解消じゃなかったのか?
 日向が来てから、献立にのる頻度が増え・・・」
 「おーっと伽羅坊!
 そろそろ肉を焼くぜ!」
 「・・・野菜が先だ」
 無理矢理口を塞ごうとする鶴丸の手を引き剥がし、無愛想に言う彼に、日向が肩をすくめた。
 「そうだね。
 僕だって、梅干しばっかり作ってるわけじゃない。
 厨房でだって、上手くやってみせるさ。だから・・・」
 ぷくっと、日向は頬を膨らませる。
 「僕にも、料理教えてよ。
 物吉や太鼓鐘と一緒にやれる程度には、覚えたいからね」
 「・・・オーケー」
 やや呆然と言った光忠は、次の瞬間、破顔した。
 「任せて、日向くん!
 帰ったら一緒に、夕餉の準備をしようね!」
 思わず赤く染まった顔を背けるように、日向がそっぽを向く。
 「うん・・・よろしく」
 小さな声の返答に、光忠は嬉しげに頷き、鶴丸は得意満面に鼻を鳴らした。


 昼食後も、海に入ったり、ビーチバレーで戦ったり、思う様楽しんだのち。
 こんがりと焼けた貞宗達の姿に、日向が悲鳴をあげた。
 「日焼けどめ塗ってなかったの?!
 こんなに黒くなってしまって・・・長船にさらわれるじゃないか!!」
 「いや、さらわないから。冗談だから」
 苦笑する光忠を押しのけ、二人の背後に回った鶴丸が歓声をあげる。
 「やったぜ、貞坊!物吉!成功だ!」
 「ほんとか?!物吉!どうだ?!」
 「うん!きれいに書いてある!僕は?!」
 互いに背を見せ合い、くすくすと笑い合った二人は、『じゃぁん!!』と、一斉に背を向けた。
 「貞・・・」
 「宗・・・っ!」
 太鼓鐘の、こんがりと焼けた背中に白く浮かび上がる『貞』の文字と、同じくこんがりとした物吉の背に浮かぶ『宗』の字に、大倶利伽羅と光忠が吹き出す。
 「なにか企んでると思ったら、それだったんだ!」
 大笑いする光忠へ肩越し、太鼓鐘は得意げに笑った。
 「俺らだけじゃないぜ!!」
 「え?」
 物吉に手を引かれ、隣に並んだ日向の背にも、白く『正』の字が浮かんでいる。
 「貞宗あーんど正宗!!」
 「ひりひりすると思ったらー!!!!」
 とんでもないいたずらをされていたことにようやく気付き、日向が悲鳴を上げると、さすがの大倶利伽羅もこらえきれずに肩を震わせた。
 「もぉ!なにしてるの!!」
 「えへへーv
 父さま、おそろいですv
 「せっかく父ちゃんと一緒だからさ、やっちゃおうって物吉と企んだんだ!」
 驚いたか!と、嬉しげな二人に呆れた日向が、ため息をつく。
 「歌仙が・・・鶴丸は教育上よろしくない、と言っていた意味が分かった」
 「なにおぅ!」
 不満げに膨らませた鶴丸の頬が、異常に赤いことに気づいて、光忠が歩み寄った。
 「鶴さん、顔赤い・・・って言うか、日にさらされた所、真っ赤になってるよ!!
 背中に白い筋浮いてるし?!」
 何かの病じゃ、と慌てる光忠に、鶴丸が手を打つ。
 「そうだ、俺のもうまく行ってるか?貞坊達に、日焼け止めで鶴の絵を描いてもらったんだが」
 「鶴・・・の絵は、白く残っているが、そこ以外は真っ赤に腫れているぞ」
 「え」
 大倶利伽羅の指摘に、背を見ようとしたがうまく行かず、砂に足を取られて転びそうになった鶴丸を光忠が支えた。
 途端、
 「んぎゃあああああああああああ!!!!」
 くびり殺される鶏のような声をあげた鶴丸に、皆が目を丸くする。
 「いだいいだい!!めっちゃ痛いぞ、背中!!」
 中天を過ぎたとはいえ、強烈な南国の日差しは、無防備な鳥を容赦なく炙っていたようだ。
 「だから・・・日焼けどめ塗ろうよって言ったのに・・・」
 呆れ声の光忠がパーカーを着せ掛けると、布が触れて痛いとまた騒ぎだす。
 「・・・とりあえず、帰ろっか。
 真水で洗ってガマの穂の粉でも振ってあげれば、治るんじゃないかな」
 「因幡の白兎か」
 「鶴だけど」
 呆れ果てた様子の日向に、太鼓鐘と物吉が揃って頷いた。


