〜 神垣の 〜






 「あ!いたいた!!
 鶴さーん!
 これ、俺と伽羅から!」
 梅の間の襖を開けるや賑やかしく入ってきて、大きな袋を差し出す太鼓鐘に、鶴丸は首を傾げた。
 「・・・なにか、祝われるようなことがあったかな?」
 一抱えはある袋は、華やかな包装紙でラッピングされ、大きなリボンまでかけてある。
 一目で『プレゼント』だとわかるそれを受け取ったものの、鶴丸に心当たりはなかった。
 と、隣で興味津々と状況を見つめていた小竜が、はたと手を打つ。
 「わかった!敬老の日だ!」
 「それだ」
 太鼓鐘の背後に控えていた大倶利伽羅が、不愛想に頷いた。
 「なんだ、年寄りを敬う祝日なんてものがあったのか!」
 嬉しそうにリボンを解く鶴丸に、大倶利伽羅がまた頷く。
 「獅子王や粟田口が、小烏丸に渡していたのを見て、貞が」
 「みっちゃんも誘おうとしたんだけどさー。
 今、大阪城に行っちまってるからさー」
 中々帰ってこない、と、むくれる太鼓鐘に鶴丸は楽しげに笑った。
 「主に頼んで、貞坊も行かせてもらうといい。
 光坊もその方が嬉しいだろう」
 がさがさと包装紙を開けて出てきた物に、鶴丸は目を輝かせる。
 「へぇ!ご当地うまがす棒か!
 牛タン味はよく見るが、ずんだ餅味は初めてだな!」
 袋から出てきた、幾種類もの菓子に鶴丸が歓声を上げた。
 と、
 「うまがす・・・?
 うまい、じゃなくて?」
 不思議そうな小竜に、鶴丸がおすすめの味をいくつか渡す。
 「ご当地なんだから当然、うまがすだろう!」
 「あぁ、そういうこと」
 ちなみに、と、太鼓鐘が両手で、自身の顎をさすった。
 「ついでに買ってきた明太味うまか棒を主に渡したら、廬山昇竜覇打たれた」
 「そりゃ、百年単位で年下の主に、敬老はないだろう、貞坊」
 さすがに呆れ顔で、鶴丸は太鼓鐘の紅くなった顎を撫でてやる。
 「いいか、貞坊。勇気と蛮勇は違うぞ?
 虎穴に入らずんば虎子を得ず、は勇気だが、あえて虎の尾を踏むことは蛮勇だ」
 「わぁ。
 鶴丸が説得力のない説教してるぅー」
 くすくすと笑いながら小竜は、取り返されそうになった菓子の袋を開けた。
 「牛タン味、おいし。
 名物なの?」
 「地元民が食べるかどうかといえば、明太子と同等くらいじゃないか」
 大倶利伽羅の答えに、太鼓鐘も頷く。
 「日本号が、豚骨ラーメンだって食べる奴と食べない奴いるって言ってたし、長谷部なんか、ラーメンよりうどんが人気だって言ってたぜ」
 「・・・刺身を砂糖醤油で食べたり、溶けそうにコシのないうどんだったり、かと思えば 茹でたのか怪しいラーメンとか、不思議な食べ物が多いよね、筑前って」
 真顔になってしまった小竜に、鶴丸が首を振った。
 「以前も三日月が言っていたが、古来から様々な食のあるこの国で、優劣を競うのは危険だそうだ。
 偏食じゃない限り、ある程度は緩いくらいがいいのさ」
 「そうだなー。
 芋煮を豚汁って言った主に、めっちゃ説教しちまったけど、讃岐と筑前じゃ、豚汁に芋を入れるっていうしな。
 それじゃあ確かに、同じだよな」
 な、と見上げた大倶利伽羅が、眉根を寄せて頷く。
 「主には逆に説教されたし、にっかりには未だにネチネチ言われるしな」
 厄介な奴に絡まれている、とため息をついた大倶利伽羅に、鶴丸は笑って首を振った。
 「味噌が違う、とでも言ってやれ!
 それより君たち、話に加わらないか!
 はろいんの祭をまたやろうって、小竜と意見を交わしていたところだ!」
 「前回は急に開催を決めたから、あんまり準備できなかったでしょ。
 だから今回は、ちゃんと計画を立てて、面白い祭にしたいねって、鶴丸と話してたんだ」
 じゃないと、と、小竜は苦笑する。
 「ダディが鬱になっちゃう」
 その言葉に、太鼓鐘が何度も頷いた。
 「疫病のせいで、他の本丸とは演練以外の接触を禁じられちまったからなぁー。
 宿を休業しなきゃいけなくなって、みっちゃんもがっかりしてた」
 「まぁ、光坊の場合は、その鬱憤を大阪城で晴らしている最中だろうが、大般若はなぁ」
 鶴丸にまた、太鼓鐘が頷く。
 「梅酒の減りが早いって、父ちゃんがぼやいてた。
 せっかく十年物作ろうって楽しみにしてたのに、飲みつくされちゃたまんないって、瓶を隠してたぜ」
 「日向にまで怒られてるんだ・・・。
 じゃあ、ダディがこれ以上飲んだくれる前に、発散させてやらなきゃね」
 利き酒大会でもやろうか、という小竜には、全員が首を振った。
 「うちの飲んだくれどもが、樽ごとかっ食らって収拾がつかなくなるから、やめておけ」
 ため息交じりに言う大倶利伽羅に、小竜も苦笑しつつ頷く。
 「じゃあ、どうしようか・・・。
 ダディ達にお菓子でもないでしょー」
 「大般若は、口説く相手がいれば満足なんだろ」
 宿や店での彼は、酒を飲むことはもちろん、客を口説くことを楽しんでいた。
 「大阪城の任務が終了したら、江戸城の潜入調査が始まるからな。
 新刃でも口説かせるか」
 「新刃!
 誰が来るんだろうねぇ!
 俺、そろそろ息子ちゃんに来てほしいー!
 城井なんて、絶対松井と気が合うからさ、歌仙に頼んでみよっか!」
 目を輝かせる小竜に、太鼓鐘がため息をつく。
 「これ以上、この本丸を唐紅にしてどうすんだ」
 「ねぇねぇ!」
 太鼓鐘の心配をよそに、小竜が更に身を乗り出した。
 「はろいんの宴、新刃歓迎会を兼ねちゃわない?!
 治金丸や日光のも併せてさ!」
 「あぁ・・・そう言えば、立て続けで何もやってなかったな」
 と、太鼓鐘が見上げた大倶利伽羅は、
 「新刃がほとんど来なかった年もあるのに、今年は鬼丸から始まって、結構来てるな」
 おかげで資材貧乏に拍車が、と、ため息をつく。
 「資材が足りないからって、手入れもせずに上田城に行かせるの、やめてほしかったよな、伽羅」
 「まったく、鬼だな、うちの主は」
 太鼓鐘と鶴丸が、両側から慰めるように大倶利伽羅の腕をたたいた。
 「別に・・・折れなきゃそれでいい」
 「うん、大倶利伽羅が我慢の子なのはわかったからー!
 歓迎会ー!」
 強引に話を戻す小竜へ頷いた鶴丸が、早速携帯端末を取り出す。
 「よっし!
 じゃあ、ノリのいい連中集めて、会議と行こうか!
 話をまとめてから持って行けば、主も否やは言わんだろう!」
 にんまりと笑った鶴丸に、小竜だけでなく太鼓鐘も目を輝かせた。


 「あれ?
 兼さん、今日出陣だったっけ?」
 戦装束に着替え、念入りに刀剣の手入れをする和泉守へ声をかけると、彼は国広へ、嬉しげな笑みを向けた。
 「之定と手合わせする約束なんだ。
 いつもボッコボコにやられてるが、今日はぜってぇ勝ってやんぜ!!」
 「歌仙さん、手合わせでも容赦ないもんねぇ・・・」
 苦笑した国広は、しかし、と小首をかしげる。
 「でも歌仙さん、さっき天守に入ってったよ?
 古今さんと小夜くんも一緒だったから、書庫の整理に行ったんじゃないかな」
 「はぁ?!
 俺との約束が先だろうよ!!」
 言うや、おっとり刀で部屋を飛び出した和泉守を、国広はすかさず追った。
 「片付けが終わってからでもいいんじゃない?」
 そんなにかからないでしょ、と、背後から声をかけるが、和泉守は首を振る。
 「古今のやつ、之定を横取りすんのはこれが初めてじゃねぇんだよ!
 同じ細川だからって、今日はもう譲らねぇ!」
 「駄々っ子かな・・・」
 苦笑する国広を従え、和泉守が向かった天守では、地下の書庫で歌仙が私物の茶道具を取り出していた。


 「どうだい?見事だろう」
 自慢の肩衝(かたつき)を箱から出すと、手に取った古今伝授の太刀は目を細めた。
 「まぁ、あなた・・・これは、行方不明となったとされる唐物の名物では?
 よもや、政府に言えないようなことをなさったのではないでしょうねぇ?」
 くすくすと笑う古今へ、歌仙は鼻を鳴らす。
 「人聞きの悪い。
 これは人が価値を見出す前に、唐人町の商人から提示された額であがなったものだよ。
 政府に顔向けできないことなど、これっぽっちもないさ」
 「それがダメなんじゃ・・・」
 歌仙の隣にちょこんと座った小夜が、ぼそぼそと呟いた。
 「それより早く、書き加えてしまわないと・・・。
 松井に見つかったら面倒です」
 「おっと、そうだった」
 やや慌てた様子で、歌仙は懐から帳面を取り出す。
 「私物のままだと、いけないのですか?」
 別の箱から茶碗を取り出した古今が、釉薬の美しさに目を細めると、歌仙は困り顔で頷いた。
 「きみも、松井家老の有能さと恐ろしさは知っているはずだ。
 松井江が、彼の全てを受け継いでいるわけではないけれど、いつ諫言状を送られるかと冷や冷やして過ごすよりは、今のうちにこれらをこの本丸の共有財産ということにして、苦言を避けようという計略だよ」
 そのために、と、歌仙は開いた帳面へ筆を走らせる。
 「本丸の所蔵品目録に、値が張る品を書き加えておこうと思ってね。
 どうせ、僕が管理するものだ。
 名目上の所有者が誰であろうと構わないよ」
 「出し抜かれた松井が、どのような仕返しをしてくるか、見ものですねぇ。
 それこそ、5m超えの諫言状が送られてくるのでは?」
 ふふふ・・・と、軽やかな笑声をあげた古今が、桐箱の中から取り出した絵を広げた。
 「あら、いけない・・・。
 歌仙、あなた、これを真っ先に書き加えなければ」
 「茶器の方が値が張るのだけど・・・お気に召したかな?」
 「値など関係あるものですか」
 微笑んで、古今は歌を添えられた歌人図を眺める。
 「よのなかに たへてさくらのなかりせば はるのこころは のどけからまし」
 「お気に入りの歌ですね」
 棚から取り出した桐箱を並べる小夜に、古今は微笑んで頷いた。
 と、
 「散ればこそ いとど桜はめでたけれ うき世になにか ひさしかるべき」
 「あら、生意気」
 歌仙が返した歌に、くすくすと笑う古今の傍で、小夜は首を傾げる。
 「それは・・・伊勢物語の歌でしょ?
 古今和歌集でのその反論は、
 のこりなく 散るぞめでたき桜花 ありて世の中 はての憂ければ
 じゃ・・・なかった?」
 戸惑いがちに言うと、歌仙がくすくすと笑い出した。
 「ねぇ、古今。
 お小夜はとても賢いだろう?」
 自慢げな歌仙へ、古今も嬉しげに頷く。
 「えぇ、同じ幽斎さまの刀として、誇らしいですねぇ」
 「あ・・・!
 試したんだね?!」
 「あら、そんなことはしませんよ」
 「あぁ、しないとも」
 「もう!!」
 頬を膨らませた小夜へ、二人は手を伸ばした。
 「えらいですよ、お小夜」
 「賢い賢い」
 両側から頭を撫でられて、膨らんでいた小夜の頬がしぼむ。
 ―――― その様を、扉の陰から見つめる者達がいた。


 「小夜に負けてられっか!
 俺も!!」
 「兼さん、何する気だよ?!」
 すかさず腕をつかんだ国広に、和泉守は目を吊り上げた。
 「俺だって、見事に一句・・・!」
 「やめときなよ!
 古今さんにまた、鼻で笑われるよ?!
 それに・・・!」
 ぐいっと腕を引いて屈ませた和泉守の耳に、国広がささやく。
 「・・・細川って、2度までは許してくれるけど、3度目はないって、こないだ、歌仙さんが鯰尾に言ってた」
 「鯰尾の野郎、3回どころじゃなくやらかしてんだろうが!
 俺だってあの中に入れるぜ!」
 「その自信はどこから来るのっ!」
 「何を騒いでいるんだい?」
 扉付近で揉み合う二人の騒ぎを聞きつけ、歌仙が顔を出した。
 「あぁ、いずみ。
 今日は手合わせをする約束だね。
 もう着替えていたのかい」
 いい子、と、頭を撫でてくれる歌仙の手の下で、和泉守が頬を染める。
 「すぐに終わらせるから、もう少し待っていてくれるかい?」
 そう言われた途端、頬を膨らませた和泉守に、古今が笑い出した。
 「まぁ歌仙、若い鶯にお優しいこと」
 「あ?
 俺は鶯丸じゃねぇよ。
 俺は和泉守兼定!
 之定の流れを汲む、カッコよくて・・・!」
 「和泉守さん、和泉守さん・・・若い鶯って、その・・・」
 和泉守の言葉を遮ったものの、口ごもる小夜に、堀川が大きく頷く。
 「歌が下手、ってことだね!」
 「まぁ。
 わたしくはそんな、直截な物言いはしませんよ」
 「嫌味か!!」
 思わず大声をあげた和泉守に眉をひそめた古今は、当てつけのように首にかけていたヘッドフォンで耳をふさいだ。
 「知りにけむ 聞きてもいとへ世の中は 波のさわぎに風ぞしくめる」
 「古今・・・。
 いずみは僕の裔(すえ)なのだから、少しは優しくしてやってくれ」
 「あら。
 わたくしはあなたへ対しても、優しくした覚えなどないのですけど」
 からかうように言って笑うさまが、いかにも親しげで、和泉守はますますむくれた。
 と、小夜がそっと、歌仙の袖を引く。
 「歌仙・・・。
 ここは僕たちがやりますから、和泉守さんとの約束に行ってください」
 「いいのかい?」
 古今へも目をやると、彼はポケットから巻き尺を取り出して微笑んだ。
 「わたくしが、勝手に名をつけてよいのなら」
 「きっと、歌仙より古今の方が得意です」
 うん、と頷いた小夜に、歌仙が拗ねたような顔をする。
 「どうせ僕がつける名は、血なまぐさいとでもいうんだろう」
 「顔を削ぎ落としたから『面の薙刀』だなんて・・・まったくもう」
 「僕がつけたわけじゃないよ!」
 呆れたように首を振る古今に、歌仙は反駁した。
 「歌仙さん!
 行きましょ、兼さんが拗ねちゃってます」
 国広に袖を引かれて見れば、和泉守が子供のように頬を膨らませている。
 「おやおや、愛らしいこと」
 「古今・・・。
 少し黙ってください」
 またからかう彼に、小夜が眉根を寄せる。
 「怒られてしまいました。
 歌仙、あなたのせいですからね」
 早く行け、とばかりに手を払われて、歌仙は肩をすくめる。
 「後は頼んだよ。
 いずみ、行こうか」
 促された和泉守は、先に書庫を出た歌仙を追う前に振り返り、古今へ思いっきり舌を出した。
 「・・・まぁ」
 呆れたように呟き、古今は小首をかしげる。
 「歌仙の裔にしては、ずいぶんと愛らしい子が生まれたものですねぇ」
 くすくすと笑い出した彼に肩をすくめ、小夜は桐の箱から茶器を取り出した。