 本丸の中でも、広間が集まる辺りは庭に面して涼しく、良い風が吹き込んでくる。
 思いもよらぬ日焼けのせいで横になることも辛い鶴丸が、上半身裸のまま、ぴすぴすと鼻を鳴らしていると、通りかかった三日月が寄って来て、赤くなった背中をつついた。
 「んぎゃあああああああああああ!!!!
 なにする、ジジィ!!」
 不意打ちを食らって悲鳴をあげる鶴丸を興味深そうに見つめて、三日月は愉快げに笑う。
 「これはまた、紅白に染まってめでたいな」
 「うるさい・・・!」
 涙目で、またぴすぴすと鼻を鳴らす鶴丸の隣に座り、三日月は首を傾げた。
 「これはどうしたことだ?
 つらいなら、手入れ部屋に行けばよいのに」
 混んではいないはずだと、不思議そうな彼に鶴丸は首を振る。
 「せっかく・・・こんがりしに行ったんだ・・・!
 せめて、鶴の絵が定着するまでは我慢するんだ・・・!
 おとこのこだから、できるんだ・・・!」
 「おとこのこという歳か」
 「いだっ!!
 つつくな・・・いだいっ!!ジジィやめろ!!」
 ぎゃあぎゃあと騒ぐ声に、何事かと遠征帰りの千代金丸も寄って来た。
 「なにを騒いで・・・あぁ、真っ赤になってしまって。日焼けさ?」
 のんびりと微笑み、部屋に入った彼は、まじまじと鶴丸の背中を見つめる。
 「海に行って来たんさ?
 大和の海には行ったことがないが・・・琉球に比べれば、日差しも穏やかなんだろうさぁ」
 それにしては酷い日焼けだがと、不思議そうな彼に、鶴丸は首を振った。
 「いや?
 俺達が行ったのは琉球の小島・・・なんだ?!」
 普段ののんきさからは思いもよらない速さで鶴丸を抱き上げた千代金丸は、浴場へ駆け込むや水を張った風呂へ彼を放り込み、一旦出たかと思うと大きな氷をいくつも持って戻って来る。
 「寒い!!」
 氷の浮かぶ水風呂で震え上がる鶴丸を、千代金丸が厳しい目で睨んだ。
 「我慢するさ!
 お前、火傷してしまってるんさ!!」
 大声で言うや、飲んで、と、水を渡す。
 「琉球の日差しを甘く見るんじゃないさ。
 この時期、素肌で海に行くウチナンチュなんていないさ」
 「え・・・そうなのか?」
 道理で人がいなかったはずだと、唖然とする鶴丸の頭に氷嚢までのせて、千代金丸はため息をついた。
 「ナイチャーでも・・・南の人間は知ってるはずだが、北の人間はのんきさぁ・・・」
 「う・・・」
 この本丸で最ものんきだと思っていた千代金丸に言われても、鶴丸は反論できずに黙り込む。
 「俺も・・・こんがりしたかっただけなのに・・・!」
 仲間はずれ、と、しくしく泣き始めた彼に、千代金丸は苦笑した。
 「お前・・・日焼けするほどの色素を持ってないんじゃないさ?」
 「うう・・・!
 考えないようにしていたのに・・・!」
 薄々思ってはいたが、はっきり言われると切ない。
 「俺も修行に行ったら、めらにん色素とやらを獲得できるだろうか」
 「無茶言うんじゃないさ」
 くすくすと笑いだした千代金丸に見守られながら、鶴丸は冷たい水へため息をこぼした。