 一旦、着替えに戻った歌仙と再び合流した和泉守は、道場にて改めて祖と対峙した。
 微笑みすら浮かべる歌仙へ激しく打ち込むが、するりと受け流され、数合ののち、懐へ入られる。
 喉元へ迫った刃を辛うじて避け、足払いを狙うが、予想通りとばかりに避けられ、どころか揚げ足を取られて無様に転んでしまった。
 「くそっ!
 もういっちょだ!!」
 首筋に添えられた刃を睨みつつ言えば、とても嬉しそうに微笑んで、歌仙は頷く。
 「歌仙さん!
 頑張るうちの子、可愛い!って、口に出してくれていいんですよ!」
 横から口をはさんできた国広へ苦笑し、歌仙は再び打ち込んできた和泉守の刃をかわした。
 「いずみは、力は強いのだけどねぇ」
 「そりゃ、あんたもだろ!!」
 鋭い突きを受け止められ、擦り上げて逸らされたが、刃を合わせたまま押し込もうにも、びくともしない。
 体格では勝っているはずなのに、逆に押し返されそうになって、和泉守は慌てて歩を引いた。
 その隙を踏み込まれてまた、顎下に刃を突き付けられる。
 「っちっくしょ・・・!」
 悔しげに歯噛みする和泉守を、歌仙は不思議そうに見つめた。
 「調子が悪いね。
 いつもならこの程度で負けることはないのに、どうかしたのかい?」
 鞘に刀を収めた歌仙を、和泉守は不満げに睨む。
 「どうもしねぇよ!!」
 「兼さん、古今さんにやきもち焼いてるんですよー」
 くすくすと笑った国広は、和泉守に睨まれて、くすぐったそうに首をすくめた。
 「やきもち?なぜ?」
 「歌仙さんが、古今さんと楽しそうにして、構ってくれないからですね!」
 「国広!
 余計な事言ってんじゃねぇ!!」
 「そんなに・・・楽しそうだったかな、僕は?」
 訝しげな歌仙に、国広は肩をすくめる。
 「歌仙さんがどうかじゃなくて、兼さんがどう見たか、なんですよ」
 「なるほど」
 言われて見れば、と、歌仙は頷いた。
 「古今は・・・刀の付喪神というより、歌の化身だ。
 若い君達には実感がないだろうが、歌はかつて、この国を動かしたとも言われる、大きな力なんだよ。
 だから本来、受け継ぐ家系にない者が、古今和歌集の秘伝を伝授された、ということは、君達が思っている以上に大変なことなんだ。
 その物語を一身に受けた彼のことは、歌にかかわる者ならば本能的に好ましく思うものだと思っていたけれど」
 くすりと笑って、歌仙は不貞腐れた和泉守の頭を撫でる。
 「我流の君には、外れた存在だったかな?」
 「どーっせ!!
 若い鶯だよ、俺は!!」
 「嫌味を言われて拗ねるくらいなら、勅撰和歌集くらい読んではどうだい?
 もう、ずいぶんと前から言っているのに、ちっとも進まないじゃないか」
 「う・・・それは・・・!」
 「何言ってるかわからないんですって!」
 すかさず口を挟む国広の頬を、和泉守はつまんで引き延ばした。
 「それほど難しいとは思わないけれど・・・」
 小首を傾げた歌仙へ、
 「それは、生まれた時代の差ですね!」
 などと余計なことを言ってしまった国広は、歌仙にもう片頬をつねられることになった。
 「・・・っもう!
 二人して乱暴者なんだから!」
 「余計なことばっか言う方が悪いってんだ!」
 両の頬を赤くしてむくれる国広に、和泉守が舌打ちする。
 と、
 「いずみ、舌打ちをやめなさい。
 君は僕の裔でありながら、物腰が雅ではないよ。
 国広も、堀川の一門で・・・あぁ、君はいいよ」
 「あ!
 まるでうちの兄弟が雅じゃないかのように!」
 抗議する国広に、歌仙はやれやれと首を振った。
 「君達は、見目は良いのに、性格が残念過ぎるからねぇ」
 「んまぁ!失礼な!
 僕らは花を摘まれたくらいで、相手が重傷になるまでボコりませんよ!」
 「ずいぶんと前のことを引き合いに出すなんて、全く雅じゃない」
 「あぁ言えばこう言うんだから!」
 と、両手で頬をさする堀川が、ぶるぶると震えだした端末をポケットから取り出す。
 「あ、歌仙さん、鶴丸さんからの着信見てください。
 きっとこれ、歌仙さん向けだ」
 「僕?」
 言われて端末を取り出した歌仙は、メッセージを読んでこくこくと頷いた。
 「閉塞感を脱するには、宴が一番だね。
 まぁ、それで大般若の気分が上がるとは思えないけれど」
 「大般若さん、初めて会う人と仲良くなったり、その人がまた会いに来てくれたり、ってことが好きですもんね。
 一緒に暮らしている刀達と交流ったって、いつもやってることだし、それほど上がらないかもですけど、新刃歓迎会ならもしかしたら!」
 「あぁ、そうだ。
 また新しい奴、来るんだろ?
 之定なら、誰が来るか知ってるんじゃないのか?」
 俺達はまだ知らされていない、と、国広と頷きあう和泉守に、歌仙はあっさりと頷いた。
 「お小夜の兄弟だよ。
 豊臣の刀で、太閤左文字、だったかな。
 江雪殿が言うには、明るくて可愛らしい短刀だそうだよ」
 「へー。
 明るい左文字って、なんか想像つかねぇな」
 「兼さん!言いすぎ!」
 国広につつかれて舌を出す和泉守に、歌仙は微笑む。
 「お小夜が嬉しそうで、僕も楽しみだよ。
 短刀なら、甘いものなど好きだろうか。
 何を作って進ぜようか」
 「お菓子!」
 歌仙の言葉に、国広が歓声をあげた。
 「楽しみです!
 前にやった時も、たくさんお菓子もらえて嬉しかったなぁ!」
 「俺も、短刀達との手合せは面白かったぜ!
 ちょろい奴もいるが、修行帰りの奴らはとんでもなく強ぇから、何人かでフルボッコ・・・」
 「されちゃったんだよね、兼さん。
 粟田口って、結構凶暴だよね」
 よしよし、と頭を撫でられて、和泉守は憮然とした。
 「それで?
 今回もまた、手合せやるのか?」
 国広の手を払って問う彼に、歌仙は首を傾げる。
 「まだ、具体的なことは決まってないのじゃないかな。
 鬼丸殿や日光はともかく、治金丸や、もしかしたら太閤も、戦闘を嫌がるかもしれない」
 「あーなー。
 琉球の連中はそうだよな」
 「嫌がることをやって、歓迎も何もないもんね」
 うん、と頷いた国広を、和泉守は眉根を寄せて見下ろした。
 「じゃあ、仮装して騒ぐだけか?
 それはそれで、楽しそうはあるけどよ、なんかピリッとしねぇな」
 「そうだね・・・。
 君の意見も含めて、鶴丸へ提案してくるよ。
 何か楽しそうな催しもないとねぇ」
 と、背を向けた歌仙の肩を、和泉守は慌てて掴む。
 「いや!まだ俺との手合せ終わってねぇから!」
 「おや?
 僕の勝ちで終わってなかったかな?」
 意地笑く笑ってやると、むきになって迫ってくる。
 「俺が!勝つまでやる!」
 「駄々っ子かな・・・」
 苦笑する国広のことは無視して、二振りの兼定は改めて向き合った。


 「つるさん・・・ただいま・・・・・・」
 後刻、部屋へ戻って来た光忠の、憔悴した様子に鶴丸は首を傾げた。
 「大阪城周回ご苦労さん。
 君がそんなに疲れるなんて、珍しいな」
 労ってやると、肩とまゆ尻をげっそりと落として膝をついた光忠は、ゆらりと首を振る。
 「戦は全然・・・。
 帰ったらさ・・・小竜ちゃんと謙ちゃんがこれを・・・」
 と、光忠は手にした箱と、筒状の紙を差し出した。
 「育毛剤・・・に、謙信からは『おじいちゃんがんばって』の絵か・・・。
 小竜の奴、はしゃぎすぎだ」
 「確かに血筋的には祖父だけど!おじいちゃんってえええええええええ!!!!」
 顔を覆って泣き喚く光忠の肩を、鶴丸は軽く叩いて慰める。
 「今日、貞坊と伽羅坊が、俺に敬老の日の贈り物をくれてな、それを小竜が見てたんだ」
 「え?!そうなんだ!
 鶴さん、今日お赤飯にする?」
 「回復早いな、君。
 それに、君だってお赤飯だぞ。小竜に作ってもらえ」
 「そうだった・・・っ!」
 またがっくりと項垂れる光忠に、思わず吹き出した。
 「それよりもだ、尊崇される長船派の祖」
 「・・・今は、その言葉が嫌味に聞こえる」
 しょんぼりとした声にまた笑って、鶴丸は光忠の頭を撫でてやった。
 「憂さ晴らしに、また、はろいんの宴をやろうじゃないか、って話しているんだ。
 新刃達の歓迎会もやってやりたいしな。
 協力してくれるだろう?」
 「え?
 それはもちろんだよ。
 ・・・そっかぁ。新刃くん達の歓迎会、ずっとやってなかったよね」
 少し気まずげに言う光忠に、鶴丸が頷く。
 「あと、大般若が鬱になりそうだって、小竜が」
 途端、光忠は忌々しげに眉根を寄せた。
 「・・・あの子は大人しいくらいでちょうどいいんだよ。
 まったく、誰かれなく口説くんだから!」
 「こないだは、歌仙の茶碗を口説いていたぞ。
 見境なしだな」
 笑ってやると、
 「え?茶杓じゃなくて?」
 と、目を見開く。
 「・・・茶杓まで許容範囲か。
 中々のつわものだな」
 「さすがにあの時は、歌仙くんの僕を見る目が冷たかったよ・・・」
 胃の辺りをさする光忠に苦笑して、鶴丸は膝を進めた。
 「それより、はろいんの相談をしよう!
 さっき、歌仙に言われたんだが・・・前回のような、手合せで菓子を奪うようなやり方はやめた方がいいのじゃないかと。
 琉球の連中は争いを嫌がるし、新刃も左文字の短刀だそうで、手合せを嫌がるかもしれないんだとさ」
 「なるほどね・・・。
 じゃあ、そもそものハロウィンで、子供たちがやっている遊びをやってあげればいいんじゃないかな。
 さすがに・・・子供同士で手合せはしないよね?」
 「あ、そうか」
 なぜ気づかなかったのかと、鶴丸が目を丸くした。
 「いやぁ・・・盲点だったな。
 俺は筋肉連中ほどじゃないと思っていたが、やっぱり刀剣なんだなぁ・・・」
 思考が戦闘にしか行ってなかったと、苦笑する鶴丸に光忠も頷く。
 「誰もそんなことを思いもしないって、さすがだよね。
 じゃあ、ちょっと調べてみて・・・ここでできそうなことをやろうか。
 鬼丸さんや日光さんは、それじゃあつまらないだろうから、別の案も出してもらおうね」
 「あいつらは普通の宴でいいさ。
 酒を出しておけば文句もないだろう」
 「それもそうか」
 神無月はちょうど、大太刀達がいない時期だ。
 うわばみが減っただけでも、いつもよりは平和な宴になるはずだった。
 「平和な宴にしようね。
 ね?」
 一瞬、不満げな顔をした鶴丸に念を押して、光忠は自室へと戻って行った。


 その後、戦場は大阪城から江戸城へ移り、この本丸にも、左文字の四振り目の兄弟が顕現した。
 「小夜っち!
 歌仙にお菓子もらったよ!
 一緒に食べよっ!」
 小夜と並んで縁側に座り、嬉しそうに菓子の包みを開ける太閤左文字の姿を回廊の向かいから見つけるや、古今は膝から崩れ落ちた。
 「・・・・・・っ雅!!」
 「古今・・・。
 邪魔だ、どいてくれ」
 突然道を塞がれた地蔵行平の、困惑した声に、古今は身も世もなく項垂れた。
 「あぁ・・・!
 地蔵もあれくらい、わたくしに懐いてくれたなら・・・!」
 「・・・太閤左文字と吾の性質とは異なる」
 心底困惑したていで、地蔵は小夜の口へ菓子を運ぶ太閤を見遣った。
 途端、
 「ちはやぶる 賀茂の社の姫子松 よろづ世ふるも 色はかはらじ・・・!!」
 呻くように言って顔を覆ってしまった古今を、呆れ顔で見下ろす。
 「そんなに尊いか・・・?」
 しかし、永久を願う、最上級の歌を持ち出してきた古今はこくこくと頷く。
 「なんと愛らしい・・・!
 いつも、あわれの深いお小夜が、あんなにも楽しそうに・・・!
 ―――― っこうしてはいられません!」
 「何をする気だ」
 挙動不審な兄弟に困惑する地蔵へ、古今は微笑んだ。
 「江雪と宗三を交え、あの仲睦まじいさまを歌にしたためるのですよ!
 あぁ、歌仙も呼ばなくては!
 きっと、素晴らしい雑歌集になりますよ。
 あなたもいかがですか、地蔵?」
 「いや、吾は・・・」
 「そうですか、あなたもあの愛らしい様子にほだされましたか!
 さぁ、共に参りましょう!」
 「は・・・?」
 夢中になると周りが見えなくなる兄弟に腕を取られた地蔵は、引きずられるようにして左文字兄弟の部屋へと連行された。