 ―――― 数日後。
 本丸に戻った山姥切は、降り立った出立の間に集った面々に思わず歩を引いた。
 「きょ・・・兄弟だけだと思っていたら・・・!」
 「そんなわけないだろう!お母さんが、どれだけ心配したと思っているんだ!!」
 真っ先に駆け寄り、抱き着いて来た蜂須賀を、山姥切はうるさげに押しのける。
 「だから、刀派も違うだろうが!」
 「そんなに邪険にしないであげてよー。
 蜂須賀、すっごく心配してたんだよ。
 三日月の爺さんが、この期に及んで『野垂れ死んでいるかもなー』なんて言うから」
 「ジジィ・・・!」
 清光の言葉にこめかみを引き攣らせ、山姥切は不機嫌な声をあげた。
 「手紙はちゃんと送っていただろうが!読んでいないのか?!」
 言えば、陸奥守がこくこくと頷く。
 「みーんなで、主と一緒に読んだぜよ!
 ちなみに主は、おまんの山姥退治の話を読んで、『うん、知ってる』って言いよったぜよ」
 「なん・・・だと・・・?」
 わざわざ行った意味は、と、唖然とする山姥切の頭を、歌仙が撫でてやった。
 「君があの布を脱いだだけでも、意味があったと思うよ。
 うん、きれいになって、実に雅だ」
 「なっ・・・!」
 真っ赤になって絶句した彼を、やや離れた場所から堀川が、惚れ惚れと見つめる。
 「本当に、きれいになって戻って来て・・・ね、兄弟!!」
 「まったくである!
 拙僧も早く、修行に行きたいものであるなぁ!!」
 歩み寄った山伏が、いつものように強く背をはたくが、今の彼はびくともしなかった。
 「おぉ!!
 なんと強くなったことか!!」
 嬉しげな山伏に頷き、堀川も目を輝かせる。
 「主さんに帰還の報告をしたら早速、戦に行こうよ、兄弟!!
 僕、お手伝いするよ!!」
 「ああ・・・」
 頷いた彼に、古参の面々が笑みを浮かべた。
 「では久しぶりに、我ら五人と堀川で出かけようか」
 山姥切の手を取った歌仙が、妖しく微笑む。
 「君の帰還祝いに、紅い血の華を咲かせよう」
 彼らしい祝儀に、山姥切は苦笑しつつも頷いた。




 了




 










山姥切極記念と、こんがりしたかった鶴の話でした。
蜂須賀が、思った以上にお母さんだった(笑)
ちなみに私、博多弁はネイティブですが、土佐弁はまったくわからないので、むっちゃんの台詞で『いわねーよ(真顔)』の突込みができる方はぜひ、台詞の修正案をください(笑)
拍手でコメント送れます。
つい最近までむっちゃんを書いてなかったのは、単純に『土佐弁、わっかんねぇ・・・』だったからですよ。
花丸とかでむっちゃんがしゃべるようになったので、なんとなく『こんな感じかなぁ』って書いてますが、自信は全くない。
龍馬伝、録画残しておけばよかった・・・。
そして『この時期、素肌で海に行くウチナンチュはいない』って言うのは、実際に沖縄に行った時に言われたことですよ。>Tシャツ着ろって言われた。
私も海の傍で育ってますが、日本海側の福岡だって、8月の真昼間に水着だけで泳ぐなんて、火傷しに行くようなもんですよ。
絶対にやらないし、行くなら早朝か、夕方です。
特に鶴丸のような、メラニン色素が足りてない人は火傷しますので、気を付けてくださいね。













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