 「歌仙くんが、古今さんに捕まって厨から消えたんだよ」
 「おやまぁ」
 部屋を訪ねてきた光忠の言葉に、国広は目を丸くし、和泉守は目を吊り上げた。
 「またか、あの野郎!!
 之定はあいつの持ちもんじゃねぇぞ!!」
 いきり立って部屋を出ようとする和泉守の裾を、光忠はすかさず掴む。
 「だから、同じ刀派のよしみで、いずみくんが手伝ってよ」
 「え・・・?!」
 「いいですよ!
 僕もお手伝いします!」
 固まってしまった和泉守とは逆に、国広は嬉しそうに挙手した。
 「は?!なに言ってんだ、国広!
 俺は・・・之定みたいに、菓子とか作れねぇし・・・」
 「何言ってるの、兼さん!」
 声のしぼんでいく和泉守の背を、国広は励ますように叩く。
 「ここは、古今さんに差をつけるチャンスじゃない!
 ちゃんとお手伝いできることをアピールして、歌仙さんに感心してもらおうよ!」
 「あ・・・そうか・・・!」
 「そうだよー。
 歌仙くん、きっとびっくりして、褒めてくれるよー」
 すかさず畳みかける光忠に、和泉守はすっかり乗せられてしまった。
 「よし!
 こうなりゃ俺も男だ!
 ビシバシ鍛えてくれ!」
 「ありがとうー!
 そんなに難しいことはお願いしないからさ、安心してね!」
 「いや!!」
 光忠の甘い言葉に、彼はきっぱりと首を振る。
 「古今の鼻をあかすためにも、ここはきっちりやらせてくれ!」
 「おぉ!
 兼さんがやる気だ!」
 ならばと、部屋を駆け出た国広は、すぐさま戻って来て、白い割烹着を差し出した。
 「これ!
 山伏兄さんのだけど、兼さんならサイズ大丈夫でしょ!」
 既にお揃いの割烹着を着た国広は、張り切って三角巾も被る。
 「ほら!兼さんも!!」
 「お・・・おう!やってやらぁ!!」
 「いずみくん、カッコイイから割烹着も似合うねーv
 「そうでしょう?!
 兼さん、カッコイイ光忠さんが褒めてくれたよ!よかったね!!
 この調子で、歌仙さんにも褒められようね!」
 「あぁ!任せろぃ!!」
 趣旨が変わっている気がする、とは思ったものの、都合のいい手伝いを逃がすわけもなく、光忠はテンションの上がった二人を厨房へと連行した。


 そしてやってきた、祭り当日。
 「物の怪の格好もいいけど、やつし比べとか、楽しそうじゃない?」
 と言う太閤左文字の提案があり、今回の小夜は、歌仙が使わなくなった、かつての戦装束を借りての参加だった。
 「ふふふv
 似合うよ、小夜っち!
 儂は?
 小夜っちの装束、似合ってる?」
 目の前でくるくると回って見せた太閤に困惑する小夜は、彼に請われて同じようにくるくると回って見せた。
 と、
 「お小夜が僕の装束を・・・!」
 身長が違うため、だいぶ詰めはしたものの、自身の戦装束を纏った小夜に、歌仙は頬を染める。
 「可愛いよ、お小夜!
 実に愛らしい!」
 珍しく、手放しで褒める歌仙に、和泉守はムッとした。
 「之定!俺は?!」
 「え?
 あぁ、いずみも眉目秀麗だよ。
 精悍な狼の装束、よく似合っているね」
 さすが壬生の狼、と褒められて、和泉守が頭に付けた獣耳としっぽがぴくぴくとそよいだ。
 「あ、それって嬉しくなったら動くやつ?」
 「僕、初めて見たー!触っていい?!」
 猫又の格好をした清光と河童の安定が同時に手を伸ばし、ふかふかの耳を撫でると、それは不満げに伏せてしまった。
 「あ!兼さんったら、俺たちの何が不満だよ!」
 「しっぽ引っ張ってやる!」
 「やめろ!触んな!」
 じゃれ合う三人を、やはり狼姿の国広がにこにこと見守る。
 「けもみみがわちゃわちゃして、可愛いですねぇv
 狼と言えば!と、国広は歌仙へ向き直った。
 「兼さんが、すこーん?っていう、西洋のお菓子をたくさん作ったんですよ!
 そりゃあもう、粉だらけになって!」
 しっかりと和泉守の功績をアピールする国広に、歌仙は首を傾げる。
 「それはとっても偉かったけど、なぜ狼と関係があるんだい?」
 「そのお菓子がうまく焼けた時に、狼の口みたいに膨らむんですよ!」
 「へぇ。
 じゃあ、とても上手に焼けたってことか」
 偉い偉いと、頭を撫でてやると、また耳としっぽがそよいだ。
 「んまぁ!兼さんったら差別!」
 「このブラコン!!」
 「うるっせぇ!!
 お前ら、とっとと菓子もらいに行けよ!!」
 振り払おうとした手を、しかし、二人は軽々とよけて、にんまりと笑う。
 「もちろん、そのつもりだけどさ!」
 「その前に勝負があるよ、って光忠がさー」
 まだかな、と、清光が視線を巡らせると、前回と同じく、闇の一族を模したにもかかわらず華やかな光忠が、やや急ぎ足で回廊を渡って来るところだった。
 「おまたせー!
 さぁ、お菓子が欲しいみんな!ゲームを始めよう!」
 言うや彼は、彼に従って来た闇の一族の小豆と、捻じ曲がったヤギの角を持つ黒装束の鶴丸、虎の姿をした大倶利伽羅に指示して、広間に設置した長卓の上に、皮が付いたままのサツマイモの山を並べる。
 ふかしたばかりらしいそれは、湯気と共に甘い香りを発していた。
 「げーむ、って、なにするんですか?」
 興味津々と寄って来た秋田はじめ、短刀達を見渡して、鶴丸がにんまりと笑う。
 「皮剥きげーむ、というものだ!
 決まった時間内で、一番多くふかし芋の皮を剥いた刀が勝者だぞ!」
 面白そう、と寄って来た刀達の中で、水心子が頬を染めた。
 「なるほど・・・!
 果実なら、小さな刃物を使い慣れた短刀にかなわないが、これなら脇差や打刀でもいい勝負ができるというわけか」
 「その通り!」
 光忠が大きく頷くと、傍らにいた清麿がはしゃいだ声をあげた。
 「すごいよ、水心子ー!
 さすが、新々刀の祖!
 よくわかったね!」
 「んまっ!
 そのくらい、兼さんだってわかったよね?!
 うちの子だってちゃんとできるんだから!!」
 なぜか張り合う国広に、和泉守は眉根を寄せる。
 「いや、別にわかんなくてもよ・・・」
 「これなら兼さんもできるよ!
 僕も、兼さんが指を切っちゃわないか、はらはらせずに済むし!」
 「なんで俺が参加すんだよ。
 俺は菓子なんていらねぇよ」
 「じゃあ!
 僕が勝つからね!見てて!」
 狼の足を模した手袋を外し、腕まくりをした国広に、清麿が面白そうに寄って来た。
 「じゃあ、僕が勝ったら水心子の方がすごい、ってことで―!」
 「なんっ?!
 なんで私?!」
 どういう状況だと、動揺する彼が全身に張り付けた目が、カタカタと鳴る。
 と、一つ目の面を額へ押し上げて、清麿は不敵に笑った。
 「負けないからね!
 あ、でも、水心子になら負けてもいいよーv
 やりたいんでしょ、と笑う彼に、水心子は真っ赤な顔をして頷く。
 「光忠ーv
 水心子も参加ね!」
 「オーケィ!
 じゃあ、参加する子はお芋の前に行ってね!
 1ゲーム5分で、どれだけ皮を剥けるかの競争だよ。
 みんな一緒には無理だから、交代でやろうね」
 「あついから、やけどしないようにきをつけるんだぞ」
 はしゃぐ短刀達を優しく見下ろし、小豆が冷たいおしぼりを渡していく。
 「あとからたくさんくるから、じゅんばんだ」
 最初の勝負に出遅れて、頬を膨らませる今剣の頭を撫でてやると、小豆を見上げた彼は嬉しそうに頷いた。
 「よーし!
 じゃあ、第一グループ、はじめるよー!
 用意!
 スタート!」
 光忠の掛け声とともに、湯気を上げる芋へと一斉に手が伸びる。
 「あちちっ!」
 思いっきり掴んでしまって芋の熱さに驚き、手を放した後藤の隙をついて、乱が取り上げる。
 「あっ!おっきいの取っちゃった!
 これ、二個分になる?!」
 「なるわけねーだろ。作戦負けだ!」
 意地悪く笑う厚は、小さめの芋を既に2個剥いている。
 「ちょっと光忠ー!
 これ、個数だと取り負けちゃうよ!
 重さで決めよっ!」
 第二グループで順番待ちの清光の提案に、光忠は笑って手を叩いた。
 「はいはい。
 じゃあ、途中でルール変わっちゃうけど、それで行こう!」
 「やったー!」
 「ちぇーっ!
 じゃあ俺、こっち取ったー!」
 歓声を上げる乱の横から、厚が伸ばした手を包丁が遮る。
 「厚兄!!
 それ、僕が狙ってるの!!」
 「早いもん勝ちだろ!」
 「ケンカするなよ、お前らはー」
 苦笑しつつ、ちゃっかりと5個目の芋を剥く薬研が、空になったざるを覗く。
 「追加してくれ」
 「はいはいー!」
 新たなふかし芋のざるが置かれ、また四方から手が伸びる。
 「水心子頑張って!
 取り負けてるよ!」
 「わ・・・わかった!」
 「あはははは!!
 お手伝い上手な脇差に勝てるとでもっ?!」
 「だぁら・・・。
 なんで張り合ってんだよ、国広」
 「それは、自分の相棒が一番、って勝負じゃないかなぁ?」
 「うわっ!にっかり!!」
 いきなり背後にすり寄ってきた幽霊に、驚いた和泉守が飛びのいた。
 「僕だって、石切丸様がいたら、応援しちゃうだろうしねぇ」
 「おや・・・。
 あなた、いつから石切丸殿の相棒に?」
 くすくすと笑う数珠丸には、にんまりと笑う。
 「数珠丸さんが来る、ずーっと前からさ」
 「つか、なんで数珠丸まで幽霊なんだよ・・・」
 長い髪をおどろに垂らし、白い着物を左前に着た数珠丸へ眉を顰めると、彼は幽霊には似つかわしくない、楽しげな笑みを浮かべた。
 「せっかく用意してもらいましたし、にっかりの背後に立つと、彼に憑いた霊のようでしょう?」
 こんな風に、と、数珠丸はにっかりの肩から顔を出す。
 「いや、祓えよ。坊主だろ」
 「何も悪さはしておりませんのでね」
 と、ゲーム終了の合図らしき笛が鳴って、和泉守は光忠へ目をやった。
 「第一グループ終了ー!
 一番目方が多いのは、薬研くんでした!」
 「はっ!
 いつも生薬扱ってんだ。
 なめてもらっちゃ困るぜ」
 暫定一位のメダルを得意げに首にかけ、薬研は悔しげな刀達へ不敵な笑みを向けた。
 「はーい!
 続いて第二グループ始めるよー!」
 新たに持ち込まれたふかし芋の前に、参加者達が歓声を上げて集まってくる。
 「手先の器用さには自信があるからねー!
 短刀相手にだって、負けないよ♪」
 「一番目方が多いのを取って、奪われなきゃいいんだよね?」
 自信満々に笑う清光と、敵の手を阻む気満々の安定を、短刀達がきつく睨んだ。
 「ずお兄!」
 「骨喰兄さん!!」
 訴える目の弟達に腕を引かれた二人は頷いて、清光と安定を挟んで座る。
 「・・・なによ」
 警戒する清光に、チェシャ猫に扮した鯰尾が、にんまりと笑った。
 「一々言わなきゃわかんないかなぁ?」
 「弟達の邪魔はさせない、と言うことだ」
 煽る鯰尾と、牽制する骨喰に二人はこくりと喉を鳴らす。
 次の瞬間、
 「はじめ!」
 光忠が開始の手を鳴らすや、清光と安定の前からふかし芋を乗せたざるが消えた。
 「は?!なにすんの?!」
 「ちょっと!それずるいよ!!」
 長卓の上を滑らせて、二人の前から移動させたざるの中身を、短刀達が一瞬で奪い去る。
 「早い者勝ちでしょ♪」
 「油断大敵と言うわけだ」
 二人を挟んでにんまりと笑いあう兄弟を睨み、清光が手を振った。
 「光忠!追加!早く!」
 「え?あぁ、はいはい」
 ちょうど、追加の芋を運んできた桑名と松井が、光忠に促されて清光と安定の前に芋の山を置く。
 が、またもや脇差兄弟に邪魔をされて、激昂した二人はそれぞれに胸倉を掴んだ。
 「なにすんだ、ゴラァッ!!」
 「ざっけんなよ!!」
 「ふざけてない」
 慌て者の白兎に扮している割に、冷淡に言った骨喰は、自身の胸倉を掴む安定の手首を取り、捻り上げる。
 「俺達は、弟達のサポートをしているだけーv
 同じく、鯰尾も清光の手を取り、背後へと捻り上げた。
 「このっ・・・!」
 強烈な体当たりで腕を解放し、改めて殴りかかろうとした二人は、突然襟首を掴まれて引き離された。
 「遊びだ。熱くなるな」
 「俺は、放っておいてもいいと思うんだがなー」
 軽々と摘まみ上げた大天狗姿の大典太とソハヤを、二人は悔しげに見上げる。
 「はーなーしーてー!!」
 「一発ぶん殴らせてー!!
 じたじたと暴れるが、霊剣二振りは改めて羽交い絞めにし、彼らの動きを封じた。
 「そもそも、お前達が先に短刀達の邪魔をしようとしていただろうに」
 「鯰尾と骨喰は、それを防いだんだろ。
 どっちが悪いか、ちょっと考えて見な」
 正論に反論できず、口を尖らせた二人の耳に、終了の笛が響く。
 「うがあああ!!もう一回!リベンジ!!」
 喚く二人に、光忠は笑って首を振る。
 「後がつかえてるからね。
 やるなら最終グループだよ」
 「そうだそうだ!横入りすんな!」
 「父さま!こっちですよー!」
 海賊姿の太鼓鐘と物吉に呼ばれて、豪奢なドレス姿の日向が歩み寄って来た。
 「ちょっと・・・なにそのカッコ。
 俺より可愛いじゃん」
 華やかな柄の着物にレースの衿を付けて、絵画の猫又よりも派手にしたつもりだったが、日向のドレスはふんだんにレースとフリルを施し、西洋の王族のようだった。
 「王族のよう、じゃなくて、王様だよ。
 英国では、海賊は女王の配下なんだってさ」
 白いレースの扇を広げ、微笑む日向にまた、清光は口を尖らせた。
 「去年はゾンビだったくせに・・・。
 そのカッコで、お芋剥けんのー?」
 悔しくて意地悪を言ってやるが、日向は自信満々に笑みを深めた。
 「もちろん、うまくやって見せるさ」
 ぱちん、と扇を鳴らし、手袋を外して長卓の前に待機する。
 「さぁ、いつでも始めなよ」
 挑発するように光忠を見上げれば、彼はにこりと笑って頷いた。
 「皆準備はいい?
 じゃあ、始めっ!」
 彼が手を打った瞬間、日向と太鼓鐘、物吉の手が一切の無駄なく皮を剥いていく。
 「え?!はやっ!!」
 思わず身を乗り出した清光はじめ観衆の視線を集め、日向は機嫌よく笑声を上げる。
 「普段、料理をやっているかどうかだよ!
 梅干しづくりだって、簡単じゃないんだからね!」
 それを言われると、お世辞にも料理が得意と言えない刀達は何も言えない。
 「熱い具材だってなんのそのだぜ!
 天麩羅も揚げたことのない連中が、この貞ちゃんにかなうと思うなよ!」
 ふかしたばかりの芋はまだ、かなりの熱さだが、平然と剥いていく彼らの横で、触れもしない刀達もいる。
 このまま圧倒的勝利かと、皆が思った時。
 「料理は、おれだって得意なんだよねぇー」
 「ちい兄にいびられ・・・じゃない、鍛えられたオレだって、負けないよー」
 のんきな口調ながら、北谷菜切と治金丸が、手早く剥いていく。
 「んなっ・・・!
 負けねーぞ!!」
 「太鼓鐘!父さま!サポートします!」
 いきり立つ太鼓鐘の隣で、物吉が大きな芋を選別して二人へ渡していく。
 「あぁっ!三人は卑怯だぞぉ!」
 「ちい兄、俺が手伝うさ!」
 物吉に奪われかけた、大きな芋を抱え込んで、治金丸が北谷菜切へ渡す。
 「へぇ・・・。
 いい勝負してるねぇ」
 ふかし芋を持って来たついでに、見物していたミイラ姿の桑名がつぶやくと、光忠が嬉しそうに頷いた。
 「干し芋作るのに、手間が省けたよーv
 熱いお芋の皮を剥くの、大変なんだよねー!」
 「光忠・・・声が大きい」
 聞かれてはまずい、と、大倶利伽羅がたしなめる。
 「手伝いを頼めば、引き受けてくれたとは思うがな」
 たくらみ成功!と、笑う鶴丸に、光忠はくすくすと笑いだした。
 「せっかくなら、みんなで楽しくやった方がいいよね。
 何しろこの後、干すのだって大変なんだからさ」
 しかし、みんな喜んでくれるはずだと、嬉しげな光忠に桑名が頷いた。
 「今年も、たくさん芋が採れたからね。
 伊達の刀達が、いい土に育ててくれたおかげだよ」
 嬉しげに微笑んだ桑名は、次々と運ばれてくるふかし芋を満足げに見遣る。
 「そのまま食べてもおいしいけど、干したら保存できるし、甘みが増すよね」
 「桑名くんが来てくれてから、収穫物の質が上がって嬉しいよ!」
 「あぁ!
 俺達もだいぶ頑張ったが、格段に上がったよな!」
 「夏野菜・・・うまかった」
 光忠だけでなく、鶴丸や大倶利伽羅にまで褒められて、桑名の頬がかすかに染まった。
 「これからも・・・改良に努めるよ」
 「畑は・・・うまく行っているようで何よりだよ」
 ぽつりと、不満げな声が聞こえて、桑名は傍らを見遣る。
 「あれ、まだいたの、松井。
 追加のお芋、持って来てよ」
 「・・・桑名がここでボケッと眺めている間に、三往復はしたよ」
 そう言って松井江は、血まみれの顔を、わずかに歪ませた。
 「なにかうまく行ってないのか?」
 鶴丸が問うと、松井は眉根を寄せて頷く。
 「歌仙様達に出し抜かれたんだ・・・。
 古今伝授様が顕現した時、高価な茶器を見せている所を見つけてしまってね。
 これはどれほどの散財を、って調べようとしたら・・・!」
 「ああ。
 それであいつ、主に茶器を献上していたのか。
 主が、茶器には興味がないって困っていた」
 「主の持ち物となったら、この本丸の共有財産だからな!」
 呆れ顔の大倶利伽羅に、鶴丸が笑い出す。
 「どうだ、松井。
 うちの第一刀は、一筋縄じゃいかんだろう?」
 主の信頼篤い刀だ、と言ってやると、松井は困り顔で頷いた。
 「まぁ・・・主も、背負っていた借金は完済したというし、細川の代々のように散財する人でもないからね。
 ここは大目に見ようと思うよ」
 「そうしろそうしろ!
 せっかくの祭の席だ、お前も楽しめ!」
 そう言えば、と、桑名が部屋を見回した。
 「蜻蛉切様は?
 今朝からお見掛けしていないのだけど」
 問うと、光忠が部屋の外を指した。
 「蜻蛉切さんにはこの後の、ゲームの仕込みをやってもらっているんだ。
 ここにいない刀達は、宴の準備係とゲーム係に分かれてるんだよ」
 「そうなのか・・・。
 じゃあ、僕も手伝いに行こうかな」
 「いや、君はふかし芋係だろ」
 去ろうとした桑名の包帯を、松井がすかさず掴む。
 「そろそろ厨に戻ってよ。
 豊前が本格的に拗ねだしたから」
 「わかったよ・・・」
 渋々頷き、桑名は伊達の刀達へ手を振った。
 「お芋、あるだけふかしちゃうね」
 「あぁ、よろしく頼むぜ!」
 親指を立てて笑う鶴丸に頷き、桑名は松井と共に、厨へと戻って行った。


 その後、芋剥き大会は敗者復活戦、頂上決定戦も含めて盛り上がり、頂点に君臨した太鼓鐘は、得意げに一等のメダルを掲げた。
 「正宗と貞宗の勝利だぜ!!」
 盛大な拍手を受け、得意満面の太鼓鐘を、日向が嬉しげに見守る。
 「あぁ・・・!
 やっぱりうちの子、可愛い・・・!」
 「父上様!
 僕も?!僕もかな?!」
 宴の準備を終えて、会場にやって来た亀甲へも、日向は微笑む。
 「もちろんだよ。
 太鼓鐘も物吉も可愛い。亀甲も可愛い」
 「父上様っ・・・!」
 嬉しげに頬を染めて、亀甲は日向の前に膝を折った。
 「この後の宝探し大会は、僕がサポートするよ!」
 「そうくさ、早く次行くばい」
 機動力はともかく、ここでは全く勝ちが見えなかった博多が、拗ねたように言うと、鯰尾と骨喰が両側から頭を撫でてくれた。
 「宝探しは、さすがに熱くないだろうからね!」
 「がんばろう」
 「次は邪魔しないでよね!」
 清光の苦情には、しかし、二人して鼻を鳴らす。
 「どの口が」
 「この口だよっ!!」
 「なにを騒いでいるんだ、清光・・・」
 何かあったのか、と、白いシーツを被っただけの山姥切に問われて、国広は肩をすくめた。
 「ちょーっと、さっきのげーむで、熱くなっっちゃったんだよ」
 「そうか・・・」
 しかし、と、山姥切は改めて参加者達へ向き直った。
 「次の探し物ゲームは、早い者勝ちと言うわけじゃないからな。
 まぁ・・・あちこちに隠してある蝙蝠の根付を、3つ集めた者から菓子をもらえる、と言うゲームだから、後になるほどわかりにくくはなると思うが」
 「やっぱ早い者勝ちじゃん!」
 「負けないからっ!!」
 いきり立つ清光と安定に吐息して、山姥切は頭からかぶったシーツの下から手を出した。
 「探し物に夢中になって、物を壊すなよ。
 はじめ」
 ぽふ、と、手を叩くが、誰も動かない。
 「・・・始まったぞ」
 「は?!」
 「もうちょっと元気よく言ってくんないっ?!」
 二人が慌てて動き出した時には、もう短刀達の姿はない。
 「出遅れた!!」
 「でも!先に見つければいいんだよ!!」
 悔しげな清光の手を引いて、安定が走り出す。
 「一番のり、しちゃうよー!!」


 「おや、始まったようや」
 廊下をどたどたと走っていく大勢の足音に、宴会場の明石が微笑んだ。
 「へへー!
 俺達が隠した根付、見つけられるかな!」
 「ちょーっと、わっかんねぇとこに隠してやったからな!」
 にやにやと笑う御手杵と日本号に、明石は肩をすくめた。
 「そんないけずせんでも。
 張り切るとこ間違えてはりますやん」
 「なんだよ、明石。
 じゃああんたは、わかりやすいとこに置いたのか?」
 口をとがらせる御手杵に、しかし、明石は意地悪く笑う。
 「甘く見てもらっては困りますわ。
 ちょっとやそっとじゃ見つからんとこに隠してありますわ」
 「おい、どの口が言った、今?!」
 呆れる日本号の足元を、部屋に飛び込んできた短刀達がすり抜けていった。
 「あ、こら!
 ここには置いていないぞ!」
 駆け寄ってきた短刀達を避けて、運んできた料理を落としそうになった蜂須賀が部屋の外を指す。
 「ここもだが、貴重品がしまってある部屋や、厨房には隠していないから、他を当たりなさい」
 「えー!だってぇー!」
 「もう、一通り巡っちゃったもんー!」
 見つからないんだ、と、頬を膨らませる様に、また御手杵と日本号、明石までもがくすくすと意地悪く笑う。
 「ゲームがすぐに終わっちゃあ、つまんねぇもんな!」
 「そう簡単には見つかんねーぞー?」
 楽しげな御手杵と日本号に、短刀達はそれもそうかと頷いて、部屋を出ていく。
 「童たちの楽しそうで何よりだ。
 どれ、この父も、探し物の手伝いへ参ろうか」
 傍にいた獅子王の腕を取った小烏丸は、軽やかな足取りで部屋を出た。
 「なんか目印でもあるのか?」
 獅子王が問うと、彼はくすくすと笑う。
 「戻り損ねているあと一槍が、うろついている辺りにあろうよ。
 大きな目印であるよな」
 「あぁ、隠し負けたやつもいる、ってことか」
 御手杵や日本号の様子を見るに、『いい隠し場所』というのも限られているのだろう。
 二振りに比べてやや要領の悪い蜻蛉切が、困り果てている様子が目に浮かぶようだった。
 うっかり笑ってしまった獅子王は、肩の鵺が小さく鳴く声に、足を止める。
 「どした・・・あれ?小竜、どこから出てきた?」
 いつの間にか背後にいた小竜に声をかけると、ぎくりとした彼は、ややひきつった笑顔を向けた。
 「どこって・・・後ろにいたよ?気づかなかった?」
 獅子王達が渡って来たのは、坪を囲む回廊で、障子の閉まった部屋が並ぶ。
 やや挙動不審な彼に、獅子王はにんまりと笑った。
 「この部屋のどっかに、根付が隠されてんだな!」
 言ってやると、小竜はそっと吐息してから、人差し指を唇へ当てた。
 「ナイショv
 「心配せずとも、我らは童達の手伝いに来ただけだ。
 困り果てるまでは、あえて言うまいよ」
 深い色の瞳で、じっと見つめられた小竜は、居心地悪げに身じろぐ。
 「えっと・・・。
 じゃあ、俺まだ隠さなきゃいけないから!」
 そそくさと背を向けた彼に、獅子王が声をかける。
 「もう始まってるから、急げよなー!」
 「あ・・・あぁ!そうだね!」
 足早に去って行った小竜を見送り、獅子王はくすくすと笑い出した。
 「あいつがあんなに慌ててんの、初めて見たぜ!
 可愛いとこあるのな!」
 「あぁ・・・そうよな」
 意味ありげな笑みを浮かべて、小烏丸も頷く。
 「ここはこことして・・・さて、目印はいずこへか」


 その頃、本丸中を駆け回って探し物をしている刀達は、中々見つからない『宝物』に少し、苛立っていた。
 「・・・ぜんっぜん集まんない・・・!
 見つけたと思ったら、短刀に横からかっさらわれちゃうし・・・!」
 悔しげに呟く浦島の肩を、傘地蔵に扮した地蔵が、励ますように叩いた。
 「中々に難しいものだな。
 吾は、本当に歓迎されているのだろうか・・・」
 あまり騒がしい場は、と遠慮しようとしたが、歓迎会だからと説得されて参加したというのに、彼はまだ、一つも根付を手に入れていなかった。
 「歓迎はしてるよ、もちろん!
 だけど・・・御手杵って、ゲーム大好きだからさ、こういうことに手を抜かないって言うかー・・・」
 こんなことならもっと動きやすい格好にすればよかったと、ぼやきながら浦島は、亀の甲羅を背負いなおした。
 「もっとわかりやすいところに隠してくれてたらなー」
 ぶつぶつと文句を言いつつ歩を進めていると、まだ根付を揃えていないらしい短刀達が、ばたばたと襖を開けて出てきた。
 「あと一個なのに!!」
 悲鳴じみた声を上げる毛利に、信濃が頷く。
 「秋田、かくれんぼ得意でしょ?
 どこに隠しそうって、わかんない?」
 「隠れるのと、隠すのは違うでしょ」
 ふっくらとした頬を更に膨らませて、秋田が口を尖らせた。
 「こういうのは、ゲーム仲間の兄さん達の方が詳しいんじゃないですか?」
 「御手杵さんに、こっそり聞くとか!」
 平野と前田に手を引かれた鯰尾と骨喰は、顔を見合わせてから首を振る。
 「それが、わっかんないんだよねぇ」
 「聞くのも悔しいしな」
 ゲーマーとしては自力でなんとかしたい、と言う二人に、謙信が項垂れる。
 「げーむ・・・やったことないから、わからないのだ・・・」
 「おにごっこだったら、ぼくのかちなのにぃ・・・!」
 疲れた、と、座り込んでしまった今剣の上に、治金丸がかがみこんだ。
 「一番走り回ってたからなぁ。
 オレがおぶってやろうか?」
 「いえ、それは・・・」
 さすがに、歓迎される側に面倒をかけるわけには行かない、と、今剣はのろのろと立ち上がる。
 その時、
 「あー・・・静、今日の掃除当番はお前だったはず。
 鴨居に埃が残っているぞ」
 いやに平坦な声がして見上げれば、払子(ほっす)を手にした菩薩姿の巴が、わざとらしい仕草で鴨居の上を掃いた。
 途端、ことりと音がして、黒い蝙蝠の根付が落ちてくる。
 「あっ!!」
 すかさず拾った今剣が、頬を染めて見上げると、恥ずかしげに顔を背けてしまった巴の代わりに、不動明王の静が進み出た。
 「いや、すまんな。
 俺が掃除をした時には、こんなものはなかったはずだが」
 と、鴨居を撫でた静は、手を開いて根付を差し出す。
 「これを誰にやろうか。
 じゃんけん、なるものの勝者かな」
 にやりと笑う彼の前で、皆がこぶしを握る。
 「最初はぐー!じゃんけん!」
 「ほいっ!!!!」
 幾度かの勝負を勝ち抜いた信濃が、大歓声を上げた。
 「俺、これで三つ!!
 大将の所行ってくる!!」
 天守最上階で、刀達の登城を待っている主の元へ駆けていく信濃を、皆が羨ましげに見送った。
 「けど!
 これでヒントは出ましたよ!」
 「槍の皆さんの手が届く場所です!!」
 頬を染めてこぶしを握った平野と前田に、しかし、秋田が眉根を寄せる。
 「でも、届かないですよ・・・」
 見えもしないし、と言う彼の手に、巴が払子を握らせる。
 「見える必要はあるのか?」
 「!!!!」
 攻略方法に気づいた短刀達が、一斉に散った。
 「ありゃ。
 これは、本丸中の棒やはたきが取られちゃったな」
 「大掃除だな」
 くすくすと笑いあう鯰尾と骨喰を見遣った日向は、お供の亀甲を見上げた。
 「四つん這いになって、踏み台になって」
 「喜んでっ!!」
 その場に両手両膝をついた亀甲の背に、日向は遠慮なしに乗る。
 「踏み台があれば、棒なんて必要ないよ。
 ・・・ほら、あそこにあった」
 回廊中を見渡した日向が指をさすと、物吉と太鼓鐘が駆けて行った。
 「巴さん!」
 「静ー!」
 取って、と、せがむ二人に頷き、歩み寄った薙刀達はそれぞれに渡してやる。
 「うん、この調子で行こう。
 亀甲、ついておいで」
 「もちろんさっ!」
 背から降りた日向の後を、亀甲が跳ねるような足取りでついて行く。
 その様に、静は呆れ顔で首を振った。
 「この本丸には、変った物が多いな」
 「それも主のご意向なのだろうさ」
 微かに笑いあった二人は、のんびりとした歩調でまた、困っている刀の救援へと向かった。


 「あ!
 いたいた、蜻蛉切ー!」
 獅子王が声をかけると、彼はびくりとして、出てきた部屋へ戻ろうとした。
 「どうした、子よ。
 お前の方が困っているのか?」
 笑みを含んだ小烏丸の声に引き留められ、蜻蛉切は気まずげに歩を戻す。
 「御手杵が・・・。
 そう簡単に見つからない場所へ隠せと言うものだから、考えてしまって・・・」
 どこに隠してもすぐに見つかりそうだと思ってしまい、まだ本丸中をうろついている、と、ため息をこぼす彼に、獅子王が笑い出した。
 「そういうことなら、すぐに助けてやれるぜ」
 言うや、彼はポケットから取り出した端末で、メッセージを送る。
 それから間もなく。
 どたどたと賑やかに足音が迫り、あっという間に囲まれた蜻蛉切は、短刀だけでなく脇差や打刀の手にもみくちゃにされ、持っていた根付を全て奪われてしまった。
 「盗賊か?!」
 ただの賊相手ならまだしも、狭い場所での戦闘に長けた刀達に囲まれては、身体の大きな蜻蛉切はなすすべもない。
 蹂躙され、身ぐるみ剥がされるしかなかった。
 「おやおや、子らの元気なことよ」
 「こないだテレビで見た、ピラニアみたいだったなー」
 「言うことはそれだけか!!」
 のんきに笑う二人に抗議するが、応えるわけもない。
 特に、メッセージでそのピラニア達を呼び寄せた獅子王は、床に這う蜻蛉切に平然と笑いかけた。
 「次は、隠し負けるんじゃねーぞ」
 わしゃわしゃと頭を撫でられて、蜻蛉切は悔しげに額で床を打つ。
 「おのれ・・!」
 「精進だな」
 小烏丸にまで撫でられて、蜻蛉切は深くため息をついた。


 薙刀達のおかげで重大なヒントを得たものの、一筋縄ではいかないのが、この本丸の槍達だった。
 「またハズレ!!」
 「こっちはせんべいだったー!!!!」
 「飴みっけー!!」
 はたきやほうき、棒で叩いて鴨居から落とした物が全て、目的の根付であるわけではなく、時折楽しいおまけまであって、刀達は物が落ちてくる度に歓声をあげる。
 「まだ根付は2つしか見つけてないけど・・・おもしろいなぁ、これ!」
 棒付きの飴を手に入れた北谷菜切は、きらきらと透ける飴を日にかざした。
 「うん。
 本丸って、戦うだけの所だと思ってたけど、こんな楽しいことがあるんだな」
 頷いた治金丸は、それに、と、回廊の向こうでサーターアンダギーを配るキジムナーを見遣る。
 「だい兄なんて、あんな格好でお菓子配ってるし」
 「おれ、さっき会った鬼にあんこ餅もらったー」
 透明な袋に入った餅の、柔らかい感触を楽しむ兄に、治金丸は頷いた。
 「源氏の刀達だな。
 戦の時はものすごく強くて怖かったけど、ここじゃあ優しいさ」
 「ふむ。
 では俺も、負けていられないな」
 突然声を掛けられて、固まってしまった二人に琵琶・・・にしか見えない着ぐるみを着た日光一文字が、菓子の入った籠を差し出す。
 「地元の銘菓だ。賞味してくれ」
 「あ・・・ありがとうー・・・」
 「いただきます・・・」
 籠から饅頭らしきものを取った二人は、またまじまじと日光を見つめた。
 「あの・・・それ、なんの格好だ?」
 「琵琶・・・に見えるけど・・・」
 「琵琶だ」
 あっさりと認めた日光は、二人の表情が『そうじゃない』と訴えていることを察して、まるい腹の部分を指す。
 「俺と一緒に黒田へやって来た、琵琶の付喪神、というところだ」
 「付喪神が付喪神の格好するのか・・・」
 「頭がこんがらがりそうだな」
 「ふむ・・・。
 初めての参加で、どういうものがふさわしいか、わからなくてな。
 次回があるなら、お頭とも図ってふさわしいものを考えよう」
 「まぁ・・・おれたちも・・・」
 「だい兄とお揃いのキジムナーだしなー」
 考えていないと言えば考えていない、と、苦笑を見合わせる。
 「けどおれ、こんな楽しいの、初めてさ!」
 「オレも。
 兄達ともまた会えたし、来てよかった。
 日光も?」
 「あぁ、そうだな。
 必要とされたから顕現した、と言うことだな」
 わずか、微笑んだ彼は、二人の背後を見遣った。
 「ここの物は取り尽くされたようだぞ。
 それとも皆、根付を集め終わって天守へ行ったのか」
 「あ!まずいさ!」
 「のんびりしちゃったさー・・・」
 一瞬慌てたものの、『ま、いっか』と呟いた二人は、日光へ手を振る。
 「菓子、ありがとうー」
 「これからもよろしく」
 「あぁ」
 のんびりと去って行く二人の背を見遣って、日光は首を傾げた。
 「黒田は・・・急ぎすぎるのかもしれんな」
 あれも悪くない、と頷いた彼は、まるい腹をゆすりながら、まだ菓子を渡していない刀達を探しに戻った。


 「今度は一番やったばいー!」
 歓声を上げて戻って来た博多を、長谷部と日本号が盛大な拍手で迎えた。
 「よくやったぞ、博多!
 それでこそ黒田の刀だ!」
 「よーし!祝杯あげっぞ、祝杯!!」
 「勝鬨なら、法螺貝を吹いてやろうか?」
 わいわいと盛り上がる黒田の刀達の姿に、化け猫に扮した南泉は、拗ねたように口を尖らせた。
 「なんにゃ、兄貴・・・。
 黒田の連中とばっか仲良しにゃ!」
 「はっ!
 猫は気まぐれだと言うが、この猫は構ってほしがるんだな」
 長義の嫌味な言い様に、南泉はムッとする。
 「べっ・・・別に、構ってほしいわけじゃない・・・にゃ!
 ただ、一文字一家としての・・・えっとー・・・」
 「あれはあれで、ちゃんと役割を果たしているとも、我が小鳥」
 「にゃっ!お頭!!」
 「やぁ、一文字の」
 山鳥毛へ対しても、嫌味な口調を変えない長義に、南泉は目を吊り上げた。
 「無礼だにゃ!」
 「うるさいよ、猫殺し君。発情期かい?
 春はまだ遠いけどね」
 「はは・・・。
 長船は手厳しいな」
 言われて、長義は初めて動揺したように目を泳がせた。
 「・・・失礼した。
 俺の言動が長船の総意だと思われたら、祖や一族が迷惑を被る」
 堅苦しく頭を下げた彼にまた笑って、山鳥毛は南泉の肩を抱き、引き寄せた。
 「この本丸では、我が一族はまだ、新参だ。
 長船の一族には、今後ともよろしくご指導願いたい」
 「・・・祖は、言われずともそのつもりだろう」
 戦場では圧倒的強さを見せるものの、本丸の中での光忠は、優しく面倒見のいい刀だ。
 長義が諍いを起こしたとなれば、彼を困らせてしまうかもしれない。
 そう考えての謝罪だが、調子に乗って舌を出す猫は、こっそりと腕をつねってやった。
 「ところで」
 悲鳴を上げる猫を無視して、長義は小首を傾げる。
 「あなたは、仮装をしないのか?」
 「はは・・・。
 若い者と違って、俺ははしゃぐのは苦手でね。
 ただの軽装で失礼するよ」
 それに、と、宴の準備にてきぱきと動く長船の一族を見遣った。
 「華やかな役どころは、既にいるじゃないか。
 君も含めてね」
 吸血鬼と言う、闇の一族を模していながら、光輝くばかりに華やかな彼らと同じ装束を纏えることに、長義の胸は誇らしさでいっぱいだった。
 ぜひとも偽物に見せつけたいところだが、彼はただの布を被っただけで満足しているという、なんとも張り合いのない勝負だった。
 「あなたも・・・歓迎される一振りだ。
 存分に楽しむといい」
 「あぁ、ありがとう」
 すんすんと鼻を鳴らす南泉の、目に浮かんだ涙をぬぐってやりながら、山鳥毛が微笑む。
 その様は少しも長船に劣るものではなく、一礼して背を向けた長義は、光忠達の手伝いへ加わった。


 「さぁ・・・遊びの時間は終わりだ」
 宴の支度が整ったと見るや、日本号が低く宣言した。
 「ここからは俺達の時間だぞ」
 なぜか、自信満々の顔で、執事姿の長谷部が指を鳴らす。
 と、
 「疫病のせいで売れんかった宿の酒ば、こっち持ってきたばい!
 主人が買い上げてくれたけん、好きに飲みやい!」
 博多が台車に乗せて運んできた数々の銘酒に歓声が沸いた。
 「それとこれ、頼まれていた泡盛さー」
 千代金丸が掲げた陶器の酒瓶に注目が集まる。
 「特上品だぞー。
 なんかの・・・遊びに使うって言うから、特別にキツイの選んできたさ」
 本当に良かったのかと、見やった日本号は泡盛を受け取り、更に高く掲げた。
 「利き酒ロシアンルーレットだ!
 フツーの度数高め焼酎を入れた猪口と、こいつを入れた猪口を用意するから、泡盛が当たった奴がもう一杯、ってゲームだな!」
 「いや、馬鹿か?!
 それ、どっちもきついってことだろ!」
 鶴丸の指摘に、長谷部はあっさりと頷く。
 「珍しい酒なら、きつかろうが軽かろうが飲んでみよう、というのがお前だろうが」
 「君、俺を鳥頭とでも思っているか?
 焼酎に身体中の水分奪われて、翌日酷い目にあったことを、鶴さんちゃんと覚えてるぞ!」
 「では、鶴丸は不参加で始めようか」
 あっさりと背を向けた長谷部の肩を、鶴丸が慌てて掴んだ。
 「仲間外れは良くないぞ!!」
 「めんどくいっちゃ。どっちかちゃ」
 朝からずっとふかし芋作りを命じられ、機嫌の悪い豊前が早速焼酎の封を切る。
 「へぇ、いい香りだな。
 焼酎はもっと、きつい匂いかと思っていたんだが」
 「あんた、今までどこおったとや?!」
 手伝いもせずに、このタイミングで出てきた大般若を、豊前が睨む。
 と、
 「若君たちが楽しそうに走り回っている様を眺めながら、三日月や鶯丸と茶をすすっていたさ。
 時々、駆け込んできた若君たちに、彼らが菓子をやるのを見ていたかな」
 平然と言う彼に、豊前の目がますます吊り上がった。
 「手伝いもせんで飲みにだけ来るやら、ぐらぐらこくばい!」
 「豊前、そげん腹かかんでよかろーもん」
 「飲みに来るだけやら、他にもえらかおるばい」
 いきり立つ豊前を、日本号と博多がなだめて、いくつもの猪口に酒を注ぐ。
 「じゃあまずは、泡盛の味見だな!」
 「いや、なんでだ?!」
 日本号から渡された猪口を前に、鶴丸が目を剥いた。
 「ロシアンルーレットだと言ったじゃないか!
 なぜ一杯目から泡盛だ!」
 「味がわからなきゃ、当たりかハズレかわからんだろ」
 「どれも度数が高いからな」
 至極当然とばかり、真顔になった日本号と長谷部へ、大般若がこれもまた真顔で頷く。
 「あんたたちの言う通りだ。早速いただこう」
 と、真っ先に口をつけた。
 「意外と飲みやすいんだな。
 どれ、味を覚えるために、もう一杯」
 「まかせろー。
 主がたくさん用意しろって言うから、万屋で上限まで注文買いしてきたさー」
 いくらでも飲め、と、酒を注ぐ千代金丸へ、他からも手が伸びてくる。
 「・・・もう、ロシアンルーレットじゃなくてよくないか?
 鶴さんはのんびり飲みたい」
 舐めただけで悶絶しそうになった鶴丸が、大きなため息をこぼした。
 と、
 「ならば、俺が参加しようか」
 天守から戻って来た短刀達を引き連れて、三日月が寄ってくる。
 「数珠丸殿も、本日はいかがか」
 「そうですねぇ・・・」
 「俺も付き合うゆえ、ぜひに」
 大典太からも誘われて、数珠丸は頷いた。
 「ならば、本日の主役の御一人も、お誘いしなくては。
 よもや、ご辞退はなさいませんでしょうが」
 酌み交わそう、と誘われた鬼丸は、足に絡む短刀達を宥めて遠ざけてから、寄って来た。
 「誘われたからには、潰すまで飲むがいいか?」
 「受けてたとう」
 珍しい笑みを浮かべて、大典太は大きな手に猪口を四つ掴む。
 「琉球の酒は初めてだ」
 「京の酒とは、また違う味わいなのだろうな」
 「お手柔らかにお願いしますね」
 楽しげに笑いあいながら、差し出してきた猪口に千代金丸が酒を注いだ。
 「あんまり無理はするなよ。
 ヤマトの刀は、そんなに強くないだろ?」
 「は?!」
 のんびりした声に、過剰なほど尖った声が返る。
 「馬鹿にすんなちゃ!!
 九州の酒ば、なめたらつぁーらんけん!!」
 「おーぅ豊前、言っちゃれいっちゃれ!!天下五剣もなめたらつぁーらんぞ!」
 既に杯を重ねた豊前と日本号に煽られ、観衆も増えてきた。
 「せっかくのゲームやったとに、うわばみのせいで台無しばい」
 苦笑した博多は、盆に空の猪口を置いて、観衆らへ配り歩く。
 「酒は好きなの注ぎぃ!
 猪口の他に、グラスもあるけん、水割りやらお湯割りやらで、あんま無理せんどきーよー」
 と、言われたものの、敢えて猪口を手にした和泉守が、古今へも差し出した。
 「勝負しようぜ!
 俺が勝ったらもう、之定を勝手に連れてくんじゃねぇぞ!」
 「いいですけど・・・わたくし、豊後国行平ですって、わかっています?
 しかも細川は、肥後熊本藩ですよ」
 「あ・・・!」
 九州真っただ中の生まれと育ちであることを言われ、青ざめた和泉守の背後から、国広が勢いよく飛び出てくる。
 「兼さん!僕も加勢するよ!」
 「二人がかりでも、わたくしが勝ちそうですけれど」
 にこりと笑って、古今は小首を傾げた。
 「つぶれてしまった若い鶯を見守るのも、楽しいかしら」
 「また兼さんの歌が下手だって言って!!」
 「ですから、わたくしはそんな、直截な物言いはしませんよ」
 くすくすと笑う古今を、やや遠くから見やった地蔵が、微かに笑う。
 「まぁ・・・歓迎はされているようだ」
 泡盛何杯飲めるかな?ゲームに突入した場では、歓声を受けた天下五剣が他を圧倒し始めていた。
 その周りでは早くも、ぐったりと動けなくなった刀もいる。
 「・・・吾は救護に回るとするか」
 楽しげな兄弟をもう一度見遣り、地蔵は袈裟を翻した。




 了




 











弊本丸二回目のはろいんです!
今回は琉球刀の歓迎会も兼ねていたので、戦闘は無しで、と言うくくりを付けたはずなのに、刃物が出ないだけでめっちゃ戦っていたという。
いつもながら、刀達がわちゃわちゃしているだけの話ですが、楽しんでいただけたら幸いです。













